賞与
いわゆる賞与は、毎月決まって支給される賃金のほかに、多くは年2回、特別給与として支給され、ボーナス、一時金などと呼ばれています。賞与に関する労働基準法上の取り扱いは、定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるもので、その支給額があらかじめ確定されていないものとされています。
賞与は、労働の対象として支給される通常の賃金とは、性格を異にします。賞与は、労働の対象としての賃金的要素と同時に、将来の労働に対する期待賃金的要素でもあるからです。
賞与の性質は以下のように分けることができます。
① 賃金の後払い的性質
② 会社への貢献に対する功労褒賞的性質
③ 収益分配的性質
等の学説があります。
その性質について、賞与は純粋な意味での任意・恩恵的なものとは言い難く、労働の対償である性質を有することから、労働基準法上の賃金であると言えます。
ただし、賞与は上記②、③の性質の占める割合が大きく、支払額につき、会社の裁量が認められることから、通常の賃金とは異なります。
労働基準法第89条では、就業規則の必要記載事項について定めていますが、賞与などの「臨時の賃金等」は「定めをする場合において」は記載しなければならないもの、すなわち「相対的必要記載事項」とされています。この「相対的必要記載事項」とは、制度を設ける場合には定める必要があるものとされており、定めをする場合にも、その内容については、使用者が自由に定めることができます。
賞与は毎月決まって支給される賃金とは異なり、必ず支給しなければならないものではなく、その支給基準、支給対象者、支給額、支給日等は使用者の裁量に委ねられているのです。欠勤、遅刻、早退等の勤怠情報や業績、能力、意欲・態度等の評価要素を、会社への貢献度を衡量する尺度として賞与の査定基準にすることができます。会社の業績や労働者の勤務成績が一定の水準に達しない場合には、賞与は支給しない旨を定めることも自由です。
ただ、年次有給休暇の取得を欠勤もしくはそれに準じたものとして扱って賞与の査定とするのは、年休制度の趣旨に反します。行政解釈も、「精皆勤手当及び賞与の額の算定等に際して、年次有給休暇を取得した日を欠勤として、又は欠勤に準じて取り扱うことその他労働基準法上労働者の権利として認められている年次有給休暇の取得を抑制するすべての不利益な取扱いはしないようにしなければならない」(昭63.1.1基発1号)としています。
賞与は、労基法その他の法律によって設けることが義務付けられているものではありません。しかし、賞与を支給する場合、就業規則に支給対象時期、賞与の算定基準、査定期間、支払方法等を明確にしておくことが必要です。
就業規則に、賞与の支給対象者を一定の日(例えば、6月1日や12月1日、又は賞与支給日)に在籍した者とする規定を設けることで、期間の途中で退職等し、その日に在職しない者には支給しないこととすることも可能です。
賞与規程では、以下の内容が重要です。
・賞与を受ける権利を有する従業員の定義
・算定対象期間を設定しているか
・賞与の算定期間中に休職がある場合の取扱い
・退職手続き中の従業員の賞与をどうするか
・やむをえない事情による不支給などの免責規定 など
退職日を労働者本人が選択することができない定年退職や、整理解雇等の会社都合退職については、自己都合退職の場合と同様に考えるわけにはいきません。定年退職では、退職日を労働者本人が選択することができず、整理解雇等の会社都合退職についても、労働者の都合で退職するわけではないからです。支給日在籍条項は、労働者の自発的退職の場合に適用と判断するのが妥当でしょう。
学説でも、「裁判例では、支給日在籍要件が自発的退職者の事案で適法とされ、さらに退職日を自ら選択できない定年退職者についても適法とされた。後者の解釈は、賞与の賃金としての性格から疑問が多い。」とするものがあります。
トラブル回避には、就業規則に『支給日に在籍していること』の文言を付け加えるとよいでしょう。
就業規則規定例 第○条 (賞 与) 2 夏季賞与の算定期間は、前年10月1日から当年3月31日までとし、年末賞与の算定期間は当年4月1日から9月30日までとする。 3 支給対象期間の2割以上を勤務しなかった者は、所定勤務日数における出勤日数の割合によって減額した賞与を支給する。 4 賞与は、原則として賞与支給日において在籍する従業員に対し支給するものとする。ただし、会社が賞与を支給することについて適当でないと認めた者には支給しない。 5 第2項の規定にかかわらず、死亡により退職した者、定年退職者及び会社都合による被解雇者については、賞与算定対象期間中の在籍期間及びその間の勤務成績に応じた金額の賞与を支払うものとする。 |
賞与の支給日在籍要件
労働基準法第89条にて就業規則の必要記載事項について定めていますが、賞与などの「臨時の賃金等」は「相対的必要記載事項」とされています。賞与を支給することを必ず就業規則に定める必要はなく、また、定めをする場合にも、支給要件その他については自由に定めることができるわけです。したがって、就業規則で「支給日当日に在籍していること」を支給要件とすることは問題ありません。
「賞与は、従業員にとって単なる会社の恩恵または任意に支給される金員ではなく、労働の対価としてその支払いを義務付けられた賃金の一部であり、支給対象時に在籍しない従業員に対しても使用者は支払義務をもつ」としたものがあります(日本ルセル事件 東京高裁 昭49.8.27)。
しかし、判例の多くは、支給日在籍を条件とする支給規定を正当としているようです(大和銀行事件 最高裁 昭57.10.7 ほか)。
ただし、退職日を労働者本人が選択することができない定年退職や、整理解雇等の会社都合退職については、自己都合退職の場合と同様に考えるわけにはいきません。定年退職では、退職日を労働者本人が選択することができず、整理解雇等の会社都合退職についても、労働者の都合で退職するわけではないからです。支給日在籍条項は、労働者の自発的退職の場合に適用と判断するのが妥当でしょう。
学説でも、「裁判例では、支給日在籍要件が自発的退職者の事案で適法とされ、さらに退職日を自ら選択できない定年退職者についても適法とされた。後者の解釈は、賞与の賃金としての性格から疑問が多い。」とするものがあります。
トラブル回避には、就業規則に『支給日に在籍していること』の文言を付け加えるとよいでしょう。
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