雑則

 「雑則」の章には、安全衛生や教育研修など、前の章立てに分類されないような事項について記載します。
 たとえば業種によっては交通事故の場合の取り扱いを規定しておくなど、業種・業態、や企業規模等により、それぞれの企業に必要と思われる項目はもれなく規定しておきましょう。

 

○従業員の損害賠償責任

   労働者が使用者に損害を与えた場合には、債務不履行や不法行為に基づく損害賠償責任を負うことがある。  また、労働者が事業の執行に付き第三者に損害を及ぼし、使用者が使用者責任に基づいてこれを当該第三者に賠償した場合には、使用者の労働者に対する求償権の行使が認められる。しかし、使用者の労働者に対する損害賠償請求や求償権の行使は、資力に乏しい労働者にとって過酷な結果をもたらし、また、使用者が労働遂行から経済的利益を得ている以上そこから生ずる損害のリスクを全て労働者に負担させることは公平を欠くことがある。このため、判例においては、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償または求償の請求をすることができる」(茨石事件 昭和51年最高裁判決)として、労働者の損害賠償責任を制限してきた。

 しかし、判例法理であることから、その内容が労使当事者に必ずしも知られていない状況にあると考えられる。

 従業員が故意や重大な過失で就業規則違反、重大な背信行為、横領、窃盗などを起こした場合、会社は従業員に損害賠償請求をすることができます。

 損害賠償請求できる場合は、ある程度限定されます。特に過失の場合は、仕事自体の性質や従業員教育の不徹底、会社の管理不足を問われます。過失の場合は、損害は、会社と従業員が公平に損害を負担すべきだという考えから損害賠償金額が減額されることが多いのです。判例においては、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償または求償の請求をすることができる」茨城石炭商事事件 最高裁 昭51.7.8)として、労働者の損害賠償責任を制限しました。

 損害賠償の程度は、せいぜい損害額の2~3割程の金額が限度となります。従業員に重過失があった場合でも、損害額の5割が限度でしょう。

 懲戒処分と損害賠償は別物ですから、懲戒処分をして、さらに損害賠償請求をすることは可能です。従業員の過失が軽いものの場合は、懲戒処分が行われていれば、損害賠償をすることができないようです。

 就業規則に機密保持義務及び機密漏洩に対する懲戒の定めがある場合には、在職中の従業員については、その定めに基づいて懲戒処分に付すことができます。退職後の従業員については、営業上の秘密に接した者に限っては守秘義務契約を締結しておけば、もしこれに違反して機密を漏洩し会社が損害を受けたときは、損害賠償等の法的措置をとることができます。

 損害賠償請求は損害又は加害者を知ってから3年以内です。

 

労働契約書または就業規則に損害賠償条項の記載があること
 就業規則に機密保持義務及び機密漏洩に対する懲戒の定めがある場合には、在職中の社員については、その定めに基づいて懲戒処分に付すことができます。また、退職後の社員については、営業上の秘密に接した者に限っては守秘義務契約を締結しておけば、もしこれに違反して機密を漏洩し会社が損害を受けたときは、損害賠償等の法的措置をとることができます。

就業規則規定例

第○条 (損害賠償)
 従業員(退職又は解雇された者を含む)が故意又は重大な過失によって会社に損害を与えたときは、会社は、従業員本人又は身元保証人と連帯して、受けた損害の全部又は一部の賠償を求めることがある。ただし、損害賠償を行ったことによって懲戒処分を免れることはできない。

 

○自宅待機

 自宅待機とは、労働者の出勤を禁止する措置であり、使用者が労働者の労務提供の受領を拒否することをいいます。

 使用者には、労働契約により労働者を就労させる権利と賃金を支払う義務が生じ、労働者には、就労の義務と賃金請求権が生じます。しかし、使用者には、労働契約により労働を受領しなければならないという義務が生じるわけではありません。したがって、使用者はいつでも自由に経営上の理由で従業員を休業させ、自宅待機を命ずることが可能です。

 自宅待機には2つの性格があります。
(1) 自宅待機していること自体を労務の提供の業務命令とする場合
 当然賃金は支払う必要があります。
(2) 使用者が労務提供を拒否している場合
 使用者の責めに帰すべき事由による休業として、休業手当の支払いや賃金請求権があるとされます。ただし、労務提供拒否の理由が、懲戒解雇に相当するような悪質な行為があり、かつ、実態の正確な把握・調査や不法行為の再発を防ぐのが目的といった特段の事由があれば、労働者の責めによるとして賃金請求権が拒否されると考えられています。

 電車が止まったので自宅待機を命じたような場合、法的にいえば労務の提供がなかった分、賃金を払わなくても差し支えありません。

  台風により公共交通機関が不通となり、従業員が出勤できない場合、通常、使用者の責に帰すべき事由とはならないことから、会社に休業手当を支払う義務は生じないことになります。台風が近づいてくるため終業時刻を繰り上げて従業員を帰宅させることがありますが、このような場合には通常の休業手当の取扱いとは異なります。具体的には実際に勤務した時間に対して支払われる賃金が平均賃金の6割に相当する金額を満たしている場合、その差額を支払う必要はないということになります。

 「自宅待機」の時間は、労務を提供していない点では、休憩時間手待ち時間と共通した点がありますが、完全に自由利用が保障されている点で休憩時間に近く、「待機」している点で手待ち時間と似ています。しかし、「自宅待機」の場合は、場所的には自宅に拘束されるものの、その時間は自由に利用できますので、事業場(勤務場所)で使用者の指揮監督のもとに拘束される一般的な「手待ち時間」とは異なるものと考えられます。 自宅待機の時間を「労働時間」とみなす必要はありません。したがって、自宅待機の時間について賃金を支払う義務はありませんが、当番制で行わせるということであれば、何らかの手当を支給するのが望ましいでしょう。

 使用者の責めに帰すべき事由による自宅待機では、休業手当の支払いや賃金請求権があるとされます。最低60%の賃金を支払う義務があります。

 労務提供拒否の理由が、懲戒解雇に相当するような悪質な行為があり、かつ、実態の正確な把握・調査や不法行為の再発を防ぐのが目的といった特段の事由があれば、労働者の責めによるとして、賃金請求権が拒否されると考えらます。自宅待機には、懲戒処分として命ずるもの(出勤停止)のほかに行うことがあるのです。

 例えば労働者の言動で職場秩序の乱れを沈静化するためや、不法行為が発覚して調査・処分決定までの間の前置措置のために行うことがあります。就業規則には、懲戒処分とは別に経営上の理由で自由に自宅待機を命じることができる旨を明記しておくことです。

日通名古屋製鉄作業事件(平成3年 名古屋地裁判決)
 
懲戒処分に先立って行われる自宅謹慎処分は、それ自体懲戒的性格を持つものではなく、当面の職場秩序維持の観点から執られる一種の職務命令であり、使用者の賃金支払義務は免れないものとされました

 自宅待機の命令を自由にできるといっても、業務上の必要性が希薄であるにもかかわらず自宅待機を命じ、あるいはその期間が不当に長期にわたるような場合は違法となります(ネッスル事件 静岡地裁 平2.3.23)。

 自宅待機は慰謝料請求や賃金請求などトラブルになりやすいものです。就業規則に懲戒処分とは別に経営上の理由で自宅待機を命じることができる旨を明記しておくなどの規定を設けることが望ましいといえます。

就業規則規定例

第○条(自宅待機命令)
 経営上又は業務上必要がある場合には、会社は、従業員に対し自宅待機又は一時帰休(以下「自宅待機等」という。)を命ずることがある。

2 自宅待機等を命じられた者は、勤務時間中、自宅に待機し、会社が出社を求めた場合は、直ちにこれに応じられる態勢をとるものとし、正当な理由なくこれを拒否することはできない。

3 会社は、自宅待機等の期間について、労働基準法第26条の休業手当を支払うものとする。

 

○公益通報者の保護

 近年、事業者内部からの通報(いわゆる内部告発)を契機として、国民生活の安心や安全を損なうような企業不祥事が相次いで明らかになりました。このため、法令違反行為を労働者が通報した場合、解雇等の不利益な取扱いから保護し、事業者のコンプライアンス(法令遵守)経営を強化するために、公益通報 者保護法が平成18年4月に施行されました。

就業規則規定例

第○条(公益通報者の保護)   
 会社は、従業員から組織的又は個人的な法令違反行為等に関する相談又は通報があった場合には、別に定めるところにより処理を行う。

 

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