統合失調症 疾患の原因

 統合失調症の病因については、進学・就職・独立・結婚など生活上の大きな転機が契機となり、さらに、体質・環境・心理的要因のほか、性格・遺伝・脳細胞の損傷などが相互に関係し合って発症しているものと考えられます。その発症メカニズムは依然として不明です。

 しかし、こうしたさまざまな要因が複合的に考えられる中で、脳を中心とする神経ネットワークが障害される病気である可能性が、最近の脳の構造や機能の研究によって次第に明らかになってきました。

 脳の異常をはじめとする主な発病原因について、以下に概説します。

脳の異常

 統合失調症の原因を調べていくと、患者の脳にいくつかの特異的な異常があることが明らかになってきました。その一つは「神経伝達物質の異常」で、もう一つは「脳の構造や機能の異常」です。

神経伝達物質の異常

 通常、脳を構成している神経細胞間においては、神経伝達物質という化学物質を介してさまざまな情報が伝達されています。この情報伝達の役目を果たしている神経伝達物質にはいろいろな種類がありますが、その中の一つである「ドーパミン」が統合失調症の発症に深く関与しているのではないかと考えられています。

 ドーパミンがたくさん生成されて、それを受け取るドーパミン受容体の働きが過度になると、中脳辺縁系に過剰な興奮が起こり、幻覚や妄想などの陽性症状が生じます。実際の治療に際しては、ドーパミンの働きを抑制する薬物(抗精神病薬)を投与すると、急性期の症状が改善します。一方、大脳の前頭前皮質のドーパミンの放出が少なくなると、機能が低下して、意欲の低下などの陰性症状が起こると考えられています。今日では、このドーパミンだけではなく、セロトニン、ノルアドレナリン、グルタミン酸などいろいろな神経伝達物質が関与していることが明らかになってきました。

 これらの多くの神経伝達物質は、記憶力が低下する認知障害や陰性症状に関しても、大いに関わっていると言われます。そこで、脳内の神経伝達物質のバランスをとるために、ドーパミンをはじめ、さまざまな神経伝達物質を抑えるための抗精神病薬が開発されてきました。

統合失調症 スピリチュアルな観点

脳の構造や機能の異常

 人間の脳は、大きく分けて三層構造で出来ています。第一層は脳の中心部分にあって生命をコントロールしている「脳幹」、第二層は脳幹を包むようにしてあり、感情や情動の中枢である「大脳辺縁系」、第三層は大脳辺縁系の周りを取り囲むようにしてある「大脳皮質」で、知的・精神的活動の中心となっている部分です。統合失調症は、この脳幹の視床、大脳辺縁系の基底核や扁桃体、大脳皮質にある前頭葉や側頭葉など、これらの機能や構造の欠陥によるものと考えられています。

1 前頭葉の異変

 前頭葉は、物事を理解し、考え、創造するための精神活動の中枢です。また、問題を解決するために考えたり、決断したり、調整したり、善悪の判断をしたりする抑制の中枢でもあります。前頭葉は人間がより良い生活を営むために働く脳ですが、統合失調症の患者の中にはこの前頭葉に異変が現れることがあります。CTやMRIの装置で重症の患者の脳を検査すると、脳の一部の体積が健康な人よりも小さく、神経細胞が欠けている状態です。PET(陽電子放射断層撮影)で脳の血流をみると、統合失調症の患者の場合、前頭葉への血流が明らかに低下していて、前頭葉が正常に働かない状態になっています。このように、神経細胞の欠如や血流の低下が、人と話をしても相手の気持や言っていることの意味がつかめなったり、思ったことや言いたいこと、行動したいことが上手く表現できなくなったりすることになります。

2 側頭葉の体積の減少

 側頭葉には、知覚(聴覚、視覚、嗅覚、触覚など)の他、現実の認識、記憶力の機能があります。MRIで検査をすると、側頭葉の一部が欠けたりして体積が減っていることがあります。こうなると知覚に障害が起こり、実際にはない声が聞こえたりする幻聴が起こります。

3 大脳基底核の活動の低下

 大脳基底核には知覚を調整して精神の集中をはかる機能があります。CTスキャンで見ると、基底核の活動が低下しているのがわかり、この障害によって、意識を集中できなくなり、エネルギーを消耗して疲れやすくなります。

4 大脳辺縁系の体積の減少

 大脳辺縁系の扁桃体などがある部分では、感情や知覚を理解し分析する働きをしています。MRIの画像で患者の扁桃体を見ると、欠如して体積が減っていることがあります。この大脳辺縁系の機能不全によって、前頭葉とうまく連携がとれなくなり、相手の反応がつかめず自分の行動がうまくコントロールできなくなるのです。

5 電気生理や神経回路の異常

 音や視覚情報の伝達は電気刺激によるものですが、統合失調症においては脳に電気的な変化が起きることがあります。また、神経回路の変化もよく見られます。この電気的な変化や神経の変化は統合失調症によって生まれるものと考えられます。

 

脳の損傷

 発達中の脳に損傷が起こった場合にも罹患率が上昇します。

 例えば、
 ①妊娠中期(13~24週)のインフルエンザ(ウイルス)感染
 ②分娩中の低酸素状態
 ③出生時の低体重
 ④母体と胎児の血液型不適合
などが出産前後や分娩中に発生した場合でも発症することがあります。

 

遺伝

 世界保健機関(WHO)によると、統合失調症の一般的な発症割合は、地域によって多少の差はありますが、平均すると約1%の発症リスクです。ところが、統合失調症の親や兄弟姉妹がいる場合における発症の確率は約10%と言われます。また、一卵性双生児の1人が統合失調症だと、もう1人の発症リスクは約50%と言われています。患者と遺伝的に近い人ほど発症の確率は高くなるものと考えられます。

 性格も発症に関与しております。統合失調症を患っている親と性格が似ている場合にも、子どもの発症率は高くなります。両親共に発症している場合、子どもは40%の確率で統合失調症になるという統計があります。さらに、一卵性双生児の研究においては、遺伝的には同じ素因をもっているにも関わらず、2人とも統合失調症を発病する確率は30~50%程度と言われます。本来同じ遺伝という素因をもっているならば100%の確率で発病してもよいものが、約半分程度の発症にとどまっていることは、統合失調症が遺伝病ではないことの証明でもあります。遺伝的要因のうえに環境的要因などが深く関与して発症しているものと考えられます。

 さまざまな研究結果を総合すると、統合失調症の原因には素因と環境の両方が関係していて、遺伝的素因の影響が約3分の2、環境の影響が約3分の1とされています。

 

ストレス

 統合失調症にかかる人は、もともとストレスに弱い傾向にあると言われています。統合失調症にかかりやすい素因が内因としてあるのです。それは、体の抗病的閾値が低下している状態で、そこに心因であるストレスが加わったときに統合失調症が発症しやすくなるのです。したがって、統合失調症とストレスの関係は、ストレスが小さくてもかかりやすい素因があって、脆弱性が大きければ発病します。また、脆弱性が普通であっても、ストレスが大きければ発病するものと考えられます。すなわち、「ストレスの大きさ」と「ストレスを受け止める体の力」の関係に係るものでして、これは統合失調症に限らず他の病気についても言えることです。

 ストレスには、精神的な緊張・不安・恐怖・興奮・飢餓・感染・過労・睡眠不足・運動不足などがあります。友人や上司との人間関係、身体の悩みや将来への不安、引っ越しや転勤などの環境の変化もストレスとなります。このような日常生活のなかでの出来ごとのほかに、寒暖・騒音・化学物質などもストレス要因となります。子どものころは、環境的にも比較的守られているために発病することは少ないのですが、自我が芽生え、自分で考えて行動する思春期以降になると、社会に出た時にさまざまなストレス環境におかれるため、青年期の発病率が高くなります。

 自覚症状として、対人関係が億劫になった、一度にたくさんのことができない、集中力や持続力がなくなってきた、生活のリズムが乱れてきたような時、「自分はストレスに弱いから」「いつものことだから」と安易に考えて放置しておくと、知らぬ間に急性期に移行し、さらに重い症状が出てくることがあります。

 統合失調症の発病過程を説明するものとして、「ストレス脆弱性モデル」があります。これは、統合失調症の発病や再発が患者の生物学的脆弱性と環境からのストレスに対する患者の対処能力によるという考えです。もともとストレスに弱い素質(ストレスによって発症しやすい脳の脆弱性)をもっている人に、大きなストレス(家庭、職場、学校、人間関係など)がかかることによって、前駆症状を呈した後、妄想や幻覚などの急性期の症状が現れるという考え方です。そこで、脳の脆弱性を解明しようと、遺伝学や脳の形態学などさまざまな角度から研究が始められています。この考え方にしたがって、脳の脆弱性を薬物療法で軽減したり、心理社会的療法を併用したりすることによって、ストレスに対処できる能力を高めようと言う試みが行われています。

 自分自身では気付きにくい病気なので、症状を感じたら「自分はストレスに弱いから」と決めつけず、早めに精神科・心療内科を受診しましょう。

 

環境

 生活環境も統合失調症を引き起こすひとつの原因になっています。進学、就職、転職、結婚や、新しい学校や職場、見知らぬ土地、家族からの独立など、生活環境が大きく変わった時は要注意です。順応性の高い人はさほど問題ないのですが、急な環境の変化に適応できない人にとっては、それがストレスとなってたまり、周囲の環境になじめなかったり、自分の気持をうまく伝えられなかったりします。同じ学校や職場であっても、担任やクラスが変わったり、部署や上司が変わったりしただけでも、生活のリズムに変化が生じ、統合失調症の引き金となることがあります。このほか、人間関係のトラブル、恋愛、失恋、受験などによる孤立感、絶望感なども原因にあげられます。

 

その他

 統合失調症の初期において、脳の容積が一部低下していたり、死後脳において脳の構造異常がみられたりする例があります。このことから、脳の発達段階で何らかの障害が関与しているのではないかと考えられます。

 これまでに、統合失調症の一部は、胎児期の脳神経系の発達障害が原因であるという研究報告があり、動物実験で明らかにされています。ただし、脳の構造的異常が意味するところは、今のところ不明です。脳にもともと異常があって発現したのか、慢性的で長期にわたる罹患と治療の結果、症状や服薬等の影響によって脳を変成させたのかは、現在は鑑別不能です。

 

発病の危険因子

 統合失調症の発病原因は単純ではなく、いくつもの因子が複合的にからみあい、また、病気になりやすい素因のある人に環境によるストレス等が加わって発病しているものと考えられます。統合失調症はなぜ発病するのか、それを確定する原因は現在もわかっていません。疫学的研究からみた発病の危険因子については、いくつか考えられます。

 具体的な因子については次のとおりです。

1 年齢

 発病する危険年齢は15歳から45歳とされています。女性よりも男性の方が早く発病する傾向にあります。その理由はわかっていません。

2 性差

 発病率は男性の方が多く、女性の1.4倍という報告があります。有病率で明らかな男女差はみられません。

3 出生時期

 冬季に生まれた人は他の月に生まれた人より発病率が高いという研究報告があります。冬季はインフルエンザの季節で、母親が感染したり、日射量の減少でビタミンDが不足したりして、胎児の中枢神経系の発達に悪い影響があるのではないかと考えられています。また、出生地の緯度が高いほど影響も大きいようです。

4 育った環境

 育った環境が都会育ちの場合にリスクが高い。田舎より都会の方がストレスの多い環境にある分だけ発症しやすくなります。

5 婚姻状態

 既婚者よりも独身者の方が罹患率が高いという報告があります。その罹患率は、独身者の方が2.6~7.2と高くなっています。

6 妊娠や出生合併症

 妊娠中に身近な人が亡くなったりすると、大きなストレスとなって、胎児の成長に悪い影響を与え、統合失調症にかかる危険性が高まります。妊娠そのものもストレスになるうえ、近親者の死が重なっていっそう心に強いショックを与えるからです。

 母親が妊娠中にウイルスに感染すると、統合失調症の発症リスクが高まります。特に風疹ウイルスは胎内で胎児に悪い影響を与えることで知られています。風疹にかかると発病リスクは通常の約5倍ぐらいです。

7 出生時の父親の年齢

 出生時の父親の年齢によってはリスクが高くなり、年齢が高くなればなるほど危険性が高まります。50代では20代の約3倍といわれています。精子に異常がある確率が高まるからです。

8 遺伝的背景

 統合失調症の発病率は一般の人口の約1%とされていますが、両親がともに統合失調症を発病している子どもでは46%と高くなっています。しかし、遺伝子が同じである一卵性双生児の発病率は48%で100%ではありません。このことから、発病に遺伝が多少かかわっていることは確かですが、それがすべてではなく、環境的な要因などもかかわって発病していることが考えられます。

9 環境やストレス

 統合失調症の発病や再発には、家族の死、家族や職場でのトラブル、失恋、就職、進学などの環境状況が因子となっています。

10 経済状態

 海外からの報告では、低所得者層に高い有病率がみられるという研究がある一方、経済状態が統合失調症の発病率にかかわるという根拠はないとする報告もあります。因果関係ははっきりしません。

11 薬物乱用

 大麻や覚醒剤、アルコールやタバコ等の乱用が、精神症状に悪影響を及ぼしているという指摘があります。

 最もリスクが高いのがマリファナです。使用を始めた年齢が早ければ早いほど発症率は高まります。これは脳が発達段階でダメージを受けるためです。

 

幻聴が起こる脳の仕組み 

 統合失調症の症状で最も特徴的なのは幻聴です。なぜ 実際にいない人の声が聞こえてくるのか、それがなぜ 本当の人の声のように感じられるのか。

 普通、脳が活動すると、活動した部位で酸素やブドウ糖が消費しますが、その際、その部位の血流や代謝も増加します。その変化を知るには、fMRI、PRT、SPECTなどと呼ばれる方法を用いれば捉えることが出来ます。これらの方法を用いた研究によって、幻聴は言語中枢の言葉をつかさどる脳部位の活動と関連していることが明らかになりました。それは、「統合失調症の患者とそうでない人」を比較したとき、また、「幻聴が聞こえている時と聞こえていない時」を比較したとき、「統合失調症の患者」および「幻聴が聞こえている時」において、言語の受容体と理解をつかさどる脳部位(感覚性言語中枢)の活動が活発になっていました。この感覚性言語中枢は、大脳の左半球の側頭葉というところにあり、実際に健康の人が声を聞いている時は、この部位の活動が活発になっています。統合失調症においては、声が聞こえていない時に声が聞こえているかのように感覚性言語中枢が活動してしまうことであり、これが幻聴を生じさせている仕組みではないかと考えられます。

 統合失調症の幻聴にはさまざまな特徴があります。以下のような特徴があります。
 ・人の声で言葉として聞こえる幻声
 ・遥か彼方から聞こえてくる空間定位(頭頂葉)
 ・ふと緊張がゆるんだときに聞こえてきて注意が逸れてしまう(帯状回・視床)
 ・声のせいで不安になり恐ろしい気持になる情動(扁桃体・島)
 ・昔のいやな思い出と結びつきやすい記憶(海馬)
 ・自分ではコントロールできない場合(前頭葉)
 ・声に左右されて衝動的に行動におよんでしまう(前頭葉)

 これらの特徴はどこからくるのかというと、言語中枢の機能を中心にしながら、それを取り巻くさまざまな脳部位の機能の変化が背景になっていることがわかります。症状と部位は一対一に対応しているのではなく、脳のネットワークが全体として症状とその特徴を形成しているのです。

 幻聴の真相 スピリチュアルな観点

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