躁うつ病(双極性障害)の治療

再発率が高い双極性障害

 双極性障害の治療の基本は、薬物療法と精神療法が主です。しかし、それだけでは十分ではないので、認知療法、通電療法、天然物質、代替療法などいろいろな治療方法を併用したり、さらには患者自身の生活習慣の改善も含めて、総合的に進めていきます。

 単極性うつ病の場合、普通1~2年で治療が終わりますが、双極性障害は一般的に長期化しやすい傾向にあります。再発率が高いため、症状が治まっても再発を予防するために薬を飲み続ける必要があるからです。

 薬物療法で重要なポイントといえば、単極性うつ病と双極性のうつ状態の治療方法が違うことです。同じうつという症状でも、中心的に用いる薬が異なるのです。単極性のうつ病では抗うつ薬が中心で、SSRI、SNRIなどの薬が使われますが、双極性のうつ状態では気分安定薬が中心に使われ、主にリチウムやバルプロ酸、ラモトリギンの薬が使用されます。双極性のうつ状態に、安易に抗うつ薬を使うと、さらに症状が難しくなってしまうことがあります。双極性障害に使われる気分安定薬は、躁状態にもうつ状態にも効く薬です。一見、躁と うつは正反対の症状なので、薬も正反対の作用のものを用いるものと思われがちですが、双極性障害は気分が大きく上下に乱れた状態ですので、気分を安定させればよいわけです。躁の状態にも うつの状態にも効くのが気分安定薬です。気分安定薬は特効薬とは言えませんが、現在双極性障害の治療と再発予防において効果が認められた第一選択の薬です。したがって、単極性うつ病に使われている抗うつ薬はを基本的には用いません。抗うつ薬を双極性障害のうつ状態に使うと躁転を起こす可能性があるからです。ただし、状況によっては、気分安定薬と併用して抗うつ薬を用いることがあります。  

 双極性障害は単極性うつ病と比べると再発率が高いが、その再発予防をするためにも、効果のあった気分安定薬をそのまま継続して使うことが肝要です。一般的に、症状が落ち着いてから3~5年程度(場合によっては一生)薬を飲み続ける必要があります。薬をやめるときでも、血液中の濃度を確認しながら、量を少しずつ減らしていきます。急激にやめると再発の恐れがあります。

 

薬物治療

 「うつ状態」の治療手順ですが、双極性のうつ状態と診断されたら、まず最初に①気分安定薬のリチウムを処方します。それで効果が見られない場合は、②-a・リチウムを増量するか、②-b・別の気分安定薬に変更するか、②-c・抗うつ薬を追加するか、を検討します。この方法でも十分な効果が得られない場合は、③難治性のうつ病の治療として特殊な薬を追加していくか、の方法を検討します。

 次に「躁状態」の治療手順です。双極性の躁状態と診断されたら、うつ状態と同様に最初に気分安定薬のリチウムを用います。(ただし、躁状態の問題行動が激しく、すぐにでも症状を抑えなければならない場合は、抗精神病薬を追加して用います)。

 リチウムの効果が得られない場合は、別の気分安定薬を追加します。それでも十分な効果が得られない場合は、別の気分安定薬に変えるか検討します。別の気分安定薬に変えても効果が見られない場合は、抗精神病薬を追加する治療法を検討します。

気分安定薬の作用と種類

 気分安定薬の作用には、いくつかの仮説がありますが、現在注目されているのは「神経保護」と「神経新生促進」の2つです。神経保護作用というのは、リチウムには、毒性や虚血性、低カリウムや成長因子欠乏などによって傷ついた脳の細胞を保護する働きがあるほか、細胞死(アポトーシス)を抑制する働きがあって神経を保護します。神経新生促進作用というのは、リチウムには脳内の記憶や感情をコントロールする海馬という領域で、新しい神経細胞をつくる働きを促進する作用があると言われています。  

 もともとリチウムイオンを含んだ水には、気分を鎮静させる働きがあるとされてきました。気分安定薬は、その特性をいかして作られた薬です。双極性障害では、うつ状態のときも躁状態のときも、この気分安定薬を中心に使って治療するのが標準的な治療法です。気分安定薬には、リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトリギンなどの種類がありますが、最も多く使われている薬がリチウムです。リチウムは、主に爽快さを伴う躁状態のときや中程度までのうつ状態の時によく使われます。バルプロ酸は、不快さを伴う躁のときによく用いられます。また、重症なうつの場合には、抗うつ薬や抗精神病薬を追加して使うなど、症状によって薬を選択して使います。不眠を訴えたり、不眠状態にある場合には、睡眠薬など症状を抑える薬も必要に応じて処方されます。

 

精神療法

 薬物療法とともに治療の柱となるのが精神療法です。精神療法は、フロイトの精神分析理論が基本になっていて、さまざまな療法が開発されました。その主なものとして「認知療法」「行動療法」「対人関係療法」「精神力動的精神療法」などがあります。精神療法とは「治療者と患者のやりとりの中で病状を改善する方法」と定義されています。

 この療法は、患者が主体的に自分の問題として気づくこことから始まります。

 主な対象疾患としては、うつ病、摂食障害、睡眠障害、統合失調症、薬物依存症などがあり、それぞれに応じた精神治療が行われます。

 

認知療法

 認知とは、物事の考え方、感じ方、捉え方です。人間の感情というのは、物事からいきなり生まれるものではなく、物事をどう捉えるか、それを認知してから感情が生まれてくるものです。認知を正しくコントロールするにはどうしたら良いのかというと、1つ目は「捉える」ことによって間違った思考に気づくこと、2つ目は、感情や行動に影響しないように「コントロール」すること、3つ目は適切な思考に「修正する」ことです。

 認知療法は、最初はうつ病の治療と予防を目的に開発された治療法です。物事の捉え方や考え方が感情や情緒を左右するという理論に基づき、患者自身が物事の捉え方や考え方を見つめ直して、適正な認知反応を身につけ、自身をコントロールしていくという方法です。精神療法の中でも、この認知療法と対人療法は、慢性化したものや重症化した例を除いたうつ病に対しては、薬と同じくらいの効果があることが証明されています。この認知療法は、双極性障害に対しては最も効果がある精神療法です。思考の偏りや誤りに気づくことによって、再発の予防にもなっています。

 まずは、自分の思考パターンをチェックしてみる必要があります。陥りやすい思考パターンは、物事に出会ったとき「うつ状態のときは、自分を過小評価してしまう」思考で、もひとつは「躁状態のとき、自分を過大評価してしまう」思考のいずれかです。過小評価の場合は「どうせ私は、ダメなのよ」と考えてしまい、過大評価の場合は「私に出来ないことは何もない」と思ってしまう思考で、極端に偏ってしまう考えです。つまり、自分を評価するのに、0点か100点かのどちらかしかないのです。この誤った思考に自分で気づいたら、その考えを停止することです。そして、対象となっている物事から距離をおくことから始めます。  

 陥りがちな思考パターンには、「絶対思考」「視野狭窄」「結論への飛躍」「誤認」の4つが考えられます。

1 絶対思考

 自分や他人に対して厳しく、曖昧さを許さない考えで、融通のきかない思考です。すべてにおいて、良いか悪いか、成功か失敗か、白か黒かをつけたがります。また何をするにしても、こうでなければならないという理想があって、その通りにいかなかった時は、自分も他人もすべて失敗者だと決めつけます。

2 視野狭窄

 自分の考えは正しい、間違っていないと思い込み、自分でも気づかないうちに心にフィルターをかけてしまっています。自分の考えに反するものはすべて排除し無視します。

3 結論への飛躍

 事実を正しく理解せず、自分の推測や仮定だけで、いきなり結論を出してそれを一般化してしまう思考です。結論の飛躍というのは、うつのときは過剰にネガティブになり、躁のときは過剰にポジティブになることです。

4 誤認

 うつの時は、 ポジティブなことでも過小評価し、ネガティブなことでも過大評価しがちです。一方、躁の時はその反対のことが起きます。つまり、うつではマイナス面ばかりを、躁ではプラス面ばかりを見て物事を判断するために問題が起こるのです。

 認知療法で大事なことは、客観的に冷静に自分を見られるかどうかです。うつや躁に陥ってしまうときの偏った思考というのは、一言で言えば「心のクセ」です。なかなか自分では気づきにくいものですが、意識してできるだけ客観的に冷静に自分を見詰めようとする努力が求められます。これは、ただ頭の中で考えているだけでは、なかなか成果が上がりません。実際にノートに具体的な出来事や物事の内容を書き出してみるとよいでしょう。

 たとえば、
 ①日付(出来事や物事が起きた日付)
 ②状況(出来事や物事の内容を書く)
 ③感情(状況についての感情を素直に書く)
 ④最初に考えたこと(状況に対して自分はどう思ったかを書く)
 ⑤合理的な考え方(状況に対し、自分を客観的に冷静に見つめて、偏った考えを修正した上で合理的な考えを書く)
 ⑥結果(合理的な考えに沿って行った行動や感情を書く)
などを記録することよってチェックしていきます。

 認知や思考の偏りは自覚しにくく、特に躁の状態の時は自分では気づけないものです。できれば、家族や周囲の人に支援を頼み、チェックしてもらうといいでしょう。

 

行動療法的家族指導(BFM)

 不安や恐怖、強迫症状など、問題となっている行動を分析して、行動のきっかけになっている条件付けを強化または消去することによって、行動の適正化をはかっていくことが、再発を予防する重要なポイントとなります。双極性障害の再発は、配偶者や親、家族が患者に批判的だったり、敵対的だったり、感情的に関わり合い過ぎていたりすることが、再発の引き金になっている場合があります。このような家族の患者に対する反応を、ネガティブな表出感情(EE)といいます。また、患者も、家族に対して批判的だったり、不満そうに振る舞うことがありますが、このように家族の間で罵り合っているような悪循環が症状を悪化させ、再発につながる可能性があります。

 双極性障害の場合、感情表出(EE)の激しい家族の中にいる方が再発率が高い。正当な理由のない怒りや苛立ちを抑えたり、認知行動療的技法や呼吸法などを使って、気を鎮める方法を身につけた方が、再発防止への効果が期待できます。

 

通電療法(ECT)

 通電療法は、「電気けいれん療法」とも言われ、またかつては「電気ショック療法」とも言われました。この療法は、1930年代に開発された古い治療法で、現在のような形になるまでには様々な改良が加えられてきました。現在、正しくは「修正型通電療法」といい、安全で効果の高い治療法として扱われています。以前は、頭部に通電すると、全身にけいれんを誘発して、心臓血管系や呼吸器系に影響したり、筋肉の極端な収縮のために骨折を起こしたりする問題を起こす危険性がありましたが、現在では全身麻酔と呼吸循環管理によって、けいれんを起こさないようにして行われる修正型通電療法が広く行われるようになりました。  

 この通電療法は うつ病には劇的な効果があり、双極性障害にも効果が実証されています。特に自殺念慮の強い患者は試みるべき治療法です。その場合、患者本人の同意を得なければなりませんが、そのような精神状態で同意を得られるかが問題です。このほか、妄想や焦燥、昏迷などが強い重症のうつ状態、また、難治性うつ状態などにも、この療法は適応するものと考えられます。

 通電療法の進め方ですが、まず、患者への人権に配慮し、十分な説明と同意のもと、安全性に配慮して行わなければなりません。そのうえで、心電図や血液検査を行って、身体的に問題ないことを確認します。患者本人は、前日に絶食してから入院し、通電療法の効果を高めるための薬を飲みます。そして、麻酔医の管理のもと、安全性に十分配慮して、全身麻酔を施します。電極パットを片側もしくは両側の頭皮にはり、同時に脳の活動を観察するためのパットを頭皮に貼り付けます。正確な量の電流が電極を通じて脳へ流れます。刺激電流には、正弦波と矩形波がありますが、少ないエネルギーで十分な効果を引き出せる矩形波が使われます。これによって、神経伝達物質の働きを活性化させるというものです。治療は、通常1日1回で、1~3日おきに数回~10回程度を1クールとして行います。効果は、施術直後に現れることが多いですが、2~3回施術してから現れることもあります。

 通電療法のメリットとしては、有効率が高い、副作用が少ない、薬物療法が困難な人でもできる、躁にもうつにも有効である点です。デメリットとしては、麻酔のリスク、施術後一時的に記憶が薄れる、再発を防ぐことはできない、などが考えられます。副作用としての記憶力の低下は、永続的なものではなく、時間の経過とともに回復してきます。通電療法の適応者は、自殺を試みたり実際に暴力をふるったりする患者、重症のうつ病か重症の躁病、精神病の患者など、また、薬物療法では効果が得られない場合に検討される療法です。

 

代替療法

薬草(セイヨウオトギリソウ)

 セイヨウオトギリソウは、黄色い花をつけている植物で、うつ病に有効であるとされている植物のひとつです。天然物質の中で、有効性を示すデータがもっとも多い植物で、中程度より軽いうつ病には非常に優れた効果がある。

イチョウ葉

 イチョウの葉には、気分の高揚効果があるのではないかという研究結果が報告されています。

 

躁うつ病(双極性障害) 薬物治療

 双極性障害に使われている主な薬について詳しく説明します。

リチウム(リーマス、リチオマール)

 リチウムは、双極性障害の治療の基本となる薬です。このリチウムは、天然に存在する単純な無機質で、化学的にこれ以上分割できない物質です。ナトリウム(食塩に含まれる)やカリウムと同族の元素で、1817年に発見されました。そして19世紀の後半に、オランダの医師が気分障害の治療薬として使ったのが最初ですが、あまり注目されませんでした。リチウムの効果が実証されたのは20世紀の中頃になってです。オーストラリアの精神科医であるジョン・ケイドが、モルモットにリチウムを使ったところ、偶然に鎮静効果があることを発見しました。その後、自分自身でも飲んでみて安全性を確認し、10人の躁病患者に投与したところ、全員が劇的に症状を回復しました。リチウムが気分障害に有効であることが確認したのはこの時が初めてです。

リチウムの効果
 リチウムが、アメリカで薬品として認可されたのは1970年のことです。毒性についての懸念が背景にありましたが、血中濃度を調べて、一定レベル以下に抑えられていれば危険性はありません。

 リチウムには、①躁状態を改善する作用、②うつ状態を改善する作用、③躁状態を予防する作用、④うつ状態を予防する作用、などの効果があり、これらの作用をもつ薬を気分安定薬と呼んでいます。

 リチウムには、もうひとつ重要な作用があります。それは自殺予防効果です。リチウムの自殺予防効果は、リチウムが躁やうつの症状を改善し予防する効果とはまた別の効果で、リチウムを服用しても躁やうつが改善されない人であっても、自殺率は低いと言われます。詳しいことは分かっていませんが、おそらくリチウムが衝動性を抑制するためではないかと言われています。気分安定薬で、自殺を予防する効果があるのはリチウムだけです。

リチウムの副作用
 リチウムを服用し始めたころ、しばしば出る副作用としては、下痢、食欲不振、喉が渇く、頻尿、手の震え、体重の増加などです。これらの症状は、普通の濃度でも出てしまう副作用ですが、一方、薬を飲んでも副作用が出ない患者も多数いることも事実です。手の震えについては出ない人もいますが、手の震えは中毒ではなく、治療に必要な0.6~1.2ミリモーラーの範囲の血中濃度で効いている状態であっても、副作用として出てしまうことがあります。血中濃度が高くなったために出る中毒としては、フラフラして歩けない、意識を失ってしまうなどの症状です。その状態が長く続くと、腎臓に障害が出て、尿を濃縮できなくなり、尿量が増えたり喉がひどく渇いてきます。

 また、いつもと同じ量を飲んでいるのに、急に中毒症状を起こしてしまうことがあります。これは、加齢が原因であったり、また他の病気によって身体にリチウムが多く蓄積してしまうことが原因しています。例えば、腎臓の病気によってリチウムが排泄できなかったり、水分を十分とらなかったために脱水状態になってしまうなど、その時の身体的状況によって、リチウムの血中濃度が急に上がってしまうためです。また。高齢者の患者には、しばしば頭の働きが鈍った、情緒的に鈍感になった、記憶力がわるくなった、やる気が起こらなくなった、などの症状を訴えることもあります。

 このほかの副作用として、甲状腺機能低下症というのがあります。これは、脳の下垂体と呼ばれるところから甲状腺刺激ホルモンが分泌されていますが、この甲状腺刺激ホルモンの働きが悪くなって起こるものです。甲状腺機能低下症は女性の患者によく見られる症状で、このまま放っておくと双極性障害の経過にも影響がでます。時々、甲状腺刺激ホルモンを測定し、甲状腺機能が低下していないかチェックする必要があります。仮に、機能が低下していても、甲状腺刺激ホルモンそのものを補うことができます。そして問題なくリチウムを飲んで、治療を続けることはできます。

 

バルプロ酸(デパケン、セレニカ)

 バルプロ酸は、リチウムに継ぐ気分安定薬のひとつとして使われています。バルプロ酸はもともと、抗けいれん薬(抗てんかん薬)として使われていた薬です。てんかんの患者が、気分が不安定のためにこのバルプロ酸を飲んだところ、気分が安定してきたことから、バルプロ酸を気分安定薬として検討され始めました。双極性障害の治療として使われ始めたのは、1990年代です。リチウムの代替薬として、また補助薬として次第に多く使われるようになりました。

 現在では、バルプロ酸は躁状態の改善に高い有効性がある薬として知られていますが、予防的にも有効であるとも言われています。躁状態の治療においては、かなり多めの量を使った方が有効であるとされており、その効果も投与量あるいは血中濃度に比例していると言われます。したがって、躁状態の時は、少し量を増やして使い、落ち着いてきたら量を減していくという方法が良いかと思います。バルプロ酸は、躁の患者さんに不足していると考えられる神経伝達物質・GABAの働きを高めると言われます。脳細胞が正常に機能するために欠かせない天然の必須脂肪酸の一部の機能を肩代わりするのではないかと考えられています。バルプロ酸は、うつ病状態の予防効果にも期待できるというデータも報告されていますが、この点はリチウムの効果には及びません。

 

カルバマゼピン(テグレトール、レキシン)

 気分安定薬として3番目に挙げられるのが、現在国内でも使われているカルバマゼピンです。この薬も、もともとは抗てんかん薬で、これが双極性障害に有効であることが発見されたのは日本です。現在、双極性障害の躁状態に有効であることが証明されており、躁状態の予防にも有効である可能性が指摘されています。

 カルバマゼピンは、比較的副作用が多い薬です。問題になる副作用としてはスティーブンス・ジョンソン症候群で、最初全身に発疹ができ、放置すると肝臓や脾臓が腫れて高熱が出て、場合によっては生命の危険にいたる重篤な状態になることもあります。発疹が出てきたら、早期に服用を中止する必要があります。こうした副作用は、少量から始め、ゆっくり増やしていくことで症状の軽減ができると言われています。もうひとつ指摘されている副作用では、白血球減少症です。これは、カルバマゼピンが、血液細胞や白血球、赤血球をつくる骨髄などの機能を抑制してしまうことによって起こるとされています。重篤になる前に早めに気づいて、投与を中止するなり、薬剤を変更するなどして経過をみる必要があります。また、服用開始時によくみられる副作用としては、めまい、眠気、ふらつき、吐き気などがあります。毒性の兆候としては、意識の障害、筋肉のひきつり、震え、発熱、のどの痛み、あざの付きやすさ、発疹などあります。

 

ラモトリギン(ラミクタール)

 ラモトリギンは、日本においては2011年の7月に双極性障害における気分エピソードの再発・再燃抑制の効能・効果がある薬として、厚生労働省より承認された新しい薬です。ラモトリギンはもともと抗てんかん薬で、1990年11月にアイルランドで成人部分てんかん患者に対する療法薬として承認されて以来、現在では世界の112カ国または地域で使われています。日本での抗てんかん薬としては、2008年10月に、他のてんかん薬で十分な効果が得られなかったときの併用療法として承認されました。そして2011年に、双極性障害の再発を抑える治療薬として、国内で始めてラモトリギンが認められたのです。この薬は、海外のおもな双極性障害治療ガイドラインで、気分エピソードの再発予防を目的とした維持療法の第一選択薬として広く用いられ、とくにうつ症状の予防に推奨されています。

 ラモトリギンで起こる副作用についてですが、これまで国内臨床試験で安全性については検証されており、発現した頻度については34.4%にとどまっています。起こったとしても多くは軽度で、発疹、頭痛、胃腸障害、震せん、眠気などがみられますが、重篤な副作用が発現することはありません。臨床的な統計によると、双極性障害の患者でラモトリギンを中止したのはたったの2%です。

 ただし、10~20%では,通常型の発疹が出る場合があり、FDAでは発疹が出たらラモトリギンを中止するように勧告しています。これはまれに死に至る可能性のあるスティーブンス・ジョンソン症候群になる恐れがあるからです。スティーブンス・ジョンソン症候群は、他の薬が原因で起こっている抗生剤アレルギーをもつ人に多く、気管支喘息、自己免疫疾患、枯草熱、アレルギー性鼻炎、食物アレルギーなどが危険因子として考えられます。いずれにしても、ラモトリギン薬剤は有効性が高く、副作用も少なくて続けやすい薬なので、患者にとっては利益になる薬物療法のひとつといえます。

 

治療に要する期間と回復率

 双極性障害の場合、躁状態が起きてから治療すれば、一般に2~3ヵ月以内で躁病相は消えることが多い。気分安定薬を使用することで、普通の日常生活が送れるようになります。しかし、うつ状態の場合は、治療してもなかなか好転せず、半年以上続くことがあり、回復期間は躁状態よりも長くなります。一般に、双極性障害は再発率が高いために、長期化することも予想されます。