躁うつ病(双極性障害)の分類

 双極性障害は、症状の程度や生じ方によって「双極Ⅰ型障害」「双極Ⅱ型障害」「気分循環性障害」という3つのタイプに分けられます。

 双極Ⅰ型障害は、典型的な躁状態とうつ状態を交互に繰り返す病気で、仕事や暮らしに大きな支障が出たり、良好な人間関係が保てなくなって、入院が必要となることもあります。再発を繰り返すのも特徴です。

 双極Ⅱ型障害は、軽躁状態とうつ病を繰り返す病気です。入院するほどではないが、実生活や人間関係に支障が出る程度です。躁状態のとき、本人は「調子がよい」と感じているため、それがⅡ型障害であることに気づかずに見過ごしたり、また、うつ状態で受診すると、単なるうつ病と診断されてしまうケースもよくあります。

 気分循環性障害は、Ⅱ型よりもさらに軽い躁状態と軽いうつ状態の症状が2年以上続き、しかも、このような症状が2ヵ月以内には必ず起きている場合にこの病名がつけられます。この症状が長年続いていると、Ⅰ型障害やⅡ型障害に進展することがあります。

 

双極Ⅰ型障害

 双極Ⅰ型障害は、躁とうつがはっきり現れるので診断がつきやすい病気です。以前から躁うつ病と言われていた病気は、このⅠ型にほぼ相当します。双極Ⅰ型障害の躁状態と双極Ⅱ型障害の躁状態には大きな違いがありますが、うつ状態に関してはⅠ型もⅡ型も同じ程度です。

 双極Ⅰ型障害と単極性うつ病(大うつ病)を比較するとどうなるかというと、かなりの違いがわかります。

 有病率では、Ⅰ型が0.8%(約100人に1人弱)であるのに対し、単極性うつ病は5%です。

 発症年齢では、Ⅰ型が20代前半に多いのに対し、単極性うつ病では40代と60代がピークです。

 性差では、Ⅰ型には男女差はありませんが、単極性うつ病では女性に多く、男性の約2倍です。

 発症の誘因では、Ⅰ型は少なく、単極性うつ病は多い。

 家族歴・遺伝では、Ⅰ型の場合は家族内発生が多く、遺伝的影響もやや強いのに対し、単極性うつ病の方は家族内発生は少なく、遺伝的影響も弱い傾向にあります。

 臨床症状で比較すると、Ⅰ型は躁状態・混合状態・うつ状態が主な症状で、身体的な愁訴は少ないものの、思考制止は多くなっています。一方、単極性うつ病はうつ状態が主な症状で、身体的な愁訴も多くなっています。

 

躁状態とは

 激しい躁状態が起きるのがⅠ型の特徴で、重症化すると、しばしば患者自身の人生や家庭が破壊されます。

 具体的な症状を挙げてみます。

1. 気分が非常に高揚し、爽快な気分になって、自分がとても偉くなったように感じます。言葉遣いや言動も横柄になり、態度も大きくなるため、自然と周囲から敬遠されるようになります。

2. 夜も寝ずに一晩中動き回ったり、一日中動き続けてじっとしていることができません。そのことによって身体が消耗しますが、本人には疲れが自覚できません。

3. 声がかれるまでしゃべり続けたりします。知らない人にも気さくに話しかけますが、相手が迷惑そうにしていても、それが迷惑だとは気づきません。それが原因で、嫌われたり、人間関係が壊れることがあります。

4. 買い物をするとき、あまり必要ない物でもどんどん買い込んだり、時には高価な物や高級品を買いあさります。カードなどで買って、自己破産に追い込まれるケースもあります。

5. 性的にも奔放になり、それまで普通に生活していた人が、家族に無断で外泊するようになったりします。

6. 新しい考えや発想が競い合うように浮かんできます。初めは、良いアイディアが浮かんできて、仕事がどんどんはかどるようにみえますが、そういう状態は長く続きません。いろいろ思いついて手は出しますが、すぐに他のことに気を散らして集中できず、結局、何ひとつ事を成し遂げることができなくなります。

7. 思い通りにならないと、ひどく怒ることがあります。職場で上司を激しく攻撃したり、トラブルを起こして職場を追われることもあります。

8. 症状がひどくなると、誇大妄想や幻聴が出てきます。自分には超能力があると言ったり、神の声や天の声が聞こえてくると言ったり、訳の分からない事を言い出します。

9. さらに、考えが一層激しくなると、本当に何を言っているのか分からなくなり(観念奔逸)、錯乱してきます。これを」「錯乱性躁病」といいます。

 

うつ状態とは

 Ⅰ型およびⅡ型に起こるうつ状態は同じ程度で、症状も「抑うつ気分」と「興味・喜びの喪失」の2つです。

抑うつ気分

 抑うつ気分というのは、身内の者や親しい人を亡くした時の辛さや、嫌なことがあった時に感じる悲しさといったものとは別のものです。それは、逃れようのない苦しさと辛さで、その気分が1日中続き、そして何日も続きます。また、抑うつ気分は、やる気がない、意欲が出ないといったことと間違われますが、そのような気分とは違います。あるべき意欲がないというものではなく、普段あるはずのないうっとうしい気分が襲ってきて、筆舌に尽くし難い気持ちになります。  

興味・喜びの喪失

 興味の喪失とは、すべてのことに関してまったく興味をもてない状態をいいます。好きだった趣味やスポーツ、新聞の記事やニュース、よく見ていたテレビの人気番組など、すべてにおいて関心がもてなくなります。やり甲斐を感じて毎日働いていた仕事に対しても、まったくやる気が出なくなるのです。悲しいことに、自分の愛する家族に対しても無関心になり、子どもが駆け寄ってきても、可愛いと感じることができず、抱きしめてあげられないのです。そして、そのような自分を今度は責めていくのです。この悪循環に苦しめられるのがうつ状態の症状です。  

 喜びの喪失も同じです。普段、楽しめていたことがすべて楽しく感じられなくなる症状です。何をしても、何を見ても、楽しいとか嬉しいとかいった感情がまったく湧いてきません。もちろん、性的な感情もありません。砂漠のような荒涼とした気分になり、味気のない日々が続くのです。

 

双極Ⅱ型障害

 双極性障害のもう一つの型に双極Ⅱ型障害があります。双極Ⅰ型障害と違う点は、躁の症状の程度です。Ⅰ型が躁状態であるのに対し、Ⅱ型は軽躁状態です。うつについては、Ⅰ型もⅡ型もうつ状態で同じです。双極Ⅰ型障害が躁状態とうつ状態を繰り返す病気であるのに対して、双極Ⅱ型障害は、軽躁状態とうつ状態を繰り返す病気です。双極Ⅱ型障害の生涯有病率は、Ⅰ型とほぼ同じの1%くらいとされています。うつ状態または軽躁状態が発症して、次に軽躁状態またはうつ状態が発症する1サイクルの期間は個人差がありますが、数ヵ月から数年とされています。

軽躁状態とは

 Ⅰ型の躁状態は、本人も激しい症状で困り、周りの人たちも困るほどの状態です。たとえば、重篤なⅠ型の患者だと、元気いっぱいで威勢がよいのですが、トラブルを起こして仕事を失ったり、散財したり、他人を攻撃したり、離婚など深刻な損失を被るケースが多い。Ⅱ型の軽躁状態は、本人も周りの人にとっても大きな損失はなく、それほど困らない程度の症状です。軽躁状態というのは、気分が適度に高揚し、仕事がはかどり、いろいろなアイディアが湧いてくるため、仕事においては創造的で目覚ましい成果をあげることができます。躁状態と軽躁状態の診断基準は類似点が多く、見分けがつきにくいのが実態です。

 軽躁状態の診断のポイントとしては、
 ①入院を必要とするほど重篤ではない
 ②幻覚や妄想などが存在しない
 ③持続的に高揚した開放的な気分が少なくとも4日間以上ある
というのがひとつの基準です。

 また、躁状態と軽躁状態を区別するもっとも明確なポイントは、それによって生じる損害の大きさです。躁も軽躁もとんでもない欲望や衝動にかられますが、躁はそれを実際に実行してしまうために、大きな損害を被ることになります。軽躁の方は衝動にかられても実行しないために、損害が小さいというのが特徴です。また、軽躁状態における考え方や行動が、性格や個性とみなされ、その人を魅力的に見せる可能性があります。一方、軽躁状態とパーソナリティ障害との境目が見えにくく、絶好調との区別もつきにくいこともあります。

 双極Ⅱ型障害の軽躁状態は、本人にとっていつもより気分が良い状態ですから、この軽躁状態の時に病院へ行くことは、ほとんどありません。うつ状態になって初めて病気の自覚があり、病院に行くケースが多いのです。したがって、軽躁状態の過程で双極Ⅱ型障害の病気であることが発見されることはほとんどなく、うつ状態になってから初めて受診するために、多くの患者は、自分はうつ病だと思っています。また、家族にとっても同様で、双極Ⅱ型障害は うつ病にしか見えないのです。激しい躁状態を伴うⅠ型とは違って、軽躁状態の症状は、病気としての自覚がないことが、双極Ⅱ型障害を正しく診断するうえで大きなネックとなっています。この双極Ⅱ型障害は、逆に実は深刻な面もあります。本人も周囲の人も軽躁状態を病気として見逃すことや、うつ病と診断されてそのうつ状態を実際以上に深刻に受け止めたり、病院では抗うつ薬を処方されて、かえって病状が悪化することもあります。Rapid Cycler(急速交代型)と言って、非常に短期間で躁状態とうつ状態を繰り返す状態が多くみられます。また、Ⅱ型はⅠ型よりも自殺率が高く、摂食障害、不安障害、アルコール依存症との合併がしばしばみられます。軽躁状態だからといって病気自体を軽く見ることはできません。よって、双極Ⅱ型障害のうつ状態なのか、それとも単極性のうつ病(大うつ病)なのか、この2つを区別する必要があるのです。単純に考えれば、Ⅱ型の軽躁状態は本人も周囲の人も困るわけではないので、そのままにしておいても良いのではないかと考えます。そして、たまたまうつ状態になった時に、受診してうつ病と診断を受けたのだから、うつ病の治療だけをすればよいのではないかと考えるのが普通です。しかし重大な問題は、うつ病といっても、双極Ⅱ型障害のうつ状態なのか、それとも単極性のうつ病なのか区別しないと、同じように見えるうつ病でも、治療方法がそれぞれ全く異なってくることと、再発率が大きく違う(双極Ⅱ型障害の再発率の方がはるかに高い)のが問題です。

 

双極スペクトラムという考え方

 双極性障害を分類すると、大きく双極Ⅰ型障害と双極Ⅱ型障害になりますが、さまざまな症状が個々の定義に必ずしもぴったりとあてはまるとは限りません。精神疾患を、無理矢理に分類するのは、治療方法を誤るもととなります。そこで、双極Ⅰ型とⅡ型にぴったりとはいえない人を、「双極スペクトラム」という見方でとらえようという考え方が出てきました。

 気分障害は、ひとつの病気ではなく、多くの精神疾患から成り立っていると考えます。双極性障害も、多くの隣接した精神疾患があるはずです。そこで、気分障害をプリズムで分解すると、光が7色に分かれるように、いくつかの病気や症状に分かれて出てきます。  

 それを配列すると
 ①単極性うつ病(うつ症状が1回だけ現れる)
 ②単極性うつ病反復型(うつ症状を何回もくり返す)
 ③双極Ⅰ型障害(躁症状とうつ症状がはっきり現れる)
 ④双極Ⅱ型障害(軽い躁症状とうつ症状が現れる)
 ⑤双極かもしれない(大うつ病とも双極性障害とも断言できない)
 ⑥まったく不明
のようなスペクトラムになります。

 この配列の⑤番目の「双極かもしれない」というのは、うつ病と診断された患者について、次のような疑問が出てくるからです。
1. 躁が現れないといっても、実は短期間の軽い躁状態を見過ごしているのではないか?
2. うつ状態と躁状態が混在して、同時に現れているため、躁が見つけられないのではないか?
3. うつ状態は、エネルギーが低下して活動も低下するはずなのに、イライラ、焦燥感が現れるうつ感は、実は躁状態ではないのか?
4. 家族内に双極性障害の人がいる場合、単極性うつ病にみえても、実は双極性障害ではないか?  

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