在宅勤務 労働基準関係法令の適用及びその注意点
1.労働基準関係法令の適用
労働者が在宅勤務(労働者が、労働時間の全部又は一部について、自宅で情報通信機器を用いて行う勤務形態をいう。)を行う場合においても、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法等の労働基準関係法令が適用されることとなります。
2.労働基準法上の注意点
(1) 労働条件の明示
使用者は、労働契約を締結する者に対し在宅勤務を行わせることとする場合においては、労働契約の締結に際し、就業の場所として、労働者の自宅を明示しなければなりません(労働基準法施行規則 5条 2項)。
・業務内容や遂行方法などを文書にして交付し、評価方法を構築しておく。
・通信費等の費用負担の取扱を決めておく。
(2) 労働時間
在宅勤務については、事業主が労働者の私生活にむやみに介入すべきではない自宅で勤務が行われ、労働者の勤務時間帯と日常生活時間帯が混在せざるを得ない働き方であることから、一定の場合には、労働時間を算定し難い働き方として、労働基準法 38条の2で規定する事業場外労働のみなし労働時間制を適用することができます(平成16年3月5日付け基発第0305001号「情報通信機器を活用した在宅勤務に関する労働基準法第 38条の2の適用について」)。
在宅勤務についてみなし労働時間制が適用される場合は、在宅勤務を行う労働者は就業規則等で定められた所定労働時間により勤務したものとみなされることとなります。業務を遂行するために通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合には、当該必要とされる時間労働したものとみなされ、労使の書面による協定があるときには、協定で定める時間を通常必要とされる時間とし、当該協定を労働基準監督署長へ届け出ることが必要となります(労働基準法38条の 2)。
在宅勤務についてみなし労働時間制を適用する場合であっても、労働したものとみなされる時間が法定労働時間を超える場合には、時間外労働に係る三六協定の締結、届出及び時間外労働に係る割増賃金の支払いが必要となり、また、現実に深夜に労働した場合には、深夜労働に係る割増賃金の支払いが必要となります(労働基準法36条及び37条)。
このようなことから、労働者は、業務に従事した時間を日報等において記録し、事業主はそれをもって在宅勤務を行う労働者に係る労働時間の状況の適切な把握に努め、必要に応じて所定労働時間や業務内容等について改善を行うことが望まれます。
労働時間の算定と割増賃金
事業場外のみなし労働時間制が適用されることを前提に考えてみます。 1) 所定労働時間とみなされる場合
割増賃金の支払いは不要。
2) 通常必要とされる時間として法廷労働時間を超える場合 (例えば9時間) 『法定労働時間を超える1時間 × 在宅勤務した日数分』の割増賃金支払いが必要。
また、上記いずれの場合にも、深夜時間帯に勤務の実績があれば、深夜割増の支払いが必要となります。 日報をなるべく正確に記録することが望ましい。
3) 1日のうちの一部を事業場外で勤務した場合
会社、事務所等で勤務した時間は、みなし時間とは別に算定します。
(例): 事務所で5時間打合せ、その後自宅で勤務→『5時間+9時間=14時間』が、労働時間となり、6時間の割増賃金の支払いが必要。
ソフト会社のように、ミーティングと自宅勤務が随時繰り返されるような場合には、みなし時間の設定の仕方が難しくなります。このような場合には、事業場内外を含めたみなし時間を協定する方法もあります。
3.労働安全衛生法上の注意点
事業者は、通常の労働者と同様に、在宅勤務を行う労働者についても、その健康保持を確保する必要があり、必要な健康診断を行うとともに(労働安全衛生法66条第1項)、在宅勤務を行う労働者を雇い入れたときは、必要な安全衛生教育を行う必要があります(労働安全衛生法59条 1項)。
また、事業者は在宅勤務を行う労働者の健康保持に努めるに当たって、労働者自身の健康を確保する観点から、「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(平成 14年 4月 5日基発第0405001号)等に留意する必要があり、労働者に対しその内容を周知し、必要な助言を行うことが望まれます。
4.労働者災害補償保険法上の注意点
労働者災害補償保険においては、業務が原因である災害については、業務上の災害として保険給付の対象となります。したがって、自宅における私的行為が原因であるものは、業務上の災害とはなりません。
在宅勤務の者が自宅で作業中に怪我をしたとき
まず、その者が労働者として認められるかどうか、次に、その怪我が業務に基づいて起きたのか、つまり、業務遂行性、業務起因性があるかどうかによって労災認定の可否が判断されます。
労働者災害補償保険法は、労働者の業務上の事由による災害に対する労働基準法上の使用者の補償義務を担保する目的で制定されたものです。したがって、労災保険法が適用される「労働者」は、労働基準法第9条で定める「労働者」と同一のものと解されています。
ところで、労働基準法第9条では労働者の定義について「労働者とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」としています。つまり、使用者に使用される者であり、かつ、その報酬が労務の提供への対価として賃金の性格を有する場合には、労働基準法上の労働者に該当し、したがって、労災保険法の保護の対象となる労働者となります。ただし、これは形式上の契約形態でなく、実態で判断しなければなりません。使用者の命令によって、特定の業務を果たしており、就業の場所が自宅であるというだけで、通常の社員に適用される就業規則がその在宅勤務者についても適用されている場合には、上記の労働者に該当すると考えられます。
また、ある負傷が労災保険の業務上災害と認められるためには、原則として業務中に(業務遂行性)、その業務が原因となって(業務起因性)、罹災したものでなければなりませんが、在宅勤務をしている場合には、使用者からの管理を常に受けているわけではなく、在宅勤務者自身が自己の判断で様々な行動をとることが可能になりますから、そのひとつひとつの行為には私的な行為も出てくると考えられます。
このように、在宅勤務者の私的行為にまで業務遂行性が認められるわけではありませんので、在宅勤務者が自宅で作業中に怪我をしたというだけでは、労災保険の適否の判断はできませんが、作業中である(業務遂行性がある)ことが確認され、また、その作業が使用者の命令下で行われたことが明白であれば、労災保険の適用は可能と思われます。つまり、その負傷が作業に伴う必要行為または合理的行為中に発生したもの、作業に伴う準備行為または後始末行為中に起きたものであれば、労災と認められ、給付が行われるということになります。
5.その他在宅勤務を適切に導入及び実施するに当たっての注意点
(1) 労使双方の共通の認識
在宅勤務の制度を適切に導入するに当たっては、労使で認識に齟齬のないように、あらかじめ導入の目的、対象となる業務、労働者の範囲、在宅勤務の方法等について、労使委員会等の場で十分に納得のいくまで協議し、文書にして保存する等の手続きを踏むことが望まれます。
新たに在宅勤務の制度を導入する際、個々の労働者が在宅勤務の対象となり得る場合であっても、実際に在宅勤務をするかどうかは本人の意思によることとすべきです。
(2) 業務の円滑な遂行
在宅勤務を行う労働者が業務を円滑かつ効率的に遂行するためには、業務内容や業務遂行方法等を文書にして交付するなど明確にして行わせることが望まれます。また、あらかじめ通常又は緊急時の連絡方法について、労使間で取り決めておくことが望まれます。
(3) 業績評価等の取扱い
在宅勤務は労働者が職場に出勤しないことなどから、業績評価等について懸念を抱くことのないように、評価制度、賃金制度を構築することが望まれます。また、業績評価や人事管理に関して、在宅勤務を行う労働者について通常の労働者と異なる取扱いを行う場合には、あらかじめ在宅勤務を選択しようとする労働者に対して当該取扱いの内容を説明することが望まれます。
なお、在宅勤務を行う労働者について、通常の労働者と異なる賃金制度等を定める場合には、当該事項について就業規則を作成・変更し、届け出なければならないこととされています(労働基準法89条 2号)。
(4) 通信費及び情報通信機器等の費用負担の取扱い
在宅勤務に係る通信費や情報通信機器等の費用負担については、通常の勤務と異なり、在宅勤務を行う労働者がその負担を負うことがあり得ることから、労使のどちらが行うか、また、事業主が負担する場合における限度額、さらに労働者が請求する場合の請求方法等については、あらかじめ労使で十分に話し合い、就業規則等において定めておくことが望まれます。
特に、労働者に情報通信機器等、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合には、当該事項について就業規則に規定しなければならないこととされています(労働基準89条第 5号)。
(5) 社内教育等の取扱い
在宅勤務を行う労働者については、OJTによる教育の機会が得がたい面もあることから、労働者が能力開発等において不安に感じることのないよう、社内教育等の充実を図ることが望まれます。
なお、在宅勤務を行う労働者について、社内教育や研修制度に関する定めをする場合には、当該事項について就業規則に規定しなければならないこととされています(労働基準法89条7号)。
6.在宅勤務を行う労働者の自律
在宅勤務を行う労働者においても、勤務する時間帯や自らの健康に十分に注意を払いつつ、作業能率を勘案して自律的に業務を遂行することが求められます。
セキュリティの問題
テレワークに関する実務上の留意点です。 事務所で使用するパソコンと自宅で使用するパソコンとのセキュリティレベルはおのずと異なります。機密データの流出や、パソコンの盗難などのリスクもあります。
パソコンやネットワークに関する管理規定を就業規則上などに設け、従業員に徹底周知させること。
平成16年3月に厚生労働省労働基準局により「情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入および実施のためのガイドライン」が策定されました。
労働者が情報通信機器を活用して、労働時間の全部又は一部について、自宅で業務に従事する勤務形態である在宅勤務については、職場での勤務などとは異なり、労働者の勤務時間帯と日常生活時間帯とが混在せざるを得ない働き方である点等を考慮すると、これまで一般的であった事務所等での勤務に係る労務管理を前提とした労働基準関係法令の適用関係等を整理し直し、適切な労務管理が行われることが必要となっているところである。 そこで、今般、在宅勤務が適切に導入及び実施されるための労務管理のあり方を明確にし、もって適切な就業環境の下での在宅勤務の実現が図られることを目的とする「情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」を策定したところである。 今後は、本ガイドラインに基づき、事業主等において適切な労務管理に努めるよう、本ガイドラインの周知を図ることとしているところである。
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