年次有給休暇取得の日を通勤費不支給とできるか
基準が明確でしたら払わなくても問題ありません。労働基準法附則第134条は「使用者は、第39条第1項から第3項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱をしないようにしなければならない」としていますので、年次有給休暇を取得したことにより精皆勤手当や賞与などを減額もしくは不支給とすることは許されません。ただし、通勤費につきましては、本来実費弁償的な性格のものですので、必ずしも年次有給休暇を取得した日について支払わなくてはならないということにはなりません。
年次有給休暇を取得した日について、通勤手当が支払われなかったとしても、年次有給休暇を取ったために不利益を被ったと見るべきではなく、実際に通勤費がかかっていないのですから、このような実質保証もしくは実費弁償的な性格の手当である以上、やむを得ないと考えられます。ただし、この場合は『実際に出勤した日についてのみ支給する』とする旨の支給基準があらかじめ明確にされていなければなりません。
・大国自動車交通事件(東京地判 平17.9.26)
年休取得期間中の賃金(歩合給・賞与)の算定方法について争われた。
裁判所は、年休を取っても固定給は減額されないこと、法令(労基法39条6項、労基則25条)が定める方法で算定した額を上回っていること、労使合意に基づく労働協約に則って運用されており、組合から異議は申し出られていないこと、年休消化率が高いこと、タクシー会社の収益は乗務員の営業収入に依存しているという業務の特殊性及び営業収入に対する貢献度に応じて賞与額を決定するなど経営上の必要性があり、違法ではないと判断し、したがって、労基法136条及び民法90条に違反する不利益な取扱いではないとしています。
退職者が残りの年休を消化する期間の通勤手当をカット
通勤手当は、労基法等で支給を義務付けられた賃金項目ではないので、労使が話し合いで支給条件を決めることができます。就業規則等で要件が定められれば、それに従って支払う義務が生じます。たとえば、私傷病休職が発令された社員に対して、通常、通勤手当は支払われません。これは、他の基本給等も含め、「私傷病休職者には基準賃金を支払わない」等の根拠規定があるからです。通勤しないという理由で、自動的に手当をカットする権利が生じるわけではありません。
通勤手当は、普通は、会社と自宅の往復に要する費用をベースとして定めます。
正社員等の場合、1月当たりの定額で支給するケースがほとんどで、実際に通勤に要した費用が通勤手当を下回っていても、差額を徴収することはできません。
パート等を対象に、「出勤日ごといくら」という定め方をしていれば、もちろん、出勤しない日について手当を支払う必要はありません。
就業規則上に、何日以上の長期年休を取得した場合、通勤手当の支給を停止するという規定がある企業は皆無でしょう。根拠規定がない以上、恣意的に手当をカットすることは許されません。
労働基準法第39条第6項では、年次有給休暇中の賃金について、
(1) 平均賃金
(2) 所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
(3) 標準報酬日額
のいずれかを支払うよう定めています。
平均賃金は、過去3ヵ月の賃金総額を暦日数で除して計算します。
賃金総額から除外できるのは、
(1) 臨時に支払われた賃金
(2) 3ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金
(3) 現物給与のうち一定範囲のもの
だけです。通勤手当は賃金総額に含まれます。たとえ、6ヵ月分前払いしても、「3ヵ月を超える期間ごとに支払う賃金」とは認められません。「定期乗車券は労基法第11条の賃金であり、6ヵ月定期乗車券であっても各月分の前払いとして認められるから、平均賃金算定の基礎に加えなければならない」(昭25.1・18基収第130号)という解釈例規があります。
「所定労働時間労働した場合に通常支払われる賃金」は、残業なしで働いている期間中の労働日1日当たりの賃金ですから、通勤手当も含まれています。
標準報酬日額を決定する際にも、通勤手当は、現物給与を含め報酬とみなされ、金額算定のベースになります。
いずれの計算方法を取る場合も、通勤手当を控除して支払うことはできません。
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