自己都合退職の撤回

 労働者から一方的通知があり、それが会社に伝わると、伝わった時点で効力が生じます。従業員の自己都合の申し出が、会社に対して雇用契約解消の合意を求めるものであり、これに対して会社が承諾していれば、原則として撤回は認められません。すなわち、労働者から退職願の提出があり、それに対して会社が承諾書のような書面を交付した後であれば、撤回に応じなくても原則として問題はないでしょう。また、会社からの申し出に対し、労働者が退職届の提出などにより承諾の意思表示をした場合は、合意解約が成立し、その後に退職届の撤回はできません。

 しかし、労働者から退職の申し出があり、会社が承諾する前に撤回してきた時は、応じなければなりません。

 判例においても、会社が予想できないような損害を被るような特段の事情がない限り、労働者は自由に退職の撤回をすることができるとされています。

 退職の意思表示が衝動的なものと客観的に認められるならば、真意に基づく意思表示ではないので雇用契約の解約の効果は生じません。そうでない場合は、相手方の同意を得た上で、退職の意思表示を撤回することが必要です。

 退職の意思表示を、社長は真意と受け取ったかどうかですが、口論の最中に衝動的に言ってしまったということですから、社会通念上、有効な意思表示とは認められません。しかし、同じ口論でも、十分な話し合いの末の結論として出された場合は有効な意思表示と認められ、これを無制限に撤回することは信義誠実の原則から認められません。これらの判断を線引きすることは難しく、個別に判断するとこが必要です。

 判例は、「単に反省を示すために退職届を提出したに過ぎず、真に退職する意思のないことを使用者側で知っていたときは、その退職の申し出は心裡留保として無効である(神戸地裁/昭和30年12月1日)」としたものがあります。

 退職の意思表示が有効であったとしても、相手方の同意を得て、撤回することが可能です。ただし、この場合であっても、信義に反する特段の事由(意思表示から相当の期間が経過している、代替要因を既に雇い入れている等)がある場合は認められません。

 意思表示をした翌日に撤回したということなので、会社側に不測の損害を招くとは考えにくく、また、会社側としても退職の意思表示を撤回することは容易に想像できることから、撤回は会社の同意を得る事ができれば可能です。

 

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