社員が死亡した場合の死亡退職金

 労働者の死亡の場合において、退職金の支払いは、特に何らの規定がない場合は、民法の一般原則による遺産相続人に支払うことになります。しかし、労働協約や就業規則において民法の遺産相続の順位によらず、労働基準法の施行規則に基づいて退職金を支払うことが認められています。

 労働協約や就業規則、退職金規程等で、死亡退職金を誰に支払うかについて定めている場合には、その定めに従います。この場合、死亡退職金の支払い順序は、民法の遺産相続人や労働基準法施行規則の遺族補償の順位どおりでなくても、会社が任意に定める支給対象者や支給順位に基づいて支払っても差し支えないのです。

 具体的には、労働者の配偶者(事実婚も服務)が第1順位となります。配偶者がいない場合は、生計維持関係又は生計同一関係のある子、父母、孫、祖父母の順になります。このような遺族がいない場合には、生計維持関係又は生計同一関係がない子、父母、孫、祖父母の順になります。最後に兄弟姉妹の順位となります。

 父母については養父母を優先として実父母は後順位になります。同順位の相続人が数人いる場合は、その支払いについて何らかの規定があれば、その規定によりますが、特に何もなければ共同分割で対応することになります。また、遺言で特定の者を指定している場合におきましては、指定された者が権利を有することになります。

 支払対象者及び支給順位が定められている場合でも、同順位者が複数存在する場合には分割払いの方法をとります。しかし、当事者間で争いが起きた場合には、異議のない部分を予定期日までに支払えばよいのですが、その際、会社は、遺族間の争いに巻き込まれないように留意する必要があります。争いが終わるまで、会社が死亡退職金を管理しなければならなくなるからです。万一、訴訟事件になるなど争いが長引くような場合には、実務上の処理として、供託などの措置を講ずる方法もあります。そうすれば、死亡退職金を会社がいつまでも管理する必要もなくなります。

 なお、就業規則等で支給対象者を定めた場合には、受給権者たる遺族は、相続人としてでなく、直接これを自己固有の権利として取得することになります。例えば、支払対象者を、死亡労働者の配偶者、子、父母と定めているとき、その死亡労働者に配偶者も子もなく、父母も亡くなっているようなときは、たとえ民法上の相続人(例えば、兄弟姉妹)が存在していても、その相続人は、死亡退職金の受給権を持つことはできません。

 一方、支払対象者についての定めがない場合は、行政解釈では「民法の一般原則による遺産相続人に支払う」とされています。したがって、死亡退職金の支払対象者に関する定めがない場合で、死亡労働者の民法上の相続人が存在するときには、その相続人に対して、死亡退職金を支払うべきでしょう。

 なお、この場合で、複数の相続人が存在するときには、民法の定めに従って、分割支払いすべきです。

 

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