独身寮と労働基準法における「寄宿舎」

 独身寮の場合でも、事業の運営に不可欠な場合は「寄宿舎」に該当します。また、寄宿舎に該当しない場合でも「寄宿舎」に準じた管理が望まれます。

 労働基準法に規定する「寄宿舎」は、「常態として相当人数の労働者が宿泊し、共同生活の実態を備えるもの」で、かつ、事業に附属するもの(事業経営の必要上その一部として設けられているような事業との関連性を持つもの)をいいます。

 独身寮が「寄宿舎」であるか否かは、
(1)相当人数の労働者が宿泊しているか否か
(2)その場所が独立または区画された施設であるか否か
(3)単に便所・炊事場・浴室などが共同というだけでなく、一定の規律・制限により起居寝食等の生活態様を共にしているか否か
などによって判断されます。

 したがって、独立した生活を営む社宅や、少人数の者が事業主の家族と同居する住み込みのようなものは、これに該当しません。

 「事業に附属する」か否かは、

(1)事業の労務管理上共同生活が要請されているか否か
(2)事業場またはその付近にあるか否か
などが基準となります。

 したがって、福利厚生施設として設置されるいわゆるアパート式寄宿舎はこれに含まれません

 以上の点から見ますと、「独身寮」は、必ずしも事業の必要から共同生活が要請されたものとはいえず、一般には労働基準法の「寄宿舎」には該当しません。しかし、実態によっては「寄宿舎」に該当するとした裁判例もありますので、名称や外観にとらわれることなく、企業における当該施設の意義、目的、その施設の運用の実態等に照らして総合的に判断する必要があります。

 一般に地方出身者などのために福利厚生施設として設置する独身寮等は、事業附属寄宿舎には該当しませんが、その場合でも入居者の自由の保障、寮生活の自由、寮生活の秩序、寮の設備や安全衛生などについては、寄宿舎の管理、運営に準じて、適正に行われることが望まれます。

 

寄宿舎生活の自治

 寄宿舎生活の自治(労働基準法第94条)

使用者は、事業の附属寄宿舎に寄宿する労働者の私生活の自由を侵してはならない。

2 使用者は、寮長、室長その他寄宿舎生活の自治に必要な役員の選任に干渉してはならない。

 本規定は、寄宿舎における寄宿労働者の私生活の自由を保障するために設けられたものです。事業附属寄宿舎とは、常態として相当人数の労働者が宿泊し、共同生活要請の実態を備えるものであり、事業経営の必要上その一部として設けられているような事業との関連をもつものをいいます。

 事業に付属するか否かは、おおむね、労務管理上の共同生活要請の存否、事業場内又は近傍にあるか否かを基準として総合的に判定され、また、寄宿舎であるか否かは、おおむね、相当人数の労働者の宿泊の有無、独立又は区画された施設か否か、共同生活の実態を備えているかどうかを基準として総合的に判定されます。私生活とは、広く作業関係から解放された労働関係外の生活、すなわち、始業時間前、就業時間後の生活のことをいいます。私生活の自由の内容として、具体的に考えられるものには、通信の自由、居室・寝室内の生活に大きな影響力を持つ寮長・室長等の共同生活の秩序維持等のための役員の選任、外出・外泊・面会等に関する事項、各種の行事に関する事項等があります。寄宿舎生活は労働関係とは別個の私生活であり、使用者の干渉は許されません。ただし、舎監、寮母等をおくことは、私生活の自由を侵さない限り差し支えありません。

 事業附属寄宿舎規定第4条では、使用者が寄宿労働者の私生活の自由を侵す行為として、次の行為を掲げ禁止しています。
(1) 外出又は外泊について使用者の承認を受けさせること
(2) 教育、娯楽その他の行事に参加を強制すること
(3) 共同の利益を害する場所及び時間を除き、面会の自由を制限すること

 寄宿舎生活における秩序は、なるべく寄宿労働者の自治によって維持されるべきであるため、寮長・室長等の寄宿舎生活の自治に必要な役員の選任はすべて労働者にまかせ、使用者がこれに管掌することは禁止されています。 単に選任手続に対する干渉が禁止されるばかりでなく、会社側より選ばれた舎監、世話係等が役員の職に就くことも禁止されています。しかし、寄宿舎の設備を管理したり、寄宿労働者の委託する事務を処理したり、また、寄宿舎規則等で定められた使用者の業務を担当するため、使用者が選んだ者を寄宿舎内に置くことは差し支えありません。なお、使用者が役員の選任方法について案を作成することも本規定違反となります。

 

寄宿舎生活の秩序

(労働基準法第95条)

   事業の附属寄宿舎に労働者を寄宿させる使用者は、左の事項について寄宿舎規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。これを変更した場合においても同様である。
(1) 起床、就寝、外出及び外泊に関する事項
(2) 行事に関する事項
(3) 食事に関する事項
(4) 安全及び衛生に関する事項
(5) 建設物及び設備の管理に関する事項

2 使用者は、前項第1号乃至第4号の事項に関する規定の作成又は変更については、寄宿舎に寄宿する労働者の過半数を代表する者の同意を得なければならない。

3 使用者は、第1項の規定により届出をなすについて、前項の同意を証明する書面を添附しなければならない。

4 使用者及び寄宿舎に寄宿する労働者は、寄宿舎規則を遵守しなければならない。

  本規定は、事業の種類を問わず、事業附属寄宿舎に労働者を寄宿させる使用者に寄宿舎規則を作成させ、これに一定の事項を記載させることによって、寄宿舎生活の秩序を保つとともに、労働者の私生活の自由を確保することを目的として定められたものです。寄宿舎規則には上記(1)から(5) までの事項を必ず記載することになっていますが、この事項のうち一つでも欠けている規則を届け出ても受理されません。

 

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