安全衛生管理

 労働安全衛生法(昭和47年法律第57号。以下「安衛法」といいます。)は、労働災害を防止するために事業者が講じなければならない措置について具体的に規定しています。各事業場においては、安衛法等に基づき、労働災害の防止と快適な職場環境の形成に積極的に取り組むことが求められています。そのために、日ごろから職場の安全衛生管理体制を確立しておくことが大切です。

 

 安衛法によって、一定の業種及び労働者数が一定規模以上の事業場においては総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者及び産業医の選任が義務付けられています(安衛法第10条等)。また、常時使用する労働者数が10人以上50人未満の事業場では、業種により安全衛生推進者又は衛生推進者を選任することが義務付けられています(安衛法第12条の2)。会社は、これらの者に、事業場の安全衛生に関する事項を管理させなければなりません。

 

安全衛生

 職場の総合的環境を整備し、労働力の無駄な消耗や災害を未然に防止することによって、従業員の生命と健康を維持する管理を「安全衛生管理」といいます。会社は、労働災害防止の対策を講じることによって、従業員の安全と健康を確保し、快適な職場環境を形成しなければなりません。

 

安全衛生管理体制  

 労働安全衛生法においては、規模や業種によって、様々な管理者を選任することを求めています。

 主なものについて概要を示します。

総括安全衛生管理者  

 安全衛生の統括管理をする者です。業種によって選任義務となる労働者数は分かれており、例えば建設業等の屋外産業的業種は常時100人以上いる場合が選任義務となります。

安全管理者

 安全に関する技術的事項を管理するものです。全ての業種が対象ではなく、建設業や製造業など屋外や工業的な業種が主に対象となり、常時50人以上の労働者がいる場合は選任義務があります。

衛生管理者  

 衛生における技術的事項を管理するものです。全業種が対象となり、常時50人以上の労働者がいる場合は選任義務があります。  衛生管理者は、全業種が対象ですので、50人以上の企業は、選任していなければ、速やかに選任を検討しなくてはなりません。  衛生管理者では、毎週1回作業上の巡視することが義務付けられています。こうしたことも規定で明確にしておくとよいでしょう。

 「都道府県労働局長の免許」や「医師」などの資格が必要なので、なりたいと言って誰もがなれるわけではありません。

 なお、選任したら、労働基準監督署への届出(報告書の提出)が必要です。

産業医

 労働者の健康管理を医学的な面から行うものです。全業種が対象となり、常時50人以上の労働者がいる場合は選任義務があります。  

 この他にも、小規模な事業場では、安全管理者や衛生管理者に代わって安全衛生推進者を選任したりします。  

 特に衛生管理者は、全業種が対象ですので、50人以上の企業は、選任していなければ、速やかに選任を検討しなくてはなりません。

 これらの内容は当然安全衛生管理規程の中に規定します。例えば、衛生管理者では、毎週1回作業上の巡視することが義務付けられています。こうしたことも規定で明確にしておくとよいでしょう。

衛生推進者

 従業員が10人以上50人未満の職場の場合、衛生管理者を置く必要はありませんが「衛生推進者」を選任する必要があります。(名称が似ていますが別の資格者です)

 衛生管理者と同じく、全ての業種が対象です。(建設業や製造業などの業種については「安全衛生推進者」を選任することになります。)

 「衛生推進者」は衛生管理者のような資格(医師等)をもっていなくても、これまで安全衛生の教育・実務経験がなくても、厚生労働省指定の「講習」を修了すればなることができます。

 衛生推進者を選任したら、職場の見やすいところに掲示するなど、従業員への周知が必要です。

 原則、10人以上になったら14日以内に選任が必要です。(労働基準監督署に届け出る必要はありません)

 

健康保持

 昨今は特定の疾病を労時間との関連から労災として認定する場面が多くなり長時間残業による過労死、過労自殺の認定や精神障害疾病の労災認定基準が出ています。その様なリスクに対応して対処マニュアルとしての定めの必要があります。

 

健康診断

 従業員の健康管理のため、労働安全衛生法により使用者には、健康診断を実施する義務が課せられています。また、パートタイマーであっても、期間の定めなく雇用されている者、期間の定めがあっても契約の更新により1年を超えて雇用されている者、契約の更新により1年を超えて雇用される見込みのある者のいずれかで、所定労働時間が通常の従業員のおおむね4分の3以上であれば、定期健康診断を会社負担で実施しなければなりません。

 就業規則に健康診断受診の定めをおけば、社員には使用者が実施する健康診断を受診する義務が生じることになります。健康診断の結果、社員の健康を保持するため必要があると認められる時は、就業場所の変更や労働時間の短縮等の措置を講ずる義務が生じます。

 社員が使用者の実施する健康診断を受診しなかったために、社員の疾患を知ることができなかったのであれば、使用者としてはこの疾患について、これ以上ひどくならないようにするための措置をとることができないため、健康を保持する義務は免れます。  しかし、健康診断を不受診を放置したこと自体、使用者が安全配慮義務を怠ったとされる場合があります。こういったことを防ぐためにも、就業規則には、健康診断を受診しなかった場合の処分についても規定しておくべきです。

○法定外の健康診断

 健康に関してはプライバシーの最たるものであり、実際に健康診断の受診を強要したとして慰謝料の支払いを命じた判例があります(国立療養所比良病院(医師年休)事件 京都地 平6.9.14)。しかし、就業規則上の根拠があれば、法定外のものであっても健診を義務付けることは可能で、さらに、会社の指定医に受診させることも医師選択の自由に反しないとされます(帯広電報電話局事件 最1小 昭61.3.13)。

 法定外の健康診断についても、就業規則上に明確な根拠規定をおくことが無難でしょう。

○自己保健義務

 電通過労自殺事件以後、過重労働に対する使用者責任が厳しく問われるようになってきています。しかし、使用者は、あらゆる場面において、すべての危険、健康被害から従業員を守らなけれればならないかというと、そうではなく、私生活上の問題や通常予想し得ない範囲、従業員が当然遵守すべき注意義務を怠った場合等は対象外です。

 従業員自身にも注意義務や健康管理・保持義務があるため、使用者が必ずしも全面的に安全配慮義務のリスクを負わなければならないということにはなりません。

 問題が生じたときは、まず本人に過失がなかったのかということを主張できるよう、あらかじめ規定化・明示しておく必要があります。

 

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