肝疾患

肝臓と胆嚢

 

肝臓と胆嚢は上腹部右側にあり、胆道と呼ばれる複数の管でつながっていて、胆道は小腸の始まりの部分である十二指腸に続いています。肝臓と胆嚢の機能の一部は共通していますが、これらはまったく異なる臓器です。

 

肝臓と胆嚢の図

 

 

肝細胞でつくられた胆汁は、毛細胆管と呼ばれる細い管に流れこみます。これらの管は胆管につながっています。それぞれの胆管は合流して次第に太い管になり、やがて左右の肝管を形成し、さらに左右の肝管が合流して総肝管となります。総肝管はさらに、胆嚢管と呼ばれる胆嚢から出ている管と合流して総胆管を形成します。総胆管は小腸への入り口となるオディ括約筋の直前部分で、膵臓からの膵管と合流します。

 

 

 

肝臓

 

くさび形をした肝臓は体内で最も大きく、いくつかの点で最も複雑な働きをする臓器です。肝臓は体内でいわば化学工場のような役割を果たし、体内の化学物質の量の調節から、出血が起きたときの血液を凝固させる物質(凝固因子)の産生まで、生命維持に必要な多くの機能を実行しています。

 

肝臓の機能

 

くさび形をした肝臓は体内で最も大きく、いくつかの点で最も複雑な働きをする臓器です。肝臓は体内でいわば化学工場のような役割を果たし、体内の化学物質の量の調節から、出血が起きたときの血液を凝固させる物質(凝固因子)の産生まで、生命維持に必要な多くの機能を実行しています。

 

 

肝臓には、私たちの体に欠かせない重要な働きがいくつかあり、その働きは大きく3つに分けることができる。

 

1 代謝機能

   食べものからとった栄養素を体で使えるかたちに変えたり、貯蔵、供給したりする働き

2 排泄解毒作用

   アルコールや薬、有害物質などを分解して無毒化する働き

3 分泌作用

腸内での消化吸収に必要な胆汁という消化液をつくる働き

 

この機能が侵害されていく過程が肝疾患である。

 

 

肝臓は体内のコレステロールの約半分をつくっています。残りは食物に由来します。肝臓でできたコレステロールの大部分は胆汁の合成に使われます。胆汁は緑がかった黄色の粘り気のある液で、消化を助ける働きをします。コレステロールはエストロゲン、テストステロン、副腎ホルモンなどいくつかのホルモンをつくるのに必要で、すべての細胞膜に必須の成分でもあります。肝臓は体が機能するのに必要なタンパク質を含むほかの物質もつくっています。たとえば、血液凝固因子は出血を止めるために必要なタンパク質です。また、アルブミンは血液の浸透圧の維持に必要なタンパク質です。

糖はグリコーゲンとして肝臓に貯蔵され、グリコーゲンはその後、たとえば睡眠時のように長時間食事をしないで血糖値が低くなりすぎたときなど、必要な時にブドウ糖に分解され、血液中に送り出されます。

肝臓は、腸で吸収されたり、体内のどこかで生成された有害物質や有毒物質(毒素)を無害な物質に分解し、副産物を胆汁や血液中に排出します。胆汁中に排出された副産物は腸に入り、便とともに体外に排泄されます。血液中に排出された副産物は、腎臓でろ過されて尿とともに体外に排出されます。また肝臓は、薬物を化学的に変化させる働き(代謝)によって、薬を不活性化したり、体外にすみやかに排出できるようにします。

 

 

肝臓への血液の供給

肝臓には、他のすべての臓器と同様に心臓から血液が流れ込んでいますが、直接腸からも血液を受け取ってています。腸からの血液は、栄養素、薬物、場合によっては毒素など、腸で吸収された物質のほとんどを含んでいます。その血液は、腸壁にある微小な毛細血管から門脈に流れこみ、門脈から肝臓に入ります。肝臓内で格子状の細い血管を通り、そこで血液に含まれる消化吸収された栄養素や毒素が処理されます。

肝動脈は心臓からの血液を肝臓に運びます。この血液は肝臓の組織に酸素を供給し、さらにコレステロールなどの肝臓で処理される物質も運んでいます。腸や心臓からの血液は肝臓の組織で混ざり、肝静脈を通って心臓に戻ります。

 

 

 

肝臓の病気

 

肝臓の病気にはさまざまな異なる徴候が現れます。特徴的な症状には、黄疸(皮膚や白眼の部分が黄色く変色する)、胆汁うっ滞(胆汁の流れが悪くなったり止まったりする)、肝腫大、門脈圧亢進症(腸から肝臓に流れる静脈内の血圧が異常に高くなる)、腹水(腹腔内に体液がたまる)、肝性脳症(通常なら排出される有毒物質が脳に蓄積することで生じる脳機能の悪化)、肝不全などがあります。

 

肝臓の病気の徴候には、明白でないものもあります。たとえば、疲労感や体調不良、食欲不振、多少の体重減少などが含まれます。しかし、これらは他の多くの病気に典型的な症状でもあります。このため肝臓の病気は、特に初期にはよく見落とされます。

 

肝臓の病気でみられる主な症状

 

症状

特徴

黄疸

皮膚や白眼の部分が黄色く変色する

肝腫大

肝臓が腫れて大きくなる

腹水

腹腔内に体液がたまる

肝性脳症

血液内に毒物が蓄積して脳の機能障害が生じ、錯乱がおこる

消化管出血

食道や胃の静脈の太く曲がりくねった部分(静脈瘤)から出血する

門脈圧亢進症

腸から肝臓に血液を運ぶ静脈(門脈から枝分かれした血管)内で、血圧が異常に高くなる

皮膚症状

顔面や胸部のくも状の血管

手のひらが赤くなる(手掌紅斑)

赤ら顔

かゆみ

血液の異常

赤血球数の減少(貧血)

白血球数の減少(白血球減少症)

血小板数の減少(血小板減少症)

出血しやすくなる(血液凝固障害)

ホルモンの異常

血液中のインスリン濃度は高いが反応が悪く、血糖値が上昇する

女性の月経周期の停止や受胎能力の低下

男性の勃起障害や女性化

心臓と血管の異常

心拍数と心拍出量の増加

血圧の低下(低血圧)

全身症状

疲労

脱力感

体重減少

食欲不振

吐き気

発熱

腹痛

 

肝臓病をおもな原因別に見てみると、ウイルス性のもの、アルコール性のもの、薬剤性のものなどがあります。

 

 

肝臓には痛みなどを感じる神経がないため、障害を受けても肝臓そのものは自覚症状を現しません。何らかの症状が現れたときには、かなり病状が進んでおり、治療には長い時間を要することになります。  完全に肝硬変の状態になると、もとの健康な状態の肝臓に戻ることは極めて難しく、病状が進行すると肝臓癌に移行したり、肝不全で命を落としたりすることもあります。

 

 

肝臓病の多くは、ウイルス感染やアルコール、薬物などにより肝細胞が破壊される肝炎です。肝炎を病状の経過や進行具合によって分類すると、「急性肝炎」「慢性肝炎」「劇症肝炎」の3つに分けることができます。

 

 

肝臓の損傷

 

脂肪肝、肝硬変、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎など、ほとんどの肝疾患は肝臓への損傷に由来します。損傷が急性(突然生じるもの)で限局的であれば、肝細胞が破壊されても、肝臓は足場となる内部構造の上に新しい肝細胞を再生し、自己修復します。肝細胞が十分に再生するまで患者が生存できれば、肝臓は修復され、完全に回復します。

しかし、肝臓の損傷が繰り返し起きた場合、特に肝臓の足場となる構造が破壊された場合には、瘢痕化(線維症)が起こり、再生が不安定になって、肝硬変に進行します。

 

肝臓の損傷は、以下に対する曝露によって生じることがあります。

アルコール(よくみられる原因)

環境中や食物へ混入した毒物

アスピリン(乳児への投与)、コルチコステロイド、タモキシフェン、テトラサイクリンなどの薬物

一部の医療用ハーブ(ピロリジジンアルカロイドを含むブッシュティーなど)

代謝障害

一部のウイルス性感染症

免疫システムの機能不良により、体が自分の組織を攻撃して生じる炎症(自己免疫反応)

肝臓損傷の正確な原因がはっきりしない場合もあります。

 

 

 

 

肝臓に対するアルコールの害

 

肝臓病のなかには、生活習慣の乱れが原因で引き起こされるものもあります。

 

お酒の飲みすぎによる「アルコール性肝障害」

アルコールによる肝障害は、急激に起こるものではありません。しかし、多量の飲酒を長年続けていると、飲んだ量に比例して肝臓は障害を受けます。  アルコール性肝障害の最初の段階は、「アルコール性脂肪肝」です。脂肪肝とは、肝臓に脂肪がたまった状態をいい、脂肪肝になると肝機能が低下します。さらに多量の飲酒を続けていると「アルコール性肝炎」を発症し、劇症化して死亡するケースや、「アルコール性肝硬変」に進むケースがあります。

 

食べすぎや運動不足がもたらす「脂肪肝」

脂肪肝の原因は飲酒だけでなく、過食や肥満、運動不足などもあります。 お酒を飲まない人でも過食や肥満、運動不足などが原因で脂肪肝になり、こうした非アルコ

ール性の脂肪肝のなかにも肝炎を発症するケースがあります。非アルコール性の脂肪肝から発症する肝炎は、「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」とよばれ、肝硬変へと移行したり、肝がんを発症したりする場合もあります。過食や肥満のほか、糖尿病や脂質異常症、高血圧を合併していると、NASHを発症する可能性が高くなるといわれています。

 

 

アルコール性肝障害、脂肪肝の危険因子

多量の飲酒

過食

肥満

運動不足

糖尿病

脂質異常症

高血圧

 

 

アルコール性肝障害や脂肪肝には、生活習慣に潜むいくつかの危険因子がわかっています。つまり、ウイルス性肝炎などとは違って、自らの意思で発症を予防できるということです。  お酒を飲む習慣のある人は、適量を守るようにしましょう。検査項目でγ- GTPが高値の人は、飲みすぎが疑われます。日本酒は1合、ビールは中びん1本など、適量とされるアルコール摂取量におさえるようにします。さらに、GOT(AST)やGPT(ALT)も高値の場合は、アルコール性肝炎が疑われるので、断酒が必要なこともあります。  お酒を飲まない人も、過食や運動不足などによる肥満は脂肪肝の原因となります。肥満を改善するとともに、NASHの危険因子である糖尿病、脂質異常症、高血圧の予防・改善につとめましょう。  また、健診で糖尿病や脂質異常症、高血圧を指摘されている人は、これらの病気の危険因子を減らすとともに、病気を正しく治療することも大切です。

 

肝臓の血管障害

 

肝臓は必要な酸素と栄養素を2本の大血管から得ています。そのうちの1本は門脈で、肝臓に供給される血液の3分の2を運んでいます。この血液には酸素のほか、肝臓で処理を行うために腸から運ばれる多くの栄養素が含まれています。もう1本は肝動脈で、この血管から残り3分の1の血液が流入します。これは心臓から流れてきた血液で、酸素を豊富に含み、肝臓に供給される酸素の約半分を運んでいます。これら2本の血管で血液を供給する仕組みによって、肝臓は保護されています。もしも片方の血管に損傷を受けても、肝臓はもう一方の血管を流れる血液から酸素と栄養を得て、機能を維持できるのです。

 

肝臓への血液の供給ルート

 

 

 

肝臓を通過した血液は肝静脈から出ていきます。ここには門脈からの血液と肝動脈からの血液が混じり合って流れています。肝静脈の血液は下大静脈(体内で最大の静脈)に運ばれ、腹部と下半身から来た血液とともに心臓の右側部分へと流れこみます。

 

肝臓の血管障害は、通常は血流不足の結果です。

肝臓への血流(および酸素供給)が不足すると、虚血が生じる。

肝臓外に出る血流が妨げられると、血液が肝臓内にたまり、うっ血が生じる。

たとえば、心不全の場合、ポンプ不全で肝臓内への血流が不足し、肝臓からの血流も不足(うっ血)します。その結果、どちらも虚血が生じます。血液凝固疾患の人では、閉塞した門脈から肝臓内に入る血流や肝静脈を通って肝臓外へと出る血流が滞ったり妨げられたりします。

 

 

肝静脈閉塞性疾患

 

肝静脈閉塞性疾患は、肝臓の微細な静脈がふさがることで起こります。

腹部に体液がたまることが多く、脾臓が腫大することがあり、食道で重度の出血が起こることもあります。

皮膚と白眼の部分が黄色くなり、腹部が膨らむことがあります。

診断は、症状とドップラー超音波検査の結果に基づきます。

可能であれば原因を修正するか取り除き、症状を治療します。

肝静脈閉塞性疾患はバッド・キアリ症候群に似ていますが、血流が(肝臓外ではなく)肝臓の内部で阻害される点が異なります。このため、閉塞は大きな肝静脈や下大静脈(肝臓を含む下半身から心臓に血液を運ぶ大静脈)には影響しません。

 

肝静脈閉塞性疾患はどの年齢の人にも発症します。この病気は栄養不良の人に多くみられます。

肝臓から外に出る血流が阻害されるため、血液は肝臓内にたまります。こうして血液がたまること(うっ血)によって、肝臓に流入する血液の量が減少します。肝細胞では血液が不足して(虚血)、損傷が生じます。このうっ血は肝臓の充血と腫大を起こします。うっ血は門脈の血圧も上昇させます(門脈圧亢進症)。門脈圧亢進症の結果、食道の静脈が拡張しこぶ状になることがあります(食道静脈瘤)。門脈内の血圧が上昇し肝臓がうっ血すると、腹部に体液がたまって腹水と呼ばれる病態が生じます。脾臓の腫大もよくみられます。

 

うっ血が起こると、肝臓への血流は減少します。その結果、肝臓が損傷され、最終的には重度の瘢痕化(肝硬変)が起こります。

 

原因

よくみられる原因には以下のものがあります:

ピロリジンアルカロイドの摂取。この物質はタヌキマメ属やセネキオ属の植物(ジャマイカでハーブティーをいれるために用いられる)や、コンフリーなどのハーブに含まれる

シクロホスファミドやアザチオプリン(免疫系を抑制する薬物)など、肝臓に毒性作用を及ぼすことがある特定の薬物の使用

放射線療法(骨髄移植や幹細胞移植を実施する前に、免疫系を抑制するために実施される)

骨髄移植や幹細胞移植後の反応(移植片対宿主病)

 

移植片対宿主病では、移植された組織の白血球が受入れ側の組織を攻撃します。この反応は移植から約3週間後に発生する傾向があります。

 

症状

症状は突然起こることがあります。肝臓が腫大し、圧痛を生じます。腹部に体液がたまり膨らむ場合があります。皮膚と白眼の部分が黄色くなる症状(黄疸)がみられることもあります。

食道の静脈瘤が破裂して出血し、ときには大出血になって、吐血したりショック状態に陥ったりすることがあります。静脈瘤からの出血が消化管に入ると、黒いタール状の悪臭を放つ便(黒色便)が出るようになります。重度の出血の場合、その後にショックを起こします。少数の人に肝不全と脳機能の低下(肝性脳症)が発生し、錯乱や昏睡に至ります。

それ以外の人は時が経って肝硬変を発症します。通常は数カ月後かかるが、原因や繰り返し毒物にさらされるかどうかによって発症時期は異なります。

 

診断

肝機能障害を示す症状や血液検査結果がみられた場合、特に患者がこの病気を引き起こしうる物質を摂取していた場合や、原因になりうる状態(特に骨髄移植後)の場合は、肝静脈閉塞性疾患が疑われます。血液検査で肝臓と血液凝固について評価します。

しばしば、ドップラー超音波検査法で診断を確定します。場合によっては侵襲的検査が必要になります。まれに、肝生検や、肝静脈と門脈の血圧測定が必要になります。この血圧測定は、カテーテルを首の静脈(頸静脈)から挿入し、肝静脈に到達させて実施します。同時に肝生検を行うことができます。

 

予後(経過の見通し)

経過の見通しは、障害の程度や、疾患の原因が再発もしくは継続しているかどうか(たとえば、患者がセネキオ属のハーブティーを飲み続けている場合など)によって異なります。

全体では、肝静脈閉塞性疾患の患者の4分の1は3カ月以内に肝不全か他の臓器不全で死に至ります。骨髄移植後の移植片対宿主病が原因である場合は、肝静脈閉塞性疾患はしばしば数週間以内に自然に解消します。免疫系を抑制する薬の用量を増加すると、移植片対宿主病の解消が促されます。摂取している物質が原因の場合は、摂取を中止するとそれ以上の肝臓の損傷を防止することができます。

 

治療

閉塞に対する特別な治療法はありません。可能な場合は、原因を取り除きます。

ウルソデオキシコール酸は、骨髄移植や幹細胞移植後に起こる肝静脈閉塞性疾患を防ぐ働きがあります。

血管の閉塞によって生じた問題を治療します。たとえば、塩分を控えた(低ナトリウムの)食事と利尿薬の使用によって、腹部に体液がたまらないようにします。

肝臓を迂回する血液の代替経路は、門脈と下大静脈を直接つないでつくることができます。首の静脈(頸静脈)にカテーテルを挿入し、門脈まで通して、この接続経路(シャント)を形成します。続いて、シャントが広がった状態を維持するために、金属メッシュの管(経頸静脈的に肝内に挿入するステント)を挿入します。このシャント形成の有効性は明らかになっていません。

症状が非常に重い例では、肝臓移植が必要になります。

 

 

肝疾患による障害

 

肝障害度分類

 

 肝臓の機能は、日本肝癌研究会が「原発性肝癌取扱い規約」でまとめた肝障害度分類で評価します。

AからCの3段階で、肝障害の強さを示します。各項目の重症度を求め、2項目以上があてはまる肝障害度に分類します。また、2項目以上があてはまる肝障害度が複数あった場合には、より高い肝障害度に分類することになります。

 

 

欧米では肝障害度評価として、Child-Pugh(チャイルド・ピュー)分類を使用しています。各項目のポイントを加算し、合計点によってA(5~6点)、B(7~9点)、C(10~15点)の3段階に分類を行います。

 

肝疾患は一般に肝炎(急性肝炎・慢性肝炎・肝硬変)から肝不全へと進行していく。

急性肝炎は6ヵ月以内に治癒する場合をいい、それ以上の場合を慢性肝炎という。

肝硬変は肝蔵の繊維化により肝機能の低下と門脈圧亢進を起こした状態をいう。

そして肝不全とは肝蔵の臓器としての機能が破たんした状態をいう。

 

肝炎はそれぞれ急性、慢性の症状がありますが、急性肝炎の時は安静にしておくことが基本です。食欲がなく栄養を十分に取れないときには、ブドウ糖を中心とした点滴により栄養を補います。 しかし、B型肝炎やC型肝炎の方の中には炎症が治まらずに慢性化し、薬による治療が必要になる場合もあります。  薬物療法を始める前には必ず、血液検査や肝生検を行って、病気の進行度や治療効果、副作用発現の可能性などを評価しておくことが重要です。その上で、インターフェロン療法でウイルスを体外へ排除し治癒を目指すのか、対症療法として肝庇護剤を使用して肝臓の炎症を抑える治療を行うかを決定します。

 

ここでは、一般によく使われている薬の効果などについて説明します。

 

分類

特徴

抗ウイルス剤

インターフェロン

現在の薬物治療の中で、治癒が望める唯一の治療法です。インターフェロンは肝炎ウイルスの増殖を抑え、ウイルスの核酸も最終的に破壊してしまうと考えられ ています。しかし、このお薬は効く人、効かない人があり、治療を開始するための条件が決められています。また、発熱・全身倦怠感など副作用が多いことも知 られています。

肝庇護剤

グリチルリチン製剤

この薬の詳細な作用機序はいまだに不明です。抗アレルギー作用、炎症による組織の障害の抑制、組織の修復の促進、肝細胞膜の保護などの作用があることが知られています。治癒は望めませんが、炎症を抑えることで肝硬変への進行を食止めることが大切です。

小柴胡湯

肝内の炎症を抑制し、免疫力を調節するうえ、線維の増殖も抑えることが知られています。インターフェロンとの併用で間質性肺炎といわれる重篤な副作用が発生することがわかっています。

ウルソデオキシコール酸

肝臓を保護する作用や、胆汁の流れを改善する作用があり、免疫調節作用もあるといわれています。

低アルブミン血漿改善薬

アミノ酸製剤

血液中のアルブミンと呼ばれる肝臓由来のたんぱく質が増加し、腹水や下肢の浮腫が消失し、脳症が改善されます。

 

 

 

障害の程度

障 害 の 状 態

1級

身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの

 

・検査成績及び臨床所見のうち高度異常3つ以上示すもの、又は高度異常を2つ及び中等度の異常を2つ以上示すもので、かつ、一般状態区分表のに該当するもの

2級

身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの

 

・検査成績及び臨床所見のうち中等度又は高度の異常を3つ以上示すもので、かつ、一般状態区分表の又はに該当するもの

3級

身体の機能に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの

 

・検査成績及び臨床所見のうち中等度又は高度の異常2つ以上示すもので、かつ、一般状態区分表の又はに該当するもの

障害手当金

 

肝疾患での重症度判定の検査項目および異常値

検査項目

基準値

中等度異常

高度異常

総ビリルビン (mg/dl)

0.3~0.2

2.0以上3.0未満

3以上

血清アルブミン (g/dl)

4.2~5.1

2.8以上3.5未満

2.8未満

血小板数 (万/μg)

13~35

5以上10以下

5未満

プロトロンビン時間

(PT) (%)

70~130

40以上70以下

40未満

腹水

中等度

高度

脳症

Ⅰ度

Ⅱ度

 

表1 昏睡度分類

昏睡度

精 神 症 状

参考事項

・睡眠-覚醒リズムに逆転

・多辛気分ときに抑うつ状態

・だらしなく、気にとめない態度

・あとで振り返ってみて判定できる

・指南力(時、場所)障害、物を取り違える。

・異常行動(お金をまく 化粧品をゴミ箱に捨てるなど)

・ときに傾眠状態(普通のよびかけで開眼し、会話ができる)

・無礼な言動があったりするが、他人の指示には従う態度をみせる

・興奮状態がない

・尿便失禁がない

・羽ばたき振戦あり

 

 

 

・しばしば興奮状態またはせん妄状態を伴い、反抗的態度をみせる。

・嗜睡状態(ほとんど眠っている)

・外的刺激で開眼しうるが、他人の指示には従わない、または従えない(簡単な命令には応じえる)

・羽ばたき振戦あり

(患者の協力が得られる場合)

・指南力は高度に障害

・昏睡(完全な意識の消失)

・痛み刺激に反応する

・刺激に対して払いのける動作、顔をしかめるなどがみられる

・深昏睡

・痛み刺激に反応しない

 

 

一般状態区分表

区分

一 般 状 態

無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの

軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの (たとえば軽い家事、事務など)

歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの

身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの

身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの

 

障害の程度 1級

・検査成績及び臨床所見のうち高度異常3つ以上示すもの、又は高度異常を2つ及び中等度の異常を2つ以上示すもので、かつ、一般状態区分表のに該当するもの

(一般状態区分)

身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの (オ)

 

障害の程度 2級

・検査成績及び臨床所見のうち中等度又は高度の異常を3つ以上示すもので、かつ、一般状態区分表のエ又はウに該当するもの

(一般状態区分)

身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの (エ)

歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの (ウ)

 

障害の程度 3級

・検査成績及び臨床所見のうち中等度又は高度の異常2つ以上示すもので、かつ、一般状態区分表のウ又はイに該当するもの

(一般状態区分)

歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの (ウ)

軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの

 (たとえば軽い家事、事務など) (イ)

 

 

原則として慢性肝炎は障害年金の対象としない。肝臓は障害があってもなかなか症状として現れないため肝炎が進行してはじめて気づくこともあるように、労働能力は失われていないためである。

 

 手術時の輸血により肝炎を併発したものは相当因果関係「あり」である。手術時の輸血をした日を初診日とする。

 

C型肝炎の人がインターフェロンの治療をして、それが原因で脳の機能不全となり精神疾患になった場合、C型肝炎を基礎疾患として初診日とする。

 

 


急性肝炎

 

肝炎の初期段階で急性に発症しますが、原因となるウイルスや薬物などが短期間で排除され、肝細胞の破壊も短期間で終息します。

 

 

 

慢性肝炎

原因となるウイルスや薬物が排除されず、肝炎が6ヵ月以上にわたって持続(慢性化)するものをいいます。

ただし、肝炎の種類によっては症状がないまま進行し、気づいたときには慢性化していたという場合もあります。

 

ウイルス性肝炎とは、肝臓が肝炎ウイルスに感染し、肝機能障害を引き起こす病気で、日本人に最も多い肝臓病です。

 

 

慢性肝炎の原因となるのは肝炎ウイルスで、特にC型肝炎ウイルスによって発症することが多い。C型肝炎ウイルスは継続的に肝臓に損害を与え、肝機能を低下させます。その状態が続くことにより、慢性肝炎が発症するのです。B型肝炎ウイルスで発症することもありますが、C型肝炎ウイルスほど可能性は高くありません。しかし、B型肝炎ウイルスは肝臓内で増殖し、肝細胞に浸食するため、除去することが困難です。そのため、B型肝炎ウイルスが原因で発症した場合は長引く傾向があります。

 

肝炎ウイルスの感染は、常識的な日常生活をこころがけていれば、ほとんどないと考えられています。

 

 

A型肝炎

A型肝炎は、主に便を介して経口感染し、通常は感染した人が手をよく洗わずに食品を調理するなど衛生状態の不良が原因。A型肝炎は保育所や介護施設で、感染者の汚物が付着したおむつに介護者や子供が触れて広がることもある。未処理の下水が流れこむ水域でとれた貝類や甲殻類は汚染されている場合があり、生で食べると感染する可能性がある。

便によって汚染された水などに起因する流行病もよくみられ、開発途上国にとりわけ多い。

 

症状と予後(経過の見通し)

A型肝炎は多くの場合に症状がなく、感染しても気づかない。しかし、急性肝炎の典型的な症状が起こることもある。

重篤な症状になり劇症化する場合を除けば、急性A型肝炎は完全に治癒する。劇症化するケースはまれである(B型肝炎より頻度は少ない)。A型肝炎の患者はウイルスのキャリア(保菌者状態)になることはなく、ウイルスは慢性肝炎を起こさない。

 

予防

食品を取り扱う際の衛生状態を良くし、上水道の汚染を防ぐことが重要。

A型肝炎ウイルスのワクチンは、すべての小児に勧められる。

 

標準免疫グロブリンは、A型肝炎ウイルスにさらされた人に投与する。この治療は感染症を防ぐか重症度を軽減し、ワクチン接種に追加して投与することもできる。

 

 

B型肝炎

B型肝炎はB型肝炎ウイルスに感染することによって起こる肝臓病です。 成人になって感染した場合は、一部の人が急性肝炎を発症しますが、基本的には慢性化する

ことなく完治します。母子感染などで感染した場合は、肝臓にB型肝炎ウイルスがすみつき、感染が持続することによってB型肝炎が慢性化します。やがて病気が進行して、肝硬変、肝がんへ進展する場合があるとされています。

 

B型肝炎ウイルスは、B型肝炎ウイルス保有者から、血液や体液を介して感染します。 現在、B型肝炎ウイルスに感染している人の多くは、母子感染防止策がとられる以前の母子

感染によるものですが、1986年に母子感染防止策がとられるようになってからは、新たな母子感染はほとんど起きていません。  また、以前にあった輸血等の医療行為や医療現場での注射器の使い回しなどによる感染も医療環境の整備によりほとんど起きていません。  近年、増えているのが性交渉による感染です。B型肝炎ウイルスは感染力が強く、体液でも感染することがあります。

 

症状と予後(経過の見通し)

B型肝炎は一般にA型肝炎より重症で、特に高齢者では死に至ることもある。軽症の場合も、極めて重症の場合もある。B型肝炎の人がD型肝炎を併発すると症状はいっそう重くなる。B型肝炎では関節痛や皮膚にかゆみを伴う赤い発疹(膨疹)が、他のウイルスによる肝炎よりもよくみられる。

B型肝炎では成人感染者の約5~7%が慢性化する。小児ではこの割合はさらに高く、年少の小児になるほど、B型肝炎が慢性化する機会は増加する。

東アジアやアフリカの一部ではB型肝炎ウイルスが慢性肝炎や肝硬変、肝臓癌の多くの原因となっている。

 

予防

注射針の共用や多数の相手との性的接触といったリスクの高い行為や、不必要な輸血は避ける。

B型肝炎ウイルスのワクチンを接種すると、多くの人では感染を予防できるが、透析を受けている人や肝硬変や免疫系が衰えている人では、ワクチンによる予防効果がそれほど上がらない。これらの人は追加接種を受ける必要がある。

B型肝炎に感染している母親から生まれた乳児など、B型肝炎ウイルスに曝された人にはB型肝炎免疫グロブリンを投与し、ワクチン接種を行う。両方を行うことで慢性B型肝炎の80%以上を防ぐことができる。

 

 

C型肝炎

C型肝炎は、C型肝炎ウイルスに感染することによって起こる肝臓病です。

C型肝炎ウイルスに感染すると、一部の人は急性肝炎を発症しますが、多くの人はとくに自覚症状が現れません。いずれも自然に沈静化し、これらのうち約3割の人は自然に完治します。 残りの7割の人の肝臓にはC型肝炎ウイルスがすみつき、症状が出ないまま慢性化していきます。そのまま放置していると肝硬変や肝がんへと進む人も少なくありません。  C型肝炎はB型肝炎よりも慢性化しやすく、肝硬変や肝がんへと進みやすいとされています。

 

C型肝炎ウイルスは、C型肝炎ウイルス保有者から血液や血液の混じった体液を介して感染します。たとえば、他人と注射器を共用して使用した場合や適切な消毒をしていない器具を使って、ピアスの穴あけ、入れ墨などを行った場合などは感染する危険性があります。  なお、C型肝炎ウイルスは、血液が直接触れるケース以外で感染する可能性は極めて低く、B型肝炎に多くみられる母子感染や性交渉による感染はごく少ないとされています。  また、C型肝炎ウイルスに感染している人の多くが過去の輸血や注射によるものとされていて、かつては血液製剤による感染もありましたが、現在では輸血に使われる血液や血液製剤は厳しくチェックされており、医療環境も整備されているので、医療現場での新たな感染はほとんど起きていません。

 

 初期段階ではあまり自覚症状は無く、倦怠感や、食欲不振程度で日常生活にありがちな疲れとよく似ています。そのため気づかずに悪化させてしまい、肝硬変へと進行させてしまう可能性が高いです。

 

 C型肝炎の治療は薬物療法で対処できます。2015年の8月からは、ソホスブビルとレジパスビルの2剤併用療法が採用されています。ただし、この治療法が利用できるのは、慢性肝炎と初期の肝硬変の患者に限られています。

 肝機能がさらに低下した肝硬変の患者には投与が不可能です。その場合、肝臓がんの発生リスクを減らすため、インターフェロンを用いて、血液中の鉄分を減らすため瀉血療法が採用されます。

 

C型肝炎の症状や経過の予測は困難。最初は軽症で症状がないことも多い。しかし肝機能は数ヵ月から数年にわたって周期的に変動する。

C型肝炎の約75%が慢性化する。通常なら慢性C型肝炎は軽症である。しかし感染者の20~30%は肝硬変を発症し、一度肝硬変を起こすと肝臓癌へと進行することがある。

 

 

D型肝炎

D型肝炎の感染経路は、違法薬物を使用するための注射針の共用が最も多い。

 

症状と予後(経過の見通し)

D型肝炎は、同時にB型肝炎ウイルスにも感染した場合にのみ発症し、通常はB型肝炎をより重症化する。

 

予防

B型肝炎の予防手段(リスクの高い行動の回避、B型肝炎ワクチンとB型肝炎免疫グロブリンの投与など)は、D型肝炎の予防にも効果がある。

 

 

E型肝炎

E型肝炎は、主に便を介して経口感染する。ときに流行し、その多くは便に汚染された水が原因である。流行はこれまでメキシコ、ペルー、アジアやアフリカの一部で発生したことがあるが、米国や西ヨーロッパ諸国では起きていない。

 

症状と予後(経過の見通し)

E型肝炎では、特に妊婦において重い症状が起こる。

慢性肝炎には進行せず、患者がウイルスのキャリアになることもない。

 

予防

新たにワクチンが利用できるようになった。

標準免疫グロブリン*は無効である。

 

 

慢性肝炎の原因となるのは肝炎ウイルスで、特にC型肝炎ウイルスによって発症することが多いです。C型肝炎ウイルスは継続的に肝臓に損害を与え、肝機能を低下させます。その状態が続くことにより、慢性肝炎が発症するのです。B型肝炎ウイルスで発症することもありますが、C型肝炎ウイルスほど可能性は高くありません。しかし、B型肝炎ウイルスは肝臓内で増殖し、肝細胞に浸食するため、除去することが困難です。そのため、B型肝炎ウイルスが原因で発症した場合は長引く傾向があります。

 

 

劇症肝炎

 劇症肝炎とは、肝臓の機能を阻害する急性肝炎の一種です。肝臓には体内の毒素を解毒する機能がありますが、その解毒機能が突然機能しなくなります。毒素が排出されずに体内に蓄積する影響で、眼球や皮膚が黄色くなってきます。全身の皮膚が黄色くなるほど症状が進行すると、全身が気だるくなり、常に発熱している状態になります。また、食欲の低下や嘔吐を伴うことも多いです。毒素が過剰に蓄積し続けた場合、意識障害に陥る可能性もあります。

 

 劇症肝炎の多くは肝炎ウィルスによって引き起こされます。

 

 劇症肝炎の治療は、肝臓の機能を回復させることによって行われます。機能が弱まっている肝臓を再活性化させるために様々な処置を施します。肝炎ウィルスによる肝臓の損傷が激しい場合は、細胞の再生を待つ必要があります。再生の促進剤を投与しますが、肝臓が再活性化するまでには時間がかかるケースが多いです。その間は、肝臓の代わりとして、人工的に毒素を分解する成分を注入します。

 細胞が上手く再生しない場合は、健康な肝臓を移植するケースもあります。


虚血性肝炎

虚血性肝炎は、血液や酸素の供給不足により肝臓全体がダメージを受けます。

心不全や呼吸不全が起こると、肝臓への血流や酸素供給が減少することがあります。

患者は吐き気を感じて嘔吐し、肝臓の圧痛と腫大が生じることがあります。

虚血性肝炎では、肝臓への血液または酸素の供給が不十分になり、肝細胞の損傷や壊死が起こります。

虚血性肝炎は他の種類の肝炎とは異なります。通常「肝炎」とは肝臓の炎症を意味し、ウイルスをはじめとする多くの原因によって起こります(A型肝炎やB型肝炎など)。しかし虚血性肝炎では、肝臓が炎症を起こしません。それより肝細胞壊死が起こります。それにもかかわらず肝炎と呼ばれるのは、ウイルス性肝炎やその他の肝炎と同様に、損傷した肝細胞からアミノトランスフェラーゼという肝臓の酵素が血液中に漏れ出るからです。

 

原因

虚血性肝炎は、肝臓が必要とする血液もしくは酸素、あるいはその両方が来ないために発生します。そうした不足が起こる原因として最もよくみられるものは、全身の血流量の減少です。

 

原因には以下のようなものがあります。

心不全

呼吸不全

ショック

大量出血

重度の脱水

 

 

体の全体または大半に影響を及ぼす重度の感染症(敗血症など)は、肝臓が必要とする酸素の量を増加させるため、虚血性肝炎の一因となります。

肝臓は肝動脈と門脈から血液が供給されているため、これらの血管の1つが狭くなったり詰まったりしても、通常は虚血性肝炎は発生しません。この疾患は、両方の血管で血流の減少や阻害が生じることで起こります。血管が詰まる原因で最も多いのは血栓です(血栓で血管が詰まることを血栓症といいます)。

 

肝動脈の血栓には、以下のように多くの原因が考えられます。

血管の損傷(肝臓移植手術の際に起こるような)

肝動脈の動脈瘤

動脈の炎症(血管炎)

コカインの使用(動脈をけいれんさせる)

 

腫瘍、特定の医療行為、心臓の感染症(心内膜炎)によって生じた塞栓(動脈壁にできる脂肪性物質や血栓など、何らかの物質のかたまり)が、はがれて血流に入り血管内で詰まることがある。

血液が凝固しやすくなる疾患(血液凝固疾患)は、動脈や静脈の閉塞を引き起こすことがあります。こうした疾患には、遺伝性の病気と後天性の病気があります。

 

症状と診断

吐き気と嘔吐がみられます。肝臓の圧痛や腫大が生じることもあります。

肝臓の生化学検査と血液凝固検査の結果が異常である場合、特にこの疾患を引き起こしうる状態の場合には、虚血性肝炎が疑われます。肝動脈の閉塞は、超音波や磁気共鳴血管造影を実施して、またはX線造影剤(X線を通さない薬剤)を動脈に注射した後にX線撮影(動脈造影)を実施して検出することができます。

 

治療

肝臓への血流を阻害している原因を重点的に治療します。血流が回復すれば、多くの場合、虚血性肝炎は解消されます。肝臓で重度の瘢痕化(肝硬変)が起きていると、肝不全が生じる場合があります。

 

 

薬物性肝障害

 

薬の副作用によって肝臓の機能が障害されることがあり、この状態を「薬物性肝障害」といいます。  さまざまな薬で肝障害が起こる可能性がありますが、原因として多くみられるのは抗生物質、解熱鎮痛薬、精神神経系の薬、抗がん剤、漢方薬などです。いわゆる健康食品が原因となることもあります。

 

症状

特殊例として脂肪化したり腫瘍を形成したりすることがあり、脂肪肝や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を発症することもあります。  薬物性肝障害が起こると全身のだるさ、食欲不振、発熱、黄疸、発疹、吐き気・嘔吐、かゆみなどの症状が、急に出現したり持続したりします。

 

血液検査では、肝炎など肝細胞の障害を引き起こす場合はALT(GPT)・AST(GOT)値の上昇が主体で、胆汁うっ滞を引き起こす場合はALP(アルカリホスファターゼ)やγ-GTPの値が著明な上昇を示します。

 

 

 

肝硬変

 B型やC型肝炎ウイルス感染、アルコール、非アルコール性脂肪性肝炎などによって肝臓に傷が生じるが、肝硬変とは、その傷を修復するときにできる「線維(コラーゲン)」というタンパク質が増加して肝臓全体に拡がった状態のことをいう。

肝細胞が変性・崩壊・再生を繰り返しながら徐々に繊維化が進行し、最後には生体の維持に必要な肝機能が保てなくなります。

 

肉眼的には肝臓全体がごつごつして岩のように硬くなり、大きさも小さくなってきます。顕微鏡でみると肝臓の細胞が線維によって周囲を取り囲まれている様子が観察できます。

 

 

肝細胞が変性・崩壊・再生を繰り返しながら徐々に繊維化が進行し、最後には生体の維持に必要な肝機能が保てなくなる状態になることを言います。

 

肝硬変の原因  

 肝硬変をきたす病気には次のようなものがあります。  ・ウイルス性    B型肝炎ウイルス   C型肝炎ウイルス  ・自己免疫性肝炎      ・非アルコール性脂肪性肝炎   ・アルコール性脂肪性肝炎   ・胆汁性うっ滞性肝炎

 ・代謝性    ウイルソン病  ヘモクロマト−シス  

 

肝硬変の程度の分類 肝機能をあらわすChild-Pugh分類(チャイルド–ピュー分類)が用いられています。

この5項目の点数がすべて1点なら合計5点、すべて3点なら合計15点になりますが、5、

6点をChild-Pugh分類A、7~9点をChild-Pugh分類B、10~15点をChild-Pugh分類Cと分類します。

 

Child-Pugh分類のためのスコア

判定基準

1

2

3

アルブミン(g/dl)

3.5超

2.8以上3.5未満

2.8未満

ビリルビン(mg/dl)

2.0未満

2.0以上3.0以下

3.0超

腹水

なし

軽度

コントロール可能

中等度以上

コントロール困難

肝性脳症(度)

なし

1〜2

3〜4

プロトロンビン時間

(秒、延長) (%)

4未満 70超

4以上6以下 40以上70以下

6超 40未満

         

 

肝硬変の症状

 

くも状血管拡張:

首や前胸部、頬に赤い斑点ができる。

手掌紅班:

掌の両側が赤くなる。

腹水:

下腹部が膨満する。大量に貯まると腹部全体が膨満する。

腹壁静脈拡張:

へその周りの静脈が太くなる。

黄疸:

白目が黄色くなる。

羽ばたき振戦:

肝性脳症の症状のひとつで、鳥が羽ばたくように手が震える。

女性化乳房:

男性でも女性ホルモンがあるが、肝臓での分解が低下するため乳房が大きくなる。

睾丸萎縮:

男性で女性ホルモンが高くなるため睾丸が小さくなる。

 

肝硬変の治療  肝硬変は治癒しません。肝臓が正常な状態に戻ることもありません。

肝硬変はごく初期のうちに進行を抑え、損傷が拡大しないようにすることが最善です。

肝硬変の治療では、アルコールなどの原因を排除し、合併症が生じればその治療を行います

障害を起こしている肝臓は薬物を代謝できないことがあるため、肝硬変の人は市販薬やサプリメントに至るまで、使用している薬物をすべて医師に報告する必要があります。肝臓で代謝される薬の服用が必要な場合には、肝臓をさらに損傷しないよう、用量を通常よりも大幅に減らします。肝硬変が進行した人は、タンパク質とナトリウムを控えた食事を摂り、ビタミンのサプリメントを服用するべきです。

肝硬変が進行した人でも、肝臓移植を行えば命が助かる可能性があります。ただし、多量の飲酒を続けている患者や、他に解決できない原因がある患者の場合には、移植された肝臓もやがて肝硬変になってしまいます。そのため、肝臓移植は少なくとも6ヵ月禁酒するまで行われません。

 

 

アルコール性肝硬変は癌になることがないといわれ、肝硬変であっても障害認定されないことがある。

 

アルコール性肝硬変については、

継続して必要な治療を行っていること 及び

・検査日より前に180日以上アルコールを摂取していないこと

について、確認のできた者に限り認定を行うものとする。

 

 肝硬変の原因は、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、自己免疫性、アルコール性、胆汁性、ウィルソン病、ヘモクロマトーシスなどがありますが、いずれも初診日がかなり前となる傾向が多いということです。

 

 肝炎と肝硬変は相当因果関係「あり」とされる。

 

肝硬変により全身の倦怠感や疲労感、吐き気、腹痛などの症状があらわれ、入退院を繰り返したり、長期的な安静が必要な場合は、障害等級2級と認定される可能性がある。

肝硬変による症状により、日常生活や労働が制限される場合は、障害等級3級と認定される可能性がある。

 

 

肝硬変の合併症

肝硬変が進行すると、さらに問題が生じます。門脈の血圧が上昇することが原因で、静脈の拡張や屈曲が食道の下端(食道静脈瘤)、胃(胃静脈瘤)、直腸(直腸静脈瘤)に形成されることがあります。食道静脈瘤や胃静脈瘤から出血すると、ときに大量に吐血します。

門脈内の血圧が高く肝機能の障害が生じていると、腹部に体液がたまる場合があります(腹水)。

腎不全や脳機能の低下(肝性脳症)がみられる場合もあります。

胆汁の分泌が阻害されてビタミンDが吸収されにくくなるため、骨粗しょう症が起こり得ます。またビタミンkの吸収が不足して、出血しやすくなります。脾臓は腫大すると血球と血小板を捕捉して、血流への流入を妨げます。血液中の血小板(血液凝固に重要な働きがある)が少なくなると、出血が悪化しやすい傾向が現れます。消化管への出血は貧血を招きます。

肝硬変の原因が慢性のB型肝炎またはC型肝炎、もしくはアルコール依存症である場合、肝臓癌(肝細胞癌)が発生することがあります。

 

 

肝臓には、胃・食道・小腸・大腸・脾臓などからの静脈が集まった門脈という血管がある。門脈は小腸等で吸収され栄養分を肝臓に運ぶ。門脈内の血液は肝臓へ向かって流れるが、肝硬変になると肝臓内の血液が流れにくくなる。血液が流れにくくなり血圧が上がると血管内に瘤ができるが、門脈で起こりますと流れなくなった血液の一部が食道へ向かって瘤を作るようになる。これが食道静脈瘤である。

食道静脈瘤の破裂が起こると、突然の大量吐血をひき起こす。食道静脈瘤が破裂すると、血液が固まりにくく、出血によりさらに肝機能が悪化するのである。食道静脈瘤の原因の90%以上が肝硬変である。

 

肝疾患と食道静脈瘤因果関係「あり」である。

 

 肝臓が硬くなり小腸や大腸から流れ込む門脈と呼ばれる血管の圧力が高くなると、食道や胃の周りに逃げ道ができます。これが静脈瘤です。静脈瘤はいったん破裂すると消化管の中に大出血を起こすため、吐血や下血がみられます。出血の程度によっては生命に危険がおよぶこともあります。

 

食道静脈瘤は、胃・食道静脈瘤内視鏡所見記載基準および治療の頻度、治療効果を参考とし、肝機能障害と併せて総合的に認定する。

 

 

 肝硬変になると、肝臓が硬いために起こる腹水や食道静脈瘤、肝臓機能が低下するために起こる肝性脳症や黄疸が問題となる。

 

 

肝性脳症

大腸内の細菌によってアンモニアなどの老廃物が作られ、門脈を通って肝臓へ運ばれます。通常は肝臓の細胞で処理されますが、肝硬変では肝機能低下 のため十分な処理能力がなくなることと、門脈からの逃げ道を通って肝臓を素通りする結果、アンモニアなどの老廃物が血液中にたまり、脳のはたらきを低下させると肝性脳症が起こります。

 

肝性脳症(門脈体循環性脳障害、肝性昏睡)は、正常であれば肝臓で除去されるはずの毒物が血液中にたまって脳に到達し、脳の機能が低下する病気です。

肝性脳症は、長期の肝障害がある患者で、過度のアルコール摂取、薬物、その他のストレスがきっかけとなり発症します。

錯乱、見当識障害、眠気が起こるとともに、性格、行動、気分の変化がみられます。

 

肝性脳症の昏睡度分類

I度:軽度の障害なので気がつきにくい。昼夜逆転などの症状がある。

Ⅱ度:判断力が低下する。人や場所を間違えるなどの症状や羽ばたき振戦を認める。

Ⅲ度:錯乱状態や混迷に陥る。羽ばたき振戦を認める。

Ⅳ度:意識がなくなる(痛みには反応する)。

V度:意識がなくなる(痛みにも全く反応しない)。

 

 

腹水

肝硬変では血液中のアルブミンが低下し、門脈の圧力が高くなるために発生します。

 

腹水はタンパク質を含む体液が腹腔内に蓄積した状態です。

腹水は多くの疾患で発生しますが、最もよくみられる原因は肝硬変です。

大量の体液がたまると腹部は非常に大きく膨らみ、食欲不振や息切れが生じることがあります。

腹水の分析は原因確定の手がかりとなります。

一般的にベッドでの安静、減塩食、利尿薬は、過剰な体液の排出に役立ちます。

腹水は、短期間に起こった病気(急性疾患)よりも長期的な病気(慢性疾患)の人に起こる傾向があります。一般に肝硬変(肝臓の重度の瘢痕化)で起こることが最も多く、特にアルコール依存症やウイルス性肝炎により生じた肝硬変でよくみられます。このほか腹水を伴う肝臓の病気には、肝硬変のない重度のアルコール性肝炎、慢性肝炎、肝静脈閉塞(バッド・キアリ症候群)などがあります。肝臓に関係ない病気でも、癌、心不全、腎不全、膵臓の炎症(膵炎)、結核性腹膜炎などにより腹水が生じることがあります。

肝臓の病気の場合、腹水は肝臓や腸の表面から漏れ出てきます。複数の要因が組み合わさっています。それには門脈圧の亢進、血管の体液保持能力の低下、腎臓による体液貯留、体液を調節するいろいろなホルモンや化学物質の変調などが含まれます。

 

症状と診断

腹腔内の体液が少量であれば普通は症状はありませんが、大量にたまると腹部の膨張や不快感が生じます。腹部の膨張により、胃が圧迫されて食欲不振になったり、肺が圧迫されて息切れを起こしたりします。腹部を軽くたたいて打診を行うと、腹水があれば鈍い音がします。大量の腹水がたまっていると腹部が大きく張り出して、へその形が扁平になったり、飛び出たようになることもあります。腹水のある人では、過剰な体液で足首がむくんでいる(浮腫)こともあります。しかしながら、腹水の量が約1リットルに満たなければ、腹水は見つからないこともあります。

腹水の有無やその原因が明らかでない場合、超音波検査が行われることがあります。さらに腹壁を通して針を穿刺(せんし)し、少量の腹水サンプルを採取することがあり、この処置を診断的穿刺といいます(消化器の病気の症状と診断: 穿刺を参照)。腹水の検査は原因確定の手がかりとなります。

 

治療

腹水に対する治療の基本は、ベッドで安静を保ち、食事の塩分を制限することで、通常は腎臓に働きかけて尿による水分の排泄を促す利尿薬も併用します。腹水のために呼吸や食事が困難な場合は、腹腔内に針を刺して腹水の吸引除去を行います。この処置を治療的穿刺といいます。塩分の摂取を控え、利尿薬を服用しないと、腹水は再度たまりがちになります。また、大量のアルブミン(血漿中の主要なタンパク)が血液から失われて腹水に入るため、アルブミンを静脈から投与します。

特発性細菌性腹膜炎と呼ばれる感染症は、明らかな理由がなくても、特にアルコール性肝硬変の患者の腹水で生じることがあります。この感染症は治療をしないと命にかかわることがあります。抗生物質による早期の積極的な治療に生存がかかっています。

 

 

特発性細菌性腹膜炎

特発性細菌性腹膜炎(SBP)は感染源が不明の腹水の感染をいう。特発性細菌性腹膜炎SBPは肝硬変による腹水でよくみられ、特にアルコールに起因したものが多い。これは重篤な後遺症を引き起こし、場合によっては死に至る。

 

症状と徴候

少量の腹水であれば症状はみられない。中等度の腹水では腹囲および体重の増加がみられる。大量の腹水は非特異的なびまん性の腹圧を生じるが、実際の疼痛はまれである。腹水が横隔膜を押し上げることにより呼吸困難を生じることがある。特発性細菌性腹膜炎SBPの症状としては、これまでにない腹部の不快感および発熱などがみられる。

徴候としては、打診時に濁音界の移動および波動感がみられる。容量1500mL未満の場合、身体所見に変化はない。 大量の腹水により腹壁が張り、臍の平坦化がみられる。肝疾患や腹膜障害における腹水は、通常末梢浮腫として独立あるいは不均一に分布する;全身性疾患 (例:心不全)では通常その逆である。

特発性細菌性腹膜炎の徴候としては、発熱、倦怠感、脳障害、肝不全の悪化、および原因不明な臨床上の悪化がみられる。腹膜刺激徴候(例、腹部圧痛および反跳痛)がみられるが、腹水が消失するにつれて減少する。

 

治療

まずは床上安静と食事内容におけるナトリウム摂取制限(1日20〜40mEq)を行い、門脈圧亢進症による腹水に対し最も危険性の少ない治療を行う。厳格なナトリウム制限によって数日内に利尿を開始できなかった場合には、利尿薬を用いるべきである。スピロノラクトンが通常効果的である(50〜200mgの 範囲、経口的に1日2回)。スピロノラクトンで十分な効果がみられない場合、ループ利尿薬(例:フロセミド20~160mg、経口にて通常1日1回、または20~80mg、経口にて1日2回)を加える。スピロノラクトンはカリウムを保持し、フロセミドはカリウムを喪失させるため、これらの薬剤の併用はしばしばカリウム異常のリスクを軽減し、最適の利尿を得ることができる。水分制限は血清ナトリウムが130mEq/L未満であるときのみ有用である。体重および尿中ナトリウム測定値の変化は、治療に対する反応を反映する。1日約0.5kgの体重減少が理想的で、これは腹水コンパートメントからの移動がこれ以上 速く行えないためである。より積極的な利尿は、特に末梢浮腫がみられない場合、血管内の液体を喪失させる;これは腎不全または電解質の不均衡(例、低カリウム血症)を生じ、門脈-体循環性脳症の誘因となることがある。食事内容におけるナトリウム摂取制限が不十分な場合、通常持続的な腹水を引き起こす。

別の方法として治療的腹水穿刺がある。1日に4Lの腹水を安全に抜去できるが、血管内の循環量減少を防ぐのに必要な量の低ナトリウム性アルブミン(1回の 穿刺当たり約40 g)を同時に静脈投与する必要がある。一度に全部の腹水を抜去してしまっても安全な場合もある。治療的腹水穿刺は、電解質の不均衡または腎不全の危険性を 比較的低く保ち、入院を短縮できる;しかしこれらの患者は利尿薬を継続する必要があり、穿刺を行わない場合よりも液体の再貯留がより速い傾向にある。

自己の腹水を再注入する方法(例:LeVeen 腹腔-静脈シャント術)はしばしば合併症を生じ、一般的に現在では使われていない。経頸静脈性肝内門脈体循環シャント術(TIPS)は門脈圧を低下させ、 難治性の腹水を効果的に治療できるが、TIPSは侵襲性が高く、門脈-体循環性脳症や肝細胞の機能を悪化させるなど合併症を生じることがある。

もしSBPが疑われる場合で腹水中にPMNが500個/μL以上認められた場合、250個/μL 未満になるまでセフォタキシム2g、4〜8時間毎に少なくとも5日間静脈投与する(グラム染色および培養結果が出るまで)。抗生物質は生存の確率を高める。SBPは70%に及ぶ患者で1年以内に再発するため、予防的な抗生物質が適応となる;キノロン系(例:ノルフロキサシン400mg、経口にて1日1回投与)が最も広く使われる。静脈瘤出血を伴う腹水患者の予防処置はSBPの危険性を低くする。

 


ヘパトーマ

肝細胞癌ともいう。肝臓に原発する癌腫(がんしゅ)のうち肝細胞に由来するもの。

 

その見た目によって塊状型、結節型、びまん型の3つの型に分類される。

・塊状型 大きい腫瘍のかたまりがつくられる型を塊状型という。

・結節型 肝臓内にて、結節が数多く生じる型を結節型という。結節型の場合、肝硬変を合わせて引

 き起こすことが、とくに多い。

・びまん型 肝臓全体の面の広い範囲に(びまん性に)がんが広がる型をびまん型という。

 

合併症として肝硬変を起こすことがある。若年者はヘパトーマで初発することが多いが、高年者では肝硬変の基礎の上に発するものが多い。

治療は外科的切除が第一で、ほかに肝動脈を閉塞させて癌細胞に栄養と酸素がいかないようにする塞栓(そくせん)療法も有効。

 


肝不全

肝不全は、肝機能が大幅に低下した状態です。

肝不全はウイルス性肝炎、肝硬変、アルコールやアセトアミノフェンといった薬物による肝障害など、あらゆる肝臓の病気の結果として生じます。肝不全が起こる前に、肝臓のかなりの部分が損傷を受けています。肝不全は数日から数週間のうちに急速に進行する場合(急性肝炎)もあれば、数ヵ月から数年かかって徐々に進行する場合(慢性肝炎)もあります。

肝臓の機能不全によって、多くの影響が及びます。

肝臓でビリルビン(古い赤血球が分解されてできる老廃物)を排出する処理が適切に行われなくなります。その結果が黄疸です。

肝臓で血液凝固を支えるタンパク質を十分に合成できなくなります。その結果、あざや出血が起こりやすくなります(血液凝固障害)。

門脈圧亢進症が頻繁に生じます。その結果、腹腔内の体液貯留(腹水)や肝性脳症、あるいは両方が起こる場合があります。

 

症状と診断

肝不全の患者には、黄疸、腹水、肝性脳症、全身の健康状態の悪化がみられます。疲労、脱力感、吐き気、食欲不振などの症状もよく起こります。急性肝不全では、健康だった人が数日間で死にそうな状態になることがあります。慢性肝不全では、静脈瘤(大きく曲がりくねった静脈)からの出血といった大きな変化が起こるまでは、健康状態は非常にゆっくりと悪化します。あざや出血が起こりやすくなる傾向があります。小さな切り傷からの出血や鼻血などの普通ならわずかな出血ですむ状況でも、自然に止まらず、医師にも出血を抑えることが困難な場合もあります。

肝不全の診断は症状と診察結果に基づいて行われます。肝臓の機能を評価するために血液検査が実施されますが、たいていの場合、重度の障害がみられます。

 

通常は原因の治療に加えて、タンパク質摂取の調整、食事の減塩、アルコール摂取の禁止を実施します。

 

予後(経過の見通し)と治療

治療は、原因と固有の症状に応じて行われます。肝不全が急性か慢性かによって治療の緊急度は異なりますが、治療の原則は同じです。通常は食事制限を行います。タンパク質の摂取量は、多すぎれば脳機能不全を起こし、少なすぎれば体重が減少するので、慎重にコントロールします。塩分(ナトリウム)摂取量は、腹水がたまらないように低く制限します。アルコール摂取は肝臓の障害を悪化させるので厳禁です。

肝不全を治療せずに放置した場合や、肝臓の病気が進行性のものである場合、最終的には死に至ります。治療を行っても肝不全は不可逆です。肝不全は最終的に腎不全につながるので、腎不全(肝腎症候群)で死亡することもあります。迅速に肝臓移植を行うと、肝臓の機能が回復し、肝疾患にならなかった場合と同じくらい長く生存できる場合もあります。しかし、肝臓移植の条件に適合するのは肝不全の患者のごく少数に限られます。

 


肝移植

 腹水や黄疸が一般的な治療によって改善しない場合には、基準を満たせば肝移植を受けられます。

 

 

肝臓移植を必要とする病気

 

 

成人

小児

慢性肝疾患

肝硬変 原発性胆汁性肝硬変 原発性硬化性胆管炎

胆道閉鎖症

急性肝疾患

劇症肝不全(劇症肝炎) 代謝性肝疾患の一部

代謝性肝疾患

FAP、ウイルソン病など

多種類

腫瘍性疾患

肝臓癌(多くは肝硬変に合併) 嚢胞性肝疾患

肝芽腫、肝未分化肉腫 肝血管内皮腫

血管性疾患

バッドキアリ症候群

 

 肝臓移植を必要とする病気は、肝臓自体が形の上でも働きのうえでも悪くなるものが大部分ですが、一部、外観上全く正常な肝臓でも、その働きに問題があるために移植を必要とするような病気も含まれます。

 肝臓自体が形の上でも働きの上でも障害を示す病気には、ゆっくりじわじわ起こってくるもの(慢性肝疾患)と、急に起こってくるもの(急性肝疾患)とがあります。前者が圧倒的に多く、肝硬変と言われる病気の多くはこれにあたります。後者は、劇症肝炎、あるいは劇症肝不全と呼ばれるもので、それまでお元気だった方が何の前触れもなく急に肝臓が悪くなる病気です。このほか、肝臓が外観上全く正常でも、肝臓が本来の働きをせず、必要なものを作らなかったり、あるいは不要有害なものを作ったりする病気も含まれ、これらの多くは生まれつきの病気が多く、代謝性肝疾患という名前で分類されます。

 肝臓移植を必要とする病気は、患者さんの年齢によっても特徴があります。大人の患者さんが実数としても多いのですが、C型肝炎や、B型肝炎が進行して生じる肝硬変の患者さん、さらにこれらを基礎に生じる肝臓癌が、成人の移植を要する慢性肝疾患としての多くを占めます。また、成人の慢性肝疾患では、原発性胆汁性肝硬変など、特殊な後天的な病気が進行することによって結果的に肝硬変になって移植を必要とするような病気もあります。一方、小児で移植を要する疾患では、胆道閉鎖症という病気が最も多い慢性疾患です。

 急性疾患としては、上記のごとく、劇症肝炎、あるいは劇症肝不全という病気がこれにあたり、原因がはっきりわからないことが多いのですが、B型肝炎ウイルスによるもの、あるいは薬物によるものなども含まれます。小児でも成人でもこの劇症肝不全はあります。

 代謝性肝疾患は、多くは生まれつきの障害であり、そのため、子供でその頻度が高くなります。多くは、肝臓が、体に不要有害なものを分解代謝できないため、たとえばアンモニアといった脳に悪影響を及ぼす物質が体内に増えて脳の機能が障害されて結果的に死に至ることもあります。中には、成人期までその診断がつかない場合、あるいは、成人になってはじめて症状を呈してくるような代謝性肝疾患もあります。  このほか、肝機能の悪化で通常の肝切除ができない場合や通常の肝臓の部分切除では全部取り切れないが肝臓を丸ごと切り取れば全部取れて、体の他の部分に病気が残らない状態の悪性疾患(成人では肝臓癌が大半、小児では肝芽腫といわれる腫瘍が最多)でも、肝臓移植が検討されることになります。

 

 

 

急性ウイルス性肝炎

 

急性ウイルス性肝炎は、5種類の肝炎ウイルスのいずれかの感染によって起こる肝臓の炎症です。多くの場合、炎症は突然始まり数週間続きます。

症状は、何もみられない場合から重症の場合まであります。

感染すると、食欲不振、吐き気、嘔吐、発熱、右上腹部の痛み、黄疸などの症状がみられます。

医師は診察と血液検査を実施します。

ワクチンはA型、B型、E型の肝炎を予防することができます。

通常、特別な治療は不要です。

急性ウイルス性肝炎は、さまざまなウイルスにより引き起こされます。最も多い原因はA型肝炎ウイルスで、次がB型肝炎ウイルスです。

 

症状

急性ウイルス性肝炎は、軽いインフルエンザのような症状から死に至る肝不全までさまざまです。症状がみられない場合もあります。症状の重症度や回復までの期間は、ウイルスの種類や患者の感染への反応性によって大きく異なります。A型肝炎とC型肝炎では多くの場合、症状はごく軽いか無症状で、患者が症状に気づかないこともあります。B型肝炎とE型肝炎では重症になる傾向があります。B型肝炎とD型肝炎に混合感染していると症状がさらに重くなります。

 

症状は、多くの場合、突然現れます。食欲不振、吐き気、嘔吐のほか、しばしば発熱と右上腹部(肝臓の位置)の痛みを伴います。喫煙者はタバコをまずく感じるのが典型的症状です。特にB型肝炎の感染では、関節痛と皮膚にかゆみのある赤いじんま疹(膨疹)が生じることがあります。

 

典型的には、数日たつと尿の色が濃くなり、黄疸(皮膚や白眼の部分が黄色くなる症状)がみられます。どちらの症状も、血液中にビリルビンが蓄積することで発生します。ビリルビンは、肝臓でつくられる胆汁(緑がかった黄色の消化液)の主な色素です。症状のほとんどはこの時点で消失し、黄疸は悪化したのに患者は体調が良くなったように感じます。黄疸は1~2週間後にピークに達し、2~4週間後には徐々に消えていきます。特にA型肝炎の人では、便の色がうすくなる、全身がかゆくなるなど、胆汁うっ滞(胆汁の流れが減ったり止まったりする病態)の症状がみられることもあります。

まれにB型肝炎の人では、症状がきわめて重くなる(劇症化する)ことがあります。特に成人の場合、肝不全が生じて致死的となる場合があります。

 

診断

医師は症状から急性ウイルス性肝炎を疑います。診察中に医師は腹部の肝臓の上を触診しますが、急性ウイルス性肝炎患者の約半数は圧痛があり、多少の腫れが認められます。肝機能を評価する血液検査が実施されます。この検査は肝臓の炎症の有無を示すほか、アルコールの過剰摂取による肝炎とウイルス性の肝炎を区別するのに役立ちます。血液検査は、どの肝炎ウイルスが感染を起こしているかの同定にも有用です。これらの血液検査はウイルスの一部や、体内でウイルスを攻撃するためにつくられた特定の抗体を検出します。診断が確定できない場合は生検を実施し、針で肝組織の一部を採取して検査します。

 

予防

A型、B型、E型肝炎の感染を予防するには、筋肉へのワクチンの注射が利用できます。A型肝炎ワクチンは、すべての小児とウイルスに曝されやすい環境にいる成人に勧められます。B型肝炎ワクチンの接種はすべての人に推奨されます。新しいE型肝炎ワクチンは、主に流行地域での使用が想定されています。免疫系は徐々にウイルス粒子に対する抗体をつくるので、他のワクチンと同じく、肝炎ワクチンが最大の効果を発揮するまでには数週間を要します。

ワクチン接種を受けていない状態でA型肝炎ウイルスにさらされた人は、標準免疫グロブリンという抗体の製剤を注射して防御することができます。この注射は感染症を予防するほか、感染した場合の重症度を軽減します。ただし、得られる予防効果は一様ではなく、効果は一時的です。

ワクチン接種を受けていない状態でB型肝炎ウイルスにさらされた人は、B型肝炎免疫グロブリンの投与とワクチン接種を受けます。B型肝炎免疫グロブリンはB型肝炎に対する抗体を含み、感染症に抵抗する体の働きを助けます。この製剤は症状を予防し、症状が現れた場合にも重症度を軽減する働きがありますが、感染を防ぐ効果は見込めません。ワクチンの追加投与が必要になる場合もあります。

C型またはD型肝炎ウイルスに対するワクチンはありません。ただし、B型肝炎ウイルスのワクチン接種は、D型肝炎ウイルスへの感染リスクを軽減する効果があります。

 

肝炎ウイルスへの感染を予防する手段は、他にも以下のようなものがあります。

食べ物を扱う前に徹底して手洗いをする

薬物の注射針を共有しない

歯ブラシやカミソリなど、血液が付着する可能性のある器具を共有しない

コンドームなどのバリアー型の避妊具を利用して、安全な性行為を心がける

セックスパートナーの数を限定する

 

輸血用の血液にはスクリーニング検査が実施されているため、汚染されていることはまずないと考えられます。しかし、それにもかかわらず、医師は本当に必要な場合にのみ輸血の指示を出し、肝炎のリスクを減らすようにしています。待機手術の場合、一般提供者の血液が輸血されるのを避けるために、手術の数週間前に患者自身の血液を採血しておくこともできます。

 

治療と予後(経過の見通し)

多くの場合、特別な治療は必要ではありません。ただし、非常に重症の急性肝炎の場合は入院が必要です。通常なら数日後には食欲も回復し、ベッドで安静にしている必要もなくなります。厳しい食事制限や運動制限も不要で、ビタミンのサプリメントも必要ありません。黄疸が消えれば、肝機能検査の結果が完全に正常に戻らない状態でも、大半の患者は安全に職場復帰することが可能です。

肝炎の患者は、完全に回復するまでは禁酒すべきです。ワルファリンやテオフィリンなど一部の薬は、感染した肝臓で処理(代謝)できず、体内で有害な濃度に達してしまう場合があるため、医師の指示で用量を減らしたり使用を中止したりすることがあります。必要に応じて服用量の調節ができるように、処方薬だけでなく市販薬や漢方薬、ハーブなども含めて、使用中の薬はすべて医師に伝えるようにします。

 

急性ウイルス性肝炎の患者は、治療を行わなかった場合でも通常は4~8週間で回復します。ただしC型肝炎やB型肝炎(C型より確率は低い)の患者の一部は、ウイルスのキャリアになることがあります。キャリアは症状はないもののウイルスに感染している状態であり、他人にウイルスをうつす可能性があります。キャリアは病気があるようにはみえなくても、慢性肝炎を発症しているケースもみられます。キャリアはやがて肝硬変や肝臓癌になることがあります。また、B型肝炎のキャリアは、他の人に比べて肝臓癌になる可能性が高くなります。

 

 

 

自己免疫性肝炎

 

自己免疫性肝炎には特に自覚症状がありません。症状が重い場合には倦怠感や関節痛、食欲不振などがあります。自他覚症状を全く伴わず、健康診断や肝機能検査値異常をきっかけに偶然発見される場合もあります。通常は自覚症状がないため、病気が進んだ状態で発見されることが多く、肝硬変へ進行すると黄疸、浮腫、腹水、食道胃静脈瘤の破裂による吐血や下血などの症状が起こることがあります。また、関節リウマチや慢性甲状腺炎などの自己免疫病との合併がみられることもあります。

 

発症の原因はまだ不明ですが、血液検査で抗核抗体などの自己抗体が陽性を示し、高ガンマグロブリン血症、副腎皮質ステロイド治療が有効であることなどから、自己免疫システムの異常が関わっていると推定されています。つまり、本来は自分自身の身を守るための、自分の体の成分に対する抗体=自己抗体の機能異常が主因となって、肝細胞障害が起きると考えられています。

 

自己免疫性肝炎の診断は、国際診断基準を参考に厚生省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班のガイドラインに従って診断します。

  1. 他の原因による肝障害が否定される
  2. 抗核抗体陽性あるいは抗平滑筋抗体陽性
  3. IgG高値(>基準上限値1.1倍)
  4. 組織学的にインターフェイス肝炎や形質細胞浸潤がみられる
  5. 副腎皮質ステロイドが著効する

という主要所見の1から4より自己免疫性肝炎が疑われた場合、肝生検を行って診断を確定します。そのため、自己免疫病関連の血液検査や画像診断を行った後、肝臓の組織や細胞を採取し、顕微鏡で状態を観察する肝生検を行います。

 

病因が不明のため根治的治療法は確立されておらず、現在では免疫抑制療法を行うことを指針とし、特に副腎皮質ステロイドによる薬物治療が基本となっています。副腎皮質ステロイドとして主にプレドニゾロンが使用され、肝機能検査値の推移を確認しながらゆっくりと減量します。

中断した場合は再燃する頻度が高いため、血清トランスアミナーゼを基準値範囲内に保つ最低量を2年以上投与します。また、再燃など効果が不十分であり副作用や合併症の場合は、アザチオプリンを併用することもあります。軽症や、副腎皮質ステロイドの減量時にはウルソデオキシコール酸も用いられることがあります。

 

 

 

 

原発性胆汁性肝硬変

 

原発性胆汁性肝硬変は、肝臓の中の胆管と呼ばれる部分が壊れる病気で、最初のうちは自覚症状がありません。早期発見ができず病気が進行すると、胆汁の流れが悪くなり、ビタミンDの吸収が悪くなるため、骨粗鬆症が進行しやすくなります。また、血中コレステロールが上昇することにより、眼瞼黄色種ができることもあります。更に症状が悪化すると、眼球や皮膚が黄色くなってしまう、黄疸の症状やむくみ、腹水、意識障害などが発生します。

 

原発性胆汁性肝硬変になる原因は、残念なことにまだ不明です。しかし、最近の研究では、免疫反応の異常にて胆管が壊れることが分かり始めていて、自己免疫反応がこの疾患に大きく関わっていることが判明しつつあります。つまり、胆管を異物として体が誤判断してしまい、攻撃してしまうわけです。また、本疾患は患者の子どもが発症することはあまりありませんが、同一親族内に患者の頻度が高いため、ある程度の遺伝的要素があることが判明しています。

 

原発性胆汁性肝硬変の診断は、問診により疲労やかゆみなどの典型的な症状がないかが確認されます。多くは通常の血液検査で発覚するため、健康診断などで偶然発見される場合もあります。診断確定を行うためには、まず超音波検査や胆管系のMRI検査を行うことで、肝臓外の胆管の異常や閉塞を確認します。肝臓外に閉塞が見られない場合は、消去法により肝臓の内部に疾患があるということで、原発性胆汁性肝硬変の診断が確定します。

 

残念なことに、原発性胆汁性肝硬変の治療方法はありません。治療は、症状を軽減させることと肝臓障害の進行を抑えることに注力されます。また、合併症を起こしていることもあるため、その治療が行われます。肌のかゆみの症状が激しい場合は、コレスチラミンなどを使用することでかゆみを抑える処置が施されます。また、肝臓の障害を軽減し、延命処置を行うために、ウルソデオキシコール酸が用いられることもあります。本疾患が発覚するとアルコールの摂取は禁止となります。

 

 

 

 

門脈血栓症

 

門脈の閉塞は、腸からの血液を肝臓に運ぶ門脈が血栓でふさがれる、または狭くなる結果です。

ほとんどの場合、症状はみられません。腹部に体液がたまり、脾臓が腫大し、食道で重度の出血が起こることがあります。

診断の確定にはドップラー超音波検査が役立ちます。

可能であれば原因を治療し、血栓の拡大を防ぐ薬や血栓を溶かす薬を使用します。

門脈が狭くなる、もしくはふさがると、門脈の血圧が上昇します。こうした血圧上昇(門脈圧亢進症)は脾臓の腫大(脾腫)を引き起こします。さらに、食道の静脈に拡張やねじれ(食道静脈瘤)が生じるほか、しばしば胃にも障害(門脈圧亢進性胃障害)が起こします。これらの静脈は大出血を起こすことがあります。腹部の体液の貯留(腹水)はあまり発生しませんが、門脈の閉塞が肝臓のうっ血や損傷に関連している場合や、食道や胃の静脈瘤が破裂して大量出血を治療するのに多量の液体を点滴で投与した場合にも、腹水が起こることがあります。肝硬変の人に門脈血栓症が生じると、病態の悪化を引き起こします。

 

原因

門脈血栓症は肝硬変を患っている成人の約25%にみられ、多くは血流の滞りが原因です。門脈血栓症は、血液が凝固しやすくなる病態によっても発生します。

 

以下のように、主な原因は年代によって異なります。

新生児:

臍帯断端(へそ)における感染

年長児:

虫垂炎

成人:

赤血球の過剰な増加(赤血球増加症)、特定の癌(肝臓、膵臓、腎臓、副腎)、手術、妊娠

 

いくつかの状態が重なって閉塞が起こることがよくあります。約3分の1の患者では原因は不明です。

 

症状

ほとんどの場合、症状は発生しません。一部の人では、問題が徐々に現れ、門脈圧亢進症が起こります。食道や胃に生じた静脈瘤は破裂、出血することがあり、ときに大出血を起こします。その場合、患者は吐血します。また、静脈瘤からの出血が消化管に入ると、黒いタール状の悪臭を放つ便(黒色便)が出るようになります。その他、門脈圧亢進症の合併症で血管に関するものとして、胃に非常に細い静脈や毛細血管が形成され、ときに消化管出血を起こします(門脈圧亢進性胃障害)。

 

診断

以下の状態のいくつかに該当する場合は、門脈血栓症が疑われます:

食道静脈瘤または胃静脈瘤からの出血

脾臓の腫大

高リスクの状態(たとえば、小児の臍帯感染や急性虫垂炎)

 

肝臓を評価する血液検査は、多くの場合、正常です。

通常はドップラー超音波検査法で診断を確定します。門脈の血流量が減少または欠如していることが判明します。MRI検査やCT検査が必要な場合もあります。

血流の経路を新たにつくる手技が予定されている場合は、血管造影が行われます。血管造影では、X線造影剤(X線を通さない薬剤)を門脈に注入した後、門脈のX線撮影を行います。

 

治療

血栓が突然静脈をふさいだ場合は、ときに血栓を溶かす薬(組織プラスミノーゲンアクチベータなど)を使用します。この治療(血栓溶解療法)の有効性は明らかになっていません。

障害が徐々に起こった場合、血栓の再発や拡大を防ぐために、長期にわたって抗凝固薬(ヘパリンなど)を使用することがあります。抗凝固薬には、すでに存在している血栓を溶かす作用はありません。

新生児と小児の場合は、原因(多くは臍帯の感染や急性虫垂炎)を治療します。

門脈圧亢進症によって生じる障害も治療します。

 

食道静脈瘤からの出血は、以下のような複数の方法で止血することができます。

通常は、口から食道に通した柔軟な観察用チューブ(内視鏡)を介してゴムバンドを挿入し、そのゴムバンドで静脈瘤をしばる。

ベータ遮断薬や硝酸薬などの降圧薬で門脈の血圧を低下させ、食道の出血を防止する(ベータ遮断薬は門脈圧亢進性胃障害でも使用される)。

オクトレオチド(肝臓への血流を減少させる作用もある薬物で、それにより腹部の血圧が低下する)を静脈内投与して、止血を促す。

これらの治療では効果がない場合に、肝臓を迂回する血流の代替経路を新たにつくる手術を実施することがあります。この手術の目的は、下大静脈への経路(シャント)をつくって門脈内の血圧を低下させることです。門脈が詰まっていると、シャントの形成は困難です。また、シャントはふさがることがよくあります。

一部の患者には肝臓移植が必要です。

 

 

バッド・キアリ症候群

 

バッド・キアリ症候群は、肝臓からの血管の肝静脈もしくは、心臓へと連なっている肝部下大静脈が、閉塞したり狭窄したりすることによって、肝臓からの血流量が減少し、門脈圧亢進症等の症状が現れます。

具体的には、脾臓が大きくなる・腹壁の静脈が膨れ上がる、食道や胃に静脈瘤ができる、腹水がたまったりするなどの現象が起きます。  軽度な状態であると、めまいなどの貧血症状のみですが、血管の破裂などが起きると、出血、吐血、下血などの深刻な症状になります。

 

バッド・キアリ症候群の原因は、症例の約70%は不明とされています。原因が判明した事例の中では、肝静脈や肝部下大静脈に先天性な奇形があり、それが発端となって発症となるものや、体内で血栓が発生して、それが原因で発症するものなどがあげられています。最新研究では、血液凝固異常に関連する遺伝子との関連性に注目があつまり、現在も研究が進んでいます。また、この病気の基礎疾患となる血液疾患、腹腔内感染、血管炎などによる合併症として発症することも多いといわれています。経口避妊薬の服用や、妊娠、出産時にもリスクが高まります。

 

検査はさまざまな観点から行われます。まずは血液検査を行い、肝機能の状態と血栓の発生リスクのチェックが行われます。肝機能の問題が疑われた場合は、ドップラー超音波検査器にて画像診断が行われます。それでもわからない場合は、血管のMRIスキャン検査やCTスキャン検査を行うことにより血管の状態を確認します。また、手術を行う可能性がある場合は、X線造影剤を静脈に注射してX線撮影を行う、静脈の造影検査が必要になります。

 

治療方法は、状況により異なります。静脈の閉塞や狭窄の場合は、血液を溶解させる薬剤を使用し、血管に流れる血流の改善を行います。場合によってはバルーンカテーテルによって閉塞している部分を広げます。食道や胃などの静脈瘤が破裂して出血しているような場合には、緊急の止血処理が必要であり、対応が遅れると命にかかわります。ただちに緊急搬送して、内視鏡施術によって止血処理を行います。静脈瘤の場合であると、重症度に応じて、薬物療法、バルーンタンポナーデ法、内視鏡治療、外科的施術などが選択されます。

 

 

うっ血性肝腫大

 

うっ血性肝腫大は肝臓に血液が滞留する疾患で、心不全の結果、発生します。

重度の心不全は、心臓から下大静脈(下半身から心臓に血液を運ぶ大静脈)にかけての血液の滞留を引き起こします。こうした血液のうっ滞により、下大静脈の血圧や、肝静脈(肝臓から血液を排出する静脈)を含む下大静脈に合流する静脈の血圧が上昇します。これらの血圧が十分に高いと、肝臓は充血(うっ血)して機能低下を起こします。

 

肝臓がうっ血すると、多くの人では軽度の腹部不快感が生じます。肝臓(右上腹部)の圧痛と腫大が起こります。重度の場合、黄疸と呼ばれる障害が生じ、皮膚と白眼の部分が黄色くなります。体液が腹部内にたまる病態(腹水)が起こります。脾臓も腫大する傾向があります。うっ血が重度で慢性の場合は肝障害が発生し、さらに重度の瘢痕化(肝硬変)に至るおそれがあります。

 

うっ血性肝腫大の典型的な症状が心不全の人にみられ、肝臓を評価する血液検査で異常な結果が得られた場合、この疾患が疑われます。

 

心不全の治療に重点をおいて管理を行います。そうした治療により、正常な肝機能が回復することがあります。

 

 

肝腫瘍

 

肝臓の腫瘍には、非癌性の腫瘍(良性)と癌性の腫瘍(悪性)があります。癌性の肝腫瘍は、原発性(肝臓から発生したもの)または転移性(体内の他の部位から肝臓に広がったもの)に分類されます。ほとんどの肝腫瘍は転移性です。体の各部にできた癌から分離した癌細胞は、しばしば血流に入って全身に運ばれますが、肝臓は体全体に流れる血液のほとんどをろ過しているため、癌は肝臓に転移することがよくあります。

非癌性の肝腫瘍は比較的よくみられますが、多くの場合、症状はありません。その大半は、別の理由で超音波検査やCT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像)検査などの画像診断を受けたときに見つかります。しかし、まれにこうした非癌性肝腫瘍が肝臓の腫大や腹腔内出血を引き起こすことがあります。非癌性肝腫瘍が存在しても、多くの場合、肝臓は正常に機能します。そのため、通常は肝機能検査の結果は正常です。

 

肝臓に液体を含んだ袋(嚢胞)ができることもあります。多くの場合、症状や健康上の問題は起こりません。このような嚢胞は画像検査で偶然発見されます。まれに、生まれつき肝臓に多数の嚢胞が存在する人がいます(多嚢胞肝)。通常、嚢胞は腎臓などの他の臓器にも発生します(腎臓にできた場合は多発性嚢胞腎疾患と呼ばれる)。肝臓が腫大しますが、普通はその後も機能は良好です。

 

 

多発性肝腫瘍

 

多発性肝腫瘍は、比較的初期段階で、腫瘍がまだ小さいときには無症状なことが多く、自覚症状による発見は困難とされています。しかし、腫瘍の大きさが5センチメートルから1センチメートルほどの大きさになると、腹部が張った感じや、腹痛などの症状が出始めることがあります。

さらに腫瘍が大きくなるに従って、黄疸や腹水の症状が出るケースもあります。腫瘍が破裂を起こした場合には、腹腔に大出血を起こすことがあり、腹部の激痛や血圧の低下が発生します。この場合は、生命の維持に危険が生じます。

 

多発性肝腫瘍の原因は、肝硬変が根本原因となっています。多くの場合は、B型、C型肝炎ウイルスに感染しているか、アルコールの過剰摂取による肝機能障害を起こすことが原因です。日本の症例に限っては、もともと肝機能に障害がない人が、多発性肝腫瘍になるケースは非常に稀です。ウイルス性慢性肝炎や肝硬変の病気が進行している人で、高齢の人がなりやすいと言われています。また、女性に比べて男性に患者が多いのも特徴です。

 

多発性肝腫瘍の診断は、最初に腫瘍マーカーと呼ばれる血液検査を行います。血液検査で高い数値が示されると、腹部超音波検査やCTスキャン検査、MRIスキャン検査などの画像診断を行うことになります。特に慢性の肝臓病がある人に、本疾患が多いため、慢性肝炎や肝硬変の人については、画像診断を頻繁に行います。腫瘍が小さい場合には、高分化型と呼ばれる、腫瘍の性格が大人しいタイプがあるため、画像診断での確定ができず、細径針腫瘍生研が行われることもあります。

 

多発性肝腫瘍の治療方法としては、外科的肝切除手術が行われることが多くあります。その他にも、経皮的エタノール局注療法やラジオ波凝固療法、肝動脈化学塞栓療法、放射線治療などがあります。本疾患は、比較的腫瘍が小さな段階から、門脈を経由して肝内の各所に転移を始めることが多く、根本切除しても再発することが多くあります。そのため、様々な治療法を柔軟に組み合わせて行う集学的治療が、患者の生活の質を高くすることに貢献し、長期の生存にもつながります。

 

 

転移性肝腫瘍

 

転移性肝腫瘍の症状は、何となく体がだるい、食欲が出ない、体重の減少などの漠然としたものが多くあります。一般的に本疾患にかかった場合、肝臓が腫大し難くなるため、触診を行ったときに痛みを生じることが多く、触診時にはゴツゴツした表面を感じられることがあります。症状が軽度のうちは、皮膚や白目の部分が黄色くなる黄疸症状が見られることもあります。腫瘍が大きくなってくると、腹腔に体液がたまって腹部が膨張することもあります。

 

転移性肝腫瘍の原因は、他の臓器などからのがんの転移が原因になりますが、原発巣のがんの発生要因は、その臓器によりそれぞれ異なります。また、癌が転移するということは、身体の免疫能力が低下していたり、腫瘍の悪性度が増したりすることによります。肝臓が弱っていて感染することもあり、慢性肝炎や肝硬変など肝臓系の疾患を負っている場合にかかりやすくなります。さらには、過度のアルコール飲酒や、喫煙による影響も指摘されています。

 

転移性肝腫瘍の診断には、まずは腫瘍マーカーという検査が行われます。もともと、原発性のがんがあったわけなので、定期的に本検査が行われることが多くなります。腫瘍マーカーによりガンの疑いが濃厚となり、肝臓が疑われるようであれば、超音波検査やCTスキャン検査、MRIスキャン検査などが行われ、肝臓内への腫瘍の広がりの程度などが確認されます。外科切除や持続肝動脈注射などの治療を行う予定があるならば、血管造影検査も必要になります。

他にも、骨シンチグラム、腫瘍シンチグラム、PET検査が行われることもあります。

 

転移性肝腫瘍の治療方法は、腫瘍のでき方により異なってきます。腫瘍が一箇所だけであれば、外科的施術を行うことにより腫瘍の切除が行われます。しかし、このケースは極めて稀で、多くの場合は腫瘍が多数あり手術は困難です。そこで取られる手法が、持続性冠動脈動注療法です。この方法では、抗がん薬を肝臓の転移がんに高濃度に注入するために、冠動脈にカテーテルを接続して薬を投与し続けるものです。2種類以上の薬を組み合わせて行う全身化学療法が行われることもあります。”

 

 

 

 

 

 

肝膿瘍

 

 肝膿瘍とは、肝臓外から発生原因となる細菌や原虫などが肝組織内に進入・増殖し、肝内に膿瘍(うみが貯留した袋)を形成する病気の総称です。  病原体により、細菌性(化膿性)、アメーバ性に分けられ、発症の背景、臨床像、治療法は異なっています。また、近年、肝臓や胆道の病気を治療したあとや、抗がん薬治療後に発症する肝膿瘍が報告されています。

 

原因  細菌性肝膿瘍の原因として、 (1) 総胆管結石、膵胆道系悪性腫瘍に伴い、腸内細菌が胆汁の生理的流れと逆に(十二指腸から肝臓にむかい)胆道に感染し、胆管炎に引き続き発症する場合 (2) 虫垂炎、憩室炎、クローン病潰瘍性大腸炎などの腹腔内感染症や進行大腸癌に続発し、

細菌が門脈をへて肝内に到達し肝膿瘍を形成する場合 (3) 急性胆嚢炎の肝臓への直接的波及、大腸癌などの肝浸潤など、周囲臓器の炎症が肝臓に直

接波及し肝膿瘍を形成する場合 (4) 外傷による肝損傷部に感染を起こし生じる場合 (5) 切除不能の膵胆道系悪性腫瘍や肝癌に対する治療後に発症する場合 などがあります。

 アメーバ性肝膿瘍は、赤痢アメーバの経口感染で発生し、海外渡航者に多く認められます。

 

症状の現れ方  発熱、全身倦怠感、上腹部痛、右季肋部痛などの炎症症状と、黄疸など肝膿瘍の原因となる疾患に起因する症状が現れます。  アメーバ性肝膿瘍では、前述の症状に加え、血性下痢が認められます。

 

治療の方法  細菌性肝膿瘍は、早期に診断し治療を開始しなければ、敗血症、細菌性ショック、播種性血管内凝固症候群(DIC)に移行し、致命的になることがあります。肝膿瘍を疑ったら、ただちに抗生剤による治療を開始します。  体外にうみを誘導するために経皮的に膿瘍穿刺(せんし)ドレナージを行います。癌や結石による胆道閉塞が原因の場合は胆道ドレナージを行います。多発する肝膿瘍や抗生剤の全身投与で改善しない場合は、肝動脈内にカテーテルを留置し、抗生剤の動脈注射を行うこともあります。  アメーバ性肝膿瘍では、メトロニダゾール(フラジール)を投与します。

 

 

肝不全

 

 

肝不全は肝臓を損傷する疾患や物質により引き起こされます。

黄疸、疲労、脱力感、食欲不振などの症状がよくみられます。

腹部に体液がたまる腹水や、あざや出血が発生しやすくなるなどの重篤な症状もみられます。

診断は症状、診察結果、血液検査結果に基づきます。

通常は原因の治療に加えて、タンパク質摂取の調整、食事の減塩、アルコール摂取の禁止を実施します。