退職時に年次有給休暇を買い上げること

 年次有給休暇は、賃金の減額を伴わずに、労働者の労働の義務を免除しようとするものですから、年次有給休暇の対象となる日は、労働義務の課された日でなければなりません。したがって、労働者の解雇や退職(契約期間満了を含む)等によって労働関係が終了すれば、年次有給休暇の権利は消滅します。

 この場合、消滅した権利をどのように処理するかについては、法律の関知するところではありません。ただ、違法性はないのですが、行政は有給休暇取得を阻害させる要因として歓迎していないようです。年次有給休暇の買い上げを行うか否かについては、その会社の就業規則等の定めによればよいことになります。

 したがって、就業規則等で解雇(退職)者に関する残余の年次有給休暇を「買い上げる」旨の定めがなければ、買い上げる必要はありません

 年次有給休暇を一定の金銭で買い上げて、休暇を与えないことは、「労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図る」という年次有給休暇のそもそもの目的に反します。原則として、年次有給休暇を買い上げることはできません。

 しかし、買い上げを禁止しているのは、労働基準法に基づいて付与する年次有給休暇のことですから、それ以外の場合には買い上げることも可能です。

  年次有給休暇は、法定の日数を超えて与えられている日数分や、既に退職している者の未行使分など、制度の趣旨に反しないものについては買い上げが可能だが、買い上げの予約については、行政解釈で「年次有給休暇の買い上げの予約をし、これに基づいて法第39条の規定により請求し得る年次有給休暇の日数を減じ、ないし請求された日数を与えないことは、法第39条の違反である。」としています。(昭30.11.30 基収4718号

 以下の場合には「買い上げ」が可能なものとされています。

(1) 時効によって消滅した休暇日数
 労働者が年次有給休暇を請求しなかった場合、2年でその権利は消滅します。時効で消滅した年次有給休暇を恩恵的に買い上げることは違反にはなりません

 あらかじめ「買い上げる」ことを就業規則等で規定することはできません。

(2) 退職・解雇により消滅した日数
 
年次有給休暇は、本来労働すべき日に労働義務を免除するものですから、年次有給休暇が退職日に未取得のまま残っている場合に、その残りの日数を買い上げても違法とはなりません。

(3) 法定日数分を超える部分の休暇日数
 
労働基準法の定める付与日数を上回る年次有給休暇については、退職時の買取は可です。

 年次有給休暇の買い上げにあたっての単価は企業の任意です。一般的には、主な買い上げの単価の決め方には、年次有給休暇を取得した場合に支払われる賃金に準じる額とする方法と、定額とする方法があります。

1 年次有給休暇を取得した時に支払う賃金に準じて買い上げ単価を決める方法  

 年次有給休暇を取得した場合に支払われる賃金は、労働基準法により、  
 ① 所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金  
 ② 平均賃金  
 ③ 健康保険法に定める標準報酬月額a0950_000172
のいずれかによることとなっています。

 しかし、年次有給休暇を買い上げる場合には、実際に年次有給休暇を取得した時に支払われるときの賃金と同額である必要はありません。それよりも低くしているケースが多く、諸手当は除いて基本給のみで計算するなど様々な方法を採用します。

 

2 一定額とする方法    

 一律で5,000円とか7,000円などの定額を設定する方法です。

 しかし、一定額とする方法は、1日当たりの賃金が従業員によって異なることから不公平感が残ることは否めません。

 なお、この場合も同様に、実際に取得した場合に支払われる賃金よりも低い額に設定する方がよいでしょう。

 

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