退職後の競合避止
退職後にも、競業避止義務を課すことができるかどうかですが、一般的には、憲法で保障された「職業選択の自由」があるため、無制限に競業避止義務を課すことはできません。退職後の競業避止義務が有効となるためには、契約上特別の具体的な根拠があり、合理的な範囲である必要があります。
フォセコ・ジャパン・リミテッド事件(奈良地裁 昭45.10.23)においては、退職後の競業制限が合理的な範囲内にあるかどうかの判断基準としして、(1) 禁止期間、(2) 場所的範囲、(3) 対象職種、(4) 代償の有無 を総合的に検討して判断が下されており、他の裁判においてもこれらの点が検討の対象とされています。
(1) 禁止期間
あまりに長期間の競業の禁止は退職者の職業選択の自由への不当な拘束として、無効とされてしまう可能性が高まります。通常、合理的とされる範囲は、長くとも2年くらいでしょう。
(2) 場所的範囲
競業を禁止する趣旨が顧客を奪われないことにある場合には、競業禁止の場所的範囲を限定することは可能です。
(3) 対象職種
当該従業員が関わっていた具体的な職務を中心として、これに密接関連する範囲の職種に限定することが望ましいといえます。
(4) 代償の有無
代償が支払われている場合には、競業禁止が合理的なものと判断される傾向にあります。
また、他の従業員と比べて給与等において、相当厚遇されていたのであれば、特別の代償措置がなくとも、競業禁止契約が有効とされる場合があります。
会社側としては、就業規則に退職後も「競合避止義務」があることを規定します。
さらに「誓約書」をとる必要があります。退職時にこの「誓約書」を取るのは困難なケースが多いので、このような「誓約書」は入社時にとるとよいでしょう。なお、特に必要のある者については、退職後の競業禁止の特約(競業避止特約)を退職時に結ぶのがよいでしょう。そして、誓約に違反したときは、損害賠償請求をすることがある旨を付記しておくことです。
就業規則規定例 第○条(退職後の競合避止義務) 2 前項の適用従業員とは、競業避止特約誓約書を締結する。 3 競合避止義務に反した場合は、退職金の一部を減額又は返還を求めることがある。 |
誓約書の記載例 このたび、私は貴社を退職するにあたり、次の事項を誠実に守り決して貴社にご迷惑をおかけしないように誓約いたします。 退職後は在職中および退職後を通じて、会社の許可なしに業務上知り得た会社の機密事項を利用して、2年間は在職時に担当したことのある営業地域(都道府県)に在する同業他社への就職・役員への就任をして、貴社の顧客に対し、営業活動、ならびに同業の自営を行わないこと ・・・ |
(判例)
東京学習協力会事件 東京地方裁判所(平成2年4月17日)
東京貨物社事件 浦和地方裁判所(平成9年1月27日)
東京リーガルマインド事件 東京地方裁判所(平成7年10月16日)
リーラン事件 東京地方裁判所(平成6年11月25日)
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