気分障害とその分類

 うつ病の周辺にある病気は、病名は違っていても、明確に区別できないのが現状です。たとえば、双極性障害(躁うつ病)と単極性のうつ病では、はっきりと分けられないところがあります。躁うつ病といっても、ほとんどは うつが中心的な症状であって、躁は全く見られないこともあったため、躁うつ病という呼称は必ずしも適切でないことになり、その後に「双極性障害」と「うつ病性障害」は分けられました。そして、現在は「うつ」にしても「躁」にしても、それは気分や感情の問題であるということから、医学的には双方とも「気分障害」という大きなくくりの中に収められました。

 DSM-Ⅳ-TRに基づいて気分障害に含まれる疾患を分けると、「双極性障害」「うつ病性障害」の2つになります。

 「双極性障害」には「双極性」「気分循環症」が含まれます。

 「うつ病性障害」には「大うつ病」「気分変調症」が含まれます。

 近年患者が増えてきている病気に、新型うつ病と言われる「非定型うつ病」があります。

 上記に示した病名のほかに、「ディスチミア親和型うつ病」「軽症うつ病」「適応障害」「パーソナリティー障害」などといった病気も、周辺にある疾患です。

 このほか、便宜的に用いられている病名として、「仮面うつ病」「微笑みうつ病」「季節性うつ病」「難治性うつ病」などがあります。(通称であって正式な分類名ではありません。)

 医師は、最初に診断した病名のままで治療を継続していき、途中で診断を修正することが困難な場合があります。こうしたケースでは、患者がしばしば転院することによって、他の専門医が新たに診察することで修正されることがあります。普通、専門医はそれ相応の経験や病気への理解もあり、適切に診断できますが、ケースによって治療経過が長期にわたると、最初の病態がわからなくなり、その後、診断や治療において大きな軌道修正を迫られることもあります。そうかと思えば、初診の段階で正確な診断ができず、経過を観察していく中で、初めて気がつくこともあります。また、専門医は典型的なうつ病のケースであっても、よほどの理由がない限り、患者にうつ病のタイプについて、詳しく告げることはしないと思います。それは、診断について慎重を要することもありますが、それ以上に、具体的な病名を告げることによって、患者自身が必要以上に悲観的になったり、否定的に捉えたり、また病気に逃げ込んだりすると、かえって治療を遅らせることになり、結果的に患者にとって不利益になるからです。もちろん、医師は患者との信頼関係をつくる意味でも、症状のどこまでが病気によるもので、どう対応していけばよいか少しずつ話すことによって、間接的に病気について理解してもらえるように、また、患者がそれを受け入れて病気に向き合ってくれるように努力する事が求められています。一方、双極性障害のように、薬物療法のアプローチが大きく変わる場合は、その内容について患者に説明しなくてはなりません。例えば、気分の波が激しいような時は、その波をコントロールするために気分安定剤を中心に使い、抗うつ薬はあくまで補助的なものであることを伝える必要があります。病気の説明もせずに、気分安定剤や抗精神病薬などを長期にわたって使うようなことがあってはならないと思います。また、患者自身も、自分の病気について独断で診断するようなことは、大変危険なことですので謹まなければなりません。