「憂うつ」「うつ状態」「うつ病」の相違点

 普通の人間であれば誰でも、失敗したり、思いがけない事態に遭遇したりすると、辛くなり、悲しくなり、落ち込んで憂うつになり、悲哀を感じます。感じる心の痛みの程度は、人によっても異なり、出来事の大小や強弱によっても違ってきます。

 

「普通の憂うつ」と「うつ状態」の違い

 普通の憂うつの場合、大きなストレスや嫌なことがあると、憂うつになり、気分が滅入ったり落ち込んだり、やる気をなくしたり、夜眠れなかったり、食欲もなくなったり、疲労感や倦怠感を抱くことがあります。しかし、それは耐えられる範囲ですが、これがうつ状態になると、憂うつの程度がもっと強くなり、苦しみも激しくなり、耐える事が困難になってきます。

 憂うつの持続時間ですが、普通の憂うつはそれほど長く続きませんが、うつ状態になると、かなり長時間にわたって苦しむことになります。

 日常生活に与える影響ですが、普通の憂うつですと、仕事や生活、対人関係については何とか維持できますが、うつ状態になるとそれらを維持することが困難になってきます。

 うつになった理由や原因について、普通の憂うつでは理解できますが、うつ状態になると、ある程度は理解できても「なぜ自分はこんなにひどく落ち込むのか?」「なぜこんなに長く苦しむのか?」が理解できません。自分はどうしてよいのか分からなくなって、それがまたうつ状態を進行させる原因になります。

 憂うつ気分になっても、普通の憂うつでは、何か気晴らしになることをしたり、友達と会話をするなどして気分転換をはかれば、気持ちが楽になることがありますが、うつ状態ではそんなことで気分転換にはなりません。逆に気晴らしをしようとすると息苦しくなり、人に会うことがひどく苦痛に感じられます。

 悲しみや苦痛があっても、普通の憂うつではそれを受け入れて味わうこともできますが、うつ状態では悲哀を受け入れられないどころか、自分自身が悲しめない、悲しんでいる自分がわからない、さらには悲哀さえ感じられなくなります。

 悲哀や苦悩があっても、普通の憂うつでは、その出来事の重要性を味わったり、自分自身を取り巻く人間関係や社会を見直したりして、自分の成長の機会にすることができます。ところが、うつ状態では苦しみにがんじがらめになって苦しみがさらに増殖し、自身の発展性や生産性にはつながりません。

 普通の憂うつの場合、自分の力で、また周囲の人の助けによって解決していけますが、うつ状態になると自力でも、他人が助けることも難しくなります。励ましたり同情したりすると、かえって悪化することもあります。

 

「うつ状態」と「うつ病」の違い

 患者心理からすれば、自分の状態はどちらなのか、問題はどこにあり、どうすれば治るのかを知りたがっているのです。しかし、「うつ状態」と「うつ病」の区別も明確にできるものではありません。また、その区別にこだわっても、治療的な意味はそれほどないのです。  

 うつ状態は病気の状態像を指すわけですから、神経症性のうつ状態、統合失調症性のうつ状態、摂食障害に伴ううつ状態、境界性パーソナリティー障害によるうつ状態、脳器質疾患に随伴するうつ状態、反応性うつ状態などさまざまなうつ状態が考えられます。その背後には、抑うつとは別に、もっと重要な問題点があることが予想されます。

 これに対して、うつ病は単極性うつ病にしても、双極性障害のうつ状態にしても、その中心にあるものは抑うつという問題になります。

 このように、うつ状態と判断した場合でも、それぞれのうつ状態がことなるため、治療目標や治療方法も異なってきます。同様に、うつ病といっても、それがどのような種類のうつ病なのか、見極めることによって、治療のやり方も異なってくるのです。