うつ病

「心のカゼ」と言われるうつ病

 「うつ病」とは何かという問いに対して、「うつ病は心のカゼ」という表現がよく使われます。うつ病は誰でも発症する可能性があると同時に、うつ病は適切に対処しなければ、長引いて重症化する恐れがある。また、一度回復しても再び悪化したり、数年たって再発したりするケースもよくあります。うつ病は、多くは治りやすい病気ですが、再燃・再発しやすい病気でもある。「心が弱いから、性格に問題があるからうつ病になる」という思い込みは大きな誤解です。誤った思い込みが うつ病の症状とは別に患者を苦しめ、追い詰めてしまうことになりうるので、うつ病を正しく理解することが何よりも重要なことです。うつ病の難しさは、何と言っても患者の心の中で起こる症状のため、周囲も本人もなかなか気付きにくい点です。患者がうつ病で苦しんでいても、内科的な検査ではなかなか異常が認められないため、最近ではうつ病になるとBDNF(脳由来神経栄養因子)の血中濃度が低下することや、PEA(ホスフォエタノールアミン)の血中濃度が低下することが発見され、約9割のうつ病患者が血液検査で診断が確定できるようになりつつあります。「気のせい」「気の持ちよう」と言って片付けられてしまう傾向があります。また、苦しんでいても、本人は家族や職場など周りの人に心配をかけまいとして、症状を口にせず隠し続けるケースもあります。

 一般的に、うつ病患者はまじめで、他人に気を遣うタイプの人が多いため、仕事に対しても誠実に向き合い、症状に苦しめられていてもギリギリのところまで頑張ってしまいます。そして、どうにもならない状態になって、はじめて周囲が気付くことも少なくありません。

 特に企業にとっては、生産性向上のために社員のうつ病対策は重要な課題で、メンタルヘルスケアにいかに取り組むかが、その会社の企業価値を高めることにつながっていると考えられるのです。日本生産性本部メンタル・ヘルス研究所の全国調査(2012年)では、全国の上場企業の約220社を対象に「心の病」を抱える従業員の年代別調査をおこなったところ、40代が最も多く、36.2%となったと報告しています。次いで30代が34.9%、10~20代が18.8%となっています。

 それらの原因は、「本人の資質」や「職場の人間関係」によるものと回答しております。

 要因としては、成果主義型の人事制度の中で、管理職に就けずに権限がないまま責任だけを負わされる40代特有の状況があるとしています。うつ病であることを会社に告げれば職を失うかもしれないという不安に苛まれながら、会社を休むこともできずに無理して働くことで、病状を悪化させてしまっている人も少なくありません。

 人間には誰でも気分の浮き沈みがあります。勉強や仕事がうまくいかなかったり、人間関係でトラブルを抱えたり、また、異性にふられたりすると気分が落ち込んで何もやる気が起こらなかったりします。しかし、いつの間にか沈んでいた気持ちが消えて精気を取り戻し、「また頑張ろう」と元気が出てきて、いつもと同じように活動できるようになります。このように、気分の落ち込みが一時的で時が経つにつれて消えていくような一過性の気分の落ち込みであれば、それは正常な範囲であり、特に心配することはありません。ところが、こうした落ち込んだ気持ちや元気のない状態が数週間、あるいは数ヵ月といった、ある一定期間長く続いて、いつまでも以前のような元気な状態に回復しない場合、さらに、日常生活や社会生活に支障をきたすような状態であれば、それは「うつ病」と診断されるようになります。

 うつ病の気持ちを一言でいうと「雨降りの日の感情」とも言われます。何となく物悲しく、漠然としたゆううつな気分です。その気分を言葉で表現するならば「悲しみ」「不安」「寂しさ」「気分の沈み」「虚しさ」「気がめいる」「おっくう」「うっとうしい」「重苦しい」「寂寥感」「厭世観」「焦燥感」「劣等感」「自己無価値感」などといった気分です。このように沈んだ気分を精神医学では「抑うつ気分」といい、抑うつ気分はうつ病においては最初にみられる精神症状です。この抑うつ気分の状態が長く続くと、「もう自分はダメになってしまう」と考えるようになり、「自分は生きている価値がない」「この世から消えてしまいたい」などと考え始めます。自己卑下や自責の念にかられ、やがて感情面だけではなく、意欲や行動面において障害が現れるようになります。自分で決断することも実行することもできなくなります。  

 医学的には、正常な範囲の気分の落ち込みは単に「抑うつ」といい、「うつ病」とは区別しています。ただし、憂うつで一時的に気分が落ち込んだ状態と、うつ病で抑うつ気分になった状態を比べても、気分の落ち込みそのものに質的な差はそれほどありません。それは、正常な人の気分の落ち込みとうつ病の抑うつ気分では心理的には同じような性質と考えられるからです。したがって、どこまでが正常で、どこからが病気なのかを判断するのは非常に難しいことですが、それは専門医が複数回の診察を経てようやく診断が可能となります。

うつ病 スピリチュアルな観点

 うつ病は、早期発見・早期治療を行えば、完全治癒する可能性が非常に高い疾患です。 早期に発見され、軽症うつ病の段階で早期に適切な治療を行えば、治療開始後3ヵ月で50%、6ヵ月で80%の方が完全に治癒します。しかし、治癒した段階(症状がなくなった状態)で早急に投薬を中止すると、非常に高い確率で再発を起こし、徐々に中等度・重度のうつ病へと悪化していきます。

 現在、問題とされているのは、治療効果が十分ではないのに、漫然と一般的な抗うつ薬を投与され、初発症状(最初にうつ病にかかったときに現れていた非常に辛い症状)ほど強い症状ではないが、軽度~中等度のうつ症状が1年以上持続している、いわゆる慢性うつ病(難治性うつ病・治療抵抗性うつ病)の方が急増していることです。

 慢性うつ病や再発を繰り返す場合は、投薬も、通常の三環系抗うつ薬・四環系抗うつ薬・SSRI・SNRIなどの抗うつ薬や抗不安薬、睡眠導入薬のみの投与では十分な薬理作用や治療効果を上げることができず、気分安定薬(リーマス・デパケン・テグレトール)による強化療法の併用や、NaSSA(レメロン・リフレックス)やセロトニン1aアゴニスト(セディール)などの新薬の併用、またクロナゼパム(リボトリール・ランドセン)・二環系抗うつ薬(レスリン・デジレル)などの内服が必要であるケースが増えています。また、薬の内服や、完全な休養以外にも、認知行動療法・人間関係療法などの心理療法や、アサーショントレーニング・リラクセーション療法・EMDRなどの代替療法も併用しなければ、やはり高い確率で再発を起こしてしまいます。うつ病は、一度再発を起こしてしまうと、2度目の再発は50%、3度目の再発は70%、4度目の再発は90%と非常に高い確率で再発を繰り返します。

 うつ病は自殺の危険性があります。最近の10年間では、日本人の自殺者は年間3万1000人~3万3000人で、人口に占める自殺者の割合は0.03%と、先進国の中では最悪の記録となっています。

うつ病と自殺   自殺行動

しかし、うつ病の患者では自殺率は15~25%という高い確率です。毎年3万人を超える方が自殺により亡くなっていますが、そのうちの約6割の方はうつ病であったとされ、その6割の方のうち7割~8割の方が心療内科や精神科で適切な治療を受けていなかったとされています。うつ病は早期発見・早期治療を行えば本来治癒する可能性の高い疾患です。少しでもおかしいなと感じたら、すぐにお近くの心療内科や精神科を受診することが重要です。

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子供のうつ病   発達障害と うつ の関係