うつ病の診断基準

問診の重要性

 うつ病の症状は多様で、しかも、症状がよく似た病気が他にも多いことから、診断はそう簡単ではありません。うつ病など心の病気は数値で簡単に表せないところが、この疾患の診断を難しくしています。したがって、うつ病の診断にあたっては、医師はまず問診を重要視します。実際の診察では、まず患者の訴えをしっかり聞くことから始め、医師からもいくつかの質問をして、現在どのような症状に悩んでいるかを把握します。「抑うつ気分がある」「楽しさを感じられない」「食欲が低下した」「眠れない」「イライラする」「億劫に感じる」「疲れやすい」「集中力がない」「自分を責める」「死にたいと思ったことがある」などについて、出来るだけ詳しく症状を聞き出します。

 さらに、発症時期や持続期間、原因やきっかけ、気分の変動、症状のパターン、食欲や睡眠の異常、軽躁状態の有無、あるいは人格障害などの問題はないかどうか、いろいろな角度から聞いていきます。そして、問診の際に大事なことは、患者の表情、受け答えの様子、口調、椅子に座っている姿勢や態度、他者への気配りなどにも注意を払います。また、患者が身体的な症状を訴えている場合は、ほかの病気である可能性も考慮しながら、総合的に患者を観察していきます。  

 うつ病の診断が困難なのは、うつ病はうつ状態といえる幾つかの疾患群と連続して重複しているからです。これは、うつ病のスペクトラムと言われ、便宜的に分けられている種類は、「メランコリー親和型うつ病」「非定型うつ病」「双極性障害」「パーソナリティー障害」「ディスチミア親和型うつ病」「適応障害」「軽症うつ病」などです。これらの疾患はしばしば同時に認められることがあり、医師が診断するうえで極めてやっかいな事象で、医師間における診断の不一致が起こる理由のひとつになっています。。

 

ICD-10とDSM-Ⅳの診断基準

 精神疾患に対する考え方やとらえ方は、国や地域によって異なり、分類の仕方も異なっていては、統計学的な面や研究にあたって不都合を生じることは言うまでもありません。そこで、国際的に統一された疾患の分類や診断基準の必要性が求められていたのです。  

 現在、うつ病の診断基準として広く使われている国際基準は2つあります。一つはアメリカの精神医学会が作成した『DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の分類と診断の手引』、もう一つはWHO(世界保健機関)の『ICD-10 国際疾病分類』です。いずれも原因による分類ではなく、症状によって分類されているところが特徴的です。この分類では、うつ病は「気分障害」のカテゴリーに入っています。

『DSM-Ⅳ-TR』

 1994年に発行されたもので、内容の特徴は、患者に起こっている症状に注目し、症状の数とその内訳から診断するものです。

 まず、9項目について患者の症状がどのくらい当てはまるかをみます。

 9項目を簡単にまとめると次の通りです。
 ① ほとんど毎日、1日中ひどく憂うつを感じる。
 ② ほとんど毎日、1日中何をやってもつまらないし、喜びというものを感じない。
 ③ ひどく食欲がないか、逆にひどく食欲があり過ぎる。
 ④ ひどく眠れないか、逆にひどく眠り過ぎる。
 ⑤ イライラして仕方ないか、動きがひどく低下している。
 ⑥ ひどく疲れやすく、気力が減退している。
 ⑦ 自分はダメな人間だ、悪い人間だと自分を責める。
 ⑧ 思考力が低下し、集中力が減退し、決断力が落ちた状態である。
 ⑨ 死について繰り返し考え、自殺を口にする。

 上記①~⑨の症状のうち、5つ以上の項目が最近2週間以上続いていて、苦痛を感じている、あるいは生活に支障を来している場合に「うつ病」と診断されます。(ただし、①と②についてはどちらか一方は必須)。そのうえで、付随する症状についてさらに詳しく分類し、どのタイプのうつ病なのか最終的に診断を下します。

WHOの『ICD-10』

 1992年に出版されたもので、作成にあたっては世界各国から専門家が多数参加して、国際基準にふさわしい内容に仕上げています。日本においても、公式の統計はこのICD-10を基準にして作成しています。

 ICD-10では、身体的疾患を含めたすべての病気を対象にして出来ていて、精神疾患は「精神および行動の障害」の章にまとめられており、うつ病はこの中の「気分(感情)障害」の項に分類されています。

 現在日本の専門医は、この2つの国際基準であるDSM-ⅣとICD-10を参考にしながら、患者一人ひとりの症状に合わせ、なおかつ、これまでの臨床経験と知識でもって総合的に判断し、診断をしていきます。例えば、過労やストレスが背景にある中年の会社員も、リストカットを繰り返す若い女性も、不登校に陥った中学生も、うつ状態やいくつかの症状が一定期間以上続いていれば、診断基準に基づいて「うつ病」と診断されます。診断名を下したからといって治療法が自動的に決まるというものではありません。診断名は同じであっても、それぞれ個人の置かれた状況や、性格的な傾向などを考慮して、患者ごとに異なった治療が行われることになります。

 

「うつ病」簡単セルフチェック

 最近の自分を振り返って、以下の項目に当てはまるようなことがありませんか? つらいことや悲しいことがあって気分が落ち込んだ時、それがいつまでたっても回復せずに長く続くような場合は、「うつ病」の可能性があります。複数以上の項目に当てはまるようでしたら要注意ですので、一度精神科もしくは精神疾患に精通した心療内科を受診して専門医に診てもらいましょう。

 ・気分が落ち着かず、不安で仕方ない。
 ・とにかく憂うつでしかたない。
 ・何をしても感情が湧いてこない。
 ・仕事への意欲が低下してきた。
 ・好きだったことに打ち込めなくなった。
 ・毎日の生活にハリがなくなった。
 ・悲しくてしょうがない。
 ・常に罪悪感を抱いている。
 ・将来に希望がもてない。
 ・自分は役にたたない人間、社会から必要とされない人間だと思っている。
 ・他人に対して興味がなくなってきた。
 ・何をするにも億劫に感じる。
 ・わけもなく疲れたような感じがする。
 ・イライラする気分がずっと続いている。
 ・死について考えることがある。 

 以下の項目の中で、最近1ヵ月のうちに思い当たるものがあったら、項目の数字を○で囲ってください。

  1 家庭内で、いろいろ問題があった。
  2 仕事において、多くの変化があった。
  3 日頃から楽しみにしている趣味などがない。
  4 何時も実践している運動などがない。
  5 気分が沈みがちで、憂うつである。
  6 ささいな事に腹が立ち、イライラする。
  7 仕事へのやる気がなくなり、疲れやすい。
  8 人に会うのが億劫で、面倒くさい。
  9 前日の疲れがとれず、朝方から体がだるい
 10 寝つきが悪く、夢を見ることが多い。
 11 朝、気持ちよく起きられず、気分が悪い。
 12 頭がすっきりせず、頭重感がある。
 13 肩こりや背中、腰が痛くなることがある。
 14 食欲がなくなり、次第に体重が減ってきた。
 15 お腹が張り、下痢や便秘を交互に繰り返す。
 16 目が疲れ、めまいや立ちくらみがある。
 17 急に息苦しくなり、胸が痛くなる。
 18 手足が冷たく感じ、汗をかきやすい。
 19 よくカゼをひき、治りにくく長引く。
 20 医者の診察をうけたら、気のせいだと言われた。

判定法

 項目を ○ で囲った数が    5個以下は「正常範囲」
   6~10個は「ストレス予備状態」
   11~15個は「ストレス状態」(要注意)
   16個以上は「ストレス病」(要治療)

うつ病の治療方法 に続く