自殺行動

 自殺行動には、自殺既遂、自殺未遂、自殺演技の3種類の自己破壊的な行動があります。

 自殺について考え計画することは起死念慮と呼ばれます。

 自殺は概して多くの要因が相互作用する結果です。通常、うつ病が要因に含まれます。

 銃など自殺方法には死に至る確率が高いものもありますが、致死率の低い方法を選択した場合でも、意図が深刻でないことを意味するとは限りません。

 自殺がほのめかされたり自殺未遂が起こった場合は、真剣に受け止め、援助の手を差し伸べるべきです。

 自殺行動には次のものがあります。

自殺既遂:
 意図した自傷行為が死に至ったものです。

自殺未遂:
 死ぬことを目的とする自傷行為ですが、結果として死には至らないものです。多くの場合、自殺未遂には、死への願望に対する少なくとも何らかのアンビバレンス(両価性)が含まれていて、助けを求める叫びの現れであることもあります。

自殺演技:
 死に至る可能性が低い自傷行為です。たとえば、手首に表面的な傷をつける、ビタミン剤を過量摂取するといった行為です。

 自殺演技と起死念慮(自殺についての考えや計画)は、まだ生きていたい人の助けを求める懇願の現れである可能性もあり、軽く片付けてしまうべきではありません。

 自殺者の数に関する情報源は、主に死亡証明書や調査報告であるため、おそらく実際の自殺率よりも低く見積もられています。それでも、自殺行動はあまりにも一般的な健康問題です。自殺行動は年齢や性別にかかわりなく起こります。自殺既遂の割合が最も高いのは70歳以上の男性です。自殺未遂は中年期以前で多くみられます。自殺未遂が特に多いのは、青年期の若い女性と30代の独身男性です。全年齢層でみると、女性の自殺未遂の割合は男性の2倍ですが、実際に死に至る可能性は男性の方が4倍高くなっています。

 離別、離婚、配偶者との死別などを経験した人の場合、自殺未遂の割合が高くなります。自殺未遂や自殺既遂の割合は、一人で暮らしている人の方が高くなります。家族に自殺者がいる人の場合もリスクが増大します。

 人間関係が安定している人は、一人暮らしの人と比べて自殺の割合は低くなっています。また、多くの宗教(特にローマカトリック教)の熱心な信徒にも、自殺はあまりみられません。

 

自殺の危険因子

  65歳以上
  男性
  痛みや体の不自由さを伴う病気
  一人暮らし
  借金や貧困
  死別や喪失感
  屈辱や不名誉
  うつ病、特に精神病や不安を伴うもの
  他のうつ病の症状が軽快しても悲しみの感情が持続する状態
  薬物依存やアルコール依存の既往
  自殺未遂の既往
  家族の自殺歴
  身体的または性的虐待を含む小児期のトラウマ体験
  自殺への執着(そのことばかり話す)
  詳細な自殺計画

 

原因

 自殺行動は概していくつかの要因の相互作用によって起こります。最も多い要因がうつ病です。自殺未遂の50%以上にうつ病がかかわっています。結婚問題、恋愛上のトラブルや破局、両親との確執(青年期の場合)、愛する人を失ったこと(特に高齢者の場合)などがうつ病のきっかけになります。つらい状況が続いていた中で大切な人間関係が破たんするといった1つの要因が、最後の追い打ちとなることがあります。自殺する人の約6人に1人が遺書を残しますが、それはときとして理由を知る手がかりとなります。

 特定の身体疾患に苦しむ人が、抑うつ状態に陥って自殺を図ることがあります。自殺率の上昇と関連する身体疾患の多くは、神経系や脳に直接的な影響を及ぼすもの(エイズ、認知症、側頭葉てんかんなど)か、その病気の治療が うつ病の誘発にかかわるもの(高血圧治療に用いられる一部の薬など)のいずれかです。不安や誤った思いこみ(妄想)などの精神病性の特徴を伴ううつ病の場合は、こうした特徴がない うつ病に比べて自殺のリスクが高くなります。

 虐待など心に傷を残すような小児期の体験(トラウマ)がある人は、自殺を図る可能性が高くなります。

 うつ病は、飲酒によりさらに悪化し、かえって自殺行動を促進することがあります。アルコールは自制心を弱くします。自殺を図った人の約30%が事前に飲酒をしています。アルコール依存の場合、特に大酒を飲んでいるケースでは、酔いが覚めたときにしばしば深い自責の念に駆られるため、酔っていないときでも自殺傾向があります。

 うつ病以外の精神障害がある人でも自殺のリスクは高くなります。統合失調症などの精神病性障害があると、自殺を命令する幻聴(聴覚性の幻覚)が聞こえることがあります。境界性パーソナリティ障害や反社会性パーソナリティ障害で特に過去に暴力行動がみられた人は、自殺演技や自殺未遂を報復や自己主張の手段とする場合があります。

 

抗うつ薬と自殺のリスク:

 自殺未遂のリスクは抗うつ薬治療を開始する前の月に最大となり、自殺による死亡リスクは投与開始月がその後の月を上回ることはありません。ただし、一部の抗うつ薬は、起死念慮や自殺行動をやや高めるので(自殺既遂には至りません)、抗うつ薬を服用している患者については、自殺の危険性がないか注意深く監視する必要があります。

 最近、抗うつ薬を服用すると自殺のリスクが高まる可能性があるという公衆衛生上の警告がなされ、医師は小児や若年者に対する抗うつ薬の処方を控えるようになってきました。

 多くの医師は、最善の対策はうつ病を治療することであり、患者とその家族に対して、症状の悪化や起死念慮に注意を払い、徴候がみられたら直ちに医師に連絡を取るか、病院で治療を受けるように明確に警告することが重要だと考えています。

 

方法

 自殺方法の選択は、しばしば文化的背景や実行のしやすさに左右されます。自殺方法は、意図の重大さを反映することもしていないこともあります。事実上生存不可能な方法(高層ビルから飛び降りるなど)もあれば、救助可能な方法(薬の過量服用など)もあります。ただし、致死的でない方法を取った人も、致死的な方法を取った人に劣らず本気で死のうとしている場合もあります。

 自殺を図る際に最も頻繁に用いられる方法は、薬の過量服用と服毒です。

 

予防

 自殺未遂や自殺既遂が家族や友人に思いもよらぬ衝撃を与えることもありますが、多くの自殺者は明らかな警告サインを発しています。自殺がほのめかされたり、自殺未遂が起こった場合は、助けを求めるサインとみなすべきであり、真剣に受け止める必要があります。こうしたサインが無視されてしまえば、命が失われるおそれがあります。

 自殺をほのめかす言動がみられたり、実際に自殺未遂を起こしてしまった場合は、ただちに警察に連絡し、救急車を呼びます。助けが到着するまで、穏やかな支えるような態度で話しかけます。医師は自殺をほのめかしたり自殺未遂をした人を入院させることがあります。