腰痛

 一般的な原因は、ねんざと筋挫傷、変形性関節症、骨粗しょう症、椎間板破裂や椎間板ヘルニア、線維筋痛症、高齢者の脊柱管狭窄症などです。

 脊椎(脊柱)は椎骨から成り、それらはショックを吸収する軟骨でできた椎間板によって隔てられ保護されています。さらに椎骨も軟骨の薄い層に覆われています。椎骨は靭帯と筋肉によって所定の位置に保持され、それには次のような筋肉が含まれます。

‎ 脊椎の両側に沿って走行する2本の腸腰筋

 脊椎の後方を全長に沿って走行する2本の脊柱起立筋

 椎骨と椎骨の間を走行する、多くの短い傍脊椎筋群

 これらの筋肉が脊椎の安定を補助しています。胸郭の一番下から骨盤へ続く腹筋も、腹腔内の器官を支え脊椎を安定させるのに役立っています。

 脊椎の中には、脊髄が収容されています。脊髄神経は、脊髄に沿って椎骨の間の空間から出て全身の神経とつながっています。そして、脊髄に最も近い位置にある脊髄神経の部分は脊髄神経根と呼ばれています。脊椎が損傷を受けると、位置的に脊髄神経根が圧迫されて痛みを生じます。

 腰椎は5個の椎骨で構成されています。腰椎は、胸郭と骨盤や下肢を連結しているので、体を回す、ねじる、曲げるなどの動作を可能にしています。さらには、立つ、歩く、ものを持ち上げるという動作のための強度を提供しています。このように、腰はほとんどあらゆる日常動作にかかわっています。腰痛があると多くの日常活動が制限され生活の質が低下します。

 変形性関節症(変形性関節炎)は、椎骨を覆って保護している軟骨の変性が原因です。少なくとも部分的には、長年の使用による摩耗や断裂が原因と考えられています。一つの関節ないしは一連の関節に繰り返し負荷がかかると、変形性関節症を起こしやすくなります。椎骨の間にある椎間板が変性すると椎骨の間隔が狭まって、しばしば脊髄神経根が圧迫されます。椎骨に不規則な骨の突起(骨棘[こつきょく])ができると、脊髄神経根を圧迫することがあります。 

 これらの変化のすべてが、こわばりだけでなく腰痛の原因となります。

 骨粗しょう症の場合、骨密度が減り、骨折しやすくなります。椎骨は特に骨粗しょう症の影響を特に受けやすいところです。骨粗しょう症により、しばしば粉砕(圧迫)骨折を起こして突然背中にひどい痛みが生じたり、脊髄神経根が圧迫されて背中に慢性の痛みが生じたりします。しかしながら、骨粗しょう症による骨折のほとんどは、背中の上部や中央に発生するため、痛みも腰よりも背中の上部や中央に現れます。

 

原因

 腰痛の原因は数多く、特定の原因を突き止められないこともよくあります。

 挫傷と靭帯のねんざは、最もよくみられる原因です。挫傷やねんざは、ものを持ち上げたり、運動したり、転倒や自動車事故などで予想外の方向に体が動いたりしたときに起こります。運動による腰のけがは、ときにウエートリフターズ・バック(腰椎挫傷)と呼ばれています。このけがは、ウエートリフティングで重いウエートを地面から一気に持ち上げたときだけでなく、ラグビーで敵の選手を押しているとき、バスケットボールでリバウンドを取ってすぐにターンしてドリブルしたとき、野球のバットを振ったとき、ゴルフのクラブを振ったときなどにも起こります。腰のけがは体調が悪いときや、背骨を支える筋肉が衰えているときに起こりやすくなります。悪い姿勢、不適切な姿勢で物を持ち上げる、肥満、疲労なども関連しています。

 

治療

 腰痛が起きたばかりのときは、まず脊椎に負担をかけて痛みを起こす行動、つまり重いものを持ち上げたり腰をかがめたりなどの動作を避けることから治療を始めます。ベッドで安静にしても痛みの解消を早めることはないので、ほとんどの専門家は軽い運動を続けるように勧めています。また、激しい痛みを軽減するためにベッドでの安静が必要な場合も、1~2日にとどめるべきです。

 腰痛の原因となる特定の異常があれば、その治療を行います。たとえば、前立腺の感染症には抗生物質を投与して治療すると、通常は痛みが軽減します。

 市販薬や処方薬の非ステロイド性抗炎症薬を使用すると痛みを和らげ炎症を軽減することができます。炎症が痛みの原因ではない(通常は炎症が原因ではありません)場合、NSAIDの代わりにアセトアミノフェンが一般に鎮痛薬として勧められます。アセトアミノフェンは、NSAIDよりやや安全です。

 ときにカリソプロドール、シクロベンザプリン、ジアゼパム、メタキサロン、メトカルバモールなどの筋弛緩薬が、筋けいれんを抑えるために使われることがありますが、その有用性は意見が分かれています。これらの薬剤は、副作用が起こりやすい高齢者には勧められません。

 温めること、冷やすこと、マッサージは有用です。牽引は、通常役に立ちません。カイロプラクターや一部の医師による脊椎徒手整復(脊椎マニピュレーション)は、筋肉のけいれん、挫傷、ねんざなどによる痛みの解消が早くなることがあります。けれども、骨粗しょう症や椎間板ヘルニアのある人には、この手技はリスクがあります。針治療が同様の効果をもたらすという報告もあれば、ほとんどまたはまったく効果がないという報告もあります。

 痛みが治まった後に、医師や理学療法士が推奨するような軽い運動を行うと治癒や回復を早めることができます。背筋の筋力増強やストレッチ、腹筋強化のための特定の運動は、腰痛の慢性化または再発を防ぐのに役立ちます。その他の予防対策(良い姿勢を保つ、硬めのマットレスや適切な枕を使用する、正しい方法でものを持ち上げる、禁煙する)を続けるか、もしくは新たに始めます。これらの方法によって、ほとんどの腰痛は数日~2週間で解消します。治療法にかかわらず、腰痛症状の80~90%は6週間以内に消失します。

慢性腰痛の治療:

 慢性腰痛の場合には、対策の追加が必要です。有酸素運動が有用で、必要であれば減量するように助言されます。痛みが激しく、アセトアミノフェンやNSAIDでは十分に痛みを抑えられないときは、オピオイド鎮痛薬が必要になります。これらの鎮痛薬が無効であれば、その他の治療法が検討されます。

 経皮的電気神経刺激法(TENS)を使用することがあります。TENS装置は低い周波数の電流を発生し、患部にチクチクと穏やかな刺激を加えます。療法士は患者の痛みの程度に応じて1日に数回、1回あたり20分から数時間、痛みのある場所に通電します。この装置の使い方を覚えて患者が自分で行うこともできます。

 ときには、コルチコステロイド(デキサメタゾンまたはメチルプレドニゾロンなど)に局所麻酔薬(リドカインなど)を加えて、脊椎と脊髄を覆っている組織の外層の間の硬膜外腔に定期的に注射します。この硬膜外注射は、腰部脊柱管狭窄症よりも坐骨神経痛に効果があります。しかし、注射の効果は通常、数日から数週間です。その主な使用目的は、長期にわたり腰痛を除去できる運動プログラムを開始できるよう、痛みを軽減することだからです。

 激しく持続する痛みがある、重大な症状がある、坐骨神経痛が6ヵ月以上持続する、などの障害には、手術が必要な場合があります。椎間板ヘルニアにより、執拗な坐骨神経痛、筋力低下、感覚消失、膀胱と腸管のコントロール消失などが起きている場合は、椎間板の除去(椎間板切除術)と椎骨の一部切除(椎弓切除術)が必要です。通常、全身麻酔が必要です。局所麻酔薬を使用し小さく切開する顕微鏡手術がしばしば行われます。入院の必要はありません。しかし切開の範囲が小さいと視野が狭められて、外科医はヘルニアが起きている椎間板の断片をすべて取りきれないことがあります。いずれの手術も術後数週間で、ほとんどの人がすべての活動を再開できるようになります。90%以上の人は完全回復します。

 重症の脊柱管狭窄症の場合は、椎骨の大きな部分を除去して脊柱管を広げる手術を行います。手術は通常は全身麻酔で行われます。患者がすべての活動を再開できるまでに3~4ヵ月かかります。約3分の2の人は改善するか、または完全に回復します。残りの人も大部分が、症状の悪化を防ぐことができます。

 変形性関節症により脊椎が変性して不安定なときには、椎骨を固定します。しかし、椎骨を固定すると動きが制限され、脊椎の他の部分に余計な負担がかかることがあります。

腰痛 スピリチュアルな観点