がん

 癌は細胞の異常な増殖物です(通常は単一の細胞から発生します)。

 癌は悪性腫瘍のことです。細胞が何らかの原因で変異して増殖を続け、周囲の正常な組織を破壊する腫瘍です。がんや肉腫などがこれに入ります。

 私たちの体は約60兆個の細胞でできており、細胞は絶えず分裂することによって新しく生まれ変わっています。細胞分裂は、細胞の設計図である遺伝子をもとにコピーされることで起こりますが、発がん物質などの影響で遺伝子が突然変異し、「コピーミス」が起こることがあります。このコピーミスが「癌」のはじまりです。ただし、コピーミスが起きても、すぐにがんになるわけではありません。健康な人でも1日約5,000個のコピーミスが起こっているといわれています。通常、コピーミスで生まれた異常な細胞は、体内の免疫細胞の標的となり、攻撃されて死滅します。ところが、免疫細胞の攻撃を逃れて生き残る細胞がいて、「がん細胞」となります。それらが異常な分裂・増殖をくり返し、10~20年かけて「癌」の状態になります。

 がん の原因は、他人を恨み攻撃する心や、逆に強い責任感ゆえに自分をいじめる気持ちであることが多い。→ がん について スピリチュアルな観点

癌の症状

 癌は初めのうちは小さな細胞のかたまりで、特に症状はありません。癌が増殖すると、それ自体が物理的に隣接する組織に影響を及ぼすようになります。さらに、一部の癌は特定の物質を分泌するか免疫反応を誘発して、癌から離れた体のほかの部位に症状を起こします(腫瘍随伴症候群)。

 癌が増殖し、周辺の組織を押しのけるようになると、それらの組織に刺激や圧迫が加わります。一般に、刺激が起こると痛みが生じ、圧迫が生じると組織の正常な機能が妨げられます。たとえば、膀胱癌や腹部リンパ節の癌が腎臓と膀胱をつなぐ管(尿管)を圧迫すると、尿の流れが妨げられます。また、肺癌が肺の一部を通る空気の流れを妨げ、それにより肺が部分的につぶれて感染症を起こしやすくなる場合があります。癌が体の各部の血管を圧迫し、血流の遮断や出血が生じるケースもみられます。大腸の内側の壁のような広い空間がある部位に癌ができると、かなり大きくなるまで自覚症状がないこともあります。一方、もっとスペースの限られた部位、たとえば声帯などでは、癌が比較的小さいうちから(声のかすれなどの)症状が現れるかもしれません。癌が体の他の部位に広がった場合(転移)も、やがて同様に局所的な刺激や圧迫の影響が出てきますが、部位によって症状はまったく異なることがあります。肺を覆う膜(胸膜)や心臓を包む袋状の構造(心膜)に癌が生じて液体がにじみ出し、肺や心臓の周囲にたまることがよくあります。この液体が大量にたまると、呼吸や心臓の拍動を阻害します。

 

癌はどのように発生し広がるか

 癌細胞は、健康な細胞から悪性形質転換と呼ばれる複雑なプロセスを経て発生します。

イニシエーション

 癌の発生の第1段階はイニシエーションといい、この段階では、細胞の遺伝物質に変化が生じて細胞の癌化が始まります。細胞の遺伝物質の変化は、自然に起こる場合と、癌を起こす物質(発癌物質)が原因となる場合があります。発癌物質には、さまざまな化学物質やタバコ、ウイルス、放射線、日光などがあります。ただし、発癌物質に対してすべての細胞が同じように感受性があるわけではありません。たとえば、遺伝的な欠陥がある細胞は、影響を受けやすいと考えられます。慢性的な物理的な刺激を受け続けると、発癌物質に反応しやすくなる可能性があります。

プロモーション

 癌発生の第2段階(最終段階)はプロモーション(促進期)といいます。環境中の物質や、ときにはある種の薬(バルビツール酸など)が発癌の促進因子(プロモーター)として作用します。発癌物質とは異なり、促進因子それ自体には癌を発生させる力はありません。しかし、イニシエーションの変化がすでに起きている細胞は、促進因子の働きで癌化します。一方、イニシエーションの起きていない細胞には、促進因子の影響は及びません。つまり、癌が発生するには複数の条件が必要であり、多くの場合、癌が生じるには反応しやすい細胞と発癌物質が組み合わせが必要になります。

 癌を発生させる促進因子を必要としない強力な発癌物質もあります。たとえば、電離放射線(X線検査に使われるほか、原子力発電所内、原子爆弾の爆発でも発生)は肉腫、白血病、甲状腺癌、乳癌などさまざまな癌を引き起こします。

転移

 癌は周囲の組織に直接広がっていくこともあれば、離れた組織や器官に転移することもあります。リンパ系を介して転移することもあります。このタイプの転移は癌腫(カルシノーマ)に典型的です。たとえば、乳癌の多くはまず近くのリンパ節に転移し、それから遠く離れた部位に広がります。癌が血流に乗って広がることもあります。このタイプの転移は肉腫(サルコーマ)に多くみられます。

 

がん発生のメカニズム

 私たちの体は約60兆個の細胞でできており、細胞は絶えず分裂することによって新しく生まれ変わっています。細胞分裂は、細胞の設計図である遺伝子をもとにコピーされることで起こりますが、発がん物質などの影響で遺伝子が突然変異し、「コピーミス」が起こることがあります。このコピーミスが「がん」のはじまりです。ただし、コピーミスが起きても、すぐにがんになるわけではありません。健康な人でも1日約5,000個のコピーミスが起こっているといわれています。通常、コピーミスで生まれた異常な細胞は、体内の免疫細胞の標的となり、攻撃されて死滅します。ところが、免疫細胞の攻撃を逃れて生き残る細胞がいて、「がん細胞」となります。それらが異常な分裂・増殖をくり返し、10~20年かけて「がん」の状態になります。

 がんは、全身のあらゆる場所に発生する可能性があります。胃や肺、肝臓などの内臓はもちろん、血液や骨、皮膚などにできるがんもあります。がんの名前は、一般的に「胃がん」や「肺がん」などのように最初にできた部位の名前をとってつけられます。「脳腫瘍」や「白血病」など、「がん」という言葉がつかないものもありますが、脳腫瘍は脳にできるがん、白血病は血液のがんで、いずれもがんの仲間です。

 最近のさまざまな研究から、「がんは予防できる病気」であることがわかってきました。がんの危険因子の多くは生活習慣にあり、生活習慣の改善が がんの予防につながるということです。がんのなかには、ごく一部、遺伝性のものもありますが、遺伝要因よりも生活習慣要因のほうの影響が大きいと考えられています。生活習慣のなかでも、最大の危険因子とされているのが喫煙です。喫煙は肺がんだけではなく、食道がん、胃がん、大腸がん、子宮頸がんなど、多くのがんのリスクを高めます。さらに、受動喫煙といって、タバコから立ち上る煙は、タバコを吸わない人にも肺がんなどの健康被害をもたらします。食生活では、塩分のとりすぎは胃がん、野菜・果物不足は消化器系のがんや肺がん、熱すぎる食べ物や飲み物は食道がんのリスクを高めるとされています。近年、急増している大腸がんや乳がんなどは、食生活の欧米化が影響しているとされ、動物性食品への偏りも危険因子と考えられます。多量の飲酒は食道がん、肝臓がん、大腸がん、乳がんなどのリスクを高めます。

 

がんの危険因子

 喫煙
 塩分のとりすぎ
 野菜・果物不足
 熱すぎる食べ物や飲み物の刺激
 動物性食品のとりすぎ
 多量の飲酒

 がんのなかには、ウイルスや細菌などの感染によって発症するものがあり、肝臓がん、胃がん、子宮頸がんはその代表です。

がんの原因となるウイルス・細菌

肝炎ウイルス

肝臓がん

ピロリ菌

胃がん

ヒトパピローマウイルス(HPV)

子宮頸がん

家族歴と遺伝要因

 ある家族では、特定の癌になるリスクが高いことがあります。リスクが増大する原因は、単一の遺伝子による場合もあれば、いくつかの遺伝子の相互作用による場合もあります。家族に共通する環境的要因が遺伝子の相互作用に影響し、発癌を促す場合もあります。

 染色体の過剰や異常も癌のリスクを増大させます。たとえばダウン症候群の人には21番染色体が通常の2本ではなく3本あり、急性白血病の発症リスクが普通の人の12~20倍になります。

年齢

 癌の中にはウィルムス腫瘍、網膜芽細胞腫、神経芽腫などのように、ほとんど小児にしか発生しないものがあります。これらの癌が幼少時に発生する原因は明らかになっていませんが、遺伝で受け継がれた、または、胎児の発育中に生じた遺伝子変異によって生じると考えられます。一方、ほとんどの癌は高齢者に多く発生します。年齢に伴い発癌率が高くなるのは、おそらくより多くの発癌物質に長期間さらされる一方で、体の免疫系は弱まっていくためと考えられます。

環境的要因

 多くの環境的要因が発癌のリスクを上昇させます。

癌を引き起こす遺伝子

 重要な遺伝子に影響を与える異常(変異)は癌の発生に関与すると考えられています。こうした遺伝子は細胞の増殖を調節するタンパク質をつくり、細胞分裂や他の基本的な細胞の特性に変化をもたらします。

 癌を引き起こす遺伝子突然変異は、化学物質、日光、薬物、ウイルス、その他の環境的要因からの悪影響によって起こることがあります。一部の家系では、癌を誘発する異常な遺伝子が受け継がれます。

 癌に関係する遺伝子は、主に癌遺伝子(オンコジーン)と癌抑制遺伝子の2つに分類されます。

 癌遺伝子は、正常な段階では細胞の増殖を調整する遺伝子に変異が生じたものです。この遺伝子が過剰に活動して、分裂すべきでないときにも細胞に分裂を指示するようになると、癌が発生する場合があります。癌遺伝子の変異については完全には判明していませんが、X線、日光、就業中にさらされる毒物、空気中や化学物質(タバコの煙など)に含まれる毒物、感染性因子(ある種のウイルスなど)といった多くの要因が関与していると思われます。

 癌抑制遺伝子は、正常であれば、損傷したDNAを修復するタンパク質や細胞の増殖を抑えるタンパク質をつくるための情報を示し、癌の発生を抑制します。DNAの損傷によって癌抑制遺伝子の機能が損なわれ、影響を受けた細胞が連続的に分裂するようになると、癌が発生する可能性が高くなります。

 タバコの煙は発癌物質を含み、肺癌や口腔癌、咽喉癌、食道癌、腎臓癌、膀胱癌の発生リスクを大幅に上昇させます。

 産業廃棄物やタバコの煙による空気の汚染は、癌のリスクを増大させるおそれがあります。多くの化学物質に発癌性があることが証明され、他の化学物質にも疑わしいものが多数あります。たとえば、アスベスト(石綿)にさらされた人は、肺癌や中皮腫(胸膜の癌)になりやすい。喫煙者ではその傾向が強まります。殺虫剤にさらされることと一部の癌のリスク増大には関連があります(白血病や非ホジキンリンパ腫など)。化学物質にさらされてから癌になるまでには、かなり長い年月がかかることもあります。

 放射線への曝露も発癌の危険因子です。人体への紫外線照射は主に日光によるものですが、浴びすぎると皮膚癌の原因となります。電離放射線は特に発癌性の高い放射線です。地表から放出される放射性のラドンガスも、肺癌のリスクを増大させます。ラドンは、通常はすみやかに大気中へと拡散し、有害物質として作用することはありません。しかし、多量のラドンを含む土壌の上に建物があると、屋内にラドンが蓄積され、ときには生体に有害なほどの高濃度になる場合があります。ラドンが呼吸によって肺に入ると、やがて肺癌になるおそれがあります。喫煙者では、ラドンによる肺癌のリスクはさらに高くなります。

地理的要因

 癌のリスクは居住地域によっても異なり、その原因は往々にして複雑で、まだあまり解明されていません。地域差が生じる原因は、おそらく、遺伝や食事、環境といった多数の要因が関与していると考えられます。

 たとえば、日本では結腸癌や乳癌のリスクは低いのですが、米国に移住した日本人ではそれらの癌の発症率が増大し、最終的には米国人と同程度になります。他方、日本人の胃癌の割合はきわめて高いのですが、米国に移住し欧米式の食事をするようになった日本人では、胃癌のリスクは米国人と同程度に低くなります。ただし、こうしたリスクの低下傾向は移住者の次の世代以降で明らかになる場合もあります。食生活の欧米化によって、日本も現在では結腸癌や乳癌が増加し欧米と同じ割合に近づいています。逆に胃癌は低下しています。

食事

 食品中に含まれる物質が癌のリスクを増すことがあります。たとえば脂肪の多い食事は結腸癌、乳癌、前立腺癌のリスクを高めます。多量の飲酒は食道癌の発症率を高くします。燻製食品、漬物、焼き肉などが多い食事では胃癌の発症率が高くなります。体重過多または肥満の人は、乳癌、子宮内膜癌、結腸癌、腎臓癌、食道癌のリスクが高くなります。

薬物と医学的処置

 特定の薬物や医学的処置は、癌が発生するリスクを増大させます。たとえば、経口避妊薬に含まれるエストロゲンは乳癌のリスクをわずかに高めますが、このリスクは時間とともに低下します。また、エストロゲンとプロゲスチンというホルモンは、閉経後の女性にホルモン補充療法で投与した場合、乳癌のリスクを増大させます。ジエチルスチルベストロール(DES)は、この物質を薬剤として使用した女性と、母親の胎内でこの物質にさらされた女性の乳癌のリスクを高めます。タンパク同化ステロイドを長期使用すると、肝臓癌と前立腺癌のリスクがわずかに高くなります。化学療法や放射線療法による癌の治療は、数年後に二次癌が発生するリスクを高めることがあります。

感染症

 ヒトの癌の原因として数種のウイルスが知られており、これ以外にも発癌との関連性が疑われているウイルスがいくつかあります。ヒトパピローマウイルス(HPV、性器いぼの原因ウイルス)は子宮頸癌の原因の1つです。B型またはC型肝炎ウイルスは肝臓癌の原因となります。ヒトのレトロウイルスにはリンパ腫や血液系の癌の原因となるものがあります。一部のウイルスは特定の国である種の癌を起こしますが、他の地域では起こしません。

 細菌が癌の原因になることもあります。胃潰瘍の一因であるヘリコバクター・ピロリは、胃癌とリンパ腫のリスクを増大させます。

 寄生虫が癌の原因になることもあります。ビルハルツ住血吸虫が膀胱の慢性炎症と瘢痕化を引き起こし、癌に進行する場合があります。別の寄生虫である肝吸虫は膵臓と胆管の癌に関連しています。

炎症性疾患

 炎症性疾患は、しばしば癌のリスクを高めます。たとえば、潰瘍性大腸炎の患者はやがて結腸癌になる場合があります。

 

がんを予防・改善するために

がんの危険因子は生活習慣の改善で減らすことができます

 がんを予防するための生活習慣改善でまず重要なことは「禁煙」です。喫煙習慣のある人は、家族や周囲の人を巻き込まないためにも、直ちに禁煙を実行しましょう。食生活では塩分を控え、野菜や果物を積極的にとるようにして、バランスのよい食事を心がけましょう。お酒の飲みすぎはがんのリスクを高めるので、お酒を飲む人は適量を守るようにしましょう。運動する人や、仕事や日常生活でよく身体を動かす人は、がんになるリスクが低い。日常生活での活動量を増やすとともに、適度な運動を習慣として行いましょう。ただし、激しすぎる運動はがんを誘発する活性酸素を増やすことがあるので、ウォーキングや水泳などの有酸素運動がおすすめです。  

 がんは、糖尿病や高血圧などと同じ「生活習慣病」です。積極的に生活習慣を改善して、がん予防につとめましょう。

 

癌の予防

 食事や生活習慣の変更によって、一部の癌の発症リスクを下げることが可能になります。何がリスクの低下に役立つかは癌の種類によって異なります。タバコの使用は3分の1の癌に直接関与します。禁煙と他人のタバコの煙も避けることで、肺や腎臓、膀胱、頭頸部の癌になるリスクはかなり低下します。無煙タバコ(嗅ぎタバコや噛みタバコ)をやめると、口の中や舌にできる癌のリスクを減らすことができます。

 その他にも生活習慣を変えることで、発症リスクを下げられる癌があります。アルコール摂取量を減らすと、頭頸部、肝臓、食道の癌のリスクを下げることができます。食事の脂肪分を減らすと、乳癌と結腸癌のリスクが低下するとみられています。太陽光の(特に日中の)直射を避ければ、皮膚癌のリスクを下げられます。肌の露出を避け、紫外線のブロック効果を示すSPF値が高い日焼け止めローションを使うことも、皮膚癌のリスク低下につながります。アスピリンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の服用によっても、大腸癌のリスクは下がります。パパニコロー(パップ)検査は、子宮頸部の細胞に生じる前癌性の病変を検出し、子宮頸癌の予防に役立ちます。

 ワクチン接種により、ウイルスが原因で生じるいくつかの癌を予防できます。

 子宮頸癌は、性行為で特定の型のヒトパピローマウイルス(HPV)に感染することが原因で起こります。最初の性交渉を行う前にHPVのワクチン接種を受けておくと、ほとんどの子宮頸癌を予防できます。

 HPVに感染すると、肛門癌やいくつかの種類の頭頸部癌を発症するリスクも高くなります。

 別の例として、B型肝炎ウイルスに感染すると肝臓癌のリスクが高くなるため、B型肝炎ウイルスのワクチン接種はこのタイプの癌の予防につながります。

癌のリスクを軽減する方法:

 タバコを吸わない、タバコの煙を避ける。

 職業に関連する発癌物質(アスベストなど)を避ける。

 日焼け止めなしで長時間日光を浴びない。

 過度の飲酒を控える。

 閉経後の症状に対するホルモン療法(エストロゲンやプロゲステロンなど)を避ける。

癌のリスクを軽減する可能性がある方法:

 脂肪分、特に動物性脂肪の多い食品(脂肪の多い肉、全脂肪の乳製品など)の摂取を制限する。

 野菜と果物の摂取を増やす。

  体を動かし、活動的な生活をする。

 肥満にならないように体重を維持する。

 癌性または前癌性の増殖物を早期に発見することは、命を救います。40歳以上の女性では、年1回マンモグラフィを受けておくと、治癒可能な段階で乳癌を発見できる場合があります。 

 50歳以上の人では、2~3年ごとの大腸内視鏡検査(柔軟な観察用チューブを用いて大腸を観察する検査)でポリープや早期の結腸癌を発見することができます。

がん に対する体の防御 に続く