膵臓・膵炎

 膵臓は、消化酵素を産生する腺房とホルモンを産生する島という2種類の基本的な組織を含む臓器です。膵臓は消化酵素を十二指腸へ、ホルモンを血液中へ分泌します。

 アミラーゼ、リパーゼ、トリプシンなどの消化酵素は、腺房組織の細胞から分泌されて膵管に流れこみます。膵管はオディ括約筋のところで総胆管と合流し、ここから十二指腸へ流れていきます。消化酵素は通常、不活性の状態で分泌されます。酵素は消化管に到達したときだけ活性化されます。アミラーゼは炭水化物を、リパーゼは脂肪を、トリプシンはタンパク質を消化します。膵臓は大量の炭酸水素ナトリウムを分泌して、胃から流れてくる胃酸を中和することで十二指腸粘膜を保護しています。

 膵臓では3種類のホルモンが産生されます。糖(ブドウ糖)を血液中から細胞に移動させて血糖値を下げるインスリン、肝臓を刺激して蓄えられている糖を血液中に放出させて血糖値を上げるグルカゴン、インスリンとグルカゴンの放出を抑制するソマトスタチンです。

 膵臓は木の葉の形をした臓器で、長さは約13センチメートルあります。膵臓は、周囲を胃底部と十二指腸(胃に続く小腸の始まりの部分)の壁に囲まれています。

 膵臓には主に3つの機能があります。
・消化酵素を含む膵液を十二指腸に分泌します。
・血糖値を調節する働きを持つインスリンとグルカゴンというホルモンを分泌します。
・胃からくる酸を中和するのに必要な大量の炭酸水素ナトリウム(重曹の成分)を十二指腸に分泌します。

 

膵炎

 膵炎とは膵臓の炎症です。

 膵臓の炎症の原因には、胆石、アルコール摂取、さまざまな薬、ある種のウイルス感染症、消化酵素などがあります。膵炎は多くの場合急に発症し、数日で治まりますが、数ヵ月続くこともあります(急性膵炎)。しかし、炎症が持続し、徐々に膵臓の機能を破壊するケースもあります(慢性膵炎)。

 

慢性膵炎

 慢性すい炎は「沈黙の臓器」と呼ばれるすい臓に持続的な炎症が起こり、細胞が破壊され硬化してしまう病気です。

 長期間続く膵臓の炎症で、膵臓の機能と構造を回復不能に悪化させます。

 膵管の狭窄による膵管閉塞、胆石、膵癌などがあります。まれに重症の急性膵炎発作により膵管が極度に狭くなって、慢性膵炎が起こることがあります。熱帯地方の国(インド、インドネシア、ナイジェリアなど)では、原因不明の慢性膵炎が小児や若年成人にも起こります。

症状

 慢性膵炎の症状は急性膵炎の症状と同様で、大きく2種類のパターンに分かれます。

 一つは、腹部中央の持続的な痛みで、強さはさまざまです。このパターンでは、炎症性の腫瘤、嚢胞などの慢性膵炎の合併症、あるいは膵癌の可能性さえ高まります。

 もう一つは、膵炎が断続的に再発する(発作)パターンで、症状は軽症から中等度の急性膵炎に似ています。

 痛みはときに激しくなり、数時間から数日間続くこともあります。いずれのパターンでも、慢性膵炎が進行すると、消化酵素を分泌する細胞が徐々に破壊されるため、最終的に痛みが止まることがあります。

 消化酵素の数が減少するにつれ(膵機能不全症といいます)、食べたものが十分に消化されなくなります。食物の消化が不十分だと吸収がうまくいかず(吸収不良)、異臭のある、脂っぽい便(脂肪便)が大量に出ます。便の色は薄く、小さな油滴を含んでいることもあります。便の中に未消化の筋線維がみられることもあります。食物の吸収不良により体重減少も起こります。最終的には、膵臓のインスリン分泌細胞が破壊され、徐々に糖尿病が生じます。

 発症年齢は男性50代、女性60代がピークと言われています。

 症状としては上腹部痛や腰背部痛が一般的で、吐き気や嘔吐、食欲不振、腹部膨満感を訴える患者も少なくありません。飲酒後に痛みが起きるケースが多いですが、何もしなくても痛むこともあります。病気が進み後期になると、脂肪便や体重減少、糖代謝障害が出てくるようになります。

 慢性すい炎の原因は、アルコールの過剰摂取が70%を占めます。特に男性の慢性すい炎患者の場合は80%近くにのぼります。次に多いのは特発性で、女性患者のおよそ半数を占め、女性での原因のトップです。胆石が原因のケースも3%ほどと少数ながら認められます。食生活の欧米化による脂肪の多い食事の過剰摂取や、煙草の吸い過ぎも慢性すい炎を引き起こすと言われています。慢性すい炎は身近な生活習慣の乱れが原因の病気でもあります。

診断

 患者の症状と、それまでの急性膵炎の再発の病歴やアルコールの乱用から慢性膵炎を疑います。慢性膵炎の診断には、血液検査は急性膵炎ほど有用ではありませんが、アミラーゼとリパーゼの値が上昇します。血糖値(ブドウ糖値)も上昇しているので、そのチェックのためにも血液検査が行われます。

 慢性膵炎の変化を知るためにCT検査を行うこともあります。利用できる場合は、多くの医師がCT検査の代わりにMRCP(磁気共鳴胆道膵管造影)検査と呼ばれる特殊なMRI検査を行います。MRCPでは、CTよりも胆道や膵管が鮮明に示されます。

 慢性膵炎を起こすと、膵癌のリスクが高くなります。症状が悪化した場合、特に膵管が狭くなった場合は、膵癌が疑われます。このようなケースでは、MRI検査、CT検査、あるいは内視鏡検査を行います。

治療

 再発を繰り返す慢性膵炎の治療は、急性膵炎の治療に準じます。アルコールが原因ではない場合でも、慢性膵炎の患者はすべてアルコールを控えるべきです。食事は避けて輸液のみにして膵臓と腸を休息させ、再発の痛みを軽減します。さらに、オピオイド鎮痛薬が痛みを緩和するのに必要になることもあります。このような方法でも痛みが緩和しないことが多く、オピオイド系鎮痛薬の量を増やさざるを得なくなりますが、この場合薬物依存が生じる危険があります。慢性膵炎の痛みについては内科的治療では不十分なことがよくあります。

 その後は、脂肪分の少ない食事を、1日4~5回に分けて摂ると、再発の頻度と痛みの程度を抑えられることがあります。痛みが持続する場合は、膵頭部の炎症性腫瘤、偽嚢胞(膵酵素、膵液、組織の残がいが集まってできるもので、嚢胞に似ている)などの合併症がないか確認します。炎症性腫瘤の場合は、外科的治療が必要となることがあります。膵臓の偽嚢胞は、大きくなるにつれて痛みを起こすため、内部の液を排出する減圧処置をしなければならないことがあります。

 合併症がないのに痛みが続く場合は、麻酔薬のリドカインとコルチコステロイドの混合薬を膵臓から出る神経に注射し、痛みのインパルスが脳に到達するのをブロックすることが勧められる場合もあります。この処置が効かない場合に、膵管が拡張していたり、膵臓のある部分に炎症性の腫瘤がある場合には、手術が選択肢となります。たとえば、膵管が拡張している場合は、膵臓から小腸にバイパスを形成する手術により約70~80%の人で痛みが軽減します。膵管が拡張していない場合は、膵臓の一部を切除します。膵臓の一部を切除すれば、インスリンを分泌する細胞も切除することになるので、糖尿病を起こすことがあります。アルコールの摂取をやめており、糖尿病が生じた場合に管理ができる患者にのみ手術が行われます。適切な量の消化酵素が分泌できなくなった場合は、膵臓の酵素の抽出物の錠剤やカプセルを食事と一緒に服用することで、便の脂肪化を抑えて、栄養の吸収を改善しますが、これで症状がすべて消失することはまれです。必要ならば、H2遮断薬、またはプロトンポンプ阻害薬(これらの薬は胃酸の産生を抑えます)を膵臓の酵素と一緒に服用します。これらの治療を行うと、体重が増加することが多く、排便回数も減り、便に油滴が混ざることもなくなり、全身状態も良くなります。この方法が効果を現さない場合は、脂肪の摂取量を少なくしてみます。その場合は、脂溶性のビタミン(A、D、E、K)も補う必要があります。

 慢性膵炎による糖尿病の治療に、経口血糖降下薬を使用することはあまりありません。インスリンが必要となることが一般的ですが、これで問題が生じることがあります。患者には、インスリンの作用のバランスを取る働きをするホルモンであるグルカゴン濃度も低下しているからです。血液中のインスリン濃度が過剰になると、低血糖が生じ、このため低血糖昏睡が生じることがあります。

膵臓の病気 スピリチュアルな観点