解雇についての労働法における規制
労働基準法、男女雇用機会均等法、労働組合法などの法令には、解雇が禁止される場合が規定されています。これに違反する解雇は、解雇権濫用かどうか問題にすることなく、法的に無効となります。
1 労働者が業務上負傷し又は疾病にかかり、療養のために休業する期間及びその後30日間は解雇をしてはならない(労働基準法19条)
業務外の私傷病による休業期間については解雇は制限されません。また、業務上の傷病により治療中であっても、そのために休業しないで出勤している場合は、解雇の制限を受けません。
「業務上」とは、当該企業の業務により負傷し、又は、疾病にかかった場合を意味する者であり、他の企業で仕事を行い負傷をしても、業務上とはいえません。制限されているのは、「業務上の負傷」であって、「通勤災害」ではありません。ただし、通勤災害で負傷した者を即時に解雇する事は考えづらい為、普通は休職扱いにし、休職期間が満了した時の状況により判断することになります。
その後30日間とは、傷病の治ゆ後、労働能力の回復のために必要と認められる期間であり、その30日間は傷病が治ゆしたと診断されて出勤した日、又は出勤できる状態に回復した日から計算します。
2 産前産後の女性が労働基準法第65条の規定(産前6週間(多胎妊娠は14週間)、産後8週間)によって休業する期間及びその後30日間は解雇をしてはならない(労働基準法19条)
労働能力を喪失して休業している期間及び労働能力の回復に必要とみなされるその後の30日間について解雇の制限をしているわけです。
産前休業の場合は、産前6週間(多胎妊娠は14週間)の休業がとれる期間であっても労働者が休業しないで就労している期間は解雇制限されません。しかし、出産予定日前6週間の休業を与えられた後においても分娩が出産予定日より遅れて休業している期間は産前休業期間とされ解雇制限されます。
産後休業は8週間ですので、例えば、産後8週間を超えて休業していても8週間とその後30日が経過すれば解雇できますし、産後8週間を経過していなくても6週間経過後就労している場合(本人の請求に基づき、医師が支障がないと認める業務に従事している場合)は、就労し始めた日から30日を経過すれば解雇することができます。
これらにおける期間は、原則、労働者の責めに帰すべき事由があっても、期間中は解雇できません。以上の解雇の制限をクリアして、解雇に関する所定の手続きを満たせば、使用者は労働者を自由に解雇できることになります。
なお、本件で禁止されているのは、解雇ですから、労働者からの辞職願いや期間満了による退職及び定年退職については該当しません。
労働基準法第19条(解雇制限) |
3 国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇をしてはならない(労働基準法3条)
労働基準法第3条(均等待遇) |
4 年次有給休暇を取得したことを理由とする解雇の制限(労働基準法第136条)
労働基準法第136条 |
5 労働者が労働基準法違反の事実や労働安全衛生法違反の事実を労働基準監督署や労働基準監督官に申告したことを理由として解雇してはならない(労働基準法104条、労働安全衛生法97条2項)
労働基準法第104条(監督機関に対する申告) 労働安全衛生法第97条(労働者の申告) |
6 労働契約法の解雇制限
労働契約法 第17条(期間の定めのある労働契約) |
7 解雇について、労働者が女性であることを理由として、男子と差別的取扱をしてはならない(男女雇用機会均等法6条)
男女雇用機会均等第6条 |
8 女性労働者が婚姻し、妊娠し、出産し、又は労基法65条の産前産後の休業をしたことを理由として解雇してはならない(男女雇用機会均等法9条3項)
男女雇用機会均等法第9条(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等) |
9 女性労働者が都道府県労働局長に紛争解決の援助を求めたこと、または調停を申請したことを理由として解雇してはならない(男女雇用機会均等法17条)
男女雇用機会均等法 |
10 育児休業・介護休業の申出をしたこと、育児休業・介護休業をしたことを理由とする解雇はできない(育児介護休業法10条、16条)
育児介護休業法 第16条(準用) |
11 労働者が都道府県労働局長に紛争解決の援助を求めたこと、またはあっせんを申請したことを理由として解雇してはならない(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律4条3項、5条2項)
12 労働組合の組合員であること、労働組合に加入したり、結成しようとしたこと、労働組合の正当な行為をしたことを理由とする解雇は、不当労働行為になり(労働組合法7条1項)、また憲法28条の団結権等の保障を内容とする公序良俗に違反し、無効
問題のある就業規則規定例 第○条(懲戒解雇) |
この条文は、所轄労働基準監督署長の認定を解雇の要件としているので適切ではありません。解雇要件はあくまでも就業規則に定める懲戒事由です。所轄労働基準監督署長は当該事実を認定するのみです。
○解雇制限の除外事由
解雇制限期間内であっても次の場合は解雇することができます。
(1) 労働者が業務上負傷し又は疾病にかかり、療養のため休業し、療養開始後3年を経過しても治らない場合、平均賃金の1200日分を支払うとき。
(2) 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合で、その事由について、所轄労働基準監督署長の認定を受けたとき
故意・過失によらない火災や震災による損壊など、天災事変その他やむを得ない事由によって事業の継続が不可能となった場合です。ただし、この場合は、所轄の労働基準監督署長の認定を受けなければなりません。
「天災事変その他やむを得ない事由」とは、火災、災害、地震その他不慮の災害やそれに準ずるものをいい、事業経営上の見通しの誤りで事業を継続できなくなった場合は含まれません。申請事由が天災事変その他やむを得ない事由があるだけでは充分でなく、そのために事業の継続が不可能になることが必要です。
(やむを得ない事由)
(1) 該当する場合
① 事業場が火災により焼失した場合(事業主の故意又は重大な過失による場合を除く)
② 震災に伴う工場・事業場の倒壊・類焼等により事業の継続が不可能となった場合
(2) 該当しない場合
① 事業主が経済法令違反のため強制収容され、又は購入した諸機械、資材等を没収された場合
② 税金の滞納処分を受け事業廃止に至った場合
③ 事業主の危険負担に属すべき事由に起因して資材不足、金融難に陥った場合(個人企業で別途に個人財産を有するか否かは認定には直接関係ありません)
(事業の継続が不可能な事由)
(1) 該当する場合
① 事業の全部又は大部分の継続が不可能になった場合
(2) 該当しない場合
① 事業場の中心となる重要な建物、設備、機械等が焼失を免れ多少の労働者を解雇すれば従来通り操業できる場合
② 従来の事業は廃止するが多少の労働者を解雇すればそのまま別個の事業に転換できる場合
③ 一時的に操業中止に至ったが、事業の現況、資材、資金の見通し等から全労働者を解雇する必要に迫られず、近く再開復旧の見込みが明らかである場合
○解雇制限期間中に解雇した場合
解雇制限期間中に解雇した場合は、労働基準法違反となり、6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金となります。天災事変その他やむを得ない事由の為、事業の継続が不可能となった場合に、事前に労働基準監督署長の認定を受けずに解雇した場合も、同様に処罰されます。
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