肢体

骨の仕組み

 

人のからだは206個もの骨の組み合わせで支えられています。骨はからだを支えるだけでなく、内臓を守ったり、カルシウムなどのミネラルを貯めておくはたらきをしています。また、筋肉と協力して、立ったり歩いたりといった運動をするはたらきもしています。

 

 


骨の構造

 

骨のなかにある骨髄では、酸素や二酸化炭素を運ぶ赤血球、細菌やウイルスとたたかう免疫の主体となる白血球、けがをしたときに出血を止める血小板などが作られています。またこれらの血球成分や養分・ホルモン・老廃物などを運ぶ液体成分の血漿(けっしょう)は、肝臓で作られているといわれています。

 

 

 

 


脊柱

 

「脊柱」=「背骨」です。脊柱とは脊椎動物の体幹の中軸をなす骨格です。

頭蓋の後方に続き、体幹の構造上の中心をなす部分です。脊柱管の中を縦に走る神経の連なりのことです。延髄の下から始まり馬尾神経で終わります。

 

 

脊椎とはいわゆる背骨を構成する一つ一つの骨のことです。

 

 脊柱の構成は  ①頚椎(7個)  ②胸椎(12個)  ③腰椎(5個)  ④仙骨(1個)  ⑤尾骨(1個)

となります。

 

 

身体を横に倒したり、反ったり捻ったりする日常の動きの中で背骨の連なり(脊柱)は回旋させながら全体の動きやバランスを整えます。その際に脊柱の一つ一つの骨を支えている靭帯や筋肉は前後左右に脊柱が回旋運動しながら動くので、靭帯は必要な椎骨間の遊びを作りながら過度の回旋による椎骨間の必要以上のズレが起きないように支持する静的な働きをし、また筋肉は脊柱が正常な回旋運動をできるように筋力による動的な働きをします。

 

 背骨の大きな特徴は一つ一つの脊椎に空いた穴が積み重なり脊柱管(せきちゅうかん)と呼ばれる長い管を形成し、その中に脊髄、馬尾、神経根などの大切な神経を入れていることです。

 

 

脊柱の運動を支えるために小さな骨と骨の繋がりに多数の靭帯や筋肉が付着し、その靭帯や

筋肉が背骨を支えるために骨と骨をつなげるバンドの役や前後左右に身体のバランスをとるヨットの帆のような役割をすることにより、脊柱は身体の運動(前屈、後屈,側屈、回旋運動)を行なえます。

 

 

脊柱の動きをスムーズに行うことと、荷重(体重)が骨に直接伝わらないように椎間板という繊維性の軟骨組織がクッション(ショックアブソーバー)の働きをしています。

身体の動きのバランスをとる際に脊柱の中で体重移動や脊柱周りの筋肉を使うことで椎間板一つ一つの形が変化し脊柱全体の傾きを作り、また、椎体を守りながら脊柱の動きが生理的範囲内で自由に動けるように椎間板は働いています。

 

椎間板は体の中でも最も負担のかかる組織ですが、椎間板にはほとんど血行がありません。したがって、栄養が届きにくい椎間板は人体の中でも最も早く10歳代後半から老化が始まります。加齢によって椎間板からみずみずしさが失なわれクッションとしての機能が果せなくなると、椎間板が潰れてきます。その結果、周囲の関節、靱帯や筋肉に負担がかかり頚や腰の痛みが出やすくなります。進行すると脊椎がずれたり変形したりして脊柱管の中で神経が圧迫され、シビレや麻痺など神経の症状を出すようになります。  また、背骨は、化膿菌や結核菌が根付いたり、他の部位のがんが転移しやすい部位としても知られています。頭や体を支える大切な機能を持つ背骨に加齢や病気が生じると痛み、シビレ、時に麻痺が生じ、日常生活にも大きな支障を生じるのです。

 

関節

 

関節とはふたつの骨がしっかりつながっている部分のことです。

股や膝、肩、肘、手首、足首、顎(あご)など、体にはたくさんの関節があります。関節は、骨と骨をつなぎながら体を動かす役割があります。

関節は関節包という丈夫な筋(すじ)に包まれています。これを靭帯といい、ふたつの骨がはなれないように結び付けています。

 

関節包の内側は、軟骨や滑膜で守られています。関節腔の中には、関節の動きをなめらかにする潤滑油のはたらきをする滑液が分泌されています。これによってなめらかな動きが可能になります。

 

 

関節を動かすことで、座る、立つ、歩くなど、人間の基本的な動作ができるようになります。  関節疾患になると関節を動かすときに痛みが起き、日常の基本的な動作がつらくなり、日常生活に支障をきたします。

 

 

関節を構成する各要素により安定性が得られ、常時使用することによるダメージが軽減されます。関節内には骨の両端を覆う軟骨があり、これはコラーゲン、水、プロテオグリカンからなるなめらかで丈夫な弾力性のある保護組織で、関節が動くときの摩擦を軽減します。(コラーゲンは丈夫な線維組織であり、プロテオグリカンは軟骨に弾力を与えている物質です。)関節は内側を滑膜組織に覆われていて、これが関節包を形成しています。滑膜組織の細胞が産生する少量の透明な液体(滑液)は、軟骨に栄養を供給するだけでなく、摩擦を軽減して関節を動きやすくします。

 

 

膝の関節には、損傷を防ぐしくみが備わっています。関節の外壁は、関節包で完全に包まれ、関節包には動くのに十分な柔軟性があり関節全体を1つにまとめるほど丈夫です。関節包の内層には滑膜組織があり、ここで分泌する滑液が関節の中で潤滑剤の働きをしています。太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)の骨端部の表面は摩耗に強い軟骨で覆われていて、膝関節を動かしたときの摩擦を軽減するのに役立っています。板状の軟骨(半月板)は、大腿骨と脛骨の間でクッションの役割を果たし、関節にかかる体重の負荷を分散させています。液体の詰まった袋(滑液包)は、すねの骨(脛骨)と膝の皿(膝蓋骨)につながる腱(膝蓋腱)など、隣接する構造の間で衝撃を吸収しています。膝関節の両側面と後面にある5つの靭帯は関節包をしっかりと固定し安定させています。膝の皿(膝蓋骨)は膝関節の前面にあり、膝を保護しています。

 

膝の内部

 

 

 


関節疾患

 

関節が損傷・変形するのが、関節疾患です。悪化すると痛みや運動障害をもたらします。全身の関節に起こり得る疾患です。老化・外傷・病気・先天的疾患が主な原因です。

 

変形関節症・関節リウマチ・顎関節症・膝関節症・頸椎症・肩関節周囲炎(四十肩・五十肩)・変形股関節症・変形脊椎症・化膿性関節炎・痛風といった病気が、関節疾患に含まれます。

 

 

 

 

神経系の基本構成単位は、神経細胞(ニューロン)です。

神経細胞は、大きな細胞体と以下の2種類の神経線維からなります。

 

軸索:

メッセージを電気インパルスとして送る役目をする、長く伸びた1本の突起

樹状突起:

インパルスを受け取る役目をする、通常は多数ある枝

 

普通、神経の電気インパルスは、一つの神経細胞の軸索から送信され、隣の神経細胞の樹状突起で受信されるという一方向で伝達されます。神経細胞の接合部(シナプス)では、軸索から微量の化学伝達物質(神経伝達物質)が放出されます。神経伝達物質は、隣の神経細胞の樹状突起にある受容体を刺激して、新しい電流を発生させます。異なるタイプの神経は、それぞれ異なる神経伝達物質を利用し、シナプスを経由して電気インパルスを伝えています。

 

一つ一つの大きな軸索は、脳と脊髄では乏突起膠細胞に、末梢神経系ではシュワン細胞に包まれています。これらの細胞の膜はミエリンと呼ばれる脂肪(リポタンパク)でできていて、この膜が軸索に何層にもしっかりと巻きついて髄鞘を作っています。髄鞘はちょうど電線を覆う絶縁体のようなものです。髄鞘がある神経では、髄鞘がない神経より神経インパルスがずっと速く伝わります。髄鞘が損傷を受けると、神経の伝達が遅くなったり止まったりします。

 

 

脳と脊髄は、グリア細胞と呼ばれる支持細胞も含んでいます。グリア細胞には以下の種類があります。

 

星状膠細胞:

神経細胞に栄養を与えるとともに神経細胞の周りにある液体の化学組成を整え、神経細胞の成長を可能にする細胞

 

乏突起膠細胞:

ミエリンという神経軸索を絶縁する脂質を作り、インパルスが神経線維をより速く伝わるようにする細胞

 

ミクログリア:

脳を感染症から防ぎ、死んだ細胞から生じるゴミを取り除く手助けをする細胞

神経細胞は、他の神経細胞との結合を常に増減させています。人が学習したり、適応したり、記憶したりできるのは、ひとつには、この機構があるからだと考えられています。しかし、脳と脊髄は新しい神経細胞をほとんど作りません。例外は、記憶の形成に関与する海馬といわれる領域です。

 

神経系は、大量の情報を同時に送受信できる、きわめて複雑な通信システムです。しかし、病気や外傷に対しては脆弱で、たとえば、神経細胞が変性すると、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病などを引き起します。乏突起膠細胞が炎症を起こし、多発性硬化症の原因となることもあります。また、脳や脊髄が細菌やウイルスに感染すると、脳炎や髄膜炎が起こります。脳への血液供給が妨げられると、脳卒中が起きる可能性があります。外傷や腫瘍(しゅよう)により、脳や脊髄に構造的なダメージが生じることもあります。

 

 

 

 神経系には、脳と脊髄からなる中枢神経と、そこから枝葉に分かれて全身の器官・組織に分布する末梢神経がある。

 

 

中枢神経

中枢神経は脳と脊髄からなる神経組織です。知的機能、運動・感覚機能や基本的な生命活動を担っています。

 

中枢神経の構造

 

 

 

脳は、内臓、体表、眼、耳、鼻、口から送られてくるすべての刺激を処理します。そして、その刺激に反応して、体の姿勢や、四肢の動き、内臓の働く速さを修正します。脳は、気分や、意識レベル、覚醒レベルの調整も行います。

 

 

脳の機能は、普通、人が小児から成人へ、さらに老人へと年をとるにしたがって変化します。小児期には、思考力と判断力が着実に伸びるため、より複雑な技術を習得していくことが可

能です。成人期の大半は、脳の機能が比較的安定しています。個人差はあるものの、一定の年齢を超えると脳の機能は低下します。それぞれの脳機能が加齢の影響を受ける時期はそれぞれ異なります。

短期記憶と新しいことを覚える能力は、比較的早く低下する傾向がある

言語能力は、語彙や用法なども含めて70歳ごろに低下し始める

知的能力、すなわち情報処理能力は(処理速度はともかく)、神経に障害がない限り普通は80歳ごろまで維持される

脳が神経インパルスを処理する速度が落ちるため、反応速度と作業能率が低下する

しかし、加齢による脳機能への影響を、高齢者に多いさまざまな病気の影響と区別することは困難な場合があります。このような病気の例として、うつ病、脳卒中、甲状腺の活動低下(甲状腺機能低下)や、アルツハイマー病など変性性脳疾患があります。

健康状態による個人差が非常に大きいものの、通常は加齢に伴い脳の神経細胞の数が減少していきます。また、残された神経細胞も機能が低下します。しかし、脳にはこれらの損失を補う特徴があります。

 

余剰性(リダンダンシー):

脳には正常機能に必要な数以上の細胞があり、加齢や病気による神経細胞の損失を補うのに役立つ。

 

新しい結合の形成:

脳は、残っている神経細胞の間に新しい結合を作ることによって、加齢による神経細胞の減少を積極的に補う。

 

新しい神経細胞の生産:

脳の一部の領域では、特に軽度の脳損傷や脳卒中のあとに、新しい神経細胞が作られることがある。

脳損傷や脳卒中を経験した人が、作業療法などで新しい技能を習得できることがあるのは、このような理由によります。

人は、脳機能の低下速度に影響を与えることができます。たとえば、頭を使ったり運動したりすると、記憶に関係する脳領域の神経細胞の損失がゆっくりになると考えられています。こうした活動は、残っている神経細胞の機能を保つのにも役立ちます。一方、アルコール飲料を毎日2、3杯飲むと、脳の機能低下を速める可能性があります。

年をとると、脳への血流が平均で20%減少します。脳への動脈にアテローム動脈硬化(脳血管障害)がある人では、血流がさらに減少します。この疾患は、長期にわたって喫煙していた人や、高血圧、高コレステロール、高血糖(糖尿病)がライフスタイルの変更や投薬でコントロールされていない人で起きやすくなります。そのような人では、脳細胞が早い時期に失われ、精神機能にも障害が生じる可能性があります。その結果、比較的若年で認知症になるリスクが高くなります。

 

 

脳には常に栄養が必要です。脳は非常に多くの血液と酸素を必要とし、その量は、心臓から全身に送られる血液の約20%にもなります。脳への血流が約10秒間途絶えただけでも、人は意識を失います。酸素不足や異常な低血糖状態によっても、脳のエネルギーが不足し、数分以内に脳に重大な損傷が生じる可能性があります。とはいえ、脳はこれらの障害を防ぐための、いくつかのメカニズムによって守られています。たとえば、脳への血流が減少すると、脳はただちに心臓に信号を出し、より速くより力強く拍動して、血液の拍出量を増やすよう促します。血糖値が低くなりすぎた場合、脳は副腎に信号を送ってエピネフリン(アドレナリン)を分泌させ、肝臓を刺激して貯蔵されている糖を放出させます。

 

 

脳への血液供給

 

 

血液は、以下の2対の大きな動脈を通って脳に運ばれます。

内頸動脈:心臓から出た血液を首の前側に沿って運びます。

椎骨動脈:心臓から出た血液を首の後側に沿って運びます。

 

左右の椎骨動脈は頭蓋内で合流して、後頭部で脳底動脈となります。内頸動脈と脳底動脈は、大脳動脈を含む数本の動脈に枝分かれします。動脈の枝のいくつかはつながって輪になっています(ウィリス動脈輪)。椎骨動脈と内頸動脈はウィリス動脈輪でつながっています。ちょうど環状道路から分岐する道路のように、ウィリス動脈輪から枝分かれする動脈の枝もあり、脳全体に血液を運んでいます。

 

 

脳は、血液脳関門と呼ばれる薄いバリアによっても守られています。このバリアは、血液中の有毒物質が脳に到達するのを防ぎます。脳では体の大部分と異なり、毛細血管の壁を作っている細胞の間がぴったりと閉じていて(毛細血管は体内で最も細い血管のことで、そこで血液と組織との間で栄養と酸素の交換が行われます)、このことが関門の役割を果たしています。血液脳関門は、脳に入ることができる物質の種類を制限します。たとえば、ペニシリンや多くの化学療法薬、大半のタンパク質は脳に入ることができません。その一方で、アルコール、カフェイン、ニコチンは、脳に入ることができます。抗うつ剤のようなある種の薬は、血液脳関門を通過できるように設計されています。脳で必要とされる物質の中には、糖やアミノ酸など、このバリアを容易に通過できないものがありますが、血液脳関門にはこうした物質を通過させて脳組織に運ぶ輸送システムがあります。

神経細胞(ニューロン)が発する電気インパルスによって脳の活動が生じます。神経細胞は情報の処理と保存を行います。インパルスは、脳内で神経線維をたどって伝わります。どの種類の脳の活動がどの程度の規模で起きるか、また脳のどこで最初に起きるかは、その人の意識レベルと、そのときに何を行っているかによって異なります。脳は、大脳、脳幹、小脳という3つの主要部分からなります。これらはさらに、それぞれ独自の機能をもつたくさんの小さな領域に分かれています。

 

大脳:

大脳は、脳の最大の部位で、複雑に入り組んだ組織がぎっしり詰まったかたまりです。外側の層は大脳皮質(灰白質)です。成人では、神経系の神経細胞のほとんどが大脳皮質に集まっています。皮質の下にある白質は、主に皮質の神経細胞と神経系の他の部分とをつなぐ神経線維で構成されています。

大脳は、左右2つの大脳半球からできています。左右の大脳半球は、橋のような構造をした神経線維(脳梁)によって脳の中心部でつながっています。各大脳半球は、さらに前頭葉、頭頂葉、後頭葉、および側頭葉に分けられます。それぞれの葉は独自の機能をもっていますが、脳のほとんどの活動では、両半球のさまざまな葉にある複数の領域が一緒に機能する必要があります。

 

前頭葉には以下のような機能があります。

興味があるものに目を向ける、道路を横切る、排尿のために膀胱をゆるめるなど、多くの自発的行動を開始する

字を書く、楽器を演奏する、靴ひもを結ぶなど、習得した動作をコントロールする

話す、考える、集中する、問題を解く、将来の計画を立てるなど、複雑な知的処理をコントロールする

顔の表情や、手と腕のジェスチャーをコントロールする

気分や感情と、表情やジェスチャーとを協調させる

 

前頭葉内のさまざまな領域がそれぞれ異なる動きに対応していて、普通は、左の前頭葉が右半身、右の前頭葉が左半身の動きをコントロールしています。また、ほとんどの人では言語にかかわる機能の大半を左の前頭葉がコントロールしています。

 

頭頂葉には以下のような機能があります。

体の他の部分から送られてくる感覚情報を解釈する

体の動きをコントロールする

形、手ざわり、重さの印象を総合的な知覚としてまとめる

数学的な能力や言語の理解に影響を与える(側頭葉の隣接する領域と同じ働き)

位置の把握(今どこにいるか)と方向感覚の維持(どこに向かっているか)に必要な空間記憶を保存する

体の各部の位置を知るのに役立つ情報を処理する

 

後頭葉には以下のような機能があります。

視覚情報を処理し解釈する

視覚的記憶の形成を可能にする

隣接する頭頂葉から提供される空間的な情報と視覚認識とを統合する

 

側頭葉には以下のような機能があります。

記憶と情動を生み出す

今起こった出来事を最近の記憶または長期の記憶に加工する

長期記憶の保存や呼び出しを行う

音と画像を理解することにより、他人やものの認識や、聞くことと話すことの統合を可能にする

 

大脳の基底部には、基底核、視床、視床下部という神経細胞の大きな集合体があります。基底核は、複数の動きを協調させ、動きを滑らかにしています。視床は、脳の最高司令部(大脳皮質)へ出入りする感覚情報を取りまとめて、痛み、触感、温度といった一般的な感覚を生じさせます。視床下部は、睡眠と覚醒のコントロール、体温の維持、食欲と体内の水分バランスの調節など、より自動的な体の機能を調整しています。

大脳辺縁系と呼ばれる神経線維システムは、視床下部を前頭葉や側頭葉の他の領域につないでいます。大脳辺縁系には海馬や扁桃体が含まれます。大脳辺縁系は、体の自動的な機能のほか、感情の経験や表現もコントロールしています。人が肉体的および精神的な動揺を互いに伝え合い、それらを切り抜けるような行動をとることができるのは、大脳辺縁系が、恐怖、怒り、喜び、悲しみなどの感情をつくり出しているからです。海馬は記憶の形成と呼び出しにも関与しています。大脳辺縁系の働きによって、感情を伴う記憶は、そうでない記憶よりも思い出されやすくなります。

 

脳幹:

脳幹は、大脳と脊髄をつないでいる部分です。脳幹上部の深くには神経細胞と神経線維のシステム(網様体賦活系と呼ばれる)があり、意識と覚醒のレベルを調節しています。

脳幹はまた、呼吸、嚥下、血圧、心拍などの重要な身体機能を自動的に調整し、姿勢の調節も助けています。脳幹全体が重大なダメージを受けると、意識が失われ、自動的な身体機能も停止して、ほどなく死に至ります。

 

小脳:

小脳は、脳幹の真上、大脳の下にあり、体の動きを統合しています。四肢の位置に関する情報を大脳皮質と基底核から受け取り、筋肉の緊張度と姿勢を常に修正することで、四肢をなめらかに、かつ正確に動かします。小脳はまた、前庭神経核と呼ばれる脳幹内の領域とも相互作用します。前庭神経核は内耳の平衡調整器官(半規管)につながっていて、これらの器官が一緒に働くことでバランス感覚が生じます。小脳は、習得された運動の記憶も保存しています。バレエダンサーのターンなどの高度な協調運動が素早くバランスよく行えるのは、この記憶のおかげです。

 


脊髄

脊髄とは背骨の中にある脊髄腔を通る神経の道のことをいいます。

脳と脊髄を合わせて中枢神経、そこから枝葉に分かれて延びる神経を末梢神経といいます。  脊髄から直接出ている神経は神経根と呼ばれ、頸髄、胸髄、腰髄、仙髄、尾髄の5つに分けられます。

 

脊椎(脊柱)は、椎骨と呼ばれる骨が連なってできています。長くて傷つきやすい脊髄は、脊椎の中心を通る脊柱管の中にあり、椎骨によって保護されています。椎骨と椎骨の間には軟骨でできた椎間板があり、脊椎のクッションとしての役目を果たし、ある程度の柔軟性を与えています。脊髄からは、椎骨と椎骨の間を通って31対の脊髄神経が出ています。それぞれの神経は、2本の短い枝(神経根)に分かれており、1本は脊髄の前(運動神経根、前根)に、もう1本は脊髄の後ろ(感覚神経根、後根)に位置します。運動神経根は脳と脊髄からの命令を、体の他の部分、特に骨格筋へ伝えます。感覚神経根は体の他の部分の情報を脳へ伝えています。脊髄は、脊椎の下方約4分の3の位置で終わりますが、そこから下へ一束の神経が伸びています。この神経の束は馬の尾に似た形をしているため馬尾と呼ばれており、下肢へ行き来する神経インパルスを伝えます。

 

脳と同じように、脊髄も灰白質と白質で構成されています。蝶のような形をした脊髄の中心部には、灰白質があります。蝶の羽の前部にあたる部分(角と呼ばれる)には、脳や脊髄からの情報を筋肉に伝えて運動を起こさせる運動神経細胞が集まっています。後側の角には、体の他の部分からの感覚情報を脊髄経由で脳に伝える感覚神経細胞が集まっています。周囲の白質には、体の他の部分からの感覚情報を脳へ運ぶ経路(上行路)と、脳から出されたインパルスを筋肉へ運ぶ経路(下行路)である、神経線維の束が通っています。

 

 

脊髄は人体で最も重要な器官なので、脊柱(背骨)という硬い組織の中に収められているだけでなく、さらに内側に髄膜という膜が脊髄のまわりをすっぽりと包み込んでいます。髄膜はまた硬膜、クモ膜、軟膜という3つの層から成り立っていて、クモ膜の内部には髄液が満たされ、外界からの衝撃をやわらげる働きをしています。

 

脊髄と髄膜は、脊椎の中央を通っている脊柱管の中にあります。大半の成人では、脊椎は26個の背骨(椎骨)でできています。頭蓋が脳を保護しているように、椎骨は脊髄を保護しています。椎骨の間は、軟骨でできた椎間板で隔てられており、歩行やジャンプなどの動きで生じる衝撃を和らげるクッションの役目をしています。

 

 

 

加齢に伴って椎骨の間の椎間板が硬くもろくなり、椎骨の一部が過剰に成長することがあります。すると、椎間板のクッション機能が損なわれ、脊髄と、脊髄から出る神経の枝(脊髄神経根)により大きな圧力が加わります。圧力が上昇すると、脊髄の中の神経線維を傷つけることがあります。この損傷により、感覚が鈍くなり、また力やバランス感覚が低下することもあります。

 

 

髄膜

脳と脊髄はともに、3層の組織(髄膜)で覆われ、守られています。

最も内側にある層は、軟膜とよばれる薄い膜で、脳と脊髄にくっついています。中間には、くも膜とよばれるクモの巣状のデリケートな層があります。くも膜と軟膜の間にあるスペース(くも膜下腔)は、脳と脊髄の保護に役立つ脳脊髄液の通り道になっています。脳脊髄液は、髄膜の間を通って脳の表面を流れ、脳の内部にある空間(4つの脳室)を満たして、急激な振動や軽い外傷から脳を保護します。最も外側にある層は、革のような最も丈夫な層で、硬膜とよばれます。脳と髄膜は、丈夫な骨の保護体である頭蓋の中に収容されています。

 

 

 

 

 

末梢神経

末梢神経とは、中枢神経系以外の神経系、すなわち脳と脊髄以外の神経のことを指します。

末梢神経はその中枢神経からの情報を末端器官に伝えるとともに、全身に分布する組織からの情報を中枢神経に伝えるという役目を担っています。

 

末梢神経系は、全身に糸のように張り巡らされた1000億個以上の神経細胞からなり、脳と体の他の部分をつないでいます。また、多くの場合、神経同士もつながっています。末梢神経は神経線維の束でできています。神経線維は、脂肪性の物質でできたミエリンと呼ばれる組織で何層にも包まれています。これらの層が形成する髄鞘(ミエリン鞘)は、神経インパルスが神経線維を伝わる速度を速めます。神経がインパルスを伝える速さは、神経の直径と、神経の周囲を囲むミエリンの量によって異なります。

 

末梢神経には以下のような部分があり、このいずれが損傷を受けても、末梢神経の機能不全が生じます。

軸索(信号が伝わる部分)

神経細胞の細胞体

髄鞘(軸索を包んでいる膜で、神経信号が速く伝わるのを可能にしている)

 

 

 

脳神経と脊髄神経

脊柱から枝分かれする末梢神経はさらに2つに区分され、脳神経と、脊髄と末梢とを連絡する脊髄神経からなっています。

 

 

 


脳神経

眼、耳、鼻、のどと脳をつなぐ神経や、頭、首、体幹のさまざまな部分と脳をつなぐ神経は脳神経と呼ばれております。

特殊な感覚(視覚、聴覚、味覚など)を担う脳神経と、顔の筋肉や腺を制御する脳神経があります。脳神経は、位置によって、脳の前から後ろに向かって名前と番号が付けられています。

 

脳神経の構成

 

12対の脳神経は、脳の下側から出て、頭蓋骨の開口部を通り、頭、首、体幹のさまざまな部位へ伸びています。

 

 


脊髄神経

脊髄と体の他の部分をつなぐ神経は脊髄神経と呼ばれる。

脳は、この脊髄神経を通じて体のほとんどの部分と情報のやり取りをしている。

脊髄神経は31対あり、頸神経(8対)、胸神経(12対)、腰神経(5対)、仙骨神経(5対)、尾骨神経(1対)に区分されます。脊髄に沿って間隔を空けながら配置されています。脳神経の一部と脊髄神経の大部分は、末梢神経系の体性神経と自律神経を両方とも含んでいます。

 

 

脊髄は背中の下部(L1かL2のあたり)で終わりますが、下部脊髄神経根はさらに伸びていて、馬の尾に似た神経の束(馬尾)を形成しています。

脊髄は高度に系統化されています。脊髄の中心部には、蝶のような形をした灰白質があります。蝶の羽の前部にあたる部分(前角あるいは運動角)には、脳や脊髄から運動神経根を経由して筋肉へ信号を伝達する神経細胞があります。後角(感覚角)には、脊髄の外の神経細胞から感覚神経根を経由して痛みや温度などの感覚情報の信号を受け取る神経細胞があります。

 

 

脊髄神経は、椎骨の間の隙間を通って脊髄から出ています。それぞれの神経は2本の短い枝(脊髄神経根と呼ばれる)に分かれ、1本は脊髄の前に、もう1本は脊髄の後ろに位置します。

 

脊髄神経は神経根を経由して、脊髄から出る神経信号と脊髄に入る神経信号を伝えています。

 

神経根には次の二つがあります。

 

運動神経根(前根):

前方に位置し、脊髄から筋肉に信号を伝えて筋肉の運動を引き起こします。

 

感覚神経根(後根):

感覚根は脊髄の後ろに入る。感覚神経線維は体の各部から脳へ、感覚に関する情報(体の姿勢、明るさ、触感、温度、痛み)を運ぶ。特定の感覚神経根から伸びている感覚神経線維は、それぞれ体の特定の領域(デルマトーム)からの情報を運ぶ。

対応する運動神経根と感覚神経根は、脊髄を出てから合流して、1本の脊髄神経になります。脊髄神経には、神経叢と呼ばれる複雑に絡み合った神経のネットワークを形成するものもあ

ります。神経叢では、さまざまな脊髄神経の神経線維が並べ替えられ、そして再び組み合わされます。これによって、体のある領域に出入りしているすべての神経線維が1本の神経にまとめられます。主な神経叢には、腕と手に向かう神経線維を組み替えている腕神経叢と、脚と足に向かう神経線維を組み替えている腰仙骨神経叢の二つがあります。

 

 

脊髄の中央では、蝶のような形をした灰白質が、脊髄神経から出る信号と、脊髄神経に入る信号を伝達しています。蝶の「羽」は角と呼ばれています。

 

前角(運動角):

脳や脊髄からの信号を、運動神経根を経由して筋肉に伝達する神経細胞があります。

 

後角(感覚角):

痛みや温度などの感覚情報の信号を、脊髄の外にある神経細胞から感覚神経根を経由して受け取る神経細胞があります。

 

信号は、脊髄を上に向かうもの(脳に行く信号)と、下に向かうもの(脳から来る信号)とがあり、それぞれ別の経路を通ります。さまざまな経路が、それぞれ異なるタイプの神経信号を伝えています。

 

たとえば、次のような経路があります。

 

外側脊髄視床路:

感覚神経根で受けた痛みや温度に関する信号が、この経路を通って脳に伝わります。

 

脊髄後索:

感覚神経根で受けた腕や脚の位置に関する信号が、この経路を通って脳に伝わります。

 

皮質脊髄路:

筋肉を動かすための信号が、この経路を通って脳から運動神経根に伝わり、運動神経根からさらに筋肉に伝わります。

 

 

脊髄の外側は白質と呼ばれ、ここには、神経線維の経路があります。それぞれの経路は特定のタイプの神経信号を伝達しており、脳に信号を伝える経路(上行路)と、脳からの信号を伝える経路(下行路)とがあります。

 

 

末梢神経は、体の運動や知覚を制御する体性神経と、意思とは関係なく内蔵・血管などの自動的制御に関わる自律神経系に大別される。

 

体性神経は、意識的にコントロールできる筋肉(随意筋または骨格筋)と皮膚にある感覚受容体を脳や脊髄につなぐ神経からなっています。

 

運動神経 :

筋肉の運動を起こす。

知覚神経 :

   末端器官からの熱さ、冷たさ、痛さといった温痛覚や触覚を伝え、また、手足の位置、振動などを認識する深部感覚を伝える。

(感覚受容体は、体の中と周囲の情報を得るために神経線維の末端が特化したものです。)

 

 

加齢に伴って末梢神経のインパルス伝達速度が落ちると、感覚が低下し、反射が遅くなります。多くの場合、動きもぎこちなくなります。神経伝導が遅くなるのは、髄鞘(神経を包みインパルスの伝導を速くする組織層)が変性するからです。変性が起こるのは、加齢に伴って血流が減少することと、近くの骨が過剰に成長して神経に圧力が加わることが原因です。普通はこの影響はとても小さいため、神経が他の何か(たとえば糖尿病など)による損傷を受けていない限り、機能的に目立った変化は起こりません。

年をとると、末梢神経系の損傷に対する反応も低下します。若い人では、末梢神経の軸索が損傷を受けても、脊髄の中か近くにある細胞体に損傷がない限り神経は自分で修復することができます。高齢者ではこの自己修復過程が遅く不完全になるため、病気やけがの影響を受けやすくなります。

 

 

腫瘍

 

腫瘍という用語は、非癌性(良性)か癌性(悪性)かに関係なく、組織が異常に増殖したものを指します。非癌性の腫瘍は、体の多くの部分では、ほとんどまたはまったく問題を引き起こしません。しかし、脳や脊髄では、どのような異常増殖や腫瘤(しゅりゅう)でも、神経組織にかなりの損傷を与えることがあります。

 

神経系以外の場所にできる一部の癌は、神経組織に侵入した証拠がないにもかかわらず、神経系の機能不全の症状を引き起こすことがあります。このような異常は腫瘍随伴症候群と呼ばれ、具体的な症状としては、認知症、気分の変動、けいれん発作、協調運動障害、めまい、複視、眼球運動の異常などがあります。最もよくみられる影響は、末梢神経系の機能不全で、筋力低下、しびれ、チクチクする感覚などの症状がみられます。

 

 

運動障害

手を上げたりほほ笑んだりすることも含めて、体のあらゆる動作は、中枢神経系(脳と脊髄)と神経と筋肉の複雑な相互作用によって行われています。

このいずれに損傷や機能不全が起きても、運動障害の原因となります。

 

 

運動障害の種類

麻痺や運動障害の重さは、脳卒中で障害された脳の損傷具合に影響されます。また、運動障害の1つである麻痺はその現れた部位別にも名称が決まっています。

 

重症度別の麻痺や運動障害の種類

 

痙縮

筋肉が重く突っ張った感じがする程度

 

不全麻痺

部分的な麻痺、わずかな麻痺

 

完全麻痺

まったく動かない麻痺

 

付随運動

「動かそう」という意思がないのに、手足が勝手に動いてしまうという付随運動の後遺症。付随運動のよくあるケースは、健康な側(健側)に力を入れると麻痺側の手足が勝手に動くという現象です

 

運動失調

筋力の低下や麻痺がないにもかかわらず、筋肉の協調運動ができず随意運動のできない状態。小脳が障害されると、ふらふらする、バランスが悪くなって上手く歩けない、めまいがする、といった運動失調が現れることもあります。

 

 

運動失調

 

運動の規則性・方向性・速度・距離の障害による運動の時間的・空間的効率の低下を意味し、また、運動の支点となる関節での固定性を伴う。

 

運動失調を構成する要素

平衡障害・協調運動障害(運動を円滑に行う為に、多くの筋肉が調和を保って働くこと)

 

 

運動失調の分類

 

1 脊髄性運動失調症

  深部感覚(位置覚・関節覚・筋覚)の障害により生じる。

  【検査】Romberg(+)

  【代表的疾患】梅毒による脊髄癆・フリードライヒ運動失調症

 

2 迷路性運動失調症

  起立と歩行時の平衡障害が特徴。必ず、眼振を伴う。

  四肢の随意運動には障害が無く、深部感覚にも異常は無い。

 

3 大脳性運動失調

  前頭葉・側頭葉・頭頂葉などの障害でも運動失調が起こる。

  最も有名なのは、脳腫瘍による前頭葉性運動失調症。

 

4 小脳性運動失調

  ①小脳虫部の障害

   平衡障害が強く、起立・坐位の障害や歩行障害が著明である。

   主に、体幹運動失調。

  ②小脳半球の障害

   障害部位と同側の四肢に運動失調が出現。

   筋緊張低下・構音障害・眼振も出現する。

   a,古小脳症候群(片葉小節葉)

     歩行時の平衡障害、起立や坐位での障害など、体幹運動失調がある。

   b,旧小脳症候群(小脳前葉)

     歩行障害が主で、下肢の運動失調がある。

     起立ないし歩行時には、陽性支持反応が亢進する。

   c,新小脳症候群(小脳後葉)

     障害側の上下肢に運動失調・筋緊張の低下がみられる。

障害側の筋は易疲労性となり、脱力もみられる。

歯状核障害では、企図振戦がある。

 

 

協調運動障害

 

 体のさまざまな部位を使って目的の動作を行うことが障害されることをいう。

 

協調運動障害は、随意運動を協調させている脳の領域である小脳の機能障害が原因で起こります。

小脳の機能障害により、協調運動が失われます。

腕や脚をうまく制御できず、歩幅が大きくなって歩行が不安定になります。

診断は症状、家族歴、脳のMRI検査に基づいて行われます。

可能であれば原因を是正します。原因を是正できない場合は、症状の軽減が治療の中心となります。

小脳は脳の一部で、一連の動作を調整しています。バランスと姿勢の制御も行っています。小脳が損傷を受けると、どのような損傷であれ、協調運動障害(運動失調)の原因となりえます。

長期間の過量飲酒は、小脳に永続的な損傷を与え、協調運動障害の原因として最も多いものです。あまり頻度は高くありませんが、甲状腺機能低下症(甲状腺の活動性の低下)、ビタミンE欠乏症、脳腫瘍などの病気が協調運動障害を引き起こす場合もあります。フリードライヒ運動失調症などの遺伝性疾患も、協調運動障害の原因となります。ある種の薬剤(抗けいれん薬など)は、特に高用量で使用した場合に、協調運動障害を引き起こすことがあります。その場合は、薬剤の使用を中止すると症状もなくなるでしょう。

 

協調運動障害の原因

種類

脳の病気

脳の先天異常

脳内出血

脳腫瘍(特に小児)

頭部外傷(繰り返し起きた場合)

脳卒中

遺伝性疾患

脊髄小脳失調症

フリードライヒ運動失調症

毛細血管拡張性失調症

その他の病気

熱射病または極度の高熱

多発性硬化症

多系統萎縮症

甲状腺機能低下症(甲状腺の活動性の低下)

ビタミンE欠乏症

薬剤および毒物

飲酒(長期間にわたる過度の飲酒)

フェニトインなどの抗けいれん薬(特に高用量の場合)

一酸化炭素

重金属(水銀や鉛など)

 

症状

運動失調が起きると、腕や脚の位置、体の姿勢をうまく調節できなくなります。そのため、歩行時に歩幅が大きくなってふらつき、腕は大きくジグザグに動きます。

 

協調運動障害によって次のような別の異常が引き起こされることもあります。

 

測定障害:

体の動きの範囲をコントロールできなくなります。たとえば、何かを手に取ろうとしたときに、手が対象物を通り越してしまうなどします。

 

構音障害:

声を出す筋肉の運動の協調が失われるために、ろれつが回らなくなり、抑揚を制御できなくなります。口の周囲の筋肉が通常より大きく動きます。

 

断続性言語:

話し方が単調になり、スタッカートのように途切れます。

 

眼振:

何かを見つめようとしたときに視線が対象を通過してしまい、眼振が生じます。眼振では、眼球が一方向に急速に動いた後、ゆっくり元の位置に戻るという動きが繰り返し起こります。

 

振戦:

目的のある動きを終えたときや物に手を伸ばそうとしたとき(企図振戦)、または体を特定の姿勢に保とうとしたとき(姿勢時振戦)に、小脳の損傷が原因で振戦が起こることがあります。筋肉の緊張が低下することもあります。

 

フリードライヒ失調症:

フリードライヒ運動失調症は進行性で、5~15歳の間に歩行が不安定になります。その後、腕の動きが協調しなくなり、話し方が不明瞭になって聞き取りにくくなります。この病気がある小児の多くは、出生時に、内反足もしくは脊椎の弯曲(脊柱側弯症)、またはその両方がみられます。やがて、振動の感覚がなくなり、腕と脚の位置が分からなくなり(位置感覚喪失)、反射が失われます。精神機能も低下することがあります。振戦は、起こったとしても軽度です。

この病気がある人は、20代後半までに車いすが常時必要になることがあります。中年期までに亡くなることが多く、多くの場合、死因は不整脈または心不全です。

 

診断と治療

診断は症状に基づいて行われます。医師は、近親者に似た症状のある人がいないか(家族歴)と、症状がどのような状況で起こるかについても質問します。通常は脳のMRI検査が行われます。協調運動障害の家族歴が考えられる場合は遺伝子検査が行われます。

可能であれば、原因を取り除くか、治療します。たとえば、協調運動障害の原因がアルコール摂取である場合は、飲酒をやめます。高用量の薬剤(フェニトインなど)が原因の場合は、用量を減らします。甲状腺機能低下症やビタミンE欠乏症など、原因となる病気も治療します。 

脳腫瘍がある場合は、手術で症状が軽減することがあります。遺伝性の協調運動障害に対する根治的な治療法はありません。その場合は、症状の緩和が治療の中心となります。
下肢の外傷性運動障害

 

 下肢の外傷性運動障害とは、交通事故などに代表される外傷性の損傷により、下肢の運動機能が著しく困難になることです。

 

 下肢の外傷性運動障害の原因としては、下肢に外傷を負ったことが主原因となります。そのシチュエーションとしては、交通事故災害、労働災害、スポーツ事故などが代表的です。

歩きづらくなったり、完全に歩行することができなくなったりする症状があります。さらには、座ることができなかったり、特定の姿勢を取ることが困難になったりします。

 下肢の外傷性運動障害の治療方法としては、まず外傷を負った時点では外傷を修復するための外科的手術が行われます。このときには、骨の修復・神経の修復・皮膚の修復などに重点を置いて手術が行われます。

 

手術後の経過観察は、負った外傷の度合いにより異なりますが、炎症を起こさないための薬物投与を行いながら、慎重に経過が観察されます。

 もし、下肢の切断などの事態になってしまっていると、松葉杖や義肢を使用した歩行のトレーニングなども行われます。

 

 

随意運動・不随意運動

 

 随意運動とは、自分の意思によって生じる運動のことで、運動を促進する神経経路と抑制する神経経路のバランスの上に成り立っている。

 相反する作用をコントロールしているのが大脳基底核で、随意運動がスムーズに行われるようにはたらく。

 

 

 運動機能には、大脳皮質、大脳基底核、脳幹、小脳、脊髄など、中枢神経の様々な部位がかかわっている。そのどこかにニューロンの変性・脱落が生じると、随意運動の障害(運動麻痺 など)や付随意運動の出現をきたす。

 

 

 自分の意思とは関係なく現れる異常運動のことを不随意運動といいます。

専門的には性状によって分類されています。  脳梗塞脳出血、神経変性疾患などにより大脳基底核などの錐体外路(すいたいがいろ)に障害が起こるとみられることがあります。それ以外に薬の副作用でもみられることがあります。また、原因がとくにはっきりしないこともあります。

(1)本態性振戦  振戦(震え)とは、律動的に細かく振動するような運動をいい、安静時にみられる振戦はパーキンソン病に特徴的です。一方、字を書いたり、物を持ったりするときにみられる振戦(姿勢時振戦)で、とくに原因がはっきりしないものを本態性振戦といいます。主に手に、時に頭部に振戦がみられますが、それ以外には異常がなく良性の疾患です。  軽症では治療を必要としませんが、日常生活に支障が出るほどの時には、アロチノロール(アルマール)やクロナゼパム(リボトリール)の投与で振戦を軽くすることができます。時に飲酒で軽くなる人もみられます。

(2)バリスムス  上下肢全体を投げ出すような、または振り回すような大きく激しい不随意運動です。バリスムスは、視床下核の脳梗塞脳出血による障害で反対側の上下肢に起こるものがほとんどです。  この場合は、自然に消える場合がほとんどですが、ハロペリドール(セレネース)の投与が比較的有効です。

(3)アテトーゼ  手足や頭をゆっくりとくねらせるような動きをする不随意運動です。脳性麻痺(のうせいまひ)や代謝異常などでみられます。アテトーゼ自体は、薬物療法による治療効果は乏しく、強い筋肉の緊張を伴う場合にジアゼパム(セルシン)などで筋肉の緊張を軽くさせる程度です。

(4)ジストニア  ジストニアとは、筋肉の緊張の異常によって異常な姿勢、肢位をとるものをいいます。頸部(けいぶ)の異常姿勢を示す痙性斜頸(けいせいしゃけい)や、字を書く時にだけ手に変に力が入り字を書きにくくなる書痙(しょけい)も、局所の特発性ジストニアです。  アテトーゼと同様に代謝異常でみられることもありますが、それ以外に、パーキンソン病治療薬や抗精神病薬の副作用でみられることもあります。トリヘキシフェニジル(アーテン)などで効果があります。

(5)ミオクローヌス  ミオクローヌスは、手足、全身のビクッとする素早い動きのことで、健康な人でも入眠時にみられることがあります。代謝異常でみられることが多いのですが、まれな病気で、亜急性硬化性全脳炎(あきゅうせいこうかせいぜんのうえん)やクロイツフェルト・ヤコブ病では、ミオクローヌス自体が主症状でみられます。  ミオクローヌスの治療は、代謝異常では原疾患の治療でよくなりますが、クロナゼパム(リボトリール)が有効です。

(6)口(くち)ジスキネジー  口をもぐもぐさせたり、舌をペチャペチャさせるような不随意運動です。パーキンソン病治療薬や抗精神病薬の副作用で起こることがあります。

 

 

感覚麻痺

 

知覚鈍麻・知覚脱失

知覚鈍麻とは、広義には皮膚の表面知覚(触覚、痛覚、温覚)ならびに深部知覚の鈍麻状態をいいますが、一般には狭義に解釈して多くの場合は触覚のみに限られて使用されます。これが高度になると知覚脱失となります。

知覚過敏

広義には皮膚の表面知覚(触覚、痛覚、温覚)ならびに深部知覚の過敏状態をいいますが、一般には狭義に解釈して多くの場合は触覚のみに限られて使用されます。触覚路に刺激状態がある場合におこり、高度になると疼痛として感じます。

知覚異常

知覚神経の走路中に不適応刺激が加わると、異常な感覚、例えばムズムズしたり、ピリピリしたりする感覚がおこりますが、このような感覚が病的に出現するときに、これを知覚異常といいます。

 

 

運動麻痺

 大脳の運動中枢から末梢神経、筋線維までの間に障害が生じ、随意的に体を動かせなくなった状態を麻痺(運動麻痺)という。

 

麻痺は、脳・脊髄(せきずい)から末梢神経に至る運動神経や筋肉の障害による筋力低下です。麻痺が起こると、手足や全身の筋肉に思うように力が入らず円滑に運動できなくなってしまいます。

 

 

1 片麻痺

片麻痺は「かたまひ」または「へんまひ」と読み、体の左右どちらか片側の半身に起こる麻痺です。顔面を含める場合もあります。そのうち、頭部の片側の脳神経麻痺と反対側の上・下肢の麻痺がある場合を交代性片麻痺、片側の上肢と反対側の下肢に麻痺がある場合を交叉性片麻痺といいます。

原因の多くは脳血管の障害です。突然、片麻痺が発症するなら脳出血や脳梗塞などをまず疑います。突然の激しい頭痛で知られているくも膜下出血でも、時に片麻痺が現れます。

麻痺が24時間以内、多くは数分以内に治まるものを一過性脳虚血発作といいます。脳梗塞の前触れとして重要な症状で、1年以内に約10%、5年以内に約30%が脳梗塞を発症するといわれています。

徐々に起こる片麻痺には、慢性硬膜下血腫(こうまくかけっしゅ)などがあります。慢性硬膜下血腫は頭部に外傷(ごく軽いものも含む)を受けて約1~3カ月(時に年単位)たってから現れるもので、中年以上の男性でアルコールをたくさん飲む人に多くみられます。

 

症状

疑われる病気名

急に起こる

意識障害、感覚障害、言語障害

脳梗塞 脳出血

突然の頭痛、嘔吐、意識消失

くも膜下出血

24時間以内、多くは数分で治まる麻痺

一過性脳虚血発作

6歳前の小児、発熱、主に半身のけいれん

急性小児片麻痺

発熱、意識障害、頭痛

日本脳炎

急~やや急

視力低下、しびれ感、歩行障害

多発性硬化症

やや急~徐々

頭痛、不眠、神経質、無力感

神経ベーチェット病

徐々に起こる

頭痛、嘔吐、てんかん発作、言語障害

脳腫瘍

頭部外傷後、頭痛、認知症状

慢性硬膜下血腫

全身の筋肉がやせて力がなくなる

筋萎縮性側索硬化症

手や腕の麻痺、温痛覚がなくなる

脊髄空洞症

 

 

2 対(つい)麻痺

両側の下肢の麻痺で、原因のほとんどが脊髄と末梢神経の障害です。急に起こるなら急性脊髄炎や脊髄の血管障害、徐々に起こるなら脊髄の腫瘍などを考えます。

多発性硬化症は、厚生労働省の特定疾患に指定されている神経難病のひとつで、対麻痺だけでなく片麻痺、四肢麻痺、単麻痺などの形をとり、多彩な様相を示します。

 

症状

疑われる病気名

急に起こる

感覚障害、排尿・排便障害

急性脊髄炎

温痛覚がなくなる、背部痛

脊髄の血管障害

かぜ症状や下痢のあと

ギラン・バレー症候群

徐々に起こる

背中・手足の痛み、運動障害、便秘

脊髄の腫瘍

その他

多発性硬化症 筋萎縮性側索硬化症 など

 

 

3 四肢麻痺

両側の上・下肢の麻痺で、脳幹や末梢神経の障害、筋肉の病気などで起こります。

ギラン・バレー症候群は、かぜ症状や下痢のあと1~3週間たってから急に発症します。麻痺は、ごくわずかな対麻痺から四肢の完全な麻痺までみられます。普通、2~4週間でピークに達して進行がとまり、3~6カ月でほぼ治りますが、約10%の人に後遺症が残ります。

重症筋無力症は、自己免疫疾患のひとつです。筋肉に力が入らなくなり、疲れやすい、朝は症状が軽く夕方になると重くなる、複視、上まぶたが垂れる(眼瞼下垂(がんけんかすい))などの症状が現れます。

 

症状

疑われる病気名

急に起こる

年1回~週数回起こる手足の脱力

周期性四肢麻痺

徐々に起こる

遺伝性・進行性の筋力低下

進行性筋ジストロフィー症

疲れやすい、複視、上まぶたが垂れる

重症筋無力症

発熱、関節炎、筋肉痛、まぶたの皮疹

多発性筋炎

その他

日本脳炎 多発性硬化症 神経ベーチェット病 急性脊髄炎 ギラン・バレー症候群 など

 

 

 

4 単麻痺

左右どちらかの上肢または下肢(指を含む)だけの麻痺で、末梢神経、大脳皮質などの障害で起こります。

正中神経が麻痺すると、手指の屈曲、親指を手のひらと垂直に立てる運動(外転)、親指と小指をつける運動(母指対立)などができなくなり、母指球筋(親指の付け根の筋肉)がやせてきて猿の手のような外観(猿手)になります。

腓骨(ひこつ)神経が麻痺すると、足首や足の指を上げることができなくなり、これを「垂れ足」と呼んでいます。

 

症状

疑われる病気名

手指

手指・手首が伸ばしにくい→垂れ手

橈骨神経麻痺

手指の外転・母指対立ができない→猿手

正中神経麻痺

薬指と小指が伸びにくくなる→鉤爪(鷲手)

尺骨神経麻痺

足首や足指を上げられない→垂れ足

腓骨神経麻痺

その他

脳梗塞 脳出血 一過性脳虚血発作

多発性硬化症 脳腫瘍 脊髄空洞症

脊髄の腫瘍 など

 

 

5 その他

原因不明の特発性顔面神経麻痺をベル麻痺といい、急に顔の片側が麻痺し、そのため目を閉じられなくなったり、額にしわを寄せられなくなったりします。

糖尿病、ビタミンB1欠乏症、鉛・水銀による中毒、ある種の薬物中毒などでは四肢の先端の部分が麻痺してきます。

また、脊椎に肺がんや甲状腺がん、乳がん、前立腺がんなどが転移すると、脊髄を圧迫して麻痺が起こってきます。

 

 

 

中枢神経系の感染症

 

中枢神経系は脳と脊髄で構成されます。これらの臓器は感染に対して強い抵抗力をもっていますが、いったん感染が起きると、しばしば非常に深刻な状態に陥ります。感染を引き起こす病原体には、細菌、ウイルス、真菌などがあり、ときとして原虫や寄生虫も原因となります。

 

感染症では通常、炎症が起こります。

脳と脊髄を包む組織層(髄膜)の中には液体で満たされている空間があり、この空間に起こる感染症は髄膜炎と呼ばれます。

細菌性髄膜炎は脳に広がることが多く、脳炎を引き起こします。

同様に、脳炎の原因となるウイルス感染が髄膜炎を引き起こすこともあります。したがって、細菌性髄膜炎やウイルス性脳炎が生じた状態は、厳密には髄膜脳炎といえます。

しかし、通常は主としてくも膜下腔と髄膜に生じた感染症は髄膜炎と呼ばれ、主として脳に生じた感染症は脳炎と呼ばれます。

 

髄膜炎と脳炎では脳全体に炎症が起こり、髄膜炎では脊髄全体にも炎症が起こります。しかし、感染が膿の蓄積として1ヵ所に限定される(限局する)場合もあり、このような膿の蓄積は場所によって膿瘍や蓄膿と呼ばれます。膿瘍は、おできに似たもので、脳を含む体のあらゆる場所にできます。コウジカビなどの真菌、トキソプラズマ原虫などの原虫、有鉤条虫などの寄生虫も、膿瘍に似た限局的な脳感染症を引き起こすことがあります。

 

細菌や他の感染性微生物は、いくつかの経路で髄膜やその他の脳領域に侵入してきます。

血流に乗って運ばれてくる

体外から脳に直接侵入する(頭蓋骨骨折や脳手術の場合など)

副鼻腔や中耳など、感染を起こしている近くの器官から広がってくる

 


脱髄疾患

 神経線維には、ちょうどビニールを巻いた電線のように、神経細胞の長い突起である軸索をしんにして、それを髄鞘という管状のさやが取り巻いているものがあります。   脱髄疾患というのは、ふつう軸索はおかされずに残り、髄鞘が脱落する病気のことを指します。

 

病気が重く、激しいときには、軸索もおかされていきますが、あくまでも、髄鞘がおかされることが、この病気の特徴です。脱髄疾患のなかには、多発性硬化症、デビック病、急性散在性脊髄炎、汎発性硬化症などの、いろいろな病気が含まれます。

 

 

脳の内外のほとんどの神経線維は、ミエリンと呼ばれる、脂肪(リポタンパク)でできた何層もの組織に包まれています。これらの層は髄鞘と呼ばれる組織を形成しています。髄鞘は電線を包む絶縁体のような役割を果たしていて、この働きによって、神経の情報伝達に必要な電気信号が神経線維に沿って速くかつ正確に伝えられています。髄鞘が損傷すると、神経の電気信号が正常に伝わらなくなります。ときには神経線維も損傷を受けることがあります。

出生直後の段階では、多くの神経の髄鞘はまだ発達していません。新生児の動きがぎこちないのは、そのためです。髄鞘が発達するにつれて、よりスムーズで意味のある協調的な動作ができるようになります。特定のまれな遺伝性疾患(テイ・サックス病、ニーマン・ピック病、ゴーシェ病、ハーラー症候群など)のある小児では、髄鞘が正常に発達しないために、神経に永久的な異常が発生し、その影響はしばしば広範囲に及びます。

成人では、脳卒中、炎症、免疫異常、代謝異常、栄養素の欠乏(ビタミンB12欠乏症など)などによって髄鞘が破壊されることがあります。このように髄鞘が破壊される現象は脱髄と呼ばれます。毒物、薬剤(抗生物質のエタンブトールなど)、過度の飲酒なども髄鞘の損傷や破壊の原因となります。髄鞘が自然に修復して再生できれば、神経機能は正常に戻ります。しかし、髄鞘にひどい損傷が起きると、その中にある神経線維まで壊死してしまうことがあります。 

中枢神経系(脳と脊髄)の神経線維が再生することはほとんどないので、そうした損傷は元に戻りません。

脱髄が主に中枢神経系で起きる病気もあれば、主に体の一部の神経だけで起きる病気もあります。中枢神経系に脱髄を引き起こす病気のうち、原因不明なものは、原発性脱髄疾患と呼ばれます。

最も多くみられる原発性脱髄疾患が多発性硬化症です。

 

 

 

 

末梢神経障害(ニューロパチー)

 

 神経系には、脳と脊髄の中枢神経と、そこから分かれて全身の器官・組織に分布する末梢神経があります。

 

 末梢神経は、体の運動・近くを制御する体性神経と、意思とは関係なく内蔵・血管などの自動的制御に関わる自律神経系とに大別されます。体性神経はさらに運動神経(筋肉の運動を起こす)と、感覚神経(末端器官からの熱さ、冷たさ、痛さといった温痛覚や触覚を伝え、また、手足の位置、振動などを認識する深部感覚を伝える)があります。自律神経は、内蔵・血管・分泌腺などの器官に分布し不随意的に働き、それぞれの臓器に対して交感神経と副交感神経が二重支配し、両者は相反する作用をしながら協調的に作用しています。

 

 この末梢神経系に故障がおこった状態を、末梢神経障害またはニューロパチーと呼びます。

 

末梢神経障害の症状

 三種類の末梢神経のうち、運動神経に傷害がおこると、筋力が低下したり筋肉が萎縮します。感覚神経の傷害では、しびれや痛みがおこり、痛み・熱さ・冷たさなどの感覚が鈍くなってきます。自律神経の傷害では、立ちくらみ、排尿障害、発汗異常、勃起不全、下痢・便秘などがおこります。

 

 症状の現れ方は、傷害される末梢神経の分布により、多発性末梢神経障害と単末梢神経障害に分けられます。多発性末梢神経障害では手足、特に両足のしびれが多くみられます。一つの神経だけに傷害がおこる単末梢神経障害の場合には、その神経の支配領域、例えば一側の手や足にしびれや痛みがおこります。この単末梢神経障害があちこちにおこると多発性末梢神経障害といいます。これらの症状は、末梢神経障害の原因により、感覚障害が強い感覚障害優位から運動障害優位や自律神経障害優位という特徴があります。

 

 また、多発性末梢神経障害には、突然発症する急性のものと、数ヶ月から数年かけて症状が徐々に現れる慢性のものがあります。

 

末梢神経障害の原因

 多発性末梢神経障害は、糖尿病によることが最も多く、この他にアルコール過剰摂取、ビタミンB欠乏、尿毒症など全身の代謝異常によるものを代謝性末梢神経障害といいます。その他には、薬剤や重金属などの有毒物質による中毒性、さらに遺伝性、特発性(自己免疫反応性)末梢神経障害などもあります。

 

 単末梢神経障害は、機械的な局所の圧迫性末梢神経障害や血管炎などによります。

 

症状と経過  末梢神経障害を有する患者は、足の指先の違和感、足底に紙が貼りついた感じ、足の正座したあとのようなしびれ、足のつりやこむら返りなどを訴えます。通常、足先から左右対称性に現れ、しばしば夜間に増強し、ストッキング状に拡大するのが特徴です。手にも同様の症状が現れる場合もありますが、出現したとしても手の症状は通常は足に比べて軽度です。さらに末梢神経障害が進行すると、神経の死滅が進んで、違和感やしびれ、痛みなどが弱くなったり、消失することがあります。つまり、足の痛みやしびれが弱まった時は、本当に神経が改善した場合と進行した場合があるので、見分けなければなりません。進行して感覚が低下した場合は、足に靴ずれや胼胝(べんち たこ)ができても痛みを感じなくなり、手当てが遅れるという危険が増します。

 

診断と治療の方法  末梢神経障害は、前述のような患者さん本人の自覚症状と、アキレス腱反射が保たれているかどうか、モノフィラメントによる圧感覚のチェック、音叉(おんさ)による振動覚検査などによって診断します。アルコールを多飲している患者さんでは、アルコール性末梢神経障害が重なっている場合が少なくありません。治療は、軽症例であれば血糖コントロールのみでしばしば改善します。中等症以上では血糖コントロールに加えて、糖尿病性神経障害治療薬、ビタミンB12、抗けいれん薬、抗うつ薬、抗不整脈薬、漢方薬などを用いることがあります。進行している例では、治療を行っても改善に時間がかかります。末梢神経障害の治療は、自覚症状による苦痛を和らげることが第一目標ですが、末梢神経障害による足潰瘍(そくかいよう)や足壊疽(そくえそ)の出現を予防することも大事な治療目標です。足や足の指の観察が、最も有効な足病変の予防法です。

 

 


筋肉

筋肉には、骨格筋、平滑筋、心筋の3種類があります。

これらのうち骨格筋と平滑筋は、筋骨格系の一部です。

 

骨格筋とは、ほとんどの人が筋肉として普通に思い浮かべる、収縮させて体のさまざまな部分を動かすことのできる筋肉です。骨格筋は、収縮性のある筋線維の束が規則正しく配列し、顕微鏡では横じま模様がみえることから、横紋筋とも呼ばれます。骨格筋の収縮する速度はさまざまです。姿勢や動きに関与する骨格筋は骨に付着しており、関節周囲では互いに拮抗する筋肉群が配置されています。たとえば、ひじを曲げる筋肉(上腕二頭筋)は、ひじを伸ばす筋肉(上腕三頭筋)と拮抗する関係にあります。この拮抗する動きはバランスがとれています。このバランスが動きを滑らかにして、筋骨格系の損傷を防ぐのに役立っています。骨格筋は脳によってコントロールされ、本人の意思によって動くため随意筋とみなされています。骨格筋の大きさと筋力は定期的な運動によって維持され、増強されます。また、成長ホルモンとテストステロンは小児期には筋肉の成長を促し、成人になってからは筋肉の大きさを維持します。

 

 

平滑筋はいくつかの体の機能をコントロールしていますが、本人は簡単には制御できません。平滑筋は多くの動脈を取り囲んでいて、収縮することにより血流量を調節しています。また、

腸管の周囲も平滑筋が取り囲み、収縮して消化管の食物や便を動かしています。平滑筋も脳によってコントロールされていますが、自発的に動かすことはできません。平滑筋が収縮したり弛緩したりするきっかけは体の必要性によってコントロールされ、本人が意識することなく作動するので、平滑筋は不随意筋とみなされています。

 

心筋は心臓を形づくっている筋肉であり、筋骨格系の筋肉ではありません。心筋は骨格筋と同様に筋線維が規則正しく配列し、顕微鏡で横じま模様がみえます。しかし心筋は本人の意思とは関係なくリズミカルに収縮と弛緩を繰り返します。

 

 

筋肉の動きは通常、脳と筋肉との間で神経を介して情報が伝達されることによって起こります。ときに感覚が筋肉を動かすきっかけとなることがあります。たとえば、とがった石を踏んだり、非常に熱いコーヒーの入ったカップに触れたりすると、皮膚にある特別な神経の末端部(感覚受容器)で痛みや熱さが感知されます。この情報は脳に伝えられ、脳はどう反応すべきか筋肉に指令を送ります。このタイプの情報交換は、脳に向かう感覚神経経路と筋肉に向かう運動神経経路という二つの複雑な神経伝達経路に沿って行われます。

 

 

 

筋肉刺激の障害

筋肉刺激の障害は運動ニューロン障害とも呼ばれ、筋肉の運動に関係する神経などの構造に進行性の変性が起きるのが特徴です。この障害は、運動神経が筋肉を正常に刺激しなくなった場合に起こります。

 

筋肉刺激の障害(運動ニューロン障害)には、筋萎縮性側索硬化症(筋肉刺激の障害として最も多い)、原発性側索硬化症、進行性仮性球麻痺、進行性筋萎縮症、進行性球麻痺、ポリオ後症候群などがあります。

最も多い原因は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)です。

 

運動ニューロン障害は男性に多くみられ、通常は50代で発症します。通常、原因は特定できません。運動ニューロン障害の約10%は遺伝性で、家族内に同じ病気の人がいます。

これらの病気ではいずれも、筋肉の運動に関与する神経系の一部(脊髄と全身にある運動神経、あるいは脳の特定の領域など)に進行性の変性が生じ、そのため筋力が低下して、ときに麻痺に進行します。しかし、神経系のどこが侵されるかは病気の種類によってさまざまで、そのため、出現する症状も異なります。たとえば、口とのどに最初の症状が出る病気もあれば、手足に最初の症状や最も重い症状が出る病気もあります。

 

 

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は進行性の病気です。最初の症状は筋力の低下で、多くの場合は手に現れます。

 

 

治療

筋肉刺激の障害(運動ニューロン障害)に対する特別な治療法はなく治癒することはありません。複数の分野の医療従事者で構成されるチームがケアにあたることは、これらの病気がある人が障害の進行に対処するうえで助けとなります。理学療法は、筋力を維持し、筋肉の短縮(拘縮)を防ぐのに役立ちます。ものを飲み込むのが困難になった場合は、食事の際にのどを詰まらせないよう、看護師やその他の介護者が十分注意して介助する必要があります。場合によっては、腹壁から胃に挿入したチューブ(胃瘻チューブ)で栄養を取る必要が生じます。

バクロフェンは痙縮を起こりにくくするのに役立ち、フェニトイン、キニーネはけいれんを軽減するのに役立ちます。抗うつ薬のアミトリプチリンなど、抗コリン作用のある薬剤は、抗コリン作用により唾液の産生を減らすのに使用されます。同じく抗うつ薬であるアミトリプチリンやフルボキサミンは、感情が変化しやすい場合や、抑うつがある場合に役立ちます。

筋萎縮性側索硬化症では、神経細胞を保護する働きがある薬剤のリルゾールにより、余命が長くなる可能性があります。リルゾールは経口服用します。

病気の進行に伴って痛みが起きた場合は(たとえば、姿勢を変えることができずに1個所に座っていると痛くなる、など)、オピオイド系薬剤や弱い鎮静薬であるベンゾジアゼピン系薬剤が使用されることがあります。

 


皮膚の感覚受容器

 

皮膚の感覚受容器は、痛みや温度変化を感知すると信号を発する(この信号は最終的に脳に届く)。

信号はまず、1本の感覚神経に沿って脊髄まで伝わる。

ここで信号は、感覚神経と脊髄の神経細胞との間のシナプス(二つの神経細胞同士の接合部)を通過する。

信号は、その脊髄の神経細胞から脊髄の反対側に送られる。

信号は脊髄に沿って脳に向かって上っていき、脳幹を通過して、脳の深部にある感覚情報処理の中枢である視床に到達する。

信号は、視床のシナプスを通過して、大脳の感覚皮質(感覚受容器からの情報を受け取って解釈する領域)につながる神経線維に伝わる。

感覚皮質が信号を受け取る。その結果、この人が何らかの動作を起こそうと決めた場合は、運動皮質(随意運動を計画、制御、実行する領域)から新たな信号が発せられる。

この信号を伝える神経は脳の底部で体の反対側に移る。

そして信号は脊髄に沿って下行していく。

信号は続いて、脊髄内で、脊髄の神経線維と運動神経との間にあるシナプスを通過する。

脊髄から出た信号は運動神経に沿って進んでいく。

信号は神経筋接合部を通過して運動神経から筋肉の運動終板へ進み、ここで筋肉が刺激されることにより、実際に筋肉が動く。

 

 


自律神経系

自律神経系は、脳幹と脊髄を内臓につないでいる神経系で、意識的な努力を必要としない体内のプロセス(たとえば、心拍数、血圧、呼吸数、胃酸の分泌量、食物が消化管を通過する速度など)を調節します。自律神経系は、交感神経系と副交感神経系の二つに分類され、両者は相反する作用をしながら協調的に作用しています。

 

主な機能は次の通りです。

 

交感神経:

ストレスの多い状況や緊急の状況に対し、闘争または逃避するように体を備える

 

副交感神経系:

普通の状況に体を備える

 

二つの系は互いに協力して働きます。通常は一方が内臓の活動を活性化させ、他方は活動を抑制します。たとえば、交感神経系は脈拍、血圧、呼吸数を増加させ、副交感神経系はこれらを減少させます。

 

 

自律神経系は、血管、胃、腸管、肝臓、腎臓、膀胱、生殖器、肺、瞳孔、眼の筋肉、心臓、汗腺、唾液腺、消化腺などの内臓を制御する神経系の一部として全身に分布しています。

自律神経系は、交感神経系と副交感神経系の二つに分けられます。自律神経系は、体内や体外の環境に関する情報を受け取って、体内のプロセスを制御します。プロセスを刺激(促進)するには主に交感神経系、プロセスを抑制するには主に副交感神経系が使われます。

自律神経系の1本の経路には2つの神経細胞が関与しています。一方は脳幹または脊髄に存在し、もう一方は神経細胞の集まり(自律神経節と呼ばれます)の中に存在しており、これらは神経線維によって連結されています。神経節から伸びる神経線維は内臓につながっています。交感神経系の神経節の大半は、脊髄の両側のすぐ外側に位置しています。副交感神経系の神経節は、内臓の付近または内部に存在します。

 

自律神経系は、血圧、心拍数、呼吸数、体温、消化、代謝(したがって体重にも影響します)、水分と電解質(ナトリウム、カルシウムなど)のバランス、体液(唾液、汗、涙)の産生、排尿、排便、性的反応、その他のプロセスを制御しています。

多くの臓器は、交感神経系か副交感神経系のどちらかによって主に制御されます。一方、一つの臓器に対して両方の神経系が反対の作用をもっている場合もあります。たとえば、交感神経系は血圧を上昇させますが、副交感神経系は血圧を低下させます。全体として、二つの神経系が協調して働くことで、体はさまざまな状況に対して適切に反応することができます。

交感神経系の主な機能は、戦闘や逃避など、ストレスの多い緊急の状況に対して体の準備を整えることです。心拍数を増やし、心臓の収縮力を高め、呼吸しやすいように気道を広げます。これにより、蓄えられたエネルギーが体から放出され、筋肉に大きな力が入るようになります。 

交感神経系はまた、手のひらの発汗や瞳孔の拡大を促したり、毛を逆立てたりもします。一方で、緊急時にあまり重要でない体内のプロセス(消化や排尿など)は鈍らせます。

副交感神経系は、普通の状況で体内のプロセスを管理しています。全般的な役割は温存と回復です。心拍数を下げ、血圧を低下させます。消化管を刺激して、食物の処理や不要物の排泄を促します。食物から吸収されたエネルギーは、組織の回復や構築に利用されます。

自発的な行為をコントロールし、皮膚からの感覚を脳に伝える別の神経系(体性神経系)と同様、交感神経系と副交感神経系はどちらも性的活動に関与しています。

自律神経系の内部の情報伝達には、アセチルコリンおよびノルエピネフリンと呼ばれる2種類の化学伝達物質(神経伝達物質)が利用されています。アセチルコリンを分泌する神経線維はコリン作動性線維と呼ばれます。ノルエピネフリンを分泌する線維はアドレナリン作動性線維と呼ばれます。一般的に、アセチルコリンは副交感作用(抑制作用)、ノルエピネフリンは交感作用(刺激作用)を示します。ただし、アセチルコリンには一部の交感作用もあり、たとえば発汗を刺激したり、毛を逆立てたりすることがあります。

 

 

自律神経障害

 

神経系は中枢神経系と末梢神経系で構成されています。中枢神経系とは脳と脊髄のことを指します。末梢神経系は、全身の組織と脳および脊髄とをつないでいる神経を指します。末梢神経系には、自動的(無意識的)に体内のプロセスを制御している自律神経系が含まれます。また、自発的(意識的に)にコントロールされる筋肉や皮膚の感覚受容器とつながっている神経である体性神経も、末梢神経系に含まれます。

自律神経障害とは、末梢神経障害の一種で、全身の末梢神経に損傷が起きる病気です。自律神経障害では、体性神経より自律神経にずっと大きな損傷が生じます。

 

 

自律神経障害は、末梢神経の病気の一種で、自律的に(意識的な努力を伴わずに)体内のプロセスを制御している末梢神経系(自律神経系)の神経に損傷が起きるものです。

 

一般的な原因としては、糖尿病、アミロイドーシス(組織中に異常なタンパク質が蓄積する病気)、自己免疫疾患(免疫系が体の組織を異物と誤って認識して攻撃する病気)などがあります。ウイルス感染症が引き金となって、自己免疫反応が生じ、自律神経が破壊されることもあります。免疫系によって作られる抗体の中には、アセチルコリン受容体(アセチルコリンへの反応を可能にする神経細胞の一部)を攻撃するものもあります。アセチルコリンは、自律神経系の内部の情報伝達に用いられる化学伝達物質(神経伝達物質)の一種です。ギラン・バレー症候群でも同様の免疫反応がしばしばみられます。

その他の原因としては、癌、薬剤、過度の飲酒、毒素などがあります。

 

 

立ったときにふらつきを覚えたり、排尿に関する問題、便秘、嘔吐などが生じたりします。男性では勃起障害が生じることがあります。

 

よくみられる症状のひとつは、立ち上がったときに血圧が過度に低下する起立性低血圧です。そのため、ふらつきや、失神しそうな感じが生じます。男性では、勃起の開始や維持が困難になることがあります(勃起障害)。膀胱の活動が過剰になることも多く、意図せず排尿してしまうこともあります(尿失禁)。逆に膀胱の活動が弱まって、排尿が困難になる場合もあります(尿閉)。胃から内容物が送り出されるペースがきわめて遅くなるため(胃不全麻痺)、食事をしてもすぐに満腹感をおぼえ、吐くことさえあります。重度の便秘になることもあります。

体性神経が損傷された場合は、感覚が失われたり、手足にチクチクした感覚(刺すような痛み)が生じたり、筋力が低下したりすることがあります。

 

 

症状の現れ方  心臓や血圧や胃腸は自分の意思の力では調節できず、自律神経によって調節されています。自律神経は、運動や緊張時に脈拍数を増やしたり、起立時に脳への血流を保ったり、食事内容に応じて胃腸も調節しています。高血糖によって自律神経が障害されると、脈拍数が固定化したり、狭心症の症状が非典型的となったり、立った時に血圧が下がってふらついたり、食べても胃が動かずもたれたり、下痢や便秘が続いたりします。排尿がスムーズにいかなくなったり、残尿が増えたりする場合もあります。勃起(ぼっき)障害も自律神経障害の一種です。

また、経口血糖降下薬やインスリンで低血糖が起きた場合に、典型的な低血糖症状が現れなくなる低血糖無自覚も、自律神経障害による障害です。

 

治療と対策  自律神経障害そのものの治療は、末梢神経障害と同様に血糖コントロールが第一です。しかし、徐々に進行した自律神経障害そのものを急速に改善することは一般に困難です。そのため、自律神経障害による二次的な事故を防ぐことが重要な治療目標になります。狭心症の症状が典型的でなくなる無痛性心筋虚血であれば、定期的な心電図、心エコー、心筋シンチグラフィなどで虚血の早期発見に努めます。起立性低血圧であれば、夜間や朝の起床時、トイレや入浴後はゆっくりと立ち上がるよう指導することが、現実的な対策です。自律神経障害が進んでいるような糖尿病の患者さんは、高血圧となっていることが多いので、起立性低血圧だからといって血圧を上げる薬剤は通常用いません。排尿障害で膀胱が拡大する神経因性膀胱が疑われれば、泌尿器科の診察を受ける必要があります。神経因性膀胱があると尿路感染症の危険が増すので、定期的排尿やカテーテルを用いた治療を行う場合があります。勃起障害は、障害の程度を把握してシルデナフィル(バイアグラ)、バルデナフィル(レビトラ)、タダラフィル(シアリス)を試みます。低血糖無自覚の疑いがあれば、血糖の測定回数を増やしてインスリンの投与方法を細かく合わせたり、血糖コントロール目標を高めにする場合があります。低血糖がまったく自覚できない場合は、自動車事故の危険が高くなるので、運転は許可できません。

 

 

肢体の障害  

 

障害認定日の特例的取扱い

傷病が治った状態

障害認定日

障害等級の目安

切断又は離断

切断又は離断した日 障害手当金 創面治癒日

1肢の切断で2級

2肢の切断で1級

1下肢体のショパール間接以上で欠くと2級

リスフラン間接以上で欠くと3級

五指及び五趾が運動機能の用を廃した

廃用した日(全く運動機能がなくなってしまった日)

 

脳血管等による運動機能障害

運動機能障害での症状固定日 (片麻痺等の運動機能障害が発生してから6ヵ月経過後)*1

 

人工関節・人工骨頭を挿入置換

人工関節または人工骨頭が挿入・置換された日

上肢または下肢の3大関節に人工骨頭または人工関節をそう入置換したものは原則3級

 

*1 脳血管障害の場合は、医学的に6ヵ月以内に症状の固定がないとされている。

神経系の障害により次のいずれかの呈している場合は、初診日から起算して1年6月を経過しなくても、障害認定審査医の実地調査等により発症後6ヵ月以上経過した日において認定することとされている。6ヵ月を経過した時点で不可逆性が確認できる場合に限り症状固定とする。

 (1) 脳血管障害により機能障害を残しているときは、初診日から6月経過した日以後に、医学的観点から、それ以上の機能回復がほとんど望めないと認められるとき

(2) 現在の医学では根本的治療方法がない疾病であり、今後の回復は期待できず、初診日から6月経過した日以後において気管切開下での人工呼吸器(レスピレーター)使用、胃ろう等の恒久的な措置が行われており、日常の用を弁ずることができない状態であると認められるとき

 

 

 


上肢の障害

 

障害の程度

障 害 の 状 態

1級

(機能障害)

・両上肢の用を全く廃したもの

 

(欠損障害)

・両上肢のすべての指の用を全く廃したもの ・両上肢のすべての指を基部から欠き、有効長が0のもの

2級

(機能障害)

・一上肢の用を全く廃したもの

両上肢の機能に相当程度の障害を残すもの

 

(欠損障害)

・両上肢の親指および人指し指又は中指の用を全く廃したもの

・両上肢の親指及び人指し指又は中指を基部から欠き、有効長が 0 のもの

・一上肢のすべての指の用を全く廃したもの

・一上肢のすべての指を基部から欠き、有効長が 0 のもの

3級

(機能障害)

・一上肢の3大関節のうち、2関節の用を廃したもの

・一上肢の機能に相当程度の障害を残すもの

 

(欠損障害)

・一上肢の親指および人指し指を近位指節間関節(PIP)(親指にあっては指節間関節)以上で欠くもの

又は親指もしくは人指し指を併せ、一上肢の3指を近位指節間関節(PIP)(親指にあっては指節間関節(IP)(親指にあっては指節間間接(ゆびせっかんかんせつ))以上で欠くもの ・親指及び人指し指を併せ、一上肢の4指の用を廃したもの

 

(変形障害)

・長管状骨に偽関節(ぎかんせつ)を残し、運動機能に著しい障害を残すもの

 

一上肢の3大関節中1関節以上に人工骨頭または人工関節を挿入置換したもの ・両上肢の3大関節中1関節以上にそれぞれ人工骨頭または人工関節を挿入置換したもの

障害手当金

(機能障害)

・一上肢の3大関節のうち1関節に著しい機能障害を残すもの

一上肢に機能障害を残すもの

 

(欠損障害) ・一上肢の2指以上を近位指節間関節(親指にあっては指節間関節)以上で欠くもの ・一上肢の人指し指を近位指節間関節以上で欠くもの ・一上肢の3指以上の用を廃したもの ・人指し指を併せ一上肢の2指の用を廃したもの ・一上肢の親指の用を廃したもの

 

(変形障害)

・長管状骨に著しい転位変形を残すもの 

 

上肢の機能の障害は、障害の範囲が上肢に限定されている場合に用いられる認定基準である。

上肢の機能の障害は、機能障害欠損障害及び変形障害に区分される。

 

障害の程度 1級

「両上肢の用を全く廃したもの」・・・

  両上肢の3大関節中それぞれ2関節以上の関節が全く用を廃したもの

・不良肢位で強直しているもの

・関節の他動可動域が2分の1以下に制限され、かつ、筋力が半減しているもの

   ・筋力が著減又は消失しているもの

 

「上肢の指の用を全く廃したもの」・・・

指の著しい変形、麻痺による高度の脱力、関節の不良肢位強直、瘢痕(はんこん)による指の埋没又は不良肢位拘縮(こうしゅく)等により、指があってもそれがないのとほとんど同程度の機能障害があるものをいう。

 

「指を欠くもの」・・・

親指については指節間関節(IP)、その他の指については近位指節間関節(PIP)以上で欠くものをいう。

 

障害の程度 2級

「一上肢の用を全く廃したもの」・・・

  一上肢の3大関節中いずれか2関節以上の関節が全く用を廃したもの

 次のいずれかに該当する程度のものをいう。

   ・不良肢位で強直しているもの

   ・関節の最大他動可動域が、健側の他動可動域の2分の1以下に制限され、かつ、半減

   しているもの

   ・筋力が著減又は消失しているもの

 

「両上肢の機能に相当程度の障害を残すもの」・・・

両上肢の3大関節中それぞれ1関節の他動可動域が可動域の2分の1以下に制限され、かつ、筋力が半減しているもの

 

「両上肢の親指及び人指し指又は中指の用を全く廃したもの」・・・

両上肢の親指の用を全く廃した程度の障害があり、それに加えて、両上肢の人指し指又は中指の用を全く廃した程度の障害があり、そのため両手とも指間に物をはさむことはできても、一指を他指に対立させて物をつまむことができない程度の障害をいう。

 

障害の程度 3級

「関節の用を廃したもの」・・・

関節の他動可動域が健側の他動可動域の2分の1以下に制限されたもの

又はこれと同程度の障害を残すもの(起床より就寝まで固定装具を必要とする程度の動揺関節)をいう。

 

「一上肢の機能に相当程度の障害を残すもの」・・・

一上肢の3大関節中1関節が不良姿位で強直しているもの

又は、両上肢の3大関節中にそれぞれ1関節の筋力が半減しているもの

 

「指の用を廃したもの」・・・

・指の末節骨の長さの2分の1以上を欠くもの

・中手指節関節(MP)又は近位指節間関節(PIP)(親指にあっては、指節間関節(IP))

に著しい運動障害(他動可動域が健側の他動可動域の2分の1以下に制限されたもの)を残

すものをいう。

 

「長管状骨に偽関節を残し、運動機能に著しい障害を残すもの」・・・

  ・上腕骨に偽関節を残し、運動機能に著しい障害を残すもの

  ・橈骨(とうこつ)及び尺骨(しゃっこつ)の両方に偽関節を残し、運動機能に著しい障害を残

すもの

 

長管骨とは、四肢の骨にみられる長く伸びた管状の骨のことをいう。

上肢・・・上腕骨 橈骨(とうこつ) 尺骨(しゃっこつ)

下肢・・・大腿骨 脛骨(けいこつ) 腓骨(ひこつ)

 

障害の程度 障害手当金

「関節に著しい機能障害を残すもの」・・・

関節の他動可動域が健側の他動可動域の3分の2以下に制限されたもの

又は、常時ではないが、固定装具を必要とする程度の動揺関節、習慣性脱臼

 

「一上肢に機能障害を残すもの」

一上肢の3大関節中の1関節の筋力が半減しているものをいう。

前腕の他動可動域が健側の他動可動域の4分の1以下に制限されたもの も該当する。

 

「長管状骨に著しい転位変形を残すもの」・・・

  ・上腕骨に変形を残すもの

  ・橈骨又は尺骨に変形を残すもの

 

各関節の主要な運動は次のとおりである。

部位

主要な運動

肩関節

屈曲・外転

肘関節

屈曲・伸展

手関節

背屈・掌屈

前 腕

回内・回外

手 指

屈曲・伸展

 

 関節可動域の評価は、原則として、健側の関節可動域と比較して患側の障害の程度を評価する。

 

 各関節の評価に当たっては、単に関節可動域のみでなく、次の諸点を考慮した上で評価する。

  (ア) 筋力 (イ) 巧緻性 (ウ) 速さ (エ) 耐久性

 

 

 日常生活における動作は、おおむね次のとおりである。

 ・さじで食事をする  ・顔を洗う (顔に手のひらをつける)  ・用便の処置をする (ズボンの前のところに手をやる 尻のところに手をやる)  ・上衣の着脱 (かぶりシャツを着て脱ぐ ワイシャツを着てボタンをとめる)

 

 診断書裏面 ⑲欄「日常生活動作」については、補装具(杖 など)を使用しない状態で判定する。

 

手指の機能と上肢の機能とは切り離して評価することなく、手指の機能は上肢の機能の一部として取り扱う。

 

 

 3級に認定

・一上肢の3大関節中1関節以上に人工骨頭または人工関節を挿入置換したもの ・両上肢の3大関節中1関節以上にそれぞれ人工骨頭または人工関節を挿入置換したもの

 

人工骨頭または人工関節を挿入置換しても、一上肢については「一上肢の用を全く廃したもの」程度以上に該当するとき、両上肢については「両上肢の機能に相当程度の障害を残すもの」程度以上に該当するときは、2級以上に認定する。

 

 


肢の障害

 

障害の程度

障 害 の 状 態

1級

(機能障害)

・両下肢の用を全く廃したもの

 

(欠損障害) ・両下肢を足関節以上で欠くもの

2級

(機能障害)

・一下肢の用を全く廃したもの ・両下肢の機能に相当程度の障害を残すもの

 

(欠損障害)

・一下肢を足関節以上で欠くもの

・両下肢のすべての趾(足の指)を(中足趾指節関節(ちゅうそくしせつかんせつ)以上で)欠くもの

3級

(機能障害)

・一下肢の3大関節のうち2関節の用を廃したもの ・一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの ・両下肢の10趾の用を廃したもの

 

(欠損障害)

・一下肢をリスフラン関節以上で失ったもの

 

(変形障害)

・長管状骨に偽関節(ぎかんせつ)を残し、運動機能に著しい障害を残すもの

 

一下肢の3大関節中1関節以上に人工骨頭または人工関節を挿入置換したもの

両下肢の3大関節中1関節以上にそれぞれ人工骨頭または人工関節を挿入置換したもの

障害手当金

(機能障害)

・一下肢の三大関節のうち一関節に著しい機能障害を残すもの

・一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの

両下肢に機能障害を残すもの

・一下肢の5趾の用を廃したもの

 

(欠損障害)

・一下肢の第1趾又は他の4趾を中足趾節間接(ちゅうそくしせつかんせつ)以上で欠くもの

 

(変形障害) ・長管状骨に著しい転位変形を残すもの

 

(短縮障害)

・一下肢を3cm以上短縮したもの

 

 

下肢の機能の障害は、障害の範囲が下肢に限定されている場合に用いられる認定基準である。

下肢の機能の障害は、機能障害欠損障害変形障害及び短縮障害に区分される。

 

障害の程度 1級

「両下肢の用を全く廃したもの」・・・

両下肢の3大関節中それぞれ2関節以上の関節が全く用を廃したもの

   ・不良肢位で強直しているもの

   ・関節の他動可動域が可動域の2分の1以下に制限され、かつ、筋力が半減しているも

   の

   ・筋力が著減(ちょげん)又は消失しているもの

 

「足関節以上で欠くもの」・・・

  ショパール関節以上で欠くものをいう。

 

障害の程度 2級

「一下肢の用を全く廃したもの」・・・

一下肢の3大関節中いずれか2関節以上の関節が全く用を廃したもの

次のいずれかに該当する程度のものをいう。

   ・不良肢位で強直しているもの

   ・関節の他動可動域が、健側の他動可動域の2分の1以下に制限され、かつ、筋力が半

   減しているもの

   ・筋力が著減又は消失しているもの

  ―下肢が健側の長さの4分の1以上短縮した場合 も該当する。

 

「一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」・・・

  一下肢の3大関節中それぞれ1関節の他動可動域が2分の1以下に制限され、かつ、筋力が半減しているもの

 

「趾(足の指)を欠くもの」・・・

中足趾節関節(MP)から欠くものをいう。

 

障害の程度 3級

「関節の用を廃したもの」・・・

関節の他動可動域が健側の他動可動域の2分の1以下に制限されたもの

又はこれと同程度の障害を残すもの(起床より就寝まで固定装具を必要とする程度の動揺関節)をいう。

 

「一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」・・・

一下肢の3大関節中1関節が不良肢位(ふりょうしい)で強直しているもの

又は両下肢の3大関節中それぞれ1関節の筋力が半減しているもの

 

「趾の用を廃したもの」・・・

次のいずれかに該当するものをいう。

  ・第1趾は末節骨の2分の1以上、その他の4趾は遠位趾節間関節(DIP)以上で欠く

もの

  ・中足趾節関節(MTP)又は近位趾節間関節(PIP)(第1趾(親指)にあっては趾節間関節(IP))に著しい運動障害 (他動可動域が健側の他動可動域の2分の1以下に制限されたもの)を残すもの

 

「長管状骨に偽関節を残し、運動機能に著しい障害を残すもの」・・・

  ・大腿骨に偽関節を残し、運動機能に著しい障害を残すもの

  ・脛骨(けいこつ)に偽関節を残し、運動機能に著しい障害を残すもの

 

障害の程度 障害手当金

「関節に著しい機能障害を残すもの」・・・

関節の他動可動域が健側の他動可動域の3分の2以下に制限されたもの

又はこれと同程度の障害を残すもの(常時ではないが、固定装具を必要とする程度の動揺関節、習慣性脱臼)をいう。

 

「一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」・・・

  一下肢の3大関節中1関節が不良肢位で強直しているもの

  一下肢が健側に比して10センチメートル以上、又は健側の長さの10分の1以上短縮した場合も該当する。

 

「両下肢に機能障害を残すもの」・・・

  両下肢の3大関節中それぞれ1関節の筋力が半減しているもの

 

「長管状骨に著しい転位変形を残すもの」・・・

  ・大腿骨に変形を残すもの

  ・脛骨(けいこつ)に変形を残すもの

(腓骨(ひこつ)のみに変形を残すものについても、その程度が著しい場合は該当する)

 

各関節の主要な運動は次のとおりである。

部位

主要な運動

股関節

屈曲・伸展

膝関節

屈曲・伸展

足関節

背屈・底屈

足 指

屈曲・伸展

手 指

屈曲・伸展

 

 関節可動域の評価は、原則として、健側の関節可動域と比較して患側の障害の程度を評価する。

 

 各関節の評価に当たっては、単に関節可動域のみでなく、次の諸点を考慮した上で評価する。

 (ア) 筋力 (イ) 巧緻性 (ウ) 速さ (エ) 耐久性

 

 

 日常生活における動作は、おおむね次のとおりである。

 ・片足で立つ  ・歩く(屋外 屋内)

 ・立ち上がる  ・階段を上がる

・階段を下りる

 

 診断書裏面 ⑲欄「日常生活動作」については、補装具(車椅子 など)を使用しない状態で判定する。

 

 

○人工骨頭または人工関節を挿入置換

 3級に認定 とは

・一下肢の3大関節中1関節以上に人工骨頭または人工関節を挿入置換したもの

・両下肢の3大関節中1関節以上にそれぞれ人工骨頭または人工関節を挿入置換したもの

 

一下肢の3大関節のうち1関節以上に人工骨頭または人工関節を挿入置換手術を両下肢それぞれに行った場合で、以下の①~③の全ての要件を満たす場合、2級以上に認定する。

① 立ち上がる、歩く、片足で立つ、階段を登る・降りるなどの日常生活動作が、実用性に乏しいほど制限されていること

例えば、日常生活動作の多くが一人で全くできないか、または必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、非常に困難であること

② 下肢障害の主な原因および程度評価の根拠が、自覚症状としての疼痛のみによるものではなく、医学的、客観的にその障害を生ずるに妥当なものであること

③ 下肢の障害の状態が、行動量、気候、季節などの外因的要因により一時的に大きく変動するものではなく、永続性を有すること

 

 


体幹・脊柱の機能の障害

 

障害の程度

障 害 の 状 態

1級

・体幹の機能に座っていることができない程度、または立ち上がることができない程度の障害を有するもの

2級

・体幹の機能に歩くことができない程度の障害を有するもの

3級

・脊柱の機能に著しい障害を残すもの

障害手当金

・脊柱の機能に障害を残すもの

 

・体幹の機能の障害

脊髄性小児麻痺や脳性麻痺等からくる体幹の障害により、座ったり歩いたりすることが困難になった場合である。

 

・脊柱の機能の障害

脊柱の脱臼骨折又は強直性脊椎炎等によって生じるものである。

 

荷重機能障害運動機能障害がある。

過重機能障害は日常生活及び労働に及ぼす影響が大きいので重視する必要がある。

(ズボンの着脱や靴下を履いたり、座る、お辞儀する、立ち上がるなどの日常生活動作ができるかが重要な判断材料)

 

脊柱全体の運動機能をみる必要がある場合は、前屈・後屈運動だけでなく、回旋・側屈も測定して認定する。

 

 

障害の程度 1級

「体幹の機能に座っていることができない程度の障害を有するもの」・・・

腰掛、正座、あぐら、横すわりのいずれもができないものをいう。

 

「体幹の機能に立ち上ることができない程度の障害を有するもの」・・・

臥位又は坐位から自力のみで立ち上れず、他人、柱、杖、その他の器物の介護又は補助によりはじめて立ち上ることができる程度の障害をいう。

 

障害の程度 2級

「体幹の機能に歩くことができない程度の障害を有するもの」・・・

室内においては、杖、松葉杖、その他の補助用具を必要とせず、起立移動が可能。

野外ではこれらの補助用具の助けをかりる必要がある程度の障害をいう。

 

日常生活における動作が一人でできるが非常に不自由な場合、又はこれに近い状態。

 

障害の程度 3級

「脊柱の機能に著しい障害を残すもの」・・・

脊柱又は背部・軟部組織の明らかな器質的変化のため、脊柱の他動可動域が可動域の2分の1以下に制限されたものをいう。

 

障害の程度 障害手当金

「脊柱の機能に障害を残すもの」・・・

・脊柱又は背部・軟部組織の明らかな器質的変化のため、脊柱の他動可動域が可動域の4分の3以下に制限されている程度のもの

・頭蓋・上位頸椎間の著しい異常可動性が生じたもの

 

 傷病の部位がゆ合してその部位のみについてみると運動不能であっても、他の部位が代償して脊柱に運動障害は軽度あるいはほとんど認められない場合が多いので、脊柱全体の運動機能(すなわち、日常生活における動作)を考慮し認定する。

 

 

 日常生活における動作は、おおむね次のとおりである。

  ・ズボンの着脱 (どのような姿勢でもよい)

  ・靴下を履く (どのような姿勢でもよい)

  ・座る (正座 横すわり あぐら 脚なげ出し)

  ・深くおじぎ(最敬礼)をする

  ・立ち上がる

 

 障害の認定に当たっては、単に脊柱の運動障害のみでなく、随伴する神経系統の障害を含め総合的に認定する。

 


肢体の機能の障害

 

障害の程度

障 害 の 状 態

1級

身体の機能の障害または長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの

 

一上肢及び一下肢の用を全く廃したもの

四肢の機能に相当程度の障害を残すもの

2級

身体の機能の障害または長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活が著しい制限を受けるか、または日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの

 

一上肢及び一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの

四肢の機能に障害を残すもの

3級

身体の機能に労働が著しい制限を受けるか、または労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの

 

一上肢及び一下肢に機能障害を残すもの

障害手当金

 

 

肢体の障害が両上肢、一上肢、両下肢、一下肢、体幹および脊柱の範囲内に限られている場合には、それぞれの認定基準と認定要領によって認定する。しかし、1つの事由で肢体の機能の障害が上肢下肢あるいは脊柱など身体の広範囲にわたる場合で、上肢と下肢の障害の状態が相違する場合には、障害の重い肢のほうで障害の程度を判断して認定する。上肢と下肢を併合するわけではない

 

(適用障害)

脳血管障害(脳出血、脳梗塞 など)  関節リウマチ  脊椎損傷  脊髄小脳変性症

膠原病  線維筋痛症  重症筋無力症  多発性硬化症  パーキンソン病

筋ジストロフイー    など

 

 

障害の程度 1級

・身の回りのことはかろうじて出来るが、それ以上のことは出来ない

 又は行ってはいけない

・他人の介助がなければ日常生活が過ごせない

・病院内の生活で言えば、活動の範囲がおおむねベット周辺に限られる

・家庭内の生活で言えば、活動の範囲がおおむね就床室内に限られる

 

一上肢及び一下肢の用を全く廃したもの

「用を全く廃したもの」・・・

日常生活における動作のすべてが「一人で全くできない場合」又はこれに近い状態をい

う。

四肢の機能に相当程度の障害を残すもの

「機能に相当程度の障害を残すもの」・・・

日常生活における動作の多くが「一人で全くできない場合」又は日常生活における動作のほとんどが「一人でできるが非常に不自由な場合」をいう。

 

障害の程度 2級

・家庭内のきわめて温和な行動(軽食作り、下着程度の洗濯)はできるが、それ以上の活動

は出来ないもの

又は行ってはいけないもの

・病院内の生活で言えば、活動の範囲が病棟内に限られる

・家庭内の生活で言えば、活動の範囲がおおむね家屋内に限られる

・必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は極めて困難で、労働により収入を

得ることができない

・家庭内で軽食をつくるなどの軽い活動はできてもそれ以上重い活動はできない(または行

うことを制限されている))

 

一上肢及び一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの

「機能に相当程度の障害を残すもの」・・・

日常生活における動作の多くが「一人で全くできない場合」又は日常生活における動作のほとんどが「一人でできるが非常に不自由な場合」をいう。

 

四肢の機能に障害を残すもの

「機能障害を残すもの」・・・

日常生活における動作の一部が「一人で全くできない場合」又はほとんどが「一人でできてもやや不自由な場合」をいう。

 

障害の程度 3級

・傷病が治らない者にあっては、労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする

「傷病が治らないもの」については、障害手当金に該当する程度の障害の状態がある場合であっても3級に該当する。

 

一上肢及び一下肢に機能障害を残すもの

「機能障害を残すもの」・・・

日常生活における動作の一部が「一人で全くできない場合」又はほとんどが「一人でできてもやや不自由な場合」をいう。

 

 

 一肢の障害だけが目立って重い場合は「可動域制限」や「筋力低下」を重要視して審査されるが、上下肢に重い障害がある場合は、診断書の「日常生活における動作の障害の程度」を重要視して審査がされるのである。

 

 

 「日常生活における動作の障害の程度」は、「ひも結ぶ」「顔を洗う」「片足で立つ」「歩く」などの日常生活における動作を、例えば、 ・「一人でうまくできる」→〇 ・「一人でできてもやや不自由」→〇△ ・「一人でできるが非常に不自由」→△× ・「一人で全くできない」→× というように4段階評価し、全てもしくはほとんどが「×」なら「用を廃したもの」とみなし、「一上肢と一下肢がこの状態であれば1級」、ほとんどが「△×」もしくは多くが「×」あれば「相当程度の障害が残ったもの」みなし、「一上肢と一下肢がこの状態であれば2級」となる。

「日常生活における動作の障害の程度」については、補助具(車椅子、杖 など)使用しない状態で、どの程度できるのか、どの程度の支障があるのか判定する。

例えば「歩く(屋内)」という項目で、「屋内であれば壁や椅子などにつかまってならなんとか

移動できる」としても、壁や椅子なども補助具とみなすため、そういったものに頼らないでどのくらい歩けるかが問われている。

 

 

 

以上の4つの基準のいずれの場合でも大切なのは、診断書にて⑯「関節可動域及び筋力」の検査数値と⑱「日常生活における動作の障害の程度」の2ヵ所である。

 

 

「肢体障害」の判定基準(参考)

 

1級の可能性

・身体障害者手帳1級を取得している  

 「身体障害者手帳1級を取得している」場合も、障害年金で1級に認定される可能性があります。

・常時、車椅子を使用している  

 「常時、車椅子を使用している」とは、室内・屋外ともに車椅子でなければ移動できない方を指します。両下肢の機能が極端に低下しているか、または、全廃している方です。

 片麻痺でも、上肢、下肢がうまく機能しないため移動に車椅子(原則、室内・屋外とも)を使用している場合も該当します。

 まったく歩行できない状態でなくても、「歩行が極めて困難なため車椅子を使用している」といったケースも、1級に認定されるようです。

・介助なしで「立つ」「歩く」ができない  

 「介助なしで「立つ」「歩く」ができない」とは、他人が介助してくれなければ立つことも歩くこともできない状態を指します。

 介助の度合いによって1級か2級かに分かれます。多少、歩くことができても、室内は壁伝いでゆっくりとしか歩けない、家族に手を引いてもらってようやく歩いている、屋外は原則として車椅子を使用している、という状態で 1級に認定されるようです。 両方の上肢がまったく機能しない  「両方の上肢がまったく機能しない」とは、左右2つの腕が全廃しているケースを言います。全廃とは、まったく動かないか、あるいは多少動かすことができても、自分の意思ではコントロールできず、何かをつまんだり、トイレでお尻を拭いたり、洋服を着たり、といった実用的な動作がまったくできない状態をいいます。

 特に「常時、車椅子を使用している」「介助なしで「立つ」「歩く」ができない」「両上肢がまったく機能しない」については、ほぼ1級に認定されています。

 

2級の可能性

・身体障害者手帳2級に認定されている

 障害の状態によって手帳2級で障害年金1級に認定されたり、3級に認定されたりすることもありますが、多くは2級に認定されています。

・常時 杖+車椅子 を使用している

 「常時 杖+車椅子 を使用している」とは、歩行時に杖か、または、車椅子を使用している方を指します。たとえば、室内や家の近辺などの移動には杖を使用し、遠くへ行くときなどは車椅子を使用しているといったケースです。

 杖だけでなく、必要に応じて車椅子も使用している点がポイントです。

 車椅子を使用する頻度が高い人については、歩くことが非常に困難と推測されるため、1級に認定される可能性も出てきます。

・電車、バスに一人では乗れない

 「電車、バスに一人では乗れない」とは、一人で大きな段差をまたいだり、階段を登ったりすることができない場合をいいます。たとえば、電車とホームの隙間をまたぐことができないため、介助を必要としているケースや、階段は両手で手すりを使ってかろうじて数段登れるか、あるいは、家族がサポートしてようやく登れるといった状態です。  下肢障害で最も重要視される判断の基準の一つは、歩行に対する制限です。自力での歩行が非常に困難な方は、2級に認定される確率が高くなっています。

・片方の上肢がまったく機能しない

 「片方の上肢がまったく機能しない」とは、左右どちらか片方の腕が全廃しているケースを言います。

 全廃とは、まったく動かないか、あるいは、多少動かすことができても、自分の意思ではコントロールできず、ペンで物を書いたり、物をつまんだり、カバンから物を引き出したりといった実用的な動作がまったくできない状態をいいます。  

 このような障害は、交通事故による右上肢全廃や、分娩麻痺などの病気をお持ちの方によくみられます。  

 脳出血、脳梗塞といった脳血管疾患で片麻痺になった方も、「片方の上肢がまったく機能しない」ケースに該当することがあります。

 片麻痺の場合、上肢に加え下肢にも障害が出ます。下肢についても大きな障害がある場合は、「上肢2級+下肢2級」の併合認定により「1級」となります。

 

2級と3級の間の程度

・身体障害者手帳3級を取得している

 「身体障害者手帳3級を取得している方」の多くが障害年金では3級に認定されています。

・常時、杖を使用している

 「常時、杖を使用している」とは、車椅子は必要ないが杖が常時必要な場合を指します。

 杖に加えて「補装具」を使用している場合は、少しポイントがあがります。

 あくまでも、下肢のみの場合、上肢などに障害がある場合は2級に認定される確率があがります。

・杖なしでは10メートル歩行ができない

 「杖なしでは10メートル歩行ができない」とは、杖や歩装具を使わずに歩いたとき、10メートル以内で歩行を中断せざるを得ない状態を指します。

 下肢の障害では、自力で歩けるかどうかが非常に重要なポイントとなります。

 

3級の可能性

・身体障害者手帳4級を取得している  

 生活に支障があるような障害をお持ちの方(手帳4級以上が目安)は、障害年金の3級以上に認定される可能性が十分にあります。

 手帳4級をお持ちの方は、障害年金ではほとんどが一等級繰り上がって3級に認定されます。

 (指を失うなど、欠損障害の場合2級に認定される場合もあります。)

・杖を必要に応じて使用している  

 「杖を必要に応じて使用している」とは、本来は常時杖を使用しないとつまずくなどの危険があるが、家の周辺など安全な場所では杖を使っておらず、通勤や長距離を移動するときなど必要に応じて杖を使用している場合を指します。当杖を使用していなくても、歩行や立ちあがりに一定の制限があれば、3級に認定される可能性がありますが、確率はやや落ちます。

・片方の上肢がほとんど機能しない  

 「片方の上肢がほとんど機能しない」とは、片上肢が全廃とまではいえないものの機能低下が激しく日常生活が大きく制限されている場合をいいます。

 腕を多少なら動かすことはできますが、つまむ、書きものをする、さじで食事をするといった実用的な動きがほとんどできない状態をいいます。

 なお、両方の腕が以上のような「ほとんど機能しない」状態の場合は、2級に認定されています。

 障害年金の制度では、「日常生活動作」という第二の基準を設けています。 これは、ふだんの生活動作がどれだけ制限されているかを測る基準で、たとえば、上肢に障害がある方でしたら「つまむ」「握る」「タオルを絞る」といった動作がどれだけできるか、下肢に障害がある方でしたら「立ちあがる」「歩く」「階段を登る」といった動作がどれだけできるかということを「○」「○△」「△×」「×」の4段階で評価し、×が多くつけば1級、○△が中心なら3級といった具合に、等級を決めています。  

 関節可動域や、筋力では基準に達しない肢体障害の申請者の方の多くが、この第二の基準である「日常生活動作」で救われ、1級、2級、3級に認定されているという現実から判断すれば、事実上、この「日常生活動作」が障害年金の中心的な基準といえるでしょう。  

 障害年金の認定要領では、この日常生活動作において、「○△」「△×」「×」がどれだけ付けば、1級、2級、3級になるかを示しています。  

 たとえば、四肢障害の場合、・日常生活動作の一部が「×」のもの、または、・日常生活動作のほとんどが「△×」のもの を2級としています。  しかし、日常生活動作のほとんどが「○△」で構成されたとしても2級になる方はほとんどいません。それどころか、一部が「×」多くが「△×」と、認定要領が示す基準より、ひとクラス悪い評価がつけられても、簡単には2級に認定されないというのが現実となっています。  

 障害年金の審査では、障害の状態を一つの観点から見るのではなく、総合的にみて判断しています。筋力低下、関節可動域の制限、日常生活動作といった認定要領に書かれている基準だけでなく、杖や歩装具、車椅子の使用状況、身体障害者手帳の等級、病歴、予後など、あらゆるものを勘案して等級を決めています。そして、総合的に判断しているからこそ、いくつかの基準をクリアしていなくても、1級、2級といった高い等級に認定されることがありますし、反対に多くの基準を満たしていても、3級に留まるといったことが生じるのです。

 

 診断書においては、

 測定できない時は、測定不能又は未計測と記載してもらうこと。

 必要のない部分は、斜線をしてもらうこと。

 「正常」な場合は、補足の説明を記載してもらうこと。

 

 

内部障害と外傷の関係・・・

通常、前発障害と後発障害との間に相当因果関係があれば一連の疾病として扱われるが、内部障害と外傷との間には相当因果関係を認めないこととしている。

 

 

 

「肢体の障害用」の診断書 との関連

 

○切断・離断

骨部分から切り離された状態を「切断」と言い、関節部分から切り離された状態を「離断」と言う。

 

切断・離断術後に幻肢や幻肢痛がおこることがある。幻肢とは手術でなくなっているはずの手が残っているような感覚のこと。この幻の手にしびれや痛みを感じる場合を幻肢痛という。幻肢や幻肢痛は手術後におこる正常の反応である。薬を必要とする場合もありますが、多くは訓練を進めるうちに消失する。

 

 

 

○麻痺

麻痺は、脳・脊髄から末梢神経に至る運動神経や筋肉の障害による筋力低下である。

麻痺が起こると、手足や全身の筋肉に思うように力が入らず円滑に運動できなくなってしまいます。

 

神経が原因で痺れをきたすものを麻痺とするのが一般的であるから、感覚に由来するものと考えられやすいが、筋肉の運動機能制限をさすことが一般的である。

 

麻痺により運動機能が障害されると、日常生活に支障をきたしたり、活動意欲が低下したりすることがある。

 

中枢神経系の脳内出血・脳梗塞・頭部外傷などが原因で、随意運動(錐体路系)の障害によって引き起こされます。病気をした脳と逆側に麻痺が出ます。

 

 

麻痺については、明確な定義がないので非常に曖昧なものです。神経が原因で痺れをきたすものを麻痺とするのが一般的なので感覚に由来するものと考えられやすいのですが、筋肉の運動機能制限をさすことが一般的になっています。そのためどちらも麻痺としています。使い分けとして運動麻痺、感覚麻痺と表現します。

 

 

運動麻痺

 大脳の運動中枢から末梢神経、筋線維までの間に障害が生じ、随意的に体を動かせなくなった状態を言う。

「大脳皮質運動野から筋線維までの神経路遮断で生じる随意運動の消失」

 

2つに分けると

①完全麻痺(paralysis): 随意運動の完全消失

  ②不全麻痺(paresis):  随意運動の軽度の低下

 

 

麻痺があれば「弛緩性」「痙直性」「不随意運動性」「失調性」「強剛性」「振戦性」のいずれかがある。

 

 

運動麻痺の種類

 

・弛緩性麻痺

痙性の反対語で使用されるのが弛緩性(しかんせい)で、筋緊張が弱くなって力が入らないものを言う。

筋緊張や腱反射が低下あるいは消失してしまった状態で、身体の姿勢保持が難しくなる。

弛緩性麻痺は、関節の運動ができなくなり、筋の緊張が弱くなったり、消失したり、腱反射

も低下して反応を示さなくなる状態になります。筋肉の緊張が緩んで、運動機能を全く失ってしまった状態です。

脳血管障害により、脳が損傷を受けた場合の初期段階としてよく現れます。症状は、筋緊張

の低下に伴い、関節を動かすことが困難になり、腕を動かしたり、歩行を行うことができなくなってしまいます。重度の場合には、呼吸困難になり、命の危険に関わることがあります。

 

・痙直性麻痺

中枢神経系の脳内出血・脳梗塞・頭部外傷などが原因で、随意運動(錐体路系)の障害によって引き起こされる。病気をした脳と逆側に麻痺が出るが、脳血管障害など脳の障害で筋肉の緊張が神経が原因でコントロールしにくくなり硬くなるものを言う。筋緊張と腱反射が異常に亢進した状態で、弛緩性麻痺の後に多く出現する。

 

・失調性麻痺

平衡障害、協同運動障害によりバランスを崩しやすく、身体の姿勢保持が難しくなる。

 

 

また、緊張時に無意識に手が震えるなどの症状を「振戦」と呼ぶ。

 

振戦とは

目的のある動きを終えたときや物に手を伸ばそうとしたとき(企図振戦)、または体を特定の姿勢に保とうとしたとき(姿勢時振戦)に、小脳の損傷が原因で起こることがあります。筋肉の緊張が低下することもあります。

 

 振戦(震え)とは、律動的に細かく振動するような運動をいい、安静時にみられる振戦はパーキンソン病に特徴的です。一方、字を書いたり、物を持ったりするときにみられる振戦(姿勢時振戦)で、とくに原因がはっきりしないものを本態性振戦といいます。主に手に、時に頭部に振戦がみられますが、それ以外には異常がなく良性の疾患です。  軽症では治療を必要としませんが、日常生活に支障が出るほどの時には、アロチノロール(アルマール)やクロナゼパム(リボトリール)の投与で振戦を軽くすることができます。時に飲酒で軽くなる人もみられます。

 

 

こうした運動麻痺が出現すると、全身の活動性が低下し、それによって関節の可動域が縮小され、拘縮や褥瘡などの二次的障害の誘因となります。

 

感覚麻痺

 

知覚鈍麻・知覚脱失

知覚鈍麻とは、広義には皮膚の表面知覚(触覚、痛覚、温覚)ならびに深部知覚の鈍麻状態を言うが、一般には狭義に解釈して多くの場合は触覚のみに限られて使用される。これが高度になると知覚脱失となる。

知覚過敏

広義には皮膚の表面知覚(触覚、痛覚、温覚)ならびに深部知覚の過敏状態を言うが、一般には狭義に解釈して多くの場合は触覚のみに限られて使用される。触覚路に刺激状態がある場合におこり、高度になると疼痛として感じる。

知覚異常

知覚神経の走路中に不適応刺激が加わると、異常な感覚、例えばムズムズしたり、ピリピリしたりする感覚がおこるが、このような感覚が病的に出現するときに、これを知覚異常と言う。

 

 

運動神経に障害が生じた場合は運動麻痺、知覚神経に障害が起これば知覚麻痺となります。 一般的に麻痺といった場合には、筋収縮の低下による運動麻痺を指します。

 

 

麻痺の分類

 

脳性麻痺(小児麻痺)

 脳性麻痺とは、出生前や出生時、あるいは出生後間もない時期に脳に受けた外傷がもとで生じる、筋の運動制御不能、痙縮(けいしゅく)、麻痺、その他の神経障害といった一連の症状のことです。

障害が出る部位は人によって違い、四肢におよぶ場合、左右どちらか半身のみが侵される場合、両足の運動機能のみが低下する場合、難聴など他の病気を併発する場合などがあります。

 

 脳性麻痺の原因には、分娩外傷、酸素欠乏、感染症、その他重篤な疾患などがあります。症状には、わずかにぎこちなさを感じる程度の軽いものから、痙縮を起こすほどの重いものまであり、知的障害、行動障害、視覚障害、聴覚障害、けいれん性疾患などの症状がみられます。

 

 

運動麻痺の様子から、痙直型(けいちょくがた)、強剛型不随意運動を主な特徴とするアテトーゼ型、運動失調型弛緩型混合型に分類される。

 

 

○脊髄性麻痺

脊髄を損傷すると、損傷部位以下の運動・知覚機能が麻痺します。特に損傷部位が頚髄ですと、麻痺が広い範囲に及び、上肢が麻痺してしまいます。また、呼吸・消化・排泄機能といった非常に重要な機能にも障害が及びます。

 

 

○末梢麻痺

末梢神経が圧迫される病気とは、中枢神経の脳・脊髄(せきずい)から続く末梢神経が背骨を出てから手足に向かう間に、そのとおり道が狭い場所で慢性的に圧迫を受けて起こる神経麻痺です。

神経が支配する部位の皮膚にしびれ感が現れたり、感覚がにぶくなったりします。さらに神経が支配する筋肉がやせ細ったり、筋力が低下して運動ができなくなります。

病気の種類は多く、腕や手や足にみられます。鎖骨(さこつ)周辺で腕神経叢(わんしんけいそう)という腕や手に行く末梢神経の束が圧迫される胸郭出口(きょうかくでぐち)症候群、肘で尺骨(しゃっこつ)神経が圧迫される肘部管(ちゅうぶかん)症候群、手首で正中神経が圧迫される手根管(しゅこんかん)症候群などがよくみられます。

そのほかには、肘で橈骨(とうこつ)神経が圧迫される橈骨神経管症候群、肘で正中神経が圧迫される円回内筋(えんかいないきん)症候群、手首で尺骨神経が圧迫される尺骨神経管症候群、臀部(でんぶ)で坐骨(ざこつ)神経が圧迫される梨状筋(りじょうきん)症候群、足首で脛骨(けいこつ)神経が圧迫される足根管(そくこんかん)症候群などがあります。

 

 

大脳の運動中枢から脊髄の前柱細胞にいたる経路、または前柱細胞から筋肉にいたる経路(末梢神経)がおかされると運動麻痺が起こる。運動麻痺は2つに分類されるが、前者を中枢性(痙性 けいせい)麻痺と言い、後者を末梢性(弛緩性)麻痺と言う。

 

脳血管障害など脳の障害で筋肉の緊張が神経が原因でコントロールしにくくなり硬くなるものが痙性麻痺である。痙性麻痺は、大脳皮質から脳幹、脊髄を通り、脊髄前角細胞に至る部分での障害(上位運動ニューロン障害)である。

痙性の反対語で使用されるのが弛緩性(しかんせい)である。多くは脳などが原因で筋肉の力が入らなくなって、柔らかくなる麻痺(「弛緩性麻痺」)である。

 

 

反射

一定の感覚刺激に対する一定の運動反応です。

 

反射とは、感覚受容器から求心性神経によって伝えられた刺激が、意思とは無関係に中枢神経のある部分で切り替えられて遠心性神経に伝達され、効果器に反応を現す現象である。

反射は、基本的な生体の防衛機能として存在し、神経学的障害をみるのに大切な検査である。

 

腱反射

 骨格筋の腱を叩いて筋に急激な伸展を与えたときに起こる反射。

 

腱反射検査

 ハンマー(打腱器)で刺激を与えて、深部腱反射(上腕二頭筋腱反射、上腕三頭筋腱反射、膝蓋腱反射、アキレス腱反射など)の亢進、低下、消失が見られるかチェックされます。

 本人の意思が入らない検査のため、客観性があり信頼性が高いとされています。反射の出方に個人差があるため、左右差や他の部位の反射の出方が確認されます。

 

 

病的反射

筋肉の伸張や皮膚への刺激によって引き起こされるもので、正常では認められない反射である。

 

 病的反射検査

 皮膚の表面に刺激を与えて、指や足趾に異常な動きが引き起こされるかチェックされます。

 病的反射は正常では認められないもので、反射が現れると病的意義を有することが多いとされています。

 

(1)バビンスキー反射

 足の裏をとがったもので踵から爪先にむけてゆっくりとこすると足の親指が足の甲(足背)

の方にゆっくり曲がり(拇指現象)、他の4本の指は外側に開く(開扇現象)反射をいいま

す。

中枢神経系が正常であるか否かを調べると共に、新生児の足が正常に機能しているのか否かの確認もできます。

 

(2)ホフマン反射

  中指の爪をはじいて、母指が屈曲するかどうかチェックされます。

 

(3)トレムナー反射

  中指を掌側からはじいて、母指を含む指が屈曲するかどうかチェックされます。

 

(4)足クローヌス

  足先を持って足関節を勢いよく背屈させて、足の屈曲、背屈が交互に反復性に生じるかチ

ェックされます。

 

病的反射

反射

刺激

陽性反応

病理

バビンスキー

足底外側をこする

母趾伸展、足趾開排、新生児では正常反応

錘体路障害 器質性片麻痺

チャドック

足外側で外果の下をこする

同上の反応

鍾体路障害

オッペンハイム

脛骨前内側をこする

同上の反応

錘体路障害

ゴ一ドン

腓腹部の筋を強くつかむ

同上の反応

錘体路障害

ピオトロフスキー

前脛骨筋を叩打する

足の背屈回外

中枢神経系の器質的障害

ブラジンスキー

一側の下肢を他動的に屈曲

対側下肢に同様の運動が出現

髄膜炎

ホフマン (手指)

示指か中指または環指を末節に弾く

母指末節と(弾かない)示指または中指が反射的に屈曲

テタニーで感覚神経の過敏性が増強 

錘体路障害

ロッソリモ

足趾の足底を軽く叩く

足趾が底面

錘体路障害

シェファー

アキレス腱の中1/3を摘む

足底屈し足趾屈曲

器質性片麻蝉

 

 

深部反射の診察法

 

1 患者を完全に力を抜いた状態におくために、楽な姿勢で、心配しないで体の力を抜くよう

に言いきかせます。

2 四肢を動かして、検査する筋に適当な伸展を加えます。腱反射は筋をあまり伸展させた位

置でも、弛緩させた位置でも誘発しにくいので、筋が適当に伸展された位置にある必要があります。

3 ハンマーで適度な刺激を加えます。

 

判定:

消失 (-) 、減弱↓、正常N、やや亢進↑、亢進↑↑

 

反射は深部反射の他に表在反射と病的反射などがあります。

患者を臥位にして行います。足底部を、かかとの外側より、足趾に向かってこすり、足趾の付け根に来たころ、母趾に向かって内転してこすったとき、母趾が背屈すれば陽性です。他の4本の足趾が開くこともあります。

バビンスキー徴候は深部反射の亢進と同じように、錐体路が障害されたときに陽性になります。

 


関節の運動(主なもの)

 

・屈曲・伸展 多くは矢状面の運動で、基本肢位にある隣接する2つの部位が近づく動きが屈曲、遠ざか

 る動きが伸展。

 

   手関節では  掌屈(屈曲)・背屈(伸展)

   足関節では  底屈(屈曲)・背屈(伸展)

 

・外転・内転 多くは前額面の運動で、体幹や手指の軸から遠ざかる動きが外転、近づく動きが内転。

 

・回外・回内 前腕に関しては、前腕軸を中心にして外方に回旋する動き(手掌が上を向く動き)が回外、

内方に回旋する動き(手掌が下を向く動き)が回内。

 

 

 関節可動域にはそれぞれの関節で他動運動時(他者が動かした時の)の参考可動域が定められています。

 

障害認定における関節可動域表示並びに測定法は、日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会において示された別添「関節可動域表示ならびに測定法」によることとする。

 

 

関節の可動域制限

本来関節が持つ動く範囲(可動域)を何らかの原因で動かせない・動かさない状態でいると、

動く範囲が徐々に狭くなってしまうことを言う。

一般的に、他動的な関節可動域が各関節の参考可動域に満たない時に関節可動域制限があると考えます。

関節の動き(可動域)が怪我をしていない側の手・足の関節の可動域と比べて、どれだけ制限されているかによって、障害の程度が決められる。

 

怪我をした側の関節と怪我をしていない健康な側の関節の可動域を計測。

この計測は、患者が自分の意思と力で関節を動かして計測する値(自動値)と医師が患者の関節を動かして計測する値(他動値)の2つを計測する。強直の場合は強直となった角度を求める。

別添「関節可動域の表示・測定」を参照

 

診断書の⑮「手(足)指関節の他動可動域」、⑯「関節可動域及び筋力」の『他動可動域』とは、他人が力を加えたときにどのくらい曲がるかをみるものである。

各関節の可動域と残った筋力を計測するものである。

例えば「関節可動域が通常の半分以下で、かつ筋力が半減」であれば「著しい障害が残ったもの」とみなし、その状態が片腕のみなら2級、両腕なら1級となる。

この関節可動域の制限で、どのくらい不自由な状態であるかが客観的にわかるため、審査の重要な判断材料とされている。

 

 

筋力の測定

筋力の段階は、「正常」「やや減」「半減」「著減」「消失」の5段階とする。

 

正常・・・ 検者の手で加える十分な抵抗を排して自動可能な場合 やや減・・・検者の手をおいた程度の抵抗を排して自動可能な場合 半減・・・ 検者の加える抵抗には抗し得ないが、自分の体部分の重さに抗して自動可能

な場合 著減・・・ 自分の体部分の重さに抗し得ないが、それを排するような体位では自動可能

な場合 消失・・・ いかなる体位でも関節の自動が不能な場合

 

 

他動可動域による評価が適切ではないもの(たとえば、末梢神経損傷を原因として関節を可動させる筋が弛緩性の麻痺となっているもの)については、筋力、巧緻性、早さ、耐久性などが重要視される。

 

 

「関節可動域及び筋力」の結果と「日常生活における動作の障害の程度」に大きな矛盾があると、審査中に照会が入ることがある。特に照会が入るのは、「関節可動域及び筋力」が軽いのに「日常生活における動作の障害の程度」が重い場合である。  「関節可動域及び筋力」が重いのに「日常生活における動作の障害の程度」が軽い場合には照会が入らないまま「日常生活における動作の障害の程度」に合わせて軽く認定されてしまうことが多い。

 

 

⑰「四肢長及び四周囲」

   別添「関節可動域の表示・測定」を参照。

 

 

脳神経疾患(脳出血、脳梗塞)や、筋ジストロフィー、多発性硬化症、パーキンソン病、脊

髄小脳変性症などは関節可動域の制限があまり生じない病気である。このような場合、⑱日常生活における動作の障害の程度が該当している場合は、その程度に応じて認定される。

 

 

「日常生活における動作の障害の程度」

脳神経疾患(脳出血、脳梗塞)や、筋ジストロフィー、多発性硬化症、パーキンソン病、脊

髄小脳変性症などは関節可動域の制限があまり生じない病気である。このような場合、⑱日常生活における動作の障害の程度が該当している場合は、その程度に応じて認定される。

 

日常生活における動作は次のとおりである。

 

(手指の機能)  a つまむ (新聞紙が引き抜けない程度)  b 握る (丸めた週刊誌が引き抜けない程度)  c タオルを絞る (水をきれる程度)  d ひもを結ぶ

 

(上肢の機能)  e さじで食事をする  f 顔を洗う (顔に手のひらをつける)  g 用便の処置をする (ズボンの前のところに手をやる)

h 用便の処置をする (尻のところに手をやる)

i 上衣の着脱 (かぶりシャツを着て脱ぐ)

j 上衣の着脱 (ワイシャツを着てボタンをとめる)

 

(下肢の機能)

k ズボンの脱着 (どのような姿勢でもよい)

l 靴下を履く (どのような姿勢でもよい)  m 片足で立つ

n 座る (正座 横座り あぐら 脚なげだし  このような姿勢を持続する)

o 深くおじぎ(最敬礼)をする

p 歩く(屋内)

q 歩く(屋外)

 r 立ち上がる  s 階段を上がる

t 階段を下りる

 

「ひも結ぶ」「顔を洗う」「片足で立つ」「歩く」などの日常生活における動作を、例えば、 ・「一人でうまくできる」→〇  ・「一人でできてもやや不自由」→〇△ ・「一人でできるが非常に不自由」→△× ・「一人で全くできない」→×

というように4段階評価し、全てもしくはほとんどが「×」であれば「用を廃したもの」とみなし、「一上肢と一下肢がこの状態であれば1級」、ほとんどが「△×」もしくは多くが「×」であれば「相当程度の障害が残ったもの」とみなし、一上肢と一下肢がこの状態であれば2級となる。

 

 

 

可動域測定要領

 

○肩関節

 肩関節には,屈曲・伸展,外転・内転,外旋・内旋という6つの種類の運動があります。

このうち,肩関節においては,屈曲,外転・内転という3つの種類の運動が主要運動とされます。主要運動とは,各関節における日常動作にとって最も重要なものをいいます。多くの関節では主要運動は1種類しかありません。しかし,肩関節には,屈曲,外転・内転という2つの主要運動があります。

 関節の機能障害は,原則として主要運動の可動域の制限の程度によって評価されます。ただし,一定の場合には,主要運動のみならず,参考運動における可動域制限の程度をも併せて評価し,機能障害に該当するか否かを判断していきます。

 肩関節における参考運動は,伸展,外旋・内旋の3種類になります。とくに,屈曲・伸展は,同一面にある運動の1つが主要運動とされ,他が参考運動とされている例外的な運動となり,それぞれの運動が独立して評価されることになる珍しい例です。

 

i 屈曲

 

 前方挙上とも呼ばれます。肩峰を通る床への垂直線を基本軸としながら,上腕骨を移動軸として測定します。前腕は中間位とし体幹が動かないように固定します。せき柱が前後屈しないように注意して測定していきます。

 屈曲は主要運動とされることから,健側と比べて屈曲における可動域が一定以上の割合で制限されている場合,上肢機能制限として評価されることになります。

 

 

ii 外転・内転

 

 

 外転は,側方挙上とも呼ばれます。肩峰を通る床への垂直線を基本軸としながら,上腕骨を射動軸として測定します。体幹の側屈が起こらないように90°以上になったら前腕を回外することを原則とします。

 外転・内転も主要運動とされることから,健側と比べて屈曲における可動域が一定以上の割合で制限されている場合,上肢機能制限として評価されることになります。

 

 

iii 伸展

 

 後方挙上とも呼ばれます。肩峰を通る床への垂直線を基本軸としながら,上腕骨を移動軸として測定します。前腕は中間位とし体幹が動かないように固定します。せき柱が前後屈しないように注意して測定していきます。

 伸展は参考運動とされることから,主要運動の可動域が1/2ないし3/4をわずかに上回る場合に,参考運動の可動域が参考にされることになります。「わずかに上回る」とは原則として5度上回る場合とされますが,肩関節の屈曲,外転においては10度上回る場合とされています。

 

iv 外旋・内旋

 

 ひじを通る前額面への垂直線を基本軸としながら,尺骨を移動軸として測定します。上腕を体幹に接して,肘関節を前方90°に屈曲した肢位で行います。前腕は中間位とします。

 外旋・内旋は参考運動とされることから,主要運動の可動域が1/2ないし3/4をわずかに上回る場合に,参考運動の可動域が参考にされることになります。「わずかに上回る」とは上述のとおり,肩関節の屈曲,外転においては,10度上回る場合とされています。

 

 

○肘関節

 肘関節には,屈曲・伸展の2種類の運動があります。屈曲・進展は同一面の運動です。肘関節においては,この屈曲・伸展という2種類の運動を主要運動として取り扱います。肘関節には,屈曲・伸展の2種類の運動しかなく,かつ,屈曲・伸展の2種類の運動が主要運動とされているので,参考運動はありません。

 

i 屈曲・伸展

 

 屈曲・伸展ともに,上腕骨を基本軸とし,橈骨を移動軸として測定します。前腕は回外位として測定します。なお,肘関節には参考運動がありません。そして,関節機能障害の評価においては,参考運動を評価の対象とする場合として,主要運動の可動域が1/2ないし3/4をわずかに上回る場合とされています。したがって,そもそも参考運動が設定されていない肘関節においては,参考運動を評価の対象とする場合が観念できないため,主要運動の可動域が1/2ないし3/4をわずかに上回る場合であっても,単に機能障害に当たらないという評価を導くことになるものと解されます。

 

 

○前腕関節

 前腕関節には,回内・回外の2種類の運動があります。前腕関節においては,この回内・回外という2種類の運動を主要運動として取り扱います。前腕関節には,回内・回外の2種類の運動しかなく,かつ,回内・回外の2種類の運動が主要運動とされているので,参考運動はありません。

 

i 回内・回外

 

 前腕に関しては,前腕軸を中心にして外方向に回旋する動き(手指を伸展した手掌面が上を向く動き)が回外,内方向に回旋する動き(手指を伸展した手掌面が下を向く動き)が回内です。回内・回外ともに,上腕骨を基本軸とし,手指を伸展した手掌面を移動軸として測定します。肩の回旋が入らないようにひじを90°に屈曲して測定します。

なお,前腕関節にも参考運動がありません。したがって,肘関節と同様にそもそも参考運動が設定されていない前腕関節においては,主要運動の可動域が1/2ないし3/4をわずかに上回る場合であっても,単に機能障害に当たらないという評価を導くことになるものと解されます。

 

 

 

○手関節

 手関節には,屈曲・伸展,橈屈・尺屈の4種類の運動があります。手関節における主要運動は屈曲・伸展とされています。手関節における参考運動は,橈屈,尺屈とされています。屈曲・伸展は同一面の運動であり,橈屈・尺屈も同一面の運動です。したがって,屈曲・伸展,橈屈・尺屈ともに同一面の運動の和が健側と比肩して機能障害所定の数値に制限されているか否かを測定していくことになります。

 

i 屈曲・伸展

 

 屈曲は掌屈ともいい,伸展は背屈ともいいます。屈曲・伸展は,橈骨を基本軸として,第2中手骨を移動軸として測定されます。前腕は中間位として測定されることになります。

 

ii 橈屈・尺屈

 

 橈屈・尺屈は,前腕の中央線を基本軸として,第3中手骨を移動軸として測定します。前腕を回内位で行うことが必要です。橈屈・尺屈は参考運動とされることから,主要運動の可動域が1/2ないし3/4をわずかに上回る場合に,参考運動の可動域が参考にされることになります。「わずかに上回る」とは原則として5度上回る場合とされますが,手関節の屈曲・伸展においては,10度上回る場合とされています。

 

 

 

 

○股関節

 股関節には,屈曲・伸展,外転・内転,外旋・内旋という6つの種類の運動があります。

このうち,股関節においては,屈曲・伸展,外転・内転という3つの種類の運動が主要運動とされます。主要運動とは,各関節における日常動作にとって最も重要なものをいいます。多くの関節にあっては,主要運動は1種類しかありません。しかし,股関節には,屈曲・伸展,外転・内転という2つの主要運動があります。

 関節の機能障害は,原則として主要運動の可動域の制限の程度によって評価されます。ただし,一定の場合には,主要運動のみならず,参考運動における可動域制限の程度をも併せて評価して,機能障害に該当するか否かを判断していきます。 股関節における参考運動は,外旋・内旋になります。

 

i 屈曲・伸展

 体幹と平行な線を基本軸としながら,大腿骨(大転子と大腿骨外顆の中心を結ぶ線)を移動軸として測定します。骨盤とせき柱を充分に固定します。屈曲は背臥位,膝屈曲位行い,進展は腹臥位,膝伸展位で行います。

 屈曲・伸展は主要運動とされることから,健側と比べて屈曲における可動域が一定以上の割合で制限されている場合,下肢機能制限として評価されることになります。

 

屈曲

 

 

 

ii 外転・内転

 

 

 上側の上前腸骨棘を結ぶ線への垂直線を基本軸とし,大腿中央線(上前腸骨棘より膝蓋骨中心を結ぶ線)を移動軸として測定します。背臥位で骨盤を固定し測定します。下肢は外旋しないように注意します。内転の場合は,反対側の下肢を屈曲挙上してその下を通して内転させ,測定します。

 外転・内転も主要運動とされることから,健側と比べて屈曲における可動域が一定以上の割合で制限されている場合,下肢機能制限として評価されることになります。

 

 

iii 外旋・内旋

 

 

 膝蓋骨より下ろした垂直線を基本軸としながら,下腿中央線を移動軸として測定します。背臥位でひざ関節を90°屈曲位にして行います。骨盤の代償を少なくすることが必要です。

 外旋・内旋は参考運動とされることから,主要運動の可動域が1/2ないし3/4をわずかに上回る場合に,参考運動の可動域が参考にされることになります。「わずかに上回る」とは,股関節の屈曲,伸展においては,10度上回る場合とされています。

 

 

○ひざ関節

 ひざ関節には,屈曲・伸展の2種類の運動があります。屈曲・進展は同一面の運動です。ひざ関節においては,この屈曲・伸展という2種類の運動を主要運動として取り扱います。ひざ関節には,屈曲・伸展の2種類の運動しかなく,かつ,屈曲・伸展の2種類の運動が主要運動とされているので,参考運動はありません。

 

i 屈曲・伸展

 

 

 屈曲・伸展ともに,大腿骨を基本軸とし,腓骨(腓骨頭と外果を結ぶ線)を移動軸として測定します。屈曲は股関節を屈曲位で行います。

 なお,ひざ関節には参考運動がありません。そして,関節機能障害の評価においては,参考運動を評価の対象とする場合として,主要運動の可動域が1/2ないし3/4をわずかに上回る場合とされています。したがって,そもそも参考運動が設定されていないひざ関節においては,参考運動を評価の対象とする場合が観念できないため,主要運動の可動域が1/2ないし3/4をわずかに上回る場合であっても,単に機能障害に当たらないという評価を導くことになるものと解されます。

 

 

 

○足関節

 足関節には,屈曲・伸展の2種類の運動があります。足関節における主要運動は屈曲・伸展とされています。

 なお,足関節には参考運動がありません。そして,関節機能障害の評価においては,参考運動を評価の対象とする場合として,主要運動の可動域が1/2ないし3/4をわずかに上回る場合とされています。したがって,そもそも参考運動が設定されていない足関節においては,参考運動を評価の対象とする場合が観念できないため,主要運動の可動域が1/2ないし3/4をわずかに上回る場合であっても,単に機能障害に当たらないという評価を導くことになるものと解されます。

 

i 屈曲(底屈)・伸展(背屈)

 

 屈曲は底屈ともいい,伸展は背屈ともいいます。屈曲・伸展は,腓骨への垂直線を基本軸として,第5中足骨を移動軸として測定されます。ひざ関節を屈曲位として,測定されることになります。

 

 

 

肢体の障害関係の測定方法

 

1.まえがき

障害認定に当たって、その正確を期するためには、正確な身体状況の把握が基礎となるものである。しかしながら、認定要素が複雑であることや、検査者、被検者の心的変動があることなどで、それは困難なことといえる。このため、検査者の主観及び被検者の心的状態の影響を受けることが比較的少ない肢体の障害関係の諸測定等(関節可動域表示並びに測定、筋力の測定、四肢囲の測定及び四肢長の測定)の方法を以下に示し、診断書の作成及び判定の便宜を図るものである。

 

 

2.関節可動域表示並びに測定

(1) この項は、関節可動域の表示並びに測定について一定の方法を示すことにより、障害基礎年金・障害厚生年金及び障害手当金の肢体の障害関係の障害認定業務を的確かつ簡素化するためのもので ある。

(2) 障害認定における関節可動域表示並びに測定法は、日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会において示された別添「関節可動域表示ならびに測定法」によることとする。

 

 

3.筋力の測定

(1) 測定は、徒手による筋力検査を行うことによって行う。

(2) 障害認定において必要とする筋力の段階は、「正常」「やや減」「半減」「著減」「消失」の5段階として、次の方法により区別する。

正常・・・ 検者の手で加える十分な抵抗を排して自動可能な場合 やや減・・・検者の手をおいた程度の抵抗を排して自動可能な場合 半減・・・ 検者の加える抵抗には抗し得ないが、自分の体部分の重さに抗して自動可能な

      場合 著減・・・ 自分の体部分の重さに抗し得ないが、それを排するような体位では自動可能な

      場合 消失・・・ いかなる体位でも関節の自動が不能な場合

 

 

4.四肢囲の測定

障害認定において必要とする四肢囲は、上腕、前腕、大腿及び下腿周径である。

 

 

5.四肢長の測定

障害認定において使用する上肢長は、肩峰先端により橈骨茎状突起尖端までの長さを測定し、下肢長は、上前腸骨棘尖端より頸骨内果尖端までの長さを測定する。

 

 

 

 

上肢                   下肢

   
   

 

 

 

 

関節可動域表示ならびに測定法 (平成7年2月改訂)

 

平成7年2月9日 社団法人 日本整形外科学会 理事長 山内裕雄 身体障害委員会 委員長 伊地知正光

 

はじめに

これまで使用されてきた関節可動域表示ならびに測定法は,昭和49年に日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会との協議により,それ以前のものを改訂したものである。 実際の運用に際し,また新たに,いくつかの問題点の指摘があり,それを受けて,日本整形外科学会では身体障害委員会,日本リハビリテーション医学会では評価基準委員会で検討してきた。

平成3年1月には両委員会の合同委員会が開催され,改訂の必要性の合意のもとに,改訂案を作ることになった。以後,それぞれの委員会および合同委員会で,改訂の基本方針の決定,改訂すべき内容と範囲の検討などを行った。平成6年6月には,参考図のイラストの検討を含めて,合同委員会として最終案をまとめた。

この合同委員会最終案は,平成6年9月に,日本整形外科学会雑誌第68巻第9号と日本リハビリテーション医学会誌(リハビリテーション医学)第31巻第10号とに同時公表され,その後3ヵ月の間に,両学会会員に疑問点や修正案などの意見を求めた。そして,会員の意見をもとに身体障害委員会,評価基準委員会でそれぞれ検討し,平成7年1月の合同委員会で訂正や修正すべき諸点について基本的に合意に達した。

今回の改訂の骨子は,関節可動域の測定を原則的に他動可動域にしたこと,軸心を削除したこと,股関節と胸腰椎部に特に検討を加えたことである。正常可動域を参考可動域と改め,一部に角度の訂正も行った。基本軸,移動軸,測定肢位では,平易で誤解のない記述に改め,参考図のイラストにも手を加え,わかりやすいものに改めた。

平成7年2月には,日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会のそれぞれの理事会の承認を得て,両学会公認の関節可動域表示ならびに測定法と最終的に決定された。 この改訂された関節可動域表示ならびに測定法が,今後,臨床的に,かつ各種診断書や証明書等の公文書記載に,広く活用されることが望まれる。

 

 

関節可動域表示ならびに測定法

 

Ⅰ.関節可動域表示ならびに測定法の原則

 

1.関節可動城表示ならびに測定法の目的 日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会が制定する関節可動域表示ならびに測定

法は,整形外科医,リハビリテーション医ばかりでなく,医療,福祉,行政その他の関連職種

の人々をも含めて,関節可動域を共通の基盤で理解するためのものである。従って,実用的で

分かりやすいことが重要であり,高い精度が要求される計測,特殊な臨床評価,詳細な研究の

ためにはそれぞれの目的に応じた測定方法を検討する必要がある。  

 

2.基本肢位 Neutral Zero Methodを採用しているので,Neutral Zero Starting Positionが基本肢位で

あり,概ね解剖学的肢位と一致する。ただし,肩関節水平屈曲・伸展については肩関節外転90°

の肢位,肩関節外旋・内旋については肩関節外転0°で肘関節90°屈曲位,前腕の回外・回内

については手掌面が矢状面にある肢位,股関節外旋・内旋については股関節屈曲90°で膝関節

屈曲90°の肢位をそれぞれ基本肢位とする。  

 

3.関節の運動

 

1) 関節の運動は直交する3平面,すなわち前額面,矢状面,水平面を基本面とする運動である。ただし,肩関節の外旋・内旋,前腕の回外・回内,股関節の外旋・内旋,頸部と胸腰部の回旋は,基本肢位の軸を中心とした回旋運動である。また,足部の内がえし・外がえし,母指の対立は複合した運動である。

 

2) 関節可動域測定とその表示で使用する関節運動とその名称を以下に示す。なお,下記の基本的名称以外によく用いられている用語があれば( )内に併記する。

 

(1)屈曲と伸展 多くは矢状面の運動で,基本肢位にある隣接する2つの部位が近づく動きが屈曲,遠ざかる

動きが伸展である。ただし,肩関節,頸部・体幹に関しては,前方への動きが屈曲,後方への

動きが伸展である。また,手関節,手指,足関節,足指に関しては,手掌または足底への動き

が屈曲,手背または足背への動きが伸展である。

 

(2)外転と内転 多くは前額面の運動で,体幹や手指の軸から遠ざかる動きが外転,近づく動きが内転である。

 

(3)外旋と内旋 肩関節および股関節に関しては,上腕軸または大腿軸を中心として外方へ回旋する動きが外

施,内方へ回旋する動きが内旋である。

 

(4)回外と回内 前腕に関しては,前腕軸を中心にして外方に回旋する動き(手掌が上を向く動き)が回外,内

方に回旋する動き(手掌が下を向く動き)が回内である。

 

(5)水平屈曲と水平伸展 水平面の運動で,肩関節を90°外転して前方への動きが水平屈曲,後方への動きが水平伸展

である。

 

(6)挙上と引き下げ(下制) 肩甲帯の前額面の運動で,上方への動きが挙上,下方への動きが引き下げ(下制)である。

 

(7)右側屈・左側屈 頸部,体幹の前額面の運動で,右方向への動きが右側屈,左方向への動きが左側屈である。

 

(8)右回旋と左回旋 頸部と胸腰部に関しては右方に回旋する動きが右回旋,左方に回旋する動きが左回旋である。

 

(9)橈屈と尺屈 手関節の手掌面の運動で,橈側への動きが橈屈,尺側への動きが尺屈である。

 

(10)母指の橈側外転と尺側内転 母指の手掌面の運動で,母指の基本軸から遠ざかる動き(橈側への動き)が橈側外転,母指の

基本軸に近づく動き(尺側への動き)が尺側内転である。

 

(11)掌側外転と掌側内転 母指の手掌面に垂直な平面の運動で,母指の基本軸から遠ざかる動き(手掌方向への動き)が

掌側外転,基本軸に近づく動き(背側方向への動き)が掌側内転である。

 

(12)対立 母指の対立は,外転,屈曲,回旋の3要素が複合した運動であり,母指で小指の先端または

基部を触れる動きである。

 

(13)中指の橈側外転と尺側外転 中指の手掌面の運動で,中指の基本軸から橈側へ遠ざかる動きが橈側外転,尺側へ遠ざかる

動きが尺側外転である。

 

(14)外がえしと内がえし 足部の運動で,足底が外方を向く動き(足部の回内,外転,背屈の複合した運動)が外がえし,

足底が内方を向く動き(足部の回外,内転,底屈の複合した運動)が内がえしである。

足部長軸を中心とする回旋運動は回外,回内と呼ぶべきであるが,実際は,単独の回旋運動

は生じ得ないので複合した運動として外がえし,内がえしとした。また,外反,内反という用語も用いるが,これらは足部の変形を意味しており,関節可動域測定時に関節運動の名称としては使用しない。  

 

4.関節可動域の測定方法

 

1) 関節可動域は,他動運動でも自動運動でも測定できるが,原則として他動運動による測定値を表記する。自動運動による測定値を用いる場合は,その旨明記する〔5の2)の(1)参照〕。

 

2) 角度計は十分な長さの柄がついているものを使用し,通常は5°刻みで測定する。

 

3) 基本軸,移動軸は,四肢や体幹において外見上分かりやすい部位を選んで設定されており,運動学上のものとは必ずしも一致しない。また,手指および足指では角度計のあてやすさを考慮して,原則として背側に角度計をあてる。

 

4) 基本軸と移動軸の交点を角度計の中心に合わせる。また,関節の運動に応じて,角度計の中心を移動させてもよい。必要に応じて移動軸を平行移動させてもよい。

 

5) 多関節筋が関与する場合,原則としてその影響を除いた肢位で測定する。例えば,股関節屈曲の測定では,膝関節を屈曲しハムストリングをゆるめた肢位で行う。

 

6) 肢位は「測定肢位および注意点」の記載に従うが,記載のないものは肢位を限定しない。変形,拘縮などで所定の肢位がとれない場合は,測定肢位が分かるように明記すれば異なる肢位を用いても良い〔5の2)の(2)参照〕。

 

7) 筋や腱の短縮を評価する目的で多関節筋を緊張させた肢位で関節可動域を測定する場合は,測定方法が分かるように明記すれば多関節筋を緊張させた肢位を用いても良い〔5の2)の(3)参照〕。

 

5.測定値の表示

 

1) 関節可動域の測定値は,基本肢位を0°として表示する。例えば,股関節の可動域が屈曲位20°から70°であるならば,この表現は以下の2通りとなる。

(1)股関節の関節可動域は屈曲20°から70°(または屈曲20°~70°)

(2)股関節の関節可動域は屈曲は70°,伸展は-20°

 

2) 関節可動域の測定に際し,症例によって異なる測定法を用いる場合や,その他関節可動域に影響を与える特記すべき事項がある場合は,測定値とともにその旨併記する。

(1)自動運動を用いて測定する場合は,その測定値を( )で囲んで表示するか,「自動」または「active」などと明記する。

(2)異なる肢位を用いて測定する場合は,「背臥位」「座位」などと具体的に肢位を明記する。

(3)多関節筋を緊張させた肢位を用いて測定する場合は,その測定値を〈 〉で囲んで表示するが,「膝伸展位」などと具体的に明記する。

(4)疼痛などが測定値に影響を与える場合は,「痛み」「pain」などと明記する。  

 

6.参考可動域 関節可動域は年齢,性,肢位,個体による変動が大きいので,正常値は定めず参考可動域と

して記載した。関節可動域の異常を判定する場合は,健側上下肢の関節可動域,参考可動域,(附)

関節可動域の参考値一覧表,年齢,性,測定肢位,測定方法などを十分考慮して判定する必要

がある。

 

 

 

 

 

関節可動域参考値一覧表

 

関節可動域は,人種,性別,年齢等による個人差も大きい。また,検査肢位等により変化があるので,ここに参考値の一覧表を付した。

 

部位名及び運動方向

注1

注2

注3

注4

注5

屈曲

伸展

外転

内転

内旋

肩外転90°

外旋

肩外転90°

屈曲

伸展

前腕

回内

回外

伸展

屈曲

尺屈

橈屈

 

130

80

180

45

90

 

40

 

 

150

0

 

50

90

 

90

 

30

15

 

150

40

150

30

40

 

90

 

 

150

0

 

80

80

 

60

70

30

20

 

170

30

170

 

60

 

80

 

 

135

0

 

75

85

 

65

70

40

20

 

180

60

180

75

80

70

60

90

 

150

0

 

80

80

 

70

80

30

20

 

173

72

184

0

 

81

 

103

 

146

4

 

87

93

 

80

86

母指

外転(橈側)

屈曲

CM

MCP

IP

伸展

CM

MCP

IP

屈曲

MCP

PIP

DIP

伸展

MCP

PIP

DIP

 

50

 

 

50

90

 

 

10

10

 

 

 

 

90

 

45

 

 

 

 

60

80

 

 

 

 

 

 

90

100

70

 

55

 

 

50

75

 

 

5

20

 

 

90

100

70

 

70

 

15

50

80

 

20

0

20

 

 

90

100

90

 

45

0

0

 

屈曲

伸展

外転

内転

内旋

外旋

屈曲

伸展

伸展(背屈)

屈曲(底屈)

 

120

20

55

45

 

 

 

145

10

 

15

50

 

100

30

40

20

 

 

 

120

 

 

20

40

 

110

30

50

30

 

 

 

135

 

 

15

50

 

120

30

45

30

45

45

 

135

10

 

20

50

 

132

15

46

23

38

46

 

154

0

 

26

57

母指(趾)

屈曲

MTP

IP

伸展

MTP

IP

足指

屈曲

MTP

PIP

DIP

伸展

MTP

PIP

DIP

 

 

 

30

30

 

50

0

 

 

30

40

50

 

 

35

 

 

70

 

 

45

90

 

70

0

 

 

40

35

60

 

頸部

屈曲

伸展

側屈

回旋

胸腰部

屈曲

伸展

側屈

回旋

 

 

30

30

40

30

 

90

30

20

30

 

 

45

45

45

60

 

80

20—30

35

45

 

 

注:1.A System of Joint Measurements, William A, Clark, Mayo Clinic, 1920.

2.The Committee on Medical Rating of Physical Impairment, Journal of American Medical Association, 1958.

3.The Committee of the California Medical Association and Industrial Acctdent Commission of the State of California,1960.

4.The Committee on Joint Motion, American Academy of Orthopaedic Surgeons, 1965.

5.渡辺英夫・他:健康日本人における四肢関節可動域について。年齢による変化。日整会誌 53:275―291,1979.

なお,5の渡辺らによる日本人の可動域は,10歳以上80歳未満の平均値をとったものである。

 

 

随意運動・不随意運動

 

 随意運動とは、自分の意思によって生じる運動のことで、運動を促進する神経経路と抑制する神経経路のバランスの上に成り立っている。

 相反する作用をコントロールしているのが大脳基底核で、随意運動がスムーズに行われるようにはたらく。

 

 

 運動機能には、大脳皮質、大脳基底核、脳幹、小脳、脊髄など、中枢神経の様々な部位がかかわっている。そのどこかにニューロンの変性・脱落が生じると、随意運動の障害(運動麻痺 など)や付随意運動の出現をきたす。

 

 

 自分の意思とは関係なく現れる異常運動のことを不随意運動といいます。

専門的には性状によって分類されています。  脳梗塞脳出血、神経変性疾患などにより大脳基底核などの錐体外路(すいたいがいろ)に障害が起こるとみられることがあります。それ以外に薬の副作用でもみられることがあります。また、原因がとくにはっきりしないこともあります。

(1)本態性振戦  振戦(震え)とは、律動的に細かく振動するような運動をいい、安静時にみられる振戦はパーキンソン病に特徴的です。一方、字を書いたり、物を持ったりするときにみられる振戦(姿勢時振戦)で、とくに原因がはっきりしないものを本態性振戦といいます。主に手に、時に頭部に振戦がみられますが、それ以外には異常がなく良性の疾患です。  軽症では治療を必要としませんが、日常生活に支障が出るほどの時には、アロチノロール(アルマール)やクロナゼパム(リボトリール)の投与で振戦を軽くすることができます。時に飲酒で軽くなる人もみられます。

(2)バリスムス  上下肢全体を投げ出すような、または振り回すような大きく激しい不随意運動です。バリスムスは、視床下核の脳梗塞脳出血による障害で反対側の上下肢に起こるものがほとんどです。  この場合は、自然に消える場合がほとんどですが、ハロペリドール(セレネース)の投与が比較的有効です。

(3)アテトーゼ  手足や頭をゆっくりとくねらせるような動きをする不随意運動です。脳性麻痺(のうせいまひ)や代謝異常などでみられます。アテトーゼ自体は、薬物療法による治療効果は乏しく、強い筋肉の緊張を伴う場合にジアゼパム(セルシン)などで筋肉の緊張を軽くさせる程度です。

(4)ジストニア  ジストニアとは、筋肉の緊張の異常によって異常な姿勢、肢位をとるものをいいます。頸部(けいぶ)の異常姿勢を示す痙性斜頸(けいせいしゃけい)や、字を書く時にだけ手に変に力が入り字を書きにくくなる書痙(しょけい)も、局所の特発性ジストニアです。  アテトーゼと同様に代謝異常でみられることもありますが、それ以外に、パーキンソン病治療薬や抗精神病薬の副作用でみられることもあります。トリヘキシフェニジル(アーテン)などで効果があります。

(5)ミオクローヌス  ミオクローヌスは、手足、全身のビクッとする素早い動きのことで、健康な人でも入眠時にみられることがあります。代謝異常でみられることが多いのですが、まれな病気で、亜急性硬化性全脳炎(あきゅうせいこうかせいぜんのうえん)やクロイツフェルト・ヤコブ病では、ミオクローヌス自体が主症状でみられます。  ミオクローヌスの治療は、代謝異常では原疾患の治療でよくなりますが、クロナゼパム(リボトリール)が有効です。

(6)口(くち)ジスキネジー  口をもぐもぐさせたり、舌をペチャペチャさせるような不随意運動です。パーキンソン病治療薬や抗精神病薬の副作用で起こることがあります。

 

 

 


運動障害

 

手を上げたりほほ笑んだりすることも含めて、体のあらゆる動作は、中枢神経系(脳と脊髄)と神経と筋肉の複雑な相互作用によって行われています。

このいずれに損傷や機能不全が起きても、運動障害の原因となります。

 

運動障害の種類

麻痺や運動障害の重さは、脳卒中で障害された脳の損傷具合に影響されます。

 

 

損傷機能不全の種類と発生部位に応じて、次のようなさまざまな運動障害が起こる。

 

随意運動を制御する脳領域や、脳と脊髄の接合部の損傷:

随意運動を行う筋肉の筋力低下や麻痺、過剰反射が起こる。

 

基底核(脳の奥深く、大脳の底部に位置する神経細胞の集団)の損傷:

不随意運動が起きたり、動きが小さくなったりするが、筋力低下や反射異常は起こらない。

 

小脳の損傷:

協調運動が損なわれる。

しゃっくりなどの運動障害は一時的なもので、通常、不自由をもたらすことはありません。一方、パーキンソン病など進行性の深刻な病気もあり、こうした病気では、話すこと、手

を使うこと、歩くこと、起立時にバランスを保つことなどが困難になります。

 

 

痙縮

筋肉が重く突っ張った感じがする程度

 

不全麻痺

麻痺はみられるが、運動機能の一部が残っている状態

 

完全麻痺

完全に運動機能を失った状態

 

付随運動

「動かそう」という意思がないのに、手足が勝手に動いてしまうという付随運動の後遺症。付随運動のよくあるケースは、健康な側(健側)に力を入れると麻痺側の手足が勝手に動くという現象です

 

運動失調

筋力の低下や麻痺がないにもかかわらず、筋肉の協調運動ができず随意運動のできない状態。小脳が障害されると、ふらふらする、バランスが悪くなって上手く歩けない、めまいがする、といった運動失調が現れることもあります。

 

 

運動失調

運動の規則性・方向性・速度・距離の障害による運動の時間的・空間的効率の低下を意味し、また、運動の支点となる関節での固定性を伴う。

 

 

運動失調の分類

 

1 脊髄性運動失調症

  深部感覚(位置覚・関節覚・筋覚)の障害により生じる。

  代表的疾患  梅毒による脊髄癆 フリードライヒ運動失調症

 

2 迷路性運動失調症

  起立と歩行時の平衡障害が特徴。眼振を伴う。

  四肢の随意運動には障害が無く、深部感覚にも異常は無い。

 

3 大脳性運動失調

  前頭葉・側頭葉・頭頂葉などの障害でも運動失調が起こる。

  最も有名なのは脳腫瘍による前頭葉性運動失調症。

 

4 小脳性運動失調

  ①小脳虫部の障害

   平衡障害が強く、起立・坐位の障害や歩行障害が著明である。

   主に体幹運動失調。

  ②小脳半球の障害

   障害部位と同側の四肢に運動失調が出現。

   筋緊張低下・構音障害・眼振も出現する。

   a 古小脳症候群(片葉小節葉)

      歩行時の平衡障害、起立や坐位での障害など、体幹運動失調がある。

   b 旧小脳症候群(小脳前葉)

      歩行障害が主で、下肢の運動失調がある。

      起立ないし歩行時には、陽性支持反応が亢進する。

   c 新小脳症候群(小脳後葉)

      障害側の上下肢に運動失調・筋緊張の低下がみられる。

障害側の筋は易疲労性となり、脱力もみられる。

歯状核障害では企図振戦がある。

 

 

 

協調運動障害

 

 体のさまざまな部位を使って目的の動作を行うことが障害されることをいう。

 

協調運動障害は、随意運動を協調させている脳の領域である小脳の機能障害が原因で起こります。

小脳の機能障害により、協調運動が失われます。

腕や脚をうまく制御できず、歩幅が大きくなって歩行が不安定になります。

診断は症状、家族歴、脳のMRI検査に基づいて行われます。

可能であれば原因を是正します。原因を是正できない場合は、症状の軽減が治療の中心となります。

小脳は脳の一部で、一連の動作を調整しています。バランスと姿勢の制御も行っています。小脳が損傷を受けると、どのような損傷であれ、協調運動障害(運動失調)の原因となりえます。

長期間の過量飲酒は、小脳に永続的な損傷を与え、協調運動障害の原因として最も多いものです。あまり頻度は高くありませんが、甲状腺機能低下症(甲状腺の活動性の低下)、ビタミンE欠乏症、脳腫瘍などの病気が協調運動障害を引き起こす場合もあります。フリードライヒ運動失調症などの遺伝性疾患も、協調運動障害の原因となります。ある種の薬剤(抗けいれん薬など)は、特に高用量で使用した場合に、協調運動障害を引き起こすことがあります。その場合は、薬剤の使用を中止すると症状もなくなるでしょう。

 

協調運動障害の原因

種類

脳の病気

脳の先天異常

脳内出血

脳腫瘍(特に小児)

頭部外傷(繰り返し起きた場合)

脳卒中

遺伝性疾患

脊髄小脳失調症

フリードライヒ運動失調症

毛細血管拡張性失調症

その他の病気

熱射病または極度の高熱

多発性硬化症

多系統萎縮症

甲状腺機能低下症(甲状腺の活動性の低下)

ビタミンE欠乏症

薬剤および毒物

飲酒(長期間にわたる過度の飲酒)

フェニトインなどの抗けいれん薬(特に高用量の場合)

一酸化炭素

重金属(水銀や鉛など)

 

 

症状

運動失調が起きると、腕や脚の位置、体の姿勢をうまく調節できなくなります。そのため、歩行時に歩幅が大きくなってふらつき、腕は大きくジグザグに動きます。

 

協調運動障害によって次のような別の異常が引き起こされることもあります。

 

測定障害:

体の動きの範囲をコントロールできなくなります。たとえば、何かを手に取ろうとしたときに、手が対象物を通り越してしまうなどします。

 

構音障害:

声を出す筋肉の運動の協調が失われるために、ろれつが回らなくなり、抑揚を制御できなくなります。口の周囲の筋肉が通常より大きく動きます。

 

断続性言語:

話し方が単調になり、スタッカートのように途切れます。

 

眼振:

何かを見つめようとしたときに視線が対象を通過してしまい、眼振が生じます。眼振では、眼球が一方向に急速に動いた後、ゆっくり元の位置に戻るという動きが繰り返し起こります。

 

振戦:

目的のある動きを終えたときや物に手を伸ばそうとしたとき(企図振戦)、または体を特定の姿勢に保とうとしたとき(姿勢時振戦)に、小脳の損傷が原因で振戦が起こることがあります。筋肉の緊張が低下することもあります。

 

フリードライヒ失調症:

フリードライヒ運動失調症は進行性で、5~15歳の間に歩行が不安定になります。その後、腕の動きが協調しなくなり、話し方が不明瞭になって聞き取りにくくなります。この病気がある小児の多くは、出生時に、内反足もしくは脊椎の弯曲(脊柱側弯症)、またはその両方がみられます。やがて、振動の感覚がなくなり、腕と脚の位置が分からなくなり(位置感覚喪失)、反射が失われます。精神機能も低下することがあります。振戦は、起こったとしても軽度です。

この病気がある人は、20代後半までに車いすが常時必要になることがあります。中年期までに亡くなることが多く、多くの場合、死因は不整脈または心不全です。

 

 

歩行異常がみられる主な疾患

 

1.疼痛  変形性関節症(膝、股関節)、膝半月板損傷、膝・足関節勒帯損傷、アキレス腱周囲炎、外反母趾、足底腱膜炎、血管性・脊髄性間欠性跛行

2.拘縮および変形  変形性関節症による股関節・膝関節拘縮、痙性麻痺による尖足、外傷・感染症や関節リウマチによる関節拘縮・強直

3.痙性麻痺  脳血管障害、脳腫瘍、頭部外傷、脳性麻痺、多発性硬化症、脊髄腫瘍、脊髄損傷、脊推疾患

4.錐体外路系疾患  パーキンソン病・症候群、舞踏病

5.筋力低下  末梢性麻痺(ポリオ、多発性神経炎、総排骨神経麻痺、外傷性末梢神経損傷など、各種の筋炎)、筋ジストロフィー、廃用性筋萎縮(筋萎縮性側索硬化症)

6.平衡機能障害  脊髄小脳変性症、小脳腫瘍、小脳梗塞

7.脚長差  ・患側が短いもの:

先天性股関節脱臼、成長期の下肢関節の感染、下肢骨折後の変形治癒  ・患側が長いもの:

幼児期の骨折後の過成長、下肢動静脈痩

8.下肢切断  閉塞性動脈硬化症、外傷、感染、下肢骨軟部腫瘍

 

 

骨粗鬆症

 

骨粗鬆症は骨がもろくなる病気です。体重や強い力がかかることによる骨折や骨の変形といった、圧迫骨折の症状を起こしやすくなります。

また、背中が曲がって身長が縮んだり、背中や腰に痛みを感じたりすることもあります。そのために姿勢が悪くなり、内臓に影響が出るといった間接的な症状が発生することもあります。骨自体がもろくなっているので、骨折すると治りが悪くなりがちで、骨折した場所によっては寝たきりにつながる危険性もあります。

 

骨粗鬆症の原因は、加齢によるものが大きいです。骨も新陳代謝を行っていて、古い骨の吸収と新しい骨の形成を繰り返していますが、加齢によってそのバランスが崩れるのです。特に女性ホルモンのエストロゲンには骨の吸収を抑える働きがあるため、閉経後の女性は骨粗鬆症になる確率が高くなります。また閉経の年齢に達しない若い女性や男性でも、不摂生な生活を長く続ける、極端なダイエット、ステロイド薬の使用などが原因で、骨密度が下がって骨粗鬆症になることがあるのです。

 

骨粗鬆症かどうかを調べるには、骨密度を測る検査をします。検査方法には、DXA法や超音波法などがあり、X線や超音波を使って手や足などの骨量を調べます。そして骨密度が、測った人の年代の平均や、若い健康な成人の平均と比べてどれくらいの割合なのかを確認します。またレントゲン写真も撮影して、骨が薄くなっていないか、骨折が起きていないかも見ます。骨が弱くなったことで起きる脆弱性骨折があれば、骨粗鬆症と診断されます。骨折がなくても、若い健康な成人と比べて70パーセント未満の骨密度である場合も骨粗鬆症と診断が下されます。

 

骨粗鬆症の治療では、薬物療法が主に行われます。カルシウムの吸収を助け、骨の形成を促進し、骨の吸収を抑えるような薬が処方されるのです。薬の種類には、服薬だけでなく点滴や注射のものもあります。また日頃の食事にも注意し、意識してカルシウムを取るように努め、その吸収を高めるビタミンDなども一緒に食べるようにする食事療法も大切になります。さらに適度な運動も骨密度を増やすのに役立ちます。骨粗鬆症の薬は、やめてしまうと骨密度が再び下がるので、自己判断でやめるようなことはしてはいけません。

 

 

骨パジェット病(変形性骨炎)

 

骨パジェット病とは、骨格の慢性疾患で、骨の代謝回転が異常になる結果、その領域の骨が柔らかく肥厚します。

骨分解と骨形成が増加すると、正常な骨と比べて厚くもろくなります。

症状がないこともありますが、骨の痛み、骨の変形、関節炎、神経の圧迫による痛みなどの症状がみられることもあります。

X線検査により骨の異常が示されます。

痛みや合併症を治療して、ビスホスホネート製剤を投与します。

‏ 骨パジェット病は、どの骨にも発生することがありますが、最も多く影響を受けるのは骨盤、太ももの骨(大腿骨)、頭蓋骨、すねの骨(脛骨)、脊椎(椎骨)、鎖骨、上腕骨です。

 

原因

正常なら古い骨を分解する細胞(破骨細胞)と新しい骨を作る細胞(骨芽細胞)が互いにバランスよく働いて、骨の構造と整合性が維持されています。骨パジェット病では、骨の一部の領域で破骨細胞も骨芽細胞も過剰に活動し、骨の分解と再構築(リモデリング)が極端に増加します。過度に活性化した部分は肥厚しますが、大きくても構造的に異常で、もろくなります。

骨パジェット病の原因はわかっていません。この病気は家族性の傾向があり、最近の情報では一連の遺伝的欠損がこの病気に関連している可能性を示唆しています。また、ウイルスが関連していることを示す証拠があります。たとえウイルスが関連しているとしても、この病気が感染性であるという証拠はありません。

 

合併症:

肥厚した骨が、狭い開口部を通る神経やその他の構造物を圧迫することがあります。脊柱管が狭くなると脊髄を圧迫します。患部の骨の近くの関節に、変形性関節症が生じることがあります。

まれに心不全を起こすことがあり、これは、患部の骨を通る血流が増大し、心臓に余分な負荷をかけるためと考えられます。また骨パジェット病患者の1%未満で、病巣部の骨が癌性になります。骨の癌に進行すると、骨肉腫、線維肉腫、または軟骨肉腫を発病することがあります。

寝たきりで高齢の骨パジェット病患者、あるいは動けないまたは脱水状態にある重度の骨パジェット病患者に、血液中のカルシウム濃度の上昇(高カルシウム血症)がみられることがあります。血液中のカルシウム濃度が高くなると、高血圧、筋力低下、便秘、尿路結石などの多くの問題を起こすことがあります。

 

症状

骨パジェット病では、骨の痛み、骨の肥厚、骨の変形が生じることもありますが、通常は無症状です。骨の痛みは深く、うずくような痛みで、ときどき激しくなったり、夜間に強くなったりします。肥厚した骨は神経を圧迫し、さらなる痛みの原因になります。変形性関節症を起こすと、関節に痛みやこわばりが現れます。

その他の症状はどの骨が影響を受けたかによってさまざまに現れます。頭蓋骨が肥厚すると、眉の部分と前頭部が特に突出しているようにみえることがあります。大きな帽子が必要になり、この肥厚に気がつく人もいます。肥厚した頭蓋骨は内耳(蝸牛)を損傷し、難聴やめまいを起こすことがあります。頭蓋骨の肥厚が神経を圧迫すると、頭痛の原因ともなります。頭皮に静脈の隆起がみられることもあり、これは、頭蓋骨内の血流が増加するために起こると考えられます。椎骨が肥厚してもろくなり、弯曲すると、身長が低くなり、背中が曲がります。損傷した椎骨が脊髄の神経を締めつけると、痛み、しびれ、うずき、筋力低下や、きわめてまれに脚の麻痺の原因になることがあります。股関節や脚の骨がおかされた場合、O脚で歩幅の狭い不安定な歩き方になることがあります。病巣部は骨折しやすくなります。

 

診断

骨パジェット病はしばしば、別の理由でX線検査や臨床検査を受けた際に偶然発見されます。それ以外の場合は、症状や身体診察に基づいて診断されます。X線検査で骨パジェット病特有の骨の異常がみられることや、血液中のアルカリホスファターゼ(骨細胞形成に関与する酵素)濃度の測定結果により、診断を確定することができます。骨スキャン検査(テクネチウムを使用した放射性核種スキャン)を行うと、どの骨に病変があるのかがわかります。

 

予後(経過の見通し)

骨パジェット病の予後は、ほとんどの場合大変良好です。ただし、骨の癌を発症した少数の患者では、予後は良くありません。心不全、脊髄の圧迫などの合併症を起こした場合も、適切な時期に治療が成功しないと、予後は不良となります。

 

治療

骨パジェット病患者で不快な症状がある場合や、難聴、変形性関節症、骨変形などの合併症を起こすリスクが高いか、またはすでにこれらの合併症が発症している場合には、治療が必要となります。

アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)などの一般的に使用される鎮痛薬は、骨の痛みの軽減に役立ちます。もしも一方の脚が弯曲して短くなった場合は、かかとの高い医療用の靴を履くことで歩きやすくなります。ときには、神経への締めつけを緩和したり、骨パジェット病が原因で関節炎を起こした関節を人工関節に置換する手術が必要になることがあります。

ビスホスホネート製剤(アレンドロン酸、エチドロン酸、パミドロン酸、リセドロン酸、ティルドロン酸、ゾレドロン酸)のいずれかを使用することで、骨パジェット病の進行を遅らせることができます。パミドロン酸とゾレドロン酸は、普通、静脈注射されますが、その他の薬は経口投与されます。

これらの薬は次のような場合に投与されます。

整形外科手術の前に手術中の出血を防いだり減らしたりする

骨パジェット病による痛みを治療する

手術を受けられない人の筋力低下や麻痺の進行を防いだり遅らせたりする

関節炎、聴力障害の進行、骨の変形の進行などを防ぐ

アルカリホスファターゼの血中濃度が正常値の2倍以上ある人

 

新しいビスホスホネート製剤(ゾレドロン酸など)は、長期にわたって骨パジェット病の進行を遅らせるようです。

場合によって、カルシトニンを皮下注射か筋肉注射で投与します。カルシトニンはビスホスホネート製剤ほどの効果はないので、他の薬が投与できない場合に限り使用します。

高カルシウム血症を防ぐために、夜の就寝時以外にベッドで横になることはできるだけ避けるべきです。高カルシウム血症を発症している場合、水分の排出量を増加させるために点滴をしたり、フロセミドなどの利尿薬を投与したりします。

普段の食事からカルシウムとビタミンD(カルシウムの吸収に不可欠)を十分摂取して、骨にカルシウムを十分に取り込むべきで、これは骨が急速に再構築しているからです。それらが欠乏すると、骨の石灰化が不十分な骨軟化症が起こります。

 


(関節疾患)

 

関節とはふたつの骨がしっかりつながっている部分のことです。

股や膝、肩、肘、手首、足首、顎(あご)など、体にはたくさんの関節があります。関節は、骨と骨をつなぎながら体を動かす役割があります。

関節は関節包という丈夫な筋(すじ)に包まれています。これを靭帯といい、ふたつの骨がはなれないように結び付けています。

 

関節包の内側は、軟骨や滑膜で守られています。関節腔の中には、関節の動きをなめらかにする潤滑油のはたらきをする滑液が分泌されています。これによってなめらかな動きが可能になります。

 

 

関節疾患

 

関節が損傷・変形するのが、関節疾患です。悪化すると痛みや運動障害をもたらします。全身の関節に起こり得る疾患です。老化・外傷・病気・先天的疾患が主な原因です。

 

変形関節症・関節リウマチ・顎関節症・膝関節症・頸椎症・肩関節周囲炎(四十肩・五十肩)・変形股関節症・変形脊椎症・化膿性関節炎・痛風といった病気が、関節疾患に含まれます。

 

 

変形性関節症

変形性関節症(退行性骨関節症、肥大性骨関節症などとよばれたこともある)は関節の軟骨と周囲の組織の損傷と関連し、痛み、関節のこわばり、機能障害を特徴とする慢性疾患です。

関節の軟骨と周囲の組織の損傷による関節炎は、加齢につれて非常に多くみられるようになります。

 

正常な関節は、長年使用しても摩擦が低く保たれ骨がすり減ったりしないように保護されています。変形性関節症の原因は多くの場合、組織の損傷です。損傷した関節を修復しようとして、化学成分が関節内に蓄積し、コラーゲン(結合組織を構成する弾力性のある線維性タンパク質)やプロテオグリカン(弾力性を与える物質)のような、軟骨の構成要素の合成を増加させます。それによって軟骨組織が水分を含んで腫れて軟らかくなり、ついには表面に裂け目ができます。軟骨下面の骨には小さな空洞ができ、骨はもろくなります。組織は損傷を修復しようとして、軟骨、骨、その他の組織が新しく形成されます。関節の辺縁の骨は過剰に増殖することがあり、目に見えて触れることもできる骨棘(こつきょく)という隆起ができます。最終的に、本来なめらかでツルツルとした関節軟骨の表面がザラザラになり、小さなくぼみがたくさんできて、関節がなめらかに動かせなくなり、衝撃を吸収できなくなります。関節の構成成分のすべて、骨、関節包(関節の大部分を包んでいる組織)、滑膜組織(関節腔の内側を覆う組織)、腱、靭帯、軟骨がさまざまに障害を起こし、関節の機能は変化します。

 

原因不明の変形性関節症(大多数の症例がこれに相当する)は、一次性(または特発性)と分類されます。原因が感染症、骨変形、外傷、関節の異常な使用、代謝性疾患(たとえば、体内での鉄過剰[ヘモクロマトーシス]や肝臓での銅過剰[ウイルソン病])、関節軟骨を損傷する病気(たとえば、関節リウマチや痛風)などの、別の病気や病態の場合は、二次性と分類されます。鋳物工場の労働者、農業従事者、炭坑労働者、バスの運転手のように、1つまたは一連の関節に繰り返しストレスがかかる職業の人は特にリスクがあります。膝の変形性関節症を発症する主な危険因子は、膝を屈曲する職業に就いていることです。興味深いことに、長距離走者は変形性関節症を発症するリスクは高くありません。しかし、いったん発症すると、多くの場合、走ることで変形性関節症は悪化します。肥満は、変形性関節症を引き起こす主要因子であり、特に女性の膝はそうです。

 

変形性関節症は高齢になるにつれて多くみられるようになります。たとえば、年齢とともに関節内の軟骨は薄くなる傾向にあります。高齢になると若いころに比べて関節の表面の滑りが悪くなったり、関節が多少損傷を受けやすくなったりします。ただし、変形性関節症は年をとると必ず起こるわけではなく、また、関節を長年使用したことで生じる摩耗や亀裂が原因で、単純に起こるわけでもありません。その他の要因には、一度または繰返し起こったけが、異常な動き、代謝性疾患、関節の感染症、別の関節の病気などがあります。

 

症状

症状は通常ゆっくりと進行し、初めは1ヵ所または数カ所の関節に発症します。指の関節、親指の付け根、頸部、腰部、足の親指、股関節、膝関節などが起こりやすい部位です。多くの場合に「深い痛み」として表現される痛みは最初の症状であり、体重のかかる関節では、立つなどの体重の負荷のかかる活動で普通は悪化します。起床時や動かずにいた後に関節のこわばりが認められる人もいますが、通常は30分以内に、特にその関節を動かすようにすると治まります。

さらに症状が進むと関節が動きにくくなり、ついには完全な曲げ伸ばしができなくなります。また軟骨、骨、その他の組織が新しく形成されて関節を肥厚させることがあります。軟骨の表面にでこぼこができると、関節を動かした際、関節内の骨と骨がすれ合って摩擦を生じ、きしみ音がします。骨の増殖は指先に近い関節(ヘバーデン結節と呼ばれる)や指の真ん中の関節(ブシャール結節と呼ばれる)に多くみられます。

 

変形性関節症は脊椎にも起こります。症状としては背部痛が最も多くみられます。通常は、椎間板や脊椎の関節が損傷しても軽い痛みやこわばりを生じるに過ぎません。けれども、頸椎や腰椎の変形性関節症の場合は、骨が過度に増殖し神経を圧迫すると腕や脚のしびれ、痛み、筋力低下が発現します。腰部の脊柱管の内部で骨が過度に増殖する(腰部脊柱管狭窄症)と、脊柱管内部で脚に向かう神経が圧迫されます。この神経の圧迫により歩行後に脚が痛むことがあり、それにより脚への血液供給が減少していると誤った解釈をされることがあります(間欠性跛行)。

まれですが、骨増殖が食道を圧迫して嚥下困難をもたらすこともあります。

 

変形性関節症は、何年も安定していたり急速に進行したりもしますが、ほとんどは発症後ゆっくりと進行します。多くの人はこの病気によって、日常にある程度の機能障害を生じます。

 

 

治療

適度な運動(ストレッチ、筋肉の強化、姿勢訓練など)を続けると、軟骨組織を健康な状態に維持し、関節可動域を広げ、負荷をより吸収できるように関節周囲の筋肉を鍛えることができます。運動をすると、股関節や膝関節の変形性関節症の進行をときに止めたり、改善することさえあります。ストレッチ運動を毎日行うべきです。関節の痛みがひどいときは安静とのバランスを取らねばなりませんが、関節を動かさないでいると、痛みが軽減すると言うよりむしろ悪化します。また、柔らかすぎる椅子、リクライニングチェア、マットレス、車のシートなどを使用すると症状が悪化することがあります。車のシートを前かがみにする、背もたれが垂直で座面が高めの椅子(たとえば、食卓用の椅子)や、硬めのマットレス、ベッドボード(木材販売店で入手できる)などを使用する、しっかりと支えられる靴や運動靴を履くといったことが、しばしば勧められています。

 

脊椎の変形性関節症では、特別な運動が役に立つことがあり、痛みがひどいようなら硬性または軟性のコルセットを着用する必要があります。運動は、筋力の強化運動ばかりではなく、体への負荷の少ない有酸素運動(ウオーキング、水泳、自転車に乗るなど)も行うべきです。 

できるだけ普通の日常生活を維持して、普段の活動(趣味や仕事)を続けることが大切です。ただし、運動時は変形性関節症の痛みを悪化させるような曲げ方を避けるように注意する必要があります。

 

理学療法では、温熱療法が有用な場合がよくあります。熱によってこわばりや筋けいれんが軽減して、筋肉の機能が改善するので、温水中での関節可動域の運動は有用です。冷却療法は、一つの関節の一時的に悪化した痛みを緩和するために行われます。スプリント(固定具)や支持装具(一本づえ、松葉づえ、ギプス、歩行器など)は、痛みを伴う動作から特定の関節を保護します。靴インサートを入れる(矯正靴)と、歩行中の痛みを軽減できます。訓練を受けた療法士によるマッサージ、ジアテルミー(透熱療法)や超音波による深部温熱療法は有用です。

 

薬は運動療法と理学療法を補うために使われます。薬は単独または併用して使用しますが、変形性関節症の経過を直接変えるわけではありません。薬は症状を抑えるためのものであり、そうすることで普通の日常生活をできるようにします。軽度から中等度の痛みには、アセトアミノフェンのような単純な鎮痛薬で十分です。あるいは、痛みと腫れを抑えるために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)を使用する場合もあります。非ステロイド性抗炎症薬は関節の痛みと炎症を緩和します。ただし、非ステロイド性抗炎症薬は、長期に使用した場合に、アセトアミノフェンよりも重篤な副作用を生じるリスクが高い薬です。ときにはその他のタイプの鎮痛薬が必要なこともあります。たとえば、赤トウガラシ由来のスキンクリーム(有効成分はカプサイシン)を、関節の上の皮膚に直接塗ることもあります。

筋弛緩薬(通常は低用量)は、変形性関節症におかされた関節を支える筋肉の緊張による痛みをときに軽減します。ただし、筋弛緩薬は高齢者にとって痛みの軽減よりも副作用をもたらす傾向があります。

 

関節が突然、炎症を起こしたり、腫れたり、痛みを生じた場合、関節液のほとんどを除去し、特別な剤形のコルチゾンを直接関節内に注射することが必要な場合があります。この治療法は一時的に症状を抑えるだけに過ぎないので、コルチゾンで治療した関節をあまり使いすぎないようにしなければ、関節の損傷をもたらすことがあります。3~5週間毎週1回ヒアルロン酸(正常な関節液に含まれる成分と類似)を関節に注射する治療は、一部の人に長期(最高1年)にわたり痛みをかなり和らげる効果を示します。

 

いくつかのサプリメント(硫酸グルコサミンやコンドロイチン硫酸など)の変形性関節症に対する有効性については、現在試験中です。これまでのところ、結果は相反しており、硫酸グルコサミンやコンドロイチン硫酸などの有効性は明らかではありません。その他のサプリメントにおいても、効くという証拠はあまりみつかっていません。

 

手術による治療は、その他のすべての治療方法で痛みの軽減や機能の改善ができなかった場合に行われます。最も多いのは股関節や膝関節ですが、一部の関節では人工関節による置換が可能です。置換手術は通常、成功率が高く、ほとんどの場合で動作と機能が改善し、痛みも劇的に治まります。したがって、痛みを抑えることができず、機能的にも制約が生じてきた場合は人工関節置換術の実施を考慮すべきです。ただし、人工関節は永久に使えるものではないので、若年者の場合にはできるだけ手術を行う時期を遅くして、人工関節の置換を繰り返す回数を最小限にします。

 

変形性関節症の若年患者(たいていは外傷が原因)に対して、軟骨の小さな欠損の治癒を促すために軟骨組織内の細胞を回復させるさまざまな方法が使用されています。

 


脊椎関節症

 

脊椎関節症(脊椎関節炎とも呼ばれる)を含むいくつかの結合組織疾患は、顕著な関節炎を起こします。脊椎関節症は、関節や脊椎に影響を及ぼします。これらの病気には共通のある特徴があります。たとえば、背中の痛み、眼の炎症(ぶどう膜炎)、消化器症状、発疹を引き起こすことがあります。これらの問題のいくつかはHLA-B27遺伝子と強く関連しています。これらの結合組織疾患では、遺伝的特性を共有し、また症状も類似していることが多いため、一部の専門家は、これらの疾患は原因および症状を引き起こす機序が同じであると考えています。脊椎関節症では、関節リウマチと同様に、関節の炎症が生じます。しかし関節リウマチと異なり脊椎関節症ではリウマチ因子の検査は陰性となります(したがって、血清反応陰性脊椎関節症とも呼ばれる)。

 

脊椎関節症には、乾癬性関節炎反応性関節炎強直性脊椎炎などがあります。

 

 

乾癬性関節炎

乾癬性関節炎は、皮膚または爪に乾癬のある一部の人に起こる関節の炎症です。

関節の炎症は、乾癬のある人に発症することがあります。

炎症のよくみられる関節は、股関節、膝関節、手指と足指の最も先端に近い関節などです。

 

診断は症状に基づいて行われます。

非ステロイド性抗炎症薬、メトトレキサート、シクロスポリン、腫瘍壊死因子阻害薬(アダリムマブ、エタネルセプト、インフリキシマブ)が有用です。

この病気は関節リウマチと似ていますが、関節リウマチに特徴的な抗体は産生しません。乾癬性関節炎は、乾癬(皮膚は赤い発疹と鱗屑性発疹が再発し、爪は厚く変形し穴があく)のある人の約5~40%に発生します。乾癬性関節炎の原因は不明です。

 

治療では、皮疹を抑え、関節の炎症を軽減することを目標とします。関節リウマチの治療に効果的ないくつかの薬剤、特に非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、メトトレキサート、シクロスポリン、腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬は、乾癬性関節炎の治療にも使用されます。

メトキサレン(ソラレン)を経口投与し、その後ソラレン+紫外線A照射療法を行うこともあります。この併用によって皮膚の症状と関節の炎症の大半は軽減されますが、脊椎の炎症には役立たない可能性があります。

 

 

反応性関節炎

反応性関節炎(ときにライター症候群と呼ばれる)は関節や関節の腱付着部の炎症であり、しばしば感染に関連しています。

通常は泌尿生殖器や消化菅の関節痛と感染に反応して炎症が起こることがあります。

腱炎、皮疹、眼の充血もよくみられます。

診断は症状に基づいて行われます。

NSAID、スルファサラジン、アザチオプリンとメトトレキサートは、症状の治療に役立ちます。

反応性関節炎は、関節の炎症が消化管や泌尿生殖器に生じている感染に対する反応のようにみえるため、そう呼ばれています。

 

反応性関節炎には二つの形態があります。一つは性感染症(たとえば、クラミジア感染症)で起こるらしく、多くの場合20~40歳の男性が発症します。もう一つは通常腸管の感染、たとえば細菌性赤痢、サルモネラ症またはカンピロバクター感染症に続いて起こります。これらの感染症の患者の大部分は、反応性関節炎を発症しません。これらの感染症を患った後に反応性関節炎を発症する人は、この反応を起こす遺伝的素因をもっているらしく、その一部には強直性脊椎炎の人に見つかったのと同じ遺伝子と関連性があるものも含まれています。クラジミア菌やことによるとその他の細菌が、実際に関節に広がっていることを示す証拠がいくつかありますが、感染症とそれに対する免疫反応の役割は明らかになっていません。

反応性関節炎は、結膜や粘膜(口や生殖器の粘膜など)の炎症や特徴的な発疹が伴うことがあります。反応性関節炎のこの病態は、以前にライター症候群と呼ばれていました。

 

生殖器や尿路の症状があれば、感染症を治療するために抗生物質を投与しますが、必ずしも効果があるとは限らず、最適な投与期間は不明です。

関節の炎症は、通常、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)で治療します。関節リウマチの場合のように、スルファサラジンや免疫系を抑制する薬剤(たとえばアザチオプリンまたはメトトレキサート)が使用されることがあります。理学療法は、回復期の関節可動性を維持するのに役立ちます。

結膜炎や皮膚のびらんに対しては通常、治療の必要はありませんが、眼の炎症が重症(ぶどう膜炎)であればコルチコステロイド薬や散瞳点眼薬が必要となることがあります。

 

 

強直性脊椎炎

強直性脊椎炎は脊椎や大きな関節の炎症が特徴的な病気であり、こわばりと痛みをもたらします。

関節痛、背中のこわばり、眼の炎症がよくみられます。

診断は症状とX線所見に基づいて行われます。

NSAIDや、ときにはスルファサラジンやメトトレキサートが上下肢の関節炎に有効なことがあります。

腫瘍壊死因子阻害薬は、脊椎や上下肢の関節炎に非常に効果的です。

この病気の発症は男性が女性の3倍も多く、そのほとんどが20~40歳で発症しています。その原因はわかっていませんが、病気が家族に多い傾向があるので、遺伝的因子が関与していることが示唆されています。両親または兄弟姉妹が強直性脊椎炎である人は、そうでない人の10~20倍多く発症します。

 

治療は、背中や関節の痛みの軽減、関節の可動域の維持、その他の器官の障害の防止、脊椎の変形の防止や改善などに重点が置かれます。NSAIDは痛みと炎症を減らすことができるため、使用することで、ストレッチ運動と深呼吸など、姿勢を保持するための重要な運動ができるようになります。スルファサラジンやメトトレキサートは、背中の痛みよりも関節の痛みに役立つでしょう。腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬であるエタネルセプト、アダリムマブ、インフリキシマブは背中の痛みと炎症を軽減します。

 

コルチコステロイド点眼薬は眼の炎症の短期治療に有用であり、ときおり行うコルチコステロイド薬の注射は脊椎以外の1、2カ所の関節の炎症に有用です。筋弛緩薬やオピオイド鎮痛薬は、激しい痛みや筋けいれんを改善するために短期間だけ使用します。股関節や膝関節にびらんが生じたり、曲がったままで固定してしまった場合には、人工関節に置換する手術を行い、痛みを軽減し、機能を維持します。

 

 

その他の脊椎関節症

脊椎関節症は、炎症性腸疾患、腸のバイパス手術、ホウィップル病のような消化管の状態に関連して発症する(ときに腸炎性関節炎と呼ばれる)ことがあります。若年発症型の脊椎関節症は下肢に、しばしば両側の関節に異なる程度で発症し、7~16歳の男子の初発が最も多くみられます。脊椎関節症は、他に脊椎関節症に特異的な特徴をもたない人にも発症することがあります(鑑別不能な脊椎関節症)。このようなその他の脊椎関節症の関節炎の治療法は、反応性関節炎の治療法と同様です。

 

 

 

 


感染性関節炎(敗血症性関節炎)

感染性関節炎(敗血症性関節炎)は、関節液や関節組織の感染症で、通常は細菌感染が原因ですが、ウイルスや真菌の感染によって起こることもあります。

細菌や、ときにウイルスや真菌は、血流を介して、あるいは近くの感染した組織から関節に入り、感染を引き起こします。

数時間または数日以内に、痛みや腫れ、発熱が生じます。

 

感染性関節炎を起こすリスクがあるのは、関節に異常(関節リウマチ、変形性関節症、外傷性関節炎など)がある人に、血流に入り込むような感染症が起こった場合です。たとえば、肺炎や敗血症のある高齢者が転倒して手首をけがする場合です。けがをした手首の関節への出血が、感染性関節炎を起こします。

 

乳児では発熱、痛みがあり、ぐずりがちになります。乳児は一般に、動かしたり触れたりすると患部が痛むため、感染した関節を動かさなくなります。年少児が膝関節や股関節に感染を起こすと、歩くことをいやがるようになることがあります。年長児や成人では、症状は通常、数時間から数日間で現れます。感染した関節には発赤や熱感が生じ、動かしたり、触れたりするとひどい痛みが生じます。感染した関節に液体がたまると、腫れやこわばりが生じます。また、発熱や悪寒も認められます。結核菌や真菌による慢性感染性関節炎では、通常は痛みや発熱の程度が軽く、症状もはっきりしません。

 

感染性関節炎が最も多くみられるのは、膝、肩、手首、股関節、ひじ、指の関節です。細菌、真菌、結核菌などは、多くの場合一つの関節だけに感染しますが、ときには同時にいくつかの関節に感染することもあります。たとえばライム病を起こす細菌は、多くの場合に両膝の関節に感染を起こします。淋菌やウイルスは、二、三カ所または多数の関節に同時に感染することがあります。

 

 

 

 


○関節リウマチ

関節リウマチとは免疫の異常によるもので、関節の腫れや痛みを生じそれが続くと関節の変形をきたす病気である。

関節が腫(は)れて、痛みをともないます。手首や手足の関節で起こりやすく、左右の関節で同時に症状が生じやすいことも特徴です。また、熱が出たり、疲れやすい、食欲が無いなどの症状があらわれます。関節の炎症が、肺や血管など全身に広がることもあります。

原因は免疫のはたらきの異常と考えられています。免疫は、体内に侵入してきた細菌やウイルスなどを攻撃し、自分のからだを正常に保つはたらきをしています。関節リウマチは、免疫がまちがって自分自身の細胞を攻撃してしまうことで、関節の細胞に炎症(えんしょう)が起こり、腫れ(はれ)や痛みが起こります。関節で炎症が続くと、関節の周囲を取り囲んでいる滑膜が腫れ、骨や軟骨をこわしていきます。

 

関節リウマチの正確な原因は不明です。関節リウマチは自己免疫疾患であると考えられています。免疫系を構成している成分が関節の内側の軟部組織を攻撃し、さらに血管や肺のような、その他の体の多くの部位の結合組織をも攻撃することがあります。やがて、関節の軟骨、骨、靭帯は破壊され、関節の変形、不安定化、瘢痕(はんこん)化が起こります。関節が変性していく速さはさまざまです。遺伝的素因など多くの因子が病気のパターンに関与しています。未知の環境要因(ウイルス感染など)も一部の役割を担っていると考えられます。

 

治療 抗リウマチ剤や副腎皮質ホルモン剤、炎症抑制剤、免疫抑制剤、生物学的製剤など、病気

の進行を抑える薬を使います。

 

 リウマチの治療は治療方法の進歩により、旧来の痛みを抑えるだけの治療から進行を食い止める治療へと変わってきています。寛解に持ち込むために、よりよい日常生活の質を保つために、患者と医師が協力して治療に臨むことが大切です。そのための治療は主に4つの柱から構成されます。  1.基礎療法  2.薬物療法(内科的療法)  3.リハビリテーション療法  4.手術療法(外科的療法)

 

 関節リウマチの治療の中心は薬物療法です。

治療に使用される薬の主な種類は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、DMARD、コルチコステロイド薬、免疫抑制薬などです。新しい薬剤には、レフルノミド、アナキンラ(インターロイキン-1受容体拮抗薬)、腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬、免疫応答を修正するその他の薬剤(免疫抑制剤)などがあります。一般に強力な薬ほど深刻な副作用が生じる可能性が高いので、治療中は注意深く観察する必要があります。

 

関節リウマチの治療計画には、関節の炎症を抑える薬のほかに、運動療法、理学療法、作業療法などといった非薬物療法や、ときには外科手術も行います。炎症を起こした関節は、特定の位置で固まらないようにするため、穏やかなストレッチを行うべきです。炎症が治まったら定期的な運動が役立ちますが、過度の疲労を感じるまで行うべきではありません。多くの患者が水中では無理なく運動できます。

固まった関節の治療は、集中的に動かし、ときには医療用のスプリントを使用して徐々に関節を伸ばしていきます。薬が役に立たない場合は、手術療法が必要となることがあります。関節の病状が進行した場合、その可動域と機能を回復させる最も効果的な方法は、膝や股関節を人工関節に取り換える手術です。特に足の関節では、歩行の痛みを軽減するために、関節を切除したり、固定することがあります。手の親指の関節を固定すれば、ものをつかめるようになり、首上方の不安定になった頸椎を固定すれば、脊髄を圧迫することによる麻痺を防ぐことができます。

 

 

関節リウマチによる疼痛は認定の対象とならない。そのため、日常生活動作について疼痛の影響を除いた状態で評価される。

 関節リウマチで障害年金が支給される基準として挙げられているのが、「関節可動域」と「筋力」「日常生活における動作の制限」ということになる。

 

 (エリテマトーデスの治療過程において)ステロイド投与の副作用により大腿骨骨頭部無腐蝕性壊死に至ったとき、相当因果関係「あり」として、ステロイド投与に至った基礎疾患(膠原病関節リウマチ等)を初診日とします。

 

 

 

人工骨頭または人工関節を挿入置換

 

人工骨頭置換術

 人工骨頭置換術(BHA)は、大腿骨頚部内側骨折や大腿骨頭が何らかの原因で壊死を起こした場合に、大腿骨頭を切除し、金属あるいはセラミックでできた骨頭で置換する手術です。

 全人工股関節置換術(THA)と違って臼蓋側は置換せず、患者さん自身の軟骨と摺動(擦り合い)させます。患者さんの年齢や骨の形状、質によって、骨セメントを用いる場合と、セメントを使用せずに直接骨に固定する場合があります。

 人工骨頭置換術の手術時間は多くの場合1~2時間程度です。 例としては、術後2~3日程度で車椅子移動を、4~5日程度で歩行練習を始め、約3週間~1ヵ月で退院できます。 入院中に、日常生活動作、特に、入浴、階段昇降、畳での生活、トイレ動作について訓練します。

 BHAもTHA同様に、股関節の悪い患者さんに多くの恩恵をもたらしますが、長い年月が経過すると緩みが生じ、入替え(再置換)の手術が必要となる場合があります。再置換手術を受けることになっても1~1.5ヵ月ほどの入院で、ほぼ元通りに復帰することが可能です。

 手術の合併症として、感染、脱臼、血栓症などのリスクがあります。

 退院後は、定期的に受診し、経過観察を受ける必要があります。

 

 

人工股関節置換術

 変形性股関節症や関節リウマチ、大腿骨頭壊死、骨折などにより変形した関節を、金属やセラミック、ポリエチレンなどでできた人工股関節に入れ替えることで痛みがなくなり、短縮した下肢を1~2cm程度長くすることが可能で、歩行能力が改善されます。患者さんの年齢や骨の形状、質によって、骨セメントを用いる場合とセメントを使用せずに直接骨に固定する場合とがあります。

 手術時間は通常2~3時間程度です。手術は感染を予防するため、クリーンルームを使用して行います。

 手術の2~3週間前より患者さん自身の血液を貯血し、手術の際にその血液を輸血します。(自己血輸血) 例としては、術後2~3日程度で車椅子移動を、4~5日程度で歩行練習を始め、約1ヵ月で退院できます。入院中に、日常生活動作、特に、入浴、階段昇降、畳での生活、トイレ動作について訓練します。

 THAは股関節の悪い患者さんに多くの恩恵をもたらしますが、長い年月が経過すると緩みが生じ、入替え(再置換)の手術が必要な場合があります。一般的に、20年が経過すると約60%の患者さんで緩みが生じ、その中で約半数の患者さんが再置換手術を受けているとの報告があります。しかし、再置換手術を受けることになっても、1~2ヵ月の入院で、ほぼ元通りに復帰することが可能です。しかし、緩みの程度によってはかなり長期間に亘って日常生活動作の制限を受けることもあります。

 手術の合併症として、感染、脱臼、血栓症などのリスクもありますので、手術に際しては、専門の医師によく相談されることをおすすめします。

 退院後は、最初の1年は3ヵ月毎、退院後2~3年間は半年毎、その後は年1回受診、経過観察を受けます。THAをされた患者さんは、片方なら身体障害者4級、両方を置換されたならば3級に認定されることもあります。

 退院後は、手術前にできたことは手術後もほぼできると考えて差し支えありません。

 

 

 

膝の人工関節置換術

 

 

変形性関節症によって損傷された膝関節は、人工関節で置き換えることができます。全身麻酔をかけた上で、外科医が損傷した膝の上を切開します。膝の皿(膝蓋骨)を取り除き、太ももの骨(大腿骨)の下端とすねの骨(脛骨)の上端をなめらかにして、人工関節の部品を取付けやすくします。人工関節の片方は大腿骨の下端に挿入、もう一方は脛骨の上端に挿入して、医療用のセメントでそれぞれ固定します。

 

 

手術による治療は、その他のすべての治療方法で痛みの軽減や機能の改善ができなかった場合に行われます。最も多いのは股関節や膝関節ですが、一部の関節では人工関節による置換が可能です。置換手術は通常、成功率が高く、ほとんどの場合で動作と機能が改善し、痛みも劇的に治まります。したがって、痛みを抑えることができず、機能的にも制約が生じてきた場合は人工関節置換術の実施を考慮すべきです。ただし、人工関節は永久に使えるものではないので、若年者の場合にはできるだけ手術を行う時期を遅くして、人工関節の置換を繰り返す回数を最小限にします。

 

 

変形性股関節症

 

 変形性股関節症は、股関節でクッションの役割を果たしている「関節軟骨」が何らかの理由ですり減ったことにより起こります。症状が進むと、立ったり、歩いたりするさいにズキズキと痛みが起こり、安静にしていても鈍痛が続きます。

 

 股関節症の主な症状は、関節の痛みと機能障害です。股関節は鼠径部(脚の付け根)にあるので、最初は立ち上がりや歩き始めに脚の付け根に痛みを感じます。  関節症が進行すると、その痛みが強くなり、場合によっては持続痛(常に痛む)や夜間痛(夜寝ていても痛む)に悩まされることになります。  一方日常生活では、足の爪切りがやりにくくなったり、靴下が履きにくくなったり、和式トイレ使用や正座が困難になります。また長い時間立ったり歩いたりすることがつらくなりますので、台所仕事などの主婦労働に支障を来たします。階段や車・バスの乗り降りも手すりが必要になります。

 

原因と病態  患者さんの多くは女性ですが、その場合原因は発育性股関節形成不全の後遺症や股関節の形成不全といった子供の時の病気や発育障害の後遺症が主なもので股関節症全体の80%といわれています。最近は高齢社会となったため、特に明らかな原因となる病気に罹ったことが無くても年齢とともに股関節症を発症してくることがあります。

 

予防と治療  関節は一生に一個しかありませんので、本症と診断されたらまず負担を減らして大事に使うということが大切になります。 初期のうちでしたら、どのような使い方をすると痛みが強くなるか良く自分自身の関節の調子を観察していただき、日常生活と痛みを悪くしない使い方をよくマッチさせることが大切です。痛み止めの薬を使うことも選択肢に入りますが、できれば調子の悪い時やどうしても負担をかけなければならない時に限定して使うほうが良いと思います。またもし過体重があるようでしたらダイエットも考えてください。心理的抵抗がなければ杖の使用もお薦めします。  一方、痛みがあるとどうしても歩かなくなり筋肉が衰えてしまいますので、できれば水中歩行や水泳(平泳ぎを除く)を週2、3回行っていただくと理想的です。運動療法はその他の方法もありますが、運動療法はどうしても疼痛を誘発してしまう可能性がありますので、慎重に始めて徐々に強度を高めていくことがポイントです。  これらの保存療法でも症状が取れない場合は手術療法を考えます。初期のうちでしたら自分の骨を生かして行う骨切り術の適応ですし、関節の変形がすすんでいる場合は、人工股関節手術の適応となります。

 

 

 変形股関節症の初診日の審査は厳しく行われています。具体的には診断書、病歴就労状況等申立書以外に「障害年金の初診日に関する調査票」の提出も求められることとなります。

 幼少時に脱臼等があり、変形性股関節症と診断されていた場合でも、その後自覚症状などがなく、小中学校の体育の時間なども普通に行っていた。その後30代や40代になり突如関節が痛くなるような症状が出た場合には、先天性として審査されないことが多くあります。つまり、30代40代になって初めて医師の診断を受けた日が初診日としてみなされることになるのです。

 肢体の障害の中には、変形性股関節症など先天性を疑われるものがあります。人工股関節を装着した場合は原則として障害等級3級となりますが、実際には大人になって働きはじめた以降に初診日がありにもかかわらず先天的なものと判断された場合、障害厚生年金の対象ではなくなるために障害年金を受給できなくなってしまいます。申請書類に幼少期からは股関節には問題がなかった旨を示す必要があります。

 

 

 

 

 


変形性膝関節症

 

 膝関節は足の関節の中でも負担が大きい。たとえば歩くだけでも体重の3~8倍が膝にかかり、スポーツなどで繰り返すことによりさらに負担は増える。それに加齢・体重の増加などの要因も加わって痛みが生じる。

 男女比は 1:4 で女性に多くみられ、高齢者になるほど罹患率は高くなります。主な症状は膝の痛みと水がたまることです。  初期では立ち上がり、歩きはじめなど動作の開始時のみに痛み、休めば痛みがとれますが、正座や階段の昇降が困難となり(中期)、末期になると、安静時にも痛みがとれず、変形が目立ち、膝がピンと伸びず歩行が困難になります。

 

原因と病態  原因は関節軟骨の老化によることが多く、肥満や素因(遺伝子)も関与しています。また骨折、靱帯や半月板損傷などの外傷、化膿性関節炎などの感染の後遺症として発症することがあります。  加齢によるものでは、関節軟骨が年齢とともに弾力性を失い、遣い過ぎによりすり減り、関節が変形します。

 

予防と治療

予防(日常生活での注意点)  ・ふとももの前の筋肉(大腿四頭筋)を鍛える。  ・正座をさける。  ・肥満であれば減量する。  ・膝をクーラーなどで冷やさず、温めて血行を良くする。  ・洋式トイレを使用する  以上のことなどが挙げられます。

 

治療  症状が軽い場合は痛み止めの内服薬や外用薬を使ったり、膝関節内にヒアルロン酸の注射などをします。また大腿四頭筋強化訓練、関節可動域改善訓練などの運動器リハビリテーションを行ったり、膝を温めたりする物理療法を行います。足底板や膝装具を作成することもあります。  このような治療でも治らない場合は手術治療も検討します。これには関節鏡(内視鏡)手術、高位脛骨骨切り術(骨を切って変形を矯正する)、人工膝関節置換術などがあります。

 

 

シャルコー関節(神経原性関節症、神経障害性関節症)

 

シャルコー関節(神経原性関節症、神経障害性関節症)は進行性の関節破壊で、痛みを感じないため関節の初期の徴候に気づかず、しばしば急速に進行します。

特定の神経が損傷を受けると、人は痛みを感じられなくなります。糖尿病、脊髄の病気、梅毒などのさまざまな病気が、神経に損傷を与えます。この神経が損なわれた人は、たびたび関節が傷ついても痛みを感じることがなく、骨折したときですら気づきません。関節が機能障害を起こす何年も前に、複数の外傷を受けていることがあります。しかし、一度機能障害を起こしてしまうと、関節は数カ月以内に恒久的に破壊されます。

 

初期の段階では関節が硬直して体液がたまるので、シャルコー関節は変形性関節症と似ています。通常は関節の痛みがないか、関節の損傷のひどさの割には痛みません。病気が急速に進行すると、関節が極度に痛む場合があります。この場合、関節にたまった余分な体液と骨の異常成長のために関節が腫れます。骨折したり靭帯が伸びていると、骨の位置がずれて関節が変形したように見えます。関節を動かすと、関節内に浮遊している骨の断片のために、ギシギシときしむような音がします。関節がまるで「骨の袋」のように感じられることがあります。

 

損傷した神経の領域次第でどの関節にも障害は起こりますが、最も多いのは膝や足首の関節であり、糖尿病の人では足の関節です。しばしば破壊される関節は1個だけで、2~3個以上も障害されることはほとんどありません。

 

患者に神経障害と関節異常が起きているときは、医師はシャルコー関節を疑います。X線検査では、関節の損傷を見つけることができ、その際、しばしばカルシウムの沈着と骨の異常成長が明らかになります。足の状態に注意し、けがをしないようにすれば、シャルコー関節は予防できることがあります。スプリントや特製ブーツにより、弱くなった関節を保護することができます。基礎にある神経の病気を治療すれば、ときに関節の損傷を遅らせたり、改善させることさえあります。

痛みのない骨折を見つけて固定し、不安定な関節にスプリントを添えると、損傷の進行を止めたり最小限に抑えたりできます。股関節と膝関節は手術で修復したり、人工関節と置換したりすることも可能です。ただし、人工関節はしばしば早期に緩んでしまうことがあります。

 

 

膝関節脱臼

 

 膝関節の相対する大腿骨顆部関節面と脛骨顆部関節面の位置関係が全く失われたものを、膝関節脱臼といいます。  非常に大きな外力、たとえば交通外傷や、最近はスポーツ外傷でもみられます。膝関節の安定性は前後内外、その他の多くの靭帯・軟部組織により支えられているので、脱臼の際にはこれらは断裂し、重度復合靭帯損傷になります。したがって治療の大変難しい外傷です。  さらに重要な問題として、脱臼に合併して膝の後方の重要な血管・神経を損傷することもまれではなく、その場合、緊急手術が必要になります。

 

原因  膝関節脱臼の分類は脛骨近位端が大腿骨遠位端に対してどちらの方向に脱臼するかによって、前方脱臼、後方脱臼、内方脱臼、外方脱臼、回旋脱臼に分かれます。これらは膝への外力のかかり方、すなわち受傷機転(原因)によって決まり、損傷される靭帯も決まります。  たとえば膝関節後方脱臼は、膝関節を90度前後の屈曲位で脛骨近位端に前方から強い外力を受けた膝に発生し、後十字靭帯・後方関節包および内外側副靭帯が断裂します。

 

治療の方法  膝の脱臼に対する治療は、まず手で整復を行います。脱臼肢位と動揺性から損傷された靭帯が確定されます。手による整復が不能の場合には、緊急に、手術によって整復します。  手による整復後はキプスシーネ固定で整復位を保ち、そのあとで損傷された靭帯の再建術を行います。しかし、靭帯損傷のほかに膝関節部での骨折の合併や、膝蓋腱などの軟部組織の損傷、半月板損傷なども合併していることも多く、すべての靭帯は再建しないこともあります。状況によっては、一部の靭帯は歩行可能になってから二次的に再建術が行われることもあります。  治療成績、予後は、合併損傷がなく靭帯損傷だけの場合は比較的良好で、正座や和式トイレ以外は日常生活に支障はないこともあります。合併損傷が多ければ、関節拘縮や外傷性変形性関節症による疼痛、あるいは靭帯不全による動揺性などが残ります。

 

 

 

 

 

先天性股関節脱臼

 

 先天性股関節脱臼とは、幼児の股関節の骨がはずれてしまう病気です。

 脱臼の仕方で3つの種類に分けられます。幼児期に先天性股関節脱臼と診断された方には成人になるまでごく普通の生活ができる方や、青年期以降になって変形性股関節症が発症する方があります。

 先天性股関節脱臼は、軽いものなら抱き方やおむつの当て方などに気を付けることで治すことができます。そのような日常の注意で治らない程度のものなら、リーメンビューゲルという装具を3ヵ月ほど赤ちゃんに装着します。

 

 

 先天性股関節脱臼で完全脱臼したままで成育した場合は、出生日が初診日となります。

 青年期以降になって変形性股関節症が発症した場合は、症状が発症してから初めて診療を受けた日が初診日になります。

 手術などで症状があらわれた場合は、手術などで症状が現れた日を初診日とします。

 

 

 

悪性関節リウマチ

 

悪性関節リウマチとは、すでに疾患として持っている関節リウマチに血管炎などの関節以外の症状が認められ、難治性または重篤な臨床病態を伴う疾患です。患者によって様々な症状が見られますが、関節リウマチ特有の多発関節痛に加え、全身の血管炎が原因で引き起こされる38度以上の高熱や眼の痛みと充血、皮膚に赤い斑点ができたり、しこりができたりするなどの症状があります。また、腸からの出血や肺に水がたまるなど、内臓に異常が現れる場合もあります。

 

悪性関節リウマチの詳しい原因については分かっていませんが、可能性が高いとされているのが体質や免疫力などの遺伝によるものです。ただし、親から子供に必ず遺伝するということはありません。発症年齢のピークは60歳代で、男女比を見ると2対1と男性の方が多く発症する傾向にありますが、関節リウマチを発症して10年以上経過している患者が5年以内に悪性関節リウマチを発症するケースは極めて稀であることも分かっています。

 

悪性関節リウマチの診断は、皮膚異常や内臓疾患、高熱などの関節以外での症状が認められた場合に、尿検査や血液検査、レントゲン検査の結果を見て総合的に判断します。また、その他の病気の有無を確認する必要があるため、CT検査や血管炎が起きている場所の組織を一部採取し、顕微鏡で精密検査を行うこともあります。ただし、関節リウマチやその他の病気で服用している薬の副作用によって引き起こされる症状については除外されます。

 

悪性関節リウマチの治療法は、これまでに行ってきた関節リウマチの治療を継続されますが、症状によっては新しい治療が追加されていくことになり、副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬の服用を継続して行うことになります。しかし、服用を続けると免疫力が低下するため、感染症にかかりやすくなる恐れがあることから、うがいや手洗いなどの徹底をする必要があります。また、高脂肪と高塩分の食事を避けて、カルシウムやカリウムを多く含むバランスの良い食事をすることが病気の治療に繋がります。

 

 

 

関節の腫瘍

 

関節が骨や軟部組織の腫瘍に接していない限り、関節に腫瘍ができることはまれです。しかし、関節の内壁(滑膜)に生じる病気があり、それは滑膜軟骨腫症と色素性絨毛結節性滑膜炎です。これらの腫瘍は非癌性(良性)ですが、侵攻性です。

いずれも通常は単関節に発生し、最も多くは膝関節、次に多くは股関節が冒され、痛みと液体の貯留がみられます。いずれの治療も異常な滑膜の外科的な除去(滑膜切除)が必要とされます。

 

滑膜軟骨腫症:

滑膜軟骨腫症(以前は滑膜骨軟骨腫症と呼ばれた)は、関節の内壁の細胞が軟骨を生成する細胞に変化する状態です。変化した細胞は軟骨のかたまりを生成し、それが関節のまわりの空隙に放出され、遊離体を形成します。その一つひとつは米粒よりも小さく、痛みと腫脹の原因となります。この状態が癌化(悪性化)することはめったにありませんが、再発はよくみられます。

 

色素性絨毛結節性滑膜炎:

色素性絨毛結節性滑膜炎では、関節の内壁が腫れ、増殖します。この増殖により関節周辺の軟骨や骨が傷つきます。内壁はさらに、痛みと腫れの原因となる過剰な体液を生成します。この過程が、関節内に血性の液体が現れる原因です。通常は一つの関節に発生します。この病気が再発すると、関節の全置換術が必要となります。まれですが数回の滑膜切除術の後に、放射線療法を行うことがあります。