労働基準法の労働者・使用者
労働基準法では、労働契約の当事者である「労働者」と「使用者」について次のように定義しております。
労働基準法第9条 労働基準法第10条 |
○労働基準法上の労働者
「労働者」であるか否か、すなわち「労働者性」の有無は「使用される=指揮監督下の労働」という労務提供の形態及び「賃金支払」という報酬の労務に対する対償性、すなわち報酬が提供された労務に対するものであるかどうかということによって判断されることとなります。この二つの基準を「使用従属性」と呼ばれます。
実態として使用従属関係が認められれば、他人の指揮命令下に使用され、労働の対償として賃金を支払われている限り労働者になります。
この労働基準法の適用を受ける「労働者」の定義は、同法から独立した労働者災害補償保険法、労働安全衛生法、最低賃金法や男女雇用機会均等法、育児・介護休業法などの労働関連法規などの労働者概念と同じです。
労働契約法も「この法律で労働者とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう」(同法2条1項)と定め、労働基準法と基本的に同じ「労働者」の定義をしています。
労働者には、パートタイム労働者、アルバイト、不法就労外国人であっても、労働者の定義を満たしている者も含まれます。契約の形式が請負や委任となっていても、実態において「労働者性」の基準を満たしていれば「労働者」にあたります。
判例は、具体的な判断要素として、
・仕事の依頼、業務の指示等に対する諾否の自由の有無
・業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無
・勤務場所・時間についての指定・管理の有無
・労務提供の代替可能性の有無
・報酬の労働対償性
・事業者性の有無(機械・器具の所有・負担関係・報酬の額など)
・専属性の程度
・公租公課の負担(源泉徴収や社会保険料の控除の有無)
を総合的に考慮し、「労働者」に当たるか否かを判断しています。
微妙な契約について、法的に当該契約が雇用契約であるか否か、つまり労働基準法上の労働者であるか否かは、判例や行政解釈によって個別に判断されています。
職業、地位、立場、契約にかかる解釈から労働者となる例・ならない例は次の通りです。
1 労働者性肯定の例
|
詳 細 |
法人の重役(役員等) |
業務執行権又は代表権を持たないものが、工場長、部長の職にあって賃金を受ける場合は、その限りにおいて労働者である。 |
常勤相談役・嘱託 |
直接上司の指揮命令に服することなく、一般従業員と異なる待遇を受けている者であっても、一定の時間拘束とそれに対する報酬を受けている場合は労働者である。 |
同居親族社員 |
事業主と住居および生計を同一にするものであり、原則として労働基準法上の労働者はならないが、就労実態、管理が他の労働者と同様に行われている場合に限り労働者とする。 |
労働組合専従職員 |
使用者が在籍のまま労働提供の義務を免除し、組合事務に専従することを使用者が認める場合には、労働基準法上の労働関係は存続する。 |
新聞配達人(児童である配達人も含む) |
配達部数に応じて報酬を与えているのは、単に賃金の支払い形態が請負制となっているだけであって、一般に販売店と配達人も本法の労働者であるのが通例である。 |
大工 |
請負契約によらず雇用契約により、使用従属関係下にある大工は労働者である。 |
共同経営の出資者 |
当該組合又は法人との間に使用従属関係があり、賃金を受けている場合には労働者である。 |
運送業務従事者 |
自己所有のトラックや馬を使用し、他の運送業者の業務に従事し、給料の名目で報酬を受け取っていた者は労働者である。 |
学校教員 |
肯定 |
学校用務員 |
雇用契約であり、労働者である。 |
大学の助手 |
肯定 |
大学病院の研修医 |
肯定 |
外国人技術研修生 |
一般作業員と同じ作業に従事し、その対価として報酬を受けていれば、労働者である。 |
生命保険外交員 |
生命保険会社と雇用契約により保険契約の募集勧誘に従事する者は本条にいう労働者である。 なお、契約形態が複数ある場合等は保険外交員や募集職員等の名称にとらわれず実質上の労働関係の有無により判断される。 |
ガス料金集金員、電気料金検針員 |
請負契約形式であっても雇用契約と認められ、労働者である。 |
キャバレーと優先出演契約を結んだ楽団員 |
肯定 |
クラブと演奏契約を結んだピアノ奏者 |
肯定 |
放送協会専属の管弦楽団員、合唱団員、劇団員、効果団員等 |
次のいずれにも該当する場合は労働者とする。 |
放送芸能員 |
肯定 |
市町村の固定資産評価員 |
肯定 |
中央競馬会所属の調教師、厩務員 |
肯定 |
僧侶等宗教関係者 |
労務を提供し、賃金を受けていれば労働者である。 |
2 労働者性否定の例
|
詳 細 |
法人、団体、組合等の代表者 |
原則として、代表取締役が使用者の指揮命令下で労務を提供する従業員の地位を兼務することはできない。 |
使用人として退職金を受領した取締役 |
退職と同時に取締役に就任し、退職金を受領した者は、従前と同様の職務内容であっても、労働者ではない。 |
建設業の下請負人 |
独自の商号を使い、自ら雇う従業員を使用し、他の従業員より高額の出来高制給料を受けている者は、請負契約とみなす。 |
運送業務従事者 |
否定 |
企業等実習生 |
主目的が実習である限りにおいて原則として労働者ではない。 |
看護士養成所の実習生 |
原則として労働者ではない。 |
授産施設作業員 |
一定の公的扶助の下に交わされた契約については、労働者とはみなさない。 |
証券等外務員 |
外務行為に従事すべき義務を負い、出来高に応じて賃金を得る契約は、委任契約であり、労働者ではない。 |
NHK受信料集金員 |
業務の遂行について裁量権があり、使用従属関係は認められず労働者ではない。 |
船長 |
傭船者との契約は雇用ではない。 |
労働委員会の委員 |
否定 |
芸能タレント |
次のいずれにも該当する場合は労働者ではない。 |
非常勤の消防団員 |
堤防の決壊等限られた場合のみ出勤するのは労働者でない。 |
僧侶等宗教関係者 |
修行者・信者であって何らの報酬も受けず奉仕する者は労働者ではない。 |
受刑者 |
否定 |
競輪選手 |
否定 |
○労働基準法の履行義務のある「使用者」
ⅰ「事業主」とは労働契約の当事者である法人や個人企業主
ⅱ「事業担当者」とは役員や支配人など、、
ⅲ「事業主のために行為する者」とは労働基準法が規制する事項について現実に使用者としての権限を行使する者(たとえば工場長や部課長)
を指します。
労働基準法10条の定義する「使用者」とは、労働基準法上の規制・履行義務について責任を負い、同法違反に対して罰則の適用を受ける者のことであり、労働契約上の「使用者」とは異なり、労働基準法の規制事項について現実に使用者として行為した者を規制の対象とすることにあります。
現実に労基法違反の行為を行った者(違法な時間外労働命令を指示した所長・店長)が罰則の対象となるが、事業主が処罰を免れるのは不公平なため、両罰規定により事業主に対しても罰則が適用されます(労働基準法121条)。
労働契約の当事者としての「使用者」
労働契約は、「労働者」と「使用者」の間で締結される契約です。 労働契約上の「使用者」とは、「労働者」を使用し賃金を支払う者です。(労契法2条2項)。
通常、労働契約上の使用者とは「労働者」を雇った者(事業主)です。 雇用形態の多様化により、請負・孫請や派遣・二重派遣などの社外労働者受入れや親子会社・系列会社など労働関係に複数の企業が関与する場合には、労働契約上の使用者としての義務を負うのが誰かが問題となる場合が増えております。
使用者についての通達 判例
使用者性を肯定した判例
・労働基準法10条の「その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」とは、雇用契約に基づくと否とを問わず、事業主の経営する事業の労働者に関する事項につい一定の権限を有し、事業主の利益のために行為をするすべての者と解すべきである。(札幌高判昭28,11,10)
使用者性を肯定した通達
下請負人がその雇用する労働者の労働力を自ら直接利用し、その業務を自己の業務として相手方から独立して処理するものである限り、事業主となります。 (昭和23年基発14号、昭和63年基発150号)。
(判例)
横浜南労基署長(旭紙業)事件 最高裁第1小(平成8・11・28)
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