境界性パーソナリティ障害

 人間は成長していく中で、「十人十色」といわれるような様々な個性を獲得しながら発達を続けていきます。前向き・陽気・几帳面・怒りっぽい・神経質・おおらか・飽きっぽいなど、性格を表す言葉は数え上げればキリがありません。 誰もが様々な性格をもっている中で、中にはその一部分が極端に偏ったようになり、社会生活を送る上で自分も他人も苦しませてしまうようになる人がいます。こうした人々のことを精神医学の分野では「パーソナリティ・ディスオーダー」と呼ぶようになり、日本では「人格障害」と呼ばれるようになりました。なかでも、気分の波が激しく感情が極めて不安定で、良い・悪いなどを両極端に判定したり、強いイライラ感が抑えきれなくなったりする症状をもつ人は「境界性人格障害」に分類されます。近年では「境界性パーソナリティ障害」とも呼ばれています。  

 境界性人格障害(境界性パーソナリティ障害:BPD)は、1980年代まで精神病と神経症の『中間領域』にある精神疾患と仮定されており、『境界例(ボーダーライン)』と呼ばれていました。

 境界例(境界性人格障害)になぜ「境界」(ボーダーライン)などという名前が付いたのかというと、最初のころ神経症と精神病の境界領域の症状を指して境界例と呼んでいたからです。1938年、アメリカの精神分析家アドルフスターンが、統合失調症と不安障害のどちらともつかない症状を境界性(ボーダーライン)と呼んだことが、境界性パーソナリティ障害という名前の発端とされています。当時、統合失調症と不安障害のどちらともつかない患者に、統合失調症や不安障害に対する治療を施しても、改善するどころか悪化してしまうというケースが数多く見られました。その後もこういった問題は続き、その症状は「境界例」という診断がつくようになりました。20世紀後半になると、「境界例」はパーソナリティ障害の仲間に位置づけられるようになります。その時に、「境界例」の境界という言葉が引き継がれ、「境界性パーソナリティ障害」という名前になりました。

 今では境界性人格障害として一つの臨床単位となっています。

 症状は非常に多彩で、一見何の問題もないような人から、アダルト・チルドレンと言われるような症状や、リストカット(手首を切る自殺未遂)を繰り返すケースや、幻覚や妄想を伴って、まるで分裂病かと思われるような激しいものまであります。全体的には心の不安定さや急激に変化しやすい感情などが特徴です。多数の研究者が、幼いころの母親との関係が原因であると考えています。人口の約2パーセントが境界例と言われていますので、単純計算でも、日本では約250万人が境界例の問題を抱えていることになります。

 「境界性」という言葉は、「神経症」と「統合失調症」という2つの心の病気の境界にある症状を示すことに由来します。例えば、「強いイライラ感」は神経症的な症状で、「現実が冷静に認識できない」という症状は統合失調症的ものです。境界性人格障害は人口の約2%に見られ、若い女性に多いといわれています。

 境界性パーソナリティ障害の大半は女性であり、自己のイメージ、気分、行動、対人関係が不安定です。反社会性パーソナリティ障害に比べて思考過程に乱れがみられ、その攻撃的な感情はしばしば自分自身に対して向けられます。演技性パーソナリティ障害の人よりも怒りっぽく、衝動的で、自分のアイデンティティ(自己同一性)に混乱がみられます。境界性パーソナリティ障害は成人期初期にはっきりと現れてきますが、高齢者ではあまりみられなくなります。

 境界性パーソナリティ障害の人は、しばしば小児期に保護者による養育の放棄や虐待を受けたと訴えます。その結果、虚無感、怒り、愛情への飢餓感があります。A群のパーソナリティ障害と比べて、対人関係がはるかにドラマチックで強烈です。思いやりをもって接してくれている人から見捨てられることへの恐怖感に駆られると、異常な激しさで怒りを表す傾向があります。境界性パーソナリティ障害の人は、出来事や人間関係を、白か黒、善か悪で判断し、その中間は存在しないと考えがちです。

 境界性パーソナリティ障害の人は、見捨てられたと感じ、孤独感にさいなまれると、自分が本当に存在しているのかどうかわからなくなり、現実感を失うことがあります。また、やみくもに衝動的になり、見境のない性的無規律、薬物乱用、あるいは自傷行為などに走るおそれがあります。ときに、あまりにも現実から遊離してしまい、一時的に精神病性思考、妄想、幻覚が生じることがあります。

 境界性人格障害(Borderline Personality Disorder:BPD)は、アメリカ精神医学会のDSM-Ⅳ-TRで『クラスターB(B群)』に分類される人格障害(パーソナリティ障害)であり、『衝動性・攻撃性』『気分(感情)の不安定さ・対人関係のトラブルの多さ』などに大きな特徴があります。

 境界性パーソナリティ障害では、『自己アイデンティティ』が拡散して自分の存在意義や生きがいを見失いやすく、そのような虚無感や虚しさの感覚によって対人関係(異性関係)やギャンブル、ドラッグ(アルコール含む)、食事(摂食障害)などに過度に依存してのめり込みやすくなるという問題があります。境界性人格障害の特徴を持っている人は、気分の波が激しく感情が極めて不安定なので、さっきまで理想化して褒めていたような人に対しても、何か自分に否定的な発言などがあると急に怒り出して、攻撃的な罵倒が止まらないほどに興奮してしまうこともあります。

 境界性パーソナリティ障害の人は、自己愛・依存心・気分・感情を適切に自己コントロールすることができないので、『対人関係のトラブル』『自滅的・衝動的な行動(自傷行為・依存症)』が起こりやすくなるのですが、BPDの根底にある感情的問題は『見捨てられ不安・自己肯定感の欠如・孤独耐性の低さ』などです。家族や知人と付き合っていると、どうしても批判的・攻撃的になって対人トラブルが絶えないのですが、見捨てられ不安や空虚感(人生の無意味感)が非常に強いので、『一人で過ごす時間(誰とも関わらずに過ごす時間)』の孤独感になかなか耐えることができないのです。

 こうした見捨てられ不安や孤独感の心理的原因には、乳幼児期の母子関係で十分な愛情・保護を与えられなかったことや児童期の学校生活で『いじめ・暴力(虐待)』などに遭ったことが関係しているとも言われます。また、感情・気分の調整と関係して『セロトニン系・ドーパミン系』の脳内の神経伝達過程の障害が境界性人格障害を引き起こすという仮説や、境界性人格障害の発症に遺伝的素因(先天的要因)が関係しているという仮説があります。境界性人格障害を抱えた人たちは、いつも誰かに温かく見守っていて欲しい、どんな時も家族・恋人・友人には自分の味方になって貰いたい、大切な人に見捨てられたくないという強い欲求を抱えていますが、『激しい感情表現(気分の波)・自己アイデンティティの拡散(空虚感)・極端な対人評価』によって人間関係が上手くいかないことが多くなってしまうのです。

 

境界性パーソナリティ障害の患者数

 境界性パーソナリティ障害の性格な発生率は分かっていませんが、参考となる調査結果がいくつか発表されています。

 境界性パーソナリティ障害の発生頻度 0.7~2%

 最新の調査では、5.9%が境界性パーソナリティ障害の診断基準に該当した。

 一般人口の2%、精神科患者の11%、精神科入院患者の19%が境界性パーソナリティ障害である。

 境界性パーソナリティ障害は高齢になるほど少ない。地方より都市部に多い。

 男女比は1:4

 自殺企図で精神科を受診する人のうち、56%が境界性パーソナリティ障害である。

 決して関係のない病気とはいえません。自分が該当しなくても、家族や恋人、友人、同僚などが境界性パーソナリティ障害である可能性は十分考えられるのです。

境界性パーソナリティ障害の特徴 に続く