採用
○採用
採用時の規定のポイントは、
(1) 選考方法
(2) 労働条件の明示
(3) 採用前の研修
(4) 採用時の提出書類
(5) 試用期間
などが挙げられます。
就業規則規定例 2 会社は、採用選考の合格者(以下「採用内定者」という。)に対し、合格した旨、採用予定日及び内定取消事由を記載した文書(以下「内定通知書」という。)を交付する。 |
会社は、労働者の採用に当たり、男女かかわりなく均等な機会を与えなければなりません(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号第5条)。
合理的な理由がない場合に、労働者の採用において身長・体重・体力を要件とすること、転居を伴う転勤に応じることを要件とすること等は、間接差別として禁止されています(第7条)。
採用に関して言うと、採用基準や応募時の必要書類といった条文が書かれているのが一般的です。
なお、採用の手順や条件等については、従業員となる前(まだ労働契約が交わされていない)の方に対する内容であり、必ずしも就業規則に記載する必要はないともいえます(任意的記載事項)
労働条件の明示
労働条件等の明示方法を記載します。
事業主は、労働契約の締結に際し、労働者に対して、賃金及び労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません。
1 絶対的必要記載事項
いかなる場合があっても必ず記載する必要がある事項
- 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては、就業時転換に関する事項
- 賃金の決定(臨時の賃金を除く)、計算・支払いの方法、賃金の締め切り・支払いの時期に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
明示事項のうち、就業規則の必要的記載事項の部分については、その労働者に適用される部分を明確にして就業規則を交付するべきです。(平成11.1.29基発第45号)
就業規則に記載がない事項については、別に書面で明示するべきです。
①~⑤(絶対的明示事項)に関する事項については、これらの事項が明らかとなる書面を労働者に交付しなければなりません(昇給に関する事項については、書面でなくてもよいとされています)。
従事すべき業務については、将来従事させようという業務を併せて網羅的に明示することは差し支えありません。
退職に関する事項については、退職の事由及び手続、解雇の事由等を明示しなければなりませんが、明示事項の内容が膨大なものとなる場合は、適用される就業規則の関係条項名を網羅的に示すことで足りるとされています。
退職には、任意退職、定年制、契約期間の満了による退職等も含みますが、退職手当に関する事項は含みません。
2 相対的必要記載事項
定めるか否かは自由であるが、定めた場合には必ず記載しなければならない事項
- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払方法、退職手当の支払いの時期に関する事項
- 臨時に支払われる賃金、賞与及び最低賃金に関する事項
- 労働者に負担させる食費、作業用品代その他に関する事項
- 安全・衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰、制裁に関する事項
- 当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合の事項
絶対的明示事項に関する事項については、これらの事項が明らかとなる書面を労働者に交付しなければならなりません(昇給に関する事項については、書面でなくてもよい)。相対的明示事項は、それらに関する定めを設けている場合にのみ、明示する義務を負います。
注意すべき就業規則規定例 第○条 (労働条件の明示) |
就業規則の開示がされず、しかも就業規則の内容について不十分な説明しか行われなかった場合には、労働基準法第15条違反が成立します。(日新火災海上保険事件 東京高裁 平12.4.19)
絶対的必要明示事項に係る書面交付が義務化されていることを考慮すると、この条文は具体的内容に欠けているのです。
次のようにするとよいでしょう。
就業規則規定例 第○条(労働条件の明示) 2 従業員の労働条件は、この規則に定めるところによる。ただし、個別労働契約において、この規則を上回る労働条件を定めたときは、この限りではない。 |
雇用契約書がなくても、契約自体は成立します。
しかし、これら事項を「口頭で伝えた」だけでは (契約自体は成立しても)労働基準法15条違反になるのです。
絶対的明示事項以外の事項についても、後で「言った、言わない」の論議になることを避けるために、 書面での明示・確認を行いましょう。
労働契約法(4条2項)で「労働契約の内容について、できるかぎり書面により確認するもの」と定められています。
〇労働条件の変更
就業規則規定例 第 条 (労働条件の変更) 2 会社は、前項の労働条件に変更があった場合は、変更部分に関する文書を従業員に交付することによって周知する。 3 従業員は、前項の規定により周知された事項をよく理解するよう努めなければならない。 |
○内定
新卒者の内定は、通常本採用の6ヶ月以上前に行うことが多いです。
採用内定通知は申込みに対する会社の承諾になります。
内定は労働契約を締結した状況と考えるのが適切とされています。 これは、新規の採用予定者が労働することについて意思表示(申し込み)をし、採用試験や面接等の手続きを経て採用を決定(承諾)することになるからです。
内定者は、労働基準法上の労働者ではありません。しかしながら、内定とは「始期」および「解約権」が付いた状態といえども一応は労働契約が成立している状態(始期付解約権留保付労働契約の成立)であり、内定取消に関する問題も多く発生している情勢も考えると、リスク対策として内定取消事由の規定を設ける意義はあると言えます。また、労働条件の明示を、就業規則を提示することにより行なう場合には、この内定取消事由が記載されていることにより、その内容も労働契約の内容と解されることになります。
労働契約が成立しても、新卒者の都合あるいは会社の都合で内定を取り消すケースがありますので、就業規則に「内定取り消し理由」を明記しておく必要があります。
労働者の就労開始前に、労働契約を解消しようとするときは、内定者には内定取り消し理由を書面で明示し、同意を得ておくべきでしょう。
就業規則規定例 第○条 (内定の取り消し) 2 会社は、採用の内定を解除するときは、その事由を書面よってその者に通知する。 |
○内定期間中の研修
この入社前の研修というのは、企業の研修センター等において、入社前に教育を実施することです。
優秀な人材の確保、定着の面からも入社前の研修は有効です。 その理由ですが、第一に早期の段階で本人の適性を把握できるからです。面接の段階では、なかなか協調性や熱意等を見抜くことはできません。グループ研修を入れると
協調性が見えますし、特定の課題を与えて行動を見ることにより、熱意についても判断できます。 第二に、本人が早く職場に慣れることがあります。例えば、職場見学や実習を体験することで、どの職場が向いているかを把握する機会になります。 第三に、入社後の研修期間の短縮化が図れます。このため、早期に配属することにつながります。
研修への参加は、内定者研修が社員として必要な基礎知識を教育するために行なわれるものであれば、労務提供の準備として必要なものと考えられますので、労務を提供している時間となります。また、研修への参加が義務づけられていれば、使用者の指揮命令に服しているということができます。事業主は、労働者が使用者の指揮命令に服し、労務を提供している時間に対しては賃金を支払わなければなりません。
入社前研修は集合研修であり、拘束されたカリキュラムの受講となるので、労働時間と解されます。賃金の支払いが必要となります。内定者への賃金の支払い方法は必ずしも初任給である必要はなく、研修の時間に応じた日給を支払えばよいでしょう。
入社前教育ですので、仮に4月1日入社の場合は、その前に実施することになるため新規学卒者の場合は、在学中における研修ということになります。したがって、この入社前教育は学校の卒業に影響が生じないよう会社側は日程等について適切に配慮する必要があります。
注意すべき就業規則規定例 第○条 (内定期間中の研修) |
採用前に研修を行うことは世間一般的に広く行われていることでもあり、労働基準法上の問題はありませんが、内定段階で研修を強制することはできません。
*使用者が、採用内定期間中の労働者に対して実際の就労に先立って研修、実習、教育訓練等を実施しようとするときは、内定通知に際し、その期間、内容その他命令で定める事項について書面により明示すべきです。内定通知後に決定された研修等については、決定後、速やかに労働者に対して書面により明示しましょう。書面により明示されなかったときは、労働者は使用者による研修等の指示に従う義務を負わないのです。
〇 採用時の労働契約の締結
採用時には、必ず労働契約を締結しましょう。
法的には、労働条件の通知(事業主からの一方的な通知)で足りますが、労務管理上は、双方の捺印がある労働契約書の締結がより効果的です。
「会社を守る」観点からは、「秘密保持誓約書」、「個人情報管理誓約書」、なども、業務の実情に合わせて作成すべきです。
・「秘密保持に関する誓約書」・・・顧客情報の漏洩や企業の情報漏洩を防ぐための1つの手段です。
誓約書に法的な効果はない。精神的な効果をねらう。
誓約書において、法律で禁止されていることを誓わせてはいけない。
(例:損害賠償の具体的金額、女性が結婚した場合や妊娠の場合は退職すること、等)
- 誓約書の記載事例
このたび、私は貴社の業務を行うにあたり、次の事項を誠実に守り、決して貴社にご迷惑をおかけないように誓約いたします。 |
会社として不利益を被るおそれがある行為については、義務、禁止、処罰内容を具体的かつ明確に規定しておくことが重要です。また、社員への自覚を促すことを目的に、入社時および退職時には「業務上知りえた機密事項を漏洩しない」旨の誓約書を取り交わすことをお薦めします。これは入社時だけではなく、退職時にも改めてその契約の内容を本人と確認しあうことが重要です。
会社側の防止策としては、退職後も守秘義務があることを就業規則に定めておくこと、また特に必要のある者については退職後の守秘義務契約や競業避止契約を退職時に結んでおくことなどの方法が考えられます。そして、これらの誓約に違反したときは、損害賠償請求をすることがある旨を付記しておくとよいでしょう。
ただし、実際に損害が生じたときは、機密漏洩と損害との間の因果関係を会社が証明しなければなりません。
○入社時の提出書類
注意すべき就業規則規定例 第○条(採用時の提出書類) |
就業規則は、採用が決定し入社している社員を対象としていますので、『採用時』の提出書類ではなく『入社時』の提出書類とすべきです。『採用日』からとすると、いつが採用日かの問題がおこり、例えば内定した日から2週間とかいいかねませんので、問題があるためです。
就業規則には、採用後、身元保証書、住民票記載事項証明書等、提出させる書類および提出期間を列挙するのが望ましい。
提出書類の内容については、具体的に明示し、さらに会社の裁量で省略できる旨を明示しておきましょう。 提出書類の中には、『一部省略できる』旨のフレーズを加えるとよいでしょう。
・履歴書
採用の応募時に提出している場合は不要
・労働契約書及び誓約書
法的に義務付けられた書面ではありません。 労働契約の本質上当然として発生する社員の「誠実義務」「守秘義務」を促し、心理的効果をねらう意味があります。
・身元保証書
身元保証契約とは、「従業員の行為により、使用者の受けた損害を賠償することを取り決めた契約」のことです。この場合、契約の当事者は、企業と身元保証人になります。法律的義務はない。こうした身元保証契約は、採用時に締結されるケースが多いです。この身元保証契約は必ずしも締結する必要はないと考えられています。身元保証人を引き受けてくれる方がいないケースも想定できるからです。ただし、経理関係のように金銭を扱うような部署では、身元保証契約を締結しておいた方が安心であることもいえます。なお、身元保証人であって連帯保証人ではない。
・卒業証明書
学歴確認のため
・住民票記載事項証明書
採用にあたって戸籍謄本・抄本、住民票の提出を求めることは、人権上問題があります。
・前職がある者は、年金手帳、雇用保険被保険者証
・源泉徴収票
年末調整のために必要。
当年内の再就職のときは、前の職場で発行してもらったものを提出(年を越して入社する場合は、提出しなくてOK)
・給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
給与支払時の源泉所得税額を割り出すための書類です。
税金、社会保険の手続き、諸手当計算などのために必要です。
・給与支払報告
・特別徴収にかかる給与所得者異動届
前勤務先が発行
前の会社を退職する際に、本人が納めるべき住民税を一括徴収し市区町村へ納入していない場合には、引き続き住民税の残高を、新たに採用した会社で特別徴収することができます。
・扶養家族申請書(家族調書)
・健康診断書
雇い入れ時の健康診断を省略することができる。
健康診断を受けてから3ヵ月以内に雇い入れるとその証明で代替できる。
3ヵ月以内に受診した健康診断書を含めることにより、健康状態について医師の証明になるとともに、労働安全衛生法で義務付けられている、雇入れ時の健康診断を省略することができます。健康診断書を提出させる場合は、『3ヵ月以内』のものに限定する。それ以前のものは、意味がない。
・資格等を証明する書類で会社が求めたもの
・現住所から会社までの通勤方法及び略図
通勤経路は、労災事故の通勤事故の判定の際に参考資料となる。
・個人番号カード表裏面の写し又は通知カードの写し及び当該通知カードに記載された事項がその者に係るものであることを証するものとして行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(以下「番号法」という。)施行規則で定める書類(ただし、対面で本人確認を行う場合は原本を提示する。)
・その他会社が必要と認めたもの
提出書類の内容については、具体的に明示し、さらに会社の裁量で省略できる旨を明示しておきましょう。提出書類の中には、『一部省略できる』旨のフレーズを加えること。
以下の提出・調査を求める事は制限されております。
『住民票』、『戸籍謄(抄)本』、『身元調査』、『家族の職業・関係』、
『家族の地位・学歴 収入』、『家族の資産』、『住居状況』、『宗教』、支持政党』、
『本籍地』、『尊敬する人物』、『生活身上』
戸籍謄本(抄本)及び住民票写しを提出させるのは人権上問題がある。
年齢や現住所などの確認のために戸籍謄本や住民票の写しの提出を求めてはいけない。
「住民票」や「戸籍謄本」「戸籍抄本」を加えている会社は多いのではないでしょうか。行政指導により これらの書類の提出は、出来ないことになっていますので、注意が必要です 。交通費などの関係で、住所地を確認したい場合は、「住民票記載事項の証明書」で対応します。
提出書類には、身元保証書も加えておくことをお薦めします。昨今は、会社に損害を与えたまま、行方が分からなくなる社員もいますので、そういった万が一の場合にも対応できるようにするためにも必要なことだと思われます。
加える場合には、単に提出書類の中に「身元保証書」と加えるだけでなく、保証人の人数、保証人の要件、保証期間、更新手続などについて詳細に定めれば、スムーズな手続きが行なえます。
《身元保証制度とは》
会社と身元保証人との間で、対象となる従業員が、将来において故意又は過失によって会社に損害を与えた場合に、身元保証人があらかじめその損害の支払いを保証するという内容のもの。(身元保証に関する法律)
身元保証制度によって賠償してもらえるのは、せいぜい20%~30%まで(判例あり)
① 期限の定めない契約は3年(商工業の見習い者は5年)
② 期限の定めのある契約であっても5年まで
③ 契約の更新は可能です。
自動更新は無効(5年ごとの更新が必要)
身元保証契約は、期間の上限は5年間と決められている。更に、期間の定めを設けない場合は、3年が上限となる。この時点で、自動更新制度はないため、終了とする。しかし、更新契約を結ぶ事は認められているので、今後の治安悪化に備え、5年の更新契約を結ぶ事を提案します(規則に定める必要がある。)
会社から保証人への通知義務がある。
下記の場合には、使用者である会社から身元保証人に対して通知義務が課されている。
・従業員に業務上不適任または不誠実な行為があり、身元保証人に責任が生じるおそれがあることを知った場合
・従業員の任務や任地の変更があり、身元保証人の責任に影響を及ぼす場合
これらの通知義務を怠ると、身元保証人の責任が減らされることになる。
《身元保証人が負うべき保証の範囲》
法律上の制限はない。あくまで契約書に記載してある範囲 印鑑証明を必要としてもよい(金融機関では一般的) 保証人の連絡先の電話番号を記入してもらう
書類未提出者への処分についても規定しておきます。
就業規則等に採用時の提出書類を定めるにあたり、提出期限を過ぎても提出しない者に対する処分方法についても定めておくことで、確実な提出を促すことが可能となります。
採用時の提出書類が未提出は、合理的な解雇理由として認められています。採用の段階で曖昧な態度を取ると将来、大きなトラブルを誘引する可能性もあります。
判例 名古屋タクシー事件 シティズ事件 など
採用時の応募書類については、不採用の場合の書類返却については法的に定められていないが、『返却するのが望ましい』とされています。返却しない場合は、『責任をもって破棄いたします』とするとよいでしょう。
個人情報保護法が施行されているため、提出した書類の利用目的を社員に対して明示するのが望ましいです。
〇個人番号の利用目的
就業規則規定例 第〇条(個人番号の利用目的) 2 会社は、上記利用目的に変更がある場合には、速やかに、本人に通知する。 3 労働者の扶養家族が社会保険諸法令による被扶養者に該当する場合には利用目的の通知について別途定める。 |
○試用期間
「試用期間」は、労働者を採用するにあたり、雇用する労働者の勤務状況などから、その能力や適格性を判断し、問題がなければ本採用とするために設けられた一定期間のことです。
あくまで長期雇用を前提としつつ、適性を評価する期間という意味合いのものですから、契約社員などの有期の労働契約とはその趣旨を異にします。
試用期間については、この期間中に能力や、従業員としての適正があるかどうかをチェックし、本採用するかどうかを決定する非常に重要な条文になります。特に「採用しない」場合においては解雇という扱いになり、トラブルが起こりやすいことから、これを未然に防ぐ意味でも、どのような場合に本採用しないのか、誤解のないよう明確に定めておく必要があります。
就業規則に規定すべき事項は、以下のようなものになります。
① 試用期間の目的
② 試用期間の長さ
③ 試用期間中の賃金やその他の労働条件
④ 本採用しない場合の基準
⑤ 試用期間の延長に関する事項
⑥ 勤続年数の算定にかかる試用期間の取扱い
より自社に適した人材を採用し、よりよい組織風土を築いていくためには、採用時に人材を見極めるようにする一方で、試用期間を利用し採用時には判断ができなかった点についても確認しておくべきです。そして、就業規則を整備するとともに、運用についてもチェックしておくことが求められます。
試用期間を設ける場合にその期間の長さに関する定めは労基法上ありませんが、労働者の地位を不安定にすることから、あまりに長い期間を試用期間とすることは好ましくありません。
試用期間の長さは法的に規定されているわけではありませんが、3~6ヵ月が一般的で、3ヵ月が最も多いです。
「試用期間中の労働者は不安定な地位に置かれるものであるから、労働者の労働能力や勤務態度等についての価値判断を行なうのに必要な合理的範囲を越えた長期の試用期間の定めは公序良俗に反し、その限りにおいて無効であると解するのが相当である。」(ブラザー工業事件:名古屋地裁昭和59年3月23日)
試用期間は、勤続年数に通算する旨を定めます。
試用期間中に適格と認められない者を本採用拒否するためには、就業規則において、試用期間の本採用拒否の旨を記載しておく必要があります。試用期間中に解雇(本採用の取り消し)の具体的な事由を定める事で『解雇紛争』を防止することができます。
注意すべき就業規則規定例 第○条 (試用期間) 2 試用期間中を経て引き続き雇用される場合は、 試用期間の当初から採用されたものとし勤続年数に通算する。 3 試用期間中、又は試用期間満了の者が従業員とする事が不適格と認められる者については解雇する事がある。 |
↓
就業規則規定例 第○条 (試用期間) 2 試用期間は、会社が必要と認めた場合は、3ヵ月間の範囲で期間を定め更に延長することが出来る。この場合は2週間前に本人に通知する。 3 試用期間中又は試用期間満了の際、勤務成績や能力を査定して賃金等の労働条件を改めて変更することがある。その変更は、本人に事前に通知し、及び同意を求めるものとする。 4 試用期間中を経て引き続き雇用される場合は、試用期間の当初から採用されたものとし、勤続年数に通算する。 5 試用期間中又は試用期間満了の従業員が次のいずれかに該当し、従業員として不適当であると認めるときは、会社は採用を取り消し、本採用を行わない。 |
○試用期間の延長
合理的な理由があれば試用期間の延長は可能です。例えば、その期間中の長期欠勤や勤務状態が不適切等の理由が該当します。このような場合は、状況によっては解雇になりかねませんので、試用期間を延長することにより、労働者の改善を図る方が労働者にとっても有利といえます。
「会社は、試用期間が満了した者については、これを不適格と認められる場合のほかは原則として社員に登用しなければならない義務がある。従って、この試用の期間の延長規定は原則に対する唯一の例外であるから、その適用は、これを肯定するだけの合理的な事由のある場合でなければならない。」(大阪読売新聞社事件:大阪高裁昭和45年7月10日)
試用期間は、一般的には3ヵ月とされていますが、見極めが出来なかった場合は1回に限り延長することがある旨を記載することで、試用期間延長も運用上必要になるかと考えます。具体的には、「新たに採用した者については、採用の日から3ヵ月間を試用期間とする。ただし、特殊な事情がある場合は2ヵ月を超えない範囲で試用期間を延長することがある。」などのように、通常は2、3ヵ月としたうえで、試用期間の延長の規定を設けて、特殊な事情がある者に限って、その期間を延長するようにし、延長する場合の最長期間についても定めておくとよいでしょう。
○試用期間中の解雇
試用期間中の解雇や本採用にしないときの規定を細かく規定するのも効果的です。
会社も採用時だけでその人(採用希望者)の全てを見極めることはなかなかできません。 一定の期間について、その従業員の能力など適格性をチェックして、 会社には合わな(不適格)という場合には本採用しないことができるとされています。(これを留保解約権と言います。)
「企業が、採用決定後における調査や試用期間中の勤務状態等により、当初知ることができなかったり、知ることが期待できないような事実を把握したとする。そして、その社員を引き続き企業で雇用することが適当でないと判断することが、解約権留保の趣旨等からみて、客観的に相当であれば、留保した解約権を行使することができる。但し、その程度に至らない場合は、行使できない。(三菱樹脂事件:最高裁昭和48年12月12日)」
以上から、試用期間中は、解約権を留保した労働契約と考えられます。すなわち、客観的で合理的な理由がないと解雇することはできないといえます。 試用期間による解約すなわち解雇については、きちんと就業規則に記載しておくことが望ましい。
試用期間中であれば、14日以内は即解雇できるが、就業規則に試用期間の定めがある場合か、雇用契約の内容となっている場合に限られます。
試用期間の解雇は、通常社員の解雇より広い範囲の解雇事由が認められています。
注意すべき就業規則規定例 第○条 (試用期間) |
試用期間中の解雇については、最初の14日以内であれば、労働基準法20条で定められている解雇予告手続をとることなく即時に解雇することができます。しかし、試用期間中の解雇であっても、雇い入れから14日を超えて使用した場合には、通常の従業員を解雇するときと同様に、扱わなければなりません。少なくとも30日前に予告するか、平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払う必要があります。
↓
就業規則規定例 第○条 (試用期間) |
○トライアル雇用
トライアル雇用とは、公共職業安定所(ハローワーク)の紹介によって、特定の求職者を短期間の試用期間を設けて雇用し、企業側と求職者側が相互に適性を判断した後、両者が合意すれば本採用が決まるという制度です。
未経験者を試験的に雇用し、仕事への適性や業務知識の習得度合いを見極めたい場合は、2ヵ月以内の短期間雇用契約を設けることも1つの方法です。
試用期間とは別にアルバイト雇用する旨を記載しておきます。期間は、社会保険への加入の関係から2ヵ月以内の期間限定とするのがよいでしょう。
この2ヵ月以内であれば即解雇できる。解雇予告手当も不要。 社会保険料の負担がない。
(注意)職種によっては求人募集の際に、敬遠されることもあり得る。
就業規則規定例 第○条 (採 用) |
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