配置転換
業務運営上の理由で担当職務や働く場所を変えるのは、会社に認められた人事権の範囲です。
就業規則に定めが無くても、会社は、自由に転勤命令を出す権利がありますが、就業規則に定めがあれば、入社の際に既に包括的な転勤への同意があることになり、トラブルが生じた時に安心です。実務上は本人の同意を得て、新たな労働条件による労働契約を締結することが重要です。
転勤を含めて配置転換の場合には、同一企業内の部署の異動ですから、一般に、就業規則に雇入れ時に契約した「就業の場所」を変更することがある旨の定めがあれば、業務命令として発令することができるものと解されています。
職種や勤務地を限定した雇用契約の場合は、本人の同意なしで変更することはできないとの裁判例があります。この場合は契約している「職種・勤務地」の範囲内でのみ配転を命じることができ、全国転勤を命じることはできません。しかし、会社の業務上どうしても必要な場合もありますので、職種や勤務地を限定している雇用契約でも配置転換がある旨を記載する必要があります。
就業規則規定例 2 前項の命令を受けた従業員は正当な理由がない限り、これを拒む事が出来ない。ただし、転籍に関しては、当該従業員の同意を改めて得て行う。 |
会社の配転命令が有効とされるには、次の要件を満たす必要があります。
(1) 労働契約上、配転命令権の根拠があり、その範囲内で配転命令が出されること
労働契約において職種や勤務地が限定されている場合には、その限定された職種・勤務地の範囲が、配置転換命令の範囲になります。
(2) 当該配転命令が法令等の強行法規に反しないこと
配転命令が不当労働行為にあたるもの(労働組合法第7条)や当該従業員の思想・信条を理由とするもの(労働基準法第3条)は、法令違反となり、当該配転命令は無効となります。
また、労働協約や就業規則の条項に違反してなされた配転命令も、一般に、無効になります。
(3) 当該配転命令が権利濫用にあたらないこと
次の基準に従って、当該配転命令の有効性が判断されることになります(東亜ペイント事件 最高裁 昭61.7.14)
・当該人員配置の変更を行う業務上の必要性の有無
・人員選択の合理性
・配転命令が他の不当な動機・目的(嫌がらせによる退職強要など)をもってなされているか否か
・当該配転命令が、従業員に通常に甘受すべき程度を著しく超えるような不利益を与えるものか否か
・その他上記要素に準じるような特段の事情の有無(配転をめぐる経緯、配転の手続など)
配置転換命令に労働契約上の根拠があったとしても、以下に該当する場合には権利の濫用として無効であるとされています。
(1) 業務上の必要性が存在しない場合
(2)(業務上の必要性があったとしても)不当な動機・目的をもってなされた場合
「不当な動機・不当な動機・目的」とは 嫌がらせ セクハラ パワハラ など
(3) 労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである場合
労働者の不利益を図る基準としては、次のようなものが考えられます(名古屋港水族館事件 名古屋地裁 平成15.6.20)。
・賃金の減少や労働時間の延長、勤務場所の変更など、労働条件それ自体の不利益性
・通勤時間の増加や、配転後の職場で未習熟の業務分野への適応を要求されることなど、労働条件に密接に関連する事項についての不利益性
・労働者自身や同居の家族の健康の保持、未成熟の子弟の養育など社会生活上の不利益
育児介護休業法上、転居を伴う配転の際に、企業は従業員の子の養育、家族の介護の状況について配慮する義務が定められています。この配慮の有無が権利濫用か否かの判断において一つの判断材料になっています。
子供の進学問題を含む家庭事情から、単身赴任を招く遠隔地への転勤については、従業員の抵抗が出る場合があり、裁判所でも配転命令の効力が争われることがあります。
家庭生活への影響を考慮した上で配転命令を有効とした例
営業マンに対する神戸から名古屋への転勤命令拒否を理由とする懲戒解雇につき、本件における同居中の母親や保母をしている妻を残しての単身赴任となる生活上の不利益は、転勤に伴い通常甘受すべき程度のもので、本件転勤命令は権利濫用にあたらないとした。
・ケンウッド事件(最高裁 平12.1.28)
「保育園児を持つ母親に対して子供の送迎等に支障を生じさせることになる異動も、「通常甘受すべき程度を著しく超えるとはいえない」として、長男を保育園に預けている女性従業員に対する東京都目黒区所在の事業場から同八王子市所在の事業場への異動命令が権利の濫用に当たらないとした。
家庭生活への影響を考慮した上で配転命令を無効とした例
疾病、障害等のある複数の家族を支える社員の転勤については、「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」を認定しました。
・フットワークエクスプレス事件(大津地裁 平9.7.10)
・北海道コカ・コーラボトリング事件(札幌地裁 平9.7.23)
なお、育児・介護休業などの事情が発生した場合は別です。育児・介護休業法の制度により守られます。
(判例)
九州朝日放送事件 最高裁第1小(平成10・9・10)
直源会相模原南病院事件 最高裁第2小(平成11・6・11)
帝国臓器製薬単身赴任事件 最高裁第2小(平成11・9・17)
日産自動車村山工場事件 最高裁第1小(平成1・12・7)
ミロク情報サービス事件 京都地裁判決(昭和12年4月18日)
明治図書出版事件 東京地裁決定(平成14年12月27日)
森下製薬事件 大津地方裁判所(昭和58.7.18)
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