知的障害
知的障害とは、発達期までに生じた知的機能障害により、認知能力の発達が全般的に遅れた水準にとどまっている状態を指します。
単に物事を理解し考えるといった知的機能(IQ)の低下だけではなく、社会生活に関わる適応機能にも障害があることで、自立して生活していくことに困難が生じる状態です。
知的障害は発達期の間に発症すると定義されます。発達期以降に後天的な事故や認知症などの病気で知能が低下した場合は含みません。この発達期とはおおむね18歳までを指しますが、知的障害は障害の状態を指すため、障害が現れる道筋は人によってさまざまで、具体的な発現時期も人により異なります。
知的障害は、知的機能および適応行動(概念的、社会的および実用的な適応スキルで表わされる)の双方の明らかな制約によって特徴づけられる能力障害である。この能力障害は、18歳までに生じる。
知的障害は精神遅滞とも表される。知的発達の障害です。知的機能や適応機能に基づいて判断され、知能指数により分類されます。様々な中枢神経系疾患が原因となるため、正しい診断を受けて、早期に治療・療育・教育を行う必要があります。本人のみならず、家族への支援もかかせない発達障害のひとつです。知的障害(ID: Intellectual Disability)は、医学領域の精神遅滞(MR: Mental Retardation)と同じものを指し、「知的発達の障害」を表します。すなわち「1. 全般的な知的機能が同年齢の子どもと比べて明らかに遅滞し」「2. 適応機能の明らかな制限が」「3. 18歳未満に生じる」と定義されるものです。中枢神経系の機能に影響を与える様々な病態で生じうるので「疾患群」とも言えます。
学習障害(LD)と同じ障害だと思われがちですが、学習障害は知的発達に遅れがない発達障害です。知的障害は「知的機能(IQ)」の数値のみによって診断がくだされるという印象がありますが、「適応機能」という日常生活能力、社会生活能力、社会的適応性などの能力を測る指数とも合わせて診断が下されます。
知的障害の原因
知的障害の原因は一つではありません。脳障害を引き起こす疾患や要因すべてが、知的障害の原因となりうると考えられています。また、知的障害を発症する道筋も一つではありません。原因不明の知的障害の人も多いとされていましたが、最近になって少しずつ原因解明の研究が進んでいます。2014年に、脳内タンパク質の遺伝子変異が知的障害の原因の一つとなるという研究が発表されました。
知的障害の原因は十分には解明されていない状況ですが、主な要因は病理的要因・生理的要因・環境要因の3つの面から分類できると考えられています。
病理的要因とは、病気や外傷など脳障害をきたす疾患のことで、これらの合併症として知的障害が一緒に起きることがあります。この中には、てんかん や 脳性まひ などのほか、ダウン症などの染色体異常による疾病が含まれます。
病理的要因としては、主に以下のような病気・けがが挙げられます。
・感染症によるもの(胎児期の風疹や梅毒、生後の脳炎や高熱の後遺症など)
・中毒症によるもの(胎児期の水銀中毒や生後の一酸化炭素中毒など)
・外傷によるもの(事故や出産時の酸素不足など)
・染色体異常によるもの(ダウン症候群など)
・成長や栄養障害によるもの(代謝異常や栄養不良など)
・その他(早産、未熟児、仮死など)
病理的要因を考え、もしその要因が治療可能であれば、知的障害の程度を最小限に抑えることができるかもしれません。また、その要因が及ぼす影響を予防したり、支援の方向性を検討したりできます。
特に疾病などがなくたまたま知能水準が知的障害の範囲内にあるといった場合、生理的要因と呼ばれます。
環境要因は、直接の原因となるわけではありませんが、脳が発達する時期に不適切な環境であることで知的障害の症状が悪化したり、脳の発達が遅れる原因になったりすると言われています。
出生前・周産期・出生後別の主な原因
知的障害の原因はどのように発現するのでしょうか。
胎児期
胎児期に発現する遺伝子変異や染色体異常といった先天的な原因が、知的障害を引き起こす場合があります。まれに知的障害の素因となる遺伝子が親から子へ伝わることもあります。フェニールケトン尿症などの先天性代謝異常やダウン症、脆弱X症候群(FXS)などが胎児期に発現する知的障害の素因としてよく知られています。ダウン症などの染色体異常が原因の場合、出生前検査などでその可能性がわかる場合もあります。胎児期はお母さんのおなかの中で身体や脳などの器官がつくられる大切な時期です。この頃にお母さんを通じて、感染症や薬物、アルコールなどの外的要因が胎児に影響したり、お母さんの代謝異常などで栄養不足になったりして脳の発育が妨げられ、知的障害を引き起こす原因となる可能性もあります。
周産期
出産前後の事故などによって脳に障害が現れることがあります。母体の循環障害、へその緒がねじれるなどで赤ちゃんの脳に酸素がいかなかったり、出産時に頭蓋内出血が起こったりして脳に障害が残る場合があります。また、低体重や早産などにより、脳が未発達のうちに生まれることも原因の一つとなる可能性があります。これらの出産前後のトラブルは、周産期医療の進歩や充実によって少なくなってきています。
出生後
脳が未発達なうちはけがや病気の影響を受けやく、乳幼児期の感染症や頭部の外傷などが原因になることがあります。日本脳炎や結核性髄膜炎、ポリオ、麻疹、百日咳などに感染し重篤化して脳炎になると知的障害を引き起こす場合がありますが、予防接種により感染の危険を減らすことができます。また、乳幼児期に栄養不足だったり、不適切な養育環境に置かれることで脳の発達が遅れることもあります。フェニールケトン尿症は出生後すぐの新生児マススクリーニング検査の対象疾患となっており、そこで自動的に検査されます。疾患が見つかったら、すぐに食事療法によって血液中のフェニルアラニンを一定の範囲にコントロールすることで、発症を予防することができます。
フェニールケトン尿症など一部の病理的要因は、食事療法や薬物投与といった治療法で発症を防げる場合があります。
その他の知的障害については、今現在医学的治療法は確立されていません。
厚生労働省では「知的機能」と「適応機能」は以下のように定義づけられています。
知的機能は知能検査によって測られ、知能指数(IQ)70以下を知能機能低下と判断します。IQ値によって、軽度・中等度・重度と分類されることもあります。重い運動障害を伴った重度知的障害を「重症心身障害「」と表記することもあります。
適応機能とは、日常生活でその人に期待される要求に対していかに効率よく適切に対処し、自立しているのかを表す機能のことです。たとえば、食事の準備・対人関係・お金の管理などを含むもので、年長となって社会生活を営むために重要な要素となるものです。
知的障害の診断
知的障害の診断は医療機関や地域によって異なりますが、一般的に知的障害は「知的機能」と「適応機能」の評価で「軽度」「中度」「重度」「最重度」の4つの等級に分類されます。
知的障害は「知的機能」と「適応機能」の2つが評価されて診断が下されます。
軽度知的障害
軽度知的障害は、おおむねIQが50~70の知的障害をさします。
食事や衣服着脱、排せつなどの日常生活スキルには支障がありません。しかし、言語の発達がゆっくりで、18歳以上でも小学生レベルの学力にとどまることが多い。
軽度知的障害の特徴としては、
・清潔、服の着脱を含めた基本的な生活習慣が確立している
・簡単な文章での意思表示や理解が可能
・漢字の習得が困難
・集団参加や友達との交流は可能
などが挙げられます。
中度知的障害
中度知的障害は、おおむねIQが35~50の知的障害をさします。
言語発達や運動能力の遅れがあります。 身辺自立は部分的にはできますが、全てをこなすことは困難です。
中度知的障害の具体的な特徴としては、
・指示があれば衣服の着脱はできるが、場合に合わせた選択
・調整が困難
・入浴時、自分で身体を洗えるが、プライベートゾーンなど洗い残しがある
・お釣りの計算が苦手
・新しい場所での移動
・交通機関の利用は困難
・ひらがなでの読み書きはある程度可能
などが挙げられます。
重度知的障害
重度知的障害は、おおむねIQが20~35の知的障害をさします。
言語・運動機能の発達が遅く、学習面ではひらがなの読み書き程度に留まります。情緒の発達が未熟で、身の回りのことを一人で行うことは難しいので、衣食住には保護や介助が必要になる場合もあります。
重度知的障害の具体的な特徴としては、
・着替え、入浴、食事などの生活に指示や手助けが必要
・簡単な挨拶や受け答え以外のコミュニケーションが苦手
・体の汚れや服の乱れをあまり気にしない
・1人での移動が困難
などが挙げられます。
最重度知的障害
最重度知的障害は、おおむねIQが20以下の知的障害をさします。
言葉が発達することはなく、叫び声を出す程度にとどまることがほとんどです。身の回りの処理は全くできず、親を区別して認識することが難しい場合もあります。しかし、適切な訓練によって、簡単な単語を言えるようになるケースもあります。
最重度知的障害の具体的な特徴としては、
・衣服の着脱ができない
・便意を伝えられない
・言葉がない。身振りや簡単な単語で意思表示をしようとすることもある
・食事に見守りや介助が必要
などが挙げられます。
知的障害は、ダウン症や自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害、 てんかんなど、他のさまざまな障害と合併して現れる場合が少なくありません。
知的障害の療育 に続く