解雇の予告

 事業主が従業員を解雇する場合は、原則として30日前に解雇の予告をすべきことが労働基準法第20条により義務付けられております。

 解雇予告は少なくとも30日前にしなければならないので、30日より前に予告しても差し支えありません。

 予告期間の計算は、解雇予告をした日は算入されず、翌日から計算されます。したがって、予告日と解雇の効力発生日との間に、30日間の期間をおく必要があります。この30日間は労働日ではなく暦日で計算されますので、その間に休日があっても延長されません。例えば、12月131日に解雇(その日の終了をもって解雇の効力発生)するためには、遅くとも12月1日には解雇予告をしなければなりません。6月30日に解雇する場合は、少なくとも、5月31日には解雇しなければならない。

 5月31日に予告し、6月15日付けで解雇する場合は、「予告期間に満たない日数(この場合15日)×平均賃金」以上の解雇予告手当を支給しなければならなりません。

 解雇予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができます。10日前に解雇予告をする場合は20日分の平均賃金を支払えばよいことになります。

 即時解雇の場合、解雇予告手当(30日分以上の平均賃金)は解雇申し渡しと同時に支払わなければなりません。

 解雇の申渡と同時に解雇予告手当を提供し、当該労働者が解雇予告手当の受領を拒んだ場合には、これを法務局に供託することができます。

 解雇予告は、使用者が一方的になす労働契約解除の意思表示ですので取り消すことはできません。しかし、労働者が自由な判断によって解雇予告取消に同意した場合は取り消すことができます。a1150_001078

 解雇予告がなされても、予告期間が満了するまでの労働関係は有効に存続しますので、労働者は労務を提供しなければならず、使用者は労務に対して賃金を支払う義務があります。したがって、解雇予告期間中に労働者が自己都合で欠勤した場合は賃金を減額することができ、使用者の都合で労働者を休業させたときは休業手当を支払う必要があります。

  法定の予告期間を設けず、また法定の予告に代わる平均賃金を支払わないで行った即時解雇の通知は即時解雇として無効です。使用者が予告なしに労働者を解雇し、労働者はその解雇が有効であると思い、離職後相当日数経過後他の事業場に勤務した場合において、この解雇の意思表示が解雇の予告として有効と認められ、かつその解雇の意思表示があったために予告期間中労働者が休業した場合は、使用者は解雇が有効に成立するまでの期間、休業手当を支払わなければなりません。

 裁判所は解雇予告手当を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、未払いの解雇予告手当のほか、これと同一額の付加金の支払いを命ずることができます。

 形式的には雇用期間を定めた労働契約が反復更新されても、実質においては期間の定めのない労働関係と認められる場合は、解雇の予告が必要となります。

 

解雇予告手当の性質上、時効の問題は生じません

 他の債務との相殺の問題も生じません(あくまでも支払わなければ解雇が成立しません)。なお、事後速やかに精算されるのであれば、概算払いは認められています(昭 27.5.17 基収1906号、昭 24.1.8基収54号、昭 24.7.2基収2089号)。

 

○解雇予告の除外

 使用者は、次の場合は解雇予告又は解雇予告手当の支払いをせずに解雇することができます。  

(1) 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合で、所轄労働基準監督署長の認定を受けた場合
(2) 労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合で、所轄労働基準監督署長の認定を受けた場合

 いずれも所轄労働基準署長の解雇予告除外認定を受けることが必要です。該当する場合でも認定を受けずに解雇することはできません。いわゆる解雇予告除外認定です。

 解雇予告除外認定を受けるためには、「天災事変その他やむを得ない事由」と解されるだけでは不十分で、「事業の継続が不可能」になることが必要です。また、「事業の継続が不可能」になっても、それが「やむを得ない事由」に起因するものでない場合には認定されません。

 やむを得ない事由とは、天災事変に準ずる程度の突発的な事由の意味で、経営者として必要な措置をとっても如何ともなし難く、かつ、解雇の予告をする余裕のない次のような場合をいいます。
 ① 事業場が火災により焼失した場合(事業主の故意又は重大な過失の場合を除く)
 ② 震災に伴う工場等の倒壊、類焼等により事業の継続が不可能となった場合

 事業の継続が不可能とは、事業の全部又は大部分が不可能になった場合をいい、多少の労働者を解雇すれば、従来通り操業し得る場合や別個の事業に転換し得る場合は含まれません。

 「労働者の責に帰すべき事由」とは以下に該当するような労働者を保護するに値しないほどの重大または悪質な義務違反又は背信行為が労働者に存する場合をいいます。  
a.極めて軽微なものを除き事業場内での盗取、横領、傷害など刑法犯に該当する行為があったとき
b.賭博、風紀紊乱等により職場規律を乱した場合
c.採用条件の要素となるような経歴の詐称
d.他事業場への転職
e.原則として2週間以上正当な理由がなく無断欠勤し、出勤の催促に応じない場合
又は背信行為が労働者に存する場合をいいます。  

 単に遅刻や欠勤が多いというだけでなく、そのたびに従業員に注意をしているなど改善措置をしていることが必要です。

 ここで注意しなければならないことは、就業規則で規定する懲戒解雇の事由と、解雇予告除外認定を受けることができる労働者の責に帰すべき事由は一致しないということです。この事由について、解釈例規は認定基準を示しています。懲戒解雇の全てが解雇予告も予告手当の支払もしないで即時解雇できるということにはなりません。表現が不鮮明な表現は誤解を招くことになるので、改めたほうが良いでしょう。

問題のある就業規則規定例

第○条(普通解雇)    
 従業員が次のいずれかに該当するときは、解雇することができる。    
 ・・・  
2 前項の規定により従業員を解雇する場合は、少なくとも30日前に予告するか又は予告に代えて平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払う。ただし、労働基準監督署長の認定を受けて第○条に定める懲戒解雇をする場合、及び次の各号のいずれかに該当する従業員を解雇する場合は、この限りではない。

第 条(懲戒解雇)
 懲戒解雇事由に該当したときは、予告期間を設けないで即時解雇する。

 この条文では、懲戒解雇であれば簡単に解雇できると判断される可能性があります。

 解雇と懲戒解雇の規定については、次のような表現に変えたほうが良いでしょう。

就業規則規定例 第○条(普通解雇)   
 従業員が次のいずれかに該当するときは、解雇することができる。   
 ・・・
2 前項の規定により従業員を解雇する場合は、少なくとも30日前に予告するか又は予告に代えて平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払う。ただし、第○条に定める懲戒解雇をする場合であって、労働基準監督署長の解雇予告除外認定を受けた場合及び次の各号のいずれかに該当する十行を解雇する場合は、この限りではない。

 

○解雇予告制度の適用を除外される者

 次の労働者には解雇の予告を適用しません。

(1) 日日雇い入れられる者

 いわゆる日雇労働者のことを指します。これらの労働者の雇用期間は1日ですので、その日の労働の終了によって雇用関係は終了し、必要に応じてまた1日雇い入れられることになり、1日という期間の定めのある労働契約ということになります。従って、1日ごとに期間満了による雇用関係の終了があり、解雇の問題は生じません。

 しかし、日日雇い入れられる労働者でも1ヵ月を超えて引き続き使用されるようになれば、形式上は1日ごとに雇い入れられる者であっても、労働関係は継続的なものとなり、実質的には期間の定めのない契約と性質が同じになります。そこでこのような場合には解雇予告の規定を適用し、労働関係の終了を労働者の意思による場合でない限り解雇とみて、解雇予告又はこれに代わる解雇予告手当の支払いをしなければならないこととしています。

(2) 2ヵ月以内の期間を定めて使用される者

 2ヵ月、1ヵ月あるいは2週間等の契約期間で使用される労働者が該当します。契約期間の満了によって労働契約が終了することは当然解雇ではありませんが、2ヵ月以内の短期契約については期間満了前に解雇する場合でも解雇予告の規定が適用されないことを明らかにしたものです。

 所定の期間(当初の契約期間)を超えて同一事業所に引き続き使用されるに至った場合は、解雇予告が必要です。

 (3) 季節的業務に4ヵ月以内の期間を定めて使用される者

 季節的業務とは、春、夏、秋、冬の四季、あるいは決氷期、積雪期、梅雨期等の自然現象に伴う業務に限られ、夏季の海水浴場の業務、農業における収穫期の手伝い、冬の除雪作業、漁業における魚の種類別の漁獲期の業務等をいいます。

 所定の期間(当初の契約期間)を超えて同一事業所に引き続き使用されるに至った場合は、解雇予告が必要です。

(4) 試用期間中の者

 本採用決定前の試験的使用期間中の労働者をいい、その期間中に勤務態度、能力、技能、性格等をみて正式な採用の可否が決まる者です。

 試用期間は、いわば労働契約上の一態様ですので、就業規則又は労働契約において明確に定められる必要があり、これを定めないで直ちに本採用した場合は、採用後14日以内であっても解雇予告の適用があります。試みの使用期間が14日を超えて引き続き使用されるに至った場合は、解雇予告が必要となります。

 

(判例)

細谷服装事件 最高裁第2小(昭和35・3・11)

 

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