心身症

 心身症は、心因的、精神的な悩みが原因となり、身体に様々な不調を生じる症状を言います。

 心身症とはあくまで身体疾患であり、身体疾患のうちその病気の「発症」や「過程」に心理・社会的因子が大きく影響してくるものを指します。心理・社会的因子の中でも、最も大きいものは「ストレス」です。ストレスが発症や過程に関わる身体の病気が心身症であると言えるのです。

 日本心身医学会では、心身症を以下のように定義しています。

 『身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし、神経症やうつ病など、他の精神障害に伴う身体症状は除外する』

 心身症では、精神疾患であるうつ病や神経症などは除外されます。

 病気は大きく「身体疾患」と「精神疾患」に分けられます。このうち、「心身症」とはストレスなどの心理・社会的因子が大きく関与するものの「身体の病気」に分類されます。

 心身症と自律神経失調症は発症の原因が全く異なり、別々の病気です。

 副交感神経と副交感神経のバランスが乱れることで生じる 身体の様々な不調を総称して自律神経失調症と呼んでいます。はじめに自律神経失調症状を発症し、その後、その症状が悪化し、 精神的にも苦痛になり、

 心身症を併発するケースがある。自律神経失調症になると、例えば不眠症などの症状が現れます。不眠症になると前日の疲れが翌日にも残り、ストレスが日々積み重なっていきます。その結果、精神的な苦痛となり、心身症を引き起こすことになります。心身症は自律神経失調症が悪化して心身症を併発したという方が正しいのです。

 

心身症の症状

 心身症でみられる病気には、循環器系、呼吸器系、消化器系、内分泌系、代謝系、神経系、筋肉系、泌尿器系、皮膚科、産婦人科、眼科医、耳鼻咽喉科、歯科など様々な領域に及び、各病気に応じた症状があらわれます。

 

心身症の分類

呼吸器系

 気管支ぜんそく、過換気症候群、神経性咳そう、慢性閉塞性肺疾患 など

循環器系

 本態性高血圧症、本態性低血圧症、起立性低血圧症、冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)、一部の不整脈 など

消化器系

 胃・十二指腸潰瘍、急性胃粘膜病変、慢性胃炎、心因性嘔吐、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、慢性肝炎、慢性膵炎 など

内分泌・代謝系

 肥満症、神経性食欲不振症、神経性過食症、愛情遮断性小人症、甲状腺機能亢進症、心因性多飲症、糖尿病 など

神経・筋肉系

 筋収縮性頭痛、片頭痛、その他の慢性疼痛、痙性斜頭、自律神経失調症、心因性めまい、冷え症、異常知覚、失声、チック など

小児科領域

 小児ぜんそく、起立性調節障害、過換気症候群、消化性潰瘍、反復性腹痛、神経性食欲不振症、周期性嘔吐症、情動性不整脈 など

皮膚科領域

 慢性じんましん、アトピー性皮膚炎、円形脱毛症、汎発性脱毛症、多汗症、接触皮膚炎、湿疹、皮膚掻痒症 など

外科領域

 腹部手術後愁訴(腸管癒着症、ダンピング症候群、その他)、頻回手術症、形成術後神経症 など

整形外科領域

 慢性関節リウマチ、全身性筋痛症、腰痛症、多発関節痛、肩こり、頸腕症候群、痛風 など

泌尿・生殖器系

 夜尿症、遺尿症、神経性頻尿(過敏性膜胱)、遊走腎、心因性インポテンス、前立腺症、尿道症候群 など 

産婦人科領域

 更年期障害、機能性子宮出血、月経痛、月経前症候群、月経異常、卵巣機能低下、不妊症、不感症 など

眼科領域

 原発性緑内障、眼精疲労、本態性眼瞼けいれん、視力低下、視野狭窄、眼痛 など

耳鼻咽喉科領域

 耳鳴り、心因性難聴、アレルギー性鼻炎、嗅覚障害、頭重、頭痛、口内炎、心因性失声症、吃音 など

歯科・口腔外科領域

 顎関節症、口腔乾燥症、三叉神経痛、舌咽神経痛、ある種の口内炎(アフタ性および更年期性など)

 

心身症の代表的な症例

 ・気管支炎
 ・喘息
 ・狭心症
 ・高血圧症
 ・胃・十二指腸潰瘍
 ・神経性胃炎
 ・過敏性腸症候群
 ・生理不順
 ・アトピー性皮膚炎
 ・頭痛

 精神的ストレスによって、頭痛がする 、胃潰瘍になってしまう 、喘息が悪化する 、下痢が止まらなくなるといった身体症状を認める場合、これらは心身症に該当します。

 心身症を起こしやすい原因としては、ストレス、性格、遺伝、体質などが挙げられます。

 心身症になりやすいと言われている性格があります。「アレキシサイミア(失感情症)」と呼ばれる性格傾向です。

 アレキシサイミアの方は「感情」を上手く扱えない事が多く、そのため、自分が受けているストレスに気付きにくいのです。そのために、ストレスに対して適切な対処が行えずにこころがダメージを受けて心身症を発症してしまう。

 

心身症の診断

 心身症の場合は、身体的な検査の他に、患者の精神的・社会的側面も調べる必要があります。  

 心身症の診断の流れは、身体的な症状の訴えに対して検査を行い、身体疾患を確認することがはじめに行われます。そして、日常の言動が正常であることを確認し、社会的・心理的影響を受けているかを調べます。その結果、社会的・心理的要因が関与している場合は心身症が考えられます。

 

心身症の治療

 心身症は身体に症状が出ますが、その原因は心にあります。根本を治すためには「心」の治療を行わなければいけません。しかし、心の治療は時間がかかるため、心にだけ焦点を当ててしまうと患者は長い間症状で苦しむ事になってしまいます。

 反対に「身体」の治療は、比較的早く効果は出るものの、あくまでも表面的に治しているだけですので、十分な治療とは言えません。

 心身症の治療は、身体の治療を行いつつ、心の治療も行っていくという感じで、両者をバランス良く治療していく事が大切です。

 心身症は「心療内科」が専門の科になります。なお、心身症は心療内科医のみならず精神科医も治療を行っています。

 心身症の治療では、一般的な身体的疾患とは異なり、心理社会的側面が関与しているため身体医学的な治療だけでは治すことが困難で、再発しやすいものです。そのため心理的な治療もあわせて行います。治療の流れは、まず、身体症状に対する治療を薬の投与などで行い、次に心理社会的要因を治療する流れとなります。  

 心理社会的要因に対する治療法には、一般心理療法、自律神経訓練法、行動療法、バイオフィードバック療法、交流分析療法、簡易精神分析、ゲシュタルト療法、森田療法、生体エネルギー療法、絶食療法などがあります。

 心理療法の中でも比較的エビデンスが強いものは「認知行動療法」です。次いで「自律訓練法」があるほか、「バイオフィードバック法」も海外でいくつかのランダム化比較試験が行われており、エビデンスが確立されつつあります。

 近年の傾向として、心療内科ではベンゾジアゼピン系薬剤は、依存性などの問題があることから、慎重に使用されるようになっています。