強迫性障害

 自分の意に反してつまらない考えが繰り返し浮かんできて、抑えようとしても抑えられない(強迫観念)、あるいはそのような考えを打ち消そうとして、無意味な行為を繰り返す(強迫行為)症状を強迫症状といいます。

 強迫性障害は、このような強迫観念や強迫行為を主症状とする神経症の一型です。

 自分でもそのような考えや行為は、つまらない、ばかげている、不合理だとわかっているのですが、やめようとすると不安が募ってくるので、やめられない状態です。

 不安が基礎になっている病気なので、不安障害に分類されます。

 障害有病率(一生のうち一度はかかる確率)は2.5%であり、女性のほうが男性よりも若干多く、初診時の平均年齢は31歳です。約30%の頻度でうつ病を合併しており、その他恐怖症・社交不安障害・全般性不安障害・パニック障害などの不安障害を10%程度の頻度で合併しているので注意が必要です。

 

強迫症(強迫性障害)の症状

 「ドアに鍵をかけたかな?」「ガスの火を消したかな?」と、不安になって家に戻ったということは多くの人が経験していることです。また、ラッキーナンバーなどの縁起にこだわることもよくあることです。しかし、その不安やこだわりが度を超しているとすれば、また、戸締まりや火の元を何度しつこく確認しても安心できなかったり、4や9など特定の数字にこだわるがあまり生活に不自由が生じていたりする場合は強迫症の可能性があります。

 一般的な強迫症では、「手が危険なウイルスで汚染されている」などという考えやイメージなどの強迫観念と、強い不安を駆りたてられ、何時間も手洗いを続けたり、肌荒れするほどアルコール消毒を繰り返したりなどの強迫行為とが見られます。これらが無意味で過剰なものとわかっていても止めることができず、とても苦痛に感じており、生活あるいは仕事に著しい不自由や支障を来している状態であれば、治療が必要と考えられます。

 強迫症状の内容は多彩ですが、強迫観念では、汚染の心配や、「運転中に誤って人を傷つけていないか」といった攻撃性に関するもの、「きちんと左右対称にしないと不吉なことが起こるのでは」など、不吉感や気持ち悪さを伴った対称性へのこだわり、物事の正確性の追求、数字へのこだわり(例: 4や9を避ける)などを多く認めます。一方、強迫行為には、長時間の手洗いや入浴、掃除などの洗浄、人に害を加えていないか、間違いがないかなどの確認、繰り返しの儀式、物を対称に並べる、何度も数える、心の中で呪文唱える、などがあります。患者の多くはこれらを複数有し、経過中に症状の内容が変わることも少なくありません。

 この様な強迫症状の内容、あるいは各々の出現頻度は、社会文化的背景や民族の相違などに影響されないと考えられています。

 

代表的な強迫観念と強迫行為

不潔恐怖と洗浄  
 汚れや細菌汚染の恐怖から、過剰に手洗い、入浴、洗濯をくりかえすドアノブや手すりなど、不潔だと感じるものを恐れて触れない。

加害恐怖  
 誰かに危害を加えたかもしれないという不安が心を離れず、新聞やテレビに事件・事故として出ていないか確認したり、警察や周囲の人に確認する。

確認行為  
 戸締まり、ガス栓、電気器具のスイッチを過剰に確認する。

  何度も確認する、じっと見張る、指差し確認する、手でさわって確認する など

儀式行為  
 自分の決めた手順でものごとを行なわないと、恐ろしいことが起きるという不安から、どんなときも同じ方法で仕事や家事をしなくてはならない。

数字へのこだわり  
 不吉な数字・幸運な数字に縁起をかつぐというレベルを超えてこだわる。

物の配置、対称性などへのこだわり  
 物の配置に一定のこだわりがあり、必ずそうなっていないと不安になる。

雑念障害
 雑念障害とは強迫性障害の中の症状の内の一つで、本人の意志に反した様々な考え方やイメージ等が頻繁に頭の中に思い浮かんで、それがどうあっても離れずに苦しむというものです。

 正常な思考の時や、何か他に集中しなくてはならないことがあるにも関わらず、雑念に邪魔され、行動や思考に支障が出ます。仕事中や勉強中又は家事をしている際にも、この障害が起こるために、仕事をやめざるを得なくなったり、日常生活を送る際にも苦しんでいる方が多い。もちろん、何かをしている際に雑念が浮かぶのは普通のことですが、強迫性障害の方の場合だと、「雑念をどうしても気にせずにはいられない」「雑念を消すという強迫観念にとらわれている」といった部分が強く意識される部分になってきます。そして。そのような雑念を排除しようとすることが強迫行為になり、雑念が消える事なく、苦しむことになります。

疾病恐怖
 疾病恐怖は強迫障害の内の1つで、大病になることを極端に恐れる、ちょっとした身体の違和感を大きな病気でないかと極度に心配してしまい、その度に病院を受診したり検査せずにはいられない、検査をしてもしっかり検査が出来てないのではないかと思い込んでしまう症状のことです。

 重い病気にかかることは誰にとっても恐ろしく、出来る事ならば避けたいことですが、この症状を持っている方は特にその思いが強く、強迫行動をするようになります。ほかにも、むやみに薬を飲んだり、特異な感染病が海外から渡ってきたニュースを見た際に空港やそこに繋がる鉄道の利用を避けたり、他人の血液に過剰に嫌悪するようになったり、電車のつり革も触れなくなる、歯槽膿漏などを恐れ歯磨きに極端に時間がかかる、うがいや手洗いを何度もする、紫外線を浴びないようにするために太陽に当たらないことばかりを気にする、等のような「極度の防御行動」が見られます。

反芻障害
 反芻障害とは、強迫性障害の中の強迫行動の内の一つで、何か特定に行動をするという強迫観念というよりは、頭の中で考えてしまう認知障害型に該当するタイプの症状です。

 何か一つのテーマやキーワードに対しもっと考えたいという強迫衝動が起こってしまい、収穫のない思考を延々果てしなく繰り返してしまうというものです。そのためにそれ以外の思考・行動に支障が出るといった結果になってしまいます。

認知儀式障害
 認知儀式障害とは、強迫性障害により生じる障害の中の一つで、本人が不合理であると自覚しているのに、止める事ができない行動のうち、強迫観念や嫌な考えを打ち消そうとするために頭の中で良いイメージや数字や言葉を考えるといった儀式を何回となく確認しないと気が済まないという特定のものをこれと指します。

 

 強迫性障害は、脳内の神経伝達成分である「セロトニン」の代謝が関係のようです。セロトニンは脳内の情報を神経細胞同士に伝達するという役割がありますが、これの働きに異常が出ることによりこの障害が起こるとされています。

 治療法としては、薬物と認知行動療法の2つがあります。抗うつ薬で状態を安定させてから、行動での療法に入っていくという手順が取られます。強迫性障害には「曝露反応妨害法」という強迫障害が出やすい状態に直面させて、その行動を我慢させて慣れさせていくというような方法になります。しかし、この障害においては頭の中のことで、しかも強迫行動を我慢しようとするために起こる強迫行動なために、難しい部分もあり、専門医や心理士の指導の元で治療を行うことが必要不可欠です。精神科や診療内科等、正しい診断やカウンセリングを受け、治療に臨むようにしてください。

 

 強迫性障害は、誰もが生活のなかで普通にすること(戸締まりの確認や手洗いなど)の延長線上にあります。「自分は少し神経質なだけ」なのか「もしかしたらちょっと行き過ぎか」という判断は難しいところです。

 次のようなサインがあれば、専門の医療機関に相談されてください。
 ・日常生活、社会生活に影響が出ている  
 ・手洗いや戸締まり確認に時間をとられる  
 ・火の元を確認しに何度も家に戻る

 結果常に約束に遅れるといった弊害や、日々の強い不安や強迫行為にかけるエネルギーで心身が疲労して、健全な日常生活が送りにくくなってきます。

 火や戸締まりの確認を家族にも何度も繰り返したり、アルコール消毒を強要するなど、周囲の人を強迫観念に巻き込むことも多くなります。その結果人間関係がうまくいかなくなっていきます。自分では「病気というほどひどくない」と感じていても、家族や友人など周囲の人が困っている様子なら、念のため受診を考えるのもよいかもしれません。

強迫性障害の原因・治療 に続く