解離性同一性障害

 解離性同一性障害は、以前は多重人格障害と呼ばれていたもので、2つ以上の自己同一性(アイデンティティ)が同一人物の中に交代して現れる状態をいいます。

 小児期の極端なストレスは、自分の経験をまとまりのある1つの自己同一性へと統合するのを妨げることがあります。

 患者には複数の人格が存在し、それぞれの人格は互いの存在を知っていることも知らないこともあり、人格間の相互作用もみられます。その他の症状として、激しい頭痛、記憶の空白期間、自傷行為の傾向などが挙げられます。

 解離性同一性障害がみられる人の割合は約1%です。

 

原因

 解離性同一性障害は、いくつかの要因の相互作用によって引き起こされるとみられています。それには以下の状態が含まれます。
 ・極度のストレス
 ・自分の記憶、知覚、自己同一性などを意識から切り離す能力
 ・精神の発達異常
 ・小児期の保護や養育の不足

 小児は成長過程で異なるタイプの複雑な情報や経験を、結束性があり、かつ、複雑な自己同一性に統合する方法を習得しなければなりません。虐待を受け重大な喪失やトラウマを経験した小児では、自分自身のさまざまな情動や知覚と他者のそれらが切り離されたまま、この段階を通り過ぎてしまうことがあります。この分離が多重人格の発達につながります。しかし、このような傷つきやすい小児のほとんどは、十分に大人の保護を受けて安心感を得ているので、解離性同一性障害にはなりません。

 

症状

 往々にして解離性同一性障害の人は、他の精神障害に似て各種の身体疾患のような症状を訴えます。たとえば、激しい頭痛やその他の肉体的苦痛が生じたり、性機能不全になったりすることがあります。そのときによって異なるグループの症状群が発症します。実際に別の病気の存在を意味するものもありますが、過去の体験が現在に侵入し、それが症状に反映されている場合もあります。たとえば、悲しみに沈んでいる状態はうつ病の併存を示唆することもありますが、多重人格の1つが過去の不幸に根ざした感情を再体験している場合もあります。

 患者は自傷行為に走る傾向があります。薬物乱用、自傷行為、自殺未遂などの徴候がよく現れます。虐待を受けた相手に依然として深い愛着を抱いている患者もいます。

 患者の複数の人格の中には、他の人格が知らない重要な個人的情報を知っている人格が存在することがあります。内面の複雑な世界の中で、いくつかの人格は互いの存在を知っていて、人格間の相互作用もあるようにみえます。たとえば、人格Aは人格Bの存在を知っていて、まるでBを観察していたかのようにBの行動を把握しています。人格Bは人格Aの存在を認識している場合もあれば、そうでない場合もあり、同居する他の人格についても同様のことが言えます。

 人格が入れ代わったり、ある人格のとった行動をその他の人格が認識していなかったりすると、しばしば生活に大混乱を招きます。人格同士の相互作用が頻繁に起こるため、患者は自分の内面から会話が聞こえる、あるいは人格が患者の行動について意見を言ったり、話しかけたりする声が聞こえると訴えることがあります。

 患者は時間の流れがゆがむような感覚があり、時間の空白や健忘なども生じます。健忘が生じた後、自分では説明できない、あるいは見覚えのない物品を発見したり、手書きの文字を見つけることがあります。また、最後に覚えているのとは違う場所にいることに気づき、どのようにしてそこに辿り着いたのか見当もつかないこともあります。解離性同一性障害では、自分がしたことを覚えていなかったり、自分の行動の変化を説明できないことがあります。よく自分のことを「私たち」「彼」「彼女」などと表現しますが、理由は自分でもわからないこともあります。ほとんどの人が、生まれてから最初の3~5年間のことはあまり覚えていないものですが、解離性同一性障害の人では、6~11歳の期間についても多くのことを思い出せません。

 患者は自分自身から遊離して(離人症)、見慣れた人々や環境が、親しみのない見知らぬ非現実的なもののように感じられることがあります(現実感消失)。自分自身に対するコントロールや他者に対するコントロールのいずれにも不安を抱きます。

 解離性同一性障害は慢性的で、何もできない状態に陥ったり命にかかわる可能性もありますが、多くの場合、日常生活にあまり支障がなく、創造的で生産的な生活を送っている人も多くいます。

 

予後(経過の見通し)

 症状の中には、自然に現れたり消えたりするものもありますが、解離性同一性障害が自然に治ることはありません。どの程度回復するかは患者の症状や障害の特性によって異なります。たとえば、重い精神障害を併発していたり、生活機能が低下していたり、あるいは自分を虐待した相手に依然として深い愛着を抱いていたりする場合、あまり回復は見込めません。このような患者では、長期の治療が必要であり、また、治療が成功する見込みも少なくなります。

 

治療

 通常、多数の人格を1つに統合することが治療の目的になります。しかし、必ずしも成功するとは限りません。統合が難しい場合は、その人の中の複数の人格同士の関係に協調性をもたせ、正常に機能できる状態にすることを目指します。

 薬物療法により不安や抑うつなどの合併症状が軽快することはありますが、この障害自体には作用しません。

 精神療法は往々にして長く忍耐力が必要とされ、感情的な苦痛を伴います。その人の中に存在する複数の人格が取る行動や、治療中にトラウマ体験の記憶がよみがえって生じる絶望感から、何度も感情の危機的状態に陥るおそれがあります。つらい時期を乗り越え、特に苦痛に満ちた記憶に向き合えるようになるまで、患者は精神科の医療機関に何回か入院する必要があるかもしれません。一般に、週2回以上の精神療法セッションを最低3~6年行う必要があります。

解離性同一障害 スピリチュアルな視点