普通解雇

 普通解雇とは、就業規則に定めのある解雇事由に相当する事実があって行われる解雇をいいます。

 普通解雇の場合、解雇を行うためには次の要件を全て充たすことが求められます。
 ・就業規則等に定められた解雇事由に該当すること
 ・就業規則等に定められた解雇手続きを遵守していること
 ・30日前に予告するか、解雇予告手当を支払うこと
 ・解雇理由に相当な理由があること

 解雇の手続きを完了しているかどうか確認します。
 法令に定められた解雇の手続きを完了していない解雇は、無効と判断される可能性が高くなります。労働者を解雇する場合は、就業規則等で解雇事由を明示しており、今回の解雇事由がそれらに該当していることが必要です。そして、これらに定める解雇手続き及び労働基準法第20条の定めに従い解雇を行わなければなりません。

 なお、就業規則の解雇事由に該当した場合であっても、その解雇の正当性があるかどうかについても確認する必要があります。

 

解雇事由が就業規則に規定する解雇事由に該当すること

 解雇の事由は絶対的必要記載事項(必ず記載しなければいけない事項)ですから、就業規則に必ず記載しておくことが必要です。
 その際、解雇事由を列挙し、「その他前各号に掲げる解雇事由に準ずるやむを得ない事由がある場合には解雇する」旨の包括的解雇事由を規定しておくことが、後のトラブル防止になります。

 正当な理由による解雇とは、「一般人を首肯するに足りる理由」であり普通誰がみても解雇はやむを得ないと考えられる理由ということであり、過去の裁判例では、「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理性を欠き社会通念上相当として是認することができない場合」には無効とされております。

 

 普通解雇は、以下の2つの側面から有効性が判断されます。

 (1) 客観的に合理的な理由があり、社会的にみても解雇する相当性があること

 「客観的に合理な理由」を欠く場合、および「社会通念上相当」でない場合は、解雇は無効。
 
これは、雇権乱用法理」と呼ばれ、労働契約法第16条を根拠としております。

 就業規則の解雇事由に該当する行為を行っても、使用者はどうしてそのような行為をしたのかについて検討し、それについて是正努力をしたがなお改善されない場合に、はじめて解雇することが出来ます。

  「客観的に合理な理由」とは、下記のいずれかを満たしていること
  ・労務提供義務違反
  ・秩序・利益維持義務違反
  ・誠実配慮の義務違反

 「社会通念上相当」とは、下記のいずれをも満たしていること
  ・程度が重大であること
  ・他に解雇回避手段がないこと
  ・情状酌量すべき事情を加味していること
    反省や改善の見込の有無・改善の機会を与えていたか
    平素の勤務態度はどうであったか

(2) 使用者の解雇回避努力義務

 使用者の誠実配慮の義務(信義則上の義務)を根拠としております。a0070_000248

 使用者には、解雇回避努力義務(ここでは教育・指導を通じて勤務態度不良行為を回避させること)が課されており、使用者の教育・指導による改善更正の努力にも関わらず従業員の態度が改まらなかった場合に限り、解雇が正当化されます。
 なお、使用者の教育・指導の具体的内容とは、面接や口頭による注意・指導や始末書などの軽い懲戒処分による事前の警告などです。

 「従業員の改善更正が不可能な場合」や「著しく困難であることが明らかな場合」、あるいは「従業員の義務違反の程度が重大な場合」に限り、使用者の改善更正の努力措置は不要となります。

 採用の際に、即戦力として高い技術や能力を評価され、特定の職務やポストに就いた場合で、「その期待の技術や能力を有してはいなかった場合」や「当該職務やポストが廃止された場合」は、争いが起こった際には、比較的容易に普通解雇の正当性が認められます。

 配置転換異動等その労働者の能力に応じた職場・職種への転換を行ったかどうか。

 なお、新卒で入社した場合には、この解雇回避努力が要求されますが、中途採用で職種限定・一定の能力を有していることが前提で採用された場合には、解雇回避努力が一般的に要求されません。

 大企業の場合は、職種がいろいろあるので職種転換努力が強く求められますが、職種が少ない零細企業では、職種転換努力は要求されることはほとんどありません。

 

普通解雇 妥当性の基準

 普通解雇とは、労働者の労働能力や労働適格性の欠如、勤務態度不良、非違行為など、労働者に起因する理由により使用者側の都合としてする解雇のことをいいます。

(普通解雇の妥当性の基準)

 解雇は、就業規則の絶対的記載事項です。解雇の理由を就業規則に明定していなければなりません。

 普通解雇の妥当性を判断する基準として、まず、解雇理由が客観的に見て合理性があるかを確認します。

 具体的には、解雇に際して、
 (1) 解雇理由が存在するか
 (2) その解雇理由が解雇に値するほどのものか
という点を審査します。これを合理的限定解釈といいます。

 次に、解雇理由に客観的合理性が認められる場合に、さらに社会的相当性があるかを確認します。
 具体的には、
 ① 被解雇者の行為が本当に解雇に値するものか
 ② 同一社内における同様のケースの処分状況と比較して均衡が取れているか
 ③ 労働者の勤続年数や生活状況、転職の可能性の有無
という点を審査します。

 

具体的事由ごとの客観的合理性

試用期間中の解雇  

 「試用期間中は前期のようなこれを置く趣旨に鑑み、右適格性等の判定にあたって使用者に就業規則等に定められた解雇事由や解雇手続等に必ずしも拘束されない、いっそう広い裁量・判断権(かような広い裁量・判断権を含む解雇権)が留保されているものと解するのが相当」(静岡宇部コンクリート工業事件 東京高裁 48.03.23)

 

○私傷病を理由とする解雇

(1) 休職期間を設けている場合
 傷病により労務の提供ができないというだけでは、解雇する事はできません。
(2) 傷病の程度
 当該傷病が労務提供を完全に困難にしている程度に重大でなければ解雇はできません。
(3) 傷病回復の可能性
 現在傷病により労務の提供が困難であっても、近い将来回復する見込みがあるときは、解雇は否定されます。
(4) 配置転換の可能性
 配置転換が可能な場合は、それを検討しなければなりません。
(5) 傷病の原因
 傷病の原因の一端が会社にもあると認められる場合は、その点を考慮しなければなりません。

(心身の故障による解雇)
 「症状固定の状態(治療を継続しても医療効果これ以上期待出来ない状態)になれば、再就職の困難さという点についてもそれ以上の改善の見込が失われるのであるから、症状固定時以降は、再就職可能性の回復を期待して解雇を一般的に禁止すべき理由はなくなる。」(名古屋埠頭事件 名古屋地裁 平2.4.27

(休職後の解雇)
 「直ちに従前業務に復帰出来ない場合でも、比較的短期間で復帰することが可能である場合には、休業又は休職に至る事情、使用者の規模、業種、労働者の配置等の実情から見て、短期間の復帰準備期間を提供したり、教育的措置をとるなどの信義則上求められる。」(全日空空輸事件 大阪地裁 平11.10.8

 

勤務成績不良、能力不足による解雇

(1) 勤務成績不良、職務能力欠如、勤務態度不良の事実
 勤務成績不良や職務能力欠如、勤務態度不良の事実があるというだけでは、解雇理由とはなりえません。会社の該当労働者への注意や指導・教育等の頻度やその内容等を検討して、会社のその労働者への指導や教育等が十分行われたにも拘らず、なお労働者の固有の性格や能力レベルにより改善の見込みがないと判断されるに至って、初めてこれらを理由とする解雇が有効と認められることになります。

(2) 勤務成績不良の程度・職務能力欠如の程度
 業務への業務への影響がさほどでもないときは、客観的合理性があるとはいえません。

(3) 勤務成績不良・職務能力欠如の評価基準の正当性
 人事考課が絶対評価ではなく、相対評価の場合における下位順位に位置する者の解雇は客観的合理性を否定されるようです。

(4) 勤務成績不良者・勤務能力欠如者に対する注意、指導、教育等
 その者の成績なり能力なりが向上するような、教育等の配慮が十分になされていたかどうか。成績、能力向上の機会を付与し、その付与した事実を客観的証拠として残しておく必要があります。

 (5) 配置転換
 当該職務が不適格でも、企業内の他の職務への配置転換が可能な場合は、これを検討する必要があります。

(6) 被解雇者の職務上の地位
 能力や経験を買われて相応の地位に就いた者や職務に就いた者に対する能力評価は一般より厳しい場合でも認められる傾向にあります。会社が期待したほどの能力を発揮できなかった者に対して、十分な教育の機会を付与せず、解雇した場合でも、そのような解雇は認められる傾向にあります(メディア・テクニカル事件 東京地裁 平7.7.7)。

(人事本部長としての能力不足による解雇)

 人事本部長という地位を特定した契約であって(中略)、人事本部長として不適格と判断した場合に、あらためて右規則10条に則り異なる職位・職種への適格性を判定し、当該部署への配置転換等を命ずべき義務を負うものではないと解するのが相当(フォード自動車事件 東京高裁 昭59.3.30)。                                 

(人事考課を根拠とする解雇)

 労働能力が劣り、向上の見込がない』というのは、右のような相対評価を前提とするものと解するものは相当ではない。すでに述べたように、他の解雇事由との比較においても、右解雇事由は、極めて限定的に解さなければならないのであって、常に相対的に考課順位が低い者の解雇を許容するものと解することが出来ないからである(セガ・エンタープライゼズ事件 東京高裁 平11.10.15)。

 

○労働義務の不履行による解雇

 忠実義務違反

(1) 使用者に実害を与えていない場合
 例えば、使用者の不正に対する内部告発等による場合は、これを理由とする解雇は無効です。

(2) 虚偽の内容による会社批判の場合
 これを理由とする解雇は有効となりえます。

(労働者の責に帰すべき事由と解雇)  

 「原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」 「出勤不良又は出欠常ならず、数回に亘って注意を受けても改めない場合」(昭23.11.11 基発1637号、昭31.3.1発111号)

(多数回に及ぶ遅刻と解雇)

  「回数にして60回、累計時間にして6630分(110時間30分)に及ぶ遅刻」(日産自動車事件 東京高裁 61.11.28

 

○組織不適応・業務適正の欠如による解雇

 (業務適正の欠如と解雇)

 「職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合において(中略)、特定の業務について労務の提供が十全には出来ないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易度等に照らして、他の業務について労務の提供をすることが出来、かつ、その提供を申し出ているならば、(業務適正がないことを理由とする解雇は無効)」(片山組事件 最高裁 平10.4.9

 

○職務命令違反を理由とする解雇

(1) 職務命令が違法・不当な場合
 職務命令が違法・不当な場合、その命令に違反したとしても、その命令違反を理由とする解雇はできません。例えば、労働契約にはない業務命令に対する違反を理由とする解雇は無効となります。

(2) 業務命令違反に合理的理由がある場合
 業務命令違反に合理的理由がある場合、会社が当該労働者に業務命令の内容を十分に説明していない場合、会社の業務に著しい支障が出るような事実がない場合は、解雇の効力が否定される場合があります。

(3) 業務命令違反による解雇が人員整理の一環としてなされる場合
 整理解雇の判断基準により、当該解雇が検討されることになります。

(業務上の指示命令違反による解雇)       

 「命令を無視し、違反行為を行おうとしたため、職場規律維持の上で支障が少ない業務へ転換したことは職場管理上やむを得ない措置ということが出来、これが殊更被上告人に対して不利益を課するという違法、不当な目的でされたものであるとは認められない。」(国鉄鹿児島自動車営業所事件 最高裁 平5.6.11

  残業を拒んだだけで解雇ができるかといえば、過去に何度も注意をし、懲戒処分を行い、会社に著しい損害を与えたような場合を除き、解雇を行うのは難しいといえます。

(転勤命令拒否と解雇)  

 「転勤命令が他の不当な動機、目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではない。」(東亜ペイント事件 最高裁 昭6.17.14)

出向命令拒否と解雇)

 「採用の際に会社の出向制度を理解し、将来における関連会社等への出向について予め包括的同意を被申請人会社に与えたもの(中略)、会社は申請人に関する将来の他の二社のうちのいずれかへの出向を命ずる権限を取得したもの。」(興和事件 名古屋地裁 昭55.3.26

 

職務上の不正行為

(1) 会社に損害を与えた場合Fotolia_71513492_XS

 その労働者の会社内での職務、地位、会社の業務内容、不正行為の内容・態様・動機、被害の程度、反省の有無等を考慮して、特に被害の弁済のある場合は、解雇が否定されることがあります。

・東栄精機事件(大阪地裁 平8.9.11)
 無断でコンピューターデータを抜き取り、メモリーを消去し、加工用テープを持ち帰った事例。本件は懲戒解雇事由が認められる場合であったが、通常解雇として解雇された。

 

○風紀びん乱

(風紀びん乱と普通解雇)

 「被告会社従業員の風紀に対する不信感を与え、現に地元学校からの就職希望者が減少する結果となったり、貸切バスの運転手や車掌が乗客から本件非行にかこつけて揶揄され、(中略)、本件の問題を契機にして車掌の一員であるAを退職の余儀なきに至らしめ(中略)、他の車掌に超過勤務あるいは休日出勤させ、そのための手当を支給せざるを得なかった(中略)、本件非行によって被告会社の体面を汚し、かつ、損害を与えたものであることが明らかで(中略)、被告会社のなした通常解雇処分は有効。」(長野電鉄事件 長野地裁 昭45.3.24

 

○暴力・暴言

(1) 暴力・暴言が突発的な場合的
 過去において暴力暴言の事実がなく突発的な喧嘩に過ぎないような場合は、その暴力・暴言が粗暴に過ぎるとしても、それによる解雇は無効となることが多いようです。

(2) 暴力・暴言を繰り返している場合
 その内容、態様、動機、結果、業務との関連性、業務阻害の有無や程度、反省や謝罪の有無、損害を与えた場合の示談の有無等を考慮し、暴力・暴行が治らない場合は、解雇は有効となりえます。

 

普通解雇理由の並存

 個々の解雇理由が並存して、それら一つ一つは解雇のまで至らない場合でも、総合的に見て労使の信頼関係が破壊されたということが十分いえる場合は、解雇理由が並存することを理由としてする解雇は有効となります。

 

(判例)

エース損害保険事件 東京地裁決定(平成13年8月10日)
大曲郵便局事件 最高裁第1小(平成16.3.25)
杵島炭坑事件 福岡高裁判決(昭和35年9月28日)
北沢産業事件 東京地裁判決(平成19年9月18日)
敬愛学園事件 最高裁第1小(平成6.9.8)
国鉄レッド・パージ事件 東京地判決(昭和45年6月30日)
生活共同組合メセタ事件 最高裁第2小(平成11・6・11)
大晃産業事件 大阪地裁判決(昭和60年11月26日)
電電公社千代田丸事件 最高裁第3小(昭和43・12・24)
フォード自動車事件 東京地方裁判所(昭和57年2月25日)

 

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