代謝疾患
代謝疾患による障害
食事をして体内に取り入れた食物は代謝され身体やエネルギーに変換され、その過程において合成と分解が平衡を保ちますが、この平衡が崩れた状態を代謝疾患という。
糖尿病とは、膵臓で作られるインスリンとホルモンの働きが何らかの原因で悪くなると、食物から摂取された栄養が分解されてブドウ糖となったものがうまく細胞に取り込まれず、ブドウ糖が血液の中に残ったままになり、結果として血糖値が高くなった状態をいう。
糖尿病には2種類があり、体質によって糖尿病になる「1型糖尿病」と生活習慣病と言われる「2型糖尿病」に分かれる。ほとんどの糖尿病患者は「2型糖尿病」に分類される。
1型糖尿病
インスリンがほとんど分泌されません。
自己免疫疾患の1つであり、遺伝的要因が深く関係しています。 すい臓のランゲルハンス島が炎症をおこす原因は、多くの場合自己免疫のメカニズムです。 体内に侵入した病原体を攻撃して排除する働きを免疫と言いますが、この免疫の作用が誤動作をおこして自らの体の組織を攻撃してしまう現象が自己免疫です。つまり、ランゲルハンス島が体外から侵入してきた病原体と誤認されて攻撃をうけるわけです。 最終的にはランゲルハンス島の機能が廃絶してしまい、インスリンを補充しなくては生存できないインスリン依存型糖尿病になります。ランゲルハンス島の炎症は若年者や子供でも起こり得るため、若年で発症する糖尿病の中で1型糖尿病は大きなウエイトを占めています。
2型糖尿病
インスリンの分泌や作用が低下して起こる糖尿病です。遺伝的要因に加えて生活習慣が大きく関わっているといわれています。
日本人の糖尿病のほとんどがこの2型糖尿病です。
2型糖尿病は、1型糖尿病に比べ食べすぎや飲みすぎ、運動不足、喫煙、ストレスなど、悪しき生活習慣が最大の危険因子となります。中年以降の比較的高齢の肥満者に発症しやすいタイプです。 2型糖尿病では、一般的にはインスリン非依存型の病像を呈し、食事療法と運動療法が治療の基本となります。食事療法、運動療法でうまくコントロールできない場合には、第二段階としてスルフォニル尿素(SU)剤などによる薬物療法が行われ、それでもコントロールが難しい場合にはインスリン療法が行われることもあります。 2型糖尿病は糖尿病になりやすい遺伝性の性質と、食べ過ぎや運動不足といった生活習慣の乱れから、インスリンの働きが低下し、インスリンの働きが悪くなると血糖値が高くなって2型糖尿病を発症してしまいます。
糖尿病の危険因子
過食
多量の飲酒
運動不足
喫煙
ストレス
高血圧
脂質異常症
肥満
遺伝的要因
糖尿病の危険因子の多くは、生活習慣を改善することで減らすことができます。血糖値が基準値よりも高かった人は、食べる量や食べ方などの食生活を見直し、適度な運動や禁煙、ストレス解消などを心がけ、血糖値の上昇を防ぐ生活習慣を実践しましょう。 また、健診で高血圧や脂質異常症などを指摘されている人は、これらの病気の危険因子を減らすとともに、病気を正しく治療することも大切です。
治療
糖尿病の治療は食事療法、運動療法、患者本人への教育、そして多くの場合、薬物療法が行われます。糖尿病の人は血糖値を厳しくコントロールしていれば、合併症が起こりにくくなります。糖尿病治療の目標は、血糖値をできる限り正常範囲に維持することです。高血圧と高コレステロールの治療は糖尿病の合併症の予防にもなります。低用量のアスピリンを毎日服用することも役に立ちます。
1型糖尿病で健康的な体重を維持できる人は、大量のインスリンを必要とせずにすみます。2型糖尿病では健康的な体重を維持することで薬物療法の必要がなくなります。食事管理や運動による減量がうまくいかない人は、減量を補助する薬を使用するか、胃の縮小手術を受ける場合があります。
一般的に、糖尿病の人は甘いものを食べすぎてはいけません。また、食事は間隔を空けすぎず、規則的にとるようにします。糖尿病の人は血液中のコレステロール値が高くなる傾向があるので、食事の飽和脂肪の量を制限することが大切です。血液中のコレステロール値を制御する薬も必要になることがあります。
適度な運動も体重のコントロールに役立ち、血糖値を正常範囲に維持します。運動中は血糖値が低下するため、低血糖の症状に注意しなければなりません。長時間の運動中は、糖分を含む食べものを少量だけ食べたり、インスリンの投与量を減らしたり、あるいは両方で対処します。糖尿病の人は禁煙し、アルコールも適量に抑えるようにします。
糖尿病性ケトアシドーシスは昏睡や死亡に至ることがある緊急事態です。通常、集中治療室への入院が必要です。大量の水分と、過剰な排尿によって失われたナトリウム、カリウム、塩素、リン酸などの電解質を点滴で補給します。一般的に、インスリンは速く作用し量を頻繁に調整できるよう静脈内投与します。血糖値、ケトン、電解質は数時間ごとに測定し、血液の酸性度も測定します。酸性度が高ければ、追加の処置で低下させる必要があります。血糖値を制御し、電解質を補充すれば、体内の酸-塩基平衡は正常に戻ります。
非ケトン性高血糖性高浸透圧性昏睡では、糖尿病性ケトアシドーシスと同様の治療を行います。この場合も水分と電解質を補給しなければなりません。脳に水分が急激に移行しないように、血糖値は徐々に正常値に戻さなければなりません。血糖値は糖尿病性ケトアシドーシスの場合より容易にコントロールされ、血液の酸性度も深刻にはなりません。
インスリン補充療法
1型糖尿病の人はほぼ全員、インスリン療法が必要です。2型糖尿病でも同様に多くの人がインスリン療法を必要とします。インスリンは注射します。胃で破壊されるため、今のところ経口投与はできません。インスリンの鼻腔スプレーも開発されましたが、製造中止になりました。経口で投与するものや皮膚に塗るものなど、インスリンの新しい剤形が試用されています。
インスリンは通常、腕、太もも、腹壁の皮下の脂肪層に注射します。使われる小型注射器は非常に針が細く、注射をしてもほとんど痛みを感じません。注射針に耐えられない人はインスリンを皮下に送りこむエアポンプを使用します。インスリンペンはインスリン入りのカートリッジを備えられるため携帯に便利で、特に1日数回、自宅以外でインスリン注射が必要な人には有用です。インスリンポンプを使う方法もあります。この装置は、皮膚に刺したままにした小さい針からインスリンを連続的に送りこみます。プログラムされた時間にインスリンを体内に補充できるほか、必要に応じて注入することも可能です。このポンプによる補充は、体内でインスリンがつくられる方法によく似ています。ポンプを使うと良好に血糖をコントロールできる人もいますが、ポンプの装着が煩わしいという人や、針を刺した部位がただれる人もいます。
インスリンには3種類の基本型があり、作用が現れる速さと持続時間によって区別されます。
レギュラーインスリンなどの速効型インスリンは、素早く短時間作用します。レギュラーインスリンは投与後2~4時間で最大の活性を示し、6~8時間持続します。リスプロ、アスパルト、グルリジンというインスリンはいずれも特別なタイプのレギュラーインスリンで、最も速効性が高く、約1時間で最大の活性を示し、3~⑤時間持続します。速効型インスリンは毎日数回の注射を行う患者にしばしば使用され、食前15~20分あるいは食後すぐに注射されます。
中間型インスリン(インスリン亜鉛懸濁液、レンテあるいはイソフェンインスリン懸濁液など)は1~3時間で効きはじめ、6~10時間後に最大の活性を示し、18~26時間持続します。この種類のインスリンは朝に注射して1日の前半分を供給するか、夕方使用して夜間のインスリンを供給します。
長時間作用型インスリン(継続型インスリン亜鉛懸濁液、ウルトラレンテ、グラルギンなど)は、最初の数時間はほとんど作用がありませんが、使用する種類によって20~36時間効果を持続します。
インスリン製剤は、数カ月間は室温で安定しているので、持ち運びができ、職場や旅行にも携帯できます。ただし、インスリンは高温または低温下で保存してはいけません。
インスリンの選択は複雑です。どのインスリンが最適かを決める際には、以下の要素を考慮します。
血糖値のチェックとインスリン量の調節が容易にできるか。
日々の活動パターンは多様か。
この病気についてどれだけ学び、理解しているか。
1日の中で、また日々の血糖値はどれだけ安定しているか。
最も簡単な処方は、中間型インスリンを1日1回注射することです。しかしこの処方は血糖値を最小限コントロールするだけなので、これで最適なコントロールができることはまれです。朝、1回目の注射に速効型と中間型の二つのインスリンを組み合わせて使用すれば、より厳密なコントロールが可能です。この組合せ方には知識が必要ですが、血糖値をより細かく調節することができます。夕食時か就寝時に、2回目の注射として片方または両方のインスリンを投与します。最も厳密に血糖値をコントロールするには、速効型と中間型のインスリンを朝晩注射し、さらに日中に速効型インスリンを数回注射します。必要量の変化に応じてインスリンの量を調節します。1日のさまざまな時間に血糖値を測定しておくと、調節方法を決定する際の参考になります。この処方は糖尿病の知識と治療上の細かい注意が必要ですが、インスリン治療を受けているほとんどの人(特に1型糖尿病の人)にとって最良の方法と考えられます。
人によって、特に高齢者では毎日同じ量のインスリンを注射しますが、その他の人では食事、運動、血糖値のパターンで毎日のインスリン量を調節します。インスリン必要量は体重の変化、感情的ストレス、あるいは病気(特に感染症)によっても変化します。
長期間投与を続けると、インスリン抵抗性が現れる人がいます。注射されるインスリンは、体がつくるものと完全に同じではないため、このインスリンに対して抗体ができる場合があります。最近のインスリン製剤ではこうした抗体の発生は少なくなっていますが、これらの抗体はインスリンの作用を妨げるため、非常に多量のインスリンが必要になります。
インスリン注射は皮膚や皮下組織に影響を与えます。アレルギー反応はまれですが、痛みやほてりが生じ、それに続いて発赤、かゆみ、注射部位の周囲が数時間腫れることがあります。より多くみられる影響として、注射によって脂肪が蓄積してこぶのようにふくらんだり、脂肪が破壊され皮膚にくぼみができたりします。多くの人は注射する部位を、ある日は太ももに、次の日は腹部、次は腕というように変えてこうした問題が起きないようにしています。
インスリン補充療法
経口血糖降下薬
2型糖尿病では、経口血糖降下薬で血糖値を十分に下げることができます。しかし、1型糖尿病では効果がありません。経口血糖降下薬にはいくつかタイプがあります。スルホニル尿素薬(グリブリドなど)とグリニド系インスリン分泌促進薬(レパグリニドなど)は、膵臓のインスリン産生を刺激します(インスリン分泌促進薬)。ビグアナイド薬(メトホルミンなど)やチアゾリジン誘導体(ロシグリタゾンなど)は、インスリンの放出には影響しませんが、体のインスリンへの反応を促進します(インスリン抵抗性改善薬)。医師はこれらの薬のいずれかを単独で、もしくはスルホニル尿素薬と組み合わせて処方します。別のタイプの薬として、アカルボースなどのグルコシダーゼ阻害薬があり、これは腸内でブドウ糖の吸収を遅らせる作用があります。
経口血糖降下薬は、2型糖尿病の人が食事と運動で血糖値を十分に下げられない場合に処方されます。薬は毎朝1回だけ飲めばよいこともありますが、1日2~3回必要なこともあります。1種類の薬で不十分な場合は、2種類以上処方されます。経口血糖降下薬で血糖値が十分に下がらない場合、インスリンを単独あるいは経口血糖降下薬と組み合わせて注射する必要があります。
糖尿病は、血液中のブドウ糖が過剰になっている状態で、インスリンはこの余分の糖を処理しようとして、一生懸命働いた結果疲れ果てている状態です。ここにさらにブドウ糖が入ってくると、仕事量が増え、さらに疲れが増してしまいます。仕事量を増やさないためには、必要最小限度の糖分の補給のみにとどめ、余っている糖を処理するようし向けなければなりません。これが基本の食事療法です。
運動療法は、細胞でのエネルギーを枯渇状態にし、ブドウ糖の取り入れの欲求を増し、インスリンの関与なしに(少ない仕事量でも)、糖が利用される状況を作ってあげることを目的とします。
薬物療法には、内服療法とインスリン治療があります。インスリンは、タンパク質のため経口では消化液・消化酵素で分解されてしまいますので、注射でしか投与できません。内服剤は、ブドウ糖の吸収を遅らせるもの、膵臓に働きインスリンの放出を刺激するもの、インスリンの利きを良くするものと種々ありますが、本来のインスリンの働きは持ち合わせておらず、間接的にインスリンの働きを助けるにすぎません。インスリン注射も含め、それぞれの使い方は、糖尿病の病型・病態により異なってきます。
糖尿病治療の基本は、食事療法と運動療法ですが、血糖コントロール状態により、内服およびインスリン注射の薬物療法が加わります。
糖尿病の治療は、合併症の発症予防と進展の抑制がその大きな目標です。言い換えれば、糖尿病合併症が発症すると、その時点で糖尿病のコントロールを良くしても、合併症自体は治りません。その時点からの合併症進展を防ぐ治療が主体となるのです。このために、血糖、体重、血圧、血中脂質などを可及的に正常値に維持することが大事になります。
血糖コントロール状態の指標と評価
指標 |
優 |
良 |
可 |
不可 |
|
不十分 |
不良 |
||||
HbA1c(NGSP)% HbA1c(JDS)% |
6.2未満 5.8未満 |
6.2~6.8 5.8~6.4 |
6.9~7.3 6.5~6.9 |
7.4~8.3 7.0~7.9 |
8.4以上 8.0以上 |
空腹時血糖値 mg/dl |
80~110未満 |
110~130未満 |
130~160未満 |
160以上 |
|
食後2時間血糖値 mg/dl |
80~140未満 |
140~180未満 |
180~220未満 |
220以上 |
*空腹時血糖値が160(mg/dl)以上、食後血糖が220(mg/dl)以上、HbA1c(NGSP)が8.4%以上に維持されると、合併症発症および進展の可能性が非常に高くなる。
障害の程度 |
障 害 の 状 態 |
1級 |
身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの
・一般状態が一般状態区分表のオに該当するもの |
2級 |
身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
・一般状態が一般状態区分表のエ又はウに該当するもの |
3級 |
身体の機能に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの
・必要なインスリン治療を行っても、なお血糖のコントロールが困難なもので、次のいずれかに該当するもの 1) 内因性のインスリン分泌が枯渇している状態で、空腹時又は随時の血清Cペプチド値が0.3ng/ml未満を示すもの、かつ、一般状態区分表のウ又はイに該当するもの 2) 意識障害により、自己回復ができない重症低血糖という無自覚性低血糖の所見が平均して月1回以上あるもの、かつ、一般状態区分表のウ又はイに該当するもの 3) 糖尿病ケトアシドーシス又は高血糖高浸透圧症候群による入院が年1回以上あるもの、かつ、一般状態区分表のウ又はイに該当するもの
・糖尿病性神経障害が長時間持続するもの |
障害手当金 |
- |
一般状態区分表
区分 |
一 般 状 態 |
ア |
無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの |
イ |
軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの (たとえば軽い家事、事務など) |
ウ |
歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの |
エ |
身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの |
オ |
身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの |
血糖が治療、服薬、日常生活規制(食事制限、運動など)によってコントロールされている場合には、認定の対象とならない。(インスリンを投与しているというだけでは認定の対象とならない。)
必要なインスリン治療を行っても、なお血糖のコントロールが困難なもので、次のいずれかに該当する場合に3級と認定される。
・内因性のインスリン分泌が枯渇している状態で、空腹時又は随時の血清Cペプチド値が0.3ng/ml未満を示すもの、かつ、一般状態区分表のウ又はイに該当するもの
・意識障害により、自己回復ができない重症低血糖という無自覚性低血糖の所見が平均して
月1回以上あるもの、かつ、一般状態区分表のウ又はイに該当するもの
・糖尿病ケトアシドーシス又は高血糖高浸透圧症候群による入院が年1回以上あるもの、かつ、一般状態区分表のウ又はイに該当するもの
ただし、検査日より前に90日以上継続して必要なインスリン治療を行っていることについて、確認のできた者に限り、認定を行うものとする。
糖尿病ケトアシドーシスは、糖尿病の高血糖性の急性代謝失調である。極度にインスリンが不足したり、コルチゾル・アドレナリンなどのインスリン拮抗ホルモンが増えると、インスリンの作用が弱まって急に発症する。インスリンが不足すると、血液中のブドウ糖を代謝できなくなり、高血糖状態になる。すると、体はその代わりに脂肪を分解してエネルギーをつくり出すようになる。このときに副産物としてつくり出されるケトン体が血液中に急に増える(高ケトン血症)ことで、血液が酸性になり(ケトアシドーシス)、体に異常が発生するという仕組みである。その多くは1型糖尿病でみられ、近頃は清涼飲料水を多飲する2型糖尿病でもみられる。
高浸透圧高血糖症候群は糖尿病の高血糖性の急性代謝失調である。
この代謝疾患は事実上糖尿病を意味するが、「痛風」などもこれに含まれる。
単なる疲れ、感覚異常は認定の対象とならない。
糖尿病の合併症 糖尿病の人の多くは長期に及ぶ合併症を経験します。
ほとんどの合併症は、血管の障害によって発生します。長期にわたって血糖値が高いと、大血管も小血管も狭くなります。それにより体の各部への血流が減少し、障害が起こります。血管の狭窄にはいくつかの原因があります。糖の複合物質が細い血管の壁に蓄積されて、血管が厚くなり血液が漏れ出します。
また、血糖値のコントロールが不十分だと、血液中の脂質レベルが上昇してアテローム動脈硬化を起こし、大血管の血流が低下します。糖尿病の人はそうでない人に比べてアテローム動脈硬化が2~6倍多く、若い年齢から起こる傾向があります。
高血糖が長時間続くと、血液の循環不良によって心臓、脳、脚、眼、腎臓、神経、皮膚に障害が現れ、狭心症、心不全、脳卒中、歩行時の脚のけいれん(跛行)、視力低下、腎不全、神経の損傷(神経障害)、皮膚の損傷などが起こります。心臓発作と脳卒中も糖尿病の人に多く発生します。
糖尿病に肥満、高血圧、脂質異常症や喫煙の動脈硬化のリスクが加わると、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化を原因とする病気を発症しやすくなる。
代謝疾患による障害の認定要領では、糖尿病の合併症として糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症などの慢性合併症があげられている。
そのほかに大血管障害、高脂血症、慢性感染症と様々な合併症がある。
糖尿病の長期合併症
組織または器官 |
起こる現象 |
合併症 |
血管 |
脂肪性物質(アテローム硬化斑)が形成され、心臓、脳、脚、陰茎の大動脈や中動脈の血流を妨げる。 小血管の血管壁は損傷を受けて組織に酸素を正常に運べなくなり、血液が漏れ出す |
血液循環の悪化により傷が治りにくくなり、心臓病、脳卒中、手足の壊疽、勃起機能障害(インポテンス)、感染症が起こる |
眼 |
網膜の毛細血管が損傷する |
視力低下、最終的に失明 |
腎臓 |
腎臓内の血管が肥厚し、 尿にタンパク質が漏れ出て、 血液は正常にろ過されない |
腎機能低下、最終的に腎不全 |
神経 |
ブドウ糖が正常に代謝されず、血液の供給が不十分なために神経が損傷する |
突然または徐々に起きる脚力の低下、 手足の感覚低下、刺すような感じ、痛み |
自律神経系 |
血圧と消化過程を制御する神経が損傷する |
血圧の変動、 ものを飲みこみにくくなる、 消化機能の異常と時折生じる下痢、 勃起障害 |
皮膚 |
皮膚への血流が不足して感覚が失われるために負傷しやすくなる |
びらん、深部まで達する感染症(糖尿病性潰瘍)、 傷が治りにくくなる |
血液 |
白血球の機能が障害される |
感染症を起こしやすくなる(特に尿路と皮膚) |
結合組織 |
ブドウ糖が正常に代謝されず、組織が肥厚または収縮する |
手根管症候群、デュピュイトラン拘縮 |
なかでも「糖尿病性網膜症」、「糖尿病性神経障害」、「糖尿病性腎症」は糖尿病特有のもので、「三大合併症」と呼ばれています。
いずれも血糖値が高い状態が続くことによって、細い血管の障害を引き起こし、発症します。
糖尿病の合併症は細い血管だけでなく、太い動脈にもおよびます。糖尿病は動脈硬化の危険因子の1つとしても知られており、また、高血圧や脂質異常症、肥満などを合併しやすく、これらの病気と相まって動脈硬化を進行させます。糖尿病のある人は、そうでない人よりも10~20年、動脈硬化が早く進むともいわれており、その結果、脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患のリスクが高まります。
糖尿病の合併症は、
・合併症を併発しているか否か、またその病状はどうであるか ・血糖コントロールの状態、治療と病状の経過 ・日常生活の状態 を考慮して総合的に認定される。
糖尿病 と 糖尿病性壊疽(糖尿病性神経障害 糖尿病性動脈閉塞症)
相当因果関係「あり」とされる。
糖尿病 と 洞機能不全 相当因果関係「なし」
糖尿病 と 脳出血 相当因果関係「なし」
糖尿病 と 脳梗塞 相当因果関係「なし」
糖尿病が原因で長い期間を経てから人工透析が必要になることも珍しくはない。この場合も、糖尿病と人工透析は因果関係があるとして扱われる。糖尿病で最初に医師に診察を受けた日を初診日として扱う。
糖尿病の合併症で「糖尿病性網膜症」「糖尿病性神経障害」「糖尿病性腎症」などを発症した場合は、それぞれの病気の認定の基準によって障害認定される。
合併症が有る場合は1~2級に認定される可能性があります。
糖尿病と他の内科疾患との総合認定・・・ 内科的疾患が2つ以上ある場合は、併合認定でなく総合的に認定する。
障害年金上、「糖尿病」とその後の「慢性腎不全」には因果関係がある傷病とされます。そのため慢性腎不全の初診日とは糖尿病が判明した時点となります。
会社の健康診断で尿蛋白の陽性を指摘された時は、再検査で医師の診断を受けた日が初診日となります。
糖尿病など腎疾患は長い時間をかけて悪化する事が多いため、数十年前の初診日を特定するために手間取るケースが多く見受けられます。 そうした時には、健康診断の控えなどが初診を示す有力な手掛かりとなります。
障害年金には「社会的治癒」という考え方があります。例えば、20歳前の学生時代などに尿検査で異常を指摘されたものの、その後は長期に渡り通常通りの生活をし、厚生年金加入中に再度指摘されて、その後「慢性腎不全」に移行したという場合です。
20歳前に指摘された、ということでそのまま請求すれば障害基礎年金の請求になりますが、この場合は社会的治癒に該当する可能性があり、障害厚生年金での請求ができる可能性があります。
尿検査で異常所見が出たことだけで、初診日とするのは不適当です。
糖尿病性腎症
腎臓は、身体の中でいらなくなった老廃物を含む血液を濾過して、老廃物を尿として体外に排出するとともに、きれいになった血液を体内に戻すという極めて重要な働きをしている。この血液を濾過する役割をしていのが腎臓の糸球体と呼ばれる場所である。この糸球体は毛細血管の塊でできており、高血糖が長期間続くと、網膜と同じく血管障害や膜に変化が起きてきて濾過機構が破綻してしまう。この状態を糖尿病性腎症という。
糸球体が担っている濾過機能は、正常の状態においては身体に必要なタンパク質などが外に漏れでないように調節されています。しかし腎症に陥った状況下では、大事なタンパク質などが尿として身体の外に漏れ出てしまうのです。これが蛋白尿で、蛋白尿が多量になりますと血液中の蛋白濃度が下がり、むくみ(浮腫)や血圧上昇などを招き、老廃物の排出低下も相俟って腎不全や尿毒症に移行してしまうのです。
腎臓機能の障害を引き起こし、タンパク尿やむくみが現れます。進行すると慢性腎不全に陥り、人工透析が必要になることもあります。
糖尿病腎症の病期とその対策 腎臓は、眼底検査で把握することができる網膜症とは異なり、身体の外から直接異常がないかどうかを判断をすることが困難です。従って、よほど重症にならないと症状は出現してきません。高血糖が続くと、腎臓にはごく初期段階で、微量のアルブミンという蛋白(尿中微量アルブミン)が出現します。この時期が腎症の早期の段階ですので、この時点で血糖コントロールを厳格にすることが、悪化をくい止めるための最良の手段となります。それでもなお、血糖コントロールの不良状態が続きますと悪化の一途を辿るわけです。
糖尿病性腎症病期分類
病期 |
尿蛋白 (アルブミン) |
対策 |
第1期 (腎症前期) |
正常 |
血糖コントロール |
第2期 (早期腎症) |
微量アルブミン尿 |
厳格な血糖コントロール 降圧療法 |
第3期A (顕性腎症前期) |
持続性蛋白尿 |
厳格な血糖コントロール 降圧療法・蛋白制限食 |
第3期B (顕性腎症後期) |
持続性蛋白尿 |
降圧療法・低蛋白食 |
第4期 (腎不全期) |
持続性蛋白尿 |
降圧療法・低蛋白食 透析療法導入 |
第5期 (透析療法期) |
透析療法中 |
透析療法・腎移植 |
糖尿病性網膜症
網膜には動・静脈血管や光、色を感じる神経細胞が多数存在するが、網膜の血管は細いので、血液中のブドウ糖が過剰な状態(高血糖)が続くと損傷を受け、徐々に血管がつまったり変形したり、出血を起こすようになる。これが糖尿病性網膜症である。糖尿病を発症してから、数年から数十年後にこの病気を発症する。
糖尿病は、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの量が不足したり、働きが悪くなったりして起こります。インスリンは、食事から得たブドウ糖を全身の細胞に取り込み、活用させる際に必要なホルモンです。その作用が低下すると、血液中のブドウ糖が細胞に取り込まれなくなり、高血糖の状態が続きます。
高血糖状態の血液は、全身にさまざまな障害を起こします。網膜の血管で障害が起こったものが糖尿病網膜症で、糖尿病腎症、糖尿病神経障害とともに糖尿病三大合併症の一つとなっています。糖尿病網膜症は、糖尿病患者の約40%で見られます。
眼底の血管の障害を引き起こし、ものが見えにくくなります。ひどくなると失明することもあります。
糖尿病性網膜症は糖尿病の合併症である。糖尿病と糖尿病性網膜症は、相当因果関係「あり」とされている。糖尿病がなかったならば、糖尿病性網膜症が起こらなかったであろうと認められるからである。
高血糖状態の血液は全身にさまざまな障害を起こす。網膜の血管で障害が起こったものが糖尿病網膜症で、糖尿病腎症、糖尿病神経障害とともに糖尿病三大合併症の一つである。糖尿病網膜症は、糖尿病患者の約40%で見られる。
糖尿病と糖尿病性網膜症は、相当因果関係「あり」とされております。糖尿病がなかったならば、糖尿病性網膜症が起こらなかったであろうと認められるからです。
糖尿病性網膜症の場合、糖尿病における初めて医師の診断を受けた日が初診日となります。
糖尿病性網膜症は、無自覚のまま視野の欠損が進行している場合があります。視力と視野の両方が著しく低下してしまっている場合には、併合認定で等級が上がる可能性もあります。
糖尿病性網膜症を合併したものの程度は、「眼の障害」の基準により認定する。眼の障害用診断書が必要になる。
糖尿病性動脈硬化症
動脈硬化症は、動脈の内壁に白血球や平滑筋細胞が集まり、そこにコレステロールなどの脂質が蓄積して壁が厚く硬くなって、内腔すなわち血液の通路が狭くなり血液が流れにくくなる病気である。脳の血管では脳梗塞、心臓の冠動脈では狭心症や心筋梗塞、足の血管では閉塞性動脈硬化症という病気の原因になる。動脈硬化症は糖尿病でなくても起こるが、糖尿病になると非常に起こりやすく、狭心症や心筋梗塞の頻度は糖尿病でない人に比べて2〜4倍であるといわれている。
心筋梗塞を起こした場合にも、糖尿病であると心筋梗塞からの回復が悪く、死亡することが多い。
動脈硬化は突然に起こるものではなく、健康とされている人でも年齢とともに動脈の硬化は少しずつ進行していくものですが、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)、高血圧であるとその進行が著しく促進されます。糖尿病は、血糖値が高いこと(高血糖は血管障害の原因になる)に加えて脂質異常症や高血圧を合併しやすいので、とくに重要な原因となります。
動脈硬化はかなり進行するまで症状は現れません。血管が非常に細くなり血液の供給が不足して、脳梗塞、狭心症、心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症を起こして初めて、それぞれの症状が現れます。脳梗塞は突然に麻痺を起こしたり意識を失ったりしてそのまま死に至ることもありますが、その前に、一時的に意識を失う一過性脳虚血発作を起こすこともあります。狭心症や心筋梗塞の症状は左前胸部の締め付けられるような痛みが特徴ですが、のどやみぞおち、あるいは腕の痛みとして現れることもあります。狭心症と心筋梗塞の違いは血流が完全に途絶えるかどうかです。狭心症は安静やニトログリセリンの服用で回復しますが、心筋梗塞はこれらの処置で症状が軽減しない、より重篤なものと考えてよいでしょう。閉塞性動脈硬化症は、間欠性跛行(歩いているうちに足が痛くなってきて歩けなくなり、しばらく休むとよくなるという状態を繰り返す)や足の指先の冷感、蒼白で気づきますが、ひどくなると足の一部が腐ったようになります。
治療の方法 動脈硬化症は予防が第一で、そのためには血糖、血中脂質(コレステロールやトリグリセリド)、血圧の厳重な管理が必要です。血糖はヘモグロビンA1C(HbA1C)を6.5未満に、コレステロールは200mgdl未満(LDLコレステロールでは120mgdl未満)、トリグリセリドは150mgdl未満、血圧は130mmHg未満を目標とします。十分な血流が保てなくなった場合は、血管にカテーテルを入れて広げたり、ほかの血管とつなぐバイパス手術をすることもあります。
運動障害を生じているものは、「肢体の障害」の認定要領により認定する。糖尿病性動脈閉塞症を合併している場合は、肢体の障害の診断書が必要になる。
糖尿病性神経障害
糖尿病性神経障害は合併症の中で最も早期に出現するものである。糖尿病による高血糖によ
り、神経が変性したり、毛細血管の障害で血流が低下することなどで生じる。
末梢神経の障害を引き起こし、全身にさまざまな症状をもたらします。足のしびれや痛みで始まることが多く、ひどくなると足の神経が麻痺します。最悪の場合、壊疽を起こし、足の切断を余儀なくされることもあります。
糖尿病神経障害は大きく末梢神経障害と自律神経障害に分けられる。
末梢神経障害は手や足の先がジンジン したり、しびれや痛みの症状がみられる。さらに症状が進行すると、運動神経にも影響が出始め、筋肉に力が入りにくくなったり、顔面麻痺が現れるといった症状がみられる。また、心筋梗塞を引き起こすこともあり、命に関わることもある。
激痛、著明な知見の障害、重度の自律神経症状等があるものは、「神経系統の障害」の認定要領により認定する。
糖尿病性神経障害が長時間持続するものは3級と認定する。