賃金の差別的取扱いの禁止

 使用者が労働者に対して支払う賃金を決定する場合には、守らなければならないルールがいくつかあります。

 労働基準法第3条では、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金労働時間、その他労働条件について、差別的取扱いをしてはならないとあります。

 労働者が女性であることのみを理由として、或いは、社会通念として又は当該事業場において、女性労働者が一般的又は平均的に能率が悪いこと、勤続年数が短いこと、主たる生計の維持者でないこと等を理由として、賃金について男性と差別的取扱をすること男女「同一賃金の原則」違反となります(労働基準法第4条)。

 あくまでも同一の能力・同一の業務等で男性と女性で賃金に差をつけることを禁じています。職務、能率、技能、年齢、勤続年数等によって、賃金に個人差に違いがあるのは当然のことで、ここでの差別的取扱いには当たりません。

 しかし、これらが同一である場合、男性は月給制、女性は日給制とし、労働日数の同じ女性の賃金を男性より少なくすることは「同一賃金の原則」違反となります。

 差別的取扱は女性を不利に取り扱う場合だけでなく、有利に取り扱う場合も含みます

 実質的に正社員と同様の時間と業務を担当している準社員的なパ-トなどの従業員については、正社員との賃金の差額の付け方に注意が必要です。

 丸子警報器事件(長野地裁上田支部判決 平成8.3.15)では、パートの賃金が同じ勤続年数の正社員の8割以下となるときは、違法となるとして、その限度での賃金と退職金の差額の賠償を認めました。

 従来、「通常の労働者と同様の就業の実態にある」労働者については、「通常の労働者としてふさわしい処遇をするよう努める」とされていた(平5.12.1労告118号)、いわゆる疑似パ―トに関しての判決であって、パ―トなど一般に直ちに適用されるものではありません。しかし、努力義務の対象に過ぎなかったものが、2割の格差を超えれば、月例賃金のみならず退職金についても違法とされるとの判断の重みには大きなものがあります。積極的に、正社員への登用等の処遇の改善を伴ないつつ、正社員との均衡を考慮した雇用管理を行っていくことが必要です。

 

  労働安全衛生法第66条の規定による健康診断の結果に基づいて使用者が労働時間を短縮させて労働させたときは、労働の提供がなかった限度において賃金を支払わなくても差し支えない。(昭和23年10月21日 基発第1529号、昭和63年3月14日 基発第150号)

 

(判例)

秋田県立農業短期大学事件 仙台高秋田支部判決(平成10年12月10日)
石崎本店事件 広島地判決(平成8年8月7日)
内山工業事件 岡山地裁判決(平成13年5月23日)
兼松事件 東京高裁判決(平成10年1月31日)
河北新報社事件 仙台地裁判決(昭和58年12月28日)
京ガス事件 京都地裁判決 控訴係争中(平成13年9月20日)
塩野義製薬事件 大阪地裁判決(平成11年7月28日)
芝信用金庫事件 東京高裁(平成12・12・22)
社会保険診療報酬支払基金事件 東京地裁(平成2・7・4)
シャープエレクトロニクスマーケティング事件 大阪地裁判決(平成12年2月23日)
商工組合中央金庫(男女差別)事件 大阪地裁判決(平成12年11月20日)
昭和シェル石油(賃金差別)事件 東京地裁判決(平成15年1月29日)
住友化学工業事件 大阪地裁判決(平成13年3月28日)
鉄鋼連盟事件 東京地裁判決(昭和61年12月4日)
日産自動車事件(昭56) 最高裁第3小(昭和56・3・24)
ニッセイテック事件 大阪地裁決定(昭和59年2月2日)
野村證券(男女差別)事件 東京地裁判決(平成14年2月20日)

 

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