過労死・過労自殺の労災認定基準

 長時間労働等の働きすぎや、仕事上の強いストレス等が原因で心や身体の健康を損なってしまい、ひどい場合は死に至る場合があります。

 働き過ぎが原因で肉体的、精神的な負担が募り、脳梗塞や脳出血、心筋梗塞や心停止などを発症して亡くなること『過労死』といいます。

 一方、労働者が日々の長時間労働や業務上の精神的負荷(ストレス)等によりうつ病などの心因性精神障害を発病し、その後自殺するに至ること『過労自殺』とよんでいます。

 

 過労死や過労自殺が労災にあたるかどうかについて、労働基準監督署はそれぞれの「認定基準」にそって判断します。  

 過労死・・・脳・心臓疾患の労災認定基準  

 ・過労自殺・・・
  
心理的負荷による精神障害の労災認定基準」(平23.12.26基発1226第1号)によって判断されます。

 

 ○過労死の認定基準

 過労死として労災認定される死亡原因として最も代表的な疾病は、脳梗塞脳出血のような脳血管疾患と、狭心症心筋梗塞のようないわゆる心疾患と呼ばれるものです。

 これらが労災として認められやすいのは、動脈硬化や血圧の上昇という病気の原因となる要因と、働くことによる疲労の蓄積との関係が科学的に証明されているからだと考えられます。

  以下の時間をおおむね超えるような時間外労働が認められると、労災認定の可能性が高くなります。    
 ・病気になる直前1ヵ月に100時間   
 ・病気になる前2ヵ月から6ヵ月の平均が80時間

 病気になる直前から前日に異常な出来事に巻き込まれたり、直前1週間に徹夜を含む深夜・長時間・連続勤務など特に厳しい仕事をしていた場合などについては、それだけで労災認定される可能性があります。
 

 過労死と認められるのに次の3要件が挙げられます。
(1) 発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと。
(2) 発症に近接した時期において、特に過重な業務(「短期間の過重業務」)に就労したこと。
(3) 発症前の長期にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務(「長期間の過重業務」)に就労したこと。

 

過労自殺の認定基準

  一般に「自殺」は労働者本人の故意による死亡である為、労災認定されないのが原則ですが、「業務による強度の心理的負荷」を原因として重度のうつ病等(気分障害)や重度のストレス障害などを発症していた場合は、その病態として自殺行為が出現する蓋然性が高いと医学的に認められることから、遺書の有無又は内容に関わらず、原則として業務起因性を認め、労災認定されるケースが多いようです。

 従前、厚生労働省は自殺につき例外的にしか労災認定をしてきませんでしたが、過労自殺の損害賠償請求を認容する判例が相次いで出現した背景もありまして、過労自殺の労災認定に関する認定基準を公表しました。

 過労自殺については、「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」(平11.9.14基発544号)及び「精神障害等による自殺の取り扱いについて」(平11.9.14 基発545号)という行政通達が出されています。

1 対象疾病   

 労災認定の対象となる精神障害は、原則として国際疾病分類に分類される精神障害とされました。

2 判断要件

 精神障害の労災認定に当たっては、次の(1)、(2)及び(3)の要件のいずれをも満たすことが必要とされています。  
(1) 対象疾病に該当する精神障害を発病していること
(2) 対象疾病の発病前おおむね6ヵ月の間に、客観的に当該精神障害を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷が認められること
(3) 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により当該精神障害を発病したとは認められないこと

各種要因の総合的評価
 判断要件(1)により精神障害の発病が明らかになった場合には、同(2)、(3)との各事項について各々検討し、その上でこれらと当該精神障害の発病との関係について総合判断します。

 なお、恒常的過重労働がある場合には、それを加味して判断をするとしています。

 

自殺の取扱い

 業務による心理的負荷によってこれらの精神障害が発病したと認められる者が自殺を図った場合には、精神障害によって正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、又は自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたものと推定し、原則として業務起因性が認められるとしています。

 なお、遺書等は、表現、内容、作成時の状況等を把握の上、自殺に至る経緯に係るひとつの資料として評価されます。

 過労自殺の業務上・外認定について、一般には、自殺した労働者が従事していた業務と自殺との間に相当因果関係が存するか否か、業務と精神障害の発病との間及びその発病と自殺との間にそれぞれ相当因果関係が存在するか否かが判断の基準となります

 また、損害賠償請求の認否についても、この相当因果関係が存することを前提に、その他の要件を満たしているかどうかが判断基準となります。

 

心理的負荷(ストレス)の原因となる「出来事」と長時間労働

 病気になる以前の6ヵ月間に、強いストレスと考えられる出来事があったかどうかがポイントです。

 また、長時間労働があったこと自体もストレスであると認められていますし、6ヵ月間の中に月100時間程度の時間外労働がある場合は、総合的に見て強度のストレスがあったと認められやすくなります。

 

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