統合失調症 薬物療法

統合失調症の治療薬

 統合失調症の治療薬は、大きく分けると「抗精神病薬」と「補助治療薬」です。

 治療の中心として使われる薬は抗精神病薬です。補助治療薬は、あくまでも、うつ・不安・不眠などの精神症状が現れたときに併用される薬です。ここで使われる補助治療薬は向精神薬の「抗うつ薬」「気分安定薬」「抗てんかん薬」「抗不安薬」「睡眠薬」などです。  

 

抗精神病薬の主な働き

 抗精神病薬が統合失調症に有効であることが学的に証明されています。薬による治療で、統合失調症の患者のおよそ70%において症状(陽性症状)の改善がみられ、25%の患者においては軽度の改善または変化がなく、残りの5%は悪化するという報告があります。

ドーパミンの情報伝達作用を抑える

 抗精神病薬にはドーパミンの情報伝達を抑える作用があります。脳内には140億以上の神経細胞があって、細胞と細胞同士が神経伝達物質という化学物質をやり取りして情報を伝え、脳のあらゆる活動を支えています。神経伝達物質にはいくつもの種類があって、それぞれ伝える情報が異なります。ドーパミンは神経伝達物質のひとつで、体を動かしたり、食欲中枢の働きを弱めたり、精神作用に関係する情報を伝える働きをしています。ドーパミンは、うきうきした感情を高めてくれますが、多すぎると過覚醒の状態になってイライラし、不安感や緊張感が強くなってきます。統合失調症では、このドーパミンが神経細胞から多く出すぎる状態にあって、これが幻聴や妄想の起こる原因と考えられています。抗精神病薬は、このドーパミンを受け取る受容体に結合してドーパミンの作用をブロックすることにより、統合失調症の症状を改善するものと考えられています。

幻聴や被害妄想を改善する

 抗精神病薬は、幻聴や妄想などの陽性症状を改善し、または、軽減する作用があります。攻撃的な行動あるいは奇異な行動に対しては効果があり、ほとんどの患者の行動が穏やかになります。「自殺しろ」といった幻聴、「盗聴されている、監視されている」といった被害妄想においても、完全に消えたり軽減したりする効果があります。激しい幻聴が四六時中起きていたのが、1日に1~2度ぐらいに減り、静かな雑音程度に軽減します。

興奮状態を抑える

 統合失調症では、妄想や強い不安、緊張のために興奮することがありますが、抗精神病薬を使うことによって興奮を鎮めることが可能です。

知覚を改善する

 知覚とは、ものを見たり聞いたりして、入ってきた情報を脳が認識する機能のことです。統合失調症の場合、周りの人が何か言ったとき、耳はその音を受け取りますが、脳がその言葉を理解できないのです。抗精神病薬は知覚を正常にする働きがありまして、現実をそのまま見たり聞いたり、感じたり、理解できるように改善してくれます。

不安感や恐怖感を軽減する

 不安感や恐怖感は適応障害のひとつで、外部で起こっている事に対応できなくなって現れます。抗精神病薬はこのような精神症状を軽減する働きがあります。

意欲の回復効果がある

 統合失調症になると、脳の活動が低下して、感情の平板化や無関心、思考の貧困などの陰性症状が現れます。特に消耗期や回復期には意欲の低下が大きな問題となります。抗精神病薬の意欲回復効果はすべての人というわけではなく、20%程度の人には効果があります。

再発の防止効果がある

 症状は一時的に改善できても、障害が起こっている脳の神経細胞の機能回復には時間がかかります。したがって、急性期の症状がおさまっても、薬を止めるのは危険です。消耗期にも回復期にも再発のおそれがあるためです。

 

主な抗精神病薬

 抗精神病薬は、「定型抗精神病薬」(従来型抗精神病薬)と「非定型抗精神病薬」(新規抗精神病薬)の2つに分類されます。

 1950代以降に作られた初めの抗精神病薬を「定型抗精神病薬」と言い、主に2000年前後以降に開発された薬を「非定型抗精神病薬」と分けています。実際に薬が体内に入ってからの作用の違いは不明で、明確な基準はありません。

 定型タイプは主に脳内のドーパミン受容体に作用して陽性症状を改善するのに対し、非定型タイプはドーパミン受容体に加え、さらに多様な受容体に作用して陰性症状の改善に効果があるとされています。「非定型抗精神病薬」が統合失調症の第一選択薬として用いられています。 

 

「非定型抗精神病薬」(新規抗精神病薬)

 非定型抗精神病薬は、定型抗精神病薬の後に開発された比較的新しい薬で、作用の違いから「SDA系」「MARTA系」「DSS系」の3つのタイプに分けられています。

 この非定型抗精神病薬は、陽性症状については従来型の定型抗精神病薬と同程度、もしくはそれ以上の効果があります。陰性症状に対する効果も優れています。認知機能の障害についても改善効果があるとされています。  

 非定型抗精神病薬は、定型タイプとは化学構造や作用が異なっているため、錐体外路症状(パーキンソン症候群にみられる筋肉のこわばりや遅い動作、ふるえなど)の副作用が比較的起こりにくくなっています。体が勝手にくねくね動いてしまう遅発性ジスキネジアといわれる慢性的な副作用も現れにくくなっています。薬を服用しても副作用による困った症状があまり現れないことから、患者に拒否感が少なく、服用の継続がしやすいという利点があります。

 抗精神病薬の処方は非定型抗精神病薬を中心とした流れにあります

 急性期の激しい症状を鎮めたり、回復を助けたりするためには、今でも定型タイプの薬はなくてはなりません。薬の効き方には個人差があり、向き不向きがあるためです。また、薬を別のものに切り替えるときに副作用が強くなったり症状が悪化したりすることもあります。

 非定型抗精神病薬を用いるときの注意点として、服用量が多くなると薬によっては従来型の抗精神病薬と同じような副作用が起こりやすくなることです。また、非定型抗精神病薬の一部の薬においては、体重増加による肥満、高血糖、糖尿病の発病、生活習慣病の憎悪といった副作用がおこることもあります。服用中は全身の健康管理については十分注意する必要があります。現在、糖尿病にかかっている人や、過去に糖尿病にかかったことがある人は、非定型抗精神病薬のオランザピンとフマル酸クエチアピンは使用できません。

SDA系(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)

 SDA(Serotonin-Dopamine Antagonist)は、脳内の神経伝達物質であるセロトニンとドーパミンの受容体の働きを遮断する作用のある薬です。過剰に放出されているドーパミンを抑制して、陽性症状を改善します。セロトニンの作用を抑制することで、前頭前皮質のドーパミン活性が高まり、陰性症状を改善する効果もあります。錐体外路症状が少ないのが特徴です。

リスペリドン(リスパダール)

 非定型抗精神病薬の代表的な薬です。第一選択薬として用いられる事が多い。幻覚、妄想に対する早い効果が期待できます。ドーパミン拮抗作用とセロトニン拮抗作用のほか、アドレナリンやヒスタミンの各種受容体にも結合します。

 1日の用量は2~6mg。初めて発病した場合の初期推奨用量は1~4mg。剤形は、錠剤、細粒、内用液、口腔内崩壊錠、注射剤があります。

 再発率も低い。効き方がシャープなので、治療を開始して4~8週目ぐらいに自分の環境を急激に認識するようになります。

ペロスピロン(ルーラン)

 ペロスピロンは、ドーパミン拮抗作用とセロトニン拮抗作用をもちますが、神経伝達物質の受容体に対する作用には違いがあると考えられます。また、アドレナリンやヒスタミンの各種受容体やアドレナリンα1にも結合します。

 ペロスピロンは、幻覚や妄想などの陽性症状、また感情的引きこもりや運動撃退などの陰性症状、さらに抑うつ的な元気のない患者に用いると効果が期待できます。

 1日の用量は、12~48mgで、最初は12mgから初め、次第に増量します。剤形は錠剤です。注意点としては車の運転、危険を伴う機械操作などは控えます。また、脱水を起こしたり、栄養不良などで体が消耗している人は、悪性症候群を起こしやすいので注意が必要です。

ブロナンセリン(ロナセン)

 ドーパミンやセロトニン5-HT2A受容体に選択的に結合し作用します。同じSDA系のリスベリドンやペロスピロンと比べると、ドーパミン受容体に結合する力が強いので、幻覚や妄想に効果が認められます。しかし、アドレナリン、ヒスタミン、ムスカリンなどの受容体に結合して遮断する作用は低いとされています。

 1日の用量は、8~24mg。最初は8mgから始め、次第に増量していきます。剤形は錠剤と細粒(粉末)があります。

MARTA系(多元受容体作用抗精神病薬)

 MARTA(Multi-Acting Receptor Target Antipsychotics)は、セロトニンやドーパミンだけでなく、さまざまな神経伝達物質の受容体に作用して、過剰な働きを遮断する薬です。SDAと同じように前頭前皮質のドーパミン活性を活発にするため、陰性症状にも効果があります。

オラザピン(ジプレキサ)

 ドーパミン、セロトニン、アドレナリン、ヒスタミン、ムスカリンなどの各種受容体に結合して作用します。陰性症状と抑うつ症状の改善に効果があります。また、ジスキネジア(舌や口の付随運動)や錐体外路症状が現れにくいため、抗パーキンソン薬などの使用が少なくて済みます。初めて症状が現れた場合では、定型抗精神病薬であるハロペリドールよりも再発率が低い。また、再発までの期間が長くなるという報告があります。

 急性期の1日の用量は10~20mgです。最初は5~10mgから始めてしだいに増量していきます。剤形は、錠剤と細粒があり、急性期にきちんと薬を飲むことができない場合は、口腔内崩壊錠が使われることもあります。

 注意点は、他の抗精神病薬と比べて体重増加の可能性が高くなることや、高血糖および糖尿病性昏睡になる症例も報告されています。口が渇いて水分を大量に摂り、多尿・頻尿などが現れたときは、服薬を中断し、医師の診断を受けます。

フマル酸クエチアピン(セロクエル)

 ドーパミン受容体よりもセロトニン受容体に対して高い作用があります。アドレナリンやヒスタミン受容体にも結合して作用します。陽性症状や陰性症状、認知(思考)機能の改善に有効です。特に抑うつ的な患者に用いると効果があります。これまで抗精神病薬では十分に効果がなかった場合にも使われます。さらに、長期に薬を使用していて、錐体外路症状やホルモン系の副作用(性機能不全、月経異常など)が現れている人が、薬を切り替えるときの選択肢としても期待されています。体重増加や惰眠の副作用が指摘されています。高血糖や糖尿病性ケトアシドーシス(酸血症)との関連が否定できないため、糖尿病の患者や糖尿病の既往歴のある人の使用は禁忌です。

 1日の用量は、150~600mg。最初は50~75mgから始め、次第に増量していきます。剤形は、錠剤と細粒があります。

DSS系(ドーパミンシステム安定薬)

 DSS(Dopamine System Stabilizer)は、ドーパミンが過剰に働いているときは抑制し、少量しか放出されていないときは、刺激して放出するように作用する薬です。陽性症状・陰性症状のどちらにも効果のある薬です。

アリピプラゾール(エビリファイ)

 2006年に発売された新時代の抗精神病薬です。ドーパミンの経路を完全に遮断しないので、副作用がより少なくなることが期待されています。ドーパミンのほか、セロトニン、アドレナリン、ヒスタミンなどの受容体に結合します。ドーパミンが過剰の場合は遮断し、不足している場合はそれを刺激する作用があり、ドーパミンシステムを安定させる働きがあるのが特徴的です。

 陽性症状や陰性症状、不安や抑うつ症状に効果があるとされ、気分を安定させる効果も認められています。他の非定型抗精神病薬と比較して、眠気が少なく、肥満や糖尿病といった代謝系の副作用が少ないのが特徴です。錐体外路症状が少なく、また、血液中のプロラクチン(性機能にかかわるホルモン)の濃度を上げないために、男性の性機能不全や、女性の月経異常などの副作用も少ないとされています。

 1日の用量は 6~24mg。最初は6~12mgから始め、その後増量していきます。剤形は錠剤と細粒、内用液があります。

 鎮静効果が弱いために、急性期の症状改善には反応が鈍い。しかし、その際不必要に薬の量を増やさないことが重要です。また、他の薬からの切り替えを急激に行うと、リバウンドなどの影響によって、症状が不安定になるリスクがあります。他の抗精神病薬との併用は薬の特徴を殺してしまうので、単剤での使用が望まれます。

その他の薬

 このほか、治療に難しい病態に効果が期待されている非定型抗精神病薬があります。

クロザピン(クロザリル)

 ドーパミン、セロトニン、ムスカリン、アドレナリン、ヒスタミンなど、広範囲の受容体に結合して、それぞれの神経伝達物質の作用が高まるように刺激します。

 その特徴は以下のような点が挙げられています。
①錐体外路性の副作用が現れにくい。
②血中のプロラクチン値が上昇しにくい。
③攻撃性、死にたいと思う、自殺を図るなどの強い衝動性に有効である。
④遅発性のジストニア(筋肉の緊張が続くことによって、体が斜めに傾いたりする)や、ジスキネジア(体の一部が勝手にくねくね動いてしまう)を憎悪させることが少ない。
⑤初めて発病した際の陽性症状や、他の抗精神病薬による治療でも改善を示さない場合の第一選択薬である。 

 マイナス面としては、重い副作用があります。最も重い副作用としては無顆粒球症があります。血液中の白血球である顆粒球が減少して、細菌や真菌による重症の感染症を併発します。1%の頻度で無顆粒球症が発現するといわれます。便秘、頻脈、体重増加、血糖値の上昇、2型糖尿病なども報告されています。

 

定型抗精神病薬

 主に脳内のドパミンに対して抑制作用をあらわし、幻覚、妄想、不安、緊張、興奮などの症状を改善する薬です。

 主にドパミンD2受容体を阻害することなどにより、脳内のドパミンの働きを抑制し主に統合失調症における陽性症状の改善作用をあらわす。同じく統合失調症の治療薬である非定型抗精神病薬に比べて(一般的に)ドパミン抑制作用が強いとされ、陽性症状の顕著な改善が期待できる一方で、ドパミン抑制作用による錐体外路症状や高プロラクチン血症などがあらわれたり、統合失調症における感情の鈍麻や意欲減退などの陰性症状を強めたりする場合がある。

一般的な商品とその特徴

フェノチアジン系  コントミン

 ドパミン抑制作用の他、ノルアドレナリンやセロトニンなどに対する抑制作用をもつとされる

 統合失調症のほか、躁病、神経症での不安・緊張・抑うつなど、吐き気・嘔吐の抑制、催眠・鎮静・鎮痛剤などの補助目的などで使用する場合もある

 錠剤、注射剤があり用途などに合わせて選択される

フェノチアジン系  フルメジン

 散剤もあり、嚥下能力の低下した患者などへのメリットが考えられる

 本剤の成分(フルフェナジン)を元に造られた注射剤(フルデカシン筋注)がある

フェノチアジン系  ノバミン

 オピオイド鎮痛薬や抗がん薬などによる吐き気・嘔吐を抑える目的で使用する場合もある

 錠剤、注射剤があり用途などに合わせて選択される

ブチロフェノン系  セレネース

 ドパミン抑制作用の他、ノルアドレナリンなどに対する抑制作用をもつとされる

 統合失調症、躁病のほか、吐き気・嘔吐抑制などへ使用する場合もある

 錠剤、細粒剤、液剤(内服液)、注射剤があり用途などに合わせて選択が可能

本剤の成分(ハロペリドール)を元に造られたハロペリドールデカン酸エステル注射剤(ハロマンス注)がある

ベンズアミド系  ドグマチール

 統合失調症のほか、消化器症状などへ使用する場合もある

 抗ドパミン薬として(主に低用量の投与において)消化管運動改善(吐き気、食欲不振などの改善)目的などで使用する場合もある

 錠剤、カプセル剤、細粒剤、注射剤(筋注)があり用途などに合わせて選択される

主な副作用や注意点

精神神経系症状

 眠気、めまい、頭痛、不安、不眠などがあらわれる場合がある

錐体外路症状

 パーキンソン症候群、アカシジア(じっとしておれず歩きたくなる、体や足を動かしたくなる、など)、ジストニア(筋緊張異常)などがあらわれる場合がある

内分泌症状

 高プロラクチン血症、女性化乳房などがあらわれる場合がある

悪性症候群

 頻度は非常に稀である

 他の原因がなく高熱が出る、手足が震える、身体のこわばり、話しづらい、よだれが出る、脈は速くなるなどの症状が同時に複数みられた場合は放置せず、医師や薬剤師に連絡する

パーキンソン病患者への使用に関する注意

 本剤の作用により錐体外路症状を悪化させる場合があり、パーキンソン病患者などへの使用が原則できない薬剤もあるため十分な注意が必要となる

 

薬の種類、用量、期間は人によって違う

統合失調症を初めて発病した患者には、非定型抗精神病薬(新規抗精神病薬)が第一選択薬です

 それまでの治療で定型抗精神病薬が効いていて、生活のうえで困るような副作用がなく、患者が希望する場合は、そのまま継続して服用します。初めて発病した患者については、どの非定型抗精神病薬から始めるかについては、糖尿病の既往歴や現在糖尿病にかかっていないかを確認してから決めます。  

 治療に用いる薬の選択や用量は、症状に対する効果と副作用のバランスによって決められます。

 用量については、少量から始めて、速やかに十分な量まで増量していきます。薬の作用が発揮されるまで2~4週間かかりますが、その間に顕著な副作用がでた場合は他の薬を選択することになります。

 

薬選びの手がかり

 どのような薬が、どのような患者に、どのように反応するかについては、答えはありません。抗精神病薬の処方には決まりはなく、医師が判断して、その患者に合わせたオーダーメイドの処方となります。なぜ、人によって反応が違うのかも不明です。考えられるのは、脳のどの部分で、神経伝達物質のアンバランスが生じて、統合失調症を起こしているのか、そして、薬の作用がそれとマッチするのかどうかで、反応が決まるのではないかと考えられます。

 薬選びで現在わかっている手がかりといえば、次のような点です

1 ある薬を使ったら、よい反応をみせた場合、その患者にとっては将来もその薬が効果を現すことが期待できます。

2 家族の1人が統合失調症にかかって、ある薬によく反応した場合、家族の他の人が同じ病気になったときも、同じ薬が効くことが期待できます。薬に対する反応は、遺伝的な要素がかかわっているものと思われます。

3 ある薬を最初に投与したとき、患者に適合せず不快感を示した薬は、将来においてもその患者への効果は期待できません。 

 以上の観点から、患者や家族は、どんな薬がどのくらいの量を投与され、反応はどうだったのかを記録しておくとよいでしょう。将来、改めて薬を選択するとき、非常に参考になります。

 

投与する量

 抗精神病薬が効果を現す量は、患者によってかなりのバラツキがあることがわかっています。それは、神経伝達物質の体内での処理能力(吸収や排泄)が人によって異なるからです。また、遺伝的な体質との関係も考えられます。例えば、アルコールでもわずか30mlで酔っぱらう人もいれば、1リットルを飲んでも酔わない人がいるように、抗精神病薬も同じようなことが考えられます。抗精神病薬の血中濃度が同じレベルに達するのには、ある患者は10mgで十分なのに、他の患者は400mgも必要な場合があります。このように、薬の適量は患者によって全部違います。

 抗精神病薬は、薬ごとに治療の適量範囲があります。それよりも少ない量を使えば、少ない分だけ再発の危険性が高くなり、反対に適量範囲を超えて服用すれば、治療効果が下がるばかりか、強い副作用が現れます。ただ、意識的に薬の用量を少なくする「低容量戦略」という治療法があります。再発を起こす危険性もありますが、人によっては副作用が少なく、本来の性格が出てきて活発になる可能性もあります。 

 

服用する期間

 薬の体内処理能力は、人によって違いますので、効果が出る時間や期間も異なってきます。抗精神病薬を投与して、48時間以内に劇的な効果をみせる人もいれば、数ヵ月もかかってゆっくり反応する人もいます。一般的に、再発を繰り返す人ほど、服用期間は長くなります。また、年齢を重ねていくに従って、薬の量も減らしていけますし、最終的には止めることもできます。

 

薬物療法を継続する時の注意点

初めて発病した場合

 初めて発病した患者の場合は、1種類の非定型抗精神病薬を少量から飲み始めます。初めて抗精神病薬を服用するとなると、恐怖感があると思います。急性期の激しい症状があるときは、患者の多くは病識がないことが多い。そこで、服用しようとしている薬は、患者が困っている不眠やイライラなどの症状に、どのように効くのか、また、どのような副作用があるのか、十分に医師が説明したうえで服用を始めることが重要です。

再発した場合

 再発の原因で、最も多いのが「服薬の中断」です。このような時は、なぜ薬を飲むのを止めたのか、原因を明らかにすることが大切です。

 服薬の中断理由として多いのは、次のような点です。
・よくなったので薬を飲み続けなくてもよいと思った。
・家族が薬を飲み続けなくてもよいと考え、本人に止めるように勧めた。
・長期間服用することで副作用が心配になった。
・患者本人が感じている主観的な副作用(抑うつ症状、アカシジアなど)があって、日常生活にも影響を及ぼしていながら、そのことを主治医にうまく伝えられずに中断した。

 服薬を中止した場合は、治療方法を見直す必要があります。服薬を継続していたにもかかわらず、再発した場合は、ストレスの原因となっている環境要因を洗い出し、ストレスの軽減に努めるとともに、薬の服用量を見直し、薬の変更も考えます。

回復期・安定期における薬物療法の注意点

 回復期に入っても、急性期に有効であった非定型抗精神病薬は、同じ用量で継続して服用し、6ヵ月間は経過を観ます。すぐに薬を変えたり、量を減らしたりすると、症状が逆戻りすることがあります。

 薬や用量の変更は、一定の期間を服用して経過を観察したあと、安定期に入ってから行います。安定期以降も薬物療法は継続して行われます。定型抗精神病薬を長期間にわたって飲み続けている場合は、非定型抗精神病薬に切り替えることもあります。ゆっくり時間をかけて行うことが大切です。回復期から安定期にかけては、抑うつ症状や過鎮静などを起こさないように気をつけます。特に、抑うつ症状が生じると自殺や服薬の中断につながることがあります。

服薬が困難な場合

 抗精神病薬は、基本的には口から飲む内服薬(錠剤または粉薬)です。しかし、どうしても服用が困難な場合は、やむなく注射薬を使います。

注射薬を使うケース

・急性期で患者が激しく興奮したり、混乱したりしている状態で、規則的に薬を服用することが困難な場合

・内服薬では十分な効果が現れないため、より効果を高めたい場合

注射薬の使い方

・注射薬は、普通は筋肉注射が行われます。吸収が早いため、内服薬の5倍ほどの量を一度に体内に入れることができます。

・筋肉注射は、普通は臀部(おしり)に行いますが、腕にする場合もあります。

・興奮などによって、食事もとれないほど消耗が激しい患者は入院してもらい、安静を保ちながら、点滴で静脈に投与する場合もあります。

注射薬の注意点

・筋肉注射は、注射をした部分の筋肉を痛めるので、あまり過度に注射はできません。一時的な措置として考えます。

・多量の薬を一度に体内に入れるため、急激な作用でトラブルが起こらないように注意します。

※注射薬には「デポ剤」と呼ばれる油性の製剤もあり、これは筋肉に注射すると、ゆっくりと時間をかけて体内に取り込まれる薬です。デポ剤を使えば、毎日薬を飲まなくても、2週間に一度、あるいは4週間に一度の注射で済みます。薬の種類に限りがありますが、合っている人には便利といえます。デポ剤の使用は、薬を飲むのをためらったり、忘れてしまったり、また、患者自身が病気という認識がなく、薬を飲むのをやめてしまったり、たびたび再発を起こすケースなどに使われます。

 

抗精神病薬の副作用

 抗精神病薬を飲んだ患者がつらかったと感じた副作用には、次のようなものがあります。
 ・体がだるく動きが鈍くなり、元気がなくなる(過鎮静)
 ・眠くなる(過鎮静)
 ・便秘になる(自律神経症状)
 ・体重が増える
 ・口が渇く(自律神経症状)
 ・目がかすむ
 ・手(指先)がふるえる(パーキンソン症状=錐体外路症状)
 ・仮面のような表情になる(パーキンソン症状=錐体外路症状)
 ・立ちくらみのようになって、ふらふらする(起立性低血圧=自律神経症状)
 ・体の一部、特に顔や首などの筋肉が硬直したり、突っ張ったりする(急性ジストニア=錐体外路症状)
 ・舌や唇がふるえる、足を踏みならす、時には体全体がけいれんする(遅発性ジスキネジア)

 抗精神病薬の副作用の多くは、薬を飲み始めたころに最も強く現れ、時間がたつにつれて徐々に薄れていきます。一方、薬の効果は数ヵ月経たないと効果が出てきません。

 統合失調症の患者が薬を飲むのをためらったり、止めてしまったりする背景には副作用の問題があります。しかし、それを恐れて薬を飲まなければ、症状はぶり返すことになります。再発を繰り返せば、病気はさらに悪化の一途をたどることになります。一方、薬を飲んでいる人は、仮に再発しても、きちんと飲んでいなかった人に比べて軽い症状で済むのです。副作用は決して恐ろしいものではなく、病気が回復していくための必要な情報だと考えたらよいのです。

 医師は、患者の反応(副作用など)をみて、いま処方している薬が合っているかどうかを判断する材料にしています。それによっては、薬の種類を変えたり、量を調節したり、副作用を抑える補助薬を使ったりして、病気が良い方向に向かうように配慮します。

 抗精神病薬による副作用を分類すると、以下のようになります。

錐体外路症状

 錐体外路とは、大脳皮質から始まる神経経路で筋肉の伸び縮みを調節して体がスムーズに動くようにコントロールする運動系の中枢のことです。ここが障害となると、体が思うように動かせなくなったり、意思に反して勝手に動いたりします。目に見えてその異変がわかるため、何か重い病気になったのではないかと心配になり、そのことが治療薬への忌避感につながることがあります。あらかじめ錐体外路症状とはどんな副作用なのかを知っていれば、本人も家族も慌てずに受け止めることが出来ます。

 抗精神病薬によって起こる錐体外路症状には、次のようなものがあります。 

パーキンソン症状

 抗精神病薬は、おもにドーパミンを受け取る受容体を遮断して、ドーパミンが働けないようにします。ドーパミンが働けない状態というのは、パーキンソン病の発症メカニズムとよく似ているところから、この副作用を『パーキンソン症状』といいます。ドーパミンは体を動かす潤滑オイルのようなもので、これが働かなくなると「筋肉のこわばり」が生じます。手(指先)がふるえ、筋肉が硬くなって硬直し、よだれが出たり、顔つきが無表情になったりします。これは薬の量が多めのときに起こる副作用です。

アカシジア

 アカシジアは「静座不能」といわれ、じっとしていられず、下肢を動かしたり、せかせか歩き回ったりします。横になって寝ているときも、足がむずむずし、テレビを見ていても一箇所にじっと座っていられなかったり、貧乏ゆすりがひどくなったりする症状です。アカシジアは幻覚や妄想をやわらげる薬を服用したときに起こりやすい副作用です。薬だけではなく、患者の気持があせっていたり、不安感が強いときに起きやすいとされています。

急性ジストニア

 筋肉でも、特に首筋の筋肉の片側(左か右、または後ろ)が収縮して傾いてしまい、反対側には戻しづらくなる状態です。また、目の筋肉が収縮すると、眼球が上の方に向いてしまい、下が見づらくなります。舌の筋肉が収縮すると、舌がこわばって話しづらくなります。非常に奇妙な筋肉の動きをみせるため、てんかん発作と間違えられることもあります。しかし、これは一時的に現れるもので、薬で治療することが可能ですし、予防する薬もあります。障害は残らないので必要以上に心配しなくてよいものです。

 定型抗精神病薬の服用によって、このような錐体外路症状が現れた場合は、副作用の少ない非定型抗精神病薬に切り替えることもあります。また、非定型抗精神病薬を使っているにもかかわらず錐体外路症状が出る場合は、別の非定型抗精神病薬に変更することもあります。改善されない場合でも、抗パーキンソン病薬によって改善できることがあります。

遅発性ジスキネジア

 遅発性ジスキネジアとは、体の一部が勝手にくねくねと動いてしまう症状です。主に舌や口の不随意運動(自分で動かそうと思わないのに、意思に逆らって勝手に動いてしまう現象)で、もぐもぐと噛むしぐさをしたり、吸い込んだり、舌であごの皮膚を押し出したり、舌を鳴らしたりします。舌や口以外に、腕や足、体全体がけいれんしたように動くこともあります。これは、抗精神病薬を大量に飲んだり、長期間服用した人に現れやすい副作用です。定型抗精神病薬を服用していた場合は、非定型抗精神病薬に変更したりします。抗精神病薬を少なくして、抗不安薬と併用するという方法もあります。

血中プロラクチン値の上昇

 抗精神病薬を服用していると、プロラクチンというホルモンが上昇し、さまざまな副作用を引き起こすことが知られています。女性では、月経異常、乳汁の分泌、長期的には骨粗しょう症になることもあります。男性では、射精障害、勃起障害、性欲の低下、女性化乳房などがあります。

月経異常

 女性の患者が抗精神病薬を飲むと、月経が止まることがあります。薬の量が増えると多く見られる副作用です。

乳汁分泌

 乳汁分泌はプロラクチンというホルモンが増えるために起こる副作用です。プロラクチンは下垂体から分泌されているホルモンで、乳汁の分泌や卵巣の黄体を刺激する働きがあります。

性欲の減退

 抗精神病薬の副作用で、男女とも性的な機能不全が起こることがあります。男性ならばインポテンツや射精遅延です。

体重の増加

 体重増加は抗精神病薬を飲んでいる人にとって現れやすい副作用の一つです。非定型抗精神病薬のオランザピンやフマル酸クエチアピンなどは、他の薬と比べて体重増加をもたらす可能性が高い薬とされています。体重が増えるのは、一つは食欲増進と関係していると考えらます。また、活動が低下したことによる運動不足や食べ過ぎが、肥満の原因になっていることも考えられます。

抑うつ

 定型抗精神病薬の服用で抑うつ症状が現れた場合は、非定型抗精神病薬に切り替えるか、抗うつ薬のSSRIを併用します。非定型抗精神病薬で抑うつ症状がみられた場合は、他の非定型抗精神病薬に変更するか、抗うつ薬を併用します。

自律神経の乱れ

 抗精神病薬は自律神経にも作用するので、自律神経が調節しているさまざまな臓器にも影響が出ます。たとえば、口の渇き、便秘、立ちくらみなどです。口の渇きは唾液が出にくくなって起こります。これは、定型抗精神病薬のハロペリドールやフルフェナジンのような強い薬によって起こりがちです。

 口の渇きは、薬を長期間飲んでいるうちに、だいたいは消えていきます。便秘は、抗精神病薬によって腸の働きが鈍くなり、便が腸の中に留まりやすくなるためです。特に鎮静作用のある薬で起こりがちです。

 対症法は、薬を変えたり、野菜や食物繊維を多く摂るようにしたり、生活のリズムを整えたりして工夫します。鎮静作用のある薬は血圧を下げる働きもあるため、起立性低血圧になって立ちくらみが起きやすくなります。自律神経の副作用は薬に慣れると消えていくものが多い。気になる場合は昇圧薬を使うこともあります。

眠気やだるさ

 幻覚や妄想をやわらげる薬で、鎮静作用の強いクロルプロマジンやレボメプロマジン、チオリダジンなどを使うと、どうしても眠くなったり、体がだるくなったり、ボーッとしたりします。過敏になり過ぎた神経の緊張状態を鎮めるように働くためです。急性期の患者にとって、眠気やだるさは薬が効いている現れで、この時期はよく眠ることが回復にもつながります。症状が落ち着いてきても、眠気があり、集中力が落ちたり、根気がなくなったりしたら、薬の量を少なくしたり鎮静作用の弱い薬にかえることを考えます。

抗精神病薬による悪性症候群

補助的に使われる薬

 統合失調症は抗精神病薬だけで治療できる病気ではありません。抗精神病薬が治療の中心にはなりますが、足りない部分もあります。それを補うのが補助治療薬と言われる薬です。抗精神病薬の効果を引き出したり、副作用を治療したり、足りない部分を補ったり、予防のために処方したりする大切な薬です。

 おもな補助治療薬には以下のようなものがあります。

睡眠薬

 不眠も統合失調症の症状のひとつです。病気の回復のためには、まず十分な睡眠をとり、生活のリズムを整えることが必要となります。

 使用する睡眠薬には、ニトラゼパム(ベンザリン)、フルニトラゼパム(サイレース、ロヒプノール)、ブロチゾラム(レンドルミン)などがあります。この他、抗精神病薬のクロルプロマジンを含んだ複数の薬を混ぜ合わせたベゲタミンも睡眠薬としてよく使われます。短期間の使用であれば中毒や依存の問題とはなりません。

抗不安薬

 抗不安薬は不安を取り除く薬のことです。統合失調症のほかにも、うつ病や不安障害などに使われます。抗不安薬の長所は、ドーパミンには作用しないので、パーキンソン症状のような副作用がないことと、遅発性ジスキネジア(舌や口が意思にさからって勝手に動いてしまう現象)を起こす危険性がないことです。抗精神病薬を少なくして副作用を減らす意味でも、抗不安薬を併用することは有効な治療方法です。

 抗不安薬には、ジアゼパム(セルシン、ホリゾン)、エチゾラム(デパス)、ロラゼパム(ワイパックス)、アルプラゾラム(コンスタン、ソラナックス)などがあります。ヒドロキシジンは抗精神病薬の副作用であるアカシジア(じっとしていられなくなる)の改善に使われることもあります。

抗不安薬と鎮静薬

抗てんかん薬

 抗てんかん薬は本来はけいれんを抑える薬です。統合失調症で けいれん を起こすことはありませんが、抗てんかん薬の中には興奮や不機嫌を抑える作用があります。イライラや攻撃性を抑えるために時々処方されることがあります。

 抗てんかん薬には、カルバマゼピン(テグレトール)、バルプロ酸(デパケン)などがあります。

抗パーキンソン薬

 ドーパミンを遮断する抗精神病薬では、多かれ少なかれパーキンソン症状の副作用は避けられません。抗精神病薬の量や種類の調整が難しい場合に、抗パーキンソン薬を併用することがあります。

 用いられる薬には、ビペリデン(アキネトン)やトリヘキシフェニジル(アーテン)、プロメタジンなどがあります。プロメタジンは立ちくらみ(起立性低血圧)の改善にも使われることがあります。

抗うつ薬

 意欲低下に対し抗うつ薬が使われることがあります。三環系と呼ばれるアミトリプチリン(トリプタノール)、イミプラミン(トフラニール)、クロミプラミン(アナフラニール)、SSRIのフルボキサミン(ルボックス)、SNRIのミルナシプラン(トレドミン)などです。

 薬物療法の限界

「薬物依存」の精神医療

統合失調症の患者が「薬漬け」になる理由は「霊的視点」が欠けている

 

電気けいれん療法 に続く