不安障害

 不安障害とは、その人の状況から考えて不釣り合いなほど激しい不安が慢性的かつ変動的にみられる状態です。

 行動に対する不安の影響は曲線で表すことができます。不安の程度が強くなると、それに比例して行動の効率も上昇していきますが、あるところで頂点に達します。不安がさらに増すと、行動の効率は低下しはじめます。曲線が頂点に達するまでの不安は、危機に備えて機能を向上させるのに役立つため、適応反応とみなされます。ピークを越えてからの不安は、苦痛を引き起こして機能を阻害するため、不適応反応とみなされます。

 不安は本来、脅威や精神的ストレスに対する正常な反応であり、ときとして誰でも経験します。正常な不安は危険な状況に基づいており、生き延びるための大切な機能として働いています。危険な状況に直面すると、不安が闘うか逃げるかの緊急反応(闘争-逃走反応)を誘発します。この反応とともに、心臓や筋肉への血流量が増えるなど体にさまざまな変化が生じ、攻撃してくる対象から逃げる、あるいは攻撃者を撃退するといった、危機的状況に対処するために必要なエネルギーと力が体に供給されます。一方、不安が不適切な時に生じたり、頻繁に生じる場合、あるいは日常生活に支障を来すほど不安が強く長く続く場合には、異常とみなされます。

 体の異常や薬物の使用によって不安障害が生じることもあります。たとえば、褐色細胞腫と呼ばれる腫瘍や、甲状腺や副腎の過剰な活動によって不安が引き起こされることがあります。不安を引き起こす可能性がある薬物には、コルチコステロイド、コカイン、アンフェタミン、エフェドリンがあります。時にはカフェインの過剰摂取も不安の原因となることがあります。アルコールやある種の鎮静薬の服用を中止した場合にも不安障害の症状を誘発することがあります。高齢者の場合、不安を引き起こす最も一般的な原因は、おそらく認知症です。

 

症状

 不安は、パニックを起こしたときのように突然生じることもあれば、数分間、数時間、あるいは数日間かけて徐々に生じることもあります。不安が持続する時間は、数秒間から数年間までさまざまです。不安の強さは、ほとんど気づかないほど軽いものから、息切れ、めまい、心拍数増加、ふるえ(振戦)などが生じる本格的なパニック発作まで幅があります。

 不安障害は、大きな苦痛をもたらしたり日常生活の大きな妨げとなり、うつ病に至ることもあります。不安障害を患っている人(クモを恐れるといったある種の非常に特殊な恐怖症を除く)は、不安障害にかかっていない人と比べ、うつ病を発症する可能性が少なくとも2倍になります。時には、うつ病が先で後から不安障害を発症する場合もあります。

 

原因

 不安障害の原因は完全にはわかっていませんが、身体的および心理的両者の要因がかかわっています。不安障害が多発する家族があることから、おそらく遺伝も一因となっていると思われます。不安は、心理学的には、重要な関係が破たんする、生命に危険が及ぶ災害に遭うといった、環境的なストレスに対する反応とみられます。ストレスに対する反応が不適切な場合や、遭遇した出来事に打ちのめされたような場合に不安障害を発症することがあります。たとえば、大勢の人の前で話をするのは楽しいと感じる人がいます。その一方で、ひどく恐れて不安になり、発汗、恐怖感、心拍数の増加、振戦などの症状が現れる人もいます。そのような人々は、少人数のグループの前でも話すのを避けることがあります。

 

診断

 不安障害は主に症状に基づいて診断されます。不安に耐えられる程度は個人差が大きく、どのような状態が異常な不安であるかを判断するのはときに困難です。通常、医師は症状の他の原因を除外し、症状に基づいて確立した特定の診断基準を用いて診断します。

 医師は家族に同様の症状を示した人がいないかどうかを尋ねます。不安障害(特定の出来事に起因する心的外傷後ストレス障害を除く)の家族歴の有無は診断の参考になります。医師は身体診察も行います。血液検査などを実施して、不安の原因となる病気がないかどうかチェックします。

 

治療

 治療は不安障害の種類によって異なるため、正確な診断が重要となります。加えて、不安が治療法の異なる他の精神障害から生じている場合は、不安障害と区別する必要があります。不安障害の種類に応じて、薬物療法や精神療法(行動療法など)のいずれか、あるいは両者を併用することにより、大半の患者で苦痛や心身の機能不全がかなり軽減されます。

 

体の病気や薬物に誘発される不安

 体の病気や、薬物の使用または中止が原因で不安が生じることがあります。

 不安を引き起こす体の病気には次のようなものがあります。
 ・頭部外傷、脳の感染症、内耳障害などの脳と神経(神経性)の病気
 ・心不全、不整脈などの心疾患
 ・副腎や甲状腺の過剰亢進などのホルモン(内分泌)の病気
 ・喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの肺(呼吸器)の病気

 発熱から不安が生じることもあります。

 不安を誘発する薬物には次のようなものがあります。
 ・アルコール
 ・興奮剤
 ・カフェイン
 ・コカイン
 ・テオフィリン(喘息などの治療薬)などの多くの処方薬
 ・市販のダイエット製品(ハーブ製品のガラナ、カフェイン、またはその両方を含むもの)

 服用を中止すると不安を誘発する薬には、ベンゾジアゼピンなどがあります。

 死期が近づいた人が、死への恐れ、痛み、呼吸困難などから不安が生じることもあります。

 

治療

 医師は二次的に起こる不安症状よりも、原因の修正を目標にします。体の病気を治療するか薬を中止して、その後の離脱症状が和らぐのに十分な時間があれば、不安は治まります。

 なおも不安が残る場合は、抗不安薬または精神療法(行動療法など)を利用します。多くの場合、終末期患者にはモルヒネなど強力な抗不安作用をもつ強い鎮痛剤(鎮痛薬)が適しています。死期が近づいた人に強い不安を抱かせるべきではありません。