整理解雇

 整理解雇(リストラ)とは、会社の現在及び将来予想される経営状況の逼迫に対し、その打開策として余剰労働者を解雇することをいいます。

 普通解雇懲戒解雇と違い、整理解雇(リストラ)は労働者の責めに帰す理由ではなく、会社の経営上の理由によりなされる解雇ですから、極めて厳格に解雇に関わる審査が行われます。

 整理解雇は、以下の2つの側面から有効性が判断されます。

1.「客観的に合理な理由」を欠く場合、及び「社会通念上相当」でない場合は、解雇は無効

 これは、解雇権乱用法理と呼ばれ、労働契約法(平成20年3月1日施行)の第16条を根拠としております

 「社会通念上相当」とは、下記のいずれをも満たしていること
 ・程度が重大であること
 ・他に解雇回避手段がないこと

 

2.整理解雇の有効性4要素

 整理解雇が有効とされる要件として次の4つの要件があり、一般に「整理解雇の4要件」と呼ばれています。

(1) 企業が客観的に高度の経営危機にあり、解雇による人員削減が必要やむを得ないこと。(人員削減の必要性

(2) 解雇を回避するために具体的な措置を講ずる努力が十分になされたこと。(解雇回避努力

(3) 解雇の基準及びその適用(被解雇者の選定)が合理的であること。(人選の合理性

(4) 人員整理の必要性と内容について労働者に対し誠実に説明を行い、かつ十分に協議して納得を得るよう努力を尽くしたこと。(労働者に対する説明協議

 以上の4つの指標が解雇の有効、無効を判断する基準となっています。必ずしも全てを満たす必要はなく、総合判断されます。

 

1 人員削減の必要性

 ・余剰人員の整理解雇を行うには、削減をしなければ経営を維持できないという程度の必要性が認められなければならない。
・自発的退職者の募集や作業方式の変更など、経営の合理化を行ってもなお、本当に人員整理の必要性があるもの
・人員整理は基本的に、労働者に特別責められるべき理由がないのに、使用者の都合により一方的になされることから、必要性の判断には慎重を期すべきであるとする。

 人員削減の必要性については、その必要性がどの程度求められるか、という問題があります。これについては、以下の3つの説があります。

(1) 倒産回避説
 人員削減をしなければ、会社が倒産に至ってしまうほどに危機的状況。これを厳格に適用すると、適切な雇用調整の時機を逸して会社が倒産してしまう危険が大きい。

(2) 経営不振打開説
 今のところ会社の経営が危機的状況とまで言えないが、今のうちから人員削減をしておかないと、近い将来会社が危機的状況に陥る可能性があるという状況。

(3) 生産性向上説
 現在危機的状況ではなく、将来においても危機的状況に陥る可能性は少ないが、生産性の向上のため、業績拡大のため、人員削減の必要性があるという状況。判例において、生産性向上という理由だけでは人員削減の必要性があるとまではいえないという判例もあります。

整理解雇の必要性の有無

 ・経営不振で倒産寸前
 ・人員整理をしなければ倒産
 ・倒産の危険予防
などの事実があるかどうか。a0001_016352

 経営危機だけでなく経営戦略型整理解雇なども、合理的経営者なら整理解雇することが十分考えられるケースの場合、整理解雇の必要性が認められることがあります。

 

2 解雇回避努力

 整理解雇が必要であったとしても、解雇を回避するために必要な努力したかどうかです。

 新規採用の中止、配置転換出向、残業廃止、労働時間短縮、昇給停止、賃金引き下げ、賞与支給停止、一時帰休の実施、希望退職者の募集等により、整理解雇を回避するための経営努力がなされ、人員整理(解雇)に着手することがやむを得ないと判断されます。

 職種限定・勤務地限定の従業員であっても、直ちに配置転換を不要とするのではなく、配置転換・出向・転籍などの努力はするべきです。

 期間の定めのない雇用契約においては、人員整理(解雇)は最終選択手段であることを要求される解雇回避努力については、会社は労働者に対して、退職勧奨希望退職者の募集、出向配置転換、一時帰休、再就職の斡旋等可能な限り解雇を回避する手段を講じることが求められます。

・「企業に人員整理の必要が高度に存するにも拘わらず、整理解雇という手段に訴えることを極力制約しようとする論理は、解雇に先立ち、出向・配置転換・任意退職の募集・一時帰休その他解雇回避のための努力を最大限に要求し、この点に不徹底がある以上解雇を許さないとするものである。」(住友重機玉島製作所事件 岡山地裁 昭54.7.31

 

3 被解雇者の選定の公平性(人選の合理性)

整理対象者選定の合理性

 解雇するための人選基準が合理的で、具体的人選も合理的かつ公平でなければなりません。
 (1) 整理解雇される対象者の選定は合理的か
 (2) 恣意的に選定していないか
 (3) 従業員が納得できる解雇基準が作成されているか
 (4) 解雇する順位は、できるだけ生活に影響の及ばない者から順に
  ・一定の年齢以上または以下の者
  ・勤続年数が一定以上または以下の者
  ・共稼ぎの者
  ・勤務成績の低い者
  ・欠勤が多い者

  被解雇者の選定の公平性について、選定基準の選定については、会社が自由に基準を設定できますが、設定された基準に基づく人員選定は、客観的に見て合理性あるもので無ければならず、基準に照らして疑問を抱かせるような使用者の恣意性があるようではいけません。例えば、勤務成績を基準にするならば、当然勤務成績の上位者が解雇の対象者になるようなことがあってはなりません。また、ある組合員だけを解雇対象者にすることも、著しく合理性に欠く選定ということになります。

(定年まじかの高齢者を対象とする人選 → 合理的と判断)
・「『昭和63年12月31日までに満53歳以上に達する者』を解雇の対象とすることの合理性については、高齢者は若年者に比べて再就職が困難である等の事情はあるものの、被告における定年は55歳であって、勤務を続けるとしても最大限約2年であるうえ、退職金の支給や福利厚生関係その他の点で前期認定のとおりの配慮が払われていることなどを考慮すると、右解雇基準は、恣意の入らない客観的基準として、合理性を有するものというべきである。」(三井石炭鉱業事件 福岡地裁 平4.11.25

 

(遅刻・早退・欠勤の総合計時間を基準とした人選 → 合理的と判断)
・「遅刻、早退、欠勤の総合計時間の多寡を整理解雇の人選基準とすることは、整理解雇における人選基準として想定し得る基準の中でも相当程度客観的かつ合理的な部類に属するものであるということが出来ることにも鑑みれば、本件人選基準は合理性を有する。」(明治書院事件 東京地裁 平12.1.12

(人事考課をもとにした人選 → 合理的でないと判断)
・「使用者たる者は人員整理の必要がある場合であってもその対象者の選定に当たっては主観的恣意的な選定に陥らない様、客観的合理的な選定をなすべき信義則上の義務があることは前記のとおりであるところ、会社が本件被解雇者として申請人らを選定したことは客観性、合理性を欠くといわざるをえないことは前段認定のとおりであり、そのことは反面からいえば右の人選に主観的恣意的評価の混在を推測させるものといわざるをえないから結局本件解雇は申請人らのその余の主張(不当労働行為、差別扱等)について判断するまでもなく解雇権の濫用をして無効」(平野金属事件 大阪地裁 昭51.5.26

 

4 労働者に対する説明協議

 整理解雇の必要性・時期・規模・方法などを、納得を得るための説明、および誠意を持っての協議が必要です。
 例えば、説明・協議、納得を得るための手順を踏まない整理解雇は、他の要件を満たしても無効とされるケースも多いものです。対象労働者や労働組合に対して、整理解雇の必要性やその内容(時期・規模・整理の順序・整理の方法など)について十分説明し、誠意をもって協議したか。

 被解雇者や組合に対しての説明義務については、なぜ今解雇する必要があるのか、どのような解雇回避の手段を講じるか、被解雇者選定基準、財務諸表などの客観的資料を基にした解雇の必要性等、具体的かつ客観的に説明して同意を得る必要があります。

(労使間での協議と整理解雇)
・「被告は、分会に対し、人員削減対策の必要性、実施時期、方法等を提示可能な資料を示して説明し、第2次希望退職募集以後、今後4名の人員削減対策を実施したいとして整理解雇の可能性とその規模に触れて説明したことが認められるが、整理解雇の具体的な実施につき明確な意思表示を避けたまま4名の整理解雇に踏み切ったもので、希望退職募集後の整理解雇の有無・時期・方法、さらに受注台数の減少に伴う整理解雇の必要性につき分会の納得を得るため誠意をもって協議を尽くしたとまでは認めがたい。」(高松重機事件 高松地裁 平10.6.2

(解雇回避努力を欠く整理解雇の有効性)
・「解雇回避努力を尽くしていなかったとしても、そのことから直ちに本件解雇が権利の濫用として無効であるということは出来ない。」(角川文化振興財団事件 東京地裁 平11.11.29

 

○整理解雇の4要件を緩和した判例

 判例の中には4つの要件を全て満たす必要はなく、4要素としているものもあります。 ロイヤル・インシュランス・パブリック・カンパニー・リミテッド事件(東京地裁)など。

 整理解雇をする場合、裁判所は必ずしも整理解雇の4要件全てが満たされなければ法律効果が発生しないのではなく、これらを考慮要素として、個別具体的な事情を総合考慮して解雇権濫用の判断をすることとし、4要件全てが充足していなくても解雇回避努力を尽くしていれば、整理解雇が有効とされたこともありますナショナル・ウエストミンスター事件 東京高裁 平12.1.21)。

 

(判例)

あさひ保育園事件 最高裁第1小(昭和58・10・27)
石川島興業事件 神戸地方裁判所姫路支部(平成7年7月31日)
奥道後観光バス事件決定 最高裁第1小(平成15.10.9決定)
川崎重工業事件 大阪高等裁判所(昭和38年2月18日)
紀伊高原事件 大阪地裁判決(平成9年6月20日)
正光会宇和島病院事件 松山地裁宇和島支判決(平成13年12月18日)
東洋酸素事件 東京高裁(昭和54・10・29)
日証事件 大阪地方裁判所(平成7年7月27日)

 

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