自宅待機

 自宅待機とは、労働者の出勤を禁止する措置であり、使用者が労働者の労務提供の受領を拒否することをいいます。

 使用者には、労働契約により労働者を就労させる権利と賃金を支払う義務が生じ、労働者には、就労の義務と賃金請求権が生じます。しかし、使用者には、労働契約により労働を受領しなければならないという義務が生じるわけではありません。したがって、使用者はいつでも自由に経営上の理由で従業員を休業させ、自宅待機を命ずることが可能です。

 自宅待機には2つの性格があります。
(1) 自宅待機していること自体を労務の提供の業務命令とする場合
 当然賃金は支払う必要があります。
(2) 使用者が労務提供を拒否している場合
 使用者の責めに帰すべき事由による休業として、休業手当の支払いや賃金請求権があるとされます。ただし、労務提供拒否の理由が、懲戒解雇に相当するような悪質な行為があり、かつ、実態の正確な把握・調査や不法行為の再発を防ぐのが目的といった特段の事由があれば、労働者の責めによるとして賃金請求権が拒否されると考えられています。

 電車が止まったので自宅待機を命じたような場合、法的にいえば労務の提供がなかった分、賃金を払わなくても差し支えありません。

  台風により公共交通機関が不通となり、従業員が出勤できない場合、通常、使用者の責に帰すべき事由とはならないことから、会社に休業手当を支払う義務は生じないことになります。台風が近づいてくるため終業時刻を繰り上げて従業員を帰宅させることがありますが、このような場合には通常の休業手当の取扱いとは異なります。具体的には実際に勤務した時間に対して支払われる賃金が平均賃金の6割に相当する金額を満たしている場合、その差額を支払う必要はないということになります。

 「自宅待機」の時間は、労務を提供していない点では、休憩時間手待ち時間と共通した点がありますが、完全に自由利用が保障されている点で休憩時間に近く、「待機」している点で手待ち時間と似ています。しかし、「自宅待機」の場合は、場所的には自宅に拘束されるものの、その時間は自由に利用できますので、事業場(勤務場所)で使用者の指揮監督のもとに拘束される一般的な「手待ち時間」とは異なるものと考えられます。 自宅待機の時間を「労働時間」とみなす必要はありません。したがって、自宅待機の時間について賃金を支払う義務はありませんが、当番制で行わせるということであれば、何らかの手当を支給するのが望ましいでしょう。

 使用者の責めに帰すべき事由による自宅待機では、休業手当の支払いや賃金請求権があるとされます。最低60%の賃金を支払う義務があります。

 労務提供拒否の理由が、懲戒解雇に相当するような悪質な行為があり、かつ、実態の正確な把握・調査や不法行為の再発を防ぐのが目的といった特段の事由があれば、労働者の責めによるとして、賃金請求権が拒否されると考えらます。自宅待機には、懲戒処分として命ずるもの(出勤停止)のほかに行うことがあるのです。

 例えば労働者の言動で職場秩序の乱れを沈静化するためや、不法行為が発覚して調査・処分決定までの間の前置措置のために行うことがあります。就業規則には、懲戒処分とは別に経営上の理由で自由に自宅待機を命じることができる旨を明記しておくことです。

日通名古屋製鉄作業事件(平成3年 名古屋地裁判決)
 
懲戒処分に先立って行われる自宅謹慎処分は、それ自体懲戒的性格を持つものではなく、当面の職場秩序維持の観点から執られる一種の職務命令であり、使用者の賃金支払義務は免れないものとされました

 自宅待機の命令を自由にできるといっても、業務上の必要性が希薄であるにもかかわらず自宅待機を命じ、あるいはその期間が不当に長期にわたるような場合は違法となります(ネッスル事件 静岡地裁 平2.3.23)。

 自宅待機は慰謝料請求や賃金請求などトラブルになりやすいものです。就業規則に懲戒処分とは別に経営上の理由で自宅待機を命じることができる旨を明記しておくなどの規定を設けることが望ましいといえます。

就業規則規定例

第○条(自宅待機命令)
 経営上又は業務上必要がある場合には、会社は、従業員に対し自宅待機又は一時帰休(以下「自宅待機等」という。)を命ずることがある。

2 自宅待機等を命じられた者は、勤務時間中、自宅に待機し、会社が出社を求めた場合は、直ちにこれに応じられる態勢をとるものとし、正当な理由なくこれを拒否することはできない。

3 会社は、自宅待機等の期間について、労働基準法第26条の休業手当を支払うものとする。

 

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