退職・解雇

○退職

 「退職に関する事項」は、就業規則の絶対的必要記載事項ですから、就業規則に必ず規定しなければなりません。そして、任意退職、解雇、契約期間の満了による退職等労働者がその身分を失うすべての場合に関する事項をいうと解されています。

 退職とは、従業員との間の労働契約を解除して終了させることです。

  雇用契約の終了の形態には、解雇の他に退職があります。従業員からの意思表示、或いは、従業員と会社の双方の合意により労働契約を解除する場合を退職といいます。

 解雇、退職とも、使用者と労働者との間で交わされた労働契約にもとづく雇用関係が終了することを意味します。解雇も退職の中の一つの形態と考えられますが、労働法その他関連分野においては、使用者側からの一方的な労働契約の解約を解雇とし、それ以外の労働契約の終了事由を退職というように区別しております。

退職には、
 ・定年年齢に達した場合の定年退職
 
・従業員からの申出による自己都合退職
 
・有期雇用契約の期間が満了した場合の期間満了による退職
 
役員就任のための退職
 ・従業員の死亡による死亡退職
などがあります。

 就業規則等により定められたある一定年齢に達したことをもって雇用契約が終了する場合を定年退職、労働者の都合により雇用契約を中途で解約する場合を、自己都合退職といいます。

 私傷病等によりよる休職が長期化し、就業規則等により定められた休職期間を過ぎてもなお、職場復帰が見込めない場合に退職する場合は、雇用契約の自動終了ということになります。

 使用者による労働者への退職勧奨に労働者が応じた場合は、双方合意による雇用契約の終了ということになります。

 退職は、死亡や契約期間の満了などによる自然退職と、労働者の意思によって契約の解除となる任意退職に分かれます。解雇と違って法的にあまり問題となることがないため、労働基準法にも特に規定はなく、民法に若干の規定が置かれているだけとなっています。

 

 自己都合退職とは、従業員の申し出による労働契約の終了を言います。

 法的に言うと、「退職願」は労働契約についての労働者側からの合意解約の申し込みであるとされています。したがって、使用者側が退職願に承諾すれば合意解約は成立するというのが原則的な考え方です。

 自己都合退職に関しては、労働基準法上の定めはありません。労働者が退職するには、使用者に申し出て、その承諾を得て退職(労働契約の合意解約)するのが原則で、退職日を会社の承認する日とします。

 退職(合意解約)は、両当事者間の合意事項ですので、いつやめるか、いつまでに申し出させるかは、解約内容によると考えられます。民法627条に雇用契約の解約に関する定めがありまして、期間の定めのない雇用契約の場合(時給制、日給制により勤務しているときも)は、退職日の2週間前までに退職の意思表示(労働契約の解約申入れ)をすることで、その2週間を経過したときに、その雇用契約は解除されるというものです。つまり、14日前までに退職を申し出ればよいとされています。ただし、業務の引継ぎ等の問題は残ります。

 会社の就業規則に、「1ヵ月前に、退職願を提出して、会社が承認すれば1ヵ月後に退職が成立する。」旨を定めることは違法ではありませんが、法律上の効力はありません。その1ヵ月という期間に合理的な理由がない限り、2週間を経過すれば退職とみなされることになるのです。それを踏まえて、就業規則には『退職予定日の1ヵ月前まで』と定めるのがよいでしょう。

 使用者は、社員が即日の退職を希望したとしても、申し出た日から2週間は労働を命ずることができます。

 退職の手続きに関しては、特に法律上の規制はなく、口頭でも有効に成立します。しかし、退職という雇用関係上最も重大な意思表示をするに際してはこれを慎重に考慮し、その意志表示をする以上はこれに疑問を残さぬため、退職に際してはその旨を書面に記して提出すべきものとして、就業規則に退職に際し「退職願」を提出しなければならないことを定めるべきでしょう

 退職願や承諾に関し、書面できちんと証拠を残しておくことが、万が一後になって争いに発展したような場合に有効なためです。

 

「辞職」と「自己都合退職」

 「辞職」は「自己都合退職」に似ていますが、「辞職」はあくまでも労働者の一方的な退職の意思表示です。民法で定められており(第627条1項)、解約(退職)の申し入れをしてから2週間がたつと、会社の承認を得ていなくても労働契約は終了(退職)となります。したがって、「辞職」をあえて「自己都合退職」とは別に就業規則に明記しておくことで、会社、従業員ともに、その区別をはっきりさせることができると思われます。

 

 会社都合退職とは、通常、会社が倒産したり清算状態に入ったりして社員を解雇したり、あるいは会社の経営不振により社員を指名解雇したりして、社員が会社を退職する場合をいいます。いいかえれば、本人の意思に基づかない退職であって、その退職が使用者の責に帰すべき事由による場合であるといえます。

 裁判例にて会社都合退職に該当するか否かの基準をあげてみますと、次のようになります。
 (1) 実質的にみて従業員の自由意思に基づく退職か否か
 (2) 退職が会社の責に帰すべき事由によるものか否か
 (3) 会社がいかなる条項に基づいて退職金を支給すると明言していたか
 (4) 組合は会社都合という条項をどのように解釈していたか
 (5) 会社都合退職という条項作成の経緯はどうであったか

 天災のため事業継続が不可能となったための解雇は、会社都合・自己都合のいずれにも該当しないとされています。退職金を支払わなくてもよいというのではなく、退職金規程がある場合には、一般退職として退職金を支払う義務があります。

 表向きは退職であっても、実際には辞めたくないのに会社から退職するように勧められたり(退職勧奨)、強要されることもあります。

 

契約期間途中の退職の申し出

 民法では、期間の定めがない労働契約については、当事者はいつでも解約の申し入れができることとしています(ただし、労働基準法では、使用者側からの解約、すなわち、解雇については合理的な理由が必要であると制限していますが)。

 しかし、期間の定めがある労働契については、原則として契約期間の途中には解約することはできません。そこで、労働基準法は長期的な労働契約を締結することによって労働者を身分拘束することの弊害を排除するため、通常の労働契約は3年以内、高度専門職と60歳以上の者の労働契約は5年以内、というように契約期間に上限を定めています。

 以上のように、期間の定めのある労働契約については、原則として契約期間途中の解除を排除していますが、民法第628条は、例外として「やむを得ない事由」がある場合には、契約期間の途中での労働契約の解約をすることができることとしています。

 労働者が契約期間の途中に契約解除ができるのは、
(1) 使用者が採用時(労働契約締結時)に約束した条件を履行しなかったとき
(2) 労働者の死亡、怪我、疾病、または家族の看病等のために労務を提供することができなくなったような場合
に限られます。

 したがって、当該社員からの退職の申し出の理由を客観的に判断して、上記のようなやむを得ない事由に該当しない限り、その退職の申し入れを認めなくても構いません。それでも退職(労働契約を解除)するというのであれば、債務不履行(労働契約違反)として、債務者である当該契約社員に対して民法628条により損害賠償請求をすることができます。

民法628条(やむを得ない事由による雇用の解除)
 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。

 

○解雇

 労基法第89条には、就業規則に規定する解雇の事由について特段の制限はありません。しかし、契約法第16条において、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして、無効とする」とされています。

 

普通解雇

  普通解雇とは、就業規則に定めのある解雇事由に相当する事実があって行われる解雇をいいます。

 普通解雇の場合、解雇を行うためには次の要件を全て充たすことが求められます。
 ・就業規則等に定められた解雇事由に該当すること
 ・就業規則等に定められた解雇手続きを遵守していること
 ・30日前に予告するか、解雇予告手当を支払うこと
 ・解雇理由に相当な理由があること

 解雇の手続きを完了しているかどうか確認します。
 法令に定められた解雇の手続きを完了していない解雇は、無効と判断される可能性が高くなります。労働者を解雇する場合は、就業規則等で解雇事由を明示しており、今回の解雇事由がそれらに該当していることが必要です。そして、これらに定める解雇手続き及び労働基準法第20条の定めに従い解雇を行わなければなりません。

 なお、就業規則の解雇事由に該当した場合であっても、その解雇の正当性があるかどうかについても確認する必要があります。

解雇事由が就業規則に規定する解雇事由に該当すること

 解雇の事由は絶対的必要記載事項(必ず記載しなければいけない事項)ですから、就業規則に必ず記載しておくことが必要です。
 その際、解雇事由を列挙し、「その他前各号に掲げる解雇事由に準ずるやむを得ない事由がある場合には解雇する」旨の包括的解雇事由を規定しておくことが、後のトラブル防止になります。

 正当な理由による解雇とは、「一般人を首肯するに足りる理由」であり普通誰がみても解雇はやむを得ないと考えられる理由ということであり、過去の裁判例では、「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理性を欠き社会通念上相当として是認することができない場合」には無効とされております。

普通解雇は、以下の2つの側面から有効性が判断されます。

 (1) 客観的に合理的な理由があり、社会的にみても解雇する相当性があること

 「客観的に合理な理由」を欠く場合、および「社会通念上相当」でない場合は、解雇は無効。
 
これは、雇権乱用法理」と呼ばれ、労働契約法第16条を根拠としております。

 就業規則の解雇事由に該当する行為を行っても、使用者はどうしてそのような行為をしたのかについて検討し、それについて是正努力をしたがなお改善されない場合に、はじめて解雇することが出来ます。

  「客観的に合理な理由」とは、下記のいずれかを満たしていること
  ・労務提供義務違反
  ・秩序・利益維持義務違反
  ・誠実配慮の義務違反

 「社会通念上相当」とは、下記のいずれをも満たしていること
  ・程度が重大であること
  ・他に解雇回避手段がないこと
  ・情状酌量すべき事情を加味していること
    反省や改善の見込の有無・改善の機会を与えていたか
    平素の勤務態度はどうであったか

(2) 使用者の解雇回避努力義務

 使用者の誠実配慮の義務(信義則上の義務)を根拠としております。

 使用者には、解雇回避努力義務(ここでは教育・指導を通じて勤務態度不良行為を回避させること)が課されており、使用者の教育・指導による改善更正の努力にも関わらず従業員の態度が改まらなかった場合に限り、解雇が正当化されます。
 なお、使用者の教育・指導の具体的内容とは、面接や口頭による注意・指導や始末書などの軽い懲戒処分による事前の警告などです。

 「従業員の改善更正が不可能な場合」や「著しく困難であることが明らかな場合」、あるいは「従業員の義務違反の程度が重大な場合」に限り、使用者の改善更正の努力措置は不要となります。

 採用の際に、即戦力として高い技術や能力を評価され、特定の職務やポストに就いた場合で、「その期待の技術や能力を有してはいなかった場合」や「当該職務やポストが廃止された場合」は、争いが起こった際には、比較的容易に普通解雇の正当性が認められます。

 配置転換異動等その労働者の能力に応じた職場・職種への転換を行ったかどうか。

 なお、新卒で入社した場合には、この解雇回避努力が要求されますが、中途採用で職種限定・一定の能力を有していることが前提で採用された場合には、解雇回避努力が一般的に要求されません。

 大企業の場合は、職種がいろいろあるので職種転換努力が強く求められますが、職種が少ない零細企業では、職種転換努力は要求されることはほとんどありません。

 

普通解雇 妥当性の基準

 普通解雇とは、労働者の労働能力や労働適格性の欠如、勤務態度不良、非違行為など、労働者に起因する理由により使用者側の都合としてする解雇のことをいいます。

(普通解雇の妥当性の基準)

 解雇は、就業規則の絶対的記載事項です。解雇の理由を就業規則に明定していなければなりません。

 普通解雇の妥当性を判断する基準として、まず、解雇理由が客観的に見て合理性があるかを確認します。

 具体的には、解雇に際して、
 (1) 解雇理由が存在するか
 (2) その解雇理由が解雇に値するほどのものか
という点を審査します。これを合理的限定解釈といいます。

 次に、解雇理由に客観的合理性が認められる場合に、さらに社会的相当性があるかを確認します。
 具体的には、
 ① 被解雇者の行為が本当に解雇に値するものか
 ② 同一社内における同様のケースの処分状況と比較して均衡が取れているか
 ③ 労働者の勤続年数や生活状況、転職の可能性の有無
という点を審査します。

 

具体的事由ごとの客観的合理性

試用期間中の解雇  

 「試用期間中は前期のようなこれを置く趣旨に鑑み、右適格性等の判定にあたって使用者に就業規則等に定められた解雇事由や解雇手続等に必ずしも拘束されない、いっそう広い裁量・判断権(かような広い裁量・判断権を含む解雇権)が留保されているものと解するのが相当」(静岡宇部コンクリート工業事件 東京高裁 48.03.23)

○私傷病を理由とする解雇

(1) 休職期間を設けている場合
 傷病により労務の提供ができないというだけでは、解雇する事はできません。
(2) 傷病の程度
 当該傷病が労務提供を完全に困難にしている程度に重大でなければ解雇はできません。
(3) 傷病回復の可能性
 現在傷病により労務の提供が困難であっても、近い将来回復する見込みがあるときは、解雇は否定されます。
(4) 配置転換の可能性
 配置転換が可能な場合は、それを検討しなければなりません。
(5) 傷病の原因
 傷病の原因の一端が会社にもあると認められる場合は、その点を考慮しなければなりません。

(心身の故障による解雇)
 「症状固定の状態(治療を継続しても医療効果これ以上期待出来ない状態)になれば、再就職の困難さという点についてもそれ以上の改善の見込が失われるのであるから、症状固定時以降は、再就職可能性の回復を期待して解雇を一般的に禁止すべき理由はなくなる。」(名古屋埠頭事件 名古屋地裁 平2.4.27

(休職後の解雇)
 「直ちに従前業務に復帰出来ない場合でも、比較的短期間で復帰することが可能である場合には、休業又は休職に至る事情、使用者の規模、業種、労働者の配置等の実情から見て、短期間の復帰準備期間を提供したり、教育的措置をとるなどの信義則上求められる。」(全日空空輸事件 大阪地裁 平11.10.8

勤務成績不良、能力不足による解雇

(1) 勤務成績不良、職務能力欠如、勤務態度不良の事実

 勤務成績不良や職務能力欠如、勤務態度不良の事実があるというだけでは、解雇理由とはなりえません。会社の該当労働者への注意や指導・教育等の頻度やその内容等を検討して、会社のその労働者への指導や教育等が十分行われたにも拘らず、なお労働者の固有の性格や能力レベルにより改善の見込みがないと判断されるに至って、初めてこれらを理由とする解雇が有効と認められることになります。

(2) 勤務成績不良の程度・職務能力欠如の程度
 業務への業務への影響がさほどでもないときは、客観的合理性があるとはいえません。

(3) 勤務成績不良・職務能力欠如の評価基準の正当性
 人事考課が絶対評価ではなく、相対評価の場合における下位順位に位置する者の解雇は客観的合理性を否定されるようです。

(4) 勤務成績不良者・勤務能力欠如者に対する注意、指導、教育等
 その者の成績なり能力なりが向上するような、教育等の配慮が十分になされていたかどうか。成績、能力向上の機会を付与し、その付与した事実を客観的証拠として残しておく必要があります。

 (5) 配置転換
 当該職務が不適格でも、企業内の他の職務への配置転換が可能な場合は、これを検討する必要があります。

(6) 被解雇者の職務上の地位
 能力や経験を買われて相応の地位に就いた者や職務に就いた者に対する能力評価は一般より厳しい場合でも認められる傾向にあります。会社が期待したほどの能力を発揮できなかった者に対して、十分な教育の機会を付与せず、解雇した場合でも、そのような解雇は認められる傾向にあります(メディア・テクニカル事件 東京地裁 平7.7.7)。

(能力不足による解雇)

 人事本部長という地位を特定した契約であって(中略)、人事本部長として不適格と判断した場合に、あらためて右規則10条に則り異なる職位・職種への適格性を判定し、当該部署への配置転換等を命ずべき義務を負うものではないと解するのが相当(フォード自動車事件 東京高裁 昭59.3.30)。                                 

(人事考課を根拠とする解雇)

 労働能力が劣り、向上の見込がない』というのは、右のような相対評価を前提とするものと解するものは相当ではない。すでに述べたように、他の解雇事由との比較においても、右解雇事由は、極めて限定的に解さなければならないのであって、常に相対的に考課順位が低い者の解雇を許容するものと解することが出来ないからである(セガ・エンタープライゼズ事件 東京高裁 平11.10.15)。

○労働義務の不履行による解雇

 忠実義務違反

(1) 使用者に実害を与えていない場合
 例えば、使用者の不正に対する内部告発等による場合は、これを理由とする解雇は無効です。

(2) 虚偽の内容による会社批判の場合
 これを理由とする解雇は有効となりえます。

(労働者の責に帰すべき事由と解雇)  

 「原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」 「出勤不良又は出欠常ならず、数回に亘って注意を受けても改めない場合」(昭23.11.11 基発1637号、昭31.3.1発111号)

(多数回に及ぶ遅刻と解雇)

  「回数にして60回、累計時間にして6630分(110時間30分)に及ぶ遅刻」(日産自動車事件 東京高裁 61.11.28

○組織不適応・業務適正の欠如による解雇

 (業務適正の欠如と解雇)

 「職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合において(中略)、特定の業務について労務の提供が十全には出来ないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易度等に照らして、他の業務について労務の提供をすることが出来、かつ、その提供を申し出ているならば、(業務適正がないことを理由とする解雇は無効)」(片山組事件 最高裁 平10.4.9

○職務命令違反を理由とする解雇

(1) 職務命令が違法・不当な場合
 職務命令が違法・不当な場合、その命令に違反したとしても、その命令違反を理由とする解雇はできません。例えば、労働契約にはない業務命令に対する違反を理由とする解雇は無効となります。

(2) 業務命令違反に合理的理由がある場合
 業務命令違反に合理的理由がある場合、会社が当該労働者に業務命令の内容を十分に説明していない場合、会社の業務に著しい支障が出るような事実がない場合は、解雇の効力が否定される場合があります。

(3) 業務命令違反による解雇が人員整理の一環としてなされる場合
 整理解雇の判断基準により、当該解雇が検討されることになります。

(業務上の指示命令違反による解雇)       

 「命令を無視し、違反行為を行おうとしたため、職場規律維持の上で支障が少ない業務へ転換したことは職場管理上やむを得ない措置ということが出来、これが殊更被上告人に対して不利益を課するという違法、不当な目的でされたものであるとは認められない。」(国鉄鹿児島自動車営業所事件 最高裁 平5.6.11

  残業を拒んだだけで解雇ができるかといえば、過去に何度も注意をし、懲戒処分を行い、会社に著しい損害を与えたような場合を除き、解雇を行うのは難しいといえます。

(転勤命令拒否と解雇)  

 「転勤命令が他の不当な動機、目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではない。」(東亜ペイント事件 最高裁 昭6.17.14)

出向命令拒否と解雇)

 「採用の際に会社の出向制度を理解し、将来における関連会社等への出向について予め包括的同意を被申請人会社に与えたもの(中略)、会社は申請人に関する将来の他の二社のうちのいずれかへの出向を命ずる権限を取得したもの。」(興和事件 名古屋地裁 昭55.3.26

職務上の不正行為

(1) 会社に損害を与えた場合Fotolia_71513492_XS

 その労働者の会社内での職務、地位、会社の業務内容、不正行為の内容・態様・動機、被害の程度、反省の有無等を考慮して、特に被害の弁済のある場合は、解雇が否定されることがあります。

・東栄精機事件(大阪地裁 平8.9.11)
 無断でコンピューターデータを抜き取り、メモリーを消去し、加工用テープを持ち帰った事例。本件は懲戒解雇事由が認められる場合であったが、通常解雇として解雇された。

○風紀びん乱

(風紀びん乱と普通解雇)

 「被告会社従業員の風紀に対する不信感を与え、現に地元学校からの就職希望者が減少する結果となったり、貸切バスの運転手や車掌が乗客から本件非行にかこつけて揶揄され、(中略)、本件の問題を契機にして車掌の一員であるAを退職の余儀なきに至らしめ(中略)、他の車掌に超過勤務あるいは休日出勤させ、そのための手当を支給せざるを得なかった(中略)、本件非行によって被告会社の体面を汚し、かつ、損害を与えたものであることが明らかで(中略)、被告会社のなした通常解雇処分は有効。」(長野電鉄事件 長野地裁 昭45.3.24

○暴力・暴言

(1) 暴力・暴言が突発的な場合的
 過去において暴力暴言の事実がなく突発的な喧嘩に過ぎないような場合は、その暴力・暴言が粗暴に過ぎるとしても、それによる解雇は無効となることが多いようです。

(2) 暴力・暴言を繰り返している場合
 その内容、態様、動機、結果、業務との関連性、業務阻害の有無や程度、反省や謝罪の有無、損害を与えた場合の示談の有無等を考慮し、暴力・暴行が治らない場合は、解雇は有効となりえます。

普通解雇理由の並存

 個々の解雇理由が並存して、それら一つ一つは解雇のまで至らない場合でも、総合的に見て労使の信頼関係が破壊されたということが十分いえる場合は、解雇理由が並存することを理由としてする解雇は有効となります。

 

懲戒解雇

 懲戒解雇とは、重大な規律、秩序、勤務義務違反などをしたことにより、就業規則上の最も重い懲戒処分が科されて行われる解雇のことをいいます。

 普通解雇の場合は、30日前に予告するか平均賃金の30日分の解雇予告手当を支払わなければなりませんが、懲戒解雇は即時に解雇するのが普通です。

 退職金を全額不支給にしたり、減額支給することもあります。

 解雇予告なしに即時解雇するためには、労働基準監督署長に「解雇予告除外認定許可」を申請し、許可を受ける必要があります。「懲戒解雇」を行って、その解雇事由について労働基準監督署長の認定を受けた場合には、解雇予告手当を支払う必要がなくなります。認定を受けていない場合には、懲戒解雇であっても解雇予告手当の支払いが必要となります。ただし、就業規則に定めがない事項について、使用者が勝手に懲戒解雇を行うことはできません。それぞれの企業の事情に即した解雇事由を定めておくことが大切です。

 労働基準監督署長は、通達により、以下の基準に基づき、解雇予告除外認定が妥当かどうか判断します。
 ① 極めて軽微なものを除き、事業場における盗取、横領、傷害等刑法に該当する行為のあった場合
 ② 賭博、風紀紊乱等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合
 ③ 雇い入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合
 ④ 他の事業へ転職した場合
 ⑤ 原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
 ⑥ 出勤不良または出勤常ならず、数回にわたって注意を受けても改めない場合

 懲戒解雇は、以下の2つの側面から有効性が判断されます。

1.「客観的に合理な理由」を欠く場合、および「社会通念上相当」でない場合は解雇は無効。

 これは、解雇権乱用法理と呼ばれ、労働基準法18条の2を根拠としております(→のちに労働契約法第16条に定められるようになりました。)。

 「客観的に合理な理由」とは、下記のいずれかを満たしていることです。
 ・秩序・利益維持義務違反
 ・誠実配慮の義務違反

  「社会通念上相当」とは、下記のいずれをも満たしていることです。
 ・程度が重大であること
 ・他に解雇回避手段がないこと
 ・情状酌量すべき事情を加味していること(反省や改善の見込の有無、改善の機会を与えていたか、平素の勤務態度はどうであったか、その他)

2.懲戒処分の有効性

 懲戒解雇は会社の従業員に対する制裁処分としてなされるものであるため、次の原則があります。

(1) 罪刑法定主義

 懲戒解雇の処分をするためには、その理由となる事由とこれに対する懲戒の種類・程度が就業規則に明記されていなければなりません(フジ興産事件最裁 15.10.10)。
 これを「罪刑法定主義」といいます。

 法律や就業規則などによる具体的な規定がなければ、使用者は労働者に職場秩序を乱す行為があっても、その労働者を懲戒することはできないということです。ただ、例外として、明らかに企業秩序違反行為であると認められるレベルの行為は、定めがなくても認められています

 処分者の被処分者に対する恣意性を排除し、客観性を保持する目的があります。

(2) 不遡及の原則

 懲戒の規定は、それが設けられる以前の違反に対して遡って適用することはできません

(3) 二重処分の禁止(一事不再理の原則)

 同一の事由に対して2回以上の懲戒処分を科すことができません。

(4) 平等取扱の原則

 違反行為の内容や程度が同じ場合には、それに対する懲戒の種類や程度も同じでなければなりません。

(5) 相当性の原則

 懲戒処分は、違反の種類・程度その他の事情に照らして社会通念上相当程度なものでなければなりません。

 懲戒権の行使(懲戒処分)は、権利濫用法理によって規制されており、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為および態様その他事情に照らして、客観的合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効となります。(ダイハツ工業事件 最高裁 昭58.9.16  労働契約法15条

(6) 適正手続

 懲戒処分にあたっては、当然に適正な手続きが要求されます(千代田学園事件 東京高裁 平16.6.16)。

 弁明の機会を与え、事情をよく聴取するなど、適正な手続によるべきものとされています(西日本短期大学事件 福岡地裁 平4.9.9)

 手続において瑕疵があってはならないというものです。

 

○具体的対象行為

 まず、具体的対象行為を見ていく前に、その妥当性の判断要素となる客観的合理性社会的相当性を確認しておかなければなりません。

 客観的合理性は、労働者の懲戒処分の対象となる行為がどの程度のものか、その対象行為がどの頻度で行われたか、その行為に対して、使用者は是正勧告や教育をしたか等が考慮されます。

 次に、社会的相当性は、同種同様の行為に対する社会一般的な同業種の企業の処分状況と比較してその処分が重きに失するものではないか、その会社における過去の処分と比較して均衡が取れているか等、処分対象者に有利になる材料を全て考慮します。

 懲戒解雇を行うためには、就業規則上、懲戒解雇事由が定められ、その事由に該当する具体的な事実が必要です。懲戒解雇出来ない場合は、普通解雇を行います。

 解雇を行うには就業規則上の根拠が必要となりますので、常時10人未満の事業所を含め、就業規則を作成し解雇事由を明記しておくこと、及び就業規則を周知させていることが解雇を有効にするためには必要です。懲戒解雇事由は限定列挙、普通解雇事由は例示列挙と解されています。

 就業規則に規定する懲戒解雇事由に相当する行為があったこと、解雇が客観的で合理的な理由があり、社会的にも相当と認められること、及び原則として、次のような場合であることです。

(参考)昭23.11.11基発1637号 「労働者の責に帰すべき事由」として認定すべき事例
・雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合及び雇入れの際、使用者の行う調査に対し、不採用の原因となるような経歴を詐称した場合
・他の事業場へ転職した場合
・原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
・出勤不良又は出欠常ならず、数回にわたって注意を受けても改めない場合
・原則として極めて軽微なものを除き、事業場内における盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為のあった場合
 
一般的にみて、「極めて軽微」な事案であっても、使用者があらかじめ不祥事件の防止について諸種の手段を講じていたことが客観的に認められ、しかもなお労働者が継続的に又は断続的に盗取、横領、傷害等の刑法犯又はこれに類する行為を行った場合、あるいは事業場外で行われた盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為であっても、それが著しく当該事業場の名誉若しくは信用を失墜するもの、取引関係に悪影響を与えるもの又は労使間の信頼関係を喪失せしめるものと認められる場合です。

・賭博、風紀素乱等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ほす場合
 これらの行為が事業場外で行われた場合であっても、それが著しく当該事業場の名誉若しくは信用を失墜するもの、取引関係に悪影響を与えるもの又は労使間の信頼関係を喪失せしめるものと認められる場合です。

 認定に当たっては、必ずしも右の個々の例示に拘泥することなく、総合的かつ実質的に判断すること。

 

○妥当性の判断基準

 懲戒解雇に争いがある場合、裁判所などでは狭義の普通解雇の場合と同様に、その解雇が適当かどうか、解雇権濫用法理」に基づいて審査します。すなわち、その解雇が客観的に見て合理性があるか、合理性があるとして解雇という処分が社会的に相当かどうか、という点により判断されることになります。

 

懲戒解雇 妥当性の基準

 懲戒解雇とは、就業規則上の最も重い懲戒処分が科されて行われる解雇のことをいいます。

○経歴詐称

 経歴詐称については、判例も一貫して懲戒事由になることを肯定しています。
 詐称された経歴は重要なものであることを要し、最終学歴、職歴、犯罪歴などがこれにあたるとされています。詐称の内容や当該労働者の職種などに即して判断されます。

(1) 客観的合理性
 使用者が労働者の採用に当たって、適合性や労働力の審査のために、学歴・職歴・犯罪暦等その労働力のために告知を求めるのは適法であり、労働者は、信義則上その事実を告知する義務があります。したがって、労働者が虚偽の告知や事実を隠匿したことにより、採否の決定に影響を与えたり、入社後の処遇について使用者の判断を誤らせたような場合は処分の対象として肯定される傾向にあります。 

(2) 社会的相当性
 経歴詐称について、採用面接時に使用者がどの程度注目していたか、詐称がどの程度業務に影響を及ぼしたか、詐称の程度が悪質か否か等から、その処分の程度が妥当かどうか判断されます。

(経歴詐称と解雇)
 「経歴詐称の詐術を用いて雇入れられたこと自体を制裁の対象とするに妨げなきもの。」(大和毛織事件 東京地裁 昭25.8.31

(不信義性と解雇)
 「資料の一つである前歴を秘匿してその価値判断を誤らしめたという不信義性が懲戒事由とされる。」(東京出版販売事件 東京地裁 昭30.7.19

(学歴詐称と解雇)
 「2回にわたり懲役刑を受けたことを及び雇入れられる際に学歴を偽ったことが被上告会社就業規則所定の懲戒解雇事由に該当する。」(炭研精工事件 最高裁 平3.9.19

○職務怠慢

 職務懈怠はそれ自体では債務不履行として賃金カットの対象になるに過ぎませんが、そのことが同時に服務規律に違反する場合は懲戒事由ともなります。

(1) 客観的合理性
 無断欠勤、出勤不良、職場離脱等が、正当な理由なく重なった場合は、処分の対象として客観的合理性が認められます。

 (2) 社会的相当性
 欠勤、遅刻、早退の理由や程度、使用者によるどのような注意等をしてきたか、業務への影響、過去の同様なものへの処分状況等が考慮されます。

 職務懈怠による懲戒解雇が有効とされた例
  ・東京プレス事件(横浜地裁 昭57.2.25)
  ・日経ビーピー事件(東京地裁 平14.4.22)

○勤怠不良

 (労働者の責に帰すべき事由と解雇)

 「原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」  「出勤不良又は出欠常ならず、数回に亘って注意を受けても改めない場合」(昭和23.11.11 基発1637号、昭和31.3.1 基発111号)

(多数回に及ぶ遅刻と解雇)
 回数にして60回、累計時間にして6630分(110時間30分)に及ぶ遅刻」(日産自動車事件 東京高裁 昭61.11.28

 ○職務命令違反

 (1) 客観的合理性
 業務命令の有効性と有効性がある場合に労働者がなぜ業務命令に従わないのか、従わない理由に合理性があるかどうかという点から判断されます。

 (2) 社会的相当性
 業務命令違反がどの程度会社の業務に影響を及ぼしたか、社内秩序を維持するために解雇せざるを得ないか、他の同様の事例と比較して過酷過ぎないかどうかによって判断されます。

 「残業命令に従わなかった原告に対し被告会社のした懲戒解雇が権利の濫用に該当するということも出来ない。」(日立製作所武蔵工場事件 最高裁 平3.11.18

業務上の虚偽報告

 「警告を熟知していたにもかかわらず、あえてこれを無視し、前記不正打刻に及んだものであって、このような事実関係のもとにおいてはこの不正打刻がふとしたはずみの偶発的なものという認定は極めて合理性に乏しく、原告の懲戒解雇は有効である。」(八戸鋼業事件 最高裁 昭42.3.2

風紀びん乱

 (風紀びん乱と普通解雇) 「被告会社従業員の風紀に対する不信感を与え、現に地元学校からの就職希望者が減少する結果となったり、貸切バスの運転手や車掌が乗客から本件非行にかこつけて揶揄され、(中略)、本件の問題を契機にして車掌の一員であるAを退職の余儀なきに至らしめ(中略)、他の車掌に超過勤務あるいは休日出勤させ、そのための手当を支給せざるを得なかった(中略)、本件非行によって被告会社の体面を汚し、かつ、損害を与えたものであることが明らかで(中略)、被告会社のなした通常解雇処分は有効。」(長野電鉄事件 長野地裁 昭45.3.24

金品の着服・横領

(1) 客観的合理性
 金品の着服・横領はその金額の多寡に関わらず懲戒解雇事由としては肯定されます。ただし、金品の着服・横領による解雇は、その事実に証拠があるか、相当な蓋然性があるか、それらが十分に明らかでなければならず、単に着服・横領の疑いがあるといった程度ではその理由としては不十分です。

(2) 社会的相当性
 金品の着服・横領はそれが1回目であったとしてもそれによる懲戒解雇は肯定されます。ただし、着服・横領の意図がなかった場合で、単に会社内規則に違反しているだけといった場合は、処分として重過ぎると判断されることもあります。

 また、チップは、そもそも会社に納金すべき性質のもではなく、チップに関する社内規則に違反したとしても、それを理とする懲戒解雇は否定される傾向にあります。

 崇徳学園事件(最高裁 平14.1.22)
 法人の事務局の最高責任者が会計処理上違法な行為を行い、法人に損害を与えた行為について、法人が同人を懲戒解雇したことは、客観的にみて合理的理由に基づくものであり、社会通念上相当であるとされた。

・関西フェルトファブリック事件(大阪地裁 平10.3.23)
 営業所長ないし所長代理として、経理担当者の横領行為を容易に知り得る状況にあったにもかかわらず、経理内容のチェックを著しく怠ったため、横領行為の発見が遅れ、その結果、被害額を著しく増大させた事例で、懲戒解雇が認められた。

・バイエル薬品事件(大阪地裁 平成9.7.11)
 場合として、所定の手続を経ることなく無断で総額1, 500万円の機器を私用のため購入し、納入業者から不正納品書及び請求書を提出させ、同社から過払いとして返金を受けた現金10万円を勝手に使用した事例で、懲戒解雇が認められた。

・ナショナルシューズ事件(東京地裁 平2.3.23)
 商品部長という要職にありながら、勤務会社の業種と同種の小売店を経営し、勤務会社の取引先から商品を仕入れ、また、商品納入会社に対する正当な理由のないリベートの要求・収受を行った事例で、懲戒解雇が認められた。

会社の名誉・信用の毀損

 (会社の信用の毀損と解雇)  
 「会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような従業員の行為については、それが職務遂行と直接関係のない私生活上で行われたものであっても、これに対して会社の規制を及ぼしうることは当然認めなければならない。」(日本鋼管事件 最高裁 昭49.3.15

二重就職の禁止義務違反

(1) 客観的合理性
 二重就職することによって会社の秩序を乱したり、あるいは労働者の労務提供がおろそかになるような場合には、客観的合理性が認められますが、二重就職そのものが処分の対象として合理性があるわけではありません。

(2) 社会的相当性
 競業会社の取締役に就任したような場合には、処分の相当性を認める傾向にあります。

(二重就職禁止義務違反と解雇)  
 「無断で二重就職したことは、それ自体が企業秩序を阻害する行為であり、債務者に対する雇用契約上の信用関係を破壊する行為と評価されうる。」(小川建設事件 東京地裁 昭57.11.19

(二重就職禁止義務違反の例外と解雇)    
 「休職期間中近くの守田織物工場の主人の守田某に手伝いを頼まれた(中略)もので(中略)、企業秩序に影響せず、会社に対する労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度のものは含まれないと解する(中略)、したがってこれを懲戒事由とすることが出来ない。」(平仙レース事件 浦和地裁 昭40.12.16

職場内の暴力・暴言

(1) 客観的合理性
 職場内の暴力・暴言は、その事実のみで客観的合理性が認められます。

(2) 社会的相当性
 暴力・暴言に至った原因が会社にもその責任の一端がある場合や、暴力を起こしたり暴言を吐いたりした労働者が過去においてそのような事件を起こしたことが無く、被害者の怪我もたいしたことがないような場合、暴力を振るったり暴言を吐いたりした労働者が反省し、被害者への謝罪をし、治療費等の損害を補償しているような場合、懲戒解雇は重きに過ぎると判断されることが多いようです。

 逆に、暴行行為が悪質で、結果が重大、職場秩序に多大なダメージを与えたといったような場合、過去に暴力・暴言等で処分を受けたことがあるといったような場合は、処分は肯定される傾向にあります。

職場外の非違行為

 (1) 客観的合理性
 職場外の行為が処分の対象となるのは職場秩序に影響を及ぼした場合もしくは会社の社会的評価を下げるような行為をなした場合です。具体的には、職場外での犯罪行為、男女関係の問題、二重就職の問題などです。

 職場外での犯罪行為については、その行為の性質、情状、会社の種類や規模や地位等、労働者の会社内での地位や職種などを総合的に判断し、会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当程度重大といえる場合には、客観的合理性が認められます。

 男女関係の問題では、それが私的な問題である以上、会社の具体的損害、悪影響を与えた場合でない限り客観的合理性は認められないという判例が多く見られます。

(2) 社会的相当性
 職場外の犯罪行為については、その犯罪が企業の名誉や信用を著しく失墜させるような重大な犯罪であったり、犯罪行為によって労働者の労務提供が長期間不能になるような場合には処分の社会的相当性が認められるようです。

 男女関係の問題については、懲戒解雇の社会的相当性が認められることはあまりないようです。

(酩酊による非行と解雇)
 「右犯行は酔余に出たものであることが認められ、その処罰が小額の罰金刑に止まる点からみても、その罪質、情状において比較的軽微なものであった(中略)、社会的に報道されなかった事実は争いがなく(中略)、企業上問題となるような現実の損害を生じた事実については、疎明がない(従って、懲戒解雇は無効)(横浜ゴム平塚製作所事件 東京地裁 昭41.2.10

○刑事犯罪

(有罪判決を受けた者の懲戒処分と解雇)
 「従業員の職場外でされた職務遂行に関係のない所為であっても、企業秩序に直接の関連を有するものもあり、それが規制の対象となりうる。」(国鉄中国支社事件 最高裁 昭49.2.28

○内部告発と機密漏洩

(内部告発・機密漏洩と解雇)
 「内部の不正疑惑を解明する目的で行動していたもので、実際の疑惑解明につながったケースもあり、内部の不正を糾すという観点からはむしろ被控訴人の利益に合致するところもあったというべき(中略)、控訴人らの各行為に懲戒解雇に当たるほどの違法性があったとはにわかに解されない。」(宮崎信用金庫事件 福岡高裁 平14.7.2

政治活動・宗教活動

(職場における宗教活動と解雇)
 「職場は業務遂行のための場であって政治活動その他従業員の私的活動のための場所でないから、従業員は職場内において当然には政治活動をする権利を有するというわけのものでない(中略)、企業秩序維持の見地から、就業規則により職場内における政治活動を禁止することは、合理的な定めとして許される。」(目黒電報電話局事件 最高裁 昭52.12.13

 

就業規則規定例

第○条 (解 雇) 
 次の各号の一に該当する場合は解雇とする。
 (1) 勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがなく、従業員として不適格と認められるとき
 (2) 精神または身体の傷害により、業務に耐えられないと認められたとき 
(3) 事業の縮小・配置・部門等の閉鎖等のやむを得ない事情または天災事変これに準ずるやむをえない事情により事業の継続が困難なとき 
(4) 事業の縮小・配置・部門等の閉鎖等のやむを得ない事情、または天災事変これに準ずるやむをえない事情により他の職務に転換させることが困難なとき 
(5) 試用期間中または試用期間終了時までに社員として不適格であると認められたとき 
(6) 第〇条に該当する懲戒解雇事由に該当する事実が認められたとき
(7) 休職期間が満了した時点で復職できないとき(休職期間更新の場合を除く)
 (8) その他、前各号に準ずるやむを得ない事情のある場合

解雇予告の除外
 使用者は、次の場合は解雇予告又は解雇予告手当の支払いをせずに解雇することができます。
(1) 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合で、所轄労働基準監督署長の認定を受けた場合
(2) 労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合で、所轄労働基準監督署長の認定を受けた場合

 いずれも所轄労働基準署長の解雇予告除外認定を受けることが必要です。該当する場合でも認定を受けずに解雇することはできません。いわゆる解雇予告除外認定です。

 解雇予告除外認定を受けるためには、「天災事変その他やむを得ない事由」と解されるだけでは不十分で、「事業の継続が不可能」になることが必要です。また、「事業の継続が不可能」になっても、それが「やむを得ない事由」に起因するものでない場合には認定されません。

 やむを得ない事由とは、天災事変に準ずる程度の突発的な事由の意味で、経営者として必要な措置をとっても如何ともなし難く、かつ、解雇の予告をする余裕のない次のような場合をいいます。  ① 事業場が火災により焼失した場合(事業主の故意又は重大な過失の場合を除く)  ② 震災に伴う工場等の倒壊、類焼等により事業の継続が不可能となった場合

 事業の継続が不可能とは、事業の全部又は大部分が不可能になった場合をいい、多少の労働者を解雇すれば、従来通り操業し得る場合や別個の事業に転換し得る場合は含まれません。

 「労働者の責に帰すべき事由」とは以下に該当するような労働者を保護するに値しないほどの重大または悪質な義務違反又は背信行為が労働者に存する場合をいいます。
 a.極めて軽微なものを除き事業場内での盗取、横領、傷害など刑法犯に該当する行為があったとき
 b.賭博、風紀紊乱等により職場規律を乱した場合
 c.採用条件の要素となるような経歴の詐称
 d.他事業場への転職
 e.原則として2週間以上正当な理由がなく無断欠勤し、出勤の催促に応じない場合 又は背信行為が労働者に存する場合

 単に遅刻や欠勤が多いというだけでなく、そのたびに従業員に注意をしているなど改善措置をしていることが必要です。

 ここで注意しなければならないことは、就業規則で規定する懲戒解雇の事由と、解雇予告除外認定を受けることができる労働者の責に帰すべき事由は一致しないということです。この事由について、解釈例規は認定基準を示しています。懲戒解雇の全てが解雇予告も予告手当の支払もしないで即時解雇できるということにはなりません。表現が不鮮明な表現は誤解を招くことになるので、改めたほうが良いでしょう。

  就業規則で規定する懲戒解雇の事由と、解雇予告除外認定を受けることができる労働者の責に帰すべき事由は、必ずしも一致しません。懲戒解雇の全てが解雇予告も予告手当の支払もしないで即時解雇できるということにはなりません。表現が不鮮明な表現は誤解を招くことになるので、改めたほうが良いでしょう。

問題のある就業規則規定例

第○条(懲戒解雇)
 懲戒解雇事由に該当したときは、所轄労働基準監督署長の認定を受けた上で、予告期間を設けず即時解雇する。

 この条文は、所轄労働基準監督署長の認定を解雇の要件としているので適切ではありません。解雇要件はあくまでも就業規則に定める懲戒事由です。所轄労働基準監督署長は当該事実を認定するのみです。

 懲戒解雇で即時解雇する場合には、所轄労働基準監督署長に申請してその認定を受けることが必要です。認定を受けずに解雇する場合には、30日分の解雇予告手当を支給しなければなりません。(労基法第20条第1項)

就業規則規定例

第○条(普通解雇)
 従業員が次のいずれかに該当するときは、解雇することができる。 
 ・・・ 
2 前項の規定により従業員を解雇する場合は、少なくとも30日前に予告するか又は予告に代えて平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払う。ただし、第○条に定める懲戒解雇をする場合であって、労働基準監督署長の解雇予告除外認定を受けた場合及び次の各号のいずれかに該当する従業員を解雇する場合は、この限りではない。

 トラブル回避の為には、解雇権乱用法理に触れないように、就業規則では解雇する理由を想定出来る限り列記します。

 解雇事由にかかる包括的規定も定めます。

就業規則規定例

第○条(解雇)
 次の各号の一に該当する場合は解雇とする。
 ・・・
 その他前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき

 「その他前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき」という包括的条項について、裁判例で「必ずしも具体的に各号に該当する必要はなく、包括的にみて解雇を相当とするすべての場合を含む」(日経新聞社事件 東京地 昭45.6.23)と解されています。

 解雇には2説あります。1つ目は『例示列挙説』と言われ、『やむを得ない事情があれば解雇できる』とし、解雇は会社の自由であり、就業規則の解雇事由に定めに該当しない行為に対しても、解雇ができるというもの。2つ目は『限定列挙説』といわれ、就業規則の定めに該当しない行為に対しては、解雇できないというもの。前者が優勢であるが、トラブルを回避する為には注意が必要です。

 労働基準法の改正では非常に大きな変化がありました。それが「解雇ルールの法制化」ということで、「解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」という条文が入りました。これは従前の判例を積み上げて「解雇権の濫用法理」を明文化したものです。

トラブル回避の為の、就業規則の注意点

・出来るだけ具体的に解雇事由を定めること。

 解雇権乱用法理に触れないように、就業規則では解雇する理由を想定出来る限り列記します。例えば、「マニュアル、研修、チェックリストを用い、教育訓練を十分に行うも業務を習得できないとき」なども必要な解雇理由事項です。

 就業規則に定めの無い理由での解雇は行なえないと考えておいた方が良いでしょう。

 理由を特定できない解雇は、不当解雇として無効であると訴えられることもしばしばあります。

 「解雇」にすると解雇予告をするか、解雇予告手当を払わなければならない。

 また、行方不明の場合の解雇予告は公示送達をすることが必要になる。 「自然退職」にすると上記の手続きは不要である。多いのは突然出勤しなくなってしまう労働者です。通常は懲戒解雇ですが、解雇と言う以上解雇の意思が相手に届かなければなりません。

 行方不明の人に意思を伝達するのは面倒な手続きが必要です。そこで就業規則に「無断で14日以上出勤しないものは退職したものとみなす。」としておけば無断で退職したものとして扱うことが出来ます。

(注)「14日以上」と定める理由

 労基法の規定ではなく、民法で、期間の定めのない雇用契約を解除する場合の告知期間が、2週間とされていることに基づくことと、労働基準監督署長の解雇予告除外認定を受けて即時解雇できる基準に「原則として2週間以上正当な理由がなく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」という通達があるため。

 解雇通知が相手に到達する必要があるので、行方不明の場合など相手方への意思表示は、「公示送達」によらなければなりません。

 また、30日以上前に解雇予告を行う場合も、「公示送達」によることになります。

 一般に意思表示は「黙示」による場合も有効と解されていますので、行方不明が本人の「黙示」の退職の意思表示とみることができる場合には、「依願退職」として取扱うことが可能です。そこで、就業規則に「本人が行方不明となって30日を経過した場合は退職とする」旨の定めがあれば、本人の明示の意思表示がなくても自動的に退職(みなし退職)として取扱うことができますので、就業規則の見直しをお奨めします。  なお、この場合も本人に支払うべき給与等は、本人が受け取りに現れるまで会社で保管しておくか、「供託」の方法で預託しておかなければなりません。

 労働基準法第20条では解雇の予告について「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合においては、この限りでない。」とし、その事由について労働基準監督署長の認定を受ける必要があると定めています。いわゆる解雇予告除外認定です。ここで注意しなければならないことは、就業規則で規定する懲戒解雇の事由と、解雇予告除外認定を受けることができる労働者の責に帰すべき事由は一致しないということです。この事由については解釈例規は認定基準を示しています。  したがって、懲戒解雇の全てが解雇予告も予告手当の支払もしないで即時解雇できるということにはなりませんので、その点についての表現が不鮮明な表現は誤解を招くことになるので改めたほうが良いでしょう。

 自社の就業規則に従って、懲戒解雇は全て解雇予告除外認定が必要だと誤解して、「解雇予告除外認定申請」をする会社がありますが、そのようなことはありません。解雇予告をする、あるいは予告手当を支払えば、労働基準監督署長の認定を必要とせずに懲戒解雇はできます。なお、解雇予告除外認定については書類だけでなく実態調査を必要としますので、監督署が最優先で処理したとしても一般的に数日から1週間ほどかかります。その結果認定されないということもあります。そのような煩雑なことをするくらいなら懲戒解雇も全て解雇予告して処理するという会社もあります。

 

○諭旨解雇

 諭旨解雇とは使用者が労働者に対して行う懲戒処分の一つで、最も重い処分である懲戒解雇に相当する程度の事由がありながら、会社の酌量で懲戒解雇より処分を若干軽減した解雇のことをいいます。

 処分の対象となる労働に対し、将来の影響を考慮して退職願や辞表の提出を促すことで、解雇ではなく退職という形を認めることです。退職願等を提出しなければ懲戒解雇するというものです。

 諭旨解雇の実質は懲戒処分にほかなりません。退職金の支給に関して必ずしも自己都合退職と同様の扱いをする必要はありません。諭旨退職の場合の退職金の取り扱いについて、就業規則等に定めがある場合は、退職金の全部または一部を不支給とすることも可能です。ただし、退職金の減額が認められるか否かは、あくまでも退職の原因となった非行の程度によります。

 

 労基法をはじめ様々な法律で解雇が禁止される場合が定められています。就業規則に解雇の事由を定めるに当たっては、これらの法律の規定に抵触しないようにしなければなりません。

解雇が禁止されている場合 とは

(1) 労働者の国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇(労基法第3条)。

(2) 労働者の性別を理由とする解雇(均等法第6条)。

(3) 労働者の業務上の負傷、疾病による休業期間とその後30日間及び産前産後の休業の期間(産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内又は産後8週間以内の女性が休業する期間)とその後30日間の解雇(労基法第19条)。

(4) 労働者が労働基準監督機関に申告したことを理由とする解雇(労基法第104条、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第97条)。

(5) 女性労働者が婚姻したこと、妊娠・出産したこと等を理由とする解雇(均等法第9条第2項、第3項)。

また、女性労働者の妊娠中又は産後1年以内になされた解雇は、事業主が妊娠等を理由とする解雇でないことを証明しない限り無効とされています(均等法第9条第4項)。

(6) 労働者が、個別労働関係紛争に関し、都道府県労働局長にその解決の援助を求めたことを理由とする解雇(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成13年法律第112号)第4条)。

(7) 労働者が、均等法、育児・介護休業法及びパートタイム労働法に係る個別労働紛争に関し、都道府県労働局長に、その解決の援助を求めたり、調停の申請をしたことを理由とする解雇(均等法第17条第2項、第18条第2項、育児・介護休業法第52条の4第2項、第52条の5第2項、パートタイム労働法第24条第2項、第25条第2項)。

(8) 労働者が育児・介護休業等の申出をしたこと、又は育児・介護休業等をしたことを理由とする解雇(育児・介護休業法第10条、第16条、第16条の4、第16条の7、第16条の9、第18条の2、第20条の2、第23条の2)。

(9) 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、又はこれを結成しようとしたこと、労働組合の正当な行為をしたこと等を理由とする解雇(労働組合法(昭和24年法律第174号)第7条)

(10) 公益通報をしたことを理由とする解雇(公益通報者保護法(平成16年法律第122号)第3条)

就業規則規定例

第○条(解雇制限)
 従業員が次の各号に該当するときは、それぞれ各号に定める期間中は解雇しない。ただし、天災地変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった場合、又は第〇条の打切補償を行った場合には、この限りでない。
 (1) 業務上の傷病による療養のために休業する期間及びその後30日間
 (2) 産前産後の女性従業員が休業する期間及びその後30日間

2 従業員が療養の開始後3年を経過した日において労働者災害補償保険法に基づく傷病補償年金(以下「傷病補償年金」という。)を受けているときは、当該3年を経過した日、又は療養の開始後3年を経過した日後において傷病補償年金を受けることとなった場合は、当該傷病補償年金を受けることとなった日において、それぞれ前項本文の打切補償を行ったものとみなす。

 

○退職の手続き

 退職の手続きでは、  
 ・退職の具体的事情(自己都合退職、定年退職、懲戒解雇、死亡等)の手続を規定します。
 ・退職日は明確にします。  
 ・業務の引継ぎや退職希望者の義務を列挙します。 
 ・「退職の承認があるまでは退職できない」旨を明記しておきます。

 「7日以内に賃金を精算しなければならない」等とする労働基準法上の金品の変換の規定は、権利者の請求が前提となります(労働基準法23条)。

就業規則規定例

第○条  (退 職) 
 
 従業員が次の各号の一に該当するに至ったときは、その日を退職日とする。 
 
(1) 従業員の都合により退職を願い出て会社が承認をしたとき  
 
(2) 定年に達したとき 
 
(3) 死亡したとき 
 
(4) 期間を定めて雇用された者が雇用期間を満了したとき 
 
(5) 休職期間が満了し、復職できないとき  
 
(6) 役員に就任したとき  
 
(7) 行方不明になって30日が経過したとき
 
(8) 会社都合により転籍を命じられたとき 
 
(9) 経営上の都合により退職勧奨に本人が応じたとき
 (10) その他、退職につき労使双方が合意したとき

2 従業員が自己の都合により退職しようとするときは、少なくとも1ヵ月前までに退職願を提出しなければならない。

3 退職願を提出した者は、会社の承認があるまでは従前の業務に服さなければならない。これに反して業務の引継ぎを完了せず、業務に支障をきたした場合は、その者に懲戒処分を科すことがある。或いは、退職金を減額して支給することがある。

4 従業員が退職、解雇の際には、身分証明書・健康保険証など、会社から貸与された金品を速やかに会社へ返納しなければならない。

5 寮、社宅入居者については、退職日の翌日から3日以内に明け渡しを行わなければならない。

6 従業員が退職し又は解雇されたときは、会社は、退職又は解雇の日から2ヵ月以内に賃金を支払い、その他必要な手続を行う。また、従業員の権利に属する金品について返還するものとする。

 退職(合意解約)は、両当事者間の合意事項ですので、いつやめるか、いつまでに申し出させるかは、解約内容によると考えられます。このため、1ヵ月以上前もって申し出させることも可能です。

 退職願の提出は、対処日の1ヶ月前と定めている会社が多いが、法律上の効力はなありません。民法上は、期間の定めのない雇用の場合は、従業員は退職する2週間前にはその意思表示をすることが必要となっています(民法627条)。退職(合意解約)に限っては、退職日の14日前までと規定せず「1ヵ月前までに」と規定することも可能です。

 

○退職するときの業務引き継ぎ

 退職届を提出した人であっても、会社の承認があるまでは従前の業務に服さなければなりません。

 手続きを怠った場合、退職金の全部または一部を支給せず、または懲戒の対象とすることを規定します。

 退職時は最もトラブルの起きやすいときであり、就業規則の規定も慎重にしたいものです。引継ぎ等やめる従業員の方が行うべき手続きについてきちんと明記しておくとともに、それらが行われなかった場合のペナルティーについても記載しておきましょう。

年次有給休暇一括申請を抑制する業務の引継ぎ
 退職間際に年次有給休暇の請求があった場合には、他の時季に変更する余地がなく、会社の時季変更権は認められず、結果的に年給を一気に消化させることとなります。退職によりやむを得ない場合には、消化しきれない年休を買い上げるなど円満な解決方法もよいのですが、過去の未消化年休だけでなく、新たに年休が発生する更新日をまたがって請求するケースもあります。このような場合、民法上の職務の適正誠実遂行義務の一環として、「引継ぎ業務を行わない場合は、退職金を減額又は留保する」などといった規定を設ければ、過剰な権利行使を思いとどまらせる効果もあります。

 退職にて引継ぎが不十分な場合
 退職にて引継ぎが不十分な場合で、就業規則に「業務上必要がある場合には退職者を呼び出すことがある」と、業務の引継ぎの進捗状況によっては退職後も出社を命じる定めを設けている企業はあまり見られません。なぜなら、退職者にはこのような規定をしてもその効力が及ばないからです。

 「業務上必要がある場合には退職者を呼び出すことがある」旨を規定することが法律上問題あるかどうかということですが、就業規則に定めること自体には問題ありません。

 退職者には就業規則の効力が及ばないため、就業規則に定めた退職後の呼び出し義務に応じない場合に退職金を減額したり、制裁を加えることはできません。この点について裁判例でも、「その行為(業務の引継ぎを不完全なまま退職したこと)は、責められるべきものであるけれども、未だもって労働者である被控訴人らの永年勤続の功労を抹消してしまうほどの不信行為に該当するものと解することができない」(昭和59.11.29大阪高裁判決『退職金等請求控訴事件』と、業務の引継ぎが不完全なまま退職することは、退職金を支給しないと取扱うほどの不信行為には当たらないものとして、退職金を支払うべきものとしています。この規定には法的な効力がありませんので、引継ぎが不十分なときは、自由意思による協力を求めるほかありません。

 

行方不明者の取扱い

 第一に一定期間勤務しない場合は当然に自然退職とする規定を就業規則においておくことです。

 例えば豊田自動織機製作所事件(名古屋高判昭和48・3・15)では、「事故欠勤が1ヵ月以上で特別の事由が認められないときは、自然退職となる」という定めは使用者の解雇の意思表示をまつことなく、1ヵ月の事故欠勤期間満了と同時に自然退職となることを定めたものとされています。

 「解雇」にすると解雇予告をするか、解雇予告手当を払わなければなりません。

 また、行方不明の場合の解雇予告は公示送達をすることが必要になります。 「自然退職」にすると上記の手続きは不要です。

 第二には、「事故欠勤」という言葉には従業員の都合により出勤していないという意味が込められている可能性があるので、「原因不明の不出勤」に対応するためには、「事故欠勤」という言葉を拡大して定義付けするか、「原因の如何を問わず、会社に出勤しない状態(欠務)又は従業員が会社に届け出た連絡先での会社との連絡不能となった状態(行方不明)が○ヵ月以上経過した場合は自然退職とする。但し、業務上の災害による場合等この規則に別に定める場合を除く。」などの規定をおくことです。

 第三に、自然退職後の私物の整理や退職金、未払賃金の精算事務の円滑化のため、第一、第二のような場合(実際の書き方としては、「都合により従業員が受領できない場合」程度が妥当です)の精算金や私物等の受取りの使者=代行者(多くの場合、第一次的には同居の親族又は実家など)を従業員から身上届出を提出させる際に指定させ、その者に対して、これらの処理ができるようにしておくことです。そうではないと、いちいち供託などの方法や保管責任の問題が発生するためです。

 賃金については労働基準法の直接払いの原則との抵触が心配されますが、所定の手続に従い銀行振込がなされている場合は指定口座に振込めば問題ないでしょうし、上記のように使者として従業員自身に指定させておけば、労働基準監督署もこのような場合まで問題とすることはないでしょう(昭和22.12.4基収4093)。

 以上の準備なく行方不明者が出た場合で、親族や身元保証人が居る場合の実際の処理としては、親族から、仮に本人から異議が出た場合には親族らが責任をもって処理する旨の誓約書付きで、従業員の代理人として退職届を提出して貰うような方法が取られているようです。

  多いのは、突然出勤しなくなってしまう労働者です。通常は懲戒解雇ですが、解雇と言う以上解雇の意思が相手に届かなければなりません。

 行方不明の人に意思を伝達するのは面倒な手続きが必要です。そこで、就業規則に「無断で14日以上出勤しないものは退職したものとみなす。」としておけば無断で退職したものとして扱うことが出来ます。

就業規則規定例

第○条 (退 職)
 従業員が、無断欠勤連続14労働日に及んだ時は、その最終日をもって自己退職したものとみなす。

 

就業規則規定例

第○条 (退 職)
 従業員が、所定の休日も含め連続14日無断欠勤に及んだ時は、その日を退職の日とし、従業員としての身分を失う。

(注)「14日以上」と定める理由について

 労働基準法の規定ではなく、民法で、期間の定めのない雇用契約を解除する場合の告知期間が、2週間とされていることに基づくことと、労働基準監督署長の解雇予告除外認定を受けて即時解雇できる基準に「原則として2週間以上正当な理由がなく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」という通達があるためです。

 行方不明退職の期間は法律で定められているわけではありませんが、ただ、行方不明初日から30日~50日程度が適切です。この期間もあわせて就業規則に定めておきましょう。

 

〇退職後の「秘密保持の業務・機密漏洩の禁止」

 使用者は、労働者との合意により、退職後に労務提供の過程で知り得た使用者の機密情報を保持すべきことを労働者に求める場合には、退職時に保持すべき機密情報の内容、保持の期間等を書面により明示しなければなりません。

規定例

 ・従業員は退職後も、在職中に知り得た会社の秘密を漏洩してはいけない。

 ・会社の重要秘密に携わった従業員とは、特に誓約書を締結する。

 「退職した従業員の企業の機密(特許を取ろうとしていた商品・企業独自の知識や技術)を漏洩した場合は、退職金の返還もありえる。」という規定を明確に定めておく。
  「退職後の秘密保持の業務・機密漏洩の禁止」の規定を根拠に、退職金の返還や賠償請求などを請求することができる。

 しかし、退職後の守秘義務については微妙な問題を含んでいます。なぜなら、在職中に身につけた技術やノウハウのすべてに守秘義務を強制しますと、労働者は職業生活で身に付けた知識、経験、技能、人脈等を生かして転職をすることが不可能となり、職業選択の自由、営業の自由を不当に侵されることになるからです。しかし、一方では、企業にはさまざまなノウハウや顧客情報、開発中の製品情報等の営業秘密が存在していますので、企業独自のノウハウや技術等については一定の範囲で退職後も守秘義務を課すことがみとめられるものと考えられます。

 

〇退職後の競合避止義務

就業規則規定例

第〇条(退職後の競合避止義務)
 従業員は、退職後は、原則として2年間は、在席時に業務を行った県内あるいは隣接県内において、同業他社への就職あるいは 役員への就任ならびに同業の自営を行わないこと。

2 前項の適用従業員とは、特に誓約書を締結する。

 

○退職又は解雇時の証明

 労働者から使用期間、業務の種類、その事業での地位、賃金又は退職事由(解雇の場合は、その理由を含む。)について証明書を求められた場合、使用者は求められた事項について証明書を交付する義務があります(労基法第22条第1項)。

 退職時の使用証明に「退職の事由(解雇の場合にあってはその理由を含む)」の記載が求められております。これは主に雇用保険の給付を受ける際、離職理由によって給付の条件が変わることをめぐるトラブルを予防するという意味合いがあると思われます。

就業規則規定例

第○条 (退職時の証明)
 会社は、退職又は解雇された者が、退職証明書の交付を願い出た場合は、速やかにこれを交付する。

2 前項の証明事項は、試用期間、業務の種類、会社における地位、賃金、退職の理由(解雇の事由を含)とし、本人から請求された事項のみを証明する。

3 従業員が解雇を予告された日から退職の日まで、解雇の事由の証明を請求した場合はこれを速やかに交付する。ただし、その解雇以外の事由によって退職した場合は、証明書は交付しない事ができる。

 証明書の交付は1回に限らず、制限は設けられていない。
 証明書には、労働者が請求しない事項を記入してはならない。
 証明書の請求権の時効は2年である。

 

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