循環器
心疾患による障害
障害年金制度でいう心疾患とは、心臓だけではなく、血管を含む循環器疾患を指すものである。
心疾患では、
- 弁の障害(僧帽弁、三尖弁(さんせんべん)、大動脈弁の閉鎖不全 など)
- 心筋の障害(拡張型・肥大型心筋症 など)
- 冠動脈の障害(心筋梗塞、狭心症)
- 洞結節の障害(アダムス・ストークス症候群、WPW症候群、不整脈など拍動
パルスの障害)
の4つの疾患に大別される。
障害認定日の特例的取扱い
傷病が治った状態 |
障害認定日 |
障害等級の目安 |
人口弁、心臓ペースメーカー、植え込み型除細動器(ICD)の装着手術を受けたとき |
装着手術を受けた日 |
原則3級
|
心臓移植、人工心臓、補助人工心臓を移植または装着したとき |
移植または装着した日 |
1級 術後の経過で等級の見直しあり |
CRT(心臓再同期医療機器)及びCRT-D(除細動器機能付き心臓再同期医療機器)を装着したとき |
装着日 |
重症心不全の場合は2級 術後の経過で等級の見直しあり |
胸部大動脈解離や胸部大動脈瘤により人工血管を挿入置換したとき |
人工血管を挿入置換したとき |
3級 一般状態区分表の「イ」または「ウ」に該当 |
障害の程度 |
障 害 の 状 態 |
1級 |
身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの |
2級 |
身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの |
3級 |
身体の機能に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの |
障害手当金 |
- |
心疾患の検査での異常検査所見
区分 |
異 常 検 査 所 見 |
検査所見 |
A |
安静時の心電図において、O.2mV以上のSTの低下もしくは0.5mV以上の深い陰性T波(aVR誘導を除く)の所見のあるもの |
(1)心電図所見 ①安静時心電図 |
B |
負荷心電図(6Mets未満相当)等で明らかな心筋虚血所見があるもの |
(1) 心電図所見 ②負荷心電図 |
C |
胸部X線上で心胸郭係数60%以上又は明らかな肺静脈性うっ血所見や間質性肺水腫のあるもの |
(2)胸部X線所見 |
D |
心エコー図で中等度以上の左室肥大と心拡大、弁膜症、収縮能の低下、拡張能の制限、先天性異常のあるもの |
(5)心エコー検査 |
E |
心電図で、重症な頻脈性又は徐脈性不整脈所見のあるもの |
(1)心電図所見 |
F |
左室駆出率(EF)40%以下のもの |
(5)心エコー検査 |
G |
BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)が200pg/ml相当を超えるもの |
(6)血液検査 |
H |
重症冠動脈狭窄病変で左主幹部に50%以上の狭窄、あるいは、3本の主要冠動脈に75%以上の狭窄を認めるもの すでに冠動脈血行再建が完了している場合を除く |
(4)心カテーテル検査 |
I |
心電図で陳旧性心筋梗塞所見があり、かつ、今日まで狭心症状を有するもの |
(1)心電図所見 ①安静時心電図 |
一般状態区分表
区分 |
一 般 状 態 |
ア |
無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの |
イ |
軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの (たとえば軽い家事、事務など) |
ウ |
歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの |
エ |
身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの |
オ |
身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの |
身体活動能力
区分 |
身体活動能力 |
ア |
6Mets以上 |
イ |
4Mets以上6Mets未満 |
ウ |
3Mets以上4Mets未満 |
エ |
2Mets以上3Mets未満 |
オ |
2Mets未満 |
Mets : 代謝当量をいう。座位姿勢時に必要な酸素摂取量(3.5ml/kg体重/分)を1Metsとし、日常生活の活動がどの程度心臓に負担がかかるのかを判断するための、身体活動や運動強度の指標のこと。(平地歩行 3Mets 入浴 4~5Mets 階段昇り 6Mets)
1 弁疾患
僧帽弁(そうぼうべん)、大動脈弁、三尖弁の狭窄 など
心臓は、右心室、右心房、左心室、左心房の4つの部屋に分かれていて、その心臓の部屋には血液の逆流防止のための弁が4つある。
僧帽弁(左房室弁):
左心房と左心室の間にある弁
大動脈弁:
左心室から大動脈への繋ぎ目にある弁
三尖弁(右房室弁):
右心房と右心室の間にある弁
肺動脈弁:
右心室から肺動脈への繋ぎ目にある弁
三尖弁と僧帽弁の場合は、血液が心房から心室に流入する時には開かれ、心室から動脈に血液が押し出される時には閉じられて、血液が心房に逆流してしまうのを防いでいる。
肺動脈弁と大動脈弁の場合は、血液が心室から動脈に押し出される時に開かれ、駆出が終わると閉じられて、血液が心室に戻ってしまわないようにする。
障害の程度 |
障 害 の 状 態 |
1級 |
・病状(障害)が重篤(じゅうとく)で安静時においても、心不全の症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
2級 |
・人工弁を装着術後、6ヵ月以上経過しているが、なお病状をあらわす臨床所見が5つ以上、かつ、異常検査所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
・異常検査所見のA、B、C、D、Eのうち2つ以上の所見、かつ、病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの |
3級 |
・人工弁を装着したもの (複数であっても)
・異常検査所見のうち1つ以上、かつ、病状をあらわす臨床所見が2つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの |
障害手当金 |
- |
心臓弁障害
心臓弁は、心臓上部にある二つの小さな丸い左右の心房と、それぞれの下部にある心房よりも大きな円錐形の心室の四つの心腔を通る血液の流れを調整しています。それぞれの心室には、一方向に開く入口弁と出口弁が1つずつあります。右心室では、入口弁は三尖弁と呼ばれ、右心房から開いており、出口弁は肺動脈弁と呼ばれ、肺動脈内へ向かって開いています。左心室では、入口弁は僧帽弁と呼ばれ、左心房から開いており、出口弁は大動脈弁と呼ばれ、大動脈内へ向かって開いています。尖(小葉)でできたそれぞれの弁は、一方向のみに開いたり閉じたりするようになっています。
心臓の弁に起きる機能不全には、血液の漏出により生じる逆流という障害や、弁が適切に開かず血流が部分的に遮断されて起こる狭窄と呼ばれる障害があります。いずれの障害も、心臓が血液を送り出すポンプ機能に大きく干渉します。
心臓弁膜症
心臓には僧帽弁、大動脈弁、三尖弁、肺動脈弁の4つの弁があります。僧帽弁は左心房と左心室との間に、三尖弁は右心房と右心室との間に、大動脈弁は左心室と大動脈との間に、肺動脈弁は右心室と肺動脈との間にあります。僧帽弁と三尖弁は房室弁、大動脈弁と肺動脈弁は半月弁と呼ばれています。房室弁の場合は、血液が心房から心室に流入する時には開かれ、心室から動脈に血液が押し出される(駆出)時には閉じられて、血液が心房に逆流してしまうのを防いでいます。半月弁の場合は、血液が心室から動脈に押し出される時に開かれ、駆出が終わると閉じられて、血液が心室に戻ってしまわないようにします。このように心臓の各弁は、血液を効率よく循環させるために非常に大切なはたらきをしています。この弁のはたらきが損なわれる病気が心臓弁膜症です。
心臓弁膜症には、血液の流入や駆出が損なわれる狭窄症(ドアが十分に開かなくなった状態)と、血液の逆流が起こってしまう閉鎖不全症または逆流症の2つがあります。双方が同時に存在することもあります(狭窄症兼閉鎖不全症)。
心臓の4つの弁それぞれに狭窄症と閉鎖不全症がありますが、損なわれる頻度が多いのは僧帽弁と大動脈弁です。2つ以上の弁が同時に侵されることもあり、その場合は連合弁膜症といいます。
弁は扉の役割をしているが、この扉が十分に開かないと血液がスムーズに流れない「狭窄症」、扉がしっかり閉まらないで血液が逆流してしまうことを「閉鎖不全症」という。これらの弁に起こる障害のことを弁膜症という。
大動脈弁も僧幅弁も左心室系にあるので、この左心室系の2つの弁で障害が起こりやすい。
心臓弁膜症のメカニズム 僧帽弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症、大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、等があります。
弁の狭窄と逆流
心臓の弁は、血液の漏出により生じる逆流や、弁が十分に開かず血流が部分的に遮断されて起こる狭窄によって機能不全を起こします。狭窄と逆流は、どの心臓弁でも起こります。
以下では、この種類の障害が僧帽弁に発生した場合の図を示します。
正常な状態では、左心室が収縮し終わるとすぐに拡張が始まって再び血液が貯まり(拡張期)、大動脈弁が閉じて僧帽弁が開き、左心房から左心室へ血液が流れこみます。次に、左心室へさらに血液を送りこむために、左心房が収縮します。
左心室が収縮し始めると(収縮期)、僧帽弁が閉じて大動脈弁が開き、血液が大動脈へと送られます。
僧帽弁狭窄では、僧帽弁の開口部が狭くなり、拡張期に、左心房から左心室へ流れこむ血液の量が減少します。
僧帽弁逆流では、左心室が収縮するとき(収縮期)に、僧帽弁から血液が漏れて、一部が左心房内へ逆流します。
置換する弁には2種類、すなわち機械弁またはブタの心臓弁由来の生体弁があります。機械弁は長年の間使用できますが、その弁で血栓が形成されるのを予防するため、抗凝固薬を一生服用しなければなりません。生体弁は一般的に劣化が生じ、10~12年後には交換が必要になりますが、手術の2~3ヵ月後以降は抗凝固薬を服用する必要がなくなります。異常のある心臓弁と置換した弁は感染を起こす可能性があるので、心臓弁への細菌感染(感染性心内膜炎)を防ぐために、特定の時期(たとえば歯科的処置や医療行為の前)に抗生物質を予防投与する必要があります。
加齢による変化:
年をとると、僧帽弁や大動脈弁は厚くなります。大動脈が硬くなると、血圧が上昇して僧帽弁に負荷がかかり、心臓が効率的に血液を押し出すためにより多くの酸素が必要になります。このような加齢に伴う変化が原因で、心疾患のある高齢者に症状や合併症が生じることがあります。
○人工心臓弁を装着
弁置換術は患者の悪くなった弁を取り除き、生体弁もしくは機械弁に取り換える手術である。新しく植え込まれる心臓弁は「人工心臓弁」と呼ばれる。プラスチックと金属から作られた機械弁か生体弁の2種類がある。
機械弁
全て人工の材料が使われている。現在主流である機械弁は二葉弁という、主にパイロライティックカーボンという黒鉛が材料で半月状の2枚の弁葉が開閉する構造をしている。この素材は硬さ、強さ、耐久性、血液の付着しにくさなどの点で理想的な材料といえます。
機械弁の種類はたくさんありますが、セントジュード弁が一般的に使用されています。
弁の特性など多数の要因を考慮した上で使用する弁を選択します。機械弁は生体弁より長もちしますが、弁上に血栓が形成されるのを防ぐために、抗凝固薬を一生服用し続けなければなりません。生体弁は、抗凝固薬が必要となることはまれです。したがって、患者が抗凝固薬を服用できるか否かが重要な要因となります。たとえば、抗凝固薬は胎盤を通過し、胎児に影響を及ぼす可能性があるため、出産可能な年齢の女性に適用すべきではありません。
生体弁
牛の心膜や豚の心臓弁が現在使用されています。
心臓の手術は「全身麻酔」を用いて行う手術です。人工弁置換の手術は、開胸して直接目で見ながら行うため、一時的に心臓を止めなければなりません。そのため、全身の血液循環を代用するものが必要になります。それを「人工心肺」といいますが、人工心肺は、全身を循環して静脈から戻った血液を、心臓と肺を迂回させて人工的に酸素加し、再び動脈に送り込む役割を果たしています。
障害のある心臓弁は、通常はブタの心臓弁の組織と合成素材の輪で作られた生体弁に置き換えることができます。
心臓弁の置換のために、全身麻酔が実施されます。心臓を手術のために停止させる必要があ
り、その間は人工心肺装置を使用して血液を送出します。障害のある弁を切除し、そこへ置換する
人工弁を縫い合わせます。切開創を閉じて人工心肺装置を外すと、心臓は再び動き出します。
手術には2~5時間かかります。また、一部の人に対しては、より侵襲性の少ない(胸骨を切
開しない)方法で弁の置換を実施する病院もあります。入院期間は個々人で異なります。完全
に回復するには6~8週間かかります。
損傷した心臓弁は、重症の細菌感染症にかかりやすくなります(感染性心内膜炎)。心臓弁に障害がある人や人工弁置換術を受けた人が外科的処置、歯科的処置、内科的処置を受ける前には、心臓弁の感染症の発症リスクが小さくても、そのリスクを減らすために抗生物質を服用すべきです。心房細動がある場合、血栓を予防するための抗凝固薬による治療などが必要になる場合もあります。
心臓ペースメーカー、又はICD(植込み型除細動器)又は人工弁を装着した場合の障害の程度を認定する時期は、心臓ペースメーカー又は人工弁を装着した日(初診日から起算して1年6月を超える場合を除く)とします。施術を施した場合、その日が初診日から1年6月以内にあるときはその日を障害認定日とします。
障害年金では、大動脈弁、僧帽弁、三尖弁、肺動脈弁の4つの弁のうち、一つでも人工弁、心臓ペースメーカー、植え込み型除細動器(ICD)の装着手術を受けたときはに置き換えれば3級となる。
(複数の人工弁置換術を受けている者にあっても、原則3級相当となる。4つの弁をすべて人工弁にしても経過が良好な場合は3級である。)
人工弁を装着したにも関わらず、術後の経過や原疾患の性質などによっては障害年金2級以上に該当する場合がある。人工弁を装着術後、6ヵ月以上経過しているが、なお病状をあらわす臨床所見が5つ以上、かつ、異常検査所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するものは障害等級2級である。
(身体障害者手帳においては、ペースメーカー、人工弁装着は1級認定)
人工弁を装着していなくても、状態が悪ければ2級又は1級となりえる。
術後に障害等級に認定するが、1~2年程度経過観察したうえで症状が安定しているときは、臨床症状、検査成績、一般状態区分表を勘案し、障害等級を再認定することとしています。
2 心筋疾患
心筋疾患とは、心臓の筋肉自体に障害や炎症が起こる心筋症と心臓腫瘍などに分類される。
障害の程度 |
障 害 の 状 態 |
1級 |
病状(障害)が重篤で安静時においても、心不全の症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
2級 |
・異常検査所見のFに加えて、病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
・異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち2つ以上の所見及び心不全の症状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの |
3級 |
・EF値(左室駆出率)が50%以下を示し、病状をあらわす臨床所見が2つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの
・異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち1つ以上の所見及び心不全の病状をあらわす臨床所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの |
障害手当金 |
- |
○心筋症
心筋症は、「心筋そのものの異常により、心臓の機能異常をきたす病気」である。
心筋症に関わる概念としては、現時点においては「原因不明の心筋疾患」と定義されております。
臨床病型により「肥大型心筋症」「拡張型心筋症」「拘束型心筋症」の3型に分類されています。
拡張型(うっ血性)心筋症
拡張型(うっ血性)心筋症とは、心室が拡大して体に必要な量の血液を送り出すことができなくなり、その結果、心不全を起こす心筋障害群です。
心臓の筋肉の収縮力が低下し、左心室の壁が薄くなり、左右の心室、心房が拡大して心臓の役割である全身に血液を送り届ける機能が低下する。
拡張型心筋症でよくみられる最初の症状は、運動時の息切れと疲れやすさです。これらの症状は心拍出力が弱まって、心不全になると生じます。感染症による心筋症では最初、急な発熱やインフルエンザ様症状がみられることがあります。拡張型心筋症の原因が何であれ、心臓障害が重くなると次第に心拍が速まり、血圧が正常または低値となって脚や腹部に体液が貯留し、肺が体液で満たされます。
心臓が拡大すると、心臓弁がきちんと閉じなくなり、多くの場合に漏れが生じます。この障害が最もよくみられるのは、左心房(心臓の上の部屋)から左心室(心臓の下の部屋)内へ向けて開く僧帽弁と、右心房から右心室内へ向けて開く三尖弁です。漏れによって心雑音が生じ、聴診器で聞くことができます。心筋が損傷して伸張するため不整脈が生じ、これが動悸(異常な心拍の自覚)や死につながることがあります。弁の漏れと不整脈によって、心機能はさらに損なわれます。
拡大した心臓に血液がたまると、心腔の壁に血液のかたまりが形成される危険性が高くなります。血液のかたまりが砕けて塞栓となると、心臓から全身のどこかの血管に移行して閉塞を起こし、その血管から血液の供給を受けていた臓器に損傷を与えます。脳に血液を供給している血管が詰まると、脳卒中が起こります。
拡張型心筋症のよくみられる原因には、冠動脈疾患、ウイルス感染症、一部のホルモン障害があります。
拡張型心筋症には他の疾患を原因(アルコール、高血圧、代謝疾患、神経、筋疾患、心筋梗塞、感染症など)とする特定心筋症と、原因が不明の特発性拡張型心筋症がある。
左心室の拡張と収縮障害を持つ。そのため、心筋組織の内腔が拡大することでうっ血性心不全となる。
治療 拡張型心筋症の原因はわからないため、治療には心不全や不整脈の治療が行われます。心不全の治療には利尿薬、β受容体遮断薬、強心薬などの薬物療法が行われ、不整脈の治療には抗不整脈薬などの薬物療法が用いられます。その他治療には心臓移植なども行われます。
拡張型心筋症では、症状が慢性的に進行するが、心機能が低下して安静にしていても呼吸困難を呈すようになり、障害年金の対象となる。
肥大型心筋症
肥大型心筋症は、心肥大をおこす原因となる高血圧や弁膜症などの病気がないにもかかわらず、心筋の肥大(通常左室、ときに右室の肥大)がおこる病気です。
左室心筋の異常な肥大に伴って生じる、左室の拡張機能(左房から左室へ血液を受け入れる働き)の障害を主とします。
本症の心肥大は、通常その分布が不均一であることが特徴的で、肥大の部位・程度や収縮の程度などにより収縮期に左室から血液が出ていく部位(流出路)が狭くなる場合があり、そのような場合は閉塞性肥大型心筋症と呼ばれます。これに対する非閉塞性肥大型心筋症の他、心尖部肥大型心筋症、心室中部閉塞型心筋症、拡張相肥大型心筋症などのタイプに分類されます。診断には心エコー検査が有用で、左室肥大の程度や分布、左室流出路狭窄の有無や程度、心機能などを知ることが出来ます。この病気は遺伝性があります。家族性の発症が約半数に認められます。家族内発症がない方でも、同様な遺伝子異常を有する場合がありますが、原因不明の方も少なくありません。多くは常染色体性優性遺伝の形式で遺伝し、サルコメア遺伝子の変異が主因であることが知られています。
原因 心筋細胞の中に、心筋の収縮に関わるサルコメア蛋白という一群が存在するのですが、この蛋白をコードしている遺伝子の変異が主な原因です。家族性の肥大型心筋症の約半数でこれらの遺伝子の変異が認められますが、残りの約半数の原因は未だ不明です。サルコメア遺伝子の変異が肥大型心筋症を引き起こす機序については不明な点が多いのですが、心筋細胞の中の様々なシグナルが複合的に関わっていることが明らかになりつつあります。
症状 肥大型心筋症の症状には、失神、胸痛、息切れ、不整脈による不規則な心拍の自覚(動悸)などがあります。通常、失神は運動時に発生します。
肺に体液がたまると息切れが起こります。体液がたまるのは、肥大してかたくなった心臓が肺からの血液を十分に受け取れなくなり、肺に血液が滞留するためです。
心室の壁が厚くなると、左心房から左心室内へ開く僧帽弁が正常に閉じなくなり、左心房に少量の血液が逆流することがあります。一部の人では、肥厚した心筋によって、心臓から出る血流が大動脈弁の手前で遮断されます。この病態は、閉塞性肥大型心筋症と呼ばれます。
左心室と右心室の間の壁が厚くなることにより、左心室が肥大化し、左心室から血液が流れ出る経路が狭くなる(閉塞性肥大型心筋症)と狭くならない(非閉塞性肥大型心筋症)に分類される。
心筋細胞の中に、心筋の収縮に関わるサルコメア蛋白という一群が存在するのですが、この蛋白をコードしている遺伝子の変異が主な原因です。家族性の肥大型心筋症の約半数でこれらの遺伝子の変異が認められますが、残りの約半数の原因は未だ不明です。サルコメア遺伝子の変異が肥大型心筋症を引き起こす機序については不明な点が多いのですが、心筋細胞の中の様々なシグナルが複合的に関わっていることが明らかになりつつあります。
肥大型心筋症の症状には、失神、胸痛、息切れ、不整脈による不規則な心拍の自覚(動悸)などがあります。通常、失神は運動時に発生します。
肺に体液がたまると息切れが起こります。体液がたまるのは、肥大してかたくなった心臓が肺からの血液を十分に受け取れなくなり、肺に血液が滞留するためです。
心室の壁が厚くなると、左心房から左心室内へ開く僧帽弁が正常に閉じなくなり、左心房に少量の血液が逆流することがあります。一部の人では、肥厚した心筋によって、心臓から出る血流が大動脈弁の手前で遮断されます。この病態は、閉塞性肥大型心筋症と呼ばれます。
肥大型心筋症は自覚症状があまりなく、突然死となる場合がある。
一般に病気の経過は良好で、全く無症状のまま天寿を全うする方も少なくありません。一方で、症状の有無にかかわらず危険な不整脈や、心機能の進行性の低下が認められることがあり、定期的に専門医のもとで経過観察を受けることが重要です。
死因として、若年者では突然死、特に運動中の突然死が多く、壮年~高齢者では心不全死やとくに心房細動などの不整脈を合併した場合など、心臓内に生じた血栓による塞栓症死が主となります。
治療法
一般療法として競技性の強い過剰な運動を避けることが必要です。また、閉塞性肥大型心筋症例での流出路狭窄の程度は運動中よりも運動直後に強くなるといわれ、失神や突然死は、運動中のみならず運動直後にも見られることに注意が必要です。薬としては、左心室を拡がりやすくするためにβ交感神経受容体遮断薬やカルシウム拮抗薬を用います。心房細動という不整脈になると、心不全が急に悪化したり、塞栓症を生じたりすることがあります。このため、不整脈を抑える薬や血を固まりにくくする抗凝固療法が用いられます。また、拡張相肥大型心筋症では、心不全の治療を目的に、利尿薬や血管拡張薬などが用いられます。突然死の原因となる重い不整脈に対しては、不整脈を抑える薬、さらに植込み型除細動器が必要となることもあります。このほか、左室流出路狭窄の著しい例では、エタノール注入による心筋の焼灼術(カテーテル治療)や外科的に厚くなった筋肉を切除することもあります。
拡張相肥大型心筋症に移行した患者のうち、重症の一部では心臓移植が必要となることがあります。
心臓移植は心臓移植以外の従来の治療法では救命ないし、延命することを期待できない重症の心機能障害をもつ心臓の病気に対して行なわれています。具体的には、広範な心筋梗塞、重症の心筋症(主に拡張型心筋症)高度の心筋障害を伴う心臓弁膜症などです。
拘束型心筋症
心室の壁が硬くなり(厚くなるとは限りません)、拡張期の正常な血液の充満に抵抗が生じる心疾患群です。
症状としては発熱、心不全があります。他覚所見としては腹水や頸静脈怒張、肝腫大、浮腫などが代表的な症状です。
拘束型心筋症は心不全を引き起こし、それに伴って息切れや組織内の体液貯留(浮腫)が生じます。肥大型心筋症に比べ、胸痛と失神はあまりみられませんが、不整脈(心拍リズムの異常)と動悸(異常な心拍の自覚)は同様に多くみられます。拘束型心筋症では心臓が硬くなり血液を満たすうえで抵抗が生じますが、安静時には十分な量の血液と酸素を体に供給できるため、症状は起こらないのが普通です。しかし、運動中にはより多くの血液と酸素が必要になり、硬くなった心臓では体が必要とする量の血液を十分に送り出せないため、症状が起こります。
拘束型心筋症では不整脈の一種である心房細動が高頻度で発症します。不整脈に伴い心臓に血栓を生じ、血栓が何らかの拍子で剥がれて血中を流れて末梢血管に詰まる塞栓症のリスクが高まることも知られています。
3 虚血性心疾患
虚血性心疾患とは「狭心症」と「心筋梗塞」の総称である。
心臓の筋肉には絶えず、心臓の周りをめぐっている冠動脈という血管により酸素や栄養が運ばれている。
心臓を外側から取り囲んでおり、冠のようであるため冠動脈と呼ばれている。
心疾患とは心臓に起こる病気の総称で、心疾患の大部分を占めているのが「虚血性心疾患」です。
虚血性心疾患とは、心臓の筋肉(心筋という)へ血液を送る冠動脈の血流が悪くなって、心筋が酸素不足・栄養不足に陥るものをいう。
虚血性心疾患の主な原因は動脈硬化である。障害認定基準で障害年金の対象になっている虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)の原因となっているものは、粥状(じゅくじょう)動脈硬化が多いと思われる。(脂肪の沈着物が、血管の内側で大きくなり、血液の流れが悪くなる状態である。)
障害の程度 |
障 害 の 状 態 |
1級 |
・病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全あるいは狭心症状を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
2級 |
・異常検査所見が2つ以上、かつ、軽労作で心不全あるいは狭心症などの症状をあらわし、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの |
3級 |
・異常検査所見が1つ以上、かつ、心不全あるいは狭心症などの症状が1つ以上あるもので、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの |
障害手当金 |
- |
心疾患のなかでも、虚血性心疾患には高血圧、脂質異常、喫煙、高血糖が4大危険因子として知られています。 また、「メタボリックシンドローム」といって、内臓脂肪の蓄積(内臓脂肪型肥満)に加えて、高血圧、高血糖、脂質異常のうちいずれか2つ以上をあわせもった状態では、それぞれが軽症であっても、複数あわせもつことで動脈硬化を悪化させ、心筋梗塞などの虚血性心疾患の発症リスクを高めることもわかっています。
虚血性心疾患の危険因子
動脈硬化
高血圧
脂質異常
喫煙
高血糖
内臓脂肪型肥満
不整脈
狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患は生活習慣病の1つでもあり、おもな誘因のほとんどが生活習慣にあります。
狭心症
心臓の栄養血管である冠動脈が何かの原因で狭くなると、心筋に送り込まれる血液が不足し、心筋が酸素不足に陥る。そのために生ずる胸の痛みが「狭心症の痛み」である。 多くの場合、冠動脈の動脈硬化によって生じた冠動脈の狭窄が血流を障害することが原因である。
狭心症の初期症状としては、心臓に酸素や栄養を供給している冠動脈が、動脈硬化によって狭くなり、必要な血液を心臓に送れなくなったことを起因とする胸痛が挙げられます。その胸痛には階段や坂道を上がったときに起こる労作狭心症と、睡眠中などに起こる安静狭心症とがあります。
胸痛発作の頻度が増えてくると、心筋梗塞に移行する場合もあります。
狭窄はたいてい動脈内の脂肪性沈着物(アテローム動脈硬化)によって発生しますが、冠動脈のれん縮によって発生する場合もあります。
組織に対する血流が不十分な状態を虚血と呼びます。
狭心症の症状の特徴 狭心症の初期症状としては、心臓に酸素や栄養を供給している冠動脈が、動脈硬化によって狭くなり、必要な血液を心臓に送れなくなったことを起因とする胸痛が挙げられます。その胸痛には階段や坂道を上がったときに起こる労作狭心症と、睡眠中などに起こる安静狭心症とがあります。狭心症は、中年の男性に多く見られ、高血圧・高コレステロール・糖尿病を合併していることがしばしばあります。通院するだけでコントロール良好な場合もありますが、胸痛発作の頻度が増えてくると、心筋梗塞に移行する場合もあります。
狭心症の治療 狭心症のもともとの原因は多くの場合動脈硬化です。いったん起こった動脈硬化を元通りに治すということは現時点ではまだ不可能です。ですから、今後動脈硬化がこれ以上進行しないように最大限努力するということが治療の大前提になります。そのためには高血圧・コレステロール異常・糖尿病などを治療し、さらに禁煙・体重増加の抑制・適当な運動を行なうことによって、「リスクファクター」をできるだけ減らすことが最も重要です。
それらを踏まえたうえで、以下のような治療法が選択されます。
- 薬物療法 硝酸薬・カルシウム拮抗薬・交感神経ベータ遮断薬が代表的なものです。その他にアスピリンなどの抗血小板薬もよく使われます。つまり、血管の緊張をできるだけ緩め、心臓の仕事を減らし、血液を固まりにくくしておくというのが基本です。
安定狭心症の薬物治療は、虚血を予防あるいは軽減し、症状を最小限に抑えることを目的とします。ベータ遮断薬、硝酸薬(ニトログリセリンおよび長時間作用型硝酸を含む)、カルシウム拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、抗血小板薬の5種類が用いられます。
ベータ遮断薬は、エピネフリン(アドレナリン)やノルエピネフリン(ノルアドレナリン)などのホルモンによる心臓などの臓器への影響を阻止します。これらのホルモンは心臓を刺激して、拍動を速く強くさせ、ほとんどの細動脈を収縮させます(血圧の上昇を誘発)。したがってベータ遮断薬は安静時心拍数および血圧を下げます。運動中には心拍数と血圧の上昇を抑え、酸素の必要量を減少させます。また、心臓発作や突然死のリスクを減らす効果もあるため、冠動脈疾患の人の長期予後を改善します。
超短時間作用型硝酸薬のニトログリセリンには血管を拡張させる作用があります。ニトログリセリンの服用により、通常、狭心症の発作は1~3分で緩和し、その効果は30分間続きます。ニトログリセリンには舌下投与用の錠剤と、口から吸入するスプレーがあります。舌下錠は歯ぐきのわきに入れることもあります。慢性の安定狭心症のある人はニトログリセリンの錠剤かスプレーをいつも携帯する必要があります。狭心症を誘発する運動強度に達する前に、ニトログリセリンを服用するのが有効です。
長時間作用型硝酸薬(イソソルビドなど)は1日に1~4回服用します。数時間以上にわたって薬が皮膚から吸収される、硝酸薬の皮膚用パッチや塗り薬も有効です。長時間作用型の硝酸薬を定期的に服用すると効かなくなる可能性があります。多くの専門家は、発作が夜に起こらない限り、通常夜間に毎日8~12時間は薬を服用しないよう勧めています。この方法で、長期にわたって薬の有効性を維持できます。ベータ遮断薬とは異なり、硝酸薬は心臓発作や突然死のリスクを減らしませんが、冠動脈疾患のある人では症状を大幅に軽減できます。
カルシウム拮抗薬は、血管の狭窄(収縮)を防ぐ作用と冠動脈のれん縮を阻止する作用があります。これらの薬は異型狭心症の治療にも有効です。カルシウム拮抗薬はいずれも血圧を低下させます。そのうちのいくつか、たとえばベラパミルやジルチアゼムには心拍数を減らす作用もあります。この作用は多くの人、特にベータ遮断薬を服用できない人、または硝酸薬で十分な回復が得られない人に有用です。
ACE阻害薬(ラミプリルなど)は、狭心症などの冠動脈疾患がある患者に投与します。これらの薬は狭心症そのものは治療しませんが、心臓発作のリスクと冠動脈疾患による死亡リスクを減少させる効果があります。
抗血小板薬(アスピリン、チクロピジン、クロピドグレルなど)には、血小板の性状を変化させて血管壁に凝集させないようにする作用があります。血小板は血液中を循環し、血管が損傷を受けたときに血栓の凝集を促進しています。しかし、血小板が動脈壁のアテロームに集まってしまうと、血栓が動脈を狭くしたりふさいだりして心臓発作を起こします。アスピリンには血小板を不可逆的に変性させる作用があるため、冠動脈疾患による死亡リスクを減少させます。医師は大半の冠動脈疾患患者に、アスピリンとクロピドグレルの両方を毎日服用して、心臓発作のリスクを減らすことを推奨しています。チクロピジンにはクロピドグレルと同様の効果がありますが、より重い副作用が起きる可能性があるため、クロピドグレルでアレルギーや耐えられない場合に使用されます。出血性の疾患があるなどの理由がない限り、狭心症の人には抗血小板薬を投与します。
- カテーテル・インターベンション バルーン(風船)による冠動脈血行再建法をいいます。「風船療法」と説明されたり、PTCA(本来は古典的なバルーン治療を指す)と略語で呼ばれたりすることもありますが、一括して「コロナリー・インターベンション」と総称されています。 冠動脈造影と同じように、カテーテルという細い管を直接冠動脈の入口まで挿入します。このカテーテルの中を通して細い(0.010インチ-0.018インチ)針金を狭窄部の先まで送り込みます。この針金をガイドにしてバルーンを狭窄部まで持っていき、バルーンを膨らませて狭窄を押し広げ拡張させるのです。全体の所要時間は数十分から数時間です。術後の安静時間は施設によってさまざまです。 狭窄した冠動脈をバルーンで押し広げたあとに、ステント(コイル状の金属)を留置することもあります。ステントを入れて広げられた狭窄部は内側から支えられ、再び狭窄することを防ぎます。
- バイパス手術 冠動脈バイパス術は、狭心症に対する薬物療法が無効で、 カテーテルによる治療も困難または不可能な場合に行います。冠動脈の狭い部分には手をつけず、身体の他の部分の血管を使って狭窄部分の前と後ろをつなぐ別の通路(バイパス)を作成して、狭窄部を通らずに心筋に血液が流れる道をつくります。 バイパスに用いる血管(グラフト)には、足の静脈(大伏在静脈)、胸の中で心臓の近くにある左右内胸動脈、胃のそばにある右胃大網動脈などを使います。
冠動脈疾患を有する人に対しては、次の3つの目的で治療を行います。
心臓の仕事量を減らすこと、冠動脈の血流を改善すること、アテローム動脈硬化の進行を遅らせる、または回復させることです。
経皮的冠動脈インターベンション
経皮的冠動脈インターベンション(経皮経管的冠動脈形成術:PTCAとも呼ばれる)では、大腿動脈(太ももの大きな動脈)に太い針を挿入します。その針を通して長いガイドワイヤを動脈に入れ、大動脈内を通して冠動脈の狭窄部位まで進めます。次に先端に小さな風船(バルーン)のついたカテーテルを、ガイドワイヤに沿って冠動脈の狭窄部位まで進めます。バルーンの位置を狭窄部位に合わせ、数秒間ふくらませます。バルーンがふくらむと、動脈を狭くしているアテロームが圧迫されて動脈が広がります。バルーンをふくらませてはしぼませる作業を数回繰返します。80~90%の人では狭窄した動脈が開通します。
冠動脈を開通したままにしておくには、ステントと呼ばれる金属メッシュ製のチューブを冠動脈内に挿入します。約75%のケースでは、薬剤でコーティングされたステントが使用されます。この薬剤は徐々に放出され、金属むき出しのステントでよく発生する冠動脈の再閉塞を防ぎます。しかし、この薬剤放出型ステントは動脈を開いた状態に保つには非常に有用ですが、金属むき出しのステントに比べてステント内に血栓(血液のかたまり)が形成されるリスクが若干高くなります。このような凝固のリスクを減らすため、薬剤放出型ステントを使用している人には、ステント挿入後少なくとも1年間は抗血小板薬を投与します。動脈が再び閉塞した場合には、原因が血栓かどうかにかかわらず、2回目の経皮的冠動脈インターベンションを行います。
一般に、経皮的冠動脈インターベンションは侵襲度が低いため、バイパス術よりも頻繁に行われています。しかし、冠動脈の病変の位置と範囲、カルシウムの蓄積量などの状態によっては経皮的冠動脈インターベンションが適さないこともあるため、医師はこの方法が適している候補者を慎重に決定します。
その他の手術法:
他の手術法によるアテロームの除去も検討されています。小型の刃、ドリル、レーザーなどを使用して、肥厚し線維質でカルシウムの沈着したアテロームを切ったり、削ったり、押しつぶしたり、分解したりすることによって除去するというものです。これらの手法のいくつかはまだ評価段階にあり、今までのところ、特に長期経過に関しては期待通りの結果は得られていません。
経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の方法
先端にバルーンのついたカテーテルを太い動脈(通常は大腿動脈)に挿入し、大動脈を通って冠動脈の狭窄部位または閉塞部位まで進めます。次に、バルーンをふくらませてアテロームを動脈壁に押しつけ、動脈を開通させます。カテーテル先端のバルーンに折りたたんだ金属メッシュの筒(ステント)をかぶせて挿入する方法もよく行われます。この方法ではカテーテルをアテロームまで進め、バルーンをふくらませてステントを開きます。ステントが開いたらバルーンの空気を抜き、カテーテルを除去します。ステントはそのまま留置して動脈を広げます。
通常、手術時に麻酔は行わず、患者をリラックスさせるための薬剤を投与します。バルーンをふくらませるたびに狭窄した冠動脈の血流が一時的に遮断されるため、経皮的冠動脈インターベンションの実施中は患者の状態を注意深く監視します。血流が遮断されることによって胸痛を起こし、心電図に電気的活動の異常がみられることもあります。経皮的冠動脈インターベンションを実施中の死亡率は1~2%未満で、非致死性の心臓発作の発生率は3~5%です。経皮的冠動脈インターベンションの直後に冠動脈バイパス術が必要になる人は3%未満です。
冠動脈バイパスグラフト術
冠動脈バイパスグラフト術(CABG)は、バイパス手術または冠動脈バイパス術とも呼ばれます。バイパス術では、他の部位の静脈や動脈を使って、大動脈(心臓からの血液を全身に運ぶ主要動脈)を冠動脈の閉塞部分の先に接続します。これにより、血流は狭窄や閉塞のある部位を通らず迂回して流れるようになります。静脈は通常、脚の静脈を使用します。動脈は胸骨の裏あるいは前腕の動脈を使用します。動脈のグラフトが冠動脈疾患を起こすことはまれで、90%以上は移植後10年を経ても適切に機能します。しかし、静脈のグラフトはアテロームのために徐々に狭窄し、5年後には3分の1以上が完全に閉塞してしまいます。
手術は、移植する血管の数によって2~4時間かかります。バイパス術前の3枝バイパス、4枝バイパスといった呼び方は、バイパス術を実施する動脈の数(3本あるいは4本)を示しています。この手術は全身麻酔で行います。胸の中央を首の付け根から胃の上端まで切開して胸骨を外します。このような手術法は開心術と呼ばれています。通常は手術を行いやすくするために心臓を停止状態にします。人工心肺装置を使って酸素を入れた血液を血流中に戻します。移植の必要な血管が1~2本だけであれば、心臓を動かしたまま手術することもあります。米国での入院日数は5~7日が典型的で、人工心肺を使用しない場合はそれよりも短くて済みます。
手術のリスクには脳卒中や心臓発作があります。心臓の大きさや機能が正常な人、心臓発作の病歴がない人、他の危険因子がない人が手術中に心臓発作を起こすリスクは5%未満、脳卒中のリスクは2~3%、死亡率は1%未満です。心臓(左心室)の血液を送り出す機能が低下している人、以前の心臓発作によって心筋が損傷している人、その他の心血管障害のある人では手術に伴うリスクがいくぶん高くなります。しかし、これらの人でも手術が成功すれば、長期生存が期待できます。
冠動脈バイパスグラフト術
冠動脈バイパスグラフト術では、動脈あるいは静脈の一部を冠動脈につなぎ、大動脈から心筋にいたる新しい血流ルートを作ります。その結果、血液は冠動脈の狭窄部位や閉塞部位を迂回することになります。静脈よりも動脈が好んで使われますが、これは動脈の方が後に閉塞を起こす可能性が低いためです。バイパス術で行われる方法の1つは、2本ある内胸動脈の片方を切断し、一方の断端を閉塞部位を越えたところで冠動脈につなぐ処置です。もう一方の切断端は結んでおきます。動脈が使えない場合や冠動脈に閉塞部位が複数ある場合は、鼠径部から足首に行く伏在静脈の一部を切り取って使用します。切り取った血管(グラフト)の一方を大動脈につなぎ、もう一方を閉塞部位を越えたところで冠動脈につなぎます。
場合によっては、これら2つの方法を組み合わせて行うこともあります。
手術などの治療を行ったのにも関わらず、経過が思わしくなく退院後も安静が必要な場合、動悸や息切れ、胸痛などの症状のため安静にしていなければならないという状態であれば、障害年金の対象となる可能性がある。
心機能が低下することにより日常的にめまいや息切れを起こしている場合は、労働の内容にも著しい制限が必要になるため、障害年金の支給対象になる可能性がある。
心筋梗塞
血管の中でコレステロールの塊が何らかの原因により破れると、これが血栓となり冠動脈をふさいでしまって、心臓の筋肉に血液が届かなくなり、そこの細胞が壊死してしまう。この状態を心筋梗塞という。
心筋梗塞は主に動脈硬化が進行して、血管の壁にアテロームができて血液の流れが止まることで引き起こされる。
胸をえぐられるような強烈な痛みで始まり、狭心症のように短時間でおさまることはありません。心筋への血流が途絶えると、その部分の心筋は壊死します。壊死の範囲が広がると心臓の機能が著しく低下し、重症の場合は死に至ることもあります。
心筋梗塞の発症が原因で心室細動という不整脈を起こし、心停止状態になる可能性もあります。
手術などの治療を行ったのにも関わらず、経過が思わしくなく退院後も安静が必要な場合、動悸や息切れ、胸痛などの症状のため安静にしていなければならないという状態であれば、障害年金の対象となる可能性がある。
心機能が低下することにより日常的にめまいや息切れを起こしている場合は、労働の内容にも著しい制限が必要になるため、障害年金の支給対象になる可能性がある。
心筋梗塞は合併症に注意が必要である。不整脈、乳頭筋不全、虚血性心筋症など心筋梗塞後様々な合併症が起きることがある。
陳旧性心筋梗塞 心筋梗塞は心臓を養う冠動脈が動脈硬化を起こすことで血管の内腔は細くなり、血流が制限されます。心筋梗塞後の慢性期になると、障害を受けた大きさに合わせて心臓のポンプ機能が低下し、日常生活の活動性、余力を低下させます。つまり、運動などで心臓に負担がかかるとすぐに疲れてしまう、息切れがしてしまうなど、心不全の症状があらわれるようになります。
陳旧性心筋梗塞は発症から1ヵ月以上経過した心筋梗塞のことを指します。
冠動脈が閉じると、心筋は壊死します。陳旧性心筋梗塞の場合、壊死した心筋は線維化するため、症状が安定します。ただし、残存する心筋に大きな負担がかかる可能性があるため、心肥大を引き起こすことが予想されます。
陳旧性心筋梗塞は、この動脈硬化を引き起こす原因には数多くありますが、体質や人種といった外的要因が関係していることも分かっています。また、肥満や中性脂肪、高コレステロール血症、糖尿病、運動不足、精神的ストレスなども原因として挙げられます。年齢も大きく関係しており、年を重ねるごとに動脈の弾力は失われていくため、動脈硬化を引き起こしやすい状態ができるのです。
冠動脈疾患
冠動脈疾患とは、心筋への血液供給が部分的にまたは完全に遮断される病気です。
心筋は酸素の豊富な血液を常に必要としています。心臓にこの血液を運ぶのは、大動脈が心臓から出た直後に枝分かれする冠動脈です。冠動脈疾患は血流を遮断し、胸痛(狭心症)または心臓発作(心筋梗塞またはMIとも呼ばれる)を誘発する可能性があります。
冠動脈疾患のほとんどの原因は、冠動脈の内壁に徐々に蓄積したコレステロールなどの脂肪性物質(アテロームあるいはアテローム硬化斑[プラーク])です。この過程はアテローム動脈硬化と呼ばれ、心臓だけでなく別の部位の動脈にも影響を及ぼします。
アテロームが大きくなると、動脈内に隆起してきて内腔が狭められ、血流が部分的に遮断されます。時間がたつにつれ、アテローム内にカルシウムが蓄積します。アテロームが冠動脈をふさぐにつれて、心臓の筋肉(心筋)に酸素の豊富な血液が供給されにくくなります。運動時には心筋がより多くの血液を必要とし、血液供給が不足しやすくなります。原因にかかわらず心筋への血液供給が不足すると、心筋虚血と呼ばれる状態になります。心臓に十分な血液が供給されなくなると、心臓は正常に収縮して血液を送り出すことができなくなります。
アテロームは血流を大きく妨げていなくても、突然破裂する場合があります。アテロームが裂けると血栓(血液のかたまり)ができるきっかけとなります。血栓はさらに動脈を狭窄または完全に閉塞させ、急性心筋虚血を誘発します。この急性虚血の結果生じるさまざまな症状を急性冠症候群と呼びます。これらの症候群には、閉塞の位置と程度が異なる不安定狭心症や数種類の心臓発作が含まれます。心臓発作では、閉塞した動脈から血液の供給を受けていた心筋の部位が壊死します。
急性冠症候群は、冠動脈のれん縮やその他の冠動脈疾患によって起こる場合もあります。
動脈硬化
動脈は心臓から送り出された血液を全身に運ぶための血管です。
外膜、中膜、内膜の3層で構成されております。
心臓から続く大動脈に始まり、枝分かれしながら徐々に細くなり、最後は細動脈と呼ばれる髪の毛ほどの細い血管になります。健康な人の動脈には弾力性があり、やわらかく、内壁も滑らかで血液はスムーズに流れています。動脈硬化とは、この動脈が硬く狭くなり血液が流れにくくなった状態をいいます。
動脈が硬くなることを意味する「動脈硬化」は、動脈の壁が厚くなって弾力性が乏しくなる複数の病気に対して一般的に使われている総称です。
動脈硬化に関連する因子 狭心症や心筋梗塞の原因となる動脈硬化は、次のような危険因子(リスクファクター)が関係します。 強い関係をもつ因子として 1. 高コレステロール血症(LDL、中性脂肪の血中レベルが高い) 2. HDL(いわゆる善玉コレステロール)血中レベルが低い 3. 高血圧 4. 男性 5. 糖尿病 6. 家族歴(若年の冠動脈疾患) 中等度に関係のある因子として 1. 喫煙 2. 閉経後 3. 運動不足 4. 肥満 があげられています。 重要なことはこれらの中には、努力や治療によって克服することができるものがあるということです。
動脈硬化は、動脈硬化はその起こり方や起こる部位によって次の3つのタイプに分けられます。
1 アテローム(粥状)硬化
アテローム動脈硬化(粥状[じゅくじょう]硬化)とは、脂肪性物質のまだら状の沈着物(アテロームあるいはアテローム性プラーク[粥腫])が、大きな動脈や中間サイズの動脈の内壁で大きくなるため、血流が減少したり、遮断されたりする病気です。
脳、心臓、腎臓、その他の命にかかわる臓器や脚の大きな動脈や中間サイズの動脈に損傷を与えます。動脈壁が肥厚して弾力性がなくなる病態の総称である動脈硬化の中で、アテローム動脈硬化は最も重大で、最も多くみられる種類です。
アテローム動脈硬化は、損傷を受けた動脈壁から、特定のタイプの白血球(単球およびT細胞)を動脈壁に付着させる化学信号が出ることではじまります。この信号を受けて、これらの白血球細胞が動脈壁内に移動します。これらの細胞は、動脈壁内でコレステロールやその他の脂肪性物質を集める泡沫細胞へ変化し、平滑筋細胞の増殖を引き起こします。やがて、これらの脂肪性物質を豊富に含んだ泡沫細胞が蓄積します。これらの細胞は、動脈壁の内膜で線維性被膜に覆われた沈着物(アテロームまたはプラーク)をまだら状に形成します。時間がたつにつれ、アテローム内にカルシウムが蓄積します。アテロームは大きな動脈や中間サイズの動脈のさまざまな部位に形成されますが、通常は動脈が分岐している部位に形成されます。
アテロームは動脈内腔で大きくなり、次第に動脈を狭めます。アテローム動脈硬化により動脈が狭くなればなるほど、その動脈から供給されている組織は十分な量の血液と酸素を受け取ることができなくなります。アテロームは動脈壁の内部で大きくなることもありますが、この場合は血流を阻害しません。いずれの種類のアテロームも破裂し、内部の物質を血流にさらすことがあります。この物質が血栓の形成を誘発します。誘発された血栓がその動脈内の血流を完全に止め、心臓発作や脳卒中の主な原因になる場合があります。これらの血栓は砕けて血流に乗って移動し、全身の各部で動脈を詰まらせることもあります。同様に、アテロームの一部が砕けて血流に乗って移動し、他の部位の動脈を詰まらせることもあります。
危険因子
アテローム動脈硬化の危険因子には、喫煙、血液中のコレステロール高値、高血圧、糖尿病、肥満、運動不足、食事などがあります。食事の因子には、日常的な果物や野菜の不足や、適量以外の飲酒習慣(まったく飲酒しないか過度の飲酒)があります。多くの場合、これらの危険因子は修正が可能です。修正しようのない危険因子には、早期のアテローム動脈硬化の家族歴(近親者で若いときにこの病気を起こした人がいる)、加齢、男性であることなどがあります。アテローム動脈硬化の発症リスクは、女性よりも男性の方が高くなっています。ただし、冠動脈疾患のある女性は、同じ疾患の男性より死亡率が高くなります。
アテローム動脈硬化を予防するには、禁煙、LDLコレステロール値を下げること、血圧を下げること、体重を減らすこと、運動が必要になります。糖尿病の人は、血糖値の厳密なコントロールを維持しなければなりません。アテローム動脈硬化のリスクが高い人は、特定の薬の服用も有益な場合があります。
有用な薬には、スタチン(コレステロール値が正常またはわずかに高い場合でも)、アスピリンや他の抗血小板薬などがあります。
合併症を起こすほど、アテローム動脈硬化が重症化しているときは、合併症そのものも治療しなければなりません。アテローム動脈硬化の合併症には、狭心症、心臓発作、不整脈、心不全、腎不全、脳卒中、脚のけいれん(間欠性跛行)、壊疽などがあります。
2 細動脈硬化
脳や腎臓の中の細い動脈が硬化して血流が滞る動脈硬化です。
この動脈硬化は主に細動脈壁の内層と中間層に影響を及ぼします。細動脈の壁が厚くなり内腔が狭くなる。その結果、細動脈が血液を供給している器官は十分な量の血液を得られません。
この影響をよく受ける器官は腎臓です。この細動脈の障害は、主に高血圧や糖尿病の患者にみられます。これらの疾患のある人では、細動脈壁に圧力がかかり、結果として細動脈壁が厚くなります。
3 中膜硬化
中膜にカルシウムがたまり、石灰化して起こります。中膜が硬く、もろくなり、血管が破れることもあります。大動脈や下肢の動脈、頸部の動脈に起こりやすいとされています。
動脈壁内へのカルシウムの蓄積が動脈壁を硬くしますが、内腔は狭くなりません。
動脈硬化に関連する因子
狭心症や心筋梗塞の原因となる動脈硬化は、次のような危険因子(リスクファクター)が関係します。
強い関係をもつ因子として 1. 高コレステロール血症(LDL、中性脂肪の血中レベルが高い) 2. HDL(いわゆる善玉コレステロール)血中レベルが低い 3. 高血圧 4. 男性 5. 糖尿病 6. 家族歴(若年の冠動脈疾患) 中等度に関係のある因子として 1. 喫煙 2. 閉経後 3. 運動不足 4. 肥満 があげられています。
動脈硬化症の治療は初期段階の場合、薬物治療が主になります。硝酸薬やβ遮断薬、カルシウム拮抗薬、コレステロール低下薬、アスピリンなどが処方され、病気の進行を遅らせたり軽減したりします。しかし、冠状動脈硬化症がかなり進行してしまっている場合には、体の他の部分から採取した健康な血管の一部を冠状動脈の閉塞部分に移植する冠状動脈バイパス術などの外科的治療が必要になることもあります。
冠状動脈硬化症
冠状動脈硬化症とは、心臓の筋肉へ酸素や栄養の供給を行っている冠状動脈に動脈硬化が起きてしまう疾患です。
冠状動脈硬化症になると、心臓の血流量が減るため、軽い運動など心臓に負担がかかる場面で息切れや、みぞおちの痛み、胸の締め付けといった症状があらわれます。胸焼けや吐き気、過度の発汗などが起きることもあります。
冠状動脈の硬化は冠状動脈血栓症の原因となり、狭心症や心筋梗塞の発作につながることもあります。
冠状動脈硬化症の原因は完全にはわかっていません。しかし、動脈硬化を進める原因となる危険因子として、例えば加齢です。遺伝的な要素も大きく関係します。冠状動脈疾患や心疾患の家族歴があるケースも危険因子とみなされます。そのほかにも、動脈硬化の原因には動物性脂肪の摂り過ぎや肥満、高血圧、糖尿病、甲状線の機能低下、喫煙などが関わっていると言われています。
4 不整脈
心臓の電気刺激伝導路の経路
洞房結節① から送られた電気刺激は、右心房と左心房② へ伝わり、これらを収縮させます。次に、電気刺激は房室結節③ に伝わり、そこで伝導がわずかに遅くなります。それから、電気刺激はヒス束④に伝わり、ヒス束を下降しながら右心室へ向かう右脚⑤ と左心室へ向かう左脚⑤ に分かれて伝わります。これにより電気刺激が心室に広がって、心室を収縮させます。
電気刺激は房室結節を通過した後、線維の束であるヒス束へ伝わります。ヒス束は左心室へ向かう左脚と右心室へ向かう右脚に分かれており、電気刺激が心室の表面全体を覆うように下方から上方へと広がり、それにより心室が収縮し、心臓から血液が送り出されます。
心臓は1分間に60回から80回、規則的に拍動している。この規則的な拍動は洞房結節(どうぼうけっせつ)というところでごく弱い電気により作られ、その刺激が房室結節に伝えられ、さらに心室の乳頭筋に伝えられ乳頭筋は収縮する。その一連の電気刺激の流れにより心臓は規則的に収縮している。何らかの原因でこの電気の流れに異常が生じると不整脈が起きる。
不整脈とは、脈がゆっくり打つ、速く打つ、または不規則に打つ状態を指し、脈が1分間に50以下の場合を徐脈、100以上の場合を頻脈といいます。
不整脈には病気に由来するものと、そうでない、生理的なものがあります。たとえば運動や精神的興奮、発熱により脈が速くなりますが、これはだれにでも起こる生理的な頻脈といえます。
また脈が不規則になるものの中に期外収縮があります。これは30歳を超えるとほぼ全員に認められるようになり、年をとるにつれて増加しますが、期外収縮の数が少ない場合は生理的な不整脈といえないこともありません。一般に脈拍が1分間に40以下になると、徐脈による息切れや、めまいなどの症状が出やすくなります。
一方、明らかな誘因がないのに、突然脈拍が120以上になる場合は病的な頻脈の可能性があります。頻脈になると動悸(どうき)や息切れのほかに、時に胸痛やめまい、失神といった症状が出ることがあります。また3つに1つ、5つに1つといったように、時々脈が飛ぶ場合は期外収縮の可能性があります。
心臓での電気の伝わり方
洞結節で発生した電気は房室結節を通って心室に伝わる
不整脈の中には、生死にかかわる危険な不整脈がある(難治性不整脈)。難治性不整脈は、放置すると心不全や突然死を引き起こす危険性の高い不整脈で、適切な治療を受けているにも拘わらず、それが改善しないものをいう。
洞不全症候群や房室ブロックで3秒以上の心停止とめまいや失神がある場合に、ペースメーカーが適用になる。
突然死をまねくような頻脈性不整脈の発作を起こした人や起こす危険性の高い人は、体内に除細動器を植え込む「植え込み型除細動器(ICD)」によって危険な発作を予防する方法がとられる。
加齢やストレス、疲労、睡眠不足など病気とは関係なく起こる不整脈は障害年金の認定の対象とはならない。
障害の程度 |
障 害 の 状 態 |
1級 |
・病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全の症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
2級 |
・異常検査所見のEがあり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
・異常検査所見のA、B、C、D、F、Gのうち2つ以上の所見及び病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ一般状態区分表のウ又はエに該当するもの |
3級 |
・ペースメーカ一、ICDを装着したもの
・異常検査所見のA、B、C、D、F、Gのうち1つ以上の所見及び病状をあらわす臨床所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの |
障害手当金 |
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期外収縮
不整脈の中で最もよく見られるのが期外収縮です。これは心臓の中で規則的に電気を送ってくれる“発電所”(洞結節)とは別の場所から、やや早いタイミングで心臓に電気が流れる現象です。初めに説明しましたように、期外収縮は30歳をすぎる頃からほとんどの人に認められ、年齢と共にしだいに増加します。
このうち心房から出てくる期外収縮を心房性期外収縮、心房の下の心室から出てくるものを心室性期外収縮といいます。これらが出ると、脈が1拍欠けたように感じますが、決して心臓が止まったわけではありません。やや早期に心臓が収縮したために、脈としてふれることができなかった、つまりその1拍分の脈圧が弱かったために脈をふれなかっただけにすぎません。
期外収縮はそれを感じない人の方が多いのですが、のどや胸の不快感や動悸、またはキュッとしたごく短い時間の痛みとして感じる人もいます。期外収縮が連続して出現したときは一時的に血圧が下がり、めまいや動悸がすることもあります。
期外収縮は病気に関連して起こることもありますが、多くは病気とは関係なく、年齢や体質的な理由で出ます。ただ心室性期外収縮の一部は心筋梗塞や心筋症が原因で起きている場合があり、そのため危険な不整脈に移行することがあります。
心房細動
心房細動は、心房の部分がまったくばらばらに収縮する状態、いわば心房がこきざみ震えている状態です。 これに伴って心室の収縮にも規則的なリズムがなくなり、脈拍は大きさも間隔も不規則なものとなります。
心房細動は心房が細かく動く、つまり速く動くことを意味します。この原因として、心房のどこか(多くは肺静脈の入り口部周辺)に新たな“発電所”ができて(あるいは胎児の頃に持っていた発電所から)電気が漏れ出るためであり、それにより心房の中で不規則な電気の流れ(旋回)が起こる、という仕組みが考えられています。
心房細動になると心房は1分間に300から500回ほど興奮し、細かく動きます。ただその電気信号が心室にすべて伝えられるのではなく、房室結節(変電所の役割をする部位)で適当に間引いて伝えられます。そのため心房細動時には不規則に電気が心室に伝えられ、心臓は全体として1分間に60回から200回の頻度で不規則に興奮します。ですから脈はまったくバラパラで打ち、動悸がして息苦しくなり、時にはめまいや胸痛などの症状が出る場合があります。
心房細動には時々起こる発作性のものと慢性のものとがあります。心臓弁膜症、先天性心疾患などいろいろな心臓病で見られるほか、健康な人にも起こります。
心房細動は、心臓に病気がある人だけでなく、ストレスや不規則な生活習慣でも起きてきます。自律神経活動の亢進が誘因となりやすい不整脈として知られており、日中に起きやすい、夜間に起きやすい、食後や飲酒後に起きやすい、運動時に起きやすい、などはその典型的な場合と言えます。
心房内の血液の流れが悪くなり、心房内に血栓ができやすくなり、それが脳に飛んで脳梗塞を起こすことがあります。左心房の一部に左心耳と呼ばれる部分があります。ここは丁度顔に耳が付いているように、心房の一部が耳のようになっているところで、もともと血液の流れが少ない部分なのですが、心房細動になると心房全体の収縮性が低下するため、左心耳内は血流がほとんどなくなり、血液がうっ滞して血栓ができてしまうのです。この血栓が何かの拍子に剥がれると、血液の流れに乗って左心房→左心室→大動脈→頸動脈→大脳動脈と進み、脳動脈の途中で詰まって脳梗塞を起こすのです。
心房細動の治療 心房細動の治療には、肺静脈にある心房細動の原因から心房を隔離するカテーテルアブレーションによる治療と、症状や発作を抑える薬物治療があります。症状が軽い場合には。脳卒中を予防するために抗血栓薬を服用します。
心房細動は、一般に加齢とともに漸増する不整脈であり、それのみでは認定の対象とはなりません。心不全を合併したり、ペースメーカーの装着を要する場合には認定の対象となります。
心房細動など心疾患(心房細動など)が原因または誘因で発生した脳血管障害は「相当因果関係あり」として、心疾患(心房細動など)の受診を初診日とする。
心房粗動
心房細動によく似た不整脈です。心房粗動では心房の中で一定の回路を通って規則的な電気の旋回が起こっています。
図 心房粗動
心室細動
心室細動は、多数の無秩序な電気刺激により心室が調整を失って非常に速くふるえ、収縮しなくなる不整脈です。
心室は単に細かくふるえるだけで収縮しません。心臓から血液が送り出されなくなるため、心室細動は一種の心停止といえます。心臓からの血液拍出はゼロのいわゆる心停止状態で、数分で循環停止、呼吸停止になり、さらに脳、腎臓、肝臓など重要臓器に不可逆性の障害を来たして最終的には死亡してしまいます。心臓突然死の多くはこの心室細動が原因です。
心室細動の最も一般的な原因は、心臓発作を生じる冠動脈疾患による心筋への血流不足です。
治療
心室細動は、きわめて緊急に治療する必要があります。心肺蘇生術(CPR)はできる限り早く、2~3分のうちには開始しなければなりません。続いて胸部に電気ショックを送る除細動機器を入手でき次第行う必要があります。正常な洞調律を維持するために、抗不整脈薬を投与します。
心臓発作後の2~3時間以内に心室細動が起こった場合、患者にショックや心不全がみられなければ、ただちに除細動を行えば正常洞調律への回復率は95%で、予後も良好です。ショックや心不全は、心室に重大な損傷があることを意味します。それらがみられる場合は、ただちに除細動を行っても正常洞調律への回復率はわずかに30%で、蘇生された患者の70%が機能を回復することなく死亡しています。
心室細動からの回復に成功し、生存していても、再び発作を起こす危険性があります。心室細動の原因が治療可能な病気である場合は、その病気を治療します。そうでない場合は、除細動器を外科的に植え込み、再発したら電気ショックを与えて正常洞調律に修正できるようにします。また、再発予防のために薬を投与します。
心室細動を起こす可能性の高い患者には、小型の植込み型除細動器(ICD)を胸に埋め込む治療が行われます。
心室期外収縮
心室期外収縮(心室性異所性収縮、心室性早期収縮)は、正常な拍動が起きる前に、心室から発生した異常な電気的活動により生じる余分な拍動です。
主な症状として、脈の飛びが感じられます。
室期外収縮は、一般的によく発生し、特に高齢者に多くみられます。この不整脈は、身体的あるいは精神的ストレス、飲食によるカフェイン摂取、飲酒、プソイドエフェドリンのような心臓を刺激する成分を含むかぜ薬や花粉症の治療薬の服用によって起こります。また、冠動脈疾患(特に心臓発作時やその直後)、心不全や心臓弁障害などの心室拡大をもたらす病気によっても起こります。
房室ブロック
心臓の刺激伝導システムのどこかに異常が生じると、心臓の内部で伝導時間の延長や伝導の途絶が起こります。これをブロックといいます。この病気では心房からの刺激が心室に伝わる過程に異常があるために、心室の興奮が通常より遅れたり、欠落したりしてしまい(これを心房‐心室間の伝導ブロック、房室ブロックという)、脈が遅くなります。
心房と心室の境界には電気の流れを調節して“変電所”の役目をする房室結節という組織があります。この機能が低下して、心房から心室の方へ電気が伝わらなくなるために脈が遅くなるのが房室ブロックです。
図 房室ブロック
急に起こる房室ブロックの原因として、心筋梗塞、異型狭心症、心筋炎などの心臓病、薬剤性(β遮断薬など)、高カリウム血症、過度の迷走神経亢進状態などがあります。慢性あるいは再発性の房室ブロックの原因としては、冠動脈疾患、心筋症、心サルコイドーシス、膠原病、先天性ブロックなどが知られています。
ブロックは起こり方によって、持続性のものと時々現れるもの(一過性、間欠性)があります。一過性、間欠性の場合には房室ブロックが現れた時にのみ徐脈になります。持続性房室ブロックでは、補充収縮の出現回数の程度により症状もさまざまですが、徐脈の持続により心不全(息切れ、浮腫など)に至ることもあります。
治療の方法 薬物・電解質異常・虚血などの原因の明らかなものはそれを取り除きます。アダムス・ストークス症候群(後述)などによる緊急時には、一時的に心臓を体外から刺激する(ペーシングする)方法が確実です。静脈から電極カテーテルを右心室に入れて、1分間に60回以上刺激します。β(ベータ)刺激薬やアトロピンの投与はペーシング実施まで行える方法です。
一般的には、第I度ブロックは治療不要です。第Ⅱ度・第Ⅲ度ブロックで脳の虚血症状があれば、脈拍数を増やす治療が必要です。徐脈が続く場合には、恒久的にペースメーカーを植え込む必要があります。
完全房室ブロック
完全房室ブロックは、心臓の刺激伝導システムのいずれかの部分に異常が生じた状態をいいます。
脈が遅くなる不整脈の一種で、主な症状としては、めまいやふらつきなどがあります。
重度の完全房室ブロックの場合は、一時的に心臓が停止することもあり、その際には失神を起こすこともあります。また、徐脈の影響にて、心臓に負担がかかるため、心不全の状態になり、息切れや強い疲労感、動悸などが出ることもあります。
通常の心臓は電気信号にて動いていますが、完全房室ブロックは、房室結節の働きが鈍くなるため、心房の刺激が心室まで十分に伝わらない状態になることが原因で起こります。信号の刺激が心室まで伝わらない要因としては、他の疾患が絡んでいることが多く、心筋梗塞や異型狭心症、心筋炎、高カリウム血症などの疾患が考えられます。慢性、あるいは再発性の高い房室ブロックの原因は、冠動脈疾患、心筋症、心サルコイドーシス、膠原病、先天性ブロックなどがあるといわれています。
洞(機能)不全症候群
洞不全症候群とは、主に洞結節(右心房の壁と上大静脈の境にある三日月状のもの)のはたらきが低下することによって脈が遅くなり、そのために脳、心臓、腎臓などの臓器の機能不全が現れる病気です。
以下のように3つの群に分類されます。 1群:原因不明の持続性洞徐脈(どうじょみゃく 50拍分以下) 2群:洞停止または洞房(どうぼう)ブロック 3群:徐脈頻脈(ひんみゃく)
心臓から送り出される血液量の低下によって主要臓器の循環障害が起こる症候群です。心電図上で、心房興奮を反映するP波が規則正しい間隔で現れる数が少ないものを洞徐脈、P波が突然現れなくなる場合を洞停止(あるいは洞房ブロック)といいます。
原因 洞結節の刺激を生み出す能力の低下、あるいは洞結節→心房間伝導の障害が原因です。虚血性心疾患、心筋症、心筋炎、リウマチ性心疾患、膠原病などに合併しやすいと考えられていますが、90%以上は原因が特定できません。機能的なものでは、洞結節の刺激の発生数を低下させる迷走神経の緊張亢進、高カリウム血症、薬剤投与(β(ベータ)遮断薬、ジギタリス)、抗不整脈薬などによるものがあります。
症状の現れ方 通常、心臓は1分間に60〜100回ほど脈を打ちますが、脈拍数は本人のおかれた状況に大きく左右されます。洞不全症候群では運動、発熱時などにも相応の心臓拍動数の上昇がみられません。また、突然脈が止まってしばらく心臓が活動しなくなるタイプもあります。
主要臓器の脳には虚血症状が出やすく、めまい、立ちくらみ、ろれつが回らない、失神しそうになる、失神などがあります。その他、うっ血性心不全、狭心症、全身の倦怠感、乏尿なども起こりえます。
電気不足で脈が遅くなるか、または時々心臓が止まるようになりますが、この病気では同時に心房の異常も合併することがあり、そうなると徐脈と同時に頻脈も出てくることがあります。
そのような人では、頻脈が停止した時に心臓が止まりやすくなり、ふらつきや失神が起こります。
一般に数秒以上心臓が停止するとふらつきが起こり、10秒以上停止すると意識がなくなって倒れる(アダム・ストークス発作)ことがあります。
治療の方法 洞結節の自発的興奮の回数を増やす薬を使います。抗コリン薬(硫酸アトロピン)、β(ベータ)刺激薬(イソプロテレノール)などの経口薬や静注薬です。徐脈が薬にあまり反応しなかったり、薬を中断すると症状が悪化するような場合には、ペースメーカーの適用になります。
図 洞不全症候群
高血圧と洞機能不全は相当因果関係「なし」です。
糖尿病と洞機能不全は相当因果関係「なし」です。
アダムス・ストークス症候群
アダムス・ストークス症候群とは、不整脈などにより心臓に異常が起こり、それに伴って脳に流れる血液量が減少することで、様々な症状を引き起こすことをいいます。
アダムス・ストークス症候群は、心臓の洞結節と呼ばれる結節が刺激を心房の壁から右心室の近くにある房室結節に何らかの障害が生じて伝達できなくなることで不整脈や意識障害などが引き起こされます。通常の房室結節の働きに障害を与える原因の約50%は房室ブロック、約30%は洞不全症候群があります。
アダムス・ストークス症候群の治療は、ペースメーカーを症状に合わせて使用するなどの手段がとられます。予防については、何かしらの前兆もないまま症状が発生することが多いことから、未然に防ぐことは困難です。通常は、軽いめまいなどが初めに症状として現れるのですが、症状がなくなっても繰り返すことがあります。時間の経過とともに全身痙攣や意識をなくすなどがあるため、頭部への障害を防ぐためにも横になるなどの対策が必要になります。
脚ブロック
心臓の中には“発電所”(洞結節)と、“変電所”(房室結節)、さらに電気を流す“電線”の役目をする組織があります。心臓は左右の部屋に分かれているので、当然この電線も右と左に分岐しています。脚というのはその分岐した電線の役目をする組織を、右脚とは心臓の右側を走る電線を指し、右脚ブロックとは電線上で電気の流れが悪くなった状態を意味します。
脚ブロックには完全ブロックと不完全ブロックがあります。
図 右脚ブロック
左脚ブロック
左脚ブロックは左側の電線の流れが悪くなった状態ですが、右脚ブロックと違って心臓病を伴う場合が多いとされています。
○心臓ペースメーカー又はICD(植込み型除細動器)を装着
心臓弁疾患が進行すると心臓の血液送り出し機能が低下します。心臓はこの低下した分の機能を補おうとして、酸素をたくさん含んだ血液を各器官や組織へ必要なだけ送り出すべく懸命に働きます。こうしてオーバーワークとなった心臓は次第に持ちこたえられなくなり、息切れ、めまい、胸の痛み、疲れ、体液の貯留といった症状を引き起こします。そうした場合、身体検査、さらに詳しいテストの後で、医師が弁の取り替えをすすめることにもなります。
(1) 心臓ペースメーカー
心臓が力強く収縮するためには、心臓の細胞が電気的に活動(興奮)する必要がある。興奮を指示する信号は最初に心房の一部(洞、または洞結節)でつくられ、刺激伝導系と呼ばれる電線のようなシステムを通じて心房から心室へと伝えられる。この時、興奮の信号が流れる方向は必ず一方通行でなくてはならない。脈が病的に遅くなる「徐脈」の主な原因は、興奮信号を発する機能が悪くなる場合(洞不全症候群)と、電気の通り(伝導)が悪くなる場合(伝導障害)に分けられる。伝導障害は多くの場合、心房と心室の連結部(房室結節)で生じ、それは房室ブロックと呼ばれている。このような徐脈に対する最も有効で確実な方法はペースメーカーを取り付ける、つまりペースメーカー植え込み術である。
心臓ペースメーカーは心臓の徐脈性不整脈を監視して治療するよう設計されており、ペースメーカー本体と、心臓の電気信号を感知したり電気刺激を伝えるためのリードと呼ばれる電線を接続することで治療が可能となる。
ペースメーカーの本体は、表面がチタンという丈夫な金属で覆われており、その内部は長時間の作動を維持するための電池と、頭脳である制御回路でできています。
ペースメーカーは本体に接続されたリードを介して心臓の電気信号を24時間監視し続け、患者さんの心臓リズムを整える必要がある場合には本体から電気刺激を送って治療を行ないます。
心臓ペースメーカーは脈の遅い患者を治療する目的で先端技術の粋を結集して作られた精密医療機器です。
人工ペースメーカは、心臓の生体ペースメーカ部(洞結節または洞房結節)の役割を果たす医療用電子機器で、心拍を開始させる電気刺激を放出します。人工ペースメーカは、バッテリー(電池)、電気刺激の発生器、心臓とペースメーカをつなぐワイヤで構成されています。
人工ペースメーカは手術によって体内に埋めこまれます。局所麻酔によって挿入部位を麻痺させた後、ペースメーカにつなぐワイヤを通常は鎖骨近くの静脈内に挿入し、心臓まで到達させます。小さな切開創から、鎖骨付近の皮膚下にコインほどの大きさの電気刺激の発生器を挿入し、ワイヤと接続します。その後、切開創を縫合します。通常、この手術にかかる時間は約30~60分です。手術後すぐに帰宅できる場合も、短期間の入院が必要な場合もあります。ペースメーカのバッテリーは、10~15年程度は使用できます。しかし、バッテリーは定期的なチェックが必要です。バッテリーの交換はすぐにできます。
人工ペースメーカには、いくつかの種類があります。ある種のペースメーカは心拍を完全にコントロールし、心臓に生じる普通の電気刺激を無効にします。デマンド型と呼ばれる別の種類のペースメーカは、心拍が飛んだり、異常な速度になり始めると、心拍を正常洞調律に戻すように働きます。その他に、プログラム可能なペースメーカもあり、いずれかの型の動作を行うことができます。また、一部のペースメーカは装着者の活動状況に合わせて、運動時には心拍を増やし、休息時には心拍を減らすなどの調節が可能です。
(2) 植込み型除細動器(ICD)
ICD (Implantable Cardioverter Defibrillator)
植込み型除細動器(ICD)は、命に関わる不整脈を治療するための体内植込み型装置です。
脈が病的に速くなる「頻脈」は多くの場合、心臓の中で興奮信号(電気)の流れがぐるぐる回転することで発生する。このような異常な回路が心室にできてしまうと、心室頻拍、心室細動といった生命に関わる頻脈となる。植込み型除細動器(ICD)は、心室頻拍、心室細動などの危険な頻脈を治療するための体内植込み型装置である。
ICD本体とこれに接続した細い電線(リード線)で構成されたもので、ペースメーカーとよく似たものであるが、使用目的と働きが違う。不整脈が起こらないように治療するものではなく、電線の先を心臓に取り付けてICDの本体と電線を接続することで心臓の脈を監視し、命に関わる不整脈の発作が出た場合にすみやかに反応して、電気ショックを発生させて、その不整脈を退治し、発作による突然死を防ぐ装置である。
電線の先を心臓に取り付けてICDの本体と電線を接続することで心臓の脈を監視し、命に関わる不整脈が起こった場合に本体からの電気刺激を心臓内に伝えることにより治療を行う仕組みになっています。
ICD本体の大きさは大体約70gぐらいで、手のひらに乗るサイズですが、ペースメーカーよりは大きいものです。
ICDの電池の寿命は、作動状況によって異なりますが、大体4~5年ぐらいです。電池の寿命がくれば交換が必要となります。リード線が1本用のものと5本用のものがあります。患者の不整脈の状態で使いわけをします。
植込み型除細動器は連続的に心拍数や心拍リズムをモニターして自動的に頻脈を感知し、電気ショックを起こして、不整脈を正常洞調律に戻します。一般的に植込み型除細動器は、この方法を用いなければ不整脈で死亡する可能性がある人に使用されます。植込み型除細動器はペースメーカと同様に、電気刺激を送って徐脈性不整脈を解消することもできます。植込み型除細動器がショックを起こすと、胸を軽くたたかれるような感覚を覚えます。ショックがより強い場合、蹴られたような感覚を持つ場合もあります。植込み型除細動器を植え込んだ人は、電子レンジなどの家庭電化製品や空港の安全探知器に近づいても安全です。しかし、MRI(磁気共鳴画像)検査やジアテルミー(筋肉を温める理学療法に使用される医療機器)などの強力な磁場領域や電気領域を伴う機器は、植込み型除細動器に影響を及ぼすことがあります。ただし、植込み型除細動器では不整脈の発生を防ぐことはできないため、薬を服用する必要があります。この装置は約5年間使用できます。
5 大動脈疾患
大動脈は全身へ血液を送る血管の中で一番太い動脈のことをいう。直径が約2.5センチメートルもある最も太い動脈である。
大動脈は、左心室から受け取った酸素の豊富な血液を、肺を除いた全身の組織へ送り出します(肺は右心室から血液を受け取ります)。心臓から出た大動脈はすぐに腕と頭へ向かう動脈を分枝すると弧を描いて下行し、さらに数本の動脈を分枝しながら下腹部に至ります。下腹部に入った大動脈は寛骨(骨盤)の上端で2つに分かれて腸骨動脈となり、脚へ血液を供給します。
大動脈の障害には動脈壁の弱くなった部分がふくらむ動脈瘤と、動脈壁の膜がはがれる解離があります。
障害の程度 |
障 害 の 状 態 |
1級 |
- |
2級 |
- |
3級 |
・胸部大動脈解離(Stanford分類A型・B型)や胸部大動脈瘤により、人工血管を挿入し、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの ・胸部大動脈解離や胸部大動脈瘤に、難治性の高血圧を合併したもの |
障害手当金 |
- |
基本的に、心疾患による障害は慢性心不全の状態を評価することにある。しかし、大動脈疾患は特殊な場合を除いて心不全を呈することはなく完全な治癒は望める疾患ではないため、1・2級の該当はない。
大動脈疾患にて障害年金3級とは、胸部大動脈解離(スタンフォードA型、B型)や大動脈瘤において、人工血管(ステントグラフトを含む)の手術を行い、労働ができないこと、又は、胸部大動脈解離や大動脈瘤において難知性の高血圧を合併していることが認定される上で条件となってくる。
さらに、大動脈疾患の元となる疾病の状態や手術による合併症、後遺症がある場合は総合的に認定される。
大動脈瘤
動脈は全身に血液を運ぶポンプのような役割を果たしていて、本来しなやかであるが、動脈硬化などが原因で大動脈が弱くなることで大動脈にこぶのような膨らみができることがある。この膨らみを大動脈瘤という。
先天性大動脈疾患や動脈硬化(アテローム硬化)、膠原病などが原因である。動脈瘤は他の動脈でもみられる。
大動脈瘤の定義:
嚢状のものは大きさを問わず、紡錘状のものは、正常時(2.5~3cm)の1.5倍以上のものをいう。 (2倍以上は手術が必要)
大動脈瘤の好発部位
大動脈沿いのどの部位でも動脈瘤は起こり得ますが、大動脈瘤の4分の3は腹部を通過する部分(腹部大動脈)に、残りは胸部を通過する部分(胸部大動脈)に発生します。
動脈瘤の内部では血流が滞りやすくなるため、しばしば血栓(血液のかたまり)が形成されます。血栓は動脈瘤の壁全体に広がることもあります。このような血栓がはがれ落ちて塞栓になって流れ、他の部位で動脈に詰まることもあります。膝窩動脈に発生した動脈瘤は、他の動脈に発生したものよりも塞栓を生じやすくなります。ときには、動脈瘤の壁に徐々にカルシウムが沈着することもあります。
腹部大動脈瘤
腹部大動脈瘤とは、大動脈の腹部通過部位(腹部大動脈)に発生する動脈瘤のことです。
動脈瘤が存在している場合、腹部に拍動が感じられることがあります。動脈瘤が破裂すると体の深部に激しい痛みが起こります。
他の目的で行われた診察や画像診断で動脈瘤がみつかることがよくあります。
血圧を下げる薬を投与するほか、大きな動脈瘤や大きくなっている動脈瘤は開腹手術またはステントグラフト内挿術で修復します。
腹部大動脈瘤はどの年代にもみられますが、50~80歳の男性に最も多く発生します。腹部大動脈瘤は家族性の場合があり、高血圧の人、中でも喫煙者に特に多くみられます。最終的には腹部大動脈瘤の約20%が破裂します。
症状
腹部大動脈瘤がある人は、症状がない場合もよくありますが、腹部に拍動を感じる場合もあります。また、動脈瘤は体の深部や主に背中に感じる突き刺すような痛みを引き起こすこともあります。動脈瘤から血液が漏れ出している場合は、ひどい痛みが続きます。
腹部大動脈瘤が破裂すると、まず下腹部と腰に非常に激しい痛みが起こり、動脈瘤が存在している部分に圧痛を感じます。破裂による内出血が重度の場合は、急速にショック状態に陥ります。腹部大動脈瘤が破裂すると、多くの場合、死に至ります。
痛みは診断に役立ちますが、病状が進行してから現れる手がかりです。また、動脈瘤では症状が現れずに、定期健康診断や別の病気でX線検査や超音波検査などの画像検査を行った際に発見される場合もよくあります。触診では、腹部の正中線上に拍動するかたまりが感じられることがあります。聴診器をこの部位にあてると、血液が動脈瘤の中を勢いよく流れるときに生じるシューという雑音が聞こえます。ただし、肥満の人では大きな動脈瘤があっても発見できないことがあります。動脈瘤が急速に大きくなって破裂しそうになると痛みが生じ、腹部を触診すると圧痛を感じます。
ときには腹部Ⅹ線検査によって壁内にカルシウムの沈着した動脈瘤が見つかることもありますが、それ以外にこの検査法で得られる情報はほとんどありません。動脈瘤の発見と大きさの測定にはその他の検査が役立ちます。通常は、超音波検査で動脈瘤の大きさを知ることができます。動脈瘤が見つかった場合には、超音波検査を数カ月おきに行い、動脈瘤が大きくなっているかどうか、どのくらいの速度で大きくなっているかを判定します。腹部CT検査では、特にX線を通さない造影剤を静脈内に注射した場合、超音波検査よりも正確に動脈瘤の大きさと形状を確かめることができますが、放射線にさらされます。MRI検査も正確ですが、超音波検査やCT検査のようにすぐには受けられない場合があります。
治療
直径が約5センチメートル未満の動脈瘤が破裂することはめったにありません。このような動脈瘤に必要な治療は、降圧薬で血圧を下げることと禁煙のみです。動脈瘤が拡大する速度を測り、修復手術が必要かどうか判定するには画像検査を行います。最初のうちは3~6ヵ月おきに行いますが、検査の間隔は動脈瘤が拡大する速度に応じて変わります。
直径が約5~5.5センチメートルを超える動脈瘤は破裂するおそれがあるため、危険すぎて手術ができない患者を除き、通常は手術が勧められます。手術では動脈瘤を修復するために人工血管を挿入します。それには2つの方法があり、従来の手術法では全身麻酔をかけ、胸骨の下からおへその真下まで切開します。続いて人工血管を大動脈の対象個所に縫いつけます。動脈瘤の壁で人工血管を取り囲むかたちになります。その後、切開創を縫合します。米国ではこの手術にかかる時間は3~6時間とされ、入院日数は5~8日です。もう1つはステントグラフト内挿術と呼ばれる新しい手術法で、侵襲の少ない方法です。この方法では腰から下の感覚がなくなる局所(硬膜外)麻酔を使用します。鼠径部(そけいぶ)を小さく切開し、長く細いガイドワイヤを大腿動脈から大動脈に通し、動脈瘤まで進めます。ステントグラフト(折りたたみ式のメッシュの管)を装着したカテーテルを、ワイヤに沿って動脈瘤の内側に挿入します。ステントグラフトを中で開くと、安定した血流路が形成されます。
腹部大動脈瘤が破裂、あるいは破裂寸前の場合は、緊急に開腹手術かステントグラフト内挿術を行う必要があります。動脈瘤破裂による緊急修復手術中の死亡リスクは約50%です。ステントグラフト内挿術の場合は、このリスクが低くなります(20~30%)。動脈瘤が破裂すると腎臓が損傷しますが、これは腎臓への血流が途絶えたり、血液が失われてショックを起こしたりするためです。手術後に腎不全が起きた場合は生存率が非常に低くなります。腹部大動脈瘤の破裂を治療しない場合は、確実に死亡します。
胸部大動脈瘤
胸部大動脈瘤とは、大動脈の胸郭(胸部)通過部位に発生する動脈瘤のことです。
胸部大動脈瘤は症状が現れない場合もありますが、痛み、せき、喘鳴(ぜんめい)がみられる場合もあります。
胸部大動脈瘤が破裂すると、非常に激しい痛みが背中の上部に起こり、次いで下部や腹部へと広がります。
動脈瘤は偶然発見されることがよくありますが、その場合、X線検査、CT検査、その他の画像検査を行って、動脈瘤の大きさと正確な位置を把握します。
動脈瘤が破裂する前に、手術による修復を試みます。
胸部大動脈瘤は、他の病気のスクリーニング法として胸部CT検査が普及したことから、以前よりも頻繁に見つかるようになりました。一般的な胸部大動脈瘤では、大動脈の壁が変性して嚢胞性中膜壊死と呼ばれる状態になり、心臓に最も近い部位が肥大します。この肥大は心臓と大動脈の間にある大動脈弁の機能不全を起こし、弁が閉じているときに血液が心臓へ逆流するようになります。この異常を大動脈弁逆流といいます。このタイプの大動脈瘤がみられる人の約半数は、マルファン症候群を併発しています。残り半数の人では、その多くが高血圧になっていますが、原因ははっきりしません。また、まれに心臓に近い部位で、梅毒による大動脈瘤が発生することもあります。心臓から離れた部位に発生する胸部大動脈瘤は、胸部の打撲による損傷により起こることがあります。
症状
胸部大動脈瘤は何の症状もなく大きくなります。大動脈瘤が大きくなり、周囲の組織が圧迫されるようになって初めて症状が現れます。したがって、症状は動脈瘤の発生する場所によって異なります。典型的な症状は痛み(普通は背中の上部)、せき、喘鳴です。まれに、気管支やその付近の気道が圧迫されたり、ただれたりすると喀血(かっけつ)がみられます。食べものを胃に運ぶ食道が動脈瘤によって圧迫されると、食べものを飲みこみづらくなります。喉頭につながる神経が圧迫されると声がしわがれます。胸部の特定の神経が圧迫されると、ホルネル症候群と呼ばれるいくつかの症状(瞳孔の収縮、まぶたが垂れ下がる、顔の片側に汗をかくなど)がみられます。胸部に感じる異常な拍動は胸部大動脈瘤を示唆します。動脈瘤による気道の圧迫は胸部X線検査で診断できます。
胸部大動脈瘤が破裂すると背中の上部に激痛が起こります。この痛みは破裂が進行するにしたがって背中の下の方へ、さらに腹部へと広がります。また、心臓発作の際のように胸や腕に痛みを感じることもあります。患者は急速にショック状態に至り、内出血のため死亡します。
治療
胸部大動脈瘤は破裂する前に治療すべきであるため、通常は、動脈瘤の直径が5.5センチメートル以上である場合、腹部大動脈瘤と同様に開腹手術やステントグラフト内挿術で人工血管を植え込みます。手術前にはベータ遮断薬(ベータ・ブロッカー)やカルシウム拮抗薬などの降圧薬を投与して、心拍数と血圧を下げ、動脈瘤破裂のリスクを低下させます。米国での入院日数は、従来の手術(胸部を切開する方法)では5~8日、ステントグラフト内挿術(鼠径部の小さな切開創から大動脈へ折りたたみ式のグラフトを挿入する方法)では2~5日です。マルファン症候群を併発している場合は破裂の危険性が高く、小さな動脈瘤でも医師は手術を勧めます。
胸部大動脈瘤を修復する手術中の死亡リスクは5~15%ですが、破裂後の手術中の死亡リスクは約50%です。胸部大動脈瘤の破裂は治療しなければ、確実に死亡します。
その他の動脈瘤
動脈瘤は脳動脈にも発生することがあります。脳動脈瘤が破裂すると、脳組織への出血(脳内出血)が生じ、脳卒中を起こします。脳動脈瘤は脳の近くに発生し、普通は小さいため、診断も治療も他の動脈瘤とは異なります。感染を起こした脳動脈瘤は特に危険で、早期に治療する必要があります。治療では、多くの場合、手術による修復が行われます。
動脈瘤は大動脈以外の動脈、たとえば膝の裏側の膝窩動脈、太ももにある大腿動脈、心臓の周りの冠動脈、まれに首の頸動脈にも発生します。これらの動脈に発生する動脈瘤は若い人よりも高齢者に多くみられます。
動脈瘤は膝の裏側にある膝窩動脈、太ももの主要動脈である大腿動脈、頭部へ血液を供給する頸動脈、脳へ血液を供給する大脳動脈、心筋へ血液を供給する冠動脈にも発生することがあります。高齢者では、たとえば、腹部大動脈が腸骨動脈に分岐するような動脈の分岐部や、膝窩動脈などの圧迫されることが多い部位に動脈瘤ができやすくなります。動脈瘤は丸い嚢状の場合も、チューブのような紡錘状の場合もありますが、多くは紡錘状です。
これらの動脈瘤の多くは、先天的な動脈壁の欠陥か、動脈硬化が原因です。他には刺傷や銃創による外傷、動脈壁への細菌や真菌の感染症なども原因となります。動脈の感染症は体の他の部位から始まるものが多く、心臓弁で生じるのが典型的です。
膝窩動脈瘤および大腿動脈瘤のほとんどは無症状です。しかし、動脈瘤の内部で形成された血栓がはがれて流れ出し、塞栓となって下肢や足の動脈に詰まることがあります。頸動脈瘤からの塞栓が脳の動脈に詰まると脳卒中が起こります。膝窩動脈、大腿動脈、冠動脈、頸動脈の動脈瘤が破裂することはめったにありません。
動脈瘤は拍動のあるかたまりとして触れることができます。心臓超音波検査(心エコー)かCT検査で診断を確定できます。直径が約2.5センチメートル以上の膝窩動脈瘤は、通常、開腹手術かステントグラフト内挿術で動脈瘤の修復を行います。多くの場合、大腿動脈瘤や頸動脈瘤は、手術で修復します。
大動脈瘤の主な原因は、動脈壁をもろくするアテローム動脈硬化です。まれな原因には外傷、大動脈炎(大動脈が炎症を起こす疾患)、マルファン症候群のような遺伝性結合組織障害、梅毒などの感染症があります。マルファン症候群による大動脈瘤は、心臓に最も近い上行大動脈に最も多く発生します。高齢者の大動脈瘤は、ほとんどがアテローム動脈硬化によるものです。高齢者に多い高血圧と喫煙は動脈瘤のリスクを増大させます。
大動脈瘤はこれのみでは認定の対象とはならない。原疾患の活動性や手術による合併症が見られる場合には、総合的に認定する。
○大動脈解離
大動脈解離は、大動脈の壁に亀裂が入り、壁が内膜と外膜に分離された状態の疾患である。大動脈壁の内層(内壁)が裂ける死亡率の高い病気である。 一般的には突然、激痛が胸部に起こる。
大動脈解離が起きると常に痛みが起こりますが、その多くは突然の激痛で、しばしば引き裂かれるような痛みと表現されます。最も多いのは胸の痛みですが、背中の肩甲骨の間に感じられることもよくあります。この痛みは大動脈に沿って解離が広がるにつれて、たいていは移動します。解離が進行すると、大動脈から分枝している動脈の分岐部がふさがれ、血流が遮断されることがあります。どの動脈が詰まるかによって症状は異なります。たとえば、脳へ血液を供給する脳動脈がふさがると脳卒中になり、心筋へ血液を供給する冠動脈がふさがると心臓発作が起こります。また、腸へ血液を供給する腸間膜動脈がふさがると突然の腹痛が生じ、腎臓へ血液を供給している腎動脈がふさがると腰痛が起こります。脊髄動脈がふさがると神経が損傷を受けて、異常感覚や手足を動かせなくなる障害が起こります。
大動脈解離では大動脈壁の内層が裂け、その裂け目から流れこんだ血液によって中層が外層からはがれます。結果として、壁内に偽の血流路が形成されます。
解離した部位から血液が漏れ出して胸部にたまることもあります。解離部位が心臓に近い場合には、漏れ出した血液が心膜腔(心臓を覆う2層の膜の間)内にたまることがあります。このような状態になると心臓は血液を十分に受け取ることができなくなり、命にかかわる心タンポナーデが起こります。
ほとんどの大動脈解離は、高血圧によって生じた動脈壁の劣化が原因で起こります。一般的には突然、激痛が胸部に起こりますが、背中の肩甲骨の間に痛みが生じることもあります。ほとんどの大動脈解離は、動脈壁の劣化が原因で起こります。動脈壁の劣化に最もかかわっているのは高血圧で、大動脈解離を起こした人の3分の2以上に高血圧がみられます。
大動脈解離は、特にマルファン症候群やエーラス・ダンロス症候群などの遺伝性結合組織疾患でも起こります。また、大動脈縮窄や動脈管開存症(大動脈と肺動脈が連結している状態)、大動脈弁欠損などの心臓や血管の先天異常によっても起こります。その他の原因には、動脈硬化や外傷(自動車事故や転倒で胸部を強く打った場合など)があります。まれに、大動脈造影検査や血管造影検査などでのカテーテル挿入中の事故や、心臓や血管の手術中の事故に伴って起こることもあります。
予後と治療 大動脈解離を治療しなければ、約75%の人が2週間以内に死亡します。治療した場合、大動脈解離が心臓に最も近い部分に起きた場合は70%、より離れた部分に起きた場合は90%の人が生存し、退院することができます。最初の2週間を乗り越えた人の5年生存率は60%、10年生存率は少なくとも40%です。最初の2週間で死亡した人の約3分の1は解離の合併症が原因で死亡しており、残りの3分の2は他の病気が原因で死亡しています。大動脈解離を起こした人は、ICU(集中治療室)でバイタルサイン(脈拍、血圧、呼吸数)を厳密に監視する必要があります。死亡するのは、大動脈解離が発生した2~3時間後です。したがって可能な限り早く薬を投与し、普通はニトロプルシドとベータ遮断薬を静脈投与して、脳、心臓、腎臓への十分な血液供給を維持できる最低値まで心拍数と血圧を下げる必要があります。心拍数と血圧を下げることで、解離が広がるのを抑止できます。医師は、薬物療法の開始後すぐに、手術を勧めるか手術せずに薬物療法を継続するかを判断しなければなりません。
手術では解離した大動脈をできるだけ広範囲に切除し、大動脈壁の中層と外層の間に形成された偽の血流路を閉じて、人工血管で大動脈を再建します。大動脈弁に漏れが生じている場合は、手術で修復するか人工弁と置き換えます。
新しい方法であるステントグラフトは、鼠径部の血管から挿入したカテーテルを介して血管内に留置します。
手術を受けた人も含め大動脈解離を起こした人は、普通はその後の生涯を通じて、血圧を低く保つよう薬物療法を継続しなければなりません。この療法は大動脈の負荷を減らすのに役立ちます。普通はベータ遮断薬かカルシウム拮抗薬に加えて別の種類の降圧薬、たとえばアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬などを併用します。アテローム動脈硬化がみられる人には、コレステロール降下薬の投与や食事制限を行います。
加齢による影響 大動脈解離を起こす人の約半数は60歳以上です。大動脈解離は加齢に伴って多くみられるようになります。高齢者では、しばしば高血圧が原因で大動脈解離が起こります。高血圧が原因で大動脈壁の一部が劣化することがあります。また、加齢によっても同様の劣化が起こります。先天異常や結合組織障害も大動脈解離の原因になることがありますが、これらの障害による解離は通常、老年期を迎える前に起こります。
初診日について注意すべきことは、大動脈解離の原因となった病気が前にあるときである。基本的には原因疾患で初めて医師の診断を受けた日が初診日となる。
大動脈解離(大動脈瘤含む)における障害年金の認定は、人工血管挿入に加えて労働に制限がある場合については、障害年金の3級が認定される。
他の心臓疾患は3級よりも上の等級である2級、1級の基準を設けていますが、大動脈解離では3級の認定基準のみとなります。ただし、「大動脈解離+心不全」、「大動脈解離+心筋梗塞」と他の病気などがある場合には、生活が大きく制限されますので、2級、1級が認定される可能性が出てきます。
肺血栓塞栓症
下肢にも動脈と静脈があり、安静にしていると静脈の流れが遅くなり、血管の中で血液が固まることがあります。これを「深部静脈血栓症」といい、血液の塊(血栓)が流れて肺動脈に詰まったものが「肺血栓塞栓症」です。
動脈が完全に詰まるか、もしくは狭くなって起こる病気は、心筋梗塞や脳梗塞がよく知られています。これらの病気では各臓器の細胞の一部が死滅して、組織の一部に元の状態には戻らない「不可逆的」な変化(壊死)が起こり、機能は回復しません。しかし、肺塞栓症の場合は、肺組織が破壊されるのは患者さんの10~15%程度と考えられています。それは肺組織には、肺動脈とともに大動脈から枝分かれした気管支動脈からも、血液が供給されているからです。
肺血栓症
肺塞栓症は主に脚にできた深部静脈血栓が、血流によって肺動脈まで運ばれてくるために起こります。
手術や入院安静などの後に呼吸困難や胸部痛ではじまり、重篤な場合は死にいたる合併症です。 長時間の航空機搭乗や災害時に自家用車に避難していて生じたという報告もあります。いわゆる「エコノミークラス症候群」です。
6 先天性心疾患
先天性心疾患とは、生まれつき心臓に何らかの異常を認める病気である。
先天性心疾患の種類は数十種類に及ぶ。その中でも、心室中隔欠損、肺動脈狭窄、心房中隔欠損、ファロー四徴症、動脈管開存、大動脈縮窄(しゅくさく)、大血管転移などが多い。
障害の程度 |
障 害 の 状 態 |
1級 |
・病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全の症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
2級 |
・異常検査所見が2つ以上及び病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
・Eisenmenger化(手術不可能な逆流状況が発生)を起こしているもので、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの |
3級 |
・異常検査所見のC、D、Eのうち1つ以上の所見及び病状をあらわす臨床所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの
・肺体血流比1. 5以上の左右短絡、平均肺動脈収縮期圧50mmHg以上のもので、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの |
障害手当金 |
- |
心房中隔欠損症
心房中隔欠損症とは、心臓の左心房と右心房の中間にある心房中隔に先天的に欠損孔と呼ばれる穴が開いている疾患をいう。心房中隔欠損症は先天性心疾患の約5%にみられる。
心房中隔欠損症の治療は、手術による外科的治療とカテーテル治療の2つが挙げられます。手術の場合、人工心肺を使用して切開を行い、直視下に孔を縫ってパッチなどで閉鎖します。カテーテル治療は、大腿の血管にカテーテルを入れ、心房まで通して施術を行う方法です。
心房中隔欠損症のような先天性疾患にて手術などで症状があらわれた場合、手術などで症状が現れた日を初診日とする。
先天性心疾患で最も多い。心室中隔という心室の左右を隔てる壁に孔があり、左心室の血液が右心室に入り込んで、肺に流れる血液が増える病気である。心室中隔欠損は先天性心疾患の約6割を占める。
心房中隔欠損症のような先天性疾患にて手術などで症状があらわれた場合、手術などで症状が現れた日を初診日とする。
ウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群(WPW症候群)
WPW症候群(ウォルフ・パーキンソン・ホワイト)とは、先天性の障害で副伝導路と呼ばれる心房と心室の間に余分に電気刺激を与える部分が存在し、障害を与える疾患です。
図 WPW症候群
症状としては、動悸や息切れを感じたり、食事の摂取が困難になったりするなどの異常が見られるようになります。また、幼児期に発症すると、眼で確認できるほどの早い動悸が起きることもあり、失神する場合もみられますが、最悪の場合は心不全に発展することもあります。
WPW症候群の原因は、余分な電気刺激を与える部分が出生した時点で存在するため、胎児の発育中に何かしらの異常が起こるなどの先天性のものだと見られています。実際にWPW症候群患者の遺伝子から、発症の要因となる可能性がある遺伝子の存在が確認されています。そのため、WPW症候群を発症した患者の子供の発症率は高い傾向にあります。また、先天的に
心臓に疾患のある子供についても高い確率で発症する傾向が見られます。
WPW症候群は、動悸や息切れなどの症状がありますが、激しい鼓動が見られる場合は特に発症の可能性が高くなります。
正常の伝導路(電線)以外に、心房と心室の間に余分な電線(副伝導路)があるために、正常の電線と余分な電線の間で電気の旋回が起こって頻脈(発作性上室性頻拍)が発生する病気です。WPW症候群は生まれつきの病気ですが、一定の年齢にならないと頻脈発作は起こらないことが多く、3~4割の人はずっと発作が起こらないといわれています。
心電図でWPW症候群といわれても、動悸症状のない場合、治療は必要ありません。でも病的な動悸(脈拍数が150以上で突然始まり、突然止まる動悸、あるいはまったく不規則に脈の打つ動悸)症状があり、それがいったん生じると長く続く場合、または頻繁に起こる場合は治療が必要になります。
発作時の症状が強くて、日常生活に支障が出るようであれば、根本的な治療(カテーテルアブレーション)をした方がよいでしょう。これは心臓に入れた細い管(カテーテル)の先から高周波を流して異常な回路(副伝導路)を焼き切る治療法で、これを行うと心電図は正常になり、頻脈発作も起らなくなります。
心房細動は、ウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群の患者にとって非常に危険です。副伝導路は、房室結節を介した正常な電気刺激伝導路よりもはるかに速い速度で、急速に電気刺激を伝えます。その結果として、命が脅かされるようなきわめて速い心室拍動が起こります。拍動が速くなって心臓の機能が大きく低下するだけでなく、拍動があまりに速くなると、すぐに治療しなければ死に至る心室細動へと進展します。
WPW症候群の治療で一般的なのが、カテーテルアブレーションと呼ばれるもので、心臓にある余分な電気経路をカテーテル挿入して壊します。また、異常な心拍を治療するため、抗不整脈薬などを使用した薬物療法も行われます。ただし、薬の効果が見られない場合は、電気ショックを与えて心拍リズムを整えることもあります。生活習慣の改善も必要になり、たばこやカフェイン、アルコールの摂取を控えるようにする必要があります。”
WPW症候群による発作性上室頻拍の発作は、迷走神経を刺激して心拍数を減少させる方法で停止させることができます。そのような方法は、不整脈が始まった直後に行うのが最も効果的です。それらの方法が有効でないときは、通常はベラパミルやアデノシンなどの薬を静脈内投与して不整脈を停止させます。その後、心拍が速くなる発作を防ぐため、抗不整脈薬の投与を無期限に続けることがあります。
高周波アブレーション(心臓に挿入したカテーテルの電極から特殊な高周波エネルギーを発射する方法)による副伝導路の破壊は95%以上の人で成功しています。この処置の実施中に死亡するリスクは1000分の1未満です。高周波アブレーションは、特に抗不整脈薬を一生飲み続けるかもしれない若い人にとって有用な方法です。
アイゼンメンジャー症候群
先天性心疾患が治療されない状態のときにおこる合併症状の一つである。一般的には、静脈血が動脈側に流れ込み、チアノーゼが起こる症状のことをいう。「肺血管閉塞病変」ともいう。
原因となる主な先天性心疾患は、心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、動脈管開存症などである。これらの疾患によって、本来肺に流れるはずの静脈血が、動脈側に流れることで酸素が不足し、チアノーゼがおこる。 主な症状は軽度の動悸や呼吸困難、チアノーゼなどである。いずれの症状も日常生活を送るには問題がない程度であることが多い。 しかし、年齢を重ねることによって徐々に症状は重篤化し、心不全や不整脈、重度の呼吸困難を引き起こす可能性がある。 治療 先天的な心疾患の治療を早期に行い、アイゼンメンジャー症候群になるのを防ぐことである。アイゼンメンジャーを一度発症してしまうと、現在有効な治療方法がなく、発症原因となる心疾患の手術は非常に困難になる。そのため、アイゼンメンジャー症候群になった場合は対症療法が基本となっている。 肺高血圧症を伴うことが多いため、酸素療法によち酸素を直接吸入させたり、肺動脈拡張薬を投与する。 重症の場合、心臓も肺も正常に機能しないため、心肺同時移植が必要となる。ただし、移植後の生存率は有望ではない。
○心不全
心不全は、何らかの原因で心臓のポンプ機能がうまく働かなくなって血液が正常に循環しない状態のことをいう。
心臓の機能は血液を送り出すことです。ポンプ動作により、血液をある場所から他の場所に送ります。たとえば、心臓の右側部分は静脈を通ってきた血液を肺に送ります。心臓の左側部分は肺から戻ってきた血液を取り込み、動脈を介して体内の他の部分に送り出します。血液は心筋が収縮したとき(収縮期)に出ていき、心筋が弛緩したとき(拡張期)に入ってきます。心筋が弱ったり硬くなったりすることで心臓のポンプ動作が不十分になると、心不全になります。血液が体の中を正常に循環することができないので、体中で様々な内臓器官に影響を与えてしまいます。血流量の減少、静脈や肺への血液の滞留(うっ血)など、心臓の機能をさらに低下させる他の変化が生じます。心不全はうっ血性心不全とも呼ばれています。
通常、心臓は拡張することで血液を取り入れ(拡張期)、収縮することで全身に血液を送り出しています(収縮期)。主に血液を拍出する心臓の腔は心室です。
収縮機能不全による心不全は、心臓が正常に収縮できなくなるために生じます。心臓は血液を取り込みますが、心筋が弱くなっていたり心臓の弁に障害が起きているために、満たされた血液を十分に押し出すことができません。その結果、全身や肺に送られる血液量が少なくなり、通常は心室が拡大します。
拡張機能不全による心不全は、心筋が硬くなり(特に左心室)、心臓が十分な血液を取り込めなくなるために発症します。その結果、血液は左心房内や肺の血管内にたまり、うっ血を起こします。しかしこの状態でも、心臓が血液を取り込む量と送り出す量の比率が正常な場合もあります(ただし送り出される血液の総量は減少します)。
心房や心室には常にある程度の血液が入っていますが、拍動ごとに出入りする血液の量が異なることを矢印の太さで示しています。
心不全になると、心臓は体に必要な酸素や栄養分を与えるのに十分な量の血液を送り出せなくなります。その結果、脚や腕の筋肉は疲れやすくなり、腎臓の機能も低下します。腎臓は血液をろ過して水分や老廃物を尿として排出しますが、心臓の機能が不十分になると腎機能が低下し、血液から余分な水分を取り除くことができなくなります。結果的に、血流量が増え、機能が低下している心臓にかかる負荷が増えるという悪循環が起こります。このため、心不全はどんどん悪化します。
心不全の心臓のポンプ機能が低下する原因には、心臓の心筋や弁膜に異常が生じることで引き起こされます。
心筋や弁膜に異常を引き起こす原因は、心筋梗塞、狭心症、心筋炎などの心筋の病気や心臓弁膜症などの心臓弁膜の病気に加え、ストレスや風邪などを伴うことで引き起こされます。 また、慢性的に心臓に負担がかかる高血圧なども心不全を引き起こす原因となります。
心不全の症状 心不全の症状には呼吸困難、息切れ、頻脈、全身のむくみ、チアノーゼ(唇や手足が紫色になる)、尿量の減少などが見られます。
心不全の種類:
心不全は主に収縮機能不全と拡張機能不全の2つのタイプに分けられます。
収縮機能不全では、心臓の収縮力が弱まり、心臓に戻ってくる血液に見合う量の血液を送り出すことができなくなります。そのため、心室内に多量の血液が貯留します。さらに、血液は肺や静脈内にもたまります。
拡張機能不全では、心臓が硬くなって収縮後に十分広がらなくなり、血液を取り込む能力が低下します。心臓は正常に収縮するため、通常と同じ割合の血液を心室から送り出すことができます。場合によっては、硬くなった心臓は血液を取り込む機能の低下を補うために、通常よりも多い割合で血液を送り出します。しかし、最終的には収縮機能不全と同じように、心臓に戻ってきた血液は肺や静脈内にたまります。これらの2つのタイプが同時に起こることもよくあります。
左心室系の障害により動悸や息切れ、肺静脈うっ血*1 による呼吸困難、咳・痰、チアノーゼ*2 などが右心室系の障害により、全身倦怠感や浮腫、尿量減少、頚静脈怒張などの症状が出現する。
通常は両方が同時に起こって両心不全となる。しばしば心房細動や心室性期外収縮などの不整脈を合併する。
*1 肺静脈うっ血
肺静脈がうっ血すると「左心不全」となる。心臓のポンプ機能が弱くなり、からだが必要とする血液の量を心臓が送り出せなくなると、肺に血液が滞り(うっ血),呼吸困難になったり胸水が貯まる症状が現れる。これが「うっ血性心不全」である。心臓の機能低下で、右心室の機能が低下すると、静脈系のうっ血で右心不全となり、左心室が低下すると肺静脈がうっ血する左心不全となる。
*2 チアノーゼ
チアノーゼとは動脈血の酸素濃度が低いため黒色となり、爪や唇が紫色になる症状である。この症状が現れる心疾患は、主に先天性心疾患である「チアノーゼ性心疾患」などがある。先天性心疾患では酸素の少ない静脈血が動脈へ混入する時にチアノーゼの症状が現れ、重症となります。チアノーゼは出生時から生じている場合のほか、乳児期の早い時期は泣いたときだけ目立ち、しだいに常にみられるようになる。
慢性心不全の原因としては、他の心臓にまつわる疾患や血管の疾患などがあげられる。
急性心筋梗塞や、拡張型心筋症、弁膜症、高血圧などが要因となることが多い。特に高齢者に多いのが拡張型心筋症にまつわる慢性心不全である。
弁膜症の要因となるのは、虚血性の心疾患や動脈硬化が引き金になっていることが多い。
その他にも、頻脈性の不整脈や徐脈性不整脈も本疾患の要因となることがある。
心臓の疾患以外にも、慢性腎不全や睡眠時無呼吸症候群、糖尿病などが要因になることもある。
心不全の治療には、心不全の原因となる疾患の治療、生活習慣の変更、心不全治療薬に加え一般的な対策が必要です。
心不全のある人は、特に非処方薬などの新しい薬を服用する前には必ず担当医に確認しなければなりません。一部の薬(関節炎治療薬の多くを含む)は塩分や体液の貯留を起こす場合があり、心機能を抑制する薬もあります。
治療の方法 一般的な治療としては、安静、飲水・塩分制限、酸素吸入を行います。
薬物療法としての基本は利尿薬、ジギタリス、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬またはアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、抗アルドステロン薬を、状態に合わせて段階的に使っていくことです。β遮断薬は、低下した心臓の機能を回復させることが証明されていますが、低血圧や徐脈、喘息の副作用があるうえ、一過性に心不全を悪化させることがあるので、心不全の状態が安定したところで、慎重に少量から始めて徐々に増やしていきます。
強心薬は、一時的に心臓のはたらきをよくしますが、長期間使っているとむしろ心不全を悪化させることがわかってきました。在宅酸素療法(HOT)も有効です。また、睡眠時無呼吸症候群の人には、持続陽圧呼吸(CPAP)が行われ、心不全の改善にも有効です。
心不全の原因はさまざまなので、原因に対して治療を行います。
虚血性心疾患にはバイパス手術や風船療法による冠動脈血行再建、弁膜症に対する外科治療、不整脈に対する抗不整脈薬、カテーテルアブレーション、ペースメーカーなどです。
心疾患の障害等級の認定は、最終的には心臓機能が慢性的に障害された慢性心不全の状態を評価することである。
慢性心不全とは、心臓のポンプ機能の障害により、体の末梢組織への血液供給が不十分となった状態を意味し、一般的には左心室系の機能障害が主体をなす
左心室系の障害により、動悸や息切れ、肺うっ血による呼吸困難、咳・痰、チアノーゼなどが、右心室系の障害により、全身倦怠感や浮腫、尿量減少、頚静脈怒張などの症状が出現する。
心不全の原因には、収縮機能不全と拡張機能不全とがある。
心不全症例の約40%はEF値が保持されており、このような例での心不全は左室拡張不全機能障害によるものとされている。しかしながら、現時点において拡張機能不全を簡便に判断する検査法は確立されていない。左室拡張末期圧基準値(5-12mmHg)をかなり超える場合、パルスドプラ法による左室流入血流速度波形を用いる方法が一般的である。この血流速度波形は急速流入期血流速度波形(E波)と心房収縮期血流速度波形(A波)からなり、E/A比が1.5以上の場合は、重度の拡張機能障害といえる。
心不全の進行に伴い、神経体液性因子が血液中に増加することが確認され、心不全の程度を評価する上で有用であることが知られている。中でも、BNP値(心室で生合成され、心不全により分泌が亢進)は、心不全の重症度を評価する上でよく使用されるNYHA分類の重症度と良好な相関性を持つことが知られている。この値が常に100pg/ml以上の場合は、NYHA心機能分類でⅡ度以上と考えられ、200pg/ml以上では心不全状態が進行していると判断される。
心不全治療薬:
心不全の治療には、利尿薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、ベータ遮断薬、ジゴキシンなどの異なる種類の薬を用います。
食塩の制限だけでは貯留した体液を減らせない場合、利尿薬を使用します。利尿薬は、尿量を増やすことで腎臓による塩分や水分の排出を促し、全身の体液量を減らします。心不全の治療に最も一般的に用いられる利尿薬は、ループ利尿薬です。この種の利尿薬は一般的に内服薬として長期間使用しますが、緊急時には効果を高めるため静脈内に投与します。ループ利尿薬は、主に中等度から重度の心不全に使用します。より効果が穏やかで、血圧を下げる作用のあるサイアザイド系利尿薬は、心不全に加えて高血圧がみられる人などに処方されます。ループ利尿薬とサイアザイド系利尿薬には、尿中にカリウムを排出させる作用があります。そのため、カリウムのサプリメントや、カリウムを排出させる作用のない利尿薬、カリウムの濃度を上昇させるカリウム保持性利尿薬と併用することがあります。収縮機能不全による重度の心不全に対しては、主にカリウム保持性利尿薬のスピロノラクトンが併用されます。この薬は、重症の心不全患者の延命に役立ちます。利尿薬の服用は尿失禁を悪化させる場合がありますが、トイレに行けないときやトイレが近くにないときには、利尿薬を服用する時刻を変えることで尿失禁を防ぐことができます。
心不全の治療の根幹を成す薬は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬です。ACE阻害薬は症状を軽減し、入院期間を短縮するだけではなく、寿命を延ばします。ACE阻害薬は、正常な血圧の上昇にかかわるホルモンであるアンジオテンシンⅡとアルドステロンの血中濃度を低下させます。これによってACE阻害薬は動脈と静脈を拡張させ、腎臓の水分排泄を促進し、心臓にかかる負担を減らします。また、心臓と血管の壁に直接有益な作用をもたらす可能性もあります。
アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬には、ACE阻害薬と似た作用があります。アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬は、心不全の症状が持続する人に対してACE阻害薬と併用される場合がありますが、副作用のせきのためにACE阻害薬を使用できない人には単独で使用されます。
その他の血管拡張薬は、ACE阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬と比べると効果が低いため、あまり使われません。ただし、ACE阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬が効かない人や使えない人では、ヒドララジン、硝酸イソソルビド、ニトログリセリンのテープ剤(皮膚に貼って使用)やスプレー剤などの血管拡張薬で効果が得られる場合もあります。
ベータ遮断薬は、しばしばACE阻害薬との併用で心不全の治療に使用されます。心臓の拍出力をより速く、力強くするノルエピネフリンというホルモンの作用を阻害することによって、心機能を長期にわたって改善し、寿命を延ばす効果があります。ベータ遮断薬は最初に心臓の収縮力を減少させるため、通常は他の薬で心不全を安定させた後に投与します。拡張機能不全による心不全の人では、心拍を遅くして、硬くなり肥厚した心筋を広げるためにベータ遮断薬が使用されます。これにより、心臓はより多くの血液を取り込むことができます。
ジゴキシンは、最も古くから使われている心不全の治療薬の1つで、心拍出力を強め、速くなりすぎている心拍を遅くします。ジゴキシンは、特に心房細動がみられる収縮機能不全を起こしている人の症状を和らげますが、寿命を延ばす効果はありません。
ワルファリンなどの抗凝固薬は、心腔内で血液のかたまりができるのを防ぎます。不整脈がある場合は、抗不整脈薬か、植込み型除細動器を使用するよう勧められることがあります。医師は最適な治療を行っても心機能が弱く、突然死のリスクが高い人に、植込み型除細動器の使用を検討します。また、重度の症状がみられる人には、心臓の収縮を促して機能を改善するために、左右の心室を刺激するペースメーカの使用を勧める場合もあります。
その他の治療:
肺水腫のある人には酸素を供給する必要があり、特別な鼻マスクを用いる場合もあります。場合によっては気管内にチューブを挿管し、人工呼吸器によって呼吸を補助し、呼吸仕事量の増加に対応します。
非常に重度かつ悪化がみられる心不全以外に健康上の問題がなく、薬物療法が効かない患者の場合、心臓移植が選択肢の1つになることもあります。
これらの治療でも心不全の改善がみられない重症の患者には、心臓移植が検討されます。
7 重症心不全
○心臓移植や人工心臓等を装着
心臓移植は心臓移植以外の従来の治療法では救命ないし、延命することを期待できない重症の心機能障害をもつ心臓の病気に対して行なわれている。
広範な心筋梗塞
重症の心筋症(主に拡張型心筋症)
高度の心筋障害を伴う心臓弁膜症 など
重い心不全で、薬や移植以外の手術では有効な治療効果が得られない患者に限って心臓移植を行います。一部の医療機関では適合する心臓が見つかるまでの数週間から数カ月間、人工心臓で生命を維持できます。また、新しく開発された埋めこみ型人工心臓も移植用の心臓が手に入るまでに使用可能で、試験的には代用臓器として長期間使用することもあります。しかし、それでも移植心臓を待つ間に死亡する人が大勢います。
心臓移植を受けた人(レシピエント)の約95%は、移植前と比べて運動機能や日常生活機能が大きく改善されます。レシピエントの約85%が1年以上生存しています。
レシピエントの胸を切開して機能を失った心臓の大部分を摘出しますが、左心房と右心房の後壁だけは残し、この部分とドナーの移植心臓を縫い合わせます。手術には約3~5時間かかり、手術後の入院期間は通常7~14日間です。
移植した心臓に対する拒絶反応を防ぐため、免疫抑制薬を投与しなければなりません。拒絶反応が起きた場合は通常、発熱、脱力感、頻脈やその他の不整脈が現れます。こうなると、移植した心臓が十分に機能しなくなることがあり、血圧が下がったり、両脚や、時として腹部に水がたまって浮腫と呼ばれる状態が起きたりします。水は肺にもたまることもあります。拒絶反応が軽ければ自覚症状が出ないこともありますが、心電図(ECG)により心臓の電気的活動に変化が見つかる場合があります。
拒絶反応を疑った場合は、たいてい生検を行います。頸部を切開してそこからカテーテルを静脈に挿入し、心臓まで通します。そして、カテーテルの先端の小さなメスで心臓の組織をほんの少し切り取って顕微鏡で観察します。その後も年に一度、定期的に生検を実施して拒絶反応が起きていないか調べます。症状として現れていなくても生検で見つかることがあるからです。
心臓移植を受けた後で死亡した患者の半数近くは感染症が原因です。また、心臓移植を受けた患者の約4分の1は冠動脈のアテローム動脈硬化症を発症します。
障害の程度 |
障 害 の 状 態 |
1級 |
・心臓移植 ・人工心臓を移植 |
2級 |
・CRT(心臓再同期医療機器)を装着 ・CRT-D(除細動器機能付き心臓再同期医療機器)を装着 |
3級 |
- |
障害手当金 |
- |
臓器移植を受けたものに係る障害の認定は、「その他障害」の認定要領により認定される。臓器移植を受けた人のその後の障害認定は、術後の症状、治療経過及び検査成績等を十分に考慮して総合的に認定する。
心臓移植や人工心臓等を装着した場合の障害等級は次のとおりである。
1級 :
・心臓移植 ・人工心臓 1級
2級 : ・CRT(心臓再同期医療機器)及びCRT-D(除細動器機能付き心臓再同期医療機器)
術後は1~2年程度経過観察したうえで症状が安定しているときは、臨床症状、検査成績、一般状態区分表を勘案し、障害等級を再認定することとしている。
血管炎
血管炎症性疾患は、血管の炎症(血管炎)を特徴とする病気です。
血管炎が特徴の病気
疾患 |
解説 |
症状 |
ベーチェット症候群 |
動脈と静脈の慢性の炎症、再発性の口腔粘膜のびらんが特徴 |
再発性の口腔粘膜のびらん 性器のびらん 眼の充血と痛み 発疹 関節の腫れと痛み ときに動脈や静脈の血液凝固 |
チャーグ・ストラウス症候群 |
喘息または鼻アレルギーの患者に起こる小血管の炎症(多くは、肺、副鼻腔、皮膚、神経、腎臓の) |
おかされた器官によりさまざまな症状 せきや、ときに喀血(かっけつ) 顔の痛み 息切れ 発疹 腕や脚のしびれ、刺痛、筋力低下 筋肉や関節のうずきと痛み 腹痛 |
巨細胞性動脈炎 |
頭部、首、上体の大きな動脈や中間サイズの動脈、特に(こめかみを通る)側頭動脈の炎症 |
頭痛 頭皮の痛み 咀嚼(そしゃく)しているときのあごや舌の痛み 複視またはかすみ目 治療をしないと、おそらく回復不能の視力障害 |
ヘノッホ・シェーンライン紫斑病 |
しばしば皮膚、腸管、腎臓の、細い血管の炎症 |
膝から下の皮膚に硬い紫色の斑点またはあざ 関節の痛み 吐き気 腹痛 血便または血尿 |
顕微鏡的多発血管炎 |
通常は肺や腎臓から始まる、細い血管の炎症 |
息切れ 脚の腫れ 皮膚上の紫色がかった隆起または斑点 腕や脚のしびれ、刺痛、筋力低下 |
結節性多発動脈炎 |
中間サイズの動脈の炎症 |
おかされた器官によりさまざまな症状 筋肉や関節の痛み 腹痛 高血圧 腕や脚のしびれ、刺痛、筋力低下 |
高安動脈炎(大動脈炎症候群) |
大動脈、大動脈から分岐する動脈、肺動脈の炎症(通常若い女性に多い) |
腕や脚を使うときの痛みや疲労 めまい 脳卒中 高血圧 |
ヴェーゲナー肉芽腫症 |
通常は、副鼻腔、鼻、肺、腎臓などの小血管や中間サイズの血管の炎症 |
おかされた器官によりさまざまな症状 鼻出血 耳の感染症 慢性副鼻腔炎 せきや、ときに喀血 息切れ 胸痛 筋肉や関節のうずきと痛み 発疹 |
人工血管置換術
治療の原則は、破裂や解離をさせないことです。よって、こういった危険性がある場合に、動脈瘤を人工血管にて置き換えることが必要となります。手術する必要がない場合、あるいは手術が不可能な場合は破裂しないように予防するしかありませんが、どのように予防しても動脈瘤がある限り破裂の危険性はあります。また、薬では動脈瘤を小さくすることはできません。
そこで、“こぶ”の部分を切除して人工血管と置き換える「人工血管置換術」を行います。
人工血管は合成繊維のポリエステル(ダクロン)でできており、耐久性に問題はありません。開胸または開腹手術による人工血管置換術は安全性が高く、現在は第一の選択といえます。
人工血管
化学繊維(ダクロン)を網目状に織ったチューブ型のものです。現在の人工血管の耐久性は数十年以上ですので、まず入れ替えの必要はありません。しかし感染に対して弱いため、注意が必要です。例えば歯科治療などの際には、人工血管が体内にあることを歯科医に告げてください。抗生物質投与などが追加されます。一旦、人工血管が感染した場合、治療は非常に困難で、人工血管を入れ替える手術が必要になる場合があります。
心臓と血管の病気の検査
迅速で正確な診断を行うのに役立つ検査は、数多く存在します。たとえば、心電図検査(ECG)、運動負荷試験、電気生理学的検査、チルト試験、X線検査、超音波検査(心臓超音波検査[心エコー]を含む)、MRI(磁気共鳴画像)検査、核医学画像検査、ポジトロン放射断層撮影(陽電子放射断層撮影:PET)検査、心臓カテーテル検査、中心静脈カテーテル検査、血管造影検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査などです。X線透視検査はほとんど行われません。糖(糖尿病の検査のため)やコレステロールなどの数値を測る血液検査はよく行われます。
ほとんどの検査法にはごくわずかなリスクしかありませんが、検査が複雑になり、心疾患の重症度が上がるにつれてリスクが高くなります。
心電図検査
心電図検査は心臓の電気刺激を増幅し紙に記録する検査法で、手早く簡単に実施できる苦痛のない方法です。心電図(ECG)による記録では、毎回拍動を誘発する心臓の生体ペースメーカ部、心臓の神経伝導経路、心拍数や心拍リズムについての情報が得られます。
普通、心電図検査は心疾患が疑われる場合に行います。また、中高年以上のほとんどの人に対しては特に心疾患の徴候がみられなくても、定期健診の一部として行われています。その心電図は、心疾患を発症した後の心電図と比較する基準として使用されます。
心電図の波形の読み方
心電図(ECG)は、1回の拍動の間に心臓に流れる電流の動きを表します。電流の動きはいくつかの部分に分けられ、それぞれアルファベットの名称がついています。
1回の拍動は、心臓の生体ペースメーカ部(洞結節または洞房結節)からの電気刺激で始まります。この電気刺激は心臓の上側にある心房を興奮させ、P波はこの興奮を示します。
次に、電流は心臓の下側にある心室に伝わり、心室の興奮はQRS波として現れます。
電流はその後、心室を反対向きに戻ります。この電気的活動は回復波であり、T波といいます。
心電図にはさまざまな異常が現れます。たとえば、以前の心臓発作(心筋梗塞)、不整脈、心臓への血液と酸素の供給不足(虚血)、心臓の筋肉壁の肥厚などを読み取ることができます。
心電図に現れるある種の異常から、心臓壁の弱くなった部分に発生する隆起(瘤)をみつけることもできます。心臓発作の結果、瘤が発生する場合があります。心拍リズムが異常(速すぎる、遅すぎる、不規則)な場合は、心電図から異常な心拍が発生した心臓内の部位を特定することができます。このような情報は医師が原因を把握するために有用です。
心電図を記録するには、腕、脚、胸に電極(皮膚に固定する小さな円いセンサー)をつけます。これらの電極で1拍ごとの心臓内での電流の大きさと方向を測定します。電極はそれぞれワイヤで記録装置とつながっており、電極ごとに自動的に記録されます。各記録はさまざまな方向から心臓の電気的な活動をとらえたもので、これらの記録によって心電図が構成されています。心電図をとるのにかかる時間は約3分で、苦痛もリスクもありません。
運動負荷試験
運動中に行われる心臓の検査は冠動脈疾患をみつけるのに役立ちます。冠動脈疾患とは、冠動脈を流れる血流(心筋への血液供給)が部分的にまたは完全に遮断される病気です。冠動脈の一部だけがふさがっている場合、安静時には心臓に十分な量の血液が供給されますが、運動中には不足します。したがって、運動中に心臓の検査を行うことで、冠動脈疾患を特定することができます。運動負荷試験は心機能のみを調べるので、症状が心疾患によるものなのか、運動能力に悪影響を及ぼすような他の問題(肺疾患や貧血、体調不良など)によるものかを区別するのに有用です。
運動負荷試験は2つの部分で構成されています。運動または薬物により心臓に負荷を与えて心拍を速くし、心臓への血流が不足している徴候がみられるかどうかを検査します。さらに、血圧の低下、息切れ、胸痛などの冠動脈疾患を示唆する症状も調べます。
心臓に負荷をかけるために、患者はトレッドミルの上を歩いたり、エクササイズ用の自転車エルゴメータをこいだりします。脚を使った運動ができない場合はクランクアームを使用します。徐々に運動のペースを上げ、運動のために必要な負荷を上げていきます。連続的に心電図を記録し、間隔を空けて血圧を測定します。普通は、心拍数が年齢と性別に見合った最大心拍数の80~90%に達するまで運動を続けます。もし息切れや胸痛などの症状があまりにも不快なものになったり、心電図上や血圧記録に重大な異常が現れたりした場合には検査をすぐに中止します。検査にかかる時間は約30分です。運動負荷試験はリスクの少ない検査法で、この検査法によって心臓発作を起こしたり死亡したりする人の割合は約5000人に1人です。
運動することができない人には、薬物負荷試験を行います。この試験では、運動の代わりにジピリダモール、ドブタミン、アデノシンなどの薬剤を注射し、運動と同じような影響を血流に与えます。
負荷試験では一般的に、心電図を使用して冠動脈の血流が減少しているかどうかを調べます。場合によっては、負荷試験の一部として、心エコーや核医学画像検査などのより正確で費用のかかる検査を実施することがあります。
完璧な検査はありません。ときには、冠動脈疾患ではないのに検査で異常がみられる偽陽性の結果が出る場合や、何らかの疾患があっても検査で異常がみられない偽陰性の結果が出る場合があります。特に若くて無症状の人の場合、検査で異常があっても冠動脈疾患である可能性は低いと考えられます。このような場合の陽性結果は偽陽性の可能性が高いのですが、検査でそうした結果が出ると、本人は大きな不安を感じたり、医療費の負担が増えたりする場合があります。そのため、ほとんどの専門医は症状のない人に対して運動負荷試験を機械的に行うこと(運動プログラムの開始前や生命保険に加入するための評価時に、スクリーニング検査として実施するなど)に反対しています。
携帯型心電計による連続記録
不整脈や心筋への血流不足は、ほんの短時間だけ、または予期せずして起こることがあります。こうした変化を検出するために、普通に日常生活をしているときの心電図を24時間連続して記録する携帯型心電計を使用することがあります。
この検査では、電池式の小型の装置(ホルター心電計)を肩からひもで掛けて装着します。心電計は胸につけた電極を通して心臓の電気的な活動を検出し、心電図を記録します。検査中に何らかの症状に気づいたら、その時間と症状を日誌に記録します。後で心電図をコンピュータで処理して、心拍数と心拍リズムを解析し、心筋への血流不足を示す電気的活動の変化を特定し、24時間中のすべての拍動の記録を作成します。これによって、日誌に記録された症状と心電図の変化を関連づけることができます。
必要であれば、症状が起こってからすぐに心電図を解読してもらうために、医療機関などのコンピュータに心電図を電送することも可能です。
24時間以上にわたって心電図を記録する必要がある場合は、イベント心電計を使用します。ホルター心電計に似た装置ですが、症状が現れ、利用者がこの装置を起動させたときにのみ心電図が記録されます。症状がまれにしか現れないため、24時間の記録ではデータを取得できない場合は、最長で1年間、イベント心電計を皮下に留置する場合があります。この心電計は小型の磁石を使って起動します。
携帯型血圧計による連続記録
医療機関で測った血圧の変動が非常に大きいなどで高血圧との診断に疑問が生じた場合、24時間記録できる血圧計を使用する場合があります。この血圧測定法では、腰に電池式の携帯型の装置を装着し、腕に血圧測定カフを巻きます。この装置は、24時間あるいは48時間にわたって昼夜を問わず繰り返し血圧を記録します。記録を解析することで、高血圧であるかどうかだけでなく、その重症度も判断できます。
電気生理学的検査
電気生理学的検査は、心拍リズムや電気伝導の重大な異常を検出するための検査です。検査は入院して行われます。局所麻酔薬を注射した後、たいていは鼠径部を切開し、先端に小さな電極のついたカテーテルを静脈か、ときには動脈に挿入します。カテーテルはX線透視検査(連続的なX線検査)で位置を確認しながら、大血管を通して心腔内まで挿入します。このカテーテルによって心臓内部から心電図を記録し、電気伝導経路の正確な位置を確認することができます。
通常、医師は検査時に意図的に不整脈を誘発し、特定の薬剤で障害が治まるかどうかや、心臓内の異常な電気伝導を除去する手術が役立つかどうかを判断します。必要であれば、心臓に短い電気ショックを与え(カルディオバージョン)、正常洞調律にすみやかに回復させます。電気生理学的検査は体への侵襲性が高く、麻酔も必要ですが、非常に安全な検査法で、検査による死亡リスクは5000人に1人です。検査にかかる時間はほぼ1~2時間です。
チルト試験
チルト試験は通常、原因不明の失神を起こした人で、かつ大動脈弁狭窄症などの構造的な心疾患のない人に勧められます。一般的に、患者はモーターのついた検査台の上で、体を60~80度に傾斜させた状態で15~20分間、連続して血圧と心拍数を測定します。血圧が低下しない場合は、心拍数を毎分20回速めるのに十分な量のイソプロテレノール(心臓を刺激する薬剤)を静脈に注射し、再度検査を行います。この検査法では、心疾患ではないのに心疾患を示す偽陽性の結果が多くみられます。この検査にかかる時間は30~60分で、非常に安全です。
X線検査
心疾患が疑われる場合は、必ず正面と側面から胸部X線画像を撮ります。X線画像では心臓の形と大きさ、肺や胸部を流れる血管の輪郭がわかります。心臓の形や大きさの異常、心臓の組織内へのカルシウムの沈着といった異常は容易に発見できます。また、胸部X線画像では、特に肺の中の血管に異常があるかどうか、肺の内部や周囲に液体がたまっているかどうかなど、肺の病態についての情報も得られます。
X線画像で、心不全や心臓弁障害などによって起こる心拡大が検出できます。心臓を覆う心膜全体の組織が瘢痕化する収縮性心膜炎による心不全では、心臓は拡大しません。
たいてい、心臓自体の形状よりも、肺の血管の形状の方が診断に役立ちます。たとえば、肺動脈(心臓から肺へ血液が流れる動脈)の拡張と肺組織内部の動脈の狭窄は肺動脈内の血圧の上昇を示し、それにより右心室(右心房の下にあり、血液を肺動脈を介して肺へ送り出す部屋)の筋肉が肥厚している可能性があります。血管が詰まっている個所を検出するために、他の部位のX線画像を撮る場合があります。
CT検査
らせん(ヘリカル)CT検査では、心臓や心臓を覆う心膜、大血管、肺、胸部の支持組織などの構造的な異常を検出できます。普通は、X線上で観察できる色素(造影剤)を静脈内に注射します。画像が不鮮明にならないよう、スキャンの間は息を止める必要があります。
電子ビームCT(以前の名称は超高速CTまたはシネCT)は比較的新しい手法であり、主に心臓に血液を供給している冠動脈でのカルシウム沈着(冠動脈疾患の初期徴候)をみつけるために使用します。この検査法はあまり普及していません。
CT血管造影検査はCT検査の一種で、冠動脈以外の主な動脈の三次元画像を得るために行います。この検査の画像では、従来の造影検査と同等の質が得られます。CTAでは、臓器に血液を供給している動脈が狭くなっている場所を検出できるほか、動脈瘤や主要な動脈の裂け目をみつけることができます。またCTAは、血管内ではがれて血流に乗って移動し、肺の細い動脈内に詰まった血液のかたまり(肺塞栓)を検出するためにも使用します。
従来の血管造影検査と異なり、CTAは非侵襲的な検査法です。血管造影検査ではX線造影剤を動脈に注射しますが、CTAでは静脈から注入します。CTAの所要時間は通常、1~2分です。
X線透視検査
X線透視検査は連続的なX線検査で、画面上に心臓の拍動と肺の呼吸に伴う動きを映し出します。しかし、X線量が比較的高いので、多くの場合は代わりに心エコーなどが行われています。X線透視検査は、心臓カテーテル検査や電気生理学的検査の手順の一部として行われています。
心臓超音波検査(心エコー)とその他の超音波検査
超音波検査では、周波数の高い超音波を内部の構造にあてて跳ね返ってきた反射波により、動画像を作成します。この検査ではX線を使いません。心エコーは非侵襲的で害がなく、比較的安価で広く利用でき、優れた画像が得られるため、心疾患の診断に非常によく用いられる検査法の1つです。また、他の部位の血管を侵す疾患の診断にも使われています。
心エコーは、心臓壁の動きの異常を検出し、1回の拍動ごとに心臓が送り出す血液の量を測定するために使われます。また、この検査では、高血圧や心不全、心臓の筋肉壁の障害(心筋症)などの患者でみられる心臓弁の異常、先天異常、心臓壁の肥厚や心房または心室の拡大など、心臓の構造的異常をみつけることができます。さらに、心臓を包む2層の心膜の間に貯留する心膜液や、心膜全体に瘢痕化した組織ができる収縮性心膜炎の診断にも使われます。
超音波検査法には、主にMモード、Bモード(二次元)、ドップラー、カラードップラーという種類があります。Mモード超音波検査法は最も単純な検査法で、調べたい心臓の部位を狙って、一方向に固定された超音波を照射します。Bモード超音波検査法は最も広く行われている検査法で、コンピュータによって作成された詳細な二次元の「スライス」画像が得られます。これらのスライスを積み重ねることによって、三次元構造を再構成することができます。
ドップラー超音波検査法は、血流の方向と速度を描出するので、血管の狭窄や閉塞によって起こる血流の乱れを検出することができます。カラードップラー超音波検査法は、血流の速度の違いを異なる色で示します。これら2つの検査法は、心臓や、胴体、脚、腕の動脈や静脈に影響する疾患を診断するために、一般的に使用されています。医師は、これらの検査法で心腔(心房、心室)と心臓の血管を流れる血流の方向や速度を描出し、心臓各部の構造と機能を評価することができます。たとえば、心臓の弁の開閉は適切か、弁が閉じているときの漏れはどの程度か、血流は正常か、などを決定できます。動脈と静脈をつなぐ異常な通路や、心房間、心室間に穴があるなどの異常も検出できます。
超音波は、片手で操作できるプローブ(探触子)から照射します。心エコーでは、胸部の心臓を覆う程度の領域にジェルを塗り、その領域上でプローブを動かします。プローブは画像を映し出すモニターとつながっています。画像はビデオテープ、コンピュータ上のデータ、あるいは紙の形で記録されます。プローブの位置と角度を変えることにより、さまざまな方向から心臓と心臓周辺の大血管を描出できるため、心臓の構造と機能に関する正確な画像を得ることができます。心エコーは痛みを伴わず、検査にかかる時間は20~30分です。
より鮮明な画像を得たり、大動脈あるいは心臓の後側(特に左心房や左心室)を調べる必要がある場合は、経食道心エコーを行います。この検査法では、プローブをのどから食道と胃の内部に通し、心臓の真後ろから反射波を記録します。経食道心エコーはまた、肥満、肺障害、何らかの技術的な問題によって普通の心エコーを行うのが難しい場合に使われます。
MRI検査
MRI検査では、強力な磁場と電波(ラジオ波)によって心臓と胸部の詳細な画像が得られます。この高価で複雑な検査法は、主に先天性の複雑な心疾患の診断や正常組織と異常組織の識別に使われます。
MRI検査には欠点がいくつかあります。MRI画像の作成にはCT画像の作成よりも時間がかかります。心臓の拍動のため、MRI画像はCT画像よりも不鮮明です。ただし、新しい方式のMRIスキャン(心電図同期MRI)は心電図の特定部分にタイミングを合わせて計測するため、従来のMRIスキャンよりも鮮明な画像を作成できます。
磁気共鳴血管造影(MRA)は、臓器よりも血管を選択的に描出するタイプのMRI検査法です。MRAが作成する血管や血流の画像は、従来の血管造影検査で得られる画像と質的に似ていますが、非侵襲的な検査法です。MRAは、大動脈瘤、腎臓に血液を供給する腎動脈の狭窄、心臓に血液を供給する冠動脈の狭窄や閉塞、腕や脚に血液を供給する末梢動脈の狭窄や閉塞などを検出するために実施されます。
核医学画像検査
核医学画像検査(放射性核種イメージング)では微量の放射性物質(放射性核種)を静脈内に注射します。検査の際に受ける放射線量は、他のほとんどのX線検査で受ける量よりもわずかです。放射性物質は、ガンマカメラで検出できるガンマ線を放出します。この情報をコンピュータで解析し、組織に取り込まれた放射性物質の量の違いを示す画像を作成します。
心臓の核医学画像検査は原因不明の胸痛の診断に特に有用です。冠動脈が狭窄している場合、核医学画像検査を使用して、その狭窄が心臓の血液供給と機能に与えた影響を把握します。また、バイパス手術や同様の処置の後に、心筋への血液供給がどう改善したかを調べたり、心臓発作後の経過の見通しを決定するためにも使用される場合があります。
疑われる疾患ごとに、異なる放射性物質が使用されます。心筋を通る血流を評価する際は一般的に、テクネチウム99m標識セスタミビやタリウム201を使用し、運動負荷試験を行った後に画像を撮影します。心筋細胞に吸収される放射性物質の量は、血流に応じて決まります。運動量が最大になると、虚血により血液が十分に供給されていない心筋の部位は、吸収する放射性物質の量が少なく、(正常な量の血液が供給されている周辺の心筋よりも)低集積の画像になります。運動が実施できない人の場合、ジピリダモール、ドブタミン、アデノシンなどの薬剤を静脈内に注射し、運動と同じような影響を血流に与えます。これらの薬は異常な血管よりも正常な血管に多くの血液を供給するので、血流が不足している部位の血流をさらに低下させます。
被験者が数時間休んだ後、2度目のスキャンを行い、得られた画像を運動中の画像と比較します。医師は画像の比較によって、可逆的な血流不足(普通は冠動脈の狭窄が原因)の部位と、不可逆的な血流不足(普通は過去の心臓発作による瘢痕化が原因)の部位を判別できます。
ごく最近、心臓発作を起こした人では、タリウム201の代わりにテクネチウム-99mを使用します。テクネチウムを使用すると、心臓発作による損傷を発作の12~24時間後から約1週間後まで検出できます。正常な組織に優先的に蓄積するタリウムと異なり、テクネチウムは異常な組織に優先的に蓄積します。ただし、骨にも蓄積するため、肋骨によって心臓の画像がやや不鮮明になります。
シングルフォトン・エミッションCT(単光子放出型コンピュータ断層撮影:SPECT)検査は特殊な核医学画像検査で、コンピュータ処理により画質を向上させた一連の横断面像が作成できます。これを基に三次元画像も作れます。SPECT検査では、従来の核医学画像検査よりも心臓の機能、血流、異常について詳細な情報を得ることができます。
PET(ポジトロン放射断層撮影)検査
PET(陽電子放射断層撮影)検査では、心臓の細胞が機能するのに必要な酸素、糖などの物質をポジトロン(プラスの電荷をもつ電子)を放出する放射性物質で標識します。標識された栄養素を静脈内に注射すると、数分で心臓に到達します。PET検査は、心筋のさまざまな領域にどのくらいの量の血液が供給され、さまざまな物質の代謝がどの程度行われているかを明らかにするために行われます。たとえば、血液が十分に供給されていない心筋の領域では正常な領域よりも多くの糖が消費されるため、放射性物質をつけた糖を注射すると、そうした血流不足の領域がわかります。
PET検査では他の放射線検査よりも鮮明な画像が得られますが、非常に高額の費用がかかるため、広くは普及していません。この検査法は研究用途で使用されるほか、より単純で安価な検査法では診断できない場合に用いられます。
心臓カテーテル検査と冠動脈造影検査
冠動脈造影検査と一緒に行われる心臓カテーテル検査は、冠動脈疾患を診断する最も確実な検査法です。2つの検査法を続けて行うことは、心臓の各心房や心室内の血圧を直接測定し、冠動脈内部の画像を得る唯一の方法です。これらの検査法は、血管形成術や冠動脈バイパス術が技術的に実施できるかどうかを決定するために行われます。その他の心疾患の診断を確定したり、心疾患の重症度を決定したり、症状悪化の原因を明らかにしたりするために実施される場合もあります。
心臓カテーテル検査と血管造影検査は毎年100万人以上に行われています。これらの検査はかなり安全で、合併症がみられることはまれです。心臓カテーテル検査および血管造影検査に伴って、脳卒中や心臓発作、死亡などの重い合併症が生じる可能性は約1000人に1人です。検査を受けた0.01%未満の人が死亡していますが、そのほとんどはもともと重度の心疾患などを患っていた人です。合併症や死亡の危険性は、高齢者で高くなります。
心臓カテーテル検査:
心臓カテーテル検査は、冠動脈疾患以外のさまざまな心疾患の診断と治療に広く利用されています。この検査は心臓が1分間に送り出す血液の量(心拍出量)を測定したり、心臓の先天異常や粘液腫などの腫瘍を検出するために行われます。
心臓カテーテル検査では、針や小切開によって開けた穴から、動脈や静脈の内部に柔軟なチューブ状の手術器具である細いカテーテルを挿入します。挿入場所の皮膚には局所麻酔をします。カテーテルは大血管を通して心房や心室内部に進めます。検査は入院して実施し、検査時間は40~60分です。
カテーテルの先端にはさまざまな器具を付けることができます。それぞれの心房、心室内の血圧や心臓とつながっている血管内の血圧を測定する器具、血管の内部を観察したり超音波画像を撮影したりする器具、心臓のさまざまな部位から血液サンプルを採取する器具、顕微鏡検査(生検)のために心臓内部の組織を採取する器具などがあります。
カテーテルを使用してX線で観察できる色素を注入する検査法を血管造影検査といいます。カテーテルを使って狭くなった心臓の弁を広げる手技は、弁形成術といいます。また、動脈の狭窄や閉塞を取り除くためにカテーテルを用いる手技は、血管形成術といいます。
動脈にカテーテルを挿入した場合、すべての器具を取り出した後、10~20分間は穿刺部位や切開部位を圧迫しておく必要があります。圧迫によって出血を防ぎ、あざができるのを防ぎます。切開部位から出血した後、数週間にわたって大きなあざが残ることもありますが、普通は自然に消えます。
心臓内にカテーテルを挿入すると不整脈が生じる場合があるため、心電図で心臓の状態を監視します。通常、医師はカテーテルを別の位置に動かして不整脈を消失させますが、それでも消失しない場合はカテーテルを抜去します。非常にまれですが、カテーテルを挿入するときに心臓の壁を傷つけたり穴を開けたりすることがあり、緊急手術が必要となる場合があります。
心臓カテーテル検査は、心臓の右側もしくは左側部分で実施されます。
右心カテーテル検査では、右心房、右心室、その間にある三尖弁についての情報が得られます。右心房は酸素を失って全身から戻ってきた血液を受け取ります。右心室はその血液を肺に送り出し、肺で血液中の二酸化炭素の排出と酸素の取込みが行われます。右心カテーテル検査では、カテーテルを普通は腕や鼠径部から静脈内へと挿入します。肺動脈カテーテル検査では、先端にバルーンのついたカテーテルを右心房と右心室に通し、肺動脈の内部に到達させます。
この検査は、ある種の大手術の間や、集中治療室で実施されることがあります。
左心カテーテル検査では、左心房、左心室、その間にある僧帽弁、左心室と大動脈の間にある大動脈弁についての情報が得られます。左心房は肺から酸素の豊富な血液を受け取り、左心室はその血液を全身に送り出します。左心カテーテル検査は右心カテーテル検査よりも頻繁に行われます。たとえば左心カテーテル検査は、冠動脈疾患と診断された患者の疾患の範囲を決定したり、冠動脈疾患が疑われる患者の診断を確定するために行います。この検査法は普通、冠動脈の状態を確認する冠動脈造影検査とともに実施されます。
左心カテーテル検査では、通常、カテーテルを腕や鼠径部から動脈内へと挿入します。あまり一般的ではありませんが、右心カテーテル検査と同様に、カテーテルを鼠径部の静脈内から右心房に通し、右心房と左心房を隔てている壁(心房中隔)に穴を開けて、左心房へと進めることもあります。
冠動脈造影検査:
この検査法では、心臓に酸素の豊富な血液を供給する冠動脈の状態を知ることができます。冠動脈造影検査は左心カテーテル検査と似ており、これら2つの検査はたいてい同時に行われます。検査では局所麻酔を施した後、腕か鼠径部を切開し、細いカテーテルを動脈内に挿入します。カテーテルを心臓へと通し、さらに冠動脈内に進めます。挿入の間、X線透視検査(連続的なX線検査)でカテーテルの位置を確認します。カテーテルの先端が冠動脈内に入った後、X線で観察できる造影剤をカテーテルを通して冠動脈内に注入します。冠動脈の形状がビデオの画面上に映し出され、テープもしくはディスクに記録されます。普通は、連続的な画像を作成する動画撮影技術が使用されます。この検査法はシネ血管造影法と呼ばれます。この検査法では、動いている心房、心室、冠動脈の鮮明な画像が得られます。
冠動脈造影検査で気分が悪くなることはめったになく、検査時間は普通は30~50分です。この検査は重症でない限りは外来で行います。
造影剤を大動脈や心房、心室内に注入すると、造影剤が血流を通して拡散するため、一時的に体が温かくなったように感じます。心拍数が増えたり、血圧がわずかに下がることもあります。まれに、造影剤によって心臓の動きが一時的に遅くなったり、停止することさえあります。こうしたまれに起きる深刻な状態から回復させるため、検査中に勢いよくせきをするよう指示される場合があります。吐き気、嘔吐、せきなどの軽い合併症もまれに起こります。ショック、けいれん発作、腎障害、心停止などの重い合併症が生じることはきわめてまれです。造影剤に対するアレルギー反応は、皮膚の発疹から、まれですが命にかかわるアナフィラキシーまでさまざまです。術者らは冠動脈造影検査に伴う合併症を即座に治療できるよう備えています。
合併症が生じる危険性は高齢者ではやや高くなるものの、それでも十分に低いといえます。冠動脈造影検査は血管形成術や冠動脈バイパス手術を考慮する際に、必ず行う検査です。
心室造影検査は血管造影検査の1つで、カテーテルを通して造影剤を左心室か右心室に注入し、X線を用いて撮影します。この検査は心臓カテーテル検査の間に実施されます。この検査法では、左心室や右心室の動きを観察できるため、心臓が血液を送り出す強さを評価することができます。心臓の血液を送り出す強さを基に、駆出分画(1回の拍動で左心室から送り出される血液の割合)を計算できます。心機能の評価は、心臓の損傷の程度を決定するのに有用です。
肺動脈カテーテル検査
肺動脈カテーテル検査は、重篤な状態で特に点滴を行っている場合に、心臓全体の機能を測定するのに有用です。この検査は、重度の心疾患や肺疾患(合併症を伴う心不全や心臓発作、不整脈、肺塞栓症など)を患っている人や心臓手術を受けた直後の人、ショックに陥っている人、重度のやけどを負った人などに対して実施されます。
肺動脈カテーテル検査は、右心房と右心室の血圧を測定するためや、左心房と左心室の血圧や、心臓が1分間に送り出す血液の量(心拍出量)、心臓から運ばれる血液に動脈内でかかる抵抗(末梢抵抗)、血液の容量などを推定するために行います。この検査法では心タンポナーデや肺塞栓症についての有用な情報も得られます。
肺動脈カテーテル検査は右心カテーテル検査と同様に、先端にバルーンのついたカテーテルを首(鎖骨の下)や腕の静脈内に挿入し、心臓に向かって進めます。カテーテルの先端を上大静脈または下大静脈(それぞれ体の上部と下部からの血液を心臓へ戻す大静脈)から右心房、右心室を通って肺動脈へと進めます。カテーテルの先端のバルーンが肺動脈内に入るようにします。胸部X線検査かX線透視検査を用いて、カテーテル先端の位置が正しいかどうか確認します。
バルーンをふくらませると肺動脈が一時的に閉塞し、肺の毛細血管内の血圧(肺毛細血管楔入[けつにゅう]圧)が測定できます。この測定値は、左心房内の血圧とみなすことができます。カテーテルを通して血液サンプルを採取できるので、血液中の酸素および二酸化炭素の濃度を測定できます。
この検査が原因でさまざまな合併症が起こることがありますが、いずれもまれです。合併症には、肺を覆う膜の間に空気が入る気胸、不整脈、感染症、肺動脈内の損傷あるいは血液凝固、動静脈の損傷などがあります。
中心静脈カテーテル検査
中心静脈カテーテル検査では、首、胸の上部、鼠径部を通る太い静脈のいずれかからカテーテルを挿入します。この方法は、カテーテルを腕や脚の静脈に挿入する末梢静脈カテーテルを実施できない場合に、水分や薬剤を点滴で投与するためによく使用します。時折、体の上方からの血液を心臓へ戻す上大静脈内の圧力(中心静脈圧)を監視するために、中心静脈カテーテル検査を実施することがあります。中心静脈圧は血液で満たされているときの右心房内の圧力を反映しています。この測定は、脱水状態かどうかや、心臓がうまく機能しているかどうかを推定するのに役立ちます。この検査の代わりに、肺動脈カテーテル検査が多く行われるようになっています。
末梢血管造影検査
腕や脚、胴体(心臓を除く)の末梢動脈の血管造影検査は、各検査対称の動脈にカテーテルを入れることを除けば、冠動脈造影検査と似ています。血管造影検査は、動脈の狭窄や閉塞、動脈瘤、動脈と静脈の間の異常な通路(動静脈瘻[どうじょうみゃくろう])をみつけるために実施します。また、血管形成術や冠動脈バイパスグラフト術の必要性を判定するために行われることもよくあります。
大動脈造影検査は、大動脈瘤や大動脈解離など、大動脈内の異常の検出に使用することができます。また、左心室と大動脈の間の大動脈弁の漏れ(大動脈逆流)を検出することもできます。
選択的血管造影検査の前に、動脈の狭窄や閉塞などの異常を検出して画像化するためにデジタルサブトラクション血管造影検査を行うことがあります。しかし、この種の血管造影検査で手術(血管形成術を行うかどうかにかかわらず)の必要性を判断するのは、適切ではありません。また、デジタルサブトラクション血管造影検査は冠動脈に対して用いる必要はありません。造影剤を冠動脈内に直接注入することによって、冠動脈の鮮明な画像が得られるからです。
デジタルサブトラクション血管造影検査では、造影剤を注入する前と後の動脈の画像を得た後、これをコンピュータ処理し、造影剤を注入した血管像のみを再構成します。骨など、動脈以外の組織の画像は消去されます。結果的に、動脈がより鮮明に描出され、造影剤も非常に少なくてすむため、標準的な血管造影検査よりも安全といえます。
僧帽弁狭窄症
僧帽弁は左房と左心室の間にある。僧帽弁が癒着により狭くなった状態が僧帽弁狭窄症である。正常の僧帽弁は弁口面積が4~6cm2あるが、重症の僧帽弁狭窄症では1cm2以下になる。僧帽弁狭窄症では左房から左心室への血液の流れが障害される。このために、狭窄の上流である左心房の内圧上昇や左房拡大がおこる。左心房は肺静脈と直接つながり、ここには弁がないので肺に血液が貯まりやすくなり、肺の働きが障害される。また、肺高血圧状態になり、この状態が長く続くと肺動脈が詰まってきて、たとえ僧帽弁狭窄がなくなっても肺高血圧は戻らなくなる。肺血管に血液が滞った状態を、「肺うっ血」と呼び、息切れ、動悸、呼吸困難を引き起こす。肺うっ血がさらに進むと血管外へ水分がしみ出して、肺が水浸しになる「肺水腫」が生じると、重症の呼吸困難が生じる。
僧帽弁狭窄は左房の血流うっ滞をおこすので、左房内に血液のかたまり(血栓)が生じやすくなる。また、左心房が拡大すると、心房細動という不整脈を起こしやすくなる。心房細動をを合併すると、左心房内の血液うっ滞はさらに悪化し、ますます血栓が生じやすくなる。その血栓が剥がれ落ちて、動流れて脳や手足・内臓の血管を詰まらせ、脳梗塞や手足・内臓の塞栓症を起こすことがある。心房細動を合併した僧帽弁狭窄症の左房内に血流うっ滞は高度で、何も治療をしなければ、左房内の血栓は必ず生じると考えても言い過ぎではありません。
原因 僧帽弁狭窄症はほとんどが小児時期や若年期になったリウマチ熱の後遺症として起こっている。
症状
(1) 左心不全症状 不整脈の合併がなければ、僧帽弁狭窄症の程度がかなり進むまでは、ほとんど心不全症状はない。狭窄が進行すると労作時の動悸、息切れなどの軽い心不全症状が見られるようになる。病状が悪化するに伴い、労作時の呼吸困難、夜間呼吸困難(横になり寝ると数時間で呼吸困難が生じる)、安静時呼吸困難(労作時はもちろん、休んでいても呼吸困難が生じる)、起坐呼吸(横になるより、座った方が呼吸困難が軽い)と進んでいく。過労や風邪などの呼吸器感染症をきっかけに、症状が急に悪化しやすい。手足が紫色になる(チアノーゼ)や血流低下により手足が冷えやすい。重症例では鼻やほほの毛細血管が拡張し、紅潮する顔つき(僧帽弁様顔貌)があるが、最近ではこのような重症例はめっきり減った。
(2) 脈拍の乱れ 自覚症状がほとんどない心房細動が、診断のきっかけとなることがある。僧帽弁狭窄症が重症になるにつれて、心房細動の頻度は高まる。
(3) 右心不全症状 場合によっては右心不全が主症状となることもある。腹部膨満感、頸静脈怒張、下腿浮腫、肝腫大、食欲減退などがでる。
(4) 脳塞栓症 心房細動を合併すると、無治療では高頻度に脳塞栓や手足の動脈が突然詰まる動脈塞栓がおこる。
治療方法 僧帽弁狭窄の治療には利尿薬やベータ遮断薬、カルシウム拮抗薬を使用します。利尿薬で尿量を増やすと、循環する血流量が減少し、肺の血圧を低下させることができます。ベータ遮断薬やジゴキシン、カルシウム拮抗薬は、心拍のリズムの制御に有用です。心房細動のある人では、血栓の形成を予防するために抗凝固薬が必要になる場合があります。
薬物療法で十分に症状を軽減できない場合は、弁の修復や置換を実施します。ときには、バルーン弁形成術と呼ばれる手法を用いて、弁を拡張して開きます。この手法では、先端にバルーン(小さな風船)のついたカテーテルを静脈から心臓内に徐々に挿入します。弁の内部に到達したら、バルーンをふくらませて癒着した弁尖をはがします。
また、別の方法として、癒着している弁尖を切り離す心臓手術を行うこともあります。弁がひどく損傷している場合は、人工弁に置換する必要があります。
合併症 (1) 慢性心房細動、発作性心房細動 僧帽弁狭窄症には高頻度に合併する。逆に、心房細動がきっかけになって、僧帽弁狭窄症が見つかることもある。
(2) 脳塞栓症、ほかの部位の動脈塞栓 心房細動を合併した僧帽弁狭窄症は、とても脳塞栓(心臓内でできた血の塊が流れ飛んで、脳の血管に詰まることにより生じた脳梗塞)を起こしやすい病気である。特に左心耳血栓の診断には経食道心エコー検査が有用。心房細動を合併した僧帽弁狭窄症では、血栓塞栓の頻度は極めて高く、たとえ検出できなくとも、血栓はできたり、消えたりしていると考えてよい。
(3) 感染性心内膜炎 抜歯などの処置時には予防的な抗菌薬投与を必ず行うことを勧める。
治療経過(予後と転帰) 通常、リウマチ熱罹患後10~20年は無症状ですが、軽症の心不全症状発現後に、重症の症状へ進行するのに平均5年と言われている。死因は心不全と脳塞栓によるものが多い。病気の経過は、肺高血圧の進行、心房細動や塞栓症の有無によって異なる。不可逆的な肺高血圧(肺血管の病変が固定し、人工弁に置き換えても戻らない肺高血圧症)になると手術による改善が期待できなくなります。
僧帽弁逆流(僧帽弁閉鎖不全症)
僧帽弁逆流(僧帽弁閉鎖不全症)とは、左心室が収縮するたびに僧帽弁から血液が逆向きに漏出(逆流)する状態です。
逆流が重度の場合、息切れを起こすこともあります。
軽度の逆流は治療の必要はありませんが、重度の逆流の場合、アンジオテンシン変換酵素阻害薬の服用か、損傷のある心臓弁の置換手術が必要になることがあります。
僧帽弁逆流では、左心室が大動脈へ血液を送り出すときに、血液の一部が左心房へと逆流し、左心房内の血液量が増加して内圧が上昇します。左心房内の血圧が上昇すると、肺から心臓へ向かう肺静脈の血圧が上昇するほか、心室から逆流してくる血液を収容するために左心房が拡張します。大きく拡張した心房は異常に速く不規則に拍動(心房細動)しますが、細動する心房は単にふるえるだけで血液を送出しないため、心臓のポンプ機能は低下します。その結果、血液は心房内を正常に流れることができず、血液のかたまり(血栓)が形成される場合があります。この血栓が砕かれて塞栓となり心臓から送り出されると、他の部位の動脈に詰まり、脳卒中や他の臓器の損傷を引き起こすことがあります。
重度の逆流は心不全を起こすことがあり、心房内の圧力の上昇により肺の体液貯留(うっ血)が生じたり、心室から全身への血流量が減少して臓器に十分な量の血液が送られなくなります。左心室が徐々に拡張して弱くなると、心不全がさらに悪化します。
腎臓への影響 腎臓は心臓病の影響を受けやすい臓器の一つです。血液中の老廃物を尿として捨てている臓器ですが、血液が来ないことには当然仕事が進みません。老廃物とは毒素でもありますので、これが捨てられないと最終的には命に関わってきます。
肝臓への影響 肝臓も上手く血液が巡らなくなるとダメージを受けます。その結果、血液検査で肝臓の項目で異常値が出る場合があります。
腸への影響 腸での血液の巡りが悪くなると、下痢を起こす場合があります。
心臓にも血液が溜まる 心臓から血液が出て行きにくくなると、血液が心臓にたくさん溜まってきます。この血液が溜まった状態をうっ血と呼びます。
ある程度症状が出ている場合は、薬物療法が行われます。使用する薬物は、利尿薬やジギタリス製剤を用います。最近では、アンジオテンシン変換酵素阻害薬を併用することもあります。心房細動の合併がある場合は、抗凝固療法による治療が行われます。
手術は、左心室の機能低下が回復不能になる前に行わなければなりません。そのためには心エコー検査を定期的に行って、左心室の拡張が進行する速さを測定します。手術には、弁を修復する弁形成術と、人工弁に置き換える人工弁置換術があります。弁形成術は逆流を解消または軽減し、耐えられる程度に症状を緩和して、心臓の損傷を防止します。修復した弁は通常は機械弁や生体弁よりもよく機能し、生涯にわたる抗凝固薬療法の必要がないため、可能であれば弁の置換よりも修復が望まれます。人工弁置換術を行うと、逆流を解消することができます。
僧帽弁逸脱(MVP)
僧帽弁逸脱とは、左心室が収縮するたびに弁尖が左心房内に突き出る障害で、心房内へ少量の血液が漏出(逆流)することもあります。
僧帽弁逸脱は多くの場合、結合組織障害によって起こります。
ほとんどの場合に症状はありませんが、胸痛、速い脈拍、動悸、片頭痛、疲労、めまいなどがみられることもあります。
聴診で心臓から特徴的なクリック音が聞こえる場合、医師は僧帽弁逸脱の診断を行います。ただし、心エコーによる診断の確定が必要な場合もあります。
ほとんどの場合、治療の必要はありません。
僧帽弁逸脱は人口の約2~5%にみられます。弁組織に余剰が起こる原因は、多くの場合、粘液腫性変性(弁組織を弱くする遺伝性の結合組織疾患)です。逆流が重度になったときや、弁に感染が起きたとき、あるいは粘液腫性組織が破裂したときにのみ、重症の心臓障害が発生します。
症状と診断
僧帽弁逸脱はほとんど症状がありません。まれに、構造的な障害というだけでは説明しがたい症状がみられます。たとえば、胸痛、頻脈、動悸(異常な心拍の自覚)、片頭痛、疲労感、めまいなどです。また、立ち上がったときに、血圧が低くなることもあります(起立性低血圧)。
僧帽弁逸脱は、聴診で特徴的なクリック音を認めることにより診断されます。左心室が収縮するときに心雑音が生じる場合は、逆流と診断されます。心エコー検査では逸脱の状態を確認でき、逆流の重症度を評価することができます。
治療
僧帽弁逸脱では、治療が必要になることはほとんどありません。心拍が速すぎる場合には、ベータ遮断薬を投与して心拍を遅くし、動悸やその他の症状を軽減します。
逆流もみられる場合は、心臓弁の細菌感染症(感染性心内膜炎)にかかる危険性がわずかにあるため、外科的処置、歯科的処置、内科的処置の前に、抗生物質を服用しなければなりません。
大動脈弁狭窄症
大動脈弁狭窄症とは、全身へ血液を送るポンプとして働く心臓の、血液の逆流を防止するためにある弁(大動脈弁)が、動脈硬化、変性、先天性二尖弁などさまざまな原因で硬くなって動きが悪くなり、血液の出口が狭くなってしまう病態をいいます。
心臓には弁が4つあります。 三尖弁(右房室弁):右心房と右心室の間 肺動脈弁:右心室から肺動脈への繋ぎ目 僧帽弁(左房室弁):左心房と左心室の間 大動脈弁:左心室から大動脈への繋ぎ目
心臓は血液を全身に送るポンプの働きをしていますが、内部は4つの部屋に分かれています。各部屋を逆流しないよう、部屋と部屋の間には弁と呼ばれる扉がついており、心臓には4つの弁があります。このうち、全身に血液を送るポンプの役割をしている左心室と、大動脈の間にある弁を大動脈弁と呼びます。大動脈弁膜症はこの弁の働き不十分になることで起こる症状です。大動脈弁狭窄症は、大動脈弁の性質が硬化し、血液の通過できる面積が狭くなる病気です。初めは症状を伴わず進行します。進行すると、狭心症のように胸が痛くなったり、失神したり、心不全になるなどの症状を呈するようになります。心不全を発症すると、つかれやすい、歩くなど軽い労作で息切れがする、横になると呼吸が苦しく、また特に朝方息苦しくなる、足がむくむ、などの症状が認められます。また、突然死の可能性があるといわれています。
原因・病態 心臓が大動脈を経由して全身に血液を送り出すにあたり、大動脈から心臓に血液が逆流しないように一方向弁の役割をしているのが大動脈弁です。さまざまな原因(動脈硬化・リウマチ熱・二尖弁など)により弁の性質が硬化し、通過できる面積が狭くなることで大動脈弁狭窄症となります。
治療
大動脈弁狭窄があるが特に症状がみられない成人は、定期的に診察を受け、過剰に負担のかかる運動を避ける必要があります。心エコー検査を定期的に行い、心臓と弁の機能を監視する必要があります。
大動脈弁狭窄のある成人で、運動時に息切れ、狭心症、失神がみられる場合は、左心室が回復不可能な損傷を受ける前に大動脈弁を置換する手術を行います。定期的な心エコー検査の結果を参考に、手術時期を決定することがあります。異常な弁を置き換える手術は、すべての年齢の成人に対して最善の治療法で、弁置換術後の予後(経過の見通し)はきわめて良好です。
手術前に、利尿薬により心不全を治療します。狭心症の治療はしばしば困難です。それは、ニトログリセリン(冠動脈疾患の人の狭心症治療に用いる薬物)がまれに危険な低血圧を起こし、大動脈弁狭窄のある人の狭心症を悪化させることがあるからです。
加齢による影響
大動脈弁にカルシウムが蓄積して弁が肥厚しているものの、弁を通る血流を阻害しない場合があります。この異常は大動脈硬化症と呼ばれ、65歳以上の人の約4分の1にみられます。
大動脈硬化症は無症状ですが、聴診でかすかな心雑音が聞こえることがあります。大動脈硬化症で体の異変を感じることはほとんどありませんが、心臓発作と死亡のリスクが増加します。そのため、大動脈硬化症の人には、冠動脈疾患の危険因子を取り除いたり制御したりすることが重要です。危険因子には喫煙、高血圧、コレステロール値と中性脂肪値の異常、糖尿病などがあります。
障害年金では、大動脈弁、僧帽弁、三尖弁、肺動脈弁の4つの弁のうち、一つでも人工弁に置き換えれば3級となります。 また、人工弁を装着したにも関わらず状態が悪い場合は2級または1級です。4つの弁をすべて人工弁にしても経過が良好な場合は3級のままですが、人工弁を装着していなくても状態が悪ければ2級や1級となります。
大動脈弁逆流(大動脈弁閉鎖不全)
大動脈から心臓に血液が逆流してしまう病気が大動脈弁閉鎖不全症です。
症状 一般的には、始めは症状を伴わず進行します。進行すると、疲れやすくなったり、運動したときの息切れが強くなったり、夜間睡眠中に呼吸が苦しくなったり、寝ていられなくなり座って呼吸するようになったりします。
原因・病態 心臓が大動脈を経由して全身に血液を送り出すにあたり、大動脈から心臓に血液が逆流しないように一方向弁の役割をしているのが「大動脈弁」です。大動脈から心臓に血液が逆流してしまう病気が大動脈弁閉鎖不全症です。
大動脈弁逆流では約5%の人が、特に夜間に心筋への血液の供給不足による胸痛(狭心症)を起こします。
大動脈弁を通る血液が逆流して血圧が急激に低下するため、虚脱脈(瞬間的に強くなり、それから急に消える脈拍)が生じます。
原因としては、大動脈弁自体の異常として加齢や高血圧や感染症による弁の変化が挙げられ、大動脈の異常として大動脈瘤・大動脈解離、そして先天性の疾患(Marfan症候群など)が挙げられます。
治療 薬物療法 無症状で軽度の場合、高血圧やその他の疾患(糖尿病・高脂血症・肥満)を行う方針となることがあります。心不全を発症した場合は心不全の治療を優先することが一般的であり、利尿剤や心保護作用を有する薬を用いて治療しますが、その後、手術療法の可能性について精査をすることとなります。
大動脈解離や感染性心膜炎という病気を起こしたときの大動脈弁閉鎖不全症は急激に発症し、治療には早期の手術が必要になります。徐々に進行してきた場合でも、症状があり重症の場合には「大動脈弁置換術」という手術が基本的な治療となります。
手術 重症あるいは症状のある大動脈弁狭窄症は心臓の機能が低下する前に手術をすることが望ましいと考えられています。機械弁あるいは生体弁を用いた「大動脈弁置換術」を行います。
大動脈も同時に手術することがあります。
障害年金では、大動脈弁、僧帽弁、三尖弁、肺動脈弁の4つの弁のうち、一つでも人工弁に置き換えれば3級となります。また、人工弁を装着したにも関わらず状態が悪い場合は2級または1級です。4つの弁をすべて人工弁にしても経過が良好な場合は3級のままですが、人工弁を装着していなくても状態が悪ければ2級や1級となります。
三尖弁(さんせんべん)
三尖弁とは、心臓内の弁。右心房と右心室の間にある房室弁をいう。この弁膜は前尖、後尖、内側尖 (中隔尖)の3弁から成り,それぞれ腱索によって乳頭筋に連なって血液の逆流を防止している。三尖弁の機能的、器質的障害には、三尖弁閉鎖症、狭窄症、閉鎖不全症などがある。
三尖弁閉鎖不全症は、弁が閉じにくくなり血液が逆流してしまうとても怖い病気です。弁が狭くなるのは先天性やリマウチ性で起こります。弁の付け根が広がって弁尖がひらひらと開いたり、閉じたりする部分が届かなくなったり、生まれたときから弁の発達が不十分だったりする先天性のタイプや、感染性心内膜炎が三尖弁に起こって弁に穴が開いたりちぎれたりするタイプがあります。まず血栓がつまり、肺動脈弁に異常が起き、三尖弁に異常が起きて末端の肺動脈が狭くなります。
三尖弁狭窄
三尖弁狭窄は、三尖弁の開口部が狭くなり、右心房から右心室への血流に対する抵抗が増している状態です。
何年もたつと、狭くなった弁の開口部を通る血流が部分的に遮断されて心房内の血液量が増加し、右心房が大きくなります。同様に、この血液量の増加により、肺を除く全身から心臓へ血液を戻す静脈の血圧が上昇します。しかし、右心房から入ってくる血液の量が少なくなるので、右心室は小さくなります。まれに三尖弁逆流が起こります。
ほとんどすべての三尖弁狭窄は、北アメリカ、オーストラリア、西ヨーロッパではあまりみられないリウマチ熱によって起こります。まれに右心房の腫瘍や結合組織疾患によって、あるいはさらに希少な場合として、心臓の先天異常によって起こることもあります。
症状は、通常は軽度です。動悸(異常な心拍の自覚)、首のふるえによる不快感、肌が冷たくなる、疲労感などがみられます。静脈内の血圧の上昇によって肝臓が肥大すると、腹部に不快感が生じます。
聴診では、三尖弁狭窄に特有の心雑音が聞こえます。胸部X線検査では右心房の拡張が認められます。心エコー検査は、狭くなっている弁の開口部と弁を通る血液量を描出できるため、狭窄の重症度を評価できます。心電図検査では、右心房の拡張を示す変化が確認できます。
三尖弁狭窄は、修復手術が必要になるほど悪化することはまれです。
三尖弁逆流
三尖弁逆流(三尖弁閉鎖不全)は、右心室が収縮するたびに三尖弁から血液が漏出(逆流)する状態です。
三尖弁逆流は右心室を拡大させる疾患によって起こります。
脱力や疲労感のような漠然とした症状がみられます。
医師は診察所見から三尖弁逆流を疑い、心エコー検査を実施して診断を確定します。
原因となる疾患の治療が必要です。
右心室が収縮して血液を肺へ送り出すたびに、血液の一部が右心房に逆流します。それにより、右心房内の血液量が増加し、心臓から体に送り出される血液が少なくなります。その結果、右心房は拡張して内部の血圧が上昇し、右心房につながっている太い静脈の血圧も高くなります。この上昇した血圧のため、肝臓が腫脹することもあります。右心房の拡張は、急速で不規則な拍動(心房細動)を引き起こすことがあります。最終的に心不全を来します。
原因
三尖弁逆流は通常、右心室が拡大し、右心室から肺に行く血流への抵抗が強まった結果、起こります。この抵抗は、重症で長期にわたる肺の病気(肺気腫や肺高血圧症など)や心臓の左側に起こる疾患によって増大するほか、まれに肺動脈弁が狭くなる障害(肺動脈弁狭窄)によっても強まります。これを補うため右心室が拡張すると、三尖弁が伸びて逆流を起こします。
その他、あまり一般的ではない原因に、心臓弁の感染症(多くは違法薬物の静脈内注射による感染性心内膜炎)、フェンフルラミンの使用、三尖弁の先天異常、外傷、粘液腫性変性(弁の張りが徐々に失われる先天性疾患)があります。
症状と診断
三尖弁逆流は、脱力や疲労感のような漠然とした症状を引き起こします。これらの症状は、心臓が送り出す血液の量が少なくなるために発生します。多くの場合、その他の症状は右心房の圧力の上昇による首の拍動感と、腫大した肝臓による右上腹部の不快感だけです。心不全が起こると、体内の各部、主に脚に体液がたまります。
診断は、病歴と診察所見、心電図検査、胸部X線検査の結果に基づきます。聴診では、血液が三尖弁を逆流するときに生じる特徴的な心雑音が聞こえますが、逆流が悪化すると心雑音は消える傾向があります。心エコー検査は、逆流が生じている弁と逆流している血液量を描出できるため、逆流の重症度を評価できます。
治療
普通、軽度の三尖弁逆流は、ほとんど、あるいはまったく治療する必要はありません。しかし、肺気腫、肺高血圧症、肺動脈弁狭窄、心臓左側の異常などの基礎疾患を治療する必要があります。心房細動と心不全の治療も必要ですが、三尖弁を修復するための手術は、他の心臓弁手術(僧帽弁置換術など)の必要がない限り、ほとんど行われません。
肺動脈弁狭窄症
心臓の右心室からは肺へ血液を送る肺動脈が出ているが、その付け根についている弁を肺動脈弁という。肺動脈弁が狭いと、右心室から肺に送られる血液が通りにくくなる。そのため右心室圧が高くなり障害が起きた状態のことをいう。
肺動脈に血液を送り出すために、通常よりも大きな力を必要とするため、右心室の筋肉が肥大する。
症状は、胸痛(狭心症)、息切れ、失神などです。
この障害のある年少児の多くで心臓手術が必要です。成人や年長児では、バルーン弁形成術を実施します。この手法では先端にバルーンのついたカテーテルを静脈から心臓内にまで挿入し、弁の開口部を伸ばして開きます。弁の内部に到達したら、バルーンをふくらませて癒着した弁尖を分離します。
肺動脈弁閉鎖不全症(pulmonic regurgitation;PR)
拡張期に肺動脈から右室へ血液が逆流する疾患である。
最も一般的な原因は肺高血圧である。
人工心臓弁を装着
機械弁の種類はたくさんありますが、セントジュード弁が一般的に使用されています。
弁の特性など多数の要因を考慮した上で使用する弁を選択します。機械弁は生体弁より長もちしますが、弁上に血栓が形成されるのを防ぐために、抗凝固薬を一生服用し続けなければなりません。生体弁は、抗凝固薬が必要となることはまれです。したがって、患者が抗凝固薬を服用できるか否かが重要な要因となります。たとえば、抗凝固薬は胎盤を通過し、胎児に影響を及ぼす可能性があるため、出産可能な年齢の女性に適用すべきではありません。また、年齢、日常生活での活動状況、心臓の機能、どの心臓弁の障害であるかなども考慮します。
心臓弁の置換のために、全身麻酔が実施されます。心臓を手術のために停止させる必要があり、その間は人工心肺装置を使用して血液を送出します。障害のある弁を切除し、そこへ置換する人工弁を縫い合わせます。切開創を閉じて人工心肺装置を外すと、心臓は再び動き出します。手術には2~5時間かかります。また、一部の人に対しては、より侵襲性の少ない(胸骨を切開しない)方法で弁の置換を実施する病院もあります。入院期間は個々人で異なります。完全に回復するには6~8週間かかります。
損傷した心臓弁は、重症の細菌感染症にかかりやすくなります(感染性心内膜炎)。心臓弁に障害がある人や人工弁置換術を受けた人が外科的処置、歯科的処置、内科的処置を受ける前には、心臓弁の感染症の発症リスクが小さくても、そのリスクを減らすために抗生物質を服用すべきです。心房細動がある場合、血栓を予防するための抗凝固薬による治療などが必要になる場合もあります。
特発性拡張型(うっ血型)心筋症
特発性拡張型(うっ血型)心筋症は心室の筋肉の収縮が極めて悪くなり、心臓が拡張してしまう病気で肥大型心筋症に比べて予後の悪いものです。
我が国のある統計によると、診断されてから5年生存している人は54%、10年生存は36%とされていましたが、最近では治療の進歩により生存率は76%と良くなっています。死因としては、心不全と不整脈があります。また、不整脈や心不全の重い人では、心臓の腔内に血の塊(血栓)ができて、それがはがれて血流に乗って流れると脳の血管などにつまって脳梗塞を生じたりします。
男女とも60歳台が最も多く、ついで男性では50歳台、女性では70歳台に多くみられます。男女比は2.6:1と男性に多い傾向がみられます
現在のところ原因は不明ですが、ウイルス性心筋炎の関与が注目されています。この病気はC型肝炎ウイルス感染によってもおこることが報告されていますが、発症原因の詳細は不明です。また、免疫異常、栄養のかたより、飲酒などが悪影響を及ぼすこともあるといわれています。
5%に家族内発症がみられることより、遺伝的素因の関与も考えられています。
自覚症状として動悸や呼吸困難がみられます。はじめは運動時に現れますが、症状が進むにしたがって、安静時にも出現し、夜間の呼吸困難などを来します。また、心機能の低下が進むと、浮腫や不整脈が現れてきます。不整脈で重要なものには、脈が1分間に200回以上になる心室頻拍があり、急死の原因になります。逆に、脈が遅くなる房室ブロックがみられることもあります。胸部エックス線写真では心臓の拡大がみられ、心不全状態になると肺にうっ血所見が現れます。心電図ではさまざまな異常所見が出ます。心エコー検査では心室腔、特に左心室内径の拡大がみられ、心室壁の動きの低下もわかります。診断の確定は、心臓カテーテル検査で心臓の動きの低下をみることです。この場合、心筋生検で心臓の筋肉の組織像を調べることにより原因がわかることもあります。
予後の悪い病気ですので、必ず入院検査が必要です。症状がないときでも定期的な観察が欠かせません。再び心不全症状が出現すると、入院後長期間の安静臥床、又は運動制限などを行わなければなりません。心不全に対しては薬物療法を行いますが、副作用もあるので内服については医師の指導を十分に受けることが必要です。ベータ遮断薬が有効であることがわかり、多くの患者さんで投与されています。また、ACE阻害薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬も延命効果や運動耐容能(運動に耐える能力)の改善が認められ、ベータ遮断薬と併用して使われています。水分が貯留する人では、利尿薬を使います。ただし、利尿をつけすぎると血液量が減って、心臓の機能がかえって落ちてしまうことがあります。また、尿中にカリウムを排出しすぎて不整脈が出たり、薬の中毒をおこしやすくしたりもしますから注意が必要です。利尿薬の一種であるスピロノラクトンは、利尿薬としてだけではなく心不全の改善効果があるとされています。一部の患者さんでは完全社会復帰が可能となる程の回復がみられますが、各種の薬剤は専門医の指示に従って注意深い服用が重要です。この病気は重い不整脈を合併することが多く、不整脈の薬や植込型除細動器が必要となることがあります。
この病気は慢性進行性のことが多く、予後がよくないため、欧米では心移植が必要となることが多く、我が国における心移植適応例の80%以上はこの病気です。厚生労働省の調査では、5年生存率は76%であり、死因の多くは心不全または不整脈です。
慢性虚血性心疾患
慢性虚血性心疾患の主な症状は胸部の痛みです。
激しく運動をしたときや強いストレスを感じたときに発作が起こることが多いといわれています。人によっては背中や肩、腹部などに痛みを感じます。多くは数分でおさまりますが、痛みが数十分続く場合もあります。痛みが激しい場合は生命にかかわることもあるので、救急搬送するなどの早急な処置が必要です。日常生活において起こる動機や息切れ、声のかすれなども病気のサインですので注意が必要です。
慢性虚血性心疾患は、心臓に酸素を送る冠動脈という血管が、狭くなったりふさがれたりして心筋の血流が悪くなることで発症します。完全に血流が途絶えると心筋が壊死し、壊死した部分が大きくなると心臓の収縮が正常に行われず、重篤な状態におちいります。おもな原因のひとつとされているのが動脈硬化です。動脈硬化を起こす原因は、高血圧や糖尿病、高脂血症などの疾患があげられます。また、ストレス過多や運動不足、喫煙などの生活習慣も動脈硬化のリスクを高めます。
慢性虚血性心疾患は、心電図検査や、画像診断によって確定します。心電図検査では、階段の昇降などの運動によって心臓に負荷をかけた状態での検査や、心電図記録計を携帯して24時間心臓の動きを観察する検査などを行います。画像診断では、超音波によるエコー検査や冠動脈CT検査を行いますが、造影剤の注入によって血流を診る冠動脈カテーテル造影検査が一般的です。この検査により、どの部分がどれくらい狭く、あるいはふさがっているのかがわかります。
慢性虚血性心疾患の治療は、冠動脈の働きを正常にするためのもので、投薬治療や手術があります。投薬治療では、血管を広げたり血液が固まらないようにしたりする予防的な薬や、発作が起こったときに症状を抑える薬など、症状によってさまざまな薬が用いられています。また、症状が進んでしまった場合は、カテーテルを挿入して冠動脈を直接膨らませて広げるなどの手術をする場合もあります。また、摂取カロリーをおさえたり禁煙したりといった、生活習慣を変えることも大切です。
急性冠症候群(心臓発作、心筋梗塞、不安定狭心症)
急性冠症候群は、冠動脈が突然ふさがって起こります。閉塞の位置と量に応じて、不安定狭心症や心臓発作(心筋梗塞)が起こります。
急性冠症候群を発症すると、胸部の圧迫感や痛み、息切れ、疲労などが起こります。
急性冠症候群だと思ったら即座に救急車を呼び、アスピリンの錠剤をかみ砕いて服用します。
医師は心電図と血中の物質の測定により、急性冠症候群か否かを診断します。
治療法は症候群の種類によって変わりますが、通常は閉塞が起きた部位の血流を増やす処置が行われます。
原因
急性冠症候群は、冠動脈が突然詰まり、心筋の一部への血液供給が大きく減少または遮断されたときに起こります。組織への血液供給がなくなることを虚血といいます。血液供給が2~3分以上にわたって大きく減少するか遮断されると、心臓の組織が壊死します。心臓発作、または心筋梗塞(MI)は、虚血による心臓の組織の壊死です。
冠動脈を詰まらせる原因として最も多いものは血栓(血液のかたまり)です。多くの場合、動脈は閉塞を起こす前にアテロームによって部分的に狭窄しています。アテロームが破裂し
たりちぎれたりすると、血小板の粘度を高め、血栓の形成を促進する物質を放出します。約3分の2の人では、血栓は1日前後で自然に溶けます。しかし、この間に心臓の一部が損傷を受けることがよくあります。
まれですが、心臓内で形成された血栓がはがれて心臓から流れ出し、冠動脈に引っかかって発作が起こることがあります。冠動脈のれん縮のために血流が遮断されて心臓発作が起こることもまれにあります。れん縮はコカインなどの薬によって起きることもあります。また、原因が不明な場合もあります。
分類:
急性冠症候群は、心電図の結果や、損傷を受けた心臓から放出される血液中の物質(血清マーカー)の有無によって分類されます。急性冠症候群のタイプによって治療法が異なるので、分類は重要です。この分類は、不安定狭心症と2種類の心臓発作からなっています。
不安定狭心症は、症状のパターンが変化する狭心症で、狭心症が長びくようになったり悪化したりするほか、新たに重度の症状が生じることがあります。不安定狭心症のある人は、心電図や血液検査を行っても心臓発作の徴候がみられません。
非ST上昇型心筋梗塞は、血液検査で識別可能ですが、心電図では典型的な変化(ST上昇)を示さない心臓発作です。
ST上昇型心筋梗塞は、血液検査で識別可能で、心電図でも典型的な変化を示す心臓発作です。
症状
急性冠症候群の症状はいずれも似ており、通常は症状のみから症候群のタイプを区別することは不可能です。不安定狭心症では狭心症と同様の症状がみられ、間欠的な圧迫感や胸骨裏の痛みなどが起こります。しかし、不安定狭心症では症状のパターンが変化します。狭心症の症状がより頻繁に起きたり、より重度であったりするほか、安静時や軽い運動の後に発症します。
心臓発作を起こした人の約3人に2人は、発症の数日または数週間前に不安定狭心症や息切れ、疲労感を経験しています。これらの胸痛パターンの変化は、心臓発作を起こすことで頂点に達します。
心臓発作の最も特徴的な症状は、胸の中央から背中、あご、左腕に広がる痛みです。頻度は低いですが、痛みが右腕に広がることもあります。痛みが、これらの1カ所以上で起こっているのに、胸には起こらないこともあります。心臓発作の痛みは狭心症の痛みと似ていますが、より激しく長く続き、安静にしてもニトログリセリンを使用しても軽減しません。まれに、腹部に痛みを感じることもあり、特にげっぷをすると痛みが一時的に軽減したりする場合には、消化不良と誤解される可能性もあります。理由は不明ですが、女性では異なる、識別のより困難な症状が多くみられます。
心臓発作を起こした人の約3分の1では、胸痛がみられていません。このような患者は、女性、有色人種、75歳超の人、心不全や糖尿病のある人、脳卒中を起こしたことのある人に多くみられます。
その他の症状には気が遠くなったり失神する、突然激しく発汗する、吐き気、息切れ、大きな心拍動の自覚(動悸)などがあります。
発作中は落ち着かず、発汗や不安、破滅が迫っている感覚が起こります。唇、手、足はわずかに青白くなります。
高齢者ではまれな症状がみられることもあります。多くの場合、最も明らかな症状は息切れです。胃の不調や脳卒中に似た症状がみられることもあります。また、見当識障害もみられます。しかし、高齢者の約3分の2には若い人と同じように胸痛がみられます。特に高齢の女性では、自分が病気であることに気づくまで、または救急車を呼ぶまでの時間が、若い人よりも長くかかっています。
こうした多様な症状が起こりうるにもかかわらず、心臓発作を起こしている人の5人に1人は、軽い症状がみられるだけかあるいはまったく症状がみられません。このような無症候性の心臓発作は、定期的な心電図検査を行っていないと見つからないこともあります。
心臓発作の初期の数時間は、心雑音などの異常な心音を聴診器で聞くことができます。
合併症
急性冠症候群の合併症は、冠動脈の閉塞の程度や期間や位置によって異なります。閉塞が広い範囲の心筋に影響を及ぼしている場合、心臓は効率的に動くことができなくなります。閉塞が心臓の電気刺激伝導系への血流を遮断すると、心拍リズムに影響が及ぶことがあります。
拍出機能の障害:
心臓発作では心筋の一部が壊死します。壊死した組織は最終的に瘢痕(はんこん)組織に置き換わり、収縮できなくなります。瘢痕組織は、心臓の他の部分が収縮しているときにふくらんだり伸びたりすることもあります。その結果、血液を送り出す筋肉が少なくなります。心筋が広範囲に壊死すると心臓のポンプ機能が低下し、心臓は体が必要とする量の血液と酸素を送り出せなくなります。心不全、低血圧、またはその両方が生じます。心臓組織の半分以上が損傷を受けるか壊死すると、心臓は機能を果たせなくなり、重度の障害が残るか死亡する危険性があります。
ベータ遮断薬や、特にアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬などの薬剤には、心臓の仕事量を減らして心臓への負担を少なくする効果があるため、このような異常部位が広がるのを防止できます。これらの薬は、心臓の形状と機能をより正常な状態に保つのに役立ちます。
損傷を受けた心臓は、低下したポンプ機能を補おうとして拡大します(大きい心臓はより力強く拍動します)。心臓が拡大すると、さらに不整脈が起こりやすくなります。
心拍リズムの障害: 不整脈は心臓発作を起こした人の90%以上に起こります。これらの不整脈は、心臓発作による心臓の電気刺激伝導系の損傷によって起こる場合があります。また、心臓の拍動を発生させる部分に障害が生じて心拍が過度に遅くなることや、別の障害によって拍動が速くなったり不規則になったりすることもあります。ときには、拍動を起こすための信号が心臓の一部でうまく伝わらず、拍動が遅くなったり止まったりします。
また、血流が少ないが壊死していない心筋の部位はきわめて過敏になる可能性があります。この過敏状態によって、心室頻拍や心室細動などの心拍リズムの障害が起きることがあります。こうした心拍リズムの障害は心臓の拍出能力に大きく影響し、心臓の拍動停止(心停止)の原因にもなります。これは意識消失や死亡につながります。これらの不整脈は、血中カリウム濃度が低いなど、血液化学成分が不均衡な場合に特にみられる問題です。
その他の問題:
心臓発作後1~2日以内、または10日~2ヵ月後に心膜炎(心臓を包む膜の炎症)を起こすことがあります。心臓発作の症状が強烈なために、初期に起きる心膜炎の症状に気づくことはめったにありません。しかし心膜炎では、物をひっかくようなキーキーというリズミカルな心音が生じることから、心臓発作の2~3日後に聴診器で確認できることもあります。後から発症する心膜炎は、ドレスラー(心筋梗塞後)症候群と呼ばれます。この症候群は、発熱、心膜液の貯留(2層の心膜の間に余分な水分がたまる)、胸膜炎(肺を覆う膜の炎症)、胸水(2層の胸膜の間に余分な水分がたまる)、関節痛などの原因となります。
心臓発作後に起こる合併症には、他に心筋破裂、心室瘤(心室壁に膨隆ができる)、血栓(塞栓)、低血圧などがあります。心臓発作の後には、一般的に神経過敏やうつがみられます。心臓発作後のうつは重度で持続する場合もあります。
診断
35歳以上の男性あるいは40歳以上の女性が胸の痛みを訴える場合、医師は通常、急性冠症候群の可能性を考えます。しかし、同様の痛みを起こす障害はほかにもあります。たとえば、肺炎、肺塞栓症(肺に血栓が詰まる)、心膜炎、肋骨骨折、食道けいれん、消化不良、運動や外傷後の胸の筋肉の圧痛などです。
心電図検査と特定の血液検査で、普通は発作から数時間以内に心臓発作の診断を確定できます。
心電図は、急性冠症候群が疑われる場合に最も重要な初期検査です。この検査では、心拍ごとに生じる電気刺激がグラフで示されます。たいていはこの検査によって心臓発作を起こしているかどうかを即座に判定できます。医師は心電図で検出される異常を参考にして、必要な治療の種類を決定します。また心電図の異常から、心筋の損傷部位もわかります。以前に心臓病にかかったことのある人は、心電図に変化が生じているため、心筋が新たに受けた損傷を検出するのが難しくなります。このような人は、急性冠症候群の症状が起こったときに医師が以前の心電図と現在の心電図とを比較できるよう、以前の心電図のコピーを持ち歩くべきです。数時間空けて2~3回心電図を記録してもまったく異常がみられない場合、医師はおそらく心臓発作ではないと判断します。
心筋マーカーと呼ばれる特定の物質の血中濃度を測定することも、急性冠症候群の診断に役立ちます。これらの物質は正常なら心筋内に存在していますが、心筋が損傷または壊死した場合にのみ血流中に放出されます。最も一般的に測定されるのはトロポニンIおよびトロポニンTと呼ばれる心筋タンパク、およびCK-MB(クレアチニンキナーゼ、筋型および脳型サブユニット)と呼ばれる酵素です。心臓発作後6時間以内に血中濃度が上昇し、36~48時間はそのままの状態が続きます。心筋マーカー値は通常、入院時とその後24時間にわたって6~8時間おきに測定します。
心電図検査を行い、心筋マーカーを測定しても十分な情報が得られない場合は、心エコー検査か核医学画像検査を行います。心エコー検査では、左心室(体内に血液を送り出す心腔)の壁の一部の動きが悪くなっていることがわかります。これは心臓発作による損傷を示唆する所見です。
ドレスラー症候群(心臓発作の10日~2カ月後に発症する心膜炎)は、その症状と発症時期から診断できます。
その他の検査:
入院中や入院直後に他の検査を行うこともあります。これらの検査は、追加の治療を行う必要があるかどうか、心臓に別の問題が起こりそうかどうかを判断するために実施します。たとえば、ホルター心電計を装着して、心臓の電気的活動を24時間記録することもあります。この検査では、不整脈や無症候性の虚血(血液供給が不十分なのに症状が出ない状態)を発見できます。退院前あるいは退院直後の運動負荷試験(運動中に行う心電図検査)では、心臓発作後の回復程度と虚血状態の有無を確認できます。これらの検査で不整脈や虚血が認められた場合は、薬物療法が推奨されます。それでも虚血が残る場合は、経皮的冠動脈インターベンションや冠動脈バイパスグラフト術によって心臓への血流が回復するかどうかを評価するため、冠動脈造影が推奨されます。
予後(経過の見通し)
不安定狭心症になった人の多くは、約3カ月以内に心臓発作を起こします。
心臓発作(心筋梗塞)後の2~3日を生き延びることができれば、大半の患者は完全な回復を望めますが、約10%の人は1年以内に死亡します。死亡のほとんどは発作後3~4カ月以内に起きており、特に狭心症、心室性不整脈(心室由来の不整脈)、心不全が持続している人に多くみられます。発作後に心臓が拡大した場合は、正常の大きさを保っている場合よりも治療後の予後(経過の見通し)が悪くなります。高齢者は、心臓発作後の死亡率も心不全などの合併症の発症率も高くなります。小柄な人は大柄な人よりも経過が悪くなる傾向があります。このことは、平均すると男性よりも女性の方が心臓発作後の経過が悪いことを裏づけています。また、女性は心臓発作の発生時の年齢が男性より高齢で、より重度の病気を患っているという傾向もみられます。さらに、女性は心臓発作の後、病院に行くまでの待機時間が男性に比べて長い傾向もあります。
予防
心臓発作後には、低用量アスピリン(1錠か成人用アスピリン半錠、あるいは成人用アスピリン1錠を毎日服用することが推奨されています。アスピリンは血小板による血栓形成を予防するので、死亡リスクと心臓発作の再発リスクが15~30%も減少します。50歳をすぎていて心臓発作や脳卒中を起こしたことがなく、2つ以上の危険因子を持つ人には、心臓発作や脳卒中を予防するために毎日低用量のアスピリンを飲むことが勧められます。アスピリンアレルギーのある人には、代わりにクロピドグレルかチクロピジンを投与します。
多くの場合、医師はメトプロロール、プロプラノロール、チモロールなどのベータ遮断薬も処方します。これらの薬にも死亡リスクを約25%減らす効果があります。心臓発作が重度であればあるほどベータ遮断薬は有効になりますが、副作用(喘鳴[ぜんめい]、疲労、手足の冷えなど)があるため、だれでも恩恵を受けられるというわけではありません。
脂質低下薬や食生活の改善も心臓発作後の死亡リスクを減少させます。心臓発作や脳卒中を起こしたことがなくてもリスクが高い人(特に糖尿病で肥満の人)には、脂質低下薬が効果的な場合もあります。
カプトプリル、エナラプリル、リシノプリル、ラミプリルなどのアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬も心臓発作後によく処方される薬です。これらの薬には、特に重度の心臓発作や心不全を起こした人の死亡を防ぐ効果があるほか、心不全の進行を防ぐ効果があります。
ライフスタイルを変える必要もあります。脂肪が少ない食品を食べることや運動量を増やすようにします。糖尿病による高血圧のある人には、病気の管理が勧められます。タバコを吸う人は禁煙する必要があります。
治療
急性冠症候群には緊急治療が必要です。心臓発作による死亡の半数は、症状が現れてから3~4時間以内に起きています。治療を始めるのが早いほど、生存できる可能性が高くなります。急性冠症候群のような症状があれば、すぐに救急車を呼ぶべきです。訓練を受けた隊員が乗っている救急車で、病院の救急外来へ迅速に運び込まれた場合は、患者の命は助かるでしょう。かかりつけ医、家族、友人、隣人などに連絡することは、無駄に時間を費やすので危険です。
心臓発作の疑いがある人は、通常CCU(心血管系疾患集中治療室)のある病院に運ばれて入院します。CCUでは心拍、血圧、血液中の酸素濃度を綿密に監視し、心臓がどの程度の損傷を受けているかを評価します。CCUで働く看護師は、心臓病の患者をケアし、緊急事態に対処できるように特別な訓練を受けています。
最初の数日間に合併症を発症しなければ、たいていはその後数日で無事に退院できます。不整脈が起こった場合や心臓が適切に血液を送り出せない場合は、入院期間は長くなります。
薬物療法: 心臓発作だと思ったら即座に救急車を呼び、アスピリンの錠剤をかみ砕いて飲み込みます。家にアスピリンがない、または救急隊員が投与しなかった場合は、病院到着直後に投与されます。アスピリンは冠動脈内の血栓を小さくする作用があるため、命が助かる可能性が高くなります。アスピリンアレルギーの人には代わりにクロピドグレルかチクロピジンを投与します。アスピリンとクロピドグレルの両方を投与する場合もあります。
心臓の負担を減らすことも組織の損傷を抑えることにつながるため、ベータ遮断薬で心拍を遅くします。心拍数を減らすことで心臓の負担を減らし、組織に損傷が及ぶ範囲を狭めます。
ほとんどの場合、さらなる血栓の形成を予防するため、ヘパリンなどの抗凝固薬も投与されます。
鼻カニューレやフェースマスクを使って酸素を吸入させることもしばしばあります。心臓に多くの酸素を供給することで、心臓の組織の損傷を最小限にとどめることができます。
心臓発作を起こした人は重度の不快感と不安感を感じることが多く、しばしばモルヒネが使われます。この薬には鎮静作用と心臓にかかる負荷を減らす効果があります。多くの患者がニトログリセリンを投与されますが、この薬は心臓にかかる負荷を減らし、血管を拡張することによって痛みを軽減させます。普通はまず舌下投与し、その後は静脈内投与します。
ACE阻害薬は、心臓の拡大を軽減し、生存率を向上させます。そのため、この薬は心臓発作後、数日以内に服用を開始し、無期限に処方されます。
動脈の開通:
閉塞した冠動脈を開通させるタイミングと方法は、急性冠症候群のタイプと、患者が病院に到着した早さによって決められます。
ST上昇型心筋梗塞を起こした人では、ただちに冠動脈の閉塞を除去することが心臓の組織を助け、生存率を上昇させます。医師は、患者が病院に到着してから90分以内に閉塞の除去を試みます。閉塞の除去が早いほど経過は良好になり、除去の方法はおそらくタイミングほど重要ではありません。90分以内に処置を実施できる場合は、ST上昇型心筋梗塞で閉塞した動脈を開くには、血管形成術やステント留置などの経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が最良の方法と考えられます。この時間内にこれらの処置を行うことができない場合は、血栓溶解薬を静脈内投与して動脈を開きます。血栓溶解薬にはストレプトキナーゼ、テネクテプラーゼ、遺伝子組み換え組織プラスミノーゲンアクチベータ(アルテプラーゼ)、レテプラーゼなどがあります。これらの薬はただちに投与することが望ましいものの、3時間以内であれば高い効果があり、病院到着後12時間以内ならある程度の効果が期待できます。病院到着前に特別な訓練を受けた救命救急士が血栓溶解薬を投与する地域もあります。血栓溶解薬の投与を受けたほとんどの人は、退院までに経皮的冠動脈インターベンションを受ける必要があります。
血栓溶解薬は出血を起こすことがあるため、消化管出血がある人、重度の高血圧の人、最近脳卒中を起こした人、心臓発作を起こす前の1カ月間に手術を受けた人には投与できません。これらの条件にあてはまらなければ、高齢者でも安全に血栓溶解薬を使用できます。
非ST上昇型心筋梗塞や不安定狭心症を起こした人では、多くの場合、緊急の経皮的冠動脈インターベンションや血栓溶解薬は有効ではありません。しかし、通常は入院初日か翌日に経皮的冠動脈インターベンションが行われます。症状が悪化したり特定の合併症が発症したときは、より早期に経皮的冠動脈インターベンションを行う場合もあります。
急性冠症候群の患者によっては、経皮的冠動脈インターベンションや血栓溶解薬の代わりに冠動脈バイパスグラフト術(CABG)を行う場合もあります。たとえば、抗凝固薬を投与できない人(出血性の疾患のある人や最近脳卒中を起こした人、あるいは大きな手術を受けたばかりの人など)には、冠動脈バイパスグラフト術を実施することがあります。また、重度の動脈疾患が起きているために経皮的冠動脈インターベンションを実施できない場合(2本または3本の動脈に閉塞がみられる人、重度の閉塞を起こしている人、または心機能が低い人、特に糖尿病の人)に、冠動脈バイパスグラフト術を行うこともあります。
総合的な対策:
運動、精神的ストレス、興奮は心臓の負担となるため、心臓発作を起こした後は静かな部屋で数日は安静に過ごすようにします。見舞い客は家族とごく親しい友人に限られます。ストレスの原因にならないテレビ番組であれば、視聴できます。
喫煙は冠動脈疾患の主な危険因子であり、病院内では禁止されます。さらに、急性冠症候群を起こした人は絶対に禁煙しなければいけません。
便秘のためにいきまなくても済むよう、便の軟化薬や緩下薬を使用することもあります。患者が排尿できない場合や尿量の変化を正確に知る必要がある場合は、尿道カテーテルを使用します。
ひどく神経質な人は心臓に負担がかかるため、作用の弱い抗不安薬(たとえば、ロラゼパムなどのベンゾジアゼピン)が処方されることもあります。急性冠症候群後によくみられる軽いうつ病と疾病否認に対処するには、患者は思っていることを医師や看護師、ソーシャルワーカー、家族、友人と話し合う必要があります。抗うつ薬が必要になる場合もあります。
退院:
心臓発作の合併症が起きず、経皮的冠動脈インターベンションが成功した場合、通常は3~4日ほど入院した後に退院します。より長い入院が必要な場合もあります。
退院時にはニトログリセリン、アスピリン(場合によりクロピドグレルも)、ベータ遮断薬、ACE阻害薬、脂質低下薬(一般的にスタチン)が処方されます。
ドレスラー症候群を発症している人にはアスピリンを投与します。この症候群は治療しても再発する可能性があります。ドレスラー症候群が重症の場合は、コルチコステロイド薬かアスピリン以外の非ステロイド性抗炎症薬(イブプロフェンなど)が一時的に必要となります。
リハビリテーション:
回復には心臓リハビリテーションが重要なため、入院中から開始します。2~3日以上ベッドで安静にしていると体力が低下して、うつ病や無力感の原因となることもあります。合併症がなければ、1日目からいすに座る、手伝ってもらいながら体を動かす、いす型の室内用便器を使用する、本を読むなどのリハビリテーションを開始します。2日目あるいは3日目には歩いてトイレまで行ったり、負担にならない程度の運動を行い、その後は日ごとに活発に動けるようにします。経過が良好であれば、通常は6週間以内に日常生活に戻ることができます。その人の年齢と心臓の健康状態に合った定期的な運動プログラムへ参加することは有益です。
心室頻拍
心室頻拍は、心室から発生する1分間に120回以上の拍動です。
ほとんど常に動悸があります。
診断には心電図検査を用います。
通常は薬の投与と心室の異常な部位を破壊する処置が必要ですが、多くの場合、自動式除細動器が用いられます。
心室頻拍は、連続して起こった心室期外収縮と考えられています。そのような収縮が2~3回だけ起こって正常洞調律に戻る場合もあります。30秒以上続く心室頻拍は、持続型心室頻拍と呼ばれます。この持続型心室頻拍は、心室に損傷を与える構造的な障害が心臓にある人にみられます。持続型心室頻拍が最も多く発症するのは、心臓発作後の数週間から数カ月です。この心室頻拍は高齢者により多くみられます。しかし、心臓に構造的な障害がない若い人でも、まれに心室頻拍が起こる場合があります。
症状と診断
心室頻拍の場合は、ほとんど常に動悸があります。持続型心室頻拍では、心室に血液が十分に取り込まれず、正常な量の血液を送り出せなくなるため、危険な状態に陥ることがあります。その結果、血圧が低下する傾向があり、続いて心不全が起こります。また、持続型心室頻拍は、心室細動という一種の心停止状態に悪化することがあるので危険です。心室頻拍は、心拍数が1分間に200回程度になってもほとんど症状を引き起こさない場合がありますが、症状がなくてもきわめて危険です。
心室頻拍を診断し、治療が必要かどうかを判断するには、心電図検査を実施します。心拍リズムを24時間記録するために携帯型のホルター心電計を使用することもあります。
治療
心室頻拍は、症状がみられる場合、あるいは症状がみられなくても30秒以上続く場合に治療の対象となります。持続型心室頻拍は、緊急の治療を必要とします。血圧が低いレベルまで下がった場合は、ただちにカルディオバージョンを行う必要があります。抗不整脈薬の静脈内投与は、心室頻拍を停止あるいは抑制します。一般的に、アミオダロン、リドカイン、プロカインアミドなどが使用されます。
心電図検査で、持続型心室頻拍の原因となっている心室内の小さな異常部位が確認された場合、高周波アブレーション(心臓内に挿入したカテーテルの電極から高周波エネルギーを与えるもの)や開心術などを実施して、その異常部位を破壊することがあります。
心疾患、特に心臓のポンプ機能の障害が原因で心室頻拍が起きている患者には、多くの場合、自動式の除細動器(不整脈を感知し、電気ショックを与えて正常に戻す小型の装置)を植え込みます。なお、この装置の植込みは人工ペースメーカと同様の移植方法で行われます。
発作性上室頻拍(SVT、PSVT)
発作性上室(心房)頻拍は、心室以外の心臓組織から発生する、1分間に160~220回の速く規則的な心拍動(頻脈)です。この頻脈は突発的に始まり、治まるのも突然です。
発作性上室頻拍は若い人に最もよくみられ、危険というよりもむしろ、不快なものです。この頻脈は、激しい運動をしているときに起こることもあります。
発作性上室頻拍は、速い速度で心臓を繰り返し活性化する期外収縮によって誘発されます。この急速な活性化の反復は、いくつかの異常が原因となって起こります。具体的には、房室結節に2つの電気刺激伝導路が存在する異常がみられる場合があります(房室結節リエントリー性上室頻拍と呼ばれる不整脈)。また、心房と心室の間に異常な電気刺激伝導路が存在する場合もあります(房室回帰性上室頻拍と呼ばれる不整脈)。頻度は低いものの、心房が異常に速い電気刺激や旋回性の電気刺激を生成する異常もみられます(真性発作性心房頻拍と呼ばれる不整脈)。
発作性上室頻拍では、速い拍動が突然始まって終わる傾向があり、数分から数時間続きます。多くの場合、不快な動悸が感じられます。その他に、脱力、ふらつき、息切れ、胸痛などの症状がみられます。たいていの場合、心臓に他の異常はみられません。
治療
発作性上室頻拍の発作の多くは、迷走神経を刺激して心拍数を低下させる手技を実施することで停止できます。このような手技は、医師が行うか医師の監視下で行いますが、不整脈を繰り返し起こす人自身が手技を習得している場合もあります。たとえば、排便が困難なときのようにいきむ方法や、あごの角ばった部分のすぐ下の頸部をさすって、頸動脈上の頸動脈洞(けいどうみゃくどう)という敏感な部位を刺激する方法、さらには氷水を入れた洗面器に顔をつける方法などがあります。これらの手技は、不整脈が起こった直後に行うと最も効果的です。
これらの方法を行っても効果がなく、不整脈が重篤な症状を引き起こす場合、あるいは発作が20分以上続く場合には、発作を停止させるための薬物療法を行います。普通、アデノシンやベラパミルなどの薬を静脈内投与すれば、発作をただちに停止させることができます。まれに薬が効かず、心臓に電気ショックを与えるカルディオバージョンが必要になることもあります。
不整脈の予防は治療よりはるかに困難ですが、いくつかの抗不整脈薬が効果的なこともあります。一般的に使用されている薬はベータ遮断薬、ジゴキシン、ジルチアゼム、ベラパミル、プロパフェノン、フレカイニドなどです。発作性上室頻拍の原因となっている組織を破壊するために、高周波アブレーション(心臓内に挿入したカテーテルの電極から高周波エネルギーを与えるもの)が実施されることも増えてきています。
先天性QT延長症候群
先天性QT延長症候群は、心電図を測るとQTと呼ばれる時間が伸びる疾患で、不整脈などが現れます。おもな身体症状としては、立ちくらみ、動悸、失神発作、けいれん発作などがあります。発作の場合短期間で自然回復するのがほとんどですが、回復しない場合は死に至る可能性のある恐ろしい病気です。失神やけいれん発作などの症状から、てんかんと誤診されることもあります。症状の発症時期は、男性の場合幼児期から中年まで、女性の場合10歳から20歳代とされています。
先天性QT延長症候群の原因は、心臓の収縮・弛緩運動において、収縮した後の復帰に遅れが生じ、心筋細胞が過敏になることで不整脈が発生することです。先天性と後天性があります。先天性の場合は、遺伝子異常により心臓の伸縮と弛緩がスムーズに行われなくなります。後天性の場合も何らかの遺伝子異常とされていますが、激しい運動がきっかけとなって発症するケースがあります。遺伝子に異常があっても発病しないケースもあります。
先天性QT延長症候群の診断は、遺伝性の可能性が高いため、家族歴などが調査されます。発作を伴う場合はその既往歴が調査されます。次に行われるのは、心電図検査で、QT時間の測定が行われます。心電図検査で診断が不明瞭の場合は、運動負荷や薬剤投与などを行いQT時間測定することで診断確定することもあります。また、後の適切な治療方針や使用する薬剤決定のために、血液採取により、血中の遺伝子検査が行われるのが一般的です。
先天性QT延長症候群の治療方法としては、薬剤投与が行われます。発作予防として、ベータ遮断薬や抗不整脈薬が投与されます。薬剤投与の効果が無い場合は、植え込み型除細動器の取り付け手術や交感神経切除術等が行われるケースもあります。日常生活の注意点は、激しい運動を避ける・興奮を避ける・アルコール摂取を避ける・発作を誘発しやすい薬剤を避けるなどがあります。ストレスなども大敵となり、場合によっては労働にも支障が出て、労働に制限がかかることもあります。
慢性心包炎
慢性心包炎は、慢性心膜炎とも呼ばれ、心臓の周りを包んでいる心膜の炎症によって硬化し、心臓の拡張を妨げてしまう疾患です。
この疾患では心臓の動きが鈍り、血流がスムーズに行かなくなってしまうことから、お腹や胸に水がたまったり全身にむくみが現れたり、肝臓がうっ血したりといった症状が見られます。また、全身に倦怠感がある、胸の痛みや息切れがある、動悸が強くなるなどの症状が発生する場合もあります。静脈の血圧が上昇するため、頸静脈などの静脈が張った状態も見受けられます。
慢性心包炎の直接の原因は心膜に炎症が起こり、癒着や線維化、石灰化といった病変をきたすことです。結果、心膜が硬化して心臓の機能が上手く果たされなくなり、心包炎の症状を引き起こします。炎症が起こる原因は実にさまざまあり、細菌やウイルスの感染によるもの、また癌などで細胞が変化するもの、さらにリウマチなどの自己免疫疾患によるものなどが挙げられます。ときに心臓の手術を行ったあとに発症することもあります。ただし、炎症の原因を特定できない場合も多くある疾患です。
慢性心包炎ではいくつかの検査によって診断が下されます。
一番有効とされるのが心エコー検査で、心膜腔に体液がたまっていたり、心膜が分厚くなっていたりといった状態を確認することができます。
その他、胸部X線検査では心膜の石灰化を見ることができ、さらに、大動脈の拡張や左室の拡大が見られることもあります。
心臓カテーテル検査では心臓の圧力について測りますが、この疾患の場合は特徴的な波形を示します。
また、心電図やMRIなどが用いられることもあります。
慢性心包炎が軽症の場合は、貯留する体液を排出するために利尿剤の投与や、塩分調整などを行って経過を見ることもありますが、慢性の場合は症状が進行するため、心膜を切除する外科手術が行われることがほとんどです。これにより疾患の原因を取り除くことができますが、同時に死亡のリスクも存在します。とはいえ、手術に成功すれば症状を引き起こす要因を解消できるため、慢性の場合は手術を行うことが最も有効とされています。手術を受ければほとんどの場合、症状は改善します。
門脈圧亢進症
門脈圧亢進症とは、腸から肝臓に繋がる大静脈である門脈に血流の異常が生じ、門脈圧が上昇している状態を指します。門脈圧亢進症では、一般的に門脈圧亢進症の原因となる基礎疾患の症状が先行します。その後腹部膨満や脾臓機能亢進による貧血、食道静脈破綻に伴う吐血や下血といったものを生じることになります。多くの場合、肝硬変に伴い発症しますが、まれに突然の食道や胃静脈瘤の破綻に伴う吐血から発症することも報告されています。
門脈圧が亢進する要因は大きく分けて2つあり、1つは血流量の増加、もう1つは肝臓内における血流に対する抵抗の増加です。門脈圧が亢進すると、体内では血流の別のルートが形成されたり、静脈瘤が形成されたりするなどの異常を生じることになります。門脈圧亢進症の原因となる疾患は1つではなく、肝硬変や特発性門脈圧亢進症、肝外門脈閉塞症、バッド・キアリ症候群、日本住血吸虫症など知られています。特に日本ではその原因の90%が、アルコールの過剰摂取などが原因で生じる肝硬変に伴うものです。
門脈圧亢進症の診断は、基本的に症状と身体検査の所見に基づき行われます。触診においては脾臓の腫大が、お腹を軽く叩く打診においては鈍い音がするために腹水が確認されます。基礎疾患が不明な場合には、超音波検査やCT検査などの画像検査や肝機能検査を行うことにより診断が確認されます。基礎疾患確認後は、食道や胃の静脈瘤の有無、静脈瘤の状態を確認するために内視鏡検査を行います。静脈瘤は破綻する可能性もあるため、この検査は非常に重要なもので緊急を要するとされています。
門脈圧亢進症の治療では、静脈瘤や腹水、脾臓の腫大などに対する対症療法が中心になります。主に食道や胃静脈瘤に対する治療が行われ、破綻しそうな静脈瘤がある場合は予防的治療を行い、破綻後の静脈瘤がある場合には時期を見て待機治療を行います。また、破綻して出血を生じている場合は、止血を目的に緊急的治療が行われます。以前は静脈瘤の治療法は手術療法が中心でしたが、現在は内視鏡を用いた内視鏡的硬化療法、静脈瘤結紮療法が中心に行われるようになっています。
急性心膜炎
急性心膜炎は突然発症する心膜の炎症で、痛みを伴うことが多く、フィブリン、赤血球、白血球などの血液成分や体液が心膜腔にたまる原因となります。
心膜炎は、感染症や心膜に炎症を起こす病気が原因で発症します。
よくみられる症状は、発熱と、心臓発作に類似した胸痛です。
診断は、症状のほか、聴診で特徴的な心音が聞こえるかどうかに基づきます。
患者は入院して、痛みや炎症を抑える薬の投与を受けます。
急性心膜炎は普通、心膜に炎症を起こす感染症やその他の病気が原因です。感染症の原因はほとんどがウイルスですが、細菌や寄生虫(原虫も含む)、真菌の場合もあります。
都市部の一部の病院では、心膜腔への余分な体液貯留(心膜液貯留)を伴う心膜炎の原因として、エイズが最もよくみられます。エイズ患者では、結核などの多くの感染症が心膜炎の原因となります。米国では、結核による心膜炎(結核性心膜炎)は、急性心膜炎の5%未満にすぎませんが、インドおよびアフリカの一部の地域では、急性心膜炎の大多数が結核性心膜炎です。
その他にも心膜に炎症を起こし、急性心膜炎を発症させる病態や要因があります。たとえば、心臓発作、心臓手術、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、腎不全、外傷、癌(白血病やエイズ患者にみられるカポジ肉腫など)、リウマチ熱、甲状腺機能低下症、放射線療法、大動脈壁の膨隆(大動脈瘤)からの血液の漏出などです。心臓発作後、急性心膜炎を発症する確率は、最初の1~2日目が10~15%で、10日目~2カ月後が1~3%です。急性心膜炎は、ワルファリンやヘパリンなどの抗凝固薬、ペニシリン、抗不整脈薬のプロカインアミド、抗けいれん薬のフェニトイン、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)のフェニルブタゾンなど、一部の薬の副作用によっても起こります。
症状
急性心膜炎はたいてい発熱と、左肩(ときには左腕)まで広がるように感じる胸痛を引き起こします。この痛みは、横になる、食べものを飲みこむ、せきをする、深呼吸をするなどの動作によって悪化する傾向があることを除けば、心臓発作の痛みと似ています。心膜腔に貯留した体液や血液が心臓を圧迫し、血液を送り出す心機能が損なわれます。あまりにも強く心臓が圧迫されると、命にかかわる危険な心タンポナーデを発症します。
結核による急性心膜炎は、明らかな肺感染症の症状もなく、知らない間に発症することがあります。発熱と心不全の症状(脱力、疲労、呼吸困難など)がみられることがあります。心タンポナーデが起こることもあります。
ウイルス感染症による急性心膜炎は、普通、痛みを伴いますが一時的で、長く続くことはありません。
心臓発作後の1~2日目に急性心膜炎を発症しても、医療提供者は心臓発作の症状に気を取られているため、急性心膜炎の症状にはめったに気づきません。心臓発作の10日~2カ月後に発症する心膜炎は、多くの場合、ドレスラー症候群(心筋梗塞後症候群)に合併して起こり、発熱、心膜液(心膜腔に貯留した余分な体液)、胸膜炎(肺を覆う胸膜の炎症)、胸水(2層の胸膜の間にたまった体液)、関節痛などの症状がみられます。
診断
急性心膜炎の診断は、患者本人による痛みの説明と胸部の聴診に基づいて行われます。心膜炎では、革靴がきしんでいるような音や枯葉がこすれ合っているような音(心膜摩擦音)が聞こえます。心臓発作の数時間後から数日後にこのような音が聞こえる場合は、しばしば心膜炎と診断されます。
胸部X線検査と、超音波を利用して心臓の像を描出する心臓超音波検査(心エコー)は、心膜腔にどの程度の体液がたまっているか検出できるので、診断に有用です。心エコー検査では、たとえば癌などの原因も推定できます。また、心電図検査(ECG)を実施する場合もあります。心電図検査の結果からも原因を推定できることがありますが、心臓発作と心膜炎を判別するのは困難です。血液検査では、心膜炎を引き起こす病気の一部、たとえば白血病、エイズ、その他の感染症、リウマチ熱などを検出でき、血液中の尿素濃度の上昇によって腎不全が起こっていることもわかります。
予後(経過の見通し)と治療
心膜炎の予後(経過の見通し)は、その原因によって異なります。ウイルスや原因不明の心膜炎は、回復に1~3週間かかります。合併症を伴う、あるいは再発性の心膜炎は、回復が遅くなります。癌が心膜に浸潤している場合、12~18カ月以上生存できることはまれです。
原因が何であれ、心膜炎の患者は入院して、アスピリン、イブプロフェンといった非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)などの投与によって炎症と痛みを抑えながら、心タンポナーデなどの合併症が生じないかを観察します。激痛がある場合は、モルヒネなどのオピオイドや、プレドニゾロンなどのコルチコステロイド薬が必要になります。プレドニゾロンは、直接痛みを軽減するのではなく、炎症を軽減することで痛みを和らげます。心膜炎を起こしうる薬を服用している場合は、可能な段階で服用を中止すべきです。
その後の治療法は、急性心膜炎の原因によって異なります。腎不全の患者では、透析の回数を増やすことで症状の改善がみられます。癌の患者では、化学療法や放射線療法に反応する場合もありますが、しばしば心膜を外科的に切除します。細菌感染症が原因の場合は、抗生物質の投与と、心膜にたまった膿を外科的に排出する処置(ドレナージ)を行います。
先端にバルーン(小さな風船)のついたカテーテルを皮膚から挿入し、バルーンをふくらませて心膜に穴(窓)を開け、心膜腔から心膜液を排出させる方法もあります。この手法は経皮的バルーン心膜切開術と呼ばれ、通常は癌やその再発による滲出液がみられる場合に行います。また、胸骨の下を小さく切開し、心膜の一部を切除し、そこからチューブを心膜腔に挿入して心膜液を排出させる方法もあります。この手法は剣状突起下心膜切開術と呼ばれ、細菌感染症による滲出液がみられる場合によく行われます。どちらの方法も局所麻酔が必要ですが、病室で行うことができ、継続的に排液できる有効な方法です。
ウイルス、外傷、原因不明の病気の再発などによる心膜炎であれば、アスピリン、イブプロフェン、コルチコステロイド薬によって症状を軽減します。一部の患者にはコルヒチンが有効です。薬物療法が無効な場合は、通常、心膜を外科的に切除します。
心臓発作から数時間あるいは数日以内に急性心膜炎が起こったときは、アスピリンおよびモルヒネなどの強力な鎮痛薬の投与をはじめとする心臓発作の治療を行うことで、心膜炎の不快感を軽減できます。
慢性心膜炎
慢性心膜炎とは、徐々に出現して長期間持続する炎症で、心膜腔への体液の貯留や、心膜の肥厚がみられます。
息切れ、せき、疲労感などの症状がみられます。
診断を下すために、心臓超音波検査(心エコー)を実施します。
原因が特定できている場合はその治療を行います。また、休息、塩分制限、利尿薬の投与によって症状を軽減することができます。
場合によって、心膜を切除する手術が必要になります。
慢性心膜炎は主に2種類に分けられます。慢性滲出性心膜炎では、2層の心膜の間の心膜腔にゆっくりと体液がたまります。
慢性収縮性心膜炎はまれな病気で、心膜全体に瘢痕化(線維性)組織が形成されることで起こります。この線維性組織は何年もかけて収縮し、心臓を締めつけます。したがって、心臓は他の多くの心臓病でみられるように拡大しません。締めつけられている心臓に血液を満たすために強い圧力が必要になるために、心臓に血液を戻す静脈の血圧が高くなます。その結果、静脈内の血液が増えて漏出し、皮膚下などの他の部位に体液がたまります。
原因
慢性滲出性心膜炎の原因は、癌、結核、甲状腺機能低下症を除いて、多くの場合不明です。
慢性収縮性心膜炎の原因も、ほとんどが不明です。最も一般的な原因は、ウイルス感染症と、乳癌やリンパ腫に対する放射線療法です。また、慢性収縮性心膜炎は、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、以前の外傷、心臓手術、細菌感染症など、急性心膜炎を引き起こすような病気によって生じることもあります。
症状
息切れ、せき、疲労感などの症状がみられます。せきは、肺静脈の圧力が高いために、肺胞内に体液が漏れ出すことで起こります。疲労感は、異常な心膜が心臓のポンプ機能を妨げ、心臓が全身に必要な量の血液を送り出せないために起こります。その他によくみられる症状としては、腹部に体液がたまる腹水、脚のむくみ(浮腫)があります。ときには、肺を覆う2層の胸膜の間に体液がたまる胸水がみられます。慢性心膜炎では、痛みが生じることはありません。
慢性滲出性心膜炎で体液が徐々に心膜腔にたまっていく場合には、症状はほとんどありません。これは、心膜が徐々に伸びていくため、心タンポナーデが起こらないからです。しかし、体液が急速にたまれば、心臓が圧迫されて心タンポナーデが起こります。
診断
特に、高血圧、冠動脈疾患、心臓弁障害などの心機能を低下させる他の原因がないときには、症状が慢性心膜炎を疑う重要な手がかりとなります。
心エコー検査は、診断を確定するために実施されます。心エコー検査では、心膜腔内の体液の量と、心臓の周りに形成された線維性組織の状態を描出できます。これにより、心タンポナーデが起こっているかどうかも確認できます。胸部Ⅹ線検査では、心膜へのカルシウム沈着を検出します。慢性収縮性心膜炎では、このようなカルシウム沈着が半数近くの人にみられます。
診断は、二つの方法のいずれかによって確定します。1つは、心房および心室の内部と大血管の血圧を測る心臓カテーテル検査です。この検査は、心膜炎と類似する病気とを鑑別するのに役立ちます。もう1つは、心膜の厚さを測るMRI(磁気共鳴画像)検査あるいはCT(コンピュータ断層撮影)検査です。正常な心膜の厚さは3ミリメートル未満ですが、慢性収縮性心膜炎では6ミリメートル以上になります。
たとえば、結核などの慢性心膜炎の原因を確定するには、生検を行います。検査のための手術で心膜から小さな組織を採取し、顕微鏡で調べます。あるいは、胸部の切開創から心膜鏡(心膜を観察し、組織標本を採取するためのファイバースコープ)を挿入して、組織標本を採取します。
治療
慢性滲出性心膜炎の原因がわかり、治療が可能な場合は治療します。心機能が正常なら、経過観察を行います。症状がある、または感染症が疑われるときは、外科的なドレナージを行います。
慢性収縮性心膜炎の場合は、ベッドで安静にする、食事からの塩分摂取を制限する、水分の排泄量を増やす利尿薬を服用することによって症状は軽減します。しかし、治癒に至る唯一の治療法は、手術による心膜の切除です。手術で、約85%の人が治癒しますが、手術による死亡リスクは5~15%です。ほとんどの人は日常生活にかなりの支障が出ないかぎり、手術を受けたがりません。また、病気の初期(明らかな症状が出る前)や末期(安静時でも症状がみられる)の段階に手術を行うことはありません。
感染性心内膜炎
感染性心内膜炎は心臓の内側を覆う膜(心内膜)に生じる感染症で、通常は心臓弁にも感染が及びます。
感染性心内膜炎は、血流に入った細菌が、損傷のある心臓弁に到達することで発生します。
通常、急性細菌性心内膜炎では、突然の高熱や心拍数の上昇、疲労、急速で広範囲にわたる心臓弁の損傷などがみられます。
亜急性細菌性心内膜炎では、疲労、軽い発熱、中程度の心拍数上昇、体重減少、発汗、赤血球数の減少などの症状がみられます。
心臓弁の損傷を検出するには、心臓超音波検査(心エコー)を使用します。
心臓弁に障害のある人や人工弁を使用している人は、歯科処置や手術の前に抗生物質の投与を受けて、心内膜炎を予防する必要があります。
高用量の抗生物質を静脈内に投与しますが、場合によっては、心臓弁の損傷を修復するために手術が必要になります。
感染性心内膜炎は男性に多く発症し、すべての年齢層で女性の2倍、高齢者層では女性の8倍にもなります。この病気は高齢者によくみられ、全患者の4分の1以上は60歳以上です。
感染性心内膜炎は、特異的には心内膜の感染症を指しますが、多くの場合、心臓弁や心筋にも感染するほか、心房または心室や血管の異常な連結部などの先天的な異常部位にも感染が及びます。感染性心内膜炎には2種類あります。1つは急性感染性心内膜炎で、突然発症して数日のうちに命の危険にさらされます。もう1つは亜急性感染性心内膜炎あるいは亜急性細菌性心内膜炎と呼ばれ、数週間から数カ月かけて少しずつゆっくりと進行します。
細菌(または頻度は少ないが、真菌)は、血流中から侵入して心臓弁にとどまり、心内膜に感染します。異常のある弁や損傷した弁、あるいは人工弁は、正常な心臓弁よりも感染症にかかりやすくなります。亜急性細菌性心内膜炎を起こす細菌は、ほぼすべてこのような弁に感染します。しかし、正常な弁でも病原性の強い細菌に感染する場合があり、特に多数の細菌が存在していると感染症が生じる可能性は高くなります。
小児や若い成人における心内膜炎の危険因子は、先天異常、特に心臓の一部から他の部位へ血液の漏出(逆流)が生じるような欠損です。高齢者における主な危険因子は、左心房から左心室へ開く僧帽弁や、左心室から大動脈へ開く大動脈弁に生じる変性やカルシウムの沈着です。小児期にかかったリウマチ熱による心臓障害も危険因子です。抗生物質が広く使われている国ではリウマチ熱は一般的な危険因子でなくなりつつありますが、そのような国でも小児期に抗生物質の恩恵を受けていない移民などの人々にとっては、いまだに感染性心内膜炎の危険因子です。
感染性心内膜炎を起こした心臓の内部
この断面図は、心臓の4つの弁にいぼ状のかたまり(疣贅[ゆうぜい]:細菌や血液のかたまりが蓄積したもの)が形成された状態を示しています。
違法薬物静注者は、不潔な針や注射器、薬液などを介して細菌が直接血流に注入されやすいことから、心内膜炎のハイリスク群です。人工心臓弁を移植した人も、心内膜炎のハイリスク群です。人工心臓弁を移植した場合、感染性心内膜炎の発症リスクは人工弁置換術後、最初の1年間が最も高く、その後リスクは低下しますが、それでも健康な人よりわずかに高くなります。理由は不明ですが、人工僧帽弁よりも人工大動脈弁の方が、また動物から移植した弁よりも機械弁の方が、リスクは常に高くなります。
原因
細菌は、正常な血液中には認められません。皮膚、口の中、歯ぐき(かむ、歯を磨くなどの日常的な行為による傷も含む)などに傷ができると、少量の細菌が血流に侵入できるようになります。感染症を伴う歯肉炎(歯ぐきの炎症)、軽度の皮膚感染症、体の他の部位における感染症も、細菌が血流に侵入する原因となります。
さらに、特定の外科的、歯科的、内科的処置も、細菌が血流に侵入する原因となります。まれに、開心術や人工弁置換術の際に、細菌が心臓に侵入することがあります。心臓弁が正常な人では普通は害はなく、体内の白血球や免疫反応によって細菌はすぐに破壊されます。しかし心臓弁に障害があると、そこで細菌が捕捉されて心内膜にとどまり、増殖を始めます。重症の血液感染症である敗血症では、多数の細菌が血流に侵入します。血流中の細菌の数が非常に多くなると、たとえ心臓弁が正常であっても心内膜炎を発症します。
感染性心内膜炎の原因が、違法薬物の注射や静脈ラインの長期使用による場合は、右心房から右心室内へ向けて開く三尖弁に最も多く感染が起こります。他のケースではほとんどの場合、僧帽弁か大動脈弁に感染が起こります。
症状
急性細菌性心内膜炎では、最初に突然の高熱(38.9~40℃)、心拍数の上昇、疲労、急速で広範囲にわたる心臓弁の損傷などの症状がみられます。
亜急性細菌性心内膜炎では、疲労、軽い発熱(37.2~38.3℃)、中等度の心拍数上昇、体重減少、発汗、赤血球数の減少(貧血)などの症状がみられます。動脈の閉塞や心臓弁の障害が起こり、心内膜炎であることが明らかになるまで、これらの症状が何カ月間も続くことがあります。
心臓弁上に形成された細菌や血液のいぼ状のかたまり(疣贅)は、崩れて塞栓となり、血流に乗って他の部位に移動し、動脈内に定着して閉塞を起こします。閉塞は重大な結果をもたらすことがあります。脳へ続く動脈が閉塞すると脳卒中が起こり、心臓へ続く動脈が閉塞すると心臓発作が起こります。また、塞栓は付着している部位に感染症を起こします。感染した心臓弁の底部、あるいは感染性の塞栓が付着しているところには、膿がたまることがあります(膿瘍)。
数日のうちに、心臓弁に穴が開き、重大な逆流が生じる場合があります。一部の人はショック状態になり、腎臓やその他の臓器の機能不全(敗血症性ショック)が起こります。動脈の感染症により動脈壁がもろくなり、隆起や破裂が生じます。特に脳内や心臓の近くの動脈が破裂した場合は致死的です。
急性および亜急性感染性心内膜炎の症状には他に、悪寒、関節痛、顔が青白くなる(蒼白)、痛みを伴う皮下結節、錯乱などがあります。そばかすのような小さな赤い斑点(点状出血)が皮膚と白眼に出現します。また、細く赤い線(線状出血)が爪の下に出現します。これらの点状あるいは線状の出血は、心臓弁からちぎれてできた小さな塞栓によって生じます。大きな塞栓は、心臓発作や脳卒中はもちろんのこと、胃痛、血尿、腕や脚の痛みやしびれなどを引き起こします。心雑音が生じたり、以前からみられた心雑音が変化したりします。脾臓が腫大することもあります。
人工心臓弁に生じる心内膜炎は、急性あるいは亜急性の感染症です。通常の心臓弁の感染症に比べると、人工心臓弁の感染症は弁が付着している部分の心筋に広がりやすく、心臓弁が伸長して緩くなります。あるいは、心臓の電気刺激伝導系が阻害されて心拍が遅くなり、その結果、急に意識を失ったり、死亡することがあります。
診断
感染性心内膜炎の症状の多くは漠然としてよくあるものなので、診断は困難です。通常、急性あるいは亜急性感染性心内膜炎が疑われる場合は、即座に入院して診断と治療を行います。
明らかな感染源が見当たらないのに発熱している場合、特に感染性心内膜炎に特徴的な症状や心臓弁障害がみられる患者、人工弁を使用している患者、最近、外科的、歯科的、内科的処置を受けた患者、違法薬物を注射した患者については、心内膜炎を疑います。心雑音の発生や以前の心雑音からの変化も、診断の役に立ちます。
診断を下すために、通常は心臓超音波検査(心エコー)検査を実施し、血液サンプルを採取して細菌の有無を調べます。多くの場合、1日の異なる時間に三つ以上の血液サンプルを採取します。この血液検査(血液培養)により、疾患を引き起こす特定の細菌を同定し、その細菌に対抗するのに最適な抗生物質を決めます。心臓の異常がある人については、抗生物質を投与する前に血液中の細菌の有無を検査します。
心エコーは超音波を使用する検査で、心臓弁にあるいぼ状のかたまりと心臓への障害を描出します。一般的には、経胸壁心エコー検査(超音波プローブを胸部にあてて行う検査法)を実施します。この検査で十分な情報が得られない場合は、経食道心エコー検査(超音波プローブを喉から挿入して食道内を下ろし、心臓の真後ろに到達させる検査法)を実施します。経食道心エコー検査ではより正確な情報が得られ、小さな感染部位も検出することができますが、より侵襲的で費用もかかります。
血液を培養しても細菌を検出できないことがあります。その理由として、特定の細菌の培養には特殊な技術が必要であることや、抗生物質の服用により、感染症は治癒していないものの血液中の細菌数が検出不可能な程度にまで減少していることが挙げられます。他の可能性としては、心内膜炎ではなく、症状のよく似た心臓腫瘍などの病気であることも考えられます。
予後(経過の見通し)
治療しなければ、感染性心内膜炎はほとんどの場合、死に至ります。治療した場合の死亡リスクは、年齢、感染期間、人工弁の有無、病原菌の種類などの要因により異なりますが、積極的な抗生物質による治療によって、ほとんどの人は回復します。
予防
心臓弁に異常がある人、人工弁を移植した人、先天性心臓異常のある人は、特定の外科的、歯科的、内科的処置を受ける前に抗生物質を服用し、感染性心内膜炎を予防する必要があります。したがって、外科医、歯科医、その他の医療従事者は、患者に心臓弁障害があるかどうかをあらかじめ知っておく必要があります。その処置による心内膜炎の発症リスクがそれほど高くない場合や、抗生物質による予防が必ずしも効果的ではない場合でも、心内膜炎は非常に重い病気なので、処置の前に抗生物質を投与することは合理的な方法とされています。
予防的な抗生物質の投与を必要とする処置*
外科的処置 |
歯科的処置 |
内科的処置 |
心臓弁の置換 開心術 扁桃腺またはアデノイドの切除 肺の手術 腸または胆管の手術 前立腺の手術 |
抜歯 歯周病のためのさまざまな処置(歯肉形成術、歯石除去、ルートプレーニング[歯根表面を滑らかにする処置]やプロービング[歯周ポケットの測定]など) 歯科インプラントの埋入処置 抜歯後の歯牙の再植 根尖の先に及ぶ根管手術 歯肉縁下への矯正用バンド装着 歯根膜(歯周靭帯)への麻酔注射 出血が予想される歯のクリーニング処置 |
輸液、栄養分、薬を供給するためのカテーテルや静脈ラインの使用 気管支鏡検査 膀胱鏡検査 食道の拡張 尿道の拡張 内視鏡的逆行性胆管膵管造影法(胆道内の胆石を除去するために、X線で確認できる造影剤を注入して行う内視鏡検査) 食道の静脈瘤に対する硬化療法 |
* 特定の処置を実施する前に、予防的な対策として、感染性心内膜炎を発症する危険性のある人に抗生物質が投与されます。
治療
治療は普通、最低でも2週間、たいてい8週間にわたって、高用量の抗生物質を静脈内に投与します。このような治療は、ほとんどは入院して開始されますが、かかりつけ看護師の支援があれば、途中で退院して在宅で完了させることができます。
抗生物質だけで感染症が治癒するとは限らず、特に心臓弁が人工弁の場合はなおさらです。人工弁を使用している人が心内膜炎になった場合、その原因となっている細菌は、多くの場合、抗生物質に対する耐性を備えていることが1つの理由です。なぜなら、心臓弁置換術に先立って、感染症を予防するために抗生物質を投与しますが、この治療を生き延びた細菌はおそらく耐性をもっているからです。また別の理由として、人工の素材を埋め込んで形成した弁に起こる感染症は、ヒトの組織の場合に比べて一般的に治癒しにくいこともあります。
抗生物質が効かない場合や弁の漏れ(逆流)が大きい場合、または各心腔間をつなぐ先天異常がある場合は、心臓手術によって損傷している弁を修復または置換したり、いぼ状のかたまりを除去したり、膿瘍を排出したりする必要があります。重度の弁の逆流により生じる心不全は、死に至る可能性があります。
非感染性心内膜炎について
心内膜炎のもう1つのタイプは、非感染性心内膜炎です。この心内膜炎は、障害のある心臓弁に血液のかたまり(血栓)が形成されると発症します。そのような心臓弁障害は、先天異常、リウマチ熱、抗体が心臓弁を攻撃する自己免疫疾患などにより起こります。まれに、心臓にカテーテルを挿入した結果、心臓弁が障害を受けることがあります。
以下に該当する人は非感染性心内膜炎のハイリスク群です。
全身性エリテマトーデス(自己免疫疾患)
抗リン脂質抗体症候群
肺癌、胃癌、膵癌
結核
肺炎
敗血症(重度の血液感染症)
尿毒症(血液中の老廃物の蓄積)
やけど
非感染性心内膜炎では、感染性心内膜炎と同様に、心臓弁から血液が漏出(逆流)したり、心臓弁が十分に開かなくなったりします。血栓が心臓から流れ出して塞栓になると、脳卒中や心臓発作を起こす危険性が高くなります。
非感染性と感染性の心内膜炎を鑑別するのは困難ですが、治療法が異なるため重要です。心エコーで心臓弁に疣贅が認められるものの、血液サンプル中に細菌がまったく検出されない場合は、非感染性心内膜炎と診断されます。血栓の形成を予防するために抗凝固薬を使用しますが、その有益性はまだ実証されていません。
予後(経過の見通し)は一般的に不良ですが、これは心臓障害のためというよりも、原因となる疾患が重症であるためです。
心タンポナーデ 心膜炎の最も重篤な合併症
心タンポナーデは、2層の心膜の間(心膜腔)に体液や血液が貯留することによって起こります。心膜腔に貯留した体液や血液が心臓を圧迫し、血液を送り出す心機能が損なわれます。そのため、息を吸いこむと血圧が急速に異常なレベルまで低下し、脈拍が弱まります。息を吐くと、血圧が上昇して脈拍が強まります。呼吸によって起こる血圧と脈拍のこのような異常な変化は、奇脈と呼ばれています。その後、さらに心臓が圧迫されると、血圧の低い状態が続き、意識の喪失や死亡につながります。
こうした重大な体液貯留の原因として多くみられるものは、癌、心臓の外傷、心臓手術です。ウイルスや細菌による心膜感染と腎不全も、心タンポナーデの主な原因です。
診断の確定には、超音波を利用して心臓の像を描出する心エコー検査が用いられます。この検査では、呼吸によって起こる心臓の圧迫や心臓内の血流の変化といった特徴的な異常を検出できます。
普通、心タンポナーデには緊急治療が必要です。医師は、針またはカテーテルを胸壁を貫いて挿入する心膜穿刺術をただちに実施し、心膜に貯留している液を除去して、心臓にかかっている圧力を取り除きます。時間があれば、心エコー検査で慎重に管理しながら排液します。また、先端にバルーンのついたカテーテルを皮膚から刺入する経皮的バルーン心膜切開術や、胸部の小さな切開創からチューブを挿入する剣状突起下心膜切開術によって、たまった体液を外科的に排液することもあります。心膜炎の原因がわからない場合、排液か心膜から得られた組織片のサンプルを顕微鏡で検査します。この検査は、原因を突き止めるのに役立ちます。
心タンポナーデの再発に備えて、心臓にかかる圧力が取り除かれた後もしばらくは入院します。患者は普通、24時間の監視下に置かれます。入院期間の長さは、心タンポナーデの原因によって異なります。ドレーンを留置している場合、排液が完全になくなってドレーンを抜くまでは退院できません。
心タンポナーデが再発した場合は、再び同じ方法で排液することも、異なる方法を試みることもあります。その他の方法には、瘢痕組織を形成させて心膜を取り除く薬液を注入する硬化療法や、心膜を切除する心膜切除術などがあります。
リンパ性疾患
静脈系と同様にリンパ系も全身の体液を運んでいます。リンパ系は薄い壁のリンパ管、リンパ節、2本の集合管から成り立っています。リンパ管は体全体に分布し、毛細血管よりは太いものの、ほとんどは最も細い静脈よりも細い管です。ほとんどのリンパ管には静脈にみられるような弁が備わっており、凝固作用のあるリンパ液を一方向(心臓に向かう方向)に流れるようにしています。リンパ管は毛細血管の非常に薄い壁からしみ出た液体を全身の組織から取り除きます。この液体にはタンパク質、ミネラル、栄養素などの物質が含まれており、組織に栄養を供給します。この液体はほとんどが毛細血管に再吸収されます。再吸収されずに残った液体は、リンパ液として細胞を囲む隙間からリンパ管に入り、最終的には静脈に戻ります。リンパ管は組織液に混ざっている傷ついた細胞、癌細胞、細菌やウイルスなどの異物も集めて運搬します。
すべてのリンパ液は要所要所に配置されたリンパ節を通過し、ここでリンパ液から傷ついた細胞、癌細胞、異物をこし取ります。リンパ節は、これらの細胞や感染性微生物、異物などを飲みこんで破壊する特殊な血球も産生します。このように、リンパ系は傷ついた細胞を体から排除し、感染症や癌が広がるのを防ぐという重要な機能を果たしています。
リンパ液はリンパ管から集合管に流れ込み、さらに鎖骨の下にある2本の鎖骨下静脈に入ります。2本の鎖骨下静脈は合流して上大静脈となり、上半身の血液を心臓へ送ります。
リンパ液の量が過剰になったり、リンパ管やリンパ節が損傷を受けたり手術で切除されたりした場合、もしくは腫瘍によって閉塞したり、炎症が起きた場合、リンパ系は十分に機能できなくなります。
リンパ浮腫
リンパ浮腫とは、リンパ液が貯留したために生じるむくみのことです。
むくみの原因は、組織からリンパ液が排出されないことです。
圧迫包帯や空気圧迫ストッキングを使用して、むくみを軽減することができます。
リンパ浮腫は、リンパ系が組織からリンパ液を十分に排出できなくなり、むくみが生じることで起こります。
リンパ浮腫には生まれつきの先天性リンパ浮腫と、後になって発症する後天性リンパ浮腫があります。
先天性リンパ浮腫:
この障害は、リンパ管の数が少なすぎて、すべてのリンパ液を処理できないために生じます。このリンパ浮腫はほぼ脚に起こり、まれに腕にも起こることがあります。男性よりも女性に
はるかに多くみられます。
まれに、生まれたときにむくみが明らかなことがありますが、普通は乳児ではリンパ液の量が少ないため、リンパ管の数が少なくても処理できます。たいていの場合、浮腫が生じるのはもっと成長してから、リンパ液の量が増えて少数のリンパ管では処理しきれなくなってからです。浮腫は片脚あるいは両脚で、徐々に始まります。リンパ浮腫の最初の徴候は足の腫れで、1日の終わりには靴がきつく感じるようになり、足の皮膚に靴の跡が残ることもあります(リンパ浮腫でなくても、長時間立ち続けると足のむくみを経験する人は大勢います。このような人では足首までの靴下をはくとゴムの跡が残りますが、リンパ浮腫の人よりも跡が浅く、その周辺にむくみはありません)。
先天性リンパ浮腫の初期では、脚を高く保つと腫れは消えます。この病気は時間とともに悪化します。浮腫はより著しくなり、一晩休んでも完全には消えなくなります。
後天性リンパ浮腫:
後天性リンパ浮腫は、先天性リンパ浮腫よりも多くみられます。典型的には大きな手術の後に発生し、特に癌の治療でリンパ節やリンパ管を切除したり、放射線療法を行ったりした後によくみられます。たとえば、癌が発生した乳房とわきの下のリンパ節を切除すると腕がむくみやすくなります。リンパ管が繰り返し感染を起こして瘢痕化することもリンパ浮腫の原因となりますが、このタイプの瘢痕化は熱帯地域の寄生虫であるフィラリア(フィラリア症)に感染した人を除き、きわめてまれです。
後天性リンパ浮腫では皮膚は健康にみえますが、むくみや腫れが生じます。むくんでいる部分を指で押しても、静脈の血流の異常によるむくみほど指の跡がはっきりと残ることはありません。まれに、特にフィラリア症の人では、むくんだ手や足が極端に太くなり、皮膚が厚く硬くなって象の皮膚のようになることがあります。この病気は象皮病と呼ばれています。
治療
リンパ浮腫を完全に治す方法はありません。軽症のリンパ浮腫の場合は圧迫包帯によってむくみを軽減できます。より重症の場合は空気圧迫ストッキングを毎日1~2時間身につけることによってむくみを軽減できます。いったんむくみが軽くなったら、毎日、膝上までの弾性ストッキングを朝起きてから夜寝るまで着用する必要があります。この方法でむくみをある程度コントロールできます。腕のリンパ浮腫の場合は、空気圧迫ストッキングと同様に空気圧で調整する腕あてを毎日着用してむくみを軽減します。弾性の腕あても使えます。象皮病の場合は、広範囲な手術を行って皮下の腫れた組織のほとんどを切除します。
バージャー病(閉塞性血栓血管炎)
閉塞性血栓血管炎(バージャー病)とは、脚や腕の細い動脈や中間サイズの動脈が、炎症を起こして閉塞する病気です。
閉塞性血栓血管炎は喫煙者によくみられます。
症状は、四肢への血流減少による冷感、しびれ、チクチクする感覚、灼熱感などです。
超音波検査を実施して、影響を受けている四肢の血流が減少していることを検出します。
治療で最も重要なのは禁煙です。
薬物の投与が必要な場合もあります。
閉塞性血栓血管炎は、通常は喫煙者に発症するまれな病気で、ほとんどが20~40歳の男性に起こります。閉塞性血栓血管炎は男性の病気と考えられていましたが、次第に女性にもみられるようになってきました。現在では患者の約5%が女性で、これは喫煙する女性が増えているためと考えられています。
喫煙と閉塞性血栓血管炎の関係はよくわかっておらず、この病気の原因も明らかになっていません。仮説の1つは、喫煙によって動脈の収縮や炎症が引き起こされるというものです。しかし、閉塞性血栓血管炎を起こすのは喫煙者のごく少数であることから、未知の何らかの理由でこの病気にかかりやすい人がいると考えられます。いずれにせよ、喫煙し続ければ閉塞性血栓血管炎は悪化して、腕や脚を切断せざるを得なくなります。対照的に、閉塞性血栓血管炎の患者が禁煙すれば、ほとんどが切断を免れることができます。
症状
腕や脚への血流が減少するため、冷感、しびれ、チクチクする感覚、灼熱感、痛みなどの症状が徐々に現れます。このような異常な感覚は手の指先やつま先から始まり、腕や脚へと上っていきます。腕よりも脚が影響を受けることが多くなります。患者は、医師が虚血(不十分な血液供給)や壊疽を示す何らかの皮膚の変化に気づく前に、感覚の異常を感じます。運動中にレイノー症候群や間欠性跛行(運動中の筋肉の不快感)がみられることもあります。脚に起こった場合はふくらはぎの筋肉がけいれんを起こし、腕に起こった場合は手や前腕がけいれんします。
病気が進行するにつれて、けいれんによる痛みが強くなり、長時間続くようになります。病気の末期には1本以上の手足の指に皮膚潰瘍や壊疽、あるいはその両方が生じる場合があります。おそらく血流がひどく減少するために、手や足は冷たく青白くなることもあります。
この病気にかかっている人の一部では、表在静脈にも炎症(遊走性静脈炎)がみられることがあります。
診断
医師は通常、症状と診察の結果から閉塞性血栓血管炎を疑います。患者のほとんどは、足や手首の1本以上の動脈で脈が弱くなったり、脈がとれなくなったりします。障害を起こしている手、足、指、つま先を心臓より上に持ち上げると皮膚の色が青ざめ、心臓より低くすると赤くなります。
超音波検査では、障害が及んでいる手、足、指、つま先の血圧と血流がかなり減少しているのを検出できます。血管造影検査は特有の狭窄パターンを検出できるため、診断の確定に役立ちます。場合によっては、診断を確定するために障害が起きている動脈の生検(顕微鏡検査用の組織標本を採取すること)や専門医への紹介が必要となることもあります。
治療
閉塞性血栓血管炎の人はただちに禁煙しなくてはいけません。さもなければ症状は悪化の一途をたどります。腕や脚の切断が必要になることもあります。寒いと血管が収縮するため、寒気にさらされないようにします。一部の副鼻腔うっ血の薬やかぜ薬に含まれるエフェドリン、プソイドエフェドリンなどの血管を収縮させる薬や、エストロゲンなどの血液を固まりやすくする薬の服用も避けるべきです。障害を起こした手足にやけどや凍傷、簡単な手術(たこを削るなど)による外傷を含めどんなけがも生じないよう十分注意する必要があります。うおのめやたこは足の専門医の治療を受けるべきです。つま先に余裕があり、足によくフィットする靴をはくことが、足のけがを防ぐのに有効です。
禁煙したにもかかわらず動脈が閉塞したままの場合は、腕や脚の切断を避けるためにイロプロストなどの薬を投与する場合があります。閉塞した血管を開通させるために、ペントキシフィリンやカルシウム拮抗薬などの薬を使用することもありますが、効果はあまり期待できません。血管が収縮しなくなるように近接する特定の神経を切断することがあります(交感神経切除術)。この手術による血流の改善は一時的なものにすぎないため、めったに行われません。
結節性動脈周囲炎
結節性動脈周囲炎は、小型から中型の血管の動脈壁に炎症を生じる疾患です。
その炎症により、発熱や体重の減少、全身の倦怠感、皮下結節・結節性紅斑・紫斑・網状皮斑などの皮膚症状や、傷み、こわばりなどが発生します。その発生頻度としては、約8割が関節・筋肉に関する症状で、次いで皮膚症状、神経症状の順番になります。臓器障害を併発する場合もあり、腎障害や脳梗塞、脳内出血、心筋梗塞、心外膜炎などの症状に発展する場合もあります。
結節性動脈周囲炎の原因は、現在の医学では残念ながら判明していません。しかし、肝炎ウイルスや他のウイルス感染とのかかわりが高く、ウイルス感染の後に発症することが多いことが分かっています。また、薬物とのかかわりも現在は着目されていて研究が進んでいます。特定のリンパ腫や白血病の一部の患者に発症することが多いのも分かり始めています。様々な内臓疾患を併発することが多い病気で、特に肝梗塞は、約50%の人が結節性動脈周囲炎による発症といわれています。
結節性動脈周囲炎の診断は、関節や筋肉について、皮膚症状、神経症状に関する問診と視診が行われます。他の疾患の可能性を排除しながら、検査を進めますが、本疾患が疑われる場合、血液検査を行い、血中のC反応性たんぱくが強陽性反応を示すと、この疾患への疑いが強まります。結節性動脈周囲炎と診断を確定するには、病変のある血管から小さな検体を採取して顕微鏡で調べる生検検査が必要です。併せて、他の内臓などに疾患が出ていないかも検査されます。
結節性動脈周囲炎の治療は、もし障害を誘発している可能性のある薬を服用しているのであれば、その薬の服用を中止します。まず、結節性動脈周囲炎の進行を防ぐために、コルチコステロイド薬の高用量投与を行います。この薬で炎症が抑えきれないときには、免疫抑制薬となるシクロホスファミド薬を併用することがあります。また感染症に対する抵抗力が弱まるため、感染症予防対策、高血圧のコントロールなど、あらゆる観点から治療を行います。
結節性多発動脈炎
結節性多発動脈炎は、動脈を損傷し、そのために血流を阻害する中間サイズの動脈の炎症です。
ある器官に血液を運ぶ動脈が損傷すると、その器官は正常に機能するための十分な血液を得られないので、その他の症状が現れます。したがって、症状は影響を受ける器官によって異なります。
全身症状として発熱や体重減少、倦怠感、筋痛といった症状が現れます。また、全身の諸器官において炎症や虚血、梗塞といった様々な臓器症状が生じることも結節性多発動脈炎の特徴です。このほか、腫瘍や紫斑などの皮膚症状、腎機能低下や腎不全などの腎症状、運動障害や感覚障害などの末梢神経症状や筋力低下を始めとする筋症状、心筋梗塞や心筋炎などの心症状を生じるケースも少なくありません。
結節性多発動脈炎の原因は、現在のところはっきりとは判明していません。ただし、肝炎ウイルスやその他のウイルス感染の後に発症したケースが報告されているほか、環境因子の関与が推測されています。また、遺伝性の疾患ではないことが分かっています。
結節性多発動脈炎では、検査所見として白血球や血小板増多、赤沈亢進、CRP上昇といった急性期の炎症反応は見られるものの、結節性多発動脈炎に特異的な検査異常はありません。
結節性多発動脈炎の治療は主に経口ステロイド薬が用いられます。ただし、心臓や腎臓、消化器などに臓器障害がある場合は、経口ステロイド薬の用量を調節する必要があります。この場合、経口ステロイド薬のみでは治療効果を十分に得ることが出来ないため、免疫抑制剤を併用して治療が行われます。結節性多発動脈炎では、一度病気の進行が抑制された後も再発するリスクが高いため、維持療法として経口ステロイド薬と免疫抑制剤の服用が必要になる場合も少なくありません。また、これらの治療を行っても症状の進行を抑えることができない場合は、試験的に生物学的製剤が使用されることもあります。
高血圧のコントロールなど、その他の治療も、内臓の損傷を防ぐためにしばしば必要となります。B型肝炎がある場合、結節性多発動脈炎の炎症が抑えられた後で治療を行います。
顕微鏡的多発血管炎
顕微鏡的多発血管炎は、顕微鏡でやっと見えるくらいの太さの微細小動脈や毛細血管の血管壁に炎症が起こる病気です。
おもな症状に、発熱や全身の倦怠感、体重の減少があります。腎臓の疾患を併発することにより、尿に血が混じったり尿検査にて異常が認められたりするため、健康診断で発覚する場合もあります。また、肺の血管に疾患があると、喀血や血痰、空咳、息切れなどの症状が起こります。関節付近の血管に疾患がある場合は、関節痛や筋痛、皮疹などが発生します。
顕微鏡的多発血管炎の原因は現段階ではまだ不明です。しかし、抗好中球細胞質抗体と呼ばれる自己抗体が高い確率で検出されるため、他の膠原病と同様に自己免疫異常との関係性が指摘されています。抗好中球細胞質抗体は、好中球の細胞質に含まれる酵素タンパク質であるミエロペルオキダーゼに対して反応します。そのため、好中球が細菌などと戦う時に使用する好中球細胞外トラップが、この病気の発症に大きく関わっているといわれています。
顕微鏡的多発血管炎の診断は、代表的な症状の有無について問診と視診を行います。本疾患の疑いがある場合まず行われる検査は、血液検査と尿検査です。血液検査では、特定の白血球を攻撃する抗好中球細胞質抗体に代表されるような異常な抗体の有無を確認します。尿検査では、赤血球やタンパク質などが混ざっていないかなどが検査されます。次に、胸部レントゲン検査を行い、肺出血の有無などを確認します。診断がつかない場合は、肺観察用の光ファイバーチューブを鼻などから挿入して直接肺を観察します。
顕微鏡的多発血管炎の治療は、基本的に薬物療法で、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬を投与することで、血管の炎症を消滅させることが治療目標となります。この手法は、寛解導入療法といわれます。腎臓や肺などの重要な臓器に障害が発生した場合は、薬剤の使用量を増やし、強力な寛解導入療法が用いられます。他の臓器など様々な部分との合併症を伴う場合が多いため、薬剤の使用は体の状態に合わせて調節されます。速やかな治療が行われれば、3ヶ月から6ヶ月で完治することが多いです。”
巨細胞性動脈炎
巨細胞性(側頭)動脈炎は、頭部、首、上体の大きな動脈の慢性の炎症です。典型的に、おかされるのは側頭動脈であり、この血管はこめかみを通り、頭皮の一部、あごの筋肉、唾液腺に血液を供給しています。
原因は不明です。
多くの場合、ズキズキする激しい頭痛があるのが典型的で、髪をとかしたときに頭皮が痛み、ものをかむときにも痛みを感じます。
治療しないと、失明することもあります。
症状と身体診察の結果からこの病気が示されますが、診断を確定するに側頭動脈の生検を行います。
コルチコステロイド薬であるプレドニゾロンは有効です。
巨細胞性動脈炎は、一般に55歳以上の人がかかります。巨細胞性動脈炎の患者の約40~60%は、リウマチ性多発筋痛を合併しています。これらの病気の原因は不明です。
症状
症状はさまざまで、どの動脈がおかされたかによって異なります。典型例では、頭部に向かう大きな動脈がおかされると、最初こめかみや後頭部に激しく、ときにズキズキする頭痛が生じます。こめかみの動脈は、触ると圧痛があり、腫れてでこぼこしていることがあります。髪をとかしたとき、頭皮に痛みを感じることがあります。複視やかすみ眼、視野の欠損、片目の失明などの眼の障害が生じることがあります。中でも、最も重大な危険は永久的な失明であり、視神経への血液の供給が途絶えると突然失明する可能性があります。治療しないと、巨細胞性動脈炎の患者の20%は失明します。
通常は、あごとその筋肉に痛みがあり、ものをかみ始めるとすぐに疲れます。食べたり話したりするときに、舌が痛むこともあります。疲れていると感じ、全身的に具合が悪くなります。意図していないのに体重が減り、いつもより汗をかきやすくなります。
ときに脳への血流が妨げられ、脳卒中が起こります。ときには、炎症により大動脈が損傷し、内壁が切れたり(動脈解離)、内壁にこぶ(動脈瘤)ができたりします。
リウマチ性多発筋痛が合併している場合、首、肩関節、股関節に激痛が起こることがあります。これらの筋肉は、特に朝早く、こわばりを感じることがあります。
診断
医師は、症状と身体診察の結果に基づいてこの病気を疑います。医師は、患者のこめかみに触れ、側頭動脈が硬くないか、でこぼこしていないか、圧痛がないかを調べます。血液検査を行います。それらの結果が診断を裏付けます。たとえば、貧血があり、赤血球沈降速度(ESR)の値が非常に高く、C反応性タンパク質(CRP)の値が高ければ、炎症を示唆します。側頭動脈(こめかみにある)の生検をして診断を確定します。
側頭動脈以外の動脈に巨細胞性動脈炎が疑われる場合は、診断を確定するために磁気共鳴血管造影検査を行います。
側頭動脈の生検
側頭動脈の生検は、側頭動脈炎を診断するために決定的な方法です。側頭動脈の位置をドップラー超音波検査で確認して生検することもあります。局所麻酔の注射をした後、側頭動脈の上を直接浅く切開して、少なくとも長さ2.5センチメートルの動脈の組織片を採取します。採取後、切開部を縫合します。
治療
治療しないと失明に至る可能性があるので、巨細胞性動脈炎が疑われれば、すぐに治療を開始します。普通はたとえ生検を行う前であっても治療を開始します。治療を開始後、数週間以内に生検を行う限りにおいて、治療が生検結果に影響することはありません。コルチコステロイド薬であるプレドニゾロンは有効です。血管の炎症を抑えるために、初期には高用量を投与します。数週間後に、症状が改善すれば徐々に用量を減らします。1年以内にプレドニゾロンの服用を中止できる患者もいますが、多くの患者は症状をおさえ失明を予防するために長年にわたって非常に低用量のプレドニゾロンを服用する必要があります。
脳卒中を予防するためには、低用量のアスピリンを毎日服用するべきです。
治療により大部分の人々は完全に回復しますが、病気は再発することがあります。
高安(たかやす)動脈炎(大動脈炎症候群)
高安動脈炎とは全身の大血管に炎症が起こる疾患です。
主に大動脈(直接心臓につながる動脈)とそれから分岐する動脈、肺動脈の慢性炎症を起こします。
初期症状としては全身の倦怠感や発熱、関節痛、筋肉痛が挙げられます。
障害を受ける血管の部位によってその他の症状は異なり、最も多いのは腕の血管に影響が出て血圧に左右差が現れる症状です。頭部に栄養を送る血管が障害を受けるとめまいや立ちくらみ、視力障害、腎臓が影響を受けると腎機能の低下や高血圧を引き起こします。他に全身症状として脈拍の減弱・消失が挙げられ、「脈なし病」とも呼ばれます。
原因は残念ながら明らかにされていませんが、血管炎の組織の中には免疫に関わる細胞があること、免疫抑制療法が効果を発揮することから免疫異常によるものではないかと考えられています。また高安動脈炎の患者の約98%が家族に罹患者がいないことから遺伝性は低いと考えられています。発熱などの感冒症状が初期に見られることから、引き金となるのはウイルスによる感染症ではないかと推測されています。男女の発生比率は1:9で女性の患者が多く、15~35歳が好発年齢です。
高安動脈炎は初期症状に特異的な特徴がないため、診断まで時間がかかることが多い病気です。血液検査でもこの病気の診断マーカーとなる要素はなく、確定診断にはCT検査やMRI検査、血管造影検査などが行われます。大動脈とその第1分枝に閉塞性や拡張性病変が認められる場合には本症が疑われ、炎症反応があれば確定されます。検査を進めていく中で動脈硬化症や血管ベーチェット、巨細胞性動脈炎など病態が似ている病気との鑑別も行われます。
治療
通常はコルチコステロイド薬(たとえば、プレドニゾロン)が使用されます。大部分の患者は、炎症が効果的に軽減します。ときには、免疫系の働きを抑える別の薬(免疫抑制薬)、たとえば、アザチオプリン、シクロホスファミド、ミコフェノール酸モフェチル、メトトレキサートなども使用します。腫瘍壊死因子阻害薬(インフリキシマブ、エタネルセプトなど)もまた有効なことがあります。けれども、患者の約4分の1は、薬で症状を抑えることができません。
高血圧は、合併症を予防するためにコントロールしなければなりません。アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬がしばしば使用されます。
炎症を起こした動脈で血栓ができて血管が詰まるリスクの軽減に役立つため、通常、低用量のアスピリンの服用が推奨されます。心臓に血液を供給する動脈が詰まると、心臓発作が起こることがあります。
基本的には内科治療ですが、症状が悪化した場合にはバイパス手術や血行再建術などの外科治療も行われます。
腕を使ったり歩いたりするのが困難な場合、障害のある腕や脚に血流を回復するためにバイパス手術を行うことがあります。症状によって、血流を回復するその他の方法(たとえば、冠状動脈バイパス手術または経皮経管的冠動脈形成術)が必要なことがあります。
チャーグ・ストラウス症候群
チャーグ・ストラウス症候群は、器官に損傷を与え、通常は喘息か鼻アレルギーまたはその両方の病歴のある人に起こる小血管の炎症です。
原因は不明です。
最初は、数カ月または数年もの間、鼻水や喘息があるか、顔に痛みを感じ、その後はどの器官がおかされたかによりさまざまな症状が続きます。
医師は、症状や、身体診察、血液検査、胸部X線検査、生検の結果に基づいて診断します。
コルチコステロイド薬は普通は効果的ですが、命に関わる器官がおかされた場合、免疫系を抑制する別の薬を使用します。
チャーグ・ストラウス症候群は、あらゆる年齢の人に発生する可能性があります。診断時の平均年齢は、45~50歳です。この病気の患者のほとんどすべてが、喘息か鼻アレルギー、またはその両方の病歴があります。原因は不明です。
どの器官にも炎症が起こる可能性があります。神経、副鼻腔、皮膚、関節、肺、消化管、心臓、腎臓などは、最も影響を受けます。炎症を引き起こす免疫細胞の集まり(肉芽腫と呼ばれる)は、患部組織に小結節を形成することがあります。肉芽腫は正常な組織を破壊し、機能を阻害することがあります。肉芽腫はさらに皮膚の下にこぶをつくることがあります。
症状
最初は喘息か鼻アレルギー、またはその両方が起こったり、悪化したりします。患者はくしゃみが出たり、鼻水や眼のかゆみが続いたりします。副鼻腔の炎症は顔の痛みを生じ、ポリープが鼻にできることがあります。
患者は全身に不調や疲労を感じます。発熱、寝汗、食欲不振、体重減少などがみられます。
その他の症状には、どの器官が影響を受けたかにより、以下が含まれます。
筋肉や関節の痛み
息切れ
せきや、ときに喀血
胸痛
発疹
腹痛
血便
腕や脚の知覚異常、しびれ、筋力低下
これらの症状がさまざまな組み合わせで現れます。症状は何度かに渡って生じることがあります。そのような場合、最初と同じ症状が繰り返しみられることも、異なる症状が現れることもあります。
腎臓の炎症の症状は、腎臓の機能障害や腎不全が起こるまで現れない場合があります。その他の合併症には、心不全、心臓発作、心臓弁障害などがあります。
診断
早期の診断と治療は、重度の器官損傷を防止するのに役立ちます。
診断を確定できる単独の検査はありません。典型的な症状の組合せや、身体診察とその他の検査の結果をみて診断します。
血液検査を行います。医師は血液中の好酸球数を測定します。これらの白血球はアレルギー反応中に産生されるもので、チャーグ・ストラウス症候群があればそれらの数は増加します。さらに、この病気で存在する可能性がある特定の抗体(抗好中球細胞質抗体)を探します。胸部X線検査を行い、肺の炎症を調べます。尿検査により腎臓がおかされているかどうかを判定します。
炎症を起こした組織の検体を採取し、顕微鏡で調べます(生検)。生検により、組織に好酸球や肉芽腫があるかどうかがわかります。皮膚や筋肉の生検は局所麻酔薬を使用して外来で実施できるので、可能であれば、皮膚や筋肉から検体を摂取します。ときには肺組織の生検が必要です。その場合は入院が必要となります。
治療
通常はコルチコステロイド薬(たとえば、プレドニゾロン)が使用されます。これらの薬は、炎症を軽減します。生命維持にかかわる器官がおかされている場合、免疫系を抑制する別の薬(免疫抑制薬)も使用します。アザチオプリンやメトトレキサートを使用することがあります。症状が重いときはシクロホスファミドを使用します。
症状がおさまった後、薬の用量を徐々に減らし、しばらくしたら薬を中止します。必要ならば、治療を再開します。これらの薬は、特に長期間服用すると、重い副作用が起こることがあります。
チャーグ・ストラウス症候群の患者は、この病気について学ぶべきです。そうすれば患者は新しい症状に気づいて、それらを直ちに医師に報告することができます。
ヘノッホ・シェーンライン紫斑病
ヘノッホ・シェーンライン紫斑病は主に小血管の炎症であり、通常小児に発症します。
通常、すねに現れる赤みがかった紫の隆起のある発疹や斑点が最初の症状で、その後、関節の痛み、消化器の不調、腎臓の機能障害が続きます。
おかされた皮膚の生検で、診断を確定します。
コルチコステロイド薬は関節の痛みや消化器の不調を軽減しますが、ときに、免疫系を抑制するその他の薬も必要となります。
ヘノッホ・シェーンライン紫斑病は、通常、3~15歳の小児が発症しますが、どの年齢の人も発症する可能性があります。免疫系が感染やその他に異常に反応したときに、この病気が始まることがあります。上気道感染、薬、虫さされなどがきっかけになります。腸や腎臓の血管が炎症を起こすことがあります。
症状
あざのように見える小さい斑点の発疹や、赤みがかった紫の腫れ(紫斑)が、腕、脚、殿部、足の甲に現れます。数日あるいは数週間の後、ときに顔面や体幹に、より多くの斑点や腫れが現れる可能性があります。小児患者のほとんどには、さらに発熱や、足首、膝、腰、手首、ひじなどの関節にうずくような痛みや、圧痛、腫れがみられます。
けいれん性の腹痛、吐き気、嘔吐、下痢は、よくみられます。便や尿に血液が混じることがあります。まれに腸が、折り畳み望遠鏡のように腸自体に入り込むことがあります。腸重積と呼ばれるこの合併症は、腸が詰まってしまうので、突然の腹痛や嘔吐が起こります。
ヘノッホ・シェーンライン紫斑病の症状は、普通は4週ぐらいで治まりますが、多くの場合、少なくとも一度は数週後に再発します。ほとんどの人が完全に回復します。まれに、進行して慢性腎不全になります。
診断
小児にその特徴的な発疹がみられる場合、医師はこの病気を疑います。診断がはっきりしない場合、症状のある皮膚から検体を採取して顕微鏡で調べ(生検)、診断を確定できる異常がないか探します。尿検査を行い、尿に血液や過剰なタンパク質が混じっていないかを調べ、あれば腎臓がおかされていることを示します。通常は血液検査を行い、腎機能を測定します。
腎臓の機能障害が悪化した場合、腎生検を行います。それにより医師は、問題がどのくらい重大であるか、どの程度回復が期待できるかを判定します。
治療
薬が障害の一因となっている場合、服用を中止します。そうでない場合、治療は症状を軽減することに集中します。治療は非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の服用やベッドでの安静です。
経口的に服用するコルチコステロイド薬やその他の薬は、腹痛や、ときには激しい関節の痛みや腫れを抑えるのに効果があります。腎臓や消化器が大きな障害を受けた場合、メチルプレドニゾロン(コルチコステロイド薬)が静脈内に、シクロホスファミド(免疫抑制薬)が経口的に投与されることがあります。