その他の傷病

胆嚢と胆道

 

胆嚢は小さな洋ナシ形で、胆汁を蓄える筋肉でできた貯蔵袋です。胆汁は緑がかった黄色の粘り気のある液体です。胆汁には胆汁酸塩、電解質(ナトリウムや重炭酸塩など可溶性の荷電粒子)、胆汁色素、コレステロール、その他の脂肪(脂質)が含まれています。胆汁には主に2つの働きがあります。消化を助ける働きと、体から老廃物(主にヘモグロビンや余分なコレステロール)を除去する働きです。胆汁酸塩はコレステロール、脂肪、脂溶性ビタミンを腸から吸収しやすい形に変えることで、消化を補助します。主な胆汁色素であるビリルビンは、ヘモグロビン(血液中で酸素を運ぶタンパク質)から形成され、胆汁に排出された老廃物です。ヘモグロビンは古い赤血球や損傷した赤血球が壊れるときに放出されます。

 

胆汁は肝臓から左右の肝管を通って流れ出し、この左右の肝管が合流して総肝管を形成します。総肝管がさらに、胆嚢からの胆嚢管と合流して総胆管を形成します。総胆管は、胃の約5~10センチメートル下流にあるオディ括約筋(輪状の筋肉)の部分で小腸に流入します。

食事と食事の間に分泌される胆汁の半分は、総胆管を通って小腸の中に直接流れ込みます。残りの胆汁は、胆嚢管を通って胆嚢に貯蔵されます。胆嚢では胆汁の水分の90%までが血液中に吸収され、残った胆汁が濃縮されます。食物が小腸に入ると、ホルモンと神経シグナルが胆嚢を収縮させ、オディ括約筋をゆるめて開かせます。そして、胆汁が胆嚢から小腸へと流れこみ、食物と混じり合って消化機能が行われます。

胆汁が小腸に入った後、小腸を通過する間に、胆汁酸塩の約90%が小腸下部の腸壁から血液中に再吸収されます。肝臓はこれらの胆汁酸塩を血液中から抽出し、胆汁中に再分泌します。胆汁酸塩はこのサイクルを1日に約10~12回繰り返します。そのたびに少量の胆汁酸塩が吸収されずに大腸に流れ、そこで細菌により分解されます。胆汁酸塩の一部は大腸で再吸収されますが、残りは便とともに排泄されます。

胆嚢は有用ですが、なくてはならないものではありません。もしも胆嚢を摘出すると(たとえば胆嚢炎の患者で)、胆汁は肝臓から直接小腸に入るようになります。

 

胆嚢や胆管に、主にコレステロールでできた硬い固形物(胆石)ができることがあります。通常、胆石は症状を起こしません。しかし、胆石が胆嚢からの胆汁の流れを妨げると、痛み(胆石仙痛)や炎症が生じる場合があります。さらに、胆石が胆嚢から胆管に移動し、腸に向かう胆汁の正常な流れを阻害すると、痛みや炎症に加えて黄疸(皮膚や白眼の部分が黄色くなる症状)を引き起こすこともあります。腫瘍によって胆汁の流れが阻害されることもあります。その他の原因で流れが妨げられることはまれです。

 

 

 

 

胆嚢と胆管の病気

 

胆汁は緑がかった黄色の粘り気のある液体で、肝臓でつくられます。胆汁はコレステロール、脂肪、脂溶性ビタミンを腸から吸収しやすい形に変えることで、消化を補助します。また、特定の老廃物(主にビリルビンと過剰なコレステロール)や薬物の副産物を体外に排出する働きもあります。

 

胆道は複数の小さな管で構成され、胆汁はそれらの管を通って肝臓から胆嚢へ、さらに小腸へと運ばれます。胆嚢は、肝臓の下にある小さな洋ナシ形の袋で、胆汁はここに蓄えられます。ものを食べて胆汁が必要になると、胆嚢は収縮し、胆管から小腸へと胆汁を送り出します。

 

以下のような障害により、胆汁の流れが妨げられます。

胆嚢から胆管内へと移動した胆石

胆嚢の手術中に生じた胆管の損傷

膵臓を通過する胆管に狭窄を生じさせる膵臓の障害

膵臓または胆管の腫瘍

寄生虫感染(アジアにおいて)

 

胆管がふさがれると、胆嚢は炎症を起こすことがあります

 

 

脾臓

 

脾臓(ひぞう)は、にぎりこぶしほどの大きさをしたスポンジ状の軟らかい臓器で、腹部の左上、肋骨のすぐ下に位置しています。心臓から脾臓へ血液を供給するのが脾動脈です。脾動脈によって脾臓へ運ばれた血液は、脾静脈によって脾臓から運び出され、より太い静脈である門脈を通じて肝臓へと運ばれます。脾臓は、血管とリンパ管を支えている線維組織(脾膜)で覆われています。

 

脾臓は、基本的に白脾髄(はくひずい)と赤脾髄(せきひずい)という2種類の組織からできていて、それぞれ異なる機能を果たしています。白脾髄は、感染と戦う免疫系の一部です。リンパ球と呼ばれる白血球をつくっており、そのリンパ球は抗体(異物による侵入から守る特殊なタンパク質)をつくります。赤脾髄は血液をろ過することにより、不要な物質を取り除きます。赤脾髄には、細菌、真菌、ウイルスなどの微生物を消化する食細胞という白血球が含まれています。

赤脾髄は赤血球の状態を監視し、異常があったり、古くなったり、傷ついたりして適切に機能しなくなった赤血球を破壊します。さらに、赤脾髄には、特に白血球や血小板(血液の凝固に必要な細胞に似た粒子)といったさまざまな血液成分を貯蔵する働きもあります。しかし、これらの血液成分を放出することは、赤脾髄の主要な役割ではありません。

脾臓がなくても、人間は生きていくことができます。脾臓が回復不能な損傷を受けた場合(たとえば、交通事故によるけがなど)には、手術(脾臓摘出術)で摘出しなければならないこともあります。脾臓を摘出すると、感染を防御する抗体をつくったり、望ましくない微生物を血液から取り除いたりする体の能力がある程度失われます。その結果、感染に対する防御能力が低下してしまいます。脾臓には、肺炎球菌、髄膜炎菌、インフルエンザ菌といった特定の種類の細菌に対して防御する役割があるため、脾臓を摘出した場合は、感染リスクが特に高くなります。このようなリスクがあるため、これらの微生物による感染から守るためのワクチンを接種します。脾臓摘出後は、インフルエンザに対するワクチン接種も毎年受けることが勧められます。別の病気(鎌状赤血球症や癌など)があるため命にかかわる感染症を起こすリスクがとりわけ高い場合は、抗生物質を服用して感染を予防することもあります。

 

 

脾臓の構造

 

 

しかし、このような問題があるにもかかわらず、脾臓は生存に欠かせない臓器ではありません。脾臓が失われても、他の臓器(主に肝臓)が感染に対する防護能力を高めることによって、また、赤血球が異常になったり、寿命をすぎていたり、傷ついたりしていないか監視し、そのような赤血球があれば排除することによって、その機能を補います。

 

 

甲状腺

 

甲状腺は直径約5センチメートルの小さな腺で、首ののどぼとけの下方の皮膚のすぐ下にあります。

 

甲状腺は二つの部分(葉)に分かれ、中央で結合し(峡部と呼ばれます)、蝶ネクタイのような形をしています。正常な甲状腺は外見ではわからず、かろうじて触れることができる程度ですが、甲状腺が肥大(甲状腺腫)していると、医師が触診すれば容易にわかるようになり、のどぼとけの下方や側方に目立つふくらみが現れます。

甲状腺は、体内の化学反応が進行する速度(代謝率)を制御する甲状腺ホルモンを分泌します。甲状腺ホルモンは2通りの方法で代謝率に影響しますが、一つは体のほとんどの組織を刺激してタンパク質をつくらせる方法、もう一つは細胞が使う酸素量を増やす方法です。甲状腺ホルモンは、心拍数、呼吸数、カロリーの燃焼率、皮膚の修復、成長、発熱、受胎力、消化など多くの生命活動に影響します。

 

甲状腺の位置

 

甲状腺ホルモンには、T4(チロキシン)とT3(トリヨードサイロニン)の2種類があります。T4は甲状腺でつくられる主なホルモンで、体の代謝率を上げる効果はほんのわずかしかありません。その代わり、T4はさらに活性の高いT3に変換されます。T4からT3への変換は肝臓やその他の組織で行われます。T4からT3への変換は、そのときどきの体の要求や病気の有無といった多くの要因によって制御されています。血流中のほとんどのT4とT3は、チロキシン結合グロブリンと呼ばれるタンパク質に結合して運ばれます。ごく少数のT4とT3のみが、血液中で遊離して体内を巡っています。この遊離しているホルモンは活性が高い状態です。遊離ホルモンが体内で使用されると、結合型のホルモンの一部は結合しているタンパク質から解放されます。

甲状腺ホルモンをつくるために、甲状腺は食べものや水に含まれるヨードを必要とします。甲状腺はヨードを取り入れて甲状腺ホルモンに加工します。甲状腺ホルモンが使われると、ホルモンに含まれるヨードが放出されて甲状腺に戻り、甲状腺ホルモンをつくるために再利用されます。おかしなことに、甲状腺は血液中のヨード濃度が高くなると甲状腺ホルモンの放出をやや減らします。

 

加齢による影響

加齢そのものは甲状腺と甲状腺ホルモンに対して軽微な影響しか及ぼしません。歳をとると、甲状腺は縮んで首の中での位置が降下します。T3の量はわずかに減少しますが、生命維持機能の活動速度はほとんど変化しません。しかし、甲状腺疾患は加齢によって増加する傾向がみられます。

甲状腺の機能に影響を及ぼす疾患、特に甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症は、他の病気や高齢者にみられる特徴とよく似た症状を引き起こすため、高齢者では別の疾患に間違われがちです。甲状腺機能が亢進または低下すると、高齢者は大幅な体調の悪化を感じ、日常生活を送る能力が大きく衰える場合があります。これらの理由により、有効な治療を行うためには、隠れている本症を見逃さないようにする必要があります。

高齢者に対する甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症のスクリーニングは有益です。多くの専門家は、65歳以上の人は年1回、甲状腺刺激ホルモンの血中濃度を測定するよう勧めています。

 

体には甲状腺ホルモンの量を調節する複雑なメカニズムがあります。まず、脳の下垂体のすぐ上にある視床下部が甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンを分泌して、下垂体に甲状腺刺激ホルモン(TSH)をつくらせます。名前が示すように、TSHは甲状腺ホルモンをつくるように甲状腺を刺激します。下垂体は血流内の甲状腺ホルモンの量が多いか少ないかによって、TSHの放出を加速するか減速するかを調節します。

甲状腺はまた、骨がカルシウムを取りこむ働きを助けて骨の強化に役立つカルシトニンというホルモンをつくります。

 

診断のために行われる検査

甲状腺がどの程度機能しているかを調べるには、TSH、T4、T3の血中濃度を測定します。

一般的に、TSH値が甲状腺機能の最も優れた指標です。このホルモンは甲状腺を刺激します。甲状腺の働きが低下すると、より強い刺激が必要になるので血液中のTSH値は上昇し、甲状

腺の働きが過剰になると、刺激を弱める必要があるのでTSH値は低下します。しかし、まれに下垂体が正常に機能していない場合、TSH値は甲状腺機能を正確に反映しません。

甲状腺ホルモンT4とT3の血中濃度を測定する場合、各ホルモンの結合型と遊離型の総量(総T4と総T3)を測定します。しかし、チロキシン結合グロブリンの濃度が異常ならば、甲状腺ホルモンの総量が誤って解釈される可能性があるため、場合によっては血液中で遊離しているホルモンの量が測定されます。チロキシン結合グロブリンの値は、腎臓病の人や肝臓でのタンパク質合成が低下する病気の人、またはタンパク同化ステロイド薬を使用している人では低くなります。妊娠している女性、経口避妊薬あるいは他のエストロゲンを服用している女性、初期の肝炎の患者では、この値が高くなります。

 

甲状腺の触診で一つ以上のこぶ(結節)が認められると、画像検査が行われます。超音波検査では、音波を使って甲状腺の大きさを測定し、それが固体なのか液体で満たされているか(嚢胞性)を判定します。別種の甲状腺の画像検査では、少量の放射性ヨウ素あるいはテクネチウムを血液中に注射します。注入された放射性物質は甲状腺に集まるため、放射線を検出できる機器(ガンマカメラ)で甲状腺の画像を撮影し、何らかの身体的異常がないかどうかを確認します。甲状腺の画像検査は、甲状腺の特定の部位の機能が正常か、亢進しているか、あるいは低下しているかを他の部位と比較して確定するのにも役立ちます。

 

 

甲状腺機能正常症候群(Euthyroid Sick症候群)

甲状腺機能正常症候群では、甲状腺が正常に働いているにもかかわらず、甲状腺検査の結果が異常を示します。

甲状腺機能正常症候群は、甲状腺疾患以外の重い病気をもつ人に起こります。病気や栄養失調がある人や手術を受けた人では、甲状腺ホルモンT4が活性型のT3ホルモンに正常に変換されなくなります。不活性型の甲状腺ホルモンのリバースT3が大量に蓄積されます。このような変換の異常にもかかわらず、甲状腺は機能し続け、体の代謝は正常に制御されます。甲状腺に問題はないので治療の必要はありません。いったん原因の病気が治れば、検査値は正常に戻ります。

 

 

 

 

 

組織と器官

 

関連する細胞が互いに結合した集合体を、組織と呼びます。組織内ではさまざまな種類の細胞が、それぞれの機能を果たすために協力して働きます。顕微鏡検査のために採取した少量の組織サンプル(生検組織)には、たくさんの種類の細胞が含まれていますが、医師が診断のために注目するのは、特定の1種類の細胞だけかもしれません。

結合組織は頑丈で、その多くは線維性であり、互いに結合して体の構造を支えています。結合組織はほぼすべての器官に存在し、皮膚の大部分、腱、筋肉を形成しています。結合組織の特徴や含まれる細胞の種類は、体のどこにあるかによって異なります。

 

体内の主な臓器・器官

 

 

 

体の機能は、器官によってつかさどられています。それぞれの器官は、心臓、肺、肝臓、眼、胃などのように独自の構造をもち、それぞれ独自の機能を果たします。1つの器官は、数種類の組織、つまり数種類の細胞から成り立っています。たとえば心臓は、収縮して血液を送り出すための筋組織、心臓の弁を構成する線維組織、拍動の速度とリズムを維持するための特殊な細胞などでできています。眼は、瞳孔(どうこう)を開閉するための筋細胞、水晶体や角膜を構成する透明な細胞、眼球内部の液体をつくる細胞、光を感じる細胞、刺激を脳に伝える神経細胞などでできています。胆嚢のように一見単純な器官でも、胆汁の刺激作用に抵抗するための内層を構成する細胞、収縮して胆汁を排出するための筋細胞、袋の形を保持するための線維性の外壁を構成する細胞など、数種類の細胞から形成されています。

 

器官系

 

1つの器官はそれ自身が独自の機能を持っていますが、器官系と呼ばれるグループの一部としても働きます。器官系は系統立った単位で、これに基づいて医学が研究され、病気の一般的な分類が行われ、治療が計画されます。本書の大部分は、器官系の概念に基づいてまとめられています。

 

器官系の一例に、心臓と血管を含む心血管系があります。心血管系は、血液を送り出して循環させる役割を担っています。消化器系は口から肛門までの範囲で、食べた食物を消化し、不要なものを排泄する役割を担っています。消化器系には、食物の移動と吸収を行う胃、小腸、大腸だけでなく、消化酵素をつくる、毒素を除去する、消化に必要な物質を貯蔵するといった役割を担う、膵臓、肝臓、胆嚢などの関連器官も含まれます。筋骨格系は、骨、筋肉、靭帯(じんたい)、腱、関節を含み、体を支えて動かす働きがあります。

もちろん、それぞれの器官系は単独で機能するわけではありません。たとえば大量の食事を取った場合、消化器系は機能を果たすためにより多くの血液を必要とします。したがって、この場合は心血管系と神経系の協力が必要になります。消化器系の血管は拡張して多くの血液を流します。神経信号が脳に伝えられ、仕事が増えたことを知らせます。消化器系は、神経信号や血液中に化学物質を放出することで、心臓を直接刺激することもあります。心臓が反応すると、送り出す血液の量が増えます。脳が反応すると、空腹感が収まって満腹感が生じ、活発に活動する気がなくなります。

 

器官と器官系の間の情報伝達は非常に重要です。こうした情報伝達を通じて、体全体の要求に応じて各器官の機能が調節されます。心臓は、体が休息していることを知るとペースを落とし、器官が多くの血液を必要としていることを知るとスピードアップします。腎臓は、体の水分が多くなりすぎたことを知ると、尿を薄くして排泄量を増やし、体の水分が減りすぎたことを知ると水分を保存します。

情報伝達を通じて、体のバランスが保たれます。この概念をホメオスタシス(恒常性)と呼びます。ホメオスタシスによって、各器官は過不足なく働くとともに、他のすべての器官を円滑に機能させます。

ホメオスタシスを維持するための情報は、神経系の刺激や化学的な刺激によって伝達されます。体の機能を調節する複雑な情報伝達ネットワークの大部分をコントロールしているのが、神経系の一部である自律神経系です。神経系のこの部分は人の意識とは無関係に、いわば水面下で機能しています。情報を伝える化学物質は情報伝達物質と呼ばれます。情報伝達物質のうち、ある器官で生産され、血流に乗って他の器官へと運ばれるものをホルモンといいます。また、神経系の間でメッセージを伝えるものは神経伝達物質といいます。

情報伝達物質の中で最もよく知られているものの1つに、エピネフリン(アドレナリン)と呼ばれるホルモンがあります。人が急にストレスを感じたり驚いたりすると、大脳はただちに副腎にメッセージを伝え、副腎はすみやかにエピネフリンを放出します。一瞬のうちに、この化学物質は体全体に警報を発します。これは、逃げるか闘うかの緊急反応(闘争・逃走反応)として知られています。拍動はより速く力強くなり、眼は多くの光を取り入れようと広がり、呼吸も速まり、筋肉への血流を増やすために消化器系の活動が低下します。この反応の効果は急速かつ強力です。

その他の化学的な情報伝達はこれほど目立つものではありませんが、いずれも同じように効果的です。たとえば体の水分が減少して水が必要になると、心血管系を循環する血液の流量が少なくなります。血流量の減少は、首の動脈にある受容体によって感知されます。受容体が反応すると、神経を通じて脳の底部にある下垂体にインパルス(電気信号)が送られ、下垂体が抗利尿ホルモンを生産します。このホルモンは、尿を濃縮してより多くの水分を保持するよう腎臓に信号を送ります。同時に脳はのどの渇きを感じ、その人が水を飲むように刺激します。

人間の体にはこのほか、内分泌系と呼ばれる器官のグループがあります。内分泌系の主な機能は、他の器官の機能を調節するホルモンをつくることです。たとえば、甲状腺は甲状腺ホルモンを生産して代謝速度(体の化学的機能が進行するスピード)をコントロールし、膵臓はインスリンを生産して糖分の使用量をコントロールします。また、副腎はエピネフリンを生産して多くの器官を刺激し、ストレスに対して体に準備させます。

 

 

主な器官系

 

器官系

その系に含まれる器官

心血管

心臓

血管(動脈、毛細血管、静脈)

呼吸器

咽頭

喉頭

気管

気管支

神経

脊髄

神経(脳にインパルスを伝える神経と、脳から筋肉や器官にインパルスを伝える神経)

皮膚

皮膚(一般に皮膚と呼ばれている表皮と、その下に存在する脂肪、腺、血管を含む結合組織)

筋骨格

筋肉

腱、靭帯

関節

血液

血球、血小板

血漿(血液の液体成分)

骨髄(血球がつくられるところ)

脾臓

胸腺

消化器

食道

小腸

大腸

直腸

肛門

肝臓

胆嚢

膵臓(酵素をつくる部分)

虫垂

内分泌

甲状腺

副甲状腺

副腎

下垂体

膵臓(インスリンをつくる部分)

胃(ガストリンをつくる細胞)

松果体

卵巣

精巣

泌尿器

腎臓

尿管

膀胱

尿道

男性生殖器

陰茎

前立腺

精嚢

精管

精巣

女性生殖器

子宮頸部

子宮

卵管

卵巣

 

 

 

 

 

体内の主な臓器・器官

 

 

 

 

消化器系

 

消化器系は口から肛門まで続く器官で、食物を摂取する、摂取した食物を栄養素に分解する(消化)、栄養素を血液中に吸収する、消化しにくい残りの部分を体から排泄するという働きをしています。消化管は口、のど、食道、胃、小腸、大腸、直腸、肛門で構成されています。また、消化器系には、消化管の外側に位置している臓器の膵臓、肝臓、胆嚢も含まれます。

 

消化器系は胃腸系とも呼ばれますが、どちらの呼び名もこの系の機能や要素を完全に表せていません。消化器系の臓器には、消化とは無関係の凝固因子やホルモンを産生したり、血液からの有害物質の除去を助けたり、薬物を化学的に変化(代謝)させる働きもあります。

消化器が入っている空間を腹腔といいます。腹腔の前面は、皮膚、脂肪、筋肉、結合組織の層で構成されている腹壁で、背面は脊柱に、上部は横隔膜に、下部は骨盤臓器に接しています。

 

腹腔は消化器の外側と同じように膜で覆われていて、この腹腔の膜を腹膜といいます。

専門家は消化器系と脳の強い結びつきを認識しています。たとえば、心理的な要因は腸の収縮や消化酵素の分泌、その他の消化器系の機能に大きな影響を与えます。感染症は消化器系のさまざまな病気の原因となりますが、感染症へのかかりやすさも脳に強く影響されます。逆に、消化器系も脳に影響を与えます。たとえば、過敏性腸症候群や潰瘍性大腸炎などの長期間にわたる病気や何度も繰り返す病気、あるいは痛みを伴う病気は、感情や行動、日常生活に影響します。この双方向の関係は、脳腸相関と呼ばれています。

 

 

 

 

 

細胞

 

細胞は生体の最小単位と考えられることが多いのですが、1つの細胞は、さらに小さな独自の機能をもった部品がたくさん集まって構成されています。人間の細胞の大きさはさまざまですが、いずれも非常に小さなものです。最も大きな細胞である受精卵でさえ、小さくて肉眼で見ることはできません。

細胞は一つ一つが膜で包まれていますが、この膜は単なる袋ではありません。細胞膜には受容体(レセプター)があり、これによって細胞を識別することができます。受容体は、体内でできた物質や体内に摂取された薬物にも反応し、反応したものだけを細胞内へ出入りさせます。受容体で起こる反応は、しばしば細胞の機能を変化させたり、調節したりします。たとえば、インスリンと細胞膜の受容体が結合することで、血糖値が適切な値に保たれ、ブドウ糖(グルコース)を細胞内へ通過させることができます。

細胞膜の内側には、主に細胞質と核という2つの区画があります。細胞質には、エネルギーの消費や変換を行い、細胞としての機能を担う構造物が含まれています。核は、細胞の遺伝物質と、細胞の分裂や増殖を調節する構造物を含んでいます。各細胞の内部にはミトコンドリアが存在します。ミトコンドリアは細胞にエネルギーを供給する小さな構造物です。

 

 

細胞の内部

 

細胞にはたくさんの種類がありますが、その構成要素はほとんどの細胞で同じです。細胞は核と細胞質からなり、物質の出入りを調節する働きを持つ細胞膜に包まれています。核には、その細胞の遺伝物質である染色体、リボソームをつくる核小体が含まれています。リボソームにはタンパク質をつくる働きがあり、ゴルジ装置に包まれて細胞の外へ出ていくことができます。細胞質は液体成分と細胞内小器官からなりますが、細胞内小器官は細胞自身の器官とみなすことができます。小胞体には細胞内で物質を運搬する働きがあります。ミトコンドリアは細胞の活動に必要なエネルギーを生み出します。リソソームは細胞に入ってくる粒子を分解する酵素を含んでいます。中心小体は細胞分裂に関係しています。

 

体を構成する細胞にはたくさんの種類がありますが、それぞれの細胞は独自の構造と機能を持っています。白血球のように、他の細胞と結合せず自由に移動できる細胞もあります。また、筋細胞のように、互いにしっかりと結合している細胞もあります。皮膚細胞のように盛んに分裂・増殖する細胞もあります。また、神経細胞のように、通常の状態ではまったく分裂・増殖しない細胞もあります。腺細胞などいくつかの細胞は、ホルモンや酵素などの物質を体内で合成するのが主な機能です。たとえば、乳房には母乳をつくる細胞、膵臓にはインスリンをつくる細胞、肺粘膜には粘液をつくる細胞、口腔には唾液(だえき)をつくる細胞があります。物質の生産とは関係のない機能を持った細胞もあります。たとえば、筋細胞は収縮することによって運動を可能にします。神経細胞はインパルス(電気信号)の発生と伝導を担い、脳と脊髄の中枢神経系と、それ以外の体の部分との情報伝達を可能にします。

 

 

 

 

 

血液・血漿

血液は、液体成分である血漿(けっしょう)に、白血球、赤血球、血小板などが複雑に混ざり合った混合物です。人間の体内には約5リットルの血液があります。心臓から送り出された血液は全身を循環して、20~30秒で心臓に戻ってきます。

血液は全身を一周する間に、人間が生きていくために欠かせないさまざまな働きをします。血液は、全身の組織に酸素と必要な栄養素(脂肪、糖分、ミネラル、ビタミンなど)を運びます。また、二酸化炭素を肺に運ぶとともに、その他の老廃物を腎臓に運んで体外に排出します。化学伝達物質であるホルモンを体内の各所に運び、相互の連絡をはかるのも血液の役割です。さらに、感染を防ぐ成分や出血を止める成分も、血液によって運ばれます。

 

血漿

血漿は血液の液体成分で、その中に赤血球、白血球、血小板が浮遊しています。血液量の半分以上を血漿が占めており、そのほとんどが水分で、その中に塩類(電解質)やタンパク質が溶けています。血漿中の主なタンパク質がアルブミンです。アルブミンは血液の液体成分が血管から組織に漏れ出るのを防ぎ、またホルモンや薬などの物質に結合して運搬する働きをしています。血漿中のタンパク質にはこの他に、ウイルス、細菌、真菌、癌細胞などから体を保護する役割を担う抗体(免疫グロブリン)や、出血を止める血液凝固因子などがあります。

 

血漿には別の働きもあります。水分の貯蔵庫として、組織に水分が不足していれば補給し、余分になると吸収します。つまり、体内の組織に水分が足りなくなると、まず血漿中の水分がそれを補う供給源になります。血漿は血管を満たして絶えず流れていることにより、血管がつぶれたり詰まったりするのを防ぎ、血圧と全身の循環を維持するのに役立っています。また、血漿が循環することで、体の芯となっている組織で発生した熱が、腕や脚、頭など熱の逃げやすい部分を通って運ばれるため、体温を調節する役割を果たすことにもなります。

 

赤血球

赤血球は、血液量の約40%を占めています。赤血球にはヘモグロビンというタンパク質が含まれていて、血液の色が赤い原因になっていますが、これがあるために肺から酸素を取り込んで全身の組織に酸素を届けることができます。細胞は酸素を使って体に必要なエネルギーを生み出し、老廃物として二酸化炭素を出します。赤血球はこの二酸化炭素を組織から肺へ運びます。赤血球の数が少なすぎる状態(貧血)になると、十分な量の酸素を運ぶことができず、疲労感や脱力感などの症状が現れます。赤血球の数が多すぎる状態(赤血球増加症)になると、血液が濃くなりすぎて固まりやすくなり、心臓発作や脳卒中のリスクが高くなります。

 

白血球

白血球の数は赤血球に比べて少なく、赤血球600~700個に対して1個の割合です。白血球の主な働きは、体を感染から守ることです。白血球には5つのタイプがあります。

最も数が多いのが好中球で、細菌や真菌を殺して取り込んだり、異物を取り込んだりすることによって体を感染症から守っています。

リンパ球には3つの種類があり、そのうちTリンパ球とナチュラルキラー細胞は、ウイルス感染から体を守っており、癌細胞を発見して破壊することもありますし、Bリンパ球は、抗体をつくる細胞になります。

単球は、死んだ細胞や損傷した細胞を取り込み、感染の原因となるさまざまな微生物から体を守ります。

好酸球は、寄生虫を殺し、癌細胞を破壊するほか、アレルギー反応にも関係しています。

好塩基球も、アレルギー反応に関係しています。

 

白血球には血流に乗ってスムーズに流れているものもありますが、多くは血管の壁に付着していて、中には血管壁を通り抜けて別の組織に入りこむものもあります。白血球は感染を起こしたところや問題のあるところに到着すると、さらに多数の白血球を呼び寄せる物質を放出します。白血球の働きは軍隊に似ていて、全身にくまなく分布していますが、微生物が侵入するとすぐに集まってきて撃退する準備を整えています。この任務を成し遂げるため、白血球は、微生物を飲み込んで分解したり、抗体を産生したりしますが、この抗体が微生物にくっつくことによって、さらに撃退しやすくなります。

白血球数が少なくなりすぎた状態(白血球減少症)になると、感染を起こしやすくなります。白血球数が正常値より多くなった状態(白血球増加症)になったとしても、直接それによる症状が現れることはありませんが、感染症や白血病などの病気の徴候として白血球数が増えることがあります。

 

血小板

血小板は、細胞に似ていますが細胞ではなく、赤血球や白血球より小さい粒子です。血小板の数は赤血球より少なく、赤血球約20個に対して1個の割合です。血小板は血液の凝固作用に関与していて、出血しているところに集まって凝集し、血栓という血のかたまりをつくって血管の損傷部分をふさぎます。同時に、さらに凝固を促す物質を放出します。血小板の数が少なすぎる状態(血小板減少症)になると、あざや異常な出血が起こりやすくなります。血小板が多すぎる状態(血小板血症)になると、血液が固まりやすくなり、脳卒中や心臓発作の原因になります。

 

 

血球の形成

赤血球、ほとんどの白血球、血小板は、骨髄という骨の中にある脂肪に富んだ軟らかい組織でつくられます。白血球のうち、Tリンパ球とBリンパ球の2つは、リンパ節や脾臓(ひぞう)でもつくられることがあり、Tリンパ球の一部は胸腺内でつくられて、そこで成熟することもあります。

 

骨髄の中では、幹細胞と呼ばれる単一のタイプのまだ役割の定まっていない未分化の細胞から、すべての血球がつくられます。幹細胞は分裂すると、まず未成熟の赤血球、白血球、血小板産生細胞になります。この未成熟細胞は分裂してさらに成長し、最終的に成熟した赤血球、白血球、血小板になります。

 

 

血球がつくられる速度は、体が必要とする量に応じて調節されます。正常な血球には寿命があり(白血球は数時間から数日、血小板は約10日、赤血球は約120日)、絶えず補充が必要です。血球の産生は、一定の条件下では通常より多くなります。たとえば、体内組織に含まれる酸素が少なくなったり、赤血球の数が減少したりすると、腎臓でつくられたエリスロポエチンというホルモンが放出され、これが骨髄を刺激して赤血球の産生量が増えます。感染が起きると、それに反応して骨髄は白血球の産生量を増やし、普段より多く放出するようになります。出血が起きると、それに応じて骨髄は血小板の産生量を増やし、普段より多く放出するようになります。

 

 

 

薬と血液凝固の複雑な関係

 

出血を抑制する人体の能力(止血)と薬との関係は複雑です。血液を凝固させる能力は止血に不可欠ですが、過度の凝固は、心臓発作、脳卒中、肺塞栓症などのリスクを高めます。多くの薬は、その用途にかかわらず、血液を凝固させる人体の能力に影響を与えます。

血液凝固のリスクが高い人には、リスクを下げることを狙って薬が使われます。そういった薬は、血小板の粘着性を低下させることによって、血小板が集まって血管をふさぐのを防ぎます。たとえば、アスピリン、チクロピジン、クロピドグレル、アブシキシマブ、チロフィバンなどが、血小板の働きを妨げる薬として挙げられます。

凝固因子という血液中のタンパク質の働きを阻止する抗凝固薬という薬も使われます。抗凝固薬は「血液をさらさらにする薬」と表現されることがよくありますが、実際に血液を薄めるわけではありません。よく使われる抗凝固薬は、ワルファリンという内服薬とへパリンという注射薬です。これらの薬を使用する人は、常に医師の監督の下になければなりません。医師は血が凝固するまでの時間を測定する血液検査を行って、これらの薬の効果を監視し、その検査結果をもとに薬の用量を調整します。用量が少なすぎると凝固を防止できず、また一方で多すぎると重度の出血を起こします。低分子量ヘパリンという別の種類の抗凝固薬では、それほど厳重な管理は必要ありません。レピルジン、ビバリルジン、アルガトロバンという薬は新しい抗凝固薬で、トロンビンという凝固を促すタンパク質に直接作用します。

 

すでに血栓ができている場合は、血栓溶解薬(線溶薬)を使用して血栓の溶解を促します。ストレプトキナーゼや組織プラスミノーゲンアクチベータなどの血栓溶解薬は、ときに血栓による心臓発作や脳卒中の治療に使用されます。これらの薬は命を救うことがある一方で、重度の出血のリスクをもたらす可能性もあります。また驚くことに、血栓のリスクを減らすため使われる薬であるヘパリンが、血小板に対して意図していない活性化作用を及ぼし、凝固のリスクを高めることもあります(ヘパリン誘導性血小板減少症)。

エストロゲンには、単独の場合でも経口避妊薬として服用している場合でも、過剰な血液凝固を引き起こす副作用があります。癌の治療に使われる薬(化学療法薬)にも、アスパラギナーゼなどのように、凝固のリスクを増加させるものがあります。

 

 

出血と血液凝固の病気

 

止血とは、傷ついた血管からの出血を止めようとする体の働きです。止血には血液の凝固が伴います。血液が凝固しすぎると、出血していない血管まで塞いでしまうことがあるため、凝固を抑制して、もはや必要なくなった血のかたまりを溶かすしくみが働きます。このような出血を調節する系統が一部でも異常になると、大量に出血したり、血が固まりすぎたりすることがあり、いずれも危険な状態になる可能性があります。凝固力が弱いと、血管がわずかに傷ついただけで大出血が起こります。凝固の調節がうまくいかないと、重要な場所にある毛細血管が血のかたまりで詰まってしまうことがあります。

脳の血管が詰まると脳卒中が起こり、心臓につながる血管が詰まると心臓発作が起きます。

脚、骨盤、腹部などの静脈にできた血のかたまりが、血流に乗って肺に入り、大きな動脈を遮断すると、肺塞栓を起こします。

止血には大きく分けて、血管が狭くなる(収縮)、血小板が活性化する、血液凝固因子が活性化する、という3つのプロセスがあります。

 

傷ついた血管は、収縮することで血液の流出速度を低下させ、これにより血液が凝固できるようになります。同時に、血管の外側に血液がたまり(血腫)、これが血管を圧迫してさらに出血を抑えます。血管壁に傷がつくと、すぐに血小板を活性化させる一連の反応が起こり、傷ついた部分に血小板が付着します。血小板を血管壁にくっつける「接着剤」の役割を果たすのは、血管壁の細胞が産生するフォン・ヴィルブランド因子というタンパク質です。タンパク質のコラーゲンとトロンビンは、傷の部分で血小板同士の接着を促す働きをします。集まった血小板は、網状の構造を形成して傷をふさぎます。血小板は丸い形からとがった突起の多い形に変わり、タンパク質などの物質を放出してさらに多くの血小板と凝固タンパク質を集めます。こうした一連の反応によって傷をふさぐ血のかたまり(凝血塊)が大きくなり、血栓が形成されます。

 

 

血栓:血管の破れ目をふさぐ

 

 

外傷により血管壁が破れると、血小板が活動を始めます。球状だった血小板が突起の多い形に変わり、破れた血管壁に付着したり、たがいにくっつきあったりして、血管の傷をふさいでいきます。また、他の血中タンパク質との相互作用によってフィブリンを形成します。フィブリン線維は網状になってさらに血小板や血球をとらえ、傷をふさぐ血のかたまり(血栓)をつくります。

 

 

 

血栓ができる過程では、さまざまな血液凝固因子が連続的に活性化し、その中でトロンビンもつくられます。血液凝固因子のフィブリノーゲンは普段は血液中に溶けていますが、トロンビンの作用を受けると線維状のフィブリンに変化し、血小板のかたまりから放射状に伸び、網状に広がってさらに多くの血小板と血球を取りこみます。フィブリンの線維は、血栓の体積を増大させるので凝血塊が移動しにくくなり、傷ついた血管壁をふさがった状態に保ちます。

このような血液凝固の反応に対し、生体には血管が修復された後に凝固プロセスを停止し、凝固物を溶かす反応があり、両者の間でうまくバランスが取れています。このような調節機構がなければ、血管に小さな傷ができただけで、全身に血のかたまりが拡がってしまいますし、実際にそれが起きる病気もあります。

 

血栓形成傾向

血栓形成傾向は、血液が固まりやすくなったり過度に凝固したりする疾患です。

遺伝性疾患や後天性疾患では、血液凝固が促進されることがあります。

血のかたまりができると脚や腕が腫れてきます。

凝固を調節している血液中のタンパク質を測定します。

抗凝固薬が必要になる人もいます。

 

血栓形成傾向の原因となる疾患の大半は、静脈内に血栓が形成されるリスクを高める病気です。

 

原因

血栓形成傾向を起こす病気には遺伝性のものがあります。これらの多くは、血液中で凝固を制御するタンパク質の量や機能が変化することによって起こります。

 

血栓形成傾向は、後天的な病気が原因で生じることもあります。そのような病気としては、播種性血管内凝固症候群(癌と関係があることが多い)や抗リン脂質抗体(抗カルジオリピン抗体)症候群(ループス「抗凝固因子」の存在を含む)があり、いずれも血液凝固因子の活性が過剰になるため、血液凝固のリスクが高まります。

 

血栓形成傾向に伴う凝固リスクを高める要因は他にもあります。その要因の多くが、十分に動くことができずに、静脈に血液が滞留することに関係しています。そういった例としては、麻痺状態、長時間の座位(特に、車や飛行機のような狭いスペースで座っている場合)、長期のベッド休養、手術を受けたばかりの状態、心臓発作などがあります。

心不全も、血液を全身に循環させるためのポンプ機能が十分に働かなくなるため、血栓形成の危険因子になります。肥満や妊娠などで、静脈に加わる圧力が高い状態になってもリスクが高まります。

 

症状と合併症

遺伝性の血栓形成傾向では、年齢にかかわらず血栓ができる可能性がありますが、普通は青年期に入るまで血栓のリスクが上昇することはありません。遺伝性疾患では、脚の深部の静脈に血栓ができて(深部静脈血栓症)、脚が腫れる人が多くみられます。脚の深部にできた血栓が肺塞栓を引き起こすこともあります。深部静脈に血栓がいくつかできると、さらに重度の腫れや皮膚の変色が生じることがあります(慢性深部静脈不全)。ときに、血栓が脚の表面の静脈にできると、痛みや発赤を伴います(表在性血栓性静脈炎)。まれに、腕の静脈、腹部静脈、頭蓋内静脈に血栓が形成されることもあります。高ホモシステイン血症や抗リン脂質抗体症候群でも、静脈血栓や動脈血栓ができることがあります。血栓が動脈の血流を妨げると、組織への血液供給が失われて、組織が損傷を受けたり、破壊されたりするおそれがあります。

 

診断と治療

血栓の素因とみられるものがなく、2回以上期間を開けて血栓ができたことがある場合は、遺伝性の血栓形成傾向が疑われます。血栓が生じたのが初めてでも、家族に同じ病歴がある場合は、遺伝性が疑われます。また、若く健康で特に原因がない人に血栓が生じた場合も、遺伝性疾患の可能性があります。

血液検査を行って、凝固を調節しているさまざまなタンパク質の量や活性を測定することで、血栓形成傾向を引き起こしている遺伝性疾患を特定します。この検査は、血栓を治療した後に行うとより正確になります。

 

血栓形成傾向を起こす遺伝性疾患は治りません。2回以上血栓ができたことがある人では、生涯にわたってワルファリンという抗凝固薬を服用するよう勧められることが多いようです。血栓が1回だけできたことがある人では、長期にわたって寝たきりになるなど、血栓を生じる危険性が高い場合にのみ、ワルファリンかヘパリンが予防のために使用されます。

高ホモシステイン血症の人では、葉酸、ビタミンB6(ピリドキシン)、ビタミンB12(コバラミン)など、ホモシステインを減らす作用があるビタミン補充薬を服用するよう勧める場合があります。しかし、これらの補充薬を服用することで血栓の形成も減らせるかどうかは明らかではありません。

 

 

 

免疫システム

人間の体には、体外から侵入した異物や危険物質、細胞から体を守るために、免疫システムが備わっています。このような異物や危険物質には、微生物(細菌、ウイルス、真菌など)、寄生虫、癌細胞、さらには移植された臓器や組織なども含まれます。こういった異物から体を守るため、免疫システムは体の一部であるもの(自己)とそうでないもの(非自己)を区別できなければなりません。非自己として認識された物質は、特に病気の原因になるなど危険とみなされた物質であれば、体の免疫反応を刺激します。このような物質のことを抗原といいます。

細菌、ウイルス、その他の微生物、癌細胞などは、その細胞の中あるいは表面に抗原をもっています。また食物の分子や花粉のように、そのものが抗原であることもあります。免疫反応が正常に働いている場合は、潜在的に有害な異物の抗原を見つけ出し、防御力を活性化および動員して攻撃を行います。免疫システムがうまく働かず自己を非自己とみなすと、自分の体の組織を攻撃してしまい、関節リウマチ、甲状腺炎、全身性エリテマトーデス(ループス)といった自己免疫疾患を引き起こします。

 

免疫システムに異常が生じると、次のような現象が起きます。

自分自身に対し免疫反応を引き起こしてしまいます。

微生物などの侵入に対し適切な免疫反応を示すことができなくなります。

通常は無害であるはずの異物の抗原に対する過剰な免疫反応により、正常な組織が傷つけられます。

 

免疫反応のしくみ

異物に対しての免疫反応が成功するためには、認識、活性化、動員、制御、分解が必要です。

 

免疫システムが異物を破壊するためには、まず異物の存在を認識しなければなりません。つまり、免疫システムは自分と自分以外のもの(異物)を区別できなければなりません。免疫システムがこの区別をできるのは、すべての細胞の表面に標識となる分子があるからです。たとえば微生物は、表面にもっている標識分子が異なるため判別できます。人間の標識分子はヒト白血球抗原(HLA)、または主要組織適合遺伝子複合体(MHC)と呼ばれます。HLA分子は、自分以外の人の体内で免疫反応を起こすので(常態では、自分の体の中では反応を起こさない)、抗原と呼ばれています。一人一人が、ほぼ固有の組合せから成るヒト白血球抗原を持っており、免疫システムは、この固有の組合せを自己として認識します。一方、自分の体のものと違う標識分子を表面に持った細胞は異物として認識され、免疫システムはこれを攻撃します。このような細胞には、微生物、移植組織の細胞、侵入した微生物が感染したり、癌によって変化した細胞などがあります。

白血球のうち、B細胞(Bリンパ球)は、異物を直接認識します。しかし、T細胞(Tリンパ球)は、免疫システム中の別の細胞である抗原提示細胞の助けを必要とします。抗原提示細胞は異物を細胞内に取り込み、断片に分割します。抗原の断片は、抗原提示細胞に取り込まれてHLA分子と結合し、細胞の表面に運ばれます。抗原提示細胞と接触したT細胞は、異物の断片を認識することができるようになります。そしてT細胞が活性化され、同じ抗原を持つ異物を攻撃しはじめます。

 

 

免疫システムのキーワード

 

抗体(免疫グロブリン):

B細胞によってつくられ、特定の抗原と反応するタンパク質。

 

抗原:

免疫システムが認識し、免疫反応を引き起こしうるすべての物質。

 

B細胞(Bリンパ球):

特定の抗原に対する抗体をつくり出す白血球。抗体の産生は抗原によって活性化される。

 

好塩基球:

ヒスタミン(アレルギー反応に関与する物質)を放出する白血球で、他の白血球(好中球と好酸球)を問題のある部位に引き寄せる物質をつくる。

 

細胞:

細胞質と核で構成され、細胞膜に囲まれた生体の最小単位。

 

化学走性:

細胞が特定の部位に化学物質によって引き寄せられるプロセス

 

補体系:

体を守るための一連の反応(カスケード)に関連する一群のタンパク質。細菌や外来細胞を殺す、マクロファージが外来細胞を認識して捕食しやすくする、マクロファージや好中球を問題のある部位に引きつける、抗体の有効性を高めるなど、さまざまな免疫機能をもつ。

 

サイトカイン:

細胞から分泌されるタンパク質で、免疫システムの情報伝達物質として働き、免疫反応の調節を助ける。

 

樹状細胞:

白血球に由来する細胞。通常は組織内にあり、T細胞が異物の抗原を認識するのを助ける。

 

好酸球:

白血球の一種で、細菌を捕食し、捕食するには大きすぎる異物も殺傷し、時に寄生虫を動けなくして殺傷するのを助け、アレルギー反応に関与し、癌細胞の破壊を助ける。

ヘルパーT細胞:B細胞が異物の抗原を認識して抗体を産生するのを助け、キラーT細胞の活性化を助け、マクロファージを活性化する白血球。

 

組織適合性:

組織の適合性のこと。適合性はヒト白血球抗原によって決まり、移植組織や臓器がレシピエントに受け入れられるか否かを決定するのに利用される。

 

ヒト白血球抗原(HLA):

細胞の表面に存在し、個々の臓器に固有のもので、自己を異物と区別させる一群の分子。主要組織適合複合体とも呼ばれる。

 

免疫複合体:

抗原に抗体が結合したもの。

 

免疫反応:

抗原に対する免疫システムの反応。

 

免疫グロブリン:

抗体分子のこと。

 

インターロイキン:

ある種の白血球から分泌され、他の白血球に影響を及ぼす伝達物質(サイトカイン)の一種。

 

キラー(細胞傷害性)T細胞:

外来細胞や異常細胞に結合し、それらを殺傷するT細胞。

 

白血球:

単球、好中球、好酸球、好塩基球、あるいはリンパ球などの血液細胞。

 

リンパ球:

特異免疫を司る白血球で、抗体をつくるもの(B細胞)や自他を区別するもの(T細胞)、感染した細胞や癌細胞を殺傷するもの(キラーT細胞)などがある。

 

マクロファージ:

単球と呼ばれる白血球から発生し、細菌や他の外来細胞を捕食したり、T細胞が微生物や異物を認識するのを助けたりする大型の細胞。

 

主要組織適合遺伝子複合体(MHC):

ヒト白血球抗原と同義。

 

肥満細胞:

組織内にあり、炎症やアレルギー反応に関与するヒスタミンなどの物質を放出する細胞。

 

分子:

化学的に結合し特定の化学物質を形成した原子の集合体。

 

ナチュラルキラー細胞:

白血球の一種で、ある種の感染細胞や癌細胞などの異常細胞を殺傷する能力を生まれつきもつ。細胞が異常であることを学習せずとも殺傷する能力をもつ。

 

好中球:

細菌やその他の外来細胞を捕食し、殺傷する白血球。

 

食細胞:

体内に侵入してきた微生物、その他の細胞、細胞断片などを捕食して殺傷する細胞。

 

貪食作用:

侵入してきた微生物、その他の細胞、細胞断片などを細胞が取り込み、捕食するプロセス。

 

受容体:

細胞の表面あるいは内部にある分子で、鍵と鍵穴のように、ぴったり合う分子とのみ結合する分子。

 

制御性(サプレッサー)T細胞:

免疫反応を終わらせる働きをする白血球。

 

T細胞(Tリンパ球):

特異免疫に関与する白血球で、ヘルパー、キラー(細胞傷害性)、制御性の3種類がある。

 

 

 

さまざまな防衛線

体は、物理的バリアー、白血球、抗体、その他の化学物質など、異物の侵入に対する一連の防御機能を備えています。

 

物理的バリアー:

侵入者に対する防御の第一線は、機械的、物理的バリアーです。

皮膚

目の角膜

気道、消化管、尿路、生殖器の内側を覆う粘膜

これらのバリアーが無傷であれば異物の多くは体内に侵入できません。しかし、ひどいやけどにより皮膚が損傷し、バリアーが傷ついている場合などは感染のリスクが高まります。また、これらのバリアーは、細菌を破壊する酵素を含んだ分泌物、たとえば汗、涙、気道および消化管の粘液、腟の分泌物によって保護されています。

 

細胞:

次の防衛線には特定の白血球がかかわっています。白血球は血流にのって体内を巡り、組織に入りこんで微生物などの異物を見つけ出し、攻撃します。この防御機構は、先天性(自然)免疫と獲得免疫という2つのシステムで構成されています。

先天性(自然)免疫は、侵入した微生物などが体にとって未知のものであっても、効果的に機能します。異物を認識する学習は必要なく、異物にただちに反応できます。これにはいくつかのタイプの白血球が関わっています。

食細胞は異物を貪食(どんしょく)します。

ナチュラルキラー細胞は特定のウイルスに感染した細胞や癌細胞を殺傷する準備を整えています。

抗原提示細胞は、T細胞(Tリンパ球)が異物を認識するのを助けることに特化しています。

炎症やアレルギー反応に関与する、ヒスタミンなどの物質を放出する白血球もあります。これらの細胞は、多くの場合は独自に働き、異物を破壊します。

獲得(特異)免疫では、リンパ球(B細胞とT細胞)が異物に遭遇すると、攻撃の方法を学習し、次に遭遇する時により効果的に攻撃できるようそれぞれの異物を記憶します。新しい抗原に遭遇しても、リンパ球が抗原に適応する必要があるため、特異免疫ができるまでには時間がかかりますが、いったん免疫ができれば、体は素早く反応することができます。B細胞とT細胞が協力して働き、異物を破壊します。このとき、異物を直接破壊するかわりに、別の白血球に異物を認識、破壊させる白血球もあります。

 

物質:

先天性免疫と獲得免疫とは、相互に作用し合い、影響を及ぼし合います。直接に連携する場合もあれば、防御に必要な細胞を動員する段階の一部で、免疫システム中の他の細胞(免疫細胞)を引き寄せたり活性化したりする物質を介して作用し合うこともあります。こうした物質には、免疫システムの情報伝達を担うサイトカイン、抗体、補体系を形成する補体タンパクなどがあります。これらの物質は細胞中ではなく、血液の液体成分である血漿などの体液に溶けこんでいます。

 

こういった物質の中には、数種類のサイトカインのように炎症を引き起こすものもあります。炎症で患部が赤く腫れるのは、サイトカインなどの物質が免疫細胞を患部組織に呼び寄せて血液の流れを増やし、組織内に入る液体が増えるためです。つまり炎症は、感染が広がらないよう、そこだけにとどめておくために起こるのです。そしてまた免疫系の別の物質の助けにより、炎症が治まり、損傷した組織が治癒します。炎症は厄介なものですが、免疫系がきちんと働いているしるしでもあります。しかしながら、重度の炎症や長期間にわたる(慢性の)炎症は有害となる場合があります。

 

器官:

免疫システムには、体内に分散している細胞のほかにいくつかの器官があり、一次リンパ器官と二次リンパ器官とに分類されます。

一次リンパ器官では白血球がつくられます。

骨髄では、好中球、好酸球、好塩基球、単球、B細胞、T細胞に成長する細胞(前駆細胞)など、あらゆるタイプの白血球がつくられます。

胸腺では、T細胞がつくられ、異物の抗原を認識する一方で自身の抗原は無視するように訓練されます。(T細胞は、特異免疫においてきわめて重要です。)

体を守る必要が生じたときは、主に骨髄で白血球がつくり出され、血流に入って必要とされる部位に送られます。

 

 

リンパ系:

感染に対する防御を助けています

リンパ系は、胸腺、骨髄、脾臓、扁桃、虫垂、小腸内のパイエル板とともに、免疫システムを構成する重要な部分です。

リンパ系は、リンパ節がリンパ管でつながったネットワークで、体全体にリンパ液を運びます。

リンパ液は、毛細血管の薄い壁を通って血管外の組織に浸透して出ていく液体からつくられます。この液体は組織を養う酸素、タンパク質、その他の栄養素を含んでいます。この液体の一部は毛細血管に戻り、一部はリンパ管に入ります(この段階でリンパ液となります)。細いリンパ管は合流して太くなり、最大のリンパ管である胸管につながっていきます。胸管は鎖骨下静脈に流れ込んでリンパ液を血液中に戻します。また、リンパ液は、組織中の細菌などの異物、癌細胞、死傷した細胞をリンパ管へ運びます。リンパ液には多くの白血球も含まれています。

リンパ液によって運ばれた物質は必ず最低でも一つのリンパ節を通過し、リンパ液が血流に戻る前に異物はそこで取り除かれ破壊されます。リンパ節には、白血球が集まっており、白血球同士あるいは抗原と反応し、異物に対して免疫反応を起こします。リンパ節は、B細胞、T細胞、樹状細胞、マクロファージがきっちり詰まった網状の組織です。有害な微生物はこの網状組織でろ過され、B細胞とT細胞により認識され、攻撃を受けます。

 

 

リンパ節は、首筋、わきの下、鼠径部(そけいぶ)のようなリンパ管の枝が分かれる部位に集まっています。

 

 

 

二次リンパ器官には、脾臓(ひぞう)、リンパ節、扁桃、虫垂、小腸内のパイエル板などがあります。これらの器官は、微生物や異物を捕えるとともに、免疫システムを担う成熟した細胞が集合して細胞同士や異物と相互に作用し、特定の免疫反応を行うための場所になっています。

リンパ節は体内に巧みに配置され、リンパ管の広範囲なネットワークで相互につながり、免疫循環システムとして機能しています。このリンパ系は、微生物やその他の異物、癌細胞や死傷した細胞などを組織からリンパ節に運び(そこで異物のろ過や破壊が行われます)、さらに血流へと運びます。

リンパ節は癌細胞が最初に転移する部位の1つです。そのため医師は、癌が転移しているかどうかを判断するためにまずリンパ節を調べます。転移していればリンパ節が腫れています。また、リンパ節は感染症によっても腫れます。感染に対する免疫反応がリンパ節内で生じるからです。時にはリンパ節に運ばれた細菌が殺傷されず、リンパ節で感染を引き起こします(リンパ節炎)。

 

 

 

T細胞が抗原を認識するしくみ

 

 

T細胞は、免疫監視システムの一部です。血流やリンパ系にのってリンパ節や他の二次リンパ器官にたどり着くと、異物(抗原)を探します。しかしT細胞は、抗原提示細胞という別の白血球によって異物一定の処理がされて、抗原として「提示」されない限り、それを認識できません。抗原提示細胞には、樹状細胞、マクロファージ、B細胞があります。このうち、最も強力なのは、樹状細胞です。

 

T細胞は、単独では体内を巡っている抗原を認識できません。T細胞の表面にある特別な分子である受容体と抗原が結合しないためです。

樹状細胞など抗原の処理ができる細胞に抗原が取り込まれます。

抗原提示細胞は、酵素によって抗原を断片に分割します。

抗原断片は、抗原提示細胞の内部に組みこまれ、ヒト白血球抗原(HLA)分子と結合します。抗原断片をもったHLA分子は、細胞の表面に運ばれます。

T細胞受容体は、HLA分子と結合して提示された抗原断片を認識することができます。このようにして、T細胞受容体とHLA抗原分子に提示されている抗原断片とは、鍵と鍵穴が合うようにぴったりと結合します。そしてT細胞が活性化され、同じ抗原を持つ異物を攻撃しはじめます。

 

 

活性化と動員:

白血球は異物を認識すると活性化されます。たとえば、抗原提示細胞がHLAに結合した抗原断片をT細胞に提示すると、T細胞は抗原断片と結合し、活性化します。B細胞は異物により直接活性化されます。活性化した白血球は異物を捕食、殺傷したり、またその両方を行います。通常、異物を殺傷するためには、2種類以上の異なるタイプの白血球が必要です。

マクロファージや活性化されたT細胞などの免疫細胞が、他の免疫細胞を問題のある部位に呼び寄せる物質を放出することで、防御機構が働きます。異物自身が、免疫細胞を引き寄せる物質を放出することがあります。

 

制御:

免疫反応は、それが体に重大な害を及ぼさないよう制御されなければなりません。制御性(サプレッサー)T細胞は、免疫反応を阻害するサイトカイン(免疫システムの伝達物質)を分泌し、体の反応の調節を助けています。

 

分解:

分解は、異物を閉じこめ、体内から排除する過程です。異物が体から排除されると、ほとんどの白血球は自滅し、捕食されます。これを免れた細胞はメモリー細胞と呼ばれ、体内にとどまります。これは特定の異物を記憶し、次に遭遇する時により効率よく反応するための、獲得免疫の一部です。

 

 

先天性免疫

 

先天性(自然)免疫は生まれつき備わっているためこう呼ばれており、異物との遭遇を通じて学習される必要がありません。そのため、外来細胞に対してすぐに反応できます。しかし先天性免疫では、どんな異物に対してもほぼ同じ方法で対応します。外来細胞上にある限られた種類の物質(抗原)だけを認識しますが、これらの抗原は他の多くの細胞にも存在します。先天性免疫では、過去の異物への対処は記憶されず、同じ感染に対しての持続的な防御は備わっていません。

 

先天性免疫に関与する白血球

単球(マクロファージに分化)

好中球

好酸球

好塩基球

ナチュラルキラー細胞

 

これらはそれぞれ違う機能をもっています。補体系とサイトカインも先天性免疫に関係しています。

 

マクロファージ

マクロファージは、白血球の一種である単球が血流からさまざまな組織に移行した後に、分化して生じます。単球は感染が起こると、組織に入ります。そこで約8時間かけて、単球は肥大して内部に顆粒をつくり、マクロファージになります。顆粒には酵素やその他の物質が詰まっていて、これらが細菌や外来細胞を殺し、消化するのを助けます。マクロファージは組織内にとどまり、細菌、外来細胞、損傷した細胞、死んだ細胞などを食べます。(このように細胞が微生物やさまざまな細胞や細胞片などを食べるプロセスを貪食[どんしょく]作用と呼び、このような細胞を食細胞と呼びます。)

マクロファージは他の白血球を感染部位に引きつける物質を分泌します。また、T細胞が異物を認識し、獲得免疫に関与するのを助けます。

 

好中球

好中球は白血球の中で最も多く、感染に対する防御において最初に働く免疫細胞の1つです。好中球は、細菌やさまざまな外来細胞を捕食します。好中球に内包されている顆粒中に、こ

れらの細胞を殺したり消化したりするのを助ける酵素が含まれます。

好中球は血流を介して体内を循環していますが、特別な信号を受けると血流を離れ組織に入りこみます。これらの信号は細菌そのものから、あるいは補体タンパク、損傷を受けた組織などから発信されますが、そのすべてが好中球を問題部位に引き寄せる物質をつくります。(この細胞を引き寄せるプロセスは化学走性と呼ばれます。)

好中球はまた、周囲の組織中に線維をつくる物質を放出します。こういった線維は細菌を捕え、細菌が体内に広がるのを防ぐとともに、破壊されやすくします。

 

好酸球

好酸球も細菌を取り込みますが、取り込むには大きすぎる外来細胞も標的とします。好酸球が外来細胞を見つけると、細胞内の顆粒から酵素や毒性のある物質が放出されます。放出された物質は標的の細胞膜に穴をあけます。

好酸球は血流を介して体内を循環していますが、細菌への活性は好中球やマクロファージほど高くありません。その主な役割は寄生虫に取りついて動けなくし、殺傷を助けることにあります。

好酸球は癌細胞の破壊も助けます。また、炎症やアレルギー反応に関わる物質をつくります。アレルギーがある人、寄生虫感染症の人、喘息の人はそうでない人に比べ、血中の好酸球が多いことがよくあります。

 

好塩基球

好塩基球は外来細胞を取り込みません。好塩基球は、アレルギー反応に関わる物質であるヒスタミンを含む顆粒をもっています。好塩基球はアレルゲン(アレルギー反応を引き起こす抗原)に遭遇すると、ヒスタミンを放出します。ヒスタミンは、損傷した組織への血流量を増やします。また、好塩基球は好中球と好酸球を問題部位に引き寄せる物質をつくります。

 

ナチュラルキラー細胞

ナチュラルキラー細胞は、形成された瞬間から外敵を殺す能力を備えているので、「生まれつきの殺し屋」という意味でナチュラルキラー細胞と呼ばれています。ナチュラルキラー細胞は外来細胞に付着し、酵素などの物質を放出して外来細胞の外側の膜を破壊し、ある種の微生物、癌細胞、ウイルス感染細胞などを殺傷します。このように、ナチュラルキラー細胞はウイルス感染への最初の防御において特に重要です。

また、ナチュラルキラー細胞はT細胞、B細胞、マクロファージなどの働きをコントロールするサイトカインをつくります。

 

樹状細胞

樹状細胞は、皮膚やリンパ節、体中の組織に存在しています。多くの樹状細胞は抗原を取り込んで断片に分割し(抗原処理)、ヘルパーT細胞が抗原を認識できるようにします。樹状細胞は、リンパ節においてT細胞に抗原断片を提示します。

濾胞樹状細胞と呼ばれる別のタイプの樹状細胞は、抗体と結合した抗原(抗原抗体複合体)をそのまま処理することなくB細胞に提示します。

T細胞とB細胞は、抗原を提示されると活性化します。

 

補体系

補体系は、連鎖反応をする30以上のタンパク質から成り立っていて、1つのタンパク質が次々と他のタンパク質を活性化させていきます。この一連の作用は、補体カスケードと呼ばれます。

補体タンパクは先天性免疫だけでなく獲得免疫においても多くの役割を担っています。

細菌を直接殺傷します。

細菌に付着することで、好中球やマクロファージが細菌の存在を認識、捕食しやすくし、細菌の殺傷を助けます

マクロファージや好中球を問題のある部位に引き寄せます。

細菌を凝集させます。

ウイルスを無害化します。

免疫細胞が過去に侵入した特定の異物を思い出すのを助けます。

抗体の産生を促進します。

抗体の効果を高めます。

免疫複合体(抗体が異物[抗原]と結合したもの)や死んだ細胞が体から除去されるのを助けます。

 

サイトカイン

サイトカインは免疫システムの情報伝達物質です。体内で抗原が見つかると、免疫システムを構成する白血球や特定の細胞がサイトカインをつくります。

サイトカインには多くの種類があり、それぞれ免疫システムのさまざまな働きに影響を及ぼします。あるものは免疫システムの活性化を促します。たとえば特定の白血球がサイトカインで刺激されると、その殺傷力が高まったり、より活発に他の白血球を問題部位に引き寄せたりします。また、あるものは活性を抑えて免疫反応を終結させます。サイトカインのうちインターフェロンと呼ばれるものは、ウイルスの増殖(複製)を抑えます。サイトカインは特異免疫にも関与します。

 

 

獲得免疫

 

獲得免疫(特異免疫)は、生まれたときには備わっておらず、後天的に獲得されるものです。獲得免疫のシステムは異物(抗原)に遭遇するたびに、それぞれの抗原ごとに最良の攻撃方

法を学習し、抗原を記憶します。獲得免疫が特異免疫とも呼ばれているのは、過去に遭遇した抗原に対し、それぞれに応じた(特異的な)攻撃をするからです。その優れたところは、学習し、適応し、記憶する能力にあります。体が新しい抗原に接しても、獲得免疫ができるまでには時間がかかります。しかし、こうしてできた特異免疫は記憶されるので、同じ抗原に対するその後の反応は、自然免疫に比べて素早く行われ、効果も高まります。

白血球の中で獲得免疫に特に関与するのは、リンパ球です。獲得免疫反応は通常、B細胞(Bリンパ球)によってつくられた抗体が抗原に遭遇することで始まります。樹状細胞、サイトカイン、抗体の有効性を高める補体系なども関与します。

 

リンパ球

免疫システムは、リンパ球の働きによって抗原を記憶し、異物(非自己)と自己とを区別します。リンパ球は必要に応じて血流、リンパ系、各種組織を巡ります。

 

免疫システムは過去に遭遇したあらゆる抗原を記憶できます。これは抗原と接触した後にメモリー細胞となるリンパ球があるからで、このような細胞はその後何年も、場合によっては何十年も生きつづけます。メモリー細胞になった細胞が過去に遭遇した抗原に再び遭遇すると、その抗原を直ちに認識し、素早く、活発に、また特異的に反応します。この特異免疫反応があるために水ぼうそう(水痘)やはしか(麻疹)は、一度かかると二度とかかりません。また病気によっては予防接種で発病を予防できます。

 

こういったリンパ球にはT細胞、B細胞が含まれます。

 

T細胞:

T細胞は胸腺でつくられ、そこで自己と異物との区別の仕方を学習します。そして自己抗原分子を無視できるT細胞だけが、成熟し胸腺を離れることができます。このトレーニングの過程を通過しないと、T細胞は自己の細胞や組織を攻撃してしまいます。

成熟T細胞は、脾臓(ひぞう)、リンパ節、扁桃、虫垂、小腸内のパイエル板などの二次リンパ器官に保存され、血流やリンパ系を循環しています。そして外来細胞や異常細胞に遭遇すると活性化されて、それ以降は同じ種類の外来細胞や異常細胞が他にないかを探し始めます。

T細胞には以下のように、いくつかの異なるタイプがあります。

キラー(細胞傷害性)T細胞は、過去に遭遇した特定の外来細胞や異常細胞(感染した細胞など)と結合します。こういった外来細胞の細胞膜に穴を開けて内部に酵素を注入したり、細胞の表面にある細胞死受容体と呼ばれる部分に結合したりして細胞を殺傷します。この結合が引き金となって、外来細胞や異常細胞を細胞死に導く反応が引き起こされます。

 

ヘルパーT細胞は、他の免疫細胞を助けます。たとえば、B細胞が異物の抗原に対する抗体を産生するのを助けます。また、キラーT細胞を活性化させて外来細胞や異常細胞を殺傷するのを助けたり、マクロファージが異物の細胞をより効率よく捕食するのを助けます。

サプレッサー(制御性)T細胞は、免疫反応を終結させる特殊な物質をつくり出したり、時には体に有害な反応が起こるのを防いだりします。

理由は完全には分かっていませんが、T細胞が、自己と非自己を区別しなくなることがあります。この機能不全は自己免疫疾患となり、体が自分自身の組織を攻撃してしまいます。

 

B細胞:

B細胞は骨髄で形成されます。B細胞は表面に受容体と呼ばれる特別な部位をもち、そこで抗原と結合します。

 

B細胞の抗原への反応には次の2段階があります。

 

一次免疫反応:

B細胞が抗原と遭遇すると、抗原は受容体と結合しB細胞を刺激します。その後メモリー細胞となってそれぞれの抗原を記憶するものと、形質細胞となるB細胞があります。このプロセスではヘルパーT細胞がB細胞を助けます。形質細胞は抗原に刺激されると、それぞれの抗原に特異的な抗体を産生します。最初に抗原と遭遇してから、それぞれの抗原に特異的な抗体が十分つくられるまでには数日かかります。このように、一次免疫反応はゆっくりと起こります。

 

二次免疫反応:

しかし、それ以後は、B細胞がいつ同じ抗原に遭遇しても、記憶B細胞が非常に素早く抗原を認識し、増殖して形質細胞に変化し、抗体をつくります。この反応は急速に起こり、非常に効率的です。

 

抗体

B細胞が抗原に遭遇すると刺激を受けて成熟し、形質細胞あるいはメモリーB細胞になります。そして形質細胞は抗体を放出します(抗体は、免疫グロブリンあるいはIgとも呼ばれます)。

抗体は、以下の方法で体を守ります。

細胞が抗原を取り込むのを助けます(抗原を取り込む細胞は食細胞と呼ばれます)。

細菌によってつくられた有毒物質を不活性化します。

細菌やウイルスを直接攻撃します。

多くの免疫機能をもっている補体系を活性化させます。

ある種の細菌感染、真菌感染では、抗体はその撃退に不可欠な役割を担います。また、ウイルスの撃退にも役立ちます。

 

抗体の構造

 

 

抗体分子はY字形の構造をしており、2つの部分から成り立っています。

 

可変領域:

抗体ごとに異なっている部分で、この部分によってその抗体が標的とする抗原が決まります。抗原はこの可変領域に結合します。

 

定常領域:

変わらない部分で、5種類の構造体のいずれかで構成されています。この非可変部分により、その抗体がIgM、IgG、IgA、IgE、IgDのいずれの種類に属するかが決まります。つまり非可

変部分は、抗体の種類が同じであればみな同じです。

 

抗体分子は2つの部分から成り立っています。一方の部分は抗体ごとに違い、それぞれ特定の抗原にだけ結合します。もう一方の部分には5つの種類があり、それらの構造体の違いによって、抗体の種類はIgM、IgG、IgA、IgE、IgDのいずれかになります。つまり非可変部分は抗体ごとに種類が同じで、それにより抗体の役割が決まります。

 

IgM:

この抗体は、抗原に初めて出会ったときにつくられます。抗原との最初の出会いで起こる反応は一次免疫反応と呼ばれます。IgMは抗原に結合し、補体系を活性化させたり、抗原が捕食されやすいようにします。

通常、IgMは組織中ではなく血流中に存在します。

 

IgG:

IgGは最もたくさんつくられている抗体で、過去に出会った抗原に再び遭遇すると、さらに多くつくられます。この反応は二次免疫反応と呼ばれ、一次免疫反応時に比べ、多くの抗体がつくられます。またこの反応は一次免疫反応より速く、より効果のある抗体(主にIgG)がつくられます。IgGは、細菌、ウイルス、真菌、有毒な物質から体を守ります。

IgGは組織中および血流中にあります。IgGは母体から胎盤を通じて胎児に移行する唯一の抗体です。新生児の免疫システムが自分で抗体をつくり出す時期まで、母体のIgGが胎児や新生児を保護します。またIgGは、最も病気の治療で使われることの多い抗体です。

 

IgA:

この抗体は、鼻、眼、肺、消化管などの粘膜で覆われた体表面から微生物が侵入するのを防ぐ働きをします。IgAは血流や粘膜でつくられた分泌物、初乳(出産後数日間、母乳が出るまでに乳房でつくられる液体)に含まれます。

 

IgE:

IgE抗体は、急激なアレルギー反応の引き金となります。IgEは、血流中にある白血球の一種である好塩基球や組織の肥満細胞と結合します。IgEと結合した好塩基球や肥満細胞がアレルギー反応を引き起こす抗原(アレルゲン)に出会うと、ヒスタミンなどの物質を放出し、それにより炎症が引き起こされたり周辺組織が損傷したりします。このようにIgEだけは、しばしば体に良い作用というよりは悪い作用をもたらす抗体のように思われます。しかし、IgEは開発途上国でよくみられる寄生虫感染症から体を守るのに役立ちます。

少量のIgE抗体が血流中、消化器系の粘液中に存在しますが、その量は、喘息、花粉症、その他のアレルギー疾患、寄生虫感染症の患者では多くなります。

 

IgD:

IgDは主に未成熟なB細胞の表面に存在し、B細胞の成熟を助けています。また血流中にも少量存在しています。血流中でのその機能は、あるとしてもよくわかっていません。

 

 

撃退の戦略

侵入してくる微生物が異なれば、それを攻撃し破壊する方法も異なります。微生物によっては、好中球やマクロファージといった異物を捕食する細胞(食細胞)に直接認識、捕食、破壊されるものもあります。しかし、食細胞は、特殊な外膜に包まれている特定の細菌を直接認識することができません。このような場合に食細胞が細菌を認識するには、B細胞の助けを必要とします。B細胞は、細菌の外膜に含まれる抗原に対する抗体をつくります。この抗体が細菌の外膜に結合すると、食細胞が細菌を認識できるようになります。

中には完全には排除できない微生物もあります。こうした微生物に対する防御策として、免疫システムはその微生物の周りに壁を構築します。この壁は、食細胞、特にマクロファージが互いにくっつき合って形成されます。このように微生物を囲む壁は肉芽腫と呼ばれます。ある種の細菌はこうして閉じこめられた形で体内に長期間生存します。そして免疫システムが弱まると(50~60年も後になることもあります)、肉芽腫の壁が崩れて細菌が増殖を始め、症状が現れてくることがあります。

 

 

自己免疫疾患

 

自己免疫疾患とは免疫システムが正常に機能しなくなり、体が自分の組織を攻撃してしまう病気です。

自己免疫疾患はさまざまな原因で起こります。

症状は、自己免疫疾患の種類と体の中で攻撃を受ける部位によって異なります。

診断を確定するには血液検査をいくつか実施する必要があります。

免疫システムを抑制する薬剤で治療します。

免疫システムは何らかの物質を異物または危険な物質であると認識すると、その物質から体を守ろうとします。このような物質には微生物、サナダムシなどの寄生虫、癌細胞がありますが、このほかに移植された臓器と組織を異物と認識してしまうこともあります。免疫反応を引き起こす物質は抗原と呼ばれます。抗原は細菌、ウイルス、癌細胞などの細胞の中や、表面に存在する分子です。花粉や食物の分子などは、それ自体が抗原となります。

 

抗原は人間の組織の細胞にも存在します。通常であれば免疫システムは異物や危険な物質に対してだけ反応し、自己の組織の抗原には反応しません。しかし免疫システムが正常に機能しなくなると、自己の組織を異物と認識して、自己抗体と呼ばれる抗体や免疫細胞を産生して特定の細胞や組織を標的にして攻撃します。この反応を自己免疫反応と呼び、炎症と組織の損傷を引き起こします。こうした反応は自己免疫疾患の症状である場合がありますが、作られる自己抗体の量がごく少量であれば自己免疫疾患は起こりません。

 

特に多くみられる自己免疫疾患に関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(ループス)、そして血管炎があります。このほか、自己免疫反応によるものと考えられている疾患には糸球体腎炎、アジソン病、混合性結合組織病、多発性筋炎、シェーグレン症候群、全身性進行性硬化症、そして一部の不妊症があります。

 

主な自己免疫疾患

疾患名

主に損傷を受ける組織

症状と経過

自己免疫性溶血性貧血

赤血球

赤血球が減少して貧血が起こり、疲労感、脱力感、立ちくらみが現れる。

脾臓が肥大する。

貧血は重く、そのために死亡することさえある。

水疱性類天疱瘡

皮膚

皮膚に大きな水泡ができる。水泡の周辺は赤くなって腫れる。たいていはかゆみを伴う。

治療すれば予後(経過の見通し)は良好。

グッドパスチャー症候群

肺および腎臓

息切れ、喀血(肺や気管支から出血して血を吐くこと)、疲労感、腫れ、かゆみなどの症状が現れる。

肺や腎臓が深刻な損傷を受ける前に治療を開始すれば予後は良好。

グレーヴス病

甲状腺

甲状腺が刺激に反応して大きくなり、その結果、甲状腺ホルモンが増加する(甲状腺機能亢進症)。

心拍が速くなったり、暑さに弱くなったり、体のふるえ、体重減少、神経過敏などの症状が起きることがある。

治療すれば予後は良好。

橋本甲状腺炎

甲状腺

甲状腺に起きた炎症と損傷の結果、甲状腺ホルモンが減少する(甲状腺機能低下症)。

体重の増加、皮膚の荒れ、寒さに弱くなる、眠気、などの症状が起きることがある。

生涯にわたって甲状腺ホルモンによる治療が必要となるが、治療により症状は通常消失する。

多発性硬化症

脳および脊髄

神経細胞を覆う膜が損傷し、神経細胞が神経信号を正常に伝達できなくなる。

脱力感、知覚異常、めまい、視力障害、筋肉のけいれん、失禁などの症状が起きることがある。病気の経過とともに症状が現れたり消えたりすることがある。

予後は患者ごとに異なる。

重症筋無力症

神経と筋肉の接合部(神経筋接合部)

筋肉、特に目の筋肉が弱り、疲れやすくなるが、症状の程度は患者により異なる。病気の進行の仕方も個人差が大きい。

たいていは薬剤で症状を緩和できる。

天疱瘡

皮膚

皮膚に大きな水泡ができる。

生命にかかわる場合がある。

悪性貧血

胃の粘膜にある、ある種の細胞

血液細胞の成熟と、神経細胞の維持にはビタミンB12が必要だが、悪性貧血では胃粘膜の細胞が損傷を受けるため、ビタミンB12を吸収しにくくなる。その結果、貧血が生じ、疲労感、脱力感、立ちくらみがよく起こる。また、神経が損傷を受けるため、脱力感と感覚消失が起きる。

治療しなければ脊髄が損傷し、いずれは感覚消失、脱力感、失禁を招く。

胃癌のリスクも増加する。しかし、治療を受ければ予後は良好。

関節リウマチ

関節、肺、神経、皮膚、心臓などの組織

さまざまな症状が起きる可能性がある。発熱、疲労感、関節痛、関節のこわばり、関節の変形、息切れ、感覚消失、脱力感、発疹、胸痛、皮膚の下の腫れなどが起こることがある。

予後は患者ごとに異なる。

全身性エリテマトーデス(ループス)

関節、腎臓、皮膚、肺、心臓、脳、血液細胞

関節に炎症が起きるが、変形は伴わない。

疲労感、脱力感、立ちくらみなどの貧血の症状、および、疲労感、息切れ、かゆみ、胸痛などの腎臓、肺、心臓疾患による症状が起きることがある。

発疹が現れることもある。

予後はさまざまだが、大半の患者はときおり症状が悪化するものの、活動的な生活を送ることができる。

1型糖尿病

膵臓のベータ細胞(インスリンを産生している)

激しいのどの渇き、過剰な尿量や食欲といった症状があり、さまざまな合併症が長期にわたって続く。

膵臓の細胞の破壊が止まったとしても、すでに十分な量のインスリンを産生できなくなってしまっているためインスリン治療を生涯続ける必要がある。

予後はざまざまであり、重症で、病気になってからの期間が長くなると悪化する傾向がある

血管炎

血管

血管炎は神経、頭、皮膚、腎臓、肺、腸など体の一部または数箇所の血管を損傷させる。いくつかの型がある。症状(発疹、腹痛、体重減少、呼吸困難、せき。胸痛、頭痛、視力低下、そして神経障害や腎不全など)は、体のどの部位に損傷を受けたかによる。

予後は病気の原因と、組織がどの程度損傷を受けたかによる。通常は、治療すれば予後はかなりよい。

 

原因

自己免疫疾患はいろいろなものが引き金になって起こります。

正常な状態では体内の特定の領域にとどまり免疫システムの標的にならない物質が、血流の中に放出される。たとえば、目をぶつけると眼球の中の液体が血流に流れ出します。この液体の刺激によって免疫システムが目を異物と認識し、攻撃します。

体内の正常な物質がウイルス、薬剤、日光、放射線などの影響で変化した場合。変化した物質を免疫システムが異物と認識することがあります。たとえばウイルスが感染すると体の細胞が変化します。この細胞が免疫システムを刺激し、攻撃を受けます。

体にもともと存在する物質によく似た異物が体外から入ってきた場合。免疫システムが異物を攻撃する際に気づかずに、よく似た体内物質も標的にしてしまいます。たとえば、A群レンサ球菌咽頭炎を起こす細菌は人間の心臓細胞に存在する物質と似た抗原を持っています。そのため、まれですが、咽頭炎が治った後で免疫システムが心臓を攻撃することがあります。これはリウマチ熱で起こる反応の一つです。

抗体の産生を調節する細胞、たとえば白血球の一種であるBリンパ球が正常に機能しなくなり、体の細胞を攻撃する異常な抗体を産生する場合。

自己免疫疾患には遺伝性のものがあり、病気そのものではなく、自己免疫疾患の起きやすさが遺伝することもあります。このように、もともと自己免疫疾患になりやすい人はウイルス感染や組織の損傷などが引き金になって発症します。多くの自己免疫疾患は、ホルモンが関係している可能性があるため、女性により多くみられます。

 

症状と診断

自己免疫疾患により発熱することがあります。しかし、症状は疾患の種類と、障害を受けた部位により変わります。たとえば血管、軟骨、皮膚などの特定の組織が全身で侵される疾患もあれば、決まった臓器だけが侵される疾患もあります。腎臓、肺、心臓、脳を含め、ほとんどすべての臓器が損傷を受ける可能性があります。発症すると炎症と組織の損傷が起こり、痛み、関節の変形、脱力感、黄疸、かゆみ、呼吸困難、体液貯留(浮腫)、せん妄が現れて、死亡することすらあります。

血液検査で炎症が起きていることがわかれば、自己免疫疾患の診断に役立つことがあります。たとえば炎症があると、それに反応してつくられるタンパク質が、赤血球の血液中で浮遊する能力を抑制してしまうので赤血球は血液の中で沈みやすくなり、赤血球沈降速度(ESR)が高くなります。炎症が起きると赤血球の産生が減るので、たいていは赤血球の数が減少して貧血になります。

 

しかし、炎症はさまざまな原因で起こり、炎症の大部分は自己免疫疾患とは関係ありません。そのため医師は血液検査を行い、特定の自己免疫疾患の患者に現れる、さまざまな抗体の有無を調べます。このような抗体には、全身性エリテマトーデスで一般的に出現する抗核抗体や、関節リウマチで一般的に出現するリウマチ因子や抗環状シトルリン化ペプチド抗体(抗CCP抗体)があります。しかし、これらの抗体も、自己免疫疾患にかかっていない人でも検出されることがあるため、医師は通常、自己免疫疾患の診断は、検査結果と患者の徴候と症状を組み合わせて行います。

 

治療

治療では免疫システムを抑制して自己免疫反応を抑制します。しかし自己免疫反応の制御に使う薬剤の多くは、体が、病気、特に感染症と闘う能力も低下させてしまいます。

アザチオプリン、クロラムブシル、シクロホスファミド、シクロスポリン、ミコフェノール酸、メトトレキサートなどの免疫システムを抑制する薬剤(免疫抑制薬)を長期間にわたって内服します。。しかし、これらの薬剤は自己免疫反応を抑えるだけでなく、感染症の原因となる微生物や癌細胞を含む異物から自分の体を守る能力も抑制してしまうため、結果としてある種の感染症や癌を発症するリスクを高めます。

 

通常は、プレドニゾロンなどのコルチコステロイド薬を内服します。コルチコステロイド薬は炎症を鎮めますが、免疫システムも抑制するため、長期にわたって用いるとさまざまな副作用が起こります。したがって、コルチコステロイド薬は疾患の初期、または症状が悪化したときに、できれば短期間だけ使うようにします。ただし、場合によっては一生使い続けなければなりません。

多発性硬化症、甲状腺疾患など、ある種の自己免疫疾患の治療には免疫抑制薬とコルチコステロイド薬以外の薬剤も使います。また、症状を和らげるための治療が必要になることもあります。

エタネルセプト、インフリキシマブ、アダリムマブは体内で炎症を起こす腫瘍壊死因子(TNF)の作用を妨げる薬剤です。これらの薬剤は関節リウマチの治療には非常に有効ですが、多発性硬化症などの自己免疫疾患に対しては逆に有害なことがあります。また、感染症と、ある種の癌が発症するリスクを高めます。

新しい薬剤の中には特に白血球を標的とするものがあります。白血球には体を感染症から守る働きがあると共に、自己免疫反応にも関与しています。アバタセプトは白血球の1種であるT細胞の作用を妨げる薬剤で関節リウマチの治療に使われます。また、リツキシマブは白血球の仲間であるBリンパ球を減少させるので、当初は、ある種の白血球の悪性腫瘍を治療するのに使われていました。このリツキシマブは関節リウマチに有効で、ほかのさまざまな自己免疫疾患に対する効果についても現在研究が行われています。この2つ以外にも白血球を標的とする薬剤の開発が進んでいます。

 

一部の自己免疫疾患の治療には血漿交換法を用います。まず血液を採取し、ろ過を行い、異常な抗体を取り除きます。その後、ろ過した血液を患者の体内に戻します。

自己免疫疾患の中には特定できない原因で発症して、原因無く治癒するものもあります。しかし、ほとんどは慢性の病気で、たいていは生涯にわたって薬剤で症状をコントロールする必要があります。予後は病気ごとに異なります。

 

 

 

結合組織の自己免疫疾患

自己免疫疾患とは、体内で作られた抗体や細胞によって自身の組織が攻撃される病気です。多くの自己免疫疾患では、さまざまな器官の結合組織が攻撃されます。結合組織とは、関節、腱、靭帯(じんたい)、血管などの構造を補強している組織です。

自己免疫疾患では、関節の内部や周辺ばかりでなく、腎臓や消化管などの重要器官の組織においても炎症や免疫反応が起こる結果、結合組織の損傷が起きることがあります。心臓を取り囲んでいる膜(心膜)や肺を覆っている膜(胸膜)、さらには脳までもおかされる可能性があります。発生する症状の種類と重症度は、おかされた器官によって異なってきます。

結合組織の自己免疫疾患は、特有の症状のパターン、身体診察での所見および臨床検査の結果に基づいて診断されます。ときには、ある病気の症状と別の病気の症状が重複して、医師が鑑別できない場合もあります。このような場合には、未分化結合組織病や重複疾患とも呼ばれます。

 

 

静脈系と同様にリンパ系も全身の体液を運んでいます。リンパ系は薄い壁のリンパ管、リンパ節、2本の集合管から成り立っています。リンパ管は体全体に分布し、毛細血管よりは太いものの、ほとんどは最も細い静脈よりも細い管です。ほとんどのリンパ管には静脈にみられるような弁が備わっており、凝固作用のあるリンパ液を一方向(心臓に向かう方向)に流れるようにしています。リンパ管は毛細血管の非常に薄い壁からしみ出た液体を全身の組織から取り除きます。この液体にはタンパク質、ミネラル、栄養素などの物質が含まれており、組織に栄養を供給します。この液体はほとんどが毛細血管に再吸収されます。再吸収されずに残った液体は、リンパ液として細胞を囲む隙間からリンパ管に入り、最終的には静脈に戻ります。リンパ管は組織液に混ざっている傷ついた細胞、癌細胞、細菌やウイルスなどの異物も集めて運搬します。

すべてのリンパ液は要所要所に配置されたリンパ節を通過し、ここでリンパ液から傷ついた細胞、癌細胞、異物をこし取ります。リンパ節は、これらの細胞や感染性微生物、異物などを飲みこんで破壊する特殊な血球も産生します。このように、リンパ系は傷ついた細胞を体から排除し、感染症や癌が広がるのを防ぐという重要な機能を果たしています。

リンパ液はリンパ管から集合管に流れ込み、さらに鎖骨の下にある2本の鎖骨下静脈に入ります。2本の鎖骨下静脈は合流して上大静脈となり、上半身の血液を心臓へ送ります。

リンパ液の量が過剰になったり、リンパ管やリンパ節が損傷を受けたり手術で切除されたりした場合、もしくは腫瘍によって閉塞したり、炎症が起きた場合、リンパ系は十分に機能できなくなります。

 

 


免疫不全疾患

免疫不全疾患では、免疫システムが正常に働かないことにより、通常に比べて感染症が頻繁に発症したり、再燃したり、重症化したり、遷延したりします。

免疫不全疾患は通常、薬剤の使用や、癌などの長期間に及ぶ重篤な病気が原因で発症しますが、遺伝性の場合もあります。

この病気になると感染症を繰り返すだけでなく、普通の人がかからないような感染症が起きたり、普通では考えられないほど症状が重くなったりします。

症状から免疫不全疾患を疑い、血液検査をして病気を特定します。

感染症を予防し、治療するために抗生物質を使用します。

抗体(免疫グロブリン)が不足している場合は免疫グロブリンを補います。

症状が重い患者には幹細胞移植を実施することもあります。

免疫システムは細菌、ウイルス、真菌などの外敵の侵入や、癌細胞などの異常細胞による攻撃から体を守っていますが、免疫不全疾患にかかると、この免疫システムの防衛能力が損なわれます。その結果、免疫機能が正常であればかからないような細菌、ウイルス、真菌による感染症や、珍しい癌を発症します。

 

免疫不全疾患には以下の2種類があります。

 

先天性(原発性)免疫不全疾患:

生まれた時から免疫機能が損なわれています。通常は遺伝性で、幼児期または小児期に明らかになります。200種類を超える病気がありますが、いずれも比較的まれです。

 

後天性(二次性)免疫不全疾患:

生まれた後に発症する免疫不全で、たいていは薬剤を使用したり、糖尿病、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症などの病気にかかったりしたことが原因となります。こちらの方が、先天性免疫不全疾患より多くみられます。

免疫不全疾患には寿命を短くするものもありますが、一生完治はしないものの、寿命には影響しないものもあります。また、治療により、または治療しなくても治ることもあります。

 

原因

 

先天性免疫不全疾患:

遺伝的な異常によって起こり、この異常はたいていX染色体と連鎖しています。この場合、男児だけが発症することになります。その結果、先天性免疫不全疾患患者全体の約60%を男性が占めています。

先天性免疫不全疾患は、免疫システムのどの部分が損なわれるかによって分類できます。

B細胞(Bリンパ球)、抗体(免疫グロブリン)を産生する白血球の一種

T細胞(Tリンパ球)、異物や異常な細胞を特定し、破壊する作用がある白血球の一種

B細胞とT細胞

食細胞(微生物を取り込んで殺す細胞)

補体タンパク質

 

免疫不全疾患では、免疫システムの構成要素が、欠落したり、数が減ったり、異常になったり、機能しなくなったりします。先天性免疫不全疾患の中で一番多いのはB細胞に問題が起きるもので、全体の半数を超える病気がこのタイプです。

 

 

先天性免疫不全疾患

 

分類

病気

B細胞(Bリンパ球)と、それによる抗体産生の問題

分類不能型免疫不全症

特定の抗体(免疫グロブリン)がない、IgA欠損症など

乳児一過性低ガンマグロブリン血症

X連鎖無ガンマグロブリン血症

T細胞(Tリンパ球)の問題

慢性皮膚粘膜カンジダ症

ディ・ジョージ症候群

X連鎖リンパ球増殖性症候群

B細胞とT細胞の問題

毛細血管拡張性運動失調症

高免疫グロブリンE症候群

重症複合型免疫不全症

ヴィスコット‐オールドリッチ症候群

食細胞の移動や殺傷能力の問題

チェディアック・東症候群(珍しい)

慢性肉芽腫症

白血球接着不全症

補体タンパク質の問題

補体第1成分阻害因子欠損症(遺伝性血管性浮腫)

補体第3成分欠損症

補体第6成分欠損症

補体第7成分欠損症

補体第8成分欠損症

 

 

後天性免疫不全疾患:

後天性免疫不全疾患の原因として一番多いのは、重い病気を治療するために使った免疫抑制薬などの薬剤です。免疫抑制薬は、移植した臓器や組織に対する拒絶反応を抑えるなど、免疫システムの働きを意図的に抑えるために使います。免疫抑制薬の一種であるコルチコステロイド薬は、関節リウマチなどの、さまざまな病気による炎症を鎮めるために使います。しかし、免疫抑制薬は、体が感染症と闘う力や、おそらくは癌細胞を破壊する力も抑制してしまいます。このほかに、化学療法や放射線療法も免疫システムを抑制し、免疫不全疾患を引き起こすことがあります。

 

 

免疫不全症を起こす薬剤

種類

抗けいれん薬

カルバマゼピン

フェニトイン

バルプロ酸

免疫抑制薬

アザチオプリン

シクロスポリン

ミコフェノール酸モフェチル

シロリムス(sirolimus)

タクロリムス

コルチコステロイド薬

メチルプレドニゾロン

プレドニゾロン

化学療法薬

アレムツズマブ(alemtuzumab)

ブスルファン

シクロホスファミド

メルファラン

モノクローナル抗体(免疫システムの特定の部分を標的にして抑制する物質)

ムロモナブ(OKT3)

 

 

免疫不全症が起きる病気

 

種類

血液疾患

再生不良性貧血

白血病

骨髄線維症

鎌状赤血球症

脳腫瘍

腸の癌

肺癌

染色体異常

ダウン症候群

感染症

サイトメガロウイルス感染症

エプスタイン‐バーウイルス感染症

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症

はしか(麻疹)

水ぼうそう(水痘)

ホルモンの異常

糖尿病

腎臓病

血液中に毒物が蓄積(尿毒症)

ネフローゼ症候群

肝臓病

肝炎

筋骨格系の病気

関節リウマチ

全身性エリテマトーデス(ループス)

脾臓の問題

脾臓摘出

その他の異常

アルコール依存症

やけど

低栄養

 

長期間にわたる重い病気は、ほとんどのものが免疫不全疾患の原因になります。たとえば糖尿病で血糖値が高くなると白血球が正しく機能しないので免疫不全疾患が起こります。また、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染によって起こる後天性免疫不全症候群(エイズ)は、最も一般的な、重度の後天性免疫不全疾患です。

免疫システムは、栄養素がどれか1つでも不足すると十分には機能しなくなります。また、低栄養により、体重が理想体重の80%を下回ると、通常、免疫システムが正常に働かなくなり、70%未満になると深刻な機能不全が起こります。

 

症状

免疫不全疾患の患者は、次々と感染症にかかる傾向があります。通常は、まず呼吸器系の感染症が起こり、何度も再発します。ほとんどの患者は最終的に、治りにくく、もしくは再発を繰り返す、合併症を伴うような重い細菌感染症にかかります。たとえば、のどの痛みや鼻かぜが進行して肺炎が起きることがあります。しかし、逆に、かぜをひきやすいからといって免疫不全疾患の疑いがあるというわけではありません。

皮膚や、口、目、消化管の粘膜に感染症が起きることがよくあります。このうち、口の真菌感染症である鵞口瘡(がこうそう)が、免疫不全疾患の最初の徴候である場合があります。口の中には口内炎ができます。細菌やウイルスによる耳と皮膚の感染症もよくみられ、ブドウ球菌などの細菌感染により、皮膚表面が膿んでただれる膿皮(のうひ)症が起きることもあります。ウイルスにより、いぼができることもあります。

多くの患者は体重が減ります。

乳幼児では慢性の下痢が起き、健康な小児と比べて成長と発達が不十分なことがあります(成長障害と呼ばれる)。症状が現れるのが幼少期の早い時期であればあるほど、免疫不全症も重症となります。

 

その他の症状は、感染症の程度と感染期間の長さによりまちまちです。

 

診断

まず免疫不全症であることを疑い、次いで実際に検査をして、免疫システムのどこに異常があるのか特定します。

重症の感染症や、通常は起きないような感染症がたびたび発症するとき、または、本来なら重い感染症を起こさないような微生物(ニューモシスチス、サイトメガロウイルスなど)が重い感染症が起こしているとき、医師は免疫不全症を疑います。身体診察の結果から免疫不全症を疑うこともあります。発疹、脱毛、慢性のせき、体重減少、肝臓や脾臓の腫大がみられることがよくあります。免疫不全症の中には、リンパ節と扁桃が極端に小さくなったり、逆に、リンパ節が腫れたりするものがあります。このような特定の症状から、具体的な病名が推測できる場合があります。

医師は次に、免疫不全疾患の種類を見分けるために、何歳ごろから感染症を繰り返すようになったか、あるいは、普段かからないような感染症にかかりはじめたかを尋ねます。生後6カ月未満の乳児に感染症がみられる場合はT細胞の異常が、年長児に感染症がみられる場合はB細胞と抗体産生の異常が疑われます。感染症のタイプがわかれば、どのタイプの免疫不全疾患かを診断する手がかりになることがあります。

医師は糖尿病、特定の薬剤の使用、有毒物質との接触の有無などの危険因子の有無、そして、肉親に免疫不全疾患にかかっている人がいないかなど、家族歴を尋ねます。また、現在および過去の性行為や静注薬物の使用について尋ね、HIV感染症が原因になっている可能性はないかを判断します。

 

検査:

免疫不全症という診断を確定し、免疫不全疾患の種類を特定するには、臨床検査が必要です。患者から採血して白血球の総数と、各タイプの白血球の比率を測定するとともに、白血球の異常の有無を顕微鏡で調べます。また、抗体の量、赤血球と血小板の数、そして補体タンパク質の量も測定します。もし結果に少しでも異常がみられれば、通常はさらに検査を行います。

T細胞に異常があるために免疫不全症になっていると考えられる場合は、皮膚テストを行うことがあります。このテストは、結核を診断するためのツベルクリン検査に似ていますが、酵母菌などの、一般的な感染性微生物に含まれるタンパク質を少量、皮下に注射します。もし赤くなったり、発熱したり、腫れたりという反応が48時間以内に起きれば、T細胞は正常に機能しています。まったく反応がない場合は、T細胞の異常を示唆します。

家族に遺伝性免疫不全疾患の遺伝子があることがわかっている場合は、自分にもその遺伝子があるか、また、子供に影響が及ぶことがあるかを知るために、遺伝子検査を希望してもよいでしょう。遺伝子検査の前に遺伝カウンセリングを受けると参考になります。X連鎖無ガンマグロブリン血症、ヴィスコット‐オールドリッチ症候群、重症複合型免疫不全症、慢性肉芽腫症など、いくつかの免疫不全疾患については、胎児の周囲の水分(羊水)や胎児の血液を採取して調べる、出生前検査で診断できます。免疫不全疾患の患者がいる家系で、遺伝子変異が特定されている場合は、このような検査が推奨されることもあります。

 

予防と治療

免疫不全疾患を起こす病気でも、予防したり治療したりできるものがあります。

 

以下にいくつか例を挙げます。

 

HIV感染症:

安全な性行為のための指針に従うこと、および薬物を注射する際に針の使い回しをしないことで、HIV感染症の拡大を抑えられる。

癌:治療が成功すれば、免疫抑制薬を引き続き使わなければならない場合を除き、通常は免疫システムの機能も回復する。

 

糖尿病:

血糖値を上手くコントロールできれば、白血球の働きがよくなり、その結果、感染症を予防できる。

感染症を予防し、治療するための戦略は、免疫不全疾患の種類ごとに異なります。たとえば、抗体の欠乏によって免疫不全疾患を発症している人は、細菌に感染しやすくなります。以下の方法が細菌感染症のリスク低下に役立ちます。

定期的に免疫グロブリン(正常な免疫システムを持つ人の血液から得た抗体)の静脈内投与を受ける

患者本人が衛生管理を十分に行う(歯の手入れにも注意を払う)

十分に加熱したものだけを食べる

ボトルに入った市販の水だけを飲む

感染症のある人との接触を避ける

 

発熱などの、感染症を疑わせる徴候が出たらできるだけ早く抗生物質を使用します。手術や歯の治療は細菌が血液中に入りやすいので、この場合も事前に抗生物質を使います。

T細胞の異常による免疫不全症など、ウイルス感染のリスクを高める免疫不全疾患にかかっている場合は、感染の徴候がみられたらすぐに抗ウイルス薬を投与します。たとえば、インフルエンザに対してはアマンタジン、ヘルペスや水ぼうそうに対してはアシクロビルを使います。適切な治療ができるかどうかが生死を分けることもあります。

重症複合型免疫不全症など、重い感染症や特定の感染症の発症リスクが高い疾患にかかっている場合は、感染症にかかるのを予防する目的で、感染する前から抗生物質が投与される場合があります。

抗体産生に異常のない免疫不全疾患患者にはワクチン接種をします。ただし、B細胞やT細胞に異常のある人に生ワクチンを接種すると感染が起きるおそれがあるので、死んだウイルスか細菌でつくった不活化ワクチンを使います。生ワクチンにはロタウイルスワクチン、経口ポリオワクチン、麻疹・ムンプス・風疹3種混合(MMR)ワクチン、水痘ワクチン、BCGワクチンなどがあります。抗体を産生できる人とその近親者では、インフルエンザワクチンの接種を年に1回受けることが推奨されます。

 

重症複合型免疫不全症などの一部の免疫不全疾患は、幹細胞移植により治すことができます。幹細胞は、通常、骨髄から採取しますが、へその緒の血液(臍帯[さいたい]血)などの、血液から採取することもあります。幹細胞移植手術は大病院で受けることができますが、通常は重症の免疫不全疾患に対してのみ行われます。

胸腺組織の移植が有効な場合もあります。一部の先天性免疫不全疾患に対しては遺伝子治療が有効です。しかし、この治療によって白血病のリスクがあるため、あまり広くは実施されていません。

 

 

 

形質細胞の病気

 

形質細胞の病気(形質細胞悪液質)は、まれにしかみられません。この病気は、形質細胞の中の単一集団(クローン)が過剰に増殖して、単一の種類の抗体(免疫グロブリン)を大量に産生することから始まります。形質細胞は、白血球の1つであるBリンパ球から成長した細胞で、通常は感染に対する防御を助ける抗体を産生しています。形質細胞が主にみられる場所は、骨髄とリンパ節です。それぞれの形質細胞は分裂を繰り返して、単一の種類の細胞集団からなる1つのクローンを形成します。1つのクローンの中の細胞がつくる抗体は1種類だけです。何千もの異なったクローンが存在するため、異なった抗体大量につくることができ、頻繁に侵入してくる感染微生物に対して防御することができます。

 

形質細胞疾患では、形質細胞の1つのクローンが制御を失って増殖します。その結果、このクローンは、Mタンパクとして知られている1種類の抗体(モノクローナル抗体)を大量につくることになります。正常な抗体では軽鎖(L鎖)と重鎖(H鎖)という2種類の鎖がそれぞれ対になっていますが、単クローン性免疫グロブリン血症などの場合には、抗体が不完全で、L鎖かH鎖のいずれか一方しかないことがあります。異常な形質細胞とそれが産生する抗体は1種類に限られるため、感染を防ぐ他の種類の抗体が少なくなります。そのため、形質細胞疾患になると、感染症にかかる危険性が高くなります。さらに、異常な形質細胞の数が増え続けると、さまざまな組織や臓器に侵入して損傷を与えるとともに、ときには、その形質細胞のクローンがつくる抗体が、特に腎臓や骨などの重要な臓器に障害を与えることもあります。

形質細胞疾患には、意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS)、多発性骨髄腫、マクログロブリン血症、H鎖病(重鎖病)などがあります。これらの病気は高齢者に比較的多くみられます。

 

 

 

 

移植

 

移植とは、生きて機能している細胞、組織、臓器を体から摘出して、同じ人間の別の部分、または別の人間の体に移し替えることをいいます。

一番よく行われている移植は輸血です。毎年、数百万人が治療として輸血を受けます。しかし、一般には移植と言うと臓器や組織の移植を指します。臓器の移植を固形臓器移植といいます。

 

臓器移植は輸血とは違って本格的な手術が必要で、免疫システムを抑制する薬剤(免疫抑制薬)を使用します。また、拒絶反応と深刻な合併症のリスクを伴い、死亡のおそれもあります。しかし、重要な臓器が機能しなくなった患者にとっては生き延びるための唯一の機会となります。

 

ドナー(臓器提供者)

組織や臓器を提供するドナー(臓器提供者)は、生きている人の場合もあれば死亡した直後の人の場合もあります。

 

生きているドナーの組織や臓器の方が健康であることが多いので、望ましいのはこちらです。生きているドナーが提供する組織で一番多いのは幹細胞(骨髄または血液に含まれています)

と腎臓です。腎臓は体に2つあり、1つでも十分機能するので片方を提供しても通常は問題ありません。また肝臓や肺の一部も提供できます。生きているドナーの臓器は普通は摘出後、数分以内に移植されます。

 

心臓など、いくつかの臓器は当然ながら生きているドナーから取ってしまうことはできません。死亡したドナーから臓器が提供されるのは、通常はドナーが事前に臓器提供に同意していた場合です。

 

免疫システムの抑制

輸血と違って臓器の移植では、たとえ組織型が十分適合していても、免疫システムを抑制しておかないと移植臓器に対する拒絶反応が起こります。拒絶反応が起きると移植臓器が破壊され、発熱、悪寒、吐き気、疲労感、そして急激な血圧の変動が出現します。拒絶反応が起こる場合、通常は移植直後から始まりますが、数週間後、数カ月後、ときには数年後に始まることさえあります。軽い拒絶反応で容易にコントロールできる場合もあれば、重篤な反応で治療しても悪化する場合もあります。

免疫抑制薬は、免疫システムを抑制し、体が異物を認識して破壊するのを抑える薬剤です。そのため、この薬剤を使えば、通常は拒絶反応をコントロールでき、移植臓器が機能し続ける可能性が高まります。免疫抑制薬は一生使い続けなければなりません。通常、高用量で使用する必要があるのは移植後数週間、または拒絶反応が起きている間だけです。その後はたいていの場合低用量で拒絶反応を防ぐことができます(維持免疫抑制薬)。レシピエントに重い感染症や免疫抑制薬の副作用が起きた時には免疫抑制薬の量をさらに減らさなければならなくなることがありますが、そうすると拒絶反応のリスクが高まります。拒絶反応の徴候が現れたら免疫抑制薬の量を増やしたり、種類を変えたり、他の免疫抑制薬を追加したりします。

 

合併症:

免疫抑制薬は移植臓器に対する免疫システムの反応を抑制しますが、それと同時に免疫システムが感染症と闘ったり、癌細胞を破壊したりする能力も抑えてしまいます。そのためレシピエントは感染症や、ある種の癌を発症するリスクが高くなります。

手術後は、誰でもある種の感染症にかかりやすくなりますが、臓器移植手術を受けた患者も同じです。このような感染症には、手術部位や移植臓器への感染、肺炎や尿路感染症があります。また、主に免疫システムが弱っている人がかかる珍しい感染症(日和見感染症)にかかるおそれもあります。日和見感染症の原因微生物には細菌(リステリア菌、ノカルジア菌など)、ウイルス(CMV、EBVなど)、真菌(ニューモシスチス、アスペルギルスなど)、寄生虫(トキソプラズマなど)があります。

免疫抑制薬が原因で発生する癌には、ある種の皮膚癌、リンパ腫、子宮頸癌、カポジ肉腫があります。

 

 

 

造血幹細胞移植

 

造血幹細胞移植とは、白血病や再生不良性貧血などを治すため、造血幹細胞が含まれる血液を移植する治療法です。移植する血液がもともと患者さん自身のものなら「自家(じか)(または自己(じこ))造血幹細胞移植」、他人からもらう血液なら「同種(どうしゅ)造血幹細胞移植」といいます。血液をもらう相手のことを「ドナー」、血液をもらう人、つまり患者さんのことを「レシピエント」といいます。同種造血幹細胞移植でも、患者さんの一卵性双生児(いちらんせいそうせいじ)から血液をもらう場合は「同系(どうけい)造血幹細胞移植」と呼ばれます。造血幹細胞移植はさらに、造血幹細胞を含む血液の種類により、「骨髄移植(こつずいいしょく)」、「末梢血幹細胞移植(まっしょうけつかんさいぼういしょく)」、「さい(臍)帯血移植(たいけついしょく)」に分かれます。たとえば、他人の骨髄を移植すると「同種骨髄移植」になります。

造血幹細胞とは

造血幹細胞とは、赤血球(体内に酸素を運ぶ細胞)・白血球(微生物(びせいぶつ)からからだを守る細胞)・血小板(出血を止める細胞)のもとになる細胞のことです。造血幹細胞は、「骨髄」と呼ばれる骨の中心部分にあります。造血幹細胞は再生能力があり(たとえば、トカゲのしっぽを思い浮かべてください)、普通は一生無くなることはありません。肺炎を起こしたり、顆粒球(かりゅうきゅう)コロニー刺激因子(しげきいんし)(G-CSF)と呼ばれる薬の注射や抗がん剤治療を受けたあとなど、骨髄中の造血幹細胞が血管の中へ漏れ出し、赤血球や白血球、血小板と一緒に全身に流れてくることがあります。これは「末梢血幹細胞」と呼ばれています。また、さい帯血(赤ちゃんと母親を結ぶ「へその緒」と胎盤(たいばん)の血液)の中にも造血幹細胞が含まれています。

 

HLAとは

HLAは、自分の細胞と他人の細胞を見分ける「目印」です。HLAは、もともと「human leukocyte antigen = ヒト白血球(型)抗原」と呼ばれていました。しかし、その後の研究で、HLAは白血球だけでなく、赤血球を除く全ての細胞にあることがわかりました。そこで、human leukocyte antigenの略語ではなく、最近は「HLA」という固有名詞として扱われています。HLAには、A座(抗原)・B座・C座・DR座・DQ座・DP座などいくつかの種類があります。同種造血幹細胞移植を成功させるには、なるべく患者さんとHLAが一致したドナーから血液の提供を受ける必要があります。患者さんとドナーのHLAが一部違っても(これを「不一致」といいます)移植は可能ですが、生着不全(移植した血液細胞が患者さんのからだに受け入れられないこと)や重い移植片対宿主病(いしょくへんたいしゅくしゅびょう)(GVHD)(後述)など、望ましくない合併症が起こりやすくなります。

 

造血幹細胞移植の実際

  1. 造血幹細胞移植前 「移植前処置」

患者さんは、造血幹細胞移植の7-10日くらい前から抗がん剤治療や放射線治療を受けます。これは「移植前処置」(または「移植前治療」)と呼ばれています。移植前処置は、がんをやっつける以外に、移植する造血幹細胞が住み着きやすくなるように、患者さん自身がもともと持っている正常な血液細胞を減らしたり無くしたり、また弱めたりする目的があります。患者さんは、移植前処置を受けると、細菌やウイルス・かびといった微生物(びせいぶつ)に対する抵抗力(これを「免疫」といいます)も低下してしまいます。そこで、感染を防ぐために無菌室など移植専用の病室に入ったり、微生物をやっつける薬を使い始めるのが一般的です。

 

  1. 造血幹細胞移植 「造血幹細胞の輸血」

造血幹細胞移植は、輸血と同じように静脈注射で行われます。腎移植や肝移植などとちがい、造血幹細胞移植では、患者さんは移植が行われるのをリアルタイムにみることができます。

 

  1. 造血幹細胞移植後 「社会復帰への道のり」

移植された新しい造血幹細胞は、2-4週ぐらいで患者さんの骨髄に住み着きます。これを生着といいます。生着後白血球の数は徐々に増え、移植病室から一般病室に移るのが普通です。ただし、微生物(びせいぶつ)に対する抵抗力(免疫力)はしばらく戻りません。特にGVHDを合併し、免疫抑制療法を受けている間の免疫力は低いままです。サイトメガロウイルス感染症や帯状疱疹(たいじょうほうしん)、細菌(さいきん)感染症、真菌(しんきん)(かびのことです)感染症など、様々な感染症が起こりやすくなります。その都度治療を受けるか、予防策がとられます。せっかく病気がよくなっても、再発する可能性は残されます。通常は移植後1-4か月程度で退院しますが、その後も移植の副作用や合併症など、乗り越えていく山は少なくありません。担当医や看護師、薬剤師、ソシアルワーカー、心のケアの専門家などと相談しながら、徐々に社会復帰を目指します。社会復帰には、早くて移植後3-6か月、場合によっては数年かかることもあります。回復の速さは患者さんの状態や年齢、病気の種類により様々です。あせらずあわてず、じっくりとリハビリにつとめることが大切です。

 

造血幹細胞移植の特徴

  1. 自家造血幹細胞移植

以前は自家骨髄移植も行われていましたが、最近は自家末梢血幹細胞移植が中心です。自家さい帯血移植はほとんど行われません。患者さんはまず、がんや血液細胞を壊し尽くすために、移植前処置と呼ばれる抗がん剤治療や放射線治療を受けます。移植前処置でがんが無くなることはいいことですが、血液細胞も無くなってしまうと困ります。それに備えるため、あらかじめ患者さん自身の造血幹細胞を含む血液を凍結保存しておきます。移植前処置が終わったら、凍結保存していた患者さんの血液を解凍して輸血します。これが「自家造血幹細胞移植」です。輸血した造血幹細胞が生着すると、白血球や赤血球、血小板を再び作り始めます。同種造血幹細胞移植と異なり、患者さん自身の血液を移植するため、移植後の免疫抑制療法は不要です。ただし、造血幹細胞を凍結保存する際、血液の中に患者さんのがん細胞が混ざってしまい、それがもとで再発する恐れがあります。

 

同種造血幹細胞移植

同種造血幹細胞移植を安全に行うため、通常はなるべく患者さんとHLAが一致したドナーから血液の提供を受けます。患者さんと血液型が異なるドナーからの造血幹細胞移植は差し支えありませんが、赤血球の回復が遅れるなど、若干問題が起こる可能性はあります。患者さんに兄弟姉妹(= 同胞)が1人いると、患者さんとHLAが一致している確率は約25%です。2人いると約44%、3人いると約58%の確率で、患者さんとHLAが一致する同胞が少なくとも1人は見つかります。親子間でHLAが一致する確率は1%程度と考えられています。血がつながっている人(血縁者(けつえんしゃ))の中にドナーが見つからない場合、血がつながっていない人(非血縁者(ひけつえんしゃ))の中からドナーを探すことになります。血縁者をドナーとする造血幹細胞移植は「血縁者間同種造血幹細胞移植(けつえんしゃかんどうしゅぞうけつかんさいぼういしょく)」、非血縁ドナーからの移植は「非血縁者間同種造血幹細胞移植(ひけつえんしゃかんどうしゅぞうけつかんさいぼういしょく)」と呼ばれています。国内に適切なドナーがみつからない場合、海外のバンクから探すこともあります。2008年7月現在、国内で実施される非血縁者間同種造血幹細胞移植は、原則として骨髄移植かさい帯血移植にかぎられます。ただし、海外では、非血縁者ドナーからの末梢血幹細胞採取も行われています。患者さんとドナーのHLAが完全に一致していなくても、ある程度適合していれば、同種造血幹細胞移植の実施は可能です。ただし、生着不全や重いGVHDが起こりやすくなります。また、同じHLA一致ドナーからの移植でも、一般に、非血縁者より同胞からの移植の方が移植の成功率は高くなります。HLA一致同胞間造血幹細胞移植でも、一卵性双生児をドナーとする同系造血幹細胞移植では、GVHDが起こらないかわりに再発の可能性が高くなります。

 

  1. さい帯血移植

さい帯血移植の利点は、(1)ドナーに危険性や負担がない、(2)さい帯血があらかじめ凍結保存されているため、比較的速やかに移植が実施できる、(3)GVHDが少ない、(4)HLA不一致でも移植が可能といった点にあります。一方、造血幹細胞が少ないため生着不全が起こりやすく、その場合、同じドナーから血液を再び採取できないことが最大の欠点です。すなわち、ドナーリンパ球輸注(後述)は事実上不可能になります。また、造血幹細胞移植後白血球・赤血球・血小板の回復が遅いため、重い感染症が起こりやすく、入院が長くなり、また輸血量も多くなる傾向があります。

 

造血幹細胞移植法の比較

 

自家末梢血幹細胞移植

血縁者間同種末梢血幹細胞移植

血縁者間同種骨髄移植

非血縁者間同種骨髄移植

さい帯血移植

造血幹細胞量

普通

多い

普通

普通

少ない

生着

早い

早い

普通

普通

遅い

生着不全

少ない

少ない

少ない

少ない

多い

早期感染症

少ない

少ない

普通

普通

多い

がん細胞混入の危険性

あり

なし

なし

なし

なし

急性GVHD

なし

あり

あり

あり

少ない

慢性GVHD

なし

多い

あり

あり

少ない

再発率

高い

普通(または低い)

普通

普通

普通

 

 

造血幹細胞移植の副作用とその対策

造血幹細胞移植の主な副作用は、前処置による内臓の障害、感染症、移植片対宿主病(いしょくへんたいしゅくしゅびょう)(GVHD)です。特に移植直後は、抗がん剤や放射線治療などの影響で口の中や食道・胃・腸の粘膜(ねんまく)がいたみ、口の中のいたみや吐き気、下痢(げり)などのため、ほとんど食事がとれなくなることがあります。口の痛みをとるため、モルヒネなど強い痛み止めが必要になることもあります。また、肝臓が腫(は)れて痛み、黄(おう)だんがあらわれる「肝中心静脈閉塞症(かんちゅうしんじょうみゃくへいそくしょう)」といった病気が起こることもあります。そのほか、腎臓の調子が悪くなり全身がむくむ、心臓や肺の調子が悪くなるなど、軽いものから命に危険が及ぶ重いものまで、移植直後は様々な副作用が起こります。発熱や重い感染症がみられることもあり、抗生剤を含め様々な治療薬が用いられます。治療薬の副作用がみられることもあります。

もともと内臓に障害がある、高齢、感染症を有しているなどの理由で、通常の強い前処置が実施できない場合、前処置を弱めた移植(緩和的前処置同種造血幹細胞移植(かんわてきぜんしょちどうしゅぞうけつかんさいぼういしょく) = ミニ移植)を行うことがあります(表2)。緩和的前処置同種造血幹細胞移植では、抗がん剤や放射線治療に伴う副作用が普通より軽く済むという利点があります。一方、移植後もがん細胞がある程度残ってしまい、再発しやすくなる可能性があります。ただし、同種造血幹細胞移植では、ドナーのリンパ球が患者さんのがん細胞を「異物」として認識し、免疫力でがん細胞を退治してしまう効果が期待できます。これは「移植した血液による抗腫瘍(しゅよう)効果(GVM効果)」と呼ばれています。特に、「移植した血液による抗白血病効果」は「GVL効果」と呼ばれています。そのため、緩和的前処置を受けたからといって、再発しやすくなるとは一概(いちがい)に言えません。なお、GVM効果がみられやすいがんとみられにくいがんがあります。GVM効果が期待できるがんの代表は慢性骨髄性白血病(まんせいこつずいせいはっけつびょう)です。また、自家・同系造血幹細胞移植後にGVM効果は期待できませんので、緩和的前処置後の自家・同系移植は通常行われません。

造血幹細胞移植により精巣や卵巣が障害を受け、不妊になる恐れがあります。それに備えて、移植前に精子や卵子を凍結保存することができます。

 

従来の造血幹細胞移植と緩和的前処置造血幹細胞移植の比較

 

従来の同種造血幹細胞移植

緩和的前処置同種造血幹細胞移植

高齢患者や状態不良患者

難しい

可能

再発の危険性

普通

高い(病気によっては従来と同等)

 

 

GVHD

GVHDとはドナーのリンパ球が患者さんのおからだを攻撃する拒絶反応です。自家造血幹細胞移植や同系造血幹細胞移植では通常拒絶反応は起こりませんので、GVHDも起こりません。GVHDには、同種造血幹細胞移植が行われてから100日以内に起こりやすい急性GVHDと、100日を過ぎてから起こりやすい慢性GVHDがあります。ただし、移植から100日以降に急性GVHDがみられたり、逆に慢性GVHDが100日以内に起こることもあります。また、急性GVHDと慢性GVHDの症状が同時に起こることもあり、その場合は慢性GVHDに分類されます。

急性GVHDでは、発熱や、皮膚が赤くなる、黄(おう)だんが出る、下痢(げり)になるなどの症状を認めます。症状の起こり方や強さは、患者さんによって異なります。このような臨床症状や、場合によっては、患者さんのおからだの一部を採取(生検といいます)して調べるなどして診断されます。急性GVHDが起こる確率は、骨髄移植と末梢血幹細胞移植で大差ないようです。

慢性GVHDでは、皮膚が黒ずむ・かたくなる、口や眼がかわく、黄だんが出る、呼吸が苦しくなる、関節や筋肉がかたくなるといった症状を認めます。関節リウマチや強皮症といった、いわゆる「膠原病(こうげんびょう)」に似た症状を起こしやすいのが、慢性GVHDの特徴です。急性GVHDと同様、症状の起こり方や強さには個人差があり、臨床症状や生検などにより診断されます。

急性・慢性GVHDでは、臨床症状の強さや臨床検査値異常、進行の速さなどを目安に、治療が開始されます。症状が軽い場合は、特別な治療を追加しなくても、局所療法や、GVHD発症時に投与されていた免疫抑制薬(めんえきよくせいやく)の調整だけで改善することがあります。慢性GVHDは、骨髄移植より末梢血幹細胞移植の方が若干多いようです。

HLA型が一部異なった非血縁骨髄ドナーからの移植と重症急性GVHD

日本骨髄バンクを介してHLAが一部異なったドナーから移植を受ける場合、患者さんとドナーのHLAの組み合わせにより、重い急性GVHDが起こりやすくなるものとそうでないものがあります(川瀬・森島らが2007年雑誌Bloodに報告)。重い急性GVHDが起こりやすくなるHLAの組み合わせのことを「重症急性GVHDハイリスクなHLAの組み合わせ」といいます。

 

重症急性GVHDが起こりやすいHLAの組み合わせ

ドナーHLA

患者HLA

重症急性GVHDが起こりやすくなる危険性(倍)

A0206

A0201

1.78

A0206

A0207

3.45

A2602

A2601

3.35

A2603

A2601

2.17

B1501

B1507

3.34

 C0303

C1502

3.22

C0304

C0801

2.34

C0401

C0303

2.81

C0801

C0303

2.32

C1402

C0304

3.66

C1502

C0304

3.77

C1502

C1402

4.97

DR0405

DR0403

2.13

DR1403-DQ0301

DR1401-DQ0502

2.81

DP0301

DP0501

2.41

 DP0501

DP0901

2.03

 

造血幹細胞の採取

  1. 骨髄の採取

移植用の骨髄は、全身麻酔をかけた上で、腸骨(ちょうこつ)と呼ばれる腰の骨に針を繰り返し刺し注射器で吸い上げて採取します。骨髄採取量の目安は、患者さんの体重1 kgあたり15 mlです。ただし、ドナーの体格やヘモグロビン値により、これより少なくなることがあります。準備する自己血貯血量の目安は、予定の骨髄採取量から200-400 mlを引いた量(通常は200の倍数)です。骨髄採取を開始した後、骨髄細胞数が十分にとれていないと判断された場合は、準備した自己血量プラス400 mlを超えない範囲で、採取する骨髄量を増やすことがあります。たとえば、50 kgの患者さんに体重60 kgの健康なドナーから骨髄を採取する場合、予定の採取量は750 ml、準備する自己血量は400 ml、採取量の上限は800 mlになります。同種骨髄移植で用いる骨髄は、通常患者さんの移植と同じ日に採取します。ドナーには、採取前健康診断、自己血貯血、麻酔科受診(病院によっては不要です)、採取のための入院(通常4-5日程度)、採取後の健診が必要となります。骨髄採取は、全身麻酔で行われますので、麻酔に伴う事故や副作用の危険性があります。よくみられる副作用として、骨髄採取後腰の痛みが1-2週続くことがあります。また麻酔中に気管や尿道に管を挿入するため、採取後に喉や尿道が痛むことがあります。このような副作用は通常一時的なものです。ただし、非常に稀ですが、後遺障害や死亡も含め重篤な副作用も報告されています。骨髄採取に際しては、担当医から十分に説明を受け、納得した上でのぞむことが大切です。なお、ドナーを対象とした損害賠償保険があります。詳しくは担当医へおたずねください。

 

末梢血幹細胞の採取

G-CSFを投与したのち、流血中の造血幹細胞が増えてきたころを見計らって、血球分離装置(けっきゅうぶんりそうち)を用いて採取します。自家末梢血幹細胞の採取では、G-CSFの前に抗がん剤治療を受けることもあります。血球分離装置は、成分献血(せいぶんけんけつ)で広く用いられています。血球分離装置では、遠心分離(えんしんぶんり)により造血幹細胞が含まれる分画だけを効率よく分離・採取します。これは「アフェレーシス」と呼ばれています。十分に造血幹細胞が採取できなかった場合は、緊急に骨髄採取が計画されることもあります。採取した造血幹細胞を含む血液はそのまま患者に輸血するか、あるいは凍結保存しておき、移植の直前に解凍し輸血します。ドナーには採取前健康診断、採取のための入院(通常1-7日程度)、採取後の健康診断が必要となります。末梢血幹細胞採取では、G-CSFの使用や造血幹細胞採取に伴い副作用が起こる恐れがあります。通常は一時的なものですが、非常に稀ながら、後遺障害や死亡例の報告もあります。また、骨髄採取に比べ、末梢血幹細胞採取は歴史が浅いため、採取後長期の安全性は確立していません。末梢血幹細胞採取に際しては、担当医から十分に説明を受け、納得した上でのぞむことが大切です。なお、ドナーを対象とした損害賠償保険があります。詳しくは担当医へおたずねください。

 

  1. さい帯血の採取

さい帯血は、赤ちゃんやお母さんに負担がかからず、安全な方法で行われます。出産が終わったあと、胎盤とさい帯血に残っている血液を採取し、凍結保存します。赤ちゃんやお母さんに痛みや苦痛はなく、分娩後の経過にも影響しません。さい帯血の採取方法には、赤ちゃんが生まれた後、胎盤がお母さんの体内に残っている間に採取する「娩出(べんしゅつ)前採取」と、胎盤娩出後、さい帯につながった胎盤をお母さんの体外へ取り出したあとに採取する「娩出後採取」があります。なお、さい帯血が採取できる施設はかぎられます。そのほか、企業が赤ちゃん自身のためにその赤ちゃんのさい帯血を保存する「さい帯血の私的保存」は、安全性や実効性など多くの問題があります。

 

子どもからの採取

特に子どもの患者さんに血縁者間同種造血幹細胞移植を計画する場合、15歳以下の子どもがドナーになることがあります。その場合、親が説明を受け同意者となり、患者側の利益のみが優先されがちです。しかし、その場合でも、ドナーである子どもの人権に十分配慮する必要があります。1-15歳以下が小児ドナーとなります。ドナー候補者が10歳未満の場合、安全性を考慮し、長期の安全性が確立していない末梢血幹細胞採取は行いません。ドナー候補者が10歳以上の場合は、骨髄採取か末梢血幹細胞採取か選択できます。また、1歳未満や重度の心身障害のある兄弟姉妹は、原則としてドナーになりません。父または母が病気になり、15歳以下の子どもが親のドナーになる場合、親の同意だけでなく、原則として各施設の倫理委員会など第三者による客観的な判断が必要です。

 

ドナーリンパ球輸注

ドナーリンパ球輸注とは、移植で造血幹細胞を提供したドナーのリンパ球を含む血液を輸血する治療法です。同種造血幹細胞移植後にがんが再発か進行する、がんがわずかに残っている、移植後にEBウイルスによるBリンパ球増殖性疾患を発症した、造血幹細胞がうまく生着しなかったなどの場合、ドナーリンパ球輸注が行われることがあります。

造血幹細胞移植の適応

造血幹細胞移植の適応と考えられる病気を表にまとめました。これはあくまでも目安です。実際は、患者さんや病気の状態、ドナーの有無なども含めて総合的に判断することになります。

 

自家造血幹細胞移植が有効な病気

悪性疾患

非悪性疾患

非ホジキンリンパ腫 ホジキンリンパ腫 多発性骨髄腫(たはつせいこつずいしゅ) 急性骨髄性白血病(きゅうせいこつずいせいはっけつびょう) 神経芽細胞腫(しんけいがさいぼうしゅ) 横紋筋肉腫(おうもんきんにくしゅ) 脳腫瘍(のうしゅよう)(髄芽腫(ずいがしゅ)、上衣細胞腫(じょういさいぼうしゅ)、PNETなど) 肝芽腫(かんがしゅ) ウイルスムス腫 ユーイング肉腫(にくしゅ) 骨肉腫(こつにくしゅ) 胚細胞腫瘍(はいさいぼうしゅよう) 乳がん 卵巣がん 肺がん

自己免疫疾患(膠原病(こうげんびょう)) アミロイドーシス

 

同種造血幹細胞移植が有効な病気

悪性疾患

非悪性疾患

急性骨髄性白血病 急性リンパ性白血病 非ホジキンリンパ腫 ホジキンリンパ腫 骨髄異形成症候群(こつずいいけいせいしょうこうぐん) 多発性骨髄腫(たはつせいこつずいしゅ) 慢性骨髄性白血病(まんせいこつずいせいはっけつびょう) 慢性リンパ性白血病(まんせいりんぱせいはっけつびょう) 腎細胞癌(じんさいぼうがん) 膵癌(すいがん) 大腸癌(だいちょうがん) 乳がん

再生不良性貧血(さいせいふりょうせいひんけつ) 発作性夜間血色素尿症(ほっさせいやかんけっしきそにょうしょう) 重症複合型免疫不全症(じゅうしょうふくごうがためんえきふぜんしょう) Fanconi貧血(ひんけつ) Diamond-Blackfan貧血(ひんけつ) 鎌状赤血球症(かまじょうせっけっきゅうしょう) Wiskott-Aldrich症候群(しょうこうぐん) 大理石骨病(だいりせきこつびょう) 先天性代謝性疾患(せんてんせいたいしゃせいしっかん) 自己免疫疾患

 

一般に、造血幹細胞移植を受ければ、通常の化学療法に比べて、その病気が治る可能性は高まります。しかし、重い合併症が起こり日常生活に支障が生じたり、命を落とす人が増える可能性があります。さい帯血移植以外の同種造血幹細胞移植の場合、ドナーには、造血幹細胞採取に伴う危険性や、会社や学校を休んだりといった不都合が生じます。患者さんやご家族、ドナーは、これらを担当医などから十分に説明を受け、納得した上で、治療にのぞむ必要があります。造血幹細胞移植について、わからない言葉や疑問、質問、さらに詳しく知りたいことなどがありましたら、担当医や病院スタッフへ遠慮なくおたずねください。他の病院・施設の「セカンドオピニオン」外来を受診し、担当医以外の専門家から意見を聞くことも可能です。造血幹細胞移植にかぎらず、病気を克服するには時間がかかります。治療中はできるだけリラックスして過ごすことも大切です。

 

 

ステロイド系抗炎症薬

 

抗炎症作用と免疫抑制作用が特徴

ステロイドの成分が細胞に届くと、グルココルチコイドレセプターという物質と結合します。そして、結合したステロイドが細胞の核の中に入ると遺伝子に働きかけて、リポコルチンというタンパク質を合成し、免疫を司る遺伝子の働きを抑制するので、炎症に関係するサイトカインやプロスタグランディンなどの物質の生産を抑えると言われています。

 

腎臓の上部にある副腎という臓器の外側の部分、皮質といわれるところで作られるホルモンです。そのため、副腎皮質ホルモンとも呼ばれています。普通の状態でも常に体内で作られていて、体に対するいろいろなストレスに対処するなど生きていく上でとても重要な働きがあります。このホルモンのうち、糖質コルチコイドという成分を化学合成したものをステロイド剤といって治療に用います。

 

 

内服

ステロイド剤の長期間服用による副腎機能の低下を防いだり、機能回復を促進するためには1日の内ではできるだけ朝だけの服用、そして1日必要量がたとえば10mgなら、20mgを1日おきに服用するというような隔日投与、20mgなら、30mgと10mgを1日おきに服用するというような方法が有効です。  ただし、リウマチ性の関節炎や血管炎などの症状がある場合にこの副作用対策を重視した服用をすると、ステロイド剤の血液中濃度が下がったときに症状が悪化する恐れがあり、不向きな方法とされています。ステロイド剤の使用が難しいとされるのは、治療効果と副作用のバランスをどう取るかの判断が難しい。

 

内服使用されるステロイドの種類、薬品名と(商品名)の例 ・コルチゾン(商品名:コートン)

抗炎症作用が弱く、効果も短時間で消失する ・ヒドロコルチゾン(商品名:コートリル)

抗炎症作用が弱く、効果も短時間で消失する ・プレドニゾロン(商品名:プレドニン)

抗炎症作用は中程度、作用時間は18~36時間で半減する

もっとも代表的。 ・メチルプレドニゾロン(商品名:メドロール)

抗炎症作用は中程度、作用時間は18~36時間で半減する ・デキサメサゾン(商品名:デカドロン)

抗炎症作用が非常に強い、作用時間は長く36~54時間で半減する ・ベタメタゾン(商品名:リンデロン)

抗炎症作用が非常に強い、作用時間は長く36~54時間で半減する

 

ステロイドパルス療法

症状が重くて、早急な対処が必要とされる場合、内服では十分に効果が出ない場合に、ステロイドを短期間に大量に投与する方法です。通常の10倍のステロイドを投与することで、劇的な抗炎症効果を得ることを目的として行われます。  使用量は1日に500mg~1000mgで、通常これを3日間連続して行います。1000mg(ソル・メドロール)は錠剤250錠分(プレドニンに換算すると1250mg)ですから、その多さがわかりますね。セミ・パルスといってその半分の量を使用する場合もあります。さらに少ないミニ・パルスも行われています。使用されるステロイド剤はメチルプレドニゾロン「ソル・メドロール」が多いようです。

 

この治療法は大量にステロイド剤を使用しているわりには副作用がそれほど出ないとされています。うまくいけば全体として治療期間が短くなり、入院日数も少なく済みますし、その後のステロイド剤の服用量もある程度少なくできるようです。ただし、連続してできない、心臓をはじめとする各臓器へ負担がかかる可能性などの問題もあります。感染症、消化性潰瘍がある場合は避けるべきとされています。

ステロイドパルス療法の適応となるのは、糸球体腎炎やネフローゼ症候群、全身性エリテマトーデス (SLE)などの病気、間質性肺炎が悪化した場合、炎症症状が非常に強い場合、ステロイドの内服で効果が見られない場合などです。ステロイドの大量投与は、副作用のリスクが高くなるので、メリットがリスクを上回る場合にのみ、この療法を選択するようです。

 

ステロイドパルス療法の副作用は、ステロイドの全身投与の副作用に準じます。加えて、全身性エリテマトーデスの治療でステロイドパルス療法を行った場合に、大腿骨頭壊死の合併症が起こる確率が高くなると言われています。特に治療の初期にステロイドパルスを行った場合に多く発生するようです。

 

注射で使用されるステロイドの種類、薬品名と(商品名)の例 ・コハク酸ヒドロコルチゾン(商品名:ソルコーテフ)

静脈注射、筋肉注射、吸入で使用される ・コハク酸メチルプレドニゾロン(商品名:ソルメドロール)

ステロイドの大量注射に使用されることが多い ・デキサメタゾン(商品名:デカドロン)

点滴や筋肉注射、吸入などで使用されることが多い ・トリアムシノロンアセトニド(商品名:ケナコルトA)

筋肉注射で使用され、持続効果がある ・メチルプレドニゾロン(商品名:デポメドロール)

筋肉注射や関節内注射で使われることが多い ・パルミチン酸デキサメタゾン(商品名:リメタゾン)

点滴で使用されることが多い

 

 

関節リウマチの治療

治療では、関節の強い炎症を抑えるために、抗炎症効果の強いステロイドが使用されることがあります。しかし、ステロイドの副作用によって関節を破壊してしまうというリスクもあるので、長期に投与する場合には、少量のステロイドを服用することが推奨されています。また、関節に直接注射をしてステロイドを注入し、炎症を抑える方法もあります。

 

肺炎の治療

ステロイドを投与することで、肺炎の治療の効果が上がるといわれています。ある研究データでは、肺炎の治療にステロイドを使用した結果、使用していない場合に比べて早く退院できることや合併症にかかる確率が低下した、死亡率が低下した、という報告がされているようです。  これは、ステロイドの投与によって、肺炎の症状を重くしている炎症性サイトカインという炎症物質の産生を抑えることが、肺炎の治療に効果を発揮するためと言われています。日本マイコプラズマ学会のガイドラインでも、小児の重症のマイコプラズマ肺炎の治療において、ステロイドの投与を推奨しています。

 

肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療

喘息は、気管支の慢性的な炎症が原因となっていますので、吸入ステロイド薬を使用して、気管支の炎症を抑え、喘息発作を予防します。内服や注射薬はステロイドの全身投与といい、副作用が強く出ると言われていますが、吸入でステロイドを使用する場合は、局所投与と言って、気管を中心に薬が吸収されるので、副作用のリスクが少ないと言われています。  吸入ステロイド剤の主な副作用は、嗄声(声がガラガラになる)や舌に白くカビが生えるなどで、吸入をするたびにきちんと口腔ケアをすることで予防することができます。しかし、喘息で重い発作が起きた場合には、内服薬や注射薬でステロイドの全身投与を行う場合もあります。

 

呼吸不全の改善

ステロイドは、急性呼吸不全(急激に呼吸機能が低下する)の状態を改善するのに使用されることがあります。呼吸不全を起こしている原因が、気道の病気である場合、咽頭、喉頭、気管、気管支、肺胞などの粘膜が腫れて呼吸を妨げている可能性があります。ステロイドの投与によって、粘膜の炎症を抑えることで呼吸を改善します。

呼吸不全でステロイドを使用する場合には、内服薬や吸入薬を使うことがありますが、緊急性がある場合には、即効性のある注射薬を用いることが多いようです。

 

アレルギー症状を抑える

ステロイドには、アレルギー反応を抑える効果もあります。アナフィラキシーと言って、食べ物などが原因で急激なアレルギー反応が起きることがあります。この場合に使われるのは、アドレナリンという薬ですが、ステロイドを併用する場合もあるようです。ステロイドには、アレルギー反応を抑える即効性はありませんが、再発を防ぐ上で効果があると言われています。  また、蕁麻疹の治療でもステロイドが使用されることがあります。蕁麻疹が長期間治まらない場合や、症状が激しい場合には、ステロイドを投与して炎症を抑えます。また、花粉症のときの目や鼻のアレルギー症状が強い場合に、ステロイドの配合された点眼薬や点鼻薬を使用して、症状を緩和することがあります。

 

糸球体腎炎(腎不全)の治療

糸球体腎炎やネフローゼ症候群という病気の治療に、ステロイドを投与して炎症を抑える方法があります。糸球体腎炎というのは、腎臓の血液をろ過して尿を生成するための糸球体という組織に炎症が起きて、むくみや血尿などの症状と共に腎臓の機能が低下していく病気です。原因のひとつに免疫機能の異常

 

好酸球性胃腸炎(AEG)を抑える

好酸球性胃腸炎 (AEG) という病気は、何らかの免疫反応の異常が生じて、胃や大腸に炎症が起きる病気です。下痢や嘔吐、腹痛などの症状が慢性的に見られ、重症者になると、腸が破裂したり腹膜炎を起こしたり腸閉塞になったりすることがあります。この好酸球性胃腸炎の炎症を抑えるために、長期にステロイドを投与することがあると言われています。

 

膠原病の治療

膠原病は、皮膚や内臓の結合組織に炎症が起きる病気の総称で、全身性エリテマトーデスや強皮症、皮膚筋炎、結節性多発動脈炎、関節リウマチ、シェーグレン症候群など多くの病気が含まれます。膠原病になると発熱や関節炎、臓器の炎症などが慢性的に生じることがあり、ステロイドの内服や注射によって炎症を抑える治療が行われます。

 

水疱症の治療

水疱症(すいほうしょう)というのは、体に水疱(みずぶくれ)ができる病気の総称で、原因が自己免疫の異常によるものと先天性のものがあります。水疱症のひとつである天疱瘡では、全身の皮膚や粘膜に炎症が起こり、水疱やびらんが生じます。治療はステロイドの内服がメインになります。症状が強い場合には、ステロイドパルス療法を行うこともあるようです。

 

 

他の薬との併用や他の病気への影響

1.他の病気にかかっている人

感染症、糖尿病、骨粗鬆症、腎不全、甲状腺機能低下、肝硬変、脂肪肝、重症筋無力症にかかっている人は、ステロイドの服用によって症状が重くなったり悪化する可能性があります。 2.すでに他の薬を服用している人

フェノバルビタール、リファンピシン、カルバマゼピン、フェニトイン、アスピリン、ワーファリン、糖尿病の薬、インスリン、降圧剤、利尿剤、シクロスポリン、マクロライド系抗生物質などを服用している場合には、ステロイドと併用すると薬効が低下したり過剰になったりすることがあるので、飲み合わせに注意が必要です。 3.高齢者

副作用(易感染、糖尿病、高血圧、骨粗鬆症など)が現れやすいので注意が必要です。 4.妊婦

胎児奇形や新生児の副腎不全の可能性があります。 5.授乳婦

母乳を通して乳児に薬が移行するので注意が必要です。 6.小児

ステロイドの大量投与や長期服用後6ヵ月は、生ワクチン(水ぼうそうやおたふく、はしかのワクチン)の摂取を控えるようすすめられています。

 

 

副作用

効果があるということは、副作用もそれなりにあるということになります。

 

大量投与で現われるもの

長期投与で現われるもの

感染しやすい(抗炎症・免疫抑制)

副腎機能の低下

糖尿病

骨粗しょう症

胃潰瘍

高脂血症・高血圧

精神症状

筋力低下・筋肉痛

ムーンフェイス・中心性肥満

白内障・緑内障

 

ステロイドの使用には、多くの副作用があることが知られています。特にステロイドは、長期の服用、大量の服用によって副作用が重く出る傾向があると言われています。

 

 

大腿骨頭壊死

ステロイドの大量投与が原因で、大腿部の血流障害によって骨の組織が死んでしまい、痛みが生じたり骨がつぶれたりする病気です。

歩行障害が起こる場合もあります。大腿骨頭壊死症は投与期間の長さより1日の投与量の多さが、その原因となりやすいということが分かってきました。

 

このような血流障害による骨壊死の予防のために、ステロイドの投与と並行して、ワーファリンなどの血液の流れを良くする薬を投与することもあるようです。

 

特発性大腿骨頭壊死症もステロイドが原因と言われていますが、完全には原因が特定されていません。

 

骨粗鬆症

ステロイドの服用者の骨折のリスクは一般の人の約2倍だと言われています。ステロイドを低量であっても服用を開始すると骨密度が急激に低下していくようです。ステロイドの量に関係なく、3ヵ月以上ステロイドを服用する場合は、骨粗鬆を改善するための薬も同時に服用することがすすめられています。

 

精神症状

ステロイドは脳の中枢神経にも影響を及ぼすので、興奮状態になったり、逆にうつ状態を引き起こしたりすることがあると言われています。

 

感染症にかかりやすくなる

ステロイドは免疫機能を抑制する働きがありますので、ステロイドの服用中は風邪や気管支炎、肺炎などのウイルス、細菌、真菌などによる感染症のリスクが高くなります。あるデータでは、ステロイドの投与量に比例して重い感染症にかかる確率が高くなることや少量の投与でも普段の数倍感染症にかかりやすいことが報告されています。

動脈硬化が進む

ステロイドを服用すると脂質代謝(中性脂肪やコレステロールの合成)が促進されるので、高脂血症になり、その結果脂肪が血管に蓄積し動脈硬化(動脈が硬くなる)が進むと言われています。動脈硬化は心筋梗塞や脳梗塞の原因になります。

 

糖尿病にかかりやすくなる

ステロイドを投与すると脂肪代謝が進み、高脂血症になるので、血糖値も高くなります。そのため、特に糖尿病の持病がある場合には、症状が悪化しやすくなります。またステロイドによって食欲が亢進して肥満のリスクも高くなるので、注意が必要だと言われています。

 

胃腸障害、緑内障、白内障、脱毛(ハゲ)、多毛、むくみ、月経異常などが起きることがあります。

 

異物肉芽腫の炎症

美容外科手術で、体の中にジェルや液体、固形物などを埋め込んだ場合、その部分に慢性的な炎症が起こり、腫瘤(こぶのようなもの)ができることがあります。これを異物肉芽腫と言います。この異物肉芽腫の慢性的な炎症を抑えるのに、ステロイドを使用することがあると言われています。

 

満月様顔貌・中心性肥満

ステロイドの作用で身体の中心部(肩や首、背中、腹部など)に脂肪が付きやすくなると言われています。

また、顔にも脂肪がつくので、満月様顔貌(ムーンフェイス)という特徴的な顔つきになります。

 

 

 

 

 

 

その他の傷病

 

悪性新生物(癌) による障害

 

癌は細胞の異常な増殖物です(通常は単一の細胞から発生します)。

 

私たちの体は約60兆個の細胞でできており、細胞は絶えず分裂することによって新しく生まれ変わっています。細胞分裂は、細胞の設計図である遺伝子をもとにコピーされることで起こりますが、発がん物質などの影響で遺伝子が突然変異し、「コピーミス」が起こることがあります。このコピーミスが「癌」のはじまりです。  ただし、コピーミスが起きても、すぐにがんになるわけではありません。健康な人でも1日約5,000個のコピーミスが起こっているといわれています。通常、コピーミスで生まれた異常な細胞は、体内の免疫細胞の標的となり、攻撃されて死滅します。  ところが、免疫細胞の攻撃を逃れて生き残る細胞がいて、「がん細胞」となります。それらが異常な分裂・増殖をくり返し、10~20年かけて「癌」の状態になります。

 

癌は、全身のあらゆる場所に発生する可能性があります。胃や肺、肝臓などの内臓はもちろん、血液や骨、皮膚などにできるがんもあります。  がんの名前は一般的に、「胃癌」や「肺癌」などのように、最初にできた部位の名前をとってつけられます。なかには「脳腫瘍」や「白血病」など、「癌」という言葉がつかないものもありますが、脳腫瘍は脳にできるがん、白血病は血液の癌で、いずれもがんの仲間です。

 

 

癌細胞は正常な制御メカニズムを失っているため、増殖し続けて周辺の組織に広がり、離れた部位にも転移し、癌細胞に栄養を供給する新しい血管の成長を促進します。悪性の癌細胞は全身のあらゆる組織から生じます。

 

癌細胞が増殖すると、腫瘍と呼ばれる癌組織のかたまりとなり、周囲の正常な組織に侵入し(浸潤)、破壊します。「腫瘍」は異常な増殖物や組織のかたまりを意味する医学用語です。腫瘍には癌性のものと非癌性のものがあります。癌性の細胞は最初に発生した場所(原発部位)から全身各所に飛び火するように広がることがあります(転移)。

 

癌の種類

癌性の組織(悪性疾患)には血液や造血組織の病変(白血病やリンパ腫)と、かたまりを形成する「固形腫瘍」の2種類があり、後者の意味で癌という言葉が使われることもよくあります。

 

固形腫瘍には癌腫(カルシノーマ)と肉腫(サルコーマ)があります。

 

白血病とリンパ腫は、血液と造血組織、および免疫系の細胞の癌です。この癌が増殖し、骨髄や血流内で正常な血液細胞よりも数の上で優勢になると、正常な機能を担う細胞が徐々に癌性の血液細胞に置き換わり、体の働きが損なわれていきます。この癌はリンパ節に広がり、わきの下や鼠径部(そけいぶ)、腹部、胸部に大きなかたまりを形成します。

 

癌腫は上皮細胞(体の表面を覆う細胞やホルモンをつくる細胞、さまざまな分泌腺を構成する細胞の総称)の癌です。癌腫には皮膚癌、肺癌、結腸癌、胃癌、乳癌、前立腺癌、甲状腺癌などがあります。癌腫は一般に若い人よりも高齢の人に多発します。

 

肉腫は筋肉や結合組織を構成している中胚葉由来の細胞の癌です。肉腫の例としては平滑筋肉腫(消化器の壁にみられる平滑筋の癌)、骨肉腫(骨の癌)などがあります。肉腫は一般に、高齢者よりも若年層に多発します。

 

悪性新生物の疾患一覧

大分類

細分類 (疾患名)

1 白血病

 1. 前駆B細胞急性リンパ性白血病

 2. 成熟B細胞急性リンパ性白血病

 3. T細胞急性リンパ性白血病

 4. 急性骨髄性白血病、最未分化

 5. 成熟を伴わない急性骨髄性白血病

 6. 成熟を伴う急性骨髄性白血病

 7. 急性前骨髄球性白血病 

 8. 急性骨髄単球性白血病 

 9. 急性単球性白血病 

 10. 急性赤白血病

 11. 急性巨核芽球性白血病 

 12. NK(ナチュラルキラー)細胞白血病

 13. 慢性骨髄性白血病 

 14. 慢性骨髄単球性白血病

 15. 若年性骨髄単球性白血病

 16. 1から15までに掲げるもののほか、白血病

2 骨髄異形成症候群

 17. 骨髄異形成症候群

3 リンパ腫

 18. 成熟B細胞リンパ腫

 19. 未分化大細胞リンパ腫

 20. Bリンパ芽球性リンパ腫

 21. Tリンパ芽球性リンパ腫

 22. ホジキン(Hodgkin)リンパ腫

 23. 18から22までに掲げるもののほか、リンパ腫

4 組織球症

 24. ランゲルハンス(Langerhans)細胞組織球症

 25. 血球貪食性リンパ組織球症

 26. 24及び25に掲げるもののほか、組織球症

5 固形腫瘍(中枢神経系腫瘍を除く)

 27. 神経芽腫

 28. 神経節芽腫

 29. 網膜芽細胞腫

 30. ウィルムス(Wilms)腫瘍/腎芽腫

 31. 腎明細胞肉腫

 32. 腎細胞癌

 33. 肝芽腫

 34. 肝細胞癌

 35. 骨肉腫

 36. 骨軟骨腫症

 37. 軟骨肉腫

 38. 軟骨芽細胞腫

 39. 悪性骨巨細胞腫

 40. ユーイング(Ewing)肉腫

 41. 未分化神経外胚葉性腫瘍(末梢性のものに限る)

 42. 横紋筋肉腫

 43. 悪性ラブドイド腫瘍 

 44. 未分化肉腫

 45. 線維形成性小円形細胞腫瘍

 46. 線維肉腫

 47. 滑膜肉腫

 48. 明細胞肉腫(腎明細胞肉腫を除く)

 49. 胞巣状軟部肉腫

 50. 平滑筋肉腫

 51. 脂肪肉腫

 52. 未分化胚細胞腫

 53. 胎児性癌

 54. 多胎芽腫

 55. 卵黄嚢腫(卵黄嚢腫瘍)

 56. 絨毛癌

 57. 混合性胚細胞腫瘍

 58. 性索間質性腫瘍

 59. 副腎皮質癌

 60. 甲状腺癌

 61. 上咽頭癌

 62. 唾液腺癌

 63. 悪性黒色腫

 64. 褐色細胞腫

 65. 悪性胸腺腫

 66. 胸膜肺芽腫

 67. 気管支腫瘍

 68. 膵芽腫

 69.  27から68までに掲げるもののほか、固形腫瘍(中枢神経系腫瘍を除く)

6 中枢神経系腫瘍

 70. 毛様細胞性星細胞腫

 71. びまん性星細胞腫

 72. 退形成性星細胞腫

 73. 膠芽腫

 74. 上衣腫

 75. 乏突起神経膠腫(乏突起膠腫)

 76. 髄芽腫

 77. 頭蓋咽頭腫

 78. 松果体腫

 79. 脈絡叢乳頭腫

 80. 髄膜腫

 81. 下垂体腺腫

 82. 神経節膠腫

 83. 神経節腫(神経節細胞腫)

 84. 脊索腫

 85. 未分化神経外胚葉性腫瘍(中枢性のものに限る)(中枢神経系原始神経外胚葉性腫瘍)

 86. 異型奇形腫瘍/ラブドイド腫瘍(非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍)

 87. 悪性神経鞘腫(悪性末梢神経鞘腫瘍)

 88. 神経鞘腫

 89. 奇形腫(頭蓋内及び脊柱管内に限る)

 90. 頭蓋内胚細胞腫瘍

 91.  70から90までに掲げるもののほか、中枢神経系腫瘍

 

 

癌の症状

癌は初めのうちは小さな細胞のかたまりで、特に症状はありません。癌が増殖すると、それ自体が物理的に隣接する組織に影響を及ぼすようになります。さらに、一部の癌は特定の物質を分泌するか免疫反応を誘発して、癌から離れた体のほかの部位に症状を起こします(腫瘍随伴症候群)。

癌が増殖し、周辺の組織を押しのけるようになると、それらの組織に刺激や圧迫が加わります。一般に、刺激が起こると痛みが生じ、圧迫が生じると組織の正常な機能が妨げられます。たとえば、膀胱癌や腹部リンパ節の癌が腎臓と膀胱をつなぐ管(尿管)を圧迫すると、尿の流れが妨げられます。また、肺癌が肺の一部を通る空気の流れを妨げ、それにより肺が部分的につぶれて感染症を起こしやすくなる場合があります。また、癌が体の各部の血管を圧迫し、血流の遮断や出血が生じるケースもみられます。大腸の内側の壁のような広い空間がある部位に癌ができると、かなり大きくなるまで自覚症状がないこともあります。一方、もっとスペースの限られた部位、たとえば声帯などでは、癌が比較的小さいうちから(声のかすれなどの)症状が現れるかもしれません。癌が体の他の部位に広がった場合(転移)も、やがて同様に局所的な刺激や圧迫の影響が出てきますが、部位によって症状はまったく異なることがあります。肺を覆う膜(胸膜)や心臓を包む袋状の構造(心膜)に癌が生じて液体がにじみ出し、肺や心臓の周囲にたまることがよくあります。この液体が大量にたまると、呼吸や心臓の拍動を阻害します。

 

 

 悪性新生物とは、神経節腫(神経節細胞腫)、乏突起神経膠腫(乏突起膠腫)性索間質性腫瘍、骨肉腫、神経節芽腫、血球貪食性リンパ組織球症、Tリンパ芽球性リンパ腫、若年性骨髄単球性白血病、急性前骨髄球性白血病、悪性腫瘍のことです。

 細胞が何らかの原因で変異して増殖を続け、周囲の正常な組織を破壊する腫瘍です。癌や肉腫などがこれに入ります。

 

 

 

癌の主な合併症

 

合併症の種類

説明

心タンポナーデ

心臓を包む袋状の膜(心膜または心膜嚢)の内側にある液体の量が増加した状態。この液体が心臓を圧迫し、血液の送り出しを妨げる。癌が心膜に浸潤するとその刺激で体液が貯留する場合がある。

胸水

肺を包む袋状の膜(胸膜嚢)に体液が貯留した状態で、息切れを起こす。

上大静脈症候群

体の上部から心臓に向かう静脈(上大静脈)の血液の流れが、癌によって部分的にまたは完全に妨げられた状態。上大静脈がふさがれると胸の上部と首の静脈がふくれ上がり、顔、首、胸の上部の腫れを生じる。

脊髄圧迫

癌が脊髄や脊髄神経を圧迫している状態で、痛みと機能不全(尿失禁や便失禁など)が生じる。脊髄や脊髄神経の圧迫が長く続くと、圧迫がなくなった後も正常な神経機能の回復が困難になる。

脳の機能障害

癌が脳の内部で増殖した結果、脳の機能が異常になった状態で、脳が原発の癌の場合もあるが、多くは別の部位から転移した癌によって起こる。錯乱、眠気、興奮、頭痛、視野異常、感覚異常、脱力感、吐き気、嘔吐、発作といったさまざまな症状がみられる。

出血

癌が増殖し、付近の血管に浸潤する。首や胸など、多くの大血管が走っている部位にできた癌は、ときに致死的となる重度の出血を起こすことがある。

 

 

 

癌の用語の基礎知識

 

侵攻性:

腫瘍の増殖と広がりの程度(または速度)

 

退形成性:

細胞が未分化であること

退形成性の癌は、高度に未分化で通常きわめて侵攻的

 

良性:癌性でないこと

良性腫瘍は隣接する組織に広がったり遠隔部に転移したりすることがない。

 

発癌物質:癌の原因になる物質

 

上皮内癌:

癌細胞が最初に発生した組織内にとどまっていて、他の部位に浸潤または転移していない状態

 

治癒:

癌が完全に取り除かれ、再発しないこと

 

分化度:

癌細胞と正常細胞の類似度を表す指標。正常細胞に似ていない癌ほど未分化で侵攻的

 

浸潤性:

癌が周囲の組織に浸入し、破壊する能力

 

悪性:

癌性であること

 

転移:

癌細胞がまったく別の部位に広がること

 

新生物:

腫瘍の総称で、癌性と非癌性のいずれも含まれる

 

再発(再燃):

癌細胞が治療後に原発部位または転移部位に再び生じること

 

寛解:

治療後に癌のあらゆる徴候が消失すること

 

生存率:

治療後の一定期間における生存者の割合(%)

たとえば、5年生存率は、5年間生存した患者のパーセント数

 

腫瘍:

異常な増殖物や細胞のかたまり

 

 

 

 

障害の程度

障 害 の 状 態

1級

身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの

 

・著しい衰弱又は障害のため、一般状態区分表のに該当するもの

2級

身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの

 

・衰弱又は障害のため、一般状態区分表の又はに該当するもの

3級

身体の機能に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの

 

・著しい全身倦怠のため、一般状態区分表の又はに該当するもの

障害手当金

 

一般状態区分表

区分

一 般 状 態

無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの

軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの  

(たとえば軽い家事、事務など)

歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの

身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの

身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの

 

  癌の場合、障害年金の申請ができるのは、臓器を取った、人工肛門を造設したなど、明らかに身体の機能が変わった場合だけではありません。

 ・抗がん剤使用の副作用で吐き気がひどく、自分で身の回りのことが出来ない  ・抗がん剤治療後、出勤回数を減らして仕事に復帰したが、治療前の3割程度しか働けない など、その原因ががんの治療によるものであることが明らかであり、生活や仕事に支障をきたしている場合も対象となります。

 

 細胞が何らかの原因で変異して増殖を続け、周囲の正常な組織を破壊する腫瘍で、

癌や肉腫などが対象となる。

 

癌による障害年金の認定では、抗がん剤などの治療により全身が著しく衰弱してしまっている場合(副作用)も、障害年金の対象になる。

 

 癌(悪性新生物)による障害年金の認定基準は次の3つに区分される。 

ア 悪性新生物そのものによる局所の障害         骨肉種による大腿骨頭の障害、肝癌、肺癌  など              (原発巣、転移巣を含む)   イ 悪性新生物による全身の衰弱または機能の障害       臓器の癌の転移巣が拡大した段階、悪性繊維性組織球種、脊髄腫瘍  など             (原発巣、転移巣を含む)   ウ 悪性新生物に対する治療の結果としての全身衰弱または機能障害         抗癌剤、放射線照射などによるもの

 

 

障害の程度 1級

入院中でベッドから起き上がることもままならない状態

(一般状態区分)

・身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲が

おおむねベッド周辺に限られるもの (オ)

 

障害の程度 2級

抗がん剤の服用等の治療による全身衰弱や身体機能障害で日常生活が自力ではできない、外出も自力では困難な状態

(一般状態区分)

・身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの (エ)

・歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの (ウ)

 

障害の程度 3級

通常勤務が不可能な方が想定できるが、ガン闘病中の方で会社を退職せざるを得なかった方でも、治療の効果等から自覚症状や検査数値等が病状の深刻さと比例しないことが多く、単に就労していないかのような状態と判断されることが多い。

  病状は重篤でなくても抗がん剤治療の最中で、発熱、疲労感、易感染症がみられる場合は3級に認定されるケースが多い。

 

(一般状態区分)

・軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの (ウ) 

(たとえば軽い家事、事務など)

・無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの (イ)

 

 障害年金の審査では、癌によって日常生活がどれだけ制限されているかが認定のポイントとなっています。    ・入院を繰り返している  ・自宅での安静を指示されている  ・余命宣告されている    ・癌が複数の器官に転移している といったときも、障害年金の2級以上が認定されるケースがあります。

 

 1級とは、入院中でベッドから起き上がることもままならない状態。

2級は抗がん剤の服用等の治療による全身衰弱や身体機能障害で日常生活が自力ではできない、外出も自力では困難な状態。

3級は、通常勤務が不可能な方が想定できるが、ガン闘病中の方で会社を退職せざるを得なかった方でも、治療の効果等から自覚症状や検査数値等が病状の深刻さと比例しないことが多く、単に就労していないかのような状態と判断されることが多いものです。

 病状は重篤でなくても抗がん剤治療の最中で、発熱、疲労感、易感染症がみられる場合は3級に認定されるケースが多くなっています。

 

 肝癌などの肝疾患による障害の程度は、自覚症伏、他覚所見、検査成績、一般状態、治療及び病状の経過、具体的な日常生活状況等により、総合的に障害年金の認定がされます。

自覚症状がどれだけ出ているかも重要です。全身衰弱、倦怠感、発熱、痛み、易感染症など、癌による(または薬の副作用による)症状がある場合は、医師にすべて記入してもらいます。

 

 癌の認定は、末期がんでなければ認定されないことが多い。

 

 障害年金の審査では、癌によって日常生活がどれだけ制限されているかが認定のポイントとなる。  ・入院を繰り返している  ・自宅での安静を指示されている  ・余命宣告されている  ・癌が複数の器官に転移している というときも、障害年金の2級以上が認定されることがある。

 

 障害認定基準では、当該疾病の認定の時期以後少なくとも1年以上の療養を必要とするものとしている。

 

原発性の癌(元々の癌)場合は、他の部位の癌との相当因果関係は認められない。

転移性の癌の場合は、他の部位の癌との相当因果関係が認められる可能性が大きい。

 

 診断書は「血液・造血器 その他の障害用」の診断書を使用するのが一般的。

悪性新生物に対する治療の結果として障害を有した場合は、各々の障害ごとの認定要領によるとされている。各々の障害の部位毎の診断書を提出すること。

 

・舌癌や喉頭癌などにより咽頭を全摘出した場合・・・

「言語・そしゃく障害用」の診断書を使用

・がんにより上肢や下肢を切断した場合・・・

「肢体の障害用」の診断書を使用

・肺癌の場合・・・

「呼吸器疾患の障害用」の診断書を使用

・肝癌の場合・・・

「腎疾患・肝疾患・糖尿病用の障害用」の診断書を使用

・大腸がんにより人工肛門を施す手術を受けた場合・・・

「血液・造血器・その他の障害用」を使用

・癌による全身の衰弱やがんを治療(抗がん剤、放射線療法など)による副作用で、倦怠感、嘔吐、下痢などが続き、全身の衰弱が生じた場合・・・

「血液・造血器・その他の障害用」の診断書を使用

 

 


○骨肉腫

 骨肉腫は代表的な骨の悪性腫瘍です。腫瘍細胞が骨組織を作るのを特徴とします。原発性骨悪性腫瘍のなかで最も多く、全国で年間約200人の新しい患者さんが病院を訪れます。10代に約半数、5〜24歳までに3分の2の患者さんが発症するなど、盛んに運動をしている活動性の高い少年期に発病します。部位では、とくに膝関節や肩関節に近いところから発生します。放置すると腫瘍の増大に伴って、腫瘍細胞が主に肺に到達して腫瘤(しゅりゅう)を作ります。このように離れた臓器などに悪性の腫瘍細胞が移ってしまうことを転移と呼び、肺に転移したものを肺転移と呼びます。 

 

 

○ヴェーゲナー肉芽腫症

ヴェーゲナー肉芽腫症は多くの場合、小血管や中程度の太さの血管や、鼻、副鼻腔、のど、肺などの組織の炎症から始まります。体全体の血管の炎症(全身性血管炎)へ進行する可能性があります。

原因は不明です。

病気は、通常、鼻出血、かさぶたによる鼻づまり、副鼻腔炎、しわがれ声、喘鳴、せきから始まります。

その他の器官が影響を受けると、ときには腎不全のような重篤な合併症が起こります。

症状やその他の所見からこの病気が示されても、診断を確定するには通常、生検が必要です。

コルチコステロイド薬と、通常、もう1種類免疫系を抑制する薬が、炎症を抑えるために必要とされます。

ヴェーゲナー肉芽腫症は、どの年齢層にも発生します。原因はわかっていません。感染症に似ていますが、原因となる微生物は特定されていません。炎症を引き起こす免疫細胞の集まり(肉芽腫と呼ばれる)は、小結節を形成して、最終的に正常な組織を破壊します。体のさまざまな器官に血液を供給する動脈が損傷を受けるので、それらの器官が傷ついて、機能障害を起こします。ヴェーゲナー肉芽腫症は、しばしば命にかかわります。

 

症状

症状は突然出ることもあれば、徐々に出ることもあります。通常、最初の症状は、上気道、すなわち、鼻、副鼻腔、耳、気管に出ます。以下の症状がみられます。

鼻出血(ときに重症)

鼻の内部や周囲のかさぶたによる鼻づまり

鼻橋の崩壊とそれによる陥没

鼻腔を二分している鼻軟骨(鼻中隔)に穴が開く

副鼻腔炎

しわがれ声

中耳感染症(中耳炎)

呼吸困難

せき(ときに喀血)

 

ときに上気道の症状だけが、長年にわたって続くことがあります。人によっては発熱、全身状態が優れない、食欲不振などの症状がみられる場合もあります。眼に炎症が起こり、腫れ、充血、痛みなどが生じることがあります。

 

この病気は、進行とともに他の領域を侵すことも、あるいは最初から複数の器官を侵すこともあります。

 

 

悪性繊維性組織球腫

悪性繊維性組織球腫とは、悪性の腫瘍で骨や筋肉にできる肉腫の一種を指します。

腕や足など、あらゆる部位に発生するのですが、多く見られるのが大腿部になります。痛みを感じることは稀でありますが、腫瘍が急激に大きくなることがあるため、神経を圧迫し関節が動かなくなったり痛みを感じたりする場合があります。他の部位にも転移することが多いという特徴があるため、病気が発見された患者は、肺などに転移が見つかることが多くあります。

 

 

平滑筋肉腫

平滑筋肉腫とは、あらゆる体内組織に発生する可能性がある腫瘍です。初期には痛みを感じないことが多く、病状が進行してから発見されるケースがほとんどです。発生してから時間が経つと腫瘍が大きくなり、手や足にしこりができることがあります。腹部にしこりができる場合もあり、加えて皮膚の変色を伴うこともあります。さらに症状が進行すると、腫瘍が他の部位に転移し始めることも少なくありません。肝臓や肺などに転移した場合は、それらの機能が低下します。

 

平滑筋肉腫の原因は、遺伝子の異常である可能性が高いといわれています。

 

 

腫瘍随伴症候群

 

腫瘍随伴症候群は、癌がつくり出した1つ以上の物質が血流に入って体内を循環し、腫瘍から離れた部位で症状を起こすものです。これらの物質は他の組織や器官に影響を及ぼし、さまざまな症状を起こします。腫瘍随伴症候群は神経系や内分泌系(ホルモンを分泌する器官)などのさまざまな器官系が影響を受け、低血糖、下痢、高血圧などの症状が生じます。

発熱、寝汗、体重減少、食欲不振などの全身症状は、癌患者の多くにみられるものです。一方、下記の症状の多くは頻繁に起こるものではなく、大半の癌患者ではこうしたより特異的な腫瘍随伴症候群の症状は発生しません。

 

神経症候群:

多発神経障害は末梢神経の機能不全で、脱力、感覚麻痺、反射の低下などが起こります。亜急性感覚神経障害はまれな形式の多発神経障害で、ときに癌が診断される前に発症します。この場合は感覚や協調運動の機能が大幅に損なわれますが、脱力はあまりみられません。

 

腫瘍随伴性小脳変性症は、乳癌や卵巣癌、肺の小細胞癌、その他の固形腫瘍の患者にまれに発生します。この障害は、自己抗体(自己の組織を攻撃する抗体)による小脳の破壊が原因となっている可能性があります。歩行が不安定になる、腕や脚の協調運動ができない、発話困難、めまい、複視などの症状がみられます。癌が発見される前に症状が現れることもあります。

自分では制御できない眼球運動(眼球クローヌス)や、腕や脚の筋肉の素早い収縮(ミオクローヌス)が、一部の神経芽腫の小児に起こることがあります。

 

亜急性の運動神経障害は、ホジキンリンパ腫や非ホジキンリンパ腫の患者に起こることがあります。脊髄の神経細胞が影響を受け、腕や脚の脱力が生じます。

イートン‐ランバート症候群は、肺小細胞癌の患者に起こることがあります。神経を通じて筋肉を正常に活動させることができず、腕や脚の筋力が極度に低下するのが特徴です。

 

胸腺腫はまれな腫瘍であり、重症筋無力症(抗体が筋組織の神経接合部に損傷を与えることで生じる脱力が特徴の症候群)を伴うことがあります。

 

内分泌症候群:

肺の小細胞癌は、副腎を刺激してホルモンの産生量を増加させる物質を分泌し、その結果、脱力、体重増加、高血圧などの症状が起こることがあります(クッシング症候群)。

また、肺小細胞癌が抗利尿ホルモンを分泌し、水分の貯留、ナトリウム濃度の低下、脱力、錯乱、発作が起こる場合もあります。

 

固形腫瘍や白血病の患者では、血液中のカルシウム濃度が非常に高くなることがあります(高カルシウム血症症候群)。癌がホルモン様物質を血液中に分泌し、その作用で骨からカルシウムが放出されると、こうしたカルシウム濃度の上昇が起こります。また、癌が直接骨に浸潤してカルシウムを血流に放出する場合もあります。血液中のカルシウム濃度が高くなると、錯乱や昏睡が起こり、ときには死に至ることもあります。

他のホルモンの産出過剰により、紅潮、喘鳴(ぜんめい)、下痢、心臓弁膜症などのカルチノイド症候群も引き起こされます。

 

その他の症候群:

多発性筋炎では、筋肉の炎症による筋力低下や筋肉痛が起こります。多発性筋炎で皮膚の炎症を伴うものは、皮膚筋炎と呼ばれます。

 

肺癌患者に肥大性骨関節症が起こることがあります。この症候群では、指やつま先の形状が変化し、一部の関節に痛みを伴う腫れが生じます。

 

肺癌

 

肺癌の原因として最も多いのが喫煙です。

よくみられる症状の1つが持続性のせきです。

肺癌の大部分は胸部X線検査で発見できますが、他の画像検査や生検をさらに行う必要があります。

肺癌の治療では、手術、化学療法、標的療法、放射線療法のすべてが使用されることがあります。

男女ともに、癌による死亡の中で最も多い原因が肺癌です。肺癌は45~70歳に最も多くみられ、この数十年で、女性の喫煙者が増えたため、女性の患者が多くなってきています。

肺の細胞が起源となる癌は、原発性肺癌と呼ばれます。原発性肺癌は、気管から分かれて肺につながる気道(気管支)や肺にある小さな空気の袋(肺胞)に発生することがあります。別の場所に発生した癌が肺に転移することもあり、乳房、結腸、前立腺、腎臓、甲状腺、胃、子宮頸部、直腸、精巣、骨、皮膚などから転移した癌が最もよくみられます。

肺癌の主な分類として、次の2つがあります。

 

非小細胞肺癌:

肺癌の約85~87%が、この分類に入ります。この肺癌は、小細胞肺癌よりもゆっくりと増殖します。それでも、患者の約40%では、診断を受けた時点で、すでに胸部以外の場所に癌が広がっています。非小細胞肺癌の中で最もよくみられるタイプは、扁平上皮癌、腺癌、大細胞癌です。

 

小細胞肺癌:

この肺癌は燕麦細胞癌とも呼ばれ、すべての肺癌のうち13~15%を占めています。きわめて侵攻的で、急速に広がります。ほとんど患者が診断を受けた時点で、すでに別の場所に癌が転移しています。

 

原因

肺癌の原因としては喫煙が最も多く、肺癌全体の約85%に該当します。全喫煙者(過去現在を問わない)の約10%が最終的に肺癌になり、喫煙したタバコの本数と喫煙年数のいずれも肺癌になるリスクの増加に関係していると考えられています。禁煙した場合は、肺癌になるリスクが低下しますが、まったく喫煙したことのない人よりは高いリスクが続きます。

肺癌になった患者の約15%は、まったく喫煙したことのない人です。このような人に肺癌が発生する理由は明らかではありません。最新の研究では、まったく喫煙したことのない肺癌患者の中には、上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子の突然変異がみられる人がいることが明らかになっています。環境との関連性については、明確に確立されているわけではありませんが、家庭にあるラドンガスにさらされることが危険因子だと考えられています。他に考えられる危険因子には、受動喫煙や、職場で触れたり吸いこんだりするアスベスト、放射線、ヒ素、クロム酸塩、ニッケル、クロロメチルエーテル、マスタードガス、コークス炉排出物などの発癌物質があります。こうした物質にさらされた人で、かつ喫煙者の場合は、肺癌になるリスクがより高くなると考えられています。大気汚染や葉巻の煙にも発癌物質が含まれており、このような物質にさらされると癌になるリスクが高まります。まれに、結核などの別の肺疾患によって肺が瘢痕化した患者に、肺癌、特に腺癌や細気管支肺胞上皮癌(腺癌の一種)がみられることがあります。

 

症状

肺癌の症状は、癌のタイプや発生部位、広がり方によって異なります。多くみられる症状の1つは持続性のせきですが、慢性のせきがある人では、せきの特徴に変化がみられる場合もあります。せきとともに血を吐く人や、血液が付着したたんがでる人もいます。まれに、肺癌が内在する血管の中まで増殖して、重度の出血を引き起こすこともあります。その他に、肺癌に特有な症状ではない食欲不振、体重減少、疲労感、胸痛、脱力感などがみられます。

 

合併症:

肺癌により気道が狭くなって、喘鳴が聞かれることがあります。また、腫瘍によって気道がふさがれると、その気道につながる肺の一部がつぶれて、無気肺という状態になることもあります。その他に、気道閉塞の結果として息切れや肺炎がみられ、せき、発熱、胸痛が生じることもあります。腫瘍が胸壁の中まで増殖すると、和らぐことのない胸痛が持続することがあります。癌細胞を含む液体が肺と胸壁の間にたまる胸水がみられることがあります。胸水の量が多いと、息切れを起こすことがあります。癌が肺全体に広がると血液中の酸素濃度が低下することになり、息切れを起こし、最終的には心臓の右側が肥大化して心不全の可能性が高まります。

肺癌が首にある神経まで増殖すると、まぶたが垂れ下がる、瞳孔が縮む、目が落ちくぼむ、顔の片側の汗が減少するなどの症状が現れることがあり、これらの症状をまとめてホルネル症候群と呼びます。肺の上部にある癌が腕につながっている神経まで増殖すると、腕の痛みや麻痺、筋力低下などの症状が現れることがあります。この部分にできた腫瘍は、パンコースト腫瘍とよく呼ばれています。腫瘍が胸部の中心にある神経まで増殖すると、発声器につながる神経が損傷を受けてしわがれ声になることがあります。

肺癌が食道の中や食道の近くまで増殖すると、嚥下が困難になったり、飲み込むときに痛みを感じることがあります。

肺癌が心臓の中や胸部中央(縦隔)領域まで増殖すると、不整脈、心臓を流れる血流の妨害、心臓を取り囲む袋(心膜嚢)内の液体貯留などが生じます。

肺癌が胸部にある大静脈の1つ(上大静脈)まで増殖したり、これを圧迫したりすることがあり、この状態は上大静脈症候群と呼ばれます。上大静脈が閉塞すると、上半身にある他の静脈に多くの血液を流して補おうとします。そのため、胸壁にある静脈が拡張します。顔や首、胸壁上部(乳房を含む)が腫れて、痛みを生じることがあります。また、息切れ、頭痛、視覚異常、めまい、眠気などの症状も現れることがあります。これらの症状は、一般に前かがみになったり横になったりすると悪化します。

肺癌が血液の流れに乗って、他の場所へ転移することもあり、肝臓、脳、副腎、脊髄、骨への転移が最もよくみられます。特に小細胞肺癌では、癌の経過の初期から転移することがあります。なんらかの肺の障害が明らかになる前に、頭痛、錯乱、けいれん発作、骨痛などの症状が現れて、早期の診断をさらに複雑にすることがあります。

 

腫瘍随伴症候群は、癌によって引き起こされるものの、神経や筋肉といった癌自体から離れた場所にさまざまな影響が現れます。このような腫瘍随伴症候群は、肺癌の大きさや位置には関係なく、必ずしも肺癌が胸部の外へ広がっていることを示すものではありません。その発生原因は、癌が分泌する物質(ホルモン、サイトカイン、その他のさまざまなタンパク質)によるものです。

 

診断

患者、特に喫煙者に、せきやその他の肺の症状(息切れや、せきに伴って出たたんに血が混じっているなど)の持続や悪化がみられる場合、医師は肺癌の可能性について調べます。通常は、最初に胸部X線検査を行うことで、ほとんどの肺腫瘍が発見できますが、腫瘍が小さい場合は見落とすこともあります。ときには、手術前などの別の理由で実施した胸部X線検査で発見された陰影が、診断の最初の手がかりになることがありますが、そのような陰影は癌の証拠になりません。

CT(コンピュータ断層撮影)検査を次に行うこともあります。CT検査では特徴的なパターンがみられるため、医師の診断に役立ちます。また、胸部X線検査では判別できない小さな腫瘍も確認できるとともに、胸の内部にあるリンパ節の腫大の有無も明らかにできます。最新の検査法として、PET(ポジトロン放射断層撮影)やヘリカル(らせん)CTがあり、小さな癌の検出能力が向上しつつあります。癌専門医は、癌が疑われる患者の検査に、1台の検査装置にPETとCTの技術を取り入れたPET-CT検査を頻繁に利用します。CT検査またはPET-CT検査で十分な情報が得られなかった場合は、MRI(磁気共鳴画像)検査を利用することもできます。

肺癌の診断を確定するには、通常、癌と疑われる部分から採取した肺組織の顕微鏡検査が必要です。まれに、せきに伴って吐き出されたたんから、喀痰細胞診と呼ばれる検査に十分な材料が得られることもあります。しかし、ほとんどの場合は、腫瘍から直接組織サンプルを採取する必要があります。この場合の組織サンプルの採取によく使用される方法に、気管支鏡検査があります。この方法では、患者の気道が直接観察できるとともに、腫瘍サンプルを採取することもできます。癌が太い気道のかなり奥にあって気管支鏡が届かない場合は、通常、CTを利用して位置を確認しながら、皮膚から針を挿入してサンプルを採取することがあります。この方法を針生検と呼びます。場合によっては、開胸術という外科手術でしか、サンプルが採取できないこともあります。医師は縦隔鏡検査を実施することもあり、この方法で胸部の中央から腫大したリンパ節のサンプルを採取する生検を行って、腫大の原因が炎症なのか癌なのかを調べます。

顕微鏡検査で癌が特定されると、通常はさらに検査を行って、癌が広がっていないか調べます。PET-CT検査と頭部画像検査(脳のCT検査またはMRI検査)を実施して、特に肝臓、副腎、脳などに肺癌が転移していないか調べることもあります。PET-CT検査が利用できない場合は、胸部、腹部、骨盤のCT検査とともに骨スキャン検査を実施します。骨スキャン検査により、癌が骨に転移していることが明らかになることがあります。小細胞肺癌は骨髄に浸潤することがあるため、場合によっては骨髄生検も行います。

肺癌は、腫瘍の大きさ、近くのリンパ節への転移の有無、離れた臓器への転移の有無を基に分類されます。肺癌の病期を判定するため、さまざまな分類法が使用されています。肺癌の病期によって、最適な治療法を決定し、患者の予後(今後の見通し)を推定することができます。

 

スクリーニング検査:

症状がまったくない人を対象に、肺癌を発見するスクリーニング検査の有効性を判定する臨床試験が実施中です。これらの試験では、肺癌を初期の段階で発見するために、胸部X線検査、CT検査、喀痰検査など、すべての方法が使用されます。しかし、現時点では、スクリーニング検査によって肺癌発見率が改善するとはいえないため、危険因子も症状もない人には勧められません。検査には費用がかかるものもあり、偽陽性の結果が出ると、癌があるという誤った不安を引き起こすこともあります。また、その逆もあり、癌が実際にあるにもかかわらず、スクリーニング検査で陰性の結果が出ることもあります。このような理由から、医師にとっては、スクリーニング検査を実施する前に、個人ごとに特定の癌になるリスクを正確に判定するように努めることが重要です。

 

予防と治療

肺癌の予防には、禁煙や、職場環境で発癌性物質にさらされないようにすることなどがあります。

小細胞肺癌と非小細胞肺癌のいずれでも、医師はさまざまな治療法を使用します。手術、化学療法、放射線療法を単独で使用したり、併用したりすることができます。適正な併用療法は、肺癌のタイプや位置、重症度、転移の有無、患者の全般的な健康状態などによって異なります。たとえば、進行した非小細胞肺癌の患者では、手術で摘出する前や後、または手術の代替として、化学療法と放射線療法を治療に含めることがあります。非小細胞肺癌の患者では、化学療法や放射線療法、または最新の標的療法によって、かなり長く生きられる場合もあります。標的療法には、肺腫瘍だけを標的とした生物学的製剤などの薬があります。最新の研究では、癌細胞の中や、癌細胞に栄養を供給している血管内にあるタンパク質がいくつか確認されています。これらのタンパク質は、癌の増殖や転移を制御したり、促進したりすることに関与している可能性があります。癌細胞に異常に多くみられるタンパク質だけに作用し、癌細胞を殺傷したり、増殖を阻止したりする能力をもった薬が開発されています。たとえば、従来の化学療法では効果がみられない患者に対して、上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害薬が投与されることがあります。また、患者によっては、標準の化学療法と併用して、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)阻害薬やVEGF受容体阻害薬が投与されることもあります。

レーザーを利用して肺腫瘍を取り除いたり、小さくしたりするレーザー療法や、光線を利用して腫瘍を小さくする光力学療法が、使用されることがあります。腫瘍が小さい患者や手術が受けられない患者では、電流を利用して腫瘍細胞を破壊する高周波焼灼術が使用されることもあります。

 

手術:

手術は、非小細胞肺癌で肺の外へ広がっていない早期癌に対して選択される治療法です。一般に、小細胞肺癌は侵攻性の癌で、化学療法や放射線療法が必要なことから、早期癌でも手術は使用されません。また、癌が肺の外へ広がっている場合や気管に近すぎる場合、癌以外の重篤な疾患(重度の心疾患や肺疾患など)がある場合などでは、手術ができないこともあります。

医師は、手術に先立って肺機能検査を行い、手術後に残った肺で十分な酸素を供給して呼吸機能を維持できるかどうかを判断します。検査の結果、肺の癌化した部分の切除によって肺機能不全に陥ると判断される場合、手術はできません。切除する肺の範囲は手術担当医の判断で決められ、肺の区域の一部分から片肺全体まで、さまざまな場合があります。

非小細胞肺癌は、手術で取りきれることがありますが、必ずしも治癒するわけではありません。手術後にさらに補助(アジュバント)化学療法を行うことで、生存率が改善する可能性があります。

場合によっては、他の場所(結腸など)で発生して肺へ転移した癌を、原発巣の切除後に切除することもあります。この治療法が勧められることはまれで、転移した癌が肺以外に広がっていないことを検査で明らかにする必要があります。

 

放射線療法:

放射線療法は、非小細胞肺癌と小細胞肺癌のいずれにも使用されます。手術を望まない患者、別の病気(重度の冠動脈疾患など)があるため手術が受けられない患者、癌がリンパ節などの肺近くの組織に広がっている患者に対して、放射線療法を行うことがあります。癌を治療するために放射線療法を用いますが、患者によっては、癌が部分的に小さくなっただけ、あるいは癌の増殖が遅くなっただけという場合もあります。このような患者では、放射線療法に化学療法を併用することで生存率が改善します。化学療法に対する反応が良好な限局期または進展期の小細胞肺癌の患者では、脳への転移を予防する頭部への放射線療法が有益な場合があります。すでに脳に転移している場合は、頭痛、錯乱、けいれん発作などの症状を緩和するために、脳への放射線療法がよく使用されます。放射線療法は、喀血、骨痛、上大静脈症候群、脊髄圧迫など肺癌の合併症を抑える効果もあります。

 

化学療法:

化学療法は、非小細胞肺癌と小細胞肺癌のいずれにも使用されます。小細胞肺癌では、化学療法が中心となる治療法で、場合によって放射線療法と併用されます。小細胞肺癌は侵攻性で、診断時にはすでに体の離れた場所に転移していることが多いため、この化学療法が選択されます。進展期の肺癌患者では、化学療法により生存期間が延長することがあります。治療しなければ、生存期間の中央値はわずか6~12週間です。

非小細胞肺癌でも、化学療法により生存期間が延長し、症状を治療します。体の他の場所に転移した非小細胞肺癌の患者では、治療することで生存期間の中央値が9カ月に延びます。標的療法でも、肺癌患者の生存期間が改善することがあります。

 

その他の治療法:

肺癌の患者では、その他の治療法が必要になることもよくあります。肺癌患者の多くは、治療を受けたかどうかにかかわらず肺機能が著しく低下しているため、酸素療法や気管支拡張薬(気道を広げる薬)の投与により呼吸の補助を行うことがあります。進行した肺癌患者の多くは、激しい痛みや呼吸困難のため、死亡する数週間から数カ月前には大量のオピオイドが必要です。幸いなことに、適量のオピオイドを使用することで、痛みをかなり緩和することができます。

 

予後(経過の見通し)

肺癌の予後は良くありません。平均すると、進行した非小細胞肺癌の患者で治療しない場合の生存期間は6カ月です。治療した場合でも、進展期の小細胞肺癌の患者や進行した非小細胞肺癌の患者は特に見通しが悪く、5年生存率は1%に達しません。早期診断により生存期間が改善します。早期の非小細胞肺癌の患者では、5年生存率が60~70%です。しかし、早期の肺癌を確実に治療して命が助かった人でも、喫煙を続けていれば、別の肺癌を発症するリスクが高くなります。

生存者は、胸部X線検査やCT検査などにより定期的に診察を受けて、肺癌が再発していないか確認しなければなりません。通常、肺癌が再発する場合は、2年以内に現れます。しかし、肺癌の治療終了から5年間は診察を頻繁に受け、その後は生涯にわたって年に1回は診察を受けることが勧められます。

多くの人が肺癌により死亡するため、通常は終末期のケアを計画する必要があります。終末期のケアは進歩しており、特に、治る見込みのない肺癌の患者には不安や痛みが一般的にみられること、また、そのような症状は適切な薬によって緩和できることが広く認識されるようになり、ホスピスサービスを利用してもしなくても、自宅で安らかな死期を迎えられる患者がますます多くなってきています。

 

 

肺腫瘍

 

 肺腫瘍は、肺(気管支を含む)から発生したもの(原発性肺腫瘍と呼びます)と、他の臓器に発生したものが肺に転移したもの(転移性肺腫瘍)に大別されます。  肺から発生する腫瘍のうちで、悪性のものが「肺癌」です。肺に発生したがんを「原発性肺癌」といい、他の内臓に発生した悪性腫瘍が肺に転移したものは、「転移性肺腫瘍」または「転移性肺癌」といいます。

 肺にはいろいろな種類の悪性腫瘍が発生しますが、その大半は肺癌です。肺癌は、気管支や肺をおおっている細胞(上皮細胞)から発生するものです。一方、上皮以外の細胞から発生するものに、悪性リンパ腫、がん肉腫、肺芽腫、悪性黒色腫などがあります。肺がんは、小細胞肺癌と非小細胞肺癌に大別されます。肺癌全体の約10〜15%が小細胞肺がん、残る85〜90%が非小細胞肺がんです。小細胞肺癌と非小細胞肺癌とでは、病気の特徴や薬の効きめが大きく異なっています。両者をきちんと区別することで、治療法を決めたり、予後(肺がんが治るかどうか)を予測します。小細胞肺癌は、増殖のスピードが速く、見つかった時にはすでに他の臓器へ転移していることが多い、極めて悪性度の高いがんです。その反面、抗癌薬や放射線が比較的よく効きます。したがって、多くの場合、手術ではなく、抗癌薬や放射線で治療を行います。 非小細胞肺癌は、小細胞肺がんに比べると増殖のスピードは若干遅いものの、抗癌薬や放射線が効きにくいがんです。早期に見つかり手術で完全に取り除くことができれば、十分に治る見込みがあります。

 癌は、遺伝子異常の蓄積によって生じます。遺伝子に異常を与える刺激の代表的なものは、発がん物質、放射線、紫外線、慢性の炎症などです。 肺がんの原因の第一はたばこです。

 

治療の方法

 肺癌の治療法は、細胞型と進行度で決められます。細胞型というのは、前述の小細胞肺癌か非小細胞肺癌かということです。

 

(1)小細胞肺癌の治療  

 悪性度の高い小細胞肺癌の進行度は、癌が片方の胸部だけに限られている限局型と、それを越えて進んでいる進展型に分けられます。治療をしなかった場合の余命は、限局型で6カ月、進展型では2〜3カ月にすぎません。 限局型小細胞肺癌の治療は、放射線療法と、シスプラチン・エトポシドという2つの抗癌薬による化学療法を同時に併用することが標準的になっています。

 

(2)非小細胞肺癌の治療  

 非小細胞肺癌の治療は、I、Ⅱ期のいわゆる早期肺癌では手術(または手術と抗癌薬の併用療法)が、Ⅲ期の局所進行期癌では抗癌薬と手術または抗がん薬と放射線の併用療法が、IV期の進行期がんでは抗癌薬が使用されます。I期では60〜80%程度、Ⅱ期では40〜50%程度が治ります。Ⅲ期の一部は手術できることがありますが、治癒の見込みは15〜30%程度、手術不能のⅢ期では、標準的な治療を受けた場合で10〜15%程度です。Ⅲ期の場合、手術可能例では術前に抗癌薬を投与することで治癒の見込みが高くなることがわかっています。手術不能例では、放射線療法と抗癌薬の同時併用療法が優れているということが確立しています。Ⅳ期の進行期肺癌では、治癒を期待するのは極めて困難です。ただし、抗癌薬の使用によって延命効果とQOL(生活の質)の改善が得られることが明らかになっています。

 

 障害年金の審査では、日常生活がどれだけ制限されているのかが判断されます。  診断書には全身衰弱、倦怠感、発熱、痛み、易感染症など、癌による(または薬の副作用による)症状がある場合は、すべて記入してもらいましょう。  癌が複数の部位に転移している場合は、「骨、肝臓、卵巣に転移」といった文言を入れてもらうことも大切です。

 

 

 

腎臓癌

 

 腎臓癌は初期のうちは症状がほぼ無いというのが特徴です。進行し、癌の大きさが直径5cm以上になってくると症状が現れ始めます。中でも一般的とされている三大症状が、血尿、背中や脇腹・腹部の疼くような痛み、そして腹部や脇腹にできるしこりです。その他にも食欲の減退や体重の減少、全身のだるさや発熱、貧血、また、水腎症という溜まった尿で腎臓が拡張する症状等が出る場合もあります。中でも代表的な症状が血尿で、約5割の腎臓癌患者に見られると言われています。初期は目で見てわからない程度ですが進行してくると肉眼でもわかるくらいの血尿が出ることがあります。血尿の出る出ないを繰り返しつつ、腎臓癌の症状が進んでいくケースが多くなっています。

また、初期段階での発見が難しい為、肺や骨、肝臓などへ転移してから気付く事例が非常に多いのも特徴です。

 

予後(経過の見通し)

予後(経過の見通し)には数多くの要因が関与していますが、癌が腎臓にとどまっている場合の5年生存率は85%以上となります。一方、癌が腎静脈か大静脈まで広がっているものの遠隔転移には至っていない場合の5年生存率は35~60%で、遠隔転移を来した場合の5年生存率は10%以下です。

 

 腎臓癌の予防としては、そのリスク要因である喫煙と肥満を防ぐこと、つまりは禁煙と食事管理等がまず考えられます。また、高血圧も腎臓癌を発症するリスクが高まる要因と言われている為注意が必要と考えられます。また、早期発見の為に、特に症状がなくても定期的に検診等を受け体のチェックをすることが重要です。中でも腎臓癌発症リスクの高い人工透析を受けている方は意識して検査や人間ドックを受けるべきだと考えられます。

 

治療

癌が腎臓の外部に広がっていなければ、手術で腎臓を摘出することによって、ある程度の割合で治癒が見込まれます。あるいは、腫瘍組織とその周辺部の正常組織だけを切除して、腎臓の残りの部分を温存する手術法もあります。

癌が腎静脈や大静脈(心臓に血液を送りこむ太い静脈)などの周辺部位に広がっていても、腎臓から離れた部位に転移していない場合には、手術による治癒の可能性が残されます。ただし、腎癌には早い段階で転移する傾向があり(特に肺)、何らかの症状が現れる前にすでに転移している場合もあります。離れた部位に転移した腎癌の病巣は転移してすぐの時点では発見できない場合もあるため、発見できた腎癌の病巣を手術ですべて取り除いた後になって転移が明らかになることもあります。

 

一部の種類の癌では、免疫系の機能を高めて癌を破壊させる治療法によって病変を縮小できる場合があり、それにより生存期間を延ばすことができます。腎癌には、そのような治療法の一種であるインターロイキン-2が使用されています。インターロイキン-2とインターフェロンの様々な組み合わせや、その他の生物製剤、さらには腎癌の組織から分離された細胞を原料として作られるワクチンなどが研究されています。これらの治療法は遠隔転移を起こした腎癌(転移性腎癌)にも役立つ可能性がありますが、通常は得られる便益は小さなものです。転移性腎癌に対する治療法としては、スニチニブ、ソラフェニブ、テムシロリムスなどの薬剤が最近になって開発されました。これらの薬剤を用いた治療法は、腫瘍に影響を及ぼす一連の分子群の働きを変えることから、分子標的療法と呼ばれています。まれに(1%未満)、癌が発生した腎臓を摘出することで、体内の別の部位に転移した腫瘍が縮小することがあります。

 

 

肝癌

 

 肝癌とは肝臓にできる悪性腫瘍の総称です。

 肝癌は肝臓そのものにできた「原発性肝がん」と別の臓器から転移した「転移性肝がん」に大別されます。

肝臓がんは最も初期症状が出にくいがんの一つと言われています。「沈黙の臓器」とも言われるほど非常に丈夫な臓器で、少々異常がでても機能低下が起こりにくい構造となっています。肝臓はエネルギー代謝や解毒作用と生命維持に重要な働きを担っています。そのため少々の異常に対する予機能が備わっています。そのため、がんが小さい状態では特に症状がでることはなく、早期発見が難しい病気です。さらに肝臓が大きな臓器であり、痛みを感じる知覚神経がないことも影響しています。

 

 肝がんの治療は手術による外科治療、ラジオ波をつかって患部をやく焼灼療法、肝臓への栄養供給を止めて肝がんを死滅させる肝動脈塞栓療法が代表的な治療法となります。

 手術以外の効果的な方法の1つとして、ラジオ波をつかった焼灼療法があります。肝がんに対するラジオ波焼灼療法の適応範囲は腫瘍の長径3センチ、3個以内が一般的です。安全に無痛で終わる治療として近年注目されている比較的新しい治療法です。肝動脈塞栓療法はがんに栄養を運んでいる血管を人工的にふさいでがんを死滅させる方法でその他の治療法より適応範囲が広く、多くの肝がん患者が受けられます。

 

 

原発性肝癌

 

原発性肝癌は肝臓から生じる癌です。

最もよくみられる原発性肝癌は肝細胞癌です。肝臓癌の初期には、通常、漠然とした症状(体重減少、食欲不振、疲労感など)しかみられません。そのせいで診断が遅れることがよくあり、多くの場合、予後(経過の見通し)は不良です。

 

 

肝細胞癌

肝細胞癌は、肝細胞から生じる癌です。

B型肝炎やC型肝炎、過剰なアルコール摂取は、肝細胞癌の発生リスクを高めます。

腹痛や体重減少がみられるほか、右上腹部に大きなかたまりが感じられることがあります。

血液検査と画像検査の結果に基づいて診断します。

肝細胞癌は早期に診断された場合を除き、通常は致死的です。

肝細胞癌は、肝臓に由来する癌の中で最も多くみられます。通常、この癌は肝臓が重度に瘢痕化している人に発生します。

このウイルスが体内に存在していると、肝細胞癌のリスクは100倍以上に増大します。B型肝炎から肝硬変が生じる場合がありますが、肝硬変の有無や慢性感染か否かにかかわらず、B型肝炎は肝細胞癌につながる可能性があります。慢性C型肝炎による肝硬変も肝細胞癌のリスクを増大させます。

 

肝細胞癌は癌の原因物質(発癌物質)にさらされることで発生する場合があります。肝細胞癌が多い亜熱帯地域では、ある種のカビがつくるアフラトキシンという発癌物質による食物の汚染がよくみられます。

 

症状

最初に現れる症状は腹痛や体重減少で、右上腹部に大きなかたまりが感じられることがあります。また長年にわたって肝硬変を患っている患者は、予期しない症状悪化に見舞われることがあります。ときに発熱も起こります。肝細胞癌の破裂や出血による突然の腹痛やショック(危険なレベルの低血圧)が、最初の症状になる場合もあります。

ときに、肝細胞癌は特定の物質の体内でのプロセスに干渉します。たとえば、肝細胞癌が原因で、血液中の糖の低値(低血糖症)、カルシウムの高値(高カルシウム血症)、脂肪の高値(高リポタンパク血症)が生じることがあります。

 

予後(経過の見通し)

肝細胞癌と診断された大半の人の余命は2、3年以内です。スクリーニング検査を受け、癌が早期に発見された場合は、予後は良好です。

 

治療

治癒が見込める治療は、肝臓移植または肝細胞癌の手術による切除だけです。ただし、肝細胞癌を手術で切除してもしばしば再発します。さらに、肝硬変を患っている人の場合、肝臓の損傷が大きすぎるために肝細胞癌を切除できない場合があります。

移植または手術が不可能な場合や、肝臓移植を待機している人の場合は、肝細胞癌の増殖を遅らせ、症状を軽減するための治療が行われます。たとえば、肝細胞癌につながっている血管に粒子状の物質を注入し、肝細胞癌への血液供給を遮断します(選択的肝動脈塞栓術)。その結果、肝細胞癌は縮小します。また、凍結(冷凍アブレーション)や電気エネルギー(高周波焼灼術)を肝細胞癌に直接当てて、癌細胞を破壊する場合もあります。これらの治療法は、すべての癌細胞を破壊できるわけではありません。

化学療法薬は、静脈に注入する以外に、肝臓内の癌細胞に高い濃度で直接到達するよう、肝動脈に注入する場合があります。化学療法薬は、肝細胞癌の増殖を一時的に遅らせる効果があります。

通常、放射線療法は効果がありません。

 

 

 

転移性肝癌

 

転移性肝癌は、体のどこかの部位に生じた癌が肝臓に広がったものです。

 

初期症状は多くの場合、漠然としています。体重減少や食欲不振のほか、ときに発熱が生じます。一般に、肝臓は腫大し硬くなります。触診では圧痛が生じ、ごつごつした表面が感じられることもあります。脾臓が腫大することがあり、特に癌が最初に膵臓で発生した場合にみられます。最初のうちは、癌が胆管をふさいでいなければ、黄疸(皮膚や白眼の部分が黄色くなる症状)はないか、あっても軽度です。癌が進行すると、腹腔に体液がたまって腹部が膨張します。

終末期の数週間は、次第に黄疸が悪化します。肝臓が大きな損傷を受けて血液中の毒物を除去できなくなった結果、脳に毒素が蓄積し、錯乱や眠気が生じる場合があります。この病態は肝性脳症と呼ばれています。

 

治療

治療は、原発癌がなにでどのくらい広がっているかによって異なります。以下の治療選択肢があります。

 

化学療法薬:

腫瘍を一時的に小さくし、延命を図るために薬を使用しますが、この方法で癌が治癒することはありません。化学療法薬は、肝臓内の癌細胞に高い濃度で直接到達するように、肝臓の主要な動脈(肝動脈)に注入することもできます。

 

肝臓に対する放射線療法:

時には激しい痛みを緩和しますが、それ以外の効果はほとんどありません。

 

手術:

肝臓内にみられる腫瘍が1つまたは少数で、特に腸管の癌から転移した場合は手術で切除します。ただし、この手術の価値については専門家の間でも異論があります。

 

癌が広範囲に転移している場合、医師はおそらく症状を軽減することしかできません。治療方針に関して決定ができなくなる場合に備えて、患者本人があらかじめ事前指示書を作成し、どのような治療を望むかを明らかにしておくとよいでしょう。

 

 

 

リンパ腫

 

リンパ腫とは、リンパ系および造血器官に存在するリンパ球の癌です。

リンパ球として知られている特定の白血球の癌がリンパ腫です。これらのリンパ球は、感染を防ぐ役割を担っています。リンパ腫は、Bリンパ球やTリンパ球のいずれの細胞からも発生する可能性があります。Tリンパ球は免疫系の調節やウイルス感染に対する防御に重要です。Bリンパ球は抗体を産生します。

 

リンパ球は、血管に入って流れたり、リンパ管と呼ばれる管状の通路の網を流れたりして、全身を循環しています。リンパ管の全身の網の目に点在しているのがリンパ節という器官で、そこにはリンパ球が集まっています。癌化したリンパ球(リンパ腫細胞)は、1つのリンパ節に限局していることもあれば、リンパ節以外の骨髄や脾臓など、事実上すべての臓器に拡がることもあります。

 

リンパ腫は大きく分けて、ホジキンリンパ腫(以前はホジキン病として知られていた)と非ホジキンリンパ腫の2種類があります。非ホジキンリンパ腫の方がホジキンリンパ腫より多くみられます。バーキットリンパ腫と菌状息肉腫は、非ホジキンリンパ腫の一形態です。

 

 

悪性リンパ腫

 

 悪性リンパ腫は全身のリンパ節やリンパ組織に発生する癌です。ホジキン病と非ホジキンリンパ腫に分けられますが、日本では非ホジキンリンパ腫がほとんどです。

 3〜10歳の発病が過半数を占め、女児よりも男児に多くみられます。

主に首や、縦隔、腹部に多く発生します。体の表面近くのリンパ節がはれてくることが多いのですが、腫瘍の発生する場所によって症状が異なります。縦隔では、胸部X線検査でたまたま発見されることもあります。

 

症状の現れ方  首、腋(わき)の下、足のつけ根などのリンパ節から発生した時はグリグリとしたしこりができますが、痛みはありません。そのほか、付近の臓器を圧迫してさまざまな症状を起こします。全身症状として発熱、夜間発汗、体重の減少などを伴うこともあります。ホジキン病は首の無痛性のしこりとして発生することが多く、隣接したリンパ節に転移していきます。非ホジキンリンパ腫は、全身のリンパ組織のどこからでも発生しますが、体表面のリンパ節のほか縦隔や腹部に多くみられます。縦隔の場合、初期はほとんど無症状で、腫瘍が大きくなると呼吸困難や顔面のむくみ、食べ物が飲み込みにくいといった症状が現れます。腹部では腸が圧迫されて腹痛、おなかが張るといった症状がみられます。

 

治療の方法  抗がん薬などの薬剤を組み合わせた化学療法が中心です。ホジキン病では、抗がん薬と放射線による治療が行われ、治療成績が向上しています。最近は、腫瘍の部位が限られている場合に放射線を照射しない治療も検討されています。非ホジキンリンパ腫では、がんの組織診断と病気の広がりによって最も適した化学療法が決められます。外科的治療や放射線照射は不要なことが多く、化学療法を優先します。

 

 

 

 

ホジキンリンパ腫

 

ホジキンリンパ腫は、リード・シュテルンベルク細胞と呼ばれる特殊な癌細胞が認められることで区別されるリンパ腫です。

発生原因はわかっていません。

リンパ節の腫大がみられますが、痛みは伴いません。

他にも、癌細胞が増殖している場所によっては、筋力低下、発熱、息切れなどの症状がみられます。

診断にはリンパ節の生検が必要となります。

治療には化学療法や放射線療法が用いられます。

ほとんどの場合、治癒が得られます。

ホジキンリンパ腫の原因は明らかではありません。人によっては、エプスタイン・バー(EB)ウイルスへの感染によってBリンパ球が癌化し、リード・シュテルンベルク細胞に転化することを示す有力な証拠があります。ホジキンリンパ腫になった人が複数いる家系が一部にはみられるものの、感染するわけではありません。

 

症状

通常、ホジキンリンパ腫の患者は、1ヵ所以上のリンパ節が腫大していることに気づくようになり、最も多い場所は首のリンパ節ですが、わきの下や足の付け根のリンパ節の場合もあります。普通は痛みを伴いませんが、飲酒すると数時間にわたって腫大したリンパ節に痛みが現れることもあります。

ホジキンリンパ腫になると、発熱、寝汗、体重減少がみられることもあります。かゆみを感じたり、疲労感を覚えることもあります。人によっては、ペル・エブスタイン熱といって、数日間にわたって高い熱が出た後、数日ないし数週間は平熱またはそれ以下に下がることを繰り返す異常な体温変化を示すことがあります。癌化した細胞が増殖している場所によっては、別の症状がみられることがあります。たとえば、胸のリンパ節が腫大すると、その部分の気道が狭くなり刺激されるため、せき、胸部の不快感、息切れなどの症状が出ます。脾臓や腹部のリンパ節が腫れた場合は、腹部に不快感が生じます。

 

ホジキンリンパ腫の症状

症状*

原因

赤血球が少なすぎる(貧血)ことから生じる脱力感や息切れ

白血球が少なすぎることから生じる感染や発熱

血小板が少なすぎることから生じる出血

骨の痛みと思われる症状

リンパ腫細胞が骨髄に浸潤している。

筋力低下

しわがれ声

リンパ節が腫大し、脊髄の神経や声帯の神経を圧迫している。

黄疸

リンパ腫細胞が肝臓からの胆汁の流れを妨げている。

顔や首、腕の腫れ(上大静脈症候群)

リンパ節が腫大し、頭から心臓へ戻る血液の流れを妨げている。

脚や足の腫れ(浮腫)

リンパ腫細胞が脚からのリンパ液の流れを妨げている。

せきや息切れ

リンパ腫細胞が肺に浸潤している。

感染を防ぐ能力が低下し、真菌感染症やウイルス感染にかかりやすい

リンパ腫細胞が拡がり続けている。

* これらの症状のいくつかは複数の原因により発生することがあります。

 

診断

明らかな感染はないが、痛みを伴わないリンパ節の腫大が数週間にわたって続いている場合は、ホジキンリンパ腫が疑われます。腫大に発熱、寝汗、体重減少を伴う場合は、ホジキンリンパ腫の疑いがさらに強まります。痛みを伴う急なリンパ節の腫大は、かぜをひいたり、感染症にかかると起こりますが、ホジキンリンパ腫ではあまりみられません。別の理由で行ったX線検査やCT(コンピュータ断層撮影)検査で、胸部や腹部の深い位置にあるリンパ節の腫大が偶然見つかることもあります。

血球数の異常や他の血液検査で、裏付けになる証拠が得られることがあります。しかし、診断を下すには、腫大したリンパ節の生検を実施して、異常の有無やリード・シュテルンベルク細胞の有無を調べなければなりません。リード・シュテルンベルク細胞は複数の核をもつ大型の癌細胞です。採取したリンパ節の組織を顕微鏡で調べると、特徴的な形をみることができます。

生検にはさまざまな方法があり、その選択は腫大しているリンパ節の位置と検査に必要な組織の量によって異なります。リンパ節腫大を生じる可能性がある非ホジキンリンパ腫、感染症、その他の癌などの別の病気をホジキンリンパ腫と鑑別できるように、十分な量の組織を採取しなければなりません。

十分な量の組織を確実に得るには、切除生検が最も適しています。これは、小さな切開創からリンパ節の一部を採取する方法です。腫大したリンパ節が体表面に近いところにある場合は、皮膚を通して中空の針をリンパ節に刺す方法(針生検)により、十分な量の組織を採取できることがあります。腫大したリンパ節が胸部や腹部の深い位置にある場合は、手術が必要になることもあります。

 

病期

治療を開始する前に、リンパ腫がどの程度まで拡がっているか(病期)を判定しなければなりません。治療法の選択や予後の予測は、病期に基づいて行われます。最初の検査では腫大したリンパ節が1つしか見つからなかった場合でも、病期診断でリンパ腫の広がりの有無や範囲を詳しく調べると、腫大したリンパ節がいくつも見つかることがあります。

ホジキンリンパ腫は、拡がりの程度によって4つの病期(ステージI、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳで、数値が大きいほどリンパ腫の拡がり程度が大きい)に分類されます。

この4つの病期は、次の症状がないか(A)、1つ以上あるか(B)によって、さらに細分化されます。

原因不明の発熱(連続3日間にわたって約37.5℃を超える)

寝汗

6ヵ月間で10%を超える原因不明の体重減少

 

たとえば、寝汗を伴うステージⅡのリンパ腫は、ステージⅡBのホジキンリンパ腫と呼ばれます。

 

ホジキンリンパ腫の病期分類や評価のために、いくつかの検査が行われます。標準的には、胸部X線検査や、胸部、腹部、骨盤のCT検査とともに、肝機能や腎機能の検査を含む基本的な血液検査が行われます。CT検査では、腫大したリンパ節や、肝臓などの臓器に拡がったリンパ腫を非常に正確に検出できます。

 

PET(ポジトロン放射断層撮影)検査は、ホジキンリンパ腫の病期判定や治療に対する反応の評価では最も高感度の検査法です。PET検査では生きた組織が識別できることから、この画像検査法を治療後に用いて、活性があるホジキンリンパ腫と活性がない瘢痕(はんこん)組織を判別することができます(ただし、PET検査では炎症箇所にも活性反応が現れることがあるため、常に正確とは限りません)。ホジキンリンパ腫では必ず化学療法が実施されるため、腫瘍がどこにあろうとも治療が行われることから、腹部まで拡がっているかどうか判定する手術を受ける必要はほとんどありません。

 

ホジキンリンパ腫の病期

病期

拡がりの程度

治癒*の見込み

ステージI

1つのリンパ節領域に限局される

80%を超える

ステージII

横隔膜の上方または下方のいずれかの側にある複数のリンパ節領域に浸潤がみられる(たとえば、首に腫大したリンパ節がいくつかあり、わきの下にもいくつかある場合)

80%を超える

ステージIII

横隔膜の上方と下方の両側にある複数のリンパ節領域に浸潤がみられる(たとえば、首に腫大したリンパ節がいくつかあり、脚の付け根にもいくつかある場合)

70~80%

ステージIV

リンパ節の他に、骨髄、肺、肝臓などにも浸潤がみられる

50%を超える

 

* 腫瘍が消えた状態で5年間生存。

リンパ節領域とは、リンパ液を排出するリンパ節群がある場所のことです。

 

治療と予後(経過の見通し)

ホジキンリンパ腫では、放射線療法を併用することもありますが、ほとんどの場合、化学療法により治癒が期待できます。

化学療法はいずれの病期でも使用されます。通常は1種類以上の化学療法薬が用いられます。いくつか併用するでしょう。化学療法の後に、病変部放射線療法(正常な組織を避けて、腫瘍がある場所にだけ放射線を照射する放射線療法)を追加する場合もあります。通常、治療は外来で行われ、約4週間続けられます。

ステージIまたはⅡの場合は、化学療法後に病変部放射線療法を受けることで、80%を超える人が治癒します。ステージⅢのホジキンリンパ腫の治癒率は70~80%です。ステージIVの治癒率は、他のステージほど高くはありませんが、それでも50%を超えています。

化学療法により治癒の可能性が非常に高くなりますが、重い副作用を伴うことがあります。化学療法薬は、一時的または永久的な不妊、感染のリスク増加、心臓や肺などの正常な臓器に対する潜在的損傷、回復可能な脱毛などを引き起こすことがあります。放射線療法を受けると、肺癌、乳癌、胃癌などの癌になるリスクが高まり、10年以上経ってから放射線を照射した領域内にある臓器に発生することがあります。ホジキンリンパ腫に対する治療が成功して何年も経ってから、実施した治療法にかかわらず非ホジキンリンパ腫を発症する場合もあります。

最初の治療で寛解(病勢が抑えられている状態)が得られたものの、しばらくして再発した(リンパ腫細胞が再び現れた)場合でも、再度の治療により治癒が期待できる場合もあります。再発した場合でも治癒率は50%以上です。最初の治療から12カ月以内に再発した場合の治癒率はやや低く、それより遅く再発した場合はやや高い傾向がみられます。最初の治療後に再発した場合、一般には「サルベージ(救援)」化学療法を行った後に大量化学療法を行います。大量化学療法に続けて、自身の幹細胞を使用する自家幹細胞移植を行う場合もあります。

幹細胞移植を伴う大量化学療法は一般に安全な治療法で、治療に関連して死亡するリスクは1~2%を下回っています。

 

 

非ホジキンリンパ腫

 

非ホジキンリンパ腫という疾患は、白血球の中にあるリンパ球が癌化し、腫脹や腫瘤の発生を伴う悪性リンパ腫の1種とされます。

反面、腫瘍になったリンパ球が骨髄の中で増殖し、血液の中を周る場合にはリンパ性白血病と言いますが、区別が困難な例もあります。腫れた組織を検査した時に大型の腫瘍細胞であるホジキン細胞やリードステルンベルグ細胞が見られる際にはホジキンリンパ腫と呼び、それらが見られない際に非ホジキンリンパ腫と呼ぶのが通常です。

国内ではホジキンリンパ腫の症例は1割程度と少なく、悪性リンパ腫の診断の大半が非ホジキンリンパ腫だとされます。リンパ節に発生することが多いとされてはいますが、身体中の様々な臓器に生じ得る疾患です。疑わしい症状は、脇・首・鼠蹊部と呼ばれる太腿の付け根辺りの部分・鼻の穴の中である鼻腔・顎部口腔等のリンパ節が腫れること(基本的に痛みは伴わない)、激しい寝汗や理由のわからない発熱、極度の疲労感や、体重の低下、かゆみ、胸や腹、骨の疼くような痛み等が考えられます。ですが、リンパ節の腫脹等は痛みを伴わなかったり、風邪やリンパ節炎、体調によっての発生もあり、状況によっては腫瘍が生じる頃は既に進行が進んでいる可能性も考えられます。

 

国内での悪性リンパ腫発症数はおよそ1万人とされ、その内9割程度は非ホジキンリンパ腫というのが通説なので、9千人程度と推定されます。ホジキンリンパ腫は2、30歳代の層によく見受けられますが、非ホジキンリンパ腫は、若者や子どもにも生じ得ますが傾向としては高齢者に多く、60代が山と言われ、双方併せた罹患者は年々増加していっているとされています。

 

非ホジキンリンパ腫の症状

症状

原因

呼吸困難

顔面の腫れ

胸部のリンパ節が腫れている。

食欲不振

重度の便秘

腹部の痛みや膨張

腹部のリンパ節が腫れている。

脚の進行性浮腫

脚の付け根や腹部のリンパ管が詰まる。

体重減少

下痢

鼓腸

腹部膨満やけいれん(栄養素が血液中に正常に吸収されない吸収不良を示す)

リンパ腫細胞が小腸に浸潤している。

息切れ

胸の痛み

せき(胸水と呼ばれる肺の周りに水がたまった状態を示す)

胸部にあるリンパ管が詰まる。

皮膚の一部が厚くなり色が黒ずんでかゆみを伴う

リンパ腫細胞が皮膚に浸潤している。

体重減少

発熱

寝汗

病変が体中に拡がっている。

疲労

息切れ

青白い皮膚(貧血、つまり赤血球が過剰に少なくなった状態を示す)

次の1つ以上に該当する:

消化管出血

脾腫または異常な抗体による赤血球破壊

リンパ腫細胞による骨髄浸潤や骨髄破壊

治療(薬物療法や放射線療法)による骨髄機能不全(十分な赤血球がつくれない)

重度の細菌感染症を起こしやすい

リンパ腫細胞が骨髄やリンパ節に浸潤し、抗体の産生が低下している。

 

治療と予後

潜行性リンパ腫では、人によっては治療の必要がない場合があります。それ以外では、ほとんどの人が治療により効果が得られます。侵攻性リンパ腫の場合は治癒が期待できます。潜行性リンパ腫で治療が必要な場合は、治療によって生存期間を延ばし、何年にもわたって症状を軽減します。治癒や長期生存の見込みは、非ホジキンリンパ腫のタイプや治療開始時の病期によって異なります。やや矛盾するようですが、潜行性リンパ腫は治療にすみやかに反応して寛解(病勢が抑えられた状態)が得られ、長期生存が可能になることが多い半面、治癒することは通常はありません。これとは対照的に、侵攻性非ホジキンリンパ腫では、寛解に至るまでには非常に強い治療が必要になるのが普通ですが、十分に治癒する可能性があります。

 

ステージIとステージⅡの非ホジキンリンパ腫:

病変がきわめて限局した潜行性リンパ腫(ステージIとステージⅡ)の治療では、多くの場合、放射線療法でリンパ腫とその周囲の領域に限定して照射します。この方法では、照射領域に再発がみられることはほとんどありません。治療から10年経過しても、体の他の部分に非ホジキンリンパ腫が再発することがあるため、経過観察を長期にわたって行う必要があります。ごく初期の侵攻性リンパ腫の治療では、併用化学療法が必要で、放射線療法を併用することもあります。この治療により70~90%が治癒します。

 

ステージⅢとステージⅣの非ホジキンリンパ腫:

潜行性リンパ腫は、ほぼすべてがステージⅢまたはステージⅣです。必ずしも最初から治療を行う必要はありませんが、最初の診断から、ときには数年にわたって経過観察を行い、リンパ腫が進行して治療が必要になっていないか調べます。かなり進行した病期の潜行性リンパ腫では、早期に治療を開始することで生存期間が延びるという証拠は得られていません。リンパ腫が進行し始めた場合でも、さまざまな治療選択肢があります。

 

最初にどの治療法を選択すれば最もよいか明らかではないため、治療法の選択は、病気の拡がり具合や症状によって変わります。治療法には、モノクローナル抗体(リツキシマブ)単独、化学療法単独、化学療法とリツキシマブの併用療法などがあります。このリツキシマブという抗体は静脈投与されます。モノクローナル抗体に他の物質を結合させることで、体のさまざまな場所にある癌細胞に放射性粒子や毒性化学物質を直接運ぶこともできます。普通は治療により寛解になります。平均的な寛解持続期間は2年から5年で、5年を超えることもあります。リツキシマブを化学療法と併用した場合は、寛解期間がさらに長くなります。維持化学療法(最初の化学療法の後に再発予防のために行う化学療法)や化学療法と放射免疫療法の併用の効果について、現在研究が行われています。

 

再発(リンパ腫細胞が再び現れた)後の治療法については、病気の拡がり具合や症状に応じて決定されます。非ホジキンリンパ腫が再発した場合は、放射免疫療法と呼ばれる一種の放射線療法も選択肢の1つとなります。初回の再発以降は、寛解期間が短くなる傾向があります。

進行したステージⅢまたはステージⅣの非ホジキンリンパ腫では、早急に化学療法薬を併用投与しますが、リツキシマブを加えることもよくあります。化学療法薬の中で有効と考えられる組合せが多くあり、使用されています。化学療法薬の組合せの多くは、含まれている薬のそれぞれの頭文字を並べた名前で呼ばれています。たとえば、最も古くから使われていて、現在でもよく使われている併用療法の1つは、CHOP療法(シクロホスファミド、[ヒドロキシ]ドキソルビシン、ビンクリスチン[オンコビン]、プレドニゾロン)として知られています。リツキシマブの追加によりCHOPの治療成績が向上したことが報告されており、現在ではごく普通にこの併用療法に追加されています(R-CHOP療法)。進行した病期の侵攻性非ホジキンリンパ腫では、R-CHOP療法による治癒率は70%を超えています。新しい薬の組合せによる併用療法が現在も研究されています。化学療法の多くは、さまざまな種類の血球の数を減少させますが、血球の増殖と成長を促進する増殖因子と呼ばれる特殊なタンパク質も一緒に投与すると、治療に十分耐えられる場合があります。

 

再発:

再発を起こした場合は、通常用量の化学療法ではきわめて限られた効果しか得られません。侵攻性リンパ腫が再発した人の多くが、化学療法薬の大量投与と自身の幹細胞を用いた自家幹細胞移植を受けています。この治療法では、50%までの人に治癒が期待できます。場合によっては、兄弟姉妹や非血縁者のドナーからの幹細胞(同種移植)を使用することもできますが、この移植法では、合併症のリスクがさらに大きくなります。

 

 

 

 

肝肉芽腫

 

肝肉芽腫は、特定の疾患が存在するときに形成される小型の異常な細胞塊です。

通常なら肉芽腫自体は問題を起こしませんが、肉芽腫を引き起こした疾患は問題を起こすことがあります。肉芽腫の原因はさまざまです。最もみられる原因は、薬物、感染症、全身に影響を与える特定の疾患、たとえば結核や住血吸虫症(ともに感染症)、サルコイドーシスなどです。

原発性胆汁性肝硬変でも肉芽腫が発生することがあります。

 

刺激に反応するため、または異物から体を守るために肝臓に免疫細胞が集まり、肉芽腫が形成されると考えられます。炎症が生じることがあり、広範囲に及ぶ場合、肝臓は機能不全を起こします。まれに、組織の線維化や門脈圧亢進症が生じます。

 

症状

通常、肉芽腫自体は症状を起こしません。ただし、肝臓がわずかに腫大し、軽度の黄疸(皮膚や白眼の部分が黄色くなる症状)がみられることがあります。その他の症状は、肉芽腫を引き起こした疾患によって生じます。サルコイドーシスによって起こる肉芽腫は、自然に消失するか、目立った症状がみられないまま何年も持続することがあります。

特発性肉芽腫性肝炎は、原因不明のまれな病気です。この病気では肉芽腫、発熱、筋肉痛、疲労が生じます。これらの症状は、しばしば長年にわたって断続的に発生します。

 

診断

医師は、肉芽腫の原因になりうる薬物の使用やその他の障害について質問します。さらに、肝機能を評価する血液検査のほか、超音波検査やCT検査、MRI検査などの画像検査も実施します。しかし、それらの結果だけでは決定的でなく、診断を確定するために、生検(針を使用して肝臓から小さな組織片を採取し、顕微鏡で調べる検査)が必要になります。原因の特定には、培養などの他の検査が必要になることもあります。

 

治療

原因となっている病気を治療します。薬物の使用を中止したり感染症を治療したりすることで、通常、肉芽腫は消失します。コルチコステロイド薬を使用してサルコイドーシスを治療することがありますが、それにより障害の進行が防止されるかどうかは不明です。

 

 

 

口にできる悪性腫瘍

 

癌は、口蓋、口腔の底部、舌、唇または扁桃などで発生します。

口にできる癌(口腔癌)は、潰瘍やびらんまたは変色が生じているように見えます。

口腔癌の診断は、生検やX線検査によって行います。

治療では、外科手術や放射線療法が行われます。

口腔癌はすべての癌の中で2%を超え、癌に関連する全死因の1.5%を占めています。体全体における口のサイズを考えるとこれは高い率であると考えられます。

 

早期に発見するほど治癒の可能性が高くなるため、身体検査や歯科健診を受けるときには口腔癌のスクリーニング検査も行うべきです。直径約1センチメートル以下の悪性腫瘍ならば、通常は治療可能です。しかし残念ながら、ほとんどの悪性腫瘍は、それ以上に大きくなってあごの下や首のリンパ節へ広がるまで診断されません。発見が遅れると口腔癌の25%は死に至ります。

 

危険因子

遺伝的要因については十分に解明されていませんが、一部の人が口腔癌を発症しやすくなる原因になっています。口腔癌において、自身でのコントロールが可能な2大危険因子は喫煙と飲酒です。タバコ(特に1日に2箱以上)、葉巻、パイプタバコ、噛みタバコ、歯や歯肉にすりつける嗅ぎタバコなどの喫煙による口腔癌が、口腔癌全体の80~90%を占めています。タバコと葉巻は口腔癌発症の危険因子として同程度の高い危険性があり、その次に危険性が高いのは噛みタバコとパイプタバコの喫煙です。

毎日の飲酒や大量の飲酒(特に1日に6杯以上)は、口腔癌のリスクを増大させます。喫煙と飲酒の両方を習慣的に行っている人は、当然どちらか1つだけの人よりも癌を発症しやすくなります。うがい薬に含まれるアルコールも口腔癌に対する危険性があることが確かめられています。したがって、喫煙や飲酒をする人は、うがい薬のラベルの成分表示をチェックして、アルコール分ができるだけ少ないものを選ぶようにします。

以前に口腔癌にかかったことがある人は、再発する可能性があります。遺伝的素因や癌治療に用いられる放射線照射も癌再発の一因となります。口腔癌の発症後も喫煙と飲酒を続けている人は、そうではない人たちと比べて再発の危険性が2倍以上になります(30%対12%)。

ある種のヒトパピローマウイルス(HPV)株も口腔癌発生の一因となります。これらのウイルスは生殖器いぼの原因となり、オーラルセックスで口に感染します。

その他の口腔癌の危険を増大させる原因として、欠けた歯や詰めもの、入れ歯などのとがった縁による刺激の繰り返しが考えられます。梅毒は、何年間も治療をせずに放っておくと、舌癌の危険性が高まります。この梅毒によって引き起こされる癌は、舌の先端にできる唯一の癌です。太陽光線によるダメージとタバコは口唇癌の原因となります。

口腔癌の約3分の2は男性に起きていますが、過去20~30年間の女性喫煙者の増加に伴って、男女差が少なくなっています。他のほとんどの癌と同様に、年をとるにつれて口腔癌のリスクは増大します。

 

口腔癌の種類

扁平上皮癌は口腔癌の中で最もよくみられる癌です。約40%の扁平上皮癌が、口の底部か舌の側方またはつけ根に生じ、下唇での発生率も約40%です。残りは口蓋や扁桃に発生します。これらの癌は硬いかたまりや境界がはっきりした潰瘍をつくり、間欠的に出血します。患部は白色、赤色、あるいは赤白入り混じった色に変色し、表面はなめらかになっているか隆起しています。いぼ状癌と呼ばれる口腔癌では、口の粘膜の表面に白色の溝が現れます。

 

その他のタイプの癌である、悪性黒色腫(皮膚癌(メラノーマ)やカポジ肉腫は、それほど発生数は多くありません。悪性黒色腫は日焼け歴が関係していて、普通は皮膚の表面に発生します。ただし口の中にできることもあり、特に口蓋に最も多く発生する悪性黒色腫は、通常皮膚に発生した癌が口へ転移したものです。悪性黒色腫は境目がスムーズでなく、凹凸の不規則な形をしています。色はダークブルー、茶色、黒色とさまざまで点状や斑状に現れます。他のほとんどの癌と同様に出血することもあります。カポジ肉腫は、皮膚の近くにある血管、あるいは口の中やのどの粘膜にできる癌です。エイズ患者ではカポジ肉腫は口の中、特に口蓋によく発生します。この腫瘍は通常青色か紫色をしていて、わずかに隆起しています。

 

唾液腺癌は良性腫瘍よりも発生数はずっと少なくなりますが、その中で最も多くみられるのは粘表皮癌です。粘表皮癌は、口蓋の小唾液腺に多く発生します。また、この癌は塊状の腫瘍として、下顎の下や奥にある大唾液腺の1つにも発生します。

あごの骨の癌には、骨肉腫と転移性腫瘍があります。転移性腫瘍とは、体の他の部分で発生した癌があごへ広がったものをいいます。

 

症状

口腔癌は、かなり長い期間にわたって無痛ですが、やがて癌が近くの神経を侵しはじめると痛みが生じます。舌や口蓋にできた癌による痛みは、のどの痛みと同様に食べものを飲みこむときに起こります。

唾液腺腫瘍の増殖初期には、痛みがある場合もない場合もあります。痛みはいったん出はじめると、特に食事中にひどくなります。これは、食べものに刺激されて唾液分泌が盛んになるためです。あごの骨の癌では、痛みとしびれやピリピリした感じ(異常感覚)がよく起こります。この異常感覚は、ちょうど歯の麻酔が切れかけたときに感じるしびれに似ています。唇やほおにできる癌では、腫れた組織をうっかりかむと、痛みが始まります。

扁平上皮癌は一見、皮膚の潰瘍のように見えますが、多くの場合、その下にある組織まで侵されています。唇や口の他の部分にできる癌は岩のように硬くなって下部組織に癒着しますが、同じ領域にできる良性のしこりはくりくりと動きます。噛みタバコや嗅ぎタバコを好む人では、ほおの内側に隆起した白色のこぶができ、このこぶが成長して疣贅性癌(いぼ状癌)になる場合があります。しかし扁平上皮癌のほうがよくみられます。口腔癌は成長が速く、硬くなる傾向があります。小唾液腺に初発する癌は、小さな腫れにみえます。

歯肉、舌、口腔粘膜に変色が現れるときは、癌の徴候である可能性があります。口の中に、最近になって急に茶色や黒っぽい変色箇所が現れたときには、黒色腫の可能性があります。唇でいつもタバコやパイプがあたっている部分は「スモーカーズ・パッチ」と呼ばれ、表面が平坦な茶色のそばかす状のしみに変化することがあります。

 

診断

口腔癌は、その形状と遅れて現れる症状から癌と推定されます。黒色腫は、正常な色素沈着や他の原因による変色との判別が必要です。しかしながら、疑わしい領域を癌かどうか決定できるのは、切除した組織標本を顕微鏡で調べる生検だけです。

X線検査では、必ずしもあごの癌と嚢胞や良性骨増殖、さらには体の他の部位からの転移癌を判別できるとは限りません。しかしあごの癌による異常な境界縁や癌に隣接する歯の一部欠損がX線検査で明らかになることもあり、これは癌の急速な増殖を示す特徴です。

 

予後(経過の見通し)

口の中や周囲で発生した癌が近くのリンパ節へ転移すると、リンパ節が硬く腫れます。それよりも遠い部分への転移は扁平上皮癌ではまれですが、骨肉腫では頻繁に起こります。さらに悪性黒色腫は非常に転移しやすく、脳などの器官にまで転移します。

扁平上皮癌は、癌がリンパ節に転移する前に癌全部と癌周囲の正常組織を除去すれば治癒率が高く、癌と診断された人のうち平均68%の人が、少なくとも5年以上生存しています。しかし、癌がリンパ節まで広がってしまうと、5年生存率は25%に下がります。残念なことに扁平上皮癌の治癒率は、過去数十年間ほとんど改善していません。一方、疣贅性癌は、高齢になってから発症し、増殖のスピードも遅いため、命にかかわることはまれです。広がってしまった悪性黒色腫の5年生存率は、わずか5~10%です。

 

予防

良性悪性を問わず増殖物をみつけるには、定期的に入念な口のチェックを行うことが最も効果的です。過度の飲酒や喫煙を控えれば、口腔癌のリスクを減らすことができます。また、折れたり欠けたりした歯や歯の詰めもののとがった縁を削ってなめらかにしておくことも、癌の予防に効果があります。口唇癌の予防対策は、有害な太陽光線を避けることです。太陽光線によって唇が広範囲にダメージを受けてしまうと、癌の進行を防ぐためには手術またはレーザーで唇の外側の表面をすべてはぎ取らなければなりません。

 

治療

扁平上皮癌と、その他のほとんどの口腔癌の治療は手術と放射線療法が中心になります。手術と放射線療法は併せて行われることが多く、特に癌が大きい場合には併用されます。悪性黒色腫には通常、放射線療法が効かないため、手術が中心になります。

手術中に癌の広がり範囲が判定されます(ステージ判定)。下顎の下部と後部、および頸部沿いにあるリンパ節が摘出された場合には、顔の容貌が損なわれて心理的にも大きなダメージを与えることがあります。現在はなるべく容貌を損ねないように、新しい手術方法も実施されています。唇の癌手術では、レーザーで癌を焼き切る方法と同様に、モース術と呼ばれる方法が容貌の損失を最小限にとどめるのに効果を上げています。モース術とは、摘出した癌組織のそれぞれの切片を段階ごとにを顕微鏡検査しつつ、癌が広がっている範囲を確かめながら手術を進めていく方法です。再建手術とは、病変を処置し制御した後に、機能を改善させ元の容貌を取り戻すための修復手術です。歯とあごの失った部分は、人工修復物で置き換えられます。

口腔癌の人には、手術と放射線療法を併用して治療する場合と、放射線療法単独で行う場合があります。放射線によって必ず治癒するとは限りませんが、特に広範囲の癌に対しては、癌を治すというよりも、癌を縮小させて患者の苦痛を和らげる目的で行われます(緩和ケア)。放射線療法によって唾液腺が破壊されることが多く、そのために口が乾燥してう蝕などの歯のトラブルが発生します。しかし唾液腺が破壊されていなければ、放射線照射完了から数週間後には再び唾液が分泌されはじめます。あごの骨は放射線にさらされた後は十分には治らないため、放射線療法を開始する前に歯の治療を完全に済ませておくことが大事です。トラブルになりそうな歯はすべて抜去し、傷あとを十分治癒させてから放射線療法を開始します。

化学療法は、大部分の口腔癌に対しては症状を和らげる以外にほとんど効果がありません。外科手術も放射線療法も実施できない患者には、シスプラチン、フルオロウラシル、ブレオマイシン、メトトレキサートなどの薬が痛みを和らげ、腫瘍を縮小させるために使われますが、癌そのものを治すことはできません。

 

口腔癌治療のための放射線療法を受けた人は、常に口の中を清潔に保つことが必要です。抜歯などの歯科治療が必要になると、治癒に悪影響を及ぼします。口内を常に清潔に保つためには、定期的な歯科健診とフッ素の応用などの家庭での十分なケアが大切です。最終的に抜歯が避けられなかった場合には、高圧酸素療法が悪影響を防ぐのに役立ちます。高圧酸素療法によって、放射線照射部位の骨と周囲の軟組織を壊死(放射線性骨壊死)させずにあごを治癒させることができます。

 

 

 

 

下顎歯肉腫瘍

 

下顎歯肉腫瘍とは、主に下顎の歯肉にできる癌を指します。初期症状としては歯のグラグラを感じるようになり、場合によっては歯が抜けることもあります。症状が進行すると、潰瘍や出血が目立つようになります。初期は歯周病と診断されることも多く、外見的には特に目立った特徴がなく、痛みなどの自覚症状を感じることが少ないために発見が遅れることがあります。発見された時には、かなり症状が進行している場合が多いのが特徴です。

 

下顎歯肉腫瘍の原因としては喫煙が大きく関係しており、喫煙者が顎歯肉腫瘍で死亡する確率は非喫煙者の4倍とされています。また、口の中を清潔にしていない状態が続き、虫歯や壊れた義歯の継続的な刺激、アルコールや辛い物の刺激物質の摂取なども原因として挙げられます。これらのリスクが組み合わさることで危険性が高まることが分かっています。発症年齢は40歳から高くなり、年齢を重ねるごとに発症率が高まります。また、男性の方が多く発症することも分かっています。

 

下顎歯肉腫瘍の診断は、触診と視診で症状の確認を行います。そして、病変が確認されている組織に局部麻酔をして切り取り、顕微鏡で検査をする生検をして、がんの細胞の有無を見ます。下顎歯肉腫瘍であることが確認できれば、CT検査やMRI検査などを行い、進行度やその他の部位に転移していないかどうかの検査をします。画像での検査ができれば、リンパ節への転移やその他の臓器への転移を明確に調べることが可能になります。

 

下顎歯肉腫瘍の治療のほとんどが手術になります。しかし、進行状況によっては手術だけでは治療が難しいため、放射線治療や抗がん剤の使用も検討します。また、初期の下顎歯肉腫瘍の手術の場合は術後に後遺症が残ることが少ないですが、広範囲にある場合は食べにくくなるや喋りにくくなるなどの後遺症が残ることもあります。予防をするためには、喫煙やアルコールの摂取を控えること、虫歯と義歯の治療をするなどが重要になります。

 

 

喉頭癌

 

声がかすれたり、首にしこりができたり、呼吸困難やものを飲みこみにくくなるなどの症状が出ます。

診断には生検が必要です。

予後(経過の見通し)は癌の進行の程度によって変わります。

治療としては通常手術と放射線療法を行いますが、ときには化学療法を行うこともあります。

喉頭癌は頭と首の癌(頭頸部癌)の中では発生率の高い癌で、女性よりも男性に多くなっています。これは喫煙や飲酒との関連性が高いためとみられています。

 

症状と診断

喉頭癌は主に声帯やその周辺構造に発生し、しばしば声のかすれを生じます。しわがれ声が2~3週間以上続く場合は、医師の診察を受けるべきです。喉頭の他の部位に癌ができると体重減少、のどの痛み、耳の痛みが生じ、ものを飲みこんだり呼吸をしたり、またはその両方が困難になります。ときには癌がリンパ節に転移して首にしこりが生じ、他の症状より先にそのしこりに気づくこともあります。

 

診断は、まず鏡または喉頭鏡(咽頭を直接観察するための細長いチューブ状の器具)により観察し、その後組織サンプルを採取して顕微鏡で調べる生検によって行います。生検は多くの場合手術室で、患者に全身麻酔をかけて行います。ときには医師の診療所で局所麻酔薬を塗って行うこともあります。癌がある場合は、首のCT(コンピュータ断層撮影)検査と胸部のX線検査またはCT検査を行います。ポジトロン放射断層撮影(陽電子放射断層撮影)検査を行うこともあります。

 

病期診断と予後(経過の見通し)

病期診断では、癌の大きさと広がり(転移)に基づいて癌がどの程度進行しているかを示します。医師は病期をもとに治療方針を定め、予後を予測します。喉頭癌の病期(ステージ)は、原発腫瘍の大きさと位置、首のリンパ節への転移の数と大きさ、体の遠隔部位への転移を示す証拠などの条件によって分類されます。ステージIは癌の進行が最も少ない段階、ステージIVは最も進行している段階です。

癌が大きいほど、また広い範囲に転移しているほど、予後は悪くなります。筋肉、骨、軟骨組織まで癌が広がっている場合、治癒の見込みは低くなります。小さな癌で、転移がない場合の5年生存率は約85~95%であるのに対し、局所リンパ節への転移がある人では50%未満となります。局所リンパ節を超えてさらに転移している場合は、2年以上生存できる確率は非常に低くなります。

 

治療

治療の方法は癌の病期と、喉頭内での癌の正確な位置によって異なります。早期の喉頭癌では、手術または放射線療法が行われます。喉頭癌は首のリンパ節に転移することが多いため、放射線療法では通常癌の病巣のほか、首の左右にあるリンパ節にも照射を行います。声帯が侵されている場合には、手術に比べて治療後も通常の声を残せる見込みのある放射線療法が好まれます。ただし、ごく早期の喉頭癌であれば、ときにレーザーを併用する顕微鏡手術は、放射線療法と同等の治癒率が得られ、声の保存も同等で、しかも1回の処置で治療が完了するという利点があります。内視鏡による喉頭癌の切除がよく行われるようになってきており、より大きな腫瘍に対しても放射線療法に代わりうる選択肢となっています。

腫瘍の大きさが約2センチメートルより大きく、骨や軟骨組織にまで達している場合には、通常は併用療法を行います。喉頭と声帯を部分的または全体的に切除する手術(喉頭部分切除術または喉頭全切除術)の後に放射線療法を行う組合せが併用の一例です。放射線療法は、進行した喉頭癌の主要な治療法である化学療法と組み合わせることもよくあります。この治療法では、手術と放射線療法との併用療法と同等の治癒率が得られるだけでなく、治療後もかなりの割合の患者で声を温存できます。ただし、この併用療法で治療を行った後に癌が残っている場合は、さらに手術で癌を取り除くことが必要です。癌があまりに進行していて手術も放射線療法もできない場合は、化学療法が痛みの緩和や癌の縮小に役立ちますが、治癒の見込みはありません。

 

治療にはほぼ必ず重い副作用が伴います。手術を行うと、嚥下と会話にしばしば影響が出ます。このような場合、リハビリテーションが必要となります。嚥下と会話に対する影響は、首を切開して癌を切除する手術より内視鏡による切除のほうが少なくてすみます。声帯を切除した人でも話せるようにする方法が数多く開発されており、良好な成果を上げています。切除した組織によっては、再建手術を行うこともあります。放射線は、皮膚の変化(炎症、かゆみ、脱毛など)や瘢痕化、味覚の障害や口の渇きが生じ、ときに正常組織の壊死も起こります。患者の歯が放射線にさらされる場合は、あらかじめ治療を済ませておくか、問題のある歯は抜いておく必要があります。これは放射線療法の後には歯の治療がうまくいかなくなったり、あごの骨に重い感染症が起きやすくなるためです。多くの場合、化学療法では使用する薬の種類によってさまざまな副作用が生じます。副作用には吐き気、嘔吐、難聴、感染症などがあります。

 

 

 

 

 

食道癌

 

 食道癌とは、喉仏の下から胃の上部までの食道に発生する癌の総称です。

 

食道癌は多くの場合、食道(のどと胃をつなぐ管)壁の内層の細胞に生じます。最も一般的なものは扁平上皮癌と腺癌で、食道粘膜の細胞に発症します。このような癌は食道のどの部位にも発生し、食道が狭くなったり(狭窄)、食道内に腫瘤ができる、異常な平坦領域(斑)ができる、食道と肺につながる気道との間に異常な通路(瘻[ろう])ができるといった形で現れます。あまりみかけないタイプの食道癌に平滑筋肉腫(食道の平滑筋にできる癌)、転移性癌(別の部位から食道に転移した癌)もあります。

 

危険因子

あらゆる種類の喫煙と飲酒は食道癌の最も重要な危険因子であり、腺癌よりも扁平上皮癌の発症と密接に関係しています。ヒトパピローマウイルス感染症を患っている人、頭頸部癌の既往がある人、あるいは食道周囲の器官の癌で放射線療法を受けている人は、食道癌の発症リスクが極めて高くなります。

食道アカラシア、食道ウェブ(プラマー・ヴィンソン症候群)、アルカリ液などの腐食性物質の誤飲により食道が狭窄している人も、食道癌になるリスクが高い人たちです。また、胃酸が食道に逆流を繰り返して(胃食道逆流)食道粘膜が長期間にわたり刺激を受け続けると、バレット食道と呼ばれる前癌状態が生じます。多くの先進国では、バレット食道から食道癌を発症するケースは比較的少ないのですが、発症頻度は他のどの食道癌よりも速く増えてきています。

 

症状

早期の食道癌は無症状です。最初の症状は固形物を食べたときに、のどにつかえることです。これは癌が大きくなって食道の内側が狭くなったためです。数週間もすると軟らかい食べものや水分、唾液も飲みこみづらくなります。食欲はあっても体重が減ってきます。胸痛が生じることがあり、痛みが背中まで突き抜けるように感じられます。

癌が進行すると周囲のさまざまな神経、組織、器官に浸潤していきます。声帯を調節している神経を腫瘍が圧迫すると声がかすれます。周囲の神経を圧迫するとホルネル症候群を起こし、脊椎の痛みやしゃっくりを生じます。癌は通常肺に転移すると息切れが生じ、肝臓に転移すると発熱と腹部の腫れが生じます。骨に転移すると痛みが起こります。脳に転移すると頭痛、錯乱、けいれん発作が生じます。腸に転移すると嘔吐、血便、鉄欠乏性貧血が生じます。腎臓に転移した場合は、しばしば無症状です。

食道癌の末期になると食道が完全に閉塞します。その結果、飲みこむことがまったくできなくなり、唾液まで口の中にたまるようになるため大変苦痛です。

 

予後(経過の見通し)と治療

食道癌は転移するまで診断されないことが多く、死亡率の高い病気です。5年以上生存できる人は5%未満です。多くの人が最初の症状に気づいてから1年以内に死亡しています。食道癌はほとんどのケースで致死的なため、医師は特に痛みと嚥下不能などの症状のコントロールを目的に治療し、この痛みと嚥下障害は、患者にとってもその家族にとっても非常に恐ろしいものです。

 

手術で癌を摘出すると、症状が軽減する期間は長くなりますが、完治することはほとんどなく、食道癌は手術をする前にすでに転移しているためです。化学療法を単独または放射線療法との併用療法で行うと、症状は改善し数カ月ほどは延命できます。放射線療法と化学療法の併用療法を行ってから手術をすると治癒率が上がることもあります。その他の方法は症状を軽減するためのみの治療で、食道の狭窄部位を広げてチューブ(ステント)を留置したり、腸の一部を利用して食道バイパスを形成したり、食道を閉塞している腫瘍に対して、高エネルギーの光線を照射して破壊するレーザー焼灼法などがあります。

症状を軽減するもう一つの治療法として光線力学療法があり、これは光感受性の色素(造影剤)を治療開始の48時間前に静脈内投与します。この物質は癌の周囲の食道組織の正常細胞よりも癌細胞に多く取りこまれます。内視鏡から食道にレーザー光を照射するとこの物質が活性化されて癌細胞だけを殺傷し、食道を広げることができるのです。体力がないために手術を受けられない人は放射線療法や化学療法よりも光線力学療法の方が閉塞部位を早く破壊することができます。

いずれの治療を行うにしても、適切な栄養管理で治療に耐えられるようになります。食べものを飲みこむことができる場合は、濃縮した液体状の栄養補給剤を摂取します。飲みこむことができない場合は、一時的に経管栄養や静脈栄養が必要になります。

 

 

 がんによる痛みなどにより、一日のほとんどを寝たきりですごしたり、身の周りのことができずに介助を必要としたりする状態であれば、障害年金の対象となる可能性があります。

 抗がん剤などの治療により、全身が著しく衰弱してしまっている場合、障害年金の対象となる可能性があります。

 

 

胃癌

 

胃癌とは、胃の内壁の細胞が悪性の細胞になる病気です。はじめのうちは最も内側の粘膜内の細胞に発生し、増殖するにしたがって胃の壁の中の奥深く外側まで侵食し、近くの臓器まで影響を及ぼします。

症状に出る物は胃のいたみや胸焼け、吐き気、腹部の腫膨らんだような感覚、消化不良、体重減少や食欲の低下、食べ物を飲み込んだ際のつかえ、貧血や黒色便などが表れます。 これらは、胃炎や胃潰瘍と似通うため判断がつきにくく、気付いたころにはかなり進行していることがよくあるため、注意をする必要があります。  胃に穴が空き腹膜炎や出血などを起こすこともあります。  この症状にはかなり個人差が出る部分ではありますが、早期に発見出来れば治る確率も格段に上がります。

 

胃がんは国内で最もかかる人の多いがんで、毎年約10万人が罹患しています。一昔前と比べると同年代での割合は減少の傾向にありますが、高齢化社会による全体の胃がん患者数は横ばいになっています。

この病気は40歳代後半あたりからかかる確率が上昇し、50から60歳が最も多くなります。男女比で見てみると、70歳を過ぎたあたりから男性は女性の4倍胃がんにかかりやすいといったデータが出ています。

このがんが日本人に多い原因は、1つはヘリコバクター・ピロリ菌の感染、そして2つめは日本の伝統的な塩分の多い食事にあります。その他たばこや化学物質及び添加物の摂取、慢性的な胃炎、ストレスも悪性細胞を生み出す要因になります。これらに共通することは胃の粘膜が長期間荒らされるというところにあります。  進行すると、胃の近くの大腸や膵臓、肝臓といった臓器まで浸潤します。  発見が遅れると肺に転移する恐れもあり、そうなると咳や血痰や呼吸困難といった症状にもつながる恐れがあります。

 

予防としては他のがんよりも方法が明確であり、ピロリ菌を保菌しているのならば除菌、塩分量を控えた食事、喫煙者であれば禁煙、ストレスを溜めないといった日常的な生活習慣から予防することが出来るでしょう。

治療

胃腺癌の患者の5年生存率は15%未満です。この癌が早期に他の部位に転移する傾向があるためです。癌が胃にとどまっている場合は、手術で病巣を摘出して完治を目指します。癌が転移する前に胃の病巣部全体を摘出できた場合にのみ完治が期待できます。手術では胃の大部分またはすべてと周囲のリンパ節を摘出します。癌が胃壁の深部にまで到達していなければ、予後は良好です。米国では胃癌の手術成績は良くなく、胃癌と診断されたときにはすでに癌が転移していることが多いためです。日本では胃癌は非常によくみられ、集団検診スクリーニングによって早期に発見できるため、完治する可能性がより高くなっています。一定の状況では化学療法や放射線療法が有用です。

 

癌が胃以外の部位へ広がった場合は手術による治癒は期待できませんが、症状を改善する手術が行われることがあります。たとえば、食べものが胃の出口を通過できない状態ならば、バイパス手術をして胃と小腸をつなぎ、食べものが通過できるようにします。これによってしばらくは閉塞症状による痛みや嘔吐を軽減することができます。化学療法や放射線療法でも症状を改善することはできますが、効果は限られています。

 

 

 

 

大腸癌

 

大腸癌のリスクは、家族歴やある種の食事的要因によって増大します。

よくみられる症状として、排便時の出血、疲労感、脱力感があります。

50歳を超える人ではスクリーニング検査が重要となります。

診断では大腸内視鏡検査がよく行われます。

早期に発見された場合は大半が治癒可能です。

多くの場合、手術を行って癌を切除します。

大腸癌のほとんどは大腸と直腸の粘膜に生じる腺癌です。初めは、結腸や直腸の粘膜面やポリープがボタンのようにふくらんできます。癌が進行すると大腸や直腸の壁に浸潤し始めます。周囲のリンパ節にも浸潤します。大腸壁と大部分の直腸壁からの血液は肝臓へ流れているため、大腸癌は近くのリンパ節に広がった後、通常まもなく肝臓へも広がります(転移)。

 

大腸癌のうち、結腸癌は女性に多く、直腸癌は男性に多くなっています。結腸癌または直腸癌患者の約5%では、単なる転移ではなく結腸と直腸に別々に発生したと思われる複数の癌がみられます。

 

危険因子

大腸癌の家族歴がある場合は、本人も癌になるリスクが高くなります。ポリープの家族歴がある場合も大腸癌のリスクが増えます。

潰瘍性大腸炎やクローン病の人でも同様にリスクが高くなります。このリスクは、病気が発症したときの年齢と罹患期間に関連しています。

大腸癌の発症リスクが最も高い人たちは、高脂肪で食物繊維の少ない食事を摂っている傾向がみられます。大気汚染や水質汚染にさらされることも一因となり、特に汚染が産業活動で生じた発癌物質(癌を誘発する物質)によるものの場合はその可能性が高まります。

 

遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC):

HNPCCは遺伝子の突然変異が遺伝することで起こり、その変異を持つ人の70~80%に癌が生じます。HNPCCの人はしばしば50歳になるまでに大腸癌にかかります。また他の種類の癌、特に子宮内膜癌、胃癌、小腸癌、卵巣癌のリスクも高まります。

 

症状

大腸癌はゆっくりと進行し、長い間症状が出ません。症状は癌の種類やできた部位、広がりによって異なります。

潜血(肉眼ではわからない程度の出血)からくる疲労感や脱力感しか症状がないこともあります。腫瘍が左側の結腸(下行結腸)にあると、早期に腸が閉塞する可能性があります。下行結腸は直径が細く、腸内の便がすでに半固形状態になっているからです。結腸のこの部位では癌が輪状に生じることが多く、閉塞に至るまでに便秘と下痢を頻繁に繰り返し起こします。けいれん性の腹痛や激しい腹痛が生じ、便秘が起こるために、患者が受診するケースもあります。

右側の結腸(上行結腸)に癌ができた場合は、そこにできた癌が末期になるまで閉塞を起こすことはありません。上行結腸は内径が大きく、腸内の便はまだ液状だからです。このため、癌が発見されたときには非常に大きくなっており、腹部の触診で大きなしこりがわかることもあります。

ほとんどの結腸癌は出血を起こしますが、通常はゆっくりです。便に血が混じって血便になることもありますが、たいていの場合、血は見えません。このため便の潜血を調べる検査が必要になります。直腸癌で最もよくみられる初期症状は排便時の出血です。たとえその人に痔核や憩室があるとわかっていても、直腸からの出血がある場合は診断にあたって必ず癌を考慮しなければなりません。このほかの直腸癌の症状として、排便時の痛みや残便感があります。座るときに痛むことがありますが、普通は直腸の周囲の組織に癌が転移するまでは痛みはありません。

 

診断

 

スクリーニング検査:

早期の診断は定期的なスクリーニング検査にかかっています。便の潜血を調べます。検査結果の精度を保証するには、便を採取する3日前から、赤身の肉を除いた食物繊維の多い食事を取ることが役に立ちます。他にも、手袋をして指を挿入する直腸指診から得た便を調べる方法があります。血液が検出されればさらに詳しい検査をします。

 

スクリーニング検査では、S状結腸鏡(大腸の下部の様子を見るための観察用チューブ)検査も行います。大腸癌のリスクが高い人は大腸内視鏡で大腸全体を評価します。スクリーニング検査ですべての人に大腸内視鏡を使う医師もいます。癌と思われる(悪性)腫瘍は、内視鏡を通した手術用器具で切除します。通常の手術で切除しなければならない腫瘍もあります。

CTコロノグラフィー(仮想大腸内視鏡検査)では、特殊なCT検査法により結腸の3次元画像を作りだします。この検査法では、造影剤を服用のうえ、直腸に挿入した管からガスを注腸して結腸をふくらませます。高解像度の3次元画像は、通常の内視鏡による見え方を再現しているように見えるので、この名があります。仮想大腸内視鏡検査は、通常の大腸内視鏡検査が行えなかったり、行いたくない人向けの選択肢ですが、感度は劣り、読影者の技量に高度に依存します。この検査では鎮静の必要はありませんが、やはり全面的な術前腸管処理が必要であり、ガスが不快なことがあります。

さらに、通常の大腸内視鏡検査とは異なり、検査中に顕微鏡検査(生検)用の病変の組織標本を採取することはできません。

 

カプセル内視鏡検査は今後有望な検査法ですが、現状では多くの技術的問題があり、有用性は限られています。

 

診断のための検査:

S状結腸鏡検査で異常が見つかった人と同じく、血便のある人でも大腸内視鏡検査が必要となります。大腸内視鏡検査中に見つかった病変はすべて完全に切除するべきです。

 

癌と診断されれば、通常は腹部CT検査、胸部X線検査、通常行う検査室での検査を行って、転移した癌を探したり、血球数低下(貧血)を調べたり、全身状態を評価します。

血液検査は大腸癌の診断には利用されませんが、腫瘍を切除した後の治療効果をみるのに役立ちます。たとえばCEA(癌胎児性抗原)は切除前には高値ですが、切除後は下がります。CEA値をモニターして上昇を見つければ癌の再発を早期に発見するのに役立ちます。このほかにもCA19-9、CA125といった腫瘍マーカーがあり、CEAと同様に、大腸癌で上昇します。

 

予後(経過の見通し)と治療

結腸癌は、転移する前に早期に腫瘍を切除できれば完治する可能性が高くなります。結腸粘膜に深く入りこんだり、結腸壁を突き抜けている癌は、発見できなくてもしばしば転移しています。手術は大腸癌の主要な治療法であり、治癒率は、癌が大腸壁の内層にとどまっている場合は約90%、癌が大腸壁を超えて広がっている場合は約70%、腹部のリンパ節まで広がっている場合はわずか30~50%程度となります。

ほとんどの結腸癌では、癌に侵された部位とその周囲のリンパ節を手術で摘出して、残った正常な腸を再びつなぎ合わせます。癌が大腸壁を穿通し、周囲のリンパ節にごく少数の転移がある場合は、手術で目に見える癌をすべて摘出した後に化学療法を行うと、生存期間が長くなることもあります。しかしその治療効果はあまり期待できません。

直腸癌の治療では、肛門からの位置と直腸壁への深達度に応じて、さまざまな手術法があります。直腸と肛門を全摘出する場合は、永久的な結腸瘻造設術を行い、大腸と腹壁の間に便を排泄するための人工的な開口部をつくります。これによって大腸の内容物(便)は腹壁を通して人工肛門バッグへ入ります。しかし、可能であれば直腸の切除を必要最小限にして、癌を摘出した直腸の先端部と正常な肛門を残しておきます。その後、直腸端と結腸端をつなぎ合わせます。

 

結腸瘻造設術

 

 

結腸瘻造設術では、大腸(結腸)を切除します。大腸とつながっている部分の断端を皮膚に形成した開口部まで引き出します。その部分を皮膚に縫合します。便はこの開口部を通って使い捨てのバッグの中に入ります。

 

直腸癌が直腸壁を穿通し、周囲のごく少数のリンパ節に転移している場合は、手術で目に見える癌をすべて摘出した後に化学療法を行うと、生存期間を延ばせる可能性があります。また見えている直腸癌の切除後に放射線療法を行うと、残っている腫瘍の増殖を抑え、再発を遅らせて生存期間を延ばすのに役立ちます。

癌が結腸や直腸からかなり離れたリンパ節、腹腔内膜、他の臓器へ転移している場合は手術だけでは完治しません。典型的なケースでは、生存期間はわずか7カ月ほどです。広範囲に転移した大腸癌の治療のために、手術後に抗癌剤のフルオロウラシルによる化学療法(効果を高めるために他の化学療法薬と併用する場合がある)を行うことがありますが、化学療法によって生存期間が長くなることはほとんど期待できません。医師は通常、患者本人や家族、他の医療・看護スタッフと終末期のケアについて話し合います。癌が広く転移している場合でも、大腸の閉塞を改善し、症状を緩和させる目的で手術が行われることがあります。

 

結腸癌の病期分類

0期:

癌がポリープを覆っている大腸(結腸)の内層(粘膜)にとどまっているもの。この段階で治療を行った場合の5年生存率は95%を超えています。

1期:

癌が大腸の内層と筋層の間の隙間に広がったもの(この中は血管、神経、リンパ管などが走っています)。この段階で治療をした場合の5年生存率は90%を超えています。

2期:

癌が結腸の筋層と外層まで浸潤したもの。この病期で治療をした場合の5年生存率は約55~85%です。

3期:

癌が結腸の外層を越えて周囲のリンパ節まで広がったもの。この病期で治療をした場合の5年生存率は約20~55%です。

4期:

癌が肝臓、肺、卵巣、腹腔内膜(腹膜)などの他の器官まで広がったもの。この時期では治療を行っても5年生存率は1%未満です。

 

 

 

癌の転移が肝臓のみにとどまる場合は、肝臓へ流れる動脈に化学療法薬を直接注射する方法があります。治療中に動いても大丈夫なように、手術で皮下に固定した小さなポンプか、ベルトで体外に装着したポンプから、化学療法薬を持続的に注入します。この方法は従来の化学療法よりも効果が高い可能性がありますが、今後さらに研究が必要です。癌が肝臓以外の部位まで広がった場合はこの方法に利点はありません。

 

体力がないために手術ができない人には、デシケーションという、癌の水分を乾燥させて縮小させる治療法もあります。これには癌の表面に高周波電流を通電したプローブをあてる方法(電気焼灼法)や、高周波電流によりイオン化したアルゴンガスで癌を乾燥・凝固させる方法(アルゴンプラズマ凝固法)があります。いずれの方法も大腸内視鏡を通して行われます。癌のかたまりが小さくなるので症状が軽減し、生存期間もやや長くなりますが、この治療で完治することはほとんどありません。

 

 

 

 

 

直腸がん

 

 直腸がんとは、大腸のうちの直腸(直腸S状結腸部、上部直腸、下部直腸)の組織内にがんができる病気です。直腸は便をためる機能があり、骨盤の内側にあるため、手術の際に膀胱や性器に影響があったり、肛門機能を担っている肛門括約筋を温存することができない場合があります。進行するにつれてリンパ節や肝臓、肺などの臓器に転移します。

 

 直腸がんやその治療によって日常生活に支障がある場合や、永久ストーマを造設した場合に、障害年金の対象となる可能性があります。

 がんの悪化により全身状態が悪く、身のまわりのことが他人の援助なしにはできない、また、長期的な安静を必要とする場合は、障害年金が受給できる可能性があります。

 がんやその治療によって日常生活や労働に制限がある場合は、障害年金の対象となる可能性があります。

 治療の際、やむなく肛門機能を廃し、人工肛門に置き換える場合があります。その場合、永久造設のストーマであれば3級の障害年金を受給することができます。また、新膀胱も造設した場合は、2級以上となる可能性があります。

 

 

 

膵癌

 

膵癌の危険因子には喫煙、慢性膵炎があり、また長期的な糖尿病もおそらく危険因子と考えられます。

 

典型的な症状は痛み、体重減少、黄疸、嘔吐です。

 

膵頭部にできた腫瘍により、胆汁(肝臓が産生する消化液)が小腸に流れこむのが妨げられることがあります。このため、胆汁うっ滞により生じた黄疸(皮膚と白眼部分の黄色への変色)が典型的な初期症状となります。黄疸は全身のかゆみを伴います。これは胆汁酸塩の結晶が皮下に沈着するためです。膵頭部の癌によって胃内容物の小腸への流れが妨げられたり(胃流出路閉塞)、癌によって小腸が閉塞を起こしていると、嘔吐が起こることがあります。

 

合併症

膵体部や膵尾部(膵臓の中央部と十二指腸から遠い部分)の腺癌は、癌が大きくなるまでは症状が出ません。このため診断がついた時点では90%の症例ですでに膵臓以外の器官へ転移しています。通常は付近のリンパ節、肝臓、肺に転移します。膵癌の典型的な初期症状は痛みと体重減少です。診断時には90%の人が腹痛、特に上腹部から背中に突き抜けるような激痛を訴え、体重減少も顕著です。

 

膵体部や膵尾部に腺癌があると、脾臓(血液細胞を生成、監視、貯蔵、破壊する臓器)から流れる静脈が狭くなって脾臓が肥大することがあります(脾腫)。閉塞は食道や胃の周囲の静脈の腫れや蛇行を起こし(静脈瘤)、食道静脈瘤ができます。このような静脈瘤が破裂すると、特に食道静脈瘤の場合は、大出血が生じます。

 

治療

膵臓の腺癌は、病気が発見される前に体の他の部位へ転移していることが多いため、予後は非常に悪くなります。診断後の5年生存率は2%未満です。完治が期待できる唯一の方法が手術ですが、手術が実施されるのは癌が転移していないと思われるおよそ10~20%の患者です。手術では膵臓のみまたは膵臓と十二指腸を切除します。手術した場合でも5年生存率はわずか15~20%です。通常、術後に化学療法と放射線療法が行われますが、大きな延命効果は期待できず、生存率もあまり向上しません。

軽い痛みはアスピリンやアセトアミノフェンで緩和できる場合があります。コデインやモルヒネなどのより強力な鎮痛薬の経口服用もしばしば必要になります。重度の痛みのある患者の70~80%では、疼痛感覚を遮断するために神経に鎮痛薬を注射することで緩和します。膵臓の消化酵素の不足には経口酵素製剤が投与されます。糖尿病を発症した場合には、インスリン治療が必要になります。

胆汁の流れが悪い場合は、肝臓や胆嚢からの胆汁が流れる胆管の下部にチューブ(ステント)を留置すると、一時的に流れが改善されます。しかし多くの場合、最終的には胆管に留置したステントの上下の流れが腫瘍によって妨げられます。別の治療方法として、手術でバイパスを形成することもあります。たとえば小腸に閉塞が生じた場合は、胃と狭窄部より下部の小腸をつないでバイパスを設けます。

 

 

心臓の腫瘍

 

腫瘍とは、癌性(悪性)であれ、非癌性(良性)であれ、異常な増殖物のことをいいます。

心臓から増殖が始まった腫瘍は、原発性心臓腫瘍と呼ばれます。この腫瘍は心臓組織のあらゆる部位から発生する可能性があり、癌性の場合と非癌性の場合があります。原発性心臓腫瘍は、2000人に1人発症するかどうかという程度のまれな病気です。成人では、非癌性の原発性心臓腫瘍の半数は粘液腫です。粘液腫は、心臓壁の内層(内膜)の胎児性の細胞から発生し、通常左心房内で増殖します。

乳児や小児において、最も多くみられる非癌性の原発性心臓腫瘍は横紋筋腫です。群発性でみられる横紋筋腫は、心筋細胞から発生し、心臓壁内で増殖します。横紋筋腫は、乳児や小児によくみられますが、結節性硬化症と呼ばれるまれな病気の一部として発生することがあります。次いで、乳児や小児に多くみられる非癌性の原発性心臓腫瘍は線維腫です。単発性でみられる線維腫は、心臓の線維性組織細胞から発生し、心臓弁上で増殖します。

これら以外にも数種類の原発性心臓腫瘍がありますが、いずれもまれにしか発生しません。それらの中には癌性の腫瘍も良性腫瘍もあります。

 

最初に体の他の部分、主に肺、乳房、血液、皮膚で発生し、後に心臓へと広がった(転移した)腫瘍は続発性腫瘍と呼ばれ、常に癌性です。続発性心臓腫瘍は、原発性心臓腫瘍の30~40倍多くみられますが、それでもあまり頻繁にみられる病気ではありません。最も発生率の高い癌である肺癌や乳癌の患者で約10%、また悪性黒色腫(メラノーマ)の患者では約75%に心臓への転移がみられます。

 

原発性腫瘍と続発性腫瘍のいずれも、心臓を取り囲む袋(心膜)で発生することがあります。心膜にできた腫瘍は心臓を圧迫して締め付けることがあり、その場合、心臓が血液で十分満たされなくなり、胸痛や心不全が起こることがあります。

 

症状

心臓腫瘍は、無症状の場合もありますが、軽度の症状がみられる場合や、他の心臓病と似ているが突然発症する致死的な心機能不全がみられる場合もあります。たとえば、心臓腫瘍は、心不全、不整脈、心膜内への出血による血圧低下などを引き起こします。心臓弁の上部やその近くに腫瘍(粘液腫や線維腫など)がある場合は、その約半数で心雑音が聞かれますが、この音は血液が弁を正常に通過できなくなるために生じます。非癌性腫瘍でも、癌性腫瘍と同じく心機能を低下させるものは致死的です。

心臓腫瘍、特に粘液腫は変性して砕かれ、小片となり血流に乗って移動し、塞栓となる可能性があります。塞栓が細動脈に詰まると血流が阻害されます。さらに、粘液腫などの腫瘍の表面で形成された血液のかたまり(血栓)がはがれて塞栓となり、動脈を閉塞させる可能性もあります。塞栓による症状は、それが到達した場所、つまり閉塞した動脈がどの組織や臓器に血液を供給しているかによって異なります。

 

診断

原発性心臓腫瘍は、比較的まれな病気で、さらに他の多くの病気と症状が似ていることから、診断が困難です。心雑音、不整脈、説明のつかない心不全症状、原因不明の発熱(粘液腫による可能性がある)のある患者では、原発性心臓腫瘍を疑うかもしれません。続発性心臓腫瘍は、体の他の部位に癌がある人で、心機能不全の症状がみられる場合に疑います。

腫瘍が疑われる場合は、心臓超音波検査(心エコー)を行って診断を確定します。この検査では、超音波を出すプローブを胸にあてて、心臓の構造を描出します。別の角度からみた心臓の画像が必要な場合は、プローブをのどから食道に入れ、心臓の真後ろから信号を記録します。この検査法は経食道心エコー検査と呼ばれています。CT検査やMRI検査では、より詳しい情報を得ることができます。冠動脈造影では、X線画像上に心臓腫瘍の外形が描出されますが、この検査が必要になることはまれです。

 

心臓の右側部分に腫瘍が発見された場合は、顕微鏡検査のために小さな組織標本を採取します(生検)。組織は多くの場合、脚の静脈から心臓に挿入したカテーテルで採取します。この方法は心臓カテーテル法と呼ばれます。この検査は、腫瘍の種類を確認して適切な治療法を選ぶのに役立ちます。ただし、心臓の左側部分に発生した腫瘍の生検は、有益性よりもリスクが大きいため、実施されることはまれです。

 

治療

単発性の小さな非癌性原発性心臓腫瘍は、手術で切除することができ、普通は治癒します。大きな非癌性原発性心臓腫瘍によって心臓を通過する血流が著しく減少している場合は、心臓壁内には広がっていない腫瘍の一部を切除することで、心機能が改善することがあります。しかし、心臓壁の大部分が腫瘍に侵されている場合は、手術を行うことはできません。

非癌性横紋筋腫のある新生児の約半数では、腫瘍は治療しなくても小さくなり、残りの半数でも、腫瘍はそれ以上大きくなることはないので、治療は必要ありません。乳児や小児の線維腫は、腫瘍が心室と心室の間の壁(中隔)まで及んでいなければ完全に切除できます。腫瘍が中隔に及んでいる場合は、心臓の電気刺激伝導系も侵されているため、手術はできません。このような腫瘍がみられる小児は、普通は幼いうちに不整脈のために死亡します。線維腫が大きくて、血流を遮断したり周辺組織にまで広がっている場合は、心臓移植が必要です。

原発性癌性心臓腫瘍は、手術による切除が不可能で、通常は致死的です。化学療法や放射線療法が実施される場合があります。心膜内の非癌性腫瘍は手術で切除することができますが、癌性腫瘍は多くの場合、他の部位に転移しているため、切除されません。腫瘍が分泌する液体によって心臓の動作が妨げられている場合は、心膜と心臓の間の空間(心膜腔)に針で小さなプラスチック製の管を挿入し、液体を排出します。腫瘍の増殖を遅くする薬物を心膜腔に注入する場合もあります。

 

 

癌性腫瘍

 

息切れや失神、発熱、体重減少、心不全、不整脈がみられる場合があります。

心臓腫瘍を診断するには、心臓超音波検査(心エコー)を実施します。

癌性腫瘍の治療では、手術のほか、場合により化学療法または放射線療法を行います。

癌性原発性心臓腫瘍はきわめてまれな病気で、原発性心臓腫瘍のうちの約4分の1を占めます。最も一般的なものは、血管組織から発生する肉腫です。続発性心臓腫瘍ははるかに発生率が高いものの、どの程度多いかは不明です。

 

症状

癌性心臓腫瘍の症状は、非癌性心臓腫瘍の症状と基本的に同じで、腫瘍の発生した部位によってさまざまです。しかし、癌性腫瘍は非常に増殖が速いので、その症状は非癌性腫瘍の症状よりも急速に悪化する傾向があります。その他の症状は、突然発症する心不全、不整脈、心機能を低下させ、心タンポナーデを起こす心嚢(心臓を取り囲む袋)内への出血などです。癌性原発性心臓腫瘍は、脊椎やその周辺組織、肺や脳などの臓器に転移する可能性があります。

続発性心臓腫瘍の症状には、原発性腫瘍によって起こる症状と、体の他の部分へ転移した腫瘍によって起こる症状が含まれます。肺癌や乳癌などは、直接心臓に浸潤して広がり、しばしば心膜内に転移します。転移した癌によって血液や体液が心嚢内に蓄積して心臓が圧迫されます。癌はまた、血流やリンパ系を通じて心筋や心房、心室にも転移します。これにより、心不全症状が起こります。

 

診断と治療

癌性心臓腫瘍の診断は、非癌性心臓腫瘍の診断と同様の方法で行います。続発性腫瘍については、その原発部位がまだわかっていなければ、それを突き止めるための検査を行います。心膜内の腫瘍によって心臓の周囲に体液が貯留している場合は、その体液を排出する必要があります。さらに他の治療が腫瘍の種類に応じて必要となり、多くの場合、手術が実施されます。

原発性、続発性にかかわらず、癌性心臓腫瘍はほとんど完治が望めないことから、症状の緩和を目的とする治療を行います。腫瘍の種類に応じて、放射線療法または化学療法、あるいはその両方を実施します。

 

 

 

腎盂・尿管癌

 

癌による症状として、血尿や体幹側面部の疝痛などがみられます。

診断はCT検査によって行われます。

治療法は腎臓と尿管を摘出する手術です。

腎臓中心部の尿を集める部分(腎盂[じんう])の内側を覆う細胞に癌(通常は移行上皮癌と呼ばれる種類のもの)が発生することや、腎臓から膀胱に尿を送る細い管(尿管)に癌が発生することがあります。腎盂癌と尿管癌は、腎臓や膀胱に発生するその他の泌尿器癌と比べると、はるかに少数です。これらの癌の米国における1年間の発症者数は6000人未満と推定されています。

 

症状

通常は血尿が最初の症状です。尿の流れが妨げられると(たとえば血栓による尿管の閉塞など)、わき腹(肋骨と腰の間)または下腹部に激しい痛み(疝痛)が生じることがあります。

 

診断

通常、これらの癌はCT検査で発見されます。CT検査は、腎臓や尿管に発生した癌以外の(良性の)異常(結石や血栓など)と癌を区別するのに役立ちます。尿のサンプルを顕微鏡で観察する検査で、癌細胞を確認できる場合があります。膀胱を通して尿管鏡(内視鏡の一種)を挿入する検査では、癌を直接観察することができ、小さい癌であればそのまま治療することも可能です。

 

予後(経過の見通し)

癌が広がっておらず、手術によって完全に切除することができれば、治癒する可能性が高くなります。一方、癌が腎盂や尿管の壁の深部まで広がったり、遠隔転移が起きたりすると、治癒の可能性は低くなります。

 

治療

癌が腎盂または尿管の外部に広がっていない場合は、通常、癌が発生した方の腎臓全体と尿管を膀胱の一部分とともに切除する手術(腎尿管摘除術)が行われます。ただし、一部の状況(腎機能が低下している場合や腎臓が片方しか存在しない場合など)では、腎臓を摘出すると生涯にわたり透析が必要になるため、腎臓の摘出手術は通常行われません。一部の腎盂癌と尿管癌には、レーザーで癌細胞を破壊する治療法や腎臓、尿管(癌の存在しない部分)および膀胱を残して癌の部分だけを切除する手術が行われることもあります。癌が転移している場合は、化学療法も行われます。

これらの種類の癌になった人では膀胱にも癌が発生するリスクが高いことから、手術終了後には生涯にわたって定期的に膀胱鏡検査(内視鏡を挿入して膀胱の内部を観察する検査)が行われます。

 

 

尿道癌

 

尿道(膀胱から出た尿が体外に排出されるまでに通過する管)の癌はまれで、そのほとんどは50歳以降に発生します。男性にも女性にも発生します。一部の患者では特定の種類のヒトパピローマウイルスが尿道癌の原因とみられていますが、それ以外の原因は不明です。

 

最初の症状は通常血尿です。血液の量がごくわずかなために顕微鏡で観察しないと発見できない場合もあります。一方で、肉眼で分かるほどに尿が赤くなる場合もあります。尿の流れが妨げられ、排尿が難しくなったり尿の勢いが弱くなったりすることもあります。女性の尿道の開口部に発生する、もろく出血しやすい腫瘍は、癌(悪性腫瘍)の可能性があります。癌の診断を確定させるには生検の実施が必要です。

 

尿道癌の治療法としては、放射線療法、外科的切除またはこの両者を組み合わせた方法が用いられていますが、その結果はさまざまです。尿道癌の予後(経過の見通し)は、癌の占める位置と範囲によって異なってきます。

 

 

膀胱がん

 

 膀胱がんとは、膀胱にできる腫瘍のことです。

この膀胱にできる腫瘍のほとんどは悪性であり、女性に比べて男性の発症が多い傾向にあります。症状としては血尿が出ることで健康診断などで発見されるケースが多いです。手術によってがんを摘出しても、再発の可能性が高いため注意が必要です。

 

膀胱癌ではほとんどの場合、血尿がみられます。遅れて現れてくる症状としては、排尿時の痛みと灼熱感、尿意切迫、頻尿などが挙げられます。膀胱癌の症状は膀胱の感染症の症状に似ていて、両者が同時に発生することもあります。赤血球が減少すると(貧血)、疲労や蒼白(顔が青白くなる症状)がみられるようになります。

 

予後(経過の見通し)

膀胱の内側の表面部分にとどまり(表在性腫瘍)、かつ増殖が遅い癌の場合、診断後の5年間に膀胱癌によって死亡するリスク(5年死亡率)は5%未満です。一方、腫瘍が膀胱の筋肉まで広がっている場合には、5年死亡率は顕著に高くなります(40~55%)。膀胱の壁を越えて(リンパ節や腹部または骨盤内の他の臓器などに)広がった膀胱癌では、予後(経過の見通し)が一段と悪くなります。

 

治療

癌が膀胱の内側の表面だけにとどまっている場合は、膀胱鏡検査の際に癌を完全に切除することが可能です。しかしながら一般的に、後になって膀胱内に新たな癌が発生してきます。このような癌の再発については、癌を完全に切除した後に抗癌剤かカルメット-ゲラン桿菌(BCG:体の免疫機能を刺激して活性化させる物質)を繰り返し膀胱に注入することで予防できる場合があります。

癌が膀胱壁の深部まで増殖すると、膀胱鏡で完全に切除することはできなくなります。このような場合には通常、膀胱の全体または一部を切除する手術(膀胱摘除術)が行われます。癌の根治を目標として、放射線療法単独あるいは放射線療法と化学療法を併用する治療法も用いられることがあります。

膀胱全体の摘出が必要となった場合には、尿を排出する経路を作る必要があります。これまでは、まず腸管から回腸導管と呼ばれる管を作り、これを通して腹壁に設置した人工的な開口部(腹部ストーマ)から尿を排出させる経路が広く用いられてきました。尿は体外に装着された集尿袋にためられます。

尿の経路を変える方法としては、上記以外にも新しい方法がいくつか普及してきており、現在ではほとんどの患者に実施可能となっています。そうした新しい方法は、同所性新膀胱形成術と禁制型尿路変向術の2種類に分けられます。どちらの方法でも、腸管を材料として尿をためる袋(代用膀胱)を作成します。

同所性新膀胱形成術では、この代用膀胱を尿道につなぎます。骨盤の筋肉を緩めつつ腹圧をかけることで代用膀胱から尿を排出する方法を習得すれば、正常時と同じように尿が尿道を通過するようになります。日中に尿漏れを起こすことはほとんどありませんが、夜間には尿の漏出がみられることがあります。

 

禁制型尿路変向術では、腹壁に設置したストーマに代用膀胱をつなぎます。尿は代用膀胱にたまりますが、患者自身がカテーテルをストーマから代用膀胱に挿入して尿を排出させることが可能なため、集尿袋は不要です。この操作は1日に数回、一定の間隔で行うことになります

癌が膀胱からリンパ節や別の臓器に転移している場合は、化学療法による治療が行われます。このような癌には複数の薬剤を組み合わせて使用する多剤併用療法が有効となり、特に転移がリンパ節だけに限られている場合によく用いられます。化学療法がよく効いた患者には、追加で膀胱摘除術か放射線療法が行われることもあります。しかし、治癒に至る患者は多くありません。

 

 

 傷病によって、新膀胱を造設した場合、障害等級3級に認定されます。新膀胱の場合は、初診日から1年6ヵ月を待たずして障害年金の申請をすることができます。(造設日が障害認定日  ただし、1年6ヵ月を経過した後に申請する場合は、1年6ヵ月が経ったその日が障害認定日となります)

 がんの悪化により全身状態が悪く、身のまわりのことが他人の援助なしにはできない、また、長期的な安静を必要とする場合は、障害年金が受給できる可能性があります。

 

 

 

悪性黒色腫(メラノーマ)

 

 悪性黒色腫とは、皮膚や皮下組織、口の中や眼窩内に発生する悪性腫瘍です。

色素をつくり出す皮膚細胞(メラニン細胞)から発生する癌です。

皮膚や組織に対しての慢性的な紫外線曝露や繰り返し何らかの刺激を受けたことによって発生の可能性が高まるのではないかと考えられています。

 

悪性黒色腫が皮膚内で増殖していないほど、手術で治癒できる可能性が高くなります。初期段階の、最も浅い悪性黒色腫であれば、手術でほぼ100%が治ります。手術では腫瘍およびその周囲の皮膚を腫瘍の縁から1センチメートル程度切除します。しかし、皮膚の中に約1ミリメートル以上侵入している悪性黒色腫の場合、リンパ管や血管を通じて転移する可能性が高くなります。悪性黒色腫が転移した場合、しばしば死に至ります。

 

転移した悪性黒色腫は化学療法で治療しますが、治癒することはほとんどありません。このような治療を行っても、余命が9ヵ月より短い場合もあります。しかし、病気の経過はさまざまであり、免疫の防御能力によっても変わってきます。悪性黒色腫が転移しても、見かけ上健康な状態で数年生存する人もいます。体が悪性黒色腫の細胞を攻撃するよう刺激するインターロイキン-2やワクチンなどの新しい治療法や実験的治療法により有望な結果が得られています。

 

 

 悪性黒色腫が発生した部分のみにとどまらず、離れた組織に転移してしまっている場合、予後不良と診断されてしまった場合は障害年金の受給対象となる可能性があります。

 抗がん剤などの治療によって全身の衰弱が著しく、日常生活に他人の介助が必要である場合は障害年金の受給対象となる可能性があります。

 

 

カルチノイド腫瘍

 

カルチノイド腫瘍は非癌性(良性)あるいは癌性(悪性)の腫瘤で、時に過剰なホルモン様物質をつくり、カルチノイド症候群を引き起こします。

カルチノイド腫瘍の患者には、締めつけるような痛みと便通の変化が生じることがある。

カルチノイド症候群の人では紅潮が起きるほか、下痢を起こすこともある。

尿中のセロトニン副産物の量が測定される。

腫瘍の位置を特定するには、画像検査が必要である。

腫瘍を手術で摘出する場合がある。

薬物による症状の管理が必要な場合もある。

 

カルチノイド腫瘍は、通常、小腸のホルモン産生細胞や消化管のその他の細胞に発生します。この腫瘍は膵臓(すいぞう)、精巣、卵巣、肺でも発生します。カルチノイド腫瘍はセロトニン、ブラジキニン、ヒスタミン、プロスタグランジンなどのホルモン様物質を過剰に産生します。これらの物質の量が過剰になると、ときにカルチノイド症候群と呼ばれる種々の症状を引き起こします。カルチノイド腫瘍はトリプトファンというアミノ酸を使用して多量のセロトニンをつくります。トリプトファンは本来ナイアシン(ビタミンB3)の材料として使用されるため、ナイアシン欠乏が起こり、それによりペラグラという疾患が発生します。

カルチノイド腫瘍が消化管や膵臓にできると、それがつくる物質は血液中に放出されて肝臓(門脈)に入り、肝臓の酵素によって破壊されます。そのため消化管にカルチノイド腫瘍ができても、一般的には腫瘍が肝臓に広がらなければ症状は現れません。

腫瘍が肝臓に広がると、肝臓はこれらのホルモン様物質が全身を循環しはじめる前に処理できなくなります。腫瘍が放出する物質によってカルチノイド症候群の種々の症状が現れます。肺、精巣、卵巣のカルチノイド腫瘍では、産生した物質が肝臓を迂回(うかい)して血流に乗り、広く循環するために症状を引き起こします。

 

症状

カルチノイド腫瘍のある人の多くは他の腸管腫瘍に似た症状を示し、主に締めつけるような痛みと、閉塞の結果として便通の変化が現れます。

 

カルチノイド症候群:

カルチノイド腫瘍がある人の10%以下に、カルチノイド症候群の症状が現れます。ただし、この割合は腫瘍の部位によって異なります。顔や頸部に出る不快な紅潮は最も典型的な症状で、カルチノイド症候群で最初に現れることが多い症状です。血管拡張による紅潮は、感情、食事、飲酒や熱い飲みものがきっかけで起こります。紅潮に続いて皮膚が青ざめることがあります(チアノーゼ)。腸の収縮が過剰になると腹部けいれんと下痢が起こります。腸は栄養を適切に吸収できないため栄養不足になり、脂肪性の悪臭を放つ脂肪便が出ます。

心臓も損傷を受けて、下肢が腫れます(浮腫)。肺への空気の流れが妨げられて喘鳴や息切れが現れます。カルチノイド症候群の人はセックスへの興味を失ったり、男性では勃起障害になったりすることもあります。

 

診断

症状からカルチノイド腫瘍が疑われる場合は、尿を24時間採取して尿中のセロトニンの副産物の一つである5-ヒドロキシインドール酢酸(5-HIAA)の量を測定し、その結果から診断を確定します。この検査を行う前の少なくとも3日間は、バナナ、トマト、プラム、アボカド、パイナップル、ナス、クルミといったセロトニンを豊富に含む食べものを避けます。グアイフェネシン(せき止めシロップによく使われる)、メトカルバモール(筋弛緩薬)、フェノチアジン(抗精神病薬)などの薬も検査に影響を与えます。

カルチノイド腫瘍の位置を突き止めるには、さまざまな検査を行います。CT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像)検査、動脈造影が行われます。腫瘍の位置を確認する試験開腹が必要な場合もあります。

放射性核種スキャンも有効な検査です。カルチノイド腫瘍の多くには、ソマトスタチンというホルモンの受容体があります。そのため、放射性ソマトスタチンを血管に注射して放射性核種スキャンを行うと、カルチノイド腫瘍の位置や転移の有無を確認できます。この方法で約90%の腫瘍の位置がわかります。MRI検査やCT検査は、腫瘍が肝臓に転移していないかを確認するのにも役立ちます。

 

治療

カルチノイド腫瘍が虫垂、小腸、直腸、肺など特定の一箇所に限定されている場合は、外科的な切除で治せることがあります。腫瘍が肝臓に転移している場合、手術を行っても治すのは困難ですが、症状の緩和には役立ちます。腫瘍の増殖は遅いので、腫瘍が転移している人でさえ10~15年生存することがしばしばあります。

 

カルチノイド腫瘍の治療には放射線療法も化学療法も有効ではありません。しかし、特定の化学療法薬の併用(ストレプトゾシンとフルオロウラシル、ときにドキソルビシンを併用)によって症状を緩和できることがあります。オクトレオチドという薬も症状を緩和し、タモキシフェンやインターフェロンアルファは腫瘍の増殖を抑制します。フェノチアジン、シメチジン、フェントラミンはカルチノイド症候群による紅潮を抑えるのに使用されます。プレドニゾロンは、重度の紅潮がある肺のカルチノイド腫瘍の人に投与されます。下痢はコデイン、アヘンチンキ、ジフェノキシレート、シプロヘプタジンなどで抑えられます。ペラグラは、メチルドパやフェノキシベンザミンなど、セロトニンの産生を抑える薬で防止することができます。

 

 

 

子宮癌

 

子宮癌とは、一言に子宮癌とは言え、大きく分けて2種類あります。 癌の発症する箇所によって名称は異なり、子宮頸部の入口付近の外子宮口のあたりにできる

癌を「子宮頸癌」、子宮の奥、内膜にできる癌を「子宮体癌」と呼びます。 子宮癌は、今、女性性器の中で最も多い癌とも言われる病気です。

 

 

子宮頸がん

子宮頸がんは、子宮の入口あたりにできる癌のことです。 進行はゆっくりで、5年から10年かけて周囲へ広がります。そのため、定期的に検診を行えば早期発見ができる癌だとも言われています。ただし、この病気は進行すると治療は難しく

なります。 実は日本では、1日に約10人の方が子宮頸癌で亡くなっている現状があります。

癌は遺伝と思っている方は多いと思います。ですが、この病気においては遺伝など関係ないのです。  性交渉の経験がある女性なら、誰もがなりうる病気といえるのです。

子宮頸癌になりやすい年齢は、最近は低くなっていると言われ、20歳代後半から発生率は上がり、ピークは30歳代から40歳代だと言われています。

 

子宮頸癌の原因には、「ヒトパピローマウイルス」といったウイルスが関係していることが明らかになりました。このウイルス、実は男性性器に潜んでいるもので性交渉によって感染します。

 

症状としては、性交時の刺激による出血、異常なおりもの、不正出血などですが、このような症状が発症するということは、すでに癌が進行しているサインでもあります。

子宮頸癌の初期段階は、殆ど自覚症状がありません。

転移しやすい箇所は、主に骨盤内に多いと言われており、子宮に近い箇所(膀胱や直腸)などから転移していき、進行が進んでしまうと、あらゆる箇所に癌は広がっていきます。

 

予防の方法としては大きくわけて2つあります。2年に1度、定期検診を受診すること、予防ワクチンを打つことが子宮頸がんの予防策です。

 

治療法は大きくわけると3つあります。 外科的手術、放射線治療、抗がん剤治療です。

手術での治療法にも、癌の程度によって異なります。初期段階の癌であれば円錐切除術ですが、円錐切除術で取りきれない場合は、子宮全摘手術を行う必要があります。  特に子宮全摘をしたあとは、強い痛みや苦しみが待ち受けています。治療時の家族サポートは必要不可欠です。

 

 

子宮体がん(子宮内膜がん)

子宮体癌は、子宮の奥、内膜にできる癌のことです。 閉経前発生率は高くはありません。なぜならこの内膜は、生理のときにはがれてしまうから

です。 そのため、この病気になりやすい年齢は、40歳代後半から徐々に増え始め、50歳代から60

歳代でピークを迎えます。 この病気は、不正出血が起こることによって見つかるケースが多く、特に、閉経後に出血が

見られたら直ちに婦人科へ行くことが大切です。

子宮体癌は、別名「子宮内膜がん」とも言われています。

子宮頸癌と異なり、子宮体癌はヒトパピローマウイルスとは無関係です。

この病気の原因は、エストロゲンによって子宮内膜を刺激することがあげられます。 高脂肪や高カロリーのものを好んだり、糖尿病や高血圧の人、そして、若いときに月経不順

があったりする人は、特にこの病気になりやすいと言われています。このような人は現段階で注意が必要です。

そして、この病気の場合、体内へ転移する可能性が高いと言われているため、初期の治療から全摘手術をすることが多くなっています。  ただ、子宮内に癌がとどまっている場合は、8割以上の方が完治する傾向にあります。

 

 

子宮肉腫

子宮肉腫とは、婦人科の癌の中でもとても稀な病気と言われ、子宮体癌の中での発症率は2~5%と低い割合にあります。

子宮の奥にできる腫瘍には、子宮筋腫と、子宮肉腫が存在します。 子宮筋腫は良性の腫瘍なので特に問題はありませんが、子宮肉腫は悪性の腫瘍です。 のちに子宮肉腫と判明する場合もあります。

 

子宮肉腫の症状としては、不正出血が起こります。その他、痛みが見られたり下腹部の違和感など、様々な箇所に異変が見られます。

 

子宮肉腫の治療法は、手術、ホルモン療法、化学療法、放射線療法などがあります。 手術には、全摘もしくは卵巣・卵管の摘出手術があります。 進行の速い悪性の肉腫の場合、普通の手術は困難になることもあり、その際は化学療法や放

射線療法などを用います。

 

子宮肉腫の原因は、現在判明しておりません。 筋腫ができることはありますが、肉腫ができることはごく稀です。 肉腫は突然変異で起こります。

また、閉経していない人でも、子宮の病気になる可能性があります。 早い段階での発見が鍵になります。

 

 


子宮頸がん

 

 子宮頸がんとは、子宮の入り口にあたる子宮頸部という部分に癌ができる病気です。子宮頸部(子宮の下部)に発生します。

 

主な原因は、性交時に感染するヒトパピローマウイルスです。このウイルスは尖形コンジローム(性器いぼ)の原因にもなります。

通常、前癌病変(癌になる前の状態)は症状を起こしません。

 

治療

治療法は癌の病期によって異なります。

 

初期:

癌が子宮頸部の表面だけに限局している場合は、円錐切除を行う際にループ電気メス切除法やレーザー、あるいはコールドナイフで子宮頸部の一部を切除して、癌を完全に取り除くことができます。これらの方法では治療後も子どもを産むことができます。癌が再発する可能性があるため、最初の1年間は3ヵ月に1回、それ以降は6ヵ月に1回、診察とパップ検査を受けるように医師は助言します。まれに子宮摘出が必要な場合があります。

初期の癌が子宮頸部の表面を超えて広がっている場合は、通常は子宮を摘出し、放射線療法と化学療法を行います。初期の子宮頸癌がある女性で、将来妊娠・出産をしたいと希望する場合は、広汎子宮頸部摘出術が行われます。この方法では子宮頸部、子宮頸部に隣接する組織、腟上部、骨盤部のリンパ節を切除します。残った子宮と腟をつなぎ合わせるため、手術後も妊娠が可能です。ただし、分娩は帝王切開で行う必要があります。初期の子宮頸癌であれば、広汎子宮頸部摘出術は、より侵襲度の大きい手術とほぼ同程度に有効であると考えられています。

 

癌が骨盤内に広がりはじめている場合:

子宮に加えて周辺組織、靭帯、リンパ節を摘出する必要があります(広汎子宮全摘出術)。卵巣も摘出することがあります。ただし、若い女性で卵巣が正常に機能している場合には摘出しません。子宮を摘出せずに放射線療法を行うこともあります。放射線療法では、膀胱や直腸への刺激が生じることがあります。その結果、後になって腸が閉塞したり、膀胱や直腸がダメージを受けることがあります。通常は、卵巣の機能も停止します。広汎子宮全摘出術か放射線療法に化学療法を併用することで、子宮頸癌患者の約85~90%が治癒します。

 

癌が骨盤内に広がっていたり、他の臓器にまで及んでいる場合:

放射線療法とシスプラチンを用いた化学療法の併用が適しています。リンパ節に転移があるかどうかを判定したり、照射部位を決定するために、腹腔鏡検査や手術を行うこともあります。

放射線療法の後に骨盤部に癌が残っている場合は、すべての骨盤内臓器を切除する骨盤内臓除去術を勧められることがあります。この処置により、最大で50%の人が治癒します。

 

癌が広範囲に広がっている場合や再発した場合:

化学療法を行うことがあります。通常はシスプラチンとトポテカンを用います。しかし、化学療法によって癌の縮小や転移の抑制といった効果が得られる人は15~25%に過ぎず、これらの効果も多くの場合はごく一時的なものです。

 

 

 がんによる痛みなどにより、一日のほとんどを寝たきりですごしたり、身の周りのことができずに介助を必要としたりする状態であれば、障害年金の対象となる可能性があります。

 抗がん剤などの治療により、全身が著しく衰弱してしまっている場合、障害年金の対象となる可能性があります。

 

 

 

 

子宮筋腫

 

子宮筋腫は、筋肉組織と線維組織で構成される非癌性の腫瘍です。

子宮筋腫は痛み、腟出血、便秘、繰り返す流産、頻回の尿意切迫などの症状を引き起こします。

医師は内診を行い、通常は超音波検査によって診断を確定します。

問題が起きている場合にのみ、治療が必要となります。

通常、症状の軽減や出産を可能にするためには、手術か子宮筋腫の組織を破壊する処置が必要となります。

 

子宮筋腫には、線維筋腫、線維腫、筋線維腫、平滑筋腫、類線維腫など、さまざまな別名があります。

子宮筋腫は、女性の生殖器に発生する非癌性腫瘍の中で最も多くみられるものです。45歳までに子宮筋腫が発生する女性は、全体の約70%にも上ります。子宮筋腫の多くは小さく、何の症状も引き起こしません。しかし、白人女性の約4分の1と黒人女性の約半数では、子宮筋腫が症状を起こします。子宮筋腫は過体重の女性により多くみられます。

 

子宮筋腫の増殖につながる原因は知られていません。エストロゲンとプロゲステロンの血中濃度が上昇すると、筋腫の増殖が刺激されると考えられています。そのため、子宮筋腫は妊娠中とわずかながら閉経前に増大することが多く、閉経後には縮小する傾向があります。子宮筋腫が大きくなりすぎると、十分な血液が供給されなくなります。その結果、組織の変性が始まります。

子宮筋腫には顕微鏡レベルのごく小さなものから、バスケットボール大のものまであります。筋腫は子宮内のさまざまな部分で増殖しますが、通常は子宮の壁(子宮は三つの層で構成されています)に発生します。

子宮の壁の内部(壁内筋腫)

子宮を構成する内側の層(子宮内膜)のすぐ下(粘膜下筋腫)

子宮の外側の表面上(漿膜下筋腫)

 

茎状に増殖する子宮筋腫もあり、有茎筋腫と呼ばれています。子宮の壁の内部や子宮内膜の下に大きな子宮筋腫ができると、子宮内部の形状がいびつになることがあります。通常は、同時に複数の筋腫が存在します。

 

 

子宮の壁の内部で増大する筋腫もあれば、子宮の壁から子宮の内腔に向かって増大していくもの(ときに茎状になります)、子宮内膜の下で増大するもの、子宮の外側で大きくなるものもあります。

 

症状

症状は、子宮筋腫の数、大きさ、子宮内での発生部位によって異なります。子宮筋腫の多くは、たとえ大きくても何の症状も引き起こしません。子宮筋腫があると、特に子宮内膜のすぐ下にできた筋腫は、通常よりも月経時の出血量が多くなったり、出血の持続期間が長くなったりします。多くの血液が失われる結果、貧血を起こすこともあります。比較的まれではありますが、子宮筋腫によって月経と月経の間の出血、性交後の出血、閉経後の出血などが起きることもあります。

 

大きな子宮筋腫が、特に子宮の壁の内部にできた場合には、月経時あるいはそれ以外の時期に、骨盤部に痛み、圧迫感、重苦しさなどを感じることがあります。子宮筋腫によって膀胱が圧迫されれば、頻尿や尿意切迫などの症状がみられるようになります。筋腫が直腸を圧迫すると不快感や便秘が起こることもあります。大きな子宮筋腫ができると、腹部が肥大することもあります。茎状になった筋腫が子宮内にできると、茎の部分がねじれて激しい痛みが生じることがあります。筋腫組織の増殖や変性が進行している時期には、圧迫感や痛みが生じるのが通常です。筋腫組織の変性による痛みの場合、変性が続く限り痛みも持続します。

それまで何の症状も引き起こしていなかった子宮筋腫が、患者の妊娠中に問題を引き起こすようになる場合もあります。具体的な問題としては、流産、早産、分娩前の胎児の姿勢(胎位)の異常、分娩後の過剰な出血などが発生する可能性があります。

 

まれではありますが、子宮筋腫によって卵管が塞がれたり、子宮が変形したりする結果、受精卵の子宮への付着(着床)が困難ないし不可能になってしまうこともあります。

 

診断

子宮筋腫の多くは内診の際に発見されます。

 

以下のような手法で子宮の状態を調べて診断を確定することもあります。

 

経腟超音波検査:

超音波装置を腟に挿入して行う超音波検査です。

 

生理食塩水を注入する子宮超音波検査:

子宮の内側をより精細に描出するため、子宮内に少量の生理食塩水を注入してから超音波検査を行う検査法です。

ときにMRI(磁気共鳴画像)検査が実施されることもあります。さらには、これら以外の追加検査が必要となる場合もあります。

出血が(月経時以外に)みられる場合は、医師から子宮癌を除外するための検査が勧められることがあります。その場合には、パパニコロー(パップ)検査や子宮内膜生検(子宮の内側を覆う組織の生検)、超音波検査、子宮超音波検査、子宮鏡検査などが行われます。子宮鏡検査では、内視鏡を腟と子宮頸部を通して子宮内まで挿入します。局所麻酔、区域麻酔、全身麻酔のいずれかが用いられます。

 

治療

子宮筋腫があっても、何の症状も問題も認められなければ、治療の必要はありません。その代わりに、6~12カ月ごとに診察を受け、筋腫が大きくなっていないかを調べます。

出血やその他の症状が悪化した場合や、筋腫の増大が著しい場合には、薬物療法や手術などの治療が行われます。

 

薬:

症状の緩和や筋腫を縮小させるために、いくつかの薬が使用されますが、その効果は一時的なものに過ぎません。子宮筋腫を永続的に縮小できる薬はありません。

体内で作られるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)と呼ばれるホルモンを人工的に合成した薬が、よく使用されています。この種の薬はGnRH作動薬と呼ばれていて、リュープロレリンとゴセレリンが最も多く使用されています。GnRH作動薬には、体内でのエストロゲン(とプロゲステロン)の分泌量を減少させることにより、子宮筋腫を縮小させ、出血量を減少させる効果があります。筋腫を縮小させ出血量を減少させることから、GnRH作動薬は、子宮筋腫の摘出を容易にし、手術時の出血量を抑え、手術に伴うリスクを低減するために、手術前に投与されることがあります。この薬は、月1回の注射によって投与するもの、鼻の中に噴霧するもの、皮膚の下に器具を埋め込んで使用するものなどがあります。GnRH作動薬を長期間継続して使用すると、骨密度が低下して、骨粗しょう症のリスクが高まる可能性があります。このような副作用を予防するため、低用量のエストロゲンがGnRH作動薬と併用されることもあります。

一部の患者では、ホルモン避妊薬(通常はプロゲスチン)で出血をコントロールすることが可能となります。しかし、避妊薬の服用をやめると異常出血と痛みが再発する傾向がみられます。また、避妊薬の使用によって、かえって子宮筋腫が大きくなってしまう場合もあります。

ラロキシフェンとその類縁薬(一部の選択的エストロゲン受容体モジュレーター[SERM]など)は、エストロゲンの一部の作用を逆転させることができ、それにより子宮筋腫の増殖を抑えることがあります。

 

手術:

手術は通常、以下のどれかに該当する患者で検討されます。

他の治療法を試みた後も、痛みや出血などの症状が日常生活に影響を及ぼすほどひどい場合

患者がその存在をわずらわしく感じるまでの大きな筋腫が存在する場合

患者が妊娠を希望している場合(子宮筋腫は不妊症や繰り返す流産の原因となります)

 

従来から行われている手術は、以下のいずれかです。

 

子宮摘出術:

子宮全体を摘出する手術法ですが、卵巣は摘出しません。子宮摘出術は子宮筋腫に対する唯一の根治的な治療法です。しかし、子宮摘出術を受けた女性は子供を産むことができなくなります。そのため、子宮摘出術は妊娠を希望していない患者にのみ行われます。

 

筋腫摘出術:

一つまたは複数の子宮筋腫だけを切除する手術法です。子宮摘出術とは異なり、筋腫摘出術を受けた女性の大半は子供を産むことができます。また人によっては、子宮を残した方が精神状態を良好に維持できる場合があります。しかし、筋腫摘出術の実施後には新たな子宮筋腫が増大してくる可能性があり、この手術を受けた患者の約25%では、術後4~8年間のうちに子宮摘出術が必要となります。

 

子宮摘出術では、以下に示す方法のいずれかが用いられます。

 

開腹手術:

腹部に5~10センチメートルほどの長さの切開を施して行う手術法です。

 

腹腔鏡下手術:

おへそのすぐ下辺りの1カ所または数カ所を小さく切開し、そこから手術器具が付属した内視鏡を挿入して行う手術法です。この方法では、子宮全体を摘出することも可能です。あるいは、子宮頸部はそのまま残しておき、子宮の主な部分(体部)だけを切除する手術法もあります(腹腔鏡下子宮頸上部摘出術と呼ばれます)。

 

腟式子宮摘出術:

腟から子宮全体を摘出する手術法です。この方法では腹部の切開が不要となります。

 

筋腫摘出術では、開腹手術、腹腔鏡下手術(子宮の外側にできた筋腫の摘出に用いられます)および子宮鏡手術のいずれかの方法が用いられます。子宮鏡下手術では、光源付きの内視鏡を腟から子宮内まで挿入します。この装置は、子宮の内側の組織の切離や筋腫の切除ができます。どの方法が選択されるかは、筋腫の大きさ、数、位置によって異なります。腹腔鏡下手術と子宮鏡下手術は、入院を必要とせず、術後の回復も開腹手術と比べて早くなります。ただし、腹腔鏡下手術は大きな筋腫は摘出できないことがあり、術後に合併症の発生するリスクが高くなる可能性もあります。

 

その他の治療法:

以上のほかにも、子宮筋腫を摘出するのではなく、これを破壊する治療法もあります。

 

子宮動脈塞栓術では、まず局所麻酔によって太ももの小さな領域の感覚を失わせた後、そこに小さな穴か切開口を作ります。続いて、その切開口から細くて柔軟性のある管(カテーテル)を太ももの大きな動脈(大腿動脈)に挿入します。このカテーテルを筋腫に血液を供給している動脈まで進めてから、そこで微細な合成粒子(塞栓物質)を注入します。この粒子は筋腫に血液を供給している細い動脈内を流れていき、その動脈を詰まらせます。その結果、筋腫の組織が壊死し小さくなっていきます。子宮のほかの部分はほとんど影響を受けません。しかし、筋腫が再び増大したり(ふさいだ動脈の再開通や新しい動脈の形成によって)、患者が妊娠可能な状態になるかどうかについては不明です。この処置を行った後、最も問題になるのは、痛みと感染症です。

 

筋腫組織を破壊するその他の治療法としては、針状の器具や超音波装置またはその両方を使用することで、組織を加熱(高密度焦点式超音波療法またはラジオ波焼灼術)あるいは冷却(凍結手術)する方法があります。筋腫融解術は、筋腫の組織内に電流または熱を伝える針を挿入し、それにより筋腫の核を破壊する治療法です。凍結手術の一種である凍結筋腫融解術も同様の治療法で、冷却されたプローブによって筋腫の組織を破壊します。これらの治療法を受けた女性が妊娠可能な状態となるかどうかは、まだ明らかにされていません。

 

これらの治療後に、子宮筋腫が再発することがあります。場合によっては、別の治療法や子宮摘出術が実施されるでしょう。

 

 

女性生殖器の癌

 

癌は、外陰部、腟、子宮頸部、子宮体部、卵管、卵巣など、女性の生殖器のどこにでも起こりえます。これらの癌を婦人科癌といいます。

婦人科癌は近くの組織や器官に直接浸潤して広がったり、またリンパ管やリンパ節(リンパ系)、血流を通じて、離れた部位に転移したりすることもあります。

 

診断

内診やパパニコロー(パップ)検査などを定期的に行うことで、子宮頸癌をはじめとする一部の婦人科癌を早期に発見できます。これらの検査で癌になる前の変化である異形成が発見され、癌を予防できることがあります。定期的に内診を行うことで、腟や外陰部の癌が早期に発見されることもあります。ただし、卵巣や子宮、卵管の癌を内診で見つけるのは容易ではありません。

癌の疑いがあれば、生検で診断の確定または除外ができます。癌と診断された場合は、癌の病期(ステージ)を判定するためさらに検査を行います。病期は、癌の大きさや体内での広がりに基づいています。病期診断によく用いられる検査には、超音波検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像)検査、胸部X線検査、放射性物質を使った骨スキャンなどがあります。

病期診断は、最も適した治療を選択するのに役立ちます。癌を除去する手術を行い、リンパ節を含めた周辺組織の生検を行ってから病期を判定することもよくあります。婦人科癌の病期は、ステージI(早期癌)からステージIV(進行癌)に分類されます。ほとんどの癌は、病期の数字にアルファベットをつけてさらに細かく分類します。

 

女性生殖器の癌の病期分類*

 

種類

ステージI

ステージII

ステージIII

ステージIV

子宮内膜癌(子宮体癌)

子宮体部(子宮の上部)のみに限局(子宮頸部には認められない)

子宮頸部まで広がっているもの

近くの組織や腟、リンパ節に広がっているが、骨盤内にとどまっているもの

A:膀胱または腸管に転移しているもの

B:離れた臓器に転移しているもの

卵巣癌

片側または両側の卵巣のみに限局

子宮や卵管、近くの組織に広がっているが、骨盤内にとどまっているもの

骨盤外のリンパ節または肝臓の表面、小腸、近くの組織に転移しているもの

腹腔外や肝臓内部に転移しているもの

子宮頸癌

子宮頸部のみに限局

子宮頸部外(腟上部など)に広がっているが、骨盤内にとどまっているもの

骨盤内全体(腟下部など)に広がっているもの。ときに尿管の閉塞を伴う

A:膀胱または直腸に転移しているもの B:離れた臓器に転移しているもの

外陰癌

外陰部および/または会陰部(肛門と腟口の間)のみに限局し、大きさが約2センチメートル以下のもの

外陰部および/または会陰部のみに限局し、大きさが約2センチメートルを超えるもの

外陰部および/または会陰部に加えて、近くの組織および/またはリンパ節に広がったもの

近くの組織を越えて膀胱、腸、離れたリンパ節に転移しているもの

腟癌

腟のみに限局

近くの組織に広がっているが、骨盤内にとどまっているもの

骨盤内全体に広がっているもの

A:膀胱または直腸に転移しているもの B:離れた臓器に転移しているもの

卵管癌

片側または両側の卵管のみに限局

近くの組織に広がっているが、骨盤内にとどまっているもの

腹部臓器(腸管や肝臓など)または近くのリンパ節に転移しているもの

離れた臓器に転移しているもの

 

癌の広がりに応じて、ステージIVをAまたはBに細分化することもある。

 

 

治療

子宮内膜癌または卵巣癌の治療は、腫瘍の切除が中心になります。手術後に放射線療法や化学療法を行うこともあります。子宮頸癌の放射線療法には、大きな装置を使って体外から照射を行う外部照射治療と、癌に放射性物質を直接埋めこむことで照射する内部照射(小線源)治療があります。外部照射は週に数回ずつ数週間行います。内部照射の場合は、放射性物質が体内にある間、数日間の入院が必要です。

化学療法は注射や内服により、あるいは腹腔内に挿入したカテーテルを用いて行います。化学療法の頻度は癌の種類によって異なります。化学療法を受けている間は入院が必要な場合もあります。

 

癌の進行が著しく、治癒はもはや望めない場合でも、癌の大きさと転移を抑え、痛みなどの症状を軽減させるために、放射線療法や化学療法を行うことがあります。治癒が望めない癌がある場合は、自分自身がどのような治療やケアを望むかをまとめた事前指示書(アドバンス・ディレクティブ)を作成しておきます。終末期のケアは以前に比べて大きく改善され、自宅で安楽に最期を迎えるケースも増えています。治癒を望めない癌をもつ人の多くは不安や痛みを経験しますが、適切な薬を使うことでこれらを軽減できます。

 

 

子宮体癌(子宮内膜癌)

 

子宮体癌は子宮内膜に発生するため子宮内膜癌とも呼ばれます。

通常は閉経後に発生します。

異常な腟出血が生じることがあります。

診断には、子宮内膜から採取した組織サンプルを検査します(生検)。

通常は子宮と卵管を切除します。手術後には放射線療法を行うことが多いですが、化学療法を行うこともあります。

子宮体癌は子宮内膜に発生するため、正確には子宮内膜癌と呼ばれます。米国では、婦人科癌で最も多く、女性の間で4番目に多い癌で、50人に1人の割合で起こります。この癌は通常、閉経後に生じ、50~65歳の女性に最も多くみられます。

子宮体癌の80%以上は腺細胞から発生する腺癌です。結合組織から発生する肉腫は5%未満で、肉腫は浸潤性が高い傾向があります。

 

原因

子宮内膜癌は、食事で脂肪を多く摂取する先進諸国によくみられます。

 

子宮内膜癌の特に重要な危険因子は以下のとおりです。

肥満

糖尿病

高血圧

 

このほか、エストロゲンの値が高まってもプロゲステロンの値は高まらない場合に、子宮体癌のリスクが増大します。たとえば以下の場合には注意を要します。

早い時期に初潮を迎えたか、52歳以降に閉経を迎えた場合、あるいは両方に該当する場合

月経異常がある場合(出血過多、月経期以外の出血、長期にわたる無月経など)

子どもがいない場合

エストロゲンを分泌する腫瘍がある場合

プロゲスチン(ホルモンのプロゲステロンに似た合成薬)を併用しないエストロゲン療法などにより、エストロゲンを含有する薬を閉経後に多く服用した場合

タモキシフェンを5年以上使用した場合

 

エストロゲンは組織の成長を促し、子宮内膜細胞の分裂を速める作用があります。プロゲステロンには、こうしたエストロゲンの作用を抑制する働きがあります。エストロゲンの値は月経周期の一時期に高くなるため、生涯に経験する月経の回数が多い人ほど子宮内膜癌のリスクが高くなる可能性があります。乳癌の治療に使われるタモキシフェンは、乳房ではエストロゲンの働きを阻害しますが、子宮ではエストロゲンと同じ働きをします。したがって、タモキシフェンを使用することにより、子宮内膜癌のリスクは高くなる可能性があります。エストロゲンとプロゲスチンを含有する経口避妊薬の使用は、子宮体癌のリスクを減少させるとみられています。

 

このほかに、以下のような危険因子があります。

家族の中に乳癌、卵巣癌、大腸癌(結腸癌)、子宮内膜癌になった人がいる。

骨盤部の放射線療法を受けたことがある。

 

症状

子宮体癌で最もよくみられる初期症状は腟からの異常出血です。異常出血には以下の種類があります。

閉経後の出血

月経期以外の時期の出血

 

月経周期が不規則になったり、月経の出血量が多い、あるいは通常よりも月経の期間が長い

閉経後に腟からの出血がある人の3人に1人は子宮体癌が原因です。閉経後に出血があった場合は、すぐに診察を受けるべきです。少量の血が混じった水っぽい分泌物がみられる場合もあります。閉経後の女性では数週間から数カ月間分泌物が続き、その後に出血がみられる場合もあります。

 

診断

医師は典型的な症状がある場合や、定期健診のパパニコロー(パップ)検査の結果に異常がみられる場合は子宮内膜癌を疑います。癌の疑いがあれば外来で子宮内膜の組織サンプルを採取して(子宮内膜生検)分析のために検査室に送ります。この検査は90%以上の確率で子宮体癌を正確に検出できます。それでも診断が確定できない場合には、子宮頸管拡開と子宮内掻爬を行い、子宮内膜からこすり取った組織を調べます。同時に、細く柔軟性のある内視鏡を腟から子宮内に挿入し、子宮内部を観察することもあります(子宮鏡検査)。超音波装置を腟から子宮内に挿入して異常を調べる方法(経腟超音波検査)もあります。

 

子宮内膜癌と診断された場合は、癌が子宮の外まで広がっていないかどうかを確認するため、血液検査、腎機能検査、肝機能検査、胸部X線検査などを行います。診察や検査の結果、癌が子宮以外に転移していると考えられる場合は、CT検査やMRI検査を行います。これ以外の検査が必要となる場合もあります。検査の結果と、癌を切除する手術の際に得られた情報に基づいて、癌の病期を判定します。

 

予後(経過の見通し)

子宮内膜癌は早期に見つかれば、患者の70~95%近くが5年以上生存し、その多くは治癒に至ります。癌が子宮以外の部位に転移していない場合は、転移がある場合と比べて予後は良くなります。また、癌の増殖が遅い場合も予後は良くなります。この癌の患者のうち、死亡する人は3分の1未満です。

 

治療

子宮内膜癌では、手術で子宮を切除する子宮摘出術が治療の中心となります。癌が子宮以外に転移していない場合には、子宮摘出と同時に卵管と卵巣の切除(卵管卵巣摘出)を行うことにより、ほとんどのケースで癌が完治します。癌が著しく進行していなければ、子宮摘出術により予後が改善します。通常、近くのリンパ節も同時に切除します。摘出した組織は病理医が検査し、癌の転移の有無を調べるとともに、転移がある場合にはその範囲を明らかにします。これらの情報から、手術後に他の治療(化学療法、放射線療法、プロゲスチンの投与)が必要かどうかを判断します。

非常に進行した癌では治療法は多岐にわたりますが、通常は手術、放射線療法、化学療法を併用して行い、場合によっては合成ホルモンも併用します。

手術の後に癌細胞が検出されずに残っていることがあるので、念のため放射線療法を行う場合があります。癌が子宮内に限局している人の半数以上は、手術後の放射線療法は必要ありません。しかし、癌が子宮頸部まで広がっていたり、子宮外に転移している場合には、術後の放射線療法が通常は推奨されます。

癌が子宮や子宮頸部を超えて転移している場合や再発した場合には、化学療法薬(カルボプラチン、シスプラチン、シクロホスファミド、ドキソルビシン、パクリタキセルなど)の投与を放射線療法の代わりに行うか、あるいは化学療法薬の投与と放射線療法を併せて行うことがあります。化学療法薬を投与すると、癌の縮小や転移の抑制といった効果が患者の半数以上にみられます。しかし、これらの薬は毒性があり、多くの副作用を引き起こします。

 

癌が化学療法に反応しない場合には、プロゲスチン(ホルモンのプロゲステロンに似た合成薬)を使用することがあります。プロゲスチンの毒性は化学療法薬よりもはるかに低いとされています。プロゲスチンを投与すると、転移や再発がみられる患者の20~25%で癌が縮小し、2~3年間は転移が抑制されます。プロゲスチンの投与は効果がみられる限り継続します。

子宮を摘出した後にほてりや腟の乾燥などの更年期症状が気になる場合は、エストロゲンやプロゲスチンなどのホルモン剤を単独投与するか併用投与することで、症状を緩和できます。この治療は安全で、癌が再発するリスクが高まることもありません。

 

 

子宮摘出術について理解する

子宮摘出術とは、子宮を取り除く手術です。通常は下腹部を切開して子宮を取り出します。時には腟から子宮を取り出す手術もあります。いずれの方法も全身麻酔で行われ、普通は1~2時間かかります。術後に腟からの出血や痛みがあります。入院期間は通常2~3日、回復には6週間程度かかります。腟から切除した場合は出血量が少なくて回復も早く、目に見える傷が残らないという利点があります。

技術の進歩に伴い、腹腔鏡手術やロボット手術によって子宮を摘出できるケースも出てきました。このような手術では、入院は1日で済みます。術後の痛みも少なく、従来の手術よりも早く普段の生活に復帰できます。

子宮摘出術は婦人科癌の治療だけでなく、子宮脱、子宮内膜症、重症の子宮筋腫などの治療としても行われます。大腸癌、直腸癌、膀胱癌の治療の一環として行われることもあります。

 

子宮摘出術にはいくつかの種類があり、どれを行うかは治療する病気によって異なります。

 

子宮腟上部切断術:

子宮の上部のみを摘出し、子宮頸部は残します。卵管と卵巣は一緒に摘出する場合もあれば残す場合もあります。

 

子宮全摘出術:

子宮頸部も含めた子宮全体を摘出します。

 

広汎子宮全摘出術:

子宮全体とともに周囲の組織、靭帯、リンパ節も切除します。45歳以上であれば、通常は左右の卵管と卵巣も一緒に摘出します。

子宮摘出後には月経が止まりますが、卵巣も一緒に摘出しないかぎり閉経が起こることはありません。卵巣も一緒に摘出した場合は閉経と同じ状態になるので、ホルモン療法を勧められることがあります。子宮を摘出するとうつ状態になったりセックスに興味がなくなるのではないかと心配する女性が多いようです。しかし卵巣も一緒に摘出しないかぎり、そのような影響が出ることはめったにありません。

 

 

 

卵巣癌

 

病巣が大きくなるか、転移するまで、症状がみられないことがあります。

卵巣癌の疑いがある場合は、超音波検査、MRI検査、CT検査などを行います。

通常は、左右の卵巣と卵管、子宮を切除します。

多くの場合、手術後に化学療法が必要となります。

卵巣癌は50~70歳の女性に最も多く発生します。女性の約70人に1人の割合でみられます。

 

卵巣癌のリスクが増大する要因には、たとえば以下のものがあります。

加齢(主な要因)

妊娠経験がない

高齢で第1子を出産した

初潮が早かった

閉経が遅かった

子宮体癌、乳癌、大腸癌(結腸癌)にかかった家族がいる

 

卵巣癌のリスクは先進諸国の方が高く、これは食事で脂肪を多く摂取する傾向にあることが原因とされています。経口避妊薬を使用すると卵巣癌のリスクは著しく減少します。

卵巣癌の約5~10%はBRCA遺伝子に関係しており、この遺伝子は一部の乳癌にも関与しています。BRCA遺伝子に変異があると、卵巣癌と乳癌が家族に多くなる傾向があります。このような遺伝子の異常は、アシュケナージ系ユダヤ人女性で特に多くみられます。

 

卵巣癌にはさまざまな種類があります。それぞれ卵巣中の異なる種類の細胞から発生します。卵巣癌の80%以上は卵巣の表面に発生する癌(上皮癌)です。残りのほとんどは卵子を生じる細胞から発生する癌(胚細胞腫瘍)と結合組織に発生する癌(間質細胞腫瘍)です。胚細胞腫瘍は30歳未満の若い女性に特に多く発生します。ときには、体内の別の部位に生じた癌が卵巣に転移することもあります。

卵巣癌は周辺部位に直接広がるだけでなく、リンパ系を通して骨盤内や腹部の他の部位に転移します。また血流に乗って、主に肝臓や肺などの離れた部位に転移することもあります。

 

症状

卵巣癌ができると、できた側の卵巣が腫れて大きくなります。若い女性の卵巣腫大は主に、液体で満たされた非癌性の袋状の構造物(嚢胞)が原因です。これに対し、閉経後の卵巣腫大は卵巣癌の徴候として現れます。

この癌は進行するまでほとんど症状が現れません。最初の症状は、消化不良に似た、下腹部の漠然とした不快感などです。このほか、腹部の張り、食欲不振(胃が圧迫されるため)、ガス痛(胃腸内のガスによる痛み)、腰痛などの症状がみられます。卵巣癌では腟の出血はめったにみられません。

卵巣が腫大し、腹部に水分がたまるため、次第に腹部ふくらんでくることがあります。この段階になると、骨盤部の痛み、貧血、体重減少がみられるようになります。まれに胚細胞腫瘍や間質細胞腫瘍がエストロゲンを分泌し、このため子宮内膜組織が過度に増殖したり、乳房が大きくなったりすることがあります。あるいは、これらの腫瘍から男性ホルモン(アンドロゲン)が分泌されて体毛が過度に増えたり、甲状腺ホルモンに似たホルモンが分泌されて甲状腺機能亢進症が起きたりすることもあります。

 

診断

卵巣癌の早期診断は困難で、なぜなら癌がかなり大きくなるまで、または他の部位に転移するまで何の症状もみられないためです。また多くのそれほど重篤でない病気と症状が似ていることも、早期発見を困難にしています。

診察で卵巣の腫大が見つかると、まず超音波検査を行います。卵巣嚢胞なのか癌による腫瘤なのかを判別するために、CT検査やMRI検査を行うことがあります。進行癌が疑われる場合は、手術前にCT検査やMRI検査で癌の広がりを調べます。

癌でないと思われる場合は、定期的に診察を受けて経過をみます。

癌の疑いがある場合や、検査結果がはっきりしない場合には、へそのすぐ下を小さく切開し、細く柔軟性のある内視鏡(腹腔鏡)を挿入して卵巣を観察します。また、腹腔鏡から器具を通して組織のサンプルを採取し、検査します(生検)。さらに血液検査を行い、癌抗原125(CA125)など、癌の存在を示す物質(腫瘍マーカー)の値を測定します。腫瘍マーカーは、その値が異常を示したからといって、それだけで癌の診断が確定するわけではありませんが、他の検査結果と総合することで診断の確定に役立ちます。

腹部に体液がたまっている場合は、針で吸引し、癌細胞の有無を検査することがあります。

卵巣癌の進行が疑われる場合や、卵巣癌の診断が確定した場合には、腹部を切開して組織サンプルを採取します。これと同時にできる限り多くの癌を切除し、癌がどの程度広がっているかを判定します(病期診断)。

 

予後(経過の見通し)

予後は病期を基に判断します。診断と治療から5年後に生存している人の割合は、以下のとおりです。

ステージI:70~100%

ステージⅡ:50~70%

ステージⅢ:20~50%

ステージⅣ:10~20%

 

癌の浸潤性が高い場合や、眼に見える異常組織を手術で取り切れなかった場合には、経過の見通しは悪くなります。ステージⅢまたはⅣの人の70%で癌が再発します。

 

予防

卵巣癌または乳癌にかかった家族が多い場合は、遺伝子の異常を調べるべきだと考える専門家もいます。第1度または第2度の近親者がこれらの癌にかかった場合、特にアシュケナージ系ユダヤ人の家系では、BRCA遺伝子の異常を調べる遺伝子検査について医師に相談するべきです。BRCA遺伝子に特定の変異がみられる女性で妊娠を希望しない場合は、癌がなくても、左右の卵巣と卵管の切除を勧められることがあります。この手術により、卵巣癌のリスクがなくなり、乳癌のリスクも軽減します。

 

治療

手術の範囲は卵巣癌の種類と病期によって異なります。ほとんどの場合、左右の卵巣と卵管、子宮を切除します。癌が卵巣外まで広がっている場合は、卵巣癌が転移しやすい近くのリンパ節と周辺組織も切除します。ステージIの癌の人で、片側の卵巣のみに腫瘍があり、妊娠を希望している場合は、癌のある側の卵巣と卵管のみを切除することもあります。体内の別の部位まで転移した進行癌では、できる限り多くの癌を切除することにより生存期間を延長することができます。

ステージIの上皮癌ではほとんどの場合、手術後にそれ以上の治療は必要ありません。ステージIでも上皮癌以外の場合や、病期がさらに進んだ癌では、小さな癌が残っているおそれがあるので、これを治療するために化学療法を行います。化学療法では、パクリタキセルとカルボプラチンの併用投与を6回行うのが典型です。胚細胞腫瘍の多くは、癌がある側の卵巣と卵管を切除し、ブレオマイシン、シスプラチン、エトポシドを併用する化学療法を行うことで治癒します。放射線療法はめったに行われません。

進行した卵巣癌の多くは再発します。化学療法が終了した後、腫瘍マーカーの値を継続的に測定します。癌が再発した場合は、カルボプラチン、ドキソルビシン、エトポシド、ゲムシタビン、パクリタキセル、トポテカンなどによる化学療法を行います。

 

 

卵巣嚢胞

卵巣嚢胞とは液体で満たされた袋(嚢胞)が卵巣の内部や表面にできることで、比較的よくみられます。そのほとんどは非癌性で、自然になくなります。癌性の嚢胞は40歳以上の女性に多い傾向があります。

非癌性卵巣嚢胞のほとんどは症状を起こしません。しかし、ときに圧迫感や痛みが生じたり、腹部が重い感じがすることがあります。性交中に痛みを感じることもあります。嚢胞が破裂したりねじれたりすると腹部に刺すような激しい痛みが生じます。吐き気や発熱を伴うこともあります。卵巣嚢胞の中には月経周期に影響を及ぼすホルモンを産生するものもあります。そのため月経周期が不規則になったり、月経の出血や症状が重くなることがあります。閉経後の女性では、卵巣嚢胞が腟からの出血を引き起こすことがあります。こうした症状がある場合は医師の診察を受けるべきです。

嚢胞は、通常の内診の際に発見されるか、または症状から疑われることもあります。まず妊娠検査を行い、妊娠していないことを確認します。診断を確定するため、超音波装置を腟から子宮の中に入れて観察することもあります(経腟超音波検査)。

嚢胞が非癌性と推測される場合は、消失するまで定期的に内診を行います。嚢胞が癌性と推測される場合は、CT検査またはMRI検査を実施することがあります。これらの検査でも癌が疑われる場合は、へその下を小さく切開して腹腔鏡を挿入し、卵巣を観察します。血液検査も癌の診断と除外に役立ちます。

 

非癌性の嚢胞は特に治療の必要はありません。ただし、直径が約5センチメートル以上あり自然に消失しない嚢胞は、切除が必要になることもあります。癌の可能性を否定できない場合は、卵巣を切除します。癌性の嚢胞がある場合は、同じ側の卵巣と卵管も摘出します。

手術は、腹部の1カ所を小さく切開し、腹腔鏡を挿入して行うか、大きく切開する開腹手術を行うこともあります。

 

 

 

乳癌

 

 乳がんとは、乳線などの乳房の組織の細胞ががん化し、増殖する病気です。

 

乳癌は、女性がかかる癌の中で発症数が2番目に多く、癌による死亡の中でも第2位を占めています。

通常、最初に現れる症状は痛みのないしこりで、自分で気付くことがほとんどです。

50歳を過ぎた女性やリスクの高い女性は、月1回自己検診を行い、年に1度医師の診察とマンモグラフィを受けることが勧められています。

充実性のしこりが見つかった場合は、少量の細胞を針で切除するか、または、しこりをすべて切除して検査(生検)を行います。

 

治療

 

手術:

癌性の腫瘍といくぶんかの周辺組織を切除します。腫瘍切除には主に二つの選択肢、すなわち乳房温存術と乳房切除術があります。浸潤癌(ステージI以上)では、乳房温存術で腫瘍全体を切除できさえすれば、乳房温存術と放射線療法の併用療法より乳房切除術の方が有効だとはいえません。腫瘍を切除する前に、腫瘍を縮小させるために化学療法を行うこともあります。この方法を用いれば、乳房切除術ではなく乳房温存術が選択できるようになる場合もあります。

乳房温存術では、乳房のできるだけ多くの部分をそのまま残します。乳房温存術には以下のような種類があります。

腫瘤摘出術は腫瘍とともに周辺の正常組織を少量切除します。

乳房円状部分切除術(乳房部分切除術)は腫瘍とともに周辺の正常組織を大きめに切除します。

乳房扇状部分切除術は乳房の約4分の 1を扇状に切除します。

腫瘍とともに周辺の正常組織をいくらか切除することで、その乳房内での癌の再発を防止できる可能性が大幅に高まります。乳房温存術は通常、放射線療法と組み合わせて行われます。

乳房温存術の最大の利点は、術後も乳房の外観が保たれるため、体のイメージを大きく損なわずにすむことです。しかし、乳房に対して腫瘍が大きい場合には乳房温存術の有用性は少なくなります。このような例では、腫瘍と周辺の正常組織を切除するだけでも、結局は乳房の大部分を切除することになります。乳房温存術は腫瘍が小さい場合により適しています。乳房温存術を受ける女性の約15%では周辺組織の切除範囲が少なくてすむため、治療していない乳房と比べても形や大きさにほとんど違いが生じません。しかし、大部分の女性では治療した乳房が幾分縮むため、形が変わる可能性があります。

もう一つの手術の主な選択肢として乳房切除術があります。乳房切除術には以下のような種類があります。

 

乳房単純切除術:

乳房の組織をすべて切除しますが、乳房の下の筋肉と傷を覆うだけの皮膚は残します。これらの組織を残すことで、乳房の再建が非常に容易になります。乳管にかなりの量の癌がある場合は、通常乳房温存術ではなく乳房単純切除術を行います。

 

非定型的乳房切除術:

乳房組織全体とわきの下のリンパ節の一部を切除し、乳房の下の筋肉は残します。この方法は、通常、定型的乳房切除術の代わりに行います。

 

定型的乳房切除術:

乳房組織わきの下のリンパ節、乳房の下の筋肉をすべて切除します。現在ではこの手術はまれです。

 

浸潤癌の場合やその疑いがある場合には、リンパ節切除術(リンパ節郭清)も併せて行われます。乳房の近くのリンパ節を通常10~20個ほど切除し、癌がリンパ節に転移しているかどうかを調べます。もし癌細胞がリンパ節内に検出されれば、体の他の部位に転移している可能性が高くなります。この場合、追加治療が必要です。リンパ節を切除すると組織内の水分の排出に影響を与えるため、多くの場合、問題が起こります。腕や手に水分がたまって慢性的なむくみを生じることがあります(リンパ浮腫)。腕や肩の動きが制限されることもあります。リンパ浮腫は特別な訓練を受けた療法士が治療します。たまった液体の排出をうながすマッサージの方法や、液体が再びたまらないよう包帯を巻く方法を教えてもらいます。浮腫が生じている腕は、重いものを持ち上げる以外は、できる限り普段通りに使うようにし、重いものを持ち上げるときは浮腫がない腕を使います。指導通りに毎日、浮腫が生じている腕の運動を行い、夜はずっと包帯を巻くようにします。他の問題として、一時的あるいは慢性的なしびれ、慢性的な灼熱感、感染症などがみられることもあります。

 

センチネルリンパ節生検は、リンパ節切除による影響を無くすか最小限にとどめるための新しい方法です。この方法では、腫瘍からのリンパ液が最初に流れこむリンパ節(複数の場合もある)を見つけ出して切除します。癌細胞が検出された場合は、他のリンパ節を切除します。癌細胞が検出されなかった場合は、他のリンパ節は切除しません。この方法に従来の標準的なリンパ節切除術と同等の効果があるかどうかは研究中です。

乳房再建術は乳房切除術と同時に行われることも、後から行われることもあります。乳房再建にはシリコンまたは生理食塩水の入った乳房インプラントや、患者の体の別の部位から採取した組織が使用されます。シリコンインプラントは漏れ出すことがあるため、その安全性には疑問があります。しかし、シリコンの漏れが重大な影響を及ぼすという証拠もほとんどありません。

 

放射線療法:

放射線療法は、腫瘍の切除部位に残っている癌細胞や近接のリンパ節など周辺組織の癌細胞を殺す目的で行われます。乳房切除術のあとに放射線療法を行うと、手術部位の近くや近接のリンパ節に癌が再発するリスクが低くなります。大きな腫瘍が複数ある場合や、近接の複数のリンパ節に癌が転移している場合には生存率が向上することもあります。

副作用として、乳房の腫れ、照射部位の皮膚の発赤や水疱、疲労感などがあります。通常、これらの副作用は数カ月から1年以内に解消します。治療を受けた女性の5%未満に、肋骨の骨折とそれに伴う軽い不快感が生じます。また約1%の女性に、照射を終えて6~18カ月たってから軽度の肺炎がみられます。肺の炎症に伴い空せきや運動時の息切れがみられ、この症状は最長で6週間ほど続きます。

放射線療法を改善するために、いくつかの新しい方法が研究されています。その多くは、より正確に癌に放射線を照射し、乳房の残りの部分に放射線の影響を与えないことを目的としています。その一つはカテーテルを使って腫瘍の部位に放射性物質でできた小さな線源を挿入する方法です。わずか5日間で治療が完了します。このような新しい方法が従来の放射線療法と同じくらいの効果をもつのかどうかは明らかになっていません。

 

薬:

化学療法とホルモン遮断薬による治療を行うことで、全身で癌細胞の増殖を抑えることができます。化学療法と時にホルモン遮断薬は、リンパ節から癌細胞が検出された場合に手術と放射線療法に加えて行われます。リンパ節から癌細胞が検出されなかった場合に行われることもよくあります。これらの薬物療法は手術の直後から開始し、数カ月間継続します。タモキシフェンなど一部の薬は最長5年間継続します。薬物療法はほとんどの患者で癌の再発を遅らせる効果があり、生存期間を延長させます。癌の遺伝物質を分析すると(予測的なゲノム検査)、どの癌が化学療法やホルモン遮断薬に反応するかを予測するのに役立ちます。

 

化学療法は、癌細胞のように急速に増殖している細胞を殺したり、増殖を遅らせるために行われます。化学療法だけでは乳癌を完治させることはできません。手術や放射線療法と組み合わせる必要があります。化学療法薬は通常は静脈投与で、投与サイクルを何回か繰り返します。経口投与の場合もあります。1日投与したら数週間の回復期間をおく方法が典型的です。化学療法薬は単独で使用するよりも数種類を併用した方が効果的です。どの薬を使用するかは、近くのリンパ節から癌細胞が検出されたかどうかによってある程度決まります。よく使われる薬には、シクロホスファミド、ドキソルビシン、エピルビシン、5-フルオロウラシル、メトトレキサート、パクリタキセルなどがあります。副作用(吐き気や嘔吐、脱毛、疲労など)は使用する薬によって異なります。化学療法薬は卵巣内にある卵細胞を破壊するため、不妊や早期閉経の原因となる可能性があります。

また、化学療法は、骨髄による血液細胞の産生を抑制することがあります。そこで骨髄を刺激するためにフィルグラスチムやペグフィルグラスチムなどの薬剤が用いられる場合があります。

 

ホルモン遮断薬は、エストロゲン あるいはプロゲステロンの作用を阻害することにより、これらのホルモンに対する受容体をもつ癌細胞の増殖を抑えます。癌細胞にこれらの受容体がある場合に、ホルモン遮断薬が使われます。

 

タモキシフェン:

タモキシフェンの内服薬は、選択的エストロゲン受容体モジュレーターの一種です。エストロゲン受容体に結合し、乳房組織の増殖を阻害します。エストロゲン受容体陽性の癌がある女性にタモキシフェンを使用すると、診断から10年後の生存率が約20~25%上昇します。タモキシフェンは、エストロゲンに関係があり、閉経後に行うエストロゲン療法と同様の便益とリスクが一部みられます。たとえば、骨粗しょう症や骨折のリスクが低下します。脚や肺に血栓が生じるリスクが高まります。また、子宮内膜癌を発症するリスクも大幅に高まります。タモキシフェンを服用中に腟からの出血がみとめられた場合には、医師に診てもらう必要があります。しかし、乳癌手術後の生存率改善のメリットは、この子宮内膜癌の発症リスクを大幅に上回ります。タモキシフェンはエストロゲン療法とは異なり、閉経に伴う腟の乾燥やほてりを悪化させることがあります。タモキシフェンは通常、5年間服用します。

 

アロマターゼ阻害薬:

アナストロゾール、エクセメスタン、レトロゾールなどの薬はアロマターゼ(一部のホルモンをエストロゲンに転換させる酵素)の作用を阻害するため、エストロゲンの産生量を減らす効果があります。閉経後の女性には、タモキシフェンより効果があることもあります。タモキシフェンと同時に投与するか、タモキシフェンを5年間使用したあとに投与します。アロマターゼ阻害薬は骨粗しょう症のリスクを増加させることがあります。

モノクローナル抗体は、体の免疫系の一部を構成する天然の物質を人工的に複製したもの(またはやや修飾したもの)です。この薬は癌と戦う免疫系の能力を高めます。モノクローナル抗体の一種であるトラスツズマブは、癌細胞に過剰な数のHER-2受容体がみられる場合にのみ、転移性乳癌に対して化学療法と共に使用されます。この薬はHER-2受容体に結合し、癌細胞の増殖を防ぐ働きをします。トラスツズマブの投与は通常1年間です。心筋が弱くなることがあります。

 

 

 がんによる痛みなどにより、一日のほとんどを寝たきりですごしたり、身の周りのことができずに介助を必要としたりする状態であれば、障害年金の対象となる可能性があります。

 がんが乳房だけでなく、別の場所に転移している場合は受給対象となる可能性が高いです。

 抗がん剤などの治療により、全身が著しく衰弱してしまっている場合、障害年金の対象となる可能性があります。

 

 

 

悪性繊維性組織球腫

 

悪性繊維性組織球腫の詳しい原因については分かってはいませんが、過去に放射線治療を受けたことがある場合、リスクが高まる可能性があります。また、抗がん剤の一種であるアルキル化剤を使用していた場合も、リスクが高まる恐れがあります。発症する年齢については、すべての年齢で発生する可能性があるのですが、最も多いとされているのが50代から70代のとなっており、男女比率を見ると、2対1と男性の方が多く発症する傾向にあります。

 

悪性繊維性組織球腫の検査では、症状の広がりを正確に確認するため、MRIなどの画像検査が行われます。また、他の臓器への転移を確認するために肺などの臓器の画像検査を実施します。ただし、患部の観察や画像検査のみで診断することはありません。腫瘍組織に切開を入れ、体内から組織を採取し、採取した組織を顕微鏡で観察してから悪性繊維性組織球腫であるかどうかの判断をします。これを生検といいますが、この検査でその後の治療方法や手術の方法について決定することになります。

 

悪性繊維性組織球腫の治療は体内から腫瘍を切除するため、腫瘍をまわりの組織でひとかたまりにして包み込むように取り出す広範切除手術が必要になります。腫瘍が急速に大きくなるため、大きな手術になる可能性があります。また、腫瘍の転移が考えられることから、全身の悪性の細胞を死滅させるために抗がん剤を使用することもあります。ただし、大きな副作用が出る場合もあるため、体力のない高齢の患者の場合は、手術のみで治療することもあります。

 

 

 

まだ原因は解明されておらず、研究途上にありますが、遺伝子的な要因が関係していることを指摘する医師が多くいます。その他の可能性として、他の病気の治療による影響があると見られています。特に、放射線治療を受けた経験がある人に発症した事例が多いため、放射線と平滑筋肉腫には因果関係があると考えられており、研究による確認が期待されています。

 

平滑筋肉腫の診断は、しこりを確認することから始めます。しこりが発見された場合は、しこりとなっている腫瘍の正確な場所やサイズを調べる必要があるため、画像検査に移行するのが一般的です。体の部位によって、レントゲンやMRIなどの手段を使い分けて精査することになります。また、腫瘍があっても良性の可能性があるので、その判断のための検査も行います。また、症状が進行している場合、転移の可能性を考慮して、対象の部位以外についても検査することが多くあります。

 

平滑筋肉腫の治療では外科的手術を行います。腫瘍を切除することが最も効果的だからです。確実に除去するため、腫瘍だけでなく、広範囲にわたって周辺組織を切除することもあります。それでも、腫瘍が残ってしまうケースは少なくありません。その場合は、再手術を行うか、放射線治療に移行します。手術が成功した場合でも再発防止のため、一定期間は放射線治療を行うケースも見られます。また、症状の進行具合によっては、抗がん剤を併用することも多くあります。

 

 

 

自己免疫性溶血性貧血

 

自己免疫性溶血性貧血は免疫系機能の異常を特徴とする疾患群で、赤血球をまるで異物であるかのように攻撃する自己抗体が産生されます。

症状がまったくない人もいますし、疲労感や息切れを覚えたり、顔が青白くなったりする人もいます。

重症の場合は、黄疸がみられたり、腹部に不快感や膨満感を覚えたりすることがあります。

血液検査を行って、貧血であることを確認し、自己免疫反応の原因を特定します。

コルチコステロイド薬や免疫抑制薬が必要になる場合もあります。

自己免疫性溶血性貧血は、まれな病気ですが、年齢に関係なく発生する可能性があります。発生頻度は男性より女性の方が高いようです。自己免疫性溶血性貧血の約半数は、原因を特定することができないものです(特発性自己免疫性溶血性貧血)。自己免疫性溶血性貧血は、別の病気である全身性エリテマトーデス(ループス)などによって引き起こされたり、そういった病気に伴って発生したりすることもあり、まれですが、ペニシリンのような特定の薬を使用した後に発生することもあります。

 

自己抗体による赤血球の破壊は、突然起こることもあれば、ゆっくりと進行することもあります。人によっては、このような破壊がしばらくすると止まることがあります。また、赤血球の破壊が止まらず、慢性化する人もいます。自己免疫性溶血性貧血には、主に温式抗体溶血性貧血と冷式抗体溶血性貧血という2種類があります。前者では、正常体温と同じかそれ以上の温度で自己抗体の活性が高くなり、赤血球に結合して破壊します。後者では、正常な体温よりかなり低い温度のときだけ自己抗体の活性が高くなり、赤血球を攻撃します。

 

症状

自己免疫性溶血性貧血では、特に赤血球の破壊が軽度でゆるやかに進む場合は、症状がみられないことがあります。それ以外では、特に赤血球の破壊が重度な場合や急速な場合に、別の種類の貧血でみられるものと似た症状が現れます。赤血球の破壊が重度な場合や急速な場合は、軽い黄疸症状が現れる場合もあります。赤血球の破壊が数カ月以上続くと、脾臓が腫れて、腹部の膨満感や不快感が生じます。

自己免疫性溶血性貧血の原因が別の病気によるものであれば、リンパ節の腫れや圧痛、発熱など、原因となっている病気の症状が主に現れることがあります。

 

診断

貧血と診断された場合、血液検査で未熟な赤血球(網状赤血球)の数が増加していれば、赤血球の破壊が進んでいることが疑われます。あるいは、血液検査から、ビリルビンという物質が増加し、ハプトグロビンというタンパク質が減少していることがわかる場合もあります。

原因として自己免疫性溶血性貧血の診断が確定するのは、血液検査で特定の抗体の量が多いことが確認された場合で、このような抗体は、直接抗グロブリン試験または直接クームス試験で測定する、赤血球に付着している抗体か、間接抗グロブリン試験または間接クームス試験で測定する、血液の液体成分に含まれる抗体のいずれかです。赤血球を破壊する自己免疫反応の原因を突き止めるため、その他の検査が行われることもあります。

 

治療

症状が軽い場合や赤血球の破壊速度が遅くなっている場合は、治療の必要はありません。赤血球の破壊が進んでいる場合は、治療薬としてプレドニゾロンなどのコルチコステロイド薬がまず選択されるのが普通です。最初に高用量の投与から始め、数週間ないし数カ月かけて徐々に減量していきます。コルチコステロイド薬で効果がみられない場合や、耐えがたい副作用が起きた場合は、脾臓を切除する手術(脾臓摘出術)が、次の治療としてよく行われます。無数の抗体が結合した赤血球を破壊する場所の1つが脾臓であることから、これを切除します。脾臓摘出後も赤血球の破壊が止まらない場合や、手術ができない場合は、シクロホスファミドやアザチオプリンといった免疫抑制薬を使用します。

赤血球の破壊が激しい場合は、輸血が必要になるときもありますが、輸血は貧血の原因を治療するものではなく、一時的な対症療法にすぎません。

 

 

 


凝固因子欠乏症

 

 血友病は、先天性出血素因のなかで最も頻度が高く(男子出生1万人に約1人)、生涯にわたり皮下血腫、関節出血、筋肉出血などの出血症状を繰り返す病気です。血友病A(第Ⅷ因子欠乏症)と、血友病B(第Ⅳ因子欠乏症)の2種類があり、その発生比は約5対1です。

 

原因  血友病の原因は、止血に重要な血液凝固第Ⅷ因子または第Ⅳ因子の欠乏ないし異常です。それぞれ、X染色体上にある第Ⅷ因子遺伝子あるいは第Ⅳ因子遺伝子のさまざまな変異(遺伝子の欠損、挿入、点変異(遺伝子塩基配列における1塩基置換による変異など)に基づくもので、時に家系内遺伝のない突然変異による孤発例もあります。

 

症状の現れ方  第Ⅷ因子の遺伝子および第Ⅳ因子遺伝子は、ともにX染色体(性染色体:女性は2本XX、男性は1本XY)上にあるため、血友病A、Bはともにほとんど男児に発症(伴性劣性遺伝(はんせいれっせいいでん))し、女性は保因者になります。重症型(因子活性1%以下)では、乳児期のささいな外傷、打撲に伴う皮下血腫、関節出血などで発症します。這行(しゃこう はうこと)や歩行を開始する乳児期後半からは、疼痛とはれを伴う足・膝の関節出血が多くみられ、何回も出血を繰り返すと関節症を来します。また、粘膜出血、筋肉出血、血尿、あるいは頭蓋内出血のように、生命を脅かす出血がみられることもあります。中等症・軽症の血友病では、出血症状はまれです。抜歯や外傷後の止血が困難な時に検査を受け、初めて診断されることもあります。

 

治療の方法  治療の基本は、凝固因子製剤の輸注(補充療法)による止血で、常に早期止血が重要です。1983年から導入された家庭輸注療法(自己注射)は極めて有用で、出血を繰り返す例では定期投与による血友病性関節症の予防を、また過激な運動・旅行などで出血が予想される場合には予防のための補充療法を行います。

 

(1)凝固因子(ぎょうこいんし)製剤  補充療法では、血友病Aでは第Ⅷ因子製剤、血友病Bには第Ⅳ因子製剤を使います。現在用いられている凝固因子製剤はすべてウイルス不活化処理がされており、止血効果は製剤間で差はありません。補充療法での投与量、投与間隔、投与期間は、それぞれ出血部位、程度、血中半減期(第Ⅷ因子は8〜12時間、第Ⅳ因子は18~24時間)によって異なります。投与量の計算法は、血友病Aでは1%上昇させるために体重1kgあたり2分の1単位の第Ⅷ因子を、血友病Bでは1単位の第Ⅳ因子を必要とします。また、治療中に10〜20%の症例に、因子に対するインヒビター(抗体)が発生することがあり、このような症例にはバイパス療法として、活性型プロトロンビン複合体あるいはリコンビナント第Ⅶa因子製剤を用います。

 

(2)デスモプレシン療法  本剤は、血管内皮からの内因性Ⅷ因子の放出により血中濃度を上昇させるので、中等症〜軽症の血友病Aに有効です。

 

(3)補助的薬物療法  抗線溶薬(トランサミン)は口腔内の出血や抜歯後の出血には有効ですが、血尿には水腎症を併発する危険性があるため禁忌です。鼻出血に対して、鼻腔内タンポン(オキシセル綿型など)による圧迫止血を行う場合もあります。

 

 


播種性(はしゅせい)血管内凝固(DIC)

 

播種性血管内凝固は、小さな血栓が全身の血管のあちこちにできて、小さな血管を詰まらせる病気です。

血液凝固が増加することで出血の抑制に必要な血小板と凝固因子を使い果たしてしまい、過度の出血を引き起こします。

感染や手術など、考えられる原因は数多くあります。

必要以上の血液凝固は過度の出血を引き起こします。

血液中の凝固因子の数を測定します。

根本原因となっている病気を治療します。

播種性血管内凝固は、凝固が過剰になることから始まります。感染やある種の癌などの病気、出産、胎児の死亡、手術などによって何らかの物質が血液に入ると、凝固過剰の引き金となります。頭部の重い外傷や毒ヘビに咬まれた場合も、リスクが生じます。凝固過剰によって凝固 因子と血小板が使い果たされると、大量の出血が生じます。

 

症状と診断

播種性血管内凝固を突然発症すると、出血がみられるのが普通で、大量出血となる場合もあります。手術や出産の後に起こると、出血を制御できなくなる場合もあります。静脈注射をしたところや、脳、消化管、皮膚、筋肉、体腔などに出血が起こります。

癌でみられるように播種性血管内凝固がゆっくり進行する場合は、出血より静脈内の血栓が多くみられます。

血液検査では血小板数の減少がみられ、血液凝固に時間がかかることがわかります。凝固因子の減少と、血栓が壊れたときに生じるタンパク質(フィブリン分解産物)の増加が確認されると、播種性血管内凝固の診断が確定します。

 

治療

播種性血管内凝固の元になっている原因が妊娠や出産に関係するものか、感染によるものか、癌によるものかなどを特定し、治療します。原因を取り除くことにより、凝固の問題は解消します。

播種性血管内凝固を突然発症した場合は命にかかわるため、緊急の治療が必要です。失われた血小板と凝固因子を輸血で補って出血を止めます。慢性で軽度の播種性血管内凝固では、出血よりも凝固が問題になるため、ヘパリンを使用して凝固を遅らせます。

 

 

急性リンパ球性白血病(ALL)

 

急性リンパ球性(リンパ芽球性)白血病は、本来ならリンパ球になる細胞が癌化して、短期間のうちに骨髄内の正常細胞と入れ替わる、命にかかわる病気です。

正常な血球が極端に少なくなるため、発熱、脱力感、顔面蒼白などの症状が現れる場合があります。

血液検査と骨髄生検が行われるのが普通です。

化学療法が行われ、多くの場合、効果が得られます。

急性リンパ球性白血病(ALL)はあらゆる年齢層にみられますが、小児が最も多く、15歳未満の子供ではすべての癌の25%を占めています。2~5歳の幼児に最も多くみられます。成人では、45歳を超えるとやや多くなります。

 

急性リンパ球性白血病では、非常に未熟な白血球が骨髄に蓄積し、正常な血球となる細胞を破壊して入れ代わります。白血病細胞は血流に乗って肝臓、脾臓、リンパ節、脳、精巣などに運ばれ、そこで成長と増殖を続けることもあります。また、脳と脊髄を包む組織を刺激して炎症を起こしたり(髄膜炎)、貧血や肝不全、腎不全を起こしたり、その他の臓器に損傷を与えたりします。

 

症状と診断

初期の症状は、骨髄が正常な血球を十分に産生できないことが原因で生じます。白血球が減少することにより感染を起こし、発熱や多汗が生じます。赤血球が減少して貧血になり、脱力感、疲労感、蒼白(皮膚や粘膜が血色を失った状態)が現れます。血小板が極端に少なくなるため、あざや出血が生じやすくなり、ときには鼻血や歯ぐきからの出血がみられます。白血病細胞が脳で増殖すると、頭痛や嘔吐が起きたり、刺激に敏感になったりすることがあり、骨髄で増殖すると、骨や関節に痛みがでたりすることがあります。白血病細胞によって肝臓や脾臓が腫大すると、腹部膨満感や腹痛が生じることがあります。

 

まず、全血球計算などの血液検査で、急性リンパ球性白血病かどうかがわかります。全白血球数は、減少している場合もあれば、正常、あるいは増加している場合もありますが、赤血球数と血小板数はほぼ必ず減少します。さらに、採血した血液を顕微鏡で観察すると、きわめて未熟な白血球(芽球)がみられます。ほとんどの場合、骨髄生検を行って、急性リンパ球性白血病の診断を確定し、他の白血病との鑑別を行います。

 

予後(経過の見通し)

現在のような治療ができるようになる前は、ほとんどの患者が診断から4カ月以内に死亡していました。現在では、子供の80%、成人の30~40%近くが治癒するようになっています。ほとんどの場合、1回目の化学療法で病気を抑えることができます(完全寛解)。3~7歳の子供の予後が最も良好です。2歳未満の子供と高齢者の経過が最も不良です。白血球数と白血病細胞中の特定の染色体異常も、経過に影響を与えます。

 

治療

化学療法は非常に効果的で、いくつかの段階に分けて行われます。最初の治療(導入化学療法)の目的は、白血病細胞を破壊して骨髄中で再び正常な細胞が成長できるようにして、寛解へと導くことです。骨髄が回復する速さにもよりますが、数日から数週間の入院が必要となる場合があります。貧血の治療と出血の予防には、それぞれ輸血と血小板輸血が必要になることがあり、細菌感染の治療には、抗生物質が必要になることがあります。尿酸など、白血病細胞が破壊されたときに放出される有害な物質を除去するため、輸液の点滴とアロプリノールによる薬物療法も行われます。

 

さまざまな併用療法の1つを使用して、数日から数週間にわたって繰り返し薬を投与します。併用療法の1つでは、プレドニゾロン(コルチコステロイド薬の1つ)を経口で投与し、ア

ントラサイクリン系薬剤(通常はダウノルビシン)とアスパラギナーゼ、ときにシクロホスファミドとともに、ビンクリスチン(化学療法薬の1つ)を週単位で静脈注射します。その他の薬剤についても研究が行われています。

 

脳と脊髄を覆っている組織層(髄膜)の中に白血病細胞がある場合の治療では、通常メトトレキサートとシトシンアラビノシドのいずれか、あるいはその両方を脳脊髄液の中に直接注入します。この化学療法とともに、脳への放射線療法を行うこともあります。白血病は髄膜に広がる可能性が非常に高いことから、脳に広がっている形跡がほとんどなくても、通常は予防のために同様の治療を行います。

最初の集中治療から2~3週間後に、残りの白血病細胞を破壊するための追加治療(地固め化学療法)を行います。別の化学療法薬、または寛解導入療法で用いたものと同じ薬を、数週間にわたって数回投与します。この後さらに、薬の種類や用量を減らした維持化学療法を2~3年続けることもあります。白血病細胞に特定の染色体変異がみられるため、再発のリスクが高い人に対しては、多くの場合、最初の寛解期間に幹細胞移植を行うことが推奨されます。

 

血液、骨髄、脳、精巣などに白血病細胞が再び現れることがあります(再発)。骨髄に再び現れた場合は特に深刻です。化学療法を再開すると、ほとんどの場合は効果が得られますが、この病気は再発する傾向が強く、2歳未満の乳幼児や、成人では再発が特に多くみられます。白血病細胞が脳に現れた場合は、週に1、2回、脳脊髄液に化学療法薬を注入します。白血病細胞が精巣に現れた場合は、化学療法とともに放射線療法を行います。

再発した人に対しては、最も治癒が期待できる方法として、化学療法薬の大量投与とともに同種幹細胞移植が行われています。しかし、組織型が適合した(HLAが一致した)人から幹細胞が得られる場合にしか、移植することができません。幹細胞のドナー(提供者)は兄弟姉妹の場合が普通ですが、HLAが適合する他人から提供を受ける場合もあり、ときには、HLAの一部が適合しない家族や他人から提供を受けたり、へその緒に含まれる臍帯血(さいたいけつ)幹細胞を使用したりすることもあります。幹細胞移植は65歳以上の人にはほとんど行われません。高齢者では成功率が低く、副作用で命を失うリスクも高くなるからです。

再発後は、幹細胞移植を受けることができない人に対してさらに治療を加えても、耐えられなかったり、効果がなかったりすることも多く、かえって病気が悪化したように感じることもよくあります。それでも、寛解が得られる可能性はあります。治療による効果が得られない場合は、終末期のケアを考える必要があります。

 

 

急性骨髄性白血病(AML)

 

急性骨髄性(骨髄芽球性、骨髄単球性)白血病は、本来なら好中球、好塩基球、好酸球、単球に成長する細胞が癌化して、短期間で骨髄の正常細胞と入れ替わる、命にかかわる病気です。

疲労感を感じたり、顔色が青白くなったり、感染や発熱を起こしやすくなったり、あざや出血を起こしやすくなることがあります。

診断には血液検査と骨髄検査が必要になります。

治療には、寛解を得るための化学療法に加え、再発を避けるための追加の化学療法があります。

急性骨髄性白血病(AML)はどの年齢層でもみられますが、成人の白血病では最も多いタイプです。

急性骨髄性白血病では、未熟な白血球が急速に骨髄に蓄積して、正常な血球をつくる細胞を破壊します。白血病細胞は血流に乗って他の臓器に運ばれ、そこで成長と増殖を続けます。これが、皮膚や歯ぐきの表層付近や、眼の中に小さなかたまり(緑色腫)を形成することがあります。

急性前骨髄性白血病は、急性骨髄性白血病の1つに分類されます。この急性前骨髄性白血病では、前骨髄球(成熟した好中球へと成長している初期段階の細胞)が染色体変異を起こし、ビタミンAの結合と活性が阻害されます。ビタミンAの働きがないと、細胞が正常に成熟できず、異常な前骨髄球が蓄積します。

 

症状と診断

急性骨髄性白血病の初期症状は、急性リンパ球性白血病の症状と非常によく似ています。急性リンパ球性白血病の場合より頻度は低いものの、急性骨髄性白血病の細胞が脳と脊髄を覆っている髄膜に炎症(髄膜炎)を起こすことがあります。

診断の方法も急性リンパ球性白血病と同様です。ほとんどの場合、骨髄生検を実施することで、急性骨髄性白血病の診断を確定し、他の白血病との鑑別を行います。

 

予後(経過の見通し)

治療を受けずにいると一般に、診断後、数週間から数カ月で死に至ります。治療によって、20~40%が再発せずに5年以上生存できます。再発はほぼ必ず最初の治療から5年以内に起こるので、5年を過ぎても白血病が再発しない場合は治癒したと考えられます。60歳以上の場合、別の癌で化学療法と放射線療法を受けた後に急性骨髄性白血病を発症した場合、また血球数の異常な状態が数カ月から数年以上にわたって続いて白血病がゆっくり進行した場合などは、予後は思わしくありません。

 

治療

治療では、すみやかに寛解を得る(すべての白血病細胞を破壊する)ことが目標となります。ただし、急性骨髄性白血病に有効な薬剤は、急性リンパ球性白血病の場合よりも限られています。また、治療によって骨髄の活動が抑制されて白血球(特に好中球)が減少するため、状態がいったん悪化することがあります。好中球が少なすぎると感染を起こしやすくなります。感染を予防するために細心の注意を払い、何か発生した場合はただちに治療します。赤血球と血小板の輸血も必要になります。

薬物療法(導入化学療法)の最初のコースでは、一般にシタラビンの7日間にわたる持続点滴とダウノルビシン(あるいはイダルビシンまたはミトキサントロン)の3日間の投与を行います。

これによって寛解状態になった場合は、白血病細胞をできるだけ多く破壊することを確実に行うために、初回治療の数週間ないし数カ月後にさらに化学療法を数コース追加します(地固め療法)。脳に対する予防的治療は、普通は必要ありません。また、急性リンパ球性白血病で行われるような低用量の長期化学療法で生存率は向上しないことが示されています。

治療による効果がみられない場合や、寛解には至ったものの再発の可能性が高い(一般に、特定の染色体異常が認められている場合)と考えられる若い人では、化学療法薬の大量投与に続けて幹細胞移植が行われます。

 

幹細胞移植を実施できない再発患者には追加治療を行いますが、しばしば治療に体が耐えられず、効果も得られにくくなります。若年者の場合と、最初の寛解が1年以上続いている場合では、追加の化学療法で高い効果が得られます。再発した患者に追加の集中化学療法を行うべきかどうかを決定する際には、多くの要素を考慮します。ゲムツズマブ・オゾガマイシンという新しい薬は、白血病細胞だけを標的とするように抗体と化学療法薬を結合させたもので、再発した場合に効果が得られることがあります。この薬の長期的な効果はまだわかっていません。

急性前骨髄性白血病では、全トランス型レチノイン酸と呼ばれる種類のビタミンAで治療することができます。化学療法と併用すると結果が良く、現在では急性前骨髄性白血病の70%以上が治ります。急性骨髄性白血病のうち、この急性前骨髄性白血病に限ってはヒ素化合物も有効です。

 

 

急性骨髄性白血病(AML)

 

急性骨髄性(骨髄芽球性、骨髄単球性)白血病は、本来なら好中球、好塩基球、好酸球、単球に成長する細胞が癌化して、短期間で骨髄の正常細胞と入れ替わる、命にかかわる病気です。

疲労感を感じたり、顔色が青白くなったり、感染や発熱を起こしやすくなったり、あざや出血を起こしやすくなることがあります。

診断には血液検査と骨髄検査が必要になります。

治療には、寛解を得るための化学療法に加え、再発を避けるための追加の化学療法があります。

急性骨髄性白血病(AML)はどの年齢層でもみられますが、成人の白血病では最も多いタイプです。

急性骨髄性白血病では、未熟な白血球が急速に骨髄に蓄積して、正常な血球をつくる細胞を破壊します。白血病細胞は血流に乗って他の臓器に運ばれ、そこで成長と増殖を続けます。これが、皮膚や歯ぐきの表層付近や、眼の中に小さなかたまり(緑色腫)を形成することがあります。

 

急性前骨髄性白血病は、急性骨髄性白血病の1つに分類されます。この急性前骨髄性白血病では、前骨髄球(成熟した好中球へと成長している初期段階の細胞)が染色体変異を起こし、ビタミンAの結合と活性が阻害されます。ビタミンAの働きがないと、細胞が正常に成熟できず、異常な前骨髄球が蓄積します。

 

症状と診断

急性骨髄性白血病の初期症状は、急性リンパ球性白血病の症状と非常によく似ています。急性リンパ球性白血病の場合より頻度は低いものの、急性骨髄性白血病の細胞が脳と脊髄を覆っている髄膜に炎症(髄膜炎)を起こすことがあります。

 

診断の方法も急性リンパ球性白血病と同様です。ほとんどの場合、骨髄生検を実施することで、急性骨髄性白血病の診断を確定し、他の白血病との鑑別を行います。

 

予後(経過の見通し)

治療を受けずにいると一般に、診断後、数週間から数カ月で死に至ります。治療によって、20~40%が再発せずに5年以上生存できます。再発はほぼ必ず最初の治療から5年以内に起こるので、5年を過ぎても白血病が再発しない場合は治癒したと考えられます。60歳以上の場合、別の癌で化学療法と放射線療法を受けた後に急性骨髄性白血病を発症した場合、また血球数の異常な状態が数カ月から数年以上にわたって続いて白血病がゆっくり進行した場合などは、予後は思わしくありません。

 

治療

治療では、すみやかに寛解を得る(すべての白血病細胞を破壊する)ことが目標となります。ただし、急性骨髄性白血病に有効な薬剤は、急性リンパ球性白血病の場合よりも限られています。また、治療によって骨髄の活動が抑制されて白血球(特に好中球)が減少するため、状態がいったん悪化することがあります。好中球が少なすぎると感染を起こしやすくなります。感染を予防するために細心の注意を払い、何か発生した場合はただちに治療します。赤血球と血小板の輸血も必要になります。

薬物療法(導入化学療法)の最初のコースでは、一般にシタラビンの7日間にわたる持続点滴とダウノルビシン(あるいはイダルビシンまたはミトキサントロン)の3日間の投与を行います。

これによって寛解状態になった場合は、白血病細胞をできるだけ多く破壊することを確実に行うために、初回治療の数週間ないし数カ月後にさらに化学療法を数コース追加します(地固め療法)。脳に対する予防的治療は、普通は必要ありません。また、急性リンパ球性白血病で行われるような低用量の長期化学療法で生存率は向上しないことが示されています。

治療による効果がみられない場合や、寛解には至ったものの再発の可能性が高い(一般に、特定の染色体異常が認められている場合)と考えられる若い人では、化学療法薬の大量投与に続けて幹細胞移植が行われます。

 

幹細胞移植を実施できない再発患者には追加治療を行いますが、しばしば治療に体が耐えられず、効果も得られにくくなります。若年者の場合と、最初の寛解が1年以上続いている場合では、追加の化学療法で高い効果が得られます。再発した患者に追加の集中化学療法を行うべきかどうかを決定する際には、多くの要素を考慮します。ゲムツズマブ・オゾガマイシンという新しい薬は、白血病細胞だけを標的とするように抗体と化学療法薬を結合させたもので、再発した場合に効果が得られることがあります。この薬の長期的な効果はまだわかっていません。

急性前骨髄性白血病では、全トランス型レチノイン酸と呼ばれる種類のビタミンAで治療することができます。化学療法と併用すると結果が良く、現在では急性前骨髄性白血病の70%以上が治ります。急性骨髄性白血病のうち、この急性前骨髄性白血病に限ってはヒ素化合物も有効です。

 

 

慢性リンパ球性白血病(CLL)

 

慢性リンパ球性白血病は、成熟リンパ球が癌化して、徐々にリンパ節の正常な細胞と入れ替わる病気です。

症状が現れないこともありますが、疲労感などの一般的な症状がみられることもあります。

リンパ節が腫大したり、腹部膨満感を覚えたりすることもあります。

診断には、血液検査と骨髄検査が必要となります。

治療には、化学療法薬やモノクローナル抗体などがあり、ときには放射線療法も使用されます。

慢性リンパ球性白血病(CLL)の患者の4分の3以上が60歳を超えており、子供にはみられません。また、男性では女性の2~3倍多く発症します。北米や欧州では、最も多くみられる白血病が慢性リンパ球性白血病です。日本や東南アジアではまれにしかみられないため、慢性リンパ球性白血病の発症には遺伝が一因となっていることを示しています。

 

慢性リンパ球性白血病では、癌化した成熟リンパ球が最初に血液とリンパ節内で増殖します。続いて肝臓と脾臓に広がり、これらの臓器が腫れて大きくなってきます。癌化したリンパ球は骨髄にも侵入し、正常細胞と入れ替わります。その結果、血液中の赤血球が減少し、正常な白血球と血小板の数も減少します。感染からの防御を担うタンパク質である抗体の量も減少します。このタイプの白血病では免疫系に異常が生じることもあり、本来なら微生物や異物に対する防御を担っている免疫系が、正常な体の組織に対して反応し、破壊してしまうことがあります。こうした免疫系の異常によって、赤血球と血小板が破壊されることもあります。

慢性リンパ球性白血病は、ほとんどの場合、Bリンパ球の障害です。B細胞系の慢性リンパ球性白血病以外の種類も他にあります。ヘアリーセル白血病は、進行が遅く、まれにしかみられないB細胞白血病で、顕微鏡で毛のような突起が特徴としてみられる異常な白血球を大量につくります。T細胞白血病(Tリンパ球の白血病)は、B細胞白血病より、はるかに少なくなります。セザリー症候群は、まれにしかみられないT細胞白血病で、菌状息肉腫と呼ばれる皮膚癌としてまず発生し、この癌化したTリンパ球が急速に増殖や分割を繰り返して血流に漏れ出し、白血病細胞になります。

 

症状と診断

初期の慢性リンパ球性白血病は一般に症状がなく、白血球数の増加から診断されます。その後、リンパ節の腫れ、疲労、食欲減退、体重減少、運動時の息切れ、脾臓の腫大による腹部膨満感などの症状が現れます。

慢性リンパ球性白血病が進行するにつれて、顔色が青白くなったり、あざができやすくなったりすることがあります。細菌、ウイルス、真菌などの感染症は、通常は病気の後期になるまで生じません。

慢性リンパ球性白血病は、別の理由で血液検査をしたときにリンパ球が多いことから偶然発見されることがあります。血液中の細胞からリンパ球の特徴を調べる検査ができるため、通常は診断の確定に骨髄生検は必要ありません。血液検査でも、赤血球、血小板、抗体が減少していることが明らかになるでしょう。

 

予後(経過の見通し)

ほとんどのタイプの慢性リンパ球性白血病がゆっくり進行します。医師は、生存期間を予測するために、病気がどの程度まで進行しているかを判定します(病期分類)。この病期判定は、血液と骨髄のリンパ球数、脾臓と肝臓の大きさ、貧血の有無、血小板数などの要素に基づいて行われます。

B細胞白血病の患者の多くは診断後10~20年以上生存し、初期の段階では通常は治療を必要としません。貧血や血小板減少がみられる場合は、ただちに治療を行う必要があり、予後は良くありません。慢性リンパ球性白血病による死亡は、骨髄が正常細胞を十分に産生できなくなり、酸素の運搬、感染の防御、出血の防止などの機能が果たされなくなることが原因です。T細胞白血病では、予後はさらに悪くなります。

慢性リンパ球性白血病では皮膚癌や肺癌といった別の癌が生じやすく、これは免疫系の変化に関係があると考えられています。慢性リンパ球性白血病は、リンパ系の癌(リンパ腫)でさらに進行が速いタイプへ変化することもあります。

 

治療

慢性リンパ球性白血病はゆっくりと進行するため、リンパ球の数が増え始めたり、リンパ節が腫れだしたり、あるいは赤血球や血小板の数が減少したりしない限り、数年は治療を必要としません。

白血病の治療に用いられるコルチコステロイド薬、化学療法薬、モノクローナル抗体などの薬は、症状を緩和したり、腫大したリンパ節や脾臓を小さくしたりするのに有用ですが、白血病を治癒させるわけではありません。B細胞系の慢性リンパ球性白血病に対して最初に行われる薬物治療には、DNAとの相互作用によって癌細胞を死滅させるクロラムブシルなどのアルキル化薬や、DNAをつくる細胞の能力を妨げるフルダラビンと呼ばれる薬があります。いずれの薬も、数カ月間から数年間にわたって白血病を抑えることができ、再発時にも有効です。フルダラビンは、化学療法薬やモノクローナル抗体と一緒に投与されることもあります。多くの場合、この併用療法により寛解に導くことができます。慢性リンパ球性白血病では、これらの薬に対して最終的に抵抗性となるため、別の薬やモノクローナル抗体(リツキシマブやアレムツズマブなど)による治療が検討されることもあります。ヘアリーセル白血病では、2-クロロデオキシアデノシンやデオキシコホルマイシンといった薬により高い効果が得られ、15年以上にわたって病気を抑えることもできます。

 

赤血球数の減少による貧血は、輸血により治療しますが、場合によっては、エリスロポエチンやダルベポエチンという薬(赤血球の産生を促進する薬)の注射で治療することもあります。血小板数が不足している場合は血小板を輸血し、感染症には抗生物質を使用します。リンパ節、肝臓、脾臓などの腫大が不快感をもたらし、化学療法で効果が得られない場合は、腫れを軽減させるために放射線療法が使用されます。

 

 

慢性骨髄性白血病(CML)

 

慢性骨髄性(顆粒球性)白血病は、本来なら好中球、好塩基球、好酸球、単球に成長する細胞が癌化する病気です。

疲労感、食欲不振、体重減少などの一般的な症状がみられる段階があります。

病気が進行するにつれて、リンパ節や脾臓が腫大する他に、顔が青白くなったり、あざや出血を起こしやすくなったりします。

診断には、血液検査、骨髄検査、染色体検査が必要になります。

イマチニブで治療したり、化学療法薬の大量投与に続いて幹細胞移植を行うことで治療したりします。

慢性骨髄性白血病(CML)は年齢、性別に関係なく起こりますが、10歳未満の子供にはまれです。最も多くみられるのは40~60歳の成人です。発生原因のほとんどは、2つの特定の染色体の配列が入れ替わり、フィラデルフィア染色体と呼ばれる配列ができるためです。フィラデルフィア染色体は、異常な酵素(チロシンキナーゼ)を産生して患者の白血球の成長パターンに異常を起こします。

 

慢性骨髄性白血病では、白血病細胞の大半が骨髄で生じますが、一部は脾臓と肝臓で産生されます。多数の未熟な白血球(芽球)がみられる急性白血病とは対照的に、慢性骨髄性白血病では、慢性期の特徴として正常にみえる白血球が著しく増加し、血小板が増加することもあります。病気が進行するにつれて、白血病細胞が骨髄を満たすようになり、血液中にもみられるようになります。

白血病細胞はさらに変化し、病気が進行して加速期に移り、最終的には急性転化期といって急激な悪化を示す状態になります。急性転化期に至ると、病態がさらに悪化したことを示す徴候として、未熟な白血病細胞以外はつくられなくなります。急性転化期では、発熱や体重減少に加えて、脾臓の著しい腫大がよくみられます。

 

症状と診断

初期の慢性骨髄性白血病で慢性期の場合は、症状が現れないことがあります。しかし、人によっては、疲労感や脱力感を覚えるようになったり、食欲不振、体重減少、発熱、寝汗、膨満感(通常は、脾腫が原因)が現れることがあります。病気が進行して急性転化期になると、赤血球や血小板が減少するため顔色が悪くなり、あざや出血が生じて、病状が悪化します。

診断の手がかりは簡単な血液検査で得られます。血液検査では、白血球数の異常な上昇がみられます。血液を顕微鏡で観察すると、本来なら骨髄だけにみられる未成熟な白血球があるのがわかります。

フィラデルフィア染色体を検出して診断を確定するには、細胞遺伝学や分子遺伝学に基づいた染色体検査が必要です。

 

予後と治療

現在の治療法ではこの病気は治せませんが、進行を遅らせることは可能です。イマチニブという薬やさらに新しい類似薬は、フィラデルフィア染色体によりつくられる異常な酵素を阻害します。これらの薬は、他の治療より効果が高く、わずかな副作用しかみられません。イマチニブを経口で服用する治療では、診断から5年時点での生存率が90%を超えています。

慢性骨髄性白血病では、幹細胞移植を化学療法薬の大量投与と組み合わせることで、治癒が期待できます。しかし、移植できるのは特定の人だけです。幹細胞は、必ず組織型が適合したドナー(通常は兄弟姉妹)から得る必要があります。移植が最も有効なのは初期の慢性骨髄性白血病で、急速に進行している場合や急性転化期の場合はかなり有効性が低くなります。

 

急性転化期の患者は治療を行わないと、わずか数カ月しか生存できません。イマチニブと化学療法薬による併用療法で、生存期間が12カ月以上伸びることもあります。イマチニブによる治療後に再発した場合やフィラデルフィア染色体が認められない場合に投与できる古くから使用されている化学療法もあります。そこで使用される主な薬は、ブスルファン、ヒドロキシ尿素、インターフェロンです。これらの薬は、生存期間を延ばす薬ではありませんが、症状の緩和に役立つ可能性があります。

 

 

 

 

全身性エリテマトーデス

 

 全身性エリテマトーデス(播種状エリテマトーデスまたはループス)は、関節、腎臓、粘膜、血管壁などに慢性的な炎症が引き起こされる結合組織の病気(結合組織病)です。

英語でsystemic lupus erythematosusといい、その頭文字をとってSLEと略して呼ばれます。

関節、神経系、血液、皮膚、腎臓、消化管、その他の組織や器官に問題が発生します。

自分自身の体を、自分自身の 免疫系が、攻撃してしまう病気です。本来なら、免疫とは、自分の身を細菌やウイルスなどから守ってくれる大切な役割をしているのですが、この病気にかかると、この免疫力が自分の体を攻撃するようになり、全身にさまざまな炎症を引き起こします。

 

症状

症状は人によって大きく異なります。

 

関節に起こる問題:

関節の症状は、関節の間欠性の痛み(関節痛)から突然複数の関節に起こる炎症(急性多発関節炎)まであり、全身性エリテマトーデス患者の約90%にみられ、その他の症状が出現するまで数年間続くこともあります。病気が長期化すると、まれに著しい関節の変形(ジャクー関節症)が起こることがあります。ただし、関節の炎症は一般に間欠的で、通常は関節に損傷が起きることはありません。

 

皮膚と粘膜に起こる問題:

皮疹としては、鼻を越えて両側のほおにまたがる蝶のような形をした赤み(蝶形紅斑);皮膚の隆起や薄い斑点;日光にさらされる部位(顔、首、胸の上部、ひじなど)に生じる扁平または隆起した赤い領域などがみられます。水疱や皮膚の潰瘍ができることはまれですが、粘膜(特に口の中の天井部分、ほおの内側、歯肉、鼻の内部)には潰瘍がよくみられます。フレアアップの際には、全身または局所の脱毛(脱毛症)がよくみられます。手のひらや手の指にまだら状の発赤がみられ;爪の周囲は赤くなって腫れ;指の関節の間の指の内側表面には赤味を帯びた紫色の平らな斑点も認められます。血液中の血小板が減少する結果として皮膚の内部で出血が起こるため、紫がかった色の斑点(点状出血)ができることもあります。

 

また、全身性エリテマトーデスのほとんどの患者では日光過敏症がみられ、特に皮膚の色が薄い人で顕著となります。

 

肺に起こる問題:

患者は深呼吸をしたときに痛みを感じることがよくあります。この痛みは、肺周囲の膜(胸膜)に繰り返し発生する炎症(胸膜炎)によるもので、ここに液体(胸水)が貯まる場合とそうでない場合があります。肺の炎症(ループス肺炎)によって、しばしば肺機能に軽微な異常がみられますが、呼吸困難に至ることはまれです。まれですが、生命を脅かすような肺への出血が起こることがあります。血栓が作られること(血栓症)が原因で、肺の動脈に閉塞が起こることもあります。

 

心臓に起こる問題:

全身性エリテマトーデスでは、心臓を包む心膜の炎症(心膜炎)によって胸痛が起こることがあります。まれではありますが、より深刻な心臓への影響として、狭心症の原因となりうる冠動脈の炎症(冠動脈炎)と、心不全につながりうる瘢痕化を伴う心筋の炎症(線維性心筋炎)もあります。まれに心臓の弁がおかされる場合もあり、手術による修復が必要となることもあります。全身性エリテマトーデスの患者は冠動脈疾患のリスクが高い状態にあります。

 

リンパ節と脾臓に起こる問題:

リンパ節の広範囲にわたる腫大がよくみられ、特に小児と若年成人、あらゆる年齢の黒人で多くみられます。一方、脾臓の腫大(脾腫)が全身性エリテマトーデス患者の約10%に認められます。吐き気、下痢、腹部の漠然とした不快感がみられることもあります。これらの症状がフレアアップの前兆である場合もあります。

 

神経系に起こる問題:

脳に障害が及んだ場合(神経精神ループス)には、頭痛、軽度の思考障害、人格の変化、脳卒中、てんかん、重度の精神障害(精神病)などが起こったり、脳内にたくさんの物理的変化が起きて認知症などの障害をもたらすことがあります。脳以外の神経や脊髄に損傷が起きる場合もあります。

 

腎臓に起きる問題:

腎臓の異常としては、軽微で何の症状も起きない場合もあれば、容赦なく進行して致死的となる場合もあります。最も多くみられる異常は、脚のむくみ(浮腫)を引き起こすタンパク尿です。

 

血液に起こる問題:

赤血球、白血球、血小板の数が減少することがあります。血小板には血液の凝固を助ける働きがあるため、血小板の数が大きく減少すると、出血が起こりやすくなります。もしくは、別の理由から血液が凝固しやすくなって、さまざまな器官に悪影響が生じる場合(脳卒中、肺の血栓、流産の反復など)もあります。

 

消化管に起きる問題:

消化管のさまざまな部分への血液供給の障害から、腹痛、肝臓または膵臓(膵炎)の損傷、消化管の閉塞や穿孔などが発生することがあります。

妊娠に関する問題: 妊娠している女性の患者では、正常よりも流産と死産のリスクが高くなります。

 

治療法

副腎皮質ステロイド剤  自分自身に対する免疫を抑えるため、免疫抑制効果のある薬を使います。なかでも、副腎皮質ステロイド剤は、特効薬として知られています。病気の重症度によって、その薬の量が違います。この薬剤は、副腎皮質という場所から出ているホルモンを、化学的に作ったもので、代表的なもの はプレドニゾロンです。一日5mg相当のホルモンが体内から出ていますので、5mgのプレドニゾロンを飲むということは、自分自身が毎日作っている量と同じ量を補うことになります。一般的に、重症のかたでは、1日50~60mgを必要としますし、逆に軽症の人では15mg程度で十分のこともあります。最初2週間から1ヵ月この量を続け、徐々に減らして10mg前後を長期に飲み続けます。

 

免疫抑制剤  副腎皮質ステロイド剤が、効果不十分か、副作用が強い場合に、免疫抑制剤を使うことがあります。アザチオプリン(イムランなど)、サイクロプォスプァミド(エンドキサンなど)、タクロリムス(プログラフ)、ミゾリビン(ブレジニン)、サイクロスポリンA(サンヂュミン)などです。

 

ステロイドパルス療法  副腎皮質ステロイドを、点滴で大量に使用する方法です。口から飲むより、より早く、かつ効果も高いとされており、重症度のかなり高いかたに使われます。一般的には、三日間の使用ですので、この間副作用も比較的少ないとされています。その後は口からの服用に切り替えます。

 

体外循環療法  血液中の病気を引き起こしている免疫複合体やリンパ球を、体の外に取り出してこれをフィルターを使って取り除く治療法です。ステロイドや免疫抑制剤がどうしても使用できない、あるいは効果が不十分な場合に使われます。

 

抗凝固療法  血栓を作りやすい抗リン脂質抗体症候群を合併しているひとでは、小児用バッファリン、ワーファリンなどによって、血栓の予防が行われます。

 

支持療法、対症療法

 腎不全のときの透析療法など、その病状に合わせて治療が行われます。また、血行障害の強い人では、血管拡張剤などが使われます。

 この病気は、臓器障害の広がり、重さによって、病気の重症度が異なります。関節炎や皮膚症状だけの人は、薬剤によるコントロールもつけやすく、健康な方とほとんど変わらない、普通の生活が出来ることも珍しくありません。一方、腎臓、中枢神経、血管炎などでは、多種類の薬剤を、大量に、そかも 長期にわたって使わなければならないことがあります。したがって、一口に全身性エリテマトーデスといっても、その病気の広がり、重症度によって、その後の 経過は、全く異なります。しかし、そのコントロールは年々改善され、数十年もこの病気と付き合っている患者さんも増えてきました。そのため、高齢化に伴って起こってくる生活習慣病(動脈硬化糖尿病、高血圧など)などに対する対策も必要です。

 

 

 

 

 

下垂体機能低下症

 

下垂体機能低下症とは、脳下垂体で生成されるホルモンの分泌が阻害される病気です。

ホルモンが正常に分泌されないことにより、さまざまな症状が体に現れます。成長を促進するホルモンが生成されなくなるので、成長期であっても身長が伸びにくくなります。また、副腎皮質ホルモンの分泌が行われなくなると、少し運動をしただけで急激に疲労が溜まるようになります。さらに、甲状腺ホルモンの分泌量が減るので、肌が非常に乾燥しやすくなることがあります。

 

下垂体機能低下症の主な原因は、下垂体にできる腫瘍です。下垂体にできた腫瘍が巨大化し、下垂体の表面を抑圧することで、本来の役割を果たせなくなるのです。また、脳の手術や放射線治療の際に、下垂体に負荷がかかったことが原因となる場合もあります。下垂体の周辺で発生したラトケ嚢胞などの病気によって、引き起こされた事例も少なくありません。また、遺伝子に異常があり、下垂体の体積が通常より小さいことで起こるケースも見られます。下垂体機能低下症は多くの種類のホルモン分泌に影響を与えます。

 

検査では、どのホルモンの分泌量が低下しているのかを測定します。ホルモンと関連のある血液中の成分を分析することで分泌量を計測するのが一般的です。分泌量が減少しているホルモンを発見したら、そのホルモンを分泌させるための刺激を下垂体に数度にわたって与えます。刺激を与えても、ホルモンの分泌量が増えなければ、下垂体機能低下症であると診断される可能性が高いです。

 

下垂体機能低下症の治療は、下垂体の機能を活性化させることで行います。すぐに活性化した場合は、機能が再び低下しないようにケアを行います。活性化するまでに時間がかかりそうな場合は、分泌量が低下しているホルモンの充填を行います。そうすることにより、ホルモンの分泌量低下による成長阻害などの症状は自然治癒するケースが多いです。下垂体機能の回復の兆候が見られない場合は、同時にそれらの症状の治療も行っていくことになります。

 

 

 

骨髄炎

 

骨髄炎は、通常はマイコバクテリウム属などの細菌に感染することが原因で起こる骨の感染症ですが、真菌が原因となる場合もあります。

細菌や真菌は、血液や、隣接する組織を介して、または直接骨に侵入して感染を起こします。

感染すると骨の一部に痛みを生じたり、発熱したり、体重が減少したりします。

血液検査やX線検査を行い、骨のサンプルを採取して検査します。

抗生物質が数週間投与され、手術が必要なこともあります。

骨髄炎は、主に年少児や高齢者に多くみられますが、どの年齢層の人にも起こりえます。また、重い病気がある人は発症しやすくなります。

骨への感染が起こると、骨の内部の軟らかい部分(骨髄)が腫れます。腫れた組織は、それを取り囲んでいる硬い皮質骨に押し返されるため、骨髄内の血管が圧迫され、骨への血液供給が減少したり途絶えます。血液の供給が十分に行われないと、その部分の骨が壊死します。壊死した骨の領域が感染すると、そこに体内で感染防御を行う自然免疫細胞や抗体が到達することが難しいため、治癒が困難となります。骨から外側に感染が広がり、筋肉などの隣接する軟部組織内に膿がたまって膿瘍を形成することもあります。

 

原因

骨は通常、感染からは十分に保護されていますが、次の3つの経路で感染する可能性があります。

血流(体の別の部位から骨に菌を運ぶ)

直接侵入(感染)

隣接する骨や軟部組織から感染

 

骨髄炎を起こす細菌が血流を介して広がってきた場合、通常は小児では脚や腕の骨端部、成人(特に高齢者)では脊椎(椎骨)に感染します。椎骨の感染症は化膿性脊椎炎と呼ばれます。腎臓透析を受けている人や、滅菌していない注射針で麻薬を注射する人は特に化膿性脊椎炎にかかりやすくなります。

細菌や真菌類の胞子は、開放骨折や、骨の手術中、あるいは汚染された物体が骨に刺さった場合などに直接骨に侵入して感染します。骨髄炎の原因菌で最もよくみられるのは、黄色ブドウ球菌です。結核菌(結核の主原因となる細菌)が椎骨に感染して骨髄炎を引き起こすことがあります。

骨髄炎は、股関節やその他の部位の骨折を修復するために、手術で金属片が骨に装着された部位でも起こります。さらに、細菌や真菌類の胞子が人工関節に接触している骨に感染することがあります。微生物は、人工関節を取りつける手術中にその周囲の骨に入りこむこともあれば、術後に感染することもあります。

骨髄炎は、隣接する軟部組織の感染から波及することがあります。数日から数週間後に骨へと広がります。この種の感染は、高齢者に特に多くみられます。このような感染は、外傷、放射線療法、癌、血行不良や糖尿病によってできた皮膚潰瘍(特に足の潰瘍)などの損傷を受けた部分でよく起こります。副鼻腔、歯肉、歯で起こった感染は、頭蓋骨へ広がることがあります。

 

症状

脚や腕の骨が感染すると発熱し、ときには数日後に、感染した骨に痛みが生じます。感染した骨の上の部分をさわると痛み、熱感があり、腫れていて、動かすと痛みます。患者は体重が減少したり、疲れやすくなったりします。

椎骨の感染は、通常は徐々に進行し、持続する背中の痛みや触れたときに圧痛を生じます。体を動かすと痛みはひどくなり、安静にしても温めても、あるいは鎮痛薬を服用しても痛みは改善されません。発熱は普通、感染の最も顕著な症状ですが、発熱しない場合もしばしばあります。

隣接する軟部組織から感染が波及したり、あるいは原因菌が直接侵入して骨髄炎を発症すると、その骨の上の領域が腫れて痛みます。周囲の組織に膿瘍が形成されることがあります。このような感染の場合、発熱しないこともあります。感染した人工関節または腕や脚の周囲に感染が広がると、一般にその部位に持続する痛みが生じます。

骨髄炎の治療が成功しないと、慢性化することがあります。慢性化すると根絶することが非常に難しい持続性感染となります。ときに、慢性骨髄炎は数カ月から数年間、無症状で、長期間発見されないこともあります。多くの場合、慢性骨髄炎は骨痛があり、骨の周囲の軟部組織で感染を繰り返し、皮膚から持続的または断続的に排膿されます。そのような排膿は、病巣の骨から皮膚表面に通路(瘻孔[ろうこう])が形成され、膿はその瘻孔を通って排出されます。

 

診断

症状と身体診察中の所見が骨髄炎を示唆します。たとえば、発熱や疲労感の有無にかかわらず、骨の部分に持続する痛みがあれば、医師は骨髄炎を疑います。

通常は赤血球沈降速度(ESR—採血管内の血液中の赤血球が沈む速度を測定するテスト)の増大、C反応性タンパク質(血液中のタンパク質で、炎症が起こると急激に増える)の値の上昇が認められます。さらに、血液検査では多くの場合に白血球数の増加がみられます。ただし、これらの血液検査の結果は骨髄炎の診断に十分ではありません。

X線検査で骨髄炎の特徴的変化が認められることがありますが、症状の発現から3週間以上経過しないと骨の異常が検出できないこともあります。CT(コンピュータ断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像)検査も、感染部位の確認に有用です。しかし、これらの検査は、骨感染症とそれ以外の骨疾患とを判別できるとは限りません。骨スキャン像(放射性テクネチウムを注射した後に撮影する画像)では、ほとんどの場合、感染の起こった部位に異常が認められますが、この検査法は成長中の骨の異常を確実に検出できないため、乳児は例外です。白血球シンチグラフィー(放射性インジウムで標識した患者の白血球を静脈注射)は、骨スキャンで異常のある領域において、感染症と他の病気を区別するのに有用です。

 

骨感染症の診断や原因菌の同定のために、血液、膿、関節液、骨などのサンプルを採取して検査することがあります。化膿性脊椎炎では通常、骨組織のサンプルを針生検により採取するか、手術中に採取します。

 

予後(経過の見通し)と予防

骨髄炎の予後は、早期に適切な治療が行われれば通常は良好です。ただし、ときに慢性骨髄炎が発症し、数週間から数カ月後、あるいは数年後になって骨膿瘍が再発することがあります。

人工関節や金属製のコンポーネントを骨に装着している人が手術(歯科処置を含む)を受ける場合は、術前に予防的に抗生物質を投与します。このような人は、口腔内や体内に常に存在している細菌によって感染を起こすリスクが高くなるためです。患者は専門の医療従事者から予防的な抗生物質の投与について詳しい説明を受けることができます。人工関節や骨に金属製のコンポーネントを装着している人が手術や歯科処置を受ける場合、担当の外科医、整形外科医、または歯科医にそのことを申告し、予防的な抗生物質の投与を受けるべきです。

 

治療

血流を介して急性の骨感染を起こした小児と成人に対しては、抗生物質が最も効果的な治療です。感染の原因菌が同定できなければ、黄色ブドウ球菌に対して有効な抗生物質や、多種の細菌に対して有効な抗生物質(広域スペクトルの抗生物質)を使用します。感染症の重症度によって、まず抗生物質を約4~8週間静脈投与しますが、その後経口投与することもあります。数カ月間の抗生物質治療を必要とする人もいます。

真菌による感染症が同定されたり疑われれば、抗真菌薬が数カ月間必要です。早期に感染症が診断され治療されれば、手術は普通、必要ありません。

細菌による化膿性脊椎炎を起こした成人の通常の治療には、抗生物質を6~8週間投与します。ベッドでの安静や装具による固定が必要となる場合もあります。排膿や、感染した脊椎の固定(椎骨がつぶれるのを防ぎ、近くの神経や、脊髄、血管を損傷しないようにする)をする場合は手術が必要になるでしょう。

隣接した軟部組織の感染(たとえば、血行不良や糖尿病によって生じた足の潰瘍に伴うもの)によって生じた骨髄炎の治療は複雑です。通常は、壊死した組織と骨を手術で除去し、そこに健康な骨、筋肉、皮膚などを充てんします。さらに、抗生物質により感染症を治療します。

膿瘍があれば、外科的に排膿します。発熱が長く続き、体重減少がみられる場合も手術が必要なことがあります。

周囲に感染を起こした人工関節は、取り出して新しいものに交換します。手術の数週間前から抗生物質を投与して細菌を死滅させておくことで、汚染された人工関節の取出しと新しい人工関節の移植が同時にできます。まれに、治療がうまくいかずに感染が持続することがあると、関節を融合するか、腕や脚を切断する手術が必要です。

 

 

骨髄増殖性疾患

 

骨髄増殖性疾患は、骨髄の中にある造血細胞(前駆細胞)の成長や再生が過剰になったり、線維組織の過度の増殖によって造血細胞が骨髄の外に押し出されたりする病気です。一般には後天的な病気で、遺伝ではありませんが、それでもまれに家系内にこの病気になった人が複数みられることがあります。その場合でも、この病気自体が遺伝するというよりも、むしろこの病気になりやすい素因が遺伝すると言えそうです。

骨髄増殖性疾患には、大きく分けて真性赤血球増加症、骨髄線維症、血小板血症の3種類があります。造血細胞が異常増殖し始めても、癌になることはありません(良性腫瘍)。しかし、人によっては、骨髄増殖性疾患が進行したり、変化したりして、白血病のような癌(悪性腫瘍)になることがまれにあります。

 

主な骨髄増殖性疾患

病名

骨髄の特徴

血液の特徴

真性赤血球増加症

循環する血球をつくる細胞の数が増える

赤血球の数が増える

多くの場合、血小板や白血球の数も増える

骨髄線維症

線維組織が過剰

未熟な赤血球や白血球の数が増える

赤血球の形が異常

正常な赤血球の総数が減る(貧血)

最終的に白血球や血小板の数が減ることが多いが、人によっては増えることもある

血小板血症

血小板をつくる細胞(巨核球)の数が増える

血小板の数が増える

 

 

 

骨髄線維症

 

骨髄線維症とは、造血細胞に代わって線維組織が骨髄中に増える病気で、異常な形状の赤血球が産生されたり、貧血や脾臓の腫大が発生したりします。

 

骨髄線維症は自然に発生したり、別の血液疾患によって引き起こされることがあります。

人によっては、疲労感や脱力感を覚えたり、感染を繰り返したり、出血しやすくなります。

診断には血液検査と骨髄検査を行います。

薬の投与やその他の治療により、貧血の重症度を低くしたり、赤血球の産生量を増やしたり、感染を治療したりします。

場合によっては、幹細胞移植を行うこともあります。

骨髄が正常であれば、線維芽細胞と呼ばれる細胞が、造血細胞を支える線維組織(結合組織)をつくっています。骨髄線維症では、線維芽細胞が線維組織をつくりすぎるため、造血細胞が押し出されてしまいます。その結果、赤血球の産生量が減少し、血流に放出される赤血球の数が少なくなって貧血となり、次第に重症化します。しかも、これらの赤血球の多くは未成熟であったり、奇形であったりします。未成熟の白血球と血小板が、数はさまざまですが、血液中にみられることもあります。骨髄線維症が進行するにつれて、白血球数は増加することも減少することもありますが、血小板数は概して減少します。

骨髄線維症はまれな病気で、米国で発症する人は、10万人あたり2人を下回ります。発生のピークは76歳です。

骨髄線維症は自然に発生する(この場合、特発性骨髄線維症または原因不明骨髄様化生とも呼ばれる)こともありますが、慢性骨髄性白血病、真性赤血球増加症、血小板血症、多発性骨髄腫、リンパ腫、骨髄異形成症候群といった別の血液疾患を伴うこともあります。また、結核、肺高血圧症、全身性エリテマトーデス(ループス)、全身性硬化症(強皮症)などの場合や、骨に癌が転移した場合に発生することもあります。

 

症状、合併症、診断

骨髄線維症では、貧血が激しくなるまで何年も症状が現れないのが普通です。しかし、場合によっては、急速に、貧血、血小板減少症、白血病などに至ることもあります。最終的には、貧血が重くなって、脱力感、疲労感、体重減少、全身的な違和感(消耗)が現れるほどになります。発熱や寝汗がみられることもあります。白血球の数が減少すると、感染リスクが高まり、感染を繰り返すことが多くなります。血小板数が減少すると、出血のリスクが高くなります。

肝臓と脾臓は、血球をつくる仕事をある程度肩代わりしようとして、腫れることがよくあります。また、脾臓は、骨髄でつくられた異常な赤血球や血小板の破壊も行います。赤血球や血小板を多く破壊するようになると、脾臓が腫れる一因となります。肝臓や脾臓が腫大すると、腹痛が生じることがあり、特定の静脈の血圧が異常に高くなったり、食道の静脈瘤から出血したりすることもあります。

 

貧血があり、採取した血液の顕微鏡検査で形が異常で未熟な赤血球がみられる場合は、骨髄線維症が疑われます。しかし、診断を確定するには骨髄生検が必要になります。

 

予後と治療

骨髄線維症は一般に進行が遅いため、この病気にかかっても10年以上の生存が望めますが、骨髄がどの程度良好に機能しているかによって結果は異なります。ときには、急速に悪化することもあります。治療では、病気の進行を遅らせることと、合併症を軽減することが目標になります。しかし、幹細胞移植だけは治癒が期待できます。

骨髄線維症にかかっている人の約3分の1では、アンドロゲン(男性ホルモン)とプレドニゾロンを併用することによって、一時的に貧血が軽減されます。ごく一部の人では、骨髄を刺激して赤血球の産生を促進するエリスロポエチンやダルベポエチンといった薬を投与することで、赤血球の数を増加させることができます。他にも、貧血の治療に輸血が必要になる人もいます。細菌感染症の場合は抗生物質で治療します。

化学療法薬のヒドロキシ尿素や免疫系に作用するインターフェロンアルファによって、腫大した肝臓や脾臓が小さくなることがありますが、どちらも貧血を悪化させる可能性があります。まれに、脾臓がきわめて大きくなって痛みを伴い、手術による摘出が必要になることもあります。脾臓の摘出により、赤血球の数を増加させ、輸血の必要性を減らせる可能性があります。

 

骨髄線維症以外に健康上の問題がなく、適合するドナーがいる場合は、幹細胞移植(骨髄移植)を行うこともあります。移植は、骨髄線維症の治癒が期待できる唯一の治療法ですが、かなりのリスクも伴います。

 

 

なかなか診断がつかないために、「白血球減少症」とか「汎血球減少症」などの暫定的な病名をつけられることもあります。

 

治療  治療方法には、症状に応じた対症的な治療と積極的な治療方法とがあります。年齢、健康状態によっても違ってきます。治療もその種類と進行度に応じて異なります。

1) 無治療、経過観察  不応性貧血の初期では、診断が確定してからも輸血をする必要もなく、無治療で経過観察のみで良い場合も少なくありません。貧血に対して、ビタミンB12、葉酸などの薬剤は無効です。また再生不良性貧血でしばしば使用される男性ホルモン剤も使用されますが、その効果は確立されていません。

 

2) 赤血球輸血、血小板輸血  対症療法の一つです。貧血が進行している場合、その症状改善のために赤血球輸血を行います。貧血が進行は病状の進行と無関係ではありません。通常、ヘモグロビン値というものが8以下になった場合、貧血による症状がでてきますし、輸血の適応と考えられます。  血小板数が少なく、出血傾向のある場合には止血剤の内服治療が必要です。血小板数が2万以上であれば、出血症状のない限り血小板輸血は必要ありません。しかし、これより減少した場合や、出血があり止まらない場合は、緊急の血小板輸血が必要となります。  白血球減少症には無治療で経過を見ますが、身体の抵抗力が弱って感染症を併発しやすくなります。

 

アザシチジンやデオキシアザシチジンといった薬によって、輸血の必要性を減らしたり、生存期間を延ばしたりできますが、骨髄異形成症候群が治るわけではありません。同種幹細胞移植では、わずかですが治癒が期待できます。

 

3) 化学療法および細胞増殖因子などによる生物学的治療  これらについては有効性が証明されていないので、いくつかの臨床試験が行われています。

(1) 化学療法  抗がん剤には、注射薬または内服薬があります。化学療法は、骨髄中のがん細胞を殺す目的で行われます。ただし化学療法は全身の治療であり、全身に行き渡る薬あるいは抗がん剤の投与を受けるわけですから、白血球減少症、血小板減少症、脱毛、吐き気といった副作用も起こります。最近、分子標的療法薬が開発されて、臨床使用可能となってきています。ビーダーザは異常細胞のメチル化に関わる細胞伝達経路を遮断する薬剤で、MDSに対する治療効果が報告され、実際に臨床応用されています。

 

骨髄異形成症候群は白血病の1つとして考えられていますが、数カ月から数年にわたって緩やかに進行します。10~30%の患者では、骨髄異形成症候群から急性骨髄性白血病(AML)に移行します。骨髄異形成症候群の初期段階で化学療法を行っても、急性骨髄性白血病への移行を予防することはできません。急性骨髄性白血病に移行した場合には、化学療法が有効ですが、治癒の見込みはあまりありません。

 

(2) 生物学的治療法、細胞増殖因子など  自分の身体の細胞をさらに刺激して、病気と一層たたかうようにしむける治療で、身体自体にすでにあるものをさらに実験的につくりなおし改良し薬として注射し、病気に対する身体の防御力を高めたり、保ったりさせます。白血球を増やす薬物や赤血球を増やすホルモン剤が、骨髄異形成症候群に有効であるかどうか、現在さまざまの臨床研究が進められております。また、分子標的療法薬の一つとして、レブラミドが発売されています。レブラミドはサリドマイドの誘導体であり、5番目の染色体の欠失を有するMDSの症例に対して高い有効性が報告されています。

 

4) 造血幹細胞移植  比較的発症年齢が若い場合には、骨髄移植治療が実施されることがあります。

 

骨腫瘍

 

骨腫瘍とは、骨細胞の異常な増殖です。

骨腫瘍には、癌性(悪性)と非癌性(良性)があり、最初から骨に生じる場合と骨に転移する場合とがあります。

腫瘍により、説明のつかない進行性の骨の痛みや、腫脹、骨折傾向(すぐに骨折しやすくなる)が生じるようになります。

診断は、画像検査(X線検査、CT検査、MRI検査など)に基づいて行うこともありますが、多くの場合、腫瘍や骨の組織サンプルを採取して顕微鏡で調べる生検が必要です。

 

骨腫瘍には、非癌性と癌性があります。癌性の腫瘍は、体の別の領域に転移することがあります。さらに骨腫瘍には、原発性と転移性があります。原発性骨腫瘍は骨に発生し、非癌性と癌性があります。転移性腫瘍は癌性であり、体の別の部位(たとえば、乳腺や前立腺など)に生じた癌が骨に転移したものです。小児期にみられる癌性骨腫瘍のほとんどは原発性です。これに対して、成人にみられる癌性骨腫瘍の多くは転移性です。全体として、非癌性骨腫瘍が比較的多くみられ、癌性原発性骨腫瘍はまれです。

 

症状

ときには痛みのないしこりができて、それがやがて痛むようになることもありますが、多くの場合、最初に現れる症状は骨の痛みです。痛みは(たとえば歯痛のように)激しいものである可能性があります。痛みは安静時や夜間に生じることがあり、徐々に悪化する傾向があります。ときに腫瘍は、特に癌性である場合、骨がもろくなり、負荷がほとんどかからなくても骨折することがあります(病的骨折)。

 

診断

関節や大きな骨の痛みが持続する場合は、X線撮影を行います。しかし、X線画像では、骨の異常な増殖や穴が異常を示唆するだけにとどまる傾向があり、腫瘍が非癌性であるか癌性であるかまでは示しません。ただし、一部の腫瘍はX線画像で良性であることが確認できます。たとえば、骨パジェット病、内軟骨腫症、骨嚢胞、非骨化性線維腫(骨組織のない線維性の増殖)、線維性骨異形成などです。X線検査で確定できない場合、CT検査やMRI検査でしばしば腫瘍の正確な位置や大きさがわかり、その性質に関する情報も得ることができますが、通常はCT検査やMRI検査で診断を確定することはできません。

 

癌の疑いがある、あるいは癌の可能性が高い場合、通常は診断のために生検が必要となります。多くの場合、腫瘍に針を刺して、一部の細胞を吸引してサンプルを採取します(吸引生検)。ただし、針が非常に細いために、すぐ隣に癌細胞があっても正常な細胞しか採取できずに癌を見逃すことがあります。より多くの組織を検査するために、大きな針で行う生検(コア生検)が必要になることがしばしばあります。ときには診断に十分な検体を採取するため、直視下生検と呼ばれる外科的な手術による生検が必要になることがあり、この生検と同時に腫瘍を治療する手術を行うこともあります。

 

 

非癌性骨腫瘍

 

骨軟骨腫:

骨軟骨腫(骨軟骨性外骨腫)は、非癌性(良性)骨腫瘍の中で最も多くみられるもので、通常は10~20歳でみつかります。腫瘍は骨の表面に増殖し、硬いかたまりが突出します。腫瘍は、一つまたは複数できることもあります。複数の腫瘍ができるものは、家族性が認められます。

人生のある時点で二カ所以上に骨軟骨腫(多発性骨軟骨腫症)のある人の約10%は、軟骨肉腫と呼ばれる癌性(悪性)の骨腫瘍が発生します(既存の骨軟骨腫から発生するものとみられる)。 

腫瘍が大きくなったり、新たな症状が生じている場合は、手術による腫瘍の摘出が一般に適しています(たとえば、腫瘍により骨の増殖が妨げられたり、骨が肥大したり、隣接した神経、筋肉、周辺組織が圧迫されたりする場合)。そのような人は定期的に医師の診察を受けるべきです。しかし単発性の骨軟骨腫は、軟骨肉腫を発症する可能性はあまりないため、通常は症状が出ない限り切除する必要はありません。

 

内軟骨腫:

内軟骨腫はどの年代にも起こりますが、10~40歳に多くみられる傾向があります。この腫瘍は骨の中心部に生じます。何か別の理由でX線検査を受けた際に発見されることが多く、特有のX線画像の異常所見に基づき診断が行われます。内軟骨腫には腫大し、痛みを伴うものもあります。もしも内軟骨腫に痛みがなく、X線検査やその他の画像検査で癌性でないようであれば、切除や治療を行う必要はありません。ただし、その場合は定期的にX線撮影を行い、腫瘍の大きさを継続して観察します。腫瘍がX線撮影によって確定診断できない場合や痛みを伴う場合は、組織のサンプルを切除して顕微鏡で調べ(生検)、非癌性であるか癌性であるかを判定する必要があります。

 

軟骨芽細胞腫:

軟骨芽細胞腫は、骨端部分に増殖するまれな腫瘍です。主に10~20歳で発生します。この腫瘍は痛みが生じて発見されることがあります。治療をしなければ、腫瘍は大きくなり続け、骨や関節を破壊します。このため、治療は外科的な腫瘍の切除とその欠損部を満たすための骨移植です。移植材料として、患者自身の骨盤から採取した骨(自家移植片)や、他人の骨組織処理片(同種移植片)、人工の代替骨などを使用できます。ときに術後に腫瘍が再発することもあります。

 

軟骨粘液線維腫:

軟骨粘液線維腫は、30歳未満の人に発生する非常にまれな腫瘍です。通常は腕や脚の骨の骨端部近くに生じます。症状は痛みを伴います。この腫瘍はX線画像で特有の外観がみられます。腫瘍を手術で切除することで通常は治癒しますが、ときに再発する場合もあります。

 

類骨骨腫:

類骨骨腫は非常に小さな腫瘍で、10~35歳の人に多く発生します。どの部位の骨にも起こりえますが、たいていは腕か脚に発生します。夜間に痛みが強くなり、低用量のアスピリンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の服用で痛みは軽減します。ときには、腫瘍周囲の筋肉が萎縮することがあります。この状態は腫瘍を除去すると改善します。腫瘍が成長板(小児の骨の成長する部分)の近くに生じた場合、骨の成長が過度に刺激されることがあります。その場合、腕や脚の成長が左右で異なる可能性があります。腫瘍の正確な位置を特定するために、放射性トレーサーを用いた骨スキャン検査を行います。腫瘍の部位が特定しにくい場合、CTなど、追加の検査が必要となることがあります。

恒久的に治療するには、皮膚を穿刺して針のような高周波プローブを腫瘍に挿入し、CTで誘導しながら位置を確認します。次に、高周波で腫瘍を破壊します。施術中、患者には全身麻酔、脊椎麻酔、神経ブロック麻酔のいずれかを行います。

予後は良好で、痛みは消失するはずです。痛みを完全に取り除くもう一つの方法は、腫瘍の切除手術です。しかし、手術を受けるよりも、無期限に鎮痛薬を服用する方法を選ぶ人もいます。治療せずにやがて痛みがなくなることもあります。

 

巨細胞腫:

巨細胞腫は、主に20~30代の人に発生します。骨端部に最も多く発生し、隣接する組織に広がっていきます。普通は痛みを伴います。治療法は、腫瘍の大きさによって異なります。腫瘍を手術で切除し、欠損部に骨移植をしたり人工の骨セメントを充てんしたりして、骨の構造を保ちます。ときには腫瘍がかなり広範囲に及び、骨の病変部を大きく切除したり、関節の再建をしたりする必要があります。掻爬と呼ばれる手術法では、スコップ状の器具で腫瘍を削り取ります。この手術の後、約10%は再発します。巨細胞腫が癌化することはまれです。

 

 

原発性癌性骨腫瘍

 

多発性骨髄腫:

多発性骨髄腫は最も多くみられる原発性癌性(悪性)骨腫瘍で、主に高齢者に発生します。ただし、これは骨を形成する硬い組織ではなく、骨髄(骨空洞内の造血組織)に発生する癌です。したがって、必ずしも原発性骨腫瘍とはみなされていません。骨を構成する硬い組織の癌よりも多くみられます。多発性骨髄腫は一つまたは複数の骨を侵し、痛みは一カ所の場合もあれば、数ヵ所に生じる場合もあります。一つの骨の一カ所に限局している場合を形質細胞腫と呼び、複数の部位に生じる場合を多発性骨髄腫と呼びます。治療は複雑で、化学療法や、放射線療法、ときには外科手術が含まれます。

 

 

骨肉腫:

骨肉腫(骨原性肉腫)は、原発性癌性骨腫瘍の中では二番目に多くみられますが、多発性骨髄腫ほど多くはありません。骨肉腫は異常な骨細胞を増殖させます。主に10~25歳の人に発生しますが、どの年齢の人にも発生する可能性があります。骨パジェット病の高齢患者が、骨に放射線照射を受けているか、鎌状赤血球貧血やその他の病気(骨梗塞)のために壊死した領域がある場合、この腫瘍が発生することがあります。この腫瘍の約半数が膝の関節内または周囲の骨に発生していますが、どの部位でも発生する可能性があります。しばしば肺に転移します。通常は病巣部の痛みと腫れを起こします。X線検査をしますが、診断には、組織サンプルを採取して顕微鏡検査(生検)をする必要があります。肺に転移した癌を検出するには胸のX線検査とCTスキャンが必要であり、その他の骨に広がった癌を検出するには骨スキャン検査が必要です。

 

骨肉腫の治療は、通常化学療法と外科手術を併用して行います。通常は化学療法を最初に行います。多くの場合、この段階で痛みは治まります。次に、腫瘍を傷つけることのないようにしながら、腫瘍全体を切除します。腫瘍を傷つけると腫瘍細胞が漏れ出し、同じ領域に癌が再発する可能性があります。

化学療法を受け、癌が転移していない場合、骨肉腫の患者の約65%は、診断されてから5年以上生存します。化学療法でほとんどすべての癌を破壊すると、5年以上生存する確率は90%以上になります。手術技術の向上により、現在は腕や脚を温存し再建することができます。過去には病巣のある腕や脚は切断しなければなりませんでした。

 

 

線維肉腫と悪性線維性組織球腫:

骨の線維肉腫と悪性線維性組織球腫は、骨肉腫と同じ年齢層の人に発生し、形態、発生部位、症状、経過などが類似しています。これらの癌性腫瘍には、癌性骨組織よりも癌性線維(結合)組織をつくる細胞があります。治療は、骨肉腫の場合と同様です。

 

 

軟骨肉腫:

軟骨肉腫は、癌性軟骨細胞からなる腫瘍です。この腫瘍は高齢者に起こる傾向があります。軟骨肉腫の多くは進行が遅く、悪性度も低いので、その他の一部の腫瘍よりも転移しにくいのが特徴です。多くの場合、外科手術による治癒が可能です。しかし、中には悪性度が高く、転移しやすいものもあります。診断には生検が必要です。

悪性度の低い軟骨肉腫は、スコップ状の器具で骨から削り取って除去し、液体窒素、フェノール、アルゴンビームを使用して骨の表面に存在する腫瘍細胞を死滅させます。その他の軟骨肉腫は、腫瘍を傷つける(侵襲する)ことなく手術で完全に切除しなければなりません。傷つくと腫瘍細胞が拡散するリスクがあります。軟骨肉腫は、化学療法や放射線療法には反応しません。まれに腕や脚の切断が必要になることもあります。腫瘍を完全に切除できた場合の生存率は75%以上です。

 

 

骨のユーイング肉腫:

ユーイング肉腫は、女性よりも男性に多い癌性腫瘍で、10~25歳の人に最も多く発生します。腕や脚に発生するケースがほとんどですが、どの骨にも発生する可能性があります。最もよくみられる症状は、痛みと腫れです。腫瘍がかなり大きくなり、その骨全体が冒されることもあります。腫瘍に大きな軟部組織が含まれていることもあります。CT検査やMRI検査は、腫瘍の正確な大きさを測定するのに役立ちますが、診断には生検が必要です。治療は、手術が可能か、あるいは実行した場合、成功したかどうかによって異なりますが、外科手術、化学療法、放射線療法を多種多様に組み合わせて行います。治療によるユーイング肉腫の治癒率は60%以上です。

 

 

骨のリンパ腫:

骨のリンパ腫(以前は細網肉腫と呼ばれた)は、主に40~50代の人に発生する癌性腫瘍です。骨やそれ以外の部位で発生し、骨に転移します。通常この腫瘍では痛み、腫れ、軟部組織の蓄積などがみられます。損傷した骨は骨折しやすくなります。治療は通常、化学療法と放射線療法が併用して行われますが、切断手術あるいは腫瘍の切除術と同程度の効果があるようです。まれに切断手術が必要になります。骨折しやすい状態の場合は、予防のため手術による固定を試みることもあります。

 

 

悪性巨細胞腫:

悪性巨細胞腫はまれですが、癌性で、通常は長管骨(腕の骨や大腿骨)の最端部にできます。治療は骨肉腫と同様ですが、治癒率は低いです。

 

 

脊索腫:

脊索腫はまれですが、癌性で、脊柱の端部に発生する傾向があり、通常は脊椎底部(仙骨)や尾骨の中央部、または頭蓋底の近辺にみられます。仙骨や尾骨の脊索腫では、痛みがほぼ継続して発生します。頭蓋底の脊索腫は、神経の問題を起こすことがあり、最も多くみられるのは、視神経(眼に向かう神経)の障害です。診断がつくまでに症状が数カ月から数年も続くことがあります。脊索腫は通常他の骨に広がることはありませんが、再発することはあります。仙骨や尾骨の脊索腫は、外科的切除で治癒する可能性があります。頭蓋底の脊索腫は通常、外科手術では治癒しませんが、放射線療法が効果を示すことがあります。

 

 

転移性骨腫瘍

 

特に乳房、肺、前立腺、腎臓、甲状腺、大腸の癌が骨に転移します。

画像検査で骨の異常はわかりますが、組織のサンプルを採取して検査(生検)する必要があります。

放射線療法、化学療法、外科手術が推奨されます。

男性の前立腺癌と女性の乳癌は最も多くみられる癌です。肺癌は男女ともに最も死亡数の多い癌です。転移性骨腫瘍は、体の別の部位に生じた癌が骨に転移したものです。骨に最も転移しやすいのは、乳腺、肺、前立腺、腎臓、甲状腺、大腸などの癌です。しかし、どの癌も最終的には骨に転移する可能性があります。どの骨にも広がる可能性はありますが、普通は前腕やふくらはぎの末梢側の骨に転移することはありません。起こるとすれば最も多くみられるのは肺からの転移で、ときに腎癌の転移もみられます。

 

診断

現在、癌がある、あるいは過去に癌を患った人に骨の痛みや腫れが発生した場合、転移性骨腫瘍を評価します。放射性トレーサーを使用した骨スキャン検査やX線検査で腫瘍の位置を特定するのに役立ちます。MRI検査やPET(ポジトロン放射断層撮影)検査はさらに正確に位置を確認できます。転移性骨腫瘍は、原発癌が見つかる前に症状を起こすことがあります。症状は腫瘍によってもろくなった部位の痛みや骨折(病的骨折)です。このような状況では、生検が通常はもとの癌の位置の手がかりを与えます。癌が発生した組織のタイプが顕微鏡検査で確認できると、それにより医師は原発部位がどこか(たとえば、肺、乳腺、前立腺、腎臓、甲状腺、大腸など)わかります。

 

治療

治療は、骨に転移した癌の種類によって異なります。化学療法に反応するもの、放射線療法に反応するもの、両方が使えるもの、どちらにも反応しないものがあります。通常は放射線療法が最も効果的です。骨を固定する手術を行って、骨折を予防する場合もあります。場合によっては、骨転移した腕や脚の一部を切除して、その骨や関節を再建することが必要です。もとの癌(原発癌)が切除され、骨転移が一つの骨に限局していれば(特に原発癌の発生後、何年も経てから転移した場合)、外科的除去や再建術を行い(ときには放射線療法または化学療法と、またはそれらの両方を併用する)、治癒することはまれでも、生活の質をかなり改善することができ、また腕や脚の機能や外観も向上します。

 

治療の目標の一つは、骨組織の損失を最小限にすることです。骨組織の損失は痛みの原因となり、骨折しやすくなるので、手術が必要になることがあります。骨の損失が拡大し痛みが生じる前に、放射線療法や薬物療法(ビスホスホネート製剤など)により骨の損失を最小限に抑えることができます。腫瘍により椎骨がつぶれても、脊髄を圧迫していなければ、バルーン椎体形成術を行うことができます。椎体形成術(骨セメントの注入のみ)やバルーン椎体形成術(先にバルーンを挿入して椎体を整復)では、骨セメント(メチルメタクリレート)を注入して椎体を広げることで、痛みを軽減し、さらなる骨折を防ぐことができます。腫瘍が、脊髄を損傷する(対麻痺など)可能性のある椎骨骨折を起こすリスクがあれば、圧力を軽減し、脊椎を固定する治療が推奨されます。

 

 

髄膜腫

 

髄膜腫は普通は癌性ではありませんが、摘出後に再発する可能性があります。女性に多い腫瘍で、通常は40~60歳で発症しますが、小児期や晩年に成長を始めることもあります。出現する症状は、どこで腫瘍が発達するかによって異なります。症状としては、筋力低下やしびれ、けいれん発作、嗅覚障害、視力異常、精神機能障害があります。高齢者では、髄膜腫が認知症を起こすこともあります。

 

松果体腫瘍

松果体腫瘍は小児期に発症するのが通常で、しばしば性的早熟を起こします。腫瘍が脳の周囲の脳脊髄液の排出を妨げるために、水頭症が起こります。松果体腫瘍のうち最も多いのが、胚細胞腫です。見上げることができない、まぶたが垂れ下がる、などの症状があります。

 

下垂体腫瘍

頭蓋骨の底部にある下垂体は、体内の多くの内分泌系を制御しています。下垂体の腫瘍(下垂体腺腫)は通常は非癌性です。腫瘍は、異常に大量の下垂体ホルモンを分泌するか、あるいはホルモンの産生を阻害します。大量のホルモンが分泌された場合は、どのホルモンが分泌されたかによって影響が異なります。

 

成長ホルモン:背が伸びすぎる巨人症や、頭部、顔、手足、胸が不均衡に大きくなる先端巨大症

 

副腎皮質刺激ホルモン(コルチコトロピン):

クッシング症候群

 

甲状腺刺激ホルモン:

甲状腺機能亢進

 

黄体刺激ホルモン(プロラクチン):

女性では月経が止まったり(無月経)、授乳中でない人に母乳が出たりする(乳汁漏出)。男性では性欲減退、勃起障害や胸がふくらむ(女性化乳房)など

 

ホルモンを分泌している下垂体組織が下垂体腫瘍によって破壊されると、ホルモンの産生が阻害されて、最終的に体内の下垂体ホルモン量が不足します。この場合は頭痛がよく起こります。腫瘍が拡大すると、両眼の周辺視力が失われます。

 

診断

初めてのけいれん発作や、脳腫瘍の特徴的な症状が起きた場合は、脳腫瘍の可能性が考えられます。多くの場合は、身体診察でも脳の機能不全を発見できますが、脳腫瘍の診断には他の検査も必要です。

頭蓋骨の標準的なX線検査でも、髄膜腫や下垂体腺腫など、骨に浸潤する腫瘍は発見できますが、MRI(磁気共鳴画像)検査やCT(コンピュータ断層撮影)検査はすべてのタイプの脳腫瘍を検出できるので、さらに有用です。MRI検査やCT検査では、腫瘍の大きさと正確な位置も非常に詳しく分かります。脳腫瘍が見つかった場合は、腫瘍の種類を判定するためにさらに診断検査が行われます。

ときとして、脊椎穿刺で脳脊髄液を採取し、顕微鏡で検査することもあります。脊椎穿刺は、脳を覆う組織層(髄膜)に腫瘍が侵入し、その結果、脳神経を圧迫しているか、脳脊髄液の吸収を妨げているか、またはその両方が起こっていると考えられるときに行われます。脊椎穿刺は、脳腫瘍の診断や腫瘍の種類がはっきりしないときにも役立ちます。脳脊髄液中には癌細胞が含まれていることもあります。ただし、大きな腫瘍によって頭蓋内圧が上昇している場合は、脊椎穿刺を実施できません。そのような場合は、脊椎穿刺で脳脊髄液を採取したことが引き金となって腫瘍が移動し、脳ヘルニアを起こすことがあるからです。

生検は、顕微鏡で検査するために腫瘍の組織サンプルを採取する検査で、通常は癌性かどうかも含めて腫瘍の種類を特定するために必要です。生検は、腫瘍の全摘出あるいは部分摘出の手術中に行われることもあります。生検用の針が届きにくい位置に腫瘍がある場合は、CT画像で腫瘍の位置を正確にとらえながら針を3次元的に進める方法がとられます(定位生検)。

 

治療

脳腫瘍の治療は、腫瘍の位置と種類によって異なります。可能な場合は、頭蓋骨を開く開頭術と呼ばれる手術で腫瘍を摘出します。一部の脳腫瘍は、脳にほとんどあるいはまったく損傷を与えずに摘出できます。しかし、脳腫瘍の多くは、従来の手術では重要な脳の構造を破壊せずに摘出することが困難または不可能な部位に発生します。

従来の手術は、ときとして、脳に損傷を与え、部分麻痺、感覚異常、筋力低下、精神機能障害などの症状をもたらすことがあります。とはいえ、腫瘍が増殖して脳の重要な構造を破壊するおそれがある場合は、癌性か非癌性かにかかわらず、腫瘍の摘出が不可欠です。治癒が不可能なケースでも、手術は、腫瘍を小さくして症状を軽減するのに有用な場合があり、また、放射線療法や化学療法などの治療が実施に値するかどうかを医師が判断するのにも役立ちます。

 

非癌性腫瘍:

非癌性腫瘍は、多くの場合、外科的な摘出を安全に行うことができ、治癒します。しかし腫瘍が非常に小さい場合や患者が高齢の場合は、症状が現れてこない限り、腫瘍をそのままにしておくことがあります。摘出手術後は、残った腫瘍細胞を破壊するために放射線療法を行うことがあります。放射線手術は照射する放射線を集約させるもので、髄膜腫や聴神経腫などの非癌性腫瘍の治療に有効です。したがって、これらの腫瘍に対しては、従来の手術の代わりに、放射線手術がしばしば用いられます。

 

悪性脳腫瘍:

多くの場合、手術、放射線療法、化学療法が併用されます。安全に切除できる腫瘍をできるだけ手術で摘出した後に、放射線療法を開始します。放射線療法では、数週間かけて複数回の照射を行います。放射線手術は、従来の手術を行えない場合に用いられ、特に転移の治療でよく用いられます。

悪性度が非常に高い腫瘍に対しては、放射線療法と並行して化学療法を行います。放射線療法と化学療法の併用で治癒に至ることはまれですが、腫瘍が小さくなって、数カ月からさらには数年にわたってコントロール可能になる場合があります。

一部の悪性脳腫瘍の治療には、放射線療法の後、持続的な化学療法を行います。化学療法は、特に退形成性乏突起膠腫に対して治療効果があるようです。

 

頭蓋内圧の上昇:

頭蓋内圧の上昇はきわめて深刻な状態であり、直ちに治療が必要です。通常はマンニトールやコルチコステロイド薬などの薬剤を注射して圧を下げ、脳ヘルニアの発生を防ぎます。これらの薬剤は、腫瘍の周囲の腫れを軽減します。コルチコステロイド薬を投与すると、たとえ腫瘍が大きくても、腫瘍によって失われた機能が数日以内(ときには数時間以内)に回復し、頭痛が軽減することがよくあります。

脳室を通る脳脊髄液の流れが腫瘍によって妨げられているときは、脳脊髄液を排出する器具を使用して脳ヘルニアのリスクを減らします。この器具は、細いチューブ(カテーテル)でできていて、頭蓋内圧を測定するゲージにつながれています。頭蓋骨にドリルで小さな穴を開けて、チューブを挿入します。この手術は、局所麻酔(多くの場合は鎮静薬も併用)か、あるいは全身麻酔で行われます。2~3日後に、チューブを取り外すか、あるいは固定式のドレーン(シャント)に取り替えます。この間に腫瘍の全部または一部を摘出するか、放射線手術や放射線療法を行って腫瘍を小さくし、脳脊髄液の停滞を解消します。

 

転移:

治療方法は、癌がもともと発生した場所によって異なります。脳内の転移に放射線を直接照射する放射線療法がよく行われます。手術による切除は、転移が1カ所に限定されているのであれば有益な場合があります。放射線手術が用いられることもあります。

化学療法薬を含むペレットや放射性のペレットを腫瘍に埋め込むなど、試験的な治療が試みられています。

 

 

 

 

ベーチェット病

 

 ベーチェット病(Behçet’s disease)は口腔粘膜のアフタ性潰瘍、外陰部潰瘍、皮膚症状、眼症状の4つの症状を主症状とする慢性再発性の全身性炎症性疾患です。トルコのイスタンブール大学皮膚科Hulsi Behçet教授が初めて報告し、この名がつけられました。

 

原因  病因は現在も不明です。しかし、何らかの内因(遺伝素因)に外因(感染病原体やそのほかの環境因子)が加わり、白血球の機能が過剰となり、炎症を引き起こすと考えらえています。内因の中で一番重要視されているのは、白血球の血液型ともいえるヒトの組織適合性抗原であるヒト白血球抗原(HLA)の中のHLA-B51というタイプで、健常者に比べ、その比率がはるかに高いことがわかっています。そのほか、日本人ではHLA-A26も多いタイプです。最近、ベーチェット病でも他の疾患と同様に全ゲノム遺伝子解析が進められ、発症に強く影響する遺伝子、すなわち疾患感受性遺伝子が次々と同定されてきています。

 

症状  ベーチェット病の主な臨床症状は以下の4症状です。

 

口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍  口唇、頬粘膜、舌、歯肉、口蓋粘膜に円形の境界鮮明な潰瘍ができます。これはほぼ必発です(98%)。初発症状としてもっとも頻度の高い症状ですが、経過を通じて繰り返して起こることも特徴です。

 

皮膚症状  下腿伸側や前腕に結節性紅斑様皮疹がみられます。病変部は紅くなり、皮下に硬結を触れ、痛みを伴います。座瘡様皮疹は「にきび」に似た皮疹が顔、頸、胸部などにできます。下腿などの皮膚表面に近い血管に血栓性静脈炎がみられることもあります。皮膚は過敏になり、「かみそりまけ」を起こしやすかったり、注射や採血で針を刺したあと、発赤、腫脹、小膿疱をつくったりすることがあります。これを検査に応用したのが、針反応です。しかし、最近では、その陽性率が低下しており、施行する機会も減ってきました。

 

外陰部潰瘍  男性では陰嚢、陰茎、亀頭に、女性では大小陰唇、膣粘膜に有痛性の潰瘍がみられます。外見は口腔内アフタ性潰瘍に似ていますが、深掘れになることもあり、瘢痕を残すこともあります。

 

眼症状  この病気でもっとも重要な症状です。ほとんど両眼が侵されます。前眼部病変として虹彩毛様体炎が起こり、眼痛、充血、羞明、瞳孔不整がみられます。後眼部病変として網膜絡膜炎を起こすと発作的に視力が低下し、障害が蓄積され、ついには失明に至ることがあります。

 

 主症状以外に以下の副症状があります。

 

関節炎  膝、足首、手首、肘、肩などの大関節が侵されます。典型的には腫脹がみられます。非対称性で、変形や強直を残さず、手指などの小関節が侵されない点で、関節リウマチとは異なります。

 

血管病変  この病気で大きな血管に病変がみられたとき、血管型ベーチェット病といいます。圧倒的に男性が多い病型です。動脈、静脈ともに侵され、深部静脈血栓症がもっとも多く、上大静脈、下大静脈、大腿静脈などに好発します。動脈病変としては動脈瘤がよくみられます。日本ではあまり経験しませんが、肺動脈瘤は予後不良とされています。

 

消化器病変  腸管潰瘍を起こしたとき腸管型ベーチェット病といい、腹痛、下痢、下血などが主症状です。  部位は右下腹部にあたる回盲部が圧倒的に多く、その他、上行結腸、横行結腸にもみられます。潰瘍は深く下掘れし、消化管出血や腸管穿孔により緊急手術を必要とすることもあります。

 

神経病変  神経症状が前面に出る病型を神経ベーチェット病といいます。難治性で、男性に多い病型です。ベーチェット病発症から神経症状発現まで平均6.5年といわれています。大きく髄膜炎、脳幹脳炎として急性に発症するタイプと片麻痺、小脳症状、錐体路症状など神経症状に認知症などの精神症状をきたし慢性的に進行するタイプに大別されますが、個々の患者さんの症状は多彩です。急性型の一部には眼病変の治療に使うシクロスポリンの副作用として発症する例もありますが、抗TNF抗体(インフリキシマブ)の登場後は減ってきています。一方、慢性進行型は特に予後不良で、治療効果が乏しく、現在でも課題が残る病型です。神経型と喫煙との関連が注目されています。

 

副睾丸炎  男性患者の約1割弱にみられます。睾丸部の圧痛と腫脹を伴います。

 

治療法  ベーチェット病の病状は非常に多様ですので、すべての病状に対応できる単一の治療があるわけではありません。個々の患者さんの病状や重症度に応じて治療方針を立てる必要があります。

 

(1)眼症状:  虹彩毛様体など前眼部に病変がとどまる場合は、発作時に副腎皮質ステロイド点眼薬と虹彩癒着防止のため散瞳薬を用います。視力予後に直接関わる網膜脈絡膜炎では、発作時にはステロイド薬の局所および全身投与で対処します。さらに積極的に発作予防する必要があり、その目的でコルヒチンやシクロスポリンを使用します。2007年1月、世界に先駆けてわが国で、インフリキシマブ(抗腫瘍壊死因子(TNF)抗体)が難治性眼病変に対して保険適用となり、従来の治療薬にない素晴らしい効果を示しており、市販後調査での有効率は90%にものぼり、多くの患者で視力の改善が見られています。

 

(2)皮膚粘膜症状:  口腔内アフタ性潰瘍、陰部潰瘍には副腎ステロイド軟膏の局所塗布が効くことが多く、また、口腔ケアや局所を清潔に保つことも重要です。また内服薬としてコルヒチン、セファランチン、エイコサペンタエン酸などが効果を示すことがあります。

 

(3)関節炎:  コルヒチンが有効とされ、対症的には消炎鎮痛薬を使用します。

 

(4)血管病変:  副腎皮質ステロイド薬とアザチオプリン、シクロホスファミド、シクロスポリンAなどの免疫抑制薬が主体です。動脈瘤破裂による出血は緊急手術の適応ですが、血管の手術後に縫合部の仮性動脈瘤の形成などの病変再発率が高く、可能な限り保存的に対処すべきとの意見もあります。

 

(5)腸管病変:  副腎皮質ステロイド薬、サラゾスルファピリジン、メサラジン、アザチオプリンなどを使用します。難治性であることも少なくありませんが、2013年、ヒト型抗TNF抗体であるアダリムマブの使用が保険上認可され、今後の成績の向上が期待されます。消化管出血、穿孔は手術を要しますが、再発率も高く、術後の免疫抑制剤療法も重要です。

 

(6)中枢神経病変:  脳幹脳炎、髄膜炎などの急性期の炎症にはステロイドパルス療法を含む大量の副腎皮質ステロイド薬が使用され、アザチオプリン、メソトレキサート、シクロホスファミドなどの免疫抑制薬を併用することもあります。精神症状、人格変化などが主体とした慢性進行型に有効な治療手段は乏しいのですが、メソトレキセート週一回投与の有効性が報告されています。眼病変に使われるシクロスポリンは禁忌とされ、神経症状の出現をみたら中止すべきです。

 この病気は、眼症状や特殊病型が認められない場合は、慢性的に繰り返し症状が出現するものの一般的に予後は悪くありません。眼症状のある場合、特に眼底型の網膜ぶどう膜炎がある場合の視力の予後は悪く、かつては眼症状発現後2年で視力0.1以下になる率は約40%とされてきました。この数字は1990年代のシクロスポリン導入以後、20%程度にまで改善してきました。さらにインフリキシマブの登場により、有効率は90%にものぼります。中枢神経病変、血管病変、腸管病変等の特殊型ベーチェット病はいろいろな後遺症を残すことがあります。

 

 

 

 

神経梅毒

 

 神経梅毒は梅毒スピロヘータ(トレポネーマ・パリドム)に感染後、数年から数十年経過して生じるさまざまな神経症状の総称です。先進国ではペニシリンを主とした抗生剤の進歩とともに比較的まれな病気になりました。しかし、最近ではHIV(ヒト免疫不全ウイルス)と梅毒の合併例が多くなり、新たな問題として取り上げられています。  神経梅毒は、髄膜血管型と実質型に大別されています。髄膜血管型には、髄膜型、脳血管型、脊髄髄膜血管型があります。実質型には、脊髄癆、進行麻痺、視神経萎縮があります。

 

原因  梅毒は梅毒スピロヘータによる性感染症で、神経梅毒は梅毒スピロヘータが中枢神経系へ直接侵入して起こります。梅毒の初感染から、数年〜数十年経過してから症状が出ますが、神経系に対してどのような直接的な障害が起きたのか、またどのような免疫学的メカニズムが介在するのかはよくわかっていません。

 

症状の現れ方

(1)髄膜血管型神経梅毒  髄膜血管型には髄膜型、脳血管型、脊髄髄膜血管型があります。髄膜型は初感染から数年以内に発症することが多く、頭痛、発熱など急性ウイルス性髄膜炎と同様の症状を示します。また、髄液の流出路を閉塞して水頭症を合併することがあります。  脳血管型は初期感染から5〜30年経過して発症し、脳梗塞(のうこうそく)を生じます。動脈硬化性の脳梗塞と区別することは困難です。脳梗塞発症の数週間前から頭痛や性格変化があることがあり、参考となります。  脊髄髄膜血管型は横断性脊髄炎を生じ、運動障害、感覚障害、排尿障害を伴います。

 

(2)進行麻痺  脳実質に炎症が波及し神経細胞が脱落した結果、認知障害を示します。記憶障害、判断力の低下、易(い)刺激性(気分が変わりやすく、気短になること)とともに、精神疾患と間違われるような行動異常が問題になります。未治療の時は3〜5年で死亡するといわれています。

 

(3)脊髄癆  脊髄癆は四肢や体幹の電撃痛、進行性の歩行失調、腱反射消失、感覚障害、排尿障害などの脊髄障害による症状と瞳孔異常が特徴です。脊髄癆の大部分の人では、瞳孔不同・対光反射の異常が認められます。また、関節の過伸展と変形を起こし、関節の無痛性腫大、いわゆるシャルコー関節を生じます。治療によって進行が停止しても電撃痛や失調症状はなくなりません。

 

検査と診断  血中のトレポネーマ・パリドムを分離することは困難であり、梅毒の診断には血清を用いた梅毒検査が重要です。梅毒反応試験には、脂質抗原試験とトレポネーマ抗原試験の2種類があります。  脂質抗原試験は梅毒感染のスクリーニング検査として、またその結果は臨床症状と相互に関係しあっているので、治療効果の指標として有用です。トレポネーマ抗原試験は鋭敏で特異的な反応であるため、梅毒感染の確認試験として用いられています。  神経梅毒の診断は、神経梅毒が疑われる臨床症状があること、血清の梅毒反応試験が陽性であり、髄液の細胞数増加およびトレポネーマ抗原試験が陽性であることを確認することによって行われます。

 

治療の方法  ペニシリン療法を行います。治療効果の判定には、臨床症状の改善、脂質抗原試験の正常化、髄液細胞数の低下などを指標とします。

 

 

 

化学物質過敏症

 化学物質過敏症は、様々な種類の微量の薬物や化学物質(主に揮発性有機化合物)の暴露によって健康被害が引き起こされるとする疾病です。

原因は半分以上が室内空気汚染で、特に「シックビル症候群」「シックハウス症候群」と言われます。自宅や職場、学校などの新築、改修等で使用される薬剤、建材、塗料、接着剤から出るホルムアルデヒドや揮発性有機化合物が空気汚染を引き起こします。

また、建物そのもの以外にも家具、殺虫剤、防虫剤、喫煙等も空気汚染を引き起こす要因となります。

 

 化学物質過敏症では、頭痛、筋肉痛、倦怠感、関節痛、皮膚炎、のどの痛み、微熱、腹痛、思考力の低下、感覚異常などの様々な症状が現れます。

 

 診断書の他に、「照会様式」という書類を医師に記入をお願いして、診断書と併せて提出することになっています。理由としては、これらの病気は「確立された医学的知見が存在しない状況にあり、具体的な認定基準等も定められていないため」です。診断書ではその状態について判断が難しいということです。

 

 

慢性疲労症候群

 慢性疲労症候群とは、日常生活に影響をきたすような強い疲労感が6ヵ月以上続く状態をさします。体を休めても疲労が回復しないほか、関節痛や頭痛などがあらわれる、睡眠障害や脳機能障害、そして精神障害などを引き起こすと言われています。

 慢性疲労症候群は慢性疲労と名称は似ていますが、慢性疲労とは全く異なる固有の疾患名称です。その疲労の重さと慢性的な疲労症状が名称の由来となっています。慢性疲労症候群は、圧倒的な疲労により実生活を送ることが非常に困難になります。症状が重い場合、それは朝ベッドから身体を起こすことから始まり、階段の昇り降り、買い物に行くことさえ常に疲労を伴い、生活の大部分において非常に苦労します。

 

 慢性疲労症候群患者の半数はうつ病を併発します。その他にも線維筋痛症や睡眠障害、投薬による副作用などの合併症を患うことが多くあります。

 

 診断書の他に、「照会様式」という書類を医師に記入をお願いして、診断書と併せて提出することになっています。理由としては、これらの病気は「確立された医学的知見が存在しない状況にあり、具体的な認定基準等も定められていないため」です。診断書ではその状態について判断が難しいということです。

 

診断書作成医師が「重症度分類 PS値」の評価を記入し合わせて提出します。

 

 

 

その他の疾患による障害

 

その他の疾患は、「眼の障害」から「悪性新生物」等において取り扱われていない疾患を指すものである。

腹部臓器・骨盤臓器の術後後遺症、人工肛門・新膀胱、遷延性(せんえいせい)植物状態、難病及び臓器移植などが分類される。

 明確な基準があるものは、人工肛門、人工膀胱である。

 

障害の程度

障 害 の 状 態

1級

身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの

2級

身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの

3級

身体の機能に労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を有するもの

障害手当金

 

 

○人工肛門、直腸、泌尿器の傷病

障害の程度

障 害 の 状 態

1級

2級

・人工肛門を造設し、かつ、新膀胱を造設または尿路変更術を施したもの

・人工肛門を増設し、かつ、完全排尿障害状態にあるもの  (完全排尿障害状態とはカテーテル留置または自己導尿の常時施行を必要とする状態をいう)

3級

・人工肛門を造設したもの

・新膀胱を造設したもの、若しくは尿路変更術を施したもの

障害手当金

 

 

○人工肛門・人工膀胱の造設

 人工肛門は人工的に造られた肛門のことをいう。

人工膀胱は、負傷や膀胱癌の治療のために膀胱を摘出した際に膀胱に代わって作られる代用膀胱のことである。

 

障害認定日の特例的取扱い

傷病が治った状態

障害認定日

障害等級の目安

・人工肛門を造設

・尿路変更術施したもの

・新膀胱の造設

造設や手術を受けた日から起算して6月を経過した日

いずれか1つ造設で3級

 

2級

・人工肛門を造設し、かつ新膀胱または尿路変更術を施したもの

・人工肛門を増設し、かつ完全排尿障害状態にあるもの(完全排尿障害状態とはカテーテル留置または自己導尿の常時施行を必要とする状態をいう)

 

 人工肛門、人工膀胱、尿路変更、それぞれ単独のものは3級とする。

 2種類以上の造設で2級となる可能性がある。

 

 障害の程度を認定する時期は、次により取り扱われる。

人工肛門を造設し又は尿路変更術を施した場合は、それらを行った日から起算して6月を経過した日とする。

 人工肛門を造設し、かつ、新膀胱を造設し場合は、人工肛門を造設した日から起算して6月を経過した日又は新膀胱を造設した日のいずれか遅い日とする。

 人工肛門を造設し、かつ、尿路変更術を施した場合は、それらを行った日のいずれか遅い日から起算して6月を経過した日とする。

 人工肛門を造設し、かつ、完全排尿障害状態にある場合は、人工肛門を造設した日又は完全排尿障害状態に至った日のいずれか遅い日から起算して6月を経過した日とする。

(これらは、1年6ヵ月を経過した後に請求する場合は、初診日から1年6ヵ月が経ったその日が障害認定日となる。)

 

 全身状態、術後の経過及び予後、原疾患の性質、進行状況等によっては、総合的に判断して2級以上に認定されることがある。

 

 人工臓器の造設などを行なった場合は、「その他障害用の診断書」(様式第120号の7)を使用する。

 

 

人工膀胱の造設

 

負傷や膀胱癌の治療のために膀胱を摘出した際に、膀胱に代わって作られる代用膀胱のことです。

 

人工膀胱も様々な病気の治療の一環としてつくられます。人工膀胱はいくつかの種類の手術があり、回腸導管、尿管皮膚瘻、腎瘻、膀胱がんがその一例です。膀胱平滑筋肉腫、膀胱肉腫、膀胱腫瘍などの病気にかかった場合、人工膀胱をつくる必要が出てきます。

 

 回腸導管と蓄尿型人工膀胱、自排尿型人工膀胱の3種類、或いは尿管をそのまま腹部皮膚に開口する尿管皮膚瘻を含めて4種類が存在する。

 

 

○臓器移植

腎臓移植を受けたものに係る障害の認定は、「その他障害」の認定要領により認定する。

障害等級に該当している人(人工透析施行の方の場合 2級)が、臓器移植を受けた場合、少なくとも1年間は従前の等級(2級)での障害年金が受給できる。

障害厚生年金で障害等級が3級の場合は、臓器が生着し安定的に機能するまでの間、2年間の経過観察を行うこととされている。再認定時に2年の予後観察期間を経過している場合は、3級非該当とする程度の状態であるか否かを判断する。(障害年金が支給停止になる場合がある。)

障害基礎年金について、3級該当で支給停止されている者については、引き続き停止とする。

 

 

心臓移植

重い心不全で、薬や移植以外の手術では有効な治療効果が得られない患者に限って心臓移植を行います。一部の医療機関では適合する心臓が見つかるまでの数週間から数カ月間、人工心臓で生命を維持できます。また、新しく開発された埋めこみ型人工心臓も移植用の心臓が手に入るまでに使用可能で、試験的には代用臓器として長期間使用することもあります。しかし、それでも移植心臓を待つ間に死亡する人が大勢います。

心臓移植を受けた人(レシピエント)の約95%は、移植前と比べて運動機能や日常生活機能が大きく改善されます。レシピエントの約85%が1年以上生存しています。

レシピエントの胸を切開して機能を失った心臓の大部分を摘出しますが、左心房と右心房の後壁だけは残し、この部分とドナーの移植心臓を縫い合わせます。手術には約3~5時間かかり、手術後の入院期間は通常7~14日間です。

移植した心臓に対する拒絶反応を防ぐため、免疫抑制薬を投与しなければなりません。拒絶反応が起きた場合は通常、発熱、脱力感、頻脈やその他の不整脈が現れます。こうなると、移植した心臓が十分に機能しなくなることがあり、血圧が下がったり、両脚や、時として腹部に水がたまって浮腫と呼ばれる状態が起きたりします。水は肺にもたまることもあります。拒絶反応が軽ければ自覚症状が出ないこともありますが、心電図(ECG)により心臓の電気的活動に変化が見つかる場合があります。

拒絶反応を疑った場合は、たいてい生検を行います。頸部を切開してそこからカテーテルを静脈に挿入し、心臓まで通します。そして、カテーテルの先端の小さなメスで心臓の組織をほんの少し切り取って顕微鏡で観察します。その後も年に一度、定期的に生検を実施して拒絶反応が起きていないか調べます。症状として現れていなくても生検で見つかることがあるからです。

心臓移植を受けた後で死亡した患者の半数近くは感染症が原因です。また、心臓移植を受けた患者の約4分の1は冠動脈のアテローム動脈硬化症を発症します。

 

 

 心臓移植は心臓移植以外の従来の治療法では救命ないし、延命することを期待できない重症の心機能障害をもつ心臓の病気に対して行なわれています。具体的には、広範な心筋梗塞、重症の心筋症(主に拡張型心筋症)高度の心筋障害を伴う心臓弁膜症などです。

 

 

腎移植

不可逆的腎不全(腎臓が機能せず、治療しても治らない)の患者にとって、腎移植は年齢にかかわらず透析に代わる救命法です。

生きているドナーから提供を受けた場合は95%を超える移植腎が移植から1年たっても機能しています。移植後1年を過ぎると毎年3~5%の腎臓が機能しなくなっていきます。一方、死亡したドナーから提供を受けた腎臓では移植から1年たっても機能しているのは82~91%です。移植後1年を過ぎると毎年5~8%の腎臓が機能しなくなっていきます。しかし移植した腎臓が30年を超えて機能し続けることもあります。移植が成功すれば、通常は、活動的な生活を普通に送ることができます。

腎移植で使う腎臓の約3分の2は死亡したドナーからの提供によるものです。摘出された腎臓は冷蔵状態で速やかに病院へ輸送され、そこで血液型と組織型が合ってドナーの組織に対する抗体を産生しない人に移植されることになります。

腎移植は大手術です。レシピエントの腹部を切開してドナーの腎臓を骨盤腔に入れ、レシピエントの血管と膀胱につなぎます。通常、レシピエントの機能していない腎臓は摘出せずにそのまま残します。ただしコントロール不能な高血圧症を起こしている場合や、感染している場合は取り除きます。

免疫抑制薬を使用しても移植後に1回以上の拒絶反応がみられることがあります。急性拒絶反応では発熱、尿の産生量の低下(体重増加を伴う)、移植部位の痛みと腎臓の腫れ、血圧の上昇が起こります。腎臓の機能が低下しているかどうかは血液検査でわかります。こういった症状は感染症や薬剤による腎障害でも起こるので、拒絶反応の診断を確定するために腎臓の針生検を行います。

急性拒絶反応は移植後3~4カ月以内に現れます。通常は免疫抑制薬を高用量で用いたり、抗体療法を短期間実施したりすることでコントロールできます。また、維持免疫抑制薬の種類を変えることで拒絶反応を抑えられる場合もあります。

慢性拒絶反応は移植後数カ月、ないし数年間で生じ、比較的頻繁にみられ、移植した腎臓の機能を徐々に低下させます。拒絶反応をコントロールできなければ腎臓は機能を失い、患者は再び透析を受けなければならなくなります。この場合も発熱、圧痛、血尿、高血圧がしつこく続くようでなければ、腎臓はそのまま体内に残しておきます。2度目の移植でも成功率は初回の移植とほぼ同じです。

 

腎移植のレシピエントは一般の人と比べて癌が10~15倍も発症しやすくなります。この原因はおそらく、免疫抑制薬の使用により、感染症だけでなく癌の発生からも体を守っている免疫システムの機能が抑えられてしまうからです。特に、リンパ系の悪性腫瘍(リンパ腫)では発症率が一般の人の30倍も高くなりますが、それでもリンパ腫の発症自体は多くありません。よくみられるのは皮膚癌です。

 

 

 障害年金を支給されている者が腎臓移植を受けた場合は、臓器が生着し、安定的に機能するまでの間を考慮して術後1年間は従前の等級とします。その上で、再認定時に予後観察期間を経過している場合は、3級非該当(3級よりも軽い)とする程度の状態であるか否かを判断します。
○遷延性植物状態

遷延性植物状態とは、外傷や脳内での出血などによる脳の損傷により、重度の昏睡状態に陥ってしまった状態のことで、いわゆる植物状態とよばれるものである。  日本脳神経外科学会による定義(1976年)によると、  1. 自力移動が不可能である。  2. 自力摂食が不可能である  3. 糞・尿失禁がある  4. 声を出しても意味のある発語が全く不可能である  5. 簡単な命令には辛うじて応じることも出来るが、ほとんど意思疎通は不可能である  6. 眼球は動いていても認識することは出来ない

以上6項目が、治療にもかかわらず3ヵ月以上続いた場合を「遷延性意識障害」という。

 

 遷延性植物状態に陥った場合、日常生活の用を弁ずることができない状態であると認められるため、1級と認定される。

 障害の程度を認定する時期は、その障害の状態に至った日から起算して3月を経過した日以後に、医学的観点から、機能回復がほとんど望めないと認められるときとする。

(1年6ヵ月を経過した後に請求する場合は、初診日から1年6ヵ月が経ったその日が障害認定日となる。)

 

 

 

血液疾患の診断

 

血液検査

病気の診断や経過観察には、血液サンプルを採取して、さまざまな臨床検査が行われます。血液の液体成分である血漿(けっしょう)は、体の機能に不可欠な物質を非常に多く含んでいるため、体のいろいろな場所で何が起きているかを調べるために、血液検査を利用することができます。

特定の臓器から組織サンプルを採取するよりは、血液検査の方が容易に行えます。たとえば、甲状腺機能は、甲状腺から組織を直接採取するよりは、血液中の甲状腺ホルモンの量を測定する方が容易に調べられます。同じ様に、肝機能検査も、血液中にある肝臓の酵素やタンパク質を測定する方が、肝臓から組織を採取するより容易に行えます。また一方で、血液自体の成分や機能を調べるために利用されている血液検査もいくつかあります。このような検査は、主に血液疾患の診断に使用されるものです。

 

全血球計算:

最もよく用いられている血液検査が全血球計算(CBC)で、血液中のすべての細胞成分(赤血球、白血球、血小板)を調べる検査です。自動計数装置は、ごく少量の血液を使って1分以内にこの検査を行います。場合によっては、全血球計算を補完するために、顕微鏡で血液細胞を調べることもあります。

全血球計算では、血液中の赤血球数とヘモグロビン(赤血球中の酸素を運ぶタンパク質)の量が測定されます。さらに、赤血球について、大きさの平均値、大きさの変動幅、含まれるヘモグロビンの量なども全血球計算で測定され、それにより、異常な赤血球の有無が判定できるようになります(その場合は、顕微鏡検査でさらに詳しく特徴を調べることもあります)。異常な赤血球には、断片化したもの、涙のような形、三日月形、針状にとがったものなど、さまざまな形があります。赤血球の形や大きさを知ることは、貧血の原因を特定するのに役立ちます。たとえば、鎌状赤血球症では赤血球が鎌状(三日月形)になっているという特徴があり、ヘモグロビンの量が不十分で赤血球が小さい場合は、鉄欠乏性貧血が疑われ、赤血球が大きく卵形をしている場合は、葉酸またはビタミンB12の欠乏による貧血が疑われます。

全血球計算では、白血球数の測定も行われます。さらに詳しい情報が必要な場合は、特定の種類の白血球を数えることができます(白血球百分率数)。白血球の総数や特定の種類の白血球の数が正常値より多かったり、少なかったりした場合は、これらの白血球を顕微鏡で調べることもあります。顕微鏡検査では、ある種の病気に特有な特徴を確認できます。たとえば、外観がきわめて未熟な白血球(芽球)が数多く認められる場合は、白血病(白血球の癌)の可能性があります。

 

血小板の数も、通常は全血球計算の一環として測定されます。血小板の数は、止血(血液凝固)に関する血液の保護機構の重要な測定量です。血小板数が多いと(血小板増加症、血小板血症)、心臓や脳の毛細血管で血液凝固が起こりやすくなります。一部の疾患では、血小板の数が多くなって、逆に出血過剰になることもあります。

 

網状赤血球数:

網状赤血球数は、新しくつくられた(未熟な)赤血球(網状赤血球)が血液の規定容積に含まれる数です。正常な場合、網状赤血球数は総赤血球数の約1%です。貧血などで多くの赤血球が必要になると、骨髄ではそれに応じて網状赤血球が多くつくられるようになるのが普通です。そのため、網状赤血球数は、骨髄が新しい赤血球をつくる能力を示す指標となります。

 

特殊な血球検査:

血液中の1種類以上の細胞になんらかの異常があると医師が判断した場合は、さらに多くの検査を行って、それを詳しく調べます。各種の白血球が占める割合を調べたり、細胞表面上の特定のマーカーを検出して、これらの細胞のサブタイプを判定したりすることができます。白血球の感染と戦う能力を測定する検査や血小板の機能と凝固能力を評価する検査の他に、赤血球の内容物を測定して貧血の原因または赤血球が十分に機能しない原因を調べる検査なども利用できます。これらの検査のほとんどが血液サンプルを用いて行われますが、骨髄から採取したサンプルが必要になる検査もあります。

 

凝固検査:

出血を止める能力を測定する方法の1つが血小板数のカウントです。血小板の機能が正常かどうかの検査が必要になる場合もあります。その他に、正常な血液凝固に必要なさまざまなタンパク質(凝固因子)について、全体的な機能を調べることができます。これらの検査で最もよく行われるのは、プロトロンビン時間(PT)と部分トロンボプラスチン時間(PTT)の検査です。個々の凝固因子の血中濃度を測定することもあります。

 

タンパク質などの物質:

一部の血球はタンパク質をつくっており、血液や尿でそれを測定することができます。医師は、これらのタンパク質を測定して、その細胞が異常かどうかを判定する場合があります。たとえば、形質細胞と呼ばれる特定の白血球が癌化した血液疾患では、異常なタンパク質(ベンス・ジョーンズタンパク)がつくられ、血液や尿でそれを測定することができます。この異常なタンパク質は、異常となった形質細胞が産生する抗体です。

エリスロポエチンは腎臓でつくられるタンパク質で、骨髄を刺激して赤血球の産生を促す働きがあります。このタンパク質の量や赤血球の産生に影響を与える他のいくつかのタンパク質の量は、血液で測定することができます。また、鉄分の量や健全な赤血球の産生に必要な特定のビタミンの量も測定することができます。

 

他の血液検査:

珍しい血液疾患の有無を判定する専門的な血液検査が利用できます。たとえば、ごくまれに、血液の全容積や特定の血球の総数を測定しなければならないことがあります。これらの測定は、放射性同位元素を血液中で混ぜたり血球に結合させたりして行います。

 

血液型検査:

血液型は赤血球表面にある特定のタンパク質によって決まり、少量の血液を採取して、特定の抗体に対する反応を調べることで判定できます。血液型検査では、血漿と赤血球の両方を調べる必要があります。輸血をする際には、事前に必ず血液型検査が必要です。

 

骨髄検査

ときには、血球が異常となった原因や、ある種の血球が少な過ぎたり、多過ぎする原因を特定するために、骨髄サンプルを調べなければならないことがあります。骨髄サンプルを採取するには、骨髄液を吸引する骨髄穿刺(こつずいせんし)という方法と、太い針で少量の骨髄組織を採取する骨髄生検という方法の2つを用いることができます。骨髄穿刺ではまれに胸骨から採取することがありますが、いずれの方法も、骨盤の骨(腸骨稜)から採取するのが一般的です。また、幼い子供では、すねの骨(脛骨)から骨髄サンプルを採取することもあります。

 

 

骨髄サンプル採取

骨髄サンプルは、一般に骨盤にある腸骨稜(ちょうこつりょう)という部分から採取されます。患者は医師に背を向けて横になり、上になった脚の膝を曲げます。医師は、採取する部分の皮膚と骨の上の組織の感覚を局所麻酔により麻痺させてから、骨に針を刺して骨髄を吸引します。

 

 

骨髄穿刺と骨髄生検の両方が必要な場合は、一度に採取が行われます。医師は、皮膚と骨の上の組織を局所麻酔で麻痺させた後、注射器の針を骨に刺します。骨髄穿刺の場合は、注射器のピストンを引いて軟らかい骨髄組織を少量採取し、これをスライド上に広げて顕微鏡で調べます。採取したサンプルを使用して、細菌、真菌、ウイルスなどの培養や、染色体分析、細胞表面のタンパク質の分析(フローサイトメトリー)などの特殊な検査を行うこともあります。診断を下すために必要な情報は、骨髄穿刺だけで十分に得られることが多いのですが、骨髄液を注射器に吸いこむ過程で、壊れやすい骨髄組織が破壊されてしまいます。そのため、骨髄細胞が骨髄中でどのように配列していたか調べるのが困難になります。

そこで、骨髄細胞の正確な解剖学的関係と組織の構造を調べる必要がある場合は、骨髄生検も行われます。この骨髄生検では、中空の針を使って骨髄組織の小片がそのまま取り出されます。この組織片は保存され、後で薄い切片にされてから顕微鏡で調べられます。

骨髄サンプルの採取では、一般に軽い痛みが一瞬だけあり、その後にごくわずかだけ不快感を覚えます。この処置にかかる時間は数分です。

 

 

 


強皮症

 

 強皮症とは、皮膚が硬くなること症状を代表とする病気のことです。  強皮症には限局性強皮症と全身性強皮症があり、前者が皮膚とその下部の筋肉のみをおかすのにたいして、後者は皮膚だけでなく内臓にも変化をともなう病気です。

 代表的な症状は皮膚症状、関節症状、間質性肺炎、肺線維症、肺高血圧症、消化管障害、腎クリーゼがあります。

 

 強皮症の原因はまだはっきりとわかっていません。現在では生まれながらの遺伝的な要因のほかに、環境要因も関わっているとされています。強皮症と診断される患者の半数以上が皮膚症状を起こしています。その症状はレイノー現象といわれるものです。レイノー現象とは寒冷刺激や精神的緊張を原因とする皮膚の色が変化する現象で、典型的には白→紫→赤の3段階、白→紫や白→赤の2段階に変化します。関節症状は関節の可動域が制限される症状です。また、関節痛といった痛みを伴なうこともあります。強皮症では約半数が肺の間質に炎症や線維化を生じ、間質性肺炎や肺線維症になることもあります。せきや息切れがひどくなり、場合によっては酸素吸入を必要とすることもあります。肺高血圧症は肺動脈の圧が過剰に上昇する状態のことを指します。自覚症状はなく、症状が進行すると息切れや呼吸困難、場合によっては突然死につながるおそれもあります。消化管障害は比較的多くが食道に認められます。自覚症状としては、食べたものが胸につっかえる、胸焼けがひどいなどといったものがあります。

 

 治療法は症状によって、強皮症そのものの自然経過を変える疾患修飾療法か病気によって起こった症状を和らげる対症療法を行います。疾患修飾療法は全患者数の半数以下とされ、多い数字ではありません。薬は副腎皮質ステロイド薬、免疫抑制薬などが用いられます。対症療法では、レイノー現象に対する血管拡張薬、関節痛に対する鎮痛薬、肺高血圧症に対する肺血管拡張薬、逆流性食道炎に対する制酸剤、腎クリーゼに対するACE阻害薬を使用して経過をみます。

 

 

 

 

シェーグレン症候群

 

シェーグレン症候群は、眼、口、その他の部位の粘膜が異常に乾燥することが特徴の病気です。

白血球が体液を分泌する腺に侵入して、損傷を与えるほか、ときにはそれ以外の器官に損傷が及ぶ場合もあります。

 

疾患で、ドライアイやドライマウスなどの、全身性の乾燥状態が起こります。涙腺や唾液腺に症状が出ることが多く、目が重たい感じがする、かゆみや涙の出にくさ、口の渇きといった不快感を覚えます。全身の分泌腺が侵されるため、発熱や疲労感という症状で表れることもあります。シェーグレン症候群には、他の疾患の合併症を伴わない原発性と、伴う続発性があります。続発性は関節リウマチなど、他の自己免疫疾患の発病も同時に起こります。

 

シェーグレン症候群は、免疫が自分の体内に対して反応する自己免疫疾患です。

この病気にかかるのは圧倒的に女性が多く、40代から50代と閉経の時期に発病がよく見られるため、女性ホルモンの量が関係している可能性も探られています。1つの要因だけが理由ではなく、複数の要因が複雑に絡み合って、この病気になると推察されています。

 

治療

一般的に予後は良好です。しかし、抗体によって肺、腎臓またはリンパ節が損傷を受けると、肺炎、腎不全、リンパ腫などが発生する場合があります。

シェーグレン症候群を治癒させる方法はありませんが、症状の軽減は可能です。眼の乾燥(ドライアイ)には、日中は人工涙液を点眼し、夜間は潤滑剤入りの軟膏を使用することで対処します。シクロスポリンを含有した処方点眼薬を使用することもあります。また眼鏡の横にカバーをつけることで、眼を空気や風から保護し、涙の蒸発を減らすことも有用です。涙点閉鎖術と呼ばれる簡単な手術を行うこともあります。この手術では、眼科医が下側のまぶたの端の方にある涙管に小さな栓を挿入しますが、これにより、涙を眼球の周辺に長時間とどめておくことが可能になります。

口の乾燥には、水分を少量ずつ持続的に補給したり、シュガーレスのガムをかんだり、唾液の代用となるうがい薬を使用したりすることで対処します。充血除去薬、抗うつ薬、抗ヒスタミン薬などの唾液の分泌量を減少させる薬剤は、口の乾燥を悪化させる可能性があるため、使用を避けるべきです。唾液腺の異常がそれほど重くない場合は、ピロカルピンやセビメリンといった薬剤が唾液の分泌を刺激するのに役立つことがあります。

口の中の衛生に注意を払い、歯科に頻繁に通うことで、むし歯や歯の喪失を予防することができます。唾液腺の痛みや腫れには、鎮痛薬や温湿布を使用することで対処できます。関節の症状は、通常は軽症であるため、多くの場合、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)を使用して安静にしておくだけで十分な治療となります。抗マラリア薬(ヒドロキシクロロキンなど)は、関節痛、リンパ節の腫れ、皮膚の症状などを軽減します。ごくまれに、メトトレキサートが投与されることもあります。内臓の損傷に起因した症状が重度の場合には、コルチコステロイド薬(プレドニゾロンなど)やシクロホスファミドの経口投与が有用です。

その他の自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、全身性強皮症など)を伴って発生するシェーグレン症候群は、二次性シェーグレン症候群と呼ばれます。二次性シェーグレン症候群では、以上の治療に加えて、併発した病気に対する治療も行われます。

 

 

多発性筋炎

 

多発性筋炎は筋肉になんらかの障害が発生し、疲れやすくなったり力が入らなくなったりといった症状(筋力低下)が数週間から数ヵ月にわたって進行する疾患です。

下肢筋力の低下が多く見られ、歩行や階段の昇降に困難を生じ、座った状態から立ち上がるのさえ覚束なくなることもあります。喉の筋肉が弱まれば嚥下困難による誤嚥や窒息死といったリスクも生じます。全身の症状としては発熱・倦怠感・食欲不振・体重減少などが挙げられます。

 

この病気は、膠原病と呼ばれる病気に含まれます。膠原病には、多発性筋炎・皮膚筋炎以外に、関節リウマチ全身性エリテマトーデス、強皮症、結節性多発動脈炎などの血管炎やリウマチ熱が含まれます。

 

 合併しやすい病気のうち特に注意しなくてはならないのは、間質性肺炎と悪性腫瘍です。間質性肺炎は普通の肺炎と異なり、最近やウイルスなどが原因ではなく、前述の自己免疫が患者さん自身の肺を攻撃する場合に起こります。特に喉の痛みや痰などがないのに頑固に咳が出たり、運動時の息切れなどの症状となります。特に、筋炎症状は乏しいのに皮膚症状が強い皮膚筋炎に合併する場合は、急速に間質性肺炎が進行する場合がありますので、出来るだけ早く治療しなくてはなりません。

 

多発性筋炎では、症状はどの年齢層でも同じですが、成人より小児の方が急激に発症します。症状は感染症にかかっているときや感染症が治った直後に発症することがあり、左右対称の筋力低下(特に上腕、殿部、大腿部)、関節痛(筋肉痛はほとんどみられない場合が多い)、嚥下困難、発熱、疲労、体重減少などがみられます。多発筋炎の患者が他の結合組織病を伴う場合は、レイノー症候群(手の指が突然青白くなってピリピリしたり、寒冷や感情的な動揺に対する反応としてしびれが生じたりする現象がよくみられます。

筋力低下は、徐々に発症する場合もあれば、突然現れる場合もあり、数週間から数カ月かけて悪化することがあります。体の中心に近い側の筋肉が最も障害を受けやすいため、腕を肩より上へ上げる、階段を上る、いすから立ち上がるなどの動作が困難になります。首の筋肉がおかされた場合には、頭を枕からもち上げることさえできなくなります。また肩や殿部の筋力が低下した場合には、車いすの使用やベッド上での生活を強いられることがあります。食道の上部の筋肉が損傷を受けた場合には、嚥下困難や食べ物の逆流が起きたりします。一方、手、足、顔の筋肉がおかされることはありません。

患者の約30%では、関節の痛みと炎症がみられます。痛みと腫れの多くは軽い傾向があります。

通常、多発筋炎ではのどや食道以外の内臓は冒されません。しかし肺と心臓はおかされることがあり、息切れやせきなどの症状がみられます。

 

治療

 薬物療法が中心です。

日常生活では、治療開始時は安静が必要ですが、回復が始まってからはリハビリも必要です。しかし、過度の運動は筋障害を悪化させる可能性もあり一定の見解はありません。治療により筋炎が収まってきたら疲れない程度に運動をするのが良いようです。食事は、バランス良く栄養をとることを心がけるべきですが、薬の副作用による食欲亢進に任せることは避けるべきです。皮膚症状には、日光などの紫外線あたることを最小限にするようにします。  薬物は、主に副腎皮質ステロイド薬(ステロイド)が使用されます。一般に高用量ステロイド療法(体重1kgあたりプレドニゾロン換算で1mg/日)が4週間程度行われ、検査所見や皮膚所見、筋力回復をみて有効な場合には減量し、数カ月かけて維持量にまで減量されるのが典型的です。重症例には、メチルプレドニゾロン0.5ないし1mgの点滴静注を3日間行うステロイドパルス療法を併用することもあります。  ステロイドは、副腎皮質から分泌されるホルモンで、薬剤はこれに似た効果のあるものを化学合成したものです。健常人では、一日にプレドニゾロン換算で2-5mgのステロイドが分泌されています。本来の役割は、身体に対するストレスに対する抵抗力を与えるホルモンです。第二次世界大戦中にドイツで兵士が過酷な状況(ストレス)に耐えられるようになる薬として開発されていたそうです。実は、炎症もストレス反応のひとつなのでステロイドを服用すると炎症が抑えられるわけです。  しかし、これを沢山しかも長期間服用していると様々なことを引き起こすことがわかりました。免疫力低下(易感染性)、糖尿病、胃潰瘍、精神変調、筋萎縮(ステロイド筋症)、白内障や緑内障、血栓症、骨粗鬆症、食欲亢進などです。このうち、免疫力を低下させる作用は、免疫力が過剰なために自己免疫が起きてしまっている多発性筋炎・皮膚筋炎の治療には好都合です。高用量ステロイド療法は、炎症を収め、しかも原因となる免疫力も抑える作用もあります。  ステロイドは、初めは治療効果を重視して1日3分割服用とし、減量中は副作用軽減を目的として朝に多くなるように工夫します。急速に減量すると再燃をおこすことがあります。一般に、筋力の回復は発病後間もなく筋力低下の強くない方ほど良好です。  しかし、ステロイド療法が無効の場合、減量によって再燃が認められる場合、前述のステロイドのさまざまな作用が副作用として問題になってしまう場合などには、ステロイドを減量して免疫抑制薬を併用します。ステロイドは、ステロイド筋症を起こすので、治療による筋力回復とは逆に働きます。その他にも様々な副作用が必発のため、ステロイドの使用量を減らすためにも免疫抑制薬が併用されています。  現在、保険で認可されている免疫抑制薬は、アザチオプリン(イムラン、アザニン)、シクロフォスファミド(エンドキサン)のみです。保険適用外ながら、代わってよく使われているのは、メトトレキサートやシクロスポリンA(ネオーラル)、タクロリムス(プログラフ)です。海外では、ミコフェノレートも用いられます。ただし、メトトレキサートは、副作用として間質性肺炎を起こすことがあるので、元々、間質性肺炎を合併している症例では使用しません。

 

 ほかの治療法に、免疫グロブリン大量静注療法があります。ステロイド抵抗性の症例に保険適用のあるこの治療法によって、急激に筋炎を改善させることができる場合があります。

 合併症で急速進行性の間質性肺炎がある場合には、初期治療からステロイドに加えて免疫抑制薬を併用することが必要です。この場合は、タクロリムスないしシクロスポリンAが使用され、必要に応じてシクロフォスファミドも併用されます。悪性腫瘍が合併する場合、悪性腫瘍が存在する限り筋や皮膚症状が改善しにくく、その改善のためには積極的に悪性腫瘍の治療を進めなくてはなりません。

 ステロイド療法は、9割以上の症例で効果を示しますが、大多数が日常生活に復帰します。しかし、4割の症例で免疫抑制薬も併用されています。  生命が危機に瀕するのは、間質性肺炎や悪性腫瘍の合併例です。特に急速進行性間質性肺炎では、ステロイド治療と積極的な免疫抑制薬併用が救命できる可能性のある唯一の治療法と考えられています。

 

リウマチ性多発筋痛

 

リウマチ性多発筋痛では、関節の内側に炎症を起こし、首、肩、殿部の筋肉に激しい痛みとこわばりを生じます。

原因は不明です。

首、肩関節、股関節にこわばりと痛みを感じます。

血液検査や、ときには筋肉の生検が診断に役立ちます。

コルチコステロイド薬であるプレドニゾロンは、多くの患者を劇的に改善します。

リウマチ性多発筋痛は55歳以上の人に発生します。原因は不明です。巨細胞性(側頭)動脈炎が、リウマチ性多発筋痛とともに起こることがあります。専門家の中にはこの2つの病気は、同じ異常の変異型だと考える人たちもいます。

 

症状

このような症状は、突然現れることもあれば、徐々に出てくることもあります。首、肩関節、股関節部に激しい痛みとこわばりが生じます。こわばりは、朝や、しばらく動かさなかった後に強く感じられます。けれども、筋肉に損傷はなく筋力低下もしていません。また、発熱がみられたり、全身状態が優れなかったり、抑うつ状態にあったりし、意図していないのに体重が減るなどの症状がみられます。

一部のリウマチ性多発筋痛の患者には巨細胞性動脈炎の症状もあり、失明につながることがあります。軽度の関節炎を伴うことがありますが、その関節炎が重度、あるいは関節炎が主な症状である場合は、診断は関節リウマチの可能性が高くなります。

 

診断

診断は症状や、身体診察、血液検査の結果に基づいて行われます。血液検査には通常、以下の項目が含まれます。

赤血球沈降速度(ESR)、C反応性タンパク質(CRP)、またはその両方

 

リウマチ性多発筋痛の患者では通常、どちらの検査値も非常に高く、活動性炎症があることが示されます。

 

血球算定:

貧血の有無を調べます。

 

甲状腺刺激ホルモン:

筋力低下やときには肩関節や股関節の痛みを生じることのある甲状腺機能低下症の可能性を打ち消すために検査します。

 

クレアチンキナーゼ:

肩や殿部の筋力低下や痛みを生じることのある筋肉組織の損傷(ミオパチー)の有無を調べます。

 

リウマチ因子:

この抗体は関節リウマチの患者には生じますが、リウマチ性多発筋痛の患者には生じません。この検査は両者の区別に役立ちます。

診断が確定できない場合、筋肉組織の検体を採取して顕微鏡で調べる(生検)か、筋電図検査(脳、脊髄、神経の病気の診断: 筋電図検査と神経伝導検査を参照)で筋肉の症状を起こしている部位を突き止めることがあります。リウマチ性多発筋痛の患者は、これらの試験結果は正常です。

 

治療

通常、コルチコステロイド薬であるプレドニゾロンを低用量投与すると、劇的な改善がみられます。巨細胞性動脈炎を併発している場合には、失明のリスクを減らすために高用量のステロイド薬が必要です。症状が治まれば投与量を徐々に減らして、効果が得られる最小限の用量にします。多くの患者は1~4年間でプレドニゾロンの服用を中止できますが、一部の患者はさらに長期にわたって低用量のプレドニゾロンの服用が必要になることがあります。

アスピリンやその他の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)は、痛みの軽減に役立ちますが、通常はプレドニゾロンほど効果はありません。

 

 

加齢による影響

巨細胞性(側頭)動脈炎とリウマチ性多発筋痛はしばしば合併し、ほぼ例外なく55歳以上の人に発生します。これらの病気は高齢になるにつれて多くみられます。80歳以上の人では50~59歳の人に比べて10倍多くみられます。

巨細胞性動脈炎では、典型的に、ズキズキする頭痛と視覚の問題(眼の中や周囲の痛みを含む)が生じます。リウマチ性多発筋痛は、筋肉に痛みやこわばりが生じます。治療をしないと、これらの病気による痛みは、合併しているか単独であるかにかかわらず、日常生活をつらく困難なものにします。また、すぐに治療しない場合、巨細胞性動脈炎により失明することがあります。

これらの病気の主な治療法であるコルチコステロイド薬の投与は、高齢者に問題を起こす場合があります。コルチコステロイド薬は劇的な改善をもたらし、失明の予防に不可欠です。しかし、高齢者では副作用がより多くみられます。患者は体液がたまったり、食欲が増加したり、錯乱を起こしたりすることがあります。血糖値が上昇し、ときに糖尿病を引き起こし、骨密度が減少することがあります。血圧が上昇することもあります。これらの副作用のリスクを減らすために、医師はコルチコステロイド薬の用量を減らし、できるだけ早くその投与を中止します。

コルチコステロイド薬を服用する高齢者は、骨密度の維持に役立つことを実行するように奨励されます。体重負荷がかかる運動を実施し、カルシウムとビタミンDのサプリメントを服用します。ビスホスホネート製剤(たとえば、アレンドロン酸またはリセドロン酸など)の服用は、骨密度の増加に役立ちます。

指示された治療を忠実に継続すると、結果的に多くの人が完治します。

 

 

 

 

皮膚筋炎

 

手指の関節背側の表面ががさがさとして盛り上がった紅斑(ゴットロン丘疹)、肘関節や膝関節外側のがさがさした紅斑(ゴットロン徴候)、上眼瞼の腫れぼったい紅斑(ヘリオトロープ疹)などの特徴的な皮膚症状がある場合は皮膚筋炎と呼ばれます。

 

皮膚筋炎は、筋肉に炎症が起こり、筋力低下などの症状をきたす疾患です。代表的な全身症状として、倦怠感や疲労感、食欲不振があり、場合によっては発熱を生じることがあります。ただ、筋症状がなく皮膚症状のみを生じる無筋炎性皮膚筋炎である患者も散見されます。筋症状はゆっくりと進行し、体の中心に近い部分から現れてくる傾向があります。腕や太ももの筋力低下により日常生活に支障をきたしたり、喉の筋力低下により嚥下障害を生じて肺炎を繰り返したりすることも少なくありません。

 

皮膚筋炎は膠原病の一種で、自分の免疫が自らの臓器を標的とする自己免疫疾患であることが明らかになっています。ただし、何故このような状態になってしまうのかははっきりと解明されておらず、先天的な体質や感染症により発症する可能性が考えられています。皮膚筋炎は遺伝による疾患ではありませんが、自己免疫を起こしやすい体質は遺伝する可能性があるとされています。そのため、家族内で同様の筋力低下が見られる場合には、筋ジストロフィーなどの遺伝性疾患が疑われることになります。

 

治療

皮膚筋炎では薬物療法を中心に行います。使用される薬剤は副腎皮質ステロイト薬が代表的で、一般的に高用量ステロイド療法を2週間から4週間行います。その後治療効果を確認し、効果が見られればステロイドの量を減量していきます。また、重症例に対してはステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン0.5mgまたは1mgの点滴静注を3日間続けて投与)が行われることもあります。ただし、ステロイドは高頻度で副作用を生じるため、ステロイドの使用量を減らすために免疫抑制薬を併用する場合がほとんどです。

 

 悪性腫瘍(癌など)は、特に皮膚筋炎で合併しやすいものです。

多発性筋炎・皮膚筋炎を発症し、治療してから、見つかることもありますので、治療開始時とその後2年間は癌の有無をよく調べる必要があります。

 

皮膚筋炎では、多発筋炎のすべての症状がみられます。加えて筋力低下や他の症状の発症と同時に皮疹が出現する傾向があります。顔面に暗い赤から紫調の色をした発疹(ヘリオトロープ発疹)がみられ、さらに眼の周辺に赤みがかった紫色の腫脹を伴うことがあります。さらに、うろこ状のもの、滑らかなもの、隆起したものなど別の発疹がみられることもあり、これらは全身のほぼすべての部位に現れる可能性がありますが、特に指の関節や手の側面に多くみられます。爪床(爪の下の皮膚)が赤くなることもあります。発疹が消失した後には、茶色の色素沈着、瘢痕、しわ、色素が抜けた色の薄い斑点などが現れることがあります。

 

多発筋炎と癌を併発している患者では、一般にプレドニゾロンはあまり奏効しません。しかし、癌に対する治療が成功すれば、症状の重症度は軽減するのが通常です。

 

指尖にひび割れを伴うような痛みのある皮疹には、テープ薬により皮膚保護を兼ねることも出来ます。それでも効かない場合には、保険適用外ながらタクロリムス(プロトピック)軟膏が試されます。

 

混合性結合組織病(MCTD)

 

混合性結合組織病とは、一部の医師が使う用語で全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、多発筋炎の特性を合わせ持つことが特徴の病気を指しています。

レイノー症候群、関節痛、さまざまな皮膚の異常、筋力低下、各種の内臓の問題などが発症します。

通常は血液中に特徴的な異常抗体が検出されます。

治療法は全身性エリテマトーデスの治療と同様で、しばしばコルチコステロイド薬が使用されます。

この病気の患者の約80%は女性です。混合性結合組織病の発症年齢は5~80歳と多様です。原因は不明ですが、自己免疫疾患と考えられています。

 

症状

典型的な症状は、レイノー症候群(手の指が突然青白くなってチクチクしたり、寒冷や感情的な動揺に対する反応としてしびれや皮膚の蒼白がみられたりします、関節の炎症(関節炎)、手の腫れ、筋力低下、嚥下困難、胸やけ、息切れがあります。レイノー症候群は、その他の症状がみられる何年も前から先行することがあります。どのように始まるかとは関係なく、この病気が悪化していき、症状が体の数カ所に広がっていく傾向があります。

手の腫れは高い頻度で認められ、手指がソーセージのように腫れ上がります。両側のほおと鼻にまたがる紫がかった色の蝶のような形をした皮疹(蝶形紅斑)、指の関節にできる赤い斑点、まぶたの紫色の変色、顔や手の赤いくも状静脈などがみられることもあります。全身性強皮症に類似した皮膚の変化がみられることもあります。髪の毛が薄くなる場合もあります。

混合性結合組織病では、ほぼすべての患者が関節にうずくような痛みを感じます。患者の約75%では、関節の炎症(関節炎)に特徴的な腫れと痛みがみられます。混合性結合組織病では筋肉の線維に損傷が起きるため、筋力の低下や筋肉の痛みを感じることがあり、特に肩や殿部で顕著となります。腕を肩より上に上げる、階段を上る、いすから立ち上がるなどの動作が非常に困難となる場合があります。

肺の中や周囲に液体が貯まることもあります。一部の患者では、運動時に息切れを起こすなど、肺機能の異常が最も深刻な症状となる場合もあります。

ときには心臓の力が弱くなり、心不全に至ることもあります。心不全の症状としては、体液の貯留によるむくみ、息切れ、疲労などがあります。腎臓や神経がおかされる患者の割合は10%と少なく、発生した場合にも全身性エリテマトーデスによる障害と比べれば軽いものとなるのが通常です。その他の症状としては、発熱、リンパ節の腫れ、腹痛、持続するしわがれ声などがみられます。シェーグレン症候群を併発することもあります。時間の経過につれて、大部分の患者は全身性エリテマトーデスか全身性強皮症の典型的な症状が出現するようになります。

 

診断

全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、多発筋炎または関節リウマチでみられる症状が重複している場合に混合性結合組織病が疑われます。

血液検査を行って、混合性結合組織病患者のほとんどで認められるリボ核タンパクに対する抗体の有無を調べます。この抗体の量が多く、なおかつ全身性エリテマトーデス患者で認められるその他の抗体が検出されないことが、混合性結合組織病の特徴です。

 

予後(経過の見通し)

混合性結合組織病は、治療を受けたとしても患者の約13%では病気が進行して、6~12年のうちに致死的な合併症を起こす可能性があります。全身性強皮症や多発筋炎の主要な特徴が認められる場合には、予後は悪くなります。全患者の80%が診断後10年以上生存します。コルチコステロイド薬による継続的な治療をほとんどしないか、まったく行わなくとも、何年間にもわたって無症状の状態が続く場合もあります。

 

治療

治療法は全身性エリテマトーデスの場合と同様です。通常はコルチコステロイド薬が有効で、早期に診断された場合には特に有効です。軽症の場合は、アスピリンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、ヒドロキシクロロキンやその類似薬、きわめて低用量のコルチコステロイド薬などが使用されます。より重症になるほど、より高用量のコルチコステロイド薬が必要となります。重症例では、さらに免疫抑制薬(アザチオプリン、メトトレキサート、シクロホスファミドなど)も必要になるでしょう。

一般に、病気が進行するほど、器官の損傷が大きくなるほど、治療の効果は低くなります。全身性強皮症に類似した皮膚や食道の組織の損傷には、治療に反応することはほとんど期待できません。

 

 

好酸球性筋膜炎

 

好酸球性筋膜炎は、腕や脚の皮膚に痛みを伴う炎症と腫れが起き、その部位の皮膚が次第に硬くなっていく、まれな病気です。

 

好酸球性筋膜炎は極めてまれな病気で、血液中に好酸球という白血球の一種が増加する病気です。初期症状としては、皮膚の傷みや腫れ・炎症などがあります。発生部位は、腕の内側や脚の前面です。この症状は激しい運動の後に発生することが多く、進行は徐々に進みます。症状が進むと炎症が進行し、オレンジの皮のような手触りとなります。更に悪化すると皮膚の表面が硬くなり、腕や脚を動かすことが辛くなります。血液中の赤血球と血小板の減少により、疲労感や出血傾向もみられます。

 

通常の初期症状は、皮膚の痛み、腫れ、炎症であり、特に腕の内側や脚の前面に多くみられます。ときに顔面、胸部、腹部の皮膚がおかされることもあります。全身性強皮症とは対照的に、足や手の皮膚には異常はなく、レイノー症候群もみられません。

 

激しい運動を行った後に最初の症状に気づくことがあります。症状は通常、徐々に進行していきます。数週間後には、炎症を起こした皮膚が硬くなりはじめ、最終的にはオレンジの皮のような感触になります。

皮膚が徐々に硬くなっていくにつれて、腕や脚が動かしにくくなります。やがては、腕や脚が異常な姿勢で動かせなくなってしまうこともあります。体重減少や疲労がよくみられます。筋力の低下は通常みられませんが、筋肉痛や関節痛が起こる場合があります。まれですが、腕がおかされた場合には、手根管症候群を発症することもあります。

ときに血液中の赤血球と血小板の数が著しく減少することがあり、疲労を感じやすくなったり、出血が起きやすくなる傾向が現れます。

 

好酸球性筋膜炎の原因は長年の間不明とされていて、難病指定にもされていました。免疫過剰反応と炎症性と炎症性サイトカインの関与が推測されると同時に、薬剤起因、感染症、血液疾患、悪性腫瘍、自己免疫疾患などの影響も考えられていました。しかし、最近の研究により、自己免疫疾患に起因していることが判明し、特にリンパ球の関与率が高いことも判明しています。よって、体内のリンパ球を制御することが治療のポイントになることもわかっています。

 

治療

長期的な展望は予測できません。

大半の患者は、高用量のコルチコステロイド薬に直ちに反応します。組織の瘢痕化、萎縮、拘縮などを予防するため、治療はできるだけ早く開始するべきです。コルチコステロイド薬で組織の萎縮や瘢痕化を回復させることはできません。コルチコステロイド薬の用量は徐々に減量できますが、2~5年間にわたる低用量での継続投与が必要になることがあります。

コルチコステロイド薬を使用できない患者やコルチコステロイド薬で十分な反応が得られない患者には、その他の薬剤(ヒドロキシクロロキンやシクロスポリンなど)を使用できます。

一部の患者は別の血液疾患を併発することがあるため、血液検査による経過観察が推奨されます。

 

 

マクログロブリン血症

 

マクログロブリン血症(ワルデンストローム・マクログロブリン血症)は形質細胞腫瘍の1つで、単クローン性の形質細胞により、マクログロブリンと呼ばれる特定の大型の抗体(IgM)が過剰に産生されます。

多くの場合、症状はみられませんが、異常な出血、繰り返し発生する細菌感染、重度の骨粗しょう症による骨折などがみられることもあります。

診断を下すには血液検査が必要になります。

マクログロブリン血症は治癒が望める病気ではありませんが、化学療法薬によって進行を遅らせることは可能です。

男性は女性よりもマクログロブリン血症を発症しやすく、発症の平均年齢は65歳です。この病気の原因は明らかになっていません。

 

症状と合併症

マクログロブリン血症の多くは症状がみられず、通常の血液検査でタンパク質の値の上昇から偶然発見されます。それ以外では、大量のマクログロブリンにより血液が濃くなり(過粘稠度症候群)、皮膚、手足の指、鼻、脳への血流が妨げられることが原因となって症状が現れることもあります。このような症状としては、皮膚や粘膜(口、鼻、消化管の内膜など)からの出血、疲労感、脱力感、頭痛、意識障害、めまいなどがあり、昏睡状態になることもあります。血液の粘度が高くなると、心臓の状態が悪化したり、脳内の圧力が高くなったりすることがあります。眼の奥の毛細血管が充血するようになる可能性があり、そこから出血することで網膜が損傷して視力が損なわれることがあります。

癌化した形質細胞の浸潤によってリンパ節が腫れたり、肝臓や脾臓が腫大したりすることもあります。正常な抗体が十分に産生されないことが原因となって細菌感染が繰り返し発生し、発熱や悪寒が現れることがあります。癌化した形質細胞によって骨髄における正常な造血細胞の産生が妨げられると、貧血となり、脱力感や疲労感が生じる場合があります。癌化した形質細胞が骨に浸潤すると、骨密度が減少する場合(骨粗しょう症)があり、そのため骨が弱くなって骨折のリスクが高まる可能性があります。

 

診断

マクログロブリン血症が疑われる場合は、血液検査を行います。最も有用な検査は、血清タンパク質電気泳動法、免疫グロブリン定量、免疫電気泳動法の3つです。

医師は、同様に別の検査を行うことがあります。たとえば、血液を採取して、赤血球、白血球、血小板の数が正常かどうか調べる場合があります。さらに、血清粘稠度(ねんちょうど)という血液の濃さを調べる検査もよく行われます。血液凝固検査の結果が異常になる場合があり、他の検査でクリオグロブリンが検出されることもあります。尿検査で、ベンス・ジョーンズタンパク(異常な抗体の断片)が認められることもあります。骨髄生検により、リンパ球や形質細胞の増加が明らかになる場合があり、これがマクログロブリン血症の診断確定に役立ちますし、これらの細胞の形態を調べることは、マクログロブリン血症と多発性骨髄腫との鑑別に有用です。

X線検査によって、骨密度の減少(骨粗しょう症)が判明することがあります。CT(コンピュータ断層撮影)検査によって、脾臓、肝臓、リンパ節などが腫大していることが明らかになるでしょう。

 

治療と予後

通常はクロラムブシルやフルダラビンという薬を使用する化学療法によって、異常な形質細胞の増殖を遅らせることができますが、マクログロブリン血症が治癒するわけではありません。

メルファランやシクロホスファミドといった薬剤を単独で使用したり、併用したりすることもあります。異なった働きをする化学療法薬が有用なことがあります。リツキシマブというモノクローナル抗体は、異常な形質細胞の増殖を遅らせる効果があります。サリドマイドとそれより新しいレナリドミドの他に、ボルテゾミブも使用されており、特にコルチコステロイド薬と併用した場合は、一部に成功例もみられます。

血液の粘度が高くなっている場合は、ただちに血漿交換(血液を体の外に取り出して異常な抗体を除去したのち、赤血球を体内に戻す治療法)を行う必要があります。ただし、マクログロブリン血症では、この処置が必要な人は少数です。

マクログロブリン血症では、まだ治癒が望める状況ではありませんが、ほとんどの例で生存期間が5年を上回っています。

 

 

ADH分泌異常症

 

ADH分泌異常症は、下垂体から分泌されるADHというホルモンに異常が生じさまざまな身体的症状が出る病気です。AHDホルモンが異常に多くなる場合と、少なくなる場合で症状が異なります。多い場合は、尿量が減少し低ナトリウム血症を引き起こし、倦怠感や脱力感を覚えますが、症状が軽いため気づかない人もいます。逆に少ない場合は尿量が増加し、喉が渇くようになります。水分の大量摂取により食欲低下・体重低下が起こる可能性も有ります。

 

ADH分泌異常症の原因は3つに分類されます。

1つ目は、脳腫瘍や外傷が発端となって発症する場合で、続発性といわれています。

2つ目は遺伝的な問題で、家族に患者がいた場合に遺伝する場合で、家族性と呼ばれています。

3つ目は原因不明な場合で突発性と呼ばれています。

 

患者の割合としては続発性が80%から90%程度、原因不明が10%から20%程度、家族性が1%程度といわれています。一般的には、脳梗塞・肺炎・気管支喘息・肺がんなどの病気とともに併発することが多いです。

 

ADH分泌異常症の診断は医師の問診にて、口渇や多飲、多尿について問われます。一方、尿量のチェックが行われると同時に尿検査も行われます。尿量については1日3000ミリリットル以上であると本疾患が疑われ、尿浸透圧値も確認されます。更には血液検査を行うことで、血清ナトリウム濃度をチェックし診断を確定します。場合によっては、水制限試験を行う場合もあり、その場合は6時間程度水を飲むことを禁止され、その時の尿量、尿浸透圧、血漿浸透圧、血漿AVPを30分から1時間おきに確認します。

 

ADH分泌異常症の治療は、薬物療法が行われます。中枢性尿崩症の場合、デスモプレシンという薬剤を鼻から噴射して摂取します。デスモプレシンという薬剤も水中毒対策として併用されることがあります。SIADHの場合は、水制限が基本治療になります。1日に飲める水の量を800ミリリットルにまで制限を行います。治療中の血清ナトリウム濃度の低下が著しく、意識レベルが低下する場合には、高張食塩水の点滴が行われます。症状に応じて薬の量を慎重に調整するため薬の服用量は医師の指示に従う必要があります。

 

 

 

 

 

 

下垂体性TSH分泌異常症

 

下垂体性TSH分泌異常症は、TSHにて甲状腺が刺激されて甲状腺ホルモンが増加することによって、動悸や脈拍が早くなるなどの症状や発汗量が増えるなどの症状が発生します。

体重の減少や、イライラしてしまう、四肢の手指が震えるなどの症状がでることもあります。

下垂体にできた腫瘍が大きい場合は、視野の一部が欠けてしまい視力への影響が出たり、頭痛が発生したりする場合もあります。さらには、TSH以外の下垂体前葉ホルモンの分泌量が低下することで、全身の倦怠感を覚えることもあります。

 

下垂体性TSH分泌異常症の原因は残念ながらほとんどわかっていません。しかし、最近の研究では、一部のTSH産生下垂体腫瘍が多発性内分泌腫瘍症1型の一症状として見られることがあり、そのことから遺伝子の異常が原因になっていることが推測され始めています。また、甲状腺ホルモン受容体ベータ遺伝子の体細胞変異が起こり、甲状腺ホルモンに対する抵抗性や腫瘍発生の原因になっている可能性についても着目され始めています。その他の遺伝子も検査して研究中ですが、未だ原因となる遺伝子は特定できていません。

 

医師との問診にて、下垂体性TSH分泌異常症の可能性が認められると、ホルモン検査にて下垂体ホルモン値の測定を行います。次に下垂体ホルモン分泌刺激試験を行い、下垂体ホルモンに反応が無ければ、下垂体機能低下症との診断になります。また、血中プロラクチン値が高くなっていないかも確認されます。さらに、下垂体やその周囲の腫瘍の有無を確認するために、頭部のCTスキャン検査やMRIスキャン検査なども行われます。

 

下垂体性TSH分泌異常症のほとんどの症例では、大きな腫瘍があるため、外科的手術にて腫瘍の切除が行われます。何らかの要因にて外科的手術が困難である場合は、ガンマナイフと呼ばれる放射線治療を行います。この手法は、外科的手術で取り切れなかった腫瘍を取る際にも使用されます。これらの治療にて、改善効果が不十分である場合には、ドーパミン作動薬、ソマトスタチンアナログ製剤などの薬物療法が採られます。特にソマトスタチンアナログ製剤は、腫瘍縮小効果が期待できるため、手術前に使用されることもあります。

 

 

クッシング病

 

クッシング病では、糖質ステロイドホルモンの1つであるコルチゾールの過剰分泌が起こるため、次第に下肢や前腕の皮膚が薄くなり、毛細血管が透けてピンクのまだら模様が見えるようになります。

また、特徴的な症状として手足は痩せているのにお腹が出てくる、満月様顔貌、赤ら顔、肩への脂肪の沈着が見られます。さらに合併症として高血圧や糖尿病などの生活習慣病、骨粗しょう症、筋力低下を生じる場合もあり、放置すると死亡率が健常者の数倍になるという報告もされています。

 

クッシング病は、大脳の基底部にある下垂体にACTHホルモンを過剰に分泌させる腫瘍(ACTH産生下垂体腺腫)ができ、副腎からのコルチゾールが過剰に分泌されることが原因で起こります。なぜ、ACTH産生下垂体腺腫が生じるのかについては、現在研究段階にあるため、未だ理由は判明していません。また、遺伝との因果関係は否定されていますが、稀に家族性となるケースもあるようです。

 

クッシング病と考えられる症状が見られた場合、まず血液検査が行われて血中ACTHとコルチゾールの値が測定されます。ACTH、コルチゾール共に高値の場合には、クッシング病の診断を確定させるために専門の医療機関でのホルモン検査が追加されます。腫瘍の発見のためMRI検査が行われますが、腫瘍が小さくMRIでの検出が困難な時は、カテーテル検査が行われることもあります。ただ、中にはカテーテル検査まで行っても確診出来ないこともあり、その場合には手術により下垂体の中の腫瘍を探すという手順が取られます。

 

クッシング病を治す効果的な薬剤がないため、手術により下垂体に生じている腫瘍を取り除くことになります。もし腫瘍が再発してしまった場合には、再手術が検討されます。手術療法で改善が見られない場合は、副腎に作用して直接コルチゾールの産生を抑制する薬などが使用されることもありますが、効果が不十分なケースが多いです。放射線療法も治療の選択肢の一つですが、下垂体機能低下症を生じるおそれがあるため、注意が必要とされています。

 

 

偽性副甲状腺機能低下症

 

偽性副甲状腺機能低下症の症状の大半が低カルシウム血症に基づくもので、テタニーと呼ばれる手足や口の周囲に起きる痺れや感覚異常のほか、重症の場合は咽頭筋、呼吸筋を始めとする全身の筋肉の痙攣やてんかん発作が起きることもあります。

また、抑うつや知能発育の遅延、認知障害などの精神・神経系の機能障害や、皮膚の乾燥、湿疹、毛髪の異常を伴う場合もあります。心不全、低血圧などの循環器症状、歯牙発育障害、白内障、大脳基底核石灰化が見られるケースもあり、症状は多岐にわたります。

 

血液中のカルシウムの濃度を増加させるように働く副甲状腺ホルモンは、細胞膜にある受容体タンパクと結合し、Gタンパクを活性化することによって作用しますが、偽性副甲状腺機能低下症である場合はこのGタンパクの遺伝子異常が認められる場合があります。そのため、副甲状腺ホルモンに対する反応が低下するのが原因と考えられていますが、詳しい解明はされていません。

 

口周囲や手足などの痺れ・錯感覚、テタニー、全身痙攣の症状の3項目うち1つと、低カルシウム血症・正または高リン血症、eGFR 30ml/min/1.73m2以上、Intact PTH 30pg/ml以上という3項目ある検査所見をすべて満たし、ビタミンD欠乏症を除外したものが偽性副甲状腺機能低下症と診断されます。そのため、副甲状腺ホルモンを注射により投与して尿中のリン酸などを測定し、腎臓の反応を調べるエルスワース・ハワード試験や血液検査などを行います。

 

本来、体内で作られるのとほぼ同量の活性型ビタミンD3製剤を投与するのが主な治療です。高カルシウム尿症を起こさずに、血中カルシウム濃度を正常化して維持することで症状をほぼ無くすことができます。テタニーや全身痙攣の発作など急性で重篤な症状に対しては、心電図を見ながらカルシウム製剤を静脈内に緩やかに点滴する、経静脈的投与を行います。ただし尿中及び血中カルシウムの変動を高め、管理が困難なため通常は行いません。また、甲状腺機能低下症や成長ホルモン分泌不全を合併する場合には、それぞれの補充療法を用います。

 


ゴナドトロピン分泌異常症

 

ゴナドトロピン分泌異常症は、視床下部や下垂体に障害を負うことにより、ゴナドトロピンの分泌量が異常になり体に弊害を与えます。過剰分泌される場合と欠乏の場合があります。年齢とともに症状の現れ方が異なり、小児の場合は性早熟症状となるため、思春期早発症と呼ばれています。成人男性の場合は、乳房が女性のように大きくなることがあります。成人女性の場合は、閉経期前であれば、月経不順などの月経に関する異常症状が現れます。

 

ゴナドトロピン分泌異常症の発病する原因は、すべて解明されているわけではありません。視床下部あるいは下垂体腫瘍がゴナドトロピンを過剰産生することまでは判明していますが、なぜ過剰生成するかが不明です。ただし、頭蓋咽頭腫と鞍上部胚芽細胞腫などの器質疾患や、交通外傷などが原因になることも推定されています。新生児仮死などの関連性にも注目されていて、分娩の後に視床下部病変を生じることがあり、遺伝性の可能性も指摘されています。また、ストレスのような精神神経との関連性の指摘もあり様々な研究が進められています。

 

ゴナドトロピン分泌異常症の診断は、医師の問診と触診により、本疾患の特徴となる、男性の場合は乳房の女性化、女性の場合は月経異常について検査が行われます。また、血液検査も有効で、血中の性ホルモンや、ゴナドトロピン濃度が測定されます。性ホルモンは男性の場合は男子のテストステロン、女子の場合は女子のテストステロンが調査されます。更に、視床下部・下垂体に腫瘍などの疾患が無いか確認するために、MRIやCTスキャン検査を行います。

 

ゴナドトロピン分泌異常症の治療は、腫瘍や炎症、肉芽腫等の根本要因がある場合は、その原因治療を行います。腫瘍などの場合は外科的手術により摘出されることが多いです。副腎不全や甲状腺機能不全などを合併症として発症している場合は、必要に応じてホルモンの補償処置が行われます。また、根本原因が排除されるまでや、原因不明の場合などで、ゴナドトロピン分泌が不足している場合は、注射による投与が行われます。必要に応じて、末梢の性ホルモンの補てんも行われます。

 


先端巨大症

 

「アクロメガリー」とも呼ばれる先端巨大症は額やあご、鼻、手足など身体の先端が大きくなる病気で、思春期までに発症すると身長が異常に高くなる巨人症になります。成人してからの発症では手足が大きくなるため、指輪が合わなくなったり靴のサイズが大きくなったりします。外見の変化は成長と共に少しずつ進むため、本人や周囲の人が気付かないこともあります。他の症状としては全身の倦怠感、頭痛、高血圧、糖尿病、女性の場合は無月経などが認められます。

 

先端巨大症は脳の奥にある脳下垂体から分泌される成長ホルモンが過剰に分泌されるために起こる病気です。成長ホルモンは子供に対しては成長を、大人に対しては代謝を促すため上述のような症状が現れます。脳下垂体の中にできる良性の腫瘍によって成長ホルモンが産生されるため過剰分泌となるのですが、その腫瘍ができる原因は明らかにはされていません。ごく稀に脳下垂体以外の場所に成長ホルモンを産生する腫瘍が発生することがあります。

 

先端巨大症の診断は症状、血液・画像検査により行われます。症状としては手足の肥大や口唇・鼻の肥大などの身体的特徴があるため他の病気との鑑別は容易です。血液検査では成長ホルモンの過剰分泌を調べるため、ブドウ糖液を飲用しその後の血液中の成長ホルモンの量を測定します。血中の成長ホルモンはブドウ糖によって抑制され低下しますが、先端巨大症の罹患者の場合はそれが認められません。また脳下垂体内の腫瘍を調べるため、MRIやCT検査が行われます。

 

原因が脳下垂体の腫瘍である場合にはまずその摘出が一番に考慮されます。腫瘍が小さければ完治させることができますが、腫瘍が大きい、あるいは周囲に広がっている場合には完全に除去することが難しく術後に薬物療法も行われます。成長ホルモンの産出と分泌を正常に遮断し、症状の進行を防ぐオクレオチド、ペグビソマントといった薬が1ヵ月に1度投与されます。薬物療法でも寛解が認められない場合放射線療法がとられることもありますが、この治療法は効果が現れるまでに数年かかることがあります。

 

 


PRL分泌異常症

 

PRL分泌異常症は、女性に多い病気で、下垂体から分泌されるプロラクチンというホルモンが過剰生成、もしくは不足することにより体に障害が発生する病気です。症状は過剰生成の場合と、不足傾向の場合で異なり、過剰生成の場合は、女性の場合月経がこない、月経不順、無排卵性の性器出血など月経にまつわる不具合症状が現れます。男性の場合性欲低下やインポテンツ症状が出ます。男女ともに、下垂体に腫脹がある場合は、視力障害や頭痛、吐き気などが発生することもあります。逆にホルモン不足傾向の場合は、女性において子どもを分娩後に乳汁分泌が無いという症状が出ます。

 

PRL分泌異常症の原因には、「薬剤性」・「下垂体腫瘍」・「その他」に分けられます。薬剤性の場合は、降圧薬や抗潰瘍薬、中枢神経作用薬などはPRLホルモンの分泌を促進するためホルモン過多になることが多いです。避妊薬も同様の傾向があります。下垂体に腫瘍ができた場合もPRLホルモン分泌量に異常が出ます。その他では、他の病気やけがなどにより誘発されるもので、胸部の外傷、甲状腺機能低下症、腎不全、精神疾患などが挙げられます。

 

本疾患の診断は、医師の問診により、男性の場合は、性欲低下の有無、インポテンツの確認が行われ、女性の場合は月経に関するトラブルのヒアリングが行われます。男女共通の確認事項としては、頭痛や視力視野障害があります。診断確定には、血液検査が行われ、血中のPRL値を参照します。また、治療方針決定のために、薬剤の服用歴、甲状腺の機能確認などが行われ、他の疾患からの併発も考慮したうえ、レントゲン撮影やCTスキャン、MRIスキャンなどの画像診断も行われます。

 

PRL分泌異常症の治療は、原因の追及から始まります。原因が薬剤に起因している場合は、使用している薬剤の服用を中止し、代替えの薬剤などを検討します。下垂体腫瘍が発見された場合は、その治療が施されます。程度により薬物療法と外科的切除が選択されます。ただし、女性で妊娠を希望する場合などは薬物療法が積極的に採用されます。その他、他の根本疾患がある場合は、その治療が行われます。薬物起因・下垂体腫瘍起因・その他の疾患起因のどの場合でも根本原因が排除できれば最大4週間くらいで完治可能な病気です。

 

 

 

 

 

 

再発性多発軟骨炎

 

再発性多発軟骨炎は、軟骨組織や多数の器官の結合組織に生じる痛みを伴った破壊的な炎症を特徴とする病気です。

耳や鼻に炎症が起きたり、圧痛がみられます。

体内のほかの軟骨に損傷が起きることもあり、眼の充血と痛み、しわがれ声、せき、呼吸困難、発疹、胸骨の痛みなど、さまざまな症状が引き起こされます。

血液検査を行うほか、組織の一部を採取して顕微鏡で観察する検査(生検)を行うこともあります。

症状または合併症が中等度ないし重度である場合には、通常はコルチコステロイド薬が役立ちます。

この病気に男女差はなく、普通は中年期に発症します。原因は不明ですが、軟骨組織に対する自己免疫反応が疑われています。

 

症状

典型的な症状としては、片側または両側の耳が赤く腫れ、強い痛みも伴います。それと同時かその後に軽度から重度の関節の炎症(関節炎)が発生します。全身のどの関節にある軟骨もおかされる可能性があり、肋骨と胸骨をつないでいる軟骨に炎症が起きやすくなります。鼻の軟骨も炎症がよくみられる部位です。鼻に圧痛が生じたり、軟骨がつぶれたりすることもあります。

 

上記以外におかされる部位としては、眼(眼の白い部分の炎症である強膜炎が起きる)と喉頭および気管(しわがれ声、痰を伴わないせき、息切れ、のどぼとけの圧痛を引き起こす)があります。まれに角膜に穴があき(穿孔)、失明に至る場合もあります。さらにまれですが、心臓がおかされることで心雑音が発生したり、ときには心不全を起こす場合もあります。皮膚に炎症が起きる場合もあり、さまざまな発疹が出現します。

炎症と痛みの再燃が数週間ほど続いてから鎮静化し、この過程が数年間にわたって繰り返されます。最終的には、各器官の構造を支えている軟骨組織がおかされる結果、耳が垂れ下がったり、鼻すじが変形したりするほか、視覚、聴覚、平衡感覚に問題が発生するようになります。

再発性多発軟骨炎の患者は、変形した軟骨組織によって気道がつぶれて気流が遮断されたり、心臓や血管がひどい損傷を受けると、死亡することがあります。

 

診断と治療

長期間の間に以下の症状のうち少なくとも3つが認められると、再発性多発軟骨炎であると診断されます。

両耳の炎症

複数の関節の痛みを伴った腫れ

鼻の軟骨の炎症

眼の炎症

気道内にある軟骨の損傷

聴覚や平衡感覚の異常

 

おかされている軟骨の生検で特徴的な異常が確認されることがあります。赤血球沈降速度(ESR)などの血液検査では慢性的な炎症の存在が証明されます。

 

軽症の再発性多発軟骨炎は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)やダプソンによって治療可能です。より重症の場合には、プレドニゾロンを毎日使用した後、症状が改善されしだい、少しずつ減量していきます。非常に重度の症例では、ときにシクロスポリンやシクロホスファミド、アザチオプリンなどの免疫抑制薬で治療されます。これらの薬剤は症状を抑えますが、この病気の最終的な経過を変えることは示されていません。

 

 

 


 

 

治療  強力な抗菌薬投与とともに、さまざまな支持療法が不可欠です。昇圧剤、補液、酸素投与などのほか、呼吸不全腎不全、肝不全に対しては人工呼吸管理、持続的血液濾過透析や血漿(けっしょう)交換などが必要になる場合もあります。

 DICを併発した場合には、蛋白分解酵素阻害薬やヘパリンを使用します。短期間の副腎皮質ホルモン薬が併用されることもあります。  

 近年ではグラム陰性桿菌(かんきん)による敗血症において重要な役割を担うエンドトキシン(細菌毒)を吸着する方法など、新しい治療法が試みられています。  

 治療が遅れたり合併症の程度によっては、致命的となる重篤な疾患であることに変わりありません。早期の診断と適切な抗菌薬の使用、各種合併症に対する支持療法が重要です。

 

 

 

クローン病

 

 私たちは食物を消化し栄養を吸収することで、生命を維持するために必要なエネルギーを得ています。食物を体内に取り込み、消化、吸収し、最終的には不要物を排泄するまでの役割をになう器官が消化器です。消化器は、胃や腸はもちろん、食物を取り込む口(口腔)や栄養素貯蔵・加工する肝臓なども消化器に含まれます。消化器のうち、食物や水分の通り道となる部分が消化管です。消化管は口腔にはじまり、咽頭、食道、胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸)大腸、肛門までを指し、全長は約6mです。食物はこの消化管を通り消化・吸収されますが、消化吸収されなかった残りかす(不要物)が糞便となり排泄されます。

 

消化管の働き 1)口:食物が口内で咀嚼される間に、唾液と混ざり、唾液中のアミラーゼによりデンプンの消化が始まります。 2)食道、胃、十二指腸:食物は食道を通過し胃に到達すると、一旦胃内に貯留し撹拌され、胃液中の酵素や酸によってタンパク質の消化が始まります。 3)小腸:胃で撹拌された食物は十二指腸に流れ込み、そこで膵液や胆汁と混ざり、さらに各種酵素の消化作用を受けつつ、小腸内を移動していきます。この移動の間に各種栄養素が吸収されます。 4)大腸:大腸では水と電解質が吸収され、消化吸収されなかったものや老廃物を肛門まで運搬します。

 

クローン病(Crohn’s Disease)とは

 大腸及び小腸の粘膜に慢性の炎症または潰瘍をひきおこす原因不明の疾患の総称を炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)といいます。

 クローン病も、この炎症性腸疾患のひとつで、1932年にニューヨークのマウントサイナイ病院の内科医クローン先生らによって限局性回腸炎としてはじめて報告された病気です。

 クローン病は主として若年者にみられ、口腔にはじまり肛門にいたるまでの消化管のどの部位にも炎症や潰瘍(粘膜が欠損すること)が起こりえますが、小腸と大腸を中心として特に小腸末端部が好発部位です。非連続性の病変(病変と病変の間に正常部分が存在すること)を特徴とします。それらの病変により腹痛や下痢、血便、体重減少などが生じます。

 

原因  クローン病の原因として、遺伝的な要因が関与するという説、結核菌類似の細菌や麻疹ウイルスによる感染症説、食事の中の何らかの成分が腸管粘膜に異常な反応をひきおこしているという説、腸管の微小な血管の血流障害説などが報告されてきましたが、いずれもはっきりと証明されたものはありません。最近の研究では、なんらかの遺伝的な素因を背景として、食事や腸内細菌に対して腸に潜んでいるリンパ球などの免疫を担当する細胞が過剰に反応して病気の発症、増悪にいたると考えられています。

 わが国のクローン病の患者数は特定疾患医療受給者証交付件数でみると1976年には128人でしたが、平成25年度には39,799人となり増加がみられています。

 衛生環境や食生活が大きく影響し、動物性脂肪、タンパク質を多く摂取し、生活水準が高いほどクローン病にかかりやすいと考えられています。喫煙をする人は喫煙をしない人より発病しやすいと言われています。

 クローン病は遺伝病ではありません。しかし、人種や地域によって発症する頻度が異なり、また家系内発症もみとめられることから、遺伝的な因子の関与が考えられています。クローン病を引き起こす可能性の高い遺伝子がいくつか報告されていますが、現在のところ、単一の遺伝子と関連して発症するのではなく、いくつかの遺伝子と環境因子などが複雑に絡み合って発症していると考えられています。

 

症状  クローン病の症状は患者さんによってさまざまで、侵される病変部位(小腸型、小腸・大腸型、大腸型)によっても異なります。その中でも特徴的な症状は腹痛と下痢で、半数以上の患者さんでみられます。さらに発熱、下血、腹部腫瘤、体重減少、全身倦怠感、貧血などの症状もしばしば現れます。またクローン病は瘻孔、狭窄、膿瘍などの腸管の合併症や関節炎、虹彩炎、結節性紅斑、肛門部病変などの腸管外の合併症も多く、これらの有無により様々な症状を呈します。

 

治療

普通はクローン病に罹患しても寿命が縮まることはありません。しかし、長期にわたるクローン病により消化管に癌が生じ、それによって死亡する場合があります。

クローン病を治癒する方法はありませんが、さまざまな治療法で炎症を和らげ、症状を軽減することができます。

 

下痢止め薬:

けいれん痛や下痢を緩和するこの種の薬には、ジフェノキシレート、ロペラミド、脱臭アヘンチンキ、コデインなどの抗コリン作用を持つ薬(神経系の特定の経路をブロックする薬)があります。これらは経口薬で、できれば食前に服用します。メチルセルロースやオオバコ種子製剤の服用も、便を硬くして肛門の炎症を防ぐのに役立ちます。

 

抗炎症薬:

スルファサラジンとその関連薬剤、メサラジン、オルサラジン、バルサラジドなどは、炎症を軽減します。これらの薬は、特に大腸の症状を抑え、炎症を軽減します。メサラジンは再発予防に効果があります。しかし、これらの薬は、重症の再発例の緩和にはあまり効果がありません。

プレドニゾロンなどのコルチコステロイド薬を経口投与すると、発熱と下痢が劇的に軽減し、腹痛と圧痛が緩和され、食欲や体調が改善します。しかし、ステロイド療法を長期的に続けると、まず間違いなく副作用が起こります。多くの場合、最初に重い炎症と症状を緩和するために高用量を服用します。その後用量を減らし、できるだけ早期に薬の投与を中止します。新しいコルチコステロイド薬のブデソニドは、副作用はプレドニゾロンより少ないですが、プレドニゾロンほど迅速に効果を発揮しないことがあり、また一般に6~9カ月後以降の再発を防止できません。

症状が重くなった場合は、入院の上、コルチコステロイド薬を静脈投与します。最初は、患者は絶食して輸液で体液を回復、維持します(水分補給)。直腸に大量の出血がみられる場合は輸血が必要となります。慢性の貧血がある場合、鉄のサプリメントを経口または静脈投与することもあります。

 

免疫抑制薬:

アザチオプリンやメルカプトプリンなどの薬は、免疫システムの作用を調節するもので、他の薬に反応しないクローン病に効果があり、特に長期間の寛解(症状が改善された状態)を保つのに有効です。免疫抑制薬は全身状態を大きく改善し、コルチコステロイド薬の必要量を減らし、瘻が治ることもよくあります。しかし、免疫抑制薬は臨床的な利益が現れるまでに1~3カ月かかり、重度の副作用が起こることもあります。そのため、医師はアレルギー反応や膵臓の炎症(膵炎)、白血球数の減少を注意深く監視します。アザチオプリンとメルカプトプリンを代謝する酵素の一つの変異を検出する遺伝子検査と、代謝物の濃度を直接測定する血液検査を行うことで、薬の安全かつ有効な用量を確かめるのに役立ちます。

メトトレキサートは、1週間に1回注射または経口で投与するもので、コルチコステロイド薬やアザチオプリン、メルカプトプリンに反応しなかったり、これらの薬の使用に耐えられない場合にしばしば有益です。

高用量のシクロスポリンは瘻を治すのに役立ちますが、長期間安全に使用することができません。

インフリキシマブは、モノクローナル抗体からつくられた薬で、免疫システムの作用を変える薬の1つです。インフリキシマブの静脈内投与は、他の薬に反応しなかった中等度から重度のクローン病の治療、瘻のある患者の治療、病状管理が難しい場合に治療に対する反応を維持するために使えます。しかし、1回の注入で有効な期間が短いため、次の注入までの間に別の治療が必要となります。そのような治療法としては、アザチオプリン、メルカプトプリン、メトトレキサートなどの他の免疫抑制薬があります。インフリキシマブは比較的新しい薬なので、長期間使用した場合の有効性と副作用についてはまだすべてわかっていません。しかし、すでに生じていてコントロールされていない細菌感染症を悪化させたり、結核を再活性化させたり、ある種の癌のリスクを高める可能性があります。注入中に発熱や発疹などの反応が出る場合もあります。

アダリムマブはインフリキシマブに関連した薬で、免疫システムの調節を目的としたものです。アダリムマブは、インフリキシマブに耐えられなかったり、反応しなくなった患者で特に有効です。

 

広域スペクトル抗生物質:

さまざまな細菌類に有効な抗生物質がよく処方されます。メトロニダゾールは、肛門周囲の膿瘍や瘻の治療に最もよく使われる薬です。メトロニダゾールは下痢や腹部のけいれん痛など、クローン病の非感染性の症状を軽減するのにも役立ちます。しかし、長期間使用すると神経に損傷が起こり、腕や脚の皮膚にチクチクする感覚が生じます。この副作用は、服用を中止すると止まりますが、服用を中止するとクローン病がよく再発します。シプロフロキサシンやレボフロキサシンなどの抗生物質がメトロニダゾールの代用として、あるいは併用して用いられます。非吸収性抗生物質のリファキシミンも活動性のクローン病の治療に使われます。

 

食事療法:

それぞれの栄養素の分量を正確に測った調整流動食を使うと、腸の閉塞状態や瘻が少なくとも短期間改善します。小児では、特に夜間に経管栄養により投与した場合、食事療法をしない場合に比べて、成長を促すのに有用です。この食事療法は術前に、または手術に加えて実施されます。ときには高濃度の栄養剤を静脈投与し、クローン病に典型的な栄養素の吸収不足を補います。

 

手術:

クローン病の患者の多くで、疾患経過のいずれかの時点で手術が必要となります。腸が閉塞したり、膿瘍や瘻が治癒しない場合は、手術が必要になります。腸の病巣部を切除すると長期にわたって症状が改善されますが、治癒するわけではありません。手術後に数種類の薬による治療を始めることで緩和できるものの、残った腸を再接合した部分にクローン病が再発する傾向があります。最終的には、半数近くの人に再手術が必要となります。そのため、手術を行うのは、特定の合併症があるか、薬物療法で効果がなかった場合に限られます。それでも、手術を受けた患者の大部分が、手術前よりも生活の質が改善したと考えています。

 

 

 

 

 

炎症性腸疾患

 

炎症性腸疾患とは、腸が炎症を起こし、腹部のけいれんと下痢を繰り返し起こす状態です。

炎症性腸疾患には2種類の主な疾患、クローン病と潰瘍性大腸炎があります。この2つの疾患には多くの共通点があり、ときに判別が難しいことがあります。しかし2つの疾患にはいくつかの違いがあります。たとえばクローン病は消化管のほぼすべての部分に起こりうるのに対し、潰瘍性大腸炎はほぼ常に大腸にしか起こりません。これらの病気の原因はわかっていませんが、遺伝的素因を持つ人が腸内細菌や他の因子に対して過剰な免疫反応を起こしていることが考えられます。最近になり、炎症性腸疾患にはコラーゲン蓄積大腸炎、リンパ球性大腸炎、空置大腸炎もあることがわかってきました。

 

炎症性腸疾患の診断を行うには、まず炎症を起こしうる他の原因を除外しなければなりません。たとえば寄生虫や細菌の感染症が炎症の原因となることがあります。このため、医師はいくつか検査を行います。便サンプルを分析して、抗生物質の使用により生じる細菌感染症(クロストリジウム・ディフィシル感染症)などを含め、細菌性または寄生虫性の感染症(たとえば旅行中に感染するもの)の証拠がないか調べます。さらには、淋菌感染症、ヘルペスウイルス感染症、クラミジア感染症などの性感染症が直腸にないかどうかも調べます。S状結腸鏡検査(観察用チューブを使ったS状結腸の検査)時に直腸内膜から組織サンプルを採取して(生検)、結腸の炎症(大腸炎)を起こす他の原因を示す証拠がないかも顕微鏡で調べます。似たような腹部の症状を起こす他の原因で除外すべきものとして、50歳以上の人に多い虚血性大腸炎、女性ではある種の婦人科疾患、セリアック病、過敏性腸症候群などがあります。

 

 

ループス腸炎

 

 ループス腸炎とは、壊死性血管炎が起きることで、腸管壁に出血や虚血、梗塞が発生する疾患です。

 

 ループス腸炎は、小腸型と大腸型の2つのタイプに分けられます。小腸型では急性の虚血性腸炎を発症し、大腸型の場合は、潰瘍が多く見られるようになります。その他の症状として挙げられるのが、腹痛や下痢、嘔吐といった腸炎特有の症状になります。さらに、症状が進行すると、尿毒症や腹膜炎などの重い疾患も併発するようになります。

 

 ループス腸炎の原因についてはっきりはしていませんが、遺伝子要因やウイルスなどの細菌となどが挙げられます。

 

 ループス腸炎の治療は、薬物療法が主になります。  まず、副腎皮質ステロイドの使用は、ループス腸炎の治療において重要な役割しています。症状によって、使用する量は変化しますが、重症の場合は軽症の時の4倍程の量が使われます。次に、アザチオプリンと呼ばれる免疫抑制薬を使い、免疫異常を改善します。ただし、卵巣機能不全や発がん性、出血性膀胱炎などの副作用が起きる可能性があるため、使用の際は注意する必要があります。

 

 

 

 

 

潰瘍性大腸炎

 

潰瘍性大腸炎とは、大腸の粘膜に炎症を起こすことで潰瘍やただれ、びらんなどが発生する病気です。

発症すると下痢が起きるようになり、血便が出ることもあります。腹痛が伴うこともあり、ひどい場合は発熱や貧血、体重減少などの症状が現れます。

 

潰瘍性大腸炎には2つのタイプがあり、一度治療ができても期間が経過した後再び悪化し、発症を繰り返す再燃緩解型と同じ症状が長時間継続して続く慢性持続型に分けられます。

 

潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に対して体内でできた異常な抗体が攻撃を行うことで発症します。しかし、食生活や遺伝的要因、腸内細菌の状態など様々な要素が関係してくるため、はっきりとした原因は判明していません。また、ストレスによって症状が悪化することがあります。発症年齢で最も多いのが20代から30代の若い世代でありますが、50代から60代の人でも発症します。性別によっては大きな差はないのですが、喫煙者の方が発症しにくいことが分かっています。

 

合併症:

出血は最もよくみられる合併症で、しばしば鉄欠乏性貧血を起こします。潰瘍性大腸炎になった人のほぼ10%で、最初の発作が急激に進行して重症になり、大量の出血と穿孔や広範囲の感染が生じます。

中毒性大腸炎は特に重症の合併症で、腸壁の全層に損傷を起こします。この損傷は、腸壁の正常な収縮運動が一時的に止まるイレウス(腸閉塞)と呼ばれる状態を起こし、腸の内容物が前進しなくなり、腹部膨満が起こります。中毒性大腸炎が悪化するにつれ、大腸の筋緊張が失われ、数日、ときにはわずか数時間で大腸が拡張しはじめます。腹部のX線検査では、腸の麻痺した部分にガスが充満しているのが映ります。

中毒性巨大結腸は、大腸が異常に拡張したときに起こります。患者は非常に重篤であり、高熱が出ます。腹痛と腹部の圧痛も生じ、白血球数が増加します。腸が破裂すると、死亡するリスクが非常に高くなります。しかし、腸が破裂する前に迅速な治療を受けた場合、死亡率は2%未満です。

 

その他の合併症は、クローン病のものと同じです。潰瘍性大腸炎による胃腸症状が再燃すると、関節の炎症(関節炎)、白目の部分の炎症(上強膜炎)、皮膚の結節の炎症(結節性紅斑)、紫色の皮膚のびらんに膿がたまる(壊疽性膿皮症)などの炎症が現れます。潰瘍性大腸炎による胃腸症状の再発がない時期でも、腸の病気とはまったく無関係に、壊疽性膿皮症が生じたり、脊椎に炎症が生じて強直性脊椎炎となったり、骨盤の炎症(仙腸骨炎)や眼の内部の炎症(ぶどう膜炎)が起こることがあります。まれに静脈内に血栓ができることがあります。

 

潰瘍性大腸炎では、普通軽度の肝機能障害がみられますが、肝臓疾患の症状が現れるのは軽症から重症を含めても1~3%ほどです。重症の肝臓疾患としては、肝臓の炎症(慢性活動性肝炎)や、胆管が狭くなりついには閉塞する胆管の炎症(原発性硬化性胆管炎)、肝臓の機能組織が瘢痕化する(肝硬変)などが生じます。潰瘍性大腸炎の腸症状が現れる何年も前に胆管の炎症が起こることがあります。この炎症は胆管癌のリスクを大幅に高め、また結腸癌のリスクの急上昇とも関係があると考えられています。

 

治療

一般に潰瘍性大腸炎は慢性疾患で、良くなったり悪くなったり(再燃と寛解)を繰り返します。全体の約10%で、初期の発作が急激に進行し、重篤な合併症を来します。別の10%では一度の発作だけで完全に回復します。しかし、発作が一度だけですむ人は、真の潰瘍性大腸炎ではなく、見つかっていなかった急性感染症であった可能性があります。結腸の生検がこの点の区別に有用です。

潰瘍性直腸炎の場合は予後が最もよくなります。重篤な合併症はほとんどみられません。しかし、約10~30%では最終的に潰瘍性直腸炎が大腸全体に広がり、潰瘍性大腸炎となります。

 

治療は、炎症を抑え、症状を軽減し、失われた水分と栄養素を補うことを目的として行います。

 

食事制限:

便中に持続的に血液が失われることで起こる貧血は、鉄剤のサプリメントで改善できます。炎症を起こしている大腸の粘膜が傷つかないように、生の野菜と果物は避けます。食事から乳製品を除くことで、症状が軽減する場合があるので、試してみる価値はありますが、恩恵がなければ続ける必要はありません。

 

下痢止め薬:

比較的症状の軽い下痢には、抗コリン作用薬(多くの抗ヒスタミン薬やある種の抗うつ薬など)、または少量のロペラミドやジフェノキシレートを用います。より激しい下痢には、高用量のジフェノキシレート、脱臭アヘンチンキ、ロペラミド、コデインなどが必要になることがあります。しかし重症のケースでは、これらの薬の服用により中毒性巨大結腸が生じないよう、投与後の状態を慎重に観察する必要があります。

 

抗炎症薬:

潰瘍性大腸炎の炎症を軽減させ、症状の再燃を予防するために、スルファサラジン、オルサラジン、メサラジン、バルサラジドなどの薬剤を用います。これらの薬は普通は内服しますが(経口投与)、メサラジンは浣腸や坐薬としても使用できます(直腸投与)。経口投与でも直腸投与でも、これらの薬は、軽度から中等度の活動性疾患の治療には、限定的な効果しかありませんが、寛解状態の維持にはより有効で、おそらくは大腸癌の長期的リスクも減らすことができます。

ベッドで安静にしていなくてもよい中等度の患者では、通常はプレドニゾロンなどのコルチコステロイド薬を経口投与します。高用量のプレドニゾロンを服用すると、しばしば劇的な寛解が得られます。プレドニゾロンで潰瘍性大腸炎の炎症をコントロールした後に、改善を維持するためにスルファサラジン、オルサラジンやメサラジンを投与します。プレドニゾロンは徐々に用量を減らしていき、最終的には投与を中止します。コルチコステロイド薬による治療が長びくと、ほぼ必ず副作用が現れます。軽度から中等度の潰瘍性大腸炎が大腸の左側(下行結腸)と直腸に限局している場合には、コルチコステロイド薬やメサラジンの浣腸または坐薬の投与が役立ちます。

 

症状が重症の場合には、患者は入院して、コルチコステロイド薬と水分の静脈内投与を受けます。直腸に大量の出血がみられる場合は輸血が必要となることがあります。

 

免疫抑制薬:

アザチオプリンやメルカプトプリンなどの薬は、長期のステロイド療法が必要な潰瘍性大腸炎患者で寛解を維持するために使われます。この免疫抑制薬は免疫システムで重要な働きをするT細胞の作用を阻害します。しかしこれらの薬は作用が遅く、1~4カ月間しないと効果がみられません。また、重篤な副作用を起こす可能性があるので、医師による慎重な経過観察が必要です。

シクロスポリンは、重篤な再発を起こしコルチコステロイド療法にも反応しない場合に投与されます。多くの患者が当初はシクロスポリンに反応しますが、一部の人は最終的に手術が必要になります。

モノクローナル抗体から作られ、静脈内投与するインフリキシマブが潰瘍性大腸炎患者に有益な場合もあります。この薬はコルチコステロイド薬に反応しない患者や、他の免疫抑制薬を適切に使っても、コルチコステロイド薬の用量を減らすと必ず症状が出る患者に投与します。

 

手術:

潰瘍性大腸炎が広範に生じている症例では、約30%で手術が必要となります。大量出血、穿孔、中毒性巨大結腸、血栓を伴う命に関わる急性の発作が生じた場合は緊急手術が必要です。緊急を要しない手術の理由としては、寛解しない慢性疾患で生活に支障を来す場合や、常に高用量のコルチコステロイド薬が必要となる場合などがあります。

大腸の癌が診断されたり、異形成が確認された場合、ときに大腸に狭窄が生じていたり、小児で発育遅滞がみられる場合も、緊急ではない手術を行います。

大腸と直腸をすべて切除することで、潰瘍性大腸炎は恒久的に治癒します。これまで、この治癒には従来、小腸の最後部と腹壁の開口部との間を手術でつなぐ回腸瘻造設術を行い、腸瘻バッグを生涯にわたって使用するという代償が伴いました。しかし、現在では他にもさまざまな代替手段が開発されており、その最も一般的な例が回腸肛門吻合術です。この治療法は、大腸と大部分の直腸を切除し、小腸の外に小さな貯蔵部を形成して、それを肛門のすぐ上の直腸残存部につなぐ手術法です。この治療法では、排泄を調節する機能は維持できますが、貯蔵部の炎症(嚢炎)などの合併症が起こる可能性があります。

潰瘍性直腸炎では手術が必要となることはまれで、余命も正常です。しかし、一部には、どの治療法によっても例外的に症状が改善されない患者もいます。

 

中毒性巨大結腸は手術を必要とする緊急事態です。中毒性巨大結腸が見つかったり、その疑いがあれば、即座に下痢止め薬は中止して絶食し、胃か小腸に経鼻チューブを挿入して定期的に吸引を行います。水分と栄養、薬はすべて静脈から投与します。患者に腹膜炎や穿孔の徴候がないかどうか、注意深く観察します。時間と患者の状態が許すなら、シクロスポリンやインフリキシマブによる薬物療法を行うことがあります。しかし、これらの処置の効果が不十分であったり、効果がみられない場合は、緊急手術が必要となります。その場合大腸の全体または大部分を切除します。

 

 

 

肛門狭窄

 

 肛門狭窄とは、さまざまな原因により肛門が狭くなった病気です。結果として便が細く出にくくなります。

 

原因  第一に裂肛により生じます。裂肛が繰り返され慢性化すると、肛門を常にある一定の力で締めている内肛門括約筋に炎症が及び、肛門が狭いままで固まってしまいます。  肛門部の感染症・痔瘻(じろう)により生じることもあります。痔瘻という、うみの管が肛門周囲を取り囲み、肛門を狭くしてしまいます。  長年にわたり下痢を繰り返していると、肛門全周に存在する直腸と肛門の境目の小さなくぼみ(肛門小窩(しょうか))に炎症が生じて、結果として肛門狭窄が生じます。  肛門の手術の失敗で起こることもあります。とくに痔核(じかく)の手術の際に、肛門の正常な部分を切除しすぎて生じてしまうことがあります。

 

症状の現れ方  肛門の太さは通常は人差し指が入る大きさで、麻酔がかかった状態では2本の指が入るのが普通です。それが小指が入らないほどに細くなってしまうこともあります。肛門が細くなれば便が出にくくなり、また出る便も細くなります。  そして便が少しでも硬かったり太かったりすると、肛門部は傷ついて裂肛を生じます。

 

治療の方法  痔瘻や裂肛が原因のものであるならば、原因疾患の治療を優先します。  肛門狭窄に対しては保存的に治療します。坐薬、軟膏などを使用して、便が出る時に肛門に負担をかけないようにして、少しでも肛門の柔軟性を取りもどすようにします。  保存療法で効果がない場合は、外来で局所麻酔をして指で肛門を広げたり、メスで狭窄を生じている内括約筋を広げたりします。  狭窄が強度の場合は、入院して狭い部分を切り拡げ、そこに肛門周囲の皮膚を移動する手術(皮膚弁移動術)をします。

 

 

 

好中球減少症

 

好中球減少症とは、血液中の好中球数が異常に少なくなった状態をいいます。

好中球減少症になると命にかかわる感染症のリスクが著しく高まります。

癌に対する化学療法や放射線療法よって好中球減少症が生じることもよくあります。

感染が頻発したり、まれな感染が起きたりすると、好中球減少症が疑われます。

血液サンプルを採取して、好中球減少症の診断を下し、その原因が明らかではない場合は骨髄サンプルも必要になります。

 

病気の原因や重症度に応じて治療が行われます。

好中球は、急性細菌感染症や特定の真菌感染症に対して体を守るという大きな役割を果たしています。一般に、好中球は、血液中にある全白血球の約45~75%を占めています。血液1マイクロリットルあたりの好中球数が1,000個未満になると、感染のリスクが高くなり、500個未満になると、感染のリスクは大幅に上昇します。好中球による重要な防御がなくなると、感染症に対する制御がきかなくなり、感染症で死亡するリスクが高まります。

 

原因

好中球が骨髄でつくられる速度より、血液中で消費されたり破壊される速度の方が速いと、好中球減少症になります。一部の細菌感染、アレルギー疾患、薬物療法では、好中球の破壊速度が産生速度を上回ります。自己免疫疾患では、好中球を破壊する抗体がつくられて好中球減少症になることがあります。脾腫になると、腫大した脾臓が好中球を取り込んで破壊するため、好中球の数が減少する可能性があります。

癌、インフルエンザなどのウイルス感染症、結核などの細菌感染症、骨髄線維症、ビタミンB12欠乏症、葉酸欠乏症などの一部の患者にみられるように、骨髄でつくられる好中球の数が低下した場合にも好中球減少症が発生します。放射線療法が骨髄に及んだ場合も、好中球減少症になることがあります。特定の毒性物質(ベンゼンや殺虫剤)と同様に、フェニトイン、クロラムフェニコール、サルファ薬や、癌治療(化学療法)に用いられる多くの薬も、好中球をつくる骨髄の能力を妨げることがあります。

 

再生不良性貧血(骨髄がすべての血球をつくらなくなる病気)と呼ばれる重い病気でも、骨髄でつくられる好中球の数が影響を受けます。ある種のまれな遺伝性疾患でも、好中球が減少します。

 

症状と診断

急性の好中球減少症は、数時間から数日のうちに突然発症します。慢性の場合は、数カ月から数年にわたって徐々に進行します。好中球減少症自体に特有な症状はないため、多くは感染症にかかったときに発見されます。急性の好中球減少症では、熱が出て、口や肛門の周りに痛みを伴うびらん(潰瘍)が発生することがあります。続いて、細菌性肺炎など重症の感染症を起こすこともあります。慢性好中球減少症では、好中球が極端に少ない場合以外はあまり重症になりません。また、断続的に発症することもあります(周期性好中球減少症)。

感染が頻発したり、まれな感染が起きたりした場合は、好中球減少症が疑われるため、全血球計算を実施して診断を下します。好中球の数が少ないことは、好中球減少症を意味します。化学療法や放射線療法を受けている場合と同じように、多くの場合、好中球減少症は予測されており、その原因も明らかです。原因が不明の場合は調べる必要があります。

通常は針を刺して骨髄の組織を採取します。この組織を顕微鏡で観察し、組織像や好中球幹細胞の数、好中球の成熟や増殖が正常かどうかを調べます。幹細胞の数が減少していないか、正常に成熟しているかどうかを判定することで、原因が好中球産生の欠陥にあるのか、あるいは血液中に寿命を過ぎた好中球や破壊された好中球の数が多すぎるのかを判定できます。白血病などの癌や、結核などの感染症といった別の病気が骨髄に影響を与えていることが骨髄検査でわかることもあります。

 

治療

好中球減少症の治療は、その原因と重症度によって異なります。可能であれば好中球減少症の原因と考えられる薬の使用は中止し、疑わしい毒性物質があれば接触を避けます。治療をしなくても、骨髄自体の働きが回復することもあります。インフルエンザなどのウイルス感染に伴う好中球減少症は一時的なものであり、感染症が治ると回復します。軽度の好中球減少症は一般に症状がなく、治療の必要はありません。

重度の好中球減少症の人が感染を起こすと、侵入した微生物を防ぐことができないため、急速に重症化します。このような人が感染症にかかった場合は入院して、感染の原因や正確な部位がわかっていなくても、ただちに強い抗生物質を投与するのが一般的です。好中球減少症の

人に発熱がある場合、通常は感染を意味するので、すぐに治療を受ける必要があります。

治療には、白血球の産生を促進するコロニー刺激因子と呼ばれる増殖因子が有効な場合があります。自己免疫反応が原因の場合は、コルチコステロイド薬が役に立ちます。再生不良性貧血などの病気がある場合は、抗胸腺細胞グロブリンや、他の免疫系の活動を抑える治療薬を使用することがあります。脾機能亢進に伴う好中球減少症では、腫大した脾臓を摘出することで治癒が期待できます。

 

他の病気(結核、白血病、その他の癌など)で好中球減少症が発生した場合は、原因となっている病気を治療することで回復する可能性があります。骨髄(つまり幹細胞)移植は、好中球減少症自体の治療には使用されませんが、再生不良性貧血や白血病など、好中球減少症の重大原因となる特定の病気を治療するために推奨されることがあります。

 

 

 

リンパ球減少症

 

リンパ球減少症とは、血液中のリンパ球数が異常に少なくなった状態をいいます。

 

多くの病気で血液中のリンパ球数の減少がみられることがありますが、最も多いのはエイズや栄養失調です。

症状がまったくみられない人もいれば、発熱などの感染症状がみられる人もいます。

血液サンプルを採取して、リンパ球減少症の診断を下しますが、その原因を確定するには骨髄やリンパ節のサンプルが必要になる場合もあります。

リンパ球減少症の原因となる病気を治療します。

ガンマグロブリンを投与することもあり、幹細胞移植で効果が得られる場合もあります。

リンパ球は血液中にある全白血球の20~40%を占めています。リンパ球数の正常値は、成人で血液1マイクロリットルあたり1,500個以上、小児で3,000個以上です。リンパ球数が減少しても、白血球の総数が大きく低下しないことがあります。

エイズの原因ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス(HIV)による感染など、さまざまな病気や病状によって血液中のリンパ球の数が減少することがあります。また、飢餓状態、強いストレスを受けたとき、コルチコステロイド薬(プレドニゾロンなど)を使用しているとき、癌の化学療法や放射線療法を受けているときなどにも、リンパ球の数は一時的に減少することがあります。特定の遺伝性疾患(遺伝性免疫不全疾患)では、重度のリンパ球減少症が発生することがあります。

 

リンパ球には大きく分けて、Bリンパ球、Tリンパ球、ナチュラルキラー細胞という3種類があり、いずれも免疫系で重要な働きを担っています。Bリンパ球が少なすぎると、形質細胞が減少し、抗体の産生が低下します。Tリンパ球またはナチュラルキラー細胞が少なすぎると、特にウイルス、真菌、寄生虫などの感染を制御しにくくなります。重度のリンパ球減少症があると感染を制御できなくなり、命にかかわることがあります。

 

 

リンパ球減少症の原因

エイズ

癌(白血病、リンパ腫、ホジキンリンパ腫)

慢性感染症(粟粒結核など)

遺伝性疾患(特定の無ガンマグロブリン血症、ディ・ジョージ奇形、ヴィスコット‐オールドリッチ症候群、重症複合免疫不全症候群、毛細血管拡張性運動失調症)

関節リウマチ

一部のウイルス性感染症

全身性エリテマトーデス(ループス)

 

症状と診断

軽度のリンパ球減少症では症状がみられないことがあり、通常は、他の理由で全血球計算を行ったときに偶然発見されます。リンパ球が急激に減少した場合は、細菌、ウイルス、真菌、寄生虫などの感染を起こしやすくなります。

リンパ球が急激に減少した場合、通常は骨髄組織を採取して顕微鏡で観察します(骨髄生検)。Tリンパ球、Bリンパ球、ナチュラルキラー細胞などリンパ球の種類別に数を調べることもできます。特定の種類のリンパ球が減少している場合は、エイズや特定の遺伝性免疫不全疾患のような病気を診断する手がかりになることもあります。

 

治療

治療方法は主に原因に基づいて決定されます。薬剤が原因のリンパ球減少症は、その薬の使用を中止すれば、普通は数日間で治ります。エイズが原因の場合は、少なくとも3種類の抗ウイルス薬を組み合わせて使用することにより、Tリンパ球が増加して生存率が向上します。

ガンマグロブリン製剤(抗体を豊富に含む製剤)は、Bリンパ球が少なすぎる(そのため、つくられる抗体が欠乏している)場合に感染予防として投与されることがあります。先天性免疫不全症では、骨髄(幹細胞)移植で効果が得られることがあります。感染を起こした場合は、その感染性微生物を対象とした特定の抗生物質、抗真菌薬、抗ウイルス薬、抗寄生虫薬が投与されます。

 

 

 

 

真性赤血球増加症

 

真性(原発性)赤血球増加症とは、骨髄中の造血細胞の異常により、赤血球が過剰産生される病気です。

 

原因は不明です。

疲労感や脱力感を覚えたり、ふらつきや息切れを感じたりすることがあります。

診断には血液検査を行います。

瀉血(しゃけつ)という処置を行って、過剰な赤血球を抜き取ります。

真性赤血球増加症では、赤血球が多くなって血液の量が増えて粘性が強くなり、細い血管を通過しにくくなります。脾臓や肝臓で過剰な血球が産生されることもあります。

真性赤血球増加症は、成人10万人あたり約2人が発症します。診断時の平均年齢は60歳で、20歳未満の若い人が発症することはまれです。女性より男性に多くみられます。原因は不明です。

 

症状と合併症

一般に、症状は何年も現れません。通常、最も初期にみられる症状は、脱力感、疲労感、頭痛、ふらつき、息切れ、寝汗などです。視界がゆがんで見えることがあり、暗点が生じたり、閃光が見えたりすることもあります。歯ぐきから出血したり、小さな傷から予想以上に出血したりすることもよくあります。特に顔などの皮膚に赤みが出ることもあります。特に風呂やシャワーの後などでは、体中にかゆみが出る場合もあります。手足に灼熱感を感じたり、まれに骨の痛みを感じたりすることもあります。

血液凝固が原因で最初の症状が現れることもあります。血栓は、腕、脚、心臓(心臓発作を起こす)、脳(脳卒中を起こす)、肺などの血管のほとんどどこにでもできる可能性があります。肝臓から血液が流れ出す血管が血栓により塞がれることもあります(バッド・キアリ症候群)。

血液中に血小板(血液の凝固に必要な細胞に似た粒子)の数が増加する人もいます。肝臓や脾臓が血球をつくり始めるようになって腫れてくることがあります。脾臓は血液中から赤血球を取り除く際にも腫れてきます。肝臓や脾臓が腫れると、腹部に膨満感を感じるようになります。肝臓や脾臓の血管に血栓ができると、突然激しい痛みが生じます。

赤血球増加症の合併症には、胃潰瘍(いかいよう)、痛風、腎臓結石などがあります。まれに、真性赤血球増加症が白血病に進行することもあります。

 

診断

真性赤血球増加症は、症状が現れる前でも、他の理由で通常の血液検査を受けたときに見つかることがあります。ヘモグロビン(酸素を運ぶ赤血球中のタンパク質)の量とヘマトクリット値(血液の全容積に占める赤血球の割合)が異常に高くなります。血小板や白血球も増加することがあります。

ほとんどの場合、ヘマトクリット値が高いのは、真性赤血球増加症を示していると考えられています。しかし、ヘマトクリット値の結果だけを基に診断を下すことはできません。そのため、診断の補助として、赤血球に放射性物質で目印を付けて、体内にある赤血球の総数(赤血球量)を測定する検査を行うこともあります。

赤血球量の増加(赤血球増加症)が確認されたら、それが真性赤血球増加症なのか、あるいは別の病気による赤血球増加症(二次性赤血球増加症)なのかを判別しなければなりません。真性赤血球増加症と二次性赤血球増加症の判別には病歴が手がかりになりますが、さらに検査しなければならないこともあります。

血液中のエリスロポエチンという、骨髄を刺激して赤血球を産生させるホルモンの量を測定することもあります。エリスロポエチンの値は、真性赤血球増加症ではきわめて低くなりますが、二次性赤血球増加症では正常か、高くなることが多いものの、そうでない場合もあります。

まれですが、肝臓や腎臓にできた嚢胞(のうほう)や、腎臓や脳にできた腫瘍がエリスロポエチンを産生することがあり、このような場合は、エリスロポエチンの値が高くなって、二次性赤血球増加症を発症することがあります。

骨髄組織を採取して顕微鏡で検査する方法(骨髄生検)も、真性赤血球増加症の診断に役立つことがあります。

 

予後(経過の見通し)と治療

症状を伴う真性赤血球増加症を治療せずにいると、約半数が2年以内に死に至ります。治療した場合の平均生存期間は15~20年です。

治療しても、真性赤血球増加症は治癒しませんが、病気をコントロールすることによって、血栓形成など合併症のリスクを減らすことはできます。赤血球の数を減らすことが治療の目的になります。通常は、瀉血と呼ばれる処置によって、献血のときと同じ様な方法で血液を抜き取ります。ヘマトクリット値が正常に戻るまで、1日おきに約500 ccの血液を抜き取ります。その後、ヘマトクリット値を正常に保つために必要であれば、数カ月おきに血液を抜き取ります。

瀉血を行うと血小板の数が増加することがあり、腫大した肝臓や脾臓を小さくする効果はありません。このため、瀉血を行う場合は、赤血球と血小板の産生を抑える薬が必要になります。ヒドロキシ尿素という化学療法薬がよく使用されますが、この薬を何年にもわたって使用すると、白血病へ移行するリスクが高まるかもしれないという心配があるものの、このリスクは証明されたわけではありません。長期にわたる治療が必要となる可能性がある若い人に対しては、インターフェロンアルファやアナグレリドといった血小板を減らす作用のある薬を代わりに使用することもあります。放射性リンを静脈内投与する場合もありますが、白血病に移行する可能性があるため、この種の治療は70歳を超えた人に限られます。小児用アスピリンにより、血液凝固のリスクが低下することが明らかにされています。

症状を抑えるのに役立つ薬もあります。たとえば、抗ヒスタミン薬は、かゆみの軽減に役立つことがあり、アスピリンは、骨の痛みに加え、手足の灼熱痛も軽減させることがあります。

 

 

他の赤血球増加症について

 

真性赤血球増加症(文字通り真実の多血症を意味します)は、原発性赤血球増加症の一種としても知られています。原発性とは、この赤血球増加症が他の病気によって発生したものではないという意味です。

先天性赤血球増加症は出生時にみられ、通常は遺伝性疾患により発症します。一般に、出生後の早い時期に症状がみられる場合や家族歴がある場合に診断が下されます。特定の遺伝性疾患を突き止める場合のように、ある種の血液検査が診断に役立つことがあります。

二次性赤血球増加症は酸素欠乏によって引き起こされ、たとえば、喫煙、重い肺疾患、心疾患などが原因となることがあります。二次性赤血球増加症で赤血球の濃度が高くなるのは、血液中のエリスロポエチンの値が実質的に増加するためです。高地に住んでいる場合など、酸素濃度が低い環境に長時間いる人が赤血球増加症になることもありますが、真性赤血球増加症にはなりません。

二次性赤血球増加症は酸素によって治療できます。喫煙者であれば禁煙が勧められ、禁煙を支援する治療が行われます。酸素欠乏をもたらす元になっているすべての障害と二次性赤血球増加症を、できるだけ有効に治療します。赤血球数を減らすために瀉血(血液を抜き取ること)が行われます。

相対的赤血球増加症で、赤血球の濃度が高くなるのは、液体成分(血漿)の量が異常に少なくなるためです。血漿が少なくなる原因としては、やけど、嘔吐、下痢、水分摂取不足、利尿薬(腎臓からの塩分や水分の排出を促進する薬)の使用などが考えられます。相対的赤血球増加症は、水分を経口摂取か点滴で補ったうえで、血漿の量を少なくしている原因を解消することによって治療します。

 

 

 

再発性多発軟骨炎

 

再発性多発軟骨炎は、軟骨組織や多数の器官の結合組織に生じる痛みを伴った破壊的な炎症を特徴とする病気です。

 

耳や鼻に炎症が起きたり、圧痛がみられます。

体内のほかの軟骨に損傷が起きることもあり、眼の充血と痛み、しわがれ声、せき、呼吸困難、発疹、胸骨の痛みなど、さまざまな症状が引き起こされます。

血液検査を行うほか、組織の一部を採取して顕微鏡で観察する検査(生検)を行うこともあります。

症状または合併症が中等度ないし重度である場合には、通常はコルチコステロイド薬が役立ちます。

この病気に男女差はなく、普通は中年期に発症します。原因は不明ですが、軟骨組織に対する自己免疫反応が疑われています。

 

症状

典型的な症状としては、片側または両側の耳が赤く腫れ、強い痛みも伴います。それと同時かその後に軽度から重度の関節の炎症(関節炎)が発生します。全身のどの関節にある軟骨もおかされる可能性があり、肋骨と胸骨をつないでいる軟骨に炎症が起きやすくなります。鼻の軟骨も炎症がよくみられる部位です。鼻に圧痛が生じたり、軟骨がつぶれたりすることもあります。

上記以外におかされる部位としては、眼(眼の白い部分の炎症である強膜炎が起きる)と喉頭および気管(しわがれ声、痰を伴わないせき、息切れ、のどぼとけの圧痛を引き起こす)があります。まれに角膜に穴があき(穿孔)、失明に至る場合もあります。さらにまれですが、心臓がおかされることで心雑音が発生したり、ときには心不全を起こす場合もあります。皮膚に炎症が起きる場合もあり、さまざまな発疹が出現します。

炎症と痛みの再燃が数週間ほど続いてから鎮静化し、この過程が数年間にわたって繰り返されます。最終的には、各器官の構造を支えている軟骨組織がおかされる結果、耳が垂れ下がったり、鼻すじが変形したりするほか、視覚、聴覚、平衡感覚に問題が発生するようになります。

再発性多発軟骨炎の患者は、変形した軟骨組織によって気道がつぶれて気流が遮断されたり、心臓や血管がひどい損傷を受けると、死亡することがあります。

 

診断と治療

長期間の間に以下の症状のうち少なくとも3つが認められると、再発性多発軟骨炎であると診断されます。

両耳の炎症

複数の関節の痛みを伴った腫れ

鼻の軟骨の炎症

眼の炎症

気道内にある軟骨の損傷

聴覚や平衡感覚の異常

 

おかされている軟骨の生検で特徴的な異常が確認されることがあります。赤血球沈降速度(ESR)などの血液検査では慢性的な炎症の存在が証明されます。

軽症の再発性多発軟骨炎は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)やダプソンによって治療可能です。より重症の場合には、プレドニゾロンを毎日使用した後、症状が改善されしだい、少しずつ減量していきます。非常に重度の症例では、ときにシクロスポリンやシクロホスファミド、アザチオプリンなどの免疫抑制薬で治療されます。これらの薬剤は症状を抑えますが、この病気の最終的な経過を変えることは示されていません。

 

 

 

致死性家族性不眠症

 

致死性家族性不眠症は、初期の頃は、目覚めに熟睡感を得られなくなったり、夜間も昼間も眠ることができなくなったりといった症状が出ます。記憶力が落ち、幻覚が見えることもあります。夜になると興奮するようになり、交感神経にも変化が現れます。血圧が上がる、呼吸が荒くなる、汗の量が増えるなどの変化です。症状が進むと、認知症を発症したり筋肉の痙攣が起きたり、関節が動かなくなったりなどで寝たきり状態になり、衰弱や肺炎で亡くなるケースがあります。

 

致死性家族性不眠症の原因となるのは、プリオン蛋白という蛋白質です。プリオン蛋白の遺伝子に異常が生じて増加することによって、脳に蓄積され、脳神経細胞の機能にダメージを与えると考えられています。遺伝子が原因である遺伝性疾患の一つであるため、親から子供へと遺伝します。ただし、優性遺伝子により遺伝子変異が起こり、異常な蛋白質が作られて症状が出る常染色体優性遺伝による親子遺伝であるため、全ての子供に、同じように遺伝するというわけではありません。

 

致死性家族性不眠症の検査は、一般的に、CTやMRIを使用し、大脳や小脳が小さく萎縮していないかを診察をします。CTやMRIでは検出不可能な異常を見つけるために、アイソトープによるPET検査を行う場合もあります。致死性家族性不眠症には、脳の中央にある視床内の脳細胞が機能しなくなる症状があるため、PET検査により視床の活動が低下していないかを検査します。遺伝子の変異が要因と考えられているため、遺伝子検査を行うこともあります。遺伝子検査では、プリオン蛋白に異常がないかの確認を行います。

 

致死性家族性不眠症の治療方法は、病気自体に謎が多く残っているため、まだ確立されていません。初期の症状で出る睡眠異常に関して、睡眠を誘発する睡眠薬を使用しても、睡眠を誘発する機能自体が壊れてしまっているため、効果がありません。症状が進行してからは、体力の衰弱を少しでも防ぐために、栄養補給を行ったり、感染症を予防したりといった対応のみとなっています。