高血圧

体の血圧調節

 

体は血圧をコントロールする多くの機構を持っています。体は心臓から送り出される血液の量や動脈の直径、血管内の血液の量を変化させることができます。血圧を上昇させるために、心臓は強く速く拍動して、多量の血液を送り出します。細動脈は縮んで狭くなることで、拍動ごとに普通よりも狭くなった内腔に血液が通るようになります。動脈の内腔が狭くなると、普通と同じ量の血液が通っても血圧は上昇します。また、静脈が収縮して静脈内の血液量を減らし、動脈内の血液量を増やします。その結果、血圧は上昇します。血流中に体液が入り、血液の容量が増えることによっても、血圧は上昇します。これらとは逆に、心臓が弱く遅く拍動したり、細動脈や静脈が拡張したり、血流から体液が失われると、血圧は低下します。

これらのしくみを調節しているのは、無意識下に体内の代謝などを調節する神経系である自律神経のうちの交感神経と腎臓です。何らかの脅威に対する体の生理的反応である「攻撃-逃避反応」が起こると、交感神経はいくつかの方法で一時的に血圧を上昇させます。交感神経は副腎を刺激してエピネフリン(アドレナリン)とノルエピネフリン(ノルアドレナリン)というホルモンを放出させます。これらのホルモンの刺激によって、心臓の拍動は速く強くなり、ほとんどの細動脈が収縮し、一部の細動脈は拡張します。拡張する細動脈は、意識的に動きを調節できる骨格筋など、血液の供給量を増やす必要がある部位の血管です。また交感神経は、腎臓を刺激して塩分(ナトリウム)と水分の排出量を減らし、血液量を増やします。体は細胞内の塩分が過剰になるのを防ぐため、細胞における塩分の出入りをコントロールします。細胞内の塩分量が過剰になると、体が交感神経の刺激に対して敏感になりすぎる可能性があるためです。

 

腎臓も血圧の変化に直接的に反応します。血圧が上昇すると腎臓が塩分と水分の排出量を増やすので、血液量が減り、血圧は正常に戻ります。逆に血圧が低下すると、腎臓が塩分と水分の排出量を減らすため、血液量が増え、血圧は正常に戻ります。腎臓は、レニンという酵素を分泌し、アンジオテンシンⅡというホルモンの産生を引き起こすことで血圧を上昇させます。アンジオテンシンⅡは、自律神経系の交感神経を刺激し、細動脈を収縮させ、さらにアルドステロンと抗利尿ホルモン(バソプレシン)という、腎臓の塩分と水分の保持量を増加させる2種類のホルモンの放出を誘発することによって、血圧を上昇させます。通常、腎臓は腎臓内の細動脈を拡張させる物質をつくります。この物質により、細動脈を収縮させるホルモンの働きが調節されます。

 

 

血管の内壁には、血液が流れることによって圧力がかかります。この圧力を「血圧」といい、心臓が収縮することで血液が勢いよく血管へ送り出されるときの血圧を「収縮期血圧(最高血圧)」、全身から戻ってきた血液で心臓が拡がったときの血圧を「拡張期血圧(最低血圧)」といいます。

血圧を測る際には、2つの数値を記録します。高い方の数値は動脈内圧が最も高い状態を反映しており、心臓が収縮している収縮期に生じます。低い方の数値は動脈内圧が最も低い状態を反映しており、心臓が再び収縮し始める直前の拡張期に生じます。血圧は「収縮期血圧/拡張期血圧」という形式で表示します。たとえば、収縮期血圧が120mmHgで拡張期血圧が80mmHgの場合は、「120/80mmHg」と表示します。

 

血圧の制御:

レニン‐アンジオテンシン‐アルドステロン系

 

 

レニン‐アンジオテンシン‐アルドステロン系は、血圧を調整するための一連の反応です。

収縮期血圧が100mmHg以下に低下すると、腎臓からレニンという酵素が血液中へ放出されます。

レニンは、血流中を循環している大きなタンパク質、アンジオテンシノーゲンを分解します。分解されたタンパク質の1つはアンジオテンシンIといいます。

アンジオテンシンIは比較的活性が低く、アンジオテンシン変換酵素(ACE)によって分解されます。分解されたものの1つが、非常に活性の高いアンジオテンシンIIというホルモンです。

アンジオテンシンⅡは、細動脈の筋肉壁を収縮させ、血圧を上昇させます。またアンジオテンシンⅡは、副腎からアルドステロンというホルモンを放出させ、下垂体から抗利尿ホルモンを放出させます。

 

アルドステロンは、腎臓に働きかけ、塩分(ナトリウム)を保持させ、カリウムを排出させます。ナトリウムは水分を貯留させるため、血液量が増加して血圧が上昇します。

急激な運動や強い情動などの何らかの変化で血圧が一時的に上昇する際、普通は変化に拮抗し、血圧を正常な数値に保つために体の代償機序の1つが誘発されます。たとえば、心臓が送り出す血液量が増加して血圧が上昇すると、血管が拡張し、腎臓での塩分と水分の排出量が増えて血圧が低下します。

 

 

症状

高血圧ではほとんどの人に何も症状がみられません。頭痛、鼻血、めまい、顔面の紅潮、疲労などの症状が同時に生じると高血圧が原因とみなされることがよくありますが、それは間違いです。これらの症状は高血圧の人にもみられますが、正常な血圧の人にも同じくらいの頻度でみられます。

重症なまたは長期間続いている高血圧を治療しないでいると、脳、眼、心臓、腎臓が障害され、症状が出てきます。症状は、頭痛、疲労感、吐き気、嘔吐、息切れ、不安感などです。悪性高血圧の人では、重症の高血圧により網膜(眼球後方の内壁を覆う、光に反応する膜)の出血や腫脹が生じ、それによりかすみ眼になります。ときに、重度の高血圧では脳浮腫が生じ、吐き気、嘔吐、ひどい頭痛、傾眠、錯乱、けいれん、眠気がみられ、昏睡に至ることもあります。この状態を高血圧性脳症といいます。悪性高血圧や高血圧性脳症は高血圧緊急症の一種であり、緊急の治療が必要です。

褐色細胞腫による高血圧では、ひどい頭痛、不安感、速いあるいは不規則な拍動の自覚(動悸)、異常な発汗、ふるえ、蒼白などがみられます。これらの症状は、褐色細胞腫によって分泌されたエピネフリンとノルエピネフリンの血液中の濃度が高くなったために現れます。

 

 

 「高血圧」とは、慢性的に血圧が高い状態が続くものをいいます。

「本態性高血圧」と「二次性高血圧」の2つの種類があります。

「二次性高血圧」は腎臓の病気などが原因となって起こりますが、「本態性高血圧」は原因となる病気が特定されない高血圧で、日本人の高血圧の約9割が「本態性高血圧」といわれています。

 

高血圧の85~95%は原発性高血圧(以前は本態性高血圧)です。心臓と血管に生じたいくつかの変化が組み合わさって、血圧を上昇させると考えられます。たとえば、1分間に送り出される血液の量(心拍出量)が増えたり、血管の収縮によって、血流にかかる抵抗が増加したりすることによります。全体の血液量が増加することもあります。このような変化が起こる原因はまだよくわかっていませんが、先天性の異常によって血圧を調節する細動脈の収縮が妨げられるためではないかと考えられています。血圧の上昇にかかわると思われるその他の変化には、細胞内への塩分の過剰な蓄積や細動脈を拡張させる物質の生産量の減少などがあります。

 

高血圧の大部分を占める本態性高血圧は、加齢や遺伝的要因が関係するとともに、生活習慣が深く関わっていることがわかっています。  そのなかでも、塩分のとりすぎが最大の危険因子であることは間違いありません。さらに喫煙者、肥満の人、運動不足の人、お酒をよく飲む人、ストレスの多い人などは、高血圧になりやすいといえます。  また、高血圧をはじめとする生活習慣病は、互いに影響し合い、複数を合併しやすいので、糖尿病や脂質異常症などがあると、高血圧にもなりやすくなります。なかでもとくに脂質異常症は、動脈硬化を進行させる大きな原因となるため、高血圧も進みやすくなります。

 

 

二次性高血圧:

原因の明らかな高血圧は、二次性高血圧と呼ばれます。高血圧の5~15%は二次性高血圧です。二次性高血圧の多くは、腎疾患によるものです。腎臓は血圧の調節に重要な器官なので、多くの腎疾患が高血圧を引き起こします。たとえば、腎臓が炎症やその他の障害により損傷すると、体から塩分や水分を十分除去する能力が損なわれ、血液量と血圧が上昇します。

 

 

高血圧の危険因子

塩分のとりすぎ

喫煙

肥満

運動不足

多量の飲酒

ストレス

糖尿病

脂質異常症

遺伝的要因

 

診断

患者に座るか横になってもらい、5分ほどたってから血圧を測定します。特に高齢者や糖尿病の患者の場合は、その後、数分間立ったままでいてもらい、それからもう一度測定する必要があります。結果が140/90mmHg以上の場合、血圧が高いと考えられますが、1回高い数値が出ても、それだけで高血圧と診断することはできません。数値が非常にばらつくことがあるので、数回高い数値が得られても高血圧との診断を下すのに十分とはいえない場合があります。最初の測定で高い数値が出た場合は、少し時間をおいてもう1回測り、さらに少なくとも別の2日に、それぞれ2回ずつ測定し、血圧の高い状態が続いているかどうか確認します。

 

ほとんどが高齢者の場合ですが、動脈が非常に硬く、血圧が本来の値より高めに出ることがあります。このような現象を偽性高血圧と呼びます。これは腕の動脈が硬すぎてカフで圧迫できないために起こり、正確な血圧は測定できません。

高血圧との診断がついた後、通常は特に血管、心臓、脳、眼、腎臓など、主要な臓器に対する高血圧の影響を評価します。高血圧の原因も調べます。損傷している臓器を探したり、高血圧の原因を突き止めるために、実施される検査の数や種類は患者ごとに異なります。一般的にすべての高血圧患者に行われている検査は、病歴の聴取、診察、心電図検査(ECG)、血液検査(ヘマトクリット値、カリウムおよびナトリウム濃度、腎機能検査を含む)、尿検査などです。

診察では、腹部の腎臓のあたりに圧痛がないか確認し、聴診器を腹部にあてて、腎臓に血液を供給する動脈内に、狭くなった動脈を通って血液が勢いよく流れる際に生じる雑音が聞こえるかどうかを調べます。

両眼の網膜を検眼鏡で検査します。網膜は、医師が直接、高血圧が細動脈に与える影響を観察できる唯一の部位です。網膜の細動脈でみられる変化は、腎臓など、体の他のあらゆる部位の血管の変化と似ていると考えられています。網膜の損傷(網膜症)の程度を特定することで、医師は高血圧の重症度を分類することができます。

心音を聞くために聴診器を使用します。第4音と呼ばれる異常な心音は、高血圧によって心臓に生じる早期症状の1つです。この音は、肺を除く全身に血液を送り出す左心室が拡大して硬くなり、そこに血液を満たすために左心房が激しく収縮するために生じます。

心臓の変化、特に心筋の肥厚(肥大)や心拡大を検出するには、通常は心電図検査(ECG)を行います。心拡大が疑われる場合は、心エコー検査を行う場合もあります。

 

腎障害は尿検査と血液検査から検出できます。尿検査から腎障害の初期の徴候を検出できます。尿から血球とアルブミン(血液中に最も多く含まれるタンパク質)がみつかった場合、腎障害の可能性があります。傾眠、食欲不振、疲労感などの腎障害を示す症状は、腎機能の70~80%が失われるまで普通は現れません。

 

原因の診断:

高血圧の原因を特定できるのは全体の10%未満にすぎませんが、血圧が高い人ほど、また年齢が若い人ほど、原因の探索のためにさまざまな検査が行われます。その検査とは、腎臓および腎臓に血液を供給する血管に対するX線検査、超音波検査、核医学画像検査、胸部X線検査などです。エピネフリン、アルドステロン、コルチゾールなどの特定のホルモンを検出するための血液検査および尿検査も行います。

診察での異常な所見や症状によって、原因を推定できる場合があります。たとえば、腎臓に血液を供給する動脈内の雑音は、腎動脈狭窄症を示す可能性があります。さまざまな症状が同時にみられる場合、褐色細胞腫が分泌したエピネフリンとノルエピネフリンというホルモンの血中濃度が高くなっている可能性があります。褐色細胞腫の存在は、これらのホルモンの代謝産物が尿中から検出されたときに確認されます。特定の検査を定期的に実施することで、高血圧の他のまれな原因が検出できることがあります。たとえば、血液中のカリウム濃度の測定は、高アルドステロン症の検出に役立ちます。

 

 

成人における血圧の分類

血圧は重症度によって分類されます。これは高血圧の治療が、ある程度はその重症度に基づいて行われるためです。収縮期血圧と拡張期血圧が異なる血圧群にあてはまる場合は、高い方の血圧群に分類します。たとえば、150/88mmHgはI度高血圧、150/105mmHgはII度高血圧です。

心臓発作や心不全などの心血管系疾患や脳卒中のリスクを最低限に抑える最も理想的な血圧は、115/75mmHg未満です。

 

血圧群

収縮期血圧(mmHg)

拡張期血圧(mmHg)

経過観察の必要性

正常血圧

120未満

80未満

血圧を2年以内に再測定。

正常高値血圧

120~139

80~89

血圧を1年以内に再測定し、生活習慣の改善に向けた指導を受ける。

I度高血圧

140~159

90~99

2カ月以内に高血圧かどうかを確認し、生活習慣の改善に向けた指導を受ける。

II度高血圧

160以上

100以上

1カ月以内に医療機関を受診するか、治療を始める。血圧が高い患者(例:180/110mmHg以上)については、患者の状態によってただちに、または1週間以内に診察または治療を実施する。

 

治療

原発性高血圧を治癒させることはできませんが、合併症を防ぐための治療は可能です。高血圧自体には症状がないので、医師は副作用が生じたり、日常生活に悪影響を及ぼすような治療は避けます。普通は薬を処方する前に、薬物以外の方法を試みます。しかし、血圧が160/100mmHg以上のすべての人や、血圧が120/80mmHg以上で糖尿病、腎障害、命にかかわる臓器の障害やその他の冠動脈疾患の危険因子を持つ人の場合、通常は薬物以外の方法と同時に薬物療法も開始します。

太りすぎの高血圧患者は、体重を減らすように指示されます。4.5キログラムほど体重を落とせば、血圧は下がります。肥満の人や糖尿病の人、コレステロール値が高い人では、心血管系の疾患のリスクを下げるために、食事療法(果物や野菜が豊富で、飽和脂肪や総脂肪含有量が少ない低脂肪乳製品による食事)が重要です。喫煙者は、禁煙の必要があります。

カルシウム、マグネシウム、カリウムの摂取量を十分に維持しながら、アルコールと塩(ナトリウム)の摂取量を減らすことによって、高血圧の薬物療法が不要になることもあります。毎日の飲酒量は、男性は2単位以内(1日分の合計がビールの場合は約1リットル、ワインでは約240ミリリットル、アルコール分50%のウイスキーなどでは約60ミリリットル)、女性は1単位以内にすべきです。毎日の食塩摂取量は2.5グラム未満に、塩化ナトリウムでいえば6グラム未満にする必要があります。

中程度の有酸素運動も効果があります。原発性高血圧の人の場合は、血圧が調節できていれば運動を制限する必要はありません。定期的な運動は血圧を下げ、体重を減らし、心機能と全身の健康を改善する効果があります。

高血圧の人は、自宅で血圧を測定するように指示されます。自分で血圧を測ることが、治療に関する医師の指示に積極的に従う動機づけとなるからです。

 

薬物療法:

高血圧の治療に使われる薬は降圧薬と呼ばれています。降圧薬にはいろいろな種類があり、高血圧のほとんどを制御することができますが、治療は患者一人ひとりに適した方法で行う必要があります。患者と医師が十分なコミュニケーションをとり、協力して治療プログラムを実行できれば、治療効果も高まります。

降圧薬治療の目標は、血圧を140/90mmHg未満に下げることです。糖尿病や腎障害の人の目標値は130/80mmHg未満です。冠動脈疾患や狭心症の人の目標値も130/80mmHg未満とする専門家もいます。医師は拡張期血圧が65mmHg未満にならないように努め、特に高齢者や冠動脈疾患または狭心症の患者の場合には注意します。

降圧薬の血圧を下げるしくみは、薬の種類によって異なるため、多くの異なる治療戦略が可能です。患者によっては段階的な薬物療法を行う場合があります。これは、まず1種類の降圧薬で治療を始め、必要に応じて他の降圧薬を加えていく方法です。また、別の患者には逐次的な薬物療法が望ましいと判断することがあります。これは、まず1種類の降圧薬を処方し、効果がなければ中止し、別の種類の降圧薬を処方する方法です。血圧が160/100mmHg以上の患者の場合、通常2種類の降圧薬を同時に処方します。降圧薬を選ぶ際、医師は以下のような要因を考慮します。

 

患者の年齢、性別および人種

高血圧の重症度

糖尿病や高コレステロール血症など他の病気の有無

薬ごとに異なる副作用の可能性

薬の価格や特定の副作用を調べるための検査にかかる費用

 

大部分の患者(74%以上)は、目標値まで血圧を下げるために最終的に2種類以上の降圧薬を必要とします。

大部分の患者は処方された降圧薬を問題なく飲むことができます。しかし、どの降圧薬にも副作用が生じる可能性はあります。もし副作用が起こったら、患者はすぐに主治医に報告すべきです。医師は、薬の投与量を調節したり、他の薬に変えるなどの対策をとります。たいていの場合、降圧薬は血圧を調節するために無期限に服用し続ける必要があります。

サイアザイド系利尿薬は、高血圧の治療で最初に使用されることの多い薬です。利尿薬には血管を拡張させる働きがあります。また、腎臓が塩分と水分を排出するのを促し、体内の液体量を減らすことで血圧を低下させます。サイアザイド系利尿薬はカリウムを尿中に排出するため、カリウムのサプリメントやカリウムの排出を起こさない利尿薬、カリウム濃度を上昇させるカリウム保持性利尿薬などを一緒に服用することが必要な場合もあります。たいてい、カリウム保持性利尿薬は、血圧を調節する効果がサイアザイド系利尿薬より劣るため、単独で使用することはありませんが、スピロノラクトンというカリウム保持性利尿薬は場合により単独で使用されます。利尿薬は、特に黒人、高齢者、肥満の人、心不全の人、慢性腎不全の人に有用です。

アドレナリン遮断薬には、アルファ遮断薬、ベータ遮断薬(ベータ・ブロッカー)、アルファ-ベータ遮断薬、末梢作用性アドレナリン遮断薬があります。これらの薬は、血圧を上昇させることによって、ストレスに素早く反応する交感神経系の働きを遮断します。最も一般的に使用されているアドレナリン遮断薬はベータ遮断薬で、特に白人、若年者、心臓発作の経験者、心拍数の多い人、狭心症(心筋への血液の供給不足による胸痛)の人、片頭痛の人に有効です。

副作用の危険性は、高齢者ほど高くなります。アルファ遮断薬は、死亡のリスクを減らさないため、現在では主要な治療薬としては使われていません。末梢作用性アドレナリン遮断薬は、通常は血圧のコントロールに第3、第4の薬剤が必要な場合にのみ使用されます。

中枢作用性アルファ作動薬は、アドレナリン遮断薬と似たしくみで血圧を低下させます。中枢作用性アルファ作動薬は、脳幹にある特定の受容体を刺激することによって交感神経系の働きを抑制します。これらの薬は、現在使用されることはまれです。

アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬は、細動脈の一部を拡張させることにより、血圧を低下させます。この薬は、細動脈を収縮させるアンジオテンシンⅡの生成を阻害することによって、細動脈を拡張させます。これらの薬は、アンジオテンシンIをアンジオテンシンIIに変換させるアンジオテンシン変換酵素の働きを特異的に阻害します。ACE阻害薬は特に、冠動脈疾患や心不全がある人、白人、若年者、慢性腎疾患や糖尿病性腎症により尿タンパクの出ている人、別の降圧薬の副作用で性機能不全になった男性に対して有用です。

アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)は、ACE阻害薬と似たしくみで血圧を低下させます。この薬は細動脈を収縮させるアンジオテンシンⅡの作用を直接的に遮断します。ACE阻害薬より直接的なしくみで血圧を低下させるため、この薬で生じる副作用はより少なくなります。

カルシウム拮抗薬は、まったく異なるしくみで細動脈を拡張させます。この薬は黒人や高齢者に特に有用です。カルシウム拮抗薬は特に狭心症の患者、特定の頻脈がある患者、片頭痛の人によく効きます。カルシウム拮抗薬には短時間作用型と長時間作用型があります。短時間作用型のカルシウム拮抗薬は高血圧には使用しません。短時間作用型のカルシウム拮抗薬を使用すると、心臓発作による死亡のリスクが高まると指摘する報告がありますが、長時間作用型のカルシウム拮抗薬については、そのような報告はありません。

血管拡張薬は、さらに異なるしくみで血管を拡張させます。このタイプの薬はほとんど単独では使用されません。他の薬だけでは十分に血圧が下がらなかった場合に併用される薬です。

アスピリンは降圧薬ではありませんが、医師によっては高血圧の患者に対し、低用量の錠剤を1日1錠服用するよう勧める場合もあります。

 

二次性高血圧の治療

可能であれば、高血圧の原因疾患を治療します。腎疾患を治療するとときに血圧が正常に戻ったり少なくとも低下しうるため、降圧薬による治療の効果が高まります。腎臓につながる動脈の狭窄は、先端にバルーンのついたカテーテルを挿入し、バルーンをふくらませる血管形成術によって広げることができます。または腎臓につながる動脈の狭窄部位をバイパスすることもできます。このような手術で高血圧が治癒することも多くあります。褐色細胞腫など、高血圧を引き起こす腫瘍は、普通、手術で摘出できます。

 

高血圧急迫症と高血圧緊急症の治療

高血圧急迫症では、アドレナリン遮断薬のクロニジンを経口投与します。カルシウム拮抗薬のニフェジピン舌下錠を使用することもありますが、安全性の面で劣ります。

悪性高血圧や高血圧性脳症などの高血圧緊急症では、急速に血圧を下げる必要があります。高血圧緊急症は集中治療室で治療されます。フェノルドパム、ニトロプルシド、ニカルジピン、ラベタロールなど、急速に血圧を低下させる薬の、ほとんどは静脈内投与されます。

 

予後(経過の見通し)

高血圧を治療しないでおくと、心不全、心臓発作、心臓突然死などの心疾患や、腎不全、脳卒中を若いうちに起こすリスクが高くなります。高血圧は脳卒中の最大の危険因子です。また、高血圧は、改善可能な心臓発作の3大危険因子の1つです(ほかの2つは、喫煙と血中コレステロールの高値です)。

高血圧の治療は脳卒中や心不全のリスクを大幅に減少させます。さらに、劇的ではないものの、心臓発作のリスクも減少させます。治療をしない場合、悪性高血圧の患者の1年生存率は5%未満です。

 

 

合併症:

長期間続いている高血圧は心臓や血管に損傷を与える可能性があります。

動脈内の血圧が140/90mmHgを超えると、心臓が血液を送り出すのにより多くの労力を必要とするため、心臓は拡大し、心臓の壁は厚くなります。厚くなった心臓の壁は正常なときより硬くなります。その結果、心房や心室が正常に拡張できなくなり、血液を十分に取りこむことが困難になるため、心臓にかかる負担はさらに重くなります。このような心臓の変化によって、不整脈や心不全を生じます。

また、高血圧によって血管の壁が厚くなり、動脈の硬化(アテローム動脈硬化)もさらに進行します。このような状態は、脳卒中、心臓発作、腎不全などのリスクを高めます。

 

高血圧症

高血圧とは、安静状態での血圧が慢性的に正常の値よりも高い状態のことをいう。

高血圧になると血管に常に負担がかかった状態になるため、血管の内壁が傷ついたり、柔軟性がなくなって固くなることで動脈硬化を引き起こしやすくなる。高血圧を放置すると高血圧性疾患につながる。

 

 高血圧症とは、降圧剤服用下で収縮期血圧(最大血圧が140mmHg以上)拡張期性高血圧(最小血圧が90mmHg以上)のものをいう。

 

 

難治性高血圧とは、塩分制限などの生活習慣の修正を行った上で、適切な薬剤3薬以上の降圧薬を適切な用量で継続投与しても、なお、収縮期血圧が140mmHg以上又は拡張期血圧が90mmHg以上のものをいう。

 

 

高血圧症には、本態性高血圧症高血圧性心疾患高血圧性腎疾患 などがあります。

 

 本態性高血圧症はいわゆる高血圧のことで、現在これといった原因がわかっていません。遺伝的要因と塩分の過剰摂取、アルコールの過剰摂取、肥満、ストレス等の生活習慣が複雑に絡み合って本態性高血圧症になると考えられています。本態性高血圧症が何かの症状をもたらすことはなく、健康診断等で血圧を測った際に気づくケースが一般的です。

本態性高血圧症の治療は運動療法や食事改善による生活習慣の改善と降圧剤による薬物療法が基本になります。

 

 高血圧性心疾患とは高血圧が原因で心臓に負担がかかった状態のことを指します。高血圧状態では心臓が通常よりも強く血液を血管に送り込まなければならなく、心筋が厚くなり心肥大を起こします。この状態で心肥大が続くと心臓が疲弊し、ポンプ機能が低下、その結果心不全が起こってしまいます。高血圧性心疾患の初期症状は動機や息切れ、足のむくみなどがあります。咳、痰、呼吸困難等の心臓ぜんそくと言われる発作も起こすようになります。

高血圧性心疾患の治療法は本態性高血圧症と同様に生活習慣の改善と薬物療法が主な治療法となります。ただ症状が極端な場合は心臓への血流を増加させるために手術が必要になる場合もあります。

 

 高血圧性腎疾患とは高血圧が原因となって腎臓が機能しなくなる病気を指します。症状は肩こり、めまい、頭痛、吐き気からはじまりけいれん、意識障害などが見られることもあります。治療法として血圧を下げることが目標となり、その治療は本態性高血圧症と同様になります。ただ病気が進行した場合は人工透析を受ける必要も出てきます。

 

障害の程度

障 害 の 状 態

1級

身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの

 

悪性高血圧症

2級

身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの

 

・1年以内の一過性脳虚血発作、動脈硬化の所見、さらに出血、白斑を伴う高血圧性網膜症を有するもの

3級

身体の機能に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの

 

・頭痛、めまい、耳鳴り、手足のしびれ等の自覚症状があり、1年以上前に一過性脳虚血発作のあったもの、眼底に著明な動脈硬化の所見を認めるもの

 

大動脈解離や大動脈瘤を合併した高血圧

障害手当金

 

 

高血圧 と 脳出血    相当因果関係「なし」

高血圧性脳出血について、初診日は高血圧と診断された日ではない。原因が高血圧とされていても、脳出血または脳梗塞により受診した日を初診日とする。

 

高血圧 と 脳梗塞    相当因果関係「なし」

高血圧 と 洞機能(どうきのう)不全  相当因果関係「なし」

 

障害の程度 2級

・1年以内の一過性脳虚血発作、動脈硬化の所見、さらに出血、白斑を伴う高血圧性網膜症を有するもの

 

障害の程度 3級

・頭痛、めまい、耳鳴り、手足のしびれ等の自覚症状があり、1年以上前に一過性脳虚血発作のあったもの、眼底に著明な動脈硬化の所見を認めるもの

 

大動脈解離や大動脈瘤を合併した高血圧

症状、具体的な日常生活状況等によっては、2級以上に認定される。

 

高血圧を基礎疾患として心疾患、腎疾患、脳障害などを合併して発症した方については、それぞれの障害の障害認定基準により認定される。

 

高血圧症により脳の障害を合併・・・

障害の程度は「精神の障害」および「神経系統の障害」の認定要領により認

定する。

 

高血圧症により心疾患を合併・・・

障害の程度は「心疾患による障害」の認定要領により認定する。

 

高血圧症により腎疾患を合併・・・

障害の程度は「腎疾患による障害」の認定要領により認定する。

 

動脈硬化性末梢動脈閉塞症を合併した高血圧・・・

運動障害を生じているものは、「肢体の障害」の認定要領により認定する。

 

 

 障害年金制度では、単に高血圧症というだけでは対象にならない。「悪性高血圧症」としての要件を満たす場合や、高血圧症障害の合併症である脳の障害、心疾患障害、腎疾患障害などを引きおこされたときに、その程度を総合的に評価して障害認定される。

 

 


悪性高血圧

悪性高血圧症とは、高血圧状態が続き、降圧治療を行わなければ、脳や心臓、腎臓、大動脈などに深刻な障害が起こり、致命的な状態になる病気である。

主な症状として、極端な血圧の上昇、最低血圧の著しい上昇とそれに伴う腎機能の低下、脳・心血管障害の合併、眼底の乳頭浮腫、軟性白板、硬性白板などの高血圧変化、血中レニン活性の上昇などがある。心筋梗塞や脳卒中などが誘発される場合もあり、心筋梗塞の場合は胸の痛み、脳卒中の場合はけいれん発作や昏睡状態が起こる。

 

高くなった血圧の影響で頭痛から脳血流の増大で脳浮腫へと至ります。この症状は高血圧脳症と呼ばれ脳血流障害から発生します。  心肥大となり左心不全になります。さらに重症になると急性心筋梗塞で死亡します。悪性高血圧では臓器障害が起こり肝機能障害となります。さらに妊婦ではけいれんから高血圧となり、妊婦や胎児に影響があります。  悪性高血圧はどの症状も重篤で生死に影響するケースがほとんどで、発症した時にはこのような病気が進行中の比率が高いです。

 

 悪性高血圧は、遺伝因子や生活習慣の環境因子ですでに高血圧である患者が血圧コントロールが出来ずに発症するケースがあります。本能性高血圧の患者が体調異変に気付かず生活習慣を改善せずに過ごして悪化したり、高血圧治療が頓挫したりすることが原因にもなっています。  また、慢性腎不全から高血圧と合併して心血管疾患となり高血圧緊急症となるケースや、糸球体腎炎では尿として排出するリズムが高血圧が原因で崩れるとバランスが悪くなり、高血圧緊急症に至ります。腎血管性高血圧症は腎動脈が狭心されるので高血圧に至ります。これらの高血圧緊急症の前段階の病気を治療していないケースで発症・合併するのが原因となります。

 

治療法  悪性高血圧の治療は、血圧を下げる為の投薬や静脈注射をします。使用されるのは、ACE阻害薬やカルシウム拮抗薬やニトログリセリンを症状に合わせて投与・注入します。高血圧緊急症は合併症状によっては全く違う種類の投薬をします。腎動脈が狭い為に高血圧に陥っているケースは狭窄します。この際には、血管手術の経皮経管腎動脈形成術が実施される場合があります。   

 

 悪性高血圧の予防は、前段階の他の病気を発症しない為に、過度なストレス環境を改善することが必要です。職場や家庭の精神的なストレスなのか、食生活が乱れ摂取品目が少ないのかを、高血圧が疑われた段階で医師と問診しながら改善計画を練り、指示に従います。

 

 

 障害年金制度では、単に高血圧というだけでは対象になりません。「悪性高血圧症」としていくつかの要件を満たす場合や、高血圧症障害の合併症である脳の障害、心疾患障害、腎疾患障害の有無とその程度を総合的に評価して障害認定されます。

 

 悪性高血圧症は1級と認定する。  この場合において「悪性高血圧症」とは、次の条件を満たす場合をいう。   ⅰ 高い拡張期性高血圧(最小血圧が120mmHg以上)   ⅱ 眼底所見で、Keith-Wahener分類Ⅲ群以上のもの   ⅲ 腎機能障害が急激に進行し、放置すれば腎不全にいたるもの   ⅳ 全身症状の急激な悪化を示し、血圧、腎障害の増悪とともに、脳症状や心不全を多く

伴うもの

 

 「悪性高血圧」のように腎不全相当因果関係があると判断される場合は、悪性高血圧として初めて医師の診断を受けた日が初診日となりえる。

 

 

 


高血圧性心疾患

 高血圧性心疾患は高血圧が原因で左心室の壁が肥大し、心機能に障害が起こる疾患である。

 左心室は血圧よりも高い圧力を作らないといけないため、通常の血圧が高いと左心室の負担が大きくなる。その結果、壁が厚くなって弾力性が弱くなり、心機能に異常が生じる。

 

高血圧性心疾患の症状

 高血圧性心疾患は最初は症状がほとんど見られない。心疾患が起こると、うっ血性心不全虚血性心疾患の症状があらわれる。

 具体的には息切れ、不整脈、動悸、咳、疲労、脱力感、失神、胸痛 などがある。

 

高血圧性心疾患の治療  血圧を下げて心疾患を治療することが大切です。 まずは食事・運動で生活習慣の改善が指導され、必要に応じて降圧薬の投与や心不全狭心症に対する治療が行われます。

 

 

 大動脈解離や大動脈瘤を合併した高血圧は3級と認定する。症状、具体的な日常生活状況等によっては、さらに上位等級に認定される。

 

 

高血圧性腎症

 高血圧性腎症は腎硬化症とも呼ばれ、高血圧が原因となって腎臓が機能しなくなる病気の事をいいます。

 高血圧性腎症が進行した場合、人工透析へと進むこともありますが、これは糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎に次ぐ第三位の患者数となっています。

 

高血圧症により腎疾患を合併したものによる障害の場合、障害年金の認定においては、腎疾患の障害による程度により認定されます。

 

 

腎硬化症

 腎硬化症は、高血圧が原因で腎臓の血管に動脈硬化を起こし、腎臓の障害をもたらす疾患である。

 

 ほとんど症状はなく、血圧も降圧治療により落ち着いている場合も少なくありません。高血圧あるいは血圧が高かった方は(特に高齢者)、腎機能検査として血液検査でクレアチニンを測定することが奨められます。推定糸球体濾過値(eGFR)が60未満の場合は、腎硬化症による慢性腎臓病である可能性があります。

 

高血圧が長く続くと、腎臓の糸球体へ血液を送る細動脈に圧力がかかるため、血管内の細胞がそれに反応して増殖し、血管の内腔が狭くなる(細動脈硬化)。  豊富な血流が必要な糸球体で、血液の流れが悪くなると、徐々に糸球体は硬化し、腎機能が低下し、慢性腎不全に至る。  腎硬化症で慢性腎不全になった方は、同時に腎臓以外の動脈硬化も進行しているため、生命にかかわる心筋梗塞脳卒中などの危険性が高いと考えられる。

 

 高血圧性腎症が進行した場合、人工透析へと進むこともあるが、これは糖尿病性腎症慢性糸球体腎炎に次ぐ第三位の患者数となっている。

 

  高血圧症により腎疾患を合併したものによる障害の場合、障害年金の認定においては、「腎疾患の障害」による程度により認定される。

 

 

肺動脈性肺高血圧症

肺動脈性肺高血圧症は、腎臓から肺に血液を送る肺動脈の血圧が異常に上昇し、心臓に多大な負担をかけるようになる疾患である。

 

 肺動脈性肺高血圧症は、原因不明の突発性、遺伝性、薬剤誘発性、膠原病に伴うもの、HIV感染症に伴うもの、門脈圧の上昇に伴うもの、先天性心疾患に伴うもの、住血吸虫症に伴うものの8つのタイプに分類されています。

 慢性血栓塞栓性肺高血圧症は、器質化した血栓により肺動脈が慢性的に閉塞を起こし、肺高血圧症を合併し、労作時の息切れなどを認めるものです。

 

安静時における自覚症状はないが、全身への酸素供給がうまくいかなくなっている状態のために、体を動かすと息苦しさや疲労感、だるさ、失神といった症状が現れる。また、病気が進行するとさらに心臓機能が低下するために、足のむくみを生じたり、少し動いただけなのに息苦しさを感じたりするなどの症状が出現する。

 

慢性血栓塞栓性肺高血圧症は、器質化した血栓により肺動脈が慢性的に閉塞を起こし、肺高血圧症を合併し、労作時の息切れなどを認めるものである。

 

肺動脈性肺高血圧症の最初の認定には、右心カテーテル検査で肺動脈平均圧≧25mmHg、肺動脈楔入圧は正常(左心系の異常はない)であることが必須である。さらに、肺血流シンチグラムにて区域性血流欠損なし(ほぼ正常)の所見が必要である。

 

主な症状  自覚症状として肺動脈性肺高血圧症だけに特別なものはない。この病気は肺の血管に異常が生じるため、心臓に多大な負担がかかり、結果として全身への酸素供給がうまくいかなくなる病気である。初期は、安静時の自覚症状はないのが通常である。しかし、体を動かす時に、ヒトはより多くの酸素が必要になる。この酸素の供給が十分にできなくなるのが、肺動脈性肺高血圧症であり、それによる症状が出現する。すなわち、体を動かす時に息苦しく感じる、すぐに疲れる、体がだるい、意識がなくなる(失神)などである。病気が進むと、心臓の機能がより低下するために、足がむくむ、少し体を動かしただけでも息苦しいなどの症状が出現する。

 

治療 肺高血圧症の原因が特定されている場合、最もよい方法は、その原因を治療することです。

強皮症、慢性肝疾患、HIV感染症などの患者にみられる肺高血圧症に対しては、カルシウム拮

抗薬やプロスタサイクリン類似体などの血管を広げる血管拡張薬が有効なことがよくあります。

それに対して、肺疾患が原因となった肺高血圧症の患者に、これらの薬が有効かどうかは証明

されていません。特発性肺高血圧症では、ほとんどの場合、プロスタサイクリンなどの血管拡

張薬の投与で、肺動脈の血圧が劇的に低下します。外科手術で皮膚に埋め込まれたカテーテル

を通して、プロスタサイクリンを静脈内へ注入することで、生活の質(QOL)が改善し、生存期

間が延びるとともに、肺移植の検討が必要になるまでの時間がかせげます。しかし、危険な状

態に陥る患者も一部にいることから、通常は血管拡張薬を投与する前に、患者が心臓カテーテ

ル検査室にいる間に、医師は薬の効果をあらかじめテストします。プロスタサイクリンは、皮

下注射剤や吸入剤も利用可能で、一部の患者では有効です。

 

エンドセリン(血管の収縮をうながす血液成分)受容体拮抗薬のボセンタンとアンブリセンタンは経口薬で、一部の軽症患者に効果が認められています。イロプロストというプロスタサイクリンの類似薬は吸入して使用できるため、合併症のリスクがプロスタサイクリンよりはるかに低くなります。経口薬のシルデナフィルは、一部の肺動脈高血圧症患者にきわめて有効です。

 

血液中の酸素濃度が低下している肺高血圧症患者では、鼻カニューレや酸素マスクを通して酸素を持続的に吸入することで、肺動脈の血圧を抑えて、息切れが緩和する場合があります。右心室が効率的に拍動するために必要な容積を維持するのを助けるとともに、脚のむくみを緩和するために、一般に利尿薬が投与されます。血栓のリスクや、それによる肺塞栓症のリスクを減らすために、抗凝固薬が投与されることもあります。

 

肺移植は、肺高血圧症の患者に対する治療法として確立されています。肺移植を受けることができるのは、手術に伴って想定される後遺症や困難に耐えられる体力がある重症患者だけです。

 

 

肺動脈性肺高血圧症は、障害年金では「心臓(循環器)疾患」として扱われる。一度、発症すると呼吸困難、息切れ、咳、痰、動悸、チアノーゼなどさまざまな症状が出現し、日常生活が大きく制限されることから、投薬後の状態が良好な場合を除き、多くの方が2級に認定されている。

 

 

慢性血栓塞栓性肺高血圧症

 

 慢性血栓塞栓性肺高血圧症は、肺の血管に血栓が詰まることで高血圧になる状態で、一般の高血圧症とは異なります。肺の中の血管に血栓が入り込み、血管を詰まらせてしまうことが原因と言われています。多くの場合血栓は、腕や足などの太い静脈で発生すると言われていて、それが血流に乗って心臓に達し、さらに心臓から肺に運ばれます。血栓は血液の流れに乗りながら溶けてしまうことが多いのですが、稀に溶けないで肺まで達してしまい、結果的に肺の血管を細くしたり、閉塞させたりしてしまうのです。この疾患は進行すると右心不全となり、心拍出量が減少します。

 

 主な症状としては、動悸がしたり、胸が痛くなったり、階段の上り下りなど軽い運動で呼吸が苦しくなったりします。時には失神することもあります。また、肺の機能が低下するため、低酸素血症が進行し、チアノーゼや過呼吸、頻脈などの症状が見られることもあります。右心不全症状を合併した場合、下肢がむくむなどの症状が出ることもあります。

 

 慢性血栓塞栓性肺高血圧症の治療方法としては、胸の中央部からメスを入れて肺の血管の血栓を取り除く外科的手術が一つの手段です。血栓がかなり大きい場合や血管の構造が複雑な場合にこの手法が採用されることが多いです。高齢者など、手術を受ける体力が無い場合には、外科的手術ではなく、カテーテル治療が採用されることもあります。首や腕、足などの太い血管からカテーテルと呼ばれる細い管を血管内に入れ、梗塞が発生している肺の血管にまで到達させ、バルーンにて血管を膨らませて梗塞を解消します。