パーソナリティ障害

 パーソナリティ障害の基本的な特徴は、認知・行動特性の著しい偏りです。従来から、その特性は一般的な特性(平均値)からの違いが著しいもの、つまり、一般の人々との間に本質的な違いはないが程度の差が特に大きいという性質のものだと理解されています。

 従来の定義では、パーソナリティ(性格)とパーソナリティ障害の関係は明確にされていませんでした。その結果、名称からの単純な推測によって、パーソナリティ障害は「パーソナリティ」の障害だと誤解されることがあり、それを「性格が悪いこと」とか「回復が難しいもの」と見る向きがありました。しかし、それは決して性格の問題ではなく、十分に改善することを期待できます。

パーソナリティ障害は3つの群に分類されます。

A群:奇妙で風変わりな行動

妄想性パーソナリティ障害:

 妄想性パーソナリティ障害の人は、他人を信用せず懐疑的です。特に証拠はなくても、他人が自分に悪意を抱いていると疑い、その行動の裏に敵意や悪意に満ちた動機を見出そうとします。そのため、自分では正当な報復だと思っても、他人にとっては不可解な行動をとってしまうことがあります。このような行動は人から嫌がられることが多いため、結局は最初に抱いた感情は正しかったと思い込む結果になります。一般に性格は冷淡で、人にはよそよそしい態度を示します。

 妄想性パーソナリティ障害の人は、他者とのトラブルで憤慨して自分が正しいと思うと、しばしば法的手段に訴えます。対立が生じたとき、その一部は自分のせいでもあることには思い至りません。職場では概して比較的孤立した状態にありますが、場合によっては非常に有能でまじめです。

 耳が聞こえないなどの障害があって、日ごろから疎外感を感じている人は、自分に対する他者の見方や態度をよりいっそう悪い方に考えがちです。

 

統合失調質パーソナリティ障害:

 統合失調質パーソナリティ障害の人には、内向的で、引っ込み思案、そして孤独です。

 性格は冷淡で、周囲とは距離を置こうとします。いつも自分の考えや感情に没頭していて、人と親しくなることを恐れます。無口で空想を好み、実際に行動するよりも理論的な思索を好みます。空想することが、対処(防衛)のメカニズムとしてよくみられます。

 統合失調質パーソナリティ障害は、現実認識に問題はないものの、感情の起伏に乏しく、周囲の出来事に無関心に見えるなど、統合失調症の陰性症状に類似性があります。

 

統合失調型パーソナリティ障害:

 統合失調型パーソナリティ障害の人は、統合失調質パーソナリティ障害の人と同様に、社会的にも感情的にも孤立しています。また、思考や認知、会話にみられる奇妙さは、統合失調症に似ています。ときに、統合失調症の人で発症以前に統合失調型人格がみられる場合がありますが、統合失調型人格の成人のほとんどは、統合失調症になることはありません。

 統合失調型人格の中には、自分の思考や行動は、ものごとや人をコントロールできるという考え(魔術的思考)を抱いている人がいます。たとえば、誰かに対して怒りの感情を抱くと、その人に災いを起こすことができると信じているような場合があります。統合失調型パーソナリティ障害の人には妄想もみられます。

 統合失調型パーソナリティ障害は、統合失調症の陽性症状に類似性があります。

 統合失調型パーソナリティ障害の大きな特徴は、思考、会話、行動、外観で、周りの人にエキセントリックな印象を与えてしまうことです。

 統合失調症と異なり、はっきりとした幻覚、妄想はありません。

 一般に症状の程度はそれほど重篤ではなく、精神病の診断基準を満たしません。

 この障害の人は内気で自ら孤立しやすく、軽い疑い深さを見せるなど思考に問題があります。

 遺伝学的研究によると、統合失調型人格障害は軽度の統合失調症の可能性があります。

 

B群:演技的で移り気な行動

演技性(ヒステリー性)パーソナリティ障害:

 演技性パーソナリティ障害の人は際立って人の注目を集めたがり、言動が芝居がかっていて極端に感情的なところがあり、さらには外見をひどく気にします。表現力豊かで生き生きしているため、友人はすぐにできますが、たいていは表面的で一時的な関係に終わります。感情表現にはしばしば誇張や子供っぽさ、わざとらしさが感じられ、人の同情や関心(しばしばエロチックな関心や性的な関心)を集めたいように見えます。

 演技性パーソナリティ障害の人は、性的欲望を挑発するような行動を取ったり、性的ではない人間関係にまで性的な要素を持ちこもうとしたりする傾向があります。しかし、本当に求めているのは性的関係ではなく、誘惑的な行動の裏に、往々にして、誰かに頼りたい、守ってもらいたいという願望が隠れていることがあります。演技性パーソナリティ障害の人が心気症的な性質を帯びている場合もあり、注意を引くために体の不調などを大げさに訴えることもあります。

 

自己愛性パーソナリティ障害:

 自己愛性パーソナリティ障害の人は優越感が強く、人からの称賛を求め、人に共感する心が欠如しています。自分の価値や重要性を過大評価する傾向があり、精神療法家はそれを「誇大性」と表現します。このパーソナリティ障害の人は、失敗、敗北、批判などに極度に敏感です。失敗に直面して高い自己評価を満たせないと、すぐに激怒したり、ひどく落ち込んだりします。 

 自分は周囲の他人よりも優れていると思いこんでいるので、称賛されることを期待し、人は自分をねたんでいるのではないかと疑うこともあります。自分の欲しいものは何でもすぐに手に入るのが当然と考えていて、他の人の欲求や信念は重要視していないため、人を平気で利用します。このような行動は、周りの反感を買い、自己中心的、傲慢、利己主義とみなされます。

 

反社会性パーソナリティ障害:

 反社会性パーソナリティ障害(以前は精神病質人格、社会病質人格と呼ばれていた)は男性に多く、他者の権利や感情を無神経に軽視します。人に対しては不誠実で、ぎまんに満ちています。欲しいものを手に入れる、あるいは自分が単に楽しむために人を利用します。

 (自己愛性パーソナリティ障害の人が自分は優れているのだから当然だと考えて、人を利用するのとは異なった考え方)

 反社会性パーソナリティ障害の人は、衝動的かつ無責任に自分の葛藤を行動で表現するのが特徴です。不満があると我慢ができず、敵意を示したり暴力的になったりすることがあります。自分の反社会的な行動の結果を考えないことが多く、人に迷惑をかけたり危害を加えたりしても、後悔や罪の意識を感じません。むしろ、言葉巧みに自分の行動を正当化したり、他の人のせいにしたりします。我慢させたり罰を与えたりしても、行動を改める動機とはならず、判断力や慎重さが身につくことはなく、かえって本人が心に抱いている極端に非感情的な世界観が固まっていきます。

 反社会性パーソナリティ障害の人は、アルコール依存、薬物依存、性的に逸脱した行動、性的無規律、投獄といった問題を起こしやすい傾向があります。仕事に失敗しがちで、住居を転々と変えるケースもみられます。多くの場合、反社会的な行動、薬物乱用、離婚、身体的虐待などの家族歴があります。小児期に情操面での養育放棄(ネグレクト)や身体的虐待を経験していることもあります。反社会性人格の人は一般の人に比べて寿命が短い傾向があります。この障害は年齢とともに治まっていくか、安定する傾向があります。

 詳しくはこちら

境界性パーソナリティ障害:

 誰もが様々な性格をもっている中で、中にはその一部分が極端に偏ったようになり、社会生活を送る上で自分も他人も苦しませてしまうようになる人がいます。こうした人々のことを精神医学の分野では「パーソナリティ・ディスオーダー」と呼ぶようになり、日本では「人格障害」と呼ばれるようになりました。なかでも、気分の波が激しく感情が極めて不安定で、良い・悪いなどを両極端に判定したり、強いイライラ感が抑えきれなくなったりする症状をもつ人は「境界性人格障害」に分類されます。近年では「境界性パーソナリティ障害」とも呼ばれています。「境界性」という言葉は、「神経症」と「統合失調症」という2つの心の病気の境界にある症状を示すことに由来します。 例えば、「強いイライラ感」は神経症的な症状で、「現実が冷静に認識できない」という症状は統合失調症的ものです。

 境界性パーソナリティ障害の大半は女性であり、自己のイメージ、気分、行動、対人関係が不安定です。反社会性パーソナリティ障害に比べて、思考過程に乱れがみられ、その攻撃的な感情はしばしば自分自身に対して向けられます。演技性パーソナリティ障害の人よりも怒りっぽく、衝動的で自分のアイデンティティ(自己同一性)に混乱がみられます。境界性パーソナリティ障害は成人期初期にはっきりと現れてきますが、高齢者ではあまりみられなくなります。

 境界性パーソナリティ障害の人は、出来事や人間関係を、白か黒、善か悪で判断し、その中間は存在しないと考えがちです。

 境界性パーソナリティ障害の人は、見捨てられたと感じ、孤独感にさいなまれると、自分が本当に存在しているのかどうかわからなくなり、現実感を失うことがあります。また、やみくもに衝動的になり、見境のない性的無規律、薬物乱用、あるいは自傷行為などに走るおそれがあります。ときに、あまりにも現実から遊離してしまい、一時的に精神病性思考、妄想、幻覚が生じることがあります。

詳しくはこちら

C群:不安や抑制を伴う行動

回避性パーソナリティ障害:

 回避性パーソナリティ障害の人は、拒絶に対して過敏で、新しい対人関係を築いたり何か新しいことを始めたりするのを恐れます。愛情や受け入れられることに対して強い欲求を抱いているにもかかわらず、失望や批判を恐れて、親密な人間関係や社会的状況を避ける傾向があります。統合失調質パーソナリティ障害とは異なり、孤独感や人とうまくかかわれないことについて率直に悩みます。また、境界性パーソナリティ障害と違って、拒絶に対して怒りを向けるのではなく、引きこもり、内気で憶病な様子をみせます。

 回避性パーソナリティ障害は全般的なタイプの社交恐怖に類似しています。

 

依存性パーソナリティ障害:

 依存性パーソナリティ障害の人は、大きな決断や責任はいつも他人まかせにし、自分の欲求より、依存している相手の欲求を優先させます。自信に欠け、自分のことを自分でする能力について強い不安を感じています。自分には決められない、何をしたらよいかわからない、どうしたらよいかわからないといった弱音を吐くこともしばしばあります。このような行動を取る一因として、頼みとする人を怒らせるのが怖いので、自分の意見を言いたがらないということと、他の人は自分よりも能力があると信じているということがあります。

 他のパーソナリティ障害の人はしばしば依存性パーソナリティ障害の特性ももっていますが、より支配的な他のパーソナリティ障害の特性に隠れて目立ちません。ときとして、長期に及ぶ病気や身体障害を患う成人が依存性パーソナリティ障害を発症することがあります。

 

強迫性パーソナリティ障害:

 強迫性パーソナリティ障害の人は秩序、管理といったことにこだわり、完璧主義なところがあります。信頼でき、頼りになり、きちんとしていて、几帳面である一方、柔軟性に欠けるため変化にうまく適応できません。慎重で、1つの問題のあらゆる局面を比較検討するため、決断を下すことが苦手です。まじめで責任感がありますが、誤りや不完全さに耐えられないため、仕事を最後まで全うできないことがよくあります。精神障害の強迫性障害とは異なり、強迫性パーソナリティ障害の場合は、自分の意思に反して反復的に想起される強迫観念や儀式的行為はみられません。

 強迫性パーソナリティ障害の人は成績が良かったり高い業績を上げていたりすることが多く、特に、几帳面さや細心の注意が求められる科学など、知的分野の成功者に多くみられます。しかし、責任に伴う不安に常に悩まされるため、成功してもそれを喜ぶことができません。自分の感情、人間関係、自分ではコントロールできなかったり人に頼らざるを得ない状況、予測できない出来事が起こる状況に不快感を感じます。

 

その他のパーソナリティタイプ

 パーソナリティのタイプには障害として分類されていないものもあります。

受動-攻撃性(拒絶症的)パーソナリティ:

 受動-攻撃性パーソナリティの人の行動は、不器用そうであったり、消極的にみえます。しかし、これらの行動は、実際には責任を逃れる、あるいは人を操ったり罰したりするためのものです。ぐずぐずしたり非効率的に仕事をしたり、とても信じがたい事情を主張することがよくあります。実行に同意しながらも、自分のやりたくない仕事があると、密かにその仕事の完了を遅らせることが頻繁にみられます。通常こうした行動は、敵意や意見の相違を否定したり隠したりする役目を果たします。

循環気質性パーソナリティ:

 循環気質性パーソナリティの人は、威勢の良い快活さと陰うつな悲観が交互にみられます。それぞれの気分は数週間ないしそれ以上続きます。気分変動は規則的で、はっきりとした外的な原因がなくても起こります。多くの才能ある創造的な人々にこのパーソナリティタイプがみられます。

抑うつ性パーソナリティ:

 このパーソナリティタイプは慢性的に不機嫌、心配性で自意識が強いという特徴があります。抑うつ性人格の人は悲観的なものの見方をし、それが本人の自主性を損ない、人の気分を滅入らせてしまいます。また、満足感が得られたとしても、それが不当で罪深いもののように感じられます。抑うつ性人格の人は自身の苦悩が、他人の愛や賞賛を得るために必要な功徳の印であると無意識のうちに信じています。

 

 例として簡略化されたDSM -5の境界性パーソナリティ障害の診断基準を示します。
 (1)見捨てられる体験を避けようとする懸命の努力  
 (2)理想化と過小評価との両極端を揺れ動く不安定な対人関係  
 (3)同一性障害(自己像や自己感覚の不安定さ)  
 (4)衝動性によって自己を傷つける可能性のある、浪費薬物常用といった行動  
 (5)自殺の脅かし、自傷行為の繰り返し  
 (6)著明な感情的な不安定さ  
 (7)慢性的な空虚感、退屈  
 (8)不適切で激しい怒り  
 (9)一過性の妄想的念慮もしくは重症の解離症状  

 たとえば、境界性パーソナリティ障害では、診断基準が5つ以上あるなら診断の条件を満たすということになります。

 

パーソナリティ障害の治療

 パーソナリティ障害の治療では、精神療法(心理療法)が重要な役割を果たします。

 精神療法は、患者が治療者と協力して、問題への認識を深め、それへの対処法を築き上げる、自分の思いや気持ちを整えるといった作業を進めることによって克服しようとする治療法です。取り扱われる問題は多様なものになりますので、さまざまな治療アプローチが組み合わされて用いられることがあります。そして、多くの場合、それらの治療アプローチをしばらく積み重ねることが必要になります。

 薬物療法も症状の一部を緩和する効果が期待されます。薬物療法を実施している期間しか有効でないなどの限界がありますが、問題をしばらく抑えることができるだけでも大きなメリットをもたらすことがあります。

 統合失調型パーソナリティ障害などの受動的なタイプには少量の抗精神病薬、境界性、反社会性パーソナリティ障害の衝動性や感情不安定には選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や気分安定薬(双極性障害の治療薬)、回避性パーソナリティ障害の不安や抑うつにはSSRIがそれぞれ有効とされています。

 最近では、境界性、統合失調型、反社会性パーソナリティ障害に対する非定型抗精神病薬の有効性が確認されています。ただし、精神療法などとの併用の必要があります。

 

 パーソナリティ障害では、一定の認知・行動のパターンが問題になります。その認知・行動のパターンに対して自分でうまく対処できるならば、問題を回避することが可能になります。さらに、それを積み重ねることによって、そのパーソナリティ障害の特性を修正できるようになるでしょう。このように、対処法を新たな習慣として身につけていくことは、パーソナリティ障害の重要な回復の道筋の一つだということができます。また、さまざまな人生経験を積むことも、回復に役立つはずです。人生経験は、パーソナリティ障害の問題への対処法を考えるための重要な基礎になります。他にも、周囲の人々に相談をして知恵を借りることや、医療機関の治療スタッフから助言をもらうことも回復の重要な契機となります。

 

 周囲の人々とその人との関わりは、普段のその人との関係を基本とするべきです。特別に構えることは必要ありません。もちろん、過剰な反応が見られる時は刺激にならないようにする、調子が悪い時はいたわりの気持ちで接する、関わりを求めている時は負担にならない範囲で関わるといったことは必要です。パーソナリティ障害の問題への対応は長くなることが多いので、長期的視点から見て持続可能な関わり方の形を作っていくことが大切です。その際、関わり方が社会で一般的なものかどうかは、そこで無理が生じるかどうかをチェックする大事なポイントになるでしょう。もしもその人との関わりが、負担が大きすぎると感じられたなら、別に相談できる人やサポーターを捜すことは一つの重要な対応法となります。  

 社会的に容認できない行動が見られた時には、それをしないように忠告するといった一般的な対応をするべきですが、すでに警告がなされていたり、処罰が行われたりしているのなら、追い打ちをかけるようなことは避けるべきです。相手を傷つけないように、同時に自分が傷つかないようにという一般的な原則は守られなければなりません。  

 周囲の人々に理解していただきたいのは、その人が自分の問題に本格的に取り組むまでに準備期間を長くとらなければならない場合があるということです。その人に問題に取り組む姿勢が長く欠けていたとしても、悩んだ末に自分から精神科治療を求めるようになることは稀ならず起こります。治療が開始されない段階でも、その人は問題解決のための準備を進めていると考えるべきでしょう。焦って治療を無理に勧めるのは、よい結果を生まないことが多いようです。むしろこの時期には、周囲の人々は、その人がじっくり考えることができるように配慮していただきたいと思います。周囲にいる人々が、その人に対する愛情、親しみ、友情など、長い時間培われた結びつきを大事にして関わることこそが、よい成果を産みだすということができると思います。