役割等級制度
等級制度は、従業員をその能力・職務・役割などによって区分・序列化し、業務を遂行する際の権限や責任、さらには処遇などの根拠となる制度です。
等級制度においては、大きく「能力」「職務」「役割」の3つの基軸が存在します。
・能力・・・職能資格制度
・職務・・・職務等級制度
・役割・・・役割等級制度
賃金人事制度は、顧客や収益に対する各人の「役割」を明確化し、成果に対する「責任」を担当者に強く自覚させるものでなければなりません。そのためには、従業員の年功・能力(能力等級)や仕事の大きさ・難易度(職務等級)などでなく、その役割をどれだけ実際に遂行し、どれだけ責任に貢献したかを具体的な成果や行動で検証し、等級の中でその優劣を比較して「実力」を判定し、賞与や賃金の決定に反映させるのです。
「役割」とは「職務と職責」のことをいいます。それぞれのポジションの役割の大きさを客観的に判定して役割等級が決まり、賃金・報酬の基礎となります。固定化した職務に職責を加えることで、組織の期待に応じて変化する「役割」という概念を導入します。この役割等級を決定するしくみが役割等級制度です。
「職能資格制度」と「職務等級制度」がもつメリットを享受した等級制度が「役割等級制度」です。比較的簡潔で導入しやすいため、現代の日本企業で急速に導入が進んでいます。
例えば、建設業では主に次のような役割と職種があります。
(役割)
・組織運営を行う役割(マネージャー)= 管理職
・担当職務をトータル的に遂行できる能力を発揮する役割 = 総合職
・社員としての初歩的な職務を遂行する役割 = 一般職
・専門的な技能を有し、職務を遂行する技能者 = 専門職
(職種)
・現場を管理し完成させる職務 = 施工職
・仕事を受注する職務 = 営業職
・経理・総務業務を担当する職務 = 事務職
*同じ役割を担う社員でも個々に習熟度や責任範囲の違いがあり、その違いを制度化したものが「等級」です。
経営組織上必要な役割を明確にして、役割を役割等級に格付け、担当する役割を役割等級基準に照らし合わせて社員の役割等級を確定し、役割への配置・異動や役職任用に伴う役割等級の見直し運用を行います。
役割等級制度のメリット
・役割の大きさと給与がマッチしている
・従業員それぞれの役割が明確になる
・組織や職務の変化に対応できる
・役割評価が比較的容易
・総人件費はやや低めになる
デメリット
・制度導入時から役割等級の信頼性を確保するには一定のノウハウが必要
・外部環境の変化に応じた役割の見直しなど運用力が求められる
○役割等級制度の構築
役割等級の定義
役割等級の定義は以下の流れで決めます。
1.等級数を決める。
2.等級ごとの定義(概要)を決める。
3.等級ごとに代表職務を選ぶ。
4.代表職務の分析
5.役割等級の定義を決める。
1.等級数を決める
等級の数は経験的に決めることができます。「管理職層 2~3」「一般社員層 3~6」というのが妥当な数です。 これより少ないと、等級の幅が広すぎ、同じ等級の中に明らかにレベルが異なる役割が混在します。一方、これより多いと等級の差がわかりにくくなります。
等級の数を決めるときは、
・そこにどういう人があてはまりそうか
・どんな仕事があてはまりそうか
などをイメージしながら決めるのがよいでしょう。
従業員が50人未満の会社であれば、等級は「4~6段階」ぐらいが良いかと思います。
2.等級の定義(概要)を決める
等級の数が決まったら、等級定義を決めます。
等級の数を決める段階で、それぞれの等級にはどんな仕事、どんな人があてはまりそうかイメージします。そのイメージを等級定義にあてはめていきます。たとえば、「経営トップの方針を受け、部署の方針・目標を立てる。部署の経営資源(ヒト、モノ、カネ)を最適配分し、目標を達成する」 「担当業務については、業務の進め方などは自分で考え実行し、指示されたアウトプットを出す」などです。
この時点で等級と役職の対応表を作るとよいでしょう。
3.等級ごとの代表職務を選ぶ
次の段階では、等級ごとに代表的な仕事と、それを実際に担当している人をピックアップします。
4.代表職務の分析
等級ごとに、代表職務を担当している人がどのような役割を果たしているかを分析します。 どの人を選ぶかですが、できれば次の2パターンを選びます。
・「ハイ・パフォーマー」:
その等級の役割を十分に果たし、さらにそれを越えた働きをしてる人です。
・「ミドル・パフォーマー」:
その等級の役割を普通に果たしている人です。
分析方法は、その人へのインタビューが中心になります。
こうして作った役割等級は、等級ごとに、「果たすべき役割」を明示したものとなります。つまり、等級ごとの「期待される役割」ということになるのです。分析する前に、分析の着眼点をいくつか設ける必要があります。責任・権限、難易度、専門性、自立性、負荷などが考えられます。会社の実情に応じて設定するのがよいでしょう。
5.役割等級の定義を決める
前段階までの作業で、役割等級の中身を決めるための材料は揃いました。 そして、その材料を使って、役割等級の定義を固めます。
責任・権限、難易度、専門性、自立性、負荷ごとにまとめるのがよいでしょう。分析の結果、最初に決めた等級定義が実情に合わないと感じたら修正します。
任用基準
役割等級の定義が決まったら、今度は、「任用基準」を決めます。 これは、
・制度導入時、どんな人をどの等級にするか
・昇格・降格をどうするか
の2点を言います。
(1) 制度導入時格付け
まず、全社員をどの等級に位置づけるかです。 各社員が、どんな仕事をしていて、その遂行状況はどうかを見て、ふさわしい等級を決めていきます。
(2) 昇格・降格
役割等級制度を導入する場合、人事評価もそれに対応させなくてはなりません。「役割評価」を導入し、昇格・降格の判断基準にする必要があります。
「何回分の人事評価を見るか」を考えます。役割評価が年1回だとすれば、2回分の評価を見る(2年分の評価)のが妥当でしょう。
(3)「役割能力等級制度」のフレームワーク(骨組み)
「役割」と「等級」を明確にすることにより、経営目的達成のための社員個々がやるべきことや程度が整理され、人事考課や処遇の決定の基礎的な情報が明らかになります。
「役割能力等級制度」のフレームワークでは、縦(階層)と横(職掌)の関係からみる必要があります。 縦には、 「J(一般)」「 S(係長・主任)」「 M(部長・課長)」のように大きく3つのクラスに区分し、さらに必要に応じて、限定的に等級を設けます。クラスは役割の違いを表わし、等級は同じ役割のなかでも経験の度合いを表わすことになります。これに加え、横軸には、製造・事務・営業などの職掌を設定して、人事制度を立体的に運用していくことになります。
役割等級制度(ミッショングレード制)イメージ
職種区分 |
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営業 |
商品開発 |
管理 |
製造 |
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役割等級 |
M2 |
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M1 |
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S2 |
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S1 |
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J3 |
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J2 |
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J1 |
役割等級制度 「営業」の役割基準の例
職位 |
役割基準 |
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役割等級 |
M2 |
部長 |
・組織の管理・監督者の一員として経営陣と一体となり、組織目標を設定し、統合的な判断及び意思決定を行いながら組織を統率し、企業利益を先導・創造する役割。 |
M1 |
課長 |
・高度な専門技術を有し、担当分野における改善・標準化カや問題解決等を通じて、企業利益を先導・創造する役割。 |
|
S2 |
係長 |
・グループやチームのリーダーとして、業務に関する高度な実務知識・技能を有し、創意工夫を凝らして自主的な改善、提案をしながら業務遂行する役割。 |
|
S1 |
主任 |
・チームの中心メンバーとして、業務に関する一般的な実務知識・技能を有し、ある程度判断力を要する業務を、確実に遂行する役割。 |
|
J3 |
一般 |
・グループやチームの中心メンバーとして、業務に関する一般的な実務知識・技能を有し、ある程度判断力を要する業務を、確実に遂行する役割。 |
|
J2 |
・チームのメンバーとして、業務に関する基礎的な実務知識・技能を有し、主として定型的業務を、正確に遂行する役割。 |
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J1 |
・チームのメンバーとして、上司の指示した定型的業務を遂行する役割。 |
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