人事考課の処遇への反映

処遇への活用

 処遇とは「賃金改定、賞与、昇格」のことを指しますが、この処遇への活用については、評価結果と処遇制度との連動性を明確にし、その関連性を公開した上で運用します。

 連動方法については、要素別に5段階で評価した点数にそれぞれウエイトをつけ、100点満点に換算して、総合評価点を出します。その総合評価点により総合評価の段階を決定します。

 その決定方法には「絶対区分」という方法と「相対区分」という方法の2種類あります。

 

絶対区分と相対区分

 絶対区分とは、上記のウエイト計算により算出された点数をそのまま使用する方法で、全員「A」とか、全員「D」ということが起こりうる可能性があります。これは、定員の決まっていない昇格や昇給に利用されます。

 相対区分は算出された点数で、上から順に並べ分布規制により、総合評価を決めていく方法です。「S」何人、「A」何人と規定の人数が該当します。これは、定員の決まっている賞与の配分に利用されることがあります。

  絶対区分と相対区分の相違点

 

絶対区分

相対区分

 

総合評価

判断基準

総合評価

判断基準

区分の例

       

90点以上

上位 5%

80点以上

中上位20%

60点以上

中位50%

40点以上

中下位20%

40点未満

下位 5%

 

相違点

(1) 相対区分で行う場合は、母集団の大きさをどうするかという問題が出てきます。母集団を小さくするとその集団内では競争意識が強くなり、協力意識が弱くなってしまいます。母集団を大きくすると、部門間の調整が必要になります。

(2) 相対区分では一人の人の「評価の甘辛」が他人の評価段階に影響します。絶対区分では他人の評価には影響しません。

(3) 相対区分で総合評価を決定した場合、結局は順位付けによる判定になり、絶対評価での良さが消えてしまう恐れがあります。 
 ただし、原資が決まっている賞与などでは、相対的に配分せざるを得ない場合がありますが、なるべく相対的に見えないように計算する方式が社員からの納得が得やすくなります。

(4) 全体最適を考えれば、絶対区分を採用する方が望ましいと考えられます。昇給の総原資の問題については、当面、区切りの点数を上下させることで調整し、ある程度データが出たら、あるべき姿に見合う点数に固定するようにします。

(5) 上記(5)の昇給原資の問題も、会社の業績に連動した個人の評価を行っていれば、何ら問題になりません。すなわち、絶対評価で行った個人の評価がよいということは、会社の業績もよいということであり、昇給原資が多くなるのは当たり前、絶対評価で行った個人の評価が悪いということは、会社の業績も悪いということで、昇給原資が少なくなるのは当然である、と考えることができます。

(6) 相対区分で行うと、社員がみんな頑張って会社の業績がよいにもかかわらず、無理やり評価区分の悪い人を作り、逆に業績が悪くても無理やり評価区分のよい人を作るということになり、業績に関係ない昇給になってしまう恐れがあります。

(7) 絶対区分は評価結果がストレートに反映するため、評価基準や評価ルールを明確にする必要があります。(全体的に甘くなってしまう傾向があります。)

(8) 相対区分は最終的に社員の順位付けになってしまい、いくら基準作成やルールの勉強をしても、結局は感情面が反映してしまいます。

 絶対区分と相対区分、それぞれの特徴と自社の実情を踏まえて、どちらを採用するかは各企業の判断となります。

 

人事考課 4つのステップ

 公正な人事考課は、従業員と会社との信頼関係構築における最重要ファクターです。一方、不公平な人事考課制度は、信頼関係の崩壊が生じる危険性が潜んでいる制度であると言えます。だからこそ、人事考課を導入する際は、正しいステップで一つひとつ慎重かつ丁寧に制度を整えなくてはなりません。

STEP1 企業基準を策定する

 人事考課において、はじめに行わなければならないのが企業基準の策定ですが、人事考課の基準は企業により様々です。書籍やネットで多くのモデルケースが公開されていますが、モデルケースが必ずしも自社に適している訳ではありません。大切なのは、自社の現状を踏まえ、企業独自の基準を策定することであり、自社の現状に則してはじめて、公正な人事考課(評価)と人材育成から、業績アップにつなげることができます。
人事考課は、それぞれの企業が掲げる企業理念や事業戦略に基づいた評価項目を策定し、それぞれの評価項目には基準となる重要度を定める必要があります。また、同様の評価項目であっても、従業員の階級(役職)によって評価方法が異なる点も留意する必要があります。いずれの場合であっても、評価者の主観が影響することのないよう、できる限り明確な評価基準を定めることが重要です。

 

STEP2 目標を設定する

 評価を行う際、判断基準となるのは、「目標をどれだけ達成できたか」にあります。あまりにも現実離れした目標設定や、根拠のない目標設定は、従業員の達成意欲の減退につながりますので注意が必要です。
 目標設定の際は、企業や部署全体の目標をふまえ上席および従業員の双方で話し合い、現実的な目標設定を行うことが大切です。その際、労せずして簡単に成し遂げられるような低い目標設定にしてはいけません。目安としては、「努力すれば達成できる可能性がある範囲」に目標設定を行うことが重要です。
 目標設定の最大の目的は、「従業員が取り組むべき事項を明確にし、達成度を数値化できる目標を立てること」にあります。数値化することで、目標がより具体的になり、自身の達成度が明確になるため、モチベーションアップにつながります。

 

STEP3 評価を行う

 評価者は、STEP1で定めた企業基準に基づき従業員の評価を行います。

ここで注意すべきポイントは、「絶対評価」で評価を行うことです。周りと比較して評価を行う「相対評価」では、被評価者の本当の評価は行えません。相性や好き嫌いなど、個人の主観や先入観をできる限り排除し、全ての従業員に対し公平な評価ができてこそ、はじめて個人と企業の成長へとつなげることができます。

 人事考課では、評価者に加え、被評価者自身も自己評価を行うことが大切です。これにより、被評価者の主張と、評価者との認識のズレを確認することができ、より客観的な評価を行うことができるようになります。また、評価後のフィードバック面談で認識のズレを摺り合わせるなど、今後の成長に向けた施策を行うことができます。

絶対評価

 絶対評価とは、個人の能力について、あらかじめ定められた評価基準に則って評価する手法です。同じ組織や集団に属する他者の評価に左右されず、設定した基準や数値化された目標などに照らして評価されることで、被評価者個人を正しく評価することができます。

相対評価

 相対評価とは、集団のなかで周りと比較しながら成績や昇進を評価していく制度です。数値目標の達成度やスキルテストの成績など、公正な評価基準を用いて評価を進めるのと並行して、組織内での個人と他者を一定の基準にもとづいて比較評価することで、最終的な評価を決めていきます。

 

STEP4 フィードバック面談を行う

人事考課は、評価・査定だけがゴールではありません。大切なのは、被評価者の今後の成長に向けフォローアップしていくことであり、従業員と会社の信頼関係強化を図ることに他なりません。また、人事考課も定期的に行われることから、時期の目標設定に向け、評価者である上席と、被評価者である従業員との面談によるフィードバックが不可欠となります。
面談では、従業員本人が理解・納得のできるよう、評価結果を伝えていく必要があります。その際上席は、改善点に終始するのではなく、高評価ポイントを積極的に伝え、従業員のモチベーションアップを図ります。そして、従業員本人が能動的に改善していけるよう、導くことが大切です。

 

考課者の区分 に続く

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