目標管理

目標管理とは

 「目標によって」管理する対象は仕事や部下の活動です。上司が一方的に担当者の仕事を割り振ったり、細かく指示命令するのでなく、担当者自らが自分の担当する仕事についての目標を設定する。その目標について上司との合意がとれたら、目標達成に向けての活動は担当者が自己統制しながら進めるというものです。

 MBOは、「Management by Objectives」の略で、日本語では『目標管理』と訳されます。

 目標管理とは、目標を体系的に組織の末端まで分割していく過程で、個人目標との一致を図り、組織全体の目標に向けて自己統制していくことを目的とする全般管理システムのことを指します。組織目標と個人目標を擦り合わせ、個人それぞれに自己管理させることで、組織全体の目標を達成していくことを目的としたマネジメント手法のことです。

 ピーター・ドラッカーが著書『現代の経営』内で発表した概念です。

 

 1954年にドラッカー氏が提唱した目標管理制度は、1960年代にはアメリカの企業へ導入が広がっていきました。導入が進むなかで、目標管理制度はマネジメント手法というより人事評価制度の意味合いが強くなっていきます。

 1990年代の日本は、バブル経済が崩壊し、多くの企業が人件費の削減・報酬制度の見直しに追われる真っただ中でした。日本がそれまで運用してきたのは、成果ではなく、職務の遂行能力で評価する「職能資格制度」という評価制度です。「年功序列制度」が当たり前だったことも相まって、従業員のパフォーマンスとは関係なく、人件費が膨らみ続けるという課題がありました。そこで注目されたのが目標管理制度です。目標管理制度は、目標に対する成果で人事評価や報酬の決定を行います。そのため、人件費を抑えつつ業績を伸ばせる人事評価ツールとして、一気に浸透していったのです。

 目標管理が提唱される以前のマネジメント手法では、組織目標を達成するためには個人目標を押さえつけておく必要があると考えられており、従業員が個人のやりたいことを犠牲にして働き、その見返りとして従業員に給料が支払われるという構図が成り立っていました。組織目標と個人目標は相反するものであるという考え方が一般的だったのです。

 目標管理という考え方の根本にあるのは、「従業員が自ら目標を見つけて取り組み、問題を解決する」というプロセスを達成する仕組みです。

 従業員一人一人の成長を促進すると同時に、企業戦略を具体化し、それを達成するために何が必要かを自ら考えることができる従業員を育成するために、目標管理が利用されるようになりました。

 目標管理制度では、メンバー自身と上司が合意の上で担当する職務の目標を設定し、一定期間ごとまたは期末に その目標の達成度を評価します。

 当然ながら、目標を上回る業績を上げれば評価は高くなり、目標に達することができなければ評価は低くなります。

 X理論・Y理論のマクレガーは、この目標管理制度を「Y理論」とともに取り上げています。

 この目標管理制度は、R&D(研究開発)部門や営業部門等幅広い部門で動機付けの手法として取り入れられていますが、最近では目標管理制度の弊害を指摘する声も多く出てきているのも事実です。

 

目標管理の基本

 目標管理の基本的な考え方は、「仕事のやり方をこと細かに指示したり、命令したりするような管理をするのでなく、担当者自身に最終的にどういう結果を得るのか、どこまでやるのかという目標を明確にさせ、その進め方や実行段階の管理を担当者に任せてしまうほうが成果が大きくなる」ということなのです。

 基本的な考え方は同じであっても、その運用方法や目的によりいくつかの種類があり、自社がどのような目的で どのような運用の目標管理を導入するのか、あるいは導入しているのかを明確にする必要があります。それを混同してしまうと、本来の目的が達成できないばかりか、社内に不信感や混乱が生じ、逆効果となってしまいます。

 

目標管理における目標の捉え方

 目標管理の考え方では、組織目標と個人目標は共存できる関係性であり、その二つの目標が近ければ近いほど従業員のモチベーションは向上し、双方の目標が達成されるだろうと考えられました。

 会社と個人の目標を合致させるために、従業員と話し合いを行い、経営へ参加しているという意識を持たせ、自主性をもって管理させることによって実現可能であると唱えられたのです。

 以下が目標管理の考え方における特徴と言えるでしょう。

 ・組織目標と個人目標の共存
 ・従業員を尊重すること
 ・従業員を参加させること
 ・従業員に自己管理させること

 これらの考え方が企業に導入されていくことで、それまでの「上司の言うとおりに働く」というマネジメント手法から、「個人と話し合いを行い、ひとりひとりが自己管理しながら働く」マネジメント手法へと転換したのです。

 この考え方が非常に革新的であったことから、目標管理は世界中に広がり、その後、時代背景に合わせて改良・改善が繰り返されて、現在では多くの企業が目標管理を導入しているのです。

 

目標管理の導入による効果、メリット

 目標管理の導入には3つのメリットがあると考えられています。

 1 社員のモチベーションアップ

 1つ目のメリットは、意欲的・積極的に取り組む社員を育成できる点です。

 目標管理とは、業務を担当する社員自らが、業務目標を設定・申告したり、申告した業務目標の進捗や結果を主体的に管理したりすることで、社員自らが組織を動かしていくマネジメント方法のこと。目標管理の導入により業務に対する社員の自主性が高まります。

 自主性が高まることで、

 ・社員のモチベーションの向上

 ・自ら考え、自ら働く人材の育成

の実現につながるでしょう。

 ・上司に言われたからやる

 ・すでに決まっていることだから取り組む

といった受身的・消極的姿勢ではなく、意欲的・積極的に取り組む社員を育成できるのは企業にとっても大きな魅力でしょう。

2 社員のスキルアップ

 2つ目のメリットは、社員のスキルアップを促せる点です。

 ・自らの意思で自分の目標を設定

 ・設定した目標を実現するために進む

というプロセスを経ることで、社員一人ひとりのスキルが磨かれます。

 個々の社員が能力を高めれば、チームのレベルも底上げされるでしょう。チームのレベルが高くなれば、当然、企業としての力もレベルアップします。企業を構成する社員一人ひとりの能力向上は、企業そのものの価値を高めることにつながるのです。

3 評価しやすい

 3つ目のメリットは、各工程を評価しやすくなる点です。

 ・目標に対してのプロセス

 ・目標に対しての進捗

 ・目標に対しての成果

のそれぞれを評価しやすくなるのです。目標管理はなるべく具体的な目標を設定します。

 それにより、

 ・目標達成に向けてどのような方法でアプローチを行っているのか

 ・目標達成に対してどこまで進んでいるのか

 ・目標達成に対してどのような成果を出せているのか

といったさまざまな観点からの評価が容易になるのです。

また、公平な評価制度としても活用できるでしょう。

 

目標管理制度のデメリット

1 管理職の負担が増える

 目標管理制度は、管理職が個々の従業員に対して評価とフィードバックを行います。そのため、チームメンバーが多い組織の管理職は必然的に評価すべき対象者が増え、負担も大きくなるでしょう。また、評価によっては従業員のやる気を損ねかねないため、評価者である管理職への精神的なプレッシャーも考慮しなければいけません。

2 時代の流れに対応できないこともある

 現代は先行きが不透明なので、企業も柔軟に経営方針を変えていく必要があります。ただ、目標管理制度の評価スパンは1年ごとであることが多く、その間に組織目標がガラリと変わる可能性も高いです。結果、組織目標に連動している個人目標も軌道修正しなければいけません。そうなると評価自体が複雑で難しくなってしまいます。

3 適正評価ができないと、従業員のモチベーションを下げてしまう

 目標管理制度では、従業員によって目標が違うため、評価の判断基準も一様ではありません。管理職の評価スキルが伴っていないと、適正な判断を下すのは難しいのです。万一従業員の納得できないような評価だった場合、従業員のモチベーションを大きく損ねてしまう可能性もあります。そのため、評価者である管理職に対して、フィードバックや評価のスキルを習得できるような研修・教育を十分に施すことが重要です。

目標管理の運用で起こりがちな失敗

 目標管理を運用する際、失敗することもあります。失敗の多くは、目標管理そのものが悪いというよりは、目標管理の運用に問題がある場合が多いようです。

 1 目標至上主義

 1つ目は目標至上主義によるもの。目標そのものに重きを置くあまり、目標に対する成果のみを評価してしまうケースです。

 ・売り上げ200万円の目標に対する結果は190万円、目標は達成できておらず低評価

 ・新規顧客10件獲得の目標に対する結果は9件、目標に足りていないため低評価

など、目標をノルマ管理の一つとしてしか活用できていないケースです。このような目標至上主義では、本来の目標管理が目指す社員のモチベーションの向上、スキルアップ といったメリットを享受しにくくなります。

2 手段の目的化

 2つ目は目標管理の手段が目的化されてしまうこと。

 目標管理を行う際、社員自らが立てた目標に対する進捗や結果を検証するため、上司との間で目標管理面談を行います。

 目標管理面談は、評価者である上司の負担が大きい組織内をあらゆる観点で評価するため、ミドルマネジメントのマネジメント力が求められる、という特徴を持つものです。

 もし、目標管理面談の実施が目的となったら、業務よりも評価を優先するようになるでしょう。

 手段の目的化となり、結果「評価しやすい」という目標管理のメリットが損なわれ、評価そのものが大きな負担になってしまうのです。

3 社員のモチベーション低下

 3つ目は社員のモチベーション低下です。

 目標管理の運用に失敗すると、目標管理は単なるノルマ管理になり、毎日の業務が会社や上司からの押し付けになります。それによって、社員のモチベーションは低下し、そして、生産性も低下してしまうのです。

 企業目標を達成するために行った目標管理によって、企業の弱体化を招いてしまっては本末転倒といえます。目標管理を運用する際は、目標管理の意味をよく考え、導入メリットを最大限享受できるような方法を構築しましょう。

 

目標管理制度の導入事例  住友重機械工業

 住友重機械工業では、2004年10月に人事制度の大幅な改定を行い、人事評価方法をそれまでの職能評価制度から目標管理制度に変更されました。職能評価制度から目標管理制度に変更することによって、個々の「役割」とそれに対してどのような「成果」を出したかを重視するようになり、評価の対象が変更されています。目標管理制度の導入後では、単に保有している能力を判断するだけでなく、個々の役割において、事前に設定した目標に対してその能力をどれだけアウトプットして顕在化させたかを評価し、それに対して処遇が行われています。給与体系でも年齢給も廃止され、「成果」と「プロセス」を評価した結果のみが昇給に反映されるしくみとされました。これにより、「各人の成果の違いが評価に大きく結びつく」という、メリハリのある処遇になったのです。また、住友重機械工業では、評価の透明性と信頼性が問われるため、個々の目標とその結果、それに対する上司の評価が記載された評価シートを重要視しています。以前の職能評価制度では、評価後にその結果や理由を明確に評価対象者に告げられることはありませんでしたが、目標管理制度導入後では、この評価シートをもとに、「なぜこのような評価になったのか」というフィードバックが行われています。

 このように、コミュニケーションのためのツールとしても、目標管理制度が活用されていることを見ることができます。

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