腎疾患

腎臓の機能

 

人間には通常、2つの腎臓があります。腎臓から始まって尿管(左右の腎臓と膀胱をつないでいる2本の管)、膀胱、尿道(膀胱から体外に通じる1本の管)へと続く尿の通り道を尿路と呼びます。尿は2つの腎臓で絶えず作られていて、尿管を通って緩やかに膀胱へ流れこみます。そして膀胱から尿道を通り、男性では陰茎、女性では外陰部を通過して体外に排出されます。通常、尿中には細菌など感染性の微生物は存在しません。

 

腎臓はソラマメのような形をした臓器で、長さは約12センチメートルです。脊柱(背骨)の両側にあり、消化器系の臓器が納まっている空間(腹腔)の背中側に位置しています。それぞれの腎臓には、大動脈から枝分かれした腎動脈と呼ばれる血管を通じて血液が流れこみます。血液は腎動脈から徐々に細い動脈を通過していきますが、最も細くなった部分は細動脈と呼ばれます。細動脈を通過した血液は、毛細血管と呼ばれる微細な血管が房状になった糸球体という構造物に流入します。血液は各糸球体から細静脈につながっている細動脈を通って流れ出ます。複数の細静脈が集まって最終的には1本の太い腎静脈となり、腎臓に入った血液はこの静脈を通って出ていきます。

 

 

腎臓の主な機能は、体内の水分とミネラル(電解質も含まれる)のバランスを適度に保つことです。その他にも、体内での食物、薬物、有害物質(毒素)などの処理(代謝)によって生じる老廃物のろ過と排出、血圧の調節、特定のホルモンの分泌なども担っています。

 

水分と電解質のバランス:

人が生命を維持するためには、定期的に水分を摂取する必要があります。また体内での食物の処理(代謝)によっても水分が作られます。体内に入ってくる水分の量に対して体外への排出が十分に行われなくなると、水分が急激に蓄積していく結果、その人は病気となり、場合によっては死に至ることさえあります。水分量が過剰になれば体内の電解質は薄まり、水分摂取を制限すれば電解質は濃くなります。体内の電解質の濃度は厳密に維持される必要があります。腎臓は、水分と電解質のバランスを適切に調節して維持する役割を果たしています。

血液は強い圧力を受けながら糸球体に流れこみます。血液中のうち液体の大部分が糸球体の小さな穴からろ過されますが、タンパク質などの大きな分子と血液細胞は、ろ過されずに血液中に残ります。ろ過されてタンパク質や血液細胞などが除去された液体は、ボーマン嚢腔に入った後、そのボーマン嚢から出る尿細管に流れこみます。健康な成人の場合、1日に約180リットルの水分がろ過されて尿細管に流れこみます。しかし、その水分(とそれに含まれる電解質)は腎臓内でほぼすべて再吸収され、尿として排泄されるのは約1.5~2%だけとなります。このようにいったん尿細管まで排出された水分が再び吸収(再吸収)されるのは、ネフロンの別の部位で別の電解質とともに水の分泌と再吸収がなされ、さらにネフロンの他の部分で水分の透過性が異なることによります。これらの性質により、一定量の水分が体内の循環に戻るしくみになっているのです。これらのプロセスの詳細は少し複雑です。

 

尿細管の最初の部分(近位曲尿細管)では、ナトリウム、水、ブドウ糖などの糸球体でろ過された物質の大半が再吸収され、最終的には血液中に戻っていきます。尿細管の2番目の部分(ヘンレ係蹄)では、ナトリウム、カリウムおよび塩素イオンが細胞膜のポンプ機能によって吸収されるため、残った液体は次第に薄くなっていきます。薄くなった液体は尿細管の次の部分(遠位曲尿細管)へと進みますが、そこではナトリウムがさらに血液中へと吸収され、その代わりにカリウムと酸が尿細管の内部に分泌されます。

尿細管を通過した液体は、数個のネフロンの尿細管が1本に合流した集合管へと流れこみます。集合管に流入した時点では、尿は薄いままの場合もあれば、水分が吸収されて(血液中に戻り)濃くなっている場合もあります。水の再吸収は抗利尿ホルモン(脳下垂体から分泌される)などのホルモンによって調節されています。これらのホルモンは、腎臓の機能を調節するとともに、尿の組成を調整して体内の水と電解質のバランスを維持するのに役立っています。

 

ろ過と排泄:

体内で食物が代謝されると特定の老廃物が作られますが、これらの物質は体内から除去する必要があります。主な老廃物の1つに、タンパク質の代謝によって作られる尿素があります。尿素は糸球体の壁を自由に通過して尿細管へと排出されますが、再吸収されることはなく、その全量が尿に含まれることになります。

その他にも望ましくない物質(酸などの代謝による老廃物や多くの毒素、薬剤など)が尿細管の細胞によって活発に尿中へと排出されます(これらが尿特有の臭いの素となります)。

 

血圧の調節:

腎臓のもう1つの機能は、過剰なナトリウムを排出することで血圧の調節を助けることです。排出されるナトリウムの量が少なすぎると、血圧は上昇しやすくなります。また腎臓はレニンと呼ばれる酵素を分泌して血圧の調節機能に関与しています。血圧が正常値未満まで低下すると、腎臓から血液中にレニンが分泌されてレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が活性化し、その結果、血圧が上昇します。腎不全のある患者では、血圧の調節が難しくなり、高血圧になりやすくなります。

 

ホルモンの分泌:

腎臓はホルモンを分泌することによって、赤血球の生産や骨の成長と維持などの重要な身体機能の調節に関与しています。

腎臓では、骨髄での赤血球の生産を促すエリスロポエチンと呼ばれるホルモンが作られます。これにより骨髄注で赤血球の産生が活発となり、産生された赤血球は骨髄から血液中へと放出されます。

健康な骨の成長と維持は、腎臓を含めたいくつかの臓器が関与する複雑なプロセスです。そのなかで腎臓は、骨の健康に重要なミネラルであるカルシウムとリンの血中濃度の調節を担っています。そのために腎臓では、皮膚で作られるほか、さまざまな食物にも含まれる不活性型のビタミンDが、ホルモンと同じように作用して小腸からのカルシウムとリンの吸収を促進する活性型のビタミンD(カルシトリオール)に変換されます。

 

 

 

尿路の構造

 

 

 腎臓の最も重要な役割は血液を濾過して尿をつくり、これを体外に排泄することである。食事や飲水などによって体に溜まる余分な水分や酸・電解質、老廃物を尿として体外に排泄し、必要なものは再吸収して体内に留め、体内を一定の環境に維持する働きをする。また、腎臓は血圧を維持するホルモン(レニン)や血液をつくる造血ホルモン(エリスロポエチン)をつくり、血圧のバランスをとったり、貧血を防いだり、カルシウムを吸収して骨をつくるビタミンDを活性化して、骨の量や質の維持やカルシウムバランスの維持に努めている。

 

 

腎臓は外側の部分(皮質)と内側の部分(髄質)に分けられます。糸球体はすべて皮質の中にありますが、尿細管は皮質と髄質の両方にまたがっています。何千ものネフロンの集合管を通過してきた尿は、コップのような形をした構造物(腎杯)へと流れこみます。腎杯は1つの腎臓にいくつか存在しますが、それらから出た尿はすべて腎盂(じんう)と呼ばれる腎臓中央の空洞部分に流れこみます。左右それぞれの腎臓の腎盂を出た尿は尿管に入っていきます。

 

 

腎臓の機能を担っている最小(顕微鏡レベル)の構造物をネフロンと呼び、ここで血液がろ過されて、尿が作られます。1個の腎臓に約100万個のネフロンがあります。それぞれのネフロンでは、1つの糸球体をおわん状の薄い壁の構造物(ボーマン嚢)が取り囲んだ構造をしています。さらに、ボーマン嚢の内部(ボーマン腔)から水分(この段階から尿となります)を排出する細い管(尿細管)もネフロンの一部です。ネフロンを構成する3番目の部分は、複数の尿細管から排出される尿が集められる集合管です。尿細管は、近位曲尿細管、ヘンレ係蹄(けいてい)および遠位曲尿細管と呼ばれる、それぞれが連結した3つの部分で構成されています。

腎臓は外側の部分(皮質)と内側の部分(髄質)に分けられます。糸球体はすべて皮質の中にありますが、尿細管は皮質と髄質の両方にまたがっています。何千ものネフロンの集合管を通過してきた尿は、コップのような形をした構造物(腎杯)へと流れこみます。腎杯は1つの腎臓にいくつか存在しますが、それらから出た尿はすべて腎盂(じんう)と呼ばれる腎臓中央の空洞部分に流れこみます。左右それぞれの腎臓の腎盂を出た尿は尿管に入っていきます。

 

 

尿管

尿管は長さ約40センチメートルの筋肉でできた管で、その上端は腎臓、下端は膀胱につながっています。

腎臓で作られた尿はこの尿管を通って膀胱に流れこみますが、その尿の流れは重力だけによるものではなく、尿管の緩やかなぜん動運動(波打つような動き)によって、少量ずつ膀胱に送られていきます。左右それぞれの尿管は膀胱壁の開口部へと通じていますが、尿が尿管に逆流するのを防ぐため、この開口部は膀胱の収縮時には閉じられるようになっています。

 

 

膀胱

膀胱は伸縮性のある筋肉でできた袋状の臓器です。尿管を通って流れてきた尿は膀胱の中にたまります。

膀胱はたまっている尿の量に応じて徐々に膨張していきます。そして膀胱がいっぱいになると、排尿が必要であることを伝える信号が神経を介して脳に送られます。排尿時には、膀胱の出口(尿道につながっています)にある尿道括約筋が開くことによって、尿が膀胱から流れ出ていきます。それと同時に膀胱壁が自動的に収縮し、その圧力によって尿が尿道の中を下方へと押し出されていきます。さらに、腹壁の筋肉を意識的に収縮することによる圧力も加わります。膀胱が収縮している間、膀胱壁にある尿管の末端部はしっかりと閉じられ、尿が尿管を通って腎臓の方へ逆流するのを防いでいます。

 

 

 

尿道

尿道は、尿が膀胱から体外に排出される際に通過する管です。男性の場合、尿道の長さは約20センチメートルで、陰茎の先端部まで続いています。女性の場合は長さ約4センチメートルで、外陰部まで続いています。

 

 

 

 

 

 


腎臓や尿路の病気

 

腎臓や尿路の病気とは、片方または両方の腎臓、片方または両方の尿管、膀胱あるいは尿道の異常を指します。

尿路の病気の中には、問題が深刻化するまで症状が現れにくいものもあります。そのような病気としては、腎不全、腎腫瘍、尿の流れを妨げない程度の腎臓結石、一部の軽い感染症などが挙げられます。症状が現れても非常にありふれた症状であるために、腎臓との関連性を判断することが医師にも難しくなる場合もあります。たとえば慢性腎不全では、全身のだるさ(けん怠感)、食欲不振、吐き気、全身のかゆみなどが唯一の症状となる場合があります。高齢者では、感染症や腎不全で最初に認識される症状が精神錯乱となる場合もあります。腎臓または泌尿器の異常が疑われる症状としては、わき腹(側腹部)の痛み、両脚のむくみ、排尿の問題などが挙げられます。

失禁は、排尿をコントロールできない状態のことで、さまざまな原因によって発生します。

 

 

 

腎臓のろ過障害

腎臓による血液のろ過機能は、糸球体と呼ばれる組織によって担われていますが、この糸球体は左右の腎臓に約100万個ずつ存在します。糸球体は、多数の小さな穴の開いた微細な血管(毛細血管)が顕微鏡レベルの微小なかたまりを形成したものです。この微細な血管は、血流に含まれる水分が微小な管(尿細管)で構成される周辺部分へと漏れ出すような構造になっていて、このプロセスによって尿が作られます。正常な状態では、このろ過の仕組みによって水分と小さな分子だけが尿細管に漏出します(タンパク質や血液細胞はほとんど漏出しません)。

 

 

腎臓の血管障害

腎臓が正常に機能するには、腎臓へ血流が正常に維持される必要があります。血流が途絶えたり減少したりすると、腎臓の組織に損傷が生じたり、機能不全に陥ったり、また長時間になれば血圧が上昇したりもします。腎臓に血液を供給している動脈の血流が完全に遮断されると、腎臓の全体またはその血管から血液供給を受けている部分が壊死してしまいます(腎梗塞)。

腎梗塞が起きれば、腎不全に発展することもあります。

腎臓の血管障害の原因としては、腎動脈または腎静脈の閉塞、血管の炎症(血管炎)、腎臓または血管の損傷、その他の病気など、いくつかのものが考えられます。たとえば、全身性硬化症(強皮症)や鎌状赤血球貧血では、腎臓にも障害が発生する場合があり、ときには慢性腎不全に至ることもあります。また腎臓が侵された全身性硬化症では、悪性高血圧症が引き起こされる場合もあります。

 

 

腎臓の血液供給

 

 

 

 

腎疾患による障害

 

 腎疾患の主要症状としては、悪心、嘔吐、食欲不振、頭痛等の自覚症状、浮腫、貧血、アシドーシス等の他覚所見があります。

 

 腎臓の機能が低下してくると、下表のような問題が起こってきます。

腎臓の機能

腎不全時に起こる異常の例

水の排泄

浮腫(むくみ)、高血圧、肺水腫(胸に水が溜まる)

酸・電解質の排泄

アシドーシス(体に酸が溜まる)、高カリウム血症、高リン血症

老廃物の排泄

尿毒症(気分不快・食欲低下・嘔吐・意識障害)

造血ホルモン産生

貧血

ビタミンD活性化

低カルシウム血症、骨の量・質の低下

 

腎機能の目安のひとつは、血液中のクレアチニン濃度である。クレアチニンは筋肉由来のたんぱく質の老廃物のひとつで、腎機能が低下するとクレアチニン値は上昇する。

クレアチニンの正常値は通常1mg/dl以下である。仮に、正常値血清クレアチニン濃度が1mg/dlの人の腎機能が低下し、2mg/dlとなったとすると、腎機能は正常の2分の1しかはたらいていないことになる。

 

 

障害の程度

障 害 の 状 態

1級

身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの

2級

身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの

 

人工透析療法施行中のもの

3級

身体の機能に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの

障害手当金

 

慢性腎不全の検査項目および異常値

区分

検査項目

単位

軽度異常

中等度異常

高度異常

内因性クレアチニンクリアランス値

ml/分

20以上 30未満

10以上

20未満

10未満

血清クレアチニン濃度

mg/dl

3以上 5未満

5以上 8未満

8以上

(注) eGFR(推算糸球体濾過量)が記載されていれば、血清クレアチニンの異常に替えて、

eGFR(単位はml/分/1.73㎡)が10以上20未満のときは軽度異常、10未満のときは中等度異常と取り扱うことも可能とされる。

 

 ネフローゼ症候群の検査項目および異常値

区分

検査項目

単位

異常

尿蛋白量(1日尿蛋白量又は 尿蛋白/尿クレアチニン比)

g/日 又はg/gCr

3.5g以上を持続する

血清アルブミン (BCG法)

g/dl

3.0g以下

血清総蛋白

g/dl

6.0g以下

 

一般状態区分表

区分

一 般 状 態

無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの

軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの (たとえば軽い家事、事務など)

歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの

身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの

身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの

 

 

さまざまな原因により、腎臓の働きが不十分になった状態を腎不全と言う。

 

 腎不全は、日又は週単位で腎不全に陥り、基本的には可逆性の急性腎不全と、月又は年単位で緩除ながら進行性に腎不全に陥る不可逆的な慢性腎不全との2つに大別される。

 

 腎疾患による障害の認定の対象はそのほとんどが、慢性腎不全に対する認定である。

 

慢性腎不全とは、慢性腎疾患によって腎機能障害が持続的に徐々に進行し、生体が正常に維持できなくなった状態をいう。

 

 

 すべての腎疾患は、長期に経過すれば腎不全に至る可能性がある。腎疾患で最も多いものは、糖尿病性腎症、慢性腎炎(ネフローゼ症候群を含む。)、腎硬化症であるが、他にも多発性嚢胞腎、急速進行性腎炎、腎盂腎炎、膠原病、アミロイドーシス等がある。

 

 

 慢性腎臓病は、3ヵ月以上持続する蛋白尿・血尿などの尿異常、腎形態異常または腎機能が約60%未満にまで低下した状態のことをいう。  腎機能が正常の60%未満に低下すると、進行性の腎機能低下があると考えられる。腎機能が正常の15%以下となると末期腎不全となり、末期の治療法は腎移殖か透析療法に限られてくる。

 

 腎疾患の主要症状としては、悪心、嘔吐、食欲不振、頭痛等の自覚症状、浮腫、貧血、アシドーシス等の他覚所見がある。

 

 

 健康診断で、尿蛋白が出たり、血糖値やクレアチニンの数値が異常を示して、再検査の指示や「要治療」と診断されたときを腎疾患で「異常が認められた場合」という。再検査で医師の診断を受けた場合は、その日が初診日となる。健康診断等で再検査指示があったが、特に体が疲れやすいこともないため受診をしないで数年後に体調不良で受診した場合は、数年後の受診日が初診日とされる。

 

糖尿病と糖尿病性腎症  相互因果関係「あり」

 

糖尿病性腎症を合併したものの程度は、「腎疾患による障害」の基準により認定する。

合併症としての慢性腎不全(糖尿病性腎症)については、基本となる傷病の初診日を初診日とすることとしている。

 

 

腎臓の病気は、腎臓の中で異常が発生する部位とその発生の仕組みによって、糸球体腎炎(または腎炎症候群)、尿細管間質性腎炎、ネフローゼ症候群の3種類に分類することができます。

 

 

 

糸球体腎炎(腎炎症候群)

糸球体腎炎(腎炎症候群)は、糸球体(小さな穴の空いた毛細血管でできた微細な球状の腎組織)に炎症が起きる病気です。

それにより血液の細胞やタンパク質が糸球体の毛細血管から尿中へと漏れ出てしまいます。

 

糸球体腎炎は、むくみ(浮腫)、高血圧および尿中での赤血球の検出を特徴とします。

 

糸球体腎炎は短期間に発生する場合(急性糸球体腎炎)もあれば、緩やかに発生して徐々に進行する場合(慢性糸球体腎炎)もあります。

 

急性糸球体腎炎:

急性糸球体腎炎は、ほとんどの場合、細菌の一種であるレンサ球菌による咽喉(のど)または皮膚の感染症の合併症として発生します。レンサ球菌の感染後に発生する急性糸球体腎炎(溶連菌感染後糸球体腎炎)は、典型的には2~10歳の小児において感染症からの回復後に発症します。ブドウ球菌や肺炎球菌などのその他の細菌感染症、水痘などのウイルス感染症、マラリアなどの寄生虫感染症もまた、急性糸球体腎炎の発生につながることがあります。このような何らかの感染によって発生する急性糸球体腎炎は、感染後糸球体腎炎と呼ばれています。感染以外の急性糸球体腎炎の原因としては、膜性増殖性糸球体腎炎、IgA(免疫グロブリンA)腎症、菲薄基底膜病(ひはくきていまくびょう)、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、全身性エリテマトーデス(ループス)、クリオグロブリン血症、グッドパスチャー症候群、ヴェーゲナー肉芽腫症などが挙げられます。急速進行性糸球体腎炎に発展する急性糸球体腎炎は、そのほとんどが異常な免疫反応に関係した病態によって発生したものです。

 

急速進行性糸球体腎炎では、筋力低下、疲労および発熱が最もよくみられる初期症状です。その他に食欲不振、吐き気、嘔吐、腹痛、関節痛などもみられます。約50%の患者では、腎不全を発症する1ヵ月ほど前にインフルエンザに似た症状を経験しています。このような人では、浮腫がみられるほか、通常は尿がほとんど出なくなります。高血圧となることはまれで、みられたとしても重度の高血圧になることはめったにありません。

 

治療

多くの急性糸球体腎炎では、病気そのものに対する特異的な治療法はありません。腎機能が回復するまで、タンパク質とナトリウムを制限した食事療法が必要となります。また腎臓で過剰なナトリウムと水分が排出されるようにするため、利尿薬が処方されることもあります。高血圧がみられる場合は治療が必要です。

 

急性糸球体腎炎の原因として細菌の感染が疑われる場合でも、腎炎は感染の1~6週間後(平均2週間後)に発症する一方、それまでの間に感染症は治癒してしまうため、抗生物質の使用は通常必要ありません。ただし、急性糸球体腎炎と診断がついた時点でまだ細菌感染症の症状が持続している場合は、抗生物質治療が行われます。原因がマラリアである場合は、抗マラリア薬の使用が有益です。

 

急速進行性糸球体腎炎の場合は、速やかに免疫抑制薬の投与が開始されます。通常は高用量でのステロイド薬の静脈内投与を約1週間継続した後、内服薬に切り替えます(内服薬の服用期間は人によってさまざまです)。免疫抑制薬のシクロホスファミドを投与する場合もあります。さらに、血液中の抗体を取り除くために血漿交換が行われる場合もあります。治療を早く開始するほど、腎不全に進行する可能性や透析の必要性は少なくなります。慢性腎不全に移行した人には、ときに腎移植が検討されますが、移植された腎臓で急速進行性糸球体腎炎が再発する場合もあります。

 

アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬とアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)は、単独または併用で使用され、しばしば慢性糸球体腎炎の進行を遅らせることができます。降圧薬の服用やナトリウムの摂取制限もまた有益であると考えられています。またタンパク質の摂取量を制限することが、腎機能の低下を遅らせるのにある程度有用です。末期腎不全は透析か腎移植で治療します。

 

 

慢性糸球体腎炎:

慢性糸球体腎炎の多くは、IgA腎症や膜性増殖性糸球体腎炎など、急性糸球体腎炎の原因となる病態から発生すると考えられています。ときには、急性糸球体腎炎が治癒しないまま、慢性化する場合もあります。慢性糸球体腎炎はまた、遺伝性の疾患である遺伝性腎炎が原因で引き起こされることもあります。しかし多くの場合、慢性糸球体腎炎の原因は特定できません。

 

慢性糸球体腎炎では、ごく軽微な症状しか生じないのが通常であるため、ほとんどの人は病気に気づかないまま長期間が経過します。浮腫がみられることがあり、高血圧はよくみられます。この病気は腎不全に進行することがあり、その場合はかゆみ、疲労、食欲不振、吐き気、嘔吐、呼吸困難などが生じます。

 

 

慢性腎炎

 慢性腎炎は腎臓の炎症性の病気で、長期間にわたり蛋白尿や血尿の症状がみられる状態をいいます。

慢性腎炎を起こす疾患は様々ですが、免疫反応の異常によって起こるといわれています。具体的には免疫反応で作られた抗体が抗原と反応し、その物質が糸球体で沈着することが炎症の原因とされています。

 

慢性腎炎の症状  病型は様々で、自覚症状がないもの、高血圧を伴うもの、ネフローゼ症候群がみられるもの、腎不全に陥って尿毒症になるものなどがあります。

 

慢性腎炎の治療  慢性腎炎を治療する根治的な特効薬がないために、進行を抑える治療が行われます。  変換酵素阻害剤や受容体拮抗剤で、腎症の進行を抑制させたり、降圧薬で血圧をコントロールさせたりします。

 

 

 腎炎から慢性腎不全になった場合は、腎炎として初めて医師の診断を受けた日が初診日となります。腎炎にかかり、その後、慢性腎不全を生じたものは両者の期間が長いものでも因果関係があるとして扱っています。

 腎炎とは、糸球体腎炎ネフローゼ症候群、IGA腎症、腎盂腎炎などが該当します。

 

 


ネフローゼ症候群  ネフローゼ症候群とは、腎糸球体のフィルター機能の低下(基底膜透過性亢進)をきたす病変の総称のことをいう。

 主にその症状は高度の蛋白尿が持続し、低蛋白血症、浮腫がみられ、多くは高脂血症、尿中への脂肪体排出を伴い、この結果、浮腫、倦怠感、腹水、低栄養状態などをきたします。

 ネフローゼ症候群は、その主な原因疾患により、原発性糸球体腎炎(一次性)と、全身疾患に伴う続発性(二次性)に分けられます。

一次性には、微小変化群(リポイドネフローゼ)、巣状糸球体硬化症、慢性腎症、メサンギゥム増殖性糸球体腎炎、慢性増殖性糸球体腎炎などがあります。

二次性には、ループス腎炎、紫斑病性腎炎、アミロイド腎症、糖尿病性腎症、妊婦腎などがあります。

 

 各ネフーゼの症状や特徴は以下のとおりです。

1 小変化群

 小児のネフローゼ症候群のなかでも最も多いネフローゼです。 糸球体の変化はほとんど見られず腎機能は正常です。 腎不全まで進行することはありませんが、発病が急激に起こりショック症状を示すことがあります。

 

2.巣状糸球体硬化症

 糸球体の一部が硬化して、尿細管にも萎縮変化が見られます。 進行が悪化しやすいネフローゼです。

 

3.膜性糸球体腎炎

 糸球体基底膜といわれる部位が厚くなることが主な原因です。 成人の2割がこの型で、主にタンパク尿のみの症状のため、検査するまで気がつかない人も多いようです。

 

4.紫斑病性腎症

 小児に多いネフローゼで腎炎を引き起こす可能性が高いです。 この型は重症ネフローゼ症候群や腎不全を引き起こすことがあります。

 

5.腎臓病以外の病気

 糖尿病、アミロイドーシス、全身性エリテマトーデスなどからネフローゼ症候群となる場合があります。

 

 むくみは、低タンパク血症が起こるために血管の中の水分が減って血管の外に水分と塩分が増えるために起こります。高度になると肺やお腹、さらに心臓や陰嚢にも水がたまります。また低タンパク血症は血液中のコレステロールも増やします。その他、腎不全、血栓症(肺梗塞、心筋梗塞脳梗塞など)、感染症などを合併する危険性があります。

むくみ(浮腫)の他に、体重の増加、だるさ、尿の泡立ちなどがあります。

その他、腎不全、血栓症(肺梗塞、心筋梗塞脳梗塞など)、感染症などを合併する危険性がある。

 

 

治療

エナラプリル、キナプリル、リシノプリルなどのアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬とカンデサルタン、ロサルタン、バルサルタンなどのアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)が単独または併用で使用され、これが予防と治療の柱となります。全身性エリテマトーデスや糖尿病などのある人で軽度または中等度のタンパク尿が認められる場合には、ACE阻害薬やARBによってタンパク尿と腎機能の悪化を予防できるため、できるだけ速やかにこれらの薬剤の投与が開始されます。

すでにネフローゼ症候群を発症している人では、ACE阻害薬またはARBを投与することで、症状の改善が得られることがあるほか、通常は尿中へのタンパク質の排出量が減少し、さらに血液中の脂質濃度も低下する可能性が高くなります。ただし、中等度から重度の腎不全のある人では、これらの薬剤を使用すると血液中のカリウム濃度が上昇する可能性があり、それにより危険な不整脈が発生するおそれがあります。

ネフローゼ症候群に対する治療には、飽和脂肪、コレステロールおよびナトリウムの量を制限した(タンパク質とカリウムは通常量の)食事療法が含まれます。タンパク質の摂取制限を勧めている医師もいます。

腹部に体液(腹水)がたまると、胃の容積が小さくなるため、食事を何回かに分けて少量ずつ取らなければならなくなる場合があります。高血圧には利尿薬による治療が行われます。利尿薬には体液のうっ滞と組織のむくみを軽減する効果もありますが、一方で血栓形成のリスクを高める可能性もあります。その場合には、抗凝固薬が血栓形成を抑えるのに役立ちます。感染症は命に関わる場合もあり、速やかに治療を行う必要があります。

可能であれば、原因に応じた特別な治療が行われます。原因となっている感染症を治療することで、ネフローゼ症候群が治癒することもあります。一部の癌などのように治療可能な病気が原因の場合には、その病気を治療することでネフローゼ症候群は解消されます。ヘロインの常用者がネフローゼ症候群を発症した場合には、早期の段階でヘロインの使用をやめれば回復が望めます。薬剤の服用が原因の場合には、問題の薬剤を中止することで治癒に至る可能性があります。ウルシ科の植物や虫刺されに対する過敏症ないしアレルギーのある人は、それらのものに接触しないようにする必要があります。治療可能な原因が見つからない場合には、ステロイド薬やその他の免疫抑制薬(シクロホスファミドなど)が投与されます。ただし、ステロイド薬には問題となる副作用もあり、特に小児では成長が阻害されたり、性的な発達が抑制されたりするなどの問題が懸念されます。

 

 

 糸球体腎炎(ネフローゼを含む)、多発性のう胞腎腎盂腎炎に罹患し、その後慢性腎不全を生じたものは、相当因果関係「あり」です。初診日「糸球体腎炎」と診断された日になります。

 

 

 

腎不全

腎不全とは、腎臓が血液をろ過して老廃物を十分に取り除くことができなくなった状態のことを言います。

腎不全になると、腎臓は血液をろ過して老廃物(クレアチニンや尿素窒素など)を取り除くことができなくなるだけでなく、体内の水分の量とその配分を調節する能力や血液中の電解質(ナトリウム、カリウム、カルシウム、リン酸塩)の濃度を調節する能力も低下します。

 

 腎不全は、日又は週単位で腎不全に陥り、基本的には可逆性の急性腎不全と、月又は年単位で緩除ながら進行性に腎不全に陥る不可逆的な慢性腎不全との2つに大別されます。

 

 

慢性腎不全

 慢性腎不全とは、慢性腎疾患によって腎機能障害が持続的に徐々に進行し、生体が正常に維持できなくなった状態をいいます。慢性腎臓病とは蛋白尿や血液診断、画像診断で腎障害が認められ、症状が3ヵ月以上続いており、腎臓全体の機能が30%以下に落ちてしまった状態のことを指します。

 

血液の酸性度が高くなり、貧血が起き、神経が傷つき、骨の組織が劣化し、動脈硬化のリスクが高くなります。

 

症状としては、夜間の排尿、疲労、吐き気、かゆみ、筋肉の引きつりやけいれん、感覚の喪失、錯乱、呼吸困難、皮膚の黄色化などがあります。

 

 慢性腎炎、糖尿病性腎症、腎硬化症、襄胞腎、腎盂腎炎等が原因として挙げられます。

 

・代謝性疾患・・・糖尿病、痛風 ・感染   ・・・腎盂腎炎、腎結核 ・糸球体疾患・・・糸球体腎炎、紫斑性腎炎   ・腫瘍   ・・・腎~尿路系腫瘍  ・先天性疾患・・・多発性嚢胞腎、腎形成不全   ・尿路閉塞 ・・・結石、結核   ・血管性疾患・・・高血圧、動脈硬化 ・膠原病  ・・・全身性エリテマトーデス

 

慢性腎不全の原因として最も多いのは糖尿病で、次に多いのは高血圧です。これらは腎臓の細い血管に直接損傷を与える病態です。慢性腎不全の原因としては、このほかにも尿路閉塞、腎臓の異常(多発性嚢胞腎や糸球体腎炎など)、抗体によって腎臓の微細な血管(糸球体)や細い管(尿細管)に損傷が生じる自己免疫疾患(全身性エリテマトーデスなど)が挙げられます。

腎不全が軽度または中程度の場合でも、腎臓で尿から水分を再吸収して尿の量や濃度を調節することができなくなります。その後、体内で正常時にも作られる酸性物質を体外に排出する腎臓の能力が低下し、血液の酸性度が高くなり、アシドーシスと呼ばれる状態に陥ります。さらに赤血球の生産量が減少し、貧血になります。血液中の老廃物の濃度が高くなると、脳、体幹および四肢の神経細胞が損傷を受けることがあります。病気で異常を来した腎臓からは、血圧を上げるホルモンが分泌されます。さらに、異常を来した腎臓では余分な塩分や水分を体外に排出できなくなり、塩分や水分が体内に蓄積すると、心不全を来すことがあります。心臓を包んでいる袋状の膜(心膜)に炎症が生じることもあります(心膜炎)。また血液中の中性脂肪濃度が上がることも多く、高血圧と相まって動脈硬化のリスクがさらに高まります。

 

慢性腎不全に伴って発生する特定の状態が長期間続くと、骨組織の形成と維持に異常が生じるようになります(腎性骨異栄養症)。そのような状態としては、副甲状腺ホルモン濃度の上昇、血液中のカルシトリオール(活性型ビタミンD)濃度の低下、カルシウムの吸収障害、血液中のリン濃度の上昇などが挙げられます。腎性骨異栄養症になると、骨の痛みが生じ、骨折のリスクが高くなります。

 

 慢性腎不全は腎機能がある程度まで低下しないと自覚症状が現れず、早期発見が大変難しい病気です。そのため、一度失った腎機能の回復は困難です。

 腎機能が正常の15%以下となり、末期状態になると、「尿毒症」となり、重とくな場合、全身けいれんなどの症状が現れます。末期の治療法は、腎移殖か透析療法に限られてきます。

 

 典型的な症状や検査所見の異常を下表にあげます。

腎機能 (目安)

症状

検査所見

必要な処置

90%以上

ほとんど無し

蛋白尿・血尿・高血圧

定期的検査

60~90%

一度は腎臓専門医受診

30~60%

むくみ

上記 + クレアチニン上昇

腎臓専門医によるフォロー 腎不全進行抑制の治療

15~30%

上記 + 易疲労感

上記 + 貧血・カルシウム低下

透析・移植の知識取得 腎不全合併症の治療

15%未満 (末期腎不全)

上記 + 吐気・食欲低下 息切れ

上記 + カルシウム/リン上昇 アシドーシス・心不全

透析・移植の準備 10%以下の腎機能では 透析開始・移植施行

 

治療方法

治療方法

具体例

水の排泄

糖尿病のコントロール・腎炎の治療 など

生活指導 (規則正しい生活)

十分な睡眠時間の確保 適度な運動(安静にしなくてはならない急性期を除く) 鎮痛薬・造影剤など腎毒性物質の制限・禁止 体を冷やさないようにする。 感染症(風邪など)にかからないようにする。 定期的な外来受診・服薬 禁煙

食事療法

低塩分食・低蛋白食

薬物療法

高血圧の治療 蛋白尿を減らす治療 (ACE阻害薬・アンジオテンシン受容体拮抗薬) 尿毒素を除去する療法(活性炭など)

腎不全による症状に対する治療

貧血の治療(エリスロポエチン投与) 骨病変の治療(ビタミンD投与など) 高カリウム血症の治療(陽イオン交換樹脂) 酸血症(アシドーシス)の治療(重曹など)

 

治療

腎不全の原因となったり悪化させたりする病態や、全身的な健康状態に悪影響を及ぼすような合併症が認められた場合は、速やかな治療が必要です。たとえば、細菌感染症には抗生物質治療を行い、尿路閉塞には迅速に閉塞を解消ないし軽減するための治療を行います。

 

さらに、腎機能のさらなる低下や腎不全の合併症を予防するための対策を講じる必要もあり、具体的には以下の対策がよく講じられます。

糖尿病、血圧、コレステロール値および中性脂肪値のコントロール

タンパク質、塩分、カリウム、リンおよび水分の摂取制限

カリウム、リン、中性脂肪、コレステロール、副甲状腺ホルモンの値をコントロールするための薬剤や心不全または貧血に対する治療薬の使用

 

糖尿病の人では、血糖値と高血圧を良好にコントロールすれば、腎機能の低下をかなり遅らせることができます。慢性腎不全の場合は、腎機能の低下を遅らせるためにアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬と呼ばれる薬剤が使用されることがあります。しかしながら、重度の腎不全の場合には、これらの薬剤は使用すべきでありません。

食事の内容に細心の注意を払うことが、発生しうる問題のいくつかを予防するのに役立ちます。軽度のアシドーシスは、炭水化物の摂取量を増やし、タンパク質の摂取量を減らすことでコントロールが可能です。ただし、中等度から重度のアシドーシスには重炭酸ナトリウムによる治療が必要になります。またタンパク質の摂取量を制限することで、腎機能の低下を若干遅らせることができます。ただし、減らしたタンパク質を補うため、十分な量の炭水化物を摂取する必要があります。中性脂肪値とコレステロール値は、脂肪の摂取量を制限することで、ある程度コントロールすることができます。中性脂肪値、コレステロール値またはその両方を抑えるために、スタチンやエゼチミブ、ときにクロフィブラートやゲムフィブロジルなどの薬剤が必要となる場合もあります。

通常は塩分(ナトリウム)の摂取制限が有益であり、心不全を併発している場合には特に重要です。腎機能が低下している場合でも、心不全の症状は利尿薬の使用によっても軽減できますが、重度の腎不全の場合は、過剰な水分を取り除くのに透析が必要となることがあります。

慢性腎不全の人では、血液中のナトリウム濃度が極度に低下するのを予防するため、水分摂取の制限が必要になる場合があります。代用塩などのカリウムを非常に多く含む食品は摂取を避ける必要があり、またナツメヤシやイチジクの実をはじめとする多数の果物など、カリウムを比較的多く含む食品についても過剰に摂取しないよう注意する必要があります。血液中のカリウム濃度が高くなると、不整脈や心停止を起こすリスクが高まります。カリウム濃度が高くなりすぎた場合は、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムなどの薬剤で解消できることもありますが、ときに緊急透析が必要になることもあります。

血液中のリン濃度が高くなると、血管などの組織にカルシウムとリンの沈着物が形成されます。リンを多く含む食品(乳製品、レバー、豆類、ナッツ類、大半の清涼飲料水など)の摂取量を制限することで、血液中のリン濃度を低下させることができます。炭酸カルシウムや酢酸カルシウム、セベラマーなどのリンと結合する薬剤を服用することでも、血液中のリン濃度を下げられる場合があります。一方、クエン酸カルシウムの摂取は避ける必要があります。クエン酸カルシウムは、多くのカルシウムサプリメントに含まれているほか、多くの食料品に食品添加物(一部ではE333と呼ばれています)として含まれています。上昇した副甲状腺ホルモン濃度を下げるために、しばしばビタミンDやその類似薬が使用されることがあります。

腎不全によって起こる貧血には、エリスロポエチンやダルベポエチンなどの薬剤が有効です。重度の貧血で何らかの症状が認められ、かつエリスロポエチンかダルベポエチンが無効の場

合に限り、輸血が行われます。また鉄、葉酸およびビタミンB12の摂取不足など、腎不全以外にも貧血の原因がないかを調べ、あれば必要に応じて治療を行います。エリスロポエチンまたはダルベポエチンを常用している人では、鉄が欠乏するとこれらの薬剤の効き目が弱くなるため、ほとんどの場合、鉄の欠乏を予防するために静脈内注射によって鉄を投与する必要があります。高齢者では心臓の病気を併発している場合が多く、貧血があるとこれが悪化する可能性があるため、高齢者の貧血には、より積極的な治療が必要となります。出血傾向は、新鮮凍結血漿の投与かデスモプレシンやエストロゲンなどの薬剤によって一時的に抑えることができます。このような治療は、外傷を負った後や手術や抜歯を受ける前などに必要になります。

腎不全の場合には、腎臓から排泄される薬剤の処方が控えられるか、処方されても用量が少なめに設定されます。ほかにも多くの薬剤が使用できなくなります。たとえば、ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、利尿薬のスピロノラクトンやトリアムテレンなどは、カリウム濃度を上昇させる作用があるため、カリウム値の高い腎不全の患者では投与の中止が必要となる場合があります。高血圧がある場合は、心機能と腎機能のさらなる低下を予防するため、降圧薬による治療が行われます。

 

 

 慢性腎不全の場合は、この原因となった元の病気で初めて医師の診断を受けた日が初診日となります。血液異常や遺伝子異常により慢性腎不全になったケースでも、血液異常で初めて医師の診断を受けた日や、遺伝子異常で初めて医師の診断を受けた日が初診日となります。必ずしも内科を受診した日が初診日となるわけではありません。

 

 健康診断で異常が認められた場合とは、尿蛋白が出たり、血糖値やクレアチニンの数値が異常を示したりしたときのことを言います。尿蛋白が少し出ただけで初診日となることは原則ありません。過去に尿蛋白が3年連続で出た方が、クレアチニンなど他の数値が正常値であれば「腎臓障害と因果関係なし」と判断されます。

 糸球体腎炎ネフローゼを含む)、多発性嚢胞腎腎孟腎炎などになり、その後に慢性腎不全人工透析が必要)になった場合には、両者の期間がどれだけ長くても相当因果関係「あり」として扱われています。

 

 慢性腎不全は、慢性腎炎と関連性(相当因果関係)があるため、初診日慢性腎炎と診断された日になります。

 腎疾患に罹患し、その後、慢性腎不全を生じて人工透析を開始したものはその期間が長いものでも、腎疾患と人工透析には相当因果関係があるものとされているため、腎疾患とされた日を初診日とします。

 糸球体腎炎ネフローゼを含む)、多発性嚢胞腎腎孟腎炎などになり、その後に慢性腎不全人工透析が必要)になった場合には、両者の期間がどれだけ長くても因果関係があるとして扱われています。

 

 糖尿病が原因で長い期間を経てから人工透析が必要になることも珍しくはありません。この場合も、糖尿病と人工透析は因果関係があるとして扱われます。この結果、これらの腎炎の症状や糖尿病で最初に医師に診察を受けた日を初診日として扱われ、その日を基準に障害年金を請求することになるのです。

 

 職場や自治体の健康診断等で尿タンパクで再検査検指示があり、再検査で医師の診断を受けた場合は、その日が初診日になります。健康診断等で再検査指示があったが、特に体が疲れやすいこともないため受診をしないで数年後に体調不良で受診した場合は、数年後の受診日が初診日になります。

 

 

 慢性腎不全から末期腎不全に移行した場合は、尿毒症・高カリウム血症による不整脈・心不全などを引き起こす危険性が高まり、透析腎移植の他に治療する手段がありません。

 腎機能だけでいうと、約10%以下の腎機能になると透析腎移植が必要となります。また、薬でコントロールができない心不全、尿毒症による吐気・栄養不良などの症状、高カリウム血症等が生じれば、腎機能が10%以下まで低下していなくても透析腎移植を早期に行う必要があります。

 


透析療法

 腎臓の働きが10%以下になると、血液のろ過が充分に行えず、水分や老廃物のコントロールができなくなってしまう。そのような場合に、人工的に血液の浄化を行うのが「透析療法」である。

 

腎不全で透析が必要な理由

医師が透析の決定を下すのは、腎不全によって以下のような特定の症状が生じた場合です。

脳の機能障害(尿毒症性脳症)

体重減少を伴うような食欲不振や嘔吐などの特定の重い症状がある場合

心膜炎(心臓を包むふくろの炎症)

アシドーシス(血液の酸性度が高い状態)で、透析以外の治療では効果がみられない場合

心不全

全身の体液が過剰な場合

肺浮腫(肺の中に体液が過剰に溜まった状態)で、透析以外の治療では効果がみられない場合

高カリウム血症(血液中のカリウム濃度が異常に高い状態)

高カルシウム血症(血液中のカルシウム濃度が高い状態)

腎機能が大きく損なわれた場合

 

人工透析には血液透析(HD)腹膜透析(PD)がある。

 

(1) 血液透析療法(HD)

血液透析では、血液を体外に取り出し、外部の透析器のポンプでダイアライザーという人工腎臓に送り込みます。このダイアライザーにより血液をろ過して代謝性老廃物を取り除いた後で、きれいになった血液を体内に戻します。この際に、体内に戻す体液の総量を調節することができます。血液透析では、その都度血流へのルートを確保する必要があります。大静脈カテーテルを太い静脈(通常は首の近くにある静脈)に挿入することで、一時的なルートを確保することができます。さらに簡単にルートを長期にわたって確保するため、手術によって動脈と静脈を人工的に結ぶ連絡路(動静脈瘻[ろう])を形成します。この手術では、前腕にある橈骨(とうこつ)動脈という血管と橈側皮(とうそくひ)静脈という血管をつなぐのが一般的です。その結果、橈側皮静脈が広がってそこを通過する血流が増加するため、針で繰り返し刺しやすい状態になります。動静脈瘻が形成できない場合は、人工的な接続具(人工血管)を用いた手術により動脈と静脈をつなぐこともあります。この場合の透析では、この人工血管に針を刺すことになります。

 

血液透析中には抗凝固薬のヘパリンを投与して、ダイアライザーの中で血液が凝固するのを防ぎます。ダイアライザーの中には、取り出した血液と透析液という液体との間に多孔性の人工膜があり、お互いを分けています。この膜を通して血液中の余分な液体、老廃物、電解質などがろ過され、透析液に出ていきます。血球や大きなタンパク質は膜の小さな孔を通過できないため、血液中に残ることになります。こうして透析された(きれいになった)血液が患者の体に戻されます。

ダイアライザーの大きさはさまざまで、透析効率も異なります。通常、透析に要する時間は約3~4時間です。慢性腎不全の患者では、ほとんどの場合、週3回の血液透析が必要です。

 

血液透析で起こりうる合併症

合併症

よくある原因

発熱

血液中の細菌または発熱を引き起こす物質(発熱物質)

透析液の温めすぎ

命にかかわるアレルギー反応(アナフィラキシー)

ダイアライザーまたは血液管路内に存在する物質に対するアレルギー

低血圧

透析から次の透析までの期間の過剰な体液減少または過度の体液増加

不整脈

カリウムなどの物質の血中濃度異常

低血圧

空気塞栓

透析器内で血液に入った空気

腸、脳、眼、または腹部における内部出血

透析器内での血液凝固を予防するためのヘパリン使用

感染症

透析カテーテルを介して、または血液透析ルート確保のために静脈に刺した針を介して血液に侵入した細菌

 

 

(2) 腹膜透析療法(PD)

腹膜透析では、自分の腹膜(腹壁の内側を覆い、腹部にある臓器を包んでいる膜)をフィルターとして利用されます。この腹膜は表面積が広く、血管の網が豊富に存在します。血液中の物質は、腹膜を容易に通過して腹腔に入ることができます。腹壁に挿入したカテーテルを介して、透析液という液体が腹壁内部の腹膜腔に注入されます。注入した透析液は、老廃物が血液中から透析液に徐々に染みだしてくるまで、しばらく中に入れたままにしておきます。その後、この透析液を排出して廃棄し、新しい透析液に交換します。

柔らかいシリコンゴムまたは多孔性ポリウレタンのカテーテルを使用することで、透析液の流れをスムーズにすることができ、損傷を生じる危険性が少なくなります。カテーテルは、透析のたびにベッドサイドで一時的に取り付けることができますが、手術により長期的に留置する場合もあります。長期留置型のカテーテルの中には、やがて皮膚にほぼ覆われた状態になるタイプもあり、使わないときには先端の開口部にふたをしておくことができます。

腹膜透析ではさまざまな手法が用いられます。

 

手動間欠的腹膜透析が最も簡単な手法です。手動間欠的腹膜透析では、透析液の入った袋を体温まで温めてから腹膜腔(腹腔)の中に注入しますが、この処置に約10分間かかります。透析液は60~90分間(滞留時間)そこに入れたままにしておくことができ、その後約10~20分間かけて排出します。そして、この手順を繰り返します。この治療は、全体で12~24時間かかることがあります。

別の手法として連続(持続)携行式腹膜透析があります。この手法は、透析液の交換を自動的に処理する装置(サイクラー)を使用します。自動化されたサイクラーを用いることで、介護の手間が省けます。

 

 

持続性自己管理腹膜透析(CAPD)では、さらに長時間にわたって透析液が腹部に保たれます。通常、透析液を排出して補充するのは1日に4~5回です。このような透析液交換のうち、ほぼ3回は日中に行うことで、滞留時間は4時間以上になります。夜間の交換は1回となり、睡眠中の滞留時間は8~12時間と長くなります。

持続性周期的腹膜透析(CCPD)では、夜間の睡眠中は自動化されたサイクラーを用いて短い間隔で交換を行い、日中はサイクラーを使わずに手動で間隔を長くして交換を行います。この手法では日中の交換回数を少なくできますが、就寝時に装置を接続する必要があるため、夜間の動きが妨げられます。

 

腹膜透析は在宅で行う透析で、通院は月に1回~2回程度である。

 

 

腹膜透析で起こりうる合併症

合併症

原因

出血

カテーテル留置中に偶発的に発生した内臓の穿孔(せんこう)

体内からのカテーテル除去

腹壁の内部を覆う膜(腹膜)またはカテーテル挿入箇所の周辺組織(腹壁とカテーテルが密着していない場合)の過敏症や炎症

感染症

殺菌されていない手法による透析

アルブミン(タンパク質の一種)の血中濃度低下

食事中のタンパク質不足に加え、透析で除去される体液中へのタンパク質流出

腹膜の瘢痕

炎症や感染症

透析液中の電解質

特定の薬剤の使用

糖分(グルコース)の血中濃度上昇

グルコース濃度が高い腹膜透析液の使用(透析中に水分やナトリウムを除去するために使用)

腹部または鼠径部(そけいぶ)におけるヘルニア

大量の体液にさらされる状態が続くことで生じる腹部内の圧力上昇(通常は臓器などの組織構造が動きすぎないように防いでいる壁が弱くなる)

便秘

食物繊維の摂取不足、または高リン酸血症を治療するためのカルシウム塩の使用による腸の拡張(腹部への透析液の出し入れを妨げる可能性がある)

 

 

 

 

血液透析と腹膜透析の比較

 

 

腎臓が十分に機能しなくなった場合には、血液透析や腹膜透析によって血液から老廃物や過剰な水分を取り除くことができます。

血液透析では、血液を体外へ取り出してダイアライザー(人工腎臓と呼ばれます)に通し、血液をろ過します。動脈と静脈の間に人工的な連絡路(動静脈瘻)を作り、血液を取り出しやすくします。

腹膜透析では、腹膜をフィルターとして利用します。腹膜は、腹壁の内側を覆い、腹部臓器を包んでいる膜で、腹部内に腹膜腔または腹腔と呼ばれる空間を形成しています。

 

 

透析法の選択

その人にとってどの透析法が最適かを判断するにあたっては、ライフスタイルなどさまざまな要素を考慮する必要があります。一般に透析センターで血液透析を受ける人が多く、病院以外の場所に透析センターがあるのが普通です。腹膜透析は自宅で行うことができるため、血液透析センターに通わずにすみます。

 

 

特別な配慮

 

食事:

透析を受けている人は、特別な食事が必要になります。腹膜透析を受けている人では、一般に食欲が減退し、透析中にタンパク質が失われます。そのため、食事ではタンパク質を比較的多く含む食べ物を摂るようにして、理想体重1キログラムあたり約1グラムのタンパク質を1日に摂取する必要があります。

塩分は、ナトリウムを含む普通の塩とカリウムを含む塩の両方が制限されます。

血液透析を受けている人では、毎日のナトリウムとカリウムの摂取量がさらに強く制限されます。リンを多く含む食品を制限しなければならない場合もあります。尿の量がきわめて少ない人や血液中のナトリウム濃度が持続して低いか低下傾向にある人では、毎日の水分摂取量が制限されます。体重増加を監視するには日々の体重測定が重要です。透析を受けてから次回の透析までに体重が過度に増加している場合は、水分の取りすぎと考えられます。普通、水分の過剰摂取は、ナトリウムの摂りすぎで喉が渇くようになるのが原因です。

総合ビタミン剤によって、血液透析や腹膜透析で失われた栄養素を補う必要があります。

 

医療上の配慮:

エリスロポエチンまたはダルベポエチンという薬を投与して、赤血球の産生を促すことがあります。また、新しい赤血球の産生を助けるために、鉄分が必要になる場合があります。さらに、食事でリンが過剰に吸収されないようにリン吸着薬を服用しますが、炭酸カルシウムや酢酸カルシウムなどが最もよく使用されています。

通常、体の骨組織は絶え間なく置き換わっており、骨の強さや骨密度を維持しています。腎臓は数種類のホルモンを分泌して、骨組織の形成を調節しています。腎不全になると、腎臓がホルモンの産生を調節できないため、副甲状腺ホルモンの濃度が高まる可能性があります。活性型のビタミンD(カルシトリオール)やその類似物質を投与して、高い副甲状腺ホルモン濃度を抑制しますが、これは副甲状腺ホルモン濃度が高いと骨密度が減少して骨が弱くなる可能性があるためで、このような状態は腎性骨異栄養症と呼ばれます。

 

 

 障害の程度を認定する時期は、人工透析療法を初めて受けた日から起算して3ヵ月を経過した日となる。

人工透析開始後3ヵ月を経過した日が初診日から起算して1年6ヵ月以内である場合は、人工透析開始後3ヵ月を経過した日が障害認定日となり、その時から障害年金の請求が可能となる。

人工透析を開始したのが初診日から起算して1年6ヵ月を過ぎている場合は、初診日から起算して1年6ヵ月後を障害認定日とする。人工透析を開始して3ヵ月が経過しなくても、人工透析を開始したときより障害年金の請求ができる。

 

人工透析療法施行中のものは2級と認定する。

主要症状、人工透析療法施行中の検査成績、具体的な日常生活状況等によっては1級に認定される。

 

 

人工透析療法が施行されていなくても、慢性腎不全およびネフローゼ症候群における要件を満たせば障害2級以上に認定される。

 

障害の程度 1級

・慢性腎不全の検査成績が高度異常を1つ以上示すもので、かつ一般状態区分表のオに該当するもの

① 内因性クレアチニンクリアランス値が10未満(mg/分)

② 血清クレアチニン濃度が8以上(mg/dl)

一般状態区分・・・

身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの (オ)

 

障害の程度 2級

・慢性腎不全の検査成績が中等度または高度の異常を1つ以上示すもので、かつ一般状態区分表のエ又はウに該当するもの

① 内因性クレアチニンクリアランス値が20未満(mg/分)

② 血清クレアチニン濃度が5以上(mg/dl)

   (又は eGFR(単位ml/分/1.73㎡)が10未満)

一般状態区分・・・

身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの (エ)

歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの (ウ)

 

障害の程度 3級

・慢性腎不全の検査に示す検査成績が軽度、中等度又は高度の異常を1つ以上示すもので、かつ一般状態区分表のイ又はウに該当するもの

慢性腎不全検査成績で、

① 内因性クレアチニンクリアランス値が30未満(mg/分)

② 血清クレアチニン濃度が3以上(mg/dl)

   (又は eGFR(単位ml/分/1.73㎡)が20未満)

 

・ネフローゼ症候群での検査に示す検査成績がアが異常を示し、かつイ又はウのいずれかが異常を示すもので、かつ一般状態区分表のイ又はウに該当するもの

尿蛋白量が3.5(g/日)以上を持続し、かつ、血清アルブミンが3.0g以下 か 血清総蛋白が6.0g以下

 

一般状態区分・・・

歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの (ウ)

軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの (たとえば軽い家事、事務など) (イ)

 

 

 腎疾患に罹患し、その後、慢性腎不全を生じて人工透析を開始したものは、その期間が長いものでも腎疾患と人工透析には「相当因果関係」があるものとされているため、腎疾患とされた日を初診日とする。

 

 

腎臓移植

腎臓移植には、家族・配偶者・身内から体内に2つある腎臓のうち1つ提供を受ける「生体腎移植」と、脳死や心臓死になられた方から腎臓の提供を受ける「献腎移植」の2種類がある。

 

 

不可逆的腎不全(腎臓が機能せず、治療しても治らない)の患者にとって、腎移植は年齢にかかわらず透析に代わる救命法です。

生きているドナーから提供を受けた場合は95%を超える移植腎が移植から1年たっても機能しています。移植後1年を過ぎると毎年3~5%の腎臓が機能しなくなっていきます。一方、死亡したドナーから提供を受けた腎臓では移植から1年たっても機能しているのは82~91%です。移植後1年を過ぎると毎年5~8%の腎臓が機能しなくなっていきます。しかし移植した腎臓が30年を超えて機能し続けることもあります。移植が成功すれば、通常は、活動的な生活を普通に送ることができます。

腎移植で使う腎臓の約3分の2は死亡したドナーからの提供によるものです。摘出された腎臓は冷蔵状態で速やかに病院へ輸送され、そこで血液型と組織型が合ってドナーの組織に対する抗体を産生しない人に移植されることになります。

腎移植は大手術です。レシピエントの腹部を切開してドナーの腎臓を骨盤腔に入れ、レシピエントの血管と膀胱につなぎます。通常、レシピエントの機能していない腎臓は摘出せずにそのまま残します。ただしコントロール不能な高血圧症を起こしている場合や、感染している場合は取り除きます。

免疫抑制薬を使用しても移植後に1回以上の拒絶反応がみられることがあります。急性拒絶反応では発熱、尿の産生量の低下(体重増加を伴う)、移植部位の痛みと腎臓の腫れ、血圧の上昇が起こります。腎臓の機能が低下しているかどうかは血液検査でわかります。こういった症状は感染症や薬剤による腎障害でも起こるので、拒絶反応の診断を確定するために腎臓の針生検を行います。

急性拒絶反応は移植後3~4ヵ月以内に現れます。通常は免疫抑制薬を高用量で用いたり、抗体療法を短期間実施したりすることでコントロールできます。また、維持免疫抑制薬の種類を変えることで拒絶反応を抑えられる場合もあります。

慢性拒絶反応は移植後数カ月、ないし数年間で生じ、比較的頻繁にみられ、移植した腎臓の機能を徐々に低下させます。拒絶反応をコントロールできなければ腎臓は機能を失い、患者は再び透析を受けなければならなくなります。この場合も発熱、圧痛、血尿、高血圧がしつこく続くようでなければ、腎臓はそのまま体内に残しておきます。2度目の移植でも成功率は初回の移植とほぼ同じです。

 

腎移植のレシピエントは一般の人と比べて癌が10~15倍も発症しやすくなります。この原因はおそらく、免疫抑制薬の使用により、感染症だけでなく癌の発生からも体を守っている免疫システムの機能が抑えられてしまうからです。特に、リンパ系の悪性腫瘍(リンパ腫)では発症率が一般の人の30倍も高くなりますが、それでもリンパ腫の発症自体は多くありません。よくみられるのは皮膚癌です。

 

 

最初は腹膜透析(PD)を開始し、その後に血液透析(HD)に移行したり、またその逆もあり得ます。PDとHDの併用療法という方法をPDまたはHDへの移行の橋渡しとして使うことも可能です。

さらに、どの透析形態からも腎移植を行うことが可能で、移植後に腎機能が低下した場合、どの透析形態へも移行が可能です。腎移植の生着率は、新しい免疫抑制薬の登場によりさらに向上しています。しかし、腎移植は一度受ければ一生安全というわけではなく、透析の再導入が必要な場合もあります。

 

 

腎臓移植を受けたものに係る障害の認定は、「その他障害」の認定要領により認定するとされている。

 免疫抑制剤を使用していることだけで3級相当とはしない。著しい労働制限を受けるような状態にでなければ3級も非該当となる。

 

 障害年金を支給されている者が腎臓移植を受けた場合は、臓器が生着し、安定的に機能するまでの間を考慮して術後1年間は従前の等級とする。その後再認定することとしている。

 

 

急速進行性腎炎

 

急速進行性腎炎では、数日から数ヶ月という短い期間の中で急速に腎不全が進行するのが大きな特徴です。主な初期症状は、全身の倦怠感、食欲不振、体重減少、微熱、むくみなどが起こります。病気が進行するに伴い、血痰、血便、吐き気、皮膚からの出血、息苦しさ、意識の低下といった症状が現れます。血尿やタンパク尿、尿量の減少といった症状も伴うため、健康診断で病気が発見されるケースも多い傾向にあります。

 

急速進行性腎炎の原因には、腎臓そのものに原因がある原発性と何らかの基礎疾患が元になっている続発性の2種類があります。

その代表的な原因は、血中に存在している好中球の基底膜に対する抗体(抗糸球体基底膜抗体)、抗好中球細胞質抗体(ANCA)などの免疫系に異常が発生し、腎臓などの全身の小血管に強度の炎症が起こることが考えられています。また、ループス腎炎や紫斑病性腎炎、突発性半月体形成腎炎が元となって急速進行性腎炎を発症する場合もあります。

 

少しでも急速進行性腎炎が疑われる症状が見られた場合、すぐに腎生検や血中の様々な抗体を測定する検査が行われます。これは早期に病気を発見し適切な治療を開始することができれば、病気の進行を食い止められるためです。これらの検査の中でも、特に腎生検は急速進行性腎炎の診断や治療方針の決定のためには必須の検査になっています。また、治療開始後も引き続き定期的に検査と診察を受けることが肝要です。

 

急速進行性腎炎の治療では、まず全身の炎症を抑えるために副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤が用いられます。病気の進行が早く、症状が重い場合にはステロイドの大量投与が行われる場合もあります。もし必要があれば血液成分を交換する血漿交換療法が選択されます。もし腎不全が進行している状態にある場合は、これらの療法に加えて血液透析を併用して行います。また、尿量が減少している場合には水分摂取制限、病気の初期には食事療法としてタンパク質や塩分摂取の制限なども必要になります。

 

 

 


ループス腎炎

 

 これは全身性エリマトーデス(SLE)を発病すると起こる腎障害を指します。SLEは様々な臓器に炎症を起こす病気で、10代~30代の女性に多く発症します。このSLEの合併症状のうち約90%発症する腎臓障害がループス腎炎です。症状は蛋白尿やむくみなどが多く、症状がひどくなると腎機能が低下し、腎不全まで進行する場合があります。治療は薬物療法が多く、進行した場合は透析治療を行います。

 

ループス腎炎の症状  ループス腎炎の症状としてよくみられるのは、血尿や蛋白尿、尿沈渣異常、息苦しさや嘔吐などがあります。また、蛋白尿により大量に蛋白質が体外に流出してしまうことにより、むくみが発生することで、ネフローゼ症候群を伴う場合もあります。それ以外には、倦怠感や、急激に腎機能が低下することによって急性腎不全に陥る場合も有り、その場合には性腎不全により、人工透析を余儀なくされる場合もあります。

 

ループス腎炎の原因  ループス腎炎は別名「全身性エリテマトーデス」と呼ばれるものであり、発病の根本的な原因はまだ医学的に解明されていない。現在の仮説としては、複数の遺伝因子と環境因子が相互作用的に関連している多因子遺伝疾患と考えられている。この病気においては、遺伝因子と環境因子とが相互作用的に影響力を及ぼしているわけだが、遺伝因子が環境因子よりも強い影響力を及ぼしていると考えられています。

 

ループス腎炎の治療方法  ループス腎炎とは、糸球体腎炎のことで、この病気の多くが全身性エリテマトーデスと呼ばれる難病指定を受けている病気を発病した時におこることが医学的に分かっています。そのためこの腎炎を治療する際は、全身性エリテマトーデスの治療に使われるステロイド療法を用いることになります。ステロイド療法が効かない場合は、現在のところ治療法が無いのです。

 

 

 

尿細管間質性腎炎

 

尿細管間質性腎炎とは、腎臓の尿細管とその周囲の組織(間質組織)に炎症が発生する病気です。

この病気は腎臓に損傷を与える病気、薬剤、毒素などによって引き起こされます。

症状としては排尿時の痛み、腰やわき腹の痛み、発熱、発疹などがみられます。

血液検査と尿検査によって腎臓の損傷を発見できます。

有害な薬剤の使用を中止し、毒素との接触を断ち、背景にある病気を治療することで、腎機能は改善されます。

尿細管間質性腎炎には急性の場合と慢性の場合があり、しばしば腎不全に至ります。腎臓に損傷を与えるさまざまな病気、薬剤、毒素、放射線などによって引き起こされます。尿細管に損傷が生じると、血液中の電解質濃度が変化したり、尿を濃縮する腎臓の機能に問題が生じたりします。尿細管は近位曲尿細管と遠位曲尿細管という二つの部分に分けられます。近位曲尿細管が損傷を受けると、血液中へのナトリウム、カリウム、重炭酸イオン、尿酸、リン酸塩の再吸収が正常に行われなくなり、これらの成分の血中濃度が低下します。遠位曲尿細管が損傷を受けると、通常は尿の濃縮機能が低下し、1日当たりの尿量が増加します(多尿)。

 

尿細管間質性腎炎の二次的な原因

疾患

腎盂腎炎

サルコイドーシス

鎌状赤血球症

シェーグレン症候群

全身性エリテマトーデス(ループス)

 

薬剤

リチウム

非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)

化学療法薬

腎移植を受けた人に使用される免疫抑制薬(シクロスポリンやタクロリムスなど)

 

毒素

アリストロキン酸

カドミウム

  鉛

 

 

原因

急性尿細管間質性腎炎の原因として最も多いのは、薬剤に対するアレルギー反応です。ペニシリンやスルホンアミドなどの抗生物質、利尿薬、アスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)などがアレルギー反応の誘因となりえます。アレルギー反応を引き起こすアレルゲンにさらされてから急性尿細管間質性腎炎を発症するまでの期間には、5日間から5週間と大きな幅があります。

薬剤はまた、アレルギー以外のメカニズムによって尿細管間質性腎炎を引き起こす場合もあります。たとえば、NSAIDは徐々に組織に損傷を与えていき、最長では18カ月間もかけて慢性尿細管間質性腎炎を引き起こすことがあります。

腎臓の感染症(腎盂腎炎)も急性または慢性の尿細管間質性腎炎の原因となりえます。尿路に閉塞が起きたり両方の腎臓で腎盂腎炎が発生したりしない限りは、腎不全に発展する可能性は低いとされています。

 

症状と診断

症状がほとんどない場合や、まったくみられない場合もあります。症状が出る場合は、その病状は非常に多彩であり、突然発症することもあれば、緩やかに症状が現れてくることもあります。

尿細管間質性腎炎が突然発症した場合には、尿量は正常のままか普段より少なくなります。腎盂腎炎の症状がみられる場合もあり、具体的には発熱、排尿時の痛み、尿中への膿の混入、腰やわき腹(側腹部)の痛みなどが挙げられます。原因がアレルギー反応の場合には、発熱や発疹がみられることもあります。

尿細管間質性腎炎が緩やかに発症した場合には、かゆみ、疲労、食欲不振、吐き気、嘔吐、呼吸困難などといった腎不全の症状が最初に出現します。血圧は初期段階では正常かわずかに高い程度です。尿量は普段より多くなることがあります。

検査では通常、血液中の老廃物濃度の上昇のほか、代謝性アシドーシス、低カリウム血症、低尿酸血症、低リン酸血症などの特徴的な腎不全の徴候が検出されます。腎生検以外に尿細管間質性腎炎の診断を確定する方法はありませんが、原因がどうしても判明しない場合やステロイド薬による治療が検討される場合を除けば、生検はめったに行われません。

尿細管間質性腎炎が突然発症した場合には、尿の検査結果はほとんど正常で、微量のタンパク質や膿が認められるだけということもありますが、たいていは顕著な異常が認められます。たとえば、尿中に好酸球を含む大量の白血球が出現することがあります。好酸球が尿中に認められることは本来はまれで、これが検出されれば、通常はアレルギー反応による急性尿細管間質性腎炎と判断されます。また、血液中の好酸球数も増加します。

アレルギー反応が原因の場合には、アレルギー反応による炎症のため、通常は腎臓が腫れて大きくなります。この腎臓の腫れはX線検査や超音波検査で確認することができます。

 

予後(経過の見通し)と治療

原因となっている薬物の使用を中止するか、背景にある病気に対する治療が奏効すれば、腎臓にある程度の瘢痕(はんこん)は残されるものの、通常は腎機能の改善が得られます。アレルギー反応が原因の場合には、ステロイド薬による治療によって腎機能の回復を早められる可能性があります。腎機能が悪化して腎不全に移行した場合は、通常は透析が必要になります。場合によっては、回復不能な損傷によって腎不全が慢性化することもあります。

 

炎症が緩やかに発生した場合には、腎臓内のさまざまな部分において、それぞれ異なる速さで損傷が生じることがあります。その場合、腎臓の各部分の損傷に特徴的な複数の異常が、それぞれ異なる時期に発生することになります。しかし通常は、損傷が腎臓の大部分ないし全体にまで広がり、回復不能な状態に陥ります。

 

腎臓に回復不能な損傷を生じた場合には、原因が何であれ、透析か腎移植が必要となります。

 

 

腎動脈の閉塞

 

右左の腎臓に血液を供給している動脈とその分枝が徐々に狭くなっていったり(狭窄)、突如として詰まって(閉塞)しまいます。

腎不全や高血圧になる可能性があります。

狭窄や閉塞は画像検査で確認することができます。

閉塞を解除したり狭くなった動脈を拡張したりする処置が可能かつ有効となる場合があります。

腎動脈は2本あり、それぞれ右の腎臓と左の腎臓に血液を供給しています。これら2本の腎動脈は多数の細い動脈に枝分かれしています。

一方または両方の腎動脈が徐々に狭くなってくると、高血圧症を発症したり、それまでコントロールされていた高血圧症が悪化したりすることがあります。複数の降圧薬で治療しても血圧が下がらない場合がありますが、高血圧の治療としてアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬またはレニン阻害薬の投与を受ける患者では、腎機能が急速に低下することがあります。直ちに薬剤の投与を中止すれば、腎機能は回復します。

 

原因

腎動脈や一定以上の太さをもった分枝が閉塞することはめったにありません。このような閉塞の大半は、体内の別の部位で発生した何らかのかたまりが血流に乗って移動し、腎動脈でつかえることによって発生します(このような状況を塞栓と呼びます)。典型的には、心臓で発生した大きな血栓の断片や、大動脈で形成された脂肪の沈着物(アテローム)の断片が塞栓を起こします。

一方、腎動脈の内部で血栓が作られたために閉塞が起きる場合もあり、通常は過去に損傷を受けた部位で起こります。手術や血管造影、血管形成術などの医療行為が損傷の原因となる場合もあれば、動脈硬化や動脈炎(動脈の炎症)、動脈瘤(動脈の壁に徐々に形成されるこぶ)などによって腎動脈に徐々に損傷が生じ、そこに血栓が作られる場合もあります。

大動脈や腎動脈の内側を覆う膜が裂けることで血流が突然妨げられることもあります。また血管が裂けることで動脈の破裂に至ることもあります。脂肪性物質の沈着(アテローム動脈硬化)や線維性物質の形成(線維筋異形成症)によって動脈壁の肥厚と弾力性の低下を来す病気では、血管が裂けやすくなります。そのため、これらの病気では、たとえ血栓ができなくても、腎動脈が著しく狭くなり、部分的な閉塞が生じることがあります。血管が狭くなって閉塞が起きているものの血栓が認められない場合、その状態は腎動脈狭窄と呼ばれます。

 

 

線維筋異形成症:腎動脈閉塞の原因

 

線維筋異形成症は、主に15~50歳の女性に多くみられる病気で、原因は解明されていません。この病気では、線維性の物質によって腎動脈(通常は数個所)が狭くなります(腎動脈狭窄)。

成人にみられる腎動脈狭窄の約10%は、この線維筋異形成症によるものです。線維筋異形成症による腎動脈狭窄は、しばしば高血圧症を引き起こします。

治療法はほとんどの場合、血管形成術となります。治療後は再発することなく経過する場合もあり、通常、高血圧症は解消ないし改善されます。まれに腎不全に発展することがあります。

 

症状

腎動脈に部分的な閉塞が生じた場合には、通常は何の症状も現れません。一方で突然かつ完全な閉塞が発生した場合には、腰部やときに下腹部に持続的でうずくような痛みが生じるようになります。腎動脈が完全に閉塞すれば、発熱、吐き気、嘔吐、背部痛などの症状がみられます。まれに、閉塞によって出血が起こる結果、尿が赤色ないし暗褐色に変色することもあります。両方の腎動脈が完全に閉塞した場合(腎臓が1個しかない人の場合は残っている方の腎動脈が完全に閉塞した場合)には、尿がまったく作られなくなり、腎臓の機能が停止します(この状態を急性腎不全と呼びます)。

別の部位でできた血栓が腎動脈の分枝でつかえて閉塞を起こしたのであれば、腸や脳、手足の指の皮膚など、腎臓以外の部位に血栓が存在する可能性があります。このような血栓は各部位で痛みを引き起こすだけでなく、小さな潰瘍や壊疽(えそ)あるいは軽い脳卒中などを引き起こす可能性もあります。

 

診断

医師は症状から閉塞の存在を疑います。そして血算や尿検査(尿のサンプルを顕微鏡で観察する検査)などの臨床検査によって、診断のさらなる手掛かりが得られます。

症状と尿検査の結果だけで閉塞があると確実に判断するのは不可能で、また腎臓が十分に機能していないことを確認するために腎臓の画像検査が必要になります。CT血管造影(CTA)検査、磁気共鳴血管造影(MRA)検査、ドップラー超音波検査、およびアイソトープ血流スキャンでは、腎臓への血流の遮断や血流量の低下が起きているかどうかを確認することができます。どの検査方法にも利点と欠点があります。たとえば、CTA検査とMRA検査は正確性の面で非常に優れていますが、CTA検査では造影剤を使用する必要があるため、腎機能が低下している患者では腎臓に損傷を受けるリスクが高くなってしまいます。同様にMRA検査では、腎機能が低下している患者では腎性全身性線維症のリスクを高めることになる静脈内造影剤(ガドリニウム)を使用する必要があります。腎性全身性線維症は、全身の組織が線維状に変化していく病気で、回復や治癒は難しい難病です。

 

動脈造影検査は、この病気の診断を確定させる上で最も正確な検査方法です。一方、動脈造影検査では動脈内にカテーテルが挿入されますが、ときにこの操作によって動脈が傷つけられることがあります。さらに、CTA検査の場合と同様に、腎臓への損傷のリスクを高めることになる造影剤を使用する必要があります。動脈造影検査は、閉塞を解除するための外科手術や血管形成術が検討されている場合にだけ実施されています。腎機能の回復の経過は超音波検査、核医学検査または血液検査を繰り返し行うことで注意深くモニタリングされます。

 

予後(経過の見通し)

治療によってある程度の腎機能の改善が得られる場合もありますが、通常は完全には回復しません。腎臓以外の部分(心臓など)で作られたかたまりによって動脈が閉塞された場合は、予後(経過の見通し)は悪くなります。このようなかたまりは体内の別の部位(脳や腸など)にも運ばれ、それぞれの部位で問題を起こしている可能性も考えられます。

 

治療

治療の目的は、血流量のさらなる低下を防ぐことと、遮断されている血流を回復させることです。原因が血栓の場合には、通常は抗凝固薬による治療が行われます。抗凝固薬の投与は、まず静脈内注射で開始され、その後は長期間にわたって経口投与が継続されます。抗凝固薬は血栓の増大と新たな血栓の発生を予防します。抗凝固薬よりも血栓を溶かす薬剤により高い効果を得られる場合があります。ただし、血栓溶解薬によって腎機能の改善が得られるのは、動脈の閉塞が不完全な場合と血栓がすぐに溶ける場合だけに限られます。完全閉塞の状態が30~60分間経過すると、永続的な損傷の生じる可能性が高くなります。血栓溶解薬が有効となる時間は発生から3時間以内といわれています。

ときに血栓でふさがった動脈を開通させる手術も行われますが、この治療法は合併症や死亡のリスクが比較的高く、抗凝固薬や血栓溶解薬のみによる治療と比べて腎機能の改善効果が高いわけでもありません。そのため、手術よりも薬剤による治療が選択される場合がほとんどです。ただし外傷が原因の場合は、手術によって動脈を修復する必要があります。

 

動脈硬化や線維筋異形成症が原因で生じた閉塞を解消する治療法としては、バルーンカテーテルと呼ばれる器具を鼠径部(そけいぶ)にある大腿動脈から腎動脈まで挿入し、閉塞した部分でバルーンをふくらませて血管を拡張させる方法があります。この治療法は経皮経管的血管形成術と呼ばれます。この治療では、閉塞の再発を予防するため、ステントと呼ばれる短い管が動脈内に留置されることもあります。動脈硬化や線維筋異形成症によって生じた閉塞に対して血管形成術が不成功に終わった場合には、血管の閉塞部分を切除する手術や迂回路を作る手術(バイパス術)も検討されます。

 

 

 

 

アテローム塞栓性腎疾患

 

アテローム塞栓性腎疾患では、腎臓より上流にある動脈から多数の小さな脂肪性物質(アテローム塞栓)が流れてきて、それにより腎動脈の最も小さい分枝がふさがれ、その結果、腎臓が正常に機能できなくなります。

アテローム塞栓は通常、大動脈の動脈硬化症に対する手術や処置の合併症として発生します。

腎不全の症状がみられるほか、足の指が青く変色したり、足や脚の皮膚がまだら状に紫色に変色したりすることがあります。

診断を確定させるために、腎臓の組織を採取して分析する検査(生検)が実施されることがあります。

 

動脈硬化により硬くなった血管(通常は大動脈)の壁に付着した硬い脂肪性物質から小さな断片が剥がれ、それが血流に乗って流れてきたものが塞栓(アテローム塞栓)となります。このような断片の一部が腎動脈の最も細い分枝につまることで、腎臓への血液の供給が部分的に妨げられます。通常は左右の腎臓に同時に、ほぼ同程度の障害が起こります。

大動脈に重度の動脈硬化がある場合には、自然に脂肪性物質が剥がれ落ちることがあります。アテローム性腎疾患は、大動脈に対する手術、血管形成術、血管造影検査などで、大動脈の

壁に付着した脂肪性物質が意図せずはがされ、合併症としておこることがよくあります。アテローム塞栓性腎疾患は高齢者でより多くみられます。

 

症状

アテローム塞栓性腎疾患は通常、急性または慢性腎不全を引き起こします。閉塞の原因が大動脈に対する手術や血管造影検査の場合には、しばしば急激に腎機能が停止することがあります。多くの場合、尿の生成量が減少します。

腎不全の長期化と重症化が進むにつれて、さまざまな症状が出現するようになりますが、最初は疲労、吐き気、食欲不振、かゆみ、集中力の低下などがみられます。これらの症状は、腎不全のために筋肉、脳、神経、心臓、消化管、皮膚などに障害が生じていることを意味しています。

アテローム塞栓によって腎臓以外の臓器にも症状が生じることがあります。アテローム塞栓が腕や脚の方に流れていくと、足の指が青く変色したり、皮膚がまだら状に紫色に変色したりするなどの症状が生じるほか、壊疽(えそ)を起こすことさえあります。アテローム塞栓が眼に流れこめば、突然の失明に至ることもあります。

 

診断

同様の症状を引き起こす腎動脈閉塞の可能性を否定するために、画像検査が行われることがあります。アテローム塞栓性腎疾患を診断する上では腎生検が最良の方法です。組織のサンプルを採取して顕微鏡で観察すると、最も細い動脈に脂肪性物質が存在することを示す特徴的な証拠が認められます。皮膚や筋肉の組織サンプルを調べる検査も、診断を確定する上で役立つ場合があります。

 

予後(経過の見通し)と治療

以前は、アテローム塞栓性腎疾患を発症した人の多くが数週間から数カ月間で死亡していました。しかし、最近では治療法が改善され、大半の患者が1年間以上生存し、半数が4年間以上生存できるようになっています。

治療は患者の体調をできるだけ良好な状態に保つ支持療法であり、たとえば、高血圧に対する治療などが行われます。腎不全となっている期間には透析が必要となる場合もありますが、最終的に腎機能の回復が得られることもあります。

 

 

腎皮質壊死

 

腎皮質壊死とは、腎臓を構成する外側の部分(腎皮質)に血液を供給している細い動脈が閉塞することによって、腎皮質の組織が壊死に陥り、結果的に急性腎不全が引き起こされる病気です。

通常、血圧の低下を招く重大で破滅的な病気が原因となります。

症状としては、尿の色が濃くなる、尿量の減少、発熱、体側面の痛みなどがみられます。

診断を確定させるために画像検査や組織検査(生検)が行われることもあります。

腎皮質壊死はあらゆる年齢で発生しますが、全体の約10%は乳児および小児に発生しています。この病気がみられる新生児の半数以上は、胎盤早期剥離による難産で出生しています。次に多い原因は血液の細菌感染症(敗血症)です。小児の場合は、重度の感染症、重度の脱水症、ショックあるいは溶血性尿毒症症候群に引き続いて腎皮質壊死が発生することがあります。

成人の腎皮質壊死では、敗血症によるものが全体の3分の1を占めています。成人での原因としては、このほかにも移植された腎臓への拒絶反応、やけど、膵臓の炎症、外傷、ヘビのかみ傷、特定の薬剤の使用、特定の化学物質による中毒などが挙げられます。

女性の場合は、約半数が妊娠の合併症に続いて発生したもので、具体的には胎盤早期剥離、胎盤位置異常、子宮からの出血、出産直後の感染症、羊水による動脈の閉塞、子宮内での胎児の死亡、妊娠中毒症などに続いて腎皮質壊死が発生しています。

 

症状

尿中に血液が混入することから、しばしば尿が赤色ないし暗褐色に変色することがあります。また、腰の両側に沿うように痛みが生じることがあります。多くの場合、発熱もみられます。血圧の変動もよくみられ、軽い高血圧のほか、低血圧になることもあります。尿の産生が遅くなったり止まったりすることもあります。

 

診断

腎皮質壊死は、その症状がほかの原因による急性腎不全と似ているため、診断が困難となる場合があります。発症しやすい条件を満たしている患者では、症状から腎皮質壊死を疑える場合もあります。多くの場合、CT血管造影検査などの画像検査によって診断を確定できます。腎生検が最も正確な情報が得られる検査法ですが、この検査は腎臓組織の切除を伴うため、診断が明らかな場合は不要とされます。したがって、生検はほとんどの人で実施されません。

血液検査では、異常な形状をした赤血球が確認されることがあります。生成された少量の尿には、腎臓の細胞やその他の固形物とともに、タンパク質と多数の白血球および赤血球が含まれています。

 

予後(経過の見通し)と治療

近年の治療法の進歩に伴い、現在では予後は改善されています。ほとんどが生涯の透析か腎移植が必要となりますが、約80%の患者が1年間以上生存しています。

治療としては、輸液、輸血、抗生物質の投与、透析などを組み合わせた支持療法が行われます。

 

 

悪性高血圧性腎硬化症

 

悪性高血圧性腎硬化症では、重度の高血圧症(悪性高血圧症)によって腎臓の最も細い動脈に損傷が生じる結果、急速に腎不全へと進行します。

重度の高血圧症によって、腎臓を含めた各種の臓器に急速に損傷が生じることがあります。

症状としては、頭痛、気分が落ちつかない、かすみ眼、錯乱、吐き気、眠気などがみられます。

診断は通常、症状と一般的な血液検査および尿検査の結果に基づいて行われます。

血圧が急速に低下し、透析が必要になることもあります。

悪性高血圧性腎硬化症は、高血圧症患者の約200人に1人に発生し、人種別では白人よりも黒人に多くみられます。男性では40代と50代、女性では30代で最もよくみられます。

高血圧症は全身の臓器に損傷を与えますが、この損傷は数カ月から数年をかけてゆっくりと進んでいくのが通常です。これに対して悪性高血圧症の場合には、数時間から数日という短時間のうちに臓器の損傷が発生します。高血圧による損傷がきわめて急速に進むことから「悪性」と呼ばれていますが、この病名の「悪性」は癌であることを意味するものではありません。

悪性高血圧症の原因として最も多いのは、コントロールが不十分な高血圧です。また糸球体腎炎、慢性腎不全、腎血管性高血圧症を引き起こす腎動脈の狭窄、腎臓の血管炎(血管の炎症)など、高血圧以外の病態が原因となって発生する場合もあり、まれではありますが、褐色細胞腫や原発性アルドステロン症、クッシング症候群などの内分泌系の病気が原因となる場合もあります。

 

症状

最初は、重度の高血圧による影響から脳、眼および心臓に関連した症状が出現します。脳および眼の組織の腫れによって生じる症状として、気分が落ちつかない、かすみ眼、頭痛、吐き気、嘔吐、眠気、錯乱などがみられます。脳の腫れが悪化したり、脳内で出血が生じたりすると、けいれん発作や昏睡もみられるようになります。心不全になれば、呼吸困難がみられます。最終的には、腎臓の損傷によって疲労、筋力低下、かゆみなどの腎不全の症状がみられるようになります

 

診断

悪性高血圧症と診断された人に、腎不全の症状か腎不全を疑わせる検査結果が認められれば、悪性高血圧性腎硬化症の可能性が高いと考えられます。眼底検査を行えば、眼球内の出血部位、体液の貯留、視神経の腫れなどを確認することができます。心臓の肥大と心臓への負荷の増大ないし心不全が認められる場合もあります。このような眼や心臓に関する所見は、悪性高血圧症の可能性を疑わせるものです。

 

血液検査では、クレアチニン値と尿素窒素値の上昇が認められ、これらから腎不全の可能性が疑われます。尿の検査では、腎臓から漏れ出ているタンパク質が血液細胞とともに検出されます。赤血球の破壊や生産量の減少により、しばしば貧血もみられます。血管内に血栓が多発する状態(播種性血管内凝固)もよくみられます。また、腎臓から分泌される血圧を調節するためのホルモン(レニンとアルドステロン)の血中濃度が非常に高くなります。

 

予後(経過の見通し)

悪性腎硬化症に対して治療が行われない場合、40~80%の患者が1年以内に死亡します。一方、食事療法と薬剤投与による厳格な高血圧管理と腎不全の治療を含めた最善のケアが行われれば、生存期間の平均値は最長12年間まで改善されます。腎不全がそれほど重くなければ、治療によりかなりの改善が得られます。

 

治療

治療としては、まず薬剤を使用して積極的に血圧を下げていきます。生活習慣の改善(食事や運動など)が血圧低下に役立ちますが、薬剤を使用しない限り、十分な改善はめったに得られません。また腎不全の治療も必須です。ときに十分な改善が得られ、透析をやめられる場合もあります。

 

 

 

 

腎静脈血栓症

 

腎静脈血栓症とは、血栓によって腎静脈(腎臓を出た血液が通過する血管)がつまってしまう病気です。

血栓によって腎臓に損傷が生じたり、血栓から剥がれ落ちた断片が血流に乗って別の血管をつまらせる(塞栓)ことがあります。

血栓が急激に発生する場合を除けば、症状はごく軽微なものとなります。

診断はCT血管造影(CTA)検査か磁気共鳴血管造影(MRA)検査によって行われます。

治療には抗凝固薬や血栓溶解薬(線維素溶解薬)が使用されます。

成人の場合、腎静脈血栓症はネフローゼ症候群(大量のタンパク質が尿中に漏れ出てしまう状態)を引き起こす別の腎疾患と一緒に発生するのが通常です。腎静脈血栓症はまた、腎臓にできた癌や他の状態によって腎静脈や下大静脈(腎静脈の血液が流れこむ血管)が圧迫されることが原因で発生する場合もあります。その他の原因としては、血液凝固障害(凝固亢進状態)、血管炎、腎臓を侵した鎌状赤血球症や糖尿病、経口避妊薬の使用、外傷、コカインの乱用なども挙げられ、まれに遊走性血栓性静脈炎(全身のさまざまな静脈で次々に血栓が発生する病気)も原因となりえます。

 

症状

腎静脈血栓症の大半は成人に発生します。成人の場合、発症と進行はともに緩やかで、何の症状も認められないのが通常です。腎静脈の壁にできた血栓の一部が剥がれ、それが肺まで流れていって肺塞栓症を引き起こしたことで、偶然この病気が発見される場合もあります。肺塞栓症では、突如として胸部に痛みが発生し(この痛みは呼吸により強まります)、同時に息切れもみられます。尿の生成量が減少する場合もあります。

一方、小児患者の大半と成人患者の少数では、発症と進行が急激に生じることがあります。痛みが最初の症状となる場合が多く、典型的には背中の肋骨の下の方や腰の部分に生じます。発熱、尿量の減少、血尿などもみられます。

 

診断

血液検査によって腎不全の徴候が確認される場合があります。

腎静脈血栓症の診断にはCTA検査とMRA検査が用いられます。これらの検査法は非常に正確で、また体内の奥にある動脈や静脈までカテーテルを挿入する必要がないことから、よく使用される検査法となっています。超音波検査は、正確性でやや劣るものの、非常に安全な検査法です。閉塞が突然発生した場合は、超音波検査で腎臓の肥大を確認できます。またドップラー超音波検査で、腎静脈内に血流がなくなっていることを確認できる場合があります。造影剤を動脈や深部静脈(静脈造影)に注入して下大静脈または腎静脈のX線画像を撮影する検査法が最も正確な検査法となりますが、検査時の操作によって剥がれた血栓の一部が血流に乗って塞栓を起こすことにより、合併症を引き起こす可能性があります。

 

予後(経過の見通し)

予後(経過の見通し)は、血栓症の原因、合併症の有無、腎臓の損傷の程度によって異なってきます。腎静脈血栓症自体が原因となる死亡はまれであり、死亡する患者の多くは致死的な基礎疾患か合併症(肺塞栓症など)によるものです。腎機能への影響は、損傷を受けた腎臓が片方か両方か、血流の回復の程度、閉塞が起こる前の腎機能の状態などによって異なります。

 

治療

主な治療法は抗凝固薬の投与であり、これにより、さらなる血栓の形成を予防します。その結果、通常は腎機能を改善できるとともに、肺塞栓症のリスクを下げることもできます。血栓溶解薬(線維素溶解薬)の使用は比較的新しい治療法で、現在普及してきてはいるものの、確立された治療法とまではいえません。まれに、腎静脈内の血栓を取り除く手術が行われることもあります。腎臓の摘出手術はめったに行われず、高血圧症などの別の合併症が発生した場合に限って行われています。

 

 

 

 

尿路閉塞

 

尿路とは、尿が作られる腎臓から体外に排出される尿道までの尿の通り道のことで、そのどこかに閉塞が起きると、尿路内部の圧力が上昇して、尿の流れが滞るようになります。閉塞は突然発生する場合もあれば、数日、数週間あるいは数カ月をかけて徐々に発生する場合もあります。また、尿路が完全にふさがってしまう場合もあれば、部分的にふさがる場合もあります。

尿路に閉塞が起きると、腎臓が拡張することがあり、拡張は腎臓に損傷を与えます。閉塞が直ちに解除されれば、腎臓は通常回復しますが、ときに回復不能な損傷が生じることもあります。損傷の程度が激しければ、腎臓の機能が失われます(腎不全)。また、尿路の閉塞が結石や尿路感染症につながる場合もあります。感染が起こりやすくなるのは、尿の流れが妨げられると、尿路に侵入した細菌を体外に洗い流すことができなくなるからです。

 

 

 

 

水腎症

 

水腎症とは、満杯になった尿によって腎臓が拡張してしまった状態のことで、尿路の閉塞により腎臓に対して圧力が加わることで発生します。

腎臓結石(尿路結石 )は尿路閉塞のよくみられる原因の一つです。

水腎症が急速に発生すると、ほとんどの場合、わき腹から腰部、下腹部にかけて激しい痛みが生じます。

ゆっくりと進行する水腎症では、何の症状もみられない場合もあれば、わき腹にうずくような鈍痛がみられる場合もあります。

まずは水腎症を確認する検査として膀胱カテーテル法(または超音波検査)が行われ、続いて超音波検査または別の画像検査によって閉塞部位が特定されます。

治療法は閉塞の原因によって異なります。

 

水腎症:拡張した腎臓

 

 

水腎症では、尿の流れが妨げられて腎臓の細い管や中央の尿が集まる部分(腎盂)に逆流するため、腎臓が拡張します。

 

正常な状態では、尿はきわめて弱い圧力で腎臓から流れ出ていきます。尿の流れが妨げられると、閉塞部より後方に向けて尿が逆流する結果、最終的には腎臓の細い管や中央の尿が集まる部分(腎盂[じんう])に達し、腎臓が拡張するとともに、内部構造にかかる圧力が高まります。閉塞のために圧力が上昇すると、やがては腎臓の組織に損傷が生じ、最終的には腎機能が失われます。また尿の流れが妨げられると、尿路感染症がかなり多くみられるようになり、結石が形成される可能性も高くなります。両方の腎臓が閉塞によって障害されると、腎不全に至ることもあります。

 

腎盂と尿管が拡張した状態が長く続くと、腎臓から膀胱へ尿を送りこんでいる尿管の筋肉のリズミカルな運動(ぜん動)も妨げられるようになります。すると、尿管の壁を構成する筋肉組織が線維化した瘢痕(はんこん)組織で置き換わり、永続的な損傷となります。

 

原因

水腎症の多くは、尿管と腎盂とのつなぎ目の部分(腎盂尿管移行部)が閉塞することで発生します。このような閉塞の原因としては、次のようなものが挙げられます。

構造上の異常(尿管が腎盂に入りこむ位置が高すぎる先天異常や尿管の筋肉の発達不足[先天性腎盂尿管移行部閉塞]など)

腎下垂(腎臓の位置が下がっていること)による腎盂尿管移行部の屈曲

腎盂内の結石または血栓

帯状の線維性組織、異常な位置にある血管、または腫瘍などによる尿管の圧迫

 

水腎症はまた、腎盂尿管移行部より下方の尿路に生じた閉塞や膀胱からの尿の逆流によっても発生する可能性があります。このような閉塞の原因としては、次のようなものが挙げられます。

尿管内の結石

尿管内の血栓

尿管の内部または周囲に発生した腫瘍

先天異常または外傷、感染、放射線療法、手術による尿管の狭窄

尿管または膀胱の筋肉または神経の障害

手術、放射線療法または薬剤(特にメチセルジド)の影響によって尿管の内部または周囲に発生した線維性組織

膀胱の内部における尿管の下端部のふくらみ(尿管瘤)

膀胱、子宮体部、子宮頸部、前立腺、その他の骨盤内臓器に発生した癌

前立腺の肥大(その多くは前立腺肥大症や便秘による、膀胱から尿道への尿の流れを妨げる閉塞

先天異常または脊髄や神経の損傷による膀胱の異常収縮

 

妊娠中に大きくなった子宮によって左右両方の尿管が圧迫されると、両方の腎臓で水腎症が発生することがあります。さらに、妊娠中はホルモンの変化による影響で、尿を膀胱へ送りこむ尿管の筋肉の収縮力が低下して、水腎症を悪化させる要因となることがあります。一般的に妊娠水腎症と呼ばれているこの病態は、通常は妊娠の終了とともに解消されますが、腎盂と尿管には多少の拡張が残ります。

 

症状

出現する症状は、閉塞の原因、部位、期間によります。閉塞が短時間のうちに発生する場合(急性水腎症)は、閉塞が発生した側のわき腹から腰部、下腹部にかけて、腎仙痛と呼ばれる激しい間欠的な痛みが生じます。片側のみの閉塞では尿の量は減りませんが、両側の尿管や尿道に閉塞が起きた場合には、尿の流れが停止ないしは減弱します。尿道や膀胱頸部に閉塞が起きれば、膀胱に痛み、圧迫感、拡張などが生じるようになります。

ゆっくりと進行する(慢性)水腎症では、何の症状も現れない場合もあれば、閉塞が発生した側のわき腹にうずくような鈍痛がみられる場合もあります。ときに、腎臓結石によって一時的に尿管がふさがれるために、痛みを伴った水腎症が間欠的に発生する場合もあります。

水腎症は漠然とした腸の症状を引き起こすことがあり、吐き気、嘔吐、腹痛などがみられます。小児でこのような症状がみられる場合は、腎盂尿管移行部が異常に狭くなる先天異常が原因で水腎症が発生している可能性があります(腎盂尿管移行部閉塞)。

尿路感染症を併発した人では、尿中への膿の混入、発熱、膀胱または腎臓がある部位の不快感などがみられます。

 

診断

尿路閉塞の大半は是正可能であり、その一方で治療が遅れると腎臓組織の回復不能な損傷につながることから、早期の診断が重要です。症状や診察の結果から水腎症が疑われることがあります。わき腹の触診で腎臓が大きくなっているのが分かる場合があり、特に乳児や小児、やせ型の成人では腎臓が非常に大きくなっているのが感じられます。下腹部の恥骨のすぐ上の辺りには大きくなった膀胱に触れる場合もあります。

診断を下すには各種の検査が必要です。腎仙痛、骨盤部の圧迫感または腹部の膨満がみられる場合に最初に行う診断のための検査としては、尿道に柔軟な細い管を挿入する膀胱カテーテル法があります。この検査で、カテーテルを通って大量の尿が膀胱から出てくれば、膀胱頸部か尿道のどちらかに閉塞が起きているということになります。多くの医師は、膀胱カテーテル法を実施する前に、膀胱が尿で満たされているかどうかを超音波検査で調べます。

閉塞の有無や部位が不確かな場合は、各種の画像検査法によって水腎症などの閉塞の証拠や閉塞が起きている部位を確認することができます。たとえば超音波検査は、精度もかなり高く、患者を放射線に曝すこともないため、ほとんどの場合(特に小児や妊婦)に非常に有用となります。CT(コンピュータ断層撮影)検査も選択肢の一つです。この検査は迅速で非常に精度も高く、特に結石を特定する上で非常に有用となります。超音波検査やCT検査で確認できない場合は、静脈性尿路造影などの別の画像検査によって閉塞部位が確認されます。

閉塞が予想される部位をできるだけ近くから観察するために、内視鏡(硬いまたは柔軟なチューブ状の観察装置)が使用される場合もあります。内視鏡を使用すれば尿路を直接観察することができます。

血液検査と尿検査が行われます。血液検査の結果は通常は正常ですが、両方の腎臓が閉塞により障害されている場合には、尿素窒素濃度(BUNともいいます)やクレアチニン濃度の上昇が確認されます。尿検査の結果も通常は正常ですが、閉塞の原因が結石か癌の場合や、感染症のために閉塞が悪化している場合には、白血球や赤血球の混入が認められます。

 

予後(経過の見通し)

両方の腎臓が数週間以上にわたって閉塞により障害されなければ、腎臓の組織に永続的な損傷が起こる可能性は低いといえます。慢性水腎症では、予後(経過の見通し)はあまり明確ではありません。

 

治療

治療は通常、閉塞の原因を解消することを目標とします。たとえば、前立腺肥大症や前立腺癌が原因で尿道に閉塞が起きている場合は、前立腺癌に対するホルモン療法などの薬物療法、手術、器具を用いた尿道の拡張などの治療が行われます。さらに、尿の流れを妨げている結石には、砕石術や内視鏡手術などの治療法が必要となる場合があります。閉塞の原因を迅速に改善できない場合、特に感染、腎不全、重度の痛みなどがみられる場合には、尿路から尿を排出させる処置が行われます。急性水腎症の場合は、閉塞部位よりも上流側にたまっている尿を皮膚から腎臓に挿入した柔らかいチューブ(腎瘻チューブ)を使って排出させるか、または柔軟なプラスチックのチューブを膀胱と腎臓をつなぐように挿入して排出させます(尿管ステント)。ただし、腎瘻チューブまたは尿管ステントの使用時には、チューブの脱落、感染、不快感などの合併症がみられる可能性があります。

慢性水腎症では、緊急の治療は通常必要ありません。ただし、尿路感染症や腎不全などの水腎症の合併症がみられる場合には、直ちに治療が開始されます。

 

尿細管性アシドーシス(RTA)

 

尿細管性アシドーシスでは、尿細管が十分に機能しないために、血液中の酸を尿中に排出できなくなります。

 

特定の薬剤の使用や腎臓を侵す別の病気があると、血液中から酸を除去している尿細管が損傷を受けます。

 

この状態が長期間続くと、主に筋力低下と反射の低下がみられるようになります。

 

食物の分解によって体内で生成された酸は、血液中に入って体内を循環します。腎臓はこの酸を血液から取り除いて尿中に排出しますが、この機能を主に担っているのが尿細管です。尿細管性アシドーシスでは、酸を排出する腎臓の能力が部分的に損なわれ、血液中の酸の濃度が上昇します(代謝性アシドーシス)。さらに電解質のバランスも崩れます。

 

尿細管性アシドーシスでは、以下のような異常が発生します。

血液中のカリウム濃度の低下または上昇

腎臓の組織へのカルシウムの沈着とそれによる腎臓結石

脱水症

痛みを伴う骨の軟化と弯曲(骨軟化症、くる病)

 

 

尿細管性アシドーシスには1~4型までの4種類があり、アシドーシスを引き起こす腎機能の異常に基づいて分類されています。

 

治療

治療法は尿細管性アシドーシスの型によって異なります。1型と2型では、体内で食物から生成される酸を中和するため、重炭酸ナトリウム(重曹)を水に溶かして毎日飲みます。この治療は症状の軽減のほか、腎不全や骨の病気の発生や悪化の予防にもつながります。このほかにも治療用に特別に調製された溶液を使用することも可能で、カリウムの補充が必要になる場合もあります。4型では、アシドーシスが軽度なために重炭酸ナトリウムは不要な場合もあります。血液中のカリウム濃度が高い場合は、カリウムの摂取量を制限し、脱水症を回避し、別の薬剤に切り替えるか用量を調節します。

 

 

 

 

腎性糖尿

 

腎性糖尿では、血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が正常以下であるにもかかわらず、尿中にブドウ糖が排出されます。

ブドウ糖が尿中に排出されるのは、通常は血液中のブドウ糖濃度が非常に高い場合に限られます。健康な人の大半では、腎臓で血液からろ過されたブドウ糖は、すべて再吸収されて血液中に戻ります。これに対して腎性糖尿の人では、血液中のブドウ糖濃度は正常以下であるのに、ブドウ糖が再吸収されずに尿中に排出されてしまいます。これは、尿細管細胞に異常があり、ブドウ糖を再吸収する力が低下しているために起こります。腎性糖尿は遺伝性の場合があります。

腎性糖尿では何の症状もみられず、重大な影響が出ることもありません。血糖値は正常であるのに通常の尿検査で尿中にブドウ糖が検出された場合に、腎性糖尿と診断されます。ただし、ごく一部では腎性糖尿が糖尿病の初期の徴候である場合があります。治療は必要ありません。

 

 

腎性尿崩症

 

腎性尿崩症では、腎臓が抗利尿ホルモンに反応しなくなり、その結果、腎臓で尿が濃縮されずに大量の薄い尿が作られるようになります。

この病気の多くは遺伝性ですが、腎臓に悪影響を及ぼす薬剤や病気によって引き起こされる場合もあります。

症状としては、極度ののどの渇きと大量の排尿などがあります。

診断は血液と尿の検査結果に基づいて行われます。

大量の水分を摂取し、塩分の摂取を制限するとともに、ときに薬剤を使用することによって尿量の減少がみられます。

尿崩症とこれよりも広く知られている糖尿病は、どちらも大量の尿が排出される病気ですが、それ以外の点では大きく異なります。

尿崩症には2種類のものがあります。腎性尿崩症では、腎臓が抗利尿ホルモン(バソプレシン)に反応しなくなり、その結果、大量の薄い尿が持続的に排出されるようになります。もう一方の中枢性尿崩症は、比較的多くみられ、下垂体から抗利尿ホルモンが分泌されなくなります。

 

原因

正常な状態では、腎臓は体の要求に応じて尿の濃度を調節していますが、この調節は血液中の抗利尿ホルモンの濃度変化を介して行われています。抗利尿ホルモンとは下垂体から分泌されるホルモンで、腎臓に対して水分の保持と尿の濃縮を指示するシグナルとして働きます。腎性尿崩症では、腎臓がこのシグナルに反応しなくなってしまいます。

腎性尿崩症は遺伝性の場合があります。この病気を引き起こす遺伝子は劣性遺伝子であり、X染色体(2種類ある性染色体の一方)に存在するため、この病気を発症するのはほとんどが男性に限られます。ただし、この遺伝子を保有する女性からは、この病気を受け継いだ息子が生まれる可能性があります。腎性尿崩症はこのほかにも、リチウムのように抗利尿ホルモンの作用を阻害する薬剤が原因となって発生する場合もあります。さらに、血液中のカルシウム濃度が高くなった場合やカリウム濃度が低くなった場合にも、抗利尿ホルモンの作用が部分的に遮断されることがあります。腎性尿崩症はまた、多発性嚢胞腎や鎌状赤血球貧血、海綿腎、重度の感染症(腎盂腎炎)、アミロイドーシス、シェーグレン症候群、骨髄腫などの病気によって腎臓が侵された場合にも発生する可能性があります。

 

症状と診断

腎性尿崩症の症状としては、極度ののどの渇き(多飲症)と薄い尿の大量の排出がみられます。遺伝性の腎性尿崩症の場合は、生後すぐに症状が現れ始めます。乳児はのどの渇きを伝えることができないため、重度の脱水症に陥りやすい傾向があります。発熱がみられることもあり、その場合は嘔吐やけいれん発作を伴います。

遺伝性腎性尿崩症は、速やかに診断して治療を開始しないと、脳に損傷が生じて永久的な精神発達の遅れが生じるおそれがあります。また、たびたび脱水症状を起こせば、身体的な発育にも遅れが生じます。治療を行えば、正常に発育する可能性が高くなります。

臨床検査では、血液中のナトリウム濃度が高く、尿が非常に薄いことが判明します。水制限試験が診断に役立つ場合があります。

 

予後(経過の見通し)と治療

腎性尿崩症では、重度の脱水症に陥る前に診断されれば、予後は良好です。遺伝性でない場合は、背景にある異常を修正することが、通常は腎機能が正常に戻るのに役立ちます。

脱水症を予防するために、のどの渇きを感じたら直ちに十分な量の水分を摂取する必要があります。乳児と幼児および病状の重い高齢者の場合は、頻繁に水分を与えなければなりません。十分な水分を摂取していれば脱水症を起こすおそれはありませんが、水分を摂取しない時間が数時間ほど続くだけで重度の脱水症に陥る可能性があります。塩分を控えた食事が有効となる場合もあります。この病気に対する治療として、ときに非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)とサイアザイド系利尿薬が使用されることがあります。非ステロイド性抗炎症薬とサイアザイド系利尿薬はそれぞれ異なるメカニズムで作用しますが、両方とも腎臓から再吸収されるナトリウムと水分の量を増加させます。それにより尿の排出量が少なくなります。

 

 

尿細管障害と嚢胞性腎疾患

 

腎臓では、血液のろ過と浄化が行われます。腎臓はさらに、血液中に含まれる水分、電解質(ナトリウム、カリウム、カルシウムなど)、栄養素などのバランスを維持するという役割も果たしています。腎臓のこうした機能は、血液が腎臓の糸球体(小さな穴のあいた微細な血管でできた微細な球状の組織)を通過する際にその一部がろ過されることから始まります。このプロセスにより、大量の水分と電解質などの物質が血管内から尿細管と呼ばれる細い管の中に移動します。続いて、尿細管の内壁を覆っている細胞が体にとって必要な水分、電解質および栄養素(ブドウ糖やアミノ酸など)を再吸収し、これらを血液中に戻します。この細胞はまた、血液中に含まれる老廃物や薬物を血液からろ過された液体(この時点で尿といえます)が尿細管を通過する間に、その中に排出する役割のほか、血液供給(エリスロポエチン)や血圧、電解質バランスなどを維持するホルモンの分泌も担っています。

 

この尿細管の内壁を覆う細胞(尿細管細胞)の機能が妨げられる病気を尿細管障害と呼んでいます。

 

嚢胞性(のうほうせい)腎疾患と呼ばれる病気では、腎臓の中に液体のたまった袋状の組織(嚢胞)が形成され、これが正常な尿細管の組織と置き換わったり、尿細管を圧迫したりするために、尿細管細胞の機能が妨げられます。

これらの尿細管障害と嚢胞性疾患の多くは遺伝性の病気です。遺伝性の病気といっても、出生時に見つかるものもあれば、生後何年も経ってから影響が現れ始めるものもあります。

 

 

 

 


多発性嚢胞腎(PKD)

 

 多発性嚢胞腎(のうほうじん PKD)は、両側の腎臓に多発性の嚢胞(嚢胞液という液体が詰まっている袋)がたくさんできて腎臓の働きが徐々に低下していく遺伝性の病気です。多くは腎不全に至ります。

 

 

 多発性嚢胞腎の特徴は、一定の年齢に達するまで自覚症状がほとんどないことです。しかし、徐々に腎臓の嚢胞が増えて腎臓全体が大きくなり、腹が張ってきます。そうすると腎蔵の働きが悪くなり、食欲低下、疲れやすい、だるい、さらには息切れなどが出現します。また肝臓にも嚢胞ができますし、高血圧を合併することが多く、脳出血も通常より高い頻度で起こります。

 

遺伝子の異常によって、両方の腎臓において広範囲に嚢胞が形成されます。嚢胞は年齢に伴い次第に肥大していき、それにより腎臓内の血流量が減少するとともに、組織が線維化して瘢痕(はんこん)ができるようになります。腎臓結石が発生することもあります。最終的には腎不全に至る可能性もあります。遺伝子の異常によって、肝臓や膵臓など腎臓以外の部位にも嚢胞が発生する場合もあります。

 

症状

小児期に発症する、まれな劣性遺伝型の場合は、嚢胞が非常に大きくなり、腹部が突き出てきます。胎児期に腎不全を発症したために肺が十分に育たなかった新生児の重症例は、生後すぐに死亡します。肝臓も障害され、5~10歳ごろになると腸と肝臓を結ぶ血管(門脈系)内の高血圧を起こしやすくなります。そして最終的には、肝不全と腎不全を発症します。

 

よくみられる優性遺伝型の多発性嚢胞腎では、嚢胞の数が少しずつ増え、徐々に大きくなっていきます。典型的には成人期の早期から中期に発症します。なかには、症状がとても軽いために、生涯にわたり病気の存在に気づかない場合もあります。症状としては、腹部またはわき腹(側腹部)の不快感や痛み、血尿、頻尿、腎臓結石による激しい痛み(仙痛)などがみられます。このほかにも、機能する腎組織が減少しているため、疲労や吐き気など、ゆっくりと進行する腎不全による症状がみられる場合もあります。尿路感染症が繰り返されると、腎不全がさらに悪化する可能性があります。また多発性嚢胞腎の患者の半数以上では、この病気が発見されるまでの間に高血圧の発生が認められます。

 

合併症:

優性遺伝型の多発性嚢胞腎では、約3分の1の患者において肝臓にも嚢胞がみられますが、それらが肝機能に影響することはありません。約10%の患者には、脳の血管の拡張がみられます(動脈瘤)。通常は動脈瘤がさらに大きくなることで頭痛が生じます。脳動脈瘤の多くは出血を来し、脳卒中の原因となります。

 

治療

尿路感染症や高血圧を効果的に治療できれば、腎臓の組織の破壊を遅らせることができます。ただし、この病気の患者の半数以上は最終的に腎不全に至ります。透析か腎移植を行わなければ、腎不全は致死的となります。

子供をもつことを希望する多発性嚢胞腎の患者は、自身の子供に病気が遺伝する確率を把握するために遺伝子検査を利用できます。

 

 

 

多発性嚢胞腎は、常染色体劣性多発性嚢胞腎と常染色体優性多発性嚢胞腎に分けられます。

 

 常染色体劣性多発性嚢胞腎は、生後まもなく腎不全で死亡することが多いです。

長期生存している患者は、腎不全よりも肝不全が問題となります。

 

常染色体優性多発性嚢胞腎の原因遺伝子にはPKD1(第16染色体短腕上に疾患遺伝子が存在)、PKD2(第4染色体長腕上に疾患遺伝子が存在)が同定されています。約85%の患者にPKD1遺伝子異常が、15%の患者さんにPKD2遺伝子の異常が認められています。腎不全に至る年齢はPKD1が平均60歳、PKD2が74歳です。

 

 

常染色体優性多発性嚢胞腎

 

症状の現れ方  受診の原因となった自覚症状として、肉眼的血尿、蛋白尿、側腹部・背部痛、家族に多発性嚢胞腎患者がいる、易疲労感、腹部腫瘤、発熱、浮腫、頭痛、吐き気、腹部膨満などがあります。

最も大きな問題は進行性の腎不全ですが、すべての患者さんが腎不全になるのではありません。70歳まで生存したとして約50%で末期腎不全に陥り、透析療法が必要となり、透析導入の平均年齢は、男性52・3歳、女性54・5歳という報告があります。

 肝嚢胞により肝機能障害を来すことはほとんどありませんが、圧迫症状が問題となります。また心臓の弁の異常、大腸憩室(けいしつ)、鼠径(そけい)ヘルニア、総胆管拡張を来すこともあります。 

 

治療の方法  嚢胞内出血や嚢胞内感染を来し、発熱や腰・背部痛などの症状が現れた場合は、安静とし、止血薬および抗生剤を投与します。進行性の腎不全に対しては、高血圧の管理(アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬の投与など)を行います。高血圧の管理は、頭蓋内出血や心不全の予防としても重要です。また、上部尿路感染症に対してはすみやかに治療を行うことが大切です。肉眼的血尿に関しては、悪性腫瘍が否定できれば保存的に対処します。透析に至った患者さんの腹部膨満感を緩和する方法として、両側腎動脈塞栓術が行われ、良好な成績が得られています。

近年、バソプレッシン受容体阻害薬によって細胞内サイクリック‐AMP濃度を下げれば、腎嚢胞増大が抑制されることが動物実験で示され、バソプレッシンV2受容体拮抗薬の臨床試験が世界的規模で行われています。

 


単純性腎嚢胞

 

 片側あるいは両側の腎臓に1〜数個の嚢胞(嚢胞液という液体が詰まっている袋)ができる病気です。通常は無症状でほとんど問題になりませんが、嚢胞による圧迫症状や高血圧、水腎症、血尿を来す時は、嚢胞液を穿刺吸引後にアルコールなどで固定したりするなどの外科的処置が必要となることもあります。

 

原因  ネフロン閉塞や起因する嚢胞、あるいは遠位尿細管や集合管の小憩室が成長したものなどが原因として考えられています。単発あるいは多発性の嚢胞が加齢とともに増加し、60歳以上ではしばしばみられます。

 

症状の現れ方  孤立性の大きな嚢胞ができた場合は、時に圧迫症状を呈することもあります。

腎盂(じんう)の近くにできたものは水腎症を来しやすく、水腎症を起こすと尿が停滞し、腎盂は腫大して嚢状となります。腫大した腎盂により腎実質が圧迫されると、次第に腎実質が薄くなり、腎機能障害が生じます。

 

治療の方法  圧迫症状、高血圧、尿路の閉塞などがあれば、外科的切除、開窓術、経皮的穿刺による吸引固定、腹腔鏡下嚢胞切除などが行われます。

 多発性嚢胞腎が発見される状況はさまざまです。腎臓と違う病気で入院し、検査を受けたときに、たまたま発見されることもありますし、血尿や腰痛といった多発性嚢胞腎特有の症状で受診し、検査を受け、その結果、発見されることもあります。審査では、この多発性嚢胞腎が発覚した状況に応じて、初診日を「多発性嚢胞腎の自覚症状で受診した日(まだ多発性嚢胞腎は発見されていない)」とするのか、「多発性嚢胞腎が発覚した日」とするのかを個別に判断しています。

 

 

 障害年金の制度上、多発性嚢胞腎についての初診日は、多発性嚢胞腎として自覚症状で受診した日、または、それを判明のきっかけとなった血尿などの傷病で初めて医師の診断を受けた日となります。個別に判断されますので、障害年金の手続きでは、「自覚症状があり病院受診した日」と「多発性嚢胞腎が発覚した日」の両方についての書類を整えていく必要があります。

 

 

 

 

尿路感染症

 

健康な人では、膀胱の中にある尿は無菌(細菌などの感染性の微生物が存在しない状態)です。尿が膀胱から体外へと排出されるまでの通路(尿道)にも、感染症を引き起こす細菌はほとんど存在していません。しかし、尿路のどの部分にも感染が起こる可能性はあり、尿路で発生した感染症は尿路感染症(UTI)と呼ばれています。

 

尿路感染症はその感染部位に応じて、上部尿路感染症と下部尿路感染症に分類されます。下部尿路感染症には、尿道の感染症(尿道炎)と膀胱の感染症(膀胱炎)があります。さらに前立腺の感染症(前立腺炎)が下部尿路感染症に含められる場合もあります。上部尿路感染症には、腎臓の感染症(腎盂腎炎[じんうじんえん])があります。腎臓など左右で対になっている臓器の感染症は、一方のみに起こることもあれば、両方で起こることもあります。尿路感染症は成人だけでなく、小児でも起こります。

 

原因

感染を起こす微生物が尿路に侵入する経路は二つ考えられます。そのうち各段に多いのは尿路の下端からの侵入経路であり、男性では陰茎の先端部、女性では外陰部にある尿道の開口部から微生物が侵入します。尿道から侵入した微生物は、尿路を上の方に移動して膀胱に達するほか、ときには腎臓にまで到達して、膀胱と腎臓の両方に感染する場合もあります。もう一つの侵入経路は、血流から微生物が腎臓に侵入するというものです。

 

尿路感染症は、そのほぼすべてが細菌によるものですが、ウイルス、真菌または寄生虫が原因となる場合もあります。尿路感染症の85%以上は、腸または腟から移動してきた細菌によって引き起こされます。ただし細菌が尿路に侵入したとしても、排尿時に勢いよく流れ出る尿によって細菌も洗い流されるのが通常です。

 

細菌:

下部尿路(膀胱および尿道)の細菌感染症は非常に多く、特に性的に活発な女性でよくみられます。下部尿路感染症の原因菌として最も多いのは大腸菌です。腎臓結石が存在する場合には、プロテウス菌も増殖できるようになります。20~50歳の人に限定して男女別に見ると、女性では細菌による尿路感染症が男性の約50倍多くみられます。これは男性の尿道が女性の尿道より長いために、細菌が感染を生じられる高さまでなかなか上ってこられないからです。一方、50歳を超えると尿路感染症は男女ともに多くみられるようになり、男女差は少なくなります。

 

ウイルス:

単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)が尿道に感染することがあり、その症状としては排尿時に痛みが生じたり、膀胱を空にするのが難しくなったりします。

 

真菌:

一部の真菌(酵母菌)が尿路に感染することがあります。この種の感染症は、しばしば真菌感染症と呼ばれます(真菌は腟炎の原因となることもあります)。尿路の真菌感染症を引き起こす可能性が最も高い微生物は、カンジダ属に分類される真菌です。カンジダ属の感染症は、免疫力が低下した人や膀胱にカテーテルが留置されている人でしばしば発生します。まれに、ブラストミセス属(ブラストミセス症の原因菌)やコクシジオイデス属(コクシジオイデス症の原因菌)など、カンジダ属以外の真菌が尿路に感染することもあります。真菌と細菌が同時に腎臓に感染することもあります。

 

寄生虫:

数種類の寄生虫(一部の蠕虫[ぜんちゅう]も含まれます)が尿路に感染することがあります。

トリコモナス症は、顕微鏡でしか見ることのできない微小な寄生虫によって起こる性感染症で、感染した女性では泡を伴った黄緑色の分泌物が腟から大量に排出されます。ときに膀胱や尿道に感染することもあります。トリコモナス症は男性の尿道に発生することもあります。男性では何の症状もみられないのが通常ですが、前立腺炎(前立腺の炎症)の原因となることがあります。

住血吸虫症は、吸虫と呼ばれる種類の寄生虫による感染症で、腎臓、尿管および膀胱が侵されます。この感染症は、アフリカ、南アメリカおよびアジアの在住者の間では重度の腎不全の原因としてよくみられます。膀胱への住血吸虫の感染が長びくと、しばしば血尿や尿管の閉塞などが引き起こされ、最終的には膀胱癌になることもあります。

線虫感染症の一種であるフィラリア症では、リンパ管に閉塞が起き、尿にリンパ液が混入します(乳び尿)。フィラリア症になると、男性では陰嚢(いんのう)などの組織が異常に肥大(象皮病)することがあります。

 

 

 

尿道炎

 

尿道炎は、尿が膀胱から体外に排出されるまでに通過する管である尿道の感染症です。

尿道炎の原因として最も多いのは細菌(性行為で感染するものも含む)です。

症状としては、排尿時の痛みや頻尿などが挙げられ、ときに分泌物もみられます。

通常、感染の治療には抗生物質を投与します。

 

原因

尿道炎は細菌、真菌またはウイルス(単純ヘルペスウイルスなど)によって起こります。女性患者の大半では、正常時から腸に生息している細菌が関与しています。これらの細菌は肛門から尿道に到達します。男性の場合は、尿道の開口部が肛門から離れているため、細菌が肛門から尿道にたどり着くことは少なく、したがって尿道炎を発症する可能性は女性と比べてかなり低くなります。女性の尿道炎患者では、大半が膀胱の感染症(膀胱炎)を併発しますが、男性の尿道炎患者では、そのようなことはほとんどありません。

淋菌感染症(淋病)の原因菌である淋菌(りんきん)など、性行為によって感染する微生物は、感染したパートナーとの性交によって尿道に感染することがあります。クラミジアや単純ヘルペスウイルスもまた性行為で感染することが多く、尿道炎の原因となりえます。男性の尿道炎の多くは淋菌によるものです。この細菌は女性の尿道に感染することもありますが、腟、子宮頸部、子宮体部、卵巣および卵管への感染の方が比較的多くみられます。顕微鏡でしか見ることのできない微小な寄生虫であるトリコモナスも、男性に尿道炎を起こします。また、尿道炎以外の尿路感染症を引き起こすことの多い細菌(大腸菌など)によって尿道炎が引き起こされることもあります。

 

症状

通常は男女とも、排尿時の痛み、頻尿、尿意切迫などの症状がみられます。症状がまったく出ない場合もあります。男性患者で淋菌またはクラミジアが原因の場合には、通常は尿道からの分泌物の排出がみられます。その分泌物は、原因が淋菌の場合は黄緑色となることが多く、淋菌以外の場合は透明なことがあります。女性の場合は、分泌物がみられることは多くありません。

尿道炎以外で排尿時の痛みを生じる病気としては、膀胱感染症や腟炎などがあります。腟炎の場合は、炎症を起こしている外陰部や腟の内壁を酸性の尿が刺激するため、排尿時に痛みが生じます。

 

合併症

尿道の感染症を放置したり治療が不十分だったりすると、最終的に尿道が狭くなってしまう(狭窄)ことがあります。尿道に狭窄が起きると、膀胱や腎臓に感染の発生するリスクが高まります。淋菌感染症(淋病)を治療せずに放置すると、ときに尿道の周囲に膿がたまる(膿瘍)ことがあります。膿瘍が発生すると尿道の壁の一部が袋状にふくらみ(尿道憩室)、この部分にも感染が起こってきます。膿瘍が破れて皮膚、腟、直腸などに向けて穴があくと、この異常な通路(尿道瘻[にょうどうろう])を通って尿が流れ出るようになります。

 

診断

尿道炎は通常、症状と診察の結果だけで診断できます。分泌物がみられる場合には、柔らかい綿棒が尿道の下端に挿入され、少量の分泌物が採取されます。この綿棒を検査室で分析することで原因菌の種類が特定されます。

 

予防と治療

尿道炎を引き起こす性感染症は、コンドームの使用によって予防できます。

治療法は感染の原因によって異なります。しかしながら、尿道炎の原因菌が特定されるまでには数日間を要します。そのため通常は、最も多くみられる原因菌を対象とした抗生物質で治療が開始されます。性的に活発な男性患者に対する治療法としては、淋菌感染症にはセフトリアキソンの注射とアジスロマイシンの内服が、クラミジアにはドキシサイクリンの内服が用いられます。検査結果から淋菌とクラミジアの可能性が否定されている場合は、トリメトプリム・スルファメトキサゾールかフルオロキノロン系の抗生物質(シプロフロキサシンなど)が使用されることもあります。女性患者の場合は、膀胱炎の場合と同じように治療されます。単純ヘルペスウイルスの感染症には、アシクロビルなどの抗ウイルス薬の使用が必要となることがあります。

 

 

 

 

膀胱の感染症(膀胱炎)

 

膀胱炎とは、膀胱に生じた感染症です。

通常、膀胱炎の原因は細菌です。

症状としては、頻尿と排尿時の痛みや灼熱感が最もよくみられます。

診断は症状に基づいて行われますが、通常は尿サンプルの検査も行われます。

感染自体としばしば症状に対する治療として、薬剤の使用が必要となります。

 

原因

 

女性:

膀胱炎は女性に多く、特に妊娠可能な年齢でよくみられます。膀胱炎を何度も繰り返す女性もいます。膀胱炎が女性に多い理由としては、女性の尿道が短いことや、細菌が豊富に存在する腟や肛門と尿道との距離が近いことなどが挙げられます。一方、性交が膀胱炎の一因となる場合もありますが、これは性交時の動きによって細菌が尿道に到達し、細菌が尿道を上って膀胱に侵入しやすくなるためです。妊娠した状態では膀胱を空にするのが難しくなるため、妊娠中の女性は特に膀胱炎を起こしやすくなります。

避妊用具の一種であるペッサリーを使用すると膀胱炎の発生リスクが高くなりますが、これはペッサリーとともに使用される殺精子剤によって、正常な腟内の細菌の増殖が抑制され、膀胱炎の原因となる細菌の繁殖を許すためと考えられます。

閉経後にエストロゲンの分泌量が減少すると、尿道の周囲にある腟や外陰部の組織が薄くなり(萎縮性腟炎および萎縮性尿道炎)、膀胱炎を繰り返しやすくなります。また子宮下垂(子宮脱)や膀胱下垂があると、排尿時に膀胱を空にすることが困難となり、膀胱炎を起こしやすくなります。子宮脱や膀胱脱は出産回数の多い女性でよくみられます。

まれに、膀胱と腟の間に異常な通路(膀胱腟瘻[ぼうこうちつろう])が作られることがあり、これが原因で膀胱炎が繰り返されることがあります。

 

男性:

男性では、膀胱炎は女性ほど多くはありません。男性の膀胱炎は、まず尿道が感染した後、その感染が前立腺、続いて膀胱へと広がっていくという過程を経て、徐々に発生します。男性が膀胱炎を繰り返す原因として最も多いのは、長期化した前立腺の細菌感染です。抗生物質を使用すると、膀胱内にたまった尿中の細菌はすぐに排除されますが、大半の抗生物質は前立腺の内部には十分に届かないため、前立腺内部の感染はなかなか完治しません。そのため通常は、数週間にわたって抗生物質を投与する必要があります。したがって、薬物治療の中止が早すぎると、前立腺の内部に残った細菌のために再び膀胱への感染が起きやすくなります。

 

男女共通:

膀胱や尿道の結石、前立腺の肥大(男性の場合)、尿道の狭窄などのために尿の流れが部分的に妨げられると、尿路に侵入した細菌を尿とともに洗い流すことが困難になります。排尿後も膀胱に残った細菌は急速に増殖する可能性があり、膀胱内に存在する細菌が多ければ多いほど、感染が起きやすくなります。また尿の流れが長期間ないし繰り返し妨げられている人では、膀胱の壁の一部が袋状に突出すること(憩室)があります。この袋状の部分に排尿後も尿がたまることで、さらに感染のリスクが高まります。

尿路に挿入されるカテーテルやその他の器具によって膀胱内に細菌がもちこまれることで膀胱炎が発生する場合もあります。性別に関係なく、膀胱と腸の間に異常な通路(膀胱腸瘻)が形成されることがありますが、その場合には、腸にある便が膀胱に入りこむことで膀胱の感染を起こします。

感染がないにもかかわらず膀胱に炎症が起きる場合もあります(間質性膀胱炎)。

 

 

間質性膀胱炎:

感染以外の原因による膀胱の炎症

 

間質性膀胱炎は、感染の証拠が認められないにもかかわらず、膀胱に痛みを伴った炎症が発生する病気です。通常は慢性に経過します。原因は分かっておらず、尿中に感染性の微生物は認められません。典型的には中年の女性に発生し、男性がこの病気にかかることは非常にまれです。

症状としては、重度の頻尿と排尿時の痛みなどがみられます。尿中に膿(膿尿)や血液(血尿)が混入することもあり、これらは顕微鏡による検査で検出できます。時間が経過するにつれて、炎症によって膀胱が萎縮していきます。膀胱鏡検査では、膀胱の壁の表層部分に小さな出血や潰瘍が見つかることがあります。

いくつかの治療法が試みられていますが、一貫して満足のいく結果が得られるものは存在しません。ときには鎮痛薬、抗コリン薬、抗うつ薬などが有用となります。内服薬のペントサンは痛みの緩和に役立ちます。膀胱に直接注入するジメチルスルホキシドも有益な可能性があります。耐えられない症状があって治療が効かない極端なケースでは、膀胱を摘出する手術が必要になることもあります。その場合は、腸の一部を使って新しい膀胱が作られます。

 

 

症状

膀胱炎では通常、頻尿、尿意切迫、排尿時の灼熱感や痛みなどがみられます。これらの症状は数時間あるいは1日中続くのが通常です。急に強い尿意に襲われて尿が漏れてしまうことがあり(切迫性尿失禁)、この症状は特に高齢者でよくみられます。まれに発熱もみられます。通常は恥骨の上の方に痛みがみられ、しばしば腰の辺りにも痛みがみられます。夜間の排尿回数が増えること(夜間頻尿症)もまた膀胱炎の症状となります。また尿に濁りが出ることも多く、約30%の患者では肉眼で分かる血尿がみられます。感染の原因が膀胱と腸または腟との間にできた異常な通路(瘻孔[ろうこう])である場合には、尿中に空気の混入がみられます(気尿症)。

膀胱炎の症状は、治療を行わなくても自然に消失する場合があります。ときには膀胱炎が起きても症状がまったく現れず、ほかの理由で行われた尿検査で偶然発見される場合もあり、特に高齢者ではこのようなケースが多くなります。また、神経の損傷によって膀胱が機能不全を起こしている場合や、長期間にわたって膀胱内にカテーテルが留置されている場合には、たとえ膀胱炎が起きても、腎臓の感染が起こるか原因不明の発熱がみられるまで何の症状も現れないことがあります。

 

診断

膀胱炎は通常、その典型的な症状に基づいて診断できます。尿検査では、排尿時に最初に出てくる尿(初尿)は取らずに途中の尿(中間尿)だけを採取することで、腟や陰茎の先端にいる細菌が尿のサンプルに混入しないようにします。この尿に試験紙を浸すことですぐに結果の判明する2種類の簡単な検査を行い、正常時には尿への混入がみられない物質の有無を調べます。その一つは細菌が放出する亜硝酸塩で、もう一つは白血球エステラーゼ(一部の白血球中に存在する酵素)です。これらが検出されれば、体の免疫機能が尿中の細菌を排除しようとしていることを意味します。成人女性では、必要な検査が以上の二つだけの場合もあります。

さらに、採取した尿のサンプルを顕微鏡で観察して、赤血球や白血球などの混入がないかを調べる場合もあります。尿中の細菌の数を数えるほか、採取した尿を培養して細菌の種類を特定することもできます。感染がある場合、通常は1種類の細菌が数多く観察されます。

男性患者の尿培養検査は中間尿で問題なく実施できるのが通常ですが、女性の場合には、中間尿を採取しても腟や外陰部の細菌が混入してしまう可能性が高くなります。尿中に観察された細菌が少ない場合や、同時に数種類の細菌が混入していた場合は、採尿時に尿以外に由来する細菌が混入した可能性が高いと考えられます。こうした細菌の混入を確実に防ぐため、膀胱内にカテーテルを挿入して直接尿を採取する方法が必要となる場合もあります。

膀胱炎の診断では、患者をいくつかのグループに分類して原因を調べることが重要です。小児患者、男性患者(すべての年齢)、感染の再発が頻繁に(年3回以上)みられる女性患者では原因を究明する必要があり、尿路閉塞の症状がみられたり、上部尿路感染症またはプロテウス菌感染症を併発している場合には特に重要となります。これらの条件に該当する人では、薬剤を投与する感染治療のほかに、特別な治療を必要とする原因(大きな腎臓結石など)が発見される可能性が高いためです。造影剤を静脈に注入して造影剤が腎臓から尿に排出される時点でX線写真を撮影する検査(静脈性尿路造影)が行われることもあります。このX線検査では、腎臓、尿管および膀胱の画像が撮影できます。またIVUの代わりに、超音波検査やCT(コンピュータ断層撮影)検査が行われることもあります。造影剤を膀胱に注入して造影剤が膀胱から排出される様子を撮影する排尿時膀胱尿道造影は、膀胱から尿管への尿の逆流を調べるのに適した方法で、特に小児患者で有用となり、尿道の狭まり(狭窄)を確認することもできます。造影剤を尿道内に直接注入する逆行性尿道造影は、男女ともに尿道狭窄、尿道憩室および尿道瘻(他の腹部臓器に通じる異常な通路)を検出するのに役立ちます。治療で膀胱炎の症状が解消されない場合には、膀胱鏡を使って膀胱の内部を直接観察する検査(膀胱鏡検査)が診断に役立つことがあります。

 

予防

膀胱の感染症を何度も繰り返す人には、低用量の抗生物質の経口投与が継続的に行われることがあります。抗生物質は、連日、週3回、または性交直後に服用することができます。膀胱の感染症を頻繁に繰り返す閉経後の女性患者において萎縮性腟炎または萎縮性尿道炎がみられる場合には、外陰部に塗って使用するエストロゲンのクリーム剤や腟内に挿入して使用するエストロゲンの坐薬が有効となることがあります。

水分の摂取量を増やすことが膀胱炎の予防に役立つ可能性があります。尿が勢いよく流れることにより、細菌の多くが膀胱から押し出されるからです。残った細菌は体の免疫機能によって排除されます。排便後は前から後ろ方向に向かって拭く、性交後にすぐに排尿する、きつくて通気性の悪い下着の着用は避けるなどの対策が女性の膀胱感染の予防に役立つと一般に信じられています。しかし、これらの対策が本当に有効かどうかは不明です。

 

治療

通常、膀胱炎の治療は抗生物質の投与となります。医師は抗生物質を処方する前に、糖尿病や免疫機能(感染に対する抵抗力)の低下、膀胱炎の治癒を困難にする問題(構造上の異常など)といった、膀胱炎の重症化につながる要因がないかをチェックします。こうした要因がみられる場合には、抗生物質の服用を中止するとすぐに再発する可能性が高くなるため、より強力な抗生物質を長期間にわたって服用する必要があります。

女性の場合には、感染による合併症が起こっていなければ、通常は3日間の抗生物質の服用で効果がみられます。1回の服用で十分と考える医師もいます。感染症が長びく場合は、抗生物質を7~10日間服用するのが通常です。男性の場合には、膀胱炎は一般に前立腺炎が原因となって引き起こされているので、通常は数週間にわたる抗生物質治療が必要となります。

さまざまな薬剤によって膀胱炎の症状(特に頻尿、尿意切迫、排尿時の痛みなど)を軽減することができます。抗コリン作用を有する薬剤(オキシブチニンやトルテロジンなど)は、尿意切迫の原因となる膀胱の攣縮を軽減させます。ただし、副作用として尿閉(尿がまったく出なくなる症状)を引き起こすことがあるため、これらの薬剤は前立腺肥大症の男性患者では注意して使用する必要があります。フェナゾピリジン系の薬剤は、組織の炎症を和らげることで痛みを軽減させます。

尿の流れを妨げる物理的な原因を取り除く手術や、感染を起こしやすくする構造上の異常(子宮下垂や膀胱下垂など)を修復する手術が必要となる場合もあります。手術が可能になるまでの間は、カテーテルを使って閉塞部から尿を排出する処置が感染の抑止に役立ちます。通常は手術前に抗生物質を投与して、感染が全身に広がるリスクを抑えます。

 

 

女性における膀胱感染の予防

 

膀胱の感染症を年に3回以上繰り返す女性には、以下の方法が予防に役立つ可能性があります。

クランベリージュースを飲む(1日に約300ミリリットルのジュースまたは50ミリリットルの濃縮液)、またはクランベリーの錠剤を服用する。クランベリーには細菌が膀胱の表面に付着するのを直接妨害する物質が含まれており、また尿が酸性化されることで細菌の増殖に不利な環境が作られるため。

水分の摂取量を増やす。

頻繁に排尿する。

性交後は早めに排尿する。

殺精子剤(避妊用としてペッサリーと一緒に使用される)の使用を避ける。

低用量の抗生物質を継続的に服用する。一般的な抗生物質の服用頻度は、連日または週3回、性交直後となります。

閉経後の女性で萎縮性腟炎や萎縮性尿道炎がみられる場合には、エストロゲンのクリーム剤(外陰部に塗る)または坐薬(腟内に挿入する)を使用する。

 

 

 

 

 

腎孟腎炎

 

 腎孟腎炎は、腎盂や腎臓そのもの(腎実質)に細菌が感染して急激に起こる病気です。先天性に尿路の形態異常がある乳幼児、既婚の女性、前立腺肥大症などによる尿通過障害のある高齢者などに起こりやすい病気です。

初期治療が遅れると慢性腎盂腎炎に移行したり、敗血症を起こして生命が危険になることもあります。

 

原因  腎盂や腎実質に感染を起こす経路として尿路上行性感染、血行性感染、リンパ行性感染などがあります。尿路上行性感染とは、膀胱炎などの感染を起こしている細菌が何らかの原因で尿管を上行して腎盂に達するもので、その原因として腎盂・尿管の形態異常、尿路結石、腎盂・尿管の悪性腫瘍、膀胱尿管逆流現象、神経因性膀胱、前立腺肥大症などがあります。血行性感染は、他の臓器に感染源があり、そこから細菌が血液によって腎臓まで運ばれて感染を起こすものです。リンパ行性感染は、リンパ管を通って細菌が運ばれてくるものをいいます。感染する細菌は大腸菌が多いのですが、その他の菌の場合も少なくありません。また1種類の細菌だけでなく、2種類以上の細菌が同時に感染している混合感染のこともあります。

 

症状の現れ方  寒気や震えを伴った38℃以上の高熱や、腰や背中の痛み、尿のにごりや頻尿、残尿感などの膀胱炎の症状などが認められるほか、尿に血液が混じることもあります。

 

治療

腎盂腎炎が疑われた場合には、検査用の尿と血液のサンプルを採取した後、速やかに抗生物質の投与が開始されます。使用する薬剤の種類と投与量は、培養検査も含めた臨床検査の結果や患者の病状、院内感染かどうか(院内感染の場合は、細菌が抗生物質に耐性をもっている可能性が高くなります)などの要因に基づいて変更される場合があります。

 

次の条件を満たす場合には、抗生物質の服用による外来治療によって治癒が期待できます。

吐き気や嘔吐がない

脱水症の徴候が認められない

免疫機能を低下させる病気(特定の癌、糖尿病、エイズなど)が存在しない

非常に重い感染症の徴候(低血圧や錯乱など)がみられない

内服薬だけで痛みに対処できる

 

以上の条件が満たされない場合は、通常は入院治療が開始されます。入院下での抗生物質投与が必要になった場合は、抗生物質の点滴が1~2日間行われた後、通常は内服薬に切り替えられます。

 

腎盂腎炎に対する抗生物質治療では、再発しないように投与を14日間続けます。ただし、男性患者において根治の難しい前立腺炎が原因となっている場合には、最長で6週間にわたって抗生物質治療を続けます。抗生物質治療が完了したら、通常は直ちに最終的な尿サンプルを採取して、細菌が根絶されたことを確認します。

 

検査によって感染を起こしやすくする病態(尿路閉塞、構造上の異常、結石など)が発見された場合には、手術が必要になることもあります。黄色肉芽腫性腎盂腎炎の場合は、感染を繰り返す可能性が高いため、通常は感染した方の腎臓を摘出する手術が必要になります。また腎移植を受ける直前の慢性腎盂腎炎患者でも、感染した方の腎臓を摘出する手術が必要となる場合があります。これは、移植後には免疫抑制薬が投与されるため、移植された腎臓に感染が広まると非常に危険になるからです。免疫抑制薬は移植された腎臓に対する拒絶反応を抑える薬剤ですが、同時に感染に対する体の防衛機能をも弱めてしまいます。

 

頻繁に腎盂腎炎を繰り返す人や抗生物質による治療後に再発した人には、予防的な治療法として少量の抗生物質を毎日服用する治療が勧められることがあります。このような治療の最適な期間は不明ですが、多くは1年程度で治療が終了されています。感染症が再発した場合は、予防的治療を無期限に継続することもあります。

 

 

慢性腎盂腎炎

 

 腎盂や腎臓そのもの(腎実質)に感染を起こす腎盂腎炎を繰り返すと、慢性腎盂腎炎になります。慢性腎盂腎炎では腎機能障害が徐々に進行し、腎不全に陥ることがあります。

 

原因  尿路に感染を起こしている細菌が何らかの原因で繰り返し腎盂に達するもので、尿流障害が背景にあります。つまり、腎盂・尿管の形態異常、尿路結石、腎盂・尿管の悪性腫瘍、膀胱尿管逆流現象、神経因性膀胱、前立腺肥大症などが原因として考えられます。  急性腎盂腎炎で感染する細菌は大腸菌が多いのですが、慢性腎盂腎炎ではその他の細菌の場合も少なくありません。また、1種類の細菌だけではなく2種類以上の細菌に同時に感染している混合感染のこともあります。必ずしも細菌が証明できない場合もあります。

 

症状の現れ方  通常ははっきりとした症状はありませんが、急性増悪を起こすと寒気や震えを伴った高熱や、腰や背中の痛み、尿のにごりや頻尿などの症状が認められます。慢性期には、微熱、全身倦怠感、食欲不振、腰痛、体重減少などの症状は軽微であることが多く、病気が進行すると高血圧になったり、腎不全に陥ったりします。片側性のものでは、病気が進行しないと症状としてはとらえられないことも多くあります。

 

治療の方法  できるだけ水分を多くとるようにします。薬は抗生剤を投与しますが、再発・再燃を繰り返す場合には、細菌尿が陰性化し、尿所見や臨床症状が改善したあとも、1カ月以上の継続投与が必要です。慢性化の誘因となっている尿通過障害があれば、尿の通りをよくする手術を検討します。  尿路の基礎疾患が除去できなければ、急性増悪を繰り返し、腎障害が進行します。腎不全が進行した場合は、透析療法が必要になります。

 

 

無症候性血尿・タンパク尿症候群

無症候性血尿・タンパク尿症候群は、糸球体(小さな穴の空いた毛細血管でできた微細な球状の腎組織)が侵される病気の結果として発生します。少量のタンパク質と血液が持続的ないし断続的に尿中に漏れ出すのが特徴です。

健康診断の尿検査において、何の症状もみられない人の尿中に少量のタンパク質(タンパク尿)や血液(血尿)が検出されることがあります。尿中に尿円柱(赤血球が凝集したもの)や異常な形状をした赤血球が認められれば、尿中に検出された血液が糸球体から漏れ出たものであることが疑われます。最近発症して診断されることのなかった腎炎からの回復期に尿円柱やタンパク尿が認められる場合もあり、このような状況が疑われる場合には、異常が解消されたことの再確認を数週間後ないしは数カ月後までに行うだけで十分です。

尿円柱やタンパク尿が認められる場合、その原因は通常、次の三つの病気のいずれかとなります。一つ目はIgA(免疫グロブリンA)腎症です。これは腎臓の組織に免疫複合体(抗体と抗原が結合したもの)が沈着することによって引き起こされる腎炎の一種で、こく軽度で進行しない場合もあれば、重症化して腎不全に発展する場合もあります。二つ目は遺伝性腎炎(アルポート症候群)で、重症化して腎不全に発展することもある進行性の病気です。三つ目は菲薄基底膜病(良性家族性血尿症)です。菲薄基底膜病は遺伝性の病気で、基底膜と呼ばれる糸球体の一部分が薄くなることによって引き起こされます。軽度で非進行性の経過をたどります。通常は腎生検で診断が可能です。しかし、治療可能な病気が発見される可能性がほとんどないため、腎生検はめったに行われません。

無症候性血尿・タンパク尿症候群の人には通常、年1~2回の間隔で診察と尿検査を受けることが勧められます。尿中のタンパク質や血液の量が際立って増えた場合や、病気の発生を疑わせる症状が認められる場合には、より詳細な検査が行われます。無症候性血尿・タンパク尿症候群が悪化することはほとんどなく、同じ状態がいつまでも続く場合もあります。

 


遺伝性腎炎(アルポート症候群)

遺伝性腎炎(アルポート症候群)は、腎機能の低下と血尿がみられ、ときに難聴や眼の異常も生じる遺伝性の病気です。

遺伝性腎炎は通常、X染色体にある特定の遺伝子の異常が原因で発生しますが、ときに常染色体にある別の遺伝子の異常が原因のこともあります。問題の遺伝子を保有している患者におけるこの病気の重症度には、遺伝子以外の要因も関係してきます。女性で2本のX染色体の一方にだけ異常な遺伝子がある場合には、正常な人と比べると腎機能がやや劣るものの、通常は何の症状も現れません。このような女性では、ほとんどの場合、尿中にいくらかの血液が認められます。男性ではX染色体が1本しかなく、そこに異常があるとその機能を補ってくれる染色体が存在しないため、X染色体の遺伝子に異常のある男性では、女性の場合よりも重い症状が生じます。男性の場合は通常、20~30歳で腎不全を発症します。1本の常染色体にのみ異常な遺伝子が存在する人では、血尿以外の症状はみられない場合が多いですが、顕微鏡で尿を観察すると、タンパク質、白血球および尿円柱(細胞が凝集した小さなかたまり)がさまざまな量で認められます。常染色体の2本ともに異常な遺伝子が存在する人では、腎機能が徐々に低下していき、通常は腎不全に至ります。

 

遺伝性腎炎では腎臓以外の臓器が侵されることもあります。聴覚に問題が生じることが多く、通常は高い音が聞こえなくなります。白内障が起こることもありますが、聴力の低下ほどは多くありません。角膜や水晶体、網膜などに異常が生じることで、ときに失明に至ることもあります。その他にも、血液中の血小板数が減少する血小板減少症や、複数の神経に異常を来す多発ニューロパチーなどが発生することもあります。

 

腎不全に進行した人には、透析か腎移植が必要となります。通常、子供をもつことを希望する人には遺伝子検査が行われます。

 

 

 

 

急性腎不全

 

急性腎不全では、腎臓の血液をろ過して老廃物を取り除く能力が急速に(数日から数週間のうちに)低下します。

その原因としては、腎臓への血流が減少する病気、腎臓そのものが傷つく病気、腎臓からの尿の排出が妨げられる病気などが挙げられます。

 

急性腎不全の主な原因

 

原因

背景にある問題

腎臓への血液供給の不足

出血

大量のナトリウムおよび水分の喪失

血管を遮断する物理的な損傷

心臓のポンプ機能の不足(心不全)

極度の血圧低下(ショック)

肝不全(肝腎症候群)

腎臓の損傷

腎臓が傷つくほどの長時間にわたる腎臓への血液供給量の減少

有毒物質(薬物、画像検査で使用される造影剤、毒物など)

アレルギー反応(特定の抗生物質に対するものなど)

腎臓のネフロン(血液のろ過機能を担う組織)を侵す病気(たとえば、急性糸球体腎炎、腎臓に発生した腫瘍、あるいは溶血性尿毒症症候群や全身性エリテマトーデス[ループス]、アテローム塞栓性腎疾患、グッドパスチャー症候群、ヴェーゲナー肉芽腫症、結節性多発動脈炎による血管損傷)

尿流の閉塞

前立腺肥大症

尿路を圧迫する腫瘍

結石

腎臓内での閉塞(たとえば、シュウ酸塩や尿酸の結石など)

 

症状としては、むくみ、吐き気、疲労、かゆみ、呼吸困難などのほか、腎不全の原因となっている病気の症状も含まれます。

 

重篤な合併症としては、心不全や高カリウム血症(血液中のカリウム濃度が高くなること)などがあります。

 

治療

腎不全の原因が治療可能なものであれば、できるだけ速やかに治療が開始されます。たとえば閉塞が原因の場合は、閉塞を解消するために膀胱内へのカテーテルの挿入、内視鏡での処置、あるいは手術が必要になります。

腎臓の機能が自然に回復する場合も多く、特に腎不全の発症からの経過期間が5日以内で、かつ感染症などの合併症が認められない場合には、その見込みが高くなります。その間は、腎不全によって深刻な問題が引き起こされないように特別な対策を講じる必要があり、具体的な対応としては次のものが挙げられます。

特定の薬剤の使用制限

水分、ナトリウムおよびカリウムの摂取制限

良好な栄養状態の維持

カリウムやリン酸塩の血中濃度が高すぎる場合は薬剤の投与

 

 

透析の実施

腎臓から体外に排出される物質(多数の薬物を含みます)の摂取は、すべて厳しく制限されます。塩(ナトリウム)とカリウムの摂取も通常は制限されます。水分の摂取量は、腎臓への血流不足のために水分補給が必要となる場合を除いて、体から失われた分を補うだけの量に制限されます。体内の水分が過剰であるか過小であるかを評価する上で体重の変動が良い指標となるため、体重測定を毎日行います。

食事がとれる患者には健康的な食事が出されます。タンパク質の摂取はある程度まで許容され、通常は体重1キログラム当たり0.8~1グラムとされます。

高カリウム血症の治療としては、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムが経口または注腸で投与されます。高リン酸血症の予防または治療としては、カルシウム塩(炭酸カルシウムまたは酢酸カルシウム)かセベラマーが経口で投与されます。

閉塞が原因で発生した急性腎不全の回復期には、水分摂取は制限されません。この回復期には、腎臓においてナトリウムと水分がまだ正常に再吸収されないため、閉塞が解消された後のしばらくの間は排尿量が普段よりも多くなります。回復期にはまた、水分とナトリウム、カリウム、マグネシウムなど電解質の補給も必要になります。

 

急性腎不全が長期化した場合には、老廃物と過剰な水分を体内から取り除く必要があります。老廃物は透析によって除去することができ、通常は血液透析が行われます。腎不全の長期化が予想される場合は、診断がつき次第できるだけ速やかに透析が開始されます。透析が必要となるのは腎臓が機能を回復するまでの一定の期間だけの場合が多く、通常は数日から数週間で回復に至ります。腎臓がひどく損傷を受けて回復できなくなった場合、急性腎不全は慢性腎不全となります。